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  • 特許-抗体結合用磁性粒子およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】抗体結合用磁性粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20231011BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20231011BHJP
   C08F 220/26 20060101ALI20231011BHJP
   C08F 4/44 20060101ALI20231011BHJP
   C08F 2/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
G01N33/543 541A
G01N33/543 525W
G01N33/543 525U
G01N33/543 525E
G01N33/553
C08F220/26
C08F4/44
C08F2/00 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019185800
(22)【出願日】2019-10-09
(65)【公開番号】P2021060339
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 聡
(72)【発明者】
【氏名】久野 豪士
(72)【発明者】
【氏名】常藤 透朗
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132505(JP,A)
【文献】特開2008-081574(JP,A)
【文献】特開2007-078595(JP,A)
【文献】特表2016-501286(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0017518(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する重合体層であり、第1の被覆層と共有結合を形成し、前記共有結合とは反対側の高分子鎖末端にカルボキシル基を有することを特徴とする、抗体結合用磁性粒子。
【請求項2】
前記第1の被覆層の架橋無機物層がシリカを含有することを特徴とする、請求項1に記載の抗体結合用磁性粒子。
【請求項3】
前記第2の被覆層である重合体層が、架橋構造であることを特徴とする、請求項1または2に記載の抗体結合用磁性粒子。
【請求項4】
下記(i)~(v)の工程を含むことを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の抗体結合用磁性粒子の製造方法。
(i)コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる工程
(ii)前記ナノ磁性体を吸着させた粒子の表面に架橋無機物層を形成する工程
(iii)前記架橋無機物層の表面に、リビングラジカル重合の開始剤又は連鎖移動剤を有する、シランカップリング剤を結合させる工程
(iv)前記シランカップリング剤を結合させた粒子を溶媒に分散させ、溶媒中でヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有するモノマーをリビングラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する工程
(v)共重合体層を形成した粒子にメルカプトカルボン酸を反応させる工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫診断に用いられる抗体結合用磁性粒子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性粒子は、その磁気的特性を利用し、免疫診断用の生理活性物質担持用担体として使用されている。しかし、抗体等の生理活性物質を磁性粒子の表面に結合する際、酸性水溶液中で反応させるため、磁性体の脱離や鉄イオン溶出など、磁性体成分に由来する物質が流出するという問題があった。鉄は免疫反応の干渉物質として働くため、免疫診断の感度の低下や感作可能な生理活性物質は限定されるという問題があり、このような磁性体成分の流出が少ない磁性粒子が望まれている。また、免疫診断用担体としての磁性粒子には、免疫反応に無関係な成分が非特異吸着することを抑制した低ノイズ化や、多くの生理活性物質を担持可能とする高シグナル化等、免疫診断の高感度化が可能な磁性粒子が求められている。さらに、免疫診断では磁性粒子を水溶液に分散させて使用することから、水への分散性が良好な磁性粒子が求められている。
【0003】
これらの課題を解決するため、コア粒子表面にフェライト被覆層を有する磁性粒子の表面をアミノ基等の官能基を有する有機シランカップリング剤で被覆し、さらにカルボキシル基を導入した免疫診断用粒子が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、疎水性の有機シランカップリング剤で被覆したナノ磁性体をコア粒子に吸着させた後、ナノ磁性体が埋没するように疎水性重合体で被覆し、さらにその表面に官能基を導入した診断薬用粒子が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第2979414号公報
