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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】オロト酸誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/545 20060101AFI20231011BHJP
   A61K 31/513 20060101ALN20231011BHJP
   A61P 1/16 20060101ALN20231011BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20231011BHJP
   A61P 19/06 20060101ALN20231011BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
C07D239/545
A61K31/513
A61P1/16
A61P3/02
A61P19/06
A61P29/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020555584
(86)(22)【出願日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 JP2019043677
(87)【国際公開番号】W WO2020100712
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2018212455
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】村井 元紀
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 彰
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】特公昭43-14708(JP,B2)
【文献】特開平5-310710(JP,A)
【文献】国際公開第2018/012157(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/115069(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/066563(WO,A1)
【文献】特開2006-115729(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0156812(US,A1)
【文献】国際公開第2011/052554(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/545
A61P 1/16
A61P 3/02
A61P 19/06
A61P 29/00
A61K 31/513
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるオロト酸ハロゲン化物と、下記一般式(II)で表される化合物との縮合反応を塩基性条件下で行い、下記一般式(III)で表されるオロト酸誘導体を生成させる縮合工程と、
前記縮合工程後、中和晶析により、オロト酸の結晶を析出させて、前記オロト酸誘導体を含む液体と前記オロト酸の結晶とを分離する中和晶析工程と、
を含む、オロト酸誘導体の製造方法。
【化1】
[式中、Xはハロゲン原子であり、Aは下記一般式(A-1)又は(A-2)で表される基である。]
【化2】
[式中、Rは、水素原子又は有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に、有機基である。Rが有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。*は前記一般式(II)中の水素原子に結合する結合手である。]
【請求項2】
前記一般式(A-1)において、Rは水素原子または炭素数1~10の有機基であり、Rはカルボキシ基を有する炭素数1~15の有機基であり、
前記一般式(A-2)において、Rは炭素数1~15の有機基である、
請求項1に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(II)で表される化合物がアミノ酸である、請求項1又は2に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記アミノ酸がグルタミン酸である、請求項3に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
前記縮合工程で用いる溶媒が、非ハロゲン系溶媒である、請求項1~4のいずれか一項に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記溶媒が、含水溶媒である、請求項5に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が、有機溶媒/水の2相系溶媒である、請求項6に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記有機溶媒がテトラヒドロフラン又はトルエンである、請求項7に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項9】
前記中和晶析工程において、液相のpHを4~6とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項10】
前記中和晶析工程後、さらに、
前記オロト酸誘導体を含む液体に対して中和晶析を行い、前記オロト酸誘導体の結晶を析出させる第2の中和晶析工程、を含む、
請求項1~9のいずれか一項に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項11】
前記第2の中和晶析工程において、液相のpHを0.5~2とする、請求項10に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項12】
前記第2の中和晶析工程の後、さらに、
前記オロト酸誘導体の結晶を採取する結晶採取工程、を含む、
請求項10又は11に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項13】
前記縮合工程の前に、さらに、
オロト酸にハロゲン化チオニルを反応させて、前記オロト酸ハロゲン化物を生成させるオロト酸ハロゲン化工程、を含む、
請求項1~12のいずれか一項に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【請求項14】
前記オロト酸ハロゲン化物がオロト酸クロリドである、請求項1~13のいずれか一項に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オロト酸誘導体の製造方法に関する。
