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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】炭化珪素単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20231011BHJP
   C30B 25/16 20060101ALI20231011BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20231011BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20231011BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/16
C23C16/42
H01L21/205
H01L21/66 L
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019218213
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021088469
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀合 慧祥
(72)【発明者】
【氏名】徳田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 功穂
(72)【発明者】
【氏名】星乃 紀博
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特許第6585799(JP,B1)
【文献】特開2018-041942(JP,A)
【文献】特開2003-002795(JP,A)
【文献】国際公開第2017/094764(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
C23C 16/00-16/56
H01L 21/205
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応炉内に種結晶を配置することと、
前記種結晶の表面に、Si原料ガスとC原料ガスを導入することで、ガス成長法によって炭化珪素単結晶(20)を成長させることと、を含み、
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、
前記反応炉内における前記炭化珪素単結晶の成長表面が2500℃以上となる温度下とし、前記反応炉内に、n型の不純物ドーパントとキャリアガスとしてのHを導入することでn型不純物濃度が5×1018cm-3以上となり、電子励起に対して室温での電子励起に対して、650~750nm波長の近赤外のPL発光ピークを持つPLスペクトルとなり、かつ、650~750nm波長の近赤外のPL発光を持つのに加えて、385~408nm波長のバンド端発光ピークと480~580nm波長の発光を持つPLスペクトルとなり、650~750nm波長の近赤外のPL発光のピーク強度I1pと480~580nm波長で最大の発光強度I2pとの強度比I1p/I2pが、
(数1)
I1p/I2p>1
を満たす前記炭化珪素単結晶を成長させる、炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項2】
反応炉内に種結晶を配置することと、
前記種結晶の表面に、Si原料ガスとC原料ガスを導入することで、ガス成長法によって炭化珪素単結晶(20)を成長させることと、を含み、
前記炭化珪素単結晶を成長させることでは、
前記反応炉内における前記炭化珪素単結晶の成長表面が2500℃以上となる温度下とし、前記反応炉内に、n型の不純物ドーパントとキャリアガスとしてのHを導入することでn型不純物濃度が5×1018cm-3以上となり、電子励起に対して室温での電子励起に対して、650~750nm波長の近赤外のPL発光ピークを持つPLスペクトルとなり、かつ、650~750nm波長の近赤外のPL発光を持つのに加えて、385~408nm波長のバンド端発光ピークと480~580nm波長の発光を持つPLスペクトルとなり、650~750nm波長での近赤外のPL発光の強度I1pの積分値のΣI1(650~750nm)と480~580nm波長で最大の発光強度I2pの積分値のΣI2(480~580nm)との積分強度比ΣI1(650~750nm)/ΣI2(480~580nm)が、
(数2)
ΣI1(650~750nm)/ΣI2(480~580nm)>1
を満たす前記炭化珪素単結晶を成長させる、炭化珪素単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハとしてSiC単結晶ウェハを用いてSiCデバイスを作成する場合、SiC単結晶ウェハに対して、デバイス品質に影響を与える項目の評価が行われる。その項目として、SiC単結晶基板の転位密度の評価がある。SiC単結晶ウェハの面内において転位密度が高い場所は良好な特性のSiCデバイスが得られない可能性があるため、予め転位密度の高い場所を特定しておき、その部分についてはチップとして取り出さないなどの措置がとられる。このため、SiCデバイス形成に先立ち、予めSiC単結晶ウェハの面内における転位密度の評価が行われている。
