IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-樹脂組成物、蓄熱材、及び物品 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物、蓄熱材、及び物品
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20231011BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20231011BHJP
   C08F 220/16 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C08L33/14
C08F220/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020532271
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2019027180
(87)【国際公開番号】W WO2020022050
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018137752
(32)【優先日】2018-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】古川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森本 剛
(72)【発明者】
【氏名】永井 晃
(72)【発明者】
【氏名】横田 弘
(72)【発明者】
【氏名】佐野 温子
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-197710(JP,A)
【文献】特開2003-193015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207387(WO,A1)
【文献】特表2011-528396(JP,A)
【文献】特開2010-202863(JP,A)
【文献】国際公開第2010/110107(WO,A1)
【文献】特開2003-286313(JP,A)
【文献】特開2016-012484(JP,A)
【文献】特開2016-199648(JP,A)
【文献】特開2001-163903(JP,A)
【文献】特許第6115694(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/00-220/70
C08L 33/00-33/26
C09K 5/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される第1のモノマーと、前記第1のモノマーと共重合可能であり、水と反応可能な反応性基を有する第2のモノマーと、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとを含むモノマー成分を重合させてなるアクリル樹脂を含有し、
前記反応性基がアルコキシシリル基又はイソシアネート基であり、
蓄熱材の形成に用いられる、樹脂組成物。
【化1】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
【請求項2】
下記式(2)で表される第1の構造単位と、水と反応可能な反応性基を有する第2の構造単位と、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、及びブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構造単位とを含むアクリル樹脂を含有し、
前記反応性基がアルコキシシリル基又はイソシアネート基であり、
蓄熱材の形成に用いられる、樹脂組成物。
【化2】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
【請求項3】
前記第1のモノマーの含有量が、前記モノマー成分100質量部に対して60質量部以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記第2のモノマーの含有量が、前記モノマー成分100質量部に対して25質量部以下である、請求項1又はに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記第1の構造単位の含有量が、前記アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して60質量部以上である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記第2の構造単位の含有量が、前記アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して25質量部以下である、請求項2又はに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記アクリル樹脂の含有量が、前記樹脂組成物100質量部に対して50質量部以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物を含む、蓄熱材。
【請求項9】
熱源と、
前記熱源と熱的に接触するように設けられた、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物の硬化物と、を備える、物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、蓄熱材、及び物品に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材は、蓄えたエネルギーを必要に応じて熱として取り出すことのできる材料である。この蓄熱材は、空調設備、床暖房設備、冷蔵庫、ICチップ等の電子部品、自動車内外装材、キャニスター等の自動車部品、保温容器などの用途で利用されている。
【0003】
蓄熱の方式としては、物質の相変化を利用した潜熱蓄熱が、熱量の大きさの点から広く利用されている。潜熱蓄熱物質としては、水-氷がよく知られている。水-氷は、熱量の大きい物質であるが、相変化温度が大気下において0℃と限定されてしまうため、適用範囲も限定されてしまう。そのため、0℃より高く100℃以下の相変化温度を有する潜熱蓄熱物質として、パラフィンが利用されている。しかし、パラフィンは加熱により相変化すると液体になり、引火及び発火の危険性がある。そのため、パラフィンを蓄熱材に用いるためには、袋等の密閉容器中に収納するなどして、蓄熱材からパラフィンが漏えいすることを防ぐ必要があり、適用分野の制限を受ける。
【0004】
パラフィンを含む蓄熱材を改良する方法として、例えば特許文献1には、ゲル化剤を用いる方法が開示されている。この方法で作られるゲルは、パラフィンの相変化後もゲル状の成形体を保つことが可能である。しかし、この方法では、蓄熱材として使用する際に液漏れ、蓄熱材の揮発等が起こる可能性がある。
【0005】
また、別の改良方法として、例えば特許文献2には、水添共役ジエン共重合体を用いる方法が開示されている。この方法では、炭化水素化合物の融解又は凝固温度近辺では形状保持が可能であるが、更に高温になると、相溶性が低いため相分離を発生して、炭化水素化合物の液漏れが発生する。