本願は、2018年11月12日に、日本に出願された特願2018-212455号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
オロト酸は、尿酸値低下作用、抗炎症作用、滋養強壮作用、肝機能促進作用などの健康の維持・増進に有効な様々な作用があることが知られる。しかしながら、オロト酸は、水やアルコールに極めて溶けにくいため、医薬品、化粧料、食品等に配合することが難しい。そのため、オロト酸が有する生理活性を維持しつつ、水溶性を向上させた、オロト酸誘導体の使用が試みられている。
【0003】
オロト酸のカルボキシ基を活性化させ、オロト酸誘導体を合成する方法としては、酸塩化物法、酸無水物法、及び活性エステル法が知られている。しかしながら、オロト酸は、工業的に使用される有機溶媒に対する溶解度が非常に低いため、低濃度で反応を行うことによる反応速度の低下等の問題が生じやすい。また、副生成物の除去のために、カラムクロマトグラフィーによる精製等が必要な場合がある。そのため、オロト酸誘導体の製造を工業的に実施することは難しい。
【0004】
特許文献1には、活性エステル化法により、オロト酸誘導体を製造する方法が記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、試薬自体の価格が高く、精製のためにカラムクロマトグラフィーを行っている。また、反応溶媒としてハロゲン系溶媒であるジクロロメタン(DCM)を用いている。そのため、工業的な実施には適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2009/076743号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、従来のオロト酸誘導体の製造方法は、工業的な実施に適した方法であるとはいえない。
そこで、本発明は、安価で、工業的に実施可能なオロト酸誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を含む。
[1]下記一般式(I)で表されるオロト酸ハロゲン化物と、下記一般式(II)で表される化合物との縮合反応を塩基性条件下で行い、下記一般式(III)で表されるオロト酸誘導体を生成させる縮合工程と、前記縮合工程後、中和晶析により、オロト酸の結晶を析出させて、前記オロト酸誘導体を含む液体と前記オロト酸の結晶とを分離する中和晶析工程と、を含む、オロト酸誘導体の製造方法。
【0008】
【化1】
[式中、Xはハロゲン原子であり、Aは下記一般式(A-1)又は(A-2)で表される基である。]
【0009】
【化2】
[式中、Rは、水素原子又は有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に、有機基である。Rが有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。*は前記一般式(II)中の水素原子に結合する結合手である。]
[2]前記一般式(A-1)において、Rは水素原子または炭素数1~10の有機基であり、Rはカルボキシ基を有する炭素数1~15の有機基であり、前記一般式(A-2)において、Rは炭素数1~15の有機基である、[1]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[3]前記一般式(II)で表される化合物がアミノ酸である、[1]又は[2]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[4]前記アミノ酸がグルタミン酸である、[3]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[5]前記縮合工程で用いる溶媒が、非ハロゲン系溶媒である、[1]~[4]のいずれかに記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[6]前記溶媒が、含水溶媒である、[5]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[7]前記溶媒が、有機溶媒/水の2相系溶媒である、[6]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[8]前記有機溶媒がテトラヒドロフラン又はトルエンである[7]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[9]前記中和晶析工程において、液相のpHを4~6とする、[1]~[8]のいずれかに記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[10]前記中和晶析工程後、さらに、前記オロト酸誘導体を含む液体に対して中和晶析を行い、前記オロト酸誘導体の結晶を析出させる第2の中和晶析工程、を含む、[1]~[9]のいずれかに記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[11]前記第2の中和晶析工程において、液相のpHを0.5~2とする、[10]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[12]前記第2の中和晶析工程の後、さらに、前記オロト酸誘導体の結晶を採取する結晶採取工程、を含む、[10]又は[11]に記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[13]前記縮合工程の前に、さらに、オロト酸にハロゲン化チオニルを反応させて、前記オロト酸ハロゲン化物を生成させるオロト酸ハロゲン化工程、を含む、[1]~[12]のいずれかに記載のオロト酸誘導体の製造方法。
[14]前記オロト酸ハロゲン化物がオロト酸クロリドである、[1]~[13]のいずれかに記載のオロト酸誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、安価で、工業的に実施可能なオロト酸誘導体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、化学式で表される構造によっては、不斉炭素が存在し、エナンチオマー(enantiomer)やジアステレオマー(diastereomer)が存在し得るものがある。その場合は一つの化学式でそれら異性体を代表して表す。それらの異性体は単独で用いてもよいし、混合物として用いてもよい。
【0012】
本明細書において、化学式で表される構造によっては、塩の形態をとり得るものがある。その場合は一つの化学式でそれら塩の形態も包含する。また、溶媒和物の形態をとり得る場合も一つの化学式でそれら溶媒和物の形態も包含する。
【0013】
本明細書において、「オロト酸誘導体」という用語は、塩の形態を包含する。塩の形態としては、無機酸塩が挙げられ、例えば、塩酸塩、硫酸塩、及び硝酸塩等が例示される。
【0014】
