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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】分散液及び樹脂付金属箔の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/18 20060101AFI20231011BHJP
   C08L 33/10 20060101ALI20231011BHJP
   C08L 33/16 20060101ALI20231011BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20231011BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L33/10
C08L33/16
C08K5/10
C08K5/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020550465
(86)(22)【出願日】2019-10-01
(86)【国際出願番号】 JP2019038793
(87)【国際公開番号】W WO2020071382
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018188254
(32)【優先日】2018-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018218320
(32)【優先日】2018-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019071907
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110697(JP,A)
【文献】国際公開第14/200020(WO,A1)
【文献】特開2013-173837(JP,A)
【文献】特開平08-059748(JP,A)
【文献】特開昭64-065161(JP,A)
【文献】特許第6274339(JP,B2)
【文献】国際公開第03/011991(WO,A1)
【文献】特表2015-509113(JP,A)
【文献】国際公開第16/159102(WO,A1)
【文献】特開2018-111778(JP,A)
【文献】国際公開第16/017801(WO,A1)
【文献】国際公開第18/190371(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B05D 7/00-7/26
B32B 15/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボニル基含有基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーとガラス転移点が0~120℃の(メタ)アクリル系ポリマーと液状分散媒とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが前記液状分散媒に分散した分散液であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して、前記(メタ)アクリレート系ポリマーを0.1以上5質量部未満含む、分散液。
【請求項2】
前記液状分散媒が、非水媒体である、請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記液状分散媒が、エステル又はアミドである、請求項1又は2に記載の分散液。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、ヒドロキシ基を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項6】
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、メタクリレート系ポリマーである、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項7】
前記(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量が、10000~150000である、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【請求項8】
フッ素系分散剤をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層(樹脂層)形成時の粉落ちが抑制され、種々の層(樹脂層)物性に優れた層(樹脂層)を形成できる分散液、及び樹脂付金属箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れており、種々の用途と、パウダー,フィルム等の種々の使用形態とが知られている。特許文献1には、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダー、解重合性アクリルポリマーのパウダー及び水性媒体を含む水性分散液が記載されている。
近年では、高周帯域の周波数に対応するプリント基板材料として、低誘電率、低誘電正接等の電気特性や半田リフロー耐性等の耐熱性に優れたテトラフルオロエチレン系ポリマーが注目されている。
【0003】
特許文献2には、PTFEのパウダーが非水媒体に分散した分散液から形成されたPTFE層を有する樹脂付金属箔、その金属箔に伝送回線を形成してプリント基板とする方法が記載されている。特許文献3には、かかる分散液として、PTFEのパウダーを含む非水系分散液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2003/011991号
【文献】特表2015-509113号公報
【文献】国際公開第2016/159102号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる分散液からテトラフルオロエチレン系ポリマーの層(樹脂層)の形成は、分散液を基材の表面に塗布し、液状分散媒を揮発させて基材の表面にパウダーの充填層を形成し、さらにパウダーを溶融又は焼成させて行う。しかし、テトラフルオロエチレン系ポリマーは本質的に非粘着性であり、そのパウダーは粒子間の相互作用に乏しい。そのため、充填層の形成に際してはパウダーが欠落(粉落ち)しやすい。
パウダーの粉落ちは、層(樹脂層)の物性を損なうばかりか、物品自体又は製造装置を汚染し、その生産性を低下させてしまう。そのため、粉落ちを抑制しつつ、電気物性(誘電率、静電正接等の電気物性。)と表面物性(耐熱性、耐薬品性、平滑性、光沢性等。)に優れた層(樹脂層)を形成できる分散液が求められている。
