(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-06
(45)【発行日】2023-10-17
(54)【発明の名称】水力発電所運用計画生成装置および水力発電所運用計画生成方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20231010BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20231010BHJP
G06Q 50/06 20120101ALI20231010BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 120
G06Q50/06
(21)【出願番号】P 2022000412
(22)【出願日】2022-01-05
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 伊知郎
(72)【発明者】
【氏名】水谷 遼太
(72)【発明者】
【氏名】原 亮一
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125665(JP,A)
【文献】特開2005-285032(JP,A)
【文献】特開平11-259450(JP,A)
【文献】特開2011-170806(JP,A)
【文献】特開2011-170808(JP,A)
【文献】特開2019-169064(JP,A)
【文献】特開2004-217271(JP,A)
【文献】特開2023-69903(JP,A)
【文献】特開平8-163783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/38
G06Q 50/06
G05B 13/02
G05B 13/04
G16Z 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電所の貯水量及び放水量の取り得る範囲を所定の区分数で区分することにより、前記貯水量と前記放水量の組となる格子点を生成し、所定の関数に基づいて前記格子点に対応する発電所出力を計算する格子点生成部と、
前記格子点及び当該格子点に対応する発電所出力と所定のデータとに基づいて、制約条件と目的関数とからなる最適化問題を生成する最適化問題生成部と、
前記最適化問題から
貯水量、放水量及び発電所出力の組である最適解を導出する最適化問題計算部と、
前記最適解の近傍に集中するように、前記貯水量または前記放水量の取り得る範囲の少なくとも一方を再区分することにより前記格子点を再生成し、再生成した格子点に対応する発電所出力を計算する格子点再生成部と、
を備え、
前記最適化問題生成部は、再生成された格子点及び当該格子点に対応する発電所出力と所定のデータとに基づいて、最適化問題を再生成し、
前記最適化問題計算部は、再生成された最適化問題から
貯水量、放水量及び発電所出力の組である最適解を再度導出する、
水力発電所運用計画生成装置。
【請求項2】
前記格子点再生成部は、前記貯水量及び前記放水量の両方を再区分することにより前記格子点を再生成する、
請求項1に記載の水力発電所運用計画生成装置。
【請求項3】
前記最適化問題計算部が再度導出した最適解の誤差が、所定の誤差以下であるか否かを評価する誤差評価部を更に備え、
前記誤差評価部は、前記最適解の誤差が前記所定の誤差以下となるまで、最適解を導出させることを繰り返す、
請求項1または2に記載の水力発電所運用計画生成装置。
【請求項4】
発電所の貯水量及び放水量の取り得る範囲を所定の区分数で区分することにより、前記貯水量と前記放水量の組となる格子点を生成し、所定の関数に基づいて前記格子点に対応する発電所出力を計算するステップと、
前記格子点及び当該格子点に対応する発電所出力と所定のデータとに基づいて、制約条件と目的関数とからなる最適化問題を生成するステップと、
前記最適化問題から
貯水量、放水量及び発電所出力の組である最適解を導出するステップと、
前記最適解の近傍に集中するように、前記貯水量または前記放水量の取り得る範囲の少なくとも一方を再区分することにより前記格子点を再生成し、再生成した格子点に対応する発電所出力を計算するステップと、
再生成された格子点及び当該格子点に対応する発電所出力と所定のデータとに基づいて、最適化問題を再生成するステップと、
再生成された最適化問題から
貯水量、放水量及び発電所出力の組である最適解を再度導出するステップと、
を備える水力発電所運用計画生成方法。
【請求項5】
