(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】単結晶製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 23/06 20060101AFI20231011BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C30B23/06
C30B29/36 A
(21)【出願番号】P 2019213012
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】野口 駿介
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
【審査官】本多 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201584(JP,A)
【文献】特開2005-053739(JP,A)
【文献】特開平08-295595(JP,A)
【文献】特開2009-280463(JP,A)
【文献】特開2001-114599(JP,A)
【文献】特開2008-290903(JP,A)
【文献】特開2011-251885(JP,A)
【文献】特開2019-189498(JP,A)
【文献】国際公開第2006/098288(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109811413(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
坩堝と、坩堝を囲む加熱手段を備え、
前記坩堝は、内部に隔離部材を有し、
前記隔離部材は、前記坩堝の内部を第1成長空間と第2成長空間とに区分し、
前記第2成長空間は、前記第1成長空間を囲み、
前記第1成長空間と前記第2成長空間は、それぞれ別々に底部に原料を設置でき、
前記第1成長空間は、原料から昇華したガスが、原料に対して第1方向の位置に配置された種結晶の表面で再結晶化する空間であり、
前記第2成長空間は、前記第2成長空間内の原料を基準に第1方向の位置、かつ、前記種結晶の周囲の位置でガスが再結晶化する空間である、単結晶製造装置。
【請求項2】
前記第2成長空間は、前記第1成長空間を第1方向の全長にわたって囲む、請求項1に記載の単結晶製造装置。
【請求項3】
前記第1成長空間と前記第2成長空間とで充填される原料が異なる、請求項1または2に記載の単結晶製造装置。
【請求項4】
前記第1成長空間の底部と前記第2成長空間の底部の前記第1方向における位置が異なる、請求項1~3のいずれか一項に記載の単結晶製造装置。
【請求項5】
前記加熱手段は、第1加熱手段と、第2加熱手段と、を備え、
前記第1加熱手段は、前記第1成長空間内の原料を加熱し、
前記第2加熱手段は、前記第2成長空間内の原料を加熱する、請求項4に記載の単結晶製造装置。
【請求項6】
前記第1成長空間の底部は、前記第2成長空間の底部よりも前記坩堝の蓋に近い位置にある、請求項4または5に記載の単結晶製造装置。
【請求項7】
前記第1加熱手段は、前記坩堝よりも外側に配置され、
前記第2加熱手段は、前記坩堝よりも内側に配置される、請求項
5に記載の単結晶製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きく、熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。炭化珪素はこれらの特性を有することから、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
炭化珪素には、化学量論的には同じ組成でありながら、原子の積層の周期が(C軸方向にのみ)異なる多くの結晶多形(ポリタイプ)が存在する。代表的なポリタイプは、3C、4H、6Hなどであるが、特に4H-SiC単結晶はバンドギャップと飽和電子速度の特性が良いことなどから、光デバイスや電子デバイスの中心的な基板材料となっている。
【0004】
SiC単結晶を製造する方法の一つとして、昇華法が広く知られている。昇華法は、黒鉛製の坩堝内に配置した台座にSiC単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱することで坩堝内の原料粉末から昇華した昇華ガスを種結晶に供給し、種結晶をより大きなSiC単結晶へ成長させる方法である。昇華法では、高品質なSiC単結晶を、効率的に結晶成長させることが求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、坩堝の種結晶貼付部に種結晶を貼付け、種結晶貼付部と対向する位置にSiC原料を配置し、SiC原料を昇華させることで、種結晶上にSiC単結晶を成長させる方法が記載されている。この方法では、成長させるSiC単結晶の周囲を囲む周辺部に、SiC単結晶と同等の高さとなるようにSiC多結晶を成長させている。引用文献1には、当該構成により、成長させるSiC単結晶の成長表面の温度分布がほぼ均一となることが記載されている。
【0006】