【文献】特許第3738847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、有機シランカップリング剤で表面を処理することによって鉄の溶出を抑制できるものの、抑制が不十分であるという問題があった。
【0006】
特許文献2では、疎水性の有機シランカップリング剤で処理した磁性体をコア粒子表面に被覆せしめた後、疎水性重合体層を形成することで鉄の溶出を抑制しているものの、疎水性重合体層は磁性粒子の水への分散性を悪化させるという問題があった。また、疎水性重合体層で被覆することでナノ磁性体が重合体で埋没するため、磁性粒子の比表面積が小さく、抗体等の生理活性物質を目的量担持させるためには多量の磁性粒子が必要であるという問題があった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、耐酸性に優れ酸性水溶液で処理しても鉄の溶出が少なく、さらに水への分散性が良好であり、また、非特異吸着が少なく、並びに、粒子の比表面積が大きく生理活性物質の担持量が多い、免疫診断の高感度化が可能な磁性粒子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以上の点を鑑み鋭意研究を重ねた結果、磁性粒子によって上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の各態様は以下に示す[1]~[4]である。
[1] コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する重合体層であり、第1の被覆層と共有結合を形成し、前記共有結合とは反対側の高分子鎖末端にカルボキシル基を有することを特徴とする、抗体結合用磁性粒子。
[2] 前記第1の被覆層の架橋無機物層がシリカを含有することを特徴とする、[1]に記載の抗体結合用磁性粒子。
[3] 前記第2の被覆層である重合体層が、架橋構造であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の抗体結合用磁性粒子。
[4] 下記(i)~(v)の工程を含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の抗体結合用磁性粒子の製造方法。
(i)コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる工程
(ii)前記ナノ磁性体を吸着させた粒子の表面に架橋無機物層を形成する工程
(iii)前記架橋無機物層の表面に、リビングラジカル重合の開始剤又は連鎖移動剤を有する、シランカップリング剤を結合させる工程
(iv)前記シランカップリング剤を結合させた粒子を溶媒に分散させ、溶媒中でヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有するモノマーをリビングラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する工程
(v)共重合体層を形成した粒子にメルカプトカルボン酸を反応させる工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様にかかる抗体結合用磁性粒子は、鉄の溶出抑制と粒子の水への分散性を有するものであり、また、抗体等の生理活性物質の担持量が多く、免疫診断の高感度化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様にかかる抗体結合用磁性粒子の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。以下の本実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0013】
本発明の一態様にかかる抗体結合用磁性粒子は、
コア粒子と、前記コア粒子表面に形成された第1の被覆層と、前記第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層を有する磁性粒子であって、
前記第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層であり、
前記第2の被覆層は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する重合体層であり、第1の被覆層と共有結合を形成し、前記共有結合とは反対側の高分子鎖末端にカルボキシル基を有する。
【0014】
抗体結合用磁性粒子に用いられるコア粒子は、磁性粒子の最も中心に位置する粒子であり、コア粒子の形状や材質に特に限定はない。コア粒子の形状は適宜選択可能であり、真球に近い球状、楕円体や立方体、円柱、多角柱等の非球状、多孔質状や突起を有するもの等の比表面積の大きな凹凸を有する粒子等を挙げることができる。コア粒子の表面に多くのナノ磁性体を被覆させるのに好適のため、多孔質状や突起を有するもの等の比表面積の大きな凹凸を有する粒子が好ましい。
【0015】
磁気応答性が良好な磁性粒子とするため、コア粒子の粒径としては0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がさらに好ましく、1μm以上が特に好ましく、2μm以上が最も好ましい。また、水への再分散性が良好な磁性粒子とするために、コア粒子の粒径は100μm以下が好ましく、50μm以下がさらに好ましく、10μm以下が特に好ましく、5μm以下が最も好ましい。