前記格子点の再生成においては、前記貯水量及び前記放水量の両方を再区分することにより前記格子点を再生成する、
請求項4に記載の水力発電所運用計画生成方法。
【請求項6】
再度導出した最適解の誤差が、所定の誤差以下であるか否かを評価するステップと、
前記最適解の誤差が前記所定の誤差以下となるまで、最適解を導出させることを繰り返すステップと、
を更に備える請求項4または5に記載の水力発電所運用計画生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水力発電所運用計画生成装置および水力発電所運用計画生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所の運用を最適化するにあたっては、いわゆる発電機起動停止計画(Unit Commitment)問題(以下、UC問題)を解くことが行われている。UC問題は、発電所内の各発電機をどのように起動または停止すれば最も経済的に系統需要を満たし、また供給予備力を確保できるかについて検討する最適化問題である。
【0003】
発電所が水力発電所である場合、発電所出力は、ダムの貯水量及び放水量の多変数関数として表現される。従って、水力発電所を対象としたUC問題を解く際には、ダムの水位変動及びそれに伴う発電効率の変動を考慮する必要がある。さらに、このような水力発電所を多数含む連接水系を対象としたUC問題を解く際には、上流の水力発電所の運用が、下流の水力発電所の運用に与える影響まで考慮しなければならない。このように、上述の多変数関数は非線形な性質を有するため、水力発電所を対象としたUC問題は、普及品の数理計画ソルバーで解くことが困難である。
【0004】
そこで、この非線形の多変数関数を区分線形関数で近似することが行われている。これにより、普及品の数理計画ソルバーで水力発電所を対象としたUC問題を解くことが可能になり、水力発電所運用計画を生成することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Lucas S. M. Guedes, Pedro de Mendonca Maia, Adriano Chaves Lisboa, Douglas Alexandre Gomes Vieira, Rodney Rezende Saldanha, “A Unit Commitment Algorithm and a Compact MILP Model for Short-Term Hydro-Power Generation Scheduling”, IEEE Transactions on Power Systems, Vol. 32, Issue 5 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
区分線形関数で近似してUC問題を解いた場合、当然のことながら、最適解に誤差が生じる。この誤差を小さくするためには、区分数を増加させれば良い。一方で、区分数を増加させればさせるほど、UC問題を解くためにかかる時間が長くなる。換言すれば、最適解の誤差の低減と、そのための区分数の増加に伴う計算時間の増加は、トレードオフの関係になっていた。
【0008】
本実施形態は、上記課題を解決すべく、区分数の増加に比して最適解の誤差を低減する効果が大きい水力発電所運用計画生成装置および水力発電所運用計画生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本実施形態の水力発電所運用計画生成装置は、次のような構成を備える。
(1)発電所の貯水量及び放水量の取り得る範囲を所定の区分数で区分することにより、前記貯水量と前記放水量の組となる格子点を生成し、所定の関数に基づいて前記格子点に対応する発電所出力を計算する格子点生成部。
(2)前記格子点及び当該格子点に対応する発電所出力と所定のデータとに基づいて、制約条件と目的関数とからなる最適化問題を生成する最適化問題生成部。
(3)前記最適化問題から貯水量、放水量及び発電所出力の組である最適解を導出する最適化問題計算部。
(4)前記最適解の近傍に集中するように、前記貯水量または前記放水量の取り得る範囲の少なくとも一方を再区分することにより前記格子点を再生成し、再生成した格子点に対応する発電所出力を計算する格子点再生成部。
(5)前記最適化問題生成部は、再生成された格子点及び当該格子点に対応する発電所出力と所定のデータとに基づいて、最適化問題を再生成する。
(6)前記最適化問題計算部は、再生成された最適化問題から貯水量、放水量及び発電所出力の組である最適解を再度導出する。
【0010】