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、所定の(メタ)アクリル系ポリマーとテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーとを所定の比率で含む分散液は、粉落ちを抑制しつつ、電気物性と表面物性に優れた層(樹脂層)を形成できることを知見した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーとガラス転移点が0~120℃の(メタ)アクリル系ポリマーと液状分散媒とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが前記液状分散媒に分散した分散液であって、前記テトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して、前記(メタ)アクリレート系ポリマーを0.1~10質量部含む、分散液。
[2] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマー100質量部に対して、前記(メタ)アクリレート系ポリマーを0.1以上5質量部未満含む、[1]に記載の分散液。
[3] 前記液状分散媒が、非水媒体である、[1]又は[2]に記載の分散液。
[4] 前記液状分散媒が、エステル又はアミドである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の分散液。
[5] 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アミノ基、ニトリル基及びイソシアネート基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、[1]~[4]のいずれか1項に記載の分散液。
[6] 前記(メタ)アクリル系ポリマーが、ヒドロキシ基を有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載の分散液。
[7] 前記(メタ)アクリル系ポリマーが、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、[1]~[6]のいずれか1項に記載の分散液。
[8] 前記(メタ)アクリル系ポリマーが、メタクリレート系ポリマーである、[1]~[7]のいずれか1項に記載の分散液。
[9] 前記(メタ)アクリル系ポリマーの重量平均分子量が、10000~150000である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の分散液。
[10] フッ素系分散剤をさらに含む、[1]~[9]のいずれか1項に記載の分散液。
[11] フルオロアルコール、フルオロシリコーン及びフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種のフッ素系分散剤をさらに含む、[1]~[10]のいずれか1項に記載の分散液。
[12] 金属箔と、該金属箔の表面に接して設けられ、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む樹脂層とを有する樹脂付金属箔を製造する方法であって、
[1]~[11]のいずれか1項に記載の分散液を、前記表面に塗布して分散液から塗工層を形成し、さらに加熱により液状分散媒を除去し、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーを溶融又は焼成させて前記樹脂層を形成する、樹脂付金属箔の製造方法。
[13] 前記塗工層の形成を、前記(メタ)アクリル系ポリマーのガラス転移点以上の温度にて行う、[12]に記載の製造方法。
[14] 前記樹脂層の形成を、250℃~400℃にて行う、[12]又は[13]に記載の製造方法。
[15] 前記樹脂層の厚さが、20μm未満である、[12]~[14]のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、パウダー粒子の粉落ちを抑制しつつ、電気特性(誘電率、静電正接等。)と表面物性(耐熱性、耐薬品性、平滑性、光沢性等。)に優れた層(樹脂層)を形成できる、テトラフルオロエチレン系ポリマーを含む分散液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「パウダーのD50」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダー粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径(体積基準累積50%径)である。
「パウダーのD90」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダー粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒子径(体積基準累積90%径)である。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「ポリマーの融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度である。
「粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称である。
「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸とメタクリル酸の総称である。
ポリマーの「ガラス転移点(Tg)」は、示差走査熱量測定によって求められる値であり、測定できない場合には、フォックスの式から求められる値である。
ポリマーの「重量平均分子量(Mw)」は、ポリスチレンを標準試料とし、テトラヒドロフランを展開溶媒とする、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー法によって求められる値である。
ポリマーの「熱分解開始温度」は、熱重量測定装置(TG)、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を使用し、ポリマー(10mg)を、混合ガス(ヘリウム90体積%と酸素10体積%)雰囲気下、10℃/分のペースにて昇温させた際に、その質量減少率が1質量%/分以上となる温度である。
