(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】パウダー分散液、積層体及びプリント基板
(51)【国際特許分類】
C08L 27/18 20060101AFI20231011BHJP
C08L 33/04 20060101ALI20231011BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20231011BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08L27/18
C08L33/04
C08L79/08
B32B15/08 J
(21)【出願番号】P 2020563199
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019050087
(87)【国際公開番号】W WO2020137879
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018245153
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019071909
(32)【優先日】2019-04-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019154856
(32)【優先日】2019-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019165649
(32)【優先日】2019-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】寺田 達也
(72)【発明者】
【氏名】結城 創太
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-034289(JP,A)
【文献】特開2012-082329(JP,A)
【文献】特開2018-002980(JP,A)
【文献】特開平11-209548(JP,A)
【文献】特開平06-172745(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
B32B 15/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレンに基づく単位及びペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む溶融温度が250~380℃であるテトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、
水酸基又はオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む(メタ)アクリレート系ポリマーと、
濃度0.5g/dLとなるように、N-メチル-2-ピロリドンに溶解して溶液を調製したとき、該溶液の30℃における対数粘度が0.2~3dL/gであるポリイミド前駆体又はポリイミドと、極性有機溶媒とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10~60質量%であり、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記ポリイミド前駆体又はポリイミドの含有量の質量での比が0.3以下であ
り、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記(メタ)アクリレート系ポリマーの含有量の質量での比が0.02~0.15である、パウダー分散液。
【請求項2】
前記
テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記ポリイミド前駆体又はポリイミドの含有量の質量での比が、0.005以上0.1以下である、請求項1に記載のパウダー分散液。
【請求項3】
前記ポリイミド前駆体又はポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてなる、芳香族ポリイミド前駆体又は芳香族ポリイミドである、請求項1
又は2に記載のパウダー分散液。
【請求項4】
前記(メタ)アクリレート系ポリマーは、フルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、請求項1~
3のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項5】
前記極性有機溶媒が、環状エステル、環状ケトン又は環状アミドである、請求項1~
4のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項6】
さらに、無機フィラーを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項7】
さらに、無機フィラーを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の質量での比が0.3以下である、請求項1~
6のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項8】
前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を全単位に対して2.0~5.0モル%含む極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーである、請求項1~
7のいずれか1項に記載のパウダー分散液。
【請求項9】
金属基板層と、該金属基板層の表面に設けられ、請求項1~
8のいずれか1項に記載のパウダー分散液から形成されたポリマー層とを有する、積層体。
【請求項10】
請求項
9に記載の積層体が有する前記金属基板層がパターン回路に加工されてなる、プリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、ポリイミド前駆体又はポリイミドとを、所定量で含むパウダー分散液、かかる分散液から形成される層を有する積層体及びプリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のテトラフルオロエチレン系ポリマーは、耐薬品性、撥水撥油性、耐熱性、電気特性等の物性に優れており、パウダー、パウダー分散液、フィルム等の使用形態と、その物性を活用した種々の用途とが知られている。
近年では、電気特性と耐熱性とに優れたプリント基板に加工可能な金属張積層体を作製する際に、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーを含むパウダー分散液に、各種材料を更に混合した分散液が検討されている。特許文献1では、かかるパウダーとポリイミド前駆体とを含むパウダー分散液を用いて、金属張積層体を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テトラフルオロエチレン系ポリマーは、ポリイミド前駆体又はポリイミド等の他の各種材料との親和性が総じて低い。このため、上記パウダー分散液は、その状態安定性(分散性、粘度、チキソ性等)が未だ充分とは言えない。より電気特性に優れた層(塗膜)を形成するために、パウダー分散液におけるテトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量を高める(相対的にポリイミドの含有量を低める)と、その状態安定性が低下し、層(塗膜)の物性が低下する課題があることを、本発明者らは知見している。
【0005】
