(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20231011BHJP
B32B 27/04 20060101ALI20231011BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231011BHJP
B32B 5/10 20060101ALI20231011BHJP
C08J 5/24 20060101ALI20231011BHJP
C08L 27/12 20060101ALI20231011BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20231011BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B32B5/28 Z
B32B5/28 A
B32B27/04 Z
B32B27/30 D
B32B5/10
C08J5/24 CEW
C08L27/12
C08L101/00
C08K7/00
(21)【出願番号】P 2020514110
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015683
(87)【国際公開番号】W WO2019203099
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018078705
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018139612
(32)【優先日】2018-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾澤 紀生
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122740(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030190(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/24
C08L 27/12
C08L 101/00
C08K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維基材、及び下記フッ素樹脂を50体積%以上含む樹脂成分を含み、前記強化繊維基材と前記樹脂成分の合計体積に対する前記強化繊維基材の体積の比率が0.30~0.70である繊維強化樹脂層と、
下記非フッ素樹脂を50体積%超含む樹脂成分を含む
2つ以上の基材からなる多層基材と
がこの順に積層された構成を備え、
少なくとも一方の最表層が前記繊維強化樹脂層であり、
前記繊維強化樹脂層の合計厚さと前記基材の合計厚さの比が1/99~30/70である、積層体。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、融点が100~325℃であり、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:
エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、及びビスマレイミド樹脂からなる群から選ばれるフッ素原子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物
、又は
ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、変性されたポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、及びポリアリレートからなる群から選ばれるフッ素原子を含まない熱可塑性樹脂。
【請求項2】
前記フッ素樹脂の融点が150℃以上260℃未満である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記フッ素樹脂の融点が260℃以上325℃以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記フッ素樹脂が、下記含フッ素重合体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層体。
含フッ素重合体:テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンに基づく単位と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体に基づく単位と、含フッ素単量体(ただし、テトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく単位とを有する含フッ素重合体。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂層に含まれる強化繊維基材の強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記繊維強化樹脂層の合計厚さが、0.01~2.0mmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記基材がさらに強化繊維を含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記基材が、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂のみからなる樹脂基材、フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物を50体積%超含む樹脂成分と強化繊維とを含む繊維強化樹脂基材、又は、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂を50体積%超含む樹脂成分と強化繊維とを含む繊維強化樹脂基材である、請求項1~
7のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材に含まれる強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる、請求項
7又は8に記載の積層体。
【請求項10】
前記基材の構造が、円柱状、円筒状又はハニカム構造である、請求項1~
9のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項11】
前記繊維強化樹脂層と前記基材との接着強度が5N/cm以上である、請求項1~
10のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項12】
強化繊維基材に、下記フッ素樹脂を50体積%以上含む樹脂成分が含浸され、前記強化繊維基材と前記樹脂成分の合計体積に対する前記強化繊維基材の体積の比率が0.30~0.70であるプリプレグと、
下記非フッ素樹脂を50体積%超含む樹脂成分を含む
2つ以上の基材からなる多層基材とを
この順に、
少なくとも一方の最表層に前記プリプレグが配置されるように、かつ前記プリプレグの合計厚さと前記基材の合計厚さの比が1/99~30/70となるように積層し、それらを加熱、加圧する、積層体の製造方法。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、融点が100~325℃であり、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:
エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、及びビスマレイミド樹脂からなる群から選ばれるフッ素原子を含まない未硬化の熱硬化性樹脂
、又は
ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、変性されたポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、及びポリアリレートからなる群から選ばれるフッ素原子を含まない熱可塑性樹脂。
【請求項13】
前記プリプレグの前記基材と接する側の面がプラズマ処理されている、請求項
12に記載の積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~
11のいずれか一項に記載の積層体からなる低振動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化成形品は、高強度で軽量なため、車両(自動車、鉄道車両等)、航空機等の輸送機器、建築部材、電子機器等の広い用途に用いられている。繊維強化成形品の製造には、強化繊維基材にマトリックス樹脂が含浸されたプリプレグが用いられる。マトリックス樹脂としては、従来から熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が用いられている。マトリックス樹脂としてフッ素樹脂を用いることも提案されている。
【0003】
特許文献1には、強化繊維基材に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸した1層以上のプリプレグの上に、最表層としてフッ素樹脂フィルムが積層された積層材料を成形して得た繊維強化成形品(積層体)が開示されている。
特許文献2には、強化繊維基材に熱可塑性樹脂を含浸したプリプレグと、強化繊維基材にフッ素樹脂を含浸したプリプレグとを交互に積層し、フッ素樹脂を含浸したプリプレグを最表層とした積層材料を成形して得た繊維強化成形品(積層体)が開示されている。
特許文献3には、熱可塑性樹脂を主成分とするフッ素樹脂との混合樹脂を強化繊維基材に含浸したプリプレグを複数積層した積層材料を成形して得た繊維強化成形品(積層体)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/030190号