【0006】
また、別の改良方法として、例えば特許文献3には、蓄熱材をマイクロカプセル化する方法が開示されている。この方法では、蓄熱材がカプセル化されているため、相変化に関わらずハンドリング性は良好であるが、高温域においては、カプセルからの蓄熱材の滲み出しの懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-109787号公報
【文献】特開2014-95023号公報
【文献】特開2005-23229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、一側面において、蓄熱材に好適に用いられる樹脂組成物を提供することを目的とする。本発明は、他の一側面において、蓄熱量に優れる蓄熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定の成分を含有する樹脂組成物が蓄熱材に好適に用いられること、すなわち、当該樹脂組成物により形成された蓄熱材が蓄熱量に優れることを見出し、本発明を完成させた。本発明は、いくつかの側面において、下記の[1]~[11]を提供する。
[1] 下記式(1)で表される第1のモノマーと、第1のモノマーと共重合可能であり、水と反応可能な反応性基を有する第2のモノマーとを含むモノマー成分を重合させてなるアクリル樹脂を含有する、樹脂組成物。
【化1】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
[2] 下記式(2)で表される第1の構造単位と、水と反応可能な反応性基を有する第2の構造単位とを含むアクリル樹脂を含有する、樹脂組成物。
【化2】
[式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。]
[3] 反応性基がアルコキシシリル基又はイソシアネート基である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 第1のモノマーの含有量が、モノマー成分100質量部に対して60質量部以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[5] 第2のモノマーの含有量が、モノマー成分100質量部に対して25質量部以下である、[1]又は[4]に記載の樹脂組成物。
[6] 第1の構造単位の含有量が、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して60質量部以上である、[2]に記載の樹脂組成物。
[7] 第2の構造単位の含有量が、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して25質量部以下である、[2]又は[6]に記載の樹脂組成物。
[8] アクリル樹脂の含有量が、樹脂組成物100質量部に対して50質量部以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] 蓄熱材の形成に用いられる、[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物を含む、蓄熱材。
[11] 熱源と、熱源と熱的に接触するように設けられた、[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物の硬化物と、を備える、物品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一側面によれば、蓄熱材に好適に用いられる樹脂組成物を提供することができる。加えて、本発明の一側面に係る樹脂組成物は、硬化剤を使用しなくとも、室温下(例えば25℃)で容易に樹脂組成物の硬化物を得ることができる。本発明の他の一側面によれば、蓄熱量に優れる蓄熱材を提供することができる。加えて、本発明の一側面に係る蓄熱材は、蓄熱材の相変化温度以上において液漏れを抑制でき、耐熱性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】蓄熱材を備える物品の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を適宜参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0013】
本明細書における「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及びそれに対応する「メタクリレート」を、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」及びそれに対応する「メタクリロイル」を意味する。
【0014】
本明細書における重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定され、ポリスチレンを標準物質として決定される値を意味する。
・測定機器:HLC-8320GPC(製品名、東ソー(株)製)
・分析カラム:TSKgel SuperMultipore HZ-H(3本連結)(製品名、東ソー(株)製)
・ガードカラム:TSKguardcolumn SuperMP(HZ)-H(製品名、東ソー(株)製)
・溶離液:THF
・測定温度:25℃
【0015】
本明細書において、「耐熱性に優れる」とは、TG-DTA測定における1%重量減少温度が280℃以上であることを意味する。
【0016】
一実施形態に係る樹脂組成物は、アクリル樹脂を含有する。アクリル樹脂は、第1のモノマー及び第2のモノマーを含むモノマー成分を重合させてなる重合体である。
【0017】
第1のモノマーは、下記式(1)で表される。
【化3】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。
【0018】
で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは12~28、より好ましくは12~26、更に好ましくは12~24、特に好ましくは12~22である。
【0019】
第1のモノマーは、言い換えれば、炭素数12~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレートである。第1のモノマーとしては、例えば、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、ドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレート)、テトラコシル(メタ)アクリレート、ヘキサコシル(メタ)アクリレート、オクタコシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの第1のモノマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。第1のモノマーは、好ましくは、ドデシル(メタ)アクリレート(ラウリル(メタ)アクリレート)、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート(ステアリル(メタ)アクリレート)、及びドコシル(メタ)アクリレート(ベヘニル(メタ)アクリレート)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0020】
