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特許7363189フィルムコーティング組成物、固形製剤及び固形製剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】フィルムコーティング組成物、固形製剤及び固形製剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/32 20060101AFI20231011BHJP
   A61K 9/32 20060101ALI20231011BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231011BHJP
【FI】
A61K47/32
A61K9/32
A61K47/14
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019151722
(22)【出願日】2019-08-22
(65)【公開番号】P2020055794
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2018183810
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 文香
(72)【発明者】
【氏名】風呂 千津子
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/111980(WO,A2)
【文献】国際公開第2006/111981(WO,A2)
【文献】中国特許出願公開第106214658(CN,A)
【文献】国際公開第2016/108250(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106139157(CN,A)
【文献】機能材料,1996年,16(11),pp.38-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位のみからなる未変
性ポリビニルアルコール系樹脂(A)とトリアセチン(B)を含有するフィルムコーティ
ング組成物を含むコーティング液において、
前記ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度70~98モル%であり、
トリアセチン(B)の含有量が、ポリビニルアルコール系樹脂(A)100質量部に対
して20~40質量部であり、
コーティング液中の固形分に対するトリアセチン(B)含有量が15質量%以上であり
糖類を含まないことを特徴とするフィルムコーティング組成物を含むコーティング液
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)のケン化度が80~95モル%であることを特徴と
する請求項1記載のフィルムコーティング組成物を含むコーティング液
【請求項3】
固形製剤用フィルムコーティング組成物である請求項1又は2記載のフィルムコーティ
ング組成物を含むコーティング液
【請求項4】
有効成分を少なくとも含有する芯部と、該芯部を被覆する被覆部とを有し、該被覆部が
請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルムコーティング組成物を含むコーティング液
から形成される固形製剤。
【請求項5】
有効成分を少なくとも含有する芯部に、請求項1~3のいずれか1項に記載のフィルム
コーティング組成物を含むコーティング液を塗布する工程を少なくとも含む固形製剤の製
造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムコーティング組成物並びにこれを用いた固形製剤及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
錠剤は、薬の成分を圧縮するなどして、一定量の薬を簡単に服用することができるように一定の形に作られる。ひと口に「錠剤」と言っても、その飲み方や使い方、作られ方によって、いろいろなタイプがある。腸溶錠や徐放錠、糖衣錠・フィルムコーティング錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、付着錠など、目的や効果によって選択される。
【0003】
フィルムコーティング錠や糖衣錠は、経口固形製剤における、薬物の不快な味に対するマスキング、酸素の遮断、防湿又は製品としての美観の向上等の目的で広く用いられている。
【0004】
糖衣錠・フィルムコーティング錠は、錠剤の周りを糖やフィルムで覆うことで、薬の成分本来の苦みや臭みを隠し、飲みやすくした錠剤である。また、コーティングすることで薬を光や湿気から守って、安定性が増すなどの効果が出る場合もある。
【0005】