【文献】国際公開第2017/122740号
【文献】国際公開第2017/122735号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の積層体は、充分な耐摩耗性が得られないことがある。特許文献2の積層体は、充分な機械強度が得られないことがある。特許文献3の積層体は、充分な耐薬品性及び耐摩耗性が得られないことがある。
【0006】
本発明は、耐薬品性、耐摩耗性、振動吸収性及び難燃性に優れ、機械強度が高い積層体、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]強化繊維基材、及び下記フッ素樹脂を50体積%以上含む樹脂成分を含み、前記強化繊維基材と前記樹脂成分の合計体積に対する前記強化繊維基材の体積の比率が0.30~0.70である繊維強化樹脂層と、
金属、紙、ガラス、又は、下記非フッ素樹脂を50体積%超含む樹脂成分を含む基材とを備え、
少なくとも一方の最表層が前記繊維強化樹脂層であり、
前記繊維強化樹脂層の合計厚さと前記基材の合計厚さの比が1/99~30/70である、積層体。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、融点が100~325℃であり、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物又は熱可塑性樹脂。
[2]前記フッ素樹脂の融点が150℃以上260℃未満である、[1]に記載の積層体。
[3]前記フッ素樹脂の融点が260℃以上325℃以下である、[1]に記載の積層体。
[4]前記フッ素樹脂が、下記含フッ素重合体である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の積層体。
含フッ素重合体:テトラフルオロエチレン又はクロロトリフルオロエチレンに基づく単位と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体に基づく単位と、含フッ素単量体(ただし、テトラフルオロエチレン及びクロロトリフルオロエチレンを除く。)に基づく単位とを有する含フッ素重合体。
[5]前記繊維強化樹脂層に含まれる強化繊維基材の強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる、[1]~[4]のいずれか一項に記載の積層体。
[6]前記基材がさらに強化繊維を含む、[1]~[5]のいずれか一項に記載の積層体。
[7]前記基材が、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂のみからなる樹脂基材、フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物を50体積%超含む樹脂成分と強化繊維とを含む繊維強化樹脂基材、又は、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂を50体積%超含む樹脂成分と強化繊維とを含む繊維強化樹脂基材である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の積層体。
[8]前記フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂が、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、変性されたポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、及びポリアリレートからなる群から選ばれる、[1]~[7]のいずれか一項に記載の積層体。
[9]前記フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、及びビスマレイミド樹脂からなる群から選ばれる、[1]~[7]のいずれか一項に記載の積層体。
[10]前記基材に含まれる強化繊維が、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる、[6]~[9]のいずれか一項に記載の積層体。
[11]前記基材の構造が、円柱状、円筒状又はハニカム構造である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の積層体。
[12]前記繊維強化樹脂層と前記基材との接着強度が5N/cm以上である、[1]~[11]のいずれか一項に記載の積層体。
[13]強化繊維基材に、下記フッ素樹脂を50体積%以上含む樹脂成分が含浸され、前記強化繊維基材と前記樹脂成分の合計体積に対する前記強化繊維基材の体積の比率が0.30~0.70であるプリプレグと、
金属、紙、ガラス、又は、下記非フッ素樹脂を50体積%超含む樹脂成分を含む基材とを、
少なくとも一方の最表層に前記プリプレグが配置されるように、かつ前記プリプレグの合計厚さと前記基材の合計厚さの比が1/99~30/70となるように積層し、それらを加熱、加圧する、積層体の製造方法。
フッ素樹脂:カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有し、融点が100~325℃であり、溶融成形可能であるフッ素樹脂。
非フッ素樹脂:フッ素原子を含まない未硬化の熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂。
[14]前記プリプレグの前記基材と接する側の面がプラズマ処理されている、[13]に記載の積層体の製造方法。
[15][1]~[12]のいずれか一項に記載の積層体からなる低振動部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐薬品性、耐摩耗性、振動吸収性及び難燃性に優れ、機械強度が高い積層体、及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の積層体の一例を示した断面図である。
【
図2】加速度センサーの取り付け位置を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を示す。
「融点」とは、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度を意味する。
「溶融成形可能」であるとは、溶融流動性を示すことを意味する。
「溶融流動性を示す」とは、荷重49Nの条件下、樹脂の融点よりも20℃以上高い温度において、溶融流れ速度が0.01~1000g/10分となる温度が存在することを意味する。
「溶融流れ速度」とは、JIS K 7210:1999(ISO 1133:1997)に規定されるメルトマスフローレート(MFR)を意味する。
「粉体のD50」は、レーザー回折・散乱法によって求められる体積基準累積50%径である。すなわち、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。同様に、「粉体のD10」、「粉体のD90」、及び「粉体のD100」は、体積基準累積10%径、体積基準累積90%径、及び体積基準累積100%径である。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、単量体に基づく単位を、単に、単量体単位とも記す。
「単量体」とは、重合性二重結合等の重合性不飽和結合を有する化合物である。
「酸無水物基」とは、-C(=O)-O-C(=O)-で表される基を意味する。
【0011】
[積層体]
本発明の積層体は、後述の繊維強化樹脂層Aと、後述の基材Bとを含む。
【0012】
(繊維強化樹脂層A)
繊維強化樹脂層Aは、強化繊維基材、及び後述のフッ素樹脂Fを50体積%以上含む樹脂成分(以下、「樹脂成分a」とも記す。)を含み、強化繊維基材と樹脂成分aの合計体積に対する強化繊維基材の体積の比率QAが0.30~0.70である繊維強化樹脂層である。
【0013】
繊維強化樹脂層Aの強化繊維基材に用いる強化繊維としては、無機繊維、金属繊維、有機繊維を例示できる。
無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維を例示できる。
金属繊維としては、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維を例示できる。
有機繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維を例示できる。
強化繊維としては、入手性の点から、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0014】
強化繊維は、開繊されていてもよく、開繊されていなくてもよい。強化繊維は、表面処理されていてもよい。強化繊維は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
強化繊維としては、長さが10mm以上の連続した長繊維が好ましい。強化繊維は、強化繊維基材の長さ方向の全長又は幅方向の全幅にわたり連続している必要はなく、途中で分断されていてもよい。
【0015】
強化繊維基材の態様としては、特に限定されず、複数の強化繊維からなる強化繊維束、強化繊維を織成してなる強化繊維織物、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維シート、強化繊維不織布、これらを組み合わせたものを例示できる。強化繊維基材としては、得られる繊維強化成形品の強度物性の点から、強化繊維織物、強化繊維が一方向に引き揃えられた強化繊維シート、強化繊維不織布が好ましい。
【0016】
強化繊維基材の厚さは、10~500μmが好ましく、20~300μmがより好ましい。強化繊維基材の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、強化繊維基材の取り扱い性に優れる。強化繊維基材の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、繊維強化成形品を製造する際の含浸性に優れる。