また、上記水力発電所運用計画生成装置を用いた水力発電所運用計画生成方法も本実施形態の一態様である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態の各構成を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態の区分及び最適解を示す図である。
【
図5】第1の実施形態の区分及び最適解、さらに再計算された最適解を示す図である。
【
図7】第2の実施形態の各構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.第1の実施形態]
[1-1.構成]
本実施形態の構成を、
図1乃至
図5を参照して説明する。
図1に示すように、水力発電所運用計画生成装置1は、発電所の貯水量と放水量の組である格子点Lを生成し、格子点Lに対応する発電所出力を計算する格子点生成部11と、格子点L及び格子点Lに対応する発電所出力と各種データdとに基づいて、最適化問題を生成する最適化問題生成部12と、最適化問題から最適解を導出する最適化問題計算部13と、最適解の近傍に集中するように、格子点Lを再生成し、再生成した格子点Lに対応する発電所出力を計算する格子点再生成部14と、最適解を外部に送信する外部送信部15と、発電所出力の関数や各種データdを記憶する記憶部90と、を備える。なお、水力発電所運用計画生成装置1の各部は、CPUなどの演算装置やストレージを含み構成される。
【0013】
格子点生成部11は、発電所における貯水量をV、放水量をQとする時、
図2に示すように、V、Qの取り得る範囲を所定の区分数で均等に区分することにより、格子点Lを生成する。換言すれば、格子点Lは、貯水量Vと放水量Qとの組(V,Q)である。また、格子点生成部11は、発電所出力Pの関数P=f(V,Q)に基づいて、格子点Lに対応する発電所出力Pを計算する。発電所出力Pの関数P=f(V,Q)は、例えば発電所内の各発電機に関するデータなどから予め求められ、与えられているものとする。なお、特許請求の範囲における「所定の関数」の記載は、この発電所出力Pの関数P=f(V,Q)を指すものとする。
【0014】
最適化問題生成部12は、格子点生成部11が生成した格子点L及び格子点Lに対応する発電所出力と各種データdとから、制約条件と目的関数とからなる最適化問題を生成する。各種データdは、制約条件及び目的関数を生成するために用いられるデータであり、例えば、需要計画データ、河川関連データ、発電所関連データである。需要計画データは、例えば時間帯ごとの需要電力に関するデータである。河川関連データは、例えば流域における複数の発電所の位置関係に関するデータや、上流の発電所からの放水が下流の発電所に流れ込むまでの時間に関するデータである。発電所関連データは、例えば発電所で計測した貯水量に関するデータや、発電所の貯水量の価値(例えば、上流ほど大きく設定されてもよい。)に関するデータである。なお、特許請求の範囲における「所定のデータ」の記載は、この各種データdを指すものとする。
【0015】
最適化問題生成部12は、以下に説明する制約条件の式(1)~(10)及び目的関数の式(11)を生成する。各式における添字iは発電所番号を、tは時間帯番号を示す。まず、需要計画データに基づいて、需給バランスの制約条件を示す以下の式(1)が生成される。Λは発電所の集合を、p
i,tは発電所出力を、D
tは水力発電群に割り当てられた総出力指定値を、それぞれ示す。
【数1】
【0016】
次に、河川関連データに基づいて、上流の発電所からの放流が下流の発電所に与える着水遅れの影響を示す以下の式(2a)(2b)が生成される。式(2a)は貯水池を有する発電所に、式(2b)は自流式の発電所に、それぞれ適用される。v
i,tは貯水量を、γ
i,tは自然流入量を、q
i,tは放水量を、Ω
iは一つ上流に位置する連接貯水池の集合を、τ
kは上流連接貯水池からの着水遅れ(時間帯数)を、
【数2】
はτ
kを越えない整数(Floor値)を、それぞれ示す。
【数3】
【0017】
さらに、格子点生成部11が生成及び計算した格子点L及び格子点Lに対応する発電所出力Pに基づいて生成される、貯水量、放水量、発電所出力を求める制約条件の式(3)~(10)について説明する。以下の式(3)(4)は、格子点生成部11が生成した格子点Lから、
図3に示すように、格子点Lが形成する矩形領域を1つだけ選択することを規定する制約条件である。なお、以下では格子点Lのことを代表状態量、代表状態量の貯水量と放水量を代表値ともいう。x
v,i,tはv番目の貯水量代表値を下限とする矩形領域を採用する場合に1となるバイナリ変数を、R
