IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

特許7363047湿気硬化型ホットメルト接着剤及び接着体
<>
  • 特許-湿気硬化型ホットメルト接着剤及び接着体 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】湿気硬化型ホットメルト接着剤及び接着体
(51)【国際特許分類】
   C09J 175/04 20060101AFI20231011BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 27/12 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 18/10 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 18/69 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 18/64 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 18/72 20060101ALI20231011BHJP
   C08G 18/30 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C09J175/04
B32B7/12
B32B27/12
B32B27/40
C08G18/10
C08G18/69
C08G18/64
C08G18/72
C08G18/30 070
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019026287
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020132728
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】横山 耕祐
(72)【発明者】
【氏名】山下 優香
(72)【発明者】
【氏名】川守 崇司
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-307658(JP,A)
【文献】特開2005-290280(JP,A)
【文献】特開平04-233987(JP,A)
【文献】特開2017-114925(JP,A)
【文献】特開平05-065471(JP,A)
【文献】特開2018-184510(JP,A)
【文献】特開2009-286883(JP,A)
【文献】特開2005-194353(JP,A)
【文献】特開2019-018557(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0022764(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/00-43/00
C08G 18/00-18/87、71/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールに由来する構成単位及びポリイソシアネートに由来する構成単位を含むポリウレタン鎖と、該ポリウレタン鎖の少なくとも一方の末端に結合したイソシアネート基と、水酸基含有ロジン化合物に由来する基と、を有するウレタンプレポリマーを含有し、
前記ポリオールが、三官能以上のポリオールを含み、
前記水酸基含有ロジン化合物が、水酸基を1つ有するロジン化合物であり、
前記ウレタンプレポリマーにおいて、前記三官能以上のポリオールに由来する構成単位の含有量が、前記ポリオール及び前記水酸基含有ロジン化合物を含む水酸基を有する成分の総質量を基準として、10質量%以下である、湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項2】
前記ポリオールが、ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含む、請求項1に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項3】
前記ポリイソシアネートが、ジイソシアネートである、請求項1又は2に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項4】
複数の布を互いに接着するために用いられる、請求項1~3のいずれか一項に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤。
【請求項5】
複数の布と、
前記複数の布を互いに接着する請求項1~3のいずれか一項に記載の湿気硬化型ホットメルト接着剤の硬化物と、