一実施形態において、本発明は、オロト酸誘導体の製造方法を提供する。本実施形態の製造方法は、下記一般式(I)で表されるオロト酸ハロゲン化物と、下記一般式(II)で表される化合物との縮合反応を塩基性条件下で行い、下記一般式(III)で表されるオロト酸誘導体を生成させる縮合工程と、中和晶析により、オロト酸の結晶を析出させて、前記オロト酸誘導体を含む液体と前記オロト酸の結晶とを分離する中和晶析工程と、を含む。
【0015】
【化3】
[式中、Xはハロゲン原子であり、Aは下記一般式(A-1)又は(A-2)で表される基である。]
【0016】
【化4】
[式中、Rは、水素原子又は有機基であり、R及びRは、それぞれ独立に、有機基である。Rが有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。*は前記一般式(II)中の水素原子に結合する結合手である。]
【0017】
[縮合工程]
縮合工程は、前記一般式(I)で表されるオロト酸ハロゲン化物と、前記一般式(II)で表される化合物(以下、「化合物(II)」ともいう。)との縮合反応を塩基性条件下で行い、前記一般式(III)で表されるオロト酸誘導体を生成させる工程である。
【0018】
<オロト酸ハロゲン化物:化合物(I)>
本工程で用いるオロト酸ハロゲン化物は、前記一般式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」ともいう。)である。前記一般式(I)中、Xは、ハロゲン原子を表す。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でも、塩素原子が好ましい。
【0019】
オロト酸ハロゲン化物は、公知の方法により合成することができる。オロト酸ハロゲン化物の合成方法としては、例えば、オロト酸にハロゲン化チオニルを反応させる方法等が挙げられる。オロト酸ハロゲン化物の合成方法の具体例を、後述の「(オロト酸ハロゲン化工程)」の項に記す。
【0020】
<化合物(II)>
化合物(II)は、前記一般式(II)で表される化合物である。前記一般式(II)中、Aは、前記一般式(A-1)又は(A-2)で表される基である。以下、一般式(II)中、Aが一般式(A-1)で表される基である化合物を「化合物(II-1)」とも記載する。一般式(II)中、Aが一般式(A-2)で表される基である化合物を「化合物(II-2)」とも記載する。
【0021】
(化合物(II-1))
化合物(II-1)は、前記一般式(II)中のAが、前記一般式(A-1)で表される化合物である。前記一般式(A-1)中、Rは、水素原子又は有機基である。ただし、前記一般式(A-1)で表される化合物のうち、前記化合物(I)に該当するものは除かれる。
【0022】
における有機基は、特に限定されないが、炭素数1~10であることが好ましい。そのような有機基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基が好適に例示される。前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、又は、構造中に環を含む脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
直鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素数1~5がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。分岐鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素数3~10がより好ましく、炭素数3~5がさらに好ましい。
直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基などの直鎖状アルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,1-ジエチルプロピル基、2,2-ジメチルブチル基などの分岐鎖状アルキル基;ビニル基、2-プロペニル基(アリル基)、2-ブテニル基などの直鎖状アルケニル基;1-メチルビニル基、2-メチルビニル基、1-メチルプロペニル基、2-メチルプロペニル基などの分岐鎖状アルケニル基;エチニル基、プロパルギル基、3-ペンチニル基などの直鎖状アルキニル基;1-メチルプロパルギル基などの分岐鎖状アルキニル基が挙げられる。
【0023】
における直鎖状もしくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、アルコキシ基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基等が挙げられる。
【0024】
における構造中に環を含む脂肪族炭化水素基としては、脂環式炭化水素基(脂肪族炭化水素環から水素原子1個を除いた基)、脂肪族炭化水素環の水素原子の1つがアルキレン基で置換された基等が挙げられる。前記アルキレン基の炭素数は、1~4であることが好ましい。前記脂肪族炭化水素環は、炭素数3~10が好ましく、炭素数3~6がより好ましい。
【0025】
前記脂肪族炭化水素環は、多環であってもよく、単環であってもよいが、単環であることが好ましい。
単環の脂肪族炭化水素環は、炭素数3~6が好ましい。単環の脂肪族炭化水素環としては、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
多環の脂肪族炭化水素環は、炭素数7~10が好ましい。多環の脂肪族炭化水素環としては、例えば、架橋環系の多環式骨格を有するポリシクロアルカン等が挙げられる。前記ポリシクロアルカンとしては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン等が挙げられる。
【0026】
における構造中に環を含む脂肪族炭化水素基は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。前記置換基におけるアルキル基は、炭素数1~3が好ましく、炭素数1又は2がより好ましい。前記置換基におけるアルケニル基又はアルキニル基は、炭素数2~4が好ましく、炭素数2又は3がより好ましい。
【0027】
における芳香族炭化水素基は、単環式でも多環式でもよいが、単環式が好ましい。芳香環の炭素数は、5~10が好ましく、5~8がより好ましい。
芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環;芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。芳香族複素環としては、例えば、ピロリジン環、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。