iは貯水量の区分数を、y
l,i,tはl番目の放水量代表値を下限とする矩形領域を採用する場合に1となるバイナリ変数を、U
iは放水量の区分数を、それぞれ示す。
【数4】
【0018】
以下の式(5)~(7)は、選択した矩形領域の4頂点に対する重みが合計1になるように規定すると同時に、選択した矩形領域に関係しない格子点Lに対する重みを0に固定することを規定している。μ
l,v,i,tは選択した矩形領域の4頂点に対する重み係数を示す。
【数5】
【0019】
以下の式(8)~(10)は、選択した矩形領域の4頂点に対する重みづけ平均により、貯水量、放水量、発電所出力を求めることを規定している。V
i,vはv番目の貯水量代表値を、Q
i,lはl番目の放水量代表値を、P
i,l,vは代表状態量(V
i,v,Q
i,l)における発電所出力を、それぞれ示す。なお、V、Q、Pの関係は、上述のP=f(V,Q)の関数で規定されているものとする。
【数6】
【0020】
最後に、発電所関連データに基づいて、目的関数を示す以下の式(11)が生成される。ω
iは貯水量の価値を、添字Tは計画期間の最終時間断面を、それぞれ示す。
【数7】
【0021】
最適化問題計算部13は、最適化問題生成部12が生成した制約条件の式(1)~(10)及び目的関数の式(11)からなる最適化問題から最適解を導出する。最適化問題計算部13としては、例えば普及品の数理計画ソルバーを用いることが出来る。最適解は、
図4の丸点として示されるように、時間帯ごとに求められる。なお、
図4及び後述の
図5は、理解を容易にするため、放水量Qに関してのみ区分及び最適解を示している。
【0022】
格子点再生成部14は、最適化問題計算部13が導出した最適解に基づいて、格子点Lを再度生成する。すなわち、格子点再生成部14は、格子点生成部11と同様に、V、Qの取り得る範囲を再区分するような格子点Lを生成するが、特に最適解の近傍において集中的に格子点Lを生成する。例えば、
図5に示すように、最適解の最大値と最小値との間に集中するように、V、Qの取り得る範囲を再区分することにより、格子点Lを再生成する。本実施形態においては、最適解の最大値と最小値との間は、均等に区分されている。一方で、V、Qの区分の最大値と最小値は、格子点生成部11が生成したものと同じである。例えば、
図5において、Qの区分の最大値は、
図4と同様に2000m
3/s近傍に存在する。すなわち、Qの区分の最大値を含む区分は、他の区分と異なり、均等でない。また、格子点再生成部14が生成する格子点Lの数(V、Qの区分数)は、格子点生成部11が生成する格子点Lの数と同数である。
【0023】
さらに、格子点再生成部14は、格子点生成部11と同様、発電所出力Pの関数P=f(V,Q)に基づいて、再生成した格子点Lに対応する発電所出力Pを計算する。
【0024】
格子点再生成部14が格子点Lを再生成した後は、上述のフローを繰り返す。すなわち、最適化問題生成部12が最適化問題を再生成し、最適化問題計算部13が最適解を再度導出する。なお、再度導出された最適解は、
図5の三角点として示した。
【0025】
外部送信部15は、最適化問題計算部13が再度導出した最適解を、すなわち格子点再生成部14が再生成した格子点Lに基づいて導出した最適解を、発電所に送信する。発電所は、この最適解に基づいて発電を行う。なお、最適解とは、v、q、pの組を指すが、実際に発電所に送るデータとしては、放水量qのみでもよい。発電所は、指定された放水量に基づいて発電を行うためである。なお、発電所において、導出された最適な放水量を発電所内の各発電機にどのように分配するかについては、事前に決めておくこととする。
【0026】
記憶部90は、上述の関数P=f(V,Q)や各種データdを記憶する。より詳細には、記憶部90は、関数を記憶する関数DB91と、需要計画データを記憶する需要計画DB92と、河川関連データを記憶する河川関連DB93と、発電所関連データを記憶する発電所関連DB94と、を備える。また、
図1には示していないが、記憶部90は、格子点生成部11及び格子点再生成部14が生成した格子点Lや、最適化問題生成部12が生成した最適化問題や、最適化問題計算部13が導出した最適解を、それぞれ記憶してもよい。
【0027】
[1-2.作用]
本実施形態の作用を、
図1乃至
図5及び
図6のフローチャートを参照して説明する。まず、最適化問題生成部12は、需要計画DB92に記憶されている需要計画データに基づいて、需給バランスを示す制約条件の式(1)を作成する(ステップS01)。また、最適化問題生成部12は、河川関連DB93に記憶されている河川関連データに基づいて、上流の発電所からの放流が下流の発電所に与える着水遅れの影響を示す制約条件の式(2)を作成する(ステップS02)。
