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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】赤外線吸収繊維、繊維製品
(51)【国際特許分類】
   D06M 23/08 20060101AFI20231011BHJP
   C01G 41/00 20060101ALI20231011BHJP
   D06M 11/32 20060101ALI20231011BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
D06M23/08
C01G41/00 A
D06M11/32
D01F1/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019204947
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021075825
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】常松 裕史
(72)【発明者】
【氏名】長南 武
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/022003(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/235839(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/093526(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 23/08
C01G 41/00
D06M 11/32
D01F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維と、
有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子と、を含み、
前記有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子はいずれも、赤外線吸収粒子と、前記赤外線吸収粒子を内包する被覆用樹脂とを有し、
前記有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、前記繊維の内部、および表面から選択された1以上の部分に配置されている赤外線吸収繊維。
【請求項2】
前記被覆用樹脂が、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂から選択された1種類以上を含有する請求項1に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項3】
前記被覆用樹脂が、光硬化樹脂であり、該光硬化樹脂が紫外線、可視光線、赤外線のいずれかの光の照射により硬化する樹脂を含有する請求項2に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項4】
前記赤外線吸収粒子が、一般式W(W:タングステン、O:酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表されるタングステン酸化物、および一般式M(元素MはH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択された1種類以上、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表される複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項5】
前記繊維が合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維から選択された1種類以上を含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項6】
前記合成繊維が、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維から選択された1種類以上を含む請求項5に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項7】
前記半合成繊維がセルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴムから選択された1種類以上を含む請求項5または請求項6に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項8】
前記天然繊維が植物繊維、動物繊維、鉱物繊維から選択された1種類以上を含む請求項5から請求項7のいずれか1項に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項9】
前記再生繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維から選択された1種類以上を含む請求項5から請求項8のいずれか1項に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項10】
前記無機繊維が金属繊維、炭素繊維、けい酸塩繊維から選択された1種類以上を含む請求項5から請求項9のいずれか1項に記載の赤外線吸収繊維。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の赤外線吸収繊維を含む繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収繊維、繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
保温効果を高めた防寒衣料やインテリア、レジャー用品が様々に考案され、実用化されてきた。これまで実用化されてきた保温効果を高める方法には、大別して2通りの方法ある。
【0003】
第一の方法は、人体から発生する熱の放散性を減少させて保温性を維持する方法である。具体的には例えば、防寒衣料において織り編みの構造を制御したり、用いられる繊維を中空や多孔質にしたりするなどして当該防寒衣料における空気層を物理的に多くする方法が採られていた。
【0004】
第二の方法は、人体から発生する熱を再び人体へ向けて輻射したり、防寒衣料が受けた太陽光の一部を熱に変換するなどの積極的な方法により熱を蓄熱し、保温性を向上させる方法である。具体的には、例えば防寒衣料において、衣料全体または当該防寒衣料を構成する繊維ヘ化学的・物理的な加工を施す方法が採られていた。
【0005】
上述のように、第一の方法として、衣料中の空気層を多くする、生地を厚くする、目を細かくする、あるいは色を濃くするといった方法が採られてきた。具体的な例としては、セーターなどの冬期に用いられる衣料や、冬季のスポーツ向けの衣料としてよく用いられる表地と裏地との間に中綿を入れ、当該中綿の空気層の厚みで保温性を維持した衣料などが挙げられる。しかし、中綿を入れる等して空気層を多くすると、衣料が重くかさばるために、動き易さを要求されるスポーツ向けでは不具合を生じていた。係る不具合を解消するために、近年では、上述した第二の方法である内部で発生する熱や、外部からの熱を積極的に有効利用する方法が採られ始めている。
【0006】
第二の方法を実施する一の方法として、アルミニウムやチタンなどの金属を衣料の裏地などに蒸着し、体内から出る放射熱を当該金属蒸着面で反射することで、積極的に熱の発散を防ぐ方法などが知られている。しかし、係る方法では衣料に金属を蒸着加工するのにかなりのコストがかかるばかりか、蒸着むらの発生等により歩留まりが悪くなり、結果的に製品自体の価格アップにつながっていた。
【0007】
また、当該第二の方法を実施する他の方法として、アルミナ系、ジルコニア系、マグネシア系などのセラミック粒子を繊維そのものに混練して、これらのセラミック粒子がもつ遠赤外線放射効果や光を熱に変える効果を利用する方法、すなわち、積極的に外部のエネルギーを取り入れる方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1には、熱伝導率が0.3kcal/m・sec・℃以上の金属、金属イオンの少なくとも1種を含有させた熱線放射特性を有する無機微粒子の1種または2種以上を含有することを特徴とする熱線放射性繊維が開示されている。熱線放射特性を有する無機微粒子として、シリカまたは硫酸バリウムが挙げられている。
【0009】
特許文献2には、融点が110℃以上の熱可塑性重合体Aと、融点が15~50℃、降温結晶化温度が40℃以下、結晶化熱が10mJ/mg以上である熱可塑性重合体Bとからなる複合繊維であって、繊維重量に対して0.1~20重量%の遠赤外線放射能力を有するセラミック微粒子を含有し、かつ、重合体Aが繊維表面を覆っていることを特徴とする保温性複合繊維が開示されている。
【0010】
特許文献3には、繊維製品に、少なくとも1種類以上の所定のアミノ化合物からなる赤外線吸収剤を含むバインダー樹脂を分散、固着させてなる赤外線吸収加工繊維製品が開示されている。
【0011】
特許文献4には、近赤外線領域の吸収が黒色染料よりも大きい特性を持つ染料と他の染料を組み合わせて染色することにより、近赤外線吸収程度として、750から1500nmの範囲内で生地の分光反射率が、65%以下であるセルロース系繊維構造物の近赤外線吸収加工方法が開示されている。
【0012】
また、本発明の出願人は、特許文献5、6、7において、ホウ化物微粒子や、タングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を含有させた繊維、およびその繊維を加工して得られる繊維製品を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平11-279830号公報
【文献】特開平5-239716号公報
【文献】特開平8-3870号公報
【文献】特開平9-291463号公報
【文献】特開2005-9024号公報
【文献】特開2006-132042号公報
【文献】国際公開第2019/054476号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
例えば特許文献5~7等に開示されているように、赤外線吸収粒子を含有する赤外線吸収繊維が従来から検討されてきた。しかしながら、本発明の発明者らの検討によれば、タングステン酸化物微粒子等の赤外線吸収粒子は、耐薬品特性が十分でなく、赤外線吸収繊維や繊維製品が高温の酸またはアルカリ等の薬品環境下に晒されると赤外線吸収特性が低下する場合があった。
【0015】
本発明の一側面では、耐薬品特性を備えた赤外線吸収繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一側面では、繊維と、
