(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】半導体ウェーハの厚み測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/06 20060101AFI20231011BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01B11/06 G
H01L21/66 P
(21)【出願番号】P 2019118692
(22)【出願日】2019-06-26
【審査請求日】2021-06-28
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 裕司
(72)【発明者】
【氏名】木原 誉之
(72)【発明者】
【氏名】高梨 啓一
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-209951(JP,A)
【文献】特開2002-277217(JP,A)
【文献】特開2015-046488(JP,A)
【文献】特開2011-014800(JP,A)
【文献】特開平10-172976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェーハの両面研磨工程以降で、かつ、最終仕上げ片面研磨を行う直前又は前記半導体ウェーハにエピタキシャル層を形成する直前
で、所定温度に保持された前記半導体ウェーハが、前記所定温度とは異なる温度の測定環境に置かれた状態において、前記半導体ウェーハの面内の複数点において順次、前記半導体ウェーハの厚みを測定することを含む、半導体ウェーハの厚み測定方法であって、
各点における前記半導体ウェーハの厚みの測定は、
所定の帯域幅を有する赤外光を前記半導体ウェーハの表面の所定位置に照射する第1工程と、
前記赤外光が前記半導体ウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、前記赤外光が前記半導体ウェーハを透過して該半導体ウェーハの裏面で反射してなる第2反射光との干渉光を検出する第2工程と、
前記第2工程で検出した前記干渉光の分光スペクトルを得る第3工程と、
前記分光スペクトルを波形解析して、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を求める第4工程と、
前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を、前記半導体ウェーハの屈折率で除することによって、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚み測定値を得る第5工程と、
を含み、
前記半導体ウェーハの温度が前記半導体ウェーハの屈折率に与える影響に関する情報を予め求め、
各点における前記半導体ウェーハの厚みの測定では、前記所定位置での前記半導体ウェーハの温度を測定し、
前記情報と、測定した前記半導体ウェーハの温度とに基づいて、前記第5工程で用いる前記半導体ウェーハの屈折率の値を決定
し、
前記情報は、テスト用半導体ウェーハを種々の温度に設定して求めた、前記テスト用半導体ウェーハの温度と、前記テスト用半導体ウェーハの屈折率との関係であり、当該関係は、
[1]屈折率に依存しない方法で、ある温度における前記テスト用半導体ウェーハの厚みt
0
を測定し、
[2]前記第1工程から前記第5工程からなる分光干渉方式を用いて、ある基準温度で前記テスト用半導体ウェーハの厚みを測定し、その際、前記分光干渉方式による前記基準温度での厚み測定値が、前記厚みt
0
と等しくなるように、前記第5工程で用いる屈折率の値n
0
を設定し、
[3]前記第1工程から前記第5工程からなる分光干渉方式を用いて、前記基準温度+A(℃)で前記テスト用半導体ウェーハの厚みを測定し、その際、前記分光干渉方式による前記基準温度+A(℃)での厚み測定値が、「前記厚みt
0
+熱膨張係数を考慮した厚み差分(A>0の場合には厚み増加分、A<0の場合には厚み減少分)」と等しくなるように、前記第5工程で用いる屈折率の値n
1
を設定し、
[4]前記Aを種々の値に設定して、種々の温度における前記第5工程で用いる前記屈折率の値n
i
を決定し、
[5]前記[2]~[4]で得られた種々の温度における前記屈折率の値n
i
(iはゼロ以上の自然数)に基づいて、前記テスト用半導体ウェーハの温度と屈折率の関係式を求める
ことにより求めることを特徴とする半導体ウェーハの厚み測定方法。
【請求項2】
前記決定は、前記半導体ウェーハの面内での温度の差異に起因する前記半導体ウェーハの厚み測定値のばらつきを補償する、請求項1に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【請求項3】
