(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】熱電変換材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 10/01 20230101AFI20231011BHJP
H10N 10/853 20230101ALI20231011BHJP
B22F 3/10 20060101ALI20231011BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20231011BHJP
C22C 12/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
H10N10/01
H10N10/853
B22F3/10 F
C22C1/04 E
C22C12/00
(21)【出願番号】P 2019044696
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】神谷 欣宏
(72)【発明者】
【氏名】松田 三智子
(72)【発明者】
【氏名】島田 武司
【審査官】柴山 将隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-294738(JP,A)
【文献】特開平10-084138(JP,A)
【文献】特開2007-084854(JP,A)
【文献】特開平03-277735(JP,A)
【文献】特開平09-321347(JP,A)
【文献】特開2008-192694(JP,A)
【文献】特開平08-311576(JP,A)
【文献】特開2000-252526(JP,A)
【文献】特開2010-114419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/01
H10N 10/853
B22F 3/10
C22C 1/04
C22C 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクッデルダイト系熱電変換材料の粉砕粉を成型して成型体とする成型工程と、前記成型体を水素雰囲気中にて
620~650℃に保持して熱処理する熱処理工程と、前記熱処理後の成型体を真空雰囲気中にて
800~870℃に保持し、加圧焼結でない雰囲気下で焼結する焼結工程とを有することを特徴とする、熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程と前記焼結工程とを、同じチャンバー内にて行い、前記熱処理工程後のチャンバー内を前記水素雰囲気から直に前記真空雰囲気にすることを特徴とする、請求項1に記載の熱電変換材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクッデルダイト系熱電変換材料である焼結体を、容易にして且つ高密度に作製できる、熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電変換モジュールに用いられる熱電変換材料として、スクッデルダイト系熱電変換材料が知られている。スクッデルダイト系熱電変換材料は焼結法にて作製することができ、具体的には、ホットプレス焼結や放電プラズマ焼結等の、加圧焼結法にて作製することができる。(例えば、特許文献1、特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-102160号公報
【文献】特開平10-303468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1や特許文献2の製造方法では、高圧の加圧焼結により、高密度の焼結体を作製している。しかし、加圧焼結は、大量の焼結体作製には不向きであり、スクッデルダイト系熱電変換材料の焼結体を、雰囲気下焼結にて高密度に作製可能な製造方法が望まれていた。
【0005】
そこで本発明では、スクッデルダイト系熱電変換材料の焼結体を、雰囲気下焼結にて高密度に作製可能な、熱電変換材料の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の熱電変換材料の製造方法は、スクッデルダイト系熱電変換材料の粉砕粉を成型して成型体とする成型工程と、前記成型体を水素雰囲気中にて620~650℃に保持して熱処理する熱処理工程と、前記熱処理後の成型体を真空雰囲気中にて800~870℃に保持し、加圧焼結でない雰囲気下で焼結する焼結工程とを有する。
【0007】
また、本発明の熱電変換材料の製造方法では、前記熱処理工程と前記焼結工程とを、同じチャンバー内にて行い、前記熱処理工程後のチャンバー内を前記水素雰囲気から直に前記真空雰囲気にすることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スクッデルダイト系熱変換材料の焼結体を、雰囲気下焼結により作製可能な、熱電変換材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態である工程を示すフローである。
【
図2】本発明の実施例により作製したサンプルの断面写真である。
【
図3】本発明の比較例により作製したサンプルの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、