を備える、接着体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿気硬化型ホットメルト接着剤及び接着体に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、無溶剤型の接着剤であるため、環境及び人体への負荷が少なく、短時間接着が可能であるため、生産性向上に適した接着剤である。ホットメルト接着剤は、熱可塑性樹脂を主成分としたもの及び反応性樹脂を主成分としたものの2つに大別できる。反応性樹脂としては、主にイソシアネート基を末端に有するウレタンプレポリマーが利用されている。ウレタンプレポリマーを主成分とする反応性ホットメルト接着剤は、塗布後、接着剤自体の冷却固化により、短時間で、ある程度の接着強度(初期接着性)を発現することができる。その後、ウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基が空気中の水分又は被着体表面の水分と反応することにより高分子量化し、架橋を生じることによって、接着剤が硬化して接着性を発現する。このような接着剤を「湿気硬化型ホットメルト接着剤」という。ウレタンプレポリマーを主成分とする湿気硬化型ホットメルト接着剤は、加熱時でも良好な接着強度を示す傾向にある。
【0003】
特許文献1には、ポリエステルポリオール由来の構造を有するウレタンプレポリマー及び多官能ポリイソシアネートを含有する湿気硬化型ポリウレタンホットメルト組成物が、初期強度及び熱安定性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-104487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、衣類、おむつ等の素材である布、紙等にも使用されつつある。スポーツウェア、インナー等の衣類の接合部に使用される接着剤には、作業性の観点から、取り扱い性を維持しながら、布同士を貼り付けた直後に接着性を発現し、かつ、湿気硬化後の接着性に優れることが求められる。また、このような接着剤は、布に対する接着性に加え、着心地を良くするために伸縮性に優れる硬化物を形成することが必要となる。
【0006】
そこで、本発明は、取り扱い性を維持しながら、布に対する接着性が高く、伸縮性に優れる硬化物を形成できる湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、ポリオールに由来する構成単位及びポリイソシアネートに由来する構成単位を含むポリウレタン鎖と、該ポリウレタン鎖の少なくとも一方の末端に結合したイソシアネート基と、を有するウレタンプレポリマーを含有し、ポリオールが、三官能以上のポリオールを含む、湿気硬化型ホットメルト接着剤を提供する。
【0008】
ポリオールは、ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含んでよい。また、ウレタンプレポリマーは、水酸基含有ロジン化合物に由来する基を更に有してよい。さらに、ポリイソシアネートは、ジイソシアネートであってよい。
【0009】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、複数の布を互いに接着するために用いられてよい。
【0010】
別の側面において、本発明は、複数の布と、複数の布を互いに接着する上述の湿気硬化型ホットメルト接着剤の硬化物と、を備える接着体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取り扱い性を維持しながら、布に対する接着性が高く、伸縮性に優れる硬化物を形成できる湿気硬化型ホットメルト接着剤が提供される。また、本発明によれば、このような湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いた接着体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る接着体を作製する工程の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において、「ポリオール」は、分子内に平均1を超える水酸基を有する化合物を意味し、「ポリイソシアネート」は、分子内に平均1を超えるイソシアネート基を有する化合物を意味する。本明細書において、「初期接着性」とは、接着剤から形成された接着剤層を介して被着体同士を圧着した後、接着剤層が湿気硬化する前の接着性を意味し、「養生後の接着性」とは、上記接着剤層が湿気硬化した後の接着性を意味する。
【0015】
<湿気硬化型ホットメルト接着剤>
一実施形態に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ポリオールに由来する構成単位及びポリイソシアネートに由来する構成単位を含むポリウレタン鎖と、該ポリウレタン鎖の少なくとも一方の末端に結合したイソシアネート基と、を有するウレタンプレポリマーを含有し、ポリオールが、三官能以上のポリオールを含む。
【0016】
