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特許7363290水性顔料分散体及び水性顔料分散体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】水性顔料分散体及び水性顔料分散体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 17/00 20060101AFI20231011BHJP
   C09D 11/106 20140101ALI20231011BHJP
   C09D 11/32 20140101ALI20231011BHJP
   C09D 11/037 20140101ALI20231011BHJP
   C09D 11/023 20140101ALI20231011BHJP
【FI】
C09D17/00
C09D11/106
C09D11/32
C09D11/037
C09D11/023
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019177080
(22)【出願日】2019-09-27
(65)【公開番号】P2021054896
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 ▲よし▼貴
(72)【発明者】
【氏名】上田 裕太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義浩
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-263626(JP,A)
【文献】特開2010-196032(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015961(WO,A1)
【文献】特開2017-068159(JP,A)
【文献】特開2020-100712(JP,A)
【文献】特開2006-225654(JP,A)
【文献】特開2017-155110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
C09B 1/00-69/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子径が150nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)と、
酸価50~200mgKOH/gのラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)と、
水(C)とを含有することを特徴とする水性顔料分散体であって、
前記顔料分散樹脂(B)が、スチレン由来の構造単位を有するラジカル重合体であり、
前記ラジカル重合体の全量に対する前記スチレン由来の構造単位の質量割合が60質量%以上であり、
前記スチレン由来の構造単位が、スチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレンからなる群から選ばれる水性顔料分散体
【請求項2】
更に、前記顔料分散樹脂(B)が、アクリル酸、及び/又は、メタクリル酸由来の構造単位を有する請求項1に記載の水性顔料分散体。
【請求項3】
前記顔料(A)と前記顔料分散樹脂(B)との質量比[前記顔料分散樹脂(B)/前記顔料(A)]が0.1~0.7の範囲であり、請求項1又は2に記載の水性顔料分散液。
【請求項4】
さらに水溶性有機溶剤を含有するものであって、前記顔料(A)と前記水溶性有機溶剤との質量比[前記水溶性有機溶剤/前記顔料(A)]が0.4~1.5の範囲である請求項1~3のいずれか1項に記載の水性顔料分散体。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水性顔料分散体の製造方法であって、
一次粒子径が150nmを超えるC.I.ピグメントオレンジ64をソルトミリング処理することによって一次粒子径が150nm以下のC.I.ピグメントオレンジ64(a)を製造する工程[1]、
前記工程[1]で得た一次粒子径が150nm以下のC.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)と、顔料分散樹脂(B)とを、超音波分散機を用いて、水(C)に分散する工程[2]を有することを特徴とする水性顔料分散体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C.I.ピグメントオレンジ64を含有する水性顔料分散体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を含有するインクは、例えばオフセット印刷法やグラビア印刷法やフレキソ印刷法やシルクスクリーン印刷法やインクジェット印刷法等による印刷場面で広く使用されている。
【0003】
なかでも、溶媒として水を用いた水性顔料インクは、従来の有機溶剤系インクと比較して、発火等の危険性が低いため、様々な用途での使用が検討されている。
【0004】
前記水性顔料インクの製造に使用される水性顔料分散体としては、顔料と顔料分散樹脂と水性媒体とを含有するものが知られており、前記水性顔料分散体には、前記顔料が顔料分散樹脂によって水性媒体中に安定して分散されていることが求められる。
【0005】
しかし、前記水性顔料分散体に含まれる顔料の分散性は、顔料の種類や配合等によって異なるため、水性顔料分散体の分散性を向上させるためには、顔料の種類やインクの配合等に応じた対策を講じる必要がある。
【0006】
一方、インクジェット印刷法で水性顔料インクの印刷を行う場面では、基本色であるイエロー色、マゼンタ色、シアン色、ブラック色のインクのほか、特色と呼ばれるグリーン色、レッド色、ブルー色、オレンジ色等のインクを組み合わせ使用することがある。
