(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】合わせガラス
(51)【国際特許分類】
B60J 1/00 20060101AFI20231011BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B60J1/00 J
C03C27/12 N
(21)【出願番号】P 2020018706
(22)【出願日】2020-02-06
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】定金 駿介
(72)【発明者】
【氏名】西澤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】儀間 裕平
(72)【発明者】
【氏名】青木 里紗
【審査官】池田 晃一
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507874(JP,A)
【文献】国際公開第2017/099167(WO,A1)
【文献】特表2020-533267(JP,A)
【文献】特表2014-524875(JP,A)
【文献】特開2010-265160(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 1/00
C03C 27/00 - 29/00
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内側ガラス板と、車外側ガラス板と、前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、前記中間膜に封入された第1機能性部材と第2機能性部材と、を有する車両用の合わせガラスであって、
前記中間膜は、前記第1機能性部材の前記第2機能性部材とは反対側の主面に接合される第1中間膜と、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とを接合する第2中間膜と、前記第2機能性部材の前記第1機能性部材とは反対側の主面に接合される第3中間膜と、を有し、
平面視において、前記第1機能性部材
全体は前記第2機能性部材
と重複し
ており、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の少なくとも一辺側で、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれており、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量は、5mm以上200mm以下である合わせガラス。
【請求項2】
車内側ガラス板と、車外側ガラス板と、前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、前記中間膜に封入された第1機能性部材と第2機能性部材と、を有する車両用の合わせガラスであって、
前記中間膜は、前記第1機能性部材の前記第2機能性部材とは反対側の主面に接合される第1中間膜と、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とを接合する第2中間膜と、前記第2機能性部材の前記第1機能性部材とは反対側の主面に接合される第3中間膜と、を有し、
平面視において、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とは少なくとも一部の領域が重複し、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の少なくとも一辺側で、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれており、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量は、5mm以上200mm以下であ
り、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の各々の厚みは、50μm以上400μm以下であり、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の合計の厚みが300μm以上である合わせガラス。
【請求項3】
車内側ガラス板と、車外側ガラス板と、前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、前記中間膜に封入された第1機能性部材と第2機能性部材と、を有する車両用の合わせガラスであって、
前記中間膜は、前記第1機能性部材の前記第2機能性部材とは反対側の主面に接合される第1中間膜と、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とを接合する第2中間膜と、前記第2機能性部材の前記第1機能性部材とは反対側の主面に接合される第3中間膜と、を有し、
平面視において、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とは少なくとも一部の領域が重複し、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の少なくとも一辺側で、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれており、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量は、5mm以上200mm以下であ
り、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材は、それぞれ厚みが異なり、
前記第2機能性部材の厚みの方が、前記第1機能性部材の厚みよりも厚い合わせガラス。
【請求項4】
車内側ガラス板と、車外側ガラス板と、前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、前記中間膜に封入された第1機能性部材と第2機能性部材と、を有する車両用の合わせガラスであって、
前記中間膜は、前記第1機能性部材の前記第2機能性部材とは反対側の主面に接合される第1中間膜と、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とを接合する第2中間膜と、前記第2機能性部材の前記第1機能性部材とは反対側の主面に接合される第3中間膜と、を有し、
平面視において、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とは少なくとも一部の領域が重複し、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の少なくとも一辺側で、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれており、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量は、5mm以上200mm以下であ
り、
前記車内側ガラス板又は前記車外側ガラス板は、前記合わせガラスを前記車両に取り付けた場合、車内側となる面の一部の領域を隠蔽する遮蔽領域を備え、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれている部分は、前記遮蔽領域と平面視で重複しており、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部と前記遮蔽領域との重複量は、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量+5mm以上、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量+100mm以下である合わせガラス。