また、例えば、特許文献2には、坩堝の蓋材に種結晶を貼り付け、種結晶を貼り付けた部分から径方向に離間して円筒形の遮蔽部を設置する単結晶製造装置を用いた単結晶の製造方法が開示されている。この方法では、種結晶からSiC単結晶が成長すると同時に円筒形の遮蔽部の径方向内側および外側にSiC多結晶が成長する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4450118号公報
【文献】特開2009-91172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の方法では、十分にSiC単結晶の結晶成長面の温度をコントロールすることができない。また、SiC単結晶成長中にSiC単結晶と、SiC単結晶の周囲で成長するSiC多結晶と、が接触し、異種多形が発生する場合がある。
【0009】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、単結晶の結晶成長面の温度を制御しつつ、異種多形の発生を抑制することができる単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の第一の態様に係る単結晶製造装置は、坩堝と、坩堝を囲む加熱手段を備え、前記坩堝は、内部に隔離部材を有し、前記隔離部材は、前記坩堝の内部を第1成長空間と第2成長空間とに区分し、前記第2成長空間は、前記第1成長空間を囲み、前記第1成長空間と前記第2成長空間は、それぞれ別々に底部に原料を設置でき、前記第1成長空間は、原料から昇華したガスが原料に対して第1方向の位置に配置された種結晶の表面で再結晶化する空間であり、前記第2成長空間は、前記第2成長空間内の原料を基準に第1方向の位置、かつ、前記種結晶の周囲の位置でガスが再結晶化する空間である。
【0012】
(2)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記第2成長空間は、前記第1成長空間を第1方向の全長にわたって囲んでいてもよい。
【0013】
(3)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記第1成長空間と前記第2成長空間とで充填される原料は異なっていてもよい。
【0014】
(4)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記第1成長空間の底部と前記第2成長空間の底部の前記第1方向における位置が異なっていてもよい。
【0015】
(5)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記加熱手段は、第1加熱手段と、第2加熱手段と、を備え、前記第1加熱手段は、前記第1成長空間内の原料を加熱し、前記第2加熱手段は、前記第2成長空間内の原料を加熱してもよい。
【0016】
(6)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記第1成長空間の底部は、前記第2成長空間の底部よりも前記坩堝の蓋に近い位置にあってもよい。
【0017】
(7)上記態様に係る単結晶製造装置において、前記第1加熱手段は、前記坩堝よりも外側に配置され、前記第2加熱手段は、前記坩堝よりも内側に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の単結晶製造装置によれば、単結晶の結晶成長面の温度を制御しつつ、異種多形の発生を抑制することができる。その結果、高品質の単結晶を高歩留まりで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置において蓋部に種結晶を貼り付ける方法の一例である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係る単結晶製造装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、数、配置、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
[単結晶製造装置]
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る単結晶製造装置100の構成を概略的に示す断面模式図である。単結晶製造装置100は、坩堝2と坩堝2を囲む加熱手段Hとを備える。本実施形態に係る単結晶製造装置100は、加熱手段Hにより坩堝2を加熱し、昇華法により単結晶を成長する際に用いられる。
図1では、単結晶製造装置100を用いてSiC単結晶を成長する様子を示している。また、
図1では理解を容易にするために、原料M1、M2、種結晶SD、SiC単結晶S1、SiC多結晶S2を同時に図示している。
【0022】
まず、方向について定義する。坩堝2内において原料M1から種結晶SDに向かう方向をz方向(第1方向)とする。また、z方向に対して垂直で、坩堝2の中心から広がる方向を径方向(第2方向)とする。
図1は、坩堝2の中心軸を通る任意の断面で切断した断面模式図である。
【0023】