近年、錠剤コーティング組成物として、ガスバリア性に優れたポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂という。)を含有する組成物が検討されている。PVA系樹脂をコーティング組成物として用いる場合、PVA系樹脂単体では、コーティングした錠剤同士がくっつく、スティッキングが生じやすく、ポリエチレングリコール(粘着防止剤)を含有させること(例えば、特許文献1)やヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含有させること(例えば、特許文献2)、またタルクなどの無機化合物を含有させること(例えば、特許文献3)が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2015/122477号
【文献】特開2016-172708号公報
【文献】特開2006-188490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のようにポリエチレングリコールを含有させると錠剤同士が接着する(くっつく)スティッキング現象は解消されるが、錠剤の吸湿性が高くなることが問題となっている。また、特許文献2のようにスティッキング防止のためにHPMCなどのセルロース系樹脂を併用することも提案されているが、溶液粘度が高いため、コーティング液の固形分濃度を上げることができず、コーティング時間や乾燥時間が長く、また水蒸気バリア性が十分でないことが問題であった。さらに、特許文献3のようにスティッキング防止のためにタルクなどの無機化合物を含有することも提案されているが、無機化合物の含有量を多くしなければならず、被膜の柔軟性が低下することが問題であった。
【0008】
本発明は、スティッキングを解消し、吸湿性が低いフィルムコーティング組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、PVA系樹脂と特定の粘着防止剤を併用することで上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
かかる効果は、ポリビニルアルコール系樹脂と特定の粘着防止剤の併用によりスティッキングを防止し、連続層を形成できたことで得られたものであると推測される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のフィルムコーティング組成物は、スティッキングが解消され、かつ錠剤の吸湿性が低いフィルムコーティング組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例をして示すものである。
本発明のフィルムコーティング組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂(A)とトリアセチン(B)を含有するものである。
【0013】
まずは、PVA系樹脂(A)について説明する。
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、ビニルエステル系モノマーを重合して得られるポリビニルエステル系重合体をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と、ケン化されずに残ったビニルエステル構造単位から構成される。
【0014】
PVA系樹脂(A)のケン化度は70~100モル%であり、好ましくは、75~98モル%、更に好ましくは80~95モル%、特に好ましくは85~93モル%である。PVA系樹脂(A)のケン化度が低すぎる、スティッキングが生じやすくなる傾向があり、高すぎると、溶液の安定性が低下する傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂(A)のケン化度は、JIS K 6726に準拠する方法で求められた値とする。
【0015】
また、本発明に使用されるPVA系樹脂(A)の平均重合度は、100~3300であり、150~1000が好ましく、200~600が特に好ましい。
PVA系樹脂の平均重合度が低すぎると、緻密なコーティング層ができにくい傾向があり、平均重合度が高すぎると、コーティングスピードが低下する傾向がある。
なお、本発明において、PVA系樹脂の平均重合度は、JIS K 6726に準拠する方法で求めた平均重合度を用いるものとする。
【0016】
またPVA系樹脂は、2種以上を併用することも有効である。併用する際には、ケン化度や平均重合度の異なるPVA系樹脂を併用することができる。併用する場合においてのPVA系樹脂のケン度、平均重合度は、PVA系樹脂全体の平均値が上記の範囲内であることが好ましい。
【0017】
本発明で使用されるPVA系樹脂の製造方法を説明する。
PVA系樹脂は、例えば、ビニルエステル系モノマーを重合して得られたポリビニルエステル系重合体をケン化することにより得られる。
かかるビニルエステル系モノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、実用的に酢酸ビニルが好適である。
【0018】