【請求項5】
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の各々の厚みは、50μm以上400μm以下であり、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の合計の厚みが300μm以上である請求項
1に記載の合わせガラス。
【請求項6】
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材は、それぞれ厚みが異なる請求項1
、2、又は5に記載の合わせガラス。
【請求項7】
前記第1機能性部材の厚みの方が、前記第2機能性部材の厚みよりも厚い請求項6に記載の合わせガラス。
【請求項8】
前記第2機能性部材の厚みの方が、前記第1機能性部材の厚みよりも厚い請求項6に記載の合わせガラス。
【請求項9】
前記車内側ガラス板又は前記車外側ガラス板は、前記合わせガラスを前記車両に取り付けた場合、車内側となる面の一部の領域を隠蔽する遮蔽領域を備え、
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれている部分は、前記遮蔽領域と平面視で重複している請求項1乃至
3、又は5乃至8の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項10】
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部と前記遮蔽領域との重複量は、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量+5mm以上、かつ、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量+100mm以下である請求項9に記載の合わせガラス。
【請求項11】
前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量は、10mm以上30mm以下である請求項1
乃至10の何れか一項に記載の合わせガラス。
【請求項12】
前記中間膜は、前記車内側ガラス板と前記第1機能性部材とを接合する第1中間膜と、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とを接合する第2中間膜と、前記第2機能性部材と前記車外側ガラス板とを接合される第3中間膜と、を有する請求項1乃至
11の何れか一項に記載の合わせガラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
合わせガラスの中に機能性部材を封入することで所定の機能をもたせた高付加価値の合わせガラスが知られている。一例として、機能性部材として有機ELディスプレイ等の表示手段を中間膜に封入した合わせガラスが挙げられる。この合わせガラスの中間膜は、有機ELディスプレイ等の表示手段の周囲を包囲する額縁状の中間膜を有している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、合わせガラスの中間膜に2つ以上の機能性部材を封入することも可能である。しかしながら、合わせガラスの中間膜に2つ以上の機能性部材を封入すると、機能性部材の端部近傍で比較的大きな厚み変化が生じるため、合わせガラスを作製する工程において、脱気不良が生じやすくなる。
【0005】
額縁状の中間膜を用いると、厚み変化を抑制できるため、脱気性が改善されるが、額縁状の中間膜は、適切な大きさに切断したり、位置合わせしたりする手間がかかり、コスト上昇の要因にもなり得る。そのため、額縁状の中間膜を用いないことが好ましいが、この場合は脱気不良が生じやすくなる。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、中間膜に封入された2つ以上の機能性部材を有する合わせガラスにおいて、額縁状の中間膜を用いずに脱気不良を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本合わせガラスは、車内側ガラス板と、車外側ガラス板と、前記車内側ガラス板と前記車外側ガラス板を接合する中間膜と、前記中間膜に封入された第1機能性部材と第2機能性部材と、を有する車両用の合わせガラスであって、前記中間膜は、前記第1機能性部材の前記第2機能性部材とは反対側の主面に接合される第1中間膜と、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材とを接合する第2中間膜と、前記第2機能性部材の前記第1機能性部材とは反対側の主面に接合される第3中間膜と、を有し、平面視において、前記第1機能性部材全体は前記第2機能性部材と重複しており、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の少なくとも一辺側で、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士がずれており、前記第1機能性部材と前記第2機能性部材の端部同士のずれ量は、5mm以上200mm以下である。
【発明の効果】
【0008】
開示の一実施態様によれば、中間膜に封入された2つ以上の機能性部材を有する合わせガラスにおいて、額縁状の中間膜を用いずに脱気不良を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る合わせガラスを例示する図である。
【
図2】第1実施形態の変形例1に係る合わせガラスを例示する図である。
【
図3】第1実施形態の変形例2に係る合わせガラス近傍を例示する模式図である。
【
図4】評価用の合わせガラスについて説明する図である。
【
図6】評価用の合わせガラスの総厚の測定結果について説明する図である。
【
図7】評価用の合わせガラスの総厚の測定位置について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。又、各図面において、本発明の内容を理解しやすいように、大きさや形状を一部誇張している場合がある。
【0011】
なお、車両とは、代表的には自動車であるが、電車、船舶、航空機等を含む、合わせガラスを有する移動体を指すものとする。
【0012】
又、平面視とは合わせガラスの所定領域を合わせガラスの車内側の面の法線方向から視ることを指し、平面形状とは合わせガラスの所定領域を合わせガラスの車内側の面の法線方向から視た形状を指すものとする。
【0013】
〈第1実施形態〉
[合わせガラス]
図1は、第1実施形態に係る合わせガラスを例示する図であり、
図1(a)は合わせガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図、
図1(b)は
図1(a)のA-A線に沿う部分拡大断面図である。
【0014】
図1に示すように、合わせガラス10は、ガラス板11と、ガラス板12と、中間膜13と、遮蔽層14と、第1機能性部材15と、第2機能性部材16とを有する車両用の合わせガラスである。
【0015】
中間膜13は、例えば、ガラス板11と接合する、すなわち、第1機能性部材15の第2機能性部材16とは反対側の主面に接合される第1中間膜131と、第1機能性部材15と第2機能性部材16とを接合する第2中間膜132と、ガラス板12と接合する、すなわち、第2機能性部材16の第1機能性部材15とは反対側の主面に接合される第3中間膜133とを有している。第1中間膜131、第2中間膜132、及び第3中間膜133を特に区別する必要がない場合には、単に中間膜13と称する。
