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特許7363812ポリマー、ポリマーの製造方法及び膜の製造方法
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  • 特許-ポリマー、ポリマーの製造方法及び膜の製造方法 図1
  • 特許-ポリマー、ポリマーの製造方法及び膜の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ポリマー、ポリマーの製造方法及び膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/48 20060101AFI20231011BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231011BHJP
   C25B 13/08 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08F8/48
C08J5/18 CER
C25B13/08 302
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020561464
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2019049455
(87)【国際公開番号】W WO2020129991
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018237168
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平居 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】上牟田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】民辻 慎哉
(72)【発明者】
【氏名】奥山 匠
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-241344(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013533(WO,A1)
【文献】国際公開第2003/106515(WO,A1)
【文献】特開2012-107219(JP,A)
【文献】特開2008-230990(JP,A)
【文献】国際公開第2006/106960(WO,A1)
【文献】applied sciences,2012年,Vol.2,No.2,p.327-341
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 8/48
C08J 5/18
C25B 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式u1-1で表される単位及び下式u1-2で表される単位のいずれか一方又は両方を有する、ポリマー。
【化1】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、mは0又は1であり、Xは、水素原子、アルカリ金属、フッ素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、アンモニウム又はホスホニウムである。
【請求項2】
テトラフルオロエチレンに基づく単位をさらに有する、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリマーと、液状媒体とを含む、液状組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のポリマーを含む、膜。
【請求項5】
補強材をさらに含む、請求項4に記載の膜。
【請求項6】
請求項3に記載の液状組成物を基材に塗布するか又は補強材に含浸し、乾燥させる、膜の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のポリマーを含む、固体高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のポリマーと触媒とを含む、触媒層。
【請求項9】
触媒層を有するアノードと、
触媒層を有するカソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と
を備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、
前記カソードの触媒層、前記アノードの触媒層及び前記固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、請求項1又は2に記載のポリマーを含む、膜電極接合体。
【請求項10】
請求項9に記載の膜電極接合体を備えた、固体高分子形燃料電池。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のポリマーを含む、塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のポリマーを含む、水電解用イオン交換膜。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のポリマーを含む、レドックスフロー二次電池用隔膜。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のポリマーを含む、電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜。
【請求項15】
下式u2で表される単位を有するポリマーFとアンモニアとを反応させて、下式u1aで表される単位を有するポリマーIaを得る、ポリマーの製造方法。
【化2】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Qは-O-又は-(O)(O)-であり、Rは、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、mは0又は1であり、nは0又は1である。
【請求項16】
請求項15に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIaとプロトン酸とを反応させて、下式u1bで表される単位を有するポリマーIbを得る、ポリマーの製造方法。
【化3】
【請求項17】
請求項15に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIa又は請求項16に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIbとアルカリ金属塩とを反応させて、下式u1cで表される単位を有するポリマーIcを得る、ポリマーの製造方法。
【化4】
ただし、Mは、アルカリ金属である。
【化5】
ただし、Mは、アルカリ金属である。
【請求項18】
請求項16に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIb又は請求項17に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIcと分子状フッ素とを反応させて下式u1dで表される単位を有するポリマーIdを得る、ポリマーの製造方法。
【化6】
【化7】
【請求項19】
請求項16に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIbとR10基を有するアルキル化剤とを反応させて下式u1eで表される単位を有するポリマーIeを得る、ポリマーの製造方法。
【化8】
ただし、R10は、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
【請求項20】
請求項16に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIbと下式11で表される化合物とを反応させて下式u1fで表される単位を有するポリマーIfを得る、ポリマーの製造方法。
[Z(R11)(R12)(R13)(R14)](A)k- 式11
【化9】
ただし、Zは、窒素原子又はリン原子であり、R11~R14は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、R11とR12は環を形成してもよく、Aは、k価のアニオンであり、kは、1又は2である。
【請求項21】
請求項19に記載のポリマーの製造方法によって得られた前記ポリマーIeと下式12で表される化合物とを反応させて下式u1gで表される単位を有するポリマーIgを得る、ポリマーの製造方法。
Z(R11)(R12)(R13) 式12
【化10】
ただし、Zは、窒素原子又はリン原子であり、R11~R13は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、R11とR12は環を形成してもよい。
【請求項22】
前記Qが、-CFO-、-ORF3(O)-(ただし、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。)又は-O-である、請求項15~21のいずれか一項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項23】
前記ポリマーFが、テトラフルオロエチレンに基づく単位をさらに有する、請求項15~22のいずれか一項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項24】
下式u2で表される単位を有するポリマーFを膜状に押出成形した後、前記ポリマーFとアンモニアとを反応させて下式u1aで表される単位を有するポリマーIaを含む膜を得る、膜の製造方法。
【化11】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Qは、-O-又は-(O)(O)-であり、Rは、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、mは、0又は1であり、nは、0又は1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー、ポリマーの製造方法及び膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペンダント基に環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格を有するポリマーとしては、下式(5.4)で表されるイミドモノマーに基づく単位を有するポリマーが開示されている(特許文献1)。
【0003】
【化1】
【0004】
ただし、Xは、水素原子、アルカリ金属、又は1,3-ジスルホンイミドと塩を形成するカチオンである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-241344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、式(5.4)のイミドモノマーの合成方法及びイミドモノマーを用いたポリマーの製造方法、すなわちポリマーの主鎖と環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格とを結ぶ連結基が-O-であるポリマーの製造方法は記載されている。しかし、ポリマーの主鎖と環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格とを結ぶ連結基が-O-以外である、例えば連結基がエーテル性酸素原子を有してもよいフルオロアルキレン基であるポリマーについては、特許文献1の記載及び本願の出願時の技術常識に基づいて、当業者がそのポリマーを作れることが明らかでない。
【0007】
本発明の一態様は、ポリマーの主鎖と環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格とを結ぶ連結基がエーテル性酸素原子を有してもよいフルオロアルキレン基であるポリマーを提供する。
また、本発明の他の態様は、ペンダント基に環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格を有するポリマーの新たな製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
<1>下式u1-1で表される単位及び下式u1-2で表される単位のいずれか一方又は両方を有する、ポリマー。
【化2】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、mは、0又は1であり、Xは、水素原子、アルカリ金属、フッ素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、アンモニウム又はホスホニウムである。
<2>テトラフルオロエチレンに基づく単位をさらに有する、上記<1>のポリマー。
<3>上記<1>又は<2>のポリマーと、液状媒体とを含む、液状組成物。
<4>上記<1>又は<2>のポリマーを含む、膜。
<5>補強材をさらに含む、上記<4>の膜。