【0007】
前記オレンジ色の顔料を用いた水性インクとしては、例えばC.I.ピグメントオレンジ64を含有するインクが知られている(特許文献1参照。)。
【0008】
しかし、前記インクは、体積平均粒子径が大きくかつ粗大粒子が大量に存在するため、どうしても基本色のインクや顔料分散体に匹敵するレベルの分散性や、経時での物性変化を抑制可能なレベルの保存安定性を実現することができない場合があった。
【0009】
また、分散性や保存安定性は、前記したとおり、顔料の種類と分散樹脂との相互作用に起因する場合が多い。よって、基本色の顔料分散体で使用した顔料分散樹脂を、前記特色用の顔料と組合せ使用した場合であっても、ただちに良好な分散性を発現できるとは限らないため、特色用の顔料分散体の分散性を向上させるためには、当業者の相当の試行錯誤を伴う場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開1999/05230パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、粗大粒子が低減され、水性顔料分散体中における顔料の分散性と、経時的な物性変化を引き起こしにくいレベルの保存安定性とに優れたインクの製造に使用可能な水性顔料分散体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一次粒子径が150nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)と、酸価50~200mgKOH/gのラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とする水性顔料分散体に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性顔料分散体及びそれを含有するインクは、基本色のインクや水性顔料分散体に匹敵するレベルの分散性を備える。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の水性顔料分散体は、一次粒子径が150nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)と、酸価50~200mgKOH/gのラジカル重合体を含有する顔料分散樹脂(B)と、水(C)とを含有することを特徴とするものである。水性顔料分散体とは、顔料が水等の溶媒に分散した状態のものを指す。前記水性顔料分散体は、水性顔料インクを製造する際に使用する材料、または、水性顔料インクそのものを指す。
【0015】
本発明では、C.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)を使用する。
【0016】
前記C.I.ピグメントオレンジ64としては、一次粒子径が150nm以下のものを使用する。これにより、基本色のインクや水性顔料分散体に匹敵するレベルの分散性や、経時での物性変化を抑制可能なレベルの保存安定性を実現することができる。また、前記C.I.ピグメントオレンジ64の一次粒子径が50~130nmであるものを使用することがより好ましく、70nm~90nmであるものを使用することが、保存安定性がさらに向上するため好ましい。なお、上記一次粒子径の値は、以下の装置及び条件で測定した。
【0017】
はじめに、前記C.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)1質量部とエタノール99質量部とを混合したものを、コロジオン膜付きメッシュに滴下し乾燥させたものを測定試料とした。
【0018】
次に、前記測定試料の任意の1000個を、走査透過型電子顕微鏡(STEM、JSM-7500FA、日本電子株式会社製、加速電圧:30kv)を用いて観察し、その平均値を一次粒子径とした。
【0019】
一次粒子径が150nm以下のC.I.ピグメントオレンジ64(a)は、一次粒子径が150nmを超えるC.I.ピグメントオレンジ64を、例えば乾式粉砕、湿式粉砕、ソルベントソルトミリング等を行うことで製造することができる。しかし、乾式粉砕や湿式粉砕は、金属製のビーズを用いるため、不純物として金属が混入する可能性が高い。そこで、金属の混入が低いソルベントソルトミリングを採用するのが好ましい。
【0020】
ソルベントソルトミリングとは、粗顔料と、無機塩と、有機溶剤とを少なくとも含む混合物を、ニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、アトライター等の混練機を用いて混練摩砕する方法である。なお、本発明では一次粒子径150nmを超えるC.I.ピグメントオレンジ64を粗顔料とする。
【0021】
前記ソルベントソルトミリングで使用可能な無機塩としては、水溶性無機塩を使用することが好ましく、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等を用いることが好ましい。前記無機塩としては、一次粒子径0.5~50μmの無機塩を用いることがより好ましい。当該無機塩の使用量は、粗顔料1質量部に対して3~20質量部とするのが好ましく、5~15質量部とするのがより好ましい。
【0022】
前記ソルベントソルトミリングで使用可能な有機溶剤としては、結晶成長を抑制し得る有機溶剤を使用することが好ましく、このような有機溶剤としては水溶性有機溶剤が好適に使用でき、例えばジエチレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングルコール、液体ポリプロピレングリコール、2-(メトキシメトキシ)エタノール、2-ブトキシエタノール、2-(イソペンチルオキシ)エタノール、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコール等を用いることができる。