ポリマーにおける「単位」とは、モノマーの重合により形成された前記モノマー1分子に由来する原子団と、該原子団の一部を化学変換することで得られる原子団との総称である。単位は、重合反応によって直接形成された単位であってもよく、ポリマーを処理することによって前記単位の一部が別の構造に変換された単位であってもよい。以下、モノマーaに基づく単位を、単に「モノマーa単位」とも記す。例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位をTFE単位とも記す。
【0010】
本発明の分散液は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「TFE系ポリマー」とも記す。)のパウダーとガラス転移点が0~120℃の(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「所定のポリマー」とも記す。)と液状分散媒とを含む。
分散液中において、TFE系ポリマーは液状分散媒に分散しており、分散液は、TFE系ポリマー100質量部に対して、所定のポリマーを0.1~10質量部含んでいる。
本発明の分散液から層(樹脂層)を形成する際、パウダーの粉落ちが抑制され、形成される層(樹脂層)が電気特性と表面物性が優れている理由は、以下の様に考えられる。
【0011】
所定のポリマーは、塗工層(本発明の分散液の液状分散媒が除去された段階で形成される層)の形成に際して、剛性と粘性が低下して、パウダー粒子同士の間隙に薄く均一に浸透すると考えられる。また、(メタ)アクリロイルオキシ基を有する所定のポリマーは、その分子間力により、塗工層中における薄く緻密なマトリックスを形成して、パウダーの粉落ちが抑制されると考えられる。
一方で、所定のポリマーは、TFE系ポリマーに比較して耐熱性が低く、熱分解により消失しやすいため、加熱によりパウダーを溶融又は焼成させて形成される層(樹脂層)の物性を損ないにくい。また、所定のポリマーは、パウダー粒子同士の間隙に薄く存在するため、熱分解に伴って発生するガスやポリマー残渣が、層(樹脂層)の物性を阻害しにくい。その結果、本発明の分散液から、表面物性(耐熱性、耐薬品性、平滑性、光沢性等。)と電気特性(誘電率、静電正接等。)に優れた層(樹脂層)が形成されたと考えられる。かかる傾向は、層(樹脂層)の厚さが薄い場合に顕著になり易い。そのため、本発明の分散液を用いれば、表面物性と電気特性を具備した薄膜状の電気絶縁層を有するプリント基板材料(樹脂付銅箔等。)が容易に得られる。
【0012】
本発明におけるパウダーのD50は、0.05~6μmが好ましく、0.1~3.0μmが特に好ましい。パウダーのD50が前記範囲にある場合、パウダーの流動性と分散性が優れるだけでなく、本発明の分散液から形成される、TFE系ポリマーの溶融物又は焼成物を含む、層又は樹脂層(以下、「F層」とも言う。)の平滑性が優れる。パウダーのD90は、8.0μm以下が好ましく、1.5~5.0μmが特に好ましい。パウダーのD90が前記範囲にある場合、パウダーの分散性とF層の均質性が優れる。
パウダーの疎充填嵩密度と密充填嵩密度は、この順に、0.08~0.5g/mL、0.1~0.8g/mLであるのが好ましい。
本発明におけるパウダーは、TFE系ポリマーを主成分とするパウダーである。パウダーにおけるTFE系ポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%が特に好ましい。パウダーに含まれ得る他の樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシド等が挙げられる。
【0013】
本発明におけるTFE系ポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
TFE系ポリマーは、TFE単位から実質的になるホモポリマー(以下、「PTFE」とも記す。)、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)を含むコポリマー、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン(HFP)に基づく単位(HFP単位)を含むコポリマー又はTFE単位とフルオロアルキルエチレン(FAE)に基づく単位(FAE単位)を含むコポリマーが好ましい。
【0014】
PTFEは、TFE単位以外の単位を極微量含むポリマーや低分子量のPTFEも包含される。前記ポリマーは、ポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位を、99.5モル%超含むのが好ましく、99.9モル%以上含むのが特に好ましい。前記ポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sが特に好ましい。
【0015】
低分子量のPTFEは、高分子量のPTFEに放射線を照射して得られるPTFE(国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等に記載のポリマー。)であってもよく、TFEを重合してPTFEを製造する際に連鎖移動剤を用いて得られるPTFE(特開2009-1745号公報、国際公開第2010/114033号、特開2015-232082号公報等に記載のポリマー。)であってもよく、コア部分とシェル部分からなるコア-シェル構造を有するポリマーであって、シェル部分のみ低分子量のPTFE(特表2005-527652号公報、国際公開第2016/170918号、特開平09-087334号公報等に記載のポリマー。)であってもよい。
低分子量のPTFEの標準比重(ASTM D4895-04に準拠して測定される比重である。)は、2.14~2.22が好ましく、2.16~2.20がより好ましい。
【0016】
TFE単位を含むポリマーは、TFE単位以外の単位を含むポリマーも包含される。前記ポリマーは、ポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位以外のモノマーに基づく単位を0.5モル%超含むのが好ましい。TFE以外の単位は、PAVE単位、HFP単位、FAE単位又は後述する官能基を有する単位が好ましい。
【0017】
TFE単位を含むポリマーは、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アミノ基、ニトリル基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するのが好ましい。TFE系ポリマーが前記官能基を有する場合、所定のポリマーとTFE系ポリマーとの相互作用が強まり、分散液の分散物性(粘度、色調等)とF層形成物性(接着性、透明性等。)もより向上しやすい。なお、カルボニル基含有基には、アミド基が含まれる。
【0018】