<6>上記<3>の液状組成物を基材に塗布するか又は補強材に含浸し、乾燥させる、膜の製造方法。
<7>上記<1>又は<2>のポリマーを含む、固体高分子電解質膜。
<8>上記<1>又は<2>のポリマーと触媒とを含む、触媒層。
<9>触媒層を有するアノードと、
触媒層を有するカソードと、
上記アノードと上記カソードとの間に配置された固体高分子電解質膜と
を備えた固体高分子形燃料電池用膜電極接合体であって、
上記カソードの触媒層、上記アノードの触媒層及び上記固体高分子電解質膜からなる群から選ばれる少なくとも1つが、上記<1>又は<2>のポリマーを含む、膜電極接合体。
<10>上記<9>の膜電極接合体を備えた、固体高分子形燃料電池。
<11>上記<1>又は<2>のポリマーを含む、塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜。
<12>上記<1>又は<2>のポリマーを含む、水電解用イオン交換膜。
<13>上記<1>又は<2>のポリマーを含む、レドックスフロー二次電池用隔膜。
<14>上記<1>又は<2>のポリマーを含む、電気化学的水素ポンプ用イオン交換。
<15>下式u2で表される単位を有するポリマーFとアンモニアとを反応させて、下式u1aで表される単位を有するポリマーIaを得る、ポリマーの製造方法。
【化3】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Qは-O-又は-(O)(O)-であり、Rは、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、mは0又は1であり、nは0又は1である。
<16>上記<15>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIaとプロトン酸とを反応させて、下式u1bで表される単位を有するポリマーIbを得る、ポリマーの製造方法。
【化4】
<17>上記<15>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIa又は上記<16>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIbとアルカリ金属塩とを反応させて、下式u1cで表される単位を有するポリマーIcを得る、ポリマーの製造方法。
【化5】
ただし、Mは、アルカリ金属である。
【化6】
ただし、Mは、アルカリ金属である。
<18>上記<16>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIb又は上記<17>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIcと分子状フッ素とを反応させて下式u1dで表される単位を有するポリマーIdを得る、ポリマーの製造方法。
【化7】
【化8】
<19>上記<16>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIbとR10基を有するアルキル化剤とを反応させて下式u1eで表される単位を有するポリマーIeを得る、ポリマーの製造方法。
【化9】
ただし、R10は、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基である。
<20>上記<16>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIbと下式11で表される化合物とを反応させて下式u1fで表される単位を有するポリマーIfを得る、ポリマーの製造方法。
[Z(R11)(R12)(R13)(R14)](A)k- 式11
【化10】
ただし、Zは、窒素原子又はリン原子であり、R11~R14は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、R11とR12は環を形成してもよく、Aは、k価のアニオンであり、kは、1又は2である。
<21>上記<19>のポリマーの製造方法によって得られた上記ポリマーIeと下式12で表される化合物とを反応させて下式u1gで表される単位を有するポリマーIgを得る、ポリマーの製造方法。
Z(R11)(R12)(R13) 式12
【化11】
ただし、Zは、窒素原子又はリン原子であり、R11~R13は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、R11とR12は環を形成してもよい。
<22>上記Qが、-CFO-、-ORF3(O)-(ただし、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基である。)又は-O-である、上記<15>~<21>のいずれかのポリマーの製造方法。
<23>上記ポリマーFが、テトラフルオロエチレンに基づく単位をさらに有する、上記<15>~<22>のいずれかのポリマーの製造方法。
<24>下式u2で表される単位を有するポリマーFを膜状に押出成形した後、上記ポリマーFとアンモニアとを反応させて下式u1aで表される単位を有するポリマーIaを含む膜を得る、膜の製造方法。
【化12】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、Qは、-O-又は-(O)(O)-であり、Rは、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、mは、0又は1であり、nは、0又は1である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、ポリマーの主鎖と環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格とを結ぶ連結基がエーテル性酸素原子を有してもよいフルオロアルキレン基であるポリマーを新たに提供できる。
また、本発明の他の態様によれば、ペンダント基に環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格を有するポリマーの新たな製造方法を提供できる。
この新規ポリマーによれば、イオン伝導性に優れた電解質材料を提供でき、燃料電池、塩化アルカリ電解、水電解、レドックスフロー二次電池、電気化学的水素ポンプ、リチウムイオン電池、ナトリウムイオン電池等のエネルギーデバイスのエネルギー効率や出力密度を向上できる。また、酸強度の強い固体超強酸材料を提供でき、固体酸触媒の触媒効率を向上できる。また、帯電防止効果に優れた材料を提供でき、ディスプレイ等の光学部材や電子線リソグラフィー等のエレクトロニクス部材に適用可能な帯電防止フィルムや帯電防止コーティングの帯電防止効果や耐久性を向上できる。また、ガス分離の選択性に優れたポリマーを提供でき、ガス分離膜や気液分離膜の分離選択性を向上できる。また、N-F結合を有する安定ポリマーを提供でき、有機化合物や無機化合物のフッ素化試薬として用いたときの反応液からの分離性やリサイクル性に優れた固相フッ素化剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の膜電極接合体の一例を示す模式断面図である。
図2】本発明の膜電極接合体の他の例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書においては、式11で表される化合物を、化合物11と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
本明細書においては、式u1-1で表される単位を、単位u1-1と記す。他の式で表される構成単位も同様に記す。
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「モノマーに基づく単位」は、モノマー1分子が重合して直接形成される原子団と、該原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「プロトン酸」とは、Hを供給する酸である。
ポリマーの「容量流速値」は、実施例に記載の方法によって求める。本明細書においては、容量流速値を「TQ値」と記す。
ポリマーの「ガラス転移温度」(以下、「Tg」と記す。)は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「軟化温度」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「イオン交換容量」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「含水率」は、実施例に記載の方法によって求める。
ポリマーの「水素ガス透過係数」は、ポリマーからなる膜を80℃とし、等圧法により10%加湿の水素ガス透過量を測定し、透過量を膜の厚さで割って求められる値である。
【0012】
<ポリマーI-1>
本発明の一態様は、ペンダント基に環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格を有するポリマー(以下、「ポリマーI」とも記す。)のうち、単位u1-1及び単位u1-2のいずれか一方又は両方を有するポリマー(以下、「ポリマーI-1」とも記す。)を提供する。
【0013】
【化13】
【0014】
ただし、RF1及びRF2は、それぞれ独立に炭素数1~3のペルフルオロアルキレン基であり、RF3は、炭素数1~6のペルフルオロアルキレン基であり、mは、0又は1であり、Xは、水素原子、アルカリ金属、フッ素原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基、アンモニウム又はホスホニウムである。RF1及びRF2は同一であっても異なっていてもよい。
【0015】
F1及びRF2としては、例えば-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CFCF)-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-C(CF)(CF)-が挙げられる。原料がより安価であり、原料のモノマーの製造が容易であり、また、ポリマーI-1のイオン交換容量をより高くできる点から、RF1及びRF2は、炭素数1~2のペルフルオロアルキレン基であることが好ましく、また直鎖のペルフルオロアルキレン基であることが好ましい。具体的には、-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-が好ましく、-CF-がより好ましい。
【0016】
F3としては、例えば-CF-、-CFCF-、-CF(CF)-、-CFCFCF-、-CF(CFCF)-、-CF(CF)CF-、-CFCF(CF)-、-C(CF)(CF)-、-CFCF(CF)OCFCF(CF)-が挙げられる。原料がより安価であり、原料のモノマーの製造が容易であり、また、ポリマーI-1のイオン交換容量をより高くできる点から、RF3は、炭素数1~3が好ましい。具体的には、-CF-、-CFCF-、-CFCF(CF)-が好ましく、-CFCF(CF)-がより好ましい。
【0017】
Xのアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられる。
Xの炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基としては、後述するポリマーIeにおけるR10と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
アンモニウム又はホスホニウムとしては、後述する化合物11のカチオン部分と同様のものが挙げられ、好ましい態様も同様である。
【0018】
単位u1-1としては、例えば、単位u1-1-1が挙げられる。
【0019】
【化14】
【0020】
単位u1-2としては、例えば、単位u1-2-1、単位u1-2-2、単位u1-2-3が挙げられる。
【0021】
【化15】
【0022】
ポリマーI-1は、テトラフルオロエチレン(以下、「TFE」とも記す。)に基づく単位をさらに有することが好ましい。TFEはポリマーの疎水性を高める効果を有するため、ポリマーI-1が含水した際の膨潤を抑える効果があり、ポリマーI-1の含水率を低減できる。含水率を低減することにより、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。また触媒層に用いられた際に固体高分子形燃料電池のフラッディングを抑制できる。
【0023】
ポリマーI-1は、単位u1-1、単位u1-2及びTFEに基づく単位以外の他のモノマーに基づく単位をさらに有していてもよい。
他のモノマーとしては、例えば、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、エチレン、プロピレン、ペルフルオロ(3-ブテニルビニルエーテル)、ペルフルオロ(アリルビニルエーテル)、ペルフルオロα-オレフィン(ヘキサフルオロプロピレン等)、(ペルフルオロアルキル)エチレン((ペルフルオロブチル)エチレン等)、(ペルフルオロアルキル)プロペン(3-ペルフルオロオクチル-1-プロペン等)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)、国際公開第2011/013578号に記載の5員環を有するペルフルオロモノマーが挙げられる。
【0024】