第1のモノマーの含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量が得られる観点から、モノマー成分100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは80質量部以上であり、例えば98質量部以下であってよい。
【0021】
第2のモノマーは、第1のモノマーと共重合可能であり、水と反応可能な反応性基を有するモノマー(反応性モノマー)である。第2のモノマーは、第1のモノマーと共重合可能なように、エチレン性不飽和結合を有する基(エチレン性不飽和基)を含んでいる。エチレン性不飽和基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基等が挙げられる。第2のモノマーは、好ましくは、水と反応可能な反応性基及び(メタ)アクリロイル基を有するモノマーである。
【0022】
第2のモノマーにおける反応性基は、室温下(例えば25℃)で、水と反応し得る。水は、例えば空気中に含まれる湿気であってもよい。第2のモノマーにおける反応性基は、例えば、アルコキシシリル基又はイソシアネート基である。すなわち、第2のモノマーは、例えば、アルコキシシリル基含有モノマー又はイソシアネート基含有モノマーである。第2のモノマーは、上述の性質を有する反応性基を有するため、湿気硬化型又は室温硬化型のモノマーということもできる。第2のモノマーにおける反応性基は、後述する硬化剤とも反応し得るモノマーであってもよい。
【0023】
第2のモノマーは、好ましくは、下記式(3)で表されるモノマーである。
【化4】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは、上述した水と反応可能な反応性基を有する1価の有機基を表し、好ましくは、アルコキシシリル基又はイソシアネート基を有する1価の有機基を表す。
【0024】
がアルコキシシリル基を有する1価の有機基である場合、Rは、例えば下記式(4)で表される。
【化5】
式中、Rはアルキレン基を表し、R、R及びR10は、それぞれ独立にアルコキシ基又はアルキル基を表し、*は結合手を表す。R、R及びR10のうち少なくとも1つは、アルコキシ基である。R、R及びR10の全てがアルコキシ基であってよく、R、R及びR10のうち1つがアルキル基であり2つがアルコキシ基であってもよい。
【0025】
で表されるアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rで表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、1~10、1~8、1~6、又は1~4であってよい。
【0026】
、R又はR10で表されるアルコキシ基は、それぞれ独立に、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、それぞれ独立に、例えば、1~10、1~8、1~6、1~4、又は1~2であってよい。アルコキシ基は、好ましくはメトキシ基である。
【0027】
、R及びR10のいずれかがアルキル基である場合、当該アルキル基は、それぞれ独立に、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキル基の炭素数は、それぞれ独立に、例えば、1~10、1~8、1~6、1~4、又は1~2であってよい。アルキル基は、好ましくはメチル基である。
【0028】
アルコキシシリル基含有モノマーにおけるアルコキシシリル基は、より具体的には、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基等であってよい。
【0029】
式(3)で表されるアルコキシシリル基含有モノマーとしては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0030】
がイソシアネート基を有する1価の有機基である場合、Rは、例えば下記式(5)で表される。
【化6】
式中、R11はアルキレン基を表し、*は結合手を表す。
【0031】
11で表されるアルキレン基は、上述のRで表されるアルキレン基と同様であってよい。
【0032】
式(3)で表されるイソシアネート基含有モノマーとしては、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート等が挙げられる。
【0033】
これらの第2のモノマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。第2のモノマーは、室温下での硬化を容易にする観点から、好ましくは、反応性基としてアルコキシシリル基を有するアルコキシシリル基含有モノマーであり、より好ましくはトリメトキシシリル基含有モノマーであり、更に好ましくはトリメトキシシリル基含有(メタ)アクルモノマーである。第2のモノマーは、(メタ)アクリロイル基を有するシラン化合物であるということもできる。
【0034】
第2のモノマーの含有量は、蓄熱材の蓄熱量に優れる観点から、モノマー成分100質量部に対して、2質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、7質量部以上、又は8質量部以上であってよく、25質量部以下であってよく、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは13質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0035】
モノマー成分は、第1のモノマー及び第2のモノマーに加えて、必要に応じてその他のモノマーを更に含有することができる。その他のモノマーは、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の炭素数12未満(炭素数1~11)のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレート;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート等の環状炭化水素基をエステル基の末端に有するシクロアルキル(メタ)アクリレート;などが挙げられる。その他のモノマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0036】
モノマー成分は、一実施形態において、第1のモノマーと、第2のモノマーと、必要に応じて、炭素数1~11のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレート及び環状炭化水素基をエステル基の末端に有するシクロアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種の第3のモノマーのみを含有する。言い換えれば、モノマー成分は、一実施形態において、第1のモノマー、第2のモノマー及び第3のモノマー以外のモノマー(例えばシロキサン骨格を有する(メタ)アクリルモノマー)を含有しない。モノマー成分は、一実施形態において、第1のモノマーと第2のモノマーのみを含有してよく、他の一実施形態において、第1のモノマーと第2のモノマーと第3のモノマーのみを含有してよい。