炭素繊維表面には繊維の取り扱いを容易にするためのコーティング(サイジングとも呼ぶ)がされているが、本発明においては、コーティングされた炭素繊維、コーティング剤を除去した炭素繊維のどちらも用いることができる。
【0017】
繊維強化樹脂層Aの樹脂成分aは、フッ素樹脂Fを必須として含み、必要に応じてフッ素樹脂F以外の他の樹脂を含んでもよい。
フッ素樹脂Fは、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、アミド基、アミノ基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基(以下、「官能基f」とも記す。)を有し、融点が100~325℃であり、溶融成形可能なフッ素樹脂である。
【0018】
フッ素樹脂Fの融点は、100~325℃であり、150~325℃が好ましく、170~325℃がより好ましい。フッ素樹脂Fの融点が前記範囲の下限値以上であれば、積層体の耐熱性に優れる。フッ素樹脂Fの融点が前記範囲の上限値以下であれば、積層体を製造する際に汎用的な装置を使用でき、かつ積層体における層間の接着性に優れる。
【0019】
融点が比較的低いフッ素樹脂Fを用いた場合、成形時の加熱温度を低くしても、積層体における層間での接着性に優れる。この点では、フッ素樹脂Fの融点は、150℃以上260℃未満が好ましく、170~250℃がより好ましい。
融点が比較的高いフッ素樹脂Fを用いた場合、高い耐熱性を有する積層体が得られるので好ましい。この点では、フッ素樹脂Fの融点は、260~325℃が好ましく、280~325℃がより好ましい。
なお、フッ素樹脂の融点は、フッ素樹脂を構成する単位の種類や含有割合、分子量等によって調整できる。例えば、後述の単位u1の割合が多くなるほど融点が高くなる傾向がある。
【0020】
フッ素樹脂Fの溶融流れ速度は、0.1~1000g/10分が好ましく、0.5~100g/10分がより好ましく、1~30g/10分がさらに好ましく、3~25g/10分が特に好ましい。溶融流れ速度が前記範囲の下限値以上であれば、フッ素樹脂Fの成形加工性に優れる。溶融流れ速度が前記範囲の上限値以下であれば、積層体の機械強度が高くなる。
【0021】
フッ素樹脂Fが有する官能基fは、1種であってもよく、2種以上であってもよい。官能基fとしては、積層体における層間での接着性の点から、カルボニル基含有基を有することが好ましい。
カルボニル基含有基としては、例えば、炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物基等が挙げられる。
【0022】
炭化水素基の炭素原子間にカルボニル基を有する基における炭化水素基としては、例えば、炭素数2~8のアルキレン基等が挙げられる。なお、前記アルキレン基の炭素数は、カルボニル基の炭素原子を含まない炭素数である。アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。
ハロホルミル基は、-C(=O)-X(ただし、Xはハロゲン原子である。)で表される。ハロホルミル基におけるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子等が挙げられ、フッ素原子が好ましい。すなわちハロホルミル基としてはフルオロホルミル基(カルボニルフルオリド基ともいう。)が好ましい。
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基は、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、炭素数1~8のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基又はエトキシ基が特に好ましい。
【0023】
フッ素樹脂F中の官能基fの含有量は、フッ素樹脂Fの主鎖炭素数1×106個に対し10~60000個が好ましく、100~50000個がより好ましく、100~10000個がさらに好ましく、300~5000個が特に好ましい。官能基fの含有量が前記範囲の下限値以上であれば、積層体における層間での接着性にさらに優れる。官能基fの含有量が前記範囲の上限値以下であれば、成形時の加熱温度を低くしても、積層体における層間での接着性に優れる。
【0024】
官能基fの含有量は、核磁気共鳴(NMR)分析、赤外吸収スペクトル分析等の方法によって測定できる。例えば、特開2007-314720号公報に記載のように赤外吸収スペクトル分析等の方法を用いて、フッ素樹脂Fを構成する全単位中の官能基fを有する単位の割合(モル%)を求め、前記割合から、官能基fの含有量を算出できる。
【0025】
フッ素樹脂Fとしては、例えば、官能基fを有する単位や官能基fを有する末端基を有する含フッ素重合体が挙げられる。具体的には、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンに基づく単位とテトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位を有する共重合体(以下、「エチレン/テトラフルオロエチレン」とも記す。)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン(以下、「CTFE」とも記す。)共重合体(ECTFE)、CTFE/TFE共重合体、TFE/ヘキサフルオロプロピレン(以下、「HFP」とも記す。)共重合体(FEP)、TFE/ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)共重合体(PFA)、ポリビニリデンフルオライド(PVdF)等に官能基fを導入したものを例示できる。官能基fを導入した変性ポリテトラフルオロエチレンも挙げられる。
【0026】
変性ポリテトラフルオロエチレンとしては、(i)TFEと、極微量のCH2=CH(CF2)4F又はCF2=CFOCF3と、極微量の官能基fを有する単量体とを共重合したもの、(ii)TFEと、極微量の極微量の官能基fを有する単量体とを共重合したもの、(iii)ポリテトラフルオロエチレンにプラズマ処理等で官能基fを導入したもの、(iv)TFEと極微量のCH2=CH(CF2)4F又はCF2=CFOCF3とを共重合したものにプラズマ処理等で官能基fを導入したもの等が挙げられる。
【0027】
フッ素樹脂Fとしては、官能基fを有するPFA、官能基fを有するFEP、官能基fを有するETFEが好ましい。
フッ素樹脂Fとしては、積層体における層間での接着性に優れる点から、下記含フッ素重合体Xが好ましい。
含フッ素重合体X:TFE又はCTFEに基づく単位(以下、「単位u1」とも記す)と、酸無水物基を有する環状炭化水素単量体(以下、「酸無水物系単量体」とも記す。)に基づく単位(以下、「単位u2」とも記す)と、含フッ素単量体(ただし、TFE及びCTFEを除く。)に基づく単位(以下、「単位u3」とも記す)とを有する含フッ素重合体。
【0028】
単位u1を構成する単量体としては、耐熱性が優れる点から、TFEが好ましい。
【0029】
酸無水物系単量体としては、無水イタコン酸(以下、「IAH」とも記す。)、無水シトラコン酸(以下、「CAH」とも記す。)、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(以下、「NAH」とも記す。)、無水マレイン酸等が挙げられる。酸無水物系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸無水物系単量体としては、IAH、CAH及びNAHが好ましい。IAH、CAH及びNAHのいずれかを用いると、無水マレイン酸を用いた場合に必要となる特殊な重合方法(特開平11-193312号公報参照)を用いることなく、酸無水物基を有する含フッ素重合体Xを容易に製造できる。
酸無水物系単量体としては、積層体における層間での接着性にさらに優れる点から、IAH及びNAHが好ましい。
【0030】
含フッ素重合体Xには、単位u2における酸無水物基の一部が加水分解し、その結果、酸無水物系単量体に対応するジカルボン酸(イタコン酸、シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、マレイン酸等)に由来する単位が含まれる場合がある。前記ジカルボン酸に由来する単位が含まれる場合、当該単位の含有量は、単位u2の含有量に含まれるものとする。
【0031】
単位u3を構成する含フッ素単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有する含フッ素化合物が好ましく、例えば、フルオロオレフィン(フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、TFE、HFP、ヘキサフルオロイソブチレン等。ただし、TFEを除く。)、PAVE、CF2=CFORf2SO2X1(ただし、Rf2は炭素数1~10で炭素原子間にエーテル性酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基であり、X1はハロゲン原子又は水酸基である。)、CF2=CFORf3CO2X2(ただし、Rf3は炭素数1~10で炭素原子間にエーテル性酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキレン基であり、X2は水素原子又は炭素数1~3のアルキル基である。)、CF2=CF(CF2)pOCF=CF2(ただし、pは1又は2である。)、CH2=CX3(CF2)qX4(ただし、X3は水素原子又はフッ素原子であり、qは2~10の整数であり、X4は水素原子又はフッ素原子である。)(以下、「FAE」とも記す。)、環構造を有する含フッ素単量体(ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、2,2,4-トリフルオロ-5-トリフルオロメトキシ-1,3-ジオキソール、ペルフルオロ(2-メチレン-4-メチル-1,3-ジオキソラン)等)等が挙げられる。