ポリマーI-1を構成する全単位のうちの各単位の割合は、ポリマーI-1、又は後述する液状組成物もしくは膜に要求される特性や物性(イオン交換容量、イオン導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度、自由体積、ガス透過性、水蒸気透過性、水の拡散性、輸率、膨潤度、相分離構造の大きさ、液状組成物中の分散粒子径、液状組成物の粘度、液状組成物の貯蔵弾性率等)に応じて適宜決定すればよい。
ポリマーI-1を構成する全単位のうちの単位u1-1又は単位u1-2の割合は、5.0~35.0モル%が好ましく、10.0~30モル%がより好ましい。また、TFEに基づく単位の割合は、65.0~95.0モル%が好ましく、70.0~90.0モル%がより好ましい。
【0025】
ポリマーI-1のイオン交換容量は、0.5~1.6ミリ当量/g乾燥樹脂が好ましく、0.9~1.4ミリ当量/g乾燥樹脂がより好ましい。イオン交換容量が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーIのイオン導電率が高くなるため、固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜や触媒層に用いた場合、充分な電池出力が得られる。また、塩化アルカリ電解用や水電解用のイオン交換膜に用いた場合、過電圧が低下する。イオン交換容量が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーIが含水した際の膨潤が抑えられ、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。又は触媒層に用いられた際に固体高分子形燃料電池のフラッディングを抑制できる。
【0026】
ポリマーI-1の軟化温度は、80~180℃が好ましく、100~150℃がより好ましく、110~130℃がさらに好ましい。軟化温度が上記範囲の下限値以上であれば、固体高分子電解質膜とした際に高温における機械的強度が高くなる。軟化温度が上記範囲の上限値以下であれば、固体高分子電解質膜のアニール処理、又は触媒層の転写や膜電極接合体の形成に必要な熱プレスの温度を低くすることができる。
【0027】
ポリマーI-1の含水率は、30~300質量%が好ましく、40~200質量%がより好ましい。含水率が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーI-1のイオン導電率が高くなるため、発電性能がさらに優れる膜電極接合体が得られる。含水率が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーI-1が過度に水で膨潤しないため、固体高分子電解質膜の機械的強度を保持できる。
【0028】
ポリマーI-1の温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数は、1.0×10-12~5.5×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)が好ましく、5.0×10-12~5.0×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)がより好ましく、8.0×10-12~4.0×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)がさらに好ましく、1.0×10-11~3.0×10-9cm・cm/(s・cm・cmHg)が特に好ましい。水素ガス透過係数が上記範囲の下限値以上であれば、水素ガス透過係数とイオン導電率とを両立できる。水素ガス透過係数が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーIを固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜に用いた場合、水素ガスのリーク量が減少することにより燃料消費率が低くなる、セル電圧の向上につながるという利点を有する。また、ポリマーIを水電解用イオン交換膜に用いた場合、生成する水素に混入する酸素の量又は生成する酸素に混入する水素の量が減少することから安全性が向上する。さらに、従来の膜に比べ薄い厚さで、従来の膜と同等に水素を遮蔽できるため、電解電圧の低下による電力原単位の削減又は出力密度を向上できる。また、ポリマーIを電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜に用いた場合、圧縮水素の逆浸透を抑制できることから、圧縮に要する電力原単位の削減が可能である。
【0029】
ポリマーI-1は、後述するポリマーIの製造方法によって製造できる。具体的には、後述する式u2におけるQが-CFO-又は-ORF3(O)-であるポリマーFを用いることによってポリマーI-1を製造できる。
【0030】
<ポリマーI-1の用途>
ポリマーI-1の用途としては、例えば、ポリマーを含む膜を形成するための液状組成物に含まれるポリマー、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜に含まれるポリマー(X=水素原子)、固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜に含まれるポリマー(X=水素原子)、塩化アルカリ電解に用いられる陽イオン交換膜に含まれるポリマー(X=アルカリ金属)、電気透析に用いられる陽イオン交換膜に含まれるポリマー(X=水素原子、アルカリ金属)、レドックスフロー二次電池用の隔膜に含まれるポリマー(X=水素原子)、アルカリ水電解に用いられるイオン交換膜に含まれるポリマー(X=アルカリ金属)、固体高分子形水電解に用いられるイオン交換膜に含まれるポリマー(X=水素原子)、電気化学的水素ポンプ用のイオン交換膜に含まれるポリマー(X=水素原子)、イオン導電性高分子アクチュエータやガスセンサーに用いられる陽イオン交換樹脂に含まれるポリマー(X=水素原子、アルカリ金属)、固体酸触媒に用いられるポリマー(X=水素原子)、除湿装置や加湿装置等の膜式湿度制御装置に用いられるポリマー(X=水素原子)、ガス分離膜に用いられるポリマー(X=アンモニウム、ホスホニウム)、帯電防止コーティングに用いられるポリマー(X=アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム)、帯電防止フィルムに含まれるポリマー(X=アルカリ金属、アンモニウム、ホスホニウム)、リサイクル可能な固相フッ素化剤(X=フッ素原子)が挙げられる。
【0031】
(液状組成物)
本発明の液状組成物は、ポリマーI-1と、液状媒体とを含む。
本発明の液状組成物は、液状媒体中にポリマーI-1が分散したものであってもよく、液状媒体中にポリマーI-1が溶解したものであってもよい。
【0032】
液状媒体としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒等が挙げられるが、なかでも水と有機溶媒との混合溶媒が好ましい。
水は、液状媒体に対するポリマーI-1の分散性又は溶解性を向上させる。
有機溶媒は、割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすくする。
【0033】
有機溶媒としては、割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすい点から、炭素数が1~4のアルコールの1種以上が好ましい。
炭素数が1~4のアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2,2,2-トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-プロパノール、2,2,3,3-テトラフルオロ-1-プロパノール、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、3,3,3-トリフルオロ-1-プロパノールが挙げられる。
【0034】
液状媒体が混合溶媒の場合、水の割合は、水と有機溶媒との合計のうち、10~99質量%が好ましく、20~99質量%がより好ましい。
液状媒体が混合溶媒の場合、有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との合計のうち、1~90質量%が好ましく、1~80質量%がより好ましい。
水及び有機溶媒の割合が上記範囲内であれば、分散媒に対するポリマーI-1の分散性に優れ、かつ割れにくい触媒層や固体高分子電解質膜を形成しやすい。
【0035】
液状組成物中のポリマーI-1の濃度は、1~50質量%が好ましく、3~30質量%がより好ましい。ポリマーI-1の濃度が上記範囲の下限値以上であれば、製膜時に厚みのある膜を安定して得ることができる。また、触媒層を作製する際の触媒層形成用塗工液の調節が容易になる。ポリマーI-1の濃度が上記範囲の上限値以下であれば、液状組成物の粘度が過度に高くなるのを抑制できる。
液状組成物は、液状組成物から作製される固体高分子電解質膜や触媒層の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0036】
液状組成物は、ポリマーI-1と液状媒体とを混合して得られる。
混合方法としては、例えば、大気圧下、又はオートクレーブ等で密閉した状態下において、液状媒体中のポリマーI-1に撹拌等のせん断を加える方法が挙げられる。
撹拌時の温度は、0~250℃が好ましく、20~150℃がより好ましい。必要に応じて、超音波等のせん断を付与してもよい。
【0037】
ポリマーI-1と液状媒体との混合液に撹拌等のせん断を加える際は、ポリマーI-1に液状媒体を一度に全部加えた混合液に撹拌等のせん断を加えてもよいし、ポリマーI-1に液状媒体を複数回に分けて混合し、その合間に撹拌等のせん断を加えてもよい。例えば、ポリマーI-1に液状媒体の一部を加えた混合液に撹拌等のせん断を加え、その後に、その混合液に残りの液状媒体を加えて再度撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。また、液状媒体に有機溶媒のみを加えて撹拌等のせん断を加え、その後に水のみを加えて再度、撹拌等のせん断を加えるようにしてもよい。
【0038】
(膜)
本発明の膜は、ポリマーI-1を含む。
本発明の膜は、補強材をさらに含んでもよい。本発明の膜は、ポリマーI-1及び補強材以外の成分をさらに含んでもよい。
補強材としては、例えば、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。補強材の材料としては、各種ポリマーが挙げられ、膜の用途に応じて適宜選択される。
【0039】
本発明の膜の製造方法としては、例えば、本発明の液状組成物を基材に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法、スピンコート法、スプレーコート法、ワイプコート法、スキージーコート法、ディップコート法、ダイコート法、インクジェット法、フローコート法、ロールコート法、ラングミュア・ブロジェット法、グラビアコート法等);ポリマーI-1の前駆体である後述するポリマーFを膜状に押出成形した後、ポリマーFとアンモニアとを反応させて環状ペルフルオロ脂肪族ジスルホンイミド骨格を形成し、ポリマーI-1に対応する後述するポリマーIaを含む膜を得る方法が挙げられる。厚さが100μm以下の膜を得る場合は、液状組成物の乾燥により膜を形成することが好ましく、厚さが10μm以上の膜を得る場合には、押出成形により膜を形成することが好ましい。補強材をさらに含む場合は、本発明の液状組成物を補強材に含浸し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0040】
本発明の膜の用途としては、例えば、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解や電気透析に用いられる陽イオン交換膜、水電解に用いられるイオン交換膜、レドックスフロー二次電池用の隔膜、電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜、ガス分離膜、帯電防止フィルムが挙げられる。
【0041】
(膜電極接合体)
図1は、本発明の膜電極接合体の一例を示す断面図である。膜電極接合体10は、触媒層11及びガス拡散層12を有するアノード13と、触媒層11及びガス拡散層12を有するカソード14と、アノード13とカソード14との間に、触媒層11に接した状態で配置される固体高分子電解質膜15とを具備する。
【0042】
膜電極接合体10においては、カソード14の触媒層11、アノード13の触媒層11及び固体高分子電解質膜15からなる群から選ばれる少なくとも1つが、ポリマーI-1を含む。触媒層11がポリマーI-1を含む場合は、少なくともカソード14の触媒層11がポリマーI-1を含むことが好ましい。
【0043】
触媒層は、触媒と、イオン交換基を有するポリマーとを含む層である。
触媒としては、例えば、カーボン担体に白金又は白金合金を担持した担持触媒が挙げられる。
カーボン担体としては、例えば、カーボンブラック粉末が挙げられる。