【0016】
合わせガラス10は、例えば、車両用のフロントガラスであるが、ルーフガラス、サイドガラス、リアガラス等であってもよい。又、
図1では、合わせガラス10の平面形状を台形状としているが、合わせガラス10の平面形状は台形状には限定されず、矩形状等を含む任意の形状として構わない。
【0017】
合わせガラス10は、例えば、車両に取り付けたときの垂直方向及び水平方向の両方に湾曲した複曲形状であるが、垂直方向のみに湾曲した単曲形状や水平方向のみに湾曲した単曲形状であってもよい。合わせガラス10が湾曲している場合、車外側に向けて凸となるように湾曲していることが好ましい。
【0018】
合わせガラス10が湾曲している場合、曲率半径は1000mm以上100000mm以下であることが好ましい。ガラス板11とガラス板12の曲率半径は同じでもよいし、異なっていてもよい。ガラス板11とガラス板12の曲率半径が異なっている場合は、ガラス板11の曲率半径の方がガラス板12の曲率半径よりも小さい。
【0019】
ガラス板11とガラス板12は互いに対向する一対のガラス板であり、中間膜13、第1機能性部材15、及び第2機能性部材16は一対のガラス板の間に位置している。ガラス板11とガラス板12とは、中間膜13、第1機能性部材15、及び第2機能性部材16を挟持した状態で固着されている。
【0020】
中間膜13の外周はエッジ処理されていることが好ましい。すなわち、中間膜13の端部(エッジ)は、ガラス板11及び12の端部(エッジ)から大きく飛び出さないように処理されていることが好ましい。中間膜13の端部のガラス板11及び12の端部からの飛びだし量が150μm以下であると、外観を損なわない点で好適である。
【0021】
遮蔽層14は、ガラス板11及び12の一部の領域を隠蔽する遮蔽領域となる不透明な層であり、例えば、合わせガラス10の周縁部に沿って帯状に設けることができる。遮蔽層14は、例えば、不透明な(例えば、黒色の)着色セラミック層である。遮蔽層14は、遮光性を持つ着色中間膜や着色フィルム、着色中間膜と着色セラミック層の組合せであってもよい。着色フィルムは赤外線反射フィルム等と一体化されていてもよい。
【0022】
合わせガラス10に不透明な遮蔽層14が存在することで、合わせガラス10の周縁部を車体に保持するウレタン等の樹脂からなる接着剤が紫外線により劣化することを抑制できる。
【0023】
遮蔽層14は、例えば、黒色顔料を含有する溶融性ガラスフリットを含むセラミックカラーペーストをガラス板上にスクリーン印刷等により塗布し、焼成することで形成できるが、これには限定されない。遮蔽層14は、例えば、黒色又は濃色顔料を含有する有機インクをガラス板上にスクリーン印刷等により塗布し、乾燥させて形成してもよい。
【0024】
遮蔽層14は、合わせガラス10を車両に取り付けた場合、車内側となる面の一部の領域を隠蔽するように形成されることが好ましい。すなわち、合わせガラス10を車両に取り付けた場合、ガラス板11又はガラス板12の両方、若しくは何れか一方の、車両に取り付けた場合に車内側となる面に形成されることが好ましい。遮蔽層14はガラス板11又はガラス板12の周縁に形成されることが好ましいが、ガラスの面内に形成されていてもよい。
【0025】
第1機能性部材15及び第2機能性部材16は、所定の機能を有するフィルム状の部材であり、中間膜13に封入されている。本実施形態では、一例として、合わせガラス10の中間膜13に2つの機能性部材を封入する例を示すが、合わせガラス10の中間膜13に3つ以上の機能性部材を封入してもよい。この場合、隣接する機能性部材の間には必ず中間膜が介在する。
【0026】
第1機能性部材15及び第2機能性部材16は、特に限定されないが、例えば、調光フィルム、スクリーンフィルム、電熱フィルム、ディスプレイフィルム、発光フィルム等の組合せが挙げられる。ディスプレイフィルムとは、例えば、有機EL(Organic Electro-Luminescence)ディスプレイ、LED(発光ダイオード)ディスプレイ、液晶ディスプレイ等である。発光フィルムとしては、有機ELを用いた面発光フィルム、LEDを複数配置させた加飾発光フィルム、衝突防止の警告等の情報を表示する発光フィルム等である。
【0027】
代表例としては、車内側に位置する第1機能性部材15がスクリーンフィルムであり、車外側に位置する第2機能性部材16が調光フィルムである組合せが挙げられる。この場合、第1機能性部材15であるスクリーンフィルムの材料としては、例えば、PET(Polyethyleneterephthalate)、TAC(Cellulose triacetate)、PP(Polypropylene)、PVC(Polyvinyl chloride)等が挙げられる。又、第2機能性部材16である調光フィルムとしては、例えば、懸濁粒子デバイス(SPD:Suspended Particle Device)、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、高分子ネットワーク液晶(PNLC:Polymer Network Liquid Crystal)、ゲストホスト液晶、フォトクロミック、エレクトロクロミック、エレクトロキネティック等が挙げられる。
【0028】
第2機能性部材16が調光フィルムである場合、調光フィルムは複数層から構成され、調光フィルムの電極と外部電源を接続するために、調光フィルムへの給電手段となる配線導体が、例えば、合わせガラス10の下辺周縁部の遮蔽層14に隠れるように配置される。そして調光フィルムに給電して調光フィルムを不透明にすることで、スクリーンフィルムに投射される映像を車内から高いコントラストで視認可能となる。
【0029】
合わせガラス10では、平面視において、第1機能性部材15と第2機能性部材16とは少なくとも一部の領域が重複しており、かつ、第1機能性部材15と第2機能性部材16の少なくとも一辺側で、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている。
図1の例では、平面視において、第1機能性部材15全体が第2機能性部材16と重複しており、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている部分は、合わせガラス10の下辺周縁部の遮蔽層14に隠れるように配置されている。第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L
1は、5mm以上200mm以下である。
【0030】
合わせガラス10を作製するには、詳細については後述するが、ガラス板12、第3中間膜133、第2機能性部材16、第2中間膜132、第1機能性部材15、第1中間膜131、及びガラス板11の順に重ね合わせた積層体を準備する。そして、例えばゴムバッグ等に積層体を入れ、ゴムバッグ内を減圧吸引(脱気処理)しながら加熱して予備圧着し、この予備圧着された積層体をオートクレーブの中に入れて加熱及び加圧し、本接着(本圧着)を行う。
【0031】
合わせガラス10の中間膜13に第1機能性部材15及び第2機能性部材16を封入すると、第1機能性部材15及び第2機能性部材16の端部近傍で比較的大きな厚み変化が生じるため、合わせガラス10を作製する工程において、脱気不良が生じやすくなる。
【0032】