坩堝2は、任意の形状をした部材であるが、例えば円柱形の部材である。坩堝2は、蓋部2aと底部2bと側壁2cと隔離部材3とを有する。例えば、坩堝2のうち蓋部2a及び隔離部材3は、坩堝2から分離可能である。坩堝2は、SiC単結晶S1を成長する際の高温に耐えることができる材料からなる。これらの材料は、例えば、黒鉛、表面が高融点金属または金属炭化物で被覆された黒鉛である。黒鉛は昇華温度が3550℃と極めて高く、SiC単結晶S1の成長時の高温にも耐えることができる。金属炭化物は、例えば、Ta、Nb、Wのいずれかの炭化物である。
【0024】
隔離部材3は、蓋部2a、底部2b、側壁2cに囲まれる空間の内部にある。隔離部材3は、坩堝2の内部を第1成長空間R1と、第2成長空間R2と、に区分する。隔離部材3は、例えば、厚さが1mm以上30mm以下の部材であり、3mm以上20mm以下であることが好ましく、5mm以上10mm以下であることがより好ましい。隔離部材3は、薄すぎると、昇華したガスが透過してしまう恐れがあるが、上記範囲内であることで、昇華したガスが透過することを抑制する。また、隔離部材3は、厚すぎると均熱性を損なう場合がある。しかしながら、隔離部材3の厚さが、所定値以下であることでSiC単結晶S1の成長面周辺の温度分布がばらつくことを抑制することができる。
【0025】
隔離部材3は、任意の形状をした部材である。隔離部材3は、対称性の観点から円筒形の部材であることが好ましい。隔離部材3は、蓋部2aおよび底部2bに接触する。すなわち、隔離部材3は、坩堝2の内部に第1方向の全長にわたって設置されている。
【0026】
第1成長空間R1は、隔離部材3と蓋部2aと底部2bとにより囲まれた空間である。本実施形態では、便宜上蓋部2aのうち、第1成長空間R1を囲む部分を第1蓋部2aaという場合がある。また本実施形態では、便宜上底部2bのうち、第1成長空間R1を囲む部分を第1底部2baという場合がある。第1蓋部2aaには種結晶(単結晶)SDが設置され、第1成長空間R1の第1底部2baにはSiC単結晶S1を成長するための原料M1が収容される。すなわち、第1成長空間R1は、原料M1に対してz方向に種結晶SDを設置できる。第1成長空間R1は、原料M1から昇華したガスが種結晶SDの表面で再結晶化する空間である。
【0027】
第1成長空間M1に収容される原料は、例えば、粉末状のSiCである。原料M1に用いられるSiCは、例えば、3C、2H、4H、6H、15Rのいずれかの結晶構造を含む結晶である。原料M1の粒径は、例えば1000μm以下である。
【0028】
種結晶SDは、径方向中心が坩堝2の径方向中心に一致するよう配置されることが好ましい。坩堝2の径方向中心と隔離部材3との最短距離w1と種結晶SDの半径w0との比(w1/w0)は、1.0以上2.0以下であることが好ましく、1.0より大きく1.5以下であることがより好ましい。比(w1/w0)が所定値以下であると、成長するSiC単結晶S1とSiC多結晶S2との距離が近くなるためSiC多結晶S2がSiC単結晶S1の成長面の温度分布に与える寄与が大きくなる。
【0029】
第2成長空間R2は、蓋部2aと底部2bと側壁2cと隔離部材3により囲まれた空間である。第2成長空間R2は、第1成長空間R1とは接続されておらず、第1成長空間R1とは別空間である。本実施形態では、便宜上蓋部2aのうち、第2成長空間R2を囲む部分を第2蓋部2abという場合がある。また、本実施形態では、便宜上底部2bのうち、第2成長空間R2を囲む部分を第2底部2bbという場合がある。第2成長空間R2は、第1成長空間R1をz方向の全長にわたって囲む。すなわち第2成長空間R2は、蓋部2aから底部2bまでz方向のいずれの位置においても第1成長空間R1を囲む。第2成長空間R2には、SiC多結晶S2を成長するための原料M2が設置される。第2成長空間R2に収容される原料M2は、例えば、原料M1と同じ材料である。コスト抑制の観点から、原料M2は、原料M1よりも低純度のSiC原料を用いてもよい。第2成長空間R2は、原料M2から第1方向の位置、かつ、種結晶SDの周囲の位置で、ガスが再結晶化する空間である。
【0030】
第2成長空間R2の径方向における幅w2と、第1成長空間R1のz方向から平面視した際の中心(坩堝2の径方向中心)と隔離部材3との最短距離w1との比(w1/w2)は、1以上10以下であることが好ましく、2以上9以下であることがより好ましく、3以上7以下であることがさらに好ましい。第1成長空間R1に対する第2成長空間R2の大きさを当該範囲に設定することで、SiC単結晶S1とSiC多結晶S2との成長量のバランスを維持しながらSiC単結晶S1を成長することができる。
【0031】
第2成長空間R2には、SiC単結晶からなる種結晶を設置し、種結晶上にSiC単結晶を成長してもよい。種結晶は、任意の形状であり、任意に配置される。
図2は、蓋部2aに種結晶SD2を貼り付ける配置の一例である。種結晶SD2は、
図2(a)に示すように種結晶SDの周囲を囲むように配置される円環形状のSiC単結晶であってもよいし、