有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子と、を含み、
前記有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子はいずれも、赤外線吸収粒子と、前記赤外線吸収粒子を内包する被覆用樹脂とを有し、
前記有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、前記繊維の内部、および表面から選択された1以上の部分に配置されている赤外線吸収繊維を提供する。

【発明の効果】
【0017】
本発明の一側面では、耐薬品特性を備えた赤外線吸収繊維を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】六方晶を有する複合タングステン酸化物の結晶構造の模式図。
図2】実施例1で得られた有機無機ハイブリッド赤外線粒子の透過型電子顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[赤外線吸収繊維]
本実施形態では、赤外線吸収繊維の一構成例について説明する。
【0020】
本実施形態の赤外線吸収繊維は、繊維と、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子と、を含むことができる。
そして、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、赤外線吸収粒子と、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆用樹脂とを有することができる。
また、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、繊維の内部、および表面から選択された1以上の部分に配置できる。
【0021】
既述の様に、赤外線吸収繊維に用いられていた赤外線吸収粒子は、耐薬品特性が十分ではない場合があった。そこで、本発明の発明者らは、耐薬品特性を備えた赤外線吸収粒子とするための方法について、鋭意検討を行った。その結果、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に直接樹脂等の有機材料を配置し、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子とすることで、耐薬品特性を発揮できることを見出した。
【0022】
ただし、赤外線吸収粒子は通常無機材料であり、その表面の少なくとも一部に樹脂等の有機材料を配置することは困難であった。このため、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子や、その製造方法は知られていなかった。そこで、本発明の発明者らは更なる検討を行い、赤外線吸収粒子の表面に有機材料を配置した有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子や、その製造方法を見出した。
【0023】
そして、係る有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を用いることで、耐薬品特性を有する赤外線吸収繊維とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
そこでまず、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法、および有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子について説明する。
1.有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法
本実施形態の赤外線吸収繊維は、既述の様に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を含有することができる。そして、係る有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0025】
赤外線吸収粒子と、分散剤と、分散媒とを含む分散液を調製する分散液調製工程。
分散液から分散媒を蒸発させる分散媒低減工程。
分散媒低減工程後に回収した赤外線吸収粒子と、被覆用樹脂原料と、有機溶媒と、乳化剤と、水と、重合開始剤とを混合し、原料混合液を調製する原料混合液調製工程。
原料混合液を冷却しつつ、攪拌する攪拌工程。
原料混合液中の酸素量を低減する脱酸素処理を行った後、被覆用樹脂原料の重合反応を行う重合工程。
【0026】
以下、各工程について説明する。
(1)分散液調製工程
分散液調製工程では、赤外線吸収粒子と、分散剤と、分散媒とを含む分散液を調製することができる。
【0027】
分散液調製工程で分散液を調製する際に好適に用いることができる各材料について説明する。
(a)赤外線吸収粒子
分散液調製工程においては、赤外線吸収粒子として、耐薬品特性、例えば耐酸性や耐アルカリ性を高めることが求められる各種赤外線吸収粒子を用いることができる。赤外線吸収粒子としては、例えば自由電子を含有する各種材料を含む赤外線吸収粒子を用いることが好ましく、自由電子を含有する各種無機材料を含む赤外線吸収粒子をより好ましく用いることができる。
【0028】
赤外線吸収粒子としては、酸素欠損を有するタングステン酸化物、複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含む赤外線吸収粒子を特に好ましく用いることができる。酸素欠損を有するタングステン酸化物や、複合タングステン酸化物を赤外線吸収粒子として用いた場合、該赤外線吸収粒子を含む有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を淡色とし、目立たなくすることができる。この場合、具体的には、赤外線吸収粒子は、例えば一般式W(W:タングステン、O:酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表されるタングステン酸化物、および一般式M(元素MはH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択された1種類以上、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表される複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有することが好ましい。
【0029】
一般に、自由電子を含む材料は、プラズマ振動によって波長200nmから2600nmの太陽光線の領域周辺の電磁波に反射吸収応答を示すことが知られている。このため、自由電子を含む各種材料を、赤外線吸収粒子として好適に用いることができる。赤外線吸収粒子は、例えば光の波長より小さい粒子にすると、可視光領域(波長380nmから780nm)の幾何学散乱を低減することができ、可視光領域について特に高い透明性を得ることができるため好ましい。
【0030】
なお、本明細書において「透明性」とは、「可視光領域の光に対して散乱が少なく透過性が高い。」という意味で用いている。
【0031】
一般に、タングステン酸化物(WO)中には有効な自由電子が存在しない為、赤外領域の吸収反射特性が少なく、赤外線吸収粒子としては有効ではない。
【0032】
一方、酸素欠損をもつWOや、WOにNa等の陽性元素を添加した複合タングステン酸化物は、導電性材料であり、自由電子をもつ材料であることが知られている。そして、これらの自由電子をもつ材料の単結晶等の分析により、赤外領域の光に対する自由電子の応答が示唆されている。
【0033】
本発明の発明者らの検討によれば、当該タングステンと酸素との組成範囲の特定部分において、赤外線吸収材料として特に有効な範囲があり、可視光領域においては透明で、赤外領域においては特に強い吸収をもつタングステン酸化物、複合タングステン酸化物とすることができる。
【0034】
そこで、分散液調製工程で好適に用いることができる赤外線吸収粒子の材料の一種である、タングステン酸化物、複合タングステン酸化物について以下にさらに説明する。
(a1)タングステン酸化物
タングステン酸化物は、一般式W(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表記される。
【0035】
一般式Wで表記されるタングステン酸化物において、当該タングステンと酸素との組成範囲は、タングステンに対する酸素の組成比(z/y)が3未満であることが好ましく、2.2≦z/y≦2.999であることがより好ましい。特に2.45≦z/y≦2.999であることがさらに好ましい。
【0036】
上記z/yの値が2.2以上であれば、当該タングステン酸化物中に目的としないWOの結晶相が現れるのを回避することができると共に、材料としての化学的安定性を得ることができるので特に有効な赤外線吸収粒子となる。
【0037】
また、当該z/yの値を好ましくは3未満、より好ましくは2.999以下とすることで、赤外領域の吸収反射特性を高めるために特に十分な量の自由電子が生成され効率のよい赤外線吸収粒子とすることができる。
【0038】
また、2.45≦z/y≦2.999で表される組成比を有する、いわゆる「マグネリ相」は化学的に安定であり、近赤外領域の光の吸収特性も優れるので、赤外線吸収材料としてより好ましく用いることができる。このため、上記z/yは既述の様に2.45≦z/y≦2.999であることがさらに好ましい。
(a2)複合タングステン酸化物
複合タングステン酸化物は、上述したWOへ、後述する元素Mを添加したものである。
【0039】
元素Mを添加し、複合タングステン酸化物とすることで、WO中に自由電子が生成され、特に近赤外領域に自由電子由来の強い吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収する粒子として有効となる。
【0040】
すなわち、当該WOに対し、酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物とすることで、より効率の良い赤外線吸収特性を発揮することができる。WOに対して酸素量の制御と、自由電子を生成する元素Mの添加とを併用した複合タングステン酸化物の一般式をMと記載したとき、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0の関係を満たすことが好ましい。上記一般式中のMは、既述の元素Mを示し、Wはタングステン、Oは酸素をそれぞれ示す。
【0041】