【0003】
転位密度の評価については簡便な評価方法によって行えると好ましいが、SiC単結晶中に含まれる不純物が多い場合など、検査手法が限られてしまう場合がある。その場合、例えばKOHエッチングによる破壊検査(例えば、特許文献1参照)や放射光施設を使用したトポグラフィによる転位密度評価が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-164120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、KOHエッチングを行う場合には破壊検査になってしまうし、トポグラフィによる転位密度評価では放射光施設という大型設備の使用が必要になる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、破壊検査を行わなくても良く、放射光設備という大型設備を使用しなくても転位密度評価を行うことができる炭化珪素単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1または2に記載のSiC単結晶の製造方法では、反応炉内に種結晶を配置することと、種結晶の表面に、Si原料ガスとC原料ガスを導入することで、ガス成長法によってSiC単結晶(20)を成長させることと、を含んでいる。より詳しくは、請求項1に記載のSiC単結晶の製造方法では、反応炉内におけるSiC単結晶の成長表面が2500℃以上となる温度下とし、反応炉内に、n型の不純物ドーパントとキャリアガスとしてのH を導入することでn型不純物濃度が5×10 18 cm -3 以上となり、電子励起に対して室温での電子励起に対して、650~750nm波長の近赤外のPL(Photoluminescence)発光ピークを持つPLスペクトルとなり、かつ、650~750nm波長の近赤外のPL発光を持つのに加えて、385~408nm波長のバンド端発光ピークと480~580nm波長の発光を持つPLスペクトルとなり、650~750nm波長の近赤外のPL発光のピーク強度I1pと480~580nm波長で最大の発光強度I2pとの強度比I1p/I2pが、I1p/I2p>1を満たすSiC単結晶を成長させる。また、請求項2に記載のSiC単結晶の製造方法では、反応炉内におけるSiC単結晶の成長表面が2500℃以上となる温度下とし、反応炉内に、n型の不純物ドーパントとキャリアガスとしてのH を導入することでn型不純物濃度が5×10 18 cm -3 以上となり、電子励起に対して室温での電子励起に対して、650~750nm波長の近赤外のPL発光ピークを持つPLスペクトルとなり、かつ、650~750nm波長の近赤外のPL発光を持つのに加えて、385~408nm波長のバンド端発光ピークと480~580nm波長の発光を持つPLスペクトルとなり、650~750nm波長での近赤外のPL発光の強度I1pの積分値のΣI1(650~750nm)と480~580nm波長で最大の発光強度I2pの積分値のΣI2(480~580nm)との積分強度比ΣI1(650~750nm)/ΣI2(480~580nm)が、ΣI1(650~750nm)/ΣI2(480~580nm)>1を満たすSiC単結晶を成長させる。
【0008】
このように、電子励起に対して、650~750nmにPL発光ピークを持つPLスペクトルのSiC単結晶とすることで、PLイメージングによるコントラストを大きくすることができる。したがって、非破壊で転位密度を評価することができると共に、大型設備の使用の必要も無く、励起光とカメラなどを備えた簡素な評価装置によるPLイメージングによって転位密度評価を行うことが可能となる。
そして、ガス成長法によってSiC単結晶インゴットを形成し、反応炉内におけるSiC単結晶の成長表面が2500℃以上となるような成長を行うと、成長結晶内におけるSi抜けもしくはC抜けが多くなる。このため、SiC単結晶インゴットや、それをスライスして切り出したSiC単結晶ウェハ中の真性点欠陥、つまりSi空孔もしくはC空孔による点欠陥の密度が高くなる。これにより、より的確にPLイメージングによって転位密度評価を行うことが可能となる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態で説明するDAペア発光のピーク強度がPL発光のピーク強度よりも高くなる場合のPLスペクトル波形図である。
図2】DAペア発光のピーク強度よりもPL発光のピーク強度が高くなる場合のPLスペクトル波形図である。
図3】PLスペクトル測定装置の模式図である。
図4】PLイメージング評価装置の模式図である。
図5】PLイメージングを行って得た撮影画像図である。