図2(b)に示すように種結晶SDの周囲を部分的に囲むように配置される円状の複数のSiC単結晶であってもよい。第2成長空間R2に種結晶を設置すると、第2成長空間R2内で再結晶化する結晶も単結晶となる。第2成長空間R2内で再結晶化する結晶が単結晶となると、熱伝導率、熱輻射率等がSiC単結晶S1と同じとなる。その結果、SiC単結晶S1の成長面の温度分布をより精密に制御できる。
【0032】
加熱手段Hは、坩堝2の周囲を囲むように配置されている。加熱手段Hとしては例えば、高周波コイルを用いることができる。この場合、高周波電流を流すことにより磁界を発生させて、電磁誘導によって坩堝2を発熱させることができる。加熱手段Hの構成は、これに限らず、加熱手段Hと坩堝2との間に発熱体を設け、間接加熱方式にて坩堝2を加熱する構成であってもよい。
【0033】
第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置100によれば、SiC単結晶S1の結晶成長面の温度を制御しつつ、異種多形の発生を抑制することができる。
具体的には、単結晶製造装置100は、SiC単結晶S1の成長面など、SiC単結晶の周囲の温度分布を均一にすることができる。そのため、高品質なSiC単結晶S1を成長することができる。また、第1成長空間R1と第2成長空間R2とが区分されており、SiC単結晶S1の成長量とSiC多結晶S2(またはSiC単結晶S2)との成長量のバランスを制御することができる。従って、SiC単結晶S1の結晶成長面の温度を制御しつつ結晶成長面の温度分布均一性をより向上することができる。
【0034】
以下に、SiC単結晶製造装置100の作用を説明する。
まず、
図1に示すように、第1成長空間R1内に原料M1、第2成長空間R2内に原料M2を収容する。そして、第1成長空間R1の原料M1と対向する位置に種結晶SDを設置する。種結晶SDは、例えば、カーボン接着剤を用いて蓋部2aに接着してもよい。例えば、蓋部2aの一面にカーボン接着剤を塗布し、その上に種結晶SDを配置した後、種結晶SDの上に錘を載せ、加熱しながらカーボン接着剤を硬化する。種結晶SDに加える圧力は、例えば、5g/cm
2である。加熱温度は、例えば、200℃である。加熱時間は、例えば、30分以上である。
【0035】
次いで、加熱手段Hによって、原料M1およびM2を加熱する。原料M1およびM2は、加熱されると昇華する。原料M1から昇華した原料ガスは種結晶SDに向い、SiC単結晶S1が成長する。同時に、原料M2から昇華した原料ガスは、第2蓋部2abに向い、SiC多結晶S2が成長する。SiC単結晶とSiC多結晶とは、熱伝導率が近い。そのため、SiC単結晶S1の周囲にSiC多結晶S2が成長することで、SiC単結晶S1の周囲で温度分布均一性が高まる。
【0036】
またSiC種結晶SDの半径w0と、坩堝2の径方向中心と隔離部材3との最短距離w1と第2成長空間R2の径方向における幅w2とを設定すると、z方向におけるSiC単結晶S1表面の位置とSiC多結晶S2表面の位置とが均一にできる。SiC単結晶S1とSiC多結晶S2のそれぞれの成長量のバランスが制御されるためである。SiC単結晶S1とSiC多結晶S2とは、熱伝導率が近いため、SiC単結晶S1の周囲で等温面に急峻な勾配が生じることを抑制することができる。また、SiC単結晶S1とSiC多結晶S2とは別空間に分離されているため、両者が接触することは無く、SiC単結晶S1内に異種多形が生じることを抑制できる。
【0037】
尚、本実施形態では蓋部2aと隔離部材3とが坩堝2から取り外し可能である例を記載したが、単結晶製造装置100はこの例に限定されない。例えば、単結晶製造装置100は、隔離部材3が坩堝2と一体の構成であってもよい。
【0038】
<変形例1>
図3は、変形例1にかかる単結晶製造装置200の断面模式図である。単結晶製造装置200は、第1成長空間R11の第1底部2baと第2成長空間R12の底部のz方向における位置が異なる点が、単結晶製造装置100と異なる。具体的には、第1底部2baよりも第2成長空間R12の底部の位置が蓋部2a側である。本変形例において、第2成長空間R12の底部を第2底部13bという場合がある。単結晶製造装置100と同一の構成は、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0039】
隔離部材13の形状は、隔離部材3と異なる。これらの形状の違いに基づいて、第1底部2baと第2底部13bのz方向における位置が異なる。隔離部材13の端部は、蓋部2aと側壁2cと接触する。一方、隔離部材13は、底部2bと接触しない。すなわち、第1成長空間R11は、蓋部2aと隔離部材13と側壁2cと底部2bとにより囲まれた空間である。
【0040】
z方向における坩堝2の長さh0と第1底部2baと第2底部13bとの距離h1との比は、任意に決定することができる。例えば、第1底部2baと第2底部13bとの距離h1は、例えば、z方向における坩堝2の長さh0の0.05倍以上0.5倍以下にする。
【0041】
第2成長空間R12は、蓋部2aと側壁2cと隔離部材13とで囲まれた空間である。尚、本変形例において、坩堝2の底部2bは、第1成長空間R11の第1底部2baに対応し、隔離部材13の底部は、第2成長空間R12の第2底部13bに対応する。
【0042】