上記官能基は、TFE系ポリマーを構成する単位に含まれてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれてもよく、プラズマ処理等によりTFE系ポリマーに導入してもよい。ポリマー主鎖の末端基に上記官能基が含まれるTFE系ポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として官能基を有するTFE系ポリマーが挙げられる。
【0019】
上記官能基は、ヒドロキシ基又はカルボニル基含有基が好ましく、カルボニル含有基がより好ましく、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基、酸無水物残基又は脂肪酸残基が特に好ましく、カルボキシ基又は酸無水物残基が最も好ましい。
本発明におけるTFE系ポリマーは、TFE単位と、PAVE単位、HFP単位又はFAE単位と、官能基を有する単位とを含むポリマーが好ましい。
官能基を有する単位は、官能基を有するモノマーに基づく単位が好ましい。
官能基を有するモノマーとしては、カルボニル基含有基を有するモノマーが好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーが特に好ましい。
環状モノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が挙げられ、NAHが好ましい。
【0020】
PAVEとしては、CF=CFOCF、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(PPVE)、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFFが挙げられ、PPVEが好ましい。
FAEとしては、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられる。
この場合、ポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位、PAVE単位、HFP単位又はFAE単位及び官能基を有する単位は、この順に、90~99モル%、0.5~9.97モル%、0.01~3モル%含まれるのが好ましい。この場合、TFE系ポリマーの融点は、250~380℃が好ましく、280~350℃が特に好ましい。かかるTFE系ポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載のポリマーが挙げられる。
【0021】
本発明における所定のポリマーは、ガラス転移点が0~120℃の(メタ)アクリル系ポリマーである。(メタ)アクリル系ポリマーとは、(メタ)アクリレートに基づく単位を含むポリマーの総称である。
所定のポリマーは、分散液中に粒子状に分散していてもよく、分散液中に溶解していてもよい。
所定のポリマーのガラス転移点は、30~120℃が好ましく、40~110℃が好ましく、60~100℃が特に好ましい。この場合、塗工層の形成における所定のポリマーの流動性が高まり、パウダーの粉落ちがより抑制され、F層の物性がより向上しやすい。
所定のポリマーの熱分解開始温度は、200℃以上が好ましく、250~300℃が特に好ましい。また、所定のポリマーは、350℃における熱分解速度は、1質量%/分以上が好ましく、2質量%/分以上が特に好ましい。この場合、分散液から形成される塗工層中で所定のポリマーが緻密なマトリックスを形成し、かつF層の形成において所定のポリマーが分解しやすく、電気特性に優れたF層を形成しやすい。
【0022】
所定のポリマーは、ヒドロキシ基を有するのが好ましい。この場合、所定のポリマー間の相互作用がより向上するだけでなく、液状分散媒とTFE系ポリマーとの相互作用も向上しやすい。その結果、パウダーの粉落ちがより抑制され、F層の物性がより向上しやすい。
ヒドロキシ基は、所定のポリマーの単位中に含まれていてもよく、ポリマー鎖の末端(ポリマー主鎖の末端)に含まれていてもよい。
所定のポリマーは、ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む(メタ)アクリレート系ポリマー、又は、連鎖移動剤とアルコールの存在下に(メタ)アクリレートを重合させて得られるポリマー鎖の末端にヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート系ポリマーが好ましい。
【0023】
ヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレートとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノグリシジルエーテル又はグリシドールと(メタ)アクリル酸とを付加させて得られる(メタ)アクリレートが挙げられる。
連鎖移動剤としては、1-ブタンチオール、1-オクタンチオール、1-デカンチオール、1-ドデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、シクロヘキサンチオール、2-メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、メチルメルカプトアセテート、3-メルカプトプロピオン酸、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテンが挙げられる。
アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノールが挙げられる。
【0024】
所定のポリマーは、炭化水素系(メタ)アクリレートに基づく単位を含むのが好ましく、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート及びベンジル(メタ)アクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種の(メタ)アクリレートに基づく単位を含むのがより好ましい。この場合、所定のポリマーのガラス転移点と、所定のポリマーの熱分解性とを調整しやすく、F層を形成する際のパウダーの粉落ちがより抑制され、その物性がより向上させやすい。なお、ブチル(メタ)アクリレートは、n-ブチル(メタ)アクリレート、iso-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレートのいずれであってもよい。
【0025】
所定のポリマーの重量平均分子量は、10000~150000が好ましい。この場合、塗工層の形成における所定のポリマーの流動性が高まるだけでなく、所定のポリマーの分解性も向上するため、本発明の分散液の、パウダーの粉落ちがより抑制され、F層の物性がより向上しやすい。
【0026】