一般に、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、化学反応によって高分子量化し、接着性等を発現し得るものである。イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、湿気と反応して硬化することから、ウレタンプレポリマー単独で湿気硬化型ホットメルト接着剤として作用し得る。また、湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ウレタンプレポリマー以外の成分を含有していてもよい。
【0017】
[ウレタンプレポリマー]
本実施形態に係るウレタンプレポリマーは、ポリオールと、ポリイソシアネートとの反応物であり、ポリウレタン鎖と、該ポリウレタン鎖の少なくとも一方の末端に結合したイソシアネート基とを有している。イソシアネート基を有するウレタンプレポリマーは、湿気と反応して硬化することができる。本実施形態に係るホットメルト接着剤は、このようなウレタンプレポリマーを含むことで、湿気硬化後に優れた接着性を発揮することができる。
【0018】
(ポリオール)
本実施形態に係るポリオールは、三官能以上のポリオールを含む。すなわち、ウレタンプレポリマーにおけるウレタン鎖は、三官能以上のポリオールに由来する構造単位を含んでいる。このような構造単位を含むウレタン鎖は分岐構造を有しおり、ホットメルト接着剤の硬化物に架橋構造を導入することができため、初期接着性だけでなく、湿気硬化後の接着性を向上することができる。
【0019】
三官能以上のポリオールは、少なくとも3個の水酸基を有している。三官能以上のポリオールが有する水酸基は、3~24、3~18、3~12、又は3~6であってよい。
【0020】
三官能以上のポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、キシリトール、ソルビトール等の糖アルコール類;フルクトース、グルコース等の単糖類;ポリオキシプロピレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレントリメチロールプロパンエーテル、ポリオキシプロピレンペンタエリスリトールエーテル、ポリオキシプロピレンソルビトールエーテル等のポリオキシプロピレン系ポリオールが挙げられる。三官能以上のポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
三官能以上のポリオールの含有量は、伸縮性を向上する観点から、水酸基を有する成分の総質量を基準として、0.1質量%以上、0.4質量%以上、又は0.8質量%以上であってよい。三官能以上のポリオールの含有量は、伸縮性と接着性とのバランスの観点から、水酸基を有する成分の総質量を基準として、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下又は2質量%以下であってよい。水酸基を有する成分には、ポリオールだけでなく、必要に応じて用いられる水酸基含有ロジン化合物が含まれる。
【0022】
ホットメルト接着剤の硬化後の柔軟性をより向上させる観点から、ポリオールは、三官能未満のポリオール(分子内に1を超え3未満の水酸基を有するポリオール。例えば、ジオール)を更に含んでよい。ポリオールは、三官能未満のポリオールとして、ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでよい。
【0023】
ポリブタジエンポリオールは、ブタジエンに由来する重合鎖と、その重合鎖の両末端等に水酸基とを有する化合物であり、水素化ポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエンポリオールの水素添加物である。ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールは、分子内に平均1.8~2.5程度の水酸基を有していてよい。ポリブタジエン及びその水素添加物に由来する重合鎖は、エラストマとして作用し得るものであり、このような重合鎖を有することによって、ウレタンプレポリマーに接着性及び伸縮性を付与し易くなる。柔軟性により優れることから、ウレタンプレポリマーのポリウレタン鎖は、水素化ポリブタジエンポリオールに由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0024】
ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールは、市販品をそのまま用いることができる。水素化ポリブタジエンポリオールの市販品としては、例えば、GI-1000、GI-2000、GI-3000(日本曹達株式会社製の商品名)等が挙げられる。ポリブタジエンポリオールの市販品としては、例えば、G-1000、G-2000、G-3000(日本曹達株式会社製の商品名)、Poly bd R-15HT、Poly bd R-45HT(出光興産株式会社製の商品名、)、Krasol LBH-P3000(クレイバレー社製の商品名)等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールの数平均分子量(Mn)は、粘度及び接着力のバランスの観点から、500~100000、700~50000、又は900~10000であってよい。本明細書において、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定され、標準ポリスチレン換算した値である。
【0026】
ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールの合計の含有量は、伸縮性を向上する観点から、水酸基を有する成分の総質量を基準として、10質量%以上、40質量%以上、50質量%以上又は60質量%以上であってよい。ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオールの合計の含有量は、伸縮性と接着性とのバランスの観点から、水酸基を有する成分の総質量を基準として、90質量%以下、80質量%以下、又は75質量%以下であってよい。
【0027】
ポリオールは、三官能未満のポリオールとして、ポリブタジエンポリオール及び水素化ポリブタジエンポリオール以外のポリオール(以下、「その他のポリオール」という。)を含んでよい。その他のポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリイソプレンポリオール及びポリオレフィンポリオールが挙げられる。その他のポリオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
その他のポリオールの含有量は、ポリオールの総質量を基準として、0~70質量%、0~40質量%、0~30質量%又は0~20質量%であってよい。
【0029】
(水酸基含有ロジン化合物)
ホットメルト接着剤の初期接着性を向上させる観点から、本実施形態に係るウレタンプレポリマーは、水酸基含有ロジン化合物に由来する基を更に有してよい。このようなウレタンプレポリマーは、非反応性の基(ロジン化合物に由来する基)と、反応性の基(イソシアネート基)とを有するため、優れた初期接着性を有すると共に、硬化物の架橋密度を調整して、伸縮性をより一層向上することがきる。
【0030】
本実施形態に係る水酸基含有ロジン化合物は、ロジンに由来するロジン骨格と、ロジン骨格に結合している水酸基を少なくとも1つ有している。ロジン骨格は、2以上のロジンが結合した構造を含んでいてもよく、ロジンエステル構造を含んでいてもよい。水酸基含有ロジン化合物として、伸縮性に優れる硬化物を形成する観点から、水酸基を1つ有するロジン化合物(以下、「ロジンモノオール」という。)を用いることができる。水酸基含有ロジン化合物として、ロジンモノオールと、水酸基を2以上有する化合物(以下、「ロジンポリオール」という。)を併用してもよい。ロジンポリオールは、例えば、第1の水酸基を含む第1の部分構造と、第2の水酸基を含む第2の部分構造と、ロジン骨格とを有し、第1の部分構造と第2の部分構造とが、ロジン骨格によって連結されている構造を有してもよい。
【0031】
本実施形態に係る水酸基含有ロジン化合物の水酸基価は、20~100mgKOH/gであるが、初期接着性の観点から、25mgKOH/g以上、又は30mgKOH/g以上であってもよい。伸縮性の観点から、80mgKOH/g以下、又は70mgKOH/g以下であってもよい。水酸基価は、JIS K 1557-1に準じて測定することができる。
【0032】
水酸基含有ロジン化合物の酸価は、硬化後の接着性と伸縮性のバランスの観点から、5~30mgKOH/g、8~25mgKOH/g、又は10~20mgKOH/gであってもよい。酸価は、JIS K 0070に準じて測定することができる。
【0033】
水酸基含有ロジン化合物の軟化点は、初期接着性を向上する観点から、90~110℃又は95~105℃であってもよい。軟化点は、JIS K 5601-2-2に準じて環球法により測定することができる。
【0034】
水酸基含有ロジン化合物は市販品をそのまま用いることができる。本実施形態に係る水酸基含有ロジン化合物の市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製の商品名「KE-359」等が挙げられる。
【0035】
水酸基含有ロジン化合物の含有量は、初期接着性をより向上する観点から、水酸基を有する成分の総質量を基準として、5質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよい。水酸基含有ロジン化合物の含有量は、伸縮性と接着性とのバランスの観点から、水酸基を有する成分の総量を基準として、50質量%以下、40質量%以下、又は35質量%以下であってよい。水酸基含有ロジン化合物の含有量が多くなるほど、湿気硬化型ホットメルト接着剤の初期接着性を向上し易くなる。