【0023】
前記有機溶剤は、粗顔料1質量部に対して0.01~5質量部が好ましい。
【0024】
前記ソルベントソルトミリングで混練摩砕する際の温度は、30~150℃であることが好ましい。混練摩砕する時間は、2時間から20時間であることが好ましい。
【0025】
以上の方法によって、一次粒子径が150nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ64(a)と前記無機塩と前記有機溶剤との混合物を得ることができる。前記混合物を用いて本発明の水性顔料分散体及びインクを製造する際には、必要に応じて前記無機塩と前記有機溶剤を洗浄濾別した後、乾燥、粉砕したものを使用することができる。
【0026】
前記洗浄濾別工程では、水洗、湯洗のいずれも採用できる。また、前記C.I.ピグメントオレンジ64(a)の結晶状態を変化させないように、酸やアルカリや溶剤を用いて洗浄してもよい。前記洗浄は、1~5回の範囲で繰り返し行うこともできる。前記無機塩及び有機溶剤として水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を用いた場合であれば、前記洗浄によって容易に水溶性無機塩及び水溶性有機溶剤を除去することが出来る。
【0027】
前記乾燥工程では、例えば、乾燥機に設置した加熱源による80~120℃の加熱等により、顔料の脱水及び/又は脱溶剤をする回分式あるいは連続式の乾燥方法を行うことが出来る。前記乾燥機としては、箱型乾燥機、バンド乾燥機、スプレードライヤー等を使用することができる。
【0028】
前記粉砕工程は、前記C.I.ピグメントオレンジ64(a)の比表面積を大きくしたり一次粒子径をより一層小さくしたりするための工程ではなく、例えば箱型乾燥機やバンド乾燥機を用いた際に、前記C.I.ピグメントオレンジ64(a)がランプ状等になったものを解して粉末化するために行ってもよい工程である。
【0029】
前記粉砕工程では、例えば、乳鉢、ジューサー、ハンマーミル、ディスクミル、ピンミル、ジェットミル等を使用することができる。
【0030】
前記ソルベントソルトミリングで得られた一次粒子径が150nm以下であるC.I.ピグメントオレンジ64(a)は、前記顔料(A)全体に対して70~100質量部含まれることが保存安定性効果を奏するうえで好ましく、100質量部に近いほどより好ましい。
【0031】
顔料分散樹脂(B)としては、酸価50~200mgKOH/gのラジカル重合体を使用する。上記範囲の酸価を有するラジカル重合体を顔料分散樹脂(B)として使用することによって、水性顔料分散体中における前記顔料(A)が良好な分散性を持つインクジェット記録用インクを得ることができる。また、前記分散樹脂(B)の酸価が90~150mgKOH/gのラジカル重合体を使用すると、分散性はさらに向上する。
【0032】
なお、前記酸価は、日本工業規格「K0070:1992、化学製品の酸価、けん化価、エステル価、よう素価、水酸基価及び不けん化物の試験方法」に従って測定された値を指す。
【0033】
前記ラジカル重合体としては、芳香族環式構造または複素環式構造を有するものを使用することができ、ベンゼン環構造を有するものを使用することがより好ましく、スチレン由来の構造を有するものを使用することがさらに好ましい。
【0034】
前記ラジカル重合体の全量に対する前記スチレン由来の構造単位の質量割合は50質量部以上であることが好ましく。前記質量割合が60質量部~95質量部の範囲であることが、分散性効果を奏するうえでより好ましい。
【0035】
前記ラジカル重合体としては、各種単量体をラジカル重合することによって得られた重合体を使用することができる。
【0036】
前記単量体としては、前記ラジカル重合体に芳香族環式構造を導入する場合であれば芳香族環式構造を有する単量体を使用することができ、複素環式構造を導入する場合であれば複素環式構造を有する単量体を使用することができる。
【0037】
前記芳香族環式構造を有する単量体としては、例えばスチレン、p-tert-ブチルジメチルシロキシスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-tert-ブトキシスチレン、m-tert-ブトキシスチレン、p-tert-(1-エトキシメチル)スチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-フロロスチレン、α-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等を使用することができる。
【0038】
前記複素環式構造を有する単量体としては、例えば2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン等のビニルピリジン系単量体を使用することができる。
【0039】
前記ラジカル重合体として芳香族環式構造及び複素環式構造の両方を有するものを使用する場合、前記単量体として、芳香族環式構造を有する単量体及び複素環式構造を有する単量体を組合せ使用することができる。
【0040】
前記ラジカル重合体としては、前記したとおりスチレン由来の構造単位を有するラジカル重合体を使用することが好ましいことから、前記単量体としてもスチレン、α-メチルスチレン、tert-ブチルスチレンを使用することがより好ましい。
【0041】
また、前記ラジカル重合体の製造に使用可能な単量体としては、前記したもの以外に、必要に応じてその他の単量体を使用することができる。
【0042】