所定のポリマーの具体例としては、上記ヒドロキシ基を有するモノマーに基づく単位と上記炭化水素系(メタ)アクリレートに基づく単位とを含み重量平均分子量が50000~150000のポリマー、上記炭化水素系(メタ)アクリレートに基づく単位からなり重量平均分子量が10000~50000のポリマーが挙げられる。なお、後者のポリマーは、ポリマー鎖の末端にヒドロキシ基を有するのが好ましい。
前者のポリマーは、ポリマーに含まれる全単位に対して、ヒドロキシ基を有するモノマーに基づく単位、上記炭化水素系(メタ)アクリレートに基づく単位を、この順に、1~20モル%、80~99モル%含むのが好ましい。
【0027】
所定のポリマーは、メタクリレート系ポリマーが好ましい。なお、メタクリレート系ポリマーとは、メタクリレートに基づく単位を含むポリマーの総称である。所定のポリマーがメタクリレート系ポリマーである場合、ポリマー主鎖の立体配置に基づく分子間力により、より緻密なマトリックスが形成されると考えられ、F層縁部の粉落ちがより抑制されやすい。
メタクリレート系ポリマーの具体例としては、ヒドロキシ基を有するメタクリレートに基づく単位と炭化水素系メタクリレートに基づく単位とを含み重量平均分子量が50000~150000のポリマー、炭化水素系メタクリレートに基づく単位からなり重量平均分子量が10000~50000のポリマーが挙げられる。
前者のポリマーは、ポリマーに含まれる全単位に対して、ヒドロキシ基を有するメタクリレートに基づく単位、炭化水素系メタクリレートに基づく単位を、この順に、1~20モル%、80~99モル%含むのが好ましい。また、前者のポリマーのガラス転移点は、60~100℃が好ましい。
後者のポリマーは、ポリマー鎖の末端にヒドロキシ基を有するのが好ましい。また、後者のポリマーのガラス転移点は、0~40℃が好ましい。
【0028】
炭化水素系メタクリレートは、メチルメタアクリレート、エチルメタアクリレート、ブチルメタアクリレート、シクロヘキシルメタアクリレート及びベンジルメタアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも1種のメタアクリレートが好ましく、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート(EMA)又はブチルメタクリレート(BMA)がより好ましい。なお、BMAは、n-ブチルメタクリレート、iso-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレートの何れであってもよい。
ヒドロキシ基を有するメタクリレートは、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、2-ヒドロキシブチルメタクリレート又は4-ヒドロキシブチルメタクリレートが好ましい。
かかる所定のポリマーは、市販品(共栄社化学社製「オリコックス KC-1700P」等。)として入手できる。
【0029】
本発明における液状分散媒は、本発明のパウダーを分散させる機能を有する25℃で液体の化合物であり、水性媒体であってもよく、非水媒体であってもよく、非水媒体が好ましい。非水媒体の含水量は、20000ppm以下であるのが好ましい。非水媒体の含水量の下限は、通常、0ppmである。
液状分散媒が非水媒体(特に、エステル又はケトン。)であれば、分散液中で所定のポリマーが、より分散又は溶解しやすくなり、塗工層を形成する際の作用(所定のポリマーによる緻密なマトリックスの形成等。)が一層向上しやすくなり、薄いF層を形成する際のパウダーの粉落ちが特に抑制されやすくなる。
液状分散媒の化合物は、含窒素化合物、含硫黄化合物、エステル、ケトン、グリコールエーテル等の有機媒体が好ましい。
液状分散媒の化合物の沸点は、60~240℃が好ましく、80~210℃が特に好ましい。
液状分散媒の化合物の沸点は、所定のポリマーのガラス転移点以上が好ましい。液状分散媒の化合物の沸点は、前記ガラス転移点+150℃以下が好ましい。この場合、液状分散媒の揮発に伴う塗工層の形成において、所定のポリマーの流動性が高まり、パウダーの粉落ちがより抑制され、形成される層(F層)の物性がより向上しやすい。
【0030】
液状分散媒の化合物の具体例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、γ-ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等。)が挙げられる。
液状分散媒の化合物は、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン又はγ-ブチロラクトンが好ましい。
【0031】
本発明の分散液は、分散剤、消泡剤、無機フィラー、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、結着剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤を含んでいてもよい。
分散液におけるTFE系ポリマーのパウダーの分散性が向上し、F層の物性が向上する観点から、本発明の分散液は、分散剤を含むのが好ましい。
【0032】
分散剤は、TFE系ポリマーのパウダーの表面に化学的及び/又は物理的に吸着して、パウダーを液状分散媒に安定的に分散させる機能を有する化合物であり、フッ素原子を含有する疎水部位と親水部位とを有するフッ素系分散剤(フッ素系界面活性剤)が好ましく、フルオロアルコール、フルオロシリコーン及びフルオロポリエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物が特に好ましい。なお、これらの化合物は、TFE系ポリマー及び所定のポリマー以外の化合物である。
【0033】
フルオロアルコールとしては、非ポリマー状フルオロモノオール、ポリマー状フルオロポリオールが挙げられる。また、ポリマー状フルオロポリオールの水酸基の一部は、化学修飾されていてもよい。
フルオロシリコーンとしては、側鎖の一部にC-F結合を含むポリオルガノシロキサンが挙げられる。
フルオロポリエーテルとしては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの水素原子の一部がフッ素原子に置換された化合物が挙げられる。
【0034】
フッ素系分散剤は、ポリマー状フルオロポリオールが好ましく、フルオロアルキル(メタ)アクリレート又はフルオロアルケニル(メタ)アクリレートとオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートに基づく単位とを含むポリマーがより好ましい。
前者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CClC(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCHCHCHOCF(CF)C(=C(CF)(CF(CF)、CH=CHC(O)OCHCHCHCHOC(CF)C(=C(CF(CF)が挙げられる。