【0037】
アクリル樹脂は、第1のモノマー、第2のモノマー及び必要に応じて用いられるその他のモノマーを含むモノマー成分を重合させることにより得られる。重合方法は、各種ラジカル重合等の公知の重合方法から適宜選択でき、例えば、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法等であってよい。重合方法としては、アクリル樹脂の重量平均分子量を大きく(例えば200000以上に)する場合には、好ましくは懸濁重合法が用いられ、アクリル樹脂の重量平均分子量を小さく(例えば100000以下に)する場合には、好ましくは溶液重合法が用いられる。
【0038】
懸濁重合法を用いる場合には、原料となるモノマー成分、重合開始剤、必要に応じて添加される連鎖移動剤、水、懸濁剤及び還元剤を混合し、分散液を調製する。
【0039】
懸濁剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の難溶性無機物質などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子が好ましく用いられる。
【0040】
懸濁剤の配合量は、原料であるモノマー成分の総量100質量部に対して、好ましくは0.005~1質量部、より好ましくは0.01~0.07質量部である。懸濁重合法を用いる場合、必要に応じて、メルカプタン系化合物、チオグリコール、四塩化炭素、α-メチルスチレンダイマー等の分子量調整剤を更に添加してもよい。重合温度は、好ましくは0~200℃、より好ましくは40~120℃、更に好ましくは50~110℃である。
【0041】
溶液重合法を用いる場合、使用する溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、四塩化炭素等の塩素系溶剤、2-プロパノール、2-ブタノール等のアルコール系溶媒などが挙げられる。溶液重合開始時の溶液における固形分濃度は、得られるアクリル樹脂の重合性の観点から、好ましくは40~70質量%、より好ましくは50~60質量%である。重合温度は、好ましくは0~200℃、より好ましくは40~120℃、更に好ましくは50~110℃である。
【0042】
各重合法において用いられる重合開始剤は、ラジカル重合開始剤であれば、特に制限なく使用することができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1-t-ブチルパーオキシ-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサノン-1-カルボニトリル、アゾジベンゾイル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0043】
重合開始剤の配合量は、モノマーを十分に重合させる観点から、モノマーの総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.05質量部以上、更に好ましくは0.1質量部以上である。重合開始剤の配合量は、アクリル樹脂の分子量が好適な範囲になると共に、分解生成物を抑制し、及び蓄熱材として使用した際に好適な接着強度が得られる観点から、モノマーの総量100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0044】
以上のようにして得られるアクリル樹脂は、第1のモノマーに由来する構造単位と第2のモノマーに由来する構造単位を有している。すなわち、一実施形態に係る樹脂組成物は、第1の構造単位(第1のモノマーに由来する構造単位)と、第2の構造単位(第2のモノマーに由来する構造単位)とを含むアクリル樹脂を含有する。
【0045】
第1の構造単位は、下記式(2)で表される。
【化7】
式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは炭素数12~30のアルキル基を表す。
【0046】
で表されるアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。Rで表されるアルキル基の炭素数は、好ましくは12~28、より好ましくは12~26、更に好ましくは12~24、特に好ましくは12~22である。Rで表されるアルキル基としては、例えば、ドデシル基(ラウリル基)、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、ドコシル基(ベヘニル基)、テトラコシル基、ヘキサコシル基、オクタコシル基等が挙げられる。Rで表されるアルキル基は、好ましくは、ドデシル基(ラウリル基)、テトラデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、及びドコシル基(ベヘニル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。アクリル樹脂は、これらの第1の構造単位の1種又は2種以上を含んでいる。
【0047】
第1の構造単位の含有量は、蓄熱材の蓄熱量に優れる観点から、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して、好ましくは60質量部以上、より好ましくは80質量部以上であり、例えば98質量部以下であってよい。
【0048】
第2の構造単位は、水と反応可能な反応性基を有している。反応性基は、例えば、アルコキシシリル基又はイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基である。第2の構造単位は、例えば、上述したアルコキシシリル基含有モノマー又はイソシアネート基含有モノマーに由来する構造単位である。アクリル樹脂は、これらの第2の構造単位の1種又は2種以上を含んでいる。
【0049】
第2の構造単位は、好ましくは、下記式(6)で表される構造単位である。
【化8】
式中、R12は水素原子又はメチル基を表し、R13は上述した水と反応可能な反応性基を有する1価の有機基を表す。R13で表される有機基に含まれる反応性基は、上述した反応性基であってよく、好ましくはアルコキシシリル基又はイソシアネート基であり、より好ましくはアルコキシシリル基である。
【0050】
13で表される有機基に含まれる反応性基がアルコキシシリル基である場合、第2の構造単位は、好ましくは、下記式(7)で表される。
【化9】
式中、R12は水素原子又はメチル基を表し、R14はアルキレン基を表し、R15、R16及びR17は、それぞれ独立に、アルコキシ基又はアルキル基を表す。R15、R16及びR17のうち少なくとも1つは、アルコキシ基である。R15、R16及びR17の全てがアルコキシ基であってよく、R15、R16及びR17のうち1つがアルキル基であり2つがアルコキシ基であってもよい。
【0051】
14で表されるアルキレン基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。R14で表されるアルキレン基の炭素数は、例えば、1~10、1~8、1~6、又は1~4であってよい。