前記情報は、前記テスト用半導体ウェーハの温度と、前記テスト用半導体ウェーハの屈折率との関係から求めた、単位温度あたりの屈折率の変動量である、請求項
1又は2に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【請求項4】
前記テスト用半導体ウェーハは、前記半導体ウェーハと同一であるか、前記半導体ウェーハと同じ抵抗率を有する、請求項
1~3のいずれか一項に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光干渉方式を用いた、半導体ウェーハの厚み測定方法及び半導体ウェーハの厚み測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に記載されるような分光干渉方式の厚み測定装置を用いて、シリコンウェーハ等の半導体ウェーハの厚みを測定する技術が従来から知られている。
図1を参照して、一般的な分光干渉方式の厚み測定装置10によるシリコンウェーハの厚み測定の原理を説明する。厚み測定装置10は、光学ユニット12、検出ユニット14、及び演算部16を有する。光学ユニット12は、例えば波長可変レーザを有し、所定の帯域幅(
図1に示した例では、波長1260~1360nm)を有する赤外光をシリコンウェーハの表面に照射する。反射光は、赤外光がシリコンウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、赤外光がシリコンウェーハを透過してシリコンウェーハの裏面で反射してなる第2反射光とを含む。CCD等の受光素子を含む検出ユニット14では、この第1反射光と第2反射光との干渉光を検出する。なお、シリコンウェーハの厚みをtとした場合、第2反射光の光路長は2nt(n:屈折率)となる。演算部16では、この干渉光の分光スペクトル(
図1の左側のグラフ)をフーリエ変換して、横軸が光路長nd(n:屈折率、d:距離)、縦軸が光強度のグラフを得る。このグラフの横軸「光路長nd」を、シリコンウェーハの屈折率nの設定値(例えば、3.86223)で除して得た「距離d」を横軸としたのが、
図1の右側のグラフである。このグラフにおける隣接するピーク間の距離が、シリコンウェーハの厚み測定値となる。つまり、分光干渉方式で測定されたシリコンウェーハの厚みに相当する光路長ntを、シリコンウェーハの屈折率nで除することによって、シリコンウェーハの厚み測定値tを得ることができる。通常、演算部16では、上記のとおり屈折率nの設定値として一定の値を用いて、シリコンウェーハの厚み測定値tを算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、屈折率nには温度依存性がある。そのため、分光干渉方式で測定されるシリコンウェーハの厚みに相当する光路長ntは、測定時のシリコンウェーハの温度に依存して異なった値となる。そのため、屈折率nの設定値として一定の値を用いて、シリコンウェーハの厚み測定値tを算出すると、当該厚み測定値tも、測定時のシリコンウェーハの温度に依存して異なった値となる。
【0005】
このように、シリコンウェーハの温度に依存した屈折率の違いに起因して、厚み測定値がばらつくことを防ぐためには、測定環境の温度を一定に維持して、測定対象物としてのシリコンウェーハの温度を極力一定に維持することが一案である。しかしながら、本発明者らは、厚み測定の精度と厚み測定完了までに要する時間の観点から、このような工夫が有効ではない状況があることを見出した。
【0006】
それは、分光干渉方式による厚み測定をシリコンウェーハの面内の複数点で順次行う場合である。ある温度に保持されたシリコンウェーハが、それとは異なる温度の測定環境に置かれると、シリコンウェーハの温度は面内のそれぞれの位置で経時的に複雑に変化するため、シリコンウェーハの面内温度分布は不均一となる。この面内温度分布が均一になって、しかも各位置での温度が安定するまでには、かなりの時間を要する。
【0007】
面内の温度ばらつきが残っている段階で厚み測定を始めると、ある時刻で測定されたある測定点での厚み測定値と、別の時刻で測定された別の測定点での厚み測定値との間には、屈折率の差異に起因した測定値のばらつきが存在することになる。すなわち、複数の測定点間での厚み測定値の相対的な精度が十分に得られない。他方で、シリコンウェーハの温度が安定してから厚み測定を始めると、測定完了までに長時間を要し、シリコンウェーハの生産性を向上させることができない。このような課題は、シリコンウェーハに限らず、屈折率に温度依存性があり、かつ、分光干渉方式で厚み測定が可能な半導体ウェーハ全般に当てはまる。