しかし、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1を5mm以上とすることで、端部近傍での厚み変化が緩和されるため、脱気不良を抑制(残留空気の排気性を向上)できる。その結果、高品質な合わせガラス10を実現できる。なお、ずらしの方向(例えば、第2機能性部材16の端部を第1機能性部材15の端部に対して合わせガラス10の中央側にずらすのか、合わせガラス10の端部側にずらすのか)は、脱気性には影響しない。
【0033】
ところで、比較的厚いフィルム状の部材を合わせガラスに封入する場合、同程度の厚みの中間膜を額縁として封入することで脱気性が改善できる場合がある。しかし、額縁状の中間膜は、適切な大きさに切断したり、位置合わせしたりする手間がかかり、コスト上昇の要因にもなり得る。本実施形態では、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1を5mm以上とすることで脱気不良を抑制できるため、額縁状の中間膜は不要である。従って、額縁状の中間膜を適切な大きさに切断したり、位置合わせしたりする手間が不要となるため、コスト上昇を抑制できる。
【0034】
又、第1機能性部材15及び第2機能性部材16の端部近傍で厚みが変化すると透視歪が悪化するが、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1を200mm以下とすることで、厚み変化により透視歪が生じる領域を一定の範囲に抑えられる。
【0035】
第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1は、5mm以上100mm以下が好ましく、10mm以上50mm以下がより好ましく、10mm以上30mm以下が更に好ましい。第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1を10mm以上とすることで、端部近傍での厚み変化が一層緩和されるため、脱気不良を一層抑制できると共に、透視歪の悪化を抑制できる。第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1を50mm以下とすることで、厚み変化により透視歪が生じる領域をより狭い範囲に抑えられ、30mm以下とすることで、厚み変化により透視歪が生じる領域を一層狭い範囲に抑えられる。
【0036】
第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている部分は、遮蔽層14等の遮蔽領域と平面視で重複していることが好ましい。第1機能性部材15及び第2機能性部材16の端部と遮蔽層14との重複量L2は、ずれ量L1+5mm以上、かつ、ずれ量L1+100mm以下であることが好ましい。重複量L2は、ずれ量L1+5mm以上、かつ、ずれ量L1+50mm以下であることがより好ましい。重複量L2は、ずれ量L1+5mm以上、かつ、ずれ量L1+30mm以下であることが更に好ましい。
【0037】
重複量L2をずれ量L1+5mm以上とすることで、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている部分を遮蔽層14で確実に隠蔽できるため、端部同士がずれている部分を車内や車外から見え難くできる。又、重複量L2をずれ量L1+100mm以下とすることで、第1機能性部材15と第2機能性部材16に皺ができることを防止できる。重複量L2をずれ量L1+50mm以下とすることで、第1機能性部材15と第2機能性部材16に皺ができることを一層防止でき、重複量L2をずれ量L1+30mm以下とすることで、第1機能性部材15と第2機能性部材16に皺ができることを更に防止できる。なお、重複量L2が大きくなると第1機能性部材15と第2機能性部材16に皺ができやすくなるのは、機能性部材の面積が大きくなるために、ガラスの曲げが深い部分にまで封入する必要があるためである。
【0038】
第1機能性部材15及び第2機能性部材16の各々の厚みは、例えば、50μm以上400μm以下である。又、第1機能性部材15及び第2機能性部材16の合計の厚みは、例えば、300μm以上である。このような条件では、第1機能性部材15及び第2機能性部材16の端部近傍で比較的大きな厚み変化が生じるため、合わせガラス10を作製する工程において、脱気不良が生じやすくなる。従って、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量L1を5mm以上とする効果が顕著となる。
【0039】
又、合わせガラス10に封入される2個以上の機能性部材は、厚みが異なることが好ましい。合わせガラス10を作製する工程において、脱気が段階的に進行し、脱気性が向上するためである。
【0040】
特に、車外側のガラス板12側に位置する第2機能性部材16の厚みが、車内側のガラス板11側に位置する第1機能性部材15の厚みよりも厚いことが好ましい。合わせガラス10に3個以上の機能性部材を封入する場合には、車外側のガラス板12の最も近くに位置する機能性部材が最も厚いことが好ましい。車外側のガラス板12は、車内側のガラス板11よりも曲がりが浅いため、機能性部材が厚くても皺になり難いためである。なお、第1機能性部材15の厚みが、第2機能性部材16の厚みよりも厚くてもよい。
【0041】
ここで、ガラス板11、ガラス板12、及び中間膜13について詳述する。
【0042】
〔ガラス板〕
ガラス板11及び12は、無機ガラスであっても有機ガラスであってもよい。無機ガラスとしては、例えば、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス等が特に制限なく用いられる。合わせガラス10の外側に位置するガラス板12は、耐傷付き性の観点から無機ガラスであることが好ましく、成形性の観点からソーダライムガラスであることが好ましい。ガラス板11及びガラス板12がソーダライムガラスである場合、クリアガラス、鉄成分を所定量以上含むグリーンガラス及びUVカットグリーンガラスが好適に使用できる。
【0043】
無機ガラスは、未強化ガラス、強化ガラスの何れでもよい。未強化ガラスは、溶融ガラスを板状に成形し、徐冷したものである。強化ガラスは、未強化ガラスの表面に圧縮応力層を形成したものである。
【0044】
強化ガラスは、例えば風冷強化ガラス等の物理強化ガラス、化学強化ガラスの何れでもよい。物理強化ガラスである場合は、例えば、曲げ成形において均一に加熱したガラス板を軟化点付近の温度から急冷させる等、徐冷以外の操作により、ガラス表面とガラス内部との温度差によってガラス表面に圧縮応力層を生じさせることで、ガラス表面を強化できる。
【0045】
化学強化ガラスである場合は、例えば、曲げ成形の後、イオン交換法等によってガラス表面に圧縮応力を生じさせることでガラス表面を強化できる。又、紫外線又は赤外線を吸収するガラスを用いてもよく、更に、透明であることが好ましいが、透明性を損なわない程度に着色されたガラス板を用いてもよい。
【0046】
一方、有機ガラスの材料としては、ポリカーボネート、例えばポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン等の透明樹脂が挙げられる。
【0047】
ガラス板11及び12の形状は、特に矩形状に限定されるものではなく、種々の形状及び曲率に加工された形状であってもよい。ガラス板11及び12の曲げ成形には、重力成形、プレス成形、ローラー成形等が用いられる。ガラス板11及び12の成形法についても特に限定されないが、例えば、無機ガラスの場合はフロート法等により成形されたガラス板が好ましい。
【0048】