図6】PLイメージングを行って得たPLスペクトル波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。ここでは、転位密度の簡便な評価方法であるPLイメージング、すなわち結晶欠陥をPLによって可視化できるSiC単結晶およびその製造方法について説明する。なお、ここでいうSiC単結晶は、薄板化した後のSiC単結晶ウェハであっても良いし、長尺なSiC単結晶インゴットであっても良い。
【0013】
PLイメージングは、SiC単結晶ウェハもしくはSiC単結晶インゴットなどのSiC単結晶の試料の表面に励起光となる紫外光を照射した際のPL強度の面内分布をカメラによって撮影し、二次元イメージとして得る手法である。PLイメージングによって得られた二次元イメージとなる撮影画像において、転位が無い部分は明るく、転位がある部分は暗くなるため、そのコントラストに基づいて転位密度を評価することが可能となる。PLイメージングは、非破壊で転位密度を評価することができると共に、励起光とカメラなどを備えた簡素な評価装置があれば良いため、大型設備の使用も不要である。
【0014】
しかしながら、PLイメージングによる転位密度の検査では、二次元イメージとなる撮影画像中において、転位が存在する部分と存在しない部分のコントラストが大きくないと的確に転位密度を評価できない。
【0015】
このため、本発明者らは、転位が存在する部分と存在しない部分のコントラストが大きくなるようにすべく、鋭意検討を行った。その結果、室温での電子線励起に対し、近赤外となる波長650~750nmにおいてPL発光ピークを持ち、このPL発光ピークが波長480~580nmのDAペア発光ピークよりも相対強度が大きいと、コントラストを大きくできることを見出した。
【0016】
具体的には、PLイメージングによる転位密度の検査において、コントラストを大きくするためには近赤外となる波長650~750nmでのPL発光ピークと、波長480~580nmのDAペア発光ピークが関係していることが確認された。転位の無い場合に近赤外となる波長650~750nmにPL発光ピークを持つことにより、転位が無い部分でのPL強度が高くなる。このため、転位の存在する部分とのPL強度差が大きくなって、コントラストが大きくなった。これにより、容易に転位密度評価を行うことが可能となった。
【0017】
これに対して、転位の無い場合に近赤外となる波長650~750nmのピークを持たない場合には、転位が無い部分でのPL強度があまり高くならず、転位の存在する部分とのPL強度差が小さくなって、コントラストが小さくなった。また、近赤外となる波長650~750nmのピークを持っていたとしても、小さなピークであると、同様にコントラストが小さくなった。このため、転位密度評価を的確に行うことができなかった。
【0018】
図1は、コントラストが小さかった場合のPLスペクトル測定結果を示している。また、図2は、コントラストが大きかった場合のPLスペクトル測定結果を示している。PLスペクトル測定については、図3に示すように、レーザ出力源10と、波長フィルタ11、集光レンズ12、分光機能を有する検出器13を有したPLスペクトル測定装置を用いて行っている。レーザ出力源10から、波長フィルタ11を通して所定の波長域の励起光を照射できるようになっている。そして、SiC単結晶ウェハ20の表面に励起光を照射することで電子を励起して再結合が生じた際の発光を集光レンズ12で集光し、それが検出器13に入射されることで分光した各波長のPLスペクトルが測定されるようになっている。
【0019】
ここでは、室温、例えば-10~40℃の温度下で、SiC単結晶ウェハ20の表面にバンド端エネルギーより高エネルギー励起光、例えば波長325nmのHe-Cdレーザで電子を励起して再結合により発光するPLスペクトルを測定した。
【0020】
図1に示す結果では、PLスペクトルを測定した際に、波長480~580nmでのDAペア発光のピーク強度が波長650~750nmのPL発光のピーク強度よりも大きくなっている。このような場合には、PL発光ピークが無くなったり不明確になったりしていた。これは、波長480~580nmでのDAペア発光のピーク強度が大きいために、波長650~750nmのPL発光ピークが影響を受けたためと考えられる。このような場合には、PLイメージングでのコントラストが小さくなって、転位密度評価が的確に行えなくなる。
【0021】
一方、図2に示す結果では、波長480~580nmでのDAペア発光のピーク強度よりも波長650~750nmのPL発光のピーク強度の方が大きくなっており、明確なPL発光ピークを持っていた。このような場合には、PLイメージングでのコントラストが大きくなって、転位密度評価を的確に行えた。
【0022】
これらの知見に基づき、PLイメージングでのコントラストを大きくできる範囲について、実験等に基づいて考察した。その結果、波長650~750nmのPL発光の強度をI1、波長480~580nmでのDAペア発光の強度をI2とし、それぞれのピーク強度をI1p、I2pとして、I1pがI2p以上だと十分なコントラストが得られた。つまり、I1pとI2pの強度比I1p/I2pが、I1p/I2p≧1の関係を満たしていると、PLイメージングを行うことが可能なコントラストが得られた。