図1のフローに従って説明する。本実施形態の熱電変換材料の製造方法は、秤量工程S1、混合工程S2、リボン作製工程S3、熱処理工程S4、粉砕工程S5、プレス成型工程S6、水素雰囲気熱処理工程S7、焼結工程S8を有している。
【0011】
(S1:秤量工程)
まず、秤量工程S1では、例えば、一般的な秤量装置を用いて、Yb、Co、Sbそれぞれを含む素原料を秤量する。上記秤量には、高純度に精製された素原料を用いるのが好ましく、秤量の際には、これら素原料中に含まれる、Yb、Co、Sbの含有率を、予め調べておき、それら含有率を基に、秤量後の素原料全体に含まれる、Yb、Co、Sbの元素比が、Yb:Co:Sb=x:4:12(ここで、0<x≦0.3)になるように秤量するのが好ましい。
【0012】
また、上記秤量は、外気と遮断された環境下、例えば、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを供給し、内部の酸素濃度を0.1~100容積ppmにした密閉作業装置内で行うのが好ましい。このようにすることで、素原料の酸化を抑制することができる。
【0013】
(S2:混合工程)
次に、混合工程S2では、秤量工程S1で秤量した素原料を、黒鉛坩堝などの耐熱性容器内にて溶融・混合する。
混合工程S2では、例えば、素原料を装填した耐熱性容器を、高周波溶解炉内にて加熱溶融し、素原料に含まれるYb、Co、Sb成分を混合する。素原料を加熱溶融する温度は、1000℃以上にするが好ましく、より好ましくは1050℃以上、さらに好ましくは1180℃以上にするのが良い。また、Sbの蒸発などを考慮して1300℃以下が好ましい。
【0014】
なお、素原料を加熱溶融する際には、溶融状態の保持時間は1時間程度にすることが好ましい。このようにすることで、Sbの蒸発を抑制しつつ、Yb、Co、Sbの成分を十分に混合することができる。混合した素原料は、別に用意した坩堝中に注いで冷却し、Yb、Co、Sbの成分を含むインゴットにする。
【0015】
(S3:リボン作製工程)
次に、リボン作製工程S3では、混合工程S2で作製したインゴットから、非晶質金属のリボンを作製する。
リボン作製工程S3では、まず、混合工程S2にて作製したインゴットを、黒鉛坩堝などの耐熱性容器内に装填した後、高周波加熱等により再溶融して溶湯にする。そして、上記溶湯を、回転する金属ロール上にて冷却して、非晶質金属のリボンを作製する。なお、リボンは、リボン内の組織が均一になるよう、厚さ5~50μmに作製するのが好ましい。また、これより後の熱が加わる工程において組成の均一化が進むため、この工程において得られるリボンは部分的に定比及び不定比組成の合金であってもよい。
【0016】
(S4:熱処理工程)
次に、熱処理工程S4では、リボン作製工程S3で作製したリボンを、不活性ガス雰囲気中にて熱処理する。
熱処理工程S4では、まず、リボン作製工程S3にて作製したリボンを、黒鉛坩堝などの耐熱性容器に装填し、耐熱性容器内を不活性雰囲気にしたのち容器に蓋をする。
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等を用いることができ、他にも、水素とアルゴンあるいは水素と窒素の混合気体、あるいは水素の単独ガス、を用いることもできる。
【0017】
ここで、不活性ガス雰囲気とした耐熱性容器内の酸素濃度は、10容積ppm以下にするのが好ましく、5容積ppm以下にするのがより好ましい。また、酸素濃度をより低減させるために、耐熱容器内に金属Tiなどのゲッター材を装荷しても良い。
【0018】
また、熱処理温度は、500~800℃の温度範囲で行うことが好ましく、熱処理時間は、熱処理温度を700℃にした場合には、3時間以上168時間未満にすることができる。
【0019】
熱処理工程S4では、リボンを低酸素濃度雰囲気下で熱処理することで、リボンの表面や粒界に存在する酸素を低減させることができる。これにより、後で説明する水素雰囲気熱処理工程S7にて、より確実に酸素を還元除去することができる。
【0020】
(S5:粉砕工程)
次に、粉砕工程S5では、熱処理工程S4で熱処理したリボンを粉砕する。粉砕には、例えば、乳鉢および乳棒、ボールミル、ロッドミル、高圧粉砕ロール、縦軸インパクタミル、ジェットミル、ハンマーミル等を用いることができる。
また、粉砕は、酸素濃度を0.1~100ppmに制御した密閉作業装置内にて行うのが好ましく、焼結性を良くするために、メディアン径(d50)が、5~100μmの粉砕粉にするのが好ましい。このようにすることで、後工程の成型密度を高め、焼結性の良い粉砕粉にすることができる。
【0021】
(S6:プレス成型工程)
次に、プレス成型工程S6では、粉砕工程S5で得られた粉砕粉をプレス成型し、成型体を作製する。
プレス成型には、ダイスとパンチの一軸プレスを用いることができるが、低酸素濃度雰囲気にした密閉作業装置内にて、粉砕粉の酸素濃度増加を抑制しながら成型するのが好ましい。
【0022】
(S7:水素雰囲気熱処理工程)
次に、水素雰囲気熱処理工程S7では、プレス成型工程S6で作製した成型体を熱処理する。
水素雰囲気熱処理工程S7では、例えば、成型体を、水素雰囲気にしたチャンバー内にて、600℃以上の温度で熱処理する。前の粉砕工程S5において得られた粉砕粉は、粉砕前より酸素が吸着しやすくなっている。そのためこの工程を経ることで、粉砕粉の表面あるいは粒界に存在する酸素を還元除去することができ、成型体を構成する粉砕粉の表面を、より焼結しやすい状態にすることができる。これにより、好ましい粒径で、かつ焼結性を高めた成型体を実現できる。