【0036】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートとしては特に限定されないが、反応時の取り扱い性の観点から、ポリイソシアネートは、ジイソシアネートであることが好ましい。ジイソシアネートとしては、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうち、ポリイソシアネートは、ジフェニルメタンジイソシアネートを含むことが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るウレタンプレポリマーは、イソシアネート基を有している。このようなウレタンプレポリマーを合成する場合、ポリイソシアネート及びポリオールの混合割合は、ポリイソシアネートのイソシアネート基(NCO)当量/ポリオールの水酸基(OH)当量(NCO当量/OH当量))を1.1以上に調整することが好ましい。NCO当量/OH当量は、1.1~2.2、1.1~2.1、又は1.3~2.1であってもよい。NCO当量/OH当量が1.1以上であると、得られるウレタンプレポリマーの粘度の上昇を抑えることができ、作業性が向上し易くなる傾向にある。NCO当量/OH当量が2.2以下であると、ウレタンプレポリマーの湿気硬化反応の際の発泡が生じ難くなり、接着性の低下を抑制し易くなる傾向にある。
【0038】
ウレタンプレポリマーの重量平均分子量(Mw)は、5000~1000000、7000~500000、又は10000~300000であってよい。ウレタンプレポリマーの重量平均分子量は、一般にNCO当量/OH当量を1に近づけるほど、高くできる傾向にある。また、ウレタンプレポリマーのMwが高くなるほど、高粘度になる傾向にある。
【0039】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、触媒を更に含有していてもよい。触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズオクテート、ジメチルシクロヘキシルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリオクチルアミン、及びジモルホリノジエチルエーテルが挙げられる。触媒の含有量は、湿気硬化型ホットメルト接着剤の全量を基準として、0.001~0.5質量%、0.01~0.3質量%、又は0.05~0.2質量%であってよい。
【0040】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、ゴム弾性を高め、より強固な接着性を付与する観点から、熱可塑性ポリマーを更に含有していてよい。熱可塑性ポリマーとしては、例えば、ポリウレタン、エチレン系共重合体、プロピレン系共重合体、塩化ビニル系共重合体、アクリル共重合体、及びスチレン-共役ジエンブロック共重合体が挙げられる。熱可塑性ポリマーの含有量は、湿気硬化型ホットメルト接着剤の全量を基準として、10~50質量%であってよい。
【0041】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、より強固な接着性を付与する観点から、粘着付与剤を更に含有してよい。粘着付与剤としては、例えば、ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、水添ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、水添テルペン樹脂、石油樹脂、水添石油樹脂、クマロン樹脂、ケトン樹脂、スチレン樹脂、変性スチレン樹脂、キシレン樹脂、及びエポキシ樹脂が挙げられる。粘着付与剤の含有量は、湿気硬化型ホットメルト接着剤の全量を基準として、10~50質量%であってよい。また、熱可塑性ポリマー及び粘着付与剤の合計の含有量は、湿気硬化型ホットメルト接着剤の全量を基準として、10~50質量%であってもよい。
【0042】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、必要に応じて、酸化防止剤、顔料、紫外線吸収剤、界面活性剤、難燃剤、充填剤、光発色剤、熱発色防止剤、香料、イメージング剤、熱架橋剤等の成分を更に含有してもよい。
【0043】
湿気硬化型ホットメルト接着剤(硬化前の湿気硬化型ホットメルト接着剤)の120℃における粘度は、0.01Pa・s以上、0.05Pa・s以上、又は0.1Pa・s以上であってよく、35Pa・s以下、30Pa・s以下、又は20Pa・s以下であってよい。120℃における粘度が上記範囲内にあることで、湿気硬化型ホットメルト接着剤をディスペンサー等で被着体に塗布する際の作業性(取扱性)が良好になる。