【0023】
さらに、強度比I1p/I2pが大きいほど好ましく、I1p/I2p≧10の関係を満たすようにすると、よりPLイメージングにおいて十分なコントラストが得られた。これにより、転位密度評価における検査工程において、より明確に転位密度を測定できるコントラストを得ることができた。
【0024】
具体的に、図4に示すPLイメージング評価装置を用いてSiC単結晶ウェハ20に対してPLイメージングを行った。これにより得られた撮影画像およびPLスペクトル波形を図5図6に示す。
【0025】
図4に示すように、PLイメージング評価装置については、例えば励起光出力源30と、波長フィルタ31、波長フィルタ32およびCCDカメラ33を有した構成とされている。励起光出力源30から、波長フィルタ31を通して所定の波長域の励起光、例えば水銀ランプから313nmの波長を取り出して紫外光を照射できるようになっている。そして、SiC単結晶ウェハ20の表面に紫外光を照射し、波長フィルタ32を通じてSiC単結晶ウェハ20の表面の発光状態をCCDカメラ33で撮影することで、撮影画像やPLスペクトル波形を得ることができるようになっている。波長フィルタ32については、より650~750nmのPL発光を明確にするために、650~750nmのロングパスフィルタを用いている。
【0026】
図5に示すように、PLイメージングにおける撮影画像のコントラストが大きくなっていて、各種転位が確認出来ることが判る。例えば、黒色の点として確認されるのは、TED(貫通刃状転位)21もしくはTSD(貫通らせん転位)22であり、黒色の線として確認されるのはBPD(基底面転位)23である。この撮影画像に示されるように、転位21~23が存在する部分とそれ以外の存在しない部分とのコントラストが大きくなる。このため、転位21~23を確認し易くなり、転位密度の評価を容易に行うことが可能になる。この場合、図6に示すように、PLイメージングを行ったときのPLスペクトルを確認すると判るように、650~750nm波長、図中では680nmにおいてPL発光ピークを取っていた。このことからも、I1p、I2pが上記関係を満たすようにすることで、PLイメージングでのコントラストが大きくなって、PLマッピングにより転位密度評価を的確に行うことができると言える。
【0027】
また、上記したように、650~750nm波長のロングパスフィルタを用いてPLイメージングを得る場合、Si空孔に起因するSiコア転位の場合は低波長側に、C空孔に起因するCコア転位の場合は長波長側にスペクトルが現れる。これを利用してPLイメージングの際に転位の分離をすることもできる。そのため、転位の存在により、近赤外スペクトルを検出するため、480~580nm波長付近にピークを持つDAペア発光のスペクトルと区別できるように、650~750nm波長でピークを持つSiC単結晶ウェハであると好ましい。
【0028】
なお、ここでは、PLイメージングにおいて必要なコントラストが得られる条件について、波長650~750nmのPL発光のピーク強度I1pと波長480~580nmでのDAペア発光のピーク強度Ip2で表した。これに限らず、PL発光とDAペア発光の各周波数帯域の積分値によって表すこともできる。例えば、波長650~750nmのPL発光の強度I1の積分値をΣI1(650~750nm)、波長480~580nmでのDAペア発光の強度の積分値をΣI2(480~580nm)で表すことができる。その場合、積分強度比は、ΣI1(650~750nm)/ΣI2(480~580nm)で表され、次式を満たすようにすることで、PLイメージングにおいて必要なコントラストを得ることができる。
【0029】
(数1)
ΣI1(650~750nm)/ΣI2(480~580nm)≧1
また、図3に示すPLスペクトル測定装置にてバンド端エネルギーより高エネルギーの励起光を用いてPLスペクトル測定を行った際に、図2に示されるように、385~408nmにピークを有するバンド端発光を有していることも判る。このように、バンド端に発光ピークを有していることにより、顕微鏡でしか観察できない微小なポリタイプ、すなわち結晶多形を判別することも可能である。
【0030】
このように、室温での電子励起に対して、650~750nmにPL発光ピークを持つPLスペクトルのSiC単結晶ウェハ20を用いるようにすることで、PLイメージングによるコントラストを大きくすることができる。したがって、非破壊で転位密度を評価することができると共に、大型設備の使用も必要なく、励起光とカメラなどを備えた簡素な評価装置によるPLイメージングによって転位密度評価を行うことが可能となる。
【0031】
より詳細には、波長650~750nmでのPL発光のピーク強度I1pと波長480~580nmでのDAペア発光のピーク強度I2pとの強度比I1p/I2pが、I1p/I2p≧1の関係を満たすようにする。これにより、PLイメージングを行うことが可能なコントラストを得ることができる。より好ましくは、強度比I1p/I2pが、I1p/I2p≧10の関係を満たすようにすれば、よりコントラストを大きくすることができ、より明確に転位密度を測定できるコントラストを得ることができる。