第2成長空間R12では、第2底部13bに原料M2が配置される。原料M2の量は、任意に選択することができる。例えば、原料M2の質量は原料M1の質量の0.2倍以上、2倍以下となるように配置する。
【0043】
図3では、充填する原料M1の表面および原料M2の表面の第1方向における高さが異なる場合を例に説明したが、原料の充填の仕方はこの例に限定されない。例えば、z方向において、充填する原料M1の表面および原料M2の表面の高さが同じであってもよいし、原料M1の表面の方が原料M2の表面よりも高くてもよい。また、上述した部材のうち、特に言及のない構成については、第1実施形態に係る単結晶製造装置100と同じ構成であってもよい。
変形例1に係る単結晶製造装置200を用いた場合であっても、第1実施形態に係る単結晶製造装置100を用いた場合と同様な効果を得ることができる。
【0044】
<変形例2>
図4は、変形例2にかかる単結晶製造装置300の断面模式図である。単結晶製造装置300は、第1成長空間R1に充填する原料と第2成長空間R2に充填する原料が異なる。単結晶製造装置100と同一の構成は、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0045】
単結晶製造装置300は、第2成長空間R2に原料M22として、例えば純度の低いSiC原料粉末を充填する。
【0046】
変形例2に係る単結晶製造装置300を用いた場合であっても、単結晶製造装置100と同様の効果を得ることができる。また、原料M22としてSiC原料よりもコストが安い原料を用いることで、SiC単結晶の製造コストを抑えることができる。
【0047】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態に係る単結晶製造装置400の断面模式図である。単結晶製造装置400は、坩堝の形状および加熱手段の数が、第1実施形態に係る単結晶製造装置100と異なる。単結晶製造装置100と同一の構成は、同一の符号を付し、説明を省略する。単結晶製造装置400は、坩堝42と、坩堝42を囲む第1加熱手段H1および第2加熱手段H2と、を有する。
【0048】
坩堝42は、例えば、z方向からの平面視における形状が円形である。坩堝42は、内部に隔離部材43を有する。隔離部材43は、坩堝42の内部を第1成長空間R41と第2成長空間R42とに区分する。第2成長空間R42は、第1成長空間R41とは接続されておらず、第1成長空間R41とは別空間である。隔離部材43は、坩堝42のうち、第1成長空間R41と第2成長空間R42とを隔てる部分のことをいう。第2成長空間R42は、第1成長空間R41を囲む。本実施形態では、坩堝42のうち、第1成長空間R41を囲う部分を第1部材44といい、第2成長空間R42を囲う部分を第2部材45という。第1部材44および第2部材45は、いずれも坩堝42の一部である。
【0049】
本実施形態では、便宜上坩堝42の底部42bのうち、第1成長空間R41の底部を第1底部42baといい、第2成長空間R42の底部を第2底部42bbという場合がある。単結晶製造装置500では、第1底部42baと第2底部42bbとのz方向における位置が異なる。第1底部42baは、第2底部42bbよりも蓋部2a側に位置する。z方向における坩堝42の蓋部2aから第1底部42baまでの距離h2は、例えば坩堝42の長さh0の0.2倍以上0.8倍以下にすることができ、0.3倍以上0.7倍以下にすることが好ましい。
【0050】
原料M41およびM42は、それぞれ第1成長空間R41および第2成長空間R42に収容される。原料M41を収容する量は、任意に選択することができる。原料M42は、例えば、蓋部2aとの距離が原料M41と蓋部2aとの距離よりも大きくなるように配置される。好ましくは、原料M42の蓋部2a側における最表面が、原料M41の高さ平均よりも蓋部2aから離間するように収容される。より好ましくは、原料M42の蓋部2a側における最表面が第1底部42baよりも蓋部2aから離間するように収容される。
【0051】
加熱手段は、第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とを有する。第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とは、それぞれ独立に制御することができる。第1加熱手段H1は、第1成長空間R41に収容されている原料M41を加熱する。第2加熱手段H2は、第2成長空間R42に収容されている原料M42を加熱する。
【0052】
第1加熱手段H1は、第2加熱手段H2よりも蓋部2a側に位置する。第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とは、離間して配置することが好ましい。第1加熱手段H1は、例えば、第1底部42baよりも上側に配置することができる。第1加熱手段H1のz方向における中心位置が原料M41のz方向における中心位置よりも蓋部2a側に位置することが好ましい。第2加熱手段H2は、例えば、第1底部42baよりも第2底部42bb側に位置することができる。第2加熱手段H2は、z方向における中心位置が原料M42のz方向における中心位置よりも第2底部42bb側に位置することが好ましい。