における芳香族炭化水素基としては、芳香族炭化水素環または芳香族複素環から水素原子を1つ除いた基(アリール基またはヘテロアリール基);芳香族炭化水素環または芳香族複素環の水素原子の1つがアルキレン基で置換された基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基等のアリールアルキル基など)等が挙げられる。前記の芳香族炭化水素環または芳香族複素環に結合するアルキレン基の炭素数は、1~3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0028】
における芳香族炭化水素基は、置換基を有してもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。前記置換基におけるアルキル基は、炭素数1~3が好ましく、炭素数1又は2がより好ましい。前記置換基におけるアルケニル基又はアルキニル基は、炭素数2~4が好ましく、炭素数2又は3がより好ましい。
【0029】
中でも、Rにおける有機基は、脂肪族炭化水素基が好ましく、アルキル基がより好ましく、炭素数1~5のアルキル基がさらに好ましい。
【0030】
前記一般式(A-1)中、Rは、有機基である。
における有機基は、特に限定されないが、炭素数1~15であることが好ましい。Rにおける有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~15の炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基は、置換基として、少なくとも1個のカルボキシ基を含むことが好ましい。すなわち、Rにおける有機基は、少なくとも1個のカルボキシ基を置換基として有する、炭素数1~15の炭化水素基が好ましい。前記炭化水素基としては、Rにおける有機基として挙げたものと同様のものが例示される。
【0031】
が有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。R及びRが相互に結合して形成する環構造は、環構造中に前記一般式(A-1)中の窒素原子を含む複素環である。前記複素環は、脂肪族複素環であってもよく、芳香族複素環であってもよい。前記環構造は、単環であってもよく、多環であってもよい。
【0032】
及びRが形成する環構造としての脂肪族複素環は、多環であってもよいし、単環であってもよいが、単環が好ましい。脂肪族複素環は、炭素数2~10が好ましく、炭素数3~6がより好ましい。脂肪族複素環としては、例えば、アジリジン環、アセチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピロリン環等が挙げられる。脂肪族複素環は、2個以上のヘテロ原子を含んでいてもよい。2個以上のヘテロ原子を含む脂肪族複素環としては、例えば、ピペラジン環、モルホリン環等が挙げられる。
【0033】
及びRが形成する環構造としての芳香族炭化水素環は、多環であってもよいし、単環であってもよいが、単環が好ましい。単環の芳香族複素環は、炭素数2~6が好ましい。単環の芳香族複素環としては、例えば、アジリン環、アゼト環、ピロール環、ピリジン環等が挙げられる。単環の芳香族複素環は、2個以上のヘテロ原子を含むものであってもよい。2個以上のヘテロ原子を含む単環の芳香族複素環としては、例えば、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾリン環、チアジン環、トリアゾール環、テトラゾール環、ピリミジン環、ピラジン環等が挙げられる。多環の芳香族炭化水素環としては、例えば、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キナゾリン環等が挙げられる。
【0034】
及びRが形成する環構造は、置換基を有してもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、アルコキシ基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。前記置換基におけるアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基は、炭素数1~3が好ましく、炭素数1又は2がより好ましい。
【0035】
及びRが形成する環構造としては、脂肪族複素環が好ましく、単環の脂肪族複素環がより好ましく、ピロリジン環又はピペリジン環がさらに好ましく、ピロリジン環が特に好ましい。
【0036】
化合物(II-1)は、下記一般式(II-1)で表すこともできる。
【0037】
【化5】
[式中、R及びRは、一般式(A-1)におけるものと同様である。]
【0038】
化合物(II-1)の好ましい例としては、下記一般式(II-1a)で表される化合物(以下、「化合物(II-1a))」ともいう。)が挙げられる。
【0039】
【化6】
[式中、Rは、水素原子又は有機基であり、Rは、連結基としての2価の有機基である。Rが有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。]
【0040】
前記一般式(II-1a)中、Rは、水素原子又は有機基である。Rは、前記一般式(A-1)中のRと同じである。
前記一般式(II-1a)中、Rは、2価の有機基である。Rにおける2価の有機基は、炭素数1~15が好ましく、炭素数1~12がより好ましい。
における2価の有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよいが、脂肪族炭化水素基であることが好ましい。前記脂肪族炭化水素基としては、アルキレン基が好ましく例示される。前記アルキレン基は、炭素数1~10が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましく、炭素数1又は2が特に好ましく、炭素数1が最も好ましい。
【0041】
における炭化水素基は、置換基を有してもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、アミノ基、イミノ基、メルカプト基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0042】
好ましい態様において、Rは、アルキレン基であるか、前記アルキレン基の1個以上の水素原子が置換基で置換された基である。前記置換基としては、上記に例示した基のほか、天然アミノ酸又はその誘導体の側鎖が例示される。より具体的には、Rにおけるアルキレン基の置換基としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン、並びにこれらの誘導体からなる群より選択されるアミノ酸の側鎖が好ましく例示される。ここで、「天然アミノ酸又はその誘導体の側鎖」とは、下記一般式(α)で表されるα-アミノ酸におけるRで示される基を意味する。
【0043】
【化7】
[式中、Rは、天然アミノ酸又はその誘導体の側鎖を表す。]
【0044】
が有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。R及びRが相互に結合して形成する環構造としては、前記一般式(A-1)中のR及びRが形成する環構造として挙げたものと同様のものが挙げられる。