【0008】
上記課題に鑑み、本発明は、半導体ウェーハの厚みを面内の複数点において分光干渉方式で短時間に測定する際に、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することが可能な半導体ウェーハの厚み測定方法及び半導体ウェーハの厚み測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を進め、以下の知見を得た。すなわち、半導体ウェーハの温度が半導体ウェーハの屈折率に与える影響に関する情報を予め求めておくことを着想した。そして、半導体ウェーハの厚みを面内の複数点において分光干渉方式で測定する際に、各測定位置での半導体ウェーハの温度を測定し、前記情報と、測定した半導体ウェーハの温度とに基づいて、各測定位置での厚み測定値の算出に用いる半導体ウェーハの屈折率の値を決定すれば、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することができることを見出した。
【0010】
上記知見に基づき完成した本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)所定の帯域幅を有する赤外光を半導体ウェーハの表面の所定位置に照射する第1工程と、
前記赤外光が前記半導体ウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、前記赤外光が前記半導体ウェーハを透過して該半導体ウェーハの裏面で反射してなる第2反射光との干渉光を検出する第2工程と、
前記第2工程で検出した前記干渉光の分光スペクトルを得る第3工程と、
前記分光スペクトルを波形解析して、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を求める第4工程と、
前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を、前記半導体ウェーハの屈折率で除することによって、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚み測定値を得る第5工程と、
を前記半導体ウェーハの面内の複数点で行う半導体ウェーハの厚み測定方法であって、
前記半導体ウェーハの温度が前記半導体ウェーハの屈折率に与える影響に関する情報を予め求め、
前記所定位置での前記半導体ウェーハの温度を測定し、
前記情報と、測定した前記半導体ウェーハの温度とに基づいて、前記第5工程で用いる前記半導体ウェーハの屈折率の値を決定することを特徴とする半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0011】
(2)前記決定は、前記半導体ウェーハの面内での温度の差異に起因する前記半導体ウェーハの厚み測定値のばらつきを補償する、上記(1)に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0012】
(3)前記情報は、テスト用半導体ウェーハを種々の温度に設定して求めた、前記テスト用半導体ウェーハの温度と、前記テスト用半導体ウェーハの屈折率との関係である、上記(1)又は(2)に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0013】
(4)前記情報は、前記テスト用半導体ウェーハの温度と、前記テスト用半導体ウェーハの屈折率との関係から求めた、単位温度あたりの屈折率の変動量である、上記(3)に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0014】
(5)前記テスト用半導体ウェーハは、前記半導体ウェーハと同一であるか、前記半導体ウェーハと同じ抵抗率を有する、上記(3)又は(4)に記載の半導体ウェーハの厚み測定方法。
【0015】
(6)半導体ウェーハを載置する台座と、
所定の帯域幅を有する赤外光を前記半導体ウェーハの表面の所定位置に照射する第1工程を行う光学ユニットと、
前記赤外光が前記半導体ウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、前記赤外光が前記半導体ウェーハを透過して該半導体ウェーハの裏面で反射してなる第2反射光との干渉光を検出する第2工程を行う検出ユニットと、
前記検出ユニットで検出した前記干渉光の分光スペクトルを得る第3工程と、
前記分光スペクトルを波形解析して、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を求める第4工程と、