【0053】
第1加熱手段H1および第2加熱手段H2は、例えば、単結晶製造装置100に用いられる加熱手段Hと同様の加熱手段である。第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とは、同じ方法で、それぞれ原料M41と原料M42とを加熱してもよい。また、第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とは、それぞれ異なる方法で原料を加熱してもよい。例えば、第1加熱手段H1は誘導加熱により原料M41を加熱し、第2加熱手段H2は間接加熱により原料M42を加熱してもよいし、第1加熱手段H1が間接加熱により原料M41を加熱し、第2加熱手段H2が誘導加熱により原料M42を加熱してもよい。第1加熱手段H1は、間接加熱により原料M41を加熱することが好ましい。
【0054】
単結晶製造装置400は、第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とをそれぞれ独立に制御することで、原料M41と原料M42とのそれぞれが昇華するタイミングや昇華する速度を制御することができる。例えば、原料M42を少なめに収容し、加熱手段H2の出力を高くすることで、成長速度を速めることが可能である。第1加熱手段H1と第2加熱手段H2とを起動するタイミングは、同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、第1成長空間R41には種結晶SDを配置し、第2成長空間R42には種結晶を配置しない場合、第1加熱手段H1を出力する前に第2加熱手段H2を出力し、SiC多結晶S2を種結晶SDと同じ高さになるように成長させても良い。当該構成により蓋部2a近傍での径方向における温度分布均一性を向上することが可能である。
【0055】
第2実施形態に係る単結晶製造装置400は、SiC単結晶S1の結晶成長面の温度を制御しつつ、異種多形の発生を抑制することができる。また、単結晶製造装置400は、第1加熱手段H1の出力と原料M41の量、および、第2加熱手段H2の出力と原料M42の量等を制御することにより、簡便にSiC単結晶S1の成長量とSiC多結晶S2の成長量とのバランスを制御することができる。尚、本実施形態では、第1部材44と第2部材45と隔離部材43とが一体となって坩堝42を形成する構成を示したが、それぞれ分離可能な構成であってもよい。
【0056】
<変形例3>
図6は、変形例3にかかる単結晶製造装置500の断面模式図である。単結晶製造装置500は、坩堝52の構成が単結晶製造装置400と異なる。単結晶製造装置400と同一の構成は、同一の符号を付し、説明を省略する。単結晶製造装置500は、坩堝52と、坩堝52を囲む第1加熱手段H51および第2加熱手段H52を有する。
【0057】
坩堝52は、例えば、z方向からの平面視における形状が円形である。坩堝52は、内部に隔離部材53を有する。隔離部材53は、坩堝52の内部を第1成長空間R51と第2成長空間R52とに区分する。第2成長空間R52は、第1成長空間R51とは接続されておらず、第1成長空間R51とは別空間である。隔離部材53は、坩堝52のうち、第1成長空間R51と第2成長空間R52とを隔てる部分のことをいう。第2成長空間R52は、z方向からの平面視で第1成長空間R51を囲むように配置される。本実施形態では、坩堝52のうち、第1成長空間R51を囲う部分を第1部材54といい、第2成長空間R52を囲う部分を第2部材55という。第1部材54および第2部材55は、いずれも坩堝52の一部である。
【0058】
本実施形態では、便宜上坩堝52の底部52bのうち、第1成長空間R51の底部を第1底部52baといい、第2成長空間R52の底部を第2底部52bbという場合がある。単結晶製造装置500では、第1底部52baと第2底部52bbとのz方向における位置が異なる。第2底部52bbは、第1底部52baよりも蓋部2a側に位置する。z方向における坩堝52の蓋部2aから第2底部52bbまでの距離h3は、例えば坩堝52の長さh0の0.2倍以上0.8倍以下にすることができ、0.3倍以上0.7倍以下にすることが好ましい。
【0059】
加熱手段は、第1加熱手段H51と第2加熱手段H52とを有する。単結晶製造装置500は、単結晶製造装置400に対して、蓋部2a側に位置する加熱手段が第2成長空間の原料を加熱する点が相違するが、構成については、同様とすることができる。すなわち、第1加熱手段H51と第2加熱手段H52とは、それぞれ独立に制御することができる。第1加熱手段H51は、第1成長空間R51に収容されている原料M51を加熱する。第2加熱手段H52は、第2成長空間R52に収容されている原料M52を加熱する。第1加熱手段H51は、z方向における中心位置が原料M51のz方向における中心位置よりも第2底部52bb側に位置することが好ましい。また、第1加熱手段H51は、z方向からの平面視において第2部材55と重なるように配置されてもよい。すなわち、第1加熱手段H51は、第2蓋部2abと、z方向において第2底部52bbを挟むように配置されてもよい。変形例3にかかる単結晶製造装置500でも単結晶製造装置400と同様の効果を得ることができる。尚、本変形例では、第1部材54と第2部材55と隔離部材53とが一体となって坩堝52を形成する構成を示したが、それぞれ分離可能な構成であってもよい。