ガラス板12の板厚は、最薄部が1.1mm以上3mm以下であることが好ましい。ガラス板12の板厚が1.1mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が十分であり、3mm以下であると、合わせガラス10の質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。ガラス板12の板厚は、最薄部が1.8mm以上2.8mm以下がより好ましく、1.8mm以上2.6mm以下が更に好ましく、1.8mm以上2.2mm以下が更に好ましく、1.8mm以上2.0mm以下が更に好ましい。
【0049】
ガラス板11の板厚は、0.3mm以上2.3mm以下であることが好ましい。ガラス板11の板厚が0.3mm以上であることにより作業性がよく、2.3mm以下であることにより質量が大きくなり過ぎない。
【0050】
又、ガラス板11及び12は、平板形状であっても湾曲形状であってもよい。しかし、ガラス板11及び12が湾曲形状であり、かつガラス板11の板厚が適切でない場合、ガラス板11及び12として特に曲がりが深いガラスを2枚成形すると、2枚の形状にミスマッチが生じ、圧着後の残留応力等のガラス品質に大きく影響する。
【0051】
しかし、ガラス板11の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることで、残留応力等のガラス品質を維持できる。ガラス板11の板厚を0.3mm以上2.3mm以下とすることは、曲がりの深いガラスにおけるガラス品質の維持に特に有効である。ガラス板11の板厚は、0.5mm以上2.1mm以下がより好ましく、0.7mm以上1.9mm以下が更に好ましい。この範囲であれば、上記の効果が更に顕著となる。
【0052】
合わせガラス10が例えばヘッドアップディスプレイに用いられる場合、ガラス板11及び/又は12は一定の板厚ではなく、必要に応じて場所毎に板厚が変わっても良い。例えば、合わせガラス10がフロントガラスである場合、ガラス板11及び12の何れか一方、又は両方は、フロントガラスを車両に取り付けた状態でフロントガラスの下辺から上辺に向かうにつれて板厚が厚くなる断面楔形状であってもよい。この場合、中間膜13の膜厚が一定であれば、ガラス板11とガラス板12の合計の楔角は、例えば、0mradより大きく1.0mrad以下の範囲で変化する。
【0053】
ガラス板11及び/又は12の外側に撥水、紫外線や赤外線カットの機能を有する被膜や、低反射特性、低放射特性を有する被膜を設けてもよい。又、ガラス板11及び/又は12の中間膜13と接する側に、紫外線や赤外線カット、低放射特性、可視光吸収、着色等の被膜を設けてもよい。
【0054】
ガラス板11及び12が湾曲形状の無機ガラスである場合、ガラス板11及び12は、フロート法による成形の後、中間膜13による接着前に、曲げ成形される。曲げ成形は、ガラスを加熱により軟化させて行われる。曲げ成形時のガラスの加熱温度は、大凡550℃~700℃である。
【0055】
〔中間膜〕
中間膜13としては熱可塑性樹脂が多く用いられ、例えば、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂、可塑化ポリ塩化ビニル系樹脂、飽和ポリエステル系樹脂、可塑化飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、可塑化ポリウレタン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合体系樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、アイオノマー樹脂等の従来からこの種の用途に用いられている熱可塑性樹脂が挙げられる。又、特許第6065221号に記載されている変性ブロック共重合体水素化物を含有する樹脂組成物も好適に使用できる。
【0056】
これらの中でも、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、可塑化ポリビニルアセタール系樹脂が好適に用いられる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。上記可塑化ポリビニルアセタール系樹脂における「可塑化」とは、可塑剤の添加により可塑化されていることを意味する。その他の可塑化樹脂についても同様である。
【0057】
但し、中間膜13に機能性部材等を封入する場合、封入する物の種類によっては特定の可塑剤により劣化することがあり、その場合には、その可塑剤を実質的に含有していない樹脂を用いることが好ましい。つまり、中間膜13が可塑剤を含まないことが好ましい場合がある。可塑剤を含有していない樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂等が挙げられる。
【0058】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、ポリビニルアルコール(以下、必要に応じて「PVA」と言うこともある)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール系樹脂、PVAとn-ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂(以下、必要に応じて「PVB」と言うこともある)等が挙げられ、特に、透明性、耐候性、強度、接着力、耐貫通性、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性、遮熱性、及び遮音性等の諸性能のバランスに優れることから、PVBが好適なものとして挙げられる。なお、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0059】
但し、中間膜13を形成する材料は、熱可塑性樹脂には限定されない。又、中間膜13は、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、発光剤等の機能性粒子を含んでもよい。又、中間膜13は、シェードバンドと呼ばれる着色部を有してもよい。着色部を形成するために用いられる着色顔料としては、プラスチック用として使用できるものであって、着色部の可視光線透過率が40%以下となるものであれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、ペリレン系、ペリノン系、ジオキサジン系、アンスラキノン系、イソインドリノ系などの有機着色顔料や、酸化物、水酸化物、硫化物、クロム酸、硫酸塩、炭酸塩、珪酸塩、燐酸塩、砒酸塩、フェロシアン化物、炭素、金属粉などの無機着色顔料等が挙げられる。これらの着色顔料は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。着色顔料の添加量は、着色部の可視光線透過率が40%以下となるものであるかぎり、目的の色調に合わせて任意で良く、特に限定されるものではない。
【0060】
中間膜13の膜厚は、最薄部で0.5mm以上であることが好ましい。なお、中間膜13が複数層からなる場合、中間膜13の膜厚とは、各層の膜厚を合計した膜厚である。中間膜13の最薄部の膜厚が0.5mm以上であると合わせガラスとして必要な耐衝撃性が十分となる。又、中間膜13の膜厚は、最厚部で3mm以下であることが好ましい。中間膜13の膜厚の最大値が3mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎない。中間膜13の膜厚の最大値は2.8mm以下がより好ましく、2.6mm以下が更に好ましい。
【0061】