【0016】
コア粒子の材質としては、例えば重合体等の有機化合物、無機化合物等を挙げることができる。これらから適宜選択できるが、例えばスチレン系単量体単位、アクリレート系単量体単位若しくはメタクリレート系単量体単位を含む重合体粒子、又はシリカ粒子を挙げることができる。
【0017】
前記のスチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、p-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-tert-ブチルスチレン、3,4-ジメチルスチレン、4-メトキシスチレン、4-エトキシスチレン、2-クロロスチレン、3-クロロスチレン、4-クロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、4-クロロ-3-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、p-スチレンスルホン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0018】
前記のアクリレート系単量体若しくはメタアクリレート系単量体としては、(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート類; 2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、p-メトキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート等のアルコキシ(シクロ)アルキル(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の多価(メタ)アクレート類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル類;2-シアノエチル(メタ)アクリレート、2-シアノプロピル(メタ)アクリレート、3-シアノプロピル(メタ)アクリレート等のシアノアクリレート類;ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、 3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-アミノ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の置換ヒドロキシ(メタ)アクリレート類;グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジルメチルアクリレート、エポキシ化シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のグリシジル基含有アクリレート類;トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、エトキシ化フェニルアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート類等の(メタ)アクリレートを単量体単位とする重合体粒子が挙げられる。また、前記アクリレートは架橋したものであってもよい。
【0019】
必要に応じて、コア粒子はナノ磁性体を含有してもよい。また、第1の被覆層を設けるための前処理として、コア粒子の表面に正電荷又は負電荷を有する物質を被覆してもよい。また、コア粒子の表面に常磁性の薄膜の被覆層を設けてもよい。常磁性の被覆層を設ける場合、粒子への残留磁化を低減し、粒子同士の凝集を抑制するのに好適のため、厚み0.001~1μmが好ましく、0.001~0.1μmがさらに好ましく、0.001~0.01μmが特に好ましく、0.001~0.005μmが最も好ましい。コア粒子の表面に正電荷又は負電荷を有する物質を被覆する方法としては特に限定はないが、側鎖に電荷を有する単量体を用いてコア粒子の表面に重合体層を形成する方法、電荷を有する重合体を交互積層法(Layer-by-Layer法)によりコア粒子表面に被覆する方法等を挙げることができる。
【0020】
コア粒子表面に形成された第1の被覆層は、ナノ磁性体を含有する架橋無機物層である。ナノ磁性体は、前記コア粒子よりも粒径の小さな粒子であり、さらに磁気応答性を有するものである。超常磁性を有するものであることが好ましいことから、ナノ磁性体の粒径は0.001~1μmが好ましく、0.001~0.5μmがさらに好ましく、0.001~0.1μmが特に好ましく、0.001~0.05μmが最も好ましい。材質としては例えば、酸化鉄を挙げることができる。ナノ磁性体は表面に脂質やシランカップリング剤等の無機表面改質剤を含んでいてもよい。前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0021】
ナノ磁性体は架橋無機物層中に分散した状態にあることが好ましい。ナノ磁性体が架橋無機物層中に分散した状態にあることで、全てのナノ磁性体の表面を架橋無機物層で均一に被覆することができ、磁性粒子の耐酸性を高めることができる。
【0022】