【0028】
次に、格子点生成部11は、発電所の貯水量Vと放水量Qの取りうる範囲を所定の区分数で均等に区分するような格子点L(代表状態量)を生成する(ステップS03)。また、格子点生成部11は、関数DB91に記憶されている関数P=f(V,Q)に基づいて、各格子点Lに対応する発電所出力Pを計算する(ステップS04)。
【0029】
次に、最適化問題生成部12は、格子点生成部11が生成した格子点Lに基づいて、貯水量、放水量、発電所出力を求める制約条件の式(3)~(10)を生成する(ステップS05)。また、最適化問題生成部12は、発電所関連DB94に記憶されている発電所関連データに基づいて、目的関数の式(11)を生成する(ステップS06)。
【0030】
続いて、最適化問題計算部13は、最適化問題生成部12が生成した制約条件の式(1)~(10)及び目的関数の式(11)からなる最適化問題から最適解を導出する(ステップS07)。最適化問題計算部13の最適解の導出が一度目の場合(ステップS08のYES)、この最適解に基づいて、すなわちこの最適解の近傍に集中するように、格子点再生成部14は、貯水量Vと放水量Qの取りうる範囲を再区分することにより、格子点Lを再度生成し、また関数DB91に記憶されている関数P=f(V,Q)に基づいて、各格子点Lに対応する発電所出力Pを計算する(ステップS09)。以下、ステップS04~S07を繰り返し、最適化問題計算部13が最適解を再度導出する。この場合(ステップS08のNO)、外部送信部15は、格子点再生成部14が再生成した格子点Lに基づいて導出された最適解を、発電所に送信する。
【0031】
[1-3.効果]
本実施形態の格子点再生成部14は、最適解を導出した後、この最適解の近傍において格子点Lを再生成し、この再生成した格子点Lに基づいて、最適解を再度導出する。このように、本実施形態においては、最適解の近傍において集中的に区分線形近似を行うので、効率的に誤差の少ない解を導出することが出来る。すなわち、計算時間に比して高精度な解を得ることが出来る。
【0032】
[2.第2の実施形態]
[2-1.構成]
本実施形態の水力発電所運用計画生成装置1の構成を、
図7を参照して詳細に説明する。第2の実施形態は、第1の実施形態と基本構成が同じである。以下では、第1の実施形態と異なる点のみを説明し、第1の実施形態と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明は省略する。
【0033】
図7に示すように、本実施形態の水力発電所運用計画生成装置1は、誤差評価部21を更に備える。誤差評価部21は、最適化問題計算部13が再度導出した最適解が、所定の誤差ε以下であるか否かを評価する。誤差評価部21は、最適化問題計算部13が再度導出した最適解が所定の誤差ε以下である場合には、第1の実施形態と同様に、外部送信部15に最適解を出力する。一方で、誤差評価部21は、最適化問題計算部13が再度導出した最適解が所定の誤差εを上回る場合には、この最適解を格子点再生成部14に出力する。このように、本実施形態の誤差評価部21は、最適解が所定の誤差ε以下となるまで、最適解の導出を繰り返させる。
【0034】
誤差評価部21がどのように誤差評価を行うかを説明する。前提として、最適化問題計算部13が導出した最適解は、制約条件の式(8)~(10)から明らかなように、選択された格子点間の重み付き平均に相当するため、元の関数P=f(V,Q)から得られる数値とは乖離がある。そこで、誤差評価部21は、最適解として得られたv、qを元の関数P=f(V,Q)に代入して得られるp´を、最適解として得られたpと比較し、両者の差(最適解の誤差)が所定の誤差ε以下であるか否かを評価する。なお、所定の誤差εは、例えば、需要計画DB92に記憶されている需要計画により定められる。
【0035】
[2-2.作用]
本実施形態の作用を、第1の実施形態と同様に、
図2乃至
図5、
図7及び
図8のフローチャートを参照して説明する。なお、
図8におけるステップS11~S19は、第1の実施形態におけるステップS01~S09に相当するため、詳細な説明を省略する。
【0036】