前記半導体ウェーハの厚みに相当する光路長を、前記半導体ウェーハの屈折率で除することによって、前記所定位置での前記半導体ウェーハの厚み測定値を得る第5工程と、
を行う演算部と、
前記所定位置を、前記半導体ウェーハの面内の複数点に設定可能な、前記光学ユニットと前記半導体ウェーハとの相対位置の可動機構と、
を有し、前記第1工程から前記第5工程を前記半導体ウェーハの面内の複数点で行う半導体ウェーハの厚み測定システムであって、
前記半導体ウェーハの温度が前記半導体ウェーハの屈折率に与える影響に関する情報を記憶したメモリと、
前記所定位置での前記半導体ウェーハの温度を測定する温度センサと、
をさらに有し、
前記演算部は、前記メモリに記憶された前記情報と、前記温度センサにより測定された前記半導体ウェーハの温度とに基づいて、前記第5工程で用いる前記半導体ウェーハの屈折率の値を決定することを特徴とする半導体ウェーハの厚み測定システム。
【0016】
(7)前記決定は、前記半導体ウェーハの面内での温度の差異に起因する前記半導体ウェーハの厚み測定値のばらつきを補償する、上記(6)に記載の半導体ウェーハの厚み測定システム。
【0017】
(8)前記情報は、テスト用半導体ウェーハを種々の温度に設定して求めた、前記テスト用半導体ウェーハの温度と、前記テスト用半導体ウェーハの屈折率との関係である、上記(6)又は(7)に記載の半導体ウェーハの厚み測定システム。
【0018】
(9)前記情報は、前記テスト用半導体ウェーハの温度と、前記テスト用半導体ウェーハの屈折率との関係から求めた、単位温度あたりの屈折率の変動量である、上記(8)に記載の半導体ウェーハの厚み測定システム。
【0019】
(10)前記テスト用半導体ウェーハは、前記半導体ウェーハと同一であるか、前記半導体ウェーハと同じ抵抗率を有する、上記(8)又は(9)に記載の半導体ウェーハの厚み測定システム。
【発明の効果】
【0020】
本発明の半導体ウェーハの厚み測定方法及び半導体ウェーハの厚み測定システムによれば、半導体ウェーハの厚みを面内の複数点において分光干渉方式で短時間に測定する際に、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】分光干渉方式の厚み測定装置10の構成を示す模式図である。
【
図2】シリコンウェーハの温度を経時的に変動させた場合の、分光干渉方式の厚み測定装置10によるシリコンウェーハの厚み測定値の変動を示すグラフである。
【
図3】
図2のグラフに基づいて作成した、シリコンウェーハの温度と厚み測定値との関係を示すグラフである。
【
図4】
図2の試験で用いたシリコンウェーハについて求めた、シリコンウェーハの温度とシリコンウェーハの屈折率との関係を示すグラフである。
【
図5】比較例による厚み測定システム100の構成を示す模式図である。
【
図6】シリコンウェーハの面内厚み分布の測定方法の一例を示す図である。
【
図7】本発明の一実施形態による厚み測定システム200の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態によるシリコンウェーハの厚み測定方法及びシリコンウェーハの厚み測定システムを説明する。
【0023】
本実施形態のシリコンウェーハの厚み測定方法は、分光干渉方式を用いるものであり、以下の工程を有する。
(第1工程)
所定の帯域幅を有する赤外光をシリコンウェーハの表面の所定位置(測定点)に照射する。
(第2工程)
赤外光がシリコンウェーハの表面で反射してなる第1反射光と、赤外光がシリコンウェーハを透過してシリコンウェーハの裏面で反射してなる第2反射光との干渉光を検出する。
(第3工程)
第2工程で検出した干渉光の分光スペクトルを得る。
(第4工程)
分光スペクトルを波形解析して、前記所定位置でのシリコンウェーハの厚みに相当する光路長を求める。
(第5工程)
シリコンウェーハの厚みに相当する光路長を、シリコンウェーハの屈折率で除することによって、前記所定位置でのシリコンウェーハの厚み測定値を得る。
【0024】
以上の第1工程から第5工程をシリコンウェーハの面内の複数点で行う。
【0025】
図1を参照して、本実施形態のシリコンウェーハの厚み測定方法及びシリコンウェーハの厚み測定システムで用いる分光干渉方式の厚み測定装置10の構成を説明する。厚み測定装置10は、光学ユニット12、検出ユニット14、及び演算部16を有する。
【0026】
光学ユニット12は、所定の帯域幅を有する赤外光をシリコンウェーハWの表面の所定位置(測定点)に照射する上記第1工程を行う。