また、本発明の効果を阻害しない程度に、上記ビニルエステル系モノマーと共重合性を有するモノマーを共重合させることもでき、このような共重合モノマーとしては、例えば、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α-オクテン、α-ドデセン、α-オクタデセン等のオレフィン類、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類及びそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、ウンデシレン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1-メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4-ジアセトキシ-2-ブテン、1,4-ジヒドロキシ-2-ブテン、ビニレンカーボネート、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート等が挙げられる。かかる共重合モノマーの含有量は、重合体全量を基準として、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、特に好ましくは1モル%以下である。本発明においては、付着性の点で、ビニルアルコール構造単位と未ケン化部分のビニルエステル構造単位のみからなる未変性PVA系樹脂が好ましい。
【0019】
上記ビニルエステル系モノマー及び共重合モノマーを重合するにあたっては特に制限はなく、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、分散重合、又は乳化重合等の公知の方法を採用することができるが、通常は溶液重合が行われる。
【0020】
かかる重合で用いられる溶媒としては、通常、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール、ブタノール等の炭素数1~4の脂肪族アルコールやアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等が挙げられ、工業的にはメタノールが好適に使用される。
また、重合反応は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒や公知の各種低温活性触媒を用いて行われる。また、反応温度は35℃~沸点程度の範囲から選択される。
【0021】
得られたポリビニルエステル系重合体は、次いで連続式又はバッチ式にてケン化し、PVA系樹脂が得られる。かかるケン化にあたっては、アルカリケン化又は酸ケン化のいずれも採用できるが、工業的には重合体をアルコールに溶解してアルカリ触媒の存在下に行われる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール等が挙げられる。アルコール中の重合体の濃度は20~60質量%の範囲から選ばれる。また、必要に応じて、0.3~10質量%程度の水を加えてもよく、更には、酢酸メチル等の各種エステル類やベンゼン、ヘキサン、DMSO(ジメチルスルホキシド)等の各種溶剤類を添加してもよい。
【0022】
ケン化触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、ナトリウムエチラート、カリウムメチラート等のアルカリ金属の水酸化物やアルコラートの如きアルカリ触媒を具体的に挙げることができ、かかる触媒の使用量はモノマーに対して1~100ミリモル当量にすることが好ましい。
【0023】
ケン化後、PVA系樹脂を、洗浄液で洗浄してもよい。洗浄液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類が挙げられ、洗浄効率と乾燥効率の観点からメタノールが好ましい。
【0024】
洗浄方法としては、連続式(回転円筒型、向流接触型、遠心分離ふりかけ洗浄など)でもよいが、通常はバッチ式が採用される。洗浄時の攪拌方式(装置)としては、スクリュー翼、リボンブレンダー、ニーダー等が挙げられる。浴比(洗浄液の質量/ポリビニルエステル系重合体粒子の質量)は、通常、1~30であり、特に2~20が好ましい。浴比が大きすぎると、大きな洗浄装置が必要となり、コスト増につながる傾向があり、浴比が小さすぎると、洗浄効果が低下し、洗浄回数を増加させる傾向がある。
【0025】
洗浄時の温度は、通常、10~80℃であり、特に20~70℃が好ましい。温度が高すぎると、洗浄液の揮発量が多くなり、還流設備を必要とする傾向がある。温度が低すぎると、洗浄効率が低下する傾向がある。洗浄時間は、通常、5分~12時間であり、特に30分~4時間が好ましい。洗浄時間が長すぎると、生産効率が低下する傾向があり、洗浄時間が短すぎると、洗浄が不十分となる傾向がある。また、洗浄回数は、通常、1~10回であり、特に1~5回が好ましい。洗浄回数が多すぎると、生産性が低下し、コストがかかる傾向がある。
【0026】