前記ポリマーに含まれる全単位に対する前者の単位の量は、60~90モル%が好ましく、70~90モル%が特に好ましい。
【0035】
後者の(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCHOH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH23OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH66OH、CH=CHC(O)(OCHCHOH、CH=CHC(O)(OCHCHOH、CH=CHC(O)(OCHCH23OH、CH=CHC(O)(OCHCH66OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH・(OCHCH(CH))OH、CH=C(CH)C(O)(OCHCH10・(OCHCHCHCHOHが挙げられる。
前記ポリマーに含まれる全単位に対する後者の単位の量は、10~40モル%が好ましく、10~30モル%が特に好ましい。
【0036】
前記ポリマーは、さらに他の追加の単位をさらに含んでいてもよい。
前記ポリマーは、ノニオン性であるのが好ましい。
前記ポリマーの質量平均分子量は、2000~80000が好ましく、6000~20000が特に好ましい。
前記ポリマーは、主鎖末端に水酸基またはカルボキシル基を有していてもよい。この場合、本発明の分散液のレベリング性が向上しやすい。かかるポリマーは、その製造に際して使用する重合開始剤や連鎖移動剤の種類を調製して得られる。
【0037】
分散液におけるパウダーの割合は、5~60質量%が好ましく、30~50質量%が特に好ましい。この場合、分散液の分散性とF層の物性とが向上しやすい。
分散液における液状分散媒の割合は、15~65質量%が好ましく、25~50質量%が特に好ましい。この場合、分散液からの塗工層の形成とF層の物性とが向上しやすい。
分散液における所定のポリマーの割合は、0.05~6質量%が好ましく、0.1~5質量%が特に好ましい。この場合、分散液の分散性とF層の物性とが向上しやすい。
【0038】
本発明の分散液は、TFE系ポリマー100質量部に対して、所定のポリマーを0.1~10質量部含む。TFE系ポリマー100質量部に対する所定のポリマーの含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上が特に好ましい。前記含有量は、5質量部以下が好ましく、5質量%未満が特に好ましい。この場合、本発明の分散液から形成される塗工層のパウダーの粉落ちがより抑制され、F層の物性がより向上しやすい。また、表面物性と電気特性を具備した薄膜状の電気絶縁層をより形成しやすい。
本発明の分散液が他の材料を含む場合、分散液における他の材料の割合は、1~50質量%が好ましく、5~30質量部が特に好ましい。なお、他の材料が分散剤を含む場合、分散液における分散剤の割合は、1~10質量部が好ましい。
【0039】
本発明の分散液は、液状分散媒とTFE系ポリマーのパウダーと所定のポリマーを混合して製造でき、液状分散媒及び所定のポリマーと、TFE系ポリマーのパウダーとを混合して製造するのが好ましい。
混合に際しては、ホモディスパーやホモジナイザーを用いて分散処理して、分散状態を向上させるのが好ましい。また、0~40℃で貯蔵した本発明の分散液を使用する際は、これらの分散処理をしてから使用するのが好ましい。
【0040】
本発明は、本発明の分散液を、金属箔の表面に塗布して塗工層を形成し、さらに加熱によりTFE系ポリマーを溶融又は焼成させてTFE系ポリマーを含む樹脂層(F層)を形成する。これにより、金属箔と、この金属箔の表面に接して設けられ、TFE系ポリマーを含む樹脂層とを有する樹脂付金属箔を提供できる。
本発明の製造方法における、TFE系ポリマー、そのパウダー、所定のポリマー及び液状分散媒の範囲は、その好適な態様も含めて、本発明のポリマー分散液における範囲と同様である。また、本発明の製造方法においては、金属箔の表面の少なくとも片面に樹脂層が形成されればよく、金属箔の片面のみに樹脂層が形成されてもよく、金属箔の両面に樹脂層が形成されてもよい。
【0041】
金属箔の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金等が挙げられる。
金属箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が好ましい。
金属箔の表面には、防錆処理層や耐熱層が配置されていてもよい。また、金属箔の表面は、シランカップリング剤で表面処理されていてもよい。
金属箔の厚さは、積層体の用途において充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、その表面の十点平均粗さ以上の厚さであり、2~40μmが好ましい。金属箔として、キャリア銅箔(厚さ10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ2~5μm)とからなるキャリア付金属箔を使用してもよい。また、金属箔の厚さは、F樹脂層の厚さより大きいのが好ましい。
【0042】
分散液の塗布方法としては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
【0043】
塗工層の形成は、所定のポリマーのガラス転移点以上の温度にて金属箔を加熱して、液状分散媒を除去するのが好ましい。この際、液状分散媒を完全に揮発させる必要はなく、分散液の塗布により形成される塗工層から安定した自立膜が形成される程度まで液状分散媒を揮発させればよい。具体的には、分散液に含まれる液状分散媒のうち、50質量%以上を揮発させることが好ましい。なお、揮発させなかった液状分散媒は、次の溶融又は焼成段階において、完全に除くことができる。
この際の温度は、50~150℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。
この際の時間は、0.1~30分間が好ましく、0.5~20分間がより好ましい。
【0044】
塗工層を加熱して、TFE系ポリマーを溶融又は焼成させてTFE系ポリマーを含む樹脂層を形成する際の温度は、250℃~400℃が好ましく、300~400℃が特に好ましい。
加熱方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。F層の表面平滑性を高めるために、加熱板、加熱ロール等で加圧してもよい。なお、加熱における温度は、通常、雰囲気の温度を示す。赤外線の有効波長帯は、TFE系ポリマーの均質に溶融又は焼成させる観点から、3~7μmが特に好ましい。