図1では、波長1260~1360nmの範囲内の帯域幅100nmの赤外光を照射する例を示したが、これには限定されず、例えば波長1200~1600nmの範囲内で、帯域幅としては50~200nmの範囲内の赤外光を照射すればよい。このような光学ユニット12としては、好適には波長可変レーザを挙げることができるが、これに限定されず、広波長帯域の赤外光を一時に照射可能なSLD(Super Luminescent Diode)であってもよい。
【0027】
検出ユニット14は、CCD等の受光素子を含み、上記第1反射光と第2反射光との干渉光を検出する上記第2工程を行う。
【0028】
演算部16は、検出した干渉光における第1反射光と第2反射光との光路長の差(シリコンウェーハの厚みをtとした場合、当該光路長差は2nt(n:屈折率))から、測定点でのシリコンウェーハWの厚み測定値を算出する。まず、演算部16は、
図1の左側のグラフに例示される、検出ユニット14で検出した干渉光の分光スペクトルを得る(第3工程)。次に、演算部16は、分光スペクトルを波形解析して、前記測定点でのシリコンウェーハの厚みに相当する光路長ntを求める(第4工程)。そして、シリコンウェーハの厚みに相当する光路長ntを、シリコンウェーハの屈折率nで除することによって、前記測定点でのシリコンウェーハの厚み測定値tを得る(第5工程)。
【0029】
具体例として、演算部16では、干渉光の分光スペクトル(
図1の左側のグラフ)をフーリエ変換して、横軸が光路長nd(n:屈折率、d:距離)、縦軸が光強度のグラフを得る。このグラフの横軸「光路長nd」を、シリコンウェーハの屈折率nの設定値(例えば、3.86223)で除して得た「距離d」を横軸としたのが、
図1の右側のグラフである。このグラフにおける隣接するピーク間の距離が、シリコンウェーハの厚み測定値となる。つまり、分光干渉方式で測定されたシリコンウェーハの厚みに相当する光路長ntを、シリコンウェーハの屈折率nで除することによって、シリコンウェーハの厚み測定値tを得ることができる。通常、演算部16では、上記のとおり屈折率nの設定値として一定の値を用いて、シリコンウェーハの厚み測定値tを算出する。
【0030】
本発明者らは、シリコンウェーハの温度がシリコンウェーハの厚み測定値に与える影響を把握することに成功した。以下に、実験例を示す。両面研磨されたシリコンウェーハ(狙い厚み:775μm、直径:300mm、ドーパント:ボロン、抵抗率:p-)の面内中心点の厚みを、分光干渉方式の厚み測定装置を用いて以下の条件で経時的に測定した。その際、シリコンウェーハに熱風を吹き付けることによって、温度を意図的に変動させた。なお、シリコンウェーハの温度は、表面に貼り付けた熱電対によって測定した。なお、屈折率の設定値は3.86223とした。
【0031】
図2に、シリコンウェーハの温度及び厚み測定値の変動を示す。
図2から明らかなように、シリコンウェーハの温度の変動に同期して、厚み測定値も変動している。
図3は、
図2のグラフに基づいて作成した、シリコンウェーハの温度と厚み測定値との関係を示すグラフである。
図3からは、シリコンウェーハの温度と厚み測定値には強い正の相関があることが分かる。横軸x:ウェーハ温度、縦軸y:ウェーハ厚み測定値として、y=0.0695x+757.53となり、この実験例では、シリコンウェーハの温度1℃の変動あたり、厚み測定値は0.0695μm(69.5nm)だけ変動することが分かった。シリコンウェーハの熱膨張による厚みの増加分は、温度1℃あたり10nm程度であることから、この厚み測定値の変動は、実際の厚みの変動のみを反映するものではなく、温度変動に起因した測定誤差であると考えられる。すなわち、この厚み測定値の変動は、屈折率の温度依存性に起因するものであると考えられる。
【0032】
そこで本発明者らは、シリコンウェーハの温度と屈折率との関係を求めることを試みた。そして、以下の方法で、シリコンウェーハの温度と屈折率との関係を求めることに成功した。
[1]まず、屈折率に依存しない方法で、ある温度のシリコンウェーハの厚みt
0を測定する。屈折率に依存しない方法としては、例えば、KLA-Tencor社製 Wafer Sightを用いてシリコンウェーハの厚みを測定することが挙げられる。
[2]次に、上記第1工程から第5工程からなる分光干渉方式を用いて、ある基準温度(例えば30℃)でシリコンウェーハの厚みを測定する。その際、分光干渉方式による当該基準温度での厚み測定値が、屈折率に依存しない方法による上記厚み測定値t
0と等しくなるように、第5工程で用いる屈折率の値n
0を設定する。
[3]次に、基準温度+A(℃)の屈折率については、以下のようにして求める。すなわち、上記第1工程から第5工程からなる分光干渉方式を用いて、基準温度+A(℃)でシリコンウェーハの厚みを測定する。その際、分光干渉方式による基準温度+A(℃)での厚み測定値が、「屈折率に依存しない方法による上記厚み測定値t