合わせガラス10が例えばヘッドアップディスプレイに用いられる場合、中間膜13は一定の膜厚ではなく、必要に応じて場所毎に膜厚が変わっても良い。例えば、合わせガラス10がフロントガラスである場合、中間膜13は、フロントガラスを車両に取り付けた状態でフロントガラスの下辺から上辺に向かうにつれて膜厚が厚くなる断面楔形状であってもよい。この場合、ガラス板11及び12の板厚が一定であれば、中間膜13の楔角は、例えば、0mradより大きく1.0mrad以下の範囲で変化する。
【0062】
なお、中間膜13は、4層以上の層を有していてもよい。例えば、中間膜を4層以上から形成し、両側の層を除く何れかの層のせん断弾性率を可塑剤の調整等により両側の層のせん断弾性率よりも小さくすることにより、合わせガラス10の遮音性を向上できる。この場合、両側の層のせん断弾性率は同じでもよいし、異なってもよい。
【0063】
又、中間膜13に含まれる各層は、同一の材料で形成することが望ましいが、各層を異なる材料で形成してもよい。但し、ガラス板11及び12との接着性、或いは合わせガラス10の中に入れ込む機能材料等の観点から、中間膜13の膜厚の50%以上は上記の材料を使うことが望ましい。
【0064】
中間膜13を作製するには、例えば、中間膜となる上記の樹脂材料を適宜選択し、押出機を用い、加熱溶融状態で押し出し成形する。押出機の押出速度等の押出条件は均一となるように設定する。その後、押し出し成形された樹脂膜を、合わせガラスのデザインに合わせて、上辺及び下辺に曲率を持たせるために、例えば必要に応じ伸展することで、中間膜13が完成する。
【0065】
〔合わせガラス〕
合わせガラス10の総厚は、2.8mm以上10mm以下であることが好ましい。合わせガラス10の総厚が2.8mm以上であれば、十分な剛性を確保できる。又、合わせガラス10の総厚が10mm以下であれば、十分な透過率が得られると共にヘイズを低減できる。
【0066】
合わせガラス10の少なくとも1辺において、ガラス板11とガラス板12の板ずれが1.5mm以下であることが好ましく、1.0mm以下であることがより好ましい。ここで、ガラス板11とガラス板12の板ずれとは、すなわち、平面視におけるガラス板11の端部とガラス板12の端部のずれ量である。
【0067】
合わせガラス10の少なくとも1辺において、ガラス板11とガラス板12の板ずれが1.5mm以下であると、外観を損なわない点で好適である。合わせガラス10の少なくとも1辺において、ガラス板11とガラス板12の板ずれが1.0mm以下であると、外観を損なわない点で更に好適である。
【0068】
合わせガラス10を製造するには、ガラス板12、第3中間膜133、第2機能性部材16、第2中間膜132、第1機能性部材15、第1中間膜131、及びガラス板11の順に重ね合わせた積層体を準備する。そして、例えば、この積層体をゴム袋やラバーチャンバー、樹脂製の袋等の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着する。加熱条件、温度条件、及び積層方法は、第1機能性部材15及び第2機能性部材16の性質に配慮して、例えば、積層中に劣化しないように適宜選択される。
【0069】
更に、例えば100~150℃、圧力0.6~1.3MPaの条件で加熱加圧する圧着処理を行うことで、より耐久性の優れた合わせガラス10を得られる。但し、場合によっては工程の簡略化、並びに合わせガラス10中に封入する材料の特性を考慮して、この加熱加圧工程を使用しない場合もある。
【0070】
つまり、ガラス板11又はガラス板12のうち、何れか一方、又は両方のガラス板が互いに弾性変形した状態で接合されている、「コールドベンド」と呼ばれる方法を使用してもよい。コールドベンドは、テープ等の仮止め手段によって固定されたガラス板12、第3中間膜133、第2機能性部材16、第2中間膜132、第1機能性部材15、第1中間膜131、及びガラス板11からなる積層体と、従来公知であるニップローラー又はゴム袋、ラバーチャンバー等の予備圧着装置及びオートクレーブを用いることで達成できる。
【0071】
ガラス板11とガラス板12との間に、本願の効果を損なわない範囲で、中間膜13、第1機能性部材15、及び第2機能性部材16の他に、電熱線、赤外線反射、発光、発電、調光、タッチパネル、可視光反射、散乱、加飾、吸収等の機能を持つフィルムやデバイスを有してもよい。又、合わせガラス10の表面に防曇、撥水、遮熱、低反射等の機能を有する膜を有していてもよい。又、ガラス板11の車外側の面やガラス板12の車内側の面に遮熱、発熱等の機能を有する膜を有していてもよい。
【0072】
このように、合わせガラス10では、中間膜13に封入された第1機能性部材15と第2機能性部材16の少なくとも一辺側で、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれており、端部同士のずれ量は5mm以上200mm以下である。これにより、端部近傍での厚み変化が緩和されるため、脱気不良を抑制(残留空気の排気性を向上)できる。
【0073】
又、合わせガラス10では、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士のずれ量を5mm以上200mm以下とすることにより脱気不良を抑制できるため、額縁状の中間膜は不要である。従って、額縁状の中間膜を適切な大きさに切断したり、位置合わせしたりする手間が不要となるため、コスト上昇を抑制できる。
【0074】
なお、合わせガラス10の中間膜13に3つ以上の機能性部材を封入する場合には、3つ以上の機能性部材のうち、中間膜を介して隣接する2つの機能性部材の少なくとも一辺側で、2つの機能性部材の端部同士のずれ量を5mm以上200mm以下とすればよい。
【0075】
例えば、車内側のガラス板、中間膜、第1機能性部材、中間膜、第2機能性部材、中間膜、第3機能性部材、中間膜、車内側のガラス板が順次積層された合わせガラスを考える。この場合には、中間膜を介して隣接する第1機能性部材及び第2機能性部材の少なくとも一辺側で端部同士のずれ量を5mm以上200mm以下とし、かつ、中間膜を介して隣接する第2機能性部材及び第3機能性部材の少なくとも一辺側で端部同士のずれ量を5mm以上200mm以下とすれば、脱気不良を抑制できる。
【0076】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、第1機能性部材と第2機能性部材の外周側全体で、第1機能性部材と第2機能性部材の端部同士がずれている例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0077】
図2は、第1実施形態の変形例1に係る合わせガラスを例示する図であり、
図2(a)は合わせガラスを車室内から車室外に視認した様子を模式的に示した図、
図2(b)は
図2(a)のB-B線に沿う部分拡大断面図である。
【0078】
図2に示すように、合わせガラス10Aは、第1機能性部材15及び第2機能性部材16が第1機能性部材15A及び第2機能性部材16Aに置換された点が、合わせガラス10(
図1参照)と相違する。合わせガラス10Aは、例えば、車両用のルーフガラスである。第1機能性部材15A及び第2機能性部材16Aの各々の機能や厚みは、例えば、第1機能性部材15及び第2機能性部材16の各々の機能や厚みと同様である。
【0079】
合わせガラス10Aでは、平面視において、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの外周側全体で、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの端部同士がずれている。