イオン交換基を有するポリマーとしては、例えば、ポリマーI-1、ポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーが挙げられる。ポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーにおけるイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。触媒層に含まれるポリマーのイオン交換基(1,3-ジスルホンイミド基、スルホン酸基等)は、酸型のイオン交換基が好ましい。ここで酸型のイオン交換基とは、ポリマーI-1の場合はSONHSO基であり、ポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーの場合は-SO 基等の酸性基である。
【0044】
ガス拡散層は、触媒層に均一にガスを拡散させる機能及び集電体としての機能を有する。
ガス拡散層としては、例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボンフェルトが挙げられる。
ガス拡散層は、ポリテトラフルオロエチレン等によって撥水化処理されていることが好ましい。
【0045】
図2に示すように、膜電極接合体10は、触媒層11とガス拡散層12との間にカーボン層16を有してもよい。
カーボン層を配置することによって、触媒層の表面のガス拡散性が向上し、固体高分子形燃料電池の発電性能が大きく向上する。
カーボン層は、カーボンと非イオン性含フッ素ポリマーとを含む層である。
カーボンとしては、カーボン粒子、カーボンファイバーが挙げられ、繊維径1~1000nm、繊維長1000μm以下のカーボンナノファイバーが好ましい。
非イオン性含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
【0046】
固体高分子電解質膜は、イオン交換基を有するポリマーを含む膜である。
イオン交換基を有するポリマーとしては、例えば、ポリマーI-1、ポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーが挙げられる。ポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーにおけるイオン交換基としては、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基が好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。固体高分子電解質膜に含まれるイオン交換基の総量に対する、ポリマーI-1に由来するイオン交換基の総量は20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。上記割合は、ポリマーI-1とポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーとを任意の割合で混合することで調整できる。固体高分子電解質膜に含まれるポリマーのイオン交換基(1,3-ジスルホンイミド基、スルホン酸基等)は、酸型が好ましい。
【0047】
固体高分子電解質膜は、補強材で補強されていてもよい。補強材としては、例えば、多孔体、繊維、織布、不織布が挙げられる。補強材の材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)コポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィドが挙げられる。
【0048】
固体高分子電解質膜は、耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物又は金属イオンを含んでいてもよい。セリウム、マンガンは、固体高分子電解質膜の劣化を引き起こす原因物質である過酸化水素又はヒドロキシルラジカルやヒドロペルオキシルラジカルを分解する。セリウム、マンガンは、イオンとして固体高分子電解質膜中に存在することが好ましく、イオンとして存在すれば固体高分子電解質膜中でどのような状態で存在してもかまわない。固体高分子電解質膜にセリウム、マンガンを含ませる方法としては、固体高分子電解質膜をセリウム、マンガンを含む水溶液中に浸漬する方法、又はセリウム、マンガンを含む液状組成物から固体高分子電解質膜を得る方法、が挙げられる。
【0049】
膜電極接合体がカーボン層を有しない場合、膜電極接合体は、例えば、下記の方法にて製造される。
・固体高分子電解質膜上に触媒層を形成して膜触媒層接合体とし、膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み込む方法。
・ガス拡散層上に触媒層を形成して電極(アノード、カソード)とし、固体高分子電解質膜を電極で挟み込む方法。
【0050】
膜電極接合体がカーボン層を有する場合、膜電極接合体は、例えば、下記の方法にて製造される。
・基材フィルム上に、カーボン及び非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、カーボン層上に触媒層を形成し、触媒層と固体高分子電解質膜とを貼り合わせ、基材フィルムを剥離して、カーボン層を有する膜触媒層接合体とし、膜触媒層接合体をガス拡散層で挟み込む方法。
・ガス拡散層上に、カーボン及び非イオン性含フッ素ポリマーを含む分散液を塗布し、乾燥させてカーボン層を形成し、固体高分子電解質膜上に触媒層を形成した膜触媒層接合体を、カーボン層を有するガス拡散層で挟み込む方法。
【0051】
触媒層の形成方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
・触媒層形成用塗工液を、固体高分子電解質膜、ガス拡散層、又はカーボン層上に塗布し、乾燥させる方法。
・触媒層形成用塗工液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させて触媒層を形成し、触媒層を固体高分子電解質膜上に転写する方法。
【0052】
触媒層形成用塗工液は、イオン交換基を有するポリマー及び触媒を液状媒体に分散させた液である。触媒層形成用塗工液は、例えば、本発明の液状組成物と触媒の分散液とを混合して調製できる。触媒層形成用塗工液は、触媒層の耐久性をさらに向上させるために、セリウム及びマンガンからなる群から選ばれる1種以上の金属、金属化合物、又は金属イオンを含んでいてもよい。
【0053】
固体高分子電解質膜は、例えば、液状組成物を基材フィルム又は触媒層上に塗布し、乾燥させる方法(キャスト法)によって形成できる。
液状組成物は、水及び有機溶媒を含む混合溶媒に、イオン交換基を有するポリマーを分散させた分散液である。液状組成物として、本発明の液状組成物を用いてもよい。
【0054】
固体高分子電解質膜を安定化させるために、アニール処理することが好ましい。アニール処理の温度は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーの種類にもよるが、130~200℃が好ましい。アニール処理の温度が130℃以上であれば、イオン交換基を有するポリマーが過度に含水しなくなる。アニール処理の温度が200℃以下であれば、イオン交換基の熱分解が抑えられる。
【0055】
(固体高分子形燃料電池)
本発明の固体高分子形燃料電池は、本発明の膜電極接合体を備える。
本発明の固体高分子形燃料電池は、膜電極接合体の両面に、ガスの流路となる溝が形成されたセパレータを配置したものであってもよい。
セパレータとしては、例えば、金属製セパレータ、カーボン製セパレータ、黒鉛と樹脂を混合した材料からなるセパレータ等、各種導電性材料からなるセパレータが挙げられる。
固体高分子形燃料電池においては、カソードに酸素を含むガス、アノードに水素を含むガスを供給して発電が行われる。また、アノードにメタノールを供給して発電するメタノール燃料電池にも、膜電極接合体を適用できる。
【0056】
(塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜)
本発明の塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜は、ポリマーI-1を含む。
本発明の塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜は、ポリマーI-1を含む層と、スルホン酸基又はカルボン酸基を有するポリマーを含む層との積層体であってもよい。
塩化アルカリ電解用陽イオン交換膜に含まれるポリマーのイオン交換基(1,3-ジスルホンイミド基、カルボン酸基等)は、塩型が好ましい。ここで塩型のイオン交換基とは、ポリマーI-1の場合はSONMSO基であり、ポリマーI-1以外のイオン交換基を有するペルフルオロポリマーの場合は-SO 基や-CO 基等の有機塩型の官能基である。
【0057】
(水電解用イオン交換膜)
本発明の水電解用イオン交換膜は、ポリマーI-1を含む。
本発明の水電解用イオン交換膜は、ポリマーI-1を含む層を有し、アルカリ水電解用イオン交換膜、固体高分子形水電解用イオン交換膜のいずれにも使用できる。ポリマーI-1の1,3-ジスルホンイミド基は、アルカリ水電解用の場合は塩型が好ましく、固体高分子形水電解用の場合は酸型が好ましい。
【0058】
(レドックスフロー二次電池用隔膜)
本発明のレドックスフロー二次電池用隔膜は、ポリマーI-1を含む。
本発明のレドックスフロー二次電池用隔膜は、ポリマーI-1を含む層を有する。ポリマーI-1における1,3-ジスルホンイミド基は酸型が好ましい。
【0059】
(電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜)
本発明の電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜は、ポリマーI-1を含む。
本発明の電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜は、ポリマーI-1を含む層を有する。ポリマーI-1における1,3-ジスルホンイミド基は酸型が好ましい。
【0060】
<ポリマーIの製造方法>
本発明の他の態様は、ポリマーIの新たな製造方法を提供する。
種々のポリマーIは、下記スキームによって、単位u2を有するポリマー(以下、「ポリマーF」とも記す。)から誘導できる。ポリマーFについては後述する。
【0061】
【化16】
【0062】
ただし、Qは、-O-又は-(O)(O)-であり、Rは、炭素数1~10のフルオロアルキレン基、又は炭素数2~10のフルオロアルキレン基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、nは0又は1であり、Mは、アルカリ金属であり、R10は、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、Zは窒素原子又はリン原子であり、R11~R14は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~10のアルキル基、又は炭素数2~10のアルキル基の炭素原子間にエーテル性酸素原子を有する基であり、R11とR12は環を形成してもよい。
Qとしては、ポリマーFを製造しやすい点から、-CFO-、-ORF3(O)-又は-O-が好ましい。
F1、RF2、RF3及びmは、ポリマーI-1で説明したRF1、RF2、RF3及びmと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0063】
単位u2を有するポリマーFとアンモニアとを反応させて単位u1aを有するポリマー(以下、「ポリマーIa」ともいう)を得る。
アンモニアとしては、無水のアンモニアガス又は液化アンモニアが好ましい。反応は、溶媒の存在下に実施することが好ましい。溶媒としては、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。アルコール、フェノール等の水酸基を有する溶媒又は水が存在しない場合、ポリマーFが有するSOF基の加水分解反応を促進して、所望のスルホンイミド化反応を阻害することを防止できるため、好ましい。反応温度は-80~50℃が好ましく、反応圧力は-0.09~0.9MPa(ゲージ圧)が好ましい。
【0064】
ポリマーIaとプロトン酸とを反応させて単位u1bを有するポリマー(以下、「ポリマーIb」ともいう)を得る。プロトン酸としては、例えば、塩酸、硫酸が挙げられる。
【0065】
ポリマーIa又はポリマーIbとアルカリ金属塩とを反応させて単位u1cを有するポリマー(以下、「ポリマーIc」ともいう)を得る。アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられる。
【0066】
ポリマーIb又はポリマーIcと分子状フッ素(F)とを反応させて単位u1dを有するポリマー(「ポリマーId」)を得る。フッ素化は、公知の方法によって実施できる。
【0067】
ポリマーIbとR10基を有するアルキル化剤とを反応させて単位u1eを有するポリマー(以下、「ポリマーIe」ともいう)を得る。R10は、炭素数1~10のアルキル基が好ましく、炭素数1~6のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基又はプロピル基が特に好ましい。アルキル化剤としては、例えば、オルト酢酸トリアルキル、オルトギ酸トリアルキル、ハロゲン化アルキル、ジアルキル硫酸が挙げられる。