PAVEとしては、CF2=CFORf1(ただし、Rf1は炭素数1~10で炭素原子間にエーテル性酸素原子を含んでもよいペルフルオロアルキル基である。)等が挙げられる。
【0032】
単位u3を構成する含フッ素単量体としては、含フッ素重合体Xの成形性に優れる点から、HFP、PAVE及びFAEからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、PAVEが特に好ましい。
PAVEとしては、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3(以下、「PPVE」とも記す。)、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8F等が挙げられ、PPVEが好ましい。
【0033】
FAEとしては、CH2=CF(CF2)2F、CH2=CF(CF2)3F、CH2=CF(CF2)4F、CH2=CF(CF2)5F、CH2=CF(CF2)8F、CH2=CF(CF2)2H、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4H、CH2=CF(CF2)5H、CH2=CF(CF2)8H、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CH(CF2)5F、CH2=CH(CF2)6F、CH2=CH(CF2)8F、CH2=CH(CF2)2H、CH2=CH(CF2)3H、CH2=CH(CF2)4H、CH2=CH(CF2)5H、CH2=CH(CF2)8H等が挙げられる。
FAEとしては、CH2=CH(CF2)q1X4(ただし、q1は、2~6であり、2~4が好ましい。)が好ましく、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4Hがより好ましく、CH2=CH(CF2)4F(以下、「PFBE」とも記す。)及びCH2=CH(CF2)2F(以下、「PFEE」とも記す。)が特に好ましい。
【0034】
含フッ素重合体X中の単位u1と単位u2と単位u3との合計量に対する各単位の好ましい割合は下記のとおりである。
単位u1の割合は、90~99.89モル%が好ましく、95~99.47モル%がより好ましく、96~98.95モル%がさらに好ましい。
単位u2の割合は、0.01~3モル%が好ましく、0.03~2モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。
単位u3の割合は、0.1~9.99モル%が好ましく、0.5~9.97モル%がより好ましく、1~9.95モル%がさらに好ましい。
【0035】
含フッ素重合体Xにおいて、各単位の割合が前記範囲内であれば、積層体における層間での接着性にさらに優れる。
単位u2の割合が前記範囲内であれば、含フッ素重合体Xにおける酸無水物基の量が適切になり、積層体における層間での接着性にさらに優れる。
単位u3の割合が前記範囲内であれば、含フッ素重合体Xの成形性にさらに優れる。
各単位の割合は、含フッ素重合体Xの溶融NMR分析、フッ素含有量分析、赤外吸収スペクトル分析等により算出できる。
【0036】
含フッ素重合体Xは、単位u1~u3に加えて、非フッ素系単量体(ただし、酸無水物系単量体を除く。)に基づく単位(以下、「単位u4」とも記す)を有していてもよい。
非フッ素系単量体としては、重合性炭素-炭素二重結合を1つ有する非フッ素化合物が好ましく、例えば、オレフィン(エチレン、プロピレン、1-ブテン等)、ビニルエステル(酢酸ビニル等)等が挙げられる。非フッ素系単量体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
非フッ素系単量体としては、フッ素樹脂フィルムの機械的強度等に優れる点から、エチレン、プロピレン、1-ブテンが好ましく、エチレンが特に好ましい。
【0037】
含フッ素重合体Xが単位u1と単位u2と単位u3と単位u4とからなり、単位u4がエチレン単位である場合の、単位u1と単位u2と単位u3と単位u4との合計量に対する各単位の好ましい割合は下記のとおりである。
単位u1の割合は、25~80モル%が好ましく、40~65モル%がより好ましく、45~63モル%がさらに好ましい。
単位u2の割合は、0.01~5モル%が好ましく、0.03~3モル%がより好ましく、0.05~1モル%がさらに好ましい。
単位u3の割合は、0.2~20モル%が好ましく、0.5~15モル%がより好ましく、1~12モル%がさらに好ましい。
エチレン単位の割合は、20~75モル%が好ましく、35~50モル%がより好ましく、37~55モル%がさらに好ましい。
【0038】
含フッ素重合体Xの具体例としては、TFE/NAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/PPVE共重合体、TFE/CAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/HFP共重合体、TFE/CAH/HFP共重合体、TFE/IAH/PFBE/エチレン共重合体、TFE/CAH/PFBE/エチレン共重合体、TFE/IAH/PFEE/エチレン共重合体、TFE/CAH/PFEE/エチレン共重合体、TFE/IAH/HFP/PFBE/エチレン共重合体等が挙げられる。
含フッ素重合体Xとしては、官能基fを有するPFAが好ましく、TFE/NAH/PPVE共重合体、TFE/IAH/PPVE共重合体、TFE/CAH/PPVE共重合体がより好ましい。
【0039】
含フッ素重合体X等の官能基fを有するフッ素重合体は、常法により製造できる。単量体の重合によって含フッ素重合体を製造する場合、重合方法としては、ラジカル重合開始剤を用いる重合方法が好ましい。
重合方法としては、塊状重合法、有機溶媒(フッ化炭化水素、塩化炭化水素、フッ化塩化炭化水素、アルコール、炭化水素等)を用いる溶液重合法、水性媒体と必要に応じて適当な有機溶媒とを用いる懸濁重合法、水性媒体と乳化剤とを用いる乳化重合法が挙げられ、溶液重合法が好ましい。
【0040】
ラジカル重合開始剤としては、その半減期が10時間である温度が0~100℃である開始剤が好ましく、20~90℃である開始剤がより好ましい。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ化合物(アゾビスイソブチロニトリル等)、非フッ素系ジアシルペルオキシド(イソブチリルペルオキシド、オクタノイルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド等)、ペルオキシジカーボネート(ジイソプロピルペルオキシジカ-ボネート等)、ペルオキシエステル(tert-ブチルペルオキシピバレート、tert-ブチルペルオキシイソブチレート、tert-ブチルペルオキシアセテート等)、含フッ素ジアシルペルオキシド((Z(CF2)rCOO)2(ただし、Zは水素原子、フッ素原子又は塩素原子であり、rは1~10の整数である。)で表される化合物等)、無機過酸化物(過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等)等が挙げられる。
【0041】
重合時には、含フッ素重合体Xの溶融粘度を制御するために、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、アルコール(メタノール、エタノール等)、クロロフルオロハイドロカーボン(1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン、1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン等)、炭化水素(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等)が挙げられる。
【0042】
溶液重合法で用いる有機溶媒としては、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロシクロブタン等)、ヒドロフルオロカーボン(1-ヒドロペルフルオロヘキサン等)、クロロヒドロフルオロカーボン(1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ヒドロフルオロエーテル(メチルペルフルオロブチルエーテル等)等が挙げられる。これらの炭素数は、4~12が好ましい。
【0043】
フッ素樹脂Fとしては、主鎖末端基として官能基fを有する含フッ素重合体を用いてもよい。主鎖末端基として官能基fを有する含フッ素重合体は、単量体の重合の際に、官能基fをもたらす連鎖移動剤や重合開始剤を使用して単量体を重合させる方法で製造できる。
【0044】
官能基fをもたらす連鎖移動剤としては、カルボキシ基、エステル結合、ヒドロキシ基等を有する連鎖移動剤が好ましい。具体的には、酢酸、無水酢酸、酢酸メチル、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
官能基fをもたらす重合開始剤としては、ペルオキシカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル等の過酸化物系重合開始剤が好ましい。具体的には、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシカーボネート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4-tert-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0045】