洗浄されたPVA系樹脂(A)を連続式又はバッチ式にて熱風などで乾燥または減圧乾燥し、本発明で用いられるPVA系樹脂を得る。乾燥温度は、通常、50~150℃であり、特に60~130℃、殊に70~110℃が好ましい。乾燥温度が高すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥温度が低すぎると、乾燥に長時間を要する傾向がある。乾燥時間は、通常、1~48時間であり、特に2~36時間が好ましい。乾燥時間が長すぎると、PVA系樹脂が熱劣化する傾向があり、乾燥時間が短すぎると、乾燥が不十分となったり、高温乾燥を要したりする傾向がある。
【0027】
乾燥後のPVA系樹脂(A)中に含まれる溶媒の含有量は、通常、0~10質量%であり、特に0.01~5質量%、殊に0.1~1質量%とするのが好ましい。
【0028】
なお、PVA系樹脂(A)には、ケン化時に用いるアルカリ触媒に由来する酢酸のアルカリ金属塩が含まれている。アルカリ金属塩の含有量は、PVA系樹脂粉体に対して通常0.001~2質量%、好ましくは0.005~1質量%であり、更に好ましくは0.01~0.1質量%である。
アルカリ金属塩の含有量の調整方法としては、例えば、ケン化で用いる時のアルカリ触媒の量を調節したり、エタノールやメタノールなどのアルコールでPVA系樹脂を洗浄したりする方法が挙げられる。
本発明で用いるアルカリ金属塩の定量法としては、PVA系樹脂粉体を水に溶かして、メチルオレンジを指示薬とし、塩酸にて中和滴定により求める。
【0029】
次にトリアセチン(B)について説明する。
本発明で用いられるトリアセチン(B)は、医薬品または食品の添加剤として用いられるトリアセチンが挙げられる。
【0030】
次に本発明のフィルムコーティング組成物について説明する。
本発明のフィルムコーティング組成物中におけるPVA系樹脂(A)とトリアセチン(B)の含有量(A+B)としては、30~98質量%、好ましくは40~70質量%、更に好ましくは40~65質量%である。
かかる含有量が多すぎる場合、コーティング液の固形分濃度が上げることができず、コーティング時間が長くなる傾向があり、少なすぎる場合は乾燥に時間がかかり効率が低下する傾向がある。
【0031】
またフィルムコーティング組成物中におけるPVA系樹脂(A)とトリアセチン(B)の含有量としては、PVA系樹脂(A)100重量部に対してトリアセチン(B)は18~40重量部であり、好ましくは19~38重量部、さらに好ましくは20~35重量部である。PVA系樹脂(A)の比率が多いと粘着性の改善が完全ではなくコーティング速度を上げることができず、一方で、トリアセチン(B)の比率が多いと吸湿性が高くなる傾向がある。
【0032】
本発明のフィルムコーティング組成物は、溶媒に溶解し、コーティング液として、錠剤や顆粒、粒子等をコーティングするものである。
かかる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、i-プロパノール、n-プロパノール、ブタノールなどが挙げられ、安全性の面から、好ましくは水である。
【0033】
かかるコーティング液における、PVA系樹脂(A)とトリアセチン(B)を溶媒である水に溶解した溶液の23℃での粘度は、通常3~1000mPa・s、好ましくは25~700mPa・s、特に好ましくは30~300mPa・s、更に好ましくは35~250mPa・sである。
かかるコーティング液の粘度が高すぎると、コーティング液の流動性が低下し、コーティングしにくくなる傾向があり、逆に低すぎると、乾燥に時間がかかり効率が低下する傾向がある。
【0034】
またコーティング液中のPVA系樹脂(A)の濃度は、通常3~50質量%、好ましくは5~30質量%、更に好ましくは7~15質量%である。
かかる濃度が高すぎると、コーティング液の流動性が低下し、コーティングしにくくなる傾向があり、逆に低すぎると、乾燥に時間がかかり効率が低下する傾向がある。
コーティング液中のトリアセチン(B)の濃度は、通常1~20質量%、好ましくは1.5~10質量%、更に好ましくは2~7質量%である。
かかる濃度が高すぎると、錠剤表面でブリードアウトする傾向があり、逆に低すぎると、粘着性の改善が完全ではなくコーティング速度を上げることができない傾向がある。
【0035】
本発明のフィルムコーティング組成物は、必要に応じて、通常製剤学的に認められる公知の添加剤を含んでいてもよい。このような公知の添加剤としては、例えば、トリアセチン(B)以外の粘着防止剤(例えば、グリセリン、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール)、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、テアリン酸等の滑択剤、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素等の隠蔽剤、タルク、コロイダリシリカ等の無機化合物、界面活性剤、着色剤、顔料、甘味料、コーティング剤、消泡剤等が挙げられる。これらを添加する場合の含有量は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、PVA系樹脂(A)に対して、好ましくは200質量%以下、更に好ましくは100質量%以下である。
【0036】
次に、本発明の固形製剤について説明する。