【0068】
ポリマーIbと化合物11とを反応させて単位u1fを有するポリマー(「ポリマーIf」)を得る。反応は、溶媒の存在下に実施することが好ましい。溶媒としては水、有機溶媒、又は水と有機溶媒の混合溶媒が挙げられる。
[Z(R11)(R12)(R13)(R14)](A)k- 式11
ただし、Z、R11、R12、R13、R14はポリマーIの製造方法におけるスキームで説明したZ、R11、R12、R13、R14と同じであり、Aは、k価のアニオンであり、kは、1又は2である。
【0069】
化合物11としては、化合物11-1又は化合物11-2が好ましく、化合物11-1がより好ましく、化合物11-1a又は化合物11-1bが特に好ましい。
[N(R11)(R12)(R13)(R14)](A)k- 式11-1
[P(R11)(R12)(R13)(R14)](A)k- 式11-2
[N(R11)(R12)(R13)(R14)](A) 式11-1a
[N(R11)(R12)(R13)(R14)](A)2- 式11-1b
【0070】
化合物11のカチオン部分としては、例えば、エチルメチルプロピルアンモニウム、ジメチルエチルプロピルアンモニウム、N-メチル-N’-エチルイミダゾリウム、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム、N-メチル-N-エチルピロリジニウムが挙げられる。
化合物11の1価のアニオン部分としては、例えば、ハロゲンアニオン、OH、炭酸水素アニオン、亜硝酸アニオンが挙げられ、ハロゲンアニオン又はOHが好ましい。化合物11の2価のアニオン部分としては、例えば、炭酸アニオン、硫酸アニオン、亜硫酸アニオン、硝酸アニオン、亜リン酸アニオン、リン酸アニオンが挙げられ、炭酸アニオン又は炭酸水素アニオンが好ましい。
【0071】
ポリマーIeと化合物12とを反応させて単位u1gを有するポリマー(「ポリマーIg」)を得る。反応は、溶媒の存在下に加熱して実施することが好ましい。
Z(R11)(R12)(R13) 式12
ただし、Z、R11、R12、R13はポリマーIの製造方法におけるスキームで説明したZ、R11、R12、R13と同じである。
【0072】
化合物12としては、化合物12-1又は化合物12-2が好ましく、化合物12-1が特に好ましい。
N(R11)(R12)(R13) 式12-1
P(R11)(R12)(R13) 式12-2
【0073】
化合物12としては、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、メチルエチルアミン、メチルプロピルアミン、メチルブチルアミン、エチルプロピルアミン、エチルブチルアミン、プロピルブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエチルアミン、トリフェニルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジエチルプロピルアミン、トリブチルアミン、ピロリジン、N-プロピルピロリジン、N-エチルピロリジン、N-プロピルピペリジン、イミダゾール、N-エチルイミダゾール、N-ブチルイミダゾール、N-ヘキチルイミダゾール、N-オクチルイミダゾール、N-デシルイミダゾール、N-ドデシルイミダゾール、N-テトラデシルイミダゾール、N-ヘキサデシルイミダゾール、N-オクタデシルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、1-ブチル-2-メチルイミダゾール、1-ヘキチル-2-メチルイミダゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピロール、N-メチルピロール、N-エチルピロール、N-プロピルピロール、N-ブチルピロール、ピペリジン、N-メチルピペリジン、N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピペリジン、インドール、N-メチルインドール、N-エチルインドール、N-プロピルインドール、N-ブチルインドール、ヘキサメチレンイミン、N-メチルヘキサメチレンイミン、N-エチルヘキサメチレンイミン、N-プロピルヘキサメチレンイミン、N-ブチルヘキサメチレンイミン、オキサゾリン、N-メチルオキサゾリン、N-エチルオキサゾリン、N-プロピルオキサゾリン、N-ブチルオキサゾリン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、N-プロピルモルホリン、N-ブチルモルホリン、ピロリン、N-メチルピロリン、N-エチルピロリン、N-プロピルピロリン、N-ブチルピロリン、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。
【0074】
ポリマーI(ポリマーIa~Ig)に不純物として含まれる有機物を除去するために、加水分解又は酸型化の後に、ポリマーIを過酸化水素水に浸漬して、有機物を分解してもよい。
ポリマーIは、粉末状であってもよく、ペレット状であってもよく、膜状であってもよい。
【0075】
過酸化水素水中の過酸化水素の濃度は、0.1~30質量%が好ましく、1質量%以上10質量%未満がより好ましい。過酸化水素の濃度が上記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。過酸化水素の濃度が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーIが分解しにくい。
過酸化水素水の温度は、15~90℃が好ましく、40℃以上80℃未満がより好ましい。過酸化水素水の温度が上記範囲の下限値以上であれば、有機物を分解する効果が充分である。過酸化水素水の温度が上記範囲の上限値以下であれば、過酸化水素が分解しにくい。
ポリマーIを過酸化水素水に浸漬する時間は、ポリマーIの厚さと、含まれる有機物の量にもよるが、例えば、ポリマーIが厚さ50μmの膜の場合、0.5時間以上100時間未満が好ましい。浸漬する時間が0.5時間未満では、膜内部の有機物まで分解するのが難しい。100時間以上浸漬しても、有機物をそれ以上分解する効果は期待できない。
過酸化水素水に浸漬した後に、ポリマーIを水洗することが好ましい。水洗に用いる水としては、超純水が好ましい。また、水洗前に酸型化処理してもよい。
【0076】
このようにして得られるポリマーI(ポリマーIa~Ig)のイオン交換容量、軟化温度、含水率、及び温度80℃及び相対湿度10%の条件における水素ガス透過係数の好ましい範囲は、ポリマーI-1と同様である。
また、このようにして得られるポリマーI(ポリマーIa~Ig)の用途としては、ポリマーI-1と同様の用途が挙げられる。
【0077】
(ポリマーF)
単位u2を有するポリマーFは、ポリマーIの前駆体として用いられる。
【0078】
【化17】
【0079】
Q、RF1及びRF2は、ポリマーIの製造方法におけるスキームで説明したQ、RF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0080】
ポリマーFとしては、TFEに基づく単位をさらに有するものが好ましい。TFEはポリマーの疎水性を高める効果を有するため、ポリマーIが含水した際の膨潤を抑える効果があり、ポリマーIの含水率を低減できる。含水率を低減することにより、固体高分子電解質膜とした際に機械的強度が高くなる。また触媒層に用いられた際に固体高分子形燃料電池のフラッディングを抑制できる。
【0081】
ポリマーFは、単位u2及びTFEに基づく単位以外の他のモノマーに基づく単位をさらに有していてもよい。他のモノマーとしては、ポリマーI-1における他のモノマーとして例示したものと同様のものが挙げられる。
【0082】
ポリマーFを構成する全単位のうちの各単位の割合は、ポリマーI、又は液状組成物もしくは膜に要求される特性や物性(イオン交換容量、イオン導電率、機械的強度、弾性率、軟化温度、自由体積、ガス透過性、水蒸気透過性、水の拡散性、輸率、膨潤度、相分離構造の大きさ、液状組成物中の分散粒子径、液状組成物の粘度、液状組成物の貯蔵弾性率等)に応じて適宜決定すればよい。
【0083】
ポリマーFのTQ値は、150~450℃が好ましく、180~400℃がより好ましい。ポリマーFのTQ値が上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーIが充分な分子量を有し、機械的強度にも優れる。ポリマーFのTQ値が上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーIの溶解性又は分散性がよくなり、液状組成物を調製しやすい。TQ値は、ポリマーFの分子量の指標である。
【0084】
ポリマーFのTgは、5~70℃が好ましく、15~55℃がより好ましい。Tgが上記範囲の下限値以上であれば、ポリマーFのタック性が抑制され、取扱性や保存安定性がよくなる。Tgが上記範囲の上限値以下であれば、ポリマーFのペレットや膜の脆さが抑制される。
【0085】
ポリマーFは、後述するフルオロスルホニル基含有モノマー(以下、「SOF基含有モノマー」とも記す。)、必要に応じてTFE、他のモノマーを含むモノマー成分を重合して製造できる。
重合法としては、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法が挙げられる。また、液体又は超臨界の二酸化炭素中にて重合してもよい。
重合は、ラジカルが生起する条件で行われる。ラジカルを生起させる方法としては、例えば、紫外線、γ線、電子線等の放射線を照射する方法、ラジカル開始剤を添加する方法が挙げられる。
重合温度は、10~250℃が好ましく、120~230℃がより好ましく、140~200℃がさらに好ましく、147~168℃が特に好ましい。
【0086】
ラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシエステル、アゾ化合物、過硫酸塩が挙げられ、不安定末端基が少ないポリマーFが得られる点から、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(ペルフルオロアルキル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシドが好ましい。
【0087】
溶液重合法にて用いる溶媒としては、20~350℃の沸点を有する溶媒が好ましく、40~150℃の沸点を有する溶媒がより好ましい。溶媒としては、例えば、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
【0088】
溶液重合法においては、溶媒中にモノマー、ラジカル開始剤等を添加し、溶媒中にてラジカルを生起させてモノマーを重合させる。モノマー及びラジカル開始剤の添加は、一括添加であってもよく、逐次添加であってもよく、連続添加であってもよい。
【0089】
懸濁重合法においては、水を液状媒体として用い、該液状媒体中にモノマー、非イオン性のラジカル開始剤等を添加し、得られた分散媒中にてラジカルを生起させてモノマーを重合させることが好ましい。
非イオン性のラジカル開始剤としては、例えば、ビス(フルオロアシル)ペルオキシド、ビス(クロロフルオロアシル)ペルオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジアシルペルオキシド、ペルオキシエステル、ジアルキルペルオキシド、ビス(フルオロアルキル)ペルオキシド、アゾ化合物が挙げられる。
分散媒には、例えば、助剤として有機溶媒、懸濁粒子の凝集を防ぐ分散安定剤として界面活性剤、分子量調整剤として炭化水素系化合物(ヘキサン、メタノール等)が添加されていてもよい。
【0090】
乳化重合法においては、乳化剤と重合開始剤の存在下モノマーを水中に乳化させてモノマーを重合させる。乳化剤及び重合開始剤としては、通常のペルフルオロポリマーの乳化重合で用いられる試剤を用いることができる。例えば乳化剤としては、CFCFCFCFOCFCOONH、CFCFOCFCFOCFCOONHといったペルフルオロカルボン酸アンモニウム塩を用いることができる。重合開始剤としては、ペルオキシド類、アゾ化合物、過硫酸塩等のラジカル開始剤を用いることができる。また、金属イオン等の酸化還元反応により、開始剤を活性化して用いてもよい。また、これらに加えて、通常のペルフルオロポリマーの乳化重合で用いられる緩衝剤、連鎖移動剤等を適宜用いてもよい。また、含フッ素モノマーの反応率を上げるために、重合開始前に水性溶媒及び含フッ素モノマーの混合液をホモジナイザー、加圧乳化器等を用いて強制的に乳化してもよい。
【0091】
(SOF基含有モノマー)
ポリマーFの原料であるSOF基含有モノマーとしては、製造が容易な点から、化合物7、化合物8又は化合物9が好ましく、化合物7が特に好ましい。
【0092】
【化18】
【0093】
F1、RF2、RF3及びmは、ポリマーI-1で説明したRF1、RF2、RF3及びmと同じであり、好ましい形態も同様である。
【0094】
化合物7としては、例えば、化合物7-1が挙げられる。
【0095】
【化19】
【0096】
化合物8としては、例えば、化合物8-1、化合物8-2、化合物8-3が挙げられる。
【0097】
【化20】
【0098】
化合物9としては、例えば、化合物9-1が挙げられる。
【0099】
【化21】
【0100】