本発明者らは、テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーとポリイミド前駆体又はポリイミドとを含み、前者の含有量が高いパウダー分散液における、かかる課題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、それぞれのポリマーの含有量及び質量比と、(メタ)アクリレート系ポリマーの配合との調整が有効であることを知見した。さらに、この場合のパウダー分散液からは、層(塗膜)形成時に粉落ちが抑制され、表面の平滑性に優れ、吸水率の低い層(塗膜)が形成され、層(塗膜)の接着性及びUV加工性が優れることを知見した。
【0006】
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいてなされた発明であり、その目的は、分散性に優れ、層(塗膜)形成時に粉落ちが生じにくく、得られる層(塗膜)の表面の平滑性及びUV加工性を向上し得るパウダー分散液、並びにかかるパウダー分散液を使用して得られる積層体及びプリント基板の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> テトラフルオロエチレン系ポリマーのパウダーと、(メタ)アクリレート系ポリマーと、ポリイミド前駆体又はポリイミドと、極性有機溶媒とを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量が10~60質量%であり、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記ポリイミド前駆体又はポリイミドの含有量の質量での比が0.3以下である、パウダー分散液。
<2> 前記比が、0.005以上0.1以下である、上記<1>のパウダー分散液。
<3> 前記ポリイミド前駆体又はポリイミドを、濃度0.5g/dLとなるように、N-メチル-2-ピロリドンに溶解して溶液を調製したとき、該溶液の30℃における対数粘度が0.2~3dL/gである、上記<1>又は<2>のパウダー分散液。
<4> 前記ポリイミド前駆体又はポリイミドが、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてなる、芳香族ポリイミド前駆体又は芳香族ポリイミドである、上記<1>~<3>のいずれかのパウダー分散液。
<5> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記(メタ)アクリレート系ポリマーの含有量の質量での比が0.02~0.15である、上記<1>~<4>のいずれかのパウダー分散液。
<6> 前記(メタ)アクリレート系ポリマーは、水酸基又はオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、上記<1>~<5>のいずれかのパウダー分散液。
<7> 前記(メタ)アクリレート系ポリマーは、フルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含む、上記<1>~<6>のいずれかのパウダー分散液。
<8> 前記極性有機溶媒が、環状エステル、環状ケトン又は環状アミドである、上記<1>~<7>のいずれかのパウダー分散液。
<9> さらに、無機フィラーを含む、上記<1>~<8>のいずれかのパウダー分散液。
<10> さらに、無機フィラーを含み、前記テトラフルオロエチレン系ポリマーの含有量に対する前記無機フィラーの含有量の質量での比が0.3以下である、上記<1>~<9>のいずれかのパウダー分散液。
<11> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位に基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、数平均分子量が20万以下であるポリテトラフルオロエチレンである、上記<1>~<10>のいずれかのパウダー分散液。
<12> 前記テトラフルオロエチレン系ポリマーが、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む極性官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を全単位に対して2.0~5.0モル%含む極性官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーである、上記<1>~<11>のいずれかのパウダー分散液。
<13> 金属基板層と、該金属基板層の表面に設けられ、上記<1>~<12>のいずれかのパウダー分散液から形成されたポリマー層とを有する、積層体。
<14> 上記<13>の積層体が有する前記金属基板層がパターン回路に加工されてなる、プリント基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分散性に優れ、層(塗膜)形成時に粉落ちが生じにくいパウダー分散液、並びに表面の平滑性及びUV加工性に優れる層(塗膜)を有する積層体及びプリント基板が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】フィルムAから得られた両面銅張積層体における貫通孔の周辺の断面を撮影した顕微鏡写真である。
【
図2】フィルムEから得られた両面銅張積層体における貫通孔の周辺の断面を撮影した顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語は、以下の意味を有する。
「パウダーのD50」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダーを構成する粒子(以下、「パウダー粒子」とも記す。)の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径(体積基準累積50%径)である。
「パウダーのD90」は、レーザー回折・散乱法によってパウダーの粒度分布を測定し、パウダー粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒子径(体積基準累積90%径)である。
つまり、パウダーのD50及びD90は、それぞれ、パウダー粒子の体積基準累積50%径及び体積基準累積90%径である。
「ポリマーの溶融粘度」は、ASTM D 1238に準拠し、フローテスター及び2Φ-8Lのダイを用い、予め測定温度にて5分間加熱しておいたポリマーの試料(2g)を0.7MPaの荷重にて測定温度に保持して測定した値である。
「パウダー分散液の粘度」は、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下でパウダー分散液について測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「パウダー分散液のチキソ比」は、回転数が30rpmの条件で測定されるパウダー分散液の粘度η1を、回転数が60rpmの条件で測定されるパウダー分散液の粘度η2で除した値(η1/η2)である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。また、モノマーAに基づく単位をモノマーA単位とも記す。
【0011】
本発明のパウダー分散液(本分散液)は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)を含むパウダーと、(メタ)アクリレート系ポリマー(以下、「Aポリマー」とも記す。)と、ポリイミド前駆体又はポリイミド(以下、まとめて「PI」とも記す。)と、極性有機溶媒とを含む。上記パウダーは、極性有機溶媒中に分散しているとも言える。
本分散液は、Fポリマーの含有量が10~60質量%であり、Fポリマーの含有量に対するPIの含有量の質量での比が0.3以下である。つまり、本分散液は、Fポリマーの含有量が高くPIの含有量が低い、Aポリマーを含む分散液であるとも言える。