図2の例では、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの端部同士がずれている部分は、合わせガラス10Aの周縁部の遮蔽層14に隠れるように配置されている。第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの端部同士のずれ量L
1は、5mm以上200mm以下である。これにより、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0080】
第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの端部同士のずれ量L1は、5mm以上100mm以下が好ましく、10mm以上50mm以下がより好ましく、10mm以上30mm以下が更に好ましい。これにより、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0081】
第1機能性部材15A及び第2機能性部材16Aと遮蔽層14との重複量L2は、ずれ量L1+5mm以上、ずれ量L1+100mm以下であることが好ましい。重複量L2は、ずれ量L1+5mm以上、ずれ量L1+50mm以下であることがより好ましい。重複量L2は、ずれ量L1+5mm以上、ずれ量L1+30mm以下であることが更に好ましい。これにより、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0082】
前述のように、平面視において、第1機能性部材と第2機能性部材の少なくとも一辺側で、第1機能性部材と第2機能性部材の端部同士がずれていると脱気性を向上できる。
図2に示すように、平面視において、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの外周側全体で、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの端部同士をずらし、端部同士のずれ量を5mm以上200mm以下とすることで、脱気性を一層向上できる。
【0083】
なお、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの少なくとも二辺側又は三辺側で、第1機能性部材15Aと第2機能性部材16Aの端部同士がずれていてもよい。
【0084】
〈第1実施形態の変形例2〉
第1実施形態の変形例1では、合わせガラスがサイドガラスである例を示す。なお、第1実施形態の変形例2において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0085】
図3は、第1実施形態の変形例2に係る合わせガラス近傍を例示する模式図である。
図3に示すように、合わせガラス10Bは上下方向に摺動可能なサイドガラスであり、合わせガラス10と同様に第1機能性部材15及び第2機能性部材16を有している。第1機能性部材15及び第2機能性部材16には、例えば、配線板30が接続されている。
【0086】
合わせガラス10Bにおいて、ドアパネルの内部には、合わせガラス10Bを窓枠130に沿って上下に摺動させるためのウインドウレギュレーター120やホルダ127が配置されている。
【0087】
合わせガラス10Bの上辺102は、サイドガラスの開放時に露出する辺である。合わせガラス10Bの下辺103にはホルダ127が装着され、ウインドウレギュレーター120の昇降レール123に取り付けられる。
【0088】
そして、合わせガラス10Bが完全に上まで閉まっている状態においても、ベルトラインBL(サイドガラスとドアパネルとの境界線)よりも下側はドアパネル内に位置するため、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている部分は露出しない。すなわち、
図3の例では、ドアパネルが遮蔽領域として機能しているため、運転者等は第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている部分を視認できない。
【0089】
このように、合わせガラス10Bはサイドガラスであってもよく、この場合、第1機能性部材15と第2機能性部材16の端部同士がずれている部分を遮蔽領域となるドアパネルで隠蔽してもよい。
【0090】
〈実施例〉
以下、実施例について説明するが、本発明は、これらの例に何ら限定されるものではない。
【0091】
[例1]
図4は、評価用の合わせガラスについて説明する図であり、
図4(a)は平面図、
図4(b)は
図4(a)のC-C線に沿う断面図である。例1では、下記のようにして、
図4に示す評価用の合わせガラス10Hを作製した。
【0092】
合わせガラスとした際に内板(車内側ガラス板)となるガラス板11H(AGC社製 通称VFL)と、外板(車外側ガラス板)となるガラス板12H(AGC社製 通称VFL)を準備した。ガラス板11H及び12Hの寸法は、何れも、300mm×300mm×板厚2mmとした。
【0093】
又、第1中間膜131H(イーストマンケミカル社製 PVB、厚み0.38mm)、第2中間膜132H(イーストマンケミカル社製 PVB、厚み0.38mm)、及び第3中間膜133H(イーストマンケミカル社製 PVB、厚み0.83mm)を準備した。ガラス板11H、ガラス板12H、第1中間膜131H、第2中間膜132H、及び第3中間膜133Hは、何れも一定の厚みである。
【0094】
又、第1機能性部材として第1PETフィルム15H、第2機能性部材として第2PETフィルム16Hを準備した。第1PETフィルム15Hの寸法は、300mm×150mm×膜厚T1μmとした。第2PETフィルム16Hの寸法は、300mm×(150mm+L1mm)×膜厚T2μmとした。
【0095】
次に、ガラス板12H、第3中間膜133H、第2PETフィルム16H、第2中間膜132H、第1PETフィルム15H、第1中間膜131H、及びガラス板11Hの順に重ね合わせた積層体を作製した。このとき、第1PETフィルム15Hと第2PETフィルム16Hの中央側の一辺において、端部同士をずらした(ずれ量L
1)。次に、積層体をゴム袋の中に入れ、-65~-100kPaの真空中で温度約70~110℃で接着した。そして、圧力0.6~1.3MPa、温度約100~150℃の条件で加圧及び加熱し、
図4に示す評価用の合わせガラス10Hを作製した。
【0096】
なお、評価用の合わせガラス10Hは、第1PETフィルム15Hの膜厚T
1(μm)、第2PETフィルム16Hの膜厚T
2(μm)、及び第1PETフィルム15Hと第2PETフィルム16Hのずれ量L
1(mm)の値を変えた複数のサンプルを作製した。膜厚T
1(μm)、膜厚T
2(μm)、及びずれ量L
1(mm)の値ついては、
図5に示す通りである。
【0097】
次に、作製した評価用の合わせガラス10Hについて、目視により脱気性の確認を行った。具体的には、目視により、ガラス板11H及び/又は12Hに割れが生じたか否か、合わせガラス10H内に発泡が生じたか否かを確認した。そして、割れと発泡の何れも確認できなかった場合を脱気不良なしとして〇、割れと発泡の少なくとも一方が確認できた場合を脱気不良ありとして×とし、
図5にまとめた。
【0098】
又、ずらしによる厚み変化と脱気性との関係を評価するため、合わせガラス10Hの総厚を、両球マイクロメーター(MitutoyoのDIGIMATIC MICROMETER)を用いて測定し、
図6にまとめた。合わせガラス10Hの総厚は、