化合物7、化合物8又は化合物9の中間体として有用なSOF基含有化合物としては、化合物4又は化合物5が挙げられる。
【0101】
【化22】
【0102】
ただし、R及びRは、それぞれ独立に炭素数1~3のアルキレン基である。R及びRは同一であっても異なっていてもよい。
及びRとしては、例えば、-CH-、-CHCH-、-CH(CH)-、-CHCHCH-、-CH(CHCH)-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)-、-C(CH)(CH)-が挙げられる。原料の化合物1がより安価であり、化合物5の製造が容易であり、また、ポリマーIのイオン交換容量をより高くできる点から、R及びRは、炭素数1~2のアルキレン基であることが好ましく、また直鎖が好ましい。具体的には、-CH-、-CHCH-、-CH(CH)-が好ましく、-CH-がより好ましい。
F1及びRF2は、ポリマーI-1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0103】
化合物4及び化合物5は、以下のようにして製造できる。
化合物1とスルホン化剤とを反応させて化合物2を得て、化合物2と塩素化剤とを反応させて化合物3を得て、化合物3とフッ素化剤とを反応させて化合物4を得て、化合物4をフッ素化処理して化合物5を得る。
【0104】
【化23】
【0105】
及びRは、化合物4で説明したR及びRと同じであり、好ましい形態も同様である。
F1及びRF2は、ポリマーI-1で説明したRF1及びRF2と同じであり、好ましい形態も同様である。
【0106】
化合物1としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、ジイソプロピルケトン、イソプロピルメチルケトン、イソプロピルエチルケトン、イソプロピルプロピルケトンが挙げられ、化合物1がより安価であり、化合物5の製造が容易であり、また、単位分子量当たりのスルホン酸基含有ポリマーのイオン交換容量をより高くできる点から、アセトンが好ましい。
【0107】
スルホン化剤としては、例えば、塩化スルホン酸、フルオロスルホン酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄の錯体、発煙硫酸、濃硫酸が挙げられる。
化合物1とスルホン化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応溶媒は、溶媒自身がスルホン化されにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、シクロヘキサン、ヘキサン、石油エーテル、ペンタン、ヘプタン、ジエチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジエチル等の炭酸エステルが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いることもできる。
【0108】
塩素化剤としては、例えば、塩化チオニル、五塩化リン、三塩化リン、塩化ホスホリル、塩化スルホン酸、塩化スルフリル、塩化オキサリルが挙げられる。
化合物2と塩素化剤との反応温度は、0~100℃が好ましい。反応温度が上記範囲の上限値以下であれば、化合物3の分解を抑制できることから化合物3の収率が向上する。反応温度が上記範囲の下限値以上であれば、反応速度が上がり生産性が向上する。
【0109】
フッ素化剤としては、例えば、フッ化水素カリウム、フッ化水素ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド(テトラエチルアンモニウムフルオリド、テトラブチルアンモニウムフルオリド等)、フッ化水素、フッ化水素酸、フッ化水素錯体(HF-ピリジン錯体、HF-トリエチルアミン等)が挙げられる。
化合物3とフッ素化剤との反応温度は、-30~100℃が好ましい。反応溶媒は、フッ素化反応を受けにくい極性溶媒又は低極性溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロメタン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、水が挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いることもできる。
【0110】
フッ素化処理は、化合物4とフッ素ガス又はフッ素化合物とを接触させて行う。
フッ素化合物としては、例えば、フッ化水素、フッ化ハロゲン(三フッ化塩素、五フッ化ヨウ素等)、ガス状フッ化物(三フッ化ホウ素、三フッ化窒素、五フッ化リン、四フッ化ケイ素、六フッ化硫黄等)、金属フッ化物(フッ化リチウム、フッ化ニッケル(II)等)、ハイポフルオライト化合物(トリフルオロメチルハイポフルオライト、トリフルオロアセチルハイポフルオライト等)、求電子的フッ素化反応試薬(セレクトフルオル(登録商標)、N-フルオロベンゼンスルホンイミド等)が挙げられる。
フッ素化処理としては、取り扱いが容易である点、及び化合物5に含まれる不純物を少なくする点から、化合物4とフッ素ガスとを接触させる処理が好ましい。フッ素ガスは、窒素ガス等の不活性ガスで希釈して用いてもよい。フッ素化処理の温度は、-20~350℃が好ましい。反応溶媒は、化合物4又は化合物5の溶解性が高く、また溶媒自身がフッ素化処理を受けにくい溶媒から適宜選択できる。反応溶媒としては、例えば、アセトニトリル、クロロホルム、ジクロロメタン、トリクロロフルオロメタン、ペルフルオロトリアルキルアミン(ペルフルオロトリブチルアミン等)、ペルフルオロカーボン(ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロオクタン等)、ハイドロフルオロカーボン(1H,4H-ペルフルオロブタン、1H-ペルフルオロヘキサン等)、ハイドロクロロフルオロカーボン(3,3-ジクロロ-1,1,1,2,2-ペンタフルオロプロパン、1,3-ジクロロ-1,1,2,2,3-ペンタフルオロプロパン等)、ハイドロフルオロエーテル(CFCHOCFCFH等)が挙げられる。
【0111】
化合物7は、化合物5とペルフルオロアリル化剤とを反応させて製造できる。ペルフルオロアリル化剤としては、化合物6が挙げられる。
CF=CFCF-G 式6
ただし、Gは、-OSOF、-OSOf2、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子であり、Rf2は炭素数1~8のペルフルオロアルキル基である。
【0112】
化合物6としては、原料の入手性、ペルフルオロアリル化剤の反応性、合成の簡便さ、取扱いの容易さの点から、化合物6-1が好ましい。
CF=CFCFOSOF 式6-1
【0113】
化合物6-1は、例えば、三フッ化ホウ素の存在下にヘキサフルオロプロピレンと三酸化硫黄とを反応させて製造できる。三フッ化ホウ素の代わりに三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体やトリメトキシボラン等のルイス酸を用いることもできる。
【0114】
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応は、フッ化物塩の存在下に行うことが好ましい。フッ化物塩としては、例えば、フッ化カリウム、フッ化セシウム、フッ化銀、第四級アンモニウムフルオリド、フッ化ナトリウムが挙げられる。
化合物5とペルフルオロアリル化剤との反応温度は、-70~40℃が好ましい。反応溶媒は、非プロトン性極性溶媒を含むことが好ましく、非プロトン性極性溶媒のみがより好ましい。非プロトン性極性溶媒としては、例えば、モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム、アセトニトリル、プロピオニトリル、アジポニトリル、ベンゾニトリル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、ニトロエタンが挙げられる。反応溶媒は、2種以上を混合して用いることもできる。
【0115】
化合物8のうち化合物8-1及び化合物9のうち化合物9-1は、触媒量の金属フッ素化物(フッ化カリウム、フッ化セシウム等)の存在下、化合物5-1にヘキサフルオロプロピレンオキシドを付加させて化合物10-1a及び化合物10-1bを得た後、化合物10-1b及び化合物10-1aを熱分解することによって製造できる。
【0116】
【化24】
【0117】
化合物8のうち化合物8-2は、次のようにして製造できる。化合物5-1の1モルに当量の金属フッ素化物、テトラフルオロエチレン、ヨウ素を反応させて化合物10-2を得る。化合物10-2と発煙硫酸とを反応させて化合物10-3を得る。触媒量の金属フッ素化物の存在下、化合物10-3の1モルにヘキサフルオロプロピレンオキシドの1モルを付加させて化合物10-4を得た後、化合物10-4を熱分解する。
【0118】
【化25】
【0119】
化合物8のうち化合物8-3は、次のようにして製造できる。化合物5-1の1モルにヘキサフルオロプロピレンオキシド等のジフルオロカルベン発生剤の1モルを反応させて化合物10-5を得る。触媒量の金属フッ素化物の存在下、化合物10-5の1モルにヘキサフルオロプロピレンオキシドの1モルを付加させて化合物10-6を得た後、化合物10-6を熱分解する。
【0120】
【化26】
【実施例
【0121】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。
例1、2は製造例であり、例3~10は実施例であり、例11は比較例である。
【0122】
H-NMR)
H-NMRは、周波数:300.4MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒としては、特に付記のない限りCDCNを用いた。生成物の定量は、H-NMRの分析結果及び内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0123】
19F-NMR)
19F-NMRは、周波数:282.7MHz、溶媒:CDCN、化学シフト基準:CFClの条件にて測定した。生成物の定量は、19F-NMRの分析結果及び内部標準試料(1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン)の添加量から行った。
【0124】
13C-NMR)
13C-NMRは、周波数:75.5MHz、化学シフト基準:テトラメチルシランの条件にて測定した。溶媒は、特に付記のない限りCDCNを用いた。
【0125】
(収率)
収率とは、反応工程の収率×精製工程の収率を意味し、反応収率とは、目的物を精製する前の反応工程の収率のみの精製工程のロスが含まれない収率を意味する。
【0126】
(イオン交換容量)
ポリマーFの膜を120℃で12時間真空乾燥した。乾燥後のポリマーFの膜の質量を測定した後、ポリマーFの膜を0.85モル/gの水酸化ナトリウム水溶液(溶媒:水/メタノール=10/90(質量比))に60℃で72時間以上浸漬して、SOF基を加水分解した。加水分解後の水酸化ナトリウム水溶液を0.1モル/Lの塩酸で逆滴定してポリマーFのイオン交換容量(ミリ当量/g乾燥樹脂)を求めた。
ポリマーIのイオン交換容量は、ポリマーFの2つのSOF基が定量的に1つの1,3-ジスルホンイミド基に変換されたと仮定して、ポリマーFのイオン交換容量から計算で求めた。
【0127】
(SOF基含有モノマーに基づく単位の割合)
ポリマーF中のSOF基含有モノマーに基づく単位の割合は、ポリマーFのイオン交換容量から算出した。
【0128】
(TQ値)
長さ1mm、内径1mmのノズルを備えたフローテスタ(島津製作所社製、CFT-500A)を用い、2.94MPaの押出し圧力の条件で温度を変えながらポリマーFを溶融押出した。ポリマーFの押出し量が100mm/秒となる温度(TQ値)を求めた。なおTQ値が300℃を上回る場合は、300℃以下の押出量の測定値から外挿することによりTQ値を求めた。外挿は絶対温度の逆数に対する押出量の相関を対数近似した近似式により行った。TQが高いほどポリマーの分子量は大きい。
【0129】
(動的粘弾性測定)
ポリマーFの膜又はポリマーIの膜について、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-225)を用いて試料幅:5.0mm、つかみ間長:15mm、測定周波数:1Hz、昇温速度:2℃/分、引張モードの条件にて、動的粘弾性測定を実施した。損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)からtanδ(損失正接)を算出し、tanδ-温度曲線を作成した。tanδ-温度曲線から-100~200℃の間のピーク温度を読み取った値をポリマーFのTg又はポリマーIの軟化温度とした。また、貯蔵弾性率E’-温度曲線を作成し、120℃における貯蔵弾性率を読み取った値をポリマーIの120℃弾性率とした。
【0130】
(伝導度)
厚さ50μm、幅5mmのポリマーIの膜に、5mm間隔で4端子電極が配置された基板を密着させ、公知の4端子法によって、温度:80℃、相対温度:50%の恒温恒湿条件下にて交流:10kHz、電圧:1VでポリマーIの膜の抵抗を測定し、伝導度(S/cm)を算出した。
【0131】
(含水率)