【0012】
本分散液が、分散性、粘度、チキソ性等の状態安定性に優れ、層(塗膜)形成時に粉落ちしにくく、表面の平滑性と接着性とUV加工性とに優れ、吸水率の低い層(塗膜)を形成する理由は、必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
Aポリマーが極性有機溶媒に高度に溶解するか分散するため、極性有機溶媒の表面張力は低下する。これにより、本発明における分散媒は、Fポリマーと濡れやすい状態になるため、高含有量のFポリマーのパウダーが高度に分散したと考えられる。また、PIは、少量成分であり、分散媒中で自由度の高い状態にあり、それぞれのポリマーと相互作用しやすいと考えられる。かかる理由により、本分散液は、状態安定性に優れている。
【0013】
かかるパウダー分散液を、例えば、金属基板の表面に付与及び加熱し、Fポリマーを含むポリマー層(以下、「F層」とも記す。)を金属基板層の表面に形成すると、積層体が得られる。この際、パウダー分散液に均一に存在するPIがバインダーとして機能し、F層の形成に伴うパウダーの脱落(粉落ち)を抑制すると考えられ、結果、表面の平滑性の高いF層が形成されたと考えられる。また、PIは、そのままF層中に均一に存在するため、接着性とUV加工性とに優れ、吸水率の低いF層が形成されたと考えられる。
以上のような効果は、後述する本発明の好ましい態様において、顕著に発現する。
【0014】
本発明におけるパウダーのD50は、0.05~6μmが好ましく、0.05~3μmがより好ましい。この範囲において、パウダーの流動性と分散性とが良好となり、F層の電気特性(低誘電率等)や耐熱性が最も発現しやすい。パウダーのD90は、8μm以下が好ましく、5μm以下がさらに好ましい。この範囲において、パウダーの流動性と分散性とが良好となり、F層の電気特性(低誘電率等)や耐熱性が最も発現しやすい。
パウダーの疎充填嵩密度は、0.08~0.5g/mLが好ましい。パウダーの密充填嵩密度は、0.1~0.8g/mLが好ましい。疎充填嵩密度又は密充填嵩密度が上記範囲にある場合、パウダーのハンドリング性が優れる。
【0015】
本発明におけるパウダーは、Fポリマー以外の樹脂を含んでいてもよく、Fポリマーからなるのが好ましい。パウダーにおけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
上記樹脂としては、芳香族ポリエステル、ポリアミドイミド、熱可塑性ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキシドが挙げられる。
【0016】
本発明におけるFポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)を含むポリマーである。
Fポリマーは、TFE単位からなるホモポリマー(PTFE)、TFE単位とペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)に基づく単位(PAVE単位)とを含むコポリマー(PFA)、TFE単位とヘキサフルオロプロピレン(HFP)に基づく単位(HFP単位)とを含むコポリマー(FEP)又はTFE単位とフルオロアルキルエチレン(FAE)に基づく単位(FAE単位)とを含むコポリマーが好ましい。
【0017】
PTFEは、TFE単位以外の他の単位を極微量含むポリマーも包含される。他の単位を極微量含むポリマーは、このポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位を、99.5モル%以上含むのが好ましく、99.9モル%以上含むのがより好ましい。
また、かかるポリマーの380℃における溶融粘度は、1×102~1×108Pa・sが好ましく、1×103~1×106Pa・sがより好ましい。
かかるポリマーとしては、低分子量のPTFEが挙げられる。
【0018】
低分子量のPTFEは、高分子量のPTFE(溶融粘度が1×109~1×1010Pa・s程度)に放射線を照射して得られるPTFE(国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等に記載のポリマー)であってもよく、TFEを重合してPTFEを製造する際に連鎖移動剤を用いて得られるPTFE(特開2009-1745号公報、国際公開第2010/114033号、特開2015-232082号公報等に記載のポリマー)であってもよく、コア部分とシェル部分とからなるコア-シェル構造を有するポリマーであって、シェル部分のみが上記溶融粘度を有するPTFE(特表2005-527652号公報、国際公開第2016/170918号、特開平09-087334号公報等に記載のポリマー)であってもよい。
【0019】
Fポリマーは、TFE単位以外の他の単位を含むポリマーも包含される。他の単位を含むポリマーは、このポリマーの全単位に対して、他の単位を0.5モル%超含むのが好ましい。かかる他の単位は、PAVE単位、HFP単位、FAE単位又は後述する官能基を有する単位が好ましい。
Fポリマーは、カルボニル基含有基、ヒドロキシ基、エポキシ基、オキセタニル基、アミノ基、ニトリル基及びイソシアネート基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有するのが好ましい。Fポリマーが上記官能基を有する場合、F層の接着性がより向上する。なお、カルボニル基含有基には、アミド基が含まれる。
【0020】
上記官能基は、Fポリマーを構成する単位に含まれてもよく、ポリマー主鎖の末端基に含まれてもよく、プラズマ処理等によりFポリマーに導入してもよい。ポリマー主鎖の末端基に上記官能基が含まれるFポリマーとしては、重合開始剤、連鎖移動剤等に由来する末端基として官能基を有するFポリマーが挙げられる。
上記官能基は、ヒドロキシ基又はカルボニル基含有基が好ましく、カルボニル含有基がより好ましく、カーボネート基、カルボキシ基、ハロホルミル基、アルコキシカルボニル基又は酸無水物残基がより好ましく、カルボキシ基又は酸無水物残基がさらに好ましい。
Fポリマーは、TFE単位と、PAVE単位、HFP単位又はFAE単位と、官能基を有する単位とを含むポリマーが好ましい。
【0021】
官能基を有する単位は、官能基を有するモノマーに基づく単位が好ましい。
官能基を有するモノマーとしては、ヒドロキシ基又はカルボニル基含有基を有するモノマーが好ましく、酸無水物残基又はカルボキシ基を有するモノマーがより好ましく、酸無水物残基を有する環状モノマーがさらに好ましい。
環状モノマーとしては、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が挙げられ、NAHが好ましい。
【0022】
PAVEとしては、CF2=CFOCF3、CF2=CFOCF2CF3、CF2=CFOCF2CF2CF3(PPVE)、CF2=CFOCF2CF2CF2CF3、CF2=CFO(CF2)8Fが挙げられ、PPVEが好ましい。
FAEとしては、CH2=CH(CF2)2F、CH2=CH(CF2)3F、CH2=CH(CF2)4F、CH2=CF(CF2)3H、CH2=CF(CF2)4Hが挙げられ、CH2=CH(CF2)4F又はCH2=CH(CF2)2Fが好ましい。
この場合、Fポリマーに含まれる全単位に対して、TFE単位は90~99モル%含まれるのが好ましく、PAVE単位、HFP単位又はFAE単位は0.5~9.97モル%含まれるのが好ましく、官能基を有する単位は0.01~3モル%含まれるのが好ましい。
この場合、Fポリマーの溶融温度は、250~380℃が好ましく、280~350℃がより好ましい。
かかるFポリマーの具体例としては、国際公開第2018/16644号に記載のポリマーが挙げられる。
【0023】