前記その他の単量体としては、例えばメチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、2-メチルブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、3-エトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-エトキシブチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エチル-α-(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリセリン(メタ)アクリレート、ビスフェノールA(メタ)アクリレート、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、酢酸ビニル等を単独または2種以上組合せ使用することができる。なお、上記「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを指す。
【0043】
前記ラジカル重合体としては、前記単量体のラジカル重合によって形成される構造が線状(リニア)である重合体、分岐(グラフト)した構造を有する重合体、架橋した構造を有する重合体を使用することができる。それぞれの重合体において、モノマー配列は特に限定することはなく、ランダム型やブロック型配列の重合体を使用することができる。
【0044】
前記ラジカル重合体としては、その重量平均分子量が2000~20000の範囲内であるものを使用することが好ましく、5000~20000の範囲内にあることがより好ましく、さらに7000~15000範囲内にあると、顔料(A)の凝集や沈降が発生しにくくなり、水性顔料分散体の保存安定性が向上し、かつ、インクの吐出安定性がより一層が向上するため特に好ましい。
【0045】
なお、前記重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法で測定される値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。
【0046】
前記ラジカル重合体としては、前記ラジカル重合体が有する酸基の一部または全部は塩基性化合物によって中和されたもの(中和物)を使用することが、保存安定性効果を奏するうえで好ましい。
【0047】
前記塩基性化合物としては、例えばカリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸塩;カルシウム、バリウムなどのアルカリ土類金属などの炭酸塩;水酸化アンモニウム等の無機系塩基性化合物や、トリエタノールアミン、N,N-ジメタノールアミン、N-アミノエチルエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-N-ブチルジエタノールアミンなどのアミノアルコール類、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンなどのモルホリン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、ピペラジンヘキサハイドレートなどのピペラジン等の有機系塩基性化合物を使用することができる。なかでも、前記塩基性化合物としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウムに代表されるアルカリ金属水酸化物を使用することが、水性顔料分散体の低粘度化に寄与し、インクジェット記録用インクの保存安定性及び吐出安定性をより一層向上させるうえで好ましく、水酸化カリウムを使用することが特に好ましい。
【0048】
前記ラジカル重合体の中和率は、特に限定はないが、ラジカル重合体の凝集を抑制するうえで80~120%となる範囲であることが好ましい。本発明において、中和率とは、以下の式で計算された値を指す。
【0049】
中和率(%)=[{塩基性化合物の質量(g)×56.11×1000}/{ラジカル重合体の酸価(mgKOH/g)×塩基性化合物の当量×ラジカル重合体の質量(g)}]×100
【0050】
前記塩基性化合物は、顔料(A)等と混合する際に、予め水等の溶媒に溶解または分散等させたものを使用することができる。
【0051】
本発明の水性顔料分散体は、前記顔料(A)と前記顔料分散樹脂(B)との質量比[前記顔料分散樹脂(B)/前記顔料(A)]が0.1~0.7となる範囲で適宜選択できるが、より優れた分散性および保存安定性を備えるには、0.1~0.4の範囲で使用することが好ましい。
【0052】
水(C)としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水または超純水を用いることができる。また、前記水(C)としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
【0053】
本発明の水性顔料分散体は、上記した各種成分が水に溶解または分散したものである。
また、本発明の水性顔料分散体は、前記した顔料(A)と顔料分散樹脂(B)と水(C)の他に、顔料湿潤効果を奏するうえで水溶性有機溶剤を含有するものを使用することが好ましい。
【0054】
前記水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、およびこれらと同族のジオール等のジオール類;ラウリン酸プロピレングリコール等のグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブ等のグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンチルアルコール、およびこれらと同族のアルコール等のアルコール類;あるいは、スルホラン;γ-ブチロラクトン等のラクトン類;N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドン等のラクタム類;グリセリンや、ポリオキシアルキレンを付加したグリセリン等のグリセリン誘導体等;水溶性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤等を、1種または2種以上混合して用いることができる。