0+熱膨張係数を考慮した厚み差分(A>0の場合には厚み増加分、A<0の場合には厚み減少分)」と等しくなるように、第5工程で用いる屈折率の値n
1を設定する。
[4]Aを種々の値に設定して、種々の温度における第5工程で用いる屈折率の値n
iを決定する。
[5]上記[2]~[4]で得られた種々の温度における屈折率の値n
i(iはゼロ以上の自然数)に基づいて、シリコンウェーハの温度と屈折率の関係式を求める。
このようにして求めた、上記実験例で用いたシリコンウェーハの温度と屈折率の関係を、
図4に示す。
図4におけるシリコンウェーハの温度と屈折率の関係式は、横軸x:ウェーハ温度、縦軸y:ウェーハの屈折率として、y=0.00035x+3.85173となった。なお、屈折率に依存しない方法でシリコンウェーハの厚みを測定する際のシリコンウェーハの温度は、上記基準温度と同じでもよいし、任意の温度でもよい。なぜならば、本発明は、ある温度での真の屈折率を求めることが目的ではなく、屈折率の相対的な温度依存性を求めて、これを用いて複数の測定点間での厚み測定値の相対的なばらつきを抑制することが目的だからである。
【0033】
シリコンウェーハの温度と屈折率との関係の求め方としては、以下の方法も挙げることができる。
[1]まず、屈折率に依存しない方法で、種々の温度でのシリコンウェーハの厚みを測定する。屈折率に依存しない方法としては、例えば、KLA-Tencor社製 Wafer Sightを用いてシリコンウェーハの厚みを測定することが挙げられる。
[2]次に、上記第1工程から第5工程からなる分光干渉方式を用いて、上記種々の温度でシリコンウェーハの厚みを測定する。その際、分光干渉方式による各温度での厚み測定値が、屈折率に依存しない方法による各温度での厚み測定値と等しくなるように、第5工程で用いる屈折率の値niを設定する。このようにして、種々の温度における第5工程で用いる屈折率の値niを決定する。
[3]上記[2]で得られた種々の温度における屈折率の値niに基づいて、シリコンウェーハの温度と屈折率の関係式を求める。
【0034】
シリコンウェーハの温度と屈折率との関係の求め方としては、以下の方法も挙げることができる。
[1]まず、基準となる屈折率n
0(例えば、従来の設定値と同様に3.86223)を設定する。
[2]次に、上記第1工程から第5工程からなる分光干渉方式を用いて、種々の温度でシリコンウェーハの厚みt
iを測定する。その際、第5工程で用いる屈折率の値は、上記基準値n
0とする。これにより、シリコンウェーハの温度と厚み測定値との関係式(つまり、
図3の検量線)を求めることができる。
[3]測定された種々の厚み測定値t
iの中で、ある基準温度(例えば30℃)における厚み測定値を基準厚みt
0とする。
[4]基準厚みt
0を各温度での厚み測定値t
iと一致させるために必要な屈折率の値を求め、これを各温度における屈折率の値n
iとする。このようにして、種々の温度における第5工程で用いる屈折率の値n
iを決定する。
[5]上記[4]で得られた種々の温度における屈折率の値n
iに基づいて、シリコンウェーハの温度と屈折率の関係式を求める。
【0035】
そこで、本実施形態のシリコンウェーハの厚み測定方法では、シリコンウェーハの面内の複数の測定点で厚み測定値を得る際に、各測定点でのシリコンウェーハの温度を測定し、
図4に示す情報と、測定したシリコンウェーハの温度とに基づいて、第5工程で用いるシリコンウェーハの屈折率を決定することが特徴である。具体的には、以下のような決定方法が挙げられる。
【0036】
第1の方法として、
図4におけるシリコンウェーハの温度と屈折率の関係は、横軸x:ウェーハ温度、縦軸y:ウェーハの屈折率として、y=0.00035x+3.85173となる。そこで、ある測定点のシリコンウェーハの温度がTの場合、x=Tを代入した屈折率yの値を用いて、厚み測定値を算出する。このようにすれば、シリコンウェーハの面内での温度の差異に起因するシリコンウェーハの厚み測定値のばらつきを補償することができる。つまり、このようにしてシリコンウェーハの厚みを面内の複数点において測定することによって、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することができる。
【0037】
第2の方法として、
図4における単位温度あたりの屈折率の変動量(0.00035/℃)のみを用いることもできる。ある基準温度(例えば30℃)におけるシリコンウェーハの屈折率を、基準値として任意の値(例えば、従来の設定値と同様に3.86223)に設定する。次に、この基準温度との温度差ΔT=A(℃)におけるシリコンウェーハの屈折率を、以下のように決定する。