本発明の固形製剤は、有効成分を少なくとも含有する芯部と、該芯部を被覆する被覆部を有し、該被覆部が前記フィルムコーティング組成物を少なくとも含む。前記有効成分は、経口投与可能なものであれば特に限定されるものではない。
【0037】
前記芯部には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑択剤(凝集防止剤)、流動化剤、着色剤、医薬化合物の溶解補助剤等、通常この分野で常用され得る種々の添加剤を配合してもよい。
【0038】
賦形剤としては、特に限定されないが、例えば、白糖、乳糖、マンニトール、グルコース等の糖類、でんぷん、結晶セルロース、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム等が挙げられる。
【0039】
結合剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、グルコース、白糖、乳糖、麦芽糖、デキストリン、ソルビトール、マンニトール、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、マクロゴール類(例えば、マクロゴール4000、マクロゴール6000、マクロゴール20000等)、アラビアゴム、ゼラチン、寒天、でんぷん(コーンスターチ等)等が挙げられる。
【0040】
崩壊剤としては、特に限定されないが、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース又はその塩、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポリビニルピロリドン、結晶セルロース及び結晶セルロース・カルメロースナトリウム等が挙げられる。
【0041】
滑択剤としては、特に限定されないが、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール類、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
流動化剤としては、特に限定されないが、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、酸化チタン等が挙げられる。
【0043】
更に、医薬化合物の溶解補助剤としては、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、アジピン酸等の有機酸等が挙げられる。これら添加剤の含有量は、薬剤の種類等に応じて適宜決定することができる。
【0044】
前記被覆部は、本発明のフィルムコーティング組成物を少なくとも含むものであればよく、本発明のフィルムコーティング組成物のみを被覆部(被覆層)としてもよく、本発明のフィルムコーティング組成物からなる被覆層の下に、コーティング基剤を用いてアンダーコーティングを行っていてもよい。前記コーティング基剤としては、HPMC等の通常この分野で常用され得る種々のコーティング基剤を使用することができる。被覆部の形態は、限定されず、層状、フィルム状等であってもよい。
【0045】
本発明のフィルムコーティング組成物によりコーティングされて得られる固形製剤としては、錠剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、トローチ剤、カプセル剤等が挙げられるが、その中でも特に錠剤が好ましい。錠剤としては、糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠(多層フィルムコーティング錠を含む)、腸溶性コーティング錠、有核錠(圧縮被包錠)等の形態を有するものであってもよく、フィルムコーティング錠(多層フィルムコーティング錠を含む)、腸溶性コーティング錠が好ましい。
【0046】
次に、固形製剤の製造方法について説明する。
本発明の固形製剤は、本発明のフィルムコーティング組成物を溶媒に溶解又は分散させたフィルムコーティング液を調製し、該フィルムコーティング液を芯部に塗布することで製造できる。
【0047】
前記溶媒としては、特に限定されず、例えば、前述した水又はエタノール等の有機溶媒を用いることができ、これらは一種単独で使用してもよく、2種以上を混合して混合溶媒として使用することもできる。また、本発明のフィルムコーティング組成物を溶媒に溶解又は分散させる際の温度は、特に限定されないが、加熱していてもよく、5~70℃程度であってもよい。
【0048】
前記塗布方法としては、例えば、上記のように調製した本発明のフィルムコーティング組成物溶液を、有効成分を含有する芯部に、従来公知のコーティング装置を用いて噴霧等により塗布する方法が挙げられる。
【0049】
また、本発明の固形製剤が多層フィルムコーティング錠である場合、本発明のフィルムコーティング組成物からなるフィルム層の下に、前記塗布方法の塗布を行う前に、HPMC等の通常この分野で常用され得る種々のコーティング基剤を用いてアンダーコーティングを行う工程を加えて、複数のフィルムを形成させる方法も挙げられる。
【0050】