【0044】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、接着剤に含まれるウレタンプレポリマーの末端イソシアネート基が空気中の水分又は被着体表面の水分と反応することから、例えば、23℃、50%RHの恒温槽で1日間放置することによって硬化させることが可能となる。
【0045】
湿気硬化型ホットメルト接着剤を用いて被着体を接着し、接着剤が硬化した後に測定される接着強度(養生後の接着強度)は、13N/10mm以上、14N/10mm以上、又は15N/10mm以上であってよい。養生後の接着強度の上限は、特に制限されないが、40N/10mm以下であってよい。なお、本明細書において、養生後の接着強度は、実施例に記載の方法によって測定される値を意味する。
【0046】
湿気硬化型ホットメルト接着剤の硬化後の伸縮回復率は、90%以上、93%以上、又は95%以上であってよい。なお、本明細書において、硬化後の伸縮回復率は、実施例に記載の方法によって測定される値を意味する。
【0047】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、例えば、60~130℃で溶融してから、被着体に塗布することによって使用することができる。塗布方法は、特に制限されないが、例えば、ダイコーター、ロールコーター、スプレー等の塗布装置を用いる方法が挙げられる。小型部品等の狭小な部位へ塗布する場合には、ディスペンサーが適している。
【0048】
被着体は、特に制限されないが、例えば、布又は紙であってよい。本実施形態に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、複数の布又は紙を互いに接着するために好適に用いることができる。ここで、貼り合わせの対象(被着体)は、布と布、紙と紙、又は布と紙であってよい。
【0049】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、フィルム状に形成して用いてもよい。湿気硬化型ホットメルト接着剤フィルムは、例えば、湿気硬化型ホットメルト接着剤をPETフィルム等の支持フィルム上に塗布することによって形成することができる。湿気硬化型ホットメルト接着剤フィルムの厚さは、10μm以上、20μm以上、又は30μm以上であってよく、300μm以下、250μm以下、又は200μm以下であってよい。湿気硬化型ホットメルト接着剤フィルムが厚くなると、接着性を担保することができ、湿気硬化型ホットメルト接着剤フィルムが薄くなると、伸縮性をより確保し易い傾向にある。
【0050】
湿気硬化型ホットメルト接着剤は、例えば、三官能以上のポリオールを含むポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて、ウレタンプレポリマーを得る工程と、必要に応じて、ウレタンプレポリマーとその他の任意成分を混合する工程と、を備える方法によって製造することができる。ウレタンプレポリマーを得る工程では、三官能以上のポリオールを含むポリオールと、水酸基含有ロジン化合物と、ポリイソシアネートとを反応させてもよい。
【0051】
本実施形態に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤は、布、紙、皮、樹脂基材等を貼り合わせることができる。貼り合わせの対象は、同じ材質(例えば、布と布)でも、異なる材質(例えば、布と紙)でもよい。このような接着剤は、衣服等のアパレル商品、サポーター、カバン、財布、インテリア、各種カバー、ケース、ウェアラブル機器などに好適に用いることができる。
【0052】
<接着体>
一実施形態に係る接着体は、複数の布と、複数の布を互いに接着する上述の湿気硬化型ホットメルト接着剤の硬化物とを備える。本実施形態に係る接着体は、例えば、無縫製衣類等として利用することができる。
【0053】
接着体は、例えば、布に、上述の湿気硬化型ホットメルト接着剤を塗布して接着剤層を形成し、接着剤層上に更に布、伸縮性を有する配線板等を配置して圧着して接着体前駆体を得る工程と、得られた接着体前駆体を空気中に放置(例えば、23℃で1日間放置)し、接着剤層(湿気硬化型ホットメルト接着剤)を硬化させる工程とを備える方法によって製造することができる。接着体前駆体を得る工程では、例えば、加圧ロール等を用いることができる。
【0054】
図1は、本実施形態に係る接着体を作製する工程の一例を示す模式図である。図1を参照して、布として伸縮性生地を用いた接着体の作製工程について説明する。
【0055】
まず、伸縮性生地1を治具10に沿わせるように設置する(図1の(a)参照)。次いで、本実施形態に係る湿気硬化型ホットメルト接着剤を伸縮性生地1の所定部分に塗布して、接着部4となる接着剤層を形成する(図1の(b)参照)。治具10の材質及び形状は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。接着剤の塗布は、例えば、ディスペンサーを用いて行ってもよい。次に、伸縮性生地2を接着部4上に配置して、伸縮性生地2の上からロール等により圧力をかけながら、伸縮性生地1と伸縮性生地2とを接着部4を介して貼り合わせて、接着体前駆体を得る(図1の(c)及び(d)参照)。その後、接着体前駆体を養生することで接着部4が湿気硬化して、伸縮性生地の接着体が完成する。