【0060】
<変形例4>
図7は、変形例4に係る単結晶製造装置600の断面模式図である。単結晶製造装置600は、坩堝62の構成が単結晶製造装置400と異なる。単結晶製造装置400と同一の構成は、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0061】
単結晶製造装置600は、坩堝62と、坩堝62を囲む第1加熱手段H1および第2加熱手段H2を有する。坩堝62は、例えば、円柱形の坩堝である。坩堝62は、第1部材44と第2部材45と第3部材66とを有する。第3部材66は、黒鉛からなる部材である。第3部材66の大きさは、坩堝62、第1部材44、および第2部材45の大きさに応じて任意に選択することができる。例えば、第3部材66のz方向における長さh4は、坩堝62のz方向における大きさの0.2倍以上0.8倍以下にすることができ、0.3倍以上0.7倍以下にすることが好ましい。
【0062】
変形例4にかかる単結晶製造装置600でも、単結晶製造装置400と同様の効果を得ることができる。また、変形例4にかかる単結晶製造装置600では、黒鉛からなる第3部材66が配置されることで第1加熱手段H1および第2加熱手段H2による熱を第1成長空間R41と第2成長空間R42との間で伝達することができる。すなわち、熱のロスを抑制することができ、スループットが向上する。尚、本変形例では、第1部材44と第2部材45と隔離部材43と第3部材66とが一体となって坩堝42を形成する構成を示したが、それぞれ分離可能な構成であってもよい。
【0063】
<変形例5>
図8は、変形例5に係る単結晶製造装置700の断面模式図である。単結晶製造装置700は、第2加熱手段H72の配置が単結晶製造装置400と異なる。単結晶製造装置400と同一の構成は、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0064】
単結晶製造装置700は、第1加熱手段H1及び第2加熱手段H72を有する。第1加熱手段H1は、径方向において坩堝42よりも外側に配置される。第2加熱手段H72は、径方向において坩堝42よりも内側に配置される。すなわち、z方向からの平面視で、第2加熱手段H72は、第1成長空間R41に重なるように配置される。
【0065】
第1加熱手段H1と第2加熱手段H72とは、それぞれ独立に制御することができる。単結晶製造装置700は、第2実施形態に係る単結晶製造装置400と同様の効果を得ることができる。また、第2加熱手段H72は、第1成長空間R41にも近接している。そのため、単結晶製造装置700は、第1加熱手段H1および第2加熱手段H72の出力を調整し、第1成長空間R41を第1加熱手段H1および第2加熱手段H72で加熱し、第2成長空間R42を第2加熱手段H72で加熱してもよい。
【0066】
変形例5にかかる単結晶製造装置700でも、単結晶製造装置400と同様の効果を得ることができる。また、変形例5にかかる単結晶製造装置700では、第2加熱手段H72が第1底部42baの下方に位置する。そのため、第1加熱手段H1と第2加熱手段H72とで原料M41を加熱することができる。すなわち、スループットが向上する。
【0067】
<変形例6>
図9は、変形例6に係る単結晶製造装置800の断面模式図である。単結晶製造装置800は、坩堝82の構成が単結晶製造装置400と異なる。単結晶製造装置400と同一の構成については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0068】
単結晶製造装置800は、坩堝82と、坩堝82を囲む加熱手段とを有する。坩堝82は、z方向からの平面視における形状が円形である。坩堝82は、蓋部82aと底部42bと隔離部材83とを備える。隔離部材83は、坩堝82の内部を第1成長空間R81と第2成長空間R82とに区分する。隔離部材83は、坩堝82のうち第1成長空間R81と第2成長空間R82とを隔てる部分のことをいう。第2成長空間R82は、第1成長空間R81を囲む。本実施形態では、坩堝82のうち、第1成長空間R81を囲む部分を第1部材84といい、第2成長空間R82を囲む部分を第2部材85という。第1部材84および第2部材85は、いずれも坩堝82の一部である。
【0069】
隔離部材83は、第2底部42bbと対向する天井部83aと、蓋部82a側へ近づくに従い先細り形状となるテーパー部83cと、を有する。天井部83aと蓋部82aとは、z方向に離間する。天井部83aの第2成長空間R82側の面は、z方向において種結晶SDの表面と同じ位置になるように形成されていることが好ましい。テーパー部83cは、例えば、z方向からの平面視において種結晶SDを囲むように形成されていることが好ましい。尚、テーパー部83cと種結晶SDとは、径方向に離間していることが好ましい。
【0070】