上述のように元素Mの添加量を示すx/yの値が0.001以上の場合、複合タングステン酸化物において特に十分な量の自由電子が生成され、高い赤外線吸収効果を得ることができる。そして、元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、赤外線吸収効率も上昇するが、x/yの値が1程度で当該効果も飽和する。また、x/yの値が1以下の場合、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子中に不純物相が生成されるのを回避できるので好ましい。
【0042】
なお、元素Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択された1種類以上であることが好ましい。
【0043】
における安定性を特に高める観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Reのうちから選択された1種類以上の元素であることがより好ましい。そして、該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子としての光学特性、耐候性を向上させる観点から、元素Mは、アルカリ金属、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素、4B族元素、5B族元素から選択された1種類以上の元素であることがさらに好ましい。
【0044】
酸素の添加量を示すz/yの値については、Mで表記される複合タングステン酸化物においても、上述したWで表記されるタングステン酸化物と同様の機構が働くことに加え、z/y=3.0においても、上述した元素Mの添加量による自由電子の供給がある。このため、2.0≦z/y≦3.0が好ましく、2.2≦z/y≦3.0がより好ましく、2.45≦z/y≦3.0がさらに好ましい。
【0045】
さらに、当該複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、当該複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子の可視光領域の光の透過が向上し、赤外領域の光の吸収が向上する。この六方晶の結晶構造の模式的な平面図である図1を参照しながら説明する。
【0046】
図1は、六方晶構造を有する複合タングステン酸化物の結晶構造を(001)方向から見た場合の投影図を示しており、点線で単位格子10を示している。
【0047】
図1において、WO単位にて形成される8面体11が6個集合して六角形の空隙12が構成され、当該空隙12中に、元素Mである元素121を配置して1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。
【0048】
そして、可視光領域における光の透過を向上させ、赤外領域における光の吸収を向上させるためには、複合タングステン酸化物中に、図1を用いて説明した単位構造が含まれていれば良く、当該複合タングステン酸化物が結晶質であっても、非晶質であっても構わない。
【0049】
上述の六角形の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光領域における光の透過が向上し、赤外領域における光の吸収が向上する。ここで一般的には、イオン半径の大きな元素Mを添加したとき当該六方晶が形成され易い。具体的には、元素Mとして、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snから選択された1種類以上を添加したとき六方晶が形成され易い。勿論これら以外の元素でも、WO単位で形成される六角形の空隙に上述した元素Mが存在すれば良く、上述の元素に限定される訳ではない。
【0050】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するため、元素Mの添加量は、既述の一般式におけるx/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、0.33がさらに好ましい。x/yの値が0.33となることで、上述した元素Mが六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0051】
また、六方晶以外であって、正方晶、立方晶の複合タングステン酸化物を含む赤外線吸収粒子も十分に有効な赤外線吸収特性を有する。結晶構造によって、赤外領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光領域の光の吸収が少ないのは、六方晶、正方晶、立方晶の順である。従って、より可視光領域の光を透過し、より赤外領域の光を遮蔽する用途には、六方晶の複合タングステン酸化物を用いることが好ましい。ただし、ここで述べた光学特性の傾向は、あくまで大まかな傾向であり、添加元素の種類や、添加量、酸素量によって変化するものであり、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0052】
タングステン酸化物や複合タングステン酸化物を含有する赤外線吸収粒子は、近赤外領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0053】
また、赤外線吸収粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。
【0054】
まず、透明性を保持したい応用に使用する場合、赤外線吸収粒子は、800nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が800nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱の低減を考慮することが好ましい。
【0055】
粒子による散乱の低減を重視する場合、分散粒子径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。これは、粒子の分散粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm以上780nm以下の可視光領域の光の散乱が低減される結果、例えば赤外線吸収粒子を分散した赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。すなわち、分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。
【0056】
さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。
【0057】
赤外線吸収粒子の分散粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば工業的に容易に製造することができるため、分散粒子径は1nm以上であることが好ましい。
【0058】
赤外線吸収粒子の分散粒子径を800nm以下とすることにより、該赤外線吸収粒子を媒体中に分散させた赤外線吸収粒子分散体のヘイズ値は、可視光透過率85%以下でヘイズ30%以下とすることができる。ヘイズを30%以下とすることで、赤外線吸収粒子分散体が曇りガラスのようになることを防止し、特に鮮明な透明性を得ることができる。
【0059】
なお、赤外線吸収粒子の分散粒子径は、動的光散乱法を原理とした大塚電子株式会社製ELS-8000等を用いて測定することができる。
【0060】
また、優れた赤外線吸収特性を発揮させる観点から、赤外線吸収粒子の結晶子径は1nm以上200nm以下であることが好ましく、1nm以上100nm以下であることがより好ましく、10nm以上70nm以下であることがさらに好ましい。結晶子径の測定には、粉末X線回折法(θ―2θ法)によるX線回折パターンの測定と、リートベルト法による解析を用いることができる。X線回折パターンの測定には、例えばスペクトリス株式会社PANalytical製の粉末X線回折装置「X'Pert-PRO/MPD」などを用いて行うことができる。
(b)分散剤
分散剤は、赤外線吸収粒子の表面を疎水化処理する目的で用いられる。分散剤は、赤外線吸収粒子、分散媒、被覆用樹脂原料等の組み合わせである分散系に合わせて選定可能である。中でも、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、ホスホ基、エポキシ基から選択された1種類以上を官能基として有する分散剤を好適に用いることができる。赤外線吸収粒子がタングステン酸化物や複合タングステン酸化物である場合は、分散剤は、アミノ基を官能基として有することがより好ましい。
【0061】
分散剤は、上述のように官能基としてアミノ基を有する、すなわちアミン化合物であることがより好ましい。また、アミン化合物は、三級アミンであることがより好ましい。
【0062】
また、分散剤は赤外線吸収粒子の表面を疎水化処理する目的で用いられるので、高分子材料であることが好ましい。このため、分散剤は、例えば長鎖アルキル基およびベンゼン環から選択された1種類以上を有するものが好ましく、側鎖に被覆用樹脂原料でも使用可能なスチレンと三級アミンであるメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルの共重合体を有する高分子分散剤等をより好ましく用いることができる。長鎖アルキル基は、炭素数8以上のものであることが好ましい。なお、例えば、高分子材料であり、かつアミン化合物である分散剤を用いることもできる。
【0063】
分散剤の添加量は特に限定されず、任意に選択できる。分散剤の好適な添加量は、分散剤や赤外線吸収粒子の種類および赤外線吸収粒子の比表面積などに応じて選択できる。例えば、分散剤の添加量を赤外線吸収粒子100質量部に対して10質量部以上500質量部以下とすれば、特に良好な分散状態の分散液を調製しやすいため好ましい。分散剤の添加量は、10質量部以上100質量部以下とするのがより好ましく、20質量部以上50質量部以下とするのがさらに好ましい。
(c)分散媒
分散媒は、既述の赤外線吸収粒子、および分散剤を分散し、分散液とすることができるものであれば良く、例えば各種有機化合物を用いることができる。
【0064】
分散媒としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0065】
分散液調製工程では、赤外線吸収粒子と、分散剤と、分散媒とを混合することで分散液を調製することができるが、赤外線吸収粒子の分散粒子径を低下させ、分散液内に均一に分散させるため、混合時にあわせて赤外線吸収粒子の粉砕処理を行うことが好ましい。
【0066】
赤外線吸収粒子と、分散剤と、分散媒とを混合、粉砕する際に用いる混合手段としては特に限定されないが、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー、超音波ホモジナイザー等から選択された1種類以上を用いることができる。特に混合手段としては、ビーズ、ボール、オタワサンドといった媒体メディアを用いた、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ペイントシェーカー等の媒体攪拌ミルを用いることがより好ましい。これは、媒体攪拌ミルを用いることで、赤外線吸収粒子について、特に短時間で所望の分散粒子径とすることができ、生産性や、不純物の混入を抑制する観点から好ましいからである。