樹脂成分aが含み得るフッ素樹脂F以外の他の樹脂としては、フッ素樹脂F以外の熱可塑性樹脂を例示できる。フッ素樹脂F以外の熱可塑性樹脂としては、結晶性樹脂、非晶性樹脂、熱可塑性エラストマーを例示できる。
【0046】
結晶性樹脂としては、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステル等)、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、酸変性ポリエチレン、酸変性ポリプロピレン、酸変性ポリブチレン等)、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィド等)、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、フッ素樹脂F以外のフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン等)、液晶ポリマーを例示できる。
【0047】
非晶性樹脂としては、スチレン系樹脂(ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂等)、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、未変性又は変性されたポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレートを例示できる。
【0048】
熱可塑エラストマーとしては、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリブタジエン系エラストマー、ポリイソプレン系エラストマー、フッ素系エラストマー(ただし、フッ素樹脂Fを除く。)、アクリロニトリル系エラストマーを例示できる。
また、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂等も使用できる。
【0049】
フッ素樹脂F以外の熱可塑性樹脂としては、プリプレグの耐熱性向上の点から、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィド等)、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、変性されたポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリアリレートが好ましい。
【0050】
樹脂成分a中のフッ素樹脂Fの割合は、樹脂成分aの総体積、すなわちフッ素樹脂Fとフッ素樹脂F以外の他の樹脂の合計体積に対して、50体積%以上が好ましく、70体積%がより好ましく、80体積%がさらに好ましく、100体積%が特に好ましい。フッ素樹脂Fの割合が前記下限値以上であれば、耐薬品性及び耐摩耗性に優れた積層体が得られやすい。
【0051】
繊維強化樹脂層Aは、マトリックス樹脂として、樹脂成分aのみを含んでもよく、樹脂成分aに樹脂以外の他の成分を配合した樹脂組成物を含んでもよい。
樹脂以外の他の成分としては、無機フィラー、有機フィラー、有機顔料、金属せっけん、界面活性剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、シランカップリング剤、有機化合物(有機単量体、重合度50以下の有機オリゴマー等。)を例示でき、無機フィラーが好ましい。
【0052】
繊維強化樹脂層Aのマトリックス樹脂中の樹脂成分aの割合は、70~100体積%が好ましく、75~100体積%がより好ましく、80~100体積%がさらに好ましい。樹脂成分aが前記範囲の下限値以上であれば、耐薬品性及び耐摩耗性に優れた積層体が得られやすい。
【0053】
繊維強化樹脂層Aにおける強化繊維基材と樹脂成分aの合計体積に対する強化繊維基材の体積の比率QAは、0.30~0.70であり、0.35~0.65が好ましく、0.40~0.60がより好ましい。比率QAが前記範囲の下限値以上であれば、強化繊維成形体の耐摩耗性に優れる。比率QAが前記範囲の上限値以下であれば、基材との接着性に優れる。
なお、比率QAは、繊維強化樹脂層Aを形成するプリプレグの製造時の仕込み量、及び材料の比重から算出できる。
【0054】
(基材B)
基材Bは、金属、紙、ガラス、又は、非フッ素樹脂を50体積%超含む樹脂成分(以下、「樹脂成分b」とも記す。)を含む基材である。樹脂成分bに含まれる非フッ素樹脂(以下、「樹脂B」とも記す。)は、フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物又は熱可塑性樹脂である。基材Bが樹脂成分bを含む場合、基材Bは強化繊維をさらに含んでもよく、強化繊維を含んでいなくてもよい。
基材Bとしては、金属基材、紙基材、ガラス基材、樹脂成分bを含む樹脂基材、樹脂成分b及び強化繊維を含む繊維強化樹脂基材を例示できる。
【0055】
金属基材を構成する金属としては、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、黄銅、ニッケル、亜鉛、チタン、又はこれらの金属の合金等が挙げられる。
【0056】
樹脂Bの、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド樹脂(ポリフェニレンスルフィド等)、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルニトリル、変性されたポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、及びポリアリレートからなる群から選ばれるものが例示できる。
熱可塑性樹脂は、航空機用としてはポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン等が、自動車用としてはポリアリーレンスルフィド、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル等が好ましい樹脂として挙げられる。
【0057】
樹脂Bの、フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂としては、特に限定されず、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、及びビスマレイミド樹脂からなる群から選ばれるものが例示できる。
熱硬化性樹脂としては、積層体の機械的特性の点から、エポキシ樹脂、アネートエステル樹脂が好ましく、エポキシ樹脂がより好ましい。
【0058】
エポキシ樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、(ポリ)アルキレングリコール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂(N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジルイソシアヌレート等)、脂環型エポキシ樹脂(ジシクロペンタジエン型等)、主鎖に硫黄原子を有するエポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂を例示できる。
熱硬化性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
樹脂成分bは、樹脂B以外の樹脂を含んでもよい。樹脂B以外の樹脂としては、PCTFE、ETFE、ECTFE、CTFE/TFE共重合体、FEP、PFA、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂F以外のフッ素樹脂を例示できる。
【0060】
樹脂成分b中の樹脂Bの割合は、樹脂成分bの総体積に対して、50体積%超であり、70体積%以上が好ましく、90体積%以上がより好ましく、100体積%が特に好ましい。樹脂Bの割合が前記下限値以上であれば、機械強度が高い積層体が得られやすい。
【0061】
基材Bに含まれる強化繊維としては、繊維強化樹脂層Aで挙げた強化繊維と同じものを例示でき、入手性の点から、炭素繊維、ガラス繊維及びアラミド繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。基材Bに含まれる強化繊維は、1種でもよく、2種以上でもよい。
基材Bに含まれる強化繊維の態様は、特に限定されず、繊維強化樹脂層Aで挙げた強化繊維基材と同じ態様を例示できる。
【0062】
樹脂Bとして熱硬化性樹脂を用いる場合、基材Bは硬化剤をさらに含んでもよい。硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択できる。
熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂の場合、硬化剤としては、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ビスアニリン、ベンジルジメチルアニリンを例示できる。
熱硬化性樹脂がシアネートエステル樹脂の場合、硬化剤としては、積層体の靭性が向上する点から、ジエポキシ化合物が好ましい。
硬化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
基材Bは、本発明の効果を損なわない範囲で、無機フィラー、有機フィラー、有機顔料、金属せっけん、界面活性剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、シランカップリング剤等の添加剤を含んでもよい。
【0064】
基材Bとしては、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂のみからなる樹脂基材、フッ素原子を含まない熱硬化性樹脂の硬化物を50体積%超含む樹脂成分と強化繊維とを含む繊維強化樹脂基材、又は、フッ素原子を含まない熱可塑性樹脂を50体積%超含む樹脂成分と強化繊維とを含む繊維強化樹脂基材が好ましい。