ナノ磁性体の含有量としては、磁気応答性の良好な磁性粒子とするのに好適のため、磁性粒子1g当たりのナノ磁性体の含有量として、0.1g/g以上が好ましく、0.2g/g以上がさらに好ましく、0.5g/g以上が特に好ましく、0.7g/g以上が最も好ましい。また、磁性粒子の水への分散性を高めるのに好適であることから、磁性粒子1g当たりのナノ磁性体の含有量として、0.9g/g以下が好ましく、0.8g/g以下がさらに好ましく、0.7g/g以下が特に好ましく、0.6g/g以下が最も好ましい。
【0023】
架橋無機物層はコア粒子に架橋無機物層を形成することにより形成される。架橋無機物としては、シリカやガラス、酸化マグネシウム、酸化アルミナ等の酸化物、ジルコニアやヒドロキシアパタイト等のセラミックスを挙げることができる。これらの中で耐酸性を高めるのに特に好適のため、シリカが好ましい。架橋無機物層を設けることで、親水性でありながら耐酸性を高めることが可能であることから、鉄の溶出抑制と粒子の水への分散性という、相反する特性を付与することができる。また、架橋無機物層は粒子表面の磁性体の形状に沿って被覆され、磁性体を完全に埋没させないため、比表面積の大きな磁性粒子を得ることができ、抗体等の生理活性物質の担持量を増やすことができる。架橋無機物層の厚みとしては、耐酸性を高めるのに好適であることから、0.001μm以上が好ましく、0.005μm以上がさらに好ましく、0.01μm以上が特に好ましく、0.05μm以上が最も好ましい。また、比表面積の大きな磁性粒子とするのに好適のため、架橋無機物層の厚みは1μm以下が好ましく、0.5μm以下がさらに好ましく、0.1μm以下が特に好ましく、0.01以下が最も好ましい。
【0024】
第1の被覆層の表面に形成された第2の被覆層は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する重合体層であり、第1の被覆層と共有結合を形成し、前記共有結合とは反対側の高分子鎖末端にカルボキシル基を有する。
【0025】
コア粒子表面に第1の被覆層を形成した粒子は、抗体等の生理活性物質を粒子に結合するための官能基を有していないことから、生理活性物質を担持することができないため、架橋無機物層を設けた粒子の表面に第2の被覆層を設けることにより、非特異吸着を抑制しつつ抗体を担持させることができるようになり、免疫診断の高感度化が可能となる。カルボキシル基含有構造単位だけでは非特異吸着が高く、免疫診断の高感度化はできない。カルボキシル基含有構造単位及び親水性基含有構造単位の2つを有することにより、免疫診断の高感度化が可能となる。
【0026】
第2の被覆層は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する単量体を重合することにより形成される。前記単量体としては、重合速度が速く、磁性粒子の量産性を高めるのに好適のため、ヒドロキシル基含有アクリレート若しくはヒドロキシル基含有メタクリレート、又は、ポリエチレングリコール基含有アクリレート若しくはポリエチレングリコール基含有メタクリレートが好ましい。また、免疫診断の高感度化に特に好適のため、ポリエチレングリコール基含有アクリレート又はポリエチレングリコール基含有メタクリレートがさらに好ましい。ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する単量体としては、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、2-ヒドロキシフェニルアクリレート、2-ヒドロキシフェニルメタクリレート、3-ヒドロキシフェニルアクリレート、3-ヒドロキシフェニルメタクリレート、4-ヒドロキシフェニルアクリレート、4-ヒドロキシフェニルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート等を挙げることができる。
【0027】
また、第2の被覆層は、親水性基含有構造単位を有する単量体以外の単量体を共重合してもよい。例えば、抗体を粒子表面に吸着又は結合させるための疎水性を付与するために好適のため、炭素数1~6の長鎖及び環状アルキル基から選択される少なくとも1種の疎水性基含有構造単位を有することが好ましい。この疎水性基含有構造単位は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する単量体に炭素数1~6の長鎖及び環状アルキル基から選択される少なくとも1種の疎水性基含有構造単位を有する単量体を共重合することにより導入できる。疎水性基含有構造単位を有する単量体としては、疎水性基含有アクリレート又は疎水性基含有メタクリレートが好ましく、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルアクリレート、t-ブチルメタクリレート、n-ペンタノイルアクリレート、n-ペンタノイルメタクリレート、n-ヘキシルチルアクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、シクロプロピルアクリレート、シクロプロピルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート等を挙げることができる。また、前記疎水性基含有単量体以外の単量体としては、スチレンを挙げることができる。
【0028】
また、その他の単量体としては、重合性官能基を2以上有する単量体を架橋剤として併用してもよい。前記架橋剤としては、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等を挙げることができる。架橋剤を併用することで第2の被覆層に高分子鎖が複数の結合点で互いにつながった架橋構造を形成することができ、粒子の耐溶剤性及び耐熱性、力学的強度を高めることができる。