【0052】
15、R16又はR17で表されるアルコキシ基は、それぞれ独立に、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルコキシ基の炭素数は、それぞれ独立に、例えば、1~10、1~8、1~6、1~4、又は1~2であってよい。アルコキシ基は、好ましくはメトキシ基である。
【0053】
15、R16及びR17のいずれかがアルキル基である場合、当該アルキル基は、それぞれ独立に、直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキル基の炭素数は、それぞれ独立に、例えば、1~10、1~8、1~6、1~4、又は1~2であってよい。アルキル基は、好ましくはメチル基である。
【0054】
13で表される有機基に含まれる反応性基がイソシアネート基である場合、第2の構造単位は、好ましくは、下記式(8)で表される。
【化10】
式中、R12は水素原子又はメチル基を表し、R18はアルキレン基を表す。
【0055】
18で表されるアルキレン基は、上述のR14で表されるアルキレン基と同様であってよい。
【0056】
第2の構造単位の含有量は、蓄熱材を形成した際に充分な蓄熱量を得られる観点から、アクリル樹脂を構成する全構造単位100質量部に対して、2質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、7質量部以上、又は8質量部以上であってよく、25質量部以下であってよく、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは13質量部以下、特に好ましくは10質量部以下である。
【0057】
アクリル樹脂は、第1の構造単位及び第2の構造単位に加えて、必要に応じてその他の構造単位を更に含有することができる。その他の構造単位は、上述したその他のモノマーに由来する構造単位であってよい。
【0058】
アクリル樹脂は、一実施形態において、第1の構造単位と、第2の構造単位と、必要に応じて、炭素数1~11のアルキル基をエステル基の末端に有するアルキル(メタ)アクリレート及び環状炭化水素基をエステル基の末端に有するシクロアルキル(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーに由来する第3の構造単位のみを含有する。言い換えれば、アクリル樹脂は、一実施形態において、第1の構造単位、第2の構造単位及び第3の構造単位以外の構造単位(例えばシロキサン骨格を有する(メタ)アクリルモノマーに由来する構造単位)を含有しない。アクリル樹脂は、一実施形態において、第1の構造単位と第2の構造単位のみを含有してよく、他の一実施形態において、第1の構造単位と第2の構造単位と第3の構造単位のみを含有してよい。
【0059】
アクリル樹脂は、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。
【0060】
アクリル樹脂の含有量は、蓄熱材の蓄熱量に優れる観点から、樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上である。アクリル樹脂の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、100質量部以下、99.5質量部以下又は99.3質量部以下であってよい。
【0061】
樹脂組成物は、室温下における硬化(湿気による硬化)を進行させやすくする観点から、触媒を更に含有してもよい。触媒としては、例えば、アルミニウム又はスズを含有する触媒が挙げられる。アルミニウムを含有する触媒としては、例えば、ビス(エチルアセトアセタト)(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム等のアルミニウム錯体が挙げられる。スズを含有する触媒としては、ジラウリン酸ジブチルスズ等が挙げられる。触媒としては、上述した反応性基がアルコキシシリル基である場合は、ビス(エチルアセトアセタト)(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウムが好ましく用いられ、反応性基がイソシアネート基である場合は、ジラウリン酸ジブチルスズが好ましく用いられる。
【0062】
樹脂組成物は、蓄熱材の形成に用いられる場合に、蓄熱材の液漏れ及び揮発をより抑制し、耐熱性を更に向上させる観点から、硬化剤を更に含有してもよい。硬化剤は、第2のモノマー(第2の構造単位)に含まれる反応性基と反応し得る硬化剤である。硬化剤としては、例えば、イソシアネート系硬化剤、フェノール系硬化剤、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、カルボン酸系硬化剤等が挙げられる。これらの硬化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられてよい。
【0063】
イソシアネート系硬化剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート(2,4-若しくは2,6-トリレンジイソシアネート、又はその混合物)(TDI)、フェニレンジイソシアネート(m-若しくはp-フェニレンジイソシアネート、又はその混合物)、4,4’-ジフェニルジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-、2,4’-若しくは2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、又はその混合物)(MDI)、4,4’-トルイジンジイソシアネート(TODI)、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(1,3-若しくは1,4-キシリレンジイソシアネート、又はその混合物)(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(1,3-若しくは1,4-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、又はその混合物)(TMXDI)、ω,ω’-ジイソシアネート-1,4-ジエチルベンゼンなどが挙げられる。