【0065】
基材Bが繊維強化樹脂基材である場合、繊維強化樹脂基材のマトリックス樹脂中の樹脂成分bの割合は、80~100体積%が好ましく、85~100体積%がより好ましく、90~100体積%がさらに好ましい。樹脂成分bが前記範囲の下限値以上であれば、機械強度が高い積層体が得られやすい。
【0066】
基材Bが繊維強化樹脂基材である場合、繊維強化樹脂基材における強化繊維基材と樹脂成分bの合計体積に対する強化繊維基材の体積の比率QBは、0.30~0.70が好ましく、0.45~0.65がより好ましく、0.40~0.60がさらに好ましい。比率QBが前記範囲の下限値以上であれば、繊維強化成形品の強度物性に優れる。比率QBが前記範囲の上限値以下であれば、繊維強化成形品の耐衝撃性に優れる。
なお、比率QBは、繊維強化樹脂基材を形成するプリプレグの製造時の仕込み量、及び材料の比重から算出できる。
【0067】
基材Bの構造としては、特に限定されず、シート状を例示できる。基材Bの構造は、円柱状、円筒状、又はハニカム構造でもよい。基材Bとして金属基材、紙基材又はガラス基材を採用する場合は、ハニカム構造を採用することが好ましい。基材がハニカム構造であるとは、平面視において複数の貫通孔が形成されているハニカム構造を有するシート状の基材を意味する。
【0068】
基材Bは、単一の基材からなる単層構成であってもよく、2つ以上の基材からなる多層構成であってもよい。基材Bが多層構成である場合、同じ種類の基材の組み合わせであってもよく、異なる基材の組み合わせであってもよい。
【0069】
本発明の積層体においては、少なくとも一方の最表層が繊維強化樹脂層Aになっている。
積層体の積層構成としては、繊維強化樹脂層Aと基材Bがこの順に積層された構成(「繊維強化樹脂層A/基材B」とも記す。他の構成も同様に記す。)、繊維強化樹脂層A/基材B/繊維強化樹脂層A、繊維強化樹脂層A/基材B/繊維強化樹脂層A/基材Bを例示できる。
【0070】
本発明の積層体における繊維強化樹脂層Aの合計厚さdAと基材Bの合計厚さdBの比(dA/dB)は、1/99~30/70であり、2/98~25/75が好ましく、3/97~20/80がより好ましく、5/95~15/85がさらに好ましい。繊維強化樹脂層Aの合計厚さの比率が高くなるほど、耐薬品性に優れた積層体が得られやすい。基材Bの比率が高くなるほど、機械強度が高い積層体が得られやすい。なお、繊維強化樹脂層Aの合計厚さdAとは、繊維強化樹脂層Aが2層以上ある場合に、それらの合計の厚さであることを意味する。基材Bの合計厚さdBについても同様である。
【0071】
繊維強化樹脂層Aの合計厚さdAは、0.01~2.0mmが好ましく、0.02~1.0mmがより好ましい。
基材Bの合計厚さdBは、0.023~198mmが好ましく、0.046~99mmがより好ましく、0.2~90mmがさらに好ましく、0.5~80mmが特に好ましい。
【0072】
繊維強化樹脂層Aと基材Bとの接着強度は、5N/10mm以上が好ましく、7N/10mm以上がより好ましく、8N/10mm以上がさらに好ましい。
接着強度は、以下の方法で測定される。積層体から、長さ100mm、幅10mmの矩形状の試験片を切り出す。前記試験片の長さ方向の一端から50mmの位置まで繊維強化樹脂層Aと基材Bとを剥離する。次いで、前記試験片の長さ方向の一端から50mmの位置を中央にして、引張り試験機を用いて、引張り速度50mm/分で90度剥離し、最大荷重を接着強度(N/cm)とする。
【0073】
本発明の積層体としては、例えば、
図1に例示した積層体1を例示できる。
積層体1は、基材10と、基材10上に積層された繊維強化樹脂層20とを備えている。基材10は、強化繊維基材及び樹脂成分bを含むプリプレグが9枚積層されて加熱、加圧されることで形成された9層の繊維強化樹脂基材12からなる。積層体1においては、繊維強化樹脂層20が最表層となっている。
繊維強化樹脂層20の厚さと各繊維強化樹脂基材12の厚さが同一の場合、d
A/d
Bは10/90である。
【0074】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法としては、以下の方法が挙げられる。
強化繊維基材に樹脂成分aが含浸され、強化繊維基材と樹脂成分aの合計体積に対する強化繊維基材の比率QAが0.30~0.70であるプリプレグ(以下、「プリプレグP1」と記す。)と、基材Bとを積層する。このとき、少なくとも最表層にプリプレグP1が配置されるように、かつプリプレグP1の合計厚さと基材Bの合計厚さの比が1/99~30/70となるようにする。次いで、それら積層した材料を加熱、加圧して積層体を得る。
本発明の積層体の製造方法としては、短冊状に切断した前記プリプレグP1(チョップドシート、チョップドテープ、チョップドUDテープ等とも呼ぶ)を金型内に積層し、次いで最表層にプリプレグP1が配置されるように基材Bを金型内に積層し、その後加熱、加圧することによっても成形することができる。
チョップドシートを積層する際は、ランダムでもよく、部分ごとに繊維の方向性を変えてもよい。等方的な再表層を得る場合はランダムに積層させることが好ましい。部分的に強度を変化させる場合は、部分ごとに繊維の方向性を変えることが望ましい。
積層材料を加熱、加圧する方法としては、熱プレス機により熱プレスする方法を例示できる。また、オートクレーブを用いて加熱し圧力をかけることによっても積層体を得ることができる。
【0075】
プリプレグP1の基材Bと接する側の面は、プラズマ処理されていることが好ましい。
プラズマ処理に用いるプラズマ照射装置は、特に限定されず、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等を採用した装置を例示できる。
プラズマ処理に使用するガスとしては、特に限定されず、酸素、窒素、希ガス(アルゴン)、水素、アンモニアを例示できる。
【0076】
プリプレグP1の製造方法としては、下記の2つの態様を例示できる。
方法(I):樹脂成分aを含む粉体Cを強化繊維基材に塗布し、必要に応じて加熱して樹脂材料aの少なくとも一部を溶融させる方法。
方法(II):樹脂成分aを含む樹脂フィルムと強化繊維基材を重ね合わせて熱プレスし、樹脂材料aを溶融させて強化繊維基材に含浸させる方法。
【0077】
粉体CのD50は、0.5~100μmが好ましく、1.0~90μmがより好ましく、5~80μmがさらに好ましく、10~70μmがさらに好ましい。粉体CのD50が前記範囲の下限値以上であれば、強化繊維基材への塗布性に優れる。粉体CのD50が前記範囲の上限値以下であれば、強化繊維基材への含浸性に優れる。
【0078】
粉体Cの疎充填嵩密度は、0.05g/mL以上が好ましく、0.05~0.5g/mLがより好ましく、0.08~0.5g/mLが特に好ましい。
粉体Cの密充填嵩密度は、0.05g/mL以上が好ましく、0.05~0.8g/mLがより好ましく、0.1~0.8g/mLが特に好ましい。
疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が大きいほど、粉体のハンドリング性がより優れる。また、熱可塑性樹脂等への粉体の充填率を高くできる。疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が前記範囲の上限値以下であれば、汎用的なプロセスで使用できる。
【0079】
例えば、重合で得たフッ素樹脂や、市販のフッ素樹脂を含むパウダー材料を、必要に応じて粉砕した後に分級(篩い分け等)することにより、D50が前記範囲の粉体Cが得られる。溶液重合、懸濁重合又は乳化重合によりフッ素樹脂を製造した場合は、重合に用いた有機溶媒又は水性媒体を除去して粒状のフッ素樹脂を回収した後に、粉砕や分級(篩い分け等)を行う。重合後の粒状のフッ素樹脂のD50が所望の範囲内である場合は、当該フッ素樹脂をそのまま粉体Aとして使用できる。パウダー材料の粉砕方法及び分級方法としては、国際公開第2016/017801号の[0065]~[0069]に記載の方法を採用できる。
なお、粉体Cとしては、市販品を用いてもよい。
【0080】
粉体Cの強化繊維基材への塗布方法としては、静電塗装、溶射、粉体Cの分散液への浸漬等が挙げられる。
分散液に用いる液状媒体としては、特に限定されず、水;メタノール、エタノール等のアルコール;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の含窒素化合物;ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物;ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;乳酸エチル、酢酸エチル等のエステル類;メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン等のケトン類;エチレングリコールモノイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のセロソルブ類を例示できる。液状媒体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
分散液の固形分濃度は、5~60質量%が好ましく、10~40質量%がより好ましい。
【0081】
方法(I)の粉体の塗布と、方法(II)の樹脂フィルムによる含浸を組み合わせてもよい。例えば、フッ素樹脂Fの粉体を強化繊維基材に塗布した後に、フッ素樹脂F以外の他の樹脂からなる樹脂フィルムを重ね、熱プレスして他の樹脂を溶融させて強化繊維基材に含浸させることでプリプレグP1を製造してもよい。
【0082】