A(℃)における屈折率=基準値+0.00035(/℃)×A(℃)
つまり、ΔT=1℃(例えば31℃)における屈折率は、基準値に0.00035を加えた値とし、ΔT=-1℃(例えば29℃)における屈折率は、基準値から0.00035を引いた値とする。この方法でも、屈折率の温度依存性に起因する複数の測定点間での厚み測定値の相対的なばらつきを抑制することができる。
【0038】
すなわち、本発明では、シリコンウェーハの温度がシリコンウェーハの屈折率に与える影響に関する情報を予め求め、各測定点でのシリコンウェーハの温度を測定し、前記情報と、測定したシリコンウェーハの温度とに基づいて、第5工程で用いるシリコンウェーハの屈折率を決定することを特徴とする。このようにすれば、シリコンウェーハの面内での温度の差異に起因するシリコンウェーハの厚み測定値のばらつきを補償することができる。つまり、このようにしてシリコンウェーハの厚みを面内の複数点において測定することによって、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することができる。
【0039】
ここで、「シリコンウェーハの温度がシリコンウェーハの屈折率に与える影響に関する情報」は、
図4に示したように、テスト用シリコンウェーハを種々の温度に設定して求めた、テスト用シリコンウェーハの温度と、テスト用シリコンウェーハの屈折率との関係であることが好ましく、さらに、この関係から求めた、単位温度あたりの屈折率の変動量(上記の例であれば、0.00035/℃)であることが好ましい。
【0040】
なお、
図4の関係における、傾き「0.00035/℃」は、用いるテスト用シリコンウェーハの抵抗率に依存する。そのため、測定の精度を十分に得る観点から、テスト用シリコンウェーハは、複数点で厚み測定を行おうとするシリコンウェーハ(以下、「測定対象シリコンウェーハ」と称する。)と同一であるか、当該測定対象シリコンウェーハと同じ抵抗率を有するものとすることが好ましい。つまり、測定対象シリコンウェーハを用いて、予め
図4に示す関係を求めておいてもよいし、当該測定対象シリコンウェーハと同じ抵抗率を有するテスト用シリコンウェーハを用いて、
図4に示す関係を求めてもよい。
【0041】
なお、テスト用シリコンウェーハの抵抗率は、測定対象シリコンウェーハの抵抗率と同一であることには限定されない。ただし、測定対象シリコンウェーハの抵抗率がp-(1Ωcm以上)である場合には、テスト用シリコンウェーハの抵抗率もp-の範囲であることが好ましい。また、p+(0.01Ωcm以上1Ωcm未満)、p++(0.001Ωcm以上0.01Ωcm未満)の場合には、5mΩcmごとに抵抗率の範囲を区分した上で、テスト用シリコンウェーハの抵抗率と測定対象シリコンウェーハの抵抗率が、同一区分に属するようにすることが好ましい。また、テスト用シリコンウェーハと測定対象シリコンウェーハは、同一の伝導型(p型又はn型)であることが好ましい。
【0042】
次に、シリコンウェーハの面内厚み分布を測定することが可能なシリコンウェーハの厚み測定システムの構成を説明する。まず、
図5を参照して、比較例による厚み測定システム100の構成を説明する。厚み測定システム100は、厚み測定装置10、回転台座20、チャック22、センサ支持部24、及びガイドレール26を有する。
【0043】
回転台座20は、台座の上面中心部にターンテーブルを有し、このターンテーブル上にシリコンウェーハWを載置可能である。ターンテーブル上には少なくとも3つのチャック22が設けられており、ターンテーブル上に載置されたシリコンウェーハWは、チャック22によって固定される。
【0044】
センサ支持部24は、回転台座20と連結して鉛直方向に延在する一対の脚部24Aと、該脚部間を連結して水平方向に延在する腕部24Bとからなる。腕部24Bは、延在方向に垂直な断面が矩形の柱状構造体であり、その側面にガイドレール26が設けられる。
【0045】
厚み測定装置10は、既述のとおり、
図1に示す構成を有する分光干渉方式の厚み測定装置であり、厚み測定装置10は、センサヘッドが下向きとなるようにガイドレール26に取り付けられており、センサヘッドから出射された赤外光がシリコンウェーハWの表面に対して垂直に照射される。その結果、上記第1反射光と第2反射光との干渉光は、センサヘッドに入射して、厚み測定装置10内の検出ユニット14に導かれる。ガイドレール26に沿って厚み測定装置10を一軸で並行移動することによって、厚み測定装置10からシリコンウェーハWへの赤外光の照射位置(測定点)は、シリコンウェーハWの面内中心を通る直径上を走査させることができる。
【0046】