及びRが形成する環構造としては、脂肪族複素環が好ましく、単環の脂肪族複素環がより好ましく、ピロリジン環又はピペリジン環がさらに好ましく、ピロリジン環が特に好ましい。
【0045】
化合物(II-1a)の好ましい例としては、下記一般式(II-1b)で表される化合物(以下、「化合物(II-1b))」ともいう。)が挙げられる。
【0046】
【化8】
[式中、Rは、水素原子又は有機基であり、Rは、水素原子又は有機基である。Rが有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。]
【0047】
前記一般式(II-1b)中、Rは、水素原子又は有機基である。Rは、前記一般式(A-1)中のRと同じである。
前記一般式(II-1b)中、Rは、水素原子又は有機基である。Rにおける有機基は、炭素数1~15が好ましく、炭素数1~12がより好ましく、炭素数1~10がさらに好ましい。Rにおける有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~10の炭化水素基が好ましく例示される。前記炭化水素基としては、前記一般式(A-1)中のRにおいて挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0048】
の好ましい例としては、天然アミノ酸又はその誘導体の側鎖が挙げられる。中でも、Rは、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン、並びにこれらの誘導体からなる群より選択されるアミノ酸の側鎖であることが好ましい。
【0049】
が有機基である場合、R及びRは、相互に結合して環を形成してもよい。R及びRが相互に結合して形成する環構造としては、前記一般式(A-1)中のR及びRが形成する環構造として挙げたものと同様のものが挙げられる。
及びRが形成する環構造としては、脂肪族複素環が好ましく、単環の脂肪族複素環がより好ましく、ピロリジン環又はピペリジン環がさらに好ましく、ピロリジン環が特に好ましい。
【0050】
好ましい態様において、化合物(II-1)は、アミノ酸又はイミノ酸であり、アミノ酸であることがより好ましい。より好ましい態様において、化合物(II-1)は、α-アミノ酸又はα-イミノ酸であり、α-アミノ酸であることがさらに好ましい。化合物(II-1)の好ましい具体例としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリン、並びにこれらの誘導体等が挙げられる。中でも、化合物(II-1)は、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、又はアスパラギン酸であることが好ましく、グルタミン酸であることがより好ましい。
前記アミノ酸は、L-アミノ酸であってもよく、D-アミノ酸であってもよく、それらの混合物であってもよいが、L-アミノ酸であることが好ましい。
【0051】
(化合物(II-2))
化合物(II-2)は、前記一般式(II)中のAが、前記一般式(A-2)で表される化合物である。前記一般式(A-2)中、Rは、有機基である。ただし、前記化合物(I)に該当するものは除かれる。
【0052】
における有機基は、炭素数1~15が好ましく、炭素数1~12がより好ましく、炭素数1~10がさらに好ましく、炭素数1~6が特に好ましい。Rにおける有機基としては、置換基を有していてもよい炭素数1~15の炭化水素基が挙げられる。前記炭化水素基としては、前記一般式(A-1)中のRにおいて挙げたものと同様のものが挙げられる。
における炭化水素基は、置換基を有してもよいし、有していなくてもよい。該置換基としては、ヒドロキシ基、カルボニル基、カルボキシ基、メルカプト基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0053】
における有機基は、ヒドロキシ基及びカルボキシ基からなる群より選択される官能基を少なくとも1個有することが好ましい。Rにおける有機基は、ヒドロキシ基及びカルボキシ基のいずれか一方を有するものであってもよく、ヒドロキシ基及びカルボキシ基の両方を有するものであってもよい。
【0054】
化合物(II-2)の好ましい例としては、乳酸、クエン酸、ヒドロキシクエン酸などのヒドロキシ酸類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルカンジオール類;等が挙げられる。
【0055】
化合物(II-2)は、下記一般式(II-2)で表すこともできる。
【0056】
【化9】
[式中、Rは、一般式(A-2)におけるものと同様である。]
【0057】
化合物(II)は、前記化合物(II-1)及び化合物(II-2)のいずれであってもよいが、化合物(II-1)であることが好ましい。
【0058】
<オロト酸誘導体:化合物(III)>
本工程で生成されるオロト酸誘導体は、前記一般式(III)で表される化合物(以下、「化合物(III)」ともいう。)である。前記一般式(III)中、Aは、前記一般式(A-1)又は(A-2)で表される基である。以下、一般式(III)中、Aが一般式(A-1)で表される基である化合物を「化合物(III-1)」とも記載する。一般式(III)中、Aが一般式(A-2)で表される基である化合物を「化合物(III-2)」とも記載する。
【0059】
(化合物(III-1))
【0060】
化合物(III-1)は、前記化合物(I)と前記化合物(II-1)との縮合反応により生成される化合物である。
【0061】
化合物(III-1)は、下記一般式(III-1)で表すこともできる。下記一般式(III-1)中、R及びRは、前記一般式(A-1)におけるものと同様である。
【0062】
【化10】
[式中、R及びRは、前記一般式(A-1)におけるものと同様である。]
【0063】
化合物(III-1)の好ましい例としては、下記一般式(III-1a)で表される化合物(以下、「化合物(III-1a)」ともいう。)が挙げられる。
【0064】
【化11】
[式中、R及びRは、前記一般式(II-1a)におけるものと同様である。]
【0065】
化合物(III-1a)は、前記化合物(I)と前記化合物(II-1a)との縮合反応により生成される化合物である。一般式(III-1a)中、R及びRは、上記一般式(II-1a)におけるものと同様である。
【0066】
化合物(III-1a)の好ましい例としては、下記一般式(III-1b)で表される化合物(以下、「化合物(III-1b)」ともいう。)が挙げられる。
【0067】
【化12】
[式中、R及びRは、前記一般式(II-1b)におけるものと同様である。]
【0068】
化合物(III-1b)は、前記化合物(I)と前記化合物(II-1b)との縮合反応により生成される化合物である。一般式(III-1b)中、R及びRは、前記一般式(II-1b)におけるものと同様である。
【0069】
(化合物(III-2))
化合物(III-2)は、前記化合物(I)と前記化合物(II-2)との縮合反応により生成される化合物である。