Fポリマーの好適な態様としては、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含むテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、数平均分子量が20万以下であるPTFEが挙げられる。
なお、上記PTFEの数平均分子量は、下式(1)に基づいて算出される値である。
Mn = 2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、Mnは、上記PTFEの数平均分子量を、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定される前記PTFEの結晶化熱量(cal/g)を、それぞれ示す。
上記PTFEのMnは、10以下が好ましく、5万以下がより好ましい。上記PTFEのMnは、1万以上が好ましい。
【0024】
Fポリマーのより好適な態様としては、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を含む官能基を有するテトラフルオロエチレン系ポリマー、又は、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)に基づく単位を全単位に対して2.0~5.0モル%含む官能基を有さないテトラフルオロエチレン系ポリマーが挙げられる。
この態様のFポリマーは、そのパウダーが分散安定性に優れるだけでなく、本分散液から形成されるF層において、緻密かつ均一に分布しやすい。さらに、F層において微小球晶を形成しやすく、他の成分との密着性が高まりやすい。その結果、3成分それぞれの物性を高度に具備したF層が、より形成されやすい。
【0025】
前者のポリマーは、全単位に対して、TFE単位を90~99モル%、PAVE単位を0.5~9.97モル%及び官能基を有するモノマーに基づく単位を0.01~3モル%、それぞれ含有するのが好ましい。
後者のポリマーにおけるPAVE単位の含有量は、全単位に対して、2.1モル%以上が好ましく、2.2モル%以上がより好ましい。
後者のポリマーは、TFE単位及びPAVE単位のみからなり、全単位に対して、TFE単位を95.0~98.0モル%、PAVE単位を2.0~5.0モル%含有するのが好ましい。
【0026】
なお、後者のポリマーが官能基を有さないとは、ポリマー主鎖を構成する炭素原子数の1×106個あたりに対して、ポリマーが有する官能基の数が、500個未満であることを意味する。上記官能基の数は、100個以下が好ましく、50個以下がより好ましい。上記官能基の数の下限は、通常、0個である。
後者のポリマーは、ポリマー鎖の末端基として官能基を生じない、重合開始剤や連鎖移動剤等を使用して製造してもよく、官能基を有するFポリマー(重合開始剤に由来する極性官能基をポリマーの主鎖の末端基に有するFポリマー等)をフッ素化処理して製造してもよい。フッ素化処理の方法としては、フッ素ガスを使用する方法(特開2019-194314号公報等を参照)が挙げられる。
【0027】
本発明における極性有機溶媒は、25℃で液体の化合物であり、水性溶媒であってもよく、非水性溶媒であってもよい。
極性有機溶媒は、アミド、アルコール、スルホキシド、エステル、ケトン又はグリコールエーテルが好ましく、エステル、ケトン又はアミドがより好ましく、環状エステル、環状ケトン又は環状アミドがさらに好ましい。本発明におけるAポリマーは、これらの極性有機溶媒との相互作用が高く、よってパウダー分散液の層(塗膜)形成性(チキソ比、接着性、透明性等)が向上しやすい。極性有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
極性有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジエチルエーテル、ジオキサン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ-ブチロラクトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、セロソルブ(メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)が挙げられる。
極性有機溶媒は、沸点が80~275℃の化合物がより好ましく、沸点が125~250℃の化合物がさらに好ましい。この範囲において、パウダー分散液から極性有機溶媒を加熱留去させた際、極性有機溶媒の揮発とAポリマーの分解及び流動とが効果的に進行する。
かかる極性有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、シクロヘキサノン又はシクロペンタノンが好ましく、シクロヘキサノン又はN-メチル-2-ピロリドンがより好ましい。
【0029】
本発明におけるAポリマーは、アクリレート又はメタクリレートの単位を含むポリマーである。なお、Aポリマーは、Fポリマー以外のポリマーである。
Aポリマーは、水酸基、オキシアルキレン基又は熱分解性基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位(以下、「単位H」とも記す。)を含むのが好ましく、水酸基又はオキシアルキレン基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位を含むのがより好ましい。
かかる(メタ)アクリレートとしては、下式(1)~(3)で表される化合物が挙げられる。
式(1):CH2=CXHC(O)O-Q1-R1
式(2):CH2=CXHC(O)OC(-R2)3
式(3):CH2=CXHC(O)OC(-R31)(-R32)2
式中の記号は、以下の意味を示す。
XHは、水素原子又はメチル基である。
Q1は、ポリオキシアルキレン基であり、ポリオキシエチレン基又はポリオキシプロピレン基が好ましく、ポリオキシエチレン基がより好ましい。
R1は、水素原子、アルキル基又はアリール基であり、水素原子、メチル基、ノニル基、ラウリル基、ステアリル基、フェニル基、ステアリルフェニル基、ラウリルフェニル基又はノニルフェニル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
R2は、水素原子、アルキル基又はアリール基であり、3個のR2の少なくとも1個は、アリール基である。R2は、炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基が好ましく、メチル基又はフェニル基がより好ましい。
R31は、水素原子又はアルコキシ基であり、水素原子又は炭素数1~3のアルコキシ基が好ましく、水素原子がより好ましい。
2個のR32は、共同してアルキレン基を形成している。
【0030】
かかる(メタ)アクリレートに基づく単位を含むAポリマーは、パウダー分散液中のFポリマーのパウダーの分散とPIに対する相互作用とを促すだけでなく、パウダー分散液を加熱して層(塗膜)を形成する際には分解しやすいため、パウダー分散液の層(塗膜)形成性を特に向上させやすい。
【0031】