(2)分散媒低減工程
分散媒低減工程では、分散液から分散媒を蒸発、乾燥させることができる。
【0067】
分散媒低減工程では、分散液から分散媒を十分に蒸発させ、赤外線吸収粒子を回収できることが好ましい。
【0068】
分散媒を蒸発させる具体的な手段は特に限定されないが、例えば、オーブン等の乾燥機や、エバポレーター、真空擂潰機等の真空流動乾燥機、スプレードライ装置等の噴霧乾燥機等を用いることができる。
【0069】
また、分散媒を蒸発させる程度についても特に限定されないが、例えば分散媒低減工程後に、粉末状の赤外線吸収粒子が得られるように、その含有割合を十分に低減できることが好ましい。
【0070】
分散媒を蒸発させることで、赤外線吸収粒子の周囲に分散剤が配置され、表面が疎水化処理された赤外線吸収粒子を得ることができる。このため、係る疎水化処理された赤外線吸収粒子と、被覆用樹脂原料が重合した被覆用樹脂との密着性を高めることが可能になり、後述する重合工程等により、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を配置することが可能になる。
(3)原料混合液調製工程
原料混合液調製工程では、分散媒低減工程後に回収した赤外線吸収粒子と、被覆用樹脂原料と、有機溶媒と、乳化剤と、水と、重合開始剤とを混合し、原料混合液を調製することができる。
【0071】
分散媒低減工程後に回収した赤外線吸収粒子は、その粒子の表面に、分散液調製工程で供給した分散剤が付着し、分散剤含有赤外線吸収粒子となっている場合がある。このため、この様に赤外線吸収粒子に分散剤が付着している場合には、原料混合液調製工程では、赤外線吸収粒子として、分散媒低減工程後に回収した係る分散剤含有赤外線吸収粒子を用いることになる。
【0072】
以下、原料混合液調製工程で用いる赤外線吸収粒子以外の各材料について説明する。
(a)被覆用樹脂原料
被覆用樹脂原料は、後述する重合工程で重合し、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に配置される被覆用樹脂となる。このため、被覆用樹脂原料としては、重合することにより、所望の被覆用樹脂を形成できる各種モノマー等を選択することができる。
【0073】
重合後の被覆用樹脂としては特に限定されず、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化樹脂等から選択された1種類以上の樹脂とすることができる。
【0074】
なお、熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂等を挙げることができる。
【0075】
熱硬化性樹脂としては、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。
【0076】
光硬化樹脂としては、例えば紫外線、可視光線、近赤外線のいずれかの光の照射により硬化する樹脂等を挙げることができる。
【0077】
被覆用樹脂としては特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂から選択された1種類以上を含有することが好ましい。なお、上記ポリウレタン樹脂としては熱可塑性ポリウレタン、熱硬化性ポリウレタンのいずれも用いることができる。
【0078】
また、被覆用樹脂としては、光硬化樹脂も好適に用いることができ、光硬化樹脂は、既述の様に紫外線、可視光線、赤外線のいずれかの光の照射により硬化する樹脂を含有することができる。
【0079】
中でも、被覆用樹脂としては、ミニエマルション重合法を適用可能な樹脂であることが好ましく、例えばポリスチレン樹脂を含有することがより好ましい。なお、被覆用樹脂がポリスチレンの場合、被覆用樹脂原料としてはスチレンを用いることができる。
【0080】
また、架橋剤として、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレートなどの多官能ビニルモノマーを添加することもできる。
(b)有機溶媒
有機溶媒についても特に限定されないが、非水溶性のものであれば何でも良く、特に限定されない。中でも、低分子量であるものが好ましく、例えば、ヘキサデカン等の長鎖アルキル化合物、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル等の、アルキル部分が長鎖のメタクリル酸アルキルエステル、セチルアルコール等の高級アルコール、オリーブ油等の油、等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0081】
有機溶媒としては、特に長鎖アルキル化合物がより好ましく、ヘキサデカンがさらに好ましい。
(c)乳化剤
乳化剤、すなわち界面活性剤については、カチオン性のもの、アニオン性のもの、ノニオン性のもの等のいずれでもよく、特に限定されない。
【0082】
カチオン性の乳化剤としては、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0083】
アニオン性の乳化剤としては、酸塩もしくはエステル塩等を挙げることができる。
【0084】
ノニオン性の乳化剤としては、各種エステル、各種エーテル、各種エステルエーテル、アルカノールアミド等を挙げることができる。
【0085】
乳化剤としては、例えば上述の材料から選択された1種類以上を用いることができる。
【0086】
中でも、赤外線吸収粒子が特に容易に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を形成する観点から、カチオン性の乳化剤、すなわちカチオン性を示す界面活性剤を用いることが好ましい。
【0087】
特に、分散剤としてアミン化合物を用いた場合は、乳化剤として、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド(DTAC)、セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)等から選択された1種類以上のカチオン性のものを用いることが好ましい。
【0088】
また、分散剤としてアミン化合物を用いた場合は、アニオン性の乳化剤であるドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を用いると有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を形成することが困難な場合がある。原料混合液を調製する際、乳化剤は、例えば同時に添加する水に添加し、水溶液として添加することができる。この際、臨界ミセル濃度(CMC)の1倍以上10倍以下の濃度となるように調整した水溶液として添加することが好ましい。
(d)重合開始剤
重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤、イオン重合開始剤等の各種重合開始剤から選択された1種類以上を用いることができ、特に限定されない。
【0089】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物、ジハロゲン、有機過酸化物等を挙げることができる。また、過酸化水素と鉄(II)塩、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス開始剤も挙げることができる。
【0090】
イオン重合開始剤としては、n-ブチルリチウム等の求核剤や、プロトン酸やルイス酸、ハロゲン分子、カルボカチオン等の求電子剤等を挙げることができる。
【0091】
重合開始剤としては例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V-50)、2,2'-アゾビス(2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミジン)(VA-086)等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0092】
原料混合液を調製する際、重合開始剤はその種類に応じて、有機相、または水相に添加することができ、例えば2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を用いる場合は、有機相に添加し、ペルオキソ二硫酸カリウム(KPS)や、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V-50)を用いる場合は水相に添加することができる。
【0093】
原料混合液調製工程では、分散媒低減工程後に回収した赤外線吸収粒子と、被覆用樹脂原料と、有機溶媒と、乳化剤と、水と、重合開始剤とを混合し、原料混合液を調製できればよい。このため、原料混合液の調製手順等は特に限定されないが、例えば、予め水相として、乳化剤を含む混合液を調製しておくことができる。また、有機相として、有機溶媒に被覆用樹脂原料、および分散媒低減工程後に回収した赤外線吸収粒子を分散した混合液を調製しておくことができる。
【0094】
なお、重合開始剤は、上述のように用いる重合開始剤の種類に応じて水相または有機相に添加しておくことができる。
【0095】
そして、水相に有機相を添加、混合することで、原料混合液を調製することができる。
【0096】
赤外線吸収粒子の表面により均一に被覆用樹脂を配置することができるように、水相に有機相を添加した後、十分に攪拌を行うことが好ましい。すなわち、原料混合液調製工程は、分散媒低減工程後に回収した赤外線吸収粒子と、被覆用樹脂原料と、有機溶媒と、乳化剤と、水と、重合開始剤とを混合する混合ステップに加えて、得られた混合液を攪拌する攪拌ステップをさらに有することが好ましい。
【0097】
攪拌ステップでは、例えばスターラーを用いて攪拌を行うことができる。攪拌ステップを実施する場合、攪拌する程度は特に限定されないが、例えば、被覆用樹脂原料に内包した赤外線吸収粒子が水相に分散した水中油滴が形成されるように攪拌を実施することが好ましい。
【0098】
重合開始剤の添加量は特に限定されず、任意に選択できる。重合開始剤の添加量は、被覆用樹脂原料や重合開始剤の種類、ミニエマルションである油滴の大きさ、被覆用樹脂原料と赤外線吸収粒子の比などに応じて選択できる。例えば、重合開始剤の添加量を被覆用樹脂原料に対して0.01mol%以上1000mol%以下とすれば、赤外線吸収粒子を被覆用樹脂で十分に覆った有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を得られやすいため、好ましい。重合開始剤の添加量は、被覆用樹脂原料に対して0.1mol%以上200mol%以下とするのがより好ましく、0.2mol%以上100mol%以下とするのがさらに好ましい。