前記コーティング装置としては、特に限定されず、従来公知の手段を用いることができる。コーティング方法として、一般的に行われているのはスプレーコーティングであるが、その場合は、パンコーティング装置、ドラムタイプコーティング装置、流動層コーティング装置、撹拌流動コーティング装置を用いて行えばよく、これらの装置に付帯するスプレー装置には、エアースプレー、エアレススプレー、3流体スプレー等のいずれをも用いることができる。
【0051】
芯部(素錠)の表面にコーティングされるフィルムコーティング組成物の被覆量は、固形製剤の種類、形、大きさ、表面状態、更に固形製剤中に含まれる有効成分及び添加剤の性質等によって異なるが、例えば、芯部(素錠)に対して、好ましくは1~10質量%であり、更に好ましくは1~7質量%であり、特に好ましくは2~6質量%である。被覆量が少なすぎると、完全な皮膜が得られず、逆に多すぎるとコーティングに要する時間が必要となる場合がある。
【0052】
また、本発明の錠剤コーティング組成物を用いて固形製剤を製造することで表面が滑らかな固形製剤を提供できる。表面粗さ(Ra)の値が2.0μm以下であることが好ましい。なお、表面粗さ(Ra)とはJIS B0601-1994に定義されている粗さパラメーターであり、レーザー顕微鏡(VK-9510、キーエンス社製)を用いて、50倍率の対物レンズを用いて測定できる。
【実施例
【0053】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。また、単に「部」「%」とあるのは、質量基準である。
【0054】
実施例1
PVA系樹脂(A)(未変性、ケン化度88モル%、4%水溶液粘度3mPa・s)100部、タルクを38部、二酸化チタンを38部、トリアセチン(B)を33部を含有するコーティング組成物を得て、水625部を配合し、85℃に昇温させ溶解し、コーティング組成物の水溶液を得た。
【0055】
連続通気式コーティング装置(フロイント産業(株)製、ハイコーターラボ)に、被覆対象となる芯部は、素錠(φ=9mm)を900部、シリカ錠(φ=11mm)を100部、計1000部となるように仕込み、コーティング組成物の水溶液を30部スプレーし、素錠及びシリカ錠にコーティングした。
【0056】
コーティング条件は、以下の通りであった。
給気温度 :70℃
排気温度 :40~55℃
給気空気量 :1.2m3/min
スプレーガン :1個
アトマイズドエア量:80NL/min
アトマイズド空気圧:0.3MPa
スプレー速度 :6~8g/min
【0057】
〔スティッキングの有無〕
コーティング中の素錠を目視で観察し、以下の基準でスティッキングの有無を評価した。結果を表1に示す。
有:素錠同士が接着しているものがあった
無:素錠同士が接着しているものはなかった
【0058】
〔吸湿性〕
上記で得られたコーティングされたシリカ錠を10錠1セットとし、60℃で12時間以上乾燥させ、その質量を初期質量とし、25℃75%RHの恒温恒湿器に静置し、8時間後の吸湿率を質量増加より求めた。結果を表1に示す。
【0059】
実施例2
実施例1において、PVA系樹脂(A)(未変性、ケン化度88モル%、4%水溶液粘度5mPa・s)100部、タルクを25部、二酸化チタンを17部、トリアセチン(B)を25部、水944部の組成とした以外は、実施例1と同様にコーティング組成物の水溶液を作製し、同様に評価した。
【0060】
比較例1
実施例1において、トリアセチン(B)を重量平均重合度4000のポリエチレングリコール(PEG4000)とした以外は、実施例1と同様にコーティング水溶液を作製し、同様に評価した。
【0061】
比較例2
実施例2において、トリアセチン(B)をプロピレングリコールとした以外は、実施例2と同様にコーティング水溶液を作製し、同様に評価した。
【0062】
比較例3
実施例2において、トリアセチン(B)をグリセリンとした以外は、実施例2と同様にコーティング水溶液を作製し、同様に評価した。
【0063】
比較例4
PVA系樹脂(A)(未変性、ケン化度88モル%、4%水溶液粘度5mPa・s)100部、タルクを50部、トリアセチン(B)を17部を含有するコーティング組成物を得て、水501部を配合し、85℃に昇温させ溶解し、コーティング組成物の水溶液を得、実施例1と同様に評価した。
【0064】
比較例5
実施例1において、PVA系樹脂(A)を未変性、ケン化度88モル%、4%水溶液粘度5mPa・sのものに変え、トリアセチン(B)をジアセチンとした以外は、実施例1と同様にコーティング水溶液を作製し、同様に評価した。
【0065】
【表1】
【0066】
本発明のフィルムコーティング組成物を用いた実施例1及び2は、スティッキングがなく、吸湿性も低かった。
一方、本発明のコーティグを用いなかった比較例1~5はスティッキング、もしくは吸湿を引き起こした。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のフィルムコーティング組成物は、医薬品、健康食品、食品等の錠剤の被膜として有用であり、特に、水分活性の高い成分を含む錠剤の被膜、およびスティッキングが懸念されるコーティング工程において有用である。