ポリマーIの膜を80℃の温水に16時間浸漬した後、水温が25℃以下になるまで冷却した。ポリマーIの膜を取り出し、膜の表面に付着した水をろ紙でふき取り、ポリマーIの膜の質量W1を測定した。ポリマーIの膜を窒素雰囲気のグローブボックス内にて48時間以上乾燥した後、グローブボックス内でポリマーIの膜の質量W2を測定した。下式iから含水率(質量%)を求めた。
含水率=(W1-W2)/W2×100 式i
【0132】
(水素ガス透過係数)
ポリマーIを含む膜について、JIS K 7126-2:2006に準拠して水素ガス透過係数を測定した。測定装置としてはガス透過率測定装置(GTRテック社製、GTR-100XFAG)を用いた。有効透過面積が9.62cmの膜を80℃に保ち、第1の面に、相対湿度を10%に調湿した水素ガスを30mL/分で流し、第2の面に、相対湿度を10%に調湿したアルゴンガスを30mL/分で流し、アルゴンガスに透過してくる水素ガスをガスクロマトグラフィーで検出し、25℃、1気圧の体積に換算した水素ガス透過量を測定した。得られた水素ガス透過量を用いて、膜面積1cm、透過ガスの圧力差1cmHgあたり、1秒間に透過するガスの流量を求め、厚さ1cmの膜に換算した値を水素ガス透過係数(cm・cm/(s・cm・cmHg))とした。
【0133】
(初期発電特性試験)
膜電極接合体を発電用セルに組み込み、膜電極接合体の温度を80℃に維持し、アノードに水素ガス(利用率70%)、カソードに空気(利用率50%)を、それぞれ151kPa(絶対圧力)に加圧して供給する。ガスの加湿度は水素、空気ともに相対湿度100%RHとし、電流密度が2A/cm2のときのセル電圧を記録した。セル電圧が高いほど、固体高分子形燃料電池の発電特性に優れる。
(略号)
PFtBPO:(CFCOOC(CF
tBPO:(CHCOOC(CH
HFC-52-13p:CF(CFH、
HFE-347pc-f:CFCHOCFCFH、
【0134】
[例1]
(例1-1)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた2Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、塩化スルホン酸の560gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、内温を20℃以下に保ったまま化合物1-1の139.5gとジクロロメタンの478.7gの混合液を20分かけて滴下した。滴下時は発熱とガスの発生が見られた。滴下完了後、フラスコをオイルバスにセットし、内温を30~40℃に保ったまま7時間反応させた。反応はガスの発生を伴いながら進行し、白色の固体が析出した。反応後、フラスコ内を減圧にしてジクロロメタンを留去した。フラスコ内には黄色味を帯びた白色固体が残った。固体をH-NMRで分析したところ、化合物2-1が生成していることを確認した。
【0135】
【化27】
【0136】
化合物2-1のNMRスペクトル;
H-NMR(溶媒:DO):4.27ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR(溶媒:DO):62.6ppm(-CH-)、195.3ppm(C=O)。
【0137】
(例1-2)
例1-1で得た化合物2-1は単離せずに、次の反応にそのまま用いた。例1-1のフラスコ内に塩化チオニルの2049gを加えた。フラスコを80℃に加熱して15時間還流した。反応の進行に伴い、還流温度は52℃から72℃まで上昇した。反応中はガスの発生が確認された。化合物2-1がすべて溶解し、ガスの発生が収まった点を反応終点とした。反応液を2Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら9時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に黒褐色の固体が析出した。デカンテーションで未反応の塩化チオニルを除去した。トルエンを添加して析出固体を洗浄し、再びデカンテーションでトルエンを除去した。トルエン洗浄は合計3回実施し、トルエンの使用量は合計1207gだった。析出固体を窒素ガス気流下、25℃にて71時間乾燥した。乾燥後の固体を回収し、H-NMRで分析したところ、純度96.2%の化合物3-1の356.5gが得られたことを確認した。化合物1-1基準の収率は56.0%となった。
【0138】
【化28】
【0139】
化合物3-1のNMRスペクトル;
H-NMR:5.20ppm(-CH-、4H、s)。
13C-NMR:72.3ppm(-CH-)、184.6ppm(C=O)。
【0140】
(例1-3)
撹拌機、コンデンサー、温度計を備えた1Lの4つ口フラスコに、窒素ガスシール下、化合物3-1の90.0gとアセトニトリルの750mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌しながらフッ化水素カリウムの110.3gを加えた。添加に伴う発熱はわずかだった。氷浴を水浴に変え、内温を15~25℃に保ったまま62時間反応させた。反応に伴い、細かい白色の固体が生成した。反応液を加圧ろ過器へ移し、未反応のフッ化水素カリウムと生成物をろ別した。ろ過器にアセトニトリルを加え、ろ液が透明になるまでろ別した固体を洗浄し、洗浄液を回収した。ろ液と洗浄液をエバポレーターにかけてアセトニトリルを留去した。乾固して残った固体にトルエンの950mLを添加し、100℃に加熱して固体をトルエンに溶解させた。溶解液を自然ろ過して未溶解分を除去した。ろ液を1Lのセパラブルフラスコへ移し、気相部を窒素ガスでシールしながら14時間放冷したところ、セパラブルフラスコ内に薄茶色の針状結晶が析出した。トルエンで結晶を洗浄し、窒素ガス気流下、25℃にて30時間乾燥させた。乾燥後の固体を回収しH-NMR及び19F-NMRで分析したところ、純度97.6%の化合物4-1の58.1gが得られたことを確認した。化合物3-1基準の収率は72.3%となった。
【0141】
【化29】
【0142】
化合物4-1のNMRスペクトル;
H-NMR:4.97ppm(-CH-、4H、d、J=3.1Hz)。
19F-NMR:62.4ppm(-SOF、2F、t、J=3.1Hz)。
13C-NMR:60.7ppm(-CH-)、184.9ppm(C=O)。
【0143】
(例1-4)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の9.93gとアセトニトリルの89.7gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を6.7L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから反応液の103.2gを回収した。反応液を19F-NMRで定量分析したところ、化合物5-1が8.4質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は66%となった。
【0144】
【化30】
【0145】
化合物5-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-104.1ppm(-CF-、4F、s)、45.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0146】
(例1-5)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の19.9gとアセトニトリルの85.6gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=10.3モル%/89.7モル%)を16.4L/hrの流量で6.5時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の109.6gを回収した。
【0147】
(例1-6)
200mLのニッケル製オートクレーブに、化合物4-1の20.1gとアセトニトリルの80.1gを仕込んだ。オートクレーブを冷却し、内温を0~5℃に保ちながら窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードして、反応液を1時間バブリングした。反応液の温度を0~5℃に保ちながら、フッ素ガスと窒素ガスとの混合ガス(混合比=20.0モル%/80.0モル%)を8.4L/hrの流量で6時間かけて導入した。再び窒素ガスを6.7L/hrの流量でフィードし、反応液を1時間バブリングした。オートクレーブから化合物5-1を含む反応液の107.1gを回収した。
【0148】
(例1-7)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの1.65gとジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)の7.8mLを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-4で得た反応液の8.43gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には15分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、15~20℃で1時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の6.56gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて20~25℃で3.5時間反応させた。吸引ろ過により反応液から副生固体を除去し、ろ液を回収した。ろ過残固体は適当量のアセトニトリルで洗浄し、洗浄液はろ液と混合した。ろ液の37.1gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が2.04質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は46.6%となった。
【0149】
【化31】
【0150】
化合物7-1のNMRスペクトル;
19F-NMR:-191.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、38、14Hz)、-133.8ppm(-O-CF-、1F、tt、J=21.3、6.1Hz)、-103.1ppm(-CF-SOF、4F、m)、-101.5ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=116、49、27Hz)、-87.6ppm(CF=CF-、1F、ddt、J=49、38、7Hz)、-67.5ppm(-CF-O-、2F、m)、46.8ppm(-SOF、2F、s)。
【0151】
(例1-8)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた500mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの36.6gとアセトニトリルの125.6gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-5で得た反応液の79.8gを、プラスチック製滴下ロートを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には23分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で5.5時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の146.0gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で16時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の412.3gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が3.93質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は55.9%となった。ろ液を減圧蒸留することにより、沸点97.2℃/10kPa留分として化合物7-1を単離した。ガスクロマトグラフィー純度は98.0%であった。
【0152】
(例1-9)
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下ロートを備えた50mLの4つ口フラスコに、フッ化カリウムの3.70gとアセトニトリルの10.9gを仕込んだ。フラスコを氷浴で冷却し、撹拌して内温を0~10℃に保ちながら例1-6で得た反応液の10.2gを、プラスチックシリンジを用いて滴下した。強い発熱を確認し、滴下には8分を要した。滴下完了後に氷浴を水浴に替え、20~30℃で3時間反応させた。再度氷浴にて冷却し、反応液の温度を0~10℃に保ちながら滴下ロートから化合物6-1の14.6gを滴下した。滴下完了後、氷浴を水浴に替えて15~25℃で17時間反応させた。例1-7と同様にして吸引ろ過し、得られたろ液の55.9gを19F-NMRで定量分析したところ、化合物7-1が4.77質量%含まれていることを確認した。化合物4-1基準の反応収率は69.6%となった。また化合物1-1基準の反応収率(モノマー合成工程全体での反応収率)は、28.2%となった。