イソシアネート系硬化剤としては、トリメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、ブチレンジイソシアネート(テトラメチレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,6-ジイソシアネートメチルカプエート等の脂肪族ジイソシアネート、1,3-シクロペンタンジイソシアネート、1,3-シクロペンテンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート(1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、1,3-シクロヘキサンジイソシアネート)、3-イソシアナトメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)(IPDI)、メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(4,4’-、2,4’-又は2,2’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、これらのtrans,trans-体、trans,cis-体、cis,cis-体、又はその混合物)(H12MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(メチル-2,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチル-2,6-シクロヘキサンジイソシアネート)、ノルボルナンジイソシアネート(各種異性体又はその混合物)(NBDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(1,3-若しくは1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン又はその混合物)(H6XDI)等の脂環族ジイソシアネートなども挙げられる。
【0064】
フェノール系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’-ビフェニルフェノール、テトラメチルビスフェノールA、ジメチルビスフェノールA、テトラメチルビスフェノールF、ジメチルビスフェノールF、テトラメチルビスフェノールS、ジメチルビスフェノールS、テトラメチル-4,4’-ビフェノール、ジメチル-4,4’-ビフェニルフェノール、1-(4-ヒドロキシフェニル)-2-[4-(1,1-ビス-(4-ヒドロキシフェニル)エチル)フェニル]プロパン、2,2’-メチレン-ビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、トリスヒドロキシフェニルメタン、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロガロール、ジイソプロピリデン骨格を有するフェノール類;1,1-ジ-4-ヒドロキシフェニルフルオレン等のフルオレン骨格を有するフェノール類;クレゾール類;エチルフェノール類;ブチルフェノール類;オクチルフェノール類;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフトール類等の各種フェノールを原料とするノボラック樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有フェノールノボラック樹脂、ビフェニル骨格含有フェノールノボラック樹脂、フルオレン骨格含有フェノールノボラック樹脂、フラン骨格含有フェノールノボラック樹脂等の各種ノボラック樹脂などが挙げられる。
【0065】
アミン系硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフォン、ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、o-フェニレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、m-キシリレンジアミン等の芳香族アミン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルジシクロヘキシル)メタン、ポリエーテルジアミン等の脂肪族アミン;ジシアンジアミド、1-(o-トリル)ビグアニド等のグアニジン類などが挙げられる。
【0066】
イミダゾール系硬化剤としては、例えば、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ-[1,2-a]ベンズイミダゾール、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6(2’-ウンデシルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6(2’-エチル-4-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6(2’-メチルイミダゾール(1’))エチル-s-トリアジン・イソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-3,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニル-3,5-ジシアノエトキシメチルイミダゾール等が挙げられる。
【0067】
酸無水物系硬化剤としては、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールトリメリット酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物等の芳香族カルボン酸無水物;アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族カルボン酸の無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、ナジック酸無水物、ヘット酸無水物、ハイミック酸無水物等の脂環式カルボン酸無水物等が挙げられる。
【0068】
カルボン酸系硬化剤としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等が挙げられる。
【0069】
硬化剤の含有量は、樹脂組成物100質量部に対して、0.01質量部以上であってよく、10質量部以下であってよい。
【0070】
樹脂組成物は、硬化剤を含有しなくてもよい。この場合であっても、アクリル樹脂中の第2の構造単位が水と反応し得る反応性基を有しているため、アクリル樹脂は、例えば空気中に含まれる湿気と反応して硬化することができる。つまり、樹脂組成物は、湿気硬化性を有する(湿気硬化型の)樹脂組成物であるともいえる。
【0071】
樹脂組成物は、必要に応じて、その他の添加剤を更に含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、硬化促進剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、結晶核剤、熱安定剤、熱伝導材、可塑剤、発泡剤、難燃剤、制振剤等が挙げられる。その他の添加剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0072】
樹脂組成物は、90℃において、固体状であっても液体状であってもよい。
【0073】
樹脂組成物が液状である場合、樹脂組成物の90℃における粘度は、流動性及びハンドリング性に優れる観点から、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下、更に好ましくは20Pa・s以下、特に好ましくは10Pa・s以下である。同様の観点から、樹脂組成物は、アクリル樹脂の融点+20℃において、粘度は、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以下、更に好ましくは20Pa・s以下、特に好ましくは10Pa・s以下の粘度を有している。樹脂組成物の90℃における粘度又はアクリル樹脂の融点+20℃における粘度は、例えば0.5Pa・s以上であってよい。