【0023】
なお、水素雰囲気熱処理工程S7では、より確実な還元作用が得られるよう、濃度100容量%の水素雰囲気にするのが好ましく、また、水素ガス圧を大気圧よりも高めた雰囲気にすることもできる。さらに、水素雰囲気に水蒸気を導入し、化学平衡を利用して水素の活量を上げても良い。
【0024】
(S8:焼結工程)
次に、焼結工程S8では、水素雰囲気熱処理工程S7で熱処理した成型体を、真空雰囲気にて加熱焼結する。
【0025】
焼結工程S8は、水素雰囲気熱処理工程S7後の成型体を別の焼結チャンバーに移して行っても良いが、焼結工程S8と水素雰囲気熱処理工程S7とを、同じチャンバー内にて行うのが好ましい。このようにすることで、成型体の酸素濃度増加を抑制し、成型体を高密度に焼結しやすくすることができる。
【0026】
また、焼結工程S8と水素雰囲気熱処理工程S7とを、同じチャンバー内にて行う場合には、水素雰囲気熱処理工程S7後のチャンバーを大気解放せずに、直に真空雰囲気にすることが好ましい。すなわち、水素雰囲気熱処理工程S7後のチャンバー内の水素雰囲気を直に真空雰囲気にすることが好ましい。このようにすることで、成型体の酸素濃度増加が抑制され、成型体を高密度に焼結しやすくすることができ、雰囲気下焼結でも、成型体を高密度に焼結できるようになる。
【0027】
なお、チャンバー内の水素雰囲気を真空雰囲気にする際には、水素雰囲気をまず不活性雰囲気に置換し、水素などの還元ガスを十分排出した後、チャンバー内を真空排気するのが好ましい。具体的には、チャンバー内の水素雰囲気を、10Pa程度まで真空排気した後、一旦、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気に置換してから、10Pa以下まで真空排気するのが好ましい。
【0028】
そして、真空雰囲気にしたチャンバー内を、例えば、300~600℃/hの速度で昇温し、雰囲気を800~900℃で1時間保持することで成型体を焼結することができる。チャンバー内の昇温は、例えば、チャンバーにカーボンヒーターを配置し、カーボンヒーターの通電発熱により行うことができる。
加熱により作製された焼結体は、例えば、チャンバー内にて自然冷却しても良いし、200℃以下でチャンバー内にアルゴンガスを導入して効果的に冷却しても良い。
【0029】
(実施例)
次に、本発明の実施例について説明する。本実施例では、秤量工程S1、混合工程S2で、組成が、Yb0.3C04Sb12のインゴットを作製し、リボン作製工程S3、熱処理工程S4、粉砕工程S5、を経て、メディアン径(d50)が、約30μmの粉砕粉を作製して、以降の工程に供するようにした。
【0030】
次に、上記粉砕粉を、プレス成型工程S6にて、成型圧400MPaの条件で一軸成形し、寸法がφ10mm×3mmtの成型体を作製した。そして、上記成型体を、水素雰囲気熱処理工程S7と焼結工程S8とを連続して処理可能なチャンバー内に配置し、表1に示す条件にて、熱処理と焼結を連続して行った。なお、本条件では、焼結工程S9で2段昇温を行っており、チャンバー内の温度は、昇温1速度にて昇温した後、保持1温度で保持1時間保持し、その後、昇温2速度で昇温した後、保持1温度(焼結温度)で保持1時間保持するようにした。
【0031】
【0032】
また、水素雰囲気熱処理工程S7から焼結工程S8では、チャンバー内を大気に晒すことなく、チャンバー内雰囲気を変更するようにし、水素雰囲気から直にチャンバー内を真空引きすることで、真空雰囲気を形成した。
【0033】
図2は、本実施例により作製したサンプルの断面写真である。空孔が少なく高密度の焼結体になっていて、加圧焼結でない雰囲気下焼結でも、高密度の焼結体を作製することができた。
【0034】
なお、上記条件について、水素雰囲気熱処理工程S7の保持1温度を、620℃~650℃、焼結工程S8の保持2温度を800℃~870℃の間で変えてみても、上記条件と同様に、空孔が少なく高密度の焼結体を作製できた。また、焼結工程S8の保持2温度が、800℃を下回る条件では、空孔の多い焼結体になったものの、以下に説明する比較例よりも、高密度の焼結体を作製できた。
【0035】
(比較例)
図3は、本実施例の比較例により作製したサンプルの断面写真である。本比較例は、上記実施例の水素雰囲気熱処理工程S7を省略したプロセスである。水素雰囲気熱処理工程S7を省略したために、成型体の粉砕粉表面に存在する酸素の還元除去が不十分であり、ほとんど焼結していない低密度の圧粉体のままであった。
【0036】
また、上記条件について、焼結工程S8の保持2温度を変えてみたところ、保持2温度が、860℃を下回る条件では、上記条件と同様に、ほとんど焼結していない低密度の圧粉体のままであった。また、保持2温度が、860℃を上回る条件では、焼結に代わって一部に溶融が発生し、組成不均一な組織となってしまった。すなわち、水素雰囲気処理工程S7を省略したプロセスでは、焼結温度である保持2温度を変えても、高密度の焼結体を作製することができなかった。
【0037】
以上、本発明の熱電材料の製造方法について、上記実施形態を用いて詳細に説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載されている技術範囲において内容を変更することが可能である。
【符号の説明】
【0038】
S1:秤量工程
S2:混合工程
S3:リボン作製工程
S4:熱処理工程
S5:粉砕工程
S6:プレス成型工程
S7:水素雰囲気熱処理工程
S8:焼結工程