(4)攪拌工程
攪拌工程では、原料混合液調製工程で得られた原料混合液を冷却しつつ、攪拌することができる。
【0099】
攪拌工程において攪拌する程度については特に限定されるものではなく、任意に選択できる。例えば、被覆用樹脂原料に内包した赤外線吸収粒子が水相に分散したO/W型のエマルションである水中油滴の大きさ、すなわち直径が50nm以上500nm以下程度のミニエマルションとなるように攪拌を行うことが好ましい。
【0100】
ミニエマルションは、有機相に、水にほとんど溶解しない物質、すなわちハイドロフォーブを添加し、強剪断力をかけることにより得られる。ハイドロフォーブとしては、例えば既述の原料混合液調製工程で既述の有機溶媒を挙げることができる。また、強剪断力をかける方法として、例えば、ホモジナイザー等により原料混合液に超音波振動を与える方法が挙げられる。
【0101】
攪拌工程においては、上述のように原料混合液の冷却を行いながら攪拌を行うことが好ましい。これは原料混合液を冷却することで、重合反応が進行することを抑制しつつ、ミニエマルションを形成できるからである。
【0102】
なお、原料混合液を冷却する程度は特に限定されないが、例えば氷浴等により、0℃以下の冷媒を用いて冷却することが好ましい。
(5)重合工程
重合工程では、原料混合液中の酸素量を低減する脱酸素処理を行った後、被覆用樹脂原料の重合反応を行うことができる。
【0103】
重合工程では、被覆用樹脂原料の重合を行い、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を配置することができる。
【0104】
重合工程における条件は特に限定されないが、重合を開始する前に原料混合液内の酸素量を低減する脱酸素処理を行うことができる。脱酸素処理の具体的な方法は特に限定されないが、超音波照射を行う方法や、原料混合液に不活性気体を吹き込む方法等が挙げられる。
【0105】
そして、重合反応を実施する際の具体的な条件は、原料混合液に添加した被覆用樹脂原料等に応じて任意に選択することができるため、特に限定されないが、例えば原料混合液を加熱したり、所定の波長の光を照射等することで、重合反応を進行させることができる。
【0106】
以上に説明した本実施形態の有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法によれば、従来は困難であった、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に樹脂等の有機材料を配置し、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を得ることができる。このため、高温の酸またはアルカリ等の薬品の環境下に晒したとしても、赤外線吸収粒子が直接酸またはアルカリ等の薬品成分と接することを抑制でき、耐薬品特性に優れ、赤外線吸収特性が低下することを抑制することができる。
2.有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子
本実施形態の赤外線吸収繊維で好適に用いることができる有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子について説明する。有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、赤外線吸収粒子と、該赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部を覆う被覆用樹脂とを有することができる。有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、例えば既述の有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法により製造することができる。このため、既に説明した事項の一部については説明を省略する。
【0107】
このように、従来は困難であった、赤外線吸収粒子の表面に、その表面の少なくとも一部を覆う被覆用樹脂を配置することにより、高温の酸またはアルカリ等の薬品の環境下に晒した場合であっても、赤外線吸収粒子が直接酸またはアルカリ等の薬品成分と接することを抑制できる。このため、係る有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を含む本実施形態の赤外線吸収繊維によれば、耐薬品特性に優れ、赤外線吸収特性が低下することを抑制することができる。
【0108】
赤外線吸収粒子については、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法において既に説明したため、説明を省略するが、例えば自由電子を含有する各種材料を含む赤外線吸収粒子を用いることが好ましく、自由電子を含有する各種無機材料を含む赤外線吸収粒子をより好ましく用いることができる。
【0109】
赤外線吸収粒子は、酸素欠損を有するタングステン酸化物、複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含む赤外線吸収粒子を特に好ましく用いることができる。この場合、具体的には、赤外線吸収粒子は、例えば一般式W(W:タングステン、O:酸素、2.2≦z/y≦2.999)で表されるタングステン酸化物、および一般式M(元素MはH、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択された1種類以上、0.001≦x/y≦1、2.0≦z/y≦3.0)で表される複合タングステン酸化物から選択された1種類以上を含有することが好ましい。
【0110】
また、被覆用樹脂についても、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造方法において既に説明したため、ここでは説明を省略するが、例えば熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化樹脂等から選択された1種類以上の樹脂とすることができる。被覆用樹脂としては特に、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂から選択された1種類以上を含有することが好ましい。なお、上記ポリウレタン樹脂としては熱可塑性ポリウレタン、熱硬化性ポリウレタンのいずれも用いることができる。
【0111】
また、被覆用樹脂としては、光硬化樹脂も好適に用いることができ、光硬化樹脂は、既述の様に紫外線、可視光線、赤外線のいずれかの光の照射により硬化する樹脂を好適に用いることができる。
【0112】
中でも、被覆用樹脂としては、ミニエマルション重合法を適用可能な樹脂であることが好ましく、例えばポリスチレン樹脂を含有することがより好ましい。
【0113】
以上に説明した、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、従来は困難であった、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に有機材料である被覆用樹脂を配置している。このため、高温の酸またはアルカリ等の薬品環境下に晒したとしても、赤外線吸収粒子が直接酸またはアルカリ等の薬品成分と接することを抑制できるため、耐薬品特性に優れ、赤外線吸収特性が低下することを抑制することができる。そして、該有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を用いた赤外線吸収繊維も耐薬品特性を備えることができる。
【0114】
本実施形態の赤外線吸収繊維は、ここまで説明した有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子に加えて、繊維を含むことができる。
【0115】
本実施形態の赤外線吸収繊維は、既述の有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を適宜な媒体中に分散させて、当該分散物を繊維の内部、および表面から選択された1以上の部分に含有させることで製造できる。以下、繊維等について説明する。
3.繊維
本実施形態の赤外線吸収繊維が有する繊維は、用途に応じて各種選択可能である。
【0116】
本実施形態の赤外線吸収繊維が有する繊維は、例えば、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維から選択された1種類以上を含むことができる。繊維としては、具体的には例えば、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、および無機繊維からなる繊維群から選択された1種類以上や、上記繊維群から選択された1種類以上の混紡、合糸、混繊等による混合糸から選択された1種類以上等のいずれを使用してもかまわない。有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を簡便な方法で繊維内に含有させることや保温持続性を考慮すると、繊維は合成繊維を含むことが好ましく、合成繊維であることがより好ましい。
【0117】
本実施形態の赤外線吸収繊維が繊維として合成繊維を含む場合、該合成繊維の具体的な種類は、特に限定されない。合成繊維は、例えば、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0118】
ポリアミド系繊維としては、例えばナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612、芳香族ナイロン、アラミド等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0119】
アクリル系繊維としては、例えばポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-塩化ビニル共重合体、モダクリル等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0120】
ポリエステル系繊維としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0121】
ポリオレフィン系繊維としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0122】
ポリビニルアルコール系繊維としては、例えばビニロン等が挙げられる。
【0123】
ポリ塩化ビニリデン系繊維としては、例えばビニリデン等が挙げられる。
【0124】
ポリ塩化ビニル系繊維としては、例えばポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0125】