【0153】
[例2]
(例2-1)
オートクレーブ(内容積100mL、ステンレス製)に、化合物7-1の103.0gを入れ、液体窒素で冷却して脱気した。オートクレーブにTFEを導入し、内温が100℃になるまでオイルバスにて加温した。このときの圧力は0.20MPa(ゲージ圧)であり、TFEの分圧は0.29MPa(絶対圧)であった。重合開始剤であるPFtBPOの105.8mgとHFC-52-13pの6.46gとの混合液をオートクレーブ内に圧入した。さらに圧入ラインから窒素ガスを導入し、圧入ライン内の圧入液を完全に押し込んだ。この操作により気相部のTFEが希釈された結果、圧力は0.60MPa(ゲージ圧)まで増加した。圧力を0.60MPa(ゲージ圧)で維持したままTFEを連続添加して重合した。12.5時間でTFEの添加量が3.84gになったところでオートクレーブ内を冷却して重合を停止し、系内のガスをパージした。反応液をHFC-52-13pで希釈した後、HFE-347pc-fを添加し、ポリマーを凝集してろ過した。その後、HFC-52-13p中でポリマーを撹拌して、HFE-347pc-fで再凝集する操作を2回繰り返した。120℃で真空乾燥して、TFEと化合物7-1とのコポリマーであるポリマーF-1の7.61gを得た。結果を表1に示す。
(例2-2~2-3)
例2-1の各条件を表1のように変更した。重合開始剤にtBPOを用いた。所定の重合温度まで加温しながら窒素ガスを導入したのちに、表1に示した圧力のTFEを仕込んで重合圧力とした。重合開始剤を初期一括で圧入する代わりに、例2-2では化合物7-1に溶解したtBPOの0.20質量%溶液、例2-3では化合物7-1に溶解したtBPOの0.05質量%溶液、を重合開始時及び30分毎に圧入ラインから間欠添加させた(重合開始剤及び化合物7-1の合計添加量を表1に示した)。それ以外は、例2-1と同様にしてポリマーF-2~ポリマーF-3を得た。結果を表1に示す。
【0154】
【表1】
【0155】
[例3]
(例3-1)
例2-1で得たポリマーF-1の2.0gを、HFC-52-13pの198.0gとともに温度計、撹拌機を備えた0.2Lのオートクレーブに入れ、80℃で3時間撹拌して溶液を調製した。溶液を冷却した後、オートクレーブを開蓋してポリマーF-1の溶解を確認した。溶液は無色透明の液体であった。再びオートクレーブを閉じた後、オートクレーブをドライアイス/エタノール浴に浸し、200rpmの速度で撹拌しながら冷却した。内温が-30℃まで低下した後、真空ポンプでオートクレーブの気相部を吸引し、内圧を-0.04MPa(ゲージ圧)まで減圧した。その後、気相部にアンモニアガスの2.35gを導入した。アンモニアガスの導入は内温が-15℃を上回らないよう速度を調節しながら行い、この間、内温を-30℃~-20℃で制御した。このときの内圧は0MPa(ゲージ圧)まで上昇した。アンモニアガスの導入を終了した後、オートクレーブの冷却を終了した。5℃まで温度が上がったところで気相部に窒素ガスを導入して内圧を0.49MPa(ゲージ圧)まで加圧した。その後、25℃にて15時間反応を継続させた。アンモニアガスをパージし、容器の内圧を常圧まで戻した。オートクレーブを開蓋したところ、溶液中に白色のポリマー(単位u1a-1を有するポリマー「ポリマーIa-1))が析出しているのを確認した。析出したポリマーを吸引ろ過にて回収し、HFC-52-13pでポリマーを洗浄した。ポリマーを3Nの塩酸にて3回洗浄し、さらに超純水にて3回洗浄した後、乾燥し、白色のポリマー(単位u1b-1を有するポリマー(以下、「ポリマーIb-1」ともいう)の1.8gを得た。
【0156】
【化32】
【0157】
得られた白色のポリマーを赤外分光分析法により分析したところ、ポリマーF-1が有する1467cm-1付近のSOF基由来のピークは完全に消失し、代わって1350cm-1、1085cm-1、1036cm-1付近のSONHSO基に由来するピークが現れていることを確認した。また、SONH基に由来する1385cm-1付近のピークや、SOH基に由来する1060cm-1付近のピークは確認されなかった。すなわちSOF基が定量的にSONHSO基に変換されたポリマーIb-1が生成していることを確認した。ポリマーF-1が有するSOF基が定量的に1,3-ジスルホンイミド基に変換されたと仮定すると、ポリマーIb-1のイオン交換容量は1.22ミリ当量/g乾燥樹脂となる。
【0158】
[例3]
(例3-2~例3-3)
例3-1と同様にしてポリマーF-2~F-3を処理し、ポリマーIb-2~Ib-3を得た。いずれのポリマーにおいても変換は定量的に進行したことを赤外分光分析法により確認した。ポリマーIb-2、Ib-3のイオン交換容量を表2に示す。
【0159】
[例4]
(例4-1)
ポリマーIb-1の1.6gにエタノールの11.5g、水の2.8gを加え、撹拌しながら80℃で加熱した。1時間撹拌した後、放冷し、加圧ろ過(ろ紙:アドバンテック東洋社製、PF040)を用いてろ過することによって、ポリマーIb-1がエタノールと水との混合溶媒に10.0質量%で分散した液状組成物(以下、「液状組成物S-1」ともいう)の15gを得た。E型粘度計を用いて、ずり速度76.6s-1における25℃の粘度を測定したところ、80mPa・sであった。
【0160】
(例4-2~例4-3)
例4-1と同様にしてポリマーIb-2~Ib-3を処理し、表2に記載の液状組成物S-2~S-3を得た。液状組成物S-2は濃度が19.3質量%、溶媒の質量比はエタノール/水=47/53であった。液状組成物S-3は濃度が9.2質量%、溶媒の質量比はエタノール/水=50/50であった。
【0161】
[例5]
(例5-1)
液状組成物S-1を100μmのエチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー製シート上に、ダイコータにて塗工して製膜し、110℃の乾燥炉中で30分乾燥させた。その後180℃の乾燥炉中で30分熱処理した。膜の厚さの制御は液状組成物の塗膜の厚さを調節することにより行った。これによりポリマーIb-1からなる厚さ50μmの固体高分子電解質膜を形成した。結果を表2に示す。
(例5-2~例5-3)
例4-2~例4-3で得られた液状組成物S-2~S-3を使用した以外は例5-1と同様にして、ポリマーIb-2およびポリマーIb-3からなる厚さ50μmの固体高分子電解質膜を形成した。結果を表2に示す。
【0162】
【表2】
【0163】
[例6]
ポリマーIb-1の膜の1.0gを1Nの水酸化リチウム水溶液の200mLに90℃で16時間浸漬し、イオン交換を行った。膜を取り出し、超純水にて3回洗浄した後、乾燥し、単位u1c-1(M=リチウム原子)を有するポリマーIc-1の膜を得た。赤外分光分析法により分析したところ、SOLiSO基に由来するピーク1037、1089、1353cm-1を確認した。
【0164】
【化33】
【0165】
[例7]
ポリマーIb-1の膜の1.0gを1Nの水酸化ナトリウム水溶液の200mLに90℃で16時間浸漬し、イオン交換を行った。膜を取り出し、超純水にて3回洗浄した後、乾燥し、単位u1c-1(M=ナトリウム原子)を有するポリマーIc-1の膜を得た。赤外分光分析法により分析したところ、SONaSO基に由来するピーク1036、1088、1355cm-1を確認した。
【0166】
[例8]
ポリマーIb-1の膜の1.0gを1Nの水酸化カリウム水溶液の200mLに90℃で16時間浸漬し、イオン交換を行った。膜を取り出し、超純水にて3回洗浄した後、乾燥し、単位u1c-1(M=カリウム原子)を有するポリマーIc-1の膜を得た。赤外分光分析法により分析したところ、SOSO基に由来するピーク1037、1088、1353cm-1を確認した。
【0167】
[例9]
ポリマーIb-1の膜の1.0gを1Nの水酸化アンモニウム水溶液の200mLに90℃で16時間浸漬し、イオン交換を行った。膜を取り出し、超純水にて3回洗浄した後、乾燥し、単位u1f-1を有するポリマーIf-1の膜を得た。赤外分光分析法により分析したところ、SONH SO基に由来するピーク1035、1086、1345cm-1、およびアンモニウムイオンに由来するピーク1430、3260cm-1を確認した。
【0168】
【化34】
【0169】
[例10]
(例10-1)
特許第6468475号公報の実施例8(イオン交換樹脂液AV1)に記載の方法で、イオン交換容量が1.25ミリ当量/グラム乾燥樹脂である酸型スルホン酸基含有フッ素ポリマーが分散した液状組成物(固形分濃度=28.0質量%、エタノール/水=60/40(質量比))を得た。該液状組成物をエチレン‐テトラフルオロエチレンコポリマーシート上に膜厚が25μmになるよう液状組成物の塗工量を調節しながらダイコータで塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、厚さ25μmの電池評価用電解質膜を得た。
カーボン粉末に白金を50質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製、商品名:TEC10E50E)の3.0gに水19.8g、エタノール12.65g、液状組成物S-2の5.86gを添加し、遊星ビーズミルに300rpmで90分間かけて均一に分散した。これに、水4.13g、エタノールを6.20g添加してさらに遊星ビーズミルに300rpmで90分間かけて固形分が8質量%のカソード触媒層形成用塗工液を得た。該カソード触媒層形成用塗工液を上記電池評価用電解質膜上にアプリケータで塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.2mg/cm2のカソード触媒層付き電解質膜を作成した。
【0170】
特開2018-55877号公報の例4に記載の方法で、イオン交換容量が1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂である酸型スルホン酸基含有含フッ素ポリマーが分散した液状組成物S-4(固形分濃度=26.0質量%、エタノール/水=60/40(質量比))を得た。
カーボン粉末に白金を50質量%担持した担持触媒(田中貴金属工業社製、商品名:TEC10E50E)の20.0gに水117gを添加し、超音波を10分かけて均一に分散させた。これに上記液状組成物の30.8gを添加し、さらにエタノールを112g添加して固形分が10質量%の触媒層形成用塗工液を得た。該触媒層形成用塗工液をエチレン‐テトラフルオロエチレンコポリマーシート上に塗布し、80℃で乾燥させ、さらに160℃で30分の熱処理を施し、白金量が0.4mg/cmのアノード触媒層シートを作成した。
【0171】
先に得られたカソード触媒層付き電解質膜のカソード触媒層が存在しない面にアノード触媒層シートのアノード触媒層が存在する面を重ね合わせ、プレス条件:130℃、5分、1.5MPaで加熱プレスして、アノード触媒層を電解質膜に接合し、エチレン‐テトラフルオロエチレンコポリマーシートを剥離して電極面積25cmの膜触媒層接合体を得た。
該膜触媒層接合体を、アノード用ガス拡散基材(NOK社製、商品名:X0086 IX92 CX320)とカソード用ガス拡散基材(NOK社製、商品名:H2315 T10X6 CX96)で挟み込んで膜電極接合体を得た。該ガス拡散基材は、片側の表面にカーボン粒子とPTFEとからなるカーボン層を有しており、該カーボン層が膜触媒層接合体の触媒層と接触するように配置した。作成した膜電極接合体を発電用セルに組み込み、上述の初期発電特性試験によりセル電圧を測定した。結果を表3に示す。
(例10-2)
カソード触媒層塗工液に液状組成物S-3を用い、カソード触媒層塗工液の組成が変わらないように液状組成物および溶媒の添加量を調整した以外は例10-1と同様にして膜電極接合体を得た。作成した膜電極接合体を発電用セルに組み込み、上述の初期発電特性試験によりセル電圧を測定した。結果を表3に示す。
[例11]
カソード触媒層塗工液に、液状組成物S-4を用い、カソード触媒層塗工液の組成が変わらないように液状組成物おおよび溶媒の添加量を調整した以外は例10-1と同様にして膜電極接合体を得た。作成した膜電極接合体を発電用セルに組み込み、上述の初期発電特性試験によりセル電圧を測定した。結果を表3に示す。
【0172】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0173】
本発明のポリマーは、固体高分子形燃料電池用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、固体高分子形水電解用膜電極接合体における触媒層や固体高分子電解質膜、塩化アルカリ電解や電気透析に用いられる陽イオン交換膜、水電解に用いられるイオン交換膜、レドックスフロー二次電池用の隔膜、電気化学的水素ポンプ用イオン交換膜、固体酸触媒、ガス分離膜、帯電防止コーティング、帯電防止フィルム、固相フッ素化剤等に含まれるポリマーとして有用である。
なお、2018年12月19日に出願された日本特許出願2018-237168号の明細書、特許請求の範囲、図面および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0174】
10 膜電極接合体、11 触媒層、12 ガス拡散層、13 アノード、14 カソード、15 固体高分子電解質膜、16 カーボン層。
図1
図2