【0074】
樹脂組成物の粘度は、JIS Z 8803に基づいて測定された値を意味し、具体的には、E型粘度計(東機産業(株)製、PE-80L)により測定された値を意味する。なお、粘度計の校正は、JIS Z 8809-JS14000に基づいて行うことができる。また、アクリル樹脂の融点は、実施例に記載の方法で測定された値を意味する。
【0075】
以上説明した樹脂組成物は、該樹脂組成物を硬化させることにより蓄熱材として好適に用いられる(蓄熱材用樹脂組成物として好適である)。樹脂組成物は、室温下(例えば25℃)で硬化させることができる。すなわち、一実施形態に係る蓄熱材は、上述した樹脂組成物の硬化物を含んでいる。この蓄熱材では、アクリル樹脂の硬化物が蓄熱性を有する成分として機能するため、蓄熱材(樹脂組成物)は、一実施形態において、例えば従来の蓄熱材に用いられるような潜熱蓄熱材が内包された蓄熱カプセルを含んでいなくてもよく、この場合であっても優れた蓄熱量が得られる。
【0076】
蓄熱材(上述した樹脂組成物の硬化物)は、様々な分野に活用され得る。蓄熱材は、例えば、自動車、建築物、公共施設、地下街等における空調設備(空調設備の効率向上)、工場等における配管(配管の蓄熱)、自動車のエンジン(当該エンジン周囲の保温)、電子部品(電子部品の昇温防止)、下着の繊維などに用いられる。
【0077】
これらの各用途において、蓄熱材(上述した樹脂組成物の硬化物)は、各用途で熱を発生させる熱源に対して熱的に接触するように配置されることにより、当該熱源の熱を蓄えることができる。つまり、本発明の一実施形態は、熱源と、熱源と熱的に接触するように設けられた蓄熱材(上述した樹脂組成物の硬化物)と、を備える物品である。
【0078】
図1は、蓄熱材を備える物品の一実施形態を示す模式断面図である。図1に示すように、物品1は、熱源2と、熱源2と熱的に接触するように設けられた蓄熱材3と、を備える。蓄熱材3は、熱源2の少なくとも一部に熱的に接触するように配置されていればよく、図1に示すように熱源2の一部が露出していてもよいし、熱源2の表面全体が覆われるように配置されてもよい。蓄熱材3が熱源2に熱的に接触していれば、熱源2と蓄熱材3とは直接接していてもよく、熱源2と蓄熱材3との間に他の部材(例えば熱伝導性を有する部材)が配置されてもよい。
【0079】
例えば、蓄熱材3が、熱源2としての空調設備(又はその部品)、配管、又は自動車のエンジンと共に用いられる場合、蓄熱材3がこれらの熱源2と熱的に接触していることにより、熱源2から生じた熱を蓄熱材3が蓄え、熱源2が一定以上の温度に保たれやすくなる(保温される)。蓄熱材3が下着の繊維として使用される場合、熱源2としての人体から生じた熱を蓄熱材3が蓄えるため、長時間に亘り温かさを感じることができる。
【0080】
例えば、蓄熱材3が、熱源2としての電子部品と共に用いられる場合、電子部品と熱的に接触するように配置されることにより、電子部品で生じた熱を蓄えることができる。この場合、例えば、蓄熱材を放熱部材と熱的に更に接触するように配置すれば、蓄熱材に蓄えられた熱を徐々に放出することができ、電子部品で生じた熱が急激に外部に放出される(電子部品近傍が局所的に高温になる)ことを抑制できる。
【0081】
蓄熱材3は、硬化物をシート状(フィルム状)に形成してから、熱源2に配置されてもよい。樹脂組成物が90℃において固体状である場合、シート状の蓄熱材3は、例えば、樹脂組成物を加熱溶融して成形することによって得られる。すなわち、蓄熱材3の製造方法は、一実施形態において、樹脂組成物を加熱溶融して成形する工程(成形工程)を備えている。成形工程における成形は、射出成形、圧縮成形又はトランスファー成形であってよい。この場合、蓄熱材3は、ケーシングを必要とせず、蓄熱材3単独でも、取り付ける対象物に貼り付けられたり、巻き付けられたり、様々な状態で取り付けられることが可能である。
【0082】
他の一実施形態においては、上述した樹脂組成物の硬化物は、蓄熱材用途以外にも用いることができる。硬化物は、例えば、撥水材、防霜材、屈折率調整材、潤滑材、吸着材、熱硬化応力緩和材又は低誘電材の形成に好適に用いられる。撥水材、防霜材、屈折率調整材、潤滑材、吸着材、熱硬化応力緩和材及び低誘電材は、それぞれ、例えば上述した樹脂組成物の硬化物を含んでいてよい。
【実施例
【0083】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0084】
[アクリル樹脂の合成]
実施例1-1~1-6で用いたアクリル樹脂1A~1Fは、以下のとおり、公知の懸濁重合方法により合成した。
【0085】
(アクリル樹脂1Aの合成例)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、排出管及び加熱ジャケットから構成された500mLフラスコを反応器とし、フラスコ内に窒素を100mL/分で流した。
次に、モノマーとしてテトラデシルアクリレート80g、ブチルアクリレート10g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10gを混合し、重合開始剤として過酸化ラウロイルを0.41g、連鎖移動剤としてn-オクチルメルカプタンを0.12g更に添加し、溶解させて混合物を得た。そして、当該混合物に対し、水201.3g(混合物100質量部に対して、200質量部)、懸濁剤としてポリビニルアルコール(PVA)0.2g(混合物100質量部に対して、0.02質量部)、還元剤としてアスコルビン酸0.1gを加えて、分散液を調製した。
続いて、窒素を流して溶存酸素を1ppm以下としたフラスコ(反応器)内に当該分散液を供給し、反応器内温度50℃、撹拌回転数250回/分で撹拌しながら加熱し、4時間反応させた。反応中にサンプリングしながら生成した樹脂の比重から重合率を算出し、重合率が80%以上であることを確認した後、70℃まで昇温して、更に2時間反応させた。その後、反応器内の生成物を冷却し、当該生成物を取り出して、水洗、脱水、乾燥して、アクリル樹脂1Aを得た。
【0086】
アクリル樹脂1B~1Fについては、モノマー成分を表1に示すモノマー成分に変更した以外は、アクリル樹脂1Aの合成例と同様の方法で合成した。
【表1】
【0087】
[アクリル樹脂の合成]
以下のとおり、公知の溶液重合方法により、実施例2-1~2-6で用いたアクリル樹脂2A~2Fを合成した。
【0088】
(アクリル樹脂2Aの合成例)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、排出管及び加熱ジャケットから構成された500mLフラスコを反応器とし、モノマーとしてテトラデシルアクリレート80g、ブチルアクリレート10g、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン10g、溶媒として2-プロパノール81.8gを混合し、反応器に加え、室温下(25℃)、撹拌回転数250回/分で撹拌し、1時間、窒素を100mL/分で流した。その後、30分かけて70℃に昇温し、昇温完了後、アゾビスイソブチロニトリル0.28gをメチルエチルケトン2mlに溶解した溶液を反応器に添加し、反応を開始させた。その後、反応器内温度70℃で撹拌し、5時間反応させた。その後、アゾビスイソブチロニトリル0.05gをメチルエチルケトン2mLに溶解した溶液を反応器に添加し、15分かけて90℃まで昇温し、更に2時間反応させた。その後、溶媒を除去、乾燥し、アクリル樹脂2Aを得た。