上記化合物の具体例としては、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)10-H、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)23-H、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)23-CH3、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)66-CH3、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)90-CH3、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)120-CH3、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)30-(CH2)12H、CH2=C(CH3)C(O)O-(CH2CH2O)6・(CH2CH(CH3)O)5-Ph、CH2=C(CH3)C(O)OCH2Ph、CH2=C(CH3)C(O)OCH(CH3)Ph、CH2=C(CH3)C(O)OCH<Nb、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)10-H、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)23-H、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)23-CH3、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)66-CH3、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)90-CH3、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)120-CH3、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)30-(CH2)12H、CH2=CHC(O)O-(CH2CH2O)6・(CH2CH(CH3)O)5-Ph、CH2=CHC(O)OCH2Ph、CH2=CHC(O)OCH(CH3)Ph、CH2=CHC(O)OCH<Nbが挙げられる。なお、上記化合物中、Phはフェニル基を、-CH<Nbはイソボルニル基を、示す。
【0032】
また、Aポリマーは、フルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基を有する(メタ)アクリレートに基づく単位(以下、「単位F」とも記す。)を含むのが好ましい。
かかる(メタ)アクリレートとしては、下式Fで表される化合物が挙げられる。
式F:CH2=CXFC(O)O-QF-RF
式中の記号は、以下の意味を示す。
XFは、水素原子、塩素原子又はメチル基である。
QFは、メチレン基、エチレン基、オキシエチレン基又はオキシブチレン基である。ただし、RFが炭素数1~6のポリフルオロアルキル基又はエーテル性酸素原子を含む炭素数3~6のポリフルオロアルキル基である場合には、QFはメチレン基又はエチレン基が好ましい。また、RFが炭素数4~12のポリフルオロアルケニル基である場合には、QFはオキシエチレン基又はオキシブチレン基が好ましい。
RFは、炭素数1~6のポリフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を含む炭素数3~6のポリフルオロアルキル基又は炭素数4~12のポリフルオロアルケニル基である。
RFとしては、-(CF2)4F、-(CF2)6F、-CF2OCF2CF2OCF2CF3、-CF(CF3)OCF2CF2CF3、-CF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)又は-C(CF3)C(=C(CF(CF3)2)2)が好ましく、-(CF2)4F、-(CF2)6F、-CF2OCF2CF2OCF2CF3又は-CF(CF3)OCF2CF2CF3がより好ましい。中でも、F層の物性(濡れ性、接着性、平滑性等)が更に優れる観点から、RFは、-(CF2)4F又は-(CF2)6Fがさらに好ましく、-(CF2)6Fが特に好ましい。
【0033】
かかる(メタ)アクリレートに基づく単位を含むAポリマーは、パウダー分散液中のFポリマーのパウダーの分散とPIに対する相互作用を促すため、特に、パウダー分散液の分散性を向上させやすい。
【0034】
上記化合物の具体例としては、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)6F、CH2=CHC(O)OCH2CH2(CF2)6F、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2(CF2)4F、CH2=CClC(O)OCH2CH2(CF2)4F、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2CH2CH2OCF(CF3)C(=C(CF3)2)(CF(CF3)2)、CH2=C(CH3)C(O)OCH2CH2CH2CH2OC(CF3)C(=C(CF(CF3)2)2)が挙げられる。
【0035】
Aポリマーに含まれる全単位に対する単位Hの量は、5~60モル%が好ましく、5~45モル%がより好ましく、10~30モル%がさらに好ましい。
Aポリマーに含まれる全単位に対する単位Fの量は、40~95モル%が好ましく、55~95モル%がより好ましく、70~90モル%がさらに好ましい。
Aポリマーに含まれる全単位に対する各単位の量が上記範囲であれば、パウダー分散液の分散性がより向上し、F層の各種物性がバランスよく発現する。
Aポリマーは、単位H及び単位Fのみからなっていてもよく、本発明の効果を損なわない範囲において、単位H及び単位F以外の追加の単位をさらに含んでいてもよい。
【0036】
本発明におけるAポリマーのフッ素含有量は、10~60質量%が好ましく、20~50質量%がより好ましく、25~45質量%がさらに好ましい。フッ素含有量の下限が上記範囲にあれば、パウダー分散液の分散性が優れる。フッ素含有量の上限が上記範囲にあれば、パウダー分散液の各成分に対するAポリマーの親和性がバランスするため、パウダー分散液の分散性に加えて、その層(塗膜)形成性が向上しやすい。例えば、F層は、濡れ性が高く、表面の平滑性と接着性とに優れる特徴がある。Aポリマーのフッ素含有量は、その合成に際するモノマーの種類と、その仕込量から計算できる。
【0037】
本発明におけるPIは、ポリイミド前駆体又はポリイミドである。ポリイミド前駆体は、Fポリマー(パウダー)の焼成時にイミド化して、ポリイミドとなる化合物である。
ポリイミドとしては、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてなる芳香族ポリイミドが好ましく、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの少なくとも一方が芳香族環を有する芳香族ポリイミド(半芳香族ポリイミド又は全芳香族ポリイミド)がより好ましく、芳香族テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを反応させてなる芳香族ポリイミドがさらに好ましい。
芳香族ポリイミドは、UVレーザーにおいて一般的な波長355nmの紫外線に対する吸収性を有するため、得られるF層のUV加工性がより向上する。また、F層を形成する際に、平面性の高い芳香族環同士が積層した状態となりやすいため、F層の機械的強度や耐熱性も向上する。
【0038】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロルナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナントレン-1,8,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,3,3-テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、4,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物が挙げられる。