【0032】
さらに、385~408nmのバンド端発光ピークを有するようにすることで、微小なポリタイプの判別も可能とすることができる。
【0033】
なお、ここではSiC単結晶ウェハ20について説明したが、SiC単結晶インゴットについても同様のことが言える。すなわち、室温での電子励起に対して、650~750nmにPL発光ピークを持つPLスペクトルのSiC単結晶インゴットを用いることで、PLイメージングによって転位密度評価を行うことが可能となる。
【0034】
また、このようなSiC単結晶インゴットについては、ガス成長法によって製造すると好ましい。ガス成長法は、カーボンなどで構成された反応炉内にSiCの原料ガスを供給し、SiC単結晶で構成された種結晶の表面にSiC単結晶インゴットを成長させる方法である。例えば、反応炉の上方側に位置する台座に種結晶を貼り付け、SiCの成長ガスとして、シラン(SiH)などのSi原料ガスとプロパン(C)などのC原料ガスを反応炉の下方から導入する。そして、反応炉内の少なくとも一部、例えば成長表面が2500℃以上、例えば2500~2800℃の環境下となるようにSiC単結晶インゴットを成長させる。
【0035】
このようなガス成長法によってSiC単結晶インゴットを形成し、反応炉内の少なくとも一部が2500℃以上となるような成長を行うと、成長結晶内におけるSi抜けもしくはC抜けが多くなる。このため、SiC単結晶インゴットや、それをスライスして切り出したSiC単結晶ウェハ中の真性点欠陥、つまりSi空孔もしくはC空孔による点欠陥の密度が高くなる。この真性点欠陥がPLイメージングの際に赤外光発光を明るくさせ、コントラストを大きくできていると考えられる。特に、高温での処理により点欠陥が動き、転位近辺に移動することで、転位の無い部分では発光が強くなり、よりコントラストが得られる。このため、Si空孔もしくはC空孔による点欠陥密度が高くなることで、より的確にPLイメージングによって転位密度評価を行うことが可能となる。
【0036】
また、ガス成長法によってSiC単結晶インゴットを成長させる際に、不純物ドーパントとなるもの、例えばn型ドーパントとなる窒素(N)を導入することで、SiC単結晶インゴットをn型SiCで構成できる。また、このときにキャリアガスとしてH(水素)を導入することで、導入ガス流速のばらつきを抑えられ、n型SiCの不純物濃度の均一化が図れる。
【0037】
実験によれば、ガス成長法により5×10 18 cm-3以上という比較的高いn型不純物濃度が含まれるSiC単結晶インゴットについても製造できている。そして、そのようなSiC単結晶インゴットをスライスしたSiC単結晶ウェハについてPLスペクトル測定を行った。ここでは、上記と同様、室温下において、SiC単結晶ウェハの表面にバンド端エネルギーより波長325nmのHe-Cdレーザを照射し、電子を励起して再結合により発光するPLスペクトルを測定した。その結果、波長480~580nmでのDAペア発光のピーク強度I2pよりも波長650~750nmのPL発光のピーク強度I1pの方が大きく、強度比I1p/I2p≧1となっており、明確なPL発光ピークを持っていた。
【0038】
そして、このようなSiC単結晶ウェハについて、PLイメージングを行ったところ、大きなコントラストが得られ、的確に転位密度評価を実施することができた。
【0039】
n型不不純物濃度が高い場合、不純物由来のピークを高くしてしまうため、PLイメージングを行うことが困難である。しかしながら、本実施形態のように、強度比I1p/I2p≧1となっているSiC単結晶ウェハとすることで、n型不純物濃度が高くても、PLイメージングのコントラストを大きくでき、的確に転位密度評価を実施することができた。このため、ガス成長法により、少なくとも反応炉内の一部が2500℃以上となる条件下で成長させた5×10 18 cm-3以上という比較的高いn型不純物濃度が含まれるSiC単結晶インゴットであっても、的確に転位密度評価を実施できる。
【0040】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0041】
例えば、上記実施形態では、PLスペクトル測定装置やPLイメージング評価装置の一例を示したが、これに限るものではなく、他の構成のものを用いても良い。また、480~580nm波長の発光については、必ずしもピークを持つ必要は無い。その場合、上記したピーク強度I2pについては、480~580nm波長で最大の発光強度とすれば良い。
【符号の説明】
【0042】
10 レーザ出力源
11 波長フィルタ
12 集光レンズ
13 検出器
20 SiC単結晶ウェハ
30 励起光出力源
31 波長フィルタ
32 波長フィルタ
33 CCDカメラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6