そして、ガイドレール26に沿った厚み測定装置10の一軸移動と、回転台座20のターンテーブルの回転に伴うシリコンウェーハWの回転とを組み合わせることによって、測定点をシリコンウェーハWの面内の任意の位置に設定することができる。すなわち、光学ユニット12(厚み測定装置10)とシリコンウェーハWとの相対位置の可動機構は、回転台座20及びガイドレール26によって構成される。
【0047】
このような相対位置の可動機構によれば、例えば
図6に示すように、シリコンウェーハWの面内中心を始点として、らせん状に複数の測定点を順次設定して、厚み測定を行うことができる。
図6には、取得する面内厚み分布の例も示す。
図6左側のグラフは、面内中心から4つの半径方向(0°、90°、180°、270°)に厚み測定値をプロットしたグラフであり、このような面内厚み分布を取得することができる。さらに、
図6右側のグラフは、
図6左側のグラフの4水準を平均したグラフであり、このような面内厚み分布を取得することもできる。このような面内厚み分布(複数点での厚み測定結果)から、GBIR(Global Backside Ideal Range)等のウェーハ面内厚み相対変化量を求めることもできる。なお、厚み測定システム100は、直径300mmのシリコンウェーハに限らず、任意の直径のシリコンウェーハの複数点における厚みを測定可能である。
【0048】
次に、
図7を参照して、本発明の一実施形態による厚み測定システム200の構成を説明する。厚み測定システム200は、上記の比較例による厚み測定システム100の構成を有することに加えて、以下の構成を有する。
【0049】
まず、厚み測定システム200は、測定点でのシリコンウェーハWの温度を測定する温度センサ30を有する。温度センサ30としては、例えば放射温度計を挙げることができるが、測定点でのシリコンウェーハWの温度を測定することができるものであれば、特に限定されず、例えば半導体の吸収端の温度依存性から温度を測定する方法を採用することもできる。本実施形態では、測定点、すなわち、赤外線の照射位置の温度を測定できるように、温度センサ30は、厚み測定装置10と隣接してガイドレール26に取り付けられている。ただし、本発明はこのような態様に限定されず、例えば厚み測定装置10のセンサヘッド内に温度センサを内蔵する構成でもよい。
【0050】
さらに、厚み測定システム200は、予め求めた
図4の関係式や、単位温度あたりの屈折率の変動量など、シリコンウェーハの温度がシリコンウェーハの屈折率に与える影響に関する情報を記憶したメモリ(図示せず)を有する。
【0051】
そして、厚み測定装置10の演算部16は、メモリに記憶された情報と、温度センサ30により測定されたシリコンウェーハWの温度とに基づいて、第5工程で用いるシリコンウェーハの屈折率の値を決定する。本実施形態では、このようにしてシリコンウェーハの厚みを面内の複数点において測定することによって、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することができる。
【0052】
上記では、厚みの測定対象をシリコンウェーハとした実施形態を説明したが、本発明はこれに限らず、屈折率に温度依存性があり、かつ、分光干渉方式で厚み測定が可能な、SiC、GaAsなどの半導体ウェーハを測定対象とする場合も包含する。
【0053】
本実施形態の半導体ウェーハの厚み測定方法及び半導体ウェーハの厚み測定システムは、半導体ウェーハの両面研磨工程以降の工程に適宜適用することができる。例えば、両面研磨されたウェーハの最終仕上げ片面研磨を行う直前に、本実施形態に従ってウェーハの厚みを面内の複数点において測定し、GBIR等のウェーハ面内厚み相対変化量を求め、当該ウェーハ面内厚み相対変化量に基づいて、片面研磨の条件を設定することができる。また、半導体ウェーハにエピタキシャル層を形成する直前に、本実施形態に従ってウェーハの厚みを面内の複数点において測定し、GBIR等のウェーハ面内厚み相対変化量を求め、当該ウェーハ面内厚み相対変化量に基づいて、エピタキシャル成長条件を設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の半導体ウェーハの厚み測定方法及び半導体ウェーハの厚み測定システムによれば、半導体ウェーハの厚みを面内の複数点において分光干渉方式で短時間に測定する際に、面内の温度ばらつきに起因する厚み測定値のばらつきを抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
200 厚み測定システム
10 厚み測定装置
12 光学ユニット
14 検出ユニット
16 演算部
20 回転台座
22 チャック
24 センサ支持部
24A 脚部
24B 腕部
26 ガイドレール
30 温度センサ
W シリコンウェーハ