単結晶製造装置800では、隔離部材83がテーパー部83cを有することで、原料M1から昇華したガスが、SiC種結晶SDに向かうように集束される。また、原料M1から昇華したガスのうち、SiC単結晶S1の成長に寄与しなかったガスは、種結晶SDと隔離部材83との隙間を通じて蓋部82a、側壁82c、天井部83aの蓋部82a側、のいずれかにSiC多結晶として付着する。
【0071】
変形例6にかかる単結晶製造装置800でも、単結晶製造装置400と同様の効果を得ることができる。さらに、変形例6にかかる単結晶製造装置800では、異種多形の抑制をすることができる。また、単結晶製造装置800は、原料M1から昇華したガスが、テーパー部83cにより収束されることで、SiC単結晶S1の成長速度を向上することができる。尚、
図9では、坩堝82の径方向における端部が段差を有する例を図示したが、坩堝82の径方向における端部は直線状であってもよい。また、本変形例では、第1部材84と第2部材85と隔離部材83とが一体となって坩堝82を形成する構成を示したが、それぞれ分離可能な構成であってもよい。
【0072】
<SiC単結晶の製造方法>
本実施形態のSiC単結晶の製造方法は、成長空間でSiC単結晶を成長すると同時に成長空間から区分された空間にも結晶成長を行う。結晶成長を行う、成長空間から区分された空間とは、例えば、種結晶の周囲の空間である。種結晶の周囲の空間において、成長させる結晶は、例えばSiC多結晶やSiC単結晶などである。本実施形態のSiC単結晶製造方法は、例えば、上述の実施形態で説明した単結晶製造装置を用いることができる。
【0073】
本実施形態のSiC単結晶の製造方法は、成長するSiC単結晶の表面周囲の温度分布を均等にすることができる。すなわち、高品質なSiC単結晶を製造することができる。本実施形態のSiC単結晶の製造方法は、成長空間と、成長空間から区分された種結晶の周囲にある空間と、における結晶の成長量のバランスを管理することができる。本実施形態のSiC単結晶の製造方法は、成長空間で成長するSiC単結晶とSiC多結晶との合体を抑制することができる。
【実施例】
【0074】
<実施例1>
図1に示す構成をシミュレーションで再現し、坩堝を加熱した際に、蓋部近傍の温度分布を求めた。尚、
図1においてSiC単結晶S1と隔離部材3とは接触していない例を図示したが、本実施例では坩堝2の径方向中心と隔離部材3との最短距離w
1と種結晶SDの半径w
0との比が1の場合をシミュレーションした。
このシミュレーション結果は、STR-Group LTD社製の気相成長解析ソフト「Virtual Reactor」を用いて行った。シミュレーションは、計算負荷を低減するために、円筒状坩堝の中心軸を通る任意の断面の半分(径方向の半分)の構造のみで行った。当該シミュレーションは、実際の実験結果と高い相関を有することが確認されている。シミュレーションは、以下の条件で行った。尚、以下の条件における符号は、
図1の構成と実施例の条件についての対応の理解をわかりやすくするために便宜上記載されたものであり、本実施形態は以下の数値に限定されるものではない。
【0075】
坩堝2の外径:280mm
側壁2cの厚み:30mm
蓋部2aの厚み:20mm
底部2bの厚み:20mm
第1成長空間の直径:160mm
第2成長空間の幅:25mm
隔離部材3の厚さ:5mm
坩堝の輻射率:0.8(黒鉛相当)
第1成長空間に成長する結晶S1の輻射率:0.8
第2成長空間に成長する結晶S2の輻射率:0.8
第1成長空間に成長する結晶S1の直径:160mm
第1成長空間に成長する結晶S1の長さ:30mm
第2成長空間に成長する結晶S2の長さ:30mm
第1成長空間に成長する結晶S1の熱伝導率:30W/mK
第2成長空間に成長する結晶S2の熱伝導率:30W/mK
坩堝2の熱伝導率:30W/mK
隔離部材3の熱伝導率:30W/mK
原料M1の熱伝導率:5W/mK
原料M2の熱伝導率:5W/mK
蓋部2aの中心温度:2200℃
【0076】
上記シミュレーションを行ったところ、第1成長空間に成長する結晶の表面において、径方向中心と径方向端部との温度差ΔTは、15℃であった。
【0077】
<比較例1>
図1に示す構成において、第2成長空間に原料を収容しない場合に、第1成長空間に成長する結晶に生じる温度差ΔTをシミュレーションした。シミュレーションの条件は、第2成長空間に原料を収容しなかった点以外は、実施例1と同様にした。
【0078】
上記条件でシミュレーションを行ったところ、比較例1の単結晶製造装置における温度差ΔTは、24℃であった。
【0079】
また、第1成長空間に成長する結晶の熱伝導率よりも、第2成長空間に成長する結晶の熱伝導率を小さくすると、温度差ΔTが実施例1の結果よりも小さくなることを確認した。
【0080】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
100 単結晶製造装置
2 坩堝
2a 蓋部
2b 底部
2c 側壁
3 隔離部材
M1 原料
M2 原料
R1 第1成長空間
R2 第2成長空間
SD 種結晶
S1 SiC単結晶
S2 SiC多結晶
H 加熱手段
H1 第1加熱手段
H2 第2加熱手段