【0029】
第2の被覆層は、第1の被覆層と共有結合を形成し、前記共有結合とは反対側の高分子鎖末端にカルボキシル基を有する。カルボキシル基含有構造単位は、カルボキシル基を有するものであれば特に限定はない。第2の被覆層に第1の被覆層との共有結合を形成させる方法としては、第1の被覆層に、リビングラジカル重合のための開始剤又は連鎖移動剤を有するシランカップリング剤を共有結合させた後、リビングラジカル重合により第2の被覆層を形成することで可能である。また、前記共有結合とは反対側の高分子鎖末端にカルボキシル基を設ける方法としては、前記リビングラジカル重合のための開始剤又は連鎖移動剤と反応する有機反応試薬を用いて、前記開始剤又は連鎖移動剤にカルボキシル基を導入することで可能である。
【0030】
カルボキシル基含有構造単位は、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する重合体層を形成した粒子にメルカプトカルボン酸を反応させて、重合体層に導入することができる。架橋無機物層の表面にカルボキシル基が導入されていても良い。メルカプトカルボン酸としては、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、メルカプトシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプトマレイン酸、メルカプトフタル酸、メルカプト安息香酸等を挙げることができる。
【0031】
第2の被覆層である共重合体層は、第1の被覆層と共有結合している。共有結合していることで、耐酸性及び耐溶剤性を高めることができる。共有結合の存在は、重合体が溶解する溶剤で洗浄しても重合体が消失していないことにより確認できる。共有結合していない場合は、被覆した重合体がほぼ全て溶けてなくなる。
【0032】
第2の被覆層を第1の被覆層と共有結合で固定化させることで、磁性粒子の耐酸性及び耐溶剤性を高めるのに好適であることから、架橋無機物層の表面に重合性官能基(及び残基)を有するシランカップリング剤を有していることが好ましい。前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0033】
第2の被覆層における重合体の被覆量としては特に限定はないが、比表面積の大きな磁性粒子を作製するのに好適のため、磁性粒子1g当たりの重合体の被覆量として、1g/g以下が好ましく、0.5g/g以下がさらに好ましく、0.1g/g以下が特に好ましく、0.05g/g以下が最も好ましい。また、耐酸性を高めるのに好適のため、磁性粒子1g当たりの重合体の被覆量として、0.001g/g以上が好ましく、0.01g/g以上がさらに好ましく、0.1g/g以上が特に好ましく、0.5g/g以上が最も好ましい。重合体の被覆量は、重合体を被覆する前後の粒子のTG-DTAを測定し、重合体被覆前後の熱重量減少の差分を求めることにより測定可能である。また、粒子断面の走査型電子顕微鏡像、又は粒子の透過型電子顕微鏡像により、重合体の厚みを求めることでも算出可能である。
【0034】
磁性粒子のカルボキシル基量としては、多くの抗体を結合可能な磁性粒子とするのに好適のため、磁性粒子1g当たりのカルボキシル基量として、5μmol/g以上が好ましく、10μmol/g以上がさらに好ましく、20μmol/g以上が特に好ましく、50μmol/g以上が最も好ましい。また、磁性粒子への抗体以外の物質が非特異吸着し、免疫診断における測定ノイズが発生することを抑制するのに好適のため、磁性粒子1g当たりのカルボキシル基量として、200μmol/g以下が好ましく、100μmol/g以下がさらに好ましく、50μmol/g以下が特に好ましく、20μmol/g以下が最も好ましい。カルボキシル基量の測定方法としては、ピレニルジアゾメタンと磁性粒子を混合し、反応により消失したピレニルジアゾメタンを定量する方法、又は電位差滴定により磁性粒子表面のカルボキシル基量を直接定量する方法を挙げることができる。
【0035】
本発明の一態様にかかる抗体結合用磁性粒子は、下記(i)~(v)の工程を含む製造方法により得ることができる。
(i)コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる工程
(ii)前記ナノ磁性体を吸着させた粒子の表面に架橋無機物層を形成する工程
(iii)前記架橋無機物層の表面に、リビングラジカル重合の開始剤又は連鎖移動剤を有する、シランカップリング剤を結合させる工程
(iv)前記シランカップリング剤を結合させた粒子を溶媒に分散させ、溶媒中でヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有するモノマーをリビングラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する工程
(v)共重合体層を形成した粒子にメルカプトカルボン酸を反応させる工程
工程(i)において、コア粒子の表面電荷と反対の電荷を有するナノ磁性体を接触させる方法、疎水性のコア粒子に疎水性のナノ磁性体を接触させる方法、または常磁性を有するコア粒子にナノ磁性体を接触させる方法により、コア粒子の表面にナノ磁性体を物理吸着させる。コア粒子とナノ磁性体を接触させる方法としては特に限定はなく、液相中、気相中で攪拌することで可能である。