【0055】
前記水溶性有機溶剤としては、前記したなかでも、高沸点、低揮発性で、高表面張力のグリコール類やジオール類等の多価アルコール類を使用することが、湿潤剤や乾燥抑止剤としての役割も果たすため使用することが好ましく、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のグリコール類を使用することがより好ましい。
【0056】
本発明の水性顔料分散体は、前記顔料(A)と前記水溶性有機溶剤との質量比[前記水溶性有機溶剤/前記顔料(A)]が0.3~2.0となる範囲で適宜選択できるが、より優れた分散性および保存安定性を備えるには、0.4~1.5の範囲で使用することが好ましい。
【0057】
本発明の水性顔料分散体の製造方法は、一次粒子径が150nm以下のC.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)と、顔料分散樹脂(B)とを含有する混練物を製造する工程、及び、前記工程で得た前記混練物と水(C)とを混合する工程を有することを特徴とする。
【0058】
はじめに、前記一次粒子径が150nm以下のC.I.ピグメントオレンジ64(a)を含む顔料(A)と、顔料分散樹脂(B)と、必要に応じて前記塩基性化合物や水溶性有機溶剤を、容器へ供給し混練する。前記混練物を得る工程は、特に限定されず公知の分散方法で行うことができる。例えば、ペイントシェーカー、ビーズミル、サンドミル、ボールミル等のメディアを使用するメディアミル分散法;超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、アルティマイザー等を使用したメディアレス分散法;ロールミル、ヘンシェルミキサー、加圧ニーダー、インテンシブミキサー、バンバリーミキサー、プラネタリーミキサー等の混練分散法等が挙げられ、超音波ホモジナイザー法を採用することが、粗大粒子の低減に有効なため好ましい。
【0059】
前記超音波ホモジナイザー法を採用する場合、超音波分散装置としては、前記したなかでも超音波分散機を使用することが好ましい。前記超音波装置を用いる場合、前記装置から顔料(A)に加えられるエネルギーは3~10W・h/gの範囲であることが好ましい。
【0060】
前記方法で得られた水性顔料分散体は、さらに分散機を用いて分散処理されてもよい。前記分散機としては、ペイントシェーカー、ビーズミル、ロールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル、ジュースミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機、ニーダー、プラネタリーミキサーなどがあげられる。
【0061】
以上の方法で得られた水性顔料分散体に含まれる粒子の体積平均粒子径が、50nmから300nmであることが好ましく、80nmから180nmであることが優れた分散性および保存安定性を備えるうえで最も好ましい。
【0062】
(インクジェット記録用水性インク)
前記水性顔料分散体を所望の濃度に希釈して、自動車や建材用の塗料分野や、オフセットインキ、グラビアインキ、フレキソインキ、シルクスクリーンインキ等の印刷インキ分野、あるいはインクジェット記録用インク分野等様々な用途に使用することができる。
【0063】
本発明の水性顔料分散体をインクジェット記録用インクに適用する場合は、更に水溶性溶媒及び/または水、バインダー目的のアクリル系樹脂やポリウレタン系樹脂等の樹脂を加え、所望の物性に必要に応じて乾燥抑止剤、浸透剤、界面活性剤、あるいはその他の添加剤を添加して調製する。
【0064】
インクの調製時あるいは調製後に、遠心分離あるいは濾過処理工程を加えてもよい。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0066】
(ソルベントソルトミリングによる顔料の調製)
ニーダーに、顔料Y(Cromophtal Orange K 2960(C.I.ピグメントオレンジ64、BASF社製、一次粒子径200nm))100質量部、塩化ナトリウム(水溶性無機塩)1000質量部、ジエチレングリコール(水溶性有機溶剤)200質量部を仕込んだ。
【0067】
ニーダーのジャケット温度を40℃に調節したのち、6時間の混練(ソルベントソルトミリング)を行った。
【0068】
次に、上記で得られた混練物を防食性容器に取り出したのち、10Lの0.5質量%塩酸水溶液を加え、攪拌することによって、前記塩化ナトリウムおよびジエチレングリコールを溶解した組成物を得た。
【0069】
次に、前記組成物をろ過し、残渣(顔料分)を採取した。この際、残渣に前記塩化ナトリウムおよびジエチレングリコールが残存しないように、温水およびイオン交換水で、残渣の洗浄を行った。採取した残渣を90℃で32時間以上乾燥させ、完全に水分を取り除き乾燥物を得た。前記乾燥物をジューサーで粉砕することで、一次粒子径80nmの顔料Xを得た。
【0070】
なお、前記顔料X及びYの一次粒子径は、以下の方法で測定し算出した。
【0071】
はじめに、前記顔料X1質量部とエタノール99質量部とを混合したものを、コロジオン膜付きメッシュに滴下し乾燥させたものを測定試料とした。
【0072】
次に、前記測定試料の任意の1000個を、走査透過型電子顕微鏡(STEM、JSM-7500FA、日本電子株式会社製、加速電圧:30kv)を用いて観察し、その平均値を一次粒子径とした。
【0073】
(ラジカル重合体A)