【0089】
アクリル樹脂2B~2Fについては、モノマー成分を表2に示すモノマー成分に変更した以外は、アクリル樹脂2Aの合成例と同様の方法で合成した。得られた各アクリル樹脂の融点を表2に示す。
【0090】
(アクリル樹脂2Gの合成例)
撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、排出管及び加熱ジャケットから構成された500mLフラスコを反応器とし、反応器に溶媒としてトルエン117.4gを加え、室温下(25℃)、撹拌回転数200回/分で撹拌し、30分間、窒素を100mL/分で流した。その後、30分かけて110℃に昇温し、昇温完了後、あらかじめ混合しておいたモノマーとしてステアリルアクリレート170g、ブチルアクリレート20g、2-イソシアナトエチルメタクリレート10g、開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル2gの混合液を2時間30分かけて滴下した。その後、反応器内温度110℃で撹拌し、1時間反応させた。その後、アゾビスイソブチロニトリル0.05gをトルエン2mLに溶解した溶液を反応器に添加し、更に2時間反応させた。その後、溶媒を除去、乾燥し、アクリル樹脂2Gを得た。
【0091】
アクリル樹脂2H~2Kについては、モノマー成分を表3に示すモノマー成分に変更した以外は、アクリル樹脂2Gの合成例と同様の方法で合成した。得られた各アクリル樹脂の融点を表3に示す。
【0092】
アクリル樹脂の融点は、以下のとおり測定した。
示差走査熱量測定計(パーキンエルマー社製、型番DSC8500)を用いて、20℃/分で100℃まで昇温し、100℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で-30℃まで降温し、次いで-30℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで再び昇温することによって、アクリル樹脂の熱挙動を測定し、融解ピークをアクリル樹脂の融点として算出した。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
なお、ラウリルアクリレートは大阪有機化学工業(株)製、テトラデシルアクリレートは東京化成工業(株)製、ブチルアクリレートは和光純薬工業(株)製、ステアリルアクリレート、ベヘニルアクリレートは日油(株)製、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシランは信越化学工業(株)製、2-イソシアナトエチルメタクリレートは昭和電工(株)製を用いた。
【0096】
[蓄熱材の作製]
(実施例1-1)
アクリル樹脂1Aを15g、触媒として、ビス(エチルアセトアセタト)2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(濃度76%、2-プロパノ-ル溶液)を0.015g、溶媒としてメチルエチルケトン20gを混合し、樹脂組成物を調製した。樹脂組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、80℃で30分間加熱乾燥させ、次いで、室温下、24時間養生してからPETフィルムを除去し、厚さ100μmのフィルム状の蓄熱材を得た。
【0097】
(実施例1-2~1-6)
樹脂組成物の組成を表4に示すとおりに変更した以外は、実施例1-1と同様の方法で蓄熱材を作製した。
【0098】
(実施例2-1)
アクリル樹脂2Aを15g、触媒として、ビス(エチルアセトアセタト)(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(濃度76%2-プロパノ-ル溶液)を0.015g混合し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の90℃における粘度を、E型粘度計(東機産業(株)製、PE-80L)を用いて、JIS Z 8803に基づいて測定した。結果を表5に示す。
次に、樹脂組成物を10cm×10cm×1mmの型枠(SUS板)中に充填し、室温下で24時間養生し、厚さ1mmのシート状の蓄熱材を得た。
【0099】
(実施例2-2~2-6)
樹脂組成物の組成を表5に示すとおりに変更した以外は、実施例2-1と同様の方法で樹脂組成物の粘度測定及び蓄熱材の作製を実施した。結果を表5に示す。
【0100】
(実施例2-7)
アクリル樹脂2Gを15g、触媒として、ジラウリル酸ジブチルスズを0.015g混合し、樹脂組成物を得た。この樹脂組成物の90℃における粘度を、E型粘度計(東機産業(株)製、PE-80L)を用いて、JIS Z 8803に基づいて測定した。結果を表6に示す。
次に、樹脂組成物を10cm×10cm×1mmの型枠(SUS板)中に充填し、室温下で24時間養生し、厚さ1mmのシート状の蓄熱材を得た。
【0101】
(実施例2-8~2-11)
樹脂組成物の組成を表6に示すとおりに変更した以外は、実施例2-7と同様の方法で樹脂組成物の粘度測定及び蓄熱材の作製を実施した。結果を表6に示す。
【0102】
[融点及び蓄熱量の評価]
実施例で作製した各蓄熱材を、示差走査熱量測定計(パーキンエルマー社製、型番DSC8500)を用いて測定し、融点と蓄熱量を算出した。具体的には、20℃/分で100℃まで昇温し、100℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で-30℃まで降温し、次いで-30℃で3分間保持した後、10℃/分の速度で100℃まで再び昇温して熱挙動を測定した。融解ピークを蓄熱材の融点とし、面積を蓄熱量とした。結果を表4~6に示す。なお、蓄熱量が30J/g以上であれば、蓄熱量に優れているといえる。
【0103】
[液漏れ及び揮発性の評価]
実施例で作製した各蓄熱材を、80℃の温度にて大気雰囲気下で1000時間静置前後の重量変化を測定し、重量減少率(%)を測定した。結果を表4~6に示す。
【0104】
[耐熱性の試験(TG-DTA)]
熱重量天秤TG-DTA6300((株)日立ハイテクサイエンス)を用いて、実施例で作製した各蓄熱材の重量減少を測定した。初期重量から1%重量が減少した温度(℃)を読み取り、1%重量減少温度の値とした。結果を表4~6に示す。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】
【0107】
【表6】
【0108】
表4~6中、Al錯体はビス(エチルアセトアセタト)(2,4-ペンタンジオナト)アルミニウム(濃度76%2-プロパノール溶液)(和光純薬(株)製)、スズ触媒はジラウリル酸ジブチルスズ(和光純薬(株)製)を示す。
【0109】
実施例の蓄熱材は、蓄熱量に優れており、加えて、耐熱性にも優れ、液漏れ及び揮発を抑制できる。特に、実施例2-1~2-11の蓄熱材は、液体状の樹脂組成物を硬化させることにより得られるので、複雑な形状を有する部材に対しても適用可能な点で有利である。
【符号の説明】
【0110】
1…物品、2…熱源、3…蓄熱材。
図1