【0036】
工程(ii)において、工程(i)でナノ磁性体を吸着させた粒子表面に架橋無機物層を形成する。架橋無機物層を形成する方法に特に限定はないが、架橋無機物層の原料となる試薬と反応触媒を有する溶液中に粒子を分散させ、反応を進行させることで粒子表面に架橋無機物層を形成する方法、粒子表面に前記架橋無機物層又はその原料を被覆する方法等を挙げることができる。
【0037】
工程(iii)において、工程(ii)で形成した架橋無機物層の表面にリビングラジカル重合の開始剤又は連鎖移動剤を有するシランカップリング剤を結合させる。架橋無機物層の表面にシランカップリング剤を結合させる方法としては特に限定はなく、溶媒中に粒子を分散させ、シランカップリング剤を加える方法、粒子表面にシランカップリング剤を直接被覆する方法から選択可能である。また、必要に応じて反応触媒となる酸性又は塩基性水溶液を併用してもよい。
【0038】
工程(iv)において、工程(ii)で架橋無機物層を形成した粒子を溶媒に分散させ、溶媒中でヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有するモノマーをリビングラジカル重合することにより粒子の表面に重合体層を形成する。重合方法としては、リビングラジカル重合であること以外に特に限定はなく、粒子以外の成分が全て溶媒に溶解した状態で重合を行う分散重合法、溶媒に相溶しない単量体を使用し、粒子に単量体を吸着させた状態で重合を行うシード重合法等を挙げることができる。また、シード重合法としては、乳化剤を使用しないソープフリー重合、乳化剤を使用する乳化重合から適宜選択できる。リビングラジカル重合の方法としては、原子移動ラジカル重合(ATRP)又は可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合が好ましい。原子移動ラジカル重合の場合は、ブロモ基等のハロゲン基を有するシランカップリング剤を粒子に結合させ、触媒として遷移金属錯体の存在下で重合を行う。可逆的付加開裂連鎖移動重合の場合は、ジチオエステル等の連鎖移動剤を有するシランカップリング剤を粒子に結合させ、アズ化合物等のラジカル発生剤の存在下で重合を行う。
【0039】
また、工程(iv)において、ヒドロキシル基及びポリエチレングリコール基から選択される少なくとも1種の親水性基含有構造単位を有する単量体をリビングラジカル重合し、重合体層を形成した後、工程(v)でメルカプトカルボン酸を反応させ、粒子表面にカルボキシル基を導入しても良い。粒子表面とカルボン酸無水物の反応方法は特に限定はなく、水を含まない溶媒中に粒子を分散させ、過剰量のメルカプトカルボン酸を加えることで可能である。
【0040】
本発明の一態様にかかる抗体結合用磁性粒子は、粒子の表面に抗体を固定化し、免疫診断用装置で使用することができる。抗体の結合方法としては、粒子表面のカルボキシル基を介して結合させることが好ましく、例えば、カルボキシル基にカルボジイミド等の縮合剤を反応させることで活性化させ、活性化させたカルボキシル基を抗体が有するアミノ基と反応させることで結合できる。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施するための形態を挙げて本発明について詳細に説明するが、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。また本発明の要旨の範囲内で適宜に変更して実施することができる。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
[重合体被覆量の測定]
重合体被覆前後の粒子についてそれぞれTG-DTA測定を行い、100℃から560℃までの熱重量減少を求めた。重合体被覆前の粒子における熱重量減少をΔTG1、重合体被覆後の粒子における熱重量減少をΔTG2としたとき、ΔTG2-ΔTG1を重合体被覆量とした。
[カルボキシル基量の測定]
磁性粒子10mgに酢酸エチル2mLを加え、室温で20分間攪拌。この粒子分散液にピレニルジアゾメタン0.12mgを溶解させた酢酸エチル2mLを加え、室温で50分間攪拌。粒子を除去した後、上澄み液をメタノールで10倍希釈し、392nmの吸光度を測定し、この吸光度をA1とし、粒子を使用せずに同様の操作を行った場合の溶液の吸光度をA0とした時、下記式からカルボキシル基量を求めた。
138×(A0-A1)μmol/g
[水分散性の評価]
乾燥させた粉末状の磁性粒子0.1gを10gのイオン交換水に加え、手で振って攪拌して評価した。
○:水に均一分散可能
×:水に分散しない
[鉄イオン溶出の評価]
pH3.5のクエン酸緩衝液1mLに磁性粒子10mgを加え、37℃で17時間攪拌。溶液から粒子を除いた溶液を測定試料とし、光の波長460nmにおける溶液の吸光度を測定することで鉄イオンの溶出量を評価した。
[希釈固相懸濁液と検出用標識抗体溶液の調製]
緩衝液(pH6.0)中に分散させた磁性粒子に1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩を過剰量加え、37℃で1時間インキュベートした。緩衝液(pH3.5)中で抗甲状腺刺激ホルモン(TSH)抗体を加え、37℃で3時間インキュベートして抗TSH抗体を磁性粒子に結合させた。次にブロッキング剤溶液で17時間インキュベートして磁性粒子にブロッキング処理を行い、抗TSH抗体固定化磁性粒子とした(A)。さらに(A)を8%コラーゲンペプチドを含む緩衝液(pH6.0)で希釈し、希釈固相懸濁液(B)を調製した。また抗TSH抗体とアルカリ性ホスファターゼの結合物を、5%ウシ血清アルブミンを含む緩衝液(pH6.2)で希釈し、検出用標識抗体溶液(C)を調製した。