ラジカル重合体Aは、溶液重合法で製造された粉体状(直径1mm以下)で、単量体組成比が、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=83.00/7.35/9.55/0.10(質量比)であり、重量平均分子量11000、酸価120mgKOH/g、ガラス転移温度は120℃である。
【0074】
(ラジカル重合体B)
ラジカル重合体Bは、溶液重合法で製造された粉体状(直径1mm以下)で、単量体組成比が、スチレン/アクリル酸=87.70/12.30(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価90mgKOH/g、ガラス転移温度は103℃である。
【0075】
(ラジカル重合体C)
ラジカル重合体Cは、溶液重合法で製造された粉体状(直径1mm以下)でり、単量体組成比が、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=76.92/9.99/12.99/0.10(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価150mgKOH/g、ガラス転移温度は121℃である。
【0076】
(ラジカル重合体D)
ラジカル重合体Dは、溶液重合法で製造された粉体状(直径1mm以下)で、単量体組成比が、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=72.00/12.13/15.77/0.10(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価180mgKOH/g、ガラス転移温度は113℃である。
【0077】
(ラジカル重合体E)
ラジカル重合体Eは、溶液重合法で製造された粉体状(直径1mm以下)で、単量体組成比が、スチレン/アクリル酸/ブチルアクリレート=90.40/9.50/0.10(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価70mgKOH/g、ガラス転移温度は98℃である。
【0078】
(ラジカル重合体F)
ラジカル重合体Fは、溶液重合法で製造された粉体状(直径1mm以下)で、単量体組成比が、スチレン/アクリル酸/メタクリル酸/ブチルアクリレート=63.70/15.70/20.5/0.1(質量比)であり、重量平均分子量8000、酸価230mgKOH/g、ガラス転移温度は125℃である。
【0079】
前記重量平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法で測定された値であり、標準物質として使用するポリスチレンの分子量に換算した値である。なお、測定は以下の装置及び条件により実施した。
【0080】
送液ポンプ:LC-9A
システムコントローラー:SLC-6B
オートインジェクター:S1L-6B
検出器:RID-6A
以上、株式会社島津製作所製
データ処理ソフト:Sic480IIデータステーション(システムインスツルメンツ社製)。
カラム:GL-R400(ガードカラム)+GL-R440+GL-R450+GL-R400M(日立化成工業(株)製)
溶出溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
溶出流量:2ml/min
カラム温度:35℃
【0081】
(実施例1 水性顔料分散体の製造方法)
前記ラジカル重合体Aを6質量部、前記顔料Xを20質量部、トリエチレングリコールを16質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液を2.03質量部及びイオン交換水74質量部を金属製ビーカーに投入し、ハイシアーミキサー(SILVERSON社製L5M-A)を用いて10分間攪拌することによって混合物を得た。
【0082】
次に、超音波分散機(hielscher社製UP200St、最大出力200W、周波数20KHz)を用いて、前記混合物を30分間超音波分散させることによって混練物を得た。このとき、前記C.I.ピグメントオレンジ64には、超音波分散機から5W・h/gのエネルギーが加わっていた。
【0083】
得られた混練物にイオン交換水15質量部を加えて希釈することによって、ピグメントオレンジ64の濃度が15質量%の水性顔料分散体を得た。
【0084】
(実施例2)
ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体Bを6質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から1.52質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Bの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0085】
(実施例3)
ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体Cを6質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から2.54質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0086】
(実施例4)
ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体Dを6質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から3.05質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0087】
(実施例5)
ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体Eを6質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から1.18質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0088】
(実施例6)
ラジカル重合体Aの使用量を6質量部から10質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から3.38質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から69質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.5であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0089】
(実施例7)
トリエチレングリコールの使用量を16質量部から28質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から62質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は1.4であった。
【0090】
(実施例8)
ラジカル重合体Aの使用量を6質量部から2質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から0.68質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から79質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.1であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0091】
(実施例9)
ラジカル重合体Aの使用量を6質量部から14質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から4.74質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から63質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.7であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0092】
(実施例10)
ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体Cを6質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から2.54質量部、トリエチレングリコールの使用量を16質量部から28質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は1.40であった。
【0093】
(実施例11)
ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体Cを6質量部使用し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から2.54質量部、トリエチレングリコールの使用量を16質量部から8質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から81質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.40であった。
【0094】
(実施例12)
ラジカル重合体Aの使用量を6質量部から16質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から5.41質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から60質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.8であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0095】
(実施例13)
ラジカル重合体Aの使用量を6質量部から1質量部、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から0.34質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から80質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.05であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0096】
(実施例14)
トリエチレングリコールの使用量を16質量部から4質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から86質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.2であった。
【0097】
(実施例15)
トリエチレングリコールの使用量を16質量部から34質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から56質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Xの質量に対する前記ラジカル重合体Cの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Xの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は1.7であった。
【0098】
(比較例1)