【0070】
化合物(III-2)は、下記一般式(III-2)で表すことができる。下記一般式(III-2)中、Rは、前記一般式(A-2)におけるものと同様である。
【0071】
【化13】
[式中、Rは、前記一般式(A-2)におけるものと同様である。]
【0072】
<縮合反応>
化合物(I)と化合物(II)との縮合反応は、ショッテン・バウマン反応等の公知の方法により行うことができる。縮合反応は、例えば、化合物(I)及び化合物(II)を適切な溶媒に溶解して混合し、塩基性条件下で反応させることにより、行うことができる。
【0073】
縮合反応に用いる溶媒は、特に限定されないが、工業上の利用しやすさの観点から、非ハロゲン系溶媒であることが好ましく、含水溶媒であることがより好ましい。非ハロゲン系溶媒とは、ハロゲン原子を含まない溶媒を意味する。含水溶媒とは、水を含む溶媒を意味する。前記含水溶媒は、水を含む溶媒であればよく、水のみであってもよく、有機溶媒/水の2相系溶媒であってもよい。
有機溶媒/水の2相系溶媒に用いる有機溶媒は、特に限定されないが、酸ハロゲン化物と反応する官能基(ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基など)を有さない有機溶媒であることが好ましい。そのような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、アニソール、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒;等が挙げられる。
中でも、化合物(III)の収率が向上する観点から、有機溶媒/水の2相系溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒は、酸ハロゲン化物の分解抑制に有効である。水は、指定pHの維持が容易であり、pH応答性が良いため、反応原料及び目的物の溶解度を確保しやすい。このことから、有機溶媒/水の2相系溶媒は、反応の進行を促進し、反応の進行に伴い副生する酸の中和(系外除去)が容易に進行しやすい系であると推定される。有機溶媒/水の2相系溶媒としては、トルエン/水の2相系溶媒又はテトラヒドロフラン/水の2相系溶媒を用いることがより好ましく、テトラヒドロフラン/水の2相系溶媒を用いることがさらに好ましい。トルエン/水の2相系溶媒を用いた場合には、液液分離が容易であり操作性に優れる。
前記有機溶媒/水の2相系溶媒における有機溶媒と水との混合比は、特に限定されないが、例えば、水:有機溶媒(質量比)=1:0.5~1:10とすることができる。前記混合比は、好ましくは水:有機溶媒(質量比)=1:1~1:5、より好ましくは水:有機溶媒(質量比)=1:1~1:3、特に好ましくは水:有機溶媒(質量比)=1:2である。
有機溶媒/水の2相系溶媒に用いる有機溶媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
塩基性条件とするために、塩基を用いて反応液を塩基性にすることができる。反応液を塩基性にするために用いる塩基は、特に限定されず、有機塩基又は無機塩基を用いることができるが、好ましくは無機塩基である。有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。無機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられ、好ましくは水酸化ナトリウムである。また、縮合反応を促進するために、反応液にN,N-ジメチル-4-アミノピリジンを少量添加してもよい。
【0075】
縮合反応における反応温度は、5℃以下であることが好ましい。縮合反応中の温度条件は、例えば、0~5℃とすることができる。
縮合反応におけるpH(2相系溶媒を用いる場合は、懸濁液のpH)は、塩基性条件であればよい。縮合反応中のpHは、例えば、pH8~13に維持することが好ましく、pH10~12に維持することがより好ましい。
縮合反応における圧力条件は、特に限定されないが、好ましくは常圧である。
縮合反応の反応時間は、特に限定されず、化合物(I)及び化合物(II)の量に応じて適宜設定可能であるが、例えば、30~180分程度とすることができる。
縮合反応中は、反応の促進のため、反応液の撹拌を行うことが好ましい。撹拌羽根の形状や回転数などは特に限定されないが、反応液中に存在する結晶が、液中に均等に混合している状態となっていることが好ましい。
縮合反応には、グラスライニング反応器を用いることができる。金属容器は溶出するため、本反応の反応容器としては適さない。
【0076】
縮合反応における反応開始時の反応液中の化合物(I)(オロト酸ハロゲン化物)の濃度は、1~13質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。オロト酸ハロゲン化物の濃度が前記下限値以上であると、工業的な生産性が良好であり、前記上限値以下であると、副反応の増加による収率低下を防ぐことができる。
縮合反応における反応開始時の反応液中の化合物(I)(オロト酸ハロゲン化物)と化合物(II)との濃度比(モル比)は、化合物(II)/化合物(I)=1~3であることが好ましく、化合物(II)/化合物(I)=1~2であることがより好ましい。前記濃度比が前記下限値以上であると、原料回収の負荷を低減でき、前記上限値以下であると、精製の負荷を低減できる。
オロト酸ハロゲン化物の反応器への添加方法は特に限定されず、一括で添加してもよく、分割して少量ずつ添加してもよい。
【0077】
化合物(I)と化合物(II)との縮合反応を以下に示す。
【0078】
【化14】
[式中、X及びAは、上記と同様である。]
【0079】
[中和晶析工程]
中和晶析工程は、中和晶析により、オロト酸の結晶を析出させて、前記オロト酸誘導体を含む液体と前記オロト酸の結晶とを分離する工程である。本工程は、前記縮合工程の後に行われる。
【0080】
前記縮合工程において、化合物(II)と反応しなかったオロト酸ハロゲン化物(化合物(I))は、オロト酸に加水分解される。そのため、前記縮合工程後の反応液には、オロト酸とオロト酸誘導体(化合物(III))とが混在している。本工程により、前記のようなオロト酸とオロト酸誘導体との混合液から、オロト酸を選択的に析出させることができる。
【0081】
中和晶析は、前記縮合工程後の反応液に対して行うことができる。あるいは、前記縮合工程において、有機溶媒/水の2相系溶媒を用いた場合には、縮合工程後に、有機溶媒と水とを分離して得られた水相に対して、中和晶析を行ってもよい。あるいは、縮合工程後、他の任意の処理を行った後のオロト酸及びオロト酸誘導体を含む液体であってもよい。