[NSB(非特異吸着)及びポジカウント評価用サンプルの調製]
5%コラーゲンペプチドを含む0.03mol/L トリス塩酸緩衝液(pH8.0)を調製し、NSB(非特異吸着)評価用サンプル(D)とした。また5%コラーゲンペプチドを含む0.03mol/L トリス塩酸緩衝液(pH8.0)に甲状腺刺激ホルモン(TSH)を添加して、ポジカウント評価用サンプル(E)とした。
[NSB(非特異吸着)及びポジカウントの測定、感度の評価]
測定試薬(希釈固相懸濁液(B)と検出用標識抗体溶液(C)を含む凍結乾燥品)でNSB及びポジカウントの測定、感度の評価を行った
NSBの測定は以下の手順で行った。
【0042】
凍結乾燥した希釈固相懸濁液(B)を、界面活性剤を含む純水及びNSB評価用サンプル(D)で溶解した後、37℃にて5分間免疫反応を行い、1回目のB/F分離を行った。次に界面活性剤を含む純水で溶解した検出用標識抗体溶液(C)を加えて37℃にて3分間免疫反応を行い、2回目のB/F分離を行った。その後、アルカリ性ホスファターゼに対する化学発光基質(DIFURAT、3-(5-tert-ブチル-4,4-ジメチル-2,6,7-トリオキサビシクロ[3,2,0]ヘプト-1-イル)フェニルリン酸エステル ジナトリウム塩)及び化学発光補助試薬を加え、発光強度(count/sec(cps))を測定しNSBとした。
【0043】
ポジカウントの測定は以下の手順で行った。
【0044】
凍結乾燥した希釈固相懸濁液(B)を、界面活性剤を含む純水及びポジカウント評価用サンプル(E)で溶解した後、37℃にて5分間免疫反応を行い、1回目のB/F分離を行った。次に界面活性剤を含む純水で溶解した検出用標識抗体溶液(C)を加えて37℃にて3分間免疫反応を行い、2回目のB/F分離を行った。その後、アルカリ性ホスファターゼに対する化学発光基質(DIFURAT、3-(5-tert-ブチル-4,4-ジメチル-2,6,7-トリオキサビシクロ[3,2,0]ヘプト-1-イル)フェニルリン酸エステル ジナトリウム塩)及び化学発光補助試薬を加え、発光強度(count/sec(cps))を測定しポジカウントとした。
【0045】
感度はポジカウント/NSBの比を求めることによって評価した。
[実施例1]
(磁性化微粒子の作製)
ポリジビニルベンゼン粒子5.0g(粒子径2.5μm)、ポリビニルピロリドン1.2g、1N-塩酸水溶液6mLを純水160mLに回転数180rpmで分散させた。窒素雰囲気下、80℃に昇温した後に、尿素6g、塩化鉄(II)四水和物2g、塩化鉄(III)六水和物3gを添加し5時間反応させた。この粒子分散液をろ過にて粒子と反応液を分離した後に、再度粒子を純水200mLに回転数180rpmで分散させた。窒素雰囲気下、80℃に昇温した後に、0.2N-水酸化ナトリウム水溶液を滴下し15時間反応させた。純水にて洗浄し、酸化鉄被覆された粒子5.75gを得た。
【0046】
得られた酸化鉄被覆された粒子1gを純水50mLに室温にて回転数100rpmで分散させた。この粒子分散液に、表面にカチオン系分散剤を有する磁性体(材質:マグネタイト、粒子径:10nm、商品名:EMG607、フェローテック社製)1.0gを添加し、室温にて回転数100rpmで2時間反応させた。純水にて洗浄し、さらに50℃で15時間乾燥させることにより、磁性化された粒子を1.93g得た。磁性粒子1g当たりの磁性体の含有量は0.32g/gであった。
(磁性化粒子へのシリカ被覆)
前記磁性化された微粒子1gをエタノール400mLに分散させ、オルトけい酸テトラエチル3gを加え、室温にて回転数300rpmで攪拌した。25%アンモニア水21gを加え、35℃にて回転数300rpmで4時間反応させた。純水及びエタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。透過型電子顕微鏡により確認したシリカ層の厚みは約20nmであった。
(シリカ被覆粒子へのATRP開始剤導入)
シリカ被覆された粒子1gをメタノール75mLに分散させ、3-(トリメトキシシリルプロピル)-2-ブロモ-2-メチルプロピオン酸0.5g、25%アンモニア水15gを加え、60℃にて回転数300rpmで3時間反応させた。メタノール及び純水にて洗浄し、減圧乾燥させた。
(ATRP開始剤導入粒子への重合体被覆)
前記ATRP開始剤導入された粒子0.1gをメタノール18mLに分散させ、2-ヒドロキシエチルメタクリレート:トリメチロールプロパントリアクリレート=60:40の混合物0.4g、臭化銅(II)0.0022g、アスコルビン酸ナトリウム0.02g、2,2’-ビピリジル0.015gを加え、脱気を行った後、窒素雰囲気下にて40℃で3時間反応させた。純水及びメタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
(カルボキシル基導入)
前記重合体被覆された粒子0.1gを、純水:メタノール=50:50の混合溶媒20mLに分散させ、炭酸リチウム0.074g、チオグリコール酸0.092gを加え、37℃で12時間反応させた。純水及びメタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
(評価結果)