前記顔料X20質量部の代わりに、前記ソルベントミリング処理していない顔料Y「Cromophtal Orange K 2960」(C.I.ピグメントオレンジ64、BASF社製、一次粒子径200nm)20質量部を使用したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。前記顔料Yの質量に対する前記ラジカル重合体Aの質量の比率(R/P)は0.3であり、前記顔料Yの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0099】
(比較例2)
前記顔料X20質量部の代わりに、前記ソルベントミリング処理していない顔料Y「Cromophtal Orange K 2960」(C.I.ピグメントオレンジ64、BASF社製、一次粒子径200nm)20質量部を使用し、ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体D6質量部に変更し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から3.05質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Yの質量に対する前記ラジカル重合体Dの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Yの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0100】
(比較例3)
前記顔料X20質量部を使用し、ラジカル重合体A6質量部の代わりにラジカル重合体F6質量部に変更し、34質量%水酸化カリウム水溶液の使用量を2.03質量部から3.89質量部、イオン交換水の使用量を74質量部から72質量部に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で水性顔料分散体を得た。顔料Yの質量に対する前記ラジカル重合体Dの質量の比率(R/P)は0.3であり、顔料Yの質量に対する水溶性有機溶剤の質量の比率(S/P)は0.80であった。
【0101】
(水性顔料分散体の評価)
〔体積平均粒子径の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で2000倍に希釈した。
【0102】
次に、希釈後の水性顔料分散体の約4mlをセルにいれ、マイクロトラック・ベル(株)社製ナノトラック粒度分布計「UPA150」を用い、25℃環境下で、レーザー光の散乱光を検出することにより、体積平均粒子径(MV)を測定した。
【0103】
前記体積平均粒子径を3回測定し、それらの平均値の上位2桁を有効数字として算出した値を、体積平均粒子径の値(単位:nm)とした。体積平均粒子径が190nm以下であれば良好と判断した。
【0104】
〔粗大粒子数の測定方法〕
はじめに、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体を、イオン交換水で50倍に希釈した。
【0105】
次に、Particle Sizing Systems社製、個数カウント方式 粒度分布計(Accusizer 780 APS)を用い、前記希釈後の水性顔料分散体に含まれる直径0.5μm以上の粒子数を3回測定した。
【0106】
次に、前記測定値に、それぞれ希釈濃度を乗じることによって、粗大粒子数を算出した。次に、上記方法で算出した3つの粗大粒子数の平均値を、実施例及び比較例で調製した水性顔料分散体の粗大粒子数とした。
【0107】
(水性顔料分散体の分散性の試験方法)
水性顔料分散体の分散性を、吸光度の低下率に基づいて評価した。
【0108】
はじめに、実施例及び比較例で調製した直後の水性顔料分散体を、イオン交換水で10000倍(体積)に希釈し、その吸収スペクトルを日本分光株式会社製、紫外可視分光光度計V-660型を用いて測定することで最大吸収波長での吸光度Wを算出した。
【0109】
次に、前記水性顔料分散体30mlを入れたガラス試験管を立てた状態で、室温環境下に2週間静置した。
【0110】
前記静置後の水性顔料分散体の上部を採取し、それを10000倍(体積)に希釈したものを試料とし、その吸収スペクトルを日本分光株式会社製、紫外可視分光光度計V-660型を用いて測定することで、最大吸光波長での吸光度Wを算出した。
【0111】
次に、前記吸光度W及び吸光度Wと、式[(吸光度W-吸光度W)/吸光度W]によって、吸光度の低下率を算出した。前記低下率が0%以上20%未満であったものを分散性「〇」と評価し、20%以上50%未満であったものを分散性「△」と評価し、50%以上であったものを「×」と評価した。
【0112】
(水性顔料分散体の保存安定性の試験方法)
はじめに、実施例及び比較例で製造した直後の水性顔料分散体の粗大粒子数を、前記〔粗大粒子数の測定方法〕に記載した方法と同様の方法で測定した。
【0113】
次に、実施例及び比較例で得た水性顔料分散体をポリプロピレン容器に密封し、60℃で4週間保存した後の粗大粒子数を〔粗大粒子数の測定方法〕と同様の方法で測定した。
【0114】
次に、前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数と、前記保存後の水性顔料分散体の粗大粒子数と、変化率(%)=[(前記保存後の水性顔料分散体の粗大粒子数-前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数)/前記製造直後の水性顔料分散体の粗大粒子数]×100の式に基づき、粗大粒子数の変化率を算出した。前記変化率が10%以内であれば保存安定性は良好であると判断した。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】