【0056】
図1の(b)において、離型性基材上に予め形成しておいた接着剤層を伸縮性生地1上に転写して、接着部4を形成してもよい。また、接着部4を伸縮性生地2に設けて、伸縮性生地1と貼り合わせてもよい。さらに、伸縮性生地2を、伸縮性を有する配線板に変更することで、伸縮性生地と配線板との接着体を作製してもよい。
【0057】
本実施形態に係る接着体は、治具10から外しても伸縮性を有する形状を維持しており、接着体を引き延ばした後、元の形状に回復することができる。
【実施例
【0058】
以下、本発明について実施例を挙げてより具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
湿気硬化型ホットメルト接着剤を調製するために、以下の成分を準備した。
【0060】
(ポリオール)
ポリブタジエンポリオール:日本曹達株式会社製の商品名「G-3000」(水酸基数:2、Mn:3000)
ポリオキシプロピレンソルビトールエーテル:三洋化成工業株式会社製、商品名「サンニックス SP-750」(水酸基数:6)
ポリオキシプロピレングリセリルエーテル:三洋化成工業株式会社製、商品名「サンニックス GP-400」(水酸基数:3)
(水酸基含有ロジン化合物)
水酸基を1つ有するロジン化合物:荒川化学工業株式会社製、商品名「KE-359」(水酸基価:44mgKOH/g、酸価:11mgKOH/g、軟化点:100℃)
(ポリイソシアネート)
ジフェニルメタンジイソシアネート:東ソー株式会社製の商品名「ミリオネートMT」
(触媒)
ジモルホリノジエチルエーテル:サンアプロ株式会社製の商品名「UCAT-660M」
【0061】
[湿気硬化型ホットメルト接着剤の調製]
表1に示す質量部のポリオール、水酸基含有ロジン化合物、ポリイソシアネート、及び触媒を反応容器に入れて、均一になるまで混合した。次いで、混合物を110℃で1時間反応させ、更に110℃で1時間減圧脱泡撹拌し、ウレタンプレポリマーを含有する湿気硬化型ホットメルト接着剤を調製した。
【0062】
以下の条件で、湿気硬化型ホットメルト接着剤を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
(粘度)
湿気硬化型ホットメルト接着剤の粘度を、レオメーター(AntonPaar社製、商品名「MCR-301」)を用い、周波数1Hz、歪振り角2%、ギャップ0.2mm、120℃の条件で測定した。
【0064】
(接着強度)
湿気硬化型ホットメルト接着剤を120℃で溶融してPETフィルム上に塗布し、バーコーターを用いて80μmの厚さに塗工することによって接着剤層を形成した。形成した接着剤層を10mm幅に切り出し、10mm幅の伸縮性生地(スパンデックス、東レ・オプロンテックス株式会社製、ライクラ(登録商標))で挟み込み、120℃で布地に圧着した圧着体を得た。次いで、上記圧着体を23℃、50%RHの恒温槽で1日間放置することによって湿気硬化させた接着体を得た。得られた接着体の接着強度を、引張試験機(株式会社島津製作所製、EZ-Test EZ-SX)を用いて、測定温度が25℃、引張速度が100mm/分の条件でT字剥離強度試験により測定し、養生後の接着性を評価した。
【0065】
(伸縮回復率)
湿気硬化型ホットメルト接着剤を120℃で溶融してPETフィルム上に塗布し、バーコーターを用いて80μmの厚さに塗工することによって接着剤層を形成した。形成した接着剤層を23℃で1日間放置することによって硬化させ、接着剤層の硬化物を得た。得られた接着剤層の硬化物を5mm×50mmのサイズに打ち抜き、PETフィルムを剥離して、測定試料とした。伸縮回復率は、引張試験機(株式会社島津製作所製、EZ-Test EZ-SX)を用いて、測定温度が25℃、引張速度が100mm/分、チャック間距離が30mmの条件で測定した。伸縮回復率は、以下の方法によって求めた。測定試料を引張速度100mm/分で100%まで伸長させ、その後応力を解放した。100%まで伸長させたときの歪み及び応力を解放してから1分後の歪みを測定し、それぞれL1及びL2とした。測定したL1及びL2を以下の式に代入することによって算出した。結果を表1に示す。
伸縮回復率(%)=(L1-L2)/L1×100
【0066】
【表1】
【0067】
上記結果より、実施例の湿気硬化型ホットメルト接着剤は、布に対する接着性が高く、伸縮性に優れた硬化物を形成できることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
1,2…伸縮性生地、4…接着部、10…治具。
図1