図7に示す二点鎖線Mに沿って5mm単位で測定した。なお、二点鎖線Mは、
図7において、第1PETフィルム15Hと第2PETフィルム16Hをずらしていない左下角を0mmとしたときに、左右方向(横方向)の中央を通り上下方向(縦方向)の100mm~300mmの範囲に引いた直線である。
図6の横軸の『合わせガラスの縦方向』は、
図7の二点鎖線Mに沿った方向である。又、
図6の縦軸の『厚み』は、合わせガラス10Hの総厚である。
【0099】
図5に示すように、中間膜がPVBである場合に、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件において、第1PETフィルム15Hの膜厚T
1(μm)と第2PETフィルム16Hの膜厚T
2(μm)の何れの組合せにおいても、ずれ量L
1=0(mm)の場合には脱気不良あり(×)であった。
【0100】
一方、中間膜がPVBである場合に、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件において、第1PETフィルム15Hの膜厚T1(μm)と第2PETフィルム16Hの膜厚T2(μm)の何れの組合せにおいても、ずれ量L1≧5(mm)の場合には脱気不良なし(〇)であった。
【0101】
すなわち、中間膜がPVBである場合に、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件においては、ずれ量L1を5(mm)以上とすることで、脱気不良の発生を抑制できることがわかった。
【0102】
なお、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm未満の場合には、そもそもの厚み変化が小さいために、ずれ量L1=0(mm)であっても脱気不良が生じなかったと考えられる。
【0103】
又、
図6の結果より、第1PETフィルム15Hと第2PETフィルム16Hの厚みが同じであれば、ずれ量L
1が大きいほど厚み変化が小さくなり、結果として脱気性が向上するといえる。なお、
図6において、例えば、『50/50-0』は、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの各々の厚みが50μmであり、ずれ量L
1が0mmであることを示している。
【0104】
[例2]
第1中間膜131Hを東ソー・ニッケミ社製 EVA、厚み0.40mm、第2中間膜132Hを東ソー・ニッケミ社製 EVA、厚み0.40mm、及び第3中間膜133Hを東ソー・ニッケミ社製 EVA、厚み0.80mmとした以外は、例1と同様にして、
図4に示す評価用の合わせガラス10Hを作製した。
【0105】
なお、評価用の合わせガラス10Hは、第1PETフィルム15Hの膜厚T
1(μm)、第2PETフィルム16Hの膜厚T
2(μm)、及び第1PETフィルム15Hと第2PETフィルム16Hのずれ量L
1(mm)の値を変えた複数のサンプルを作製した。膜厚T
1(μm)、膜厚T
2(μm)、及びずれ量L
1(mm)の値ついては、
図8に示す通りである。
【0106】
次に、作製した評価用の合わせガラス10Hについて、目視により脱気性の確認を行った。具体的には、目視により、ガラス板11H及び/又は12Hに割れが生じたか否か、合わせガラス10H内に発泡が生じたか否かを確認した。そして、割れと発泡の何れも確認できなかった場合を脱気不良なしとして〇、割れと発泡の少なくとも一方が確認できた場合を脱気不良ありとして×とし、
図8にまとめた。
【0107】
図8に示すように、中間膜がEVAである場合に、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件において、第1PETフィルム15Hの膜厚T
1(μm)と第2PETフィルム16Hの膜厚T
2(μm)の何れの組合せにおいても、ずれ量L
1=0(mm)の場合には脱気不良あり(×)であった。
【0108】
一方、中間膜がEVAである場合に、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件において、第1PETフィルム15Hの膜厚T1(μm)と第2PETフィルム16Hの膜厚T2(μm)の何れの組合せにおいても、ずれ量L1≧10(mm)の場合には脱気不良なし(〇)であった。
【0109】
すなわち、中間膜がEVAである場合に、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件においては、ずれ量L1を10(mm)以上とすることで、脱気不良の発生を抑制できることがわかった。
【0110】
なお、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm未満の場合には、そもそもの厚み変化が小さいために、ずれ量L1=0(mm)であっても脱気不良が生じなかったと考えられる。
【0111】
このように、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの厚みやずれ量と脱気不良の有無との関係は、中間膜の材料には依存しない。従って、中間膜がEVAである場合でも、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件においては、ずれ量L1を5(mm)以上とすることで、脱気不良の発生を抑制できると考えられる。又、中間膜がPVA及びEVA以外である場合でも、第1PETフィルム15H及び第2PETフィルム16Hの合計の厚みが300μm以上である条件においては、ずれ量L1を5(mm)以上とすることで、脱気不良の発生を抑制できると考えられる。
【0112】
なお、例1において、第1中間膜131Hを厚み0.38mm、第2中間膜132Hを厚み0.38mm、第3中間膜133Hを厚み0.83mm、例2において第1中間膜131Hを厚み0.40mm、第2中間膜132Hを厚み0.40mm、第3中間膜133Hを厚み0.80mmとしたが、各々の中間膜の厚みや各々の中間膜の厚みの大小関係は、脱気性とは無関係である。
【0113】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0114】
例えば、上記の実施形態では、第1機能性部材15と第2機能性部材16の組合せの代表例として、車内側に位置する第1機能性部材15がスクリーンフィルムであり、車外側に位置する第2機能性部材16が調光フィルムである組合せを挙げた。しかし、車内側に位置する第1機能性部材15がディスプレイフィルムであり、車外側に位置する第2機能性部材16が調光フィルムであってもよい。この場合も、調光フィルムに給電して調光フィルムを不透明にすることで、ディスプレイフィルムに表示される映像を車内から高いコントラストで視認可能となる。又、車内側に位置する第1機能性部材15がディスプレイフィルムであり、車外側に位置する第2機能性部材16が電熱フィルムであってもよい。例えば、ディスプレイフィルムが液晶ディスプレイである場合、液晶ディスプレイを電熱フィルムで加温することで、低温環境における液晶の動作速度を改善できる。
【符号の説明】
【0115】
10、10A、10B、10H 合わせガラス
11、11H、12、12H ガラス板
13、13A 中間膜
14 遮蔽層
15、15A 第1機能性部材
15H 第1PETフィルム
16、16A 第2機能性部材
16H 第2PETフィルム
30 配線板
102 合わせガラスの上辺
103 合わせガラスの下辺
123 昇降レール
120 ウインドウレギュレーター
127 ホルダ
130 窓枠
131、131H 第1中間膜
132、132H 第2中間膜
133、133H 第3中間膜