【0039】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、メソ-ブタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビスシクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-テトラメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物、1,1’-ビシクロヘキサン-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0040】
芳香族ジアミンとしては、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルジフルオロメタン、4,4’-ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルケトン、3,4’-ジアミノジフェニルケトン、4,4’-ジアミノジフェニルケトン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)プロパン、2,2-(3,4’-ジアミノジフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-(3,4’-ジアミノジフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、3,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4’-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)プロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ブタン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタンが挙げられる。
【0041】
脂肪族ジアミンとしては、1,2-エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,5-ジアミノペンタン、1,10-ジアミノデカン、1,2-ジアミノ-2-メチルプロパン、2,3-ジアミノ-2,3-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)が挙げられる。
【0042】
芳香族ポリイミドとしては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン及び/又は脂肪族ジアミンとを反応させてなる半芳香族又は全芳香族ポリイミドが好ましく、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを反応させてなる全芳香族ポリイミドがより好ましい。
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。一方、芳香族ジアミンとして、o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、及び3,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
これらのモノマーを少なくとも含むPIであれば、F層のUV加工性をより向上できるとともに、F層に対して、プリント基板として使用する際に要求される優れた耐熱性及び低吸水性を付与できる。
【0043】
また、本発明におけるPIの対数粘度(ηihn)は、0.2~3dL/gが好ましく、0.5~2dL/gがより好ましい。なお、対数粘度は、下式で表される値である。
式:ηihn=[ln(η/η0)]/C
式中、ηは、PIを濃度0.5g/dLとなるように、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解して溶液を調製し、この溶液の約30℃(30±0.01℃)における粘度をウベローデ粘度計で測定した値であり、η0は、同溶媒の同温度における粘度を同粘度計で測定した値であり、Cは、濃度0.5g/dLである。
ここで、PIの対数粘度(固有粘度)は、PIの分子量と相関している。
PIの対数粘度が上記範囲であれば、PIの分子量及び粘度が適度になるため、PIのパウダーの沈降抑制効果が好適に発揮され、パウダーのパウダー分散液中での分散性が良好になるとともに、PIがバインダーとして好適に機能し、F層形成時における粉落ち防止効果がより向上する。
【0044】
本分散液中のパウダー(Fポリマー)の割合(含有量)は、10質量%以上であり、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。上記割合は、60質量%以下であり、50質量%以下がより好ましい。この範囲において、表面の平滑性と電気特性と耐熱性とに優れたF層を形成しやすい。
本分散液中の極性有機溶媒の割合(含有量)は、30~70質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましい。この範囲において、パウダー分散液の塗布性が優れ、かつ層形成性が向上しやすい。
本分散液中において、パウダー(Fポリマー)の含有量に対するAポリマーの含有量の質量での比は、0.02~0.15が好ましく、0.05~0.12がより好ましい。この範囲において、パウダー分散液の分散性がより向上し、さらにF層の物性(電気特性、接着性、表面の平滑性等)がより向上しやすい。
【0045】
本分散液中において、パウダー(Fポリマー)の含有量に対するPIの含有量の質量での比は、0.3以下であり、0.1以下が好ましく、0.1未満がより好ましく、0.09以下がさらに好ましく、0.05以下が特に好ましい。
上記質量の比は、0.005以上が好ましく、0.01以上がより好ましい。
上記質量の比の範囲は、0.005以上0.1未満が好ましく、0.01~0.09がより好ましく、0.01~0.05がさらに好ましい。この範囲において、パウダーの沈降が抑制されるのでパウダー分散液の分散性がより向上し、さらにF層におけるパウダーの粉落ち防止効果及びF層のUV加工性付与効果もより向上しやすい。
特に、本発明では、パウダー(Fポリマー)、Aポリマー及びPIの含有量や質量比を上記範囲に設定するので、F層形成時における粉落ちの発生が効果的に抑制されるとともに、F層において各種物性(平滑性、電気特性、耐熱性、低吸水性)が良好なバランスで発揮される。
【0046】
本分散液は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の材料を含んでいてもよい。他の材料は、パウダー分散液に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。
かかる他の材料は、非硬化性樹脂、無機フィラーが挙げられる。
非硬化性樹脂としては、硬化性樹脂の硬化物等の非溶融性樹脂、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂の熱溶融性の硬化物等の熱溶融性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテルが挙げられ、熱可塑性ポリイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド又はポリフェニレンエーテルが好ましい。
【0047】
無機フィラーとしては、窒化物フィラー、無機酸化物フィラーが挙げられ、窒化ホウ素フィラー、べリリア(ベリリウムの酸化物)、シリカフィラー又は金属酸化物(酸化セリウム、アルミナ、ソーダアルミナ、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン等)フィラーが好ましい。
本分散液は、極性ポリマーとも言える、(メタ)アクリレート系ポリマーとポリイミド前駆体又はポリイミドとを含み、その液物性(粘度、チキソ比等)に優れ、無機フィラーを含んでいても分散性に優れる。また、それからF層を形成する際、無機フィラーが粉落ちしにくいだけでなく、それが均一に分布したF層が形成されやすい。