ポリエーテルエステル系繊維としては、例えばレクセ、サクセス等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0126】
本実施形態の赤外線吸収繊維が繊維として半合成繊維を含む場合、半合成繊維は、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴム等から選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0127】
セルロース系繊維としては、例えばアセテート、トリアセテート、酸化アセテート等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0128】
タンパク質系繊維としては、例えばプロミックス等が挙げられる。
【0129】
本実施形態の赤外線吸収繊維が、繊維として天然繊維を含む場合、天然繊維は、例えば、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維等から選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0130】
植物繊維としては、例えば綿、カポック、亜麻、大麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、やし、いぐさ、麦わら等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0131】
動物繊維としては、例えば羊毛、やぎ毛、モヘヤ、カシミヤ、アルパカ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ等のウール、シルク、ダウン、フェザー等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0132】
鉱物繊維としては、例えば石綿、アスベスト等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0133】
本実施形態の赤外線吸収繊維が、繊維として再生繊維を含む場合、再生繊維は、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維等から選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0134】
セルロース系繊維としては、例えばレーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック、銅アンモニアレーヨン等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0135】
タンパク質系繊維としては、例えばカゼイン繊維、落花生タンパク繊維、とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維、再生絹糸等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0136】
本実施形態の赤外線吸収繊維が、繊維として無機繊維を含む場合、無機繊維は、例えば、金属繊維、炭素繊維、けい酸塩繊維等から選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0137】
金属繊維としては、例えば金属繊維、金糸、銀糸、耐熱合金繊維等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0138】
けい酸塩繊維としては、例えばガラス繊維、鉱さい繊維、岩石繊維等から選択された1種類以上が挙げられる。
【0139】
本実施形態の赤外線吸収繊維が有する繊維の断面形状は特に限定されないが、例えば、円形、三角形、中空状、偏平状、Y型、星型、芯鞘型等から選択された1種類以上が挙げられる。なお、本実施形態の赤外線吸収繊維は異なる断面形状の繊維を同時に含有することもできる。
【0140】
繊維の内部および表面から選択された1以上の部分への、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の配置は、繊維の断面形状等に応じて種々の態様で可能である。例えば繊維の断面形状が芯鞘型の場合、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を繊維の芯部に含有しても、鞘部に含有してもかまわない。また、本実施形態の赤外線吸収繊維が有する繊維の形状は、フィラメント(長繊維)であっても、ステープル(短繊維)であってもかまわない。
4.添加剤
本実施形態の赤外線吸収繊維は、含有する繊維の性能を損なわない範囲内で、目的に応じて、酸化防止剤、難燃剤、消臭剤、防虫剤、抗菌剤、紫外線吸収剤等を含有できる。
【0141】
また、本実施形態の赤外線吸収繊維は、赤外線吸収材料に加え、遠赤外線を放射する能力を有する粒子をさらに含有することもできる。遠赤外線を放射する能力を有する粒子は、例えば繊維の内部および表面から選択された1以上の部分に配置できる。遠赤外線を放射する能力を有する粒子としては、例えば、ZrO、SiO、TiO、Al、MnO、MgO、Fe、CuO等の金属酸化物、ZrC、SiC、TiC等の炭化物、ZrN、Si、AlN等の窒化物等から選択された1種類以上を好適に用いることができる。
【0142】
本実施形態の赤外線吸収繊維が有する、赤外線吸収材料であり、近赤外線吸収材料でもある有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、波長0.3μm以上3μm以下の太陽光エネルギーを吸収する性質をもっており、特に波長0.9μm以上2.2μm以下付近の近赤外領域を選択的に吸収して、熱に変換、もしくは再輻射する。
【0143】
一方、上述の遠赤外線を放射する粒子は、近赤外線吸収材料である有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子が吸収したエネルギーを受け取り、当該エネルギーを中・遠赤外線波長の熱エネルギーに転換、放射する能力を有している。例えば、ZrO粒子は、このエネルギーを波長2μm以上20μm以下の熱エネルギーに転換、放射する。従って、当該遠赤外線を放射する能力を有する粒子と、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子とが、繊維内や表面で共存することにより、例えば有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子に吸収された太陽光エネルギーが繊維内部・表面で効率良く消費され、より効果的な保温がなされる。
【0144】
本実施形態の赤外線吸収繊維は、既述の様に、繊維の内部、および表面から選択された1以上の部分に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を配置できる。すなわち、繊維の内部と表面との両方、もしくは繊維の内部または表面のいずれかに有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を配置できる。
【0145】
そして、既述の様に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は耐薬品性に優れるため、該有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を含む本実施形態の赤外線吸収繊維についても耐薬品性に優れたものとすることができる。
[赤外線吸収繊維の製造方法]
本実施形態の赤外線吸収繊維の製造方法は特に限定されず、繊維の表面および内部から選択された1以上の部分に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を配置することで製造できる。
【0146】
例えば、以下の(a)~(d)の製造方法等により、本実施形態の赤外線吸収繊維を製造できる。
【0147】
(a)合成繊維の原料ポリマーへ、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を直接混合して紡糸する方法。
(b)あらかじめ原料ポリマーの一部へ有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を高濃度に含有せしめたマスターバッチを製造し、これを紡糸時に所定の濃度に希釈調整してから紡糸する方法。
(c)有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を、あらかじめ原料モノマーまたはオリゴマー溶液中に均一に分散させておき、この分散液を用いて目的とする原料ポリマーを合成すると同時に、当該有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を原料ポリマー中に分散せしめた後、紡糸する方法。
【0148】
(d)あらかじめ紡糸して得られた繊維の表面へ、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を結合剤などを用いて付着させる方法。
ここで、上述した本実施形態の赤外線吸収繊維が有する繊維に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を含有させる上記(a)~(d)の製造方法について、具体的に例を挙げて説明する。
【0149】
(a)の方法:
例えば、繊維としてポリエステル繊維を用いる場合を例に説明する。
熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子分散液を添加し、ブレンダーで均一に混合した後、溶媒を除去する。当該溶媒を除去した混合物を二軸押出機で溶融混練し、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子含有マスターバッチを得る。この有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子含有マスターバッチを、樹脂の溶融温度付近で溶融混合し、例えば公知の各種方法に従って紡糸する。
【0150】
この際、ポリエチレンテレフタレート樹脂への有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の分散性を向上させるために、分散剤を添加することができる。分散剤は、ポリエチレンテレフタレート樹脂や、該樹脂を含むマスターバッチを紡糸して得られた繊維中に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を分散できるものであれば良く、限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂に適用される分散剤は、特に限定されるものではなく、例えば高分子分散剤であることが好ましく、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリスチレン系、脂肪族系から選択されるいずれかの主鎖、あるいはポリエステル系、ポリエーテル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリスチレン系、脂肪族系から選択される2種類以上の単位構造が共重合した主鎖を有する分散剤、等であることがより好ましい。