縮合工程に有機溶媒/水の2相系溶媒を用いた場合、縮合工程後に、有機溶媒と水とを分離する方法は、特に限定されない。有機溶媒と水とを分離する方法としては、例えば、有機溶媒の留去による分離、液液分離等が挙げられる。有機溶媒と水とが均一に混合している場合には、有機溶媒の留去により有機溶媒と水とを分離することができ、有機溶媒と水が相分離している場合には、液液分離により有機溶媒と水とを分離することができる。有機溶媒としてテトラヒドロフランを用いた場合には有機溶媒の留去による分離が好ましく、有機溶媒としてトルエンを用いた場合には液液分離が好ましい。液液分離を行った場合は、目的物の溶解度を加味して、その後に留去(濃縮)を行ってもよい。
【0082】
中和晶析は、常法により行えばよく、オロト酸及びオロト酸誘導体を含む対象の液体に、少しずつ酸を添加してpHを低下させることにより行うことができる。中和晶析に用いる酸は、特に限定されないが、無機酸が好ましい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、好ましくは塩酸である。
中和晶析は、液相のpHが4~6程度になるまで行うことが好ましく、pH4.5~6程度になるまで行うことがより好ましく、pH4.5~5.5程度になるまで行うことがさらに好ましい。pHが4を下回ると、オロト酸誘導体も析出してしまうおそれがある。
中和晶析を行う温度は、特に限定されないが、例えば15~50℃の範囲とすることができる。中和晶析を行う温度が前記下限値以上であると、不純物が析出しにくく、前記上限値以下であると、回収率の悪化を防ぐことができる。
【0083】
本工程により、オロト酸とオロト酸誘導体とが混在する液体組成物から、オロト酸を選択的に析出させることができる。析出したオロト酸の結晶は、濾過等により除去することができる。これにより、析出したオロト酸の結晶と、オロト酸誘導体を含む液体と、を分離することができる。濾過には、市販の濾過用フィルター等を用いることができる。これにより、カラムクロマトグラフィー等を行うことなく、濾液中のオロト酸誘導体の純度を向上させることができる。したがって、オロト酸誘導体を高純度で含む液体を得ることができる。
【0084】
[他の工程]
本実施形態の製造方法は、前記縮合工程及び中和晶析工程に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、中和晶析によりオロト酸誘導体の結晶を析出させる第2の中和晶析工程、オロト酸誘導体の結晶を採取する結晶採取工程、オロト酸ハロゲン化物を合成するオロト酸ハロゲン化工程、等が挙げられる。
【0085】
(第2の中和晶析工程)
第2の中和晶析工程は、前記中和晶析工程で得たオロト酸誘導体を含む液体に対して中和晶析を行い、オロト酸誘導体の結晶を析出させる工程である。
本工程における中和晶析も、常法により行えばよく、無機酸を用いることが好ましい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられ、好ましくは塩酸である。
本工程における中和晶析は、液相のpHが0.5~2程度になるまで行うことが好ましく、pH0.5~1.5程度になるまで行うことがより好ましく、pH0.8~1.2程度になるまで行うことがさらに好ましい。
本工程により、オロト酸誘導体を含む液体から、オロト酸誘導体を選択的に析出させることができる。得られたオロト酸誘導体は、前記液体の酸性化に使用した酸の塩として取得される。オロト酸誘導体の塩は、当量の塩基性化合物を使用して中和することで遊離のオロト酸誘導体とすることができる。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、リン酸ナトリウム塩、リン酸カリウム塩、アンモニアなどが使用できる。
【0086】
(結晶採取工程)
結晶採取工程は、前記第2の中和晶析工程の後に、オロト酸誘導体の結晶を採取する工程である。
オロト酸誘導体の結晶の採取は、例えば、濾過等により行うことができる。濾過には、市販の濾過用フィルター等を用いることができる。
【0087】
(オロト酸ハロゲン化工程)
オロト酸ハロゲン化工程は、オロト酸をハロゲン化して、前記縮合反応の原料である一般式(I)で表されるオロト酸ハロゲン化物を得る工程である。オロト酸のハロゲン化は、公知の方法により行うことができる。例えば、オロト酸にハロゲン化チオニル(SOX;Xはハロゲン原子)等の求電子的ハロゲン化剤を反応させることにより、オロト酸ハロゲン化物を得ることができる。当該工程は、オロト酸をトルエン等の溶媒に溶解し、触媒量のN,N-ジメチルホルムアミドの存在下で行うことが好ましい。反応温度は、例えば、50~90℃とすることができる。当該反応には、グラスライニング反応器を用いることが好ましい。金属容器は溶出するため、本反応の反応容器としては適さない。
オロト酸のハロゲン化反応における反応開始時の反応液中のオロト酸の濃度は、5~20質量%であることが好ましく、10~15質量%であることがより好ましい。オロト酸の濃度が前記下限値以上であると、工業的な生産性が良好であり、前記上限値以下であると、副反応の増加による収率低下を防ぐことができる。
オロト酸のハロゲン化反応は、空気中で行ってもよく、窒素ガス雰囲気下で行ってもよい。好ましくは、空気中で反応を行う。
以下に、オロト酸(1)及びハロゲン化チオニル(2)から、オロト酸ハロゲン化物(3)を生成する反応を示す。下記式中、Xはハロゲン原子を表す。
【0088】
【化15】
【0089】
本実施形態の製造方法は、上記工程のほか、洗浄工程、減圧乾燥工程等、化学物質の精製方法として常用される工程を、特に制限なく含み得る。
【0090】
本実施形態の製造方法によれば、カラムクロマトグラフィー等を行うことなく、簡易な方法で、オロト酸とオロト酸誘導体とを分離することができる。そのため、精製度の高いオロト酸誘導体を得ることができる。さらに、本実施形態の製造方法は、比較的安価な試薬を用いて行うことができる。
そのため、本実施形態の製造方法は、低コストでオロト酸誘導体を工業的に生産する方法として有用である。
【実施例
【0091】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[分析方法]
オロト酸誘導体の合成検討には、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)による分析を用いた。分析に用いたHPLC条件を、以下に示す。
<HPLC分析条件>
カラム:Shodex(登録商標) RSpak NN814(昭和電工社製)×2本
カラム温度:40℃
溶離液:液中濃度として、リン酸0.1w/v%、リン酸二水素一カリウムを8mMで含むように調整した水溶液
溶離液の流速:1.5mL/min
サンプル注入量:20μL
検出器:UV検出器(230nm)
【0093】
<オロト酸クロリドの合成>
(合成例1)