加熱における雰囲気は、金属箔やF層の酸化を抑制する点から、酸素ガス濃度が、100~500ppmであるのが好ましい。また、雰囲気は、不活性ガス(窒素ガス等。)雰囲気又は還元性ガス雰囲気(水素ガス等。)が好ましい。
【0045】
形成される樹脂層の厚さは、20μm未満が好ましく、10μm未満がより好ましい。前記樹脂層の厚さは、1μm以上が好ましい。本発明の分散液は、TFE系ポリマーの含有量に対する所定のポリマーの含有量が所定の範囲にあり、かかる薄い樹脂層の形成においても、所定のポリマーの作用によりTFE系ポリマーの緻密層が形成できるだけでなく、所定のポリマーが樹脂層に残存し難い。その結果、表面物性と電気特性に優れた薄膜状の樹脂層を容易に形成でき、反りにくい樹脂付銅箔が容易に得られる。
【0046】
本発明における樹脂付金属箔においては、樹脂層の線膨張係数を制御したり、樹脂層の接着性をさらに改善したりするために、樹脂層の表面を表面処理してもよい。
表面処理としては、アニール処理、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理、微粗面化処理等が挙げられる。
アニール処理における温度は、80~190℃が好ましい。アニール処理における圧力は、0.001~0.030MPaが好ましい。アニール処理の時間は、10~300分間が好ましい。
【0047】
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス等が挙げられ、希ガス又は窒素ガスが好ましい。プラズマ処理に用いるガスの具体例としては、アルゴンガス、水素ガスと窒素ガスの混合ガス、水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスが挙げられる。
プラズマ処理における雰囲気は、希ガス又は窒素ガスの体積分率が70体積%以上の雰囲気が好ましく、100体積%の雰囲気が特に好ましい。この範囲において、F樹脂層の表面のRaを2.5μm以下に調整して、樹脂付金属箔のF層の表面に微細凹凸を形成しやすい。
【0048】
樹脂付金属箔におけるF層の表面のRaは、2nm~2.5μmが好ましく、5nm~1μmが特に好ましい。F層の表面のRzは、15nm~2.5μmが好ましく、50nm~2μmが特に好ましい。この範囲において、樹脂付金属箔とプリプレグとの接着性と、F層の表面加工性とをバランスさせやすい。
樹脂付金属箔のF層の表面にプリプレグを積層する方法としては、樹脂付金属箔とプリプレグとを熱プレスする方法が挙げられる。
【0049】
プレス温度は、TFE系ポリマーの融点以下が好ましく、160~220℃が特に好ましい。この範囲において、プリプレグの熱劣化を抑えつつ、F層とプリプレグとを強固に接着できる。
熱プレスは、20kPa以下の真空度で行うのが特に好ましい。この範囲において、積層体における金属箔、F層、硬化物層のそれぞれの界面への気泡混入と酸化による劣化とを抑制できる。また、熱プレス時は前記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。
熱プレスにおける圧力は、0.2~10MPaが好ましい。この範囲において、プリプレグの破損を抑えつつ、F層とプリプレグとを強固に接着できる。
【0050】
本発明の樹脂付金属箔は、電気特性、耐薬品性(エッチング耐性)等の物性に優れたTFE系ポリマーを樹脂層とするため、本発明の樹脂付金属箔は、フレキシブル金属張積層板やリジッド金属張積層板として、プリント基板の製造に使用できる。
例えば、本発明の樹脂付金属箔の金属箔をエッチング処理して所定のパターンの導体回路(伝送回路)に加工する方法や、本発明の樹脂付金属箔の金属箔を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によって伝送回路に加工する方法によって、本発明の樹脂付金属箔からプリント基板を製造できる。
【0051】
本発明の樹脂付金属箔から製造されたプリント基板は、伝送回路、F層、硬化物層をこの順に有するのが好ましい。本発明のプリント基板の層構成としては、例えば、伝送回路/F層/硬化物層、伝送回路/F層/硬化物層/F層/伝送回路が挙げられる。
プリント基板の製造においては、伝送回路を形成した後に、伝送回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに伝送回路を形成してもよい。層間絶縁膜は、例えば、本発明の分散液によっても形成できる。
プリント基板の製造においては、伝送回路上にソルダーレジストを積層してもよい。ソルダーレジストは、本発明の分散液によって形成できる。
プリント基板の製造においては、伝送回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。カバーレイフィルムは、本発明の分散液によっても形成できる。
【実施例
【0052】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
以下の方法よって、各種評価を行った。
<塗工層の粉落ち(その1)>
分散液が塗工乾燥され塗工層が形成された状態の金属箔を、ロール状に巻き取り、10日間保管する。その後、ロールから10m長の金属箔を繰り出し、金属箔の裏面(塗工層が形成されていない面)側に付着しているパウダー(脱離パウダー)の数を目視確認し、下記基準で評価した。
〇:脱離パウダーの数が5個未満である。
×:脱離パウダーの数が5個以上である。
<塗工層の粉落ち(その2)>
分散液が塗工乾燥され塗工層が形成された状態の金属箔の縁部を目視確認し、下記基準で評価した。
〇:欠落が確認されない。
△:一部に欠落が確認される。
×:周辺部にも欠落が拡大している。
<樹脂付銅箔の平滑性>
樹脂付銅箔のF層表面に光照射し、斜め上方から目視確認し、下記基準で評価した。
○:ゆず肌模様が確認されない。
×:ゆず肌模様が確認される。
使用した材料の、詳細と略号は以下の通りである。
【0053】
<TFE系ポリマー>
ポリマーF1:TFE単位、NAH単位及びPPVE単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含むコポリマーであり、融点300℃のポリマー。
<(メタ)アクリレート系ポリマー>
ポリマーA1:EMA単位、MMA単位及びHEMA単位を、この順に60モル%、20モル%、10モル%含む、Tgが75℃、Mwが120000のポリマー。
ポリマーA2:BMA単位からなる、Tgが25℃、Mwが25000のポリマー。
ポリマーA3:EMA単位、MMA単位及びHEMA単位を、この順に60モル%、20モル%、10モル%含む、Tgが65℃、Mwが100000のポリマー。
<液状分散媒>