重合体被覆量は0.090g/gであった。カルボキシル基量は32μmol/gであった。
【0047】
作製された磁性粒子は水分散性に優れ、鉄イオンの溶出が少ないものであった。また、NSBは67、ポジカウントは953269、感度は14228で、感度に優れるものであった。
[実施例2]
実施例1における重合体被覆の単量体としてトリメチロールプロパントリアクリレートの代わりに、トリメチロールプロパントリメタクリレートを用い、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
重合体被覆量は0.106g/gであった。カルボキシル基量は30μmol/gであった。
【0048】
作製された磁性粒子は水分散性に優れ、鉄イオンの溶出が少ないものであった。また、NSBは59、ポジカウントは1018909、感度は17270で、感度に優れるものであった。
[実施例3]
実施例1における重合体被覆の単量体として2-ヒドロキシエチルメタクリレートの代わりに、ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(Mn=300)を用い、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
重合体被覆量は0.096g/gであった。カルボキシル基量は29μmol/gであった。
【0049】
作製された磁性粒子は水分散性に優れ、鉄イオンの溶出が少ないものであった。また、NSBは48、ポジカウントは959202、感度は19983で、感度に優れるものであった。
[実施例4]
実施例1における重合体被覆の単量体として2-ヒドロキシエチルメタクリレートの代わりに、ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(Mn=300)を用い、また、トリメチロールプロパントリアクリレートの代わりに、トリメチロールプロパントリメタクリレートを用い、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
重合体被覆量は0.102g/gであった。カルボキシル基量は34μmol/gであった。
【0050】
作製された磁性粒子は水分散性に優れ、鉄イオンの溶出が少ないものであった。また、NSBは66、ポジカウントは1273013、感度は19288で、感度に優れるものであった。
[比較例1]
実施例1におけるシリカ被覆工程、ATRP開始剤導入工程、重合体被覆工程、カルボン酸導入工程の全てを実施せず、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子は水分散性が乏しく、鉄イオンの溶出が多いものであった。
[比較例2]
実施例1におけるシリカ被覆工程、ATRP開始剤導入工程、重合体被覆工程、カルボン酸導入工程の全てを実施せず、代わりに以下の方法で磁性化粒子への有機シランカップリング剤修飾を行った。その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(磁性化粒子への有機シランカップリング剤修飾)
前記磁性化された微粒子1gをメタノール75mLに分散させた。3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5g、25%アンモニア水15gを加え、60℃にて回転数300rpmで3時間反応させた。メタノール及び純水にて洗浄し、減圧乾燥させた。
(評価結果)
作製された磁性粒子は水への分散性が乏しく、鉄イオンの溶出が多いものであった。
[比較例3]
実施例1におけるシリカ被覆工程、ATRP開始剤導入工程、カルボン酸導入工程の全てを実施せず、代わりに以下の方法で磁性化粒子への重合体被覆を行った。その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(磁性化粒子への重合体被覆)
前記磁性化された粒子0.1gを純水18mLに分散させ、メタクリル酸メチル4g、過硫酸カリウム0.02gを加え、脱気を行った後、窒素雰囲気下にて65℃で3時間反応させた。純水及びメタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
(評価結果)
作製された粒子は水への分散性に乏しいものであった。比表面積は1.8m/gで、比表面積が小さなものであった。
[比較例4]
実施例1におけるシリカ被覆工程、ATRP開始剤導入工程、カルボン酸導入工程の全てを実施せず、代わりに以下の方法で磁性化粒子への重合体被覆を行った。その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(磁性化粒子への重合体被覆)
前記磁性化された粒子0.1gを純水18mLに分散させ、2-ヒドロキシエチルメタクリレート4g、過硫酸カリウム0.02gを加え、脱気を行った後、窒素雰囲気下にて65℃で3時間反応させた。純水及びメタノールにて洗浄し、減圧乾燥させた。
(評価結果)
作製された粒子は鉄イオンの溶出が多いものであった。
[比較例5]
実施例1におけるカルボン酸導入工程を実施せず、その他は実施例1と同様にして粒子を作製した。
(評価結果)
作製された磁性粒子のNSBは66、ポジカウントは477882、感度は7241で、感度に劣るものであった。
【0051】
【表1】
【符号の説明】
【0052】
1 コア粒子
2 ナノ磁性体
3 架橋無機物層
4 親水性基含有構造単位を有する重合体層
図1