ジムロート冷却管、テフロン(登録商標)製撹拌翼、滴下ロート、及び温度計をセットした四ツ口フラスコに、オロト酸(7.8g、Alfa Aesar社)、トルエン(34g、純正化学株式会社)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、1.0g、純正化学株式会社)を入れ、数分間撹拌した。その後、塩化チオニル(SOCl、8.9g、1.5当量対オロト酸モル数、東京化成株式会社)を、滴下ロートを用いて10分間かけて添加した。前記四ツ口フラスコをオイルバスに浸し、撹拌しながら約80℃で維持した。約80℃となった時点から5時間後に、前記四ツ口フラスコ中の反応液200μLをサンプリングした。サンプリングした反応液を脱水メタノール3mLに添加して軽く攪拌した後、10分間程度放置した。その後、サンプリング反応液中のオロト酸メチルエステルをHPLCにより分析した。前記オロト酸メチルエステルの分析値から算出したオロト酸基準でのオロト酸クロリドの収率は、93%であった。
次いで、前記四ツ口フラスコ中の反応液を室温(約25℃)まで冷却し、桐山ロート(登録商標)を用いて濾過することにより、反応液中に析出した結晶を取得した。濾紙上に得られた結晶は、結晶重量の約8倍重量のトルエンで洗浄した後、室温、約3kPaで1時間程度乾燥し、溶剤を除去した。取得したオロト酸クロリドは、7.2gであった。
【0094】
<縮合反応>
(実施例1)
≪水を反応溶媒とするオロト酸クロリドとグルタミン酸の縮合反応≫
テフロン(登録商標)製撹拌翼、及び温度計をセットした200mLの四ツ口フラスコに、イオン交換水(100g)、グルタミン酸ナトリウム・1水和物(3.4g、2当量対オロト酸クロリド)、及び48%水酸化ナトリウム水溶液(3.4g、4当量対オロト酸クロリド)を入れた。液温が5℃以下に保たれるように氷冷した前記四ツ口フラスコに、合成例1と同様の方法で合成したオロト酸クロリド(1.8g)と48%水酸化ナトリウム水溶液(1.9g)とを5回分に分割してそれぞれを交互に添加した。添加後、反応液を5℃以下で1時間攪拌した。このときの反応液のpHは、11.3であった。この反応液の一部をサンプリングし、サンプリング反応液中のN-オロチニルグルタミン酸をHPLCにより分析した。前記分析値から算出したオロト酸クロリド基準でのN-オロチニルグルタミン酸の収率は、79%であった。
【0095】
(実施例2)
≪有機溶剤、水混合系でのオロト酸クロリドとグルタミン酸の縮合反応≫
テフロン(登録商標)製撹拌翼、pH計、及び温度計をセットした300mLの四ツ口フラスコに、トルエンとイオン交換水とを2対1の質量比で混合した溶液(200g)、グルタミン酸ナトリウム・1水和物(4.1g、1.2当量対オロト酸クロリド)、及び48%水酸化ナトリウム水溶液(4.1g、2.4当量対オロト酸クロリド)を入れた。液温が5℃以下に保たれるように氷冷した前記四ツ口フラスコに、合成例1と同様の方法で合成したオロト酸クロリド(3.6g)を少量ずつ添加した。オロト酸クロリドの添加中及び反応中に、pH計で反応液(懸濁状態)のpHをモニタリングし、pH11.6を維持するように、供給ポンプにより48%水酸化ナトリウム水溶液を自動的に供給した。反応終了後までに反応液に供給した48%水酸化ナトリウム水溶液は、4.0gであった。オロト酸クロリドの添加後、反応液を5℃以下で1時間攪拌した。次いで、反応液の一部をサンプリングし、サンプリング反応液中のN-オロチニルグルタミン酸をHPLCにより分析した。前記分析値から算出したオロト酸クロリド基準でのN-オロチニルグルタミン酸の収率は、75%であった。
反応終了後、反応液を分液ロートに移し、トルエンを含む有機層と水層とに分離した。
【0096】
(実施例3)
≪有機溶剤、水混合系でのオロト酸クロリドとグルタミン酸の縮合反応≫
テフロン(登録商標)製撹拌翼、pH計、及び温度計をセットした300mLの四ツ口フラスコに、テトラヒドロフランとイオン交換水とを2対1の質量比で混合した溶液(200g)、グルタミン酸ナトリウム・1水和物(4.1g、1.2当量対オロト酸クロリド)、及び48%水酸化ナトリウム水溶液(4.1g、2.4当量対オロト酸クロリド)を入れた。液温が5℃以下に保たれるように氷冷した前記四ツ口フラスコに、合成例1と同様の方法で合成したオロト酸クロリド(3.6g)を少量ずつ添加した。オロト酸クロリドの添加中及び反応中に、pH計で反応液のpHをモニタリングし、pH11.9を維持するように、供給ポンプにより48%水酸化ナトリウム水溶液を自動的に供給した。反応終了後までに反応液に供給した48%水酸化ナトリウム水溶液は、4.2gであった。オロト酸クロリドの添加後、反応液を5℃以下で1時間攪拌した。次いで、反応液の一部をサンプリングし、サンプリング反応液中のN-オロチニルグルタミン酸をHPLCにより分析した。前記分析値から算出したオロト酸クロリド基準でのN-オロチニルグルタミン酸の収率は、89%であった。
【0097】
<晶析>
(実施例4)
実施例2と同様の方法で合成したN-オロチニルグルタミン酸2.0g、及びオロト酸0.4gを含む水層55gに、36%塩酸を添加してpH5とした。pHの変化により析出したオロト酸の結晶をフィルター濾過により除去し、濾液を取得した。得られた濾液に36%塩酸を添加してpH1とすることにより、N-オロチニルグルタミン酸塩酸塩の結晶を析出させた。この液中の結晶をフィルター濾過により取得し、約10gの冷水で洗浄した。
この操作により回収されたオロチニルグルタミン酸の回収率は33%であり、オロト酸の除去率は99%であった。取得結晶中のオロチニルグルタミン酸塩酸塩に対するオロト酸の比率(質量比)は、0.7%であった。
【0098】
(比較例1)
実施例2と同様の方法で合成したN-オロチニルグルタミン酸2.0g、及びオロト酸0.35gを含む水層106gをフィルター濾過し、濾液を取得した。得られた濾液を減圧下で20gとなるまで濃縮し、結晶を析出させた。この液中の結晶をフィルター濾過により取得し、約10gの冷水で洗浄した。
この操作により回収されたオロチニルグルタミン酸は、塩酸塩であった。回収率は58%であり、オロト酸の除去率は68%であった。取得結晶中のオロチニルグルタミン酸塩酸塩に対するオロト酸の比率(質量比)は、8.6%であった。
【0099】
(比較例2)
実施例2と同様の方法でN-オロチニルグルタミン酸を合成し、実施例4と同様の方法で回収したN-オロチニルグルタミン酸塩酸塩の結晶を使用して、N-オロチニルグルタミン酸を5w/w%で含む水溶液を調製した。前記溶液100gに、エタノール、メタノール、イソプロパノール、アセトン、及びTHFをそれぞれ添加して貧溶媒晶析を行った。いずれの溶媒を用いて貧溶媒晶析を行った場合でも、溶液はゼリー状となり、オロチニルグルタミン酸の結晶を分離することは困難であった。
【0100】
(比較例3)
実施例2と同様の方法でN-オロチニルグルタミン酸を合成し、実施例4と同様の方法で回収したN-オロチニルグルタミン酸塩酸塩の結晶を使用して、オロチニルグルタミン酸を10w/w%で含むスラリー液(分散媒:水)を調製した。前記スラリー液100gを80℃に加温して、N-オロチニルグルタミン酸の結晶を溶解した。この溶液を徐々に冷却した。冷却に伴って、液の性状はゼリー状となり、オロチニルグルタミン酸の結晶を分離することは困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明により、安価で工業的に実施可能なオロト酸誘導体の製造方法が提供される。