【0151】
また、分散剤は、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、カルボキシル基を含有する基、スルホ基、りん酸基、または、エポキシ基から選択される1種類以上を官能基として有することが好ましい。特にアミンを含有する基を官能基として有するポリアクリル系が好ましい。上述のいずれかの官能基を有する分散剤は、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の表面に吸着し、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の凝集をより確実に防ぐことができる。従って、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子をより均一に分散させることができるため、好適に用いることができる。
【0152】
このような分散剤には、日本ルーブリゾール株式会社製ソルスパース(登録商標)(以下同じ)9000、12000、17000、20000、21000、24000、26000、27000、28000、32000、35100、54000、ソルシックス250、エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)4008、EFKA4009、EFKA4010、EFKA4015、EFKA4046、EFKA4047、EFKA4060、EFKA4080、EFKA7462、EFKA4020、EFKA4050、EFKA4055、EFKA4585、EFKA4400、EFKA4401、EFKA4402、EFKA4403、EFKA4300、EFKA4320、EFKA4330、EFKA4340、EFKA6220、EFKA6225、EFKA6700、EFKA6780、EFKA6782、EFKA8503、味の素ファインテクノ株式会社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB821、アジスパーPB822、アジスパーPB824、アジスパーPB881、フェイメックスL-12、ビックケミー・ジャパン株式会社製DisperBYK(登録商標)(以下同じ)101、DisperBYK106、DisperBYK108、DisperBYK116、DisperBYK130、DisperBYK140、DisperBYK142、DisperBYK145、DisperBYK161、DisperBYK162、DisperBYK163、DisperBYK164、DisperBYK166、DisperBYK167、DisperBYK168DisperBYK171、DisperBYK180、DisperBYK182、DisperBYK2000、DisperBYK2001、DisperBYK2009、DisperBYK2013、DisperBYK2022、DisperBYK2025、DisperBYK2050、DisperBYK2155、DisperBYK2164、BYK350、BYK354、BYK355、BYK356、BYK358、BYK361、BYK381、BYK392、BYK394、BYK300、BYK3441、楠本化成株式会社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1831、ディスパロン1850、ディスパロン1860、ディスパロンDA-400N、ディスパロンDA-703-50、ディスパロンDA-725、ディスパロンDA-705、ディスパロンDA-7301、ディスパロンDN-900、ディスパロンNS-5210、ディスパロンNVI-8514L、大塚化学株式会社製TERPLUS(登録商標) MD1000、D 1180、D 1130が挙げられる。
【0153】
(b)の方法:
(a)と同様の方法などを活用して、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子含有マスターバッチを作製し、該マスターバッチと、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子無添加のポリエチレンテレフタレートよりなるマスターバッチとを、所望の混合比となるように、樹脂の溶融温度付近で溶融混合し公知の方法に従って紡糸する。
【0154】
(c)の方法:
例えば、繊維としてウレタン繊維を用いる場合を例に説明する。
【0155】
有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を含有した高分子ジオールと有機ジイソシアネートとを、二軸押出機内で反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを合成した後、ここへ鎖伸長剤を反応させてポリウレタン溶液(原料ポリマー)を製造する。当該ポリウレタン溶液を各種公知の方法に従って紡糸する。
【0156】
(d)の方法:
例えば、天然繊維の表面に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を付着させる場合を例に説明する。
まず有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子と、アクリル、エポキシ、ウレタン、ポリエステルから選択された1種類以上のバインダー樹脂と、水などの溶媒と、を混合した処理液を調製する。
【0157】
次に、調製された処理液に天然繊維を浸漬させるか、調製された処理液をパディング、印刷またはスプレー等により当該天然繊維へ含浸させ、乾燥する。これにより、当該天然繊維に有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を付着させることができる。そして(d)の方法は、上述した天然繊維の他、半合成繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの混紡、合糸、混繊等のいずれにも適用することができる。
【0158】
なお、(a)~(d)の方法を実施する際、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を分散媒に分散する分散方法は特に限定されず、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を液体、すなわち分散媒中に均一分散させることができる方法であればいかなる方法でもよい。例えば、媒体攪拌ミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散などの方法が好適に適用できる。
【0159】
また、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の分散媒は特に限定されるものではなく、混合する繊維に合わせて選択可能であり、例えば、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、芳香族化合物などの一般的な各種有機溶媒や、水から選択された1種類以上を用いることができる。
【0160】
さらに、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を繊維やその原料となるポリマーに付着、混合させる際には、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の分散液を、繊維やその原料となるポリマーに直接混合してもかまわない。また必要に応じて、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の分散液に酸やアルカリを添加してpHを調整しても良いし、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤などを添加することもできる。
【0161】
本実施形態の赤外線吸収繊維が含有する有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の含有量は特に限定されない。例えば、本実施形態の赤外線吸収繊維の、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の含有割合は、0.001質量%以上80質量%以下であることが好ましい。さらに、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子添加後の赤外線吸収繊維の重量や原料コストを考慮した場合は、赤外線吸収繊維の、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の含有割合は、0.005質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。
【0162】
赤外線吸収繊維の、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の含有割合が0.001質量%以上の場合、例えば該赤外線吸収繊維を用いた生地が薄くても十分な赤外線吸収効果を得ることができる。
【0163】
また、赤外線吸収繊維の、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の含有割合が80質量%以下であれば、紡糸工程でフィルターへの目塞がりや糸切れ等による可紡性の低下を回避できるため好ましく、特に50質量%以下であればさらに好ましい。また、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の添加量が少なくてすむので、繊維の物性をほとんど損なうことがないため好ましい。
【0164】
以上に説明したように、本実施形態に係る赤外線吸収繊維によれば、繊維の内部や表面に赤外線吸収粒子を配置することにより、太陽光などからの赤外線を効率良く吸収し、保温性に優れた繊維を提供できる。また、本実施形態に係る赤外線吸収繊維は、耐薬品特性が高いため、高温の酸またはアルカリ等の薬品環境下に晒されても赤外線吸収特性は低下しない。この結果、本実施形態に係る赤外線吸収繊維は、保温性を必要とする防寒衣料、スポーツ用衣料、ストッキング、カーテン等の繊維製品やその他産業用繊維製品等の種々の用途に使用することができる。
[繊維製品]