【0048】
無機フィラーの形状は、粒状であってもよく、非粒状(鱗片状、層状)であってもよく、繊維状であってもよく、微細構造を有する無機フィラーを使用するのが好ましい。
かかる微細構造を有する無機フィラーの具体例としては、球状の無機フィラー、繊維状の無機フィラーが挙げられる。
前者の無機フィラーの平均粒子径は、0.001~3μmが好ましく、0.01~1μmがより好ましい。この場合、無機フィラーは、パウダー分散液中の分散性により優れ、F層中においてより均一に分布しやすい。
後者の無機フィラーにおいて、長さは繊維長であり、径は繊維径である。繊維長は、1~10μmが好ましい。繊維径は、0.01~1μmが好ましい。
本分散液が無機フィラーを含む場合、その含有量は、Fポリマーの含有量に対して質量での比において0.1以下が好ましい。
【0049】
無機フィラーは、その表面の少なくとも一部が、有機物、無機物(ただし、無機フィラーを形成する無機物とは異なる無機物である。)、又は、その両方によって、被覆処理(表面処理)されていてもよい。
かかる被覆処理に用いられる有機物としては、多価アルコール(トリメチロールエタン、ペンタエリストール、プロピレングリコール等)、飽和脂肪酸(ステアリン酸、ラウリン酸等)、そのエステル、アルカン―ルアミン、アミン(トリメチルアミン、トリエチルアミン等)、パラフィンワックス、シランカップリング剤、シリコーン、ポリシロキサンが挙げられる。
かかる被覆処理に用いられる無機物としては、アルミニウム、ケイ素、ジルコニウム、スズ、チタニウム、アンチモン等の、酸化物、水酸化物、水和酸化物又はリン酸塩が挙げられる。
【0050】
本分散液に含有させる無機フィラーは、形成されるF層に付与する物性に応じて決定すればよい。
例えば、UV加工性を一層向上させつつ、その反りを高度に抑制したF層を形成する場合には、本分散液は、無機フィラーとして、球状のシリカフィラーを含むのが好ましい。
この場合、球状のシリカフィラーの平均粒子径は、Fポリマーのパウダーの平均粒子径(D50)より小さいのが好ましい。具体的には、Fポリマーのパウダーの平均粒子径が0.2~3μmであり、球状のシリカフィラーの平均粒子径が0.01~0.1μmであるのが好ましい。また、この場合の球状のシリカフィラーの含有量は、Fポリマーの含有質量に対して質量での比において0.01~0.1が好ましい。かかる構成により、F層の表面におけるシリカフィラーの露出を抑制しつつ、シリカフィラーがF層中に均一分散したF層を容易に形成できる。
【0051】
かかる無機フィラーの好適な具体例としては、アミノシランカップリング剤で表面処理された平均粒子径1μm以下のシリカフィラー(アドマテックス社製、「アドマファイン」シリーズ等)、ジカプリン酸プロピレングリコール等のエステルで表面処理された平均粒子径0.1μm以下の酸化亜鉛(堺化学工業株式会社製、「FINEX」シリーズ等)、平均粒子径0.5μm以下かつ最大粒子径1μm未満の球状溶融シリカ(デンカ社製、「SFPグレード」等)、多価アルコール及び無機物で被覆処理された平均粒子径0.5μm以下のルチル型酸化チタン(石原産業社製、「タイペーク」シリーズ等)、アルキルシランで表面処理された平均粒子径0.1μm以下のルチル型酸化チタン(テイカ社製、「JMT」シリーズ等)が挙げられる。
【0052】
本分散液が無機フィラーを含む場合、本分散液中において、パウダー(Fポリマー)の含有量に対する無機フィラーの含有量の質量での比は、0.3以下が好ましく、0.1以下がより好ましい。
上記比は、0.01以上が好ましい。
上記比の範囲は、0.01~0.3が好ましく、0.01~0.1がより好ましい。この範囲において、個々の無機フィラーが有する物性が、F層において高度に発現しやすい。
【0053】
本発明における、かかる他の材料としては、チキソ性付与剤、消泡剤、反応性アルコキシシラン、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤も挙げられる。
【0054】
本分散液の粘度は、50~1000mPa・sが好ましく、75~500mPa・sがより好ましい。この場合、パウダー分散液の分散性に優れるだけでなく、その塗工性や異種のポリマーのワニスとの混合性にも優れている。
本分散液のチキソ比は、1.0~2.2が好ましく、1.4~2.0がより好ましい。この場合、パウダー分散液の分散性に優れるだけでなく、パウダー分散液の塗工性も良好であり、F層の均質性が向上しやすい。また、かかるパウダー分散液は、異種のポリマーのワニスとの混合性がより高まる。
【0055】
本分散液は、各種基板の表面に付与すれば、層(塗膜)形成時に粉落ちが生じるのを抑制しつつ、その表面の平滑性及びUV加工性に優れるF層を形成できる。
本発明の積層体は、金属基板層と、この金属基板層の表面に設けられ、上記パウダー分散液から形成された層(F層)とを有する。
金属基板層の材質としては、銅、銅合金、ステンレス鋼、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む。)、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金が挙げられる。
金属基板層は、圧延銅箔、電解銅箔等の金属箔で構成するのが好ましい。かかる金属箔の表面は、防錆処理(クロメート等の酸化物皮膜等)されていてもよく、粗化処理されていてもよい。
金属箔の厚さは、積層体の用途において充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔の厚さは、その表面の十点平均粗さ以上の厚さであり、2~40μmが好ましい。金属箔として、キャリア銅箔(厚さ:10~35μm)と、剥離層を介してキャリア銅箔上に積層された極薄銅箔(厚さ:2~5μm)とからなるキャリア付金属箔を使用してもよい。また、金属箔の厚さは、F樹脂層の厚さより大きいのが好ましい。
【0056】
金属箔の表面の十点平均粗さは、0.2~1.5μmが好ましい。この場合、F層との接着性が良好となりやすい。
金属箔の厚さは、積層体の用途において機能が発揮できる厚さであればよい。
金属箔の表面は、シランカップリング剤により処理されていてもよい。この場合、金属箔の表面の全体がシランカップリング剤により処理されていてもよく、金属箔の表面の一部がシランカップリング剤により処理されていてもよい。
【0057】
本発明の積層体は、金属基板層の少なくとも一方の表面にF層を有する。つまり、積層体は、金属基板層の片面のみにF層を有していてもよく、金属基板層の両面にF層を有していてもよい。
積層体の反り率は、25%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。この場合、積層体をプリント基板に加工する際のハンドリング性と、得られるプリント基板の伝送特性とが優れる。
積層体の寸法変化率は、±1%以下が好ましく、±0.2%以下がより好ましい。この場合、積層体をプリント基板に加工し、さらにそれを多層化しやすい。
【0058】
F層の表面の水接触角は、70~100°が好ましく、70~90°がより好ましい。この場合、F層と他の基板との接着性がより優れる。上記範囲が下限値以上であれば、積層体をプリント基板に加工した際の電気特性がより優れる。
F層の厚さは、1~50μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。この範囲において、積層体をプリント基板に加工した際の電気特性と積層体の反り抑制とをバランスさせやすい。積層体が金属基板の両面にF層を有する場合、2つのF層の組成及び厚さは、積層体の反りを抑制する点から同じであるのが好ましい。