NMP:N-メチルピロリドン(沸点:202℃)
【0054】
[例1]分散液の製造例
[例1-1]分散液1の製造例
国際公開第2016/017801号の段落[0123]に記載の方法で、ポリマーF1のパウダーF1(D50:2.6μm、D90:7.1μm)を得た。
パウダーF1の3209g、フッ素系分散剤(ネオス社製、フタージェント710FL)の320.9g、NMPの2888g、ポリマーA1の97.7gを横型ボールミルポットに投入し、15mm径のジルコニアボールにて分散させ、ポリマーA1のパウダーが分散した分散液1を得た。分散液1の粘度は、60rpmのときに180mPa・sであった。
【0055】
[例1-2]分散液2の製造例
フッ素系分散剤として、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFに基づく単位とCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHに基づく単位とを、この順に81モル%、19モル%含むポリマーを使用し、ポリマーA1にかえてポリマーA2を使用する以外は、例1-1と同様にして、分散液2を得た。分散液2の粘度は、60rpmのときに160mPa・sであった。
[例1-3]分散液3の製造例
ポリマーA1にかえてポリマーA3を使用する以外は、例1-1と同様にして、分散液3を得た。分散液3の粘度は、60rpmのときに150mPa・sであった。
[例1-4]分散液4の製造例
ポリマーA1にかえてポリマーA2を使用し、ポリマーF1の100質量部に対してポリマーA2の15質量部を使用する以外は、例1-1と同様にして、分散液4を得た。
なお、分散液1~3は、調製直後に銅箔の表面に塗布して、加熱すると、ポリマーF1を含むF層(厚さ5μm)を有する樹脂付銅箔を製造できた。厚さ7μm及び厚さ10μmのF層を有する樹脂付銅箔も、それぞれ問題なく製造できた。
【0056】
[例2]樹脂付金属箔の製造例(その1)
[例2-1]
分散液1を、ペイントシェイカーで1時間撹拌し、ホモミキサーで30分間、3000rpmで撹拌し、メッシュ濾過(孔径100μm)した後に、グラビアコーターに送液ラインを介して接続したタンクに入れた。タンクには撹拌翼付き撹拌装置を設置して作動させ、送液ライン中にはろ過フィルターを設置した。
搬送速度10m/分間で移動する長尺の銅箔(福田金属箔粉工業社、CF-T4X-SV、幅640mm、厚さ18μm)の粗化表面に、グラビアコーターを用いて分散液1を厚さ5μmとなるように塗布して、粗化表面にウェット膜を形成した。引き続き、長尺のウェット膜付銅箔を、通風乾燥炉に通過させて液状分散媒を揮発させて塗工層を形成させた。通風乾燥炉における条件は、100℃で1.5分間とした。
【0057】
さらに、銅箔を搬送速度5m/分間で移動させながら遠赤外線炉(ノリタケカンパニーリミテド社、ロールツーロール式NORITAKE遠赤外線。N2雰囲気炉、長さ4.7m)に通過させ、ポリマーF1を溶融焼成して、ポリマーF1を含むF層を有する長尺の樹脂付銅箔を得た。遠赤外線炉における加熱条件は、酸素ガス濃度200ppmの窒素ガス雰囲気下、370℃で1分間とした。
得られた樹脂付銅箔のF層の表面をプラズマ処理した。プラズマ処理装置としては、日放電子社製のNVC-Rシリーズ/RollVIAシステムのロールtoロール方式真空プラズマ装置を用いた。プラズマ処理条件は、出力:4.5kW、導入ガス:アルゴンガス、導入ガス流量:50cm3/分間、圧力:50mTorr(6.7Pa)、処理時間:2分間とした。
【0058】
プラズマ処理後72時間以内の樹脂付銅箔のF層の表面に、プリプレグとしてFR-4(日立化成社製、GEA-67N 0.2t(HAN)、強化繊維:ガラス繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、厚さ:0.2mm)を積層し、プレス温度:185℃、プレス圧力:3.0MPa、プレス時間:60分間の条件にて真空熱プレスをして、積層体を得た。塗工層の粉落ち(その1)、塗工層の粉落ち(その2)及び樹脂付銅箔の平滑性の評価結果は、それぞれ「〇」であった。
【0059】
[例2-2]~[例2-4]
分散液1のかわりに、分散液2、3又は(メタ)アクリレート系ポリマーが配合されていない分散液1(分散液C)を用いる以外は、例2-1と同様にして樹脂付銅箔を製造した。それぞれの樹脂付銅箔における塗工層の評価結果を、表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
[例3]樹脂付金属箔の製造例(その2)
[例3-1]
例2と同じ銅箔に、分散液2をグラビアリバース法によりロールツーロールで塗工してウェット膜を形成した。次いで、120℃にて5分間乾燥炉に通し、加熱し乾燥して、塗工層を形成した。その後、乾燥被膜を窒素オーブン下で380℃にて3分間加熱した。これにより、銅箔の表面に、ポリマーF1が溶融焼成して形成されたF層(厚さ4μm)を有する樹脂付銅箔を得た。
この樹脂付銅箔を、例2と同様にプラズマ処理し、例2と同様にプリプレグを重ね、銅箔、F層、プリプレグの硬化物層をこの順に有する、積層体を得た。この積層体は、はんだ浴に浮かべるはんだ耐熱性試験において、288℃のはんだ浴に5秒間、5回浮かべても、F層と硬化物層の界面に膨れる現象(膨れ現象)と、F層から銅箔が浮く現象(浮き現象)とが発生しなかった。
【0062】
[例3-2]
分散液2のかわりに分散液4を用いる以外は例3-1と同様にして、銅箔、F層、プリプレグの硬化物層をこの順に有する積層体を得た。
それぞれの積層体のはんだ耐熱性試験の結果を、表2にまとめて示す。なお、表中の「ポリマーA2/ポリマーF1」の値は、使用した分散液に含まれる、ポリマーF1の100質量部に対するポリマーA2の含有量(質量部)である。
【0063】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の分散液は、層(F層)形成時の粉落ちが抑制され、電気特性と表面性状に優れたTFE系ポリマーの層(F層)を有する物品を形成でき、該物品はフィルム、繊維強化フィルム、プリプレグ、樹脂付金属箔、金属張積層板、プリント基板等に使用できる。また、本発明の分散液は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、のこぎり、すべり軸受け等の材料として有用である。
【0065】
なお、2018年10月3日に出願された日本特許出願2018-188254号、2018年11月21日に出願された日本特許出願2018-218320号、及び2019年4月4日に出願された日本特許出願2019-071907号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。