本実施形態の繊維製品は、既述の赤外線吸収繊維を加工してなり、既述の赤外線吸収繊維を含むことができる。なお、本実施形態の繊維製品は既述の赤外線吸収繊維からなることもできる。
【0165】
既述の赤外線吸収繊維を含む本実施形態の繊維製品は、可視光吸収率が20%以下、且つ日射吸収率が47%以上の優れた特性を有する。可視光吸収率が20%以下、且つ、日射吸収率が47%以上であることは、当該繊維製品は淡色で、赤外線吸収効果が優れていることを示す。
【0166】
本実施形態の赤外線吸収繊維を含む本実施形態の繊維製品は、耐薬品特性に優れており、例えば80℃に保持した0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に30分間浸漬しても、上述の日射吸収率は47%以上を維持している。すなわち、本実施形態の繊維製品は、耐薬品特性を有することができる。
【実施例
【0167】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0168】
なお、実施例、比較例で得られた繊維製品の光学特性は、分光光度計U-4100(日立製作所株式会社製)を用いて測定した。可視光透過率、可視光反射率、日射透過率、日射反射率は、JIS R 3106に従って測定を行った。
【0169】
赤外線吸収粒子の結晶子径の測定には、赤外線吸収粒子の分散液から溶媒を除去して得られる赤外線吸収粒子の乾粉を用いた。そして当該赤外線吸収粒子のX線回折パターンを、粉末X線回折装置(スペクトリス株式会社PANalytical製X'Pert-PRO/MPD)を用いて粉末X線回折法(θ-2θ法)により測定した。得られたX線回折パターンから当該赤外線吸収粒子に含まれる結晶構造を特定し、さらにリートベルト法を用いて結晶子径を算出した。
[実施例1]
以下の手順により赤外線吸収繊維、繊維製品を作製し、評価を行った。
1.有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造
以下の工程に従い、赤外線吸収繊維に用いる有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子の製造を行った。
(分散液調製工程)
分散液調製工程では、赤外線吸収粒子と、分散剤と、分散媒とを含む分散液を調製した。
【0170】
赤外線吸収粒子としては、セシウム(Cs)と、タングステン(W)との物質量の比が、Cs/W=0.33である、六方晶セシウムタングステンブロンズ(Cs0.33WO、2.0≦z≦3.0)を含む複合タングステン酸化物粉末(住友金属鉱山株式会社製YM-01)を用意した。
【0171】
分散剤としては、スチレンとメタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチルの共重合体である高分子分散剤を用意した。
【0172】
また、分散媒としては、トルエンを用意した。
【0173】
そして、赤外線吸収粒子を10質量%と、分散剤を3質量%と、分散媒を87質量%とを混合して得られた混合液を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し10時間粉砕・分散処理し、実施例1に係るCs0.33WO粒子の分散液を得た。
(分散媒低減工程)
分散液調製工程で得られたCs0.33WO粒子の分散液からエバポレーターを用いて分散媒のトルエンを除去し、赤外線吸収粒子を回収した。回収した赤外線吸収粒子は、高分子分散剤を含有するCs0.33WO粒子の乾粉となる。
【0174】
回収した赤外線吸収粒子、すなわちCs0.33WO粒子の結晶子径を測定したところ16nmであった。
【0175】
なお、結晶子径は、既述の方法により測定、算出した。
(原料混合液調製工程)
分散媒低減工程で得られた赤外線吸収粒子0.05gと、被覆用樹脂原料であるスチレン1.0gと、有機溶媒であるヘキサデカン0.065gとを混合し、有機相を形成した。
【0176】
また、上記有機相とは別に、乳化剤であるドデシルトリメチルアンモニウムクロライドと、重合開始剤である2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V-50)0.013gと、水とを混合し、水相10gを形成した。なお、水相を形成する際、臨界ミセル濃度の1.5倍濃度となるように、乳化剤であるドデシルトリメチルアンモニウムクロライドを水に添加した。また、重合開始剤は、有機相に添加したスチレンに対して0.5mol%となるように添加した。
【0177】
その後、水相に有機相を添加することで、原料混合液を調製した。
(攪拌工程)
原料混合液調製工程で調製した原料混合液に対して、氷浴下で冷却しながら高出力超音波を15分間照射し、ミニエマルションを得た。
(重合工程)
攪拌工程後、原料混合液に対して、氷浴下で窒素バブリングを15分間行い、脱酸素処理を行った。
【0178】
その後、窒素雰囲気下70℃で6時間の加熱処理を施してスチレンの重合反応を進め、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子分散液を得た。
【0179】
得られた有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を含む分散液を希釈し、TEM観察用のマイクログリッドに転写し、転写物のTEM観察を実施した。TEM像を図2に示す。TEM像から、赤外線吸収粒子である黒色に写る複合タングステン酸化物を含む粒子21は、被覆用樹脂である灰色に写るポリスチレンの被膜22に内包され、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子23を形成していることを確認した。なお、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を目視で確認したところ、淡色であることを確認できた。また、図2ではマイクログリッド24も写っているが、これは有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を構成するものではない。
2.赤外線吸収繊維の製造
得られた有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子分散液と水溶性のアクリル系のバインダー樹脂とを混合し、処理液を調製した。次に、調製された処理液にポリエステル系繊維を含侵させて乾燥することで、有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子が付着した実施例1に係る赤外線吸収繊維を作製した。
3.繊維製品の製造
得られた赤外線吸収繊維を切断してポリエステルステープルを作製し、これを用いて紡績糸を製造した。そして、この紡績糸を用いて実施例1に係るニット製品を得た。なお、作製されたニット製品試料の日射吸収率は50%前後となるように調整した。以下の比較例においても同様に調整した。
4.繊維製品の評価
実施例1に係る繊維製品の光学特性を、上述の方法により測定した。当該可視光吸収率と日射吸収率は、可視光吸収率(%)=100%-可視光透過率(%)-可視光反射率(%)および日射吸収率(%)=100%-日射透過率(%)-日射反射率(%)から算出した。算出された可視光吸収率と日射吸収率は、それぞれ18%と51%であった。また、ニット製品の色調を目視で確認したところ、淡色であった。
5.耐アルカリ性の評価
実施例1に係る繊維製品を、80℃に保持した0.01mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に30分間浸漬し、耐アルカリ性試験を行った。その後、再度光学特性を測定した。
【0180】
耐アルカリ性試験後の可視光吸収率と日射吸収率は、それぞれ17%と53%であった。耐アルカリ性試験前後で比較したとき、可視光吸収率と日射吸収率の差は、それぞれ1%と2%であった。当該評価結果を表1に示す。
【0181】
すなわち耐アルカリ性試験前後における赤外線吸収繊維の光の吸収率に大きな変化は無いことが確認できた。従って、本実施例で得られた赤外線吸収繊維や、繊維製品は耐薬品特性、特に耐アルカリ特性を有することを確認できた。
[比較例1]
分散液調製工程では、赤外線吸収粒子と、分散媒とを含む分散液を調製した。
【0182】
赤外線吸収粒子としては、セシウム(Cs)と、タングステン(W)との物質量の比が、Cs/W=0.33である、六方晶セシウムタングステンブロンズ(Cs0.33WO、2.0≦z≦3.0)を含む複合タングステン酸化物粉末(住友金属鉱山株式会社製YM-01)を用意した。
【0183】
分散媒としては、純水を用意した。
【0184】
そして、赤外線吸収粒子を10質量%と、分散媒を90質量%とを混合して得られた混合液を、0.3mmφZrOビーズを入れたペイントシェーカーに装填し10時間粉砕・分散処理し、比較例1に係るCs0.33WO粒子の分散液を得た。
【0185】
分散液調製工程で得られたCs0.33WO粒子の分散液からエバポレーターを用いて分散媒の純水を除去し、赤外線吸収粒子を回収した。回収した赤外線吸収粒子は、Cs0.33WO粒子の乾粉となる。
【0186】
回収した赤外線吸収粒子、すなわちCs0.33WO粒子の結晶子径を測定したところ16nmであった。
【0187】
なお、結晶子径は、既述の方法により測定、算出した。
【0188】
実施例1の有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子分散液の代わりに、上記分散液調製工程で調製した、比較例1に係るCs0.33WO粒子の分散液を用いた点以外は実施例1と同様の操作をして、比較例1に係る赤外線吸収繊維、繊維製品を得た。得られた繊維製品について実施例1と同様に評価した。当該評価結果を表1に示す。
【0189】
【表1】
以上の表1に示した繊維製品の耐アルカリ性試験前後の光学特性の評価の結果から、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂を配置した、実施例1の有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を用いた繊維製品では、試験前後で光の吸収特性に大きな変化がないことを確認できた。
【0190】
このため、実施例1の有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子を用いた赤外線吸収繊維や、該赤外線吸収繊維を含む繊維製品は、耐アルカリ性、すなわち耐薬品特性に優れ、かつ赤外線吸収特性に優れることを確認できた。ここでは耐アルカリ性試験のみを実施したが、これらの有機無機ハイブリッド赤外線吸収粒子は、赤外線吸収粒子の表面の少なくとも一部に被覆用樹脂が配置されているため、同様に耐酸性特性も備えている。
【0191】
一方、比較例1の赤外線吸収粒子を用いた繊維製品では、耐アルカリ性試験後に赤外線吸収特性が消失しており、耐アルカリ性を有していないことを確認できた。
図1
図2