基材Bが繊維強化樹脂基材の場合は、強化繊維基材に樹脂成分bが含浸されたプリプレグ(以下、「プリプレグP2」と記す。)を用いる。プリプレグP2の製造は、樹脂成分aの代わりに樹脂成分bを用いる以外は、プリプレグP1と同様に行える。プリプレグP2が非フッ素樹脂として未硬化の熱硬化性樹脂を含む場合は、得られる積層体の基材Bには熱硬化性樹脂の硬化物が含まれる。
プリプレグP1やプリプレグP2の積層数は、dA/dBが前記した範囲を満たしていれば特に限定されず、用途に応じて適宜設定できる。
【0083】
プリプレグP1を含む積層材料の熱プレスの温度は、プリプレグP1に含まれる樹脂成分の溶融温度以上が好ましい。熱可塑性樹脂又は未硬化の熱硬化性樹脂を含むプリプレグP2を用いる場合は、熱可塑性樹脂の融点以上、又は熱硬化性樹脂の硬化温度以上とすることが好ましい。
【0084】
以上説明したように、本発明の積層体においては、繊維強化樹脂層Aと基材Bとをそれぞれの合計厚さの比が特定の比率になるように積層される。これにより、優れた耐薬品性と耐摩耗性が両立される。また、本発明の積層体においては、少なくとも一方の最表層が繊維強化樹脂層Aとされる。これにより、耐摩耗性に優れる。
【0085】
本発明の積層体は、耐摩耗性、耐薬品性、難燃性が求められる用途に好適に用いられる。例えば、自動車、二輪車、航空機等輸送機器の外装、内装、ギヤや軸受に代表される摺動部品、絶縁部品、ラケットやバットなどのスポーツ用品、産業機械、ロボット、医療機器の部品、等が挙げられる。
また、本発明の積層体は低振動部材として用いることもできる。低振動が要求される部材としては、例えば、モーターの回転部、コンプレッサーの回転部、工作機械(旋盤、フライス等)の回転部、自動車、二輪車、航空機等輸送機器の内装及び外装等が挙げられる。
また、本発明の積層体は低温における機械物性に優れることから液体水素タンクなど、極低温で使用する部材に用いることができる。
本発明の積層体はここに例示した用途に限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1、6~7、16は実施例であり、例2~4、8、9、17は比較例である。また、例5、10~15は参考例である。
【0087】
[測定方法]
フッ素樹脂及び粉体についての各種測定方法を以下に示す。
(1)共重合組成
フッ素樹脂の共重合組成のうち、NAHに由来する単位の割合(モル%)は、以下の赤外吸収スペクトル分析によって求めた。他の単位の割合は、溶融NMR分析及びフッ素含有量分析により求めた。
【0088】
<NAHに由来する単位の割合(モル%)>
フッ素樹脂をプレス成形して厚み200μmのフィルムを得た後、赤外分光法により分析して赤外吸収スペクトルを得た。赤外吸収スペクトルにおいて、フッ素樹脂中のNAHに由来する単位における吸収ピークは1778cm-1に現れる。前記吸収ピークの吸光度を測定し、NAHのモル吸光係数20810mol-1・l・cm-1を用いて、含フッ素重合体におけるNAHに由来する単位の割合を求めた。
【0089】
(2)融点(℃)
セイコー電子社製の示差走査熱量計(DSC装置)を用い、含フッ素重合体を10℃/分の速度で昇温したときの融解ピークを記録し、極大値に対応する温度(℃)を融点(Tm)とした。
【0090】
(3)MFR(g/10分)
テクノセブン社製のメルトインデクサーを用い、下記温度及び荷重下で、直径2mm、長さ8mmのノズルから10分間(単位時間)に流出する含フッ素重合体の質量(g)を測定してMFRとした。
【0091】
(4)粉体のD10、D50、D90及びD100
堀場製作所社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-920測定器)を用い、樹脂パウダーを水中に分散させ、粒度分布を測定し、D10(μm)、D50(μm)、D90(μm)及びD100を算出した。
【0092】
(5)疎充填嵩密度及び密充填嵩密度
粉体の疎充填嵩密度、密充填嵩密度は、国際公開第2016/017801号の[0117]、[0118]に記載の方法を用いて測定した。
【0093】
[合成例1]
国際公開第2016/006644号の例5と同様にしてフッ素樹脂F-1を製造した。フッ素樹脂F-1の各単量体単位の割合は、TFE単位/E単位/CH2=CH(CF2)2F単位/IAH単位(モル比)=54.7/42.8/2.1/0.4であった。なお、E単位とは、エチレン単位を示す。フッ素樹脂F-1の融点は240℃、MFR(297℃、荷重49N)は20.6g/10分、比重は1.76であった。
【0094】
[合成例2]
内容積が430Lの撹拌機付き重合槽を脱気し、1-ヒドロトリデカフルオロヘキサンの237.2kg、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン(旭硝子社製、AK225cb、以下「AK225cb」と記す。)の49.5kg、HFPの122kg、CH2=CH(CF2)4F(PFBE)の1.31kgを仕込み、重合槽内を66℃に昇温し、TFEとエチレンの混合ガス(TFE/エチレン=89/11(モル比))で、1.5MPa[gauge]まで昇圧した。重合開始剤としてtert-ブチルペルオキシピバレートの2質量%を含む1-ヒドロトリデカフルオロヘキサン溶液の2.5Lを仕込み、重合を開始させた。重合中、圧力が一定になるようにTFEとエチレンの単量体混合ガス(TFE/エチレン=54/46(モル比))を連続的に仕込んだ。また、重合中に仕込むTFEとエチレンの合計モル数に対して1モル%に相当する量のPFBEと0.4モル%に相当する量のIAHを連続的に仕込んだ。重合開始から9.3時間後、単量体混合ガスの29kgを仕込んだ時点で、重合槽内温を25℃まで降温するとともに、常圧までパージした。
得られたスラリ状のフッ素樹脂F-2を、水の300kgを仕込んだ860Lの造粒槽に投入し、撹拌下に105℃まで昇温して溶媒を留出除去しながら造粒した。得られた造粒物を150℃で15時間乾燥して、33.2kgのフッ素樹脂F-2の乾燥造粒物を得た。
フッ素樹脂F-2における各単量体単位の割合は、TFE単位/HFP単位/PFBE単位/IAH単位/E単位=46.2/9.4/1.0/0.4/43.0(モル比)であった。官能基fの含有量は、フッ素樹脂F-2の主鎖炭素数1×106個に対し3000個であった。フッ素樹脂F-2の融点は170℃であり、MFR(250℃、荷重21.2N)は4.4g/10分であり、比重は1.75であった。
【0095】
[ポリアミド樹脂]
ポリアミド樹脂D-1:ポリアミド6(UBEナイロン 1022B、宇部興産社製、比重:1.14)。
ポリアミド樹脂D-2:炭素数9のアミンとテレフタル酸からなるポリアミド(GENESTAR N1000A、クラレ社製、比重:1.14)。
【0096】
[曲げ強度]
東洋精機社製の引張圧縮試験機「ストログラフR-2」を用いて、ロードセル定格1000kg、速度5mm/分、支点間距離8cmの条件で成形品の曲げ強度を測定した。
【0097】
[耐摩耗性]
オリエンテック社製摩擦摩耗試験機を用いてJIS K-7218に準拠した松原式摩擦測定法(円筒平面型 オーリング型)にて試験を実施した。室温にて、試験片に相手材であるリング(材質:S45Cs(1.5S)、接触面積:2cm2)を圧力:0.37MPa、回転速度:0.5m/sec、試験時間:1時間の条件で接触させ、試験片の摩耗量を測定した。リングを試験片に接触させる際の圧力を1.47MPaとした場合についても同様に試験片の摩耗量を測定した。
【0098】
[振動減衰特性]
吊り下げた試験片(190mm×140mm)に加速度センサーを取り付け、試験片をインパクトハンマーで打撃加振した際の力と、試験片の加速度からFFTアナライザーで周波数応答関数を測定した。損失係数は、測定した周波数応答関数の共振ピークに対して半値幅法を適用して算出した。測定は3回行い、1次及び2次の損失係数を算出した。試験片は瞬間接着剤を用いて糸を介して吊り下げた。加速度センサーの取り付け位置は下記の
図2の通りとした。
測定装置は以下を用いた
インパクトハンマ:PCB社製 086B01
加速度センサー:富士セラミックス社製 S04SG2
チャージアンプ:B&K社製 2635
FFTアナライザー 小野測器社製 DS-2104
【0099】
[製造例1]
フッ素樹脂F-1をアズワン社製冷凍粉砕機TPH-01により粉砕し、D50が54μmの粉体を得た。カーボンクロス(サンライト社製、平織CF3000、厚さ0.25mm、比重:1.80)を縦10cm×横10cmの寸法に裁断した。裁断したカーボンクロスにフッ素樹脂F-1の粉体を比率QAが0.50となるように静電塗装した。次いで、熱風循環式乾燥機にて260℃で3分間加熱し、プリプレグP1-1を得た。
【0100】
[製造例2]
単軸押出機(田辺プラスチックス機械社製、VS-30)及び400mm幅Tダイを用い、設定樹脂温度260℃、回転数50rpm、ライン速度2.0m/分にてポリアミド樹脂D-1を押出成形し、厚さ50μmのポリアミドフィルムを得た。ポリアミドフィルムから10cm×10cmに切り出した2枚のフィルムを、カーボンクロス(サンライト社製、平織CF3000、厚さ0.25mm、比重:1.80)の両面に積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用いて、温度240℃、圧力1MPa、プレス時間3分間の条件でプレス成形してプリプレグP2-1を得た。
【0101】
[例1]
プリプレグP2-1を9枚積層し、さらにその上に最表層としてプリプレグP1-1を1枚積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度260℃、予熱時間10分、圧力10MPa、プレス時間5分間の条件でプレス成形して、厚さ2.5mmの積層体(繊維強化成形品)を得た。
【0102】
[例2]
単軸押出機(田辺プラスチックス機械社製、VS-30)及び400mm幅Tダイを用い、設定樹脂温度280℃、回転数57rpm、ライン速度1.1m/分にてフッ素樹脂F-2を押出成形し、厚さ50μmのフッ素樹脂フィルムE-1を得た。