第1の実施形態のステップS08のNOの後、本実施形態の誤差評価部21は、最適化問題計算部13が再度導出した最適解のv、qを元の関数P=f(V,Q)に代入して得られるp´を、最適解として得られたpと比較し、両者の差が所定の誤差ε以下であるか否かを評価する(ステップS20)。両者の差、すなわち最適解の誤差が所定の誤差ε以下でない場合、最適解を再度導出するために、最適化問題計算部13が導出した最適解を格子点再生成部14に出力する(ステップS21のYES)。換言すれば、ステップS20及びS21は、誤差評価部21により、最適解が所定の誤差ε以下となるまで、最適解の導出を繰り返させるステップである。格子点再生成部14は、再度格子点Lを生成し、また関数DB91に記憶されている関数P=f(V,Q)に基づいて、各格子点Lに対応する発電所出力Pを計算する(ステップS19)。以下、第1の実施形態と同様に、ステップS14~S18を繰り返し、最適化問題計算部13が最適解を導出する。その後は、ステップS20に戻る。
【0037】
ステップS20において、上述のp´とpの差が所定の誤差ε以下である場合、最適化問題計算部13が導出した最適解を外部送信部15に出力する(ステップS21のNO)。この後、外部送信部15は、第1の実施形態と同様に、最適解を発電所に送信する。
【0038】
[2-3.効果]
本実施形態の誤差評価部21は、最適化問題計算部13が再度導出した最適解の誤差を評価し、最適化問題計算部13は、最適解の誤差が所定の誤差以下となるまで、最適解の導出を繰り返す。これにより、第1の実施形態に比して正確な解を導出することが出来る。
【0039】
[3.他の実施形態]
本明細書においては、本発明に係る複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。以上のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0040】
(1)上述の実施形態の格子点再生成部14は、貯水量及び放水量の取り得る範囲の両方を再区分することにより、格子点を再生成したが、これに限られない。貯水量または放水量の取り得る範囲の少なくとも一方を再区分することにより、格子点を再生成してもよい。例えば、貯水量よりも放水量の方で最適解の誤差が大きい場合には、放水量の取り得る範囲のみ再区分することにより、格子点を再生成してもよい。
【0041】
(2)上述の実施形態の格子点再生成部14は、最適解の最大値と最小値との間に集中するように、格子点を再生成したが、これに限られない。例えば、最適解の最大値と中央値との間に集中するように、格子点を再生成してもよい。
【0042】
(3)上述の実施形態の格子点再生成部14は、区分の最大値を含む区分を除き、各区分が均等となるように格子点を再生成したが、これに限られない。例えば、最適解の最大値に近づくほど格子点を密に、遠ざかるほど格子点を疎にしてもよい。なお、格子点生成部11が格子点を生成する際にも、貯水量及び放水量の取り得る範囲を不均等に区分しても良い。また、格子点再生成部14が生成する格子点の数は、格子点生成部11が生成する格子点の数と同数としたが、異ならせてもよい。
【0043】
(4)上述の実施形態においては、フローチャートにおけるループの性質上、ステップS01及びS02の制約条件の生成を、ステップS03及びS04の格子点生成及び格子点に対応する発電所出力の計算の前に持ってきているが、これに限られない。ステップS03及びS04の格子点生成及び格子点に対応する発電所出力の計算を初めに持ってきて、ステップS01、S02、S05、S06を、最適化問題の生成ステップとしてまとめてもよい。また、ステップS03及びS04とステップS01、S02、S05、S06とを並行して行ってもよい。特許請求の範囲における方法クレームの記載も、これらの順序を限定するものではない。
【0044】
(5)上述の実施形態においては、式(11)に示すように、計画期間の最終時間断面における貯水量の価値が最大となるような目的関数を採用したが、これに限られない。例えば、特定の発電所の貯水量が最大となるような目的関数や、コストが最小となるような目的関数を採用しても良い。また、目的関数は、数学関数に限らず、アルゴリズムであれば良い。また、上記実施形態において制約条件についても、他の制約条件を採用しても良い。例えば、式(2a)(2b)の制約条件は、必ずしも必要なものではなく、計算時間を短縮するために他の制約条件を採用したり、省いたりしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 水力発電所運用計画生成装置
11 格子点生成部
12 最適化問題生成部
13 最適化問題計算部
14 格子点再生成部
15 外部送信部
21 誤差評価部
90 記憶部
91 関数DB
92 需要計画DB
93 河川関連DB
94 発電所関連DB
d 各種データ
L 格子点
ε 所定の誤差