プリプレグP2-1を10枚積層し、さらにその上に最表層としてフッ素樹脂フィルムE-1を1枚積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度260℃、予熱時間10分、圧力10MPa、プレス時間5分間の条件でプレス成形し、厚さ2.5mmの積層体(繊維強化成形品)を得た。
【0103】
[例3]
最表層としてプリプレグP1-1の代わりにプリプレグP2-1を積層した以外は、例1と同様にして積層体(繊維強化成形品)を得た。
【0104】
[例4]
プリプレグP2-1の5枚と、プリプレグP1-1の5枚とを、上側の最表層がプリプレグP1-1となるように交互に積層した以外は、例1と同様にして積層体(繊維強化成形品)を得た。
【0105】
各例で得た積層体の最表層の耐摩耗性及び曲げ強度を評価した。各例の積層構成、及び評価結果を表1に示す。
【0106】
【0107】
表1に示すように、本発明で規定する条件を満たす例1の積層体は、最表層がフッ素樹脂フィルムである例2の積層体や、最表層にプリプレグP2-1を用いた積層体に比べて、最表層の摩耗量が少なく、耐摩耗性に優れていた。また、例1の積層体は、例2及び例3の積層体や、繊維強化樹脂層Aの合計厚さの比率が高すぎる例4に比べて、曲げ強度が高く、機械強度が高かった。
【0108】
[例5]
NAH(無水ハイミック酸、日立化成社製)とPPVE(CF2=CFO(CF2)3F、旭硝子社製)を用いて、国際公開第2016/017801号の[0123]に記載の手順で含フッ素重合体F-3を製造した。含フッ素重合体F-3の共重合組成は、NAH/TFE単位/PPVE単位=0.1/97.9/2.0(モル%)であった。含フッ素重合体A-3の融点は300℃であり、MFR(372℃、荷重49N)は17.6g/10分であり、平均粒径は1554μmであり、比重は2.13であった。
ピンミル(セイシン企業社製、M-4型)を用い、回転数5000rpmの条件で含フッ素樹脂F-3を粉砕し、円形振動篩機(セイシン企業社製 KGO-1000型、篩目開き212μm)で分級して紛体を得た。紛体のD10は3.6μm、D50は21.1μm、D90は99.4μm、D100は181.9μmであり、疎充填嵩密度は0.524g/mL、密充填嵩密度は0.695g/mLであった。
カーボンクロス(サンライト社製、平織CF3000、厚さ0.25mm、比重:1.80)を縦10cm×横10cmの寸法に裁断した。裁断したカーボンクロス表面に、得られた含フッ素樹脂F-3の粉体を、比率QAが0.50となるように静電塗装により均一に塗布した。その後、熱風循環式乾燥機に400℃、3分間の加熱を行い、含フッ素樹脂F-3の粉体を含浸させ、厚さ250μmのプリプレグP1-2を得た。
ポリアミド樹脂D-2を、真空乾燥機を用いて120℃で6時間乾燥した後、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度:330℃、予熱:5分、圧力:10MPa、プレス時間:5分間の条件でプレス成形し、厚さ2.5mmのプレス板G-1を得た
プレス板G-1の上にプリプレグP1-2を積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度:330℃、予熱:5分、圧力:5MPa、プレス時間:5分間の条件でプレス成形し、厚さ2.5mm多層の積層体を得た。
得られた積層体は、最表層の耐摩耗性、滑り性に優れ、機械強度が高かった。
【0109】
[例6]
フッ素樹脂F-2をアズワン社製冷凍粉砕機TPH-01により粉砕し、D50が57μmの粉体を得た。カーボンクロス(サンライト社製、平織CF3000、厚さ0.25mm、比重:1.80)を縦190mm×横140mmの寸法に裁断した。裁断したカーボンクロスにフッ素樹脂F-2の粉体を比率QAが0.50となるように静電塗装した。次いで、熱風循環式乾燥機にて240℃で3分間加熱し、プリプレグP1-3を得た。プリプレグP2-2として、熱硬化性プリプレグ(三菱レイヨン社製 品番:TR3110 381GMX)を用い、P2-2を8枚積層したのち、最下層と最上層にプリプレグP1-3を各1枚積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度:240℃、予熱:5分、圧力:5MPa、プレス時間:10分間の条件でプレス成形し、厚さ2.5mm、大きさ190mm×140mmの多層の積層体を得た。得られた積層体について振動減衰性を測定した。表2に損失係数、共振周波数を示す。
【0110】
[例7]
プリプレグP2-1を8枚積層し、最下層と最上層にプリプレグP1-1を各1枚積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度:260℃、予熱:5分、圧力:5MPa、プレス時間:5分間の条件でプレス成形し、厚さ2.5mm、大きさ190mm×140mmの多層の積層体を得た。得られた積層体について振動減衰性を測定した。表2に損失係数、共振周波数を示す。
【0111】
[例8]
プリプレグP2-2を10枚積層し、例6と同様に積層体を得た。
得られた積層体について振動減衰性を測定した。表2に損失係数、共振周波数を示す。
【0112】
[例9]
プリプレグP2-1を10枚積層し、例7と同様に積層体を得た。
得られた積層体について振動減衰性を測定した。表2に損失係数、共振周波数を示す。
【0113】
【0114】
例6は例8に対して高い損失係数を持ち、例7は例9に対して高い損失係数を持つことから、より振動減衰性の高い成形品を得ることができた。
【0115】
[例10]
炭素繊維クロス(サンライト社製、CF3000)を、縦25cm、横25cmの大きさに10枚切りだした。
単軸押出機(田辺プラスチックス機械社製、VS-30)及び400mm幅Tダイを用い、設定樹脂温度240℃、回転数56rpm、ライン速度1.0m/分にてフッ素樹脂F-1を押出成形し、厚さ50μmのフッ素樹脂フィルムE-2を得た。
作成したフィルムE-2を縦25cm、横25cmの大きさに20枚切り出した。金型内にフィルム/炭素繊維クロス/フィルム/フィルム/炭素繊維クロス/フィルム/フィルム/炭素繊維クロス/フィルム(繰り返し)の順番に、フィルム20枚、炭素繊維クロス10枚分を積層した。
メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用いて、金型を温度240℃、予熱10分、圧力4MPaで5分間加圧した。その後金型を冷却し、厚さ2.3mmの平板を得た。得られた平板の曲げ強度を測定した。結果を表3に示す。
【0116】
[例11]
フッ素樹脂フィルムE-1を用いて、例10と同様に平板を得た。なお熱プレス温度は260℃とした。曲げ強度の測定結果を表3に示す。
【0117】
[例12]
フッ素樹脂として、官能基を有さないフッ素樹脂F-4(旭硝子製 Fluon LM730A)を用いて、例2と同様にフッ素樹脂フィルムE-3を得た。得られたフッ素樹脂フィルムE-3を用いて例11と同様に平板を作成した。曲げ強度の測定結果を表3に示す。
【0118】
[例13]
炭素繊維クロス(サンライト社製、CF3000)を、300℃に加熱したオーブン内に15分間静置し、前処理を行った。前処理を行った炭素繊維クロスを、縦25cm、横25cmの大きさに10枚切りだした。
切り出した炭素繊維クロスを用いて、例10と同様に平板を得た。曲げ強度の測定結果を表3に示す。
【0119】
[例14]
例13と同様に炭素繊維クロスの前処理を行い、例11と同様に平板を得た。曲げ強度及び振動減衰性の測定結果を表3に示す。
【0120】
[例15]
例13と同様に炭素繊維クロスの前処理を行い、例12と同様に平板を得た。曲げ強度の測定結果を表3に示す。
【0121】
【0122】
例10、11、13、14は例12、15よりも曲げ強度が優れていた。
また、炭素繊維の前処理を行った例13は行わなかった例10よりも、例11は例14よりも、それぞれ曲げ強度が優れていたことから、前処理を行うことで曲げ強度を高くすることができることが分かった。
【0123】
例14で得られた平板を、金型内で厚さ10mmのアルミ板(A5052)と積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用いて、金型を温度240℃、予熱10分、圧力4MPaで5分間加圧した。その後金型を冷却し、積層体を得た。得られた積層体は振動減衰性に優れ、高い強度を有していた。
【0124】
[例16]
P2-2を9枚積層したのち、最上層にプリプレグP1-3を各1枚積層し、メルト熱プレス機(テスター産業社製)を用い、温度:240℃、予熱:5分、圧力:5MPa、プレス時間:10分間の条件でプレス成形し、厚さ2.5mm、大きさ190mm×140mmの多層の積層体を得た。例1と同様に、耐摩耗性及び曲げ強度の試験を行った。
結果を表4にしめす。なお体積換算の摩耗量についてはプリプレグP2-2の樹脂成分の比重1.48、及びフッ素樹脂F-2の比重1.75を用いて計算した。
【0125】
[例17]
例8で得られた平板に対して例16と同様に、耐摩耗性及び曲げ強度の試験を行った。
結果を表4に示す。
【0126】
【0127】
例16は例17に比較して曲げ強度は同等であるが、摩擦係数が低く、耐摩耗性に優れていた。
【0128】
[例18]
例7、例9の試験片を用いてUL94Vに準拠し、難燃性を評価したところ、例7の方が難燃性に優れていることがわかった。
なお、2018年04月16日に出願された日本特許出願2018-078705号、及び2018年07月25日に出願された日本特許出願2018-139612号の明細書、特許請求の範囲、要約書及び図面の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0129】
1…積層体、10…基材、12…繊維強化樹脂基材、20…繊維強化樹脂層。