F層の厚さの好適な態様としては、25μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。また、F層の厚さは、1μm以上が好ましい。本分散液は、Fポリマー及びPIのそれぞれの含有量が所定の範囲にあり、任意の厚さのF層の形成においても、PIが均一に分散したTFE系ポリマーの緻密な層が形成できる。その結果、耐熱性と耐薬品性と電気特性とを具備した任意の厚さのF層を形成できる。
F層の比誘電率は、2.0~3.5が好ましく、2.0~3.0がより好ましい。この場合、低誘電率が求められるプリント基板等に積層体を好適に使用できる。
F層の誘電正接は、0.003以下が好ましい。
【0059】
パウダー分散液の金属基板への付与は、塗布による行うのが好ましい。
塗布方法は、塗布後の金属基板の表面にパウダー分散液からなる安定したウェット膜(液状被膜)が形成される方法であればよく、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
パウダー分散液の塗布後、金属基板を加熱するに際しては、低温領域の温度に保持して、溶媒を留去(すなわち乾燥)するのが好ましい。低温領域(以下、「乾燥領域」とも記す。)の温度としては、80℃以上180℃未満が好ましく、120~170℃がより好ましい。乾燥領域の温度は、乾燥における雰囲気の温度を意味する。
低温領域の温度での保持は、1段階で実施してもよく、異なる温度にて2段階以上で実施してもよい。
低温領域の温度に保持する方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。
【0060】
低温領域の温度に保持する際の雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、上記雰囲気は、酸化性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気のいずれであってもよい。
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
還元性ガスとしては、水素ガスが挙げられる。
酸化性ガスとしては、酸素ガスが挙げられる。
【0061】
低温領域の温度に保持する際の雰囲気は、Aポリマーの酸化分解を促し、よりF層の接着性を向上させる観点から、酸素ガスを含む雰囲気が好ましい。
酸素ガスを含む雰囲気における酸素ガス濃度(体積基準)は、1×102~3×105ppmが好ましく、0.5×103~1×104ppmがより好ましい。この範囲において、Aポリマーの酸化分解と、金属基板の酸化抑制とをバランスさせやすい。
低温領域の温度に保持する時間は、0.1~10分間が好ましく、0.5~5分間がより好ましい。
【0062】
本発明の積層体の製造方法においては、さらに、低温領域での保持温度を超える温度領域(以下、「焼成領域」とも記す。)にて、Fポリマーを焼成させて金属基板の表面にF層を形成するのが好ましい。焼成領域の温度は、焼成における雰囲気の温度を意味する。
本発明におけるF層の形成は、パウダー粒子が密にパッキングし、Fポリマーが融着して進行すると考えられる。なお、パウダー分散液が熱溶融性樹脂を含めば、Fポリマーと溶解性樹脂との混合物からなるF層が形成され、パウダー分散液が熱硬化性樹脂を含めば、Fポリマーと熱硬化性樹脂の硬化物とからなるF層が形成される。
【0063】
焼成の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、赤外線等の熱線を照射する方法等が挙げられる。F層の表面の平滑性を高めるために、加熱板、加熱ロール等で加圧してもよい。加熱の方法としては、短時間で焼成でき、遠赤外線炉が比較的コンパクトである点から、遠赤外線を照射する方法が好ましい。加熱の方法は、赤外線加熱と熱風加熱とを組み合わせてもよい。
遠赤外線の有効波長帯は、Fポリマーの均質な融着を促す点から、2~20μmが好ましく、3~7μmがより好ましい。
【0064】
焼成における雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、焼成における雰囲気は、酸化性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気、不活性ガス雰囲気のいずれであってもよく、金属基板及び形成されるF層のそれぞれの酸化劣化を抑制する観点から、還元性ガス雰囲気又は不活性ガス雰囲気が好ましい。
不活性ガスとしては、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガスが挙げられ、窒素ガスが好ましい。
還元性ガスとしては、水素ガスが挙げられる。
酸化性ガスとしては、酸素ガスが挙げられる。
【0065】
焼成における雰囲気は、不活性ガスから構成され酸素ガス濃度が低いガス雰囲気が好ましく、窒素ガスから構成され酸素ガス濃度(体積基準)が500ppm未満のガス雰囲気がより好ましい。酸素ガス濃度(体積基準)は、300ppm以下が特に好ましい。また、酸素ガス濃度(体積基準)は、通常、1ppm以上である。この範囲において、Aポリマーのさらなる酸化分解が抑制され、F層の親水性を向上させやすい。
焼成領域の温度は、250~400℃が好ましく、300~380℃がより好ましい。
焼成領域の温度に保持する時間は、30秒~5分間が好ましく、1~2分間がより好ましい。
【0066】
本発明における積層体には、F層の線膨張を制御したり、F層の接着性をさらに改善したりするために、F層の表面に表面処理をしてもよい。
F層の表面にする表面処理方法としては、アニール処理、コロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマ処理、ケミカルエッチング、シランカップリング処理、微粗面化処理等が挙げられる。
アニール処理における温度は、120~180℃が好ましい。
アニール処理における圧力は、0.005~0.015MPaが好ましい。
アニール処理の時間は、30~120分間が好ましい。
【0067】
プラズマ処理におけるプラズマ照射装置としては、高周波誘導方式、容量結合型電極方式、コロナ放電電極-プラズマジェット方式、平行平板型、リモートプラズマ型、大気圧プラズマ型、ICP型高密度プラズマ型等が挙げられる。
プラズマ処理に用いるガスとしては、酸素ガス、窒素ガス、希ガス(アルゴン等)、水素ガス、アンモニアガス等が挙げられ、希ガス、水素ガス又は窒素ガスが好ましい。プラズマ処理に用いるガスの具体例としては、アルゴンガス、水素ガスと窒素ガスとの混合ガス、水素ガスと窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスが挙げられる。
【0068】
本発明の積層体において、F層の表面は、接着性に優れるため、他の基板と容易かつ強固に接合できる。
他の基板としては、耐熱性樹脂フィルム、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ、耐熱性樹脂フィルム層を有する積層体、プリプレグ層を有する積層体が挙げられる。
プリプレグは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂を含浸させたシート状の基板である。
耐熱性樹脂フィルムは、耐熱性樹脂の1種以上を含むフィルムであり、単層フィルムであっても多層フィルムであってもよい。
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、液晶性ポリエステルアミド等が挙げられる。
【0069】
本発明の積層体において、F層の表面に他の基板を積層する方法としては、積層体と他の基板とを熱プレスする方法が挙げられる。
他の基板がプリプレグである場合のプレス温度は、Fポリマーの溶融温度以下が好ましく、120~300℃がより好ましい。他の基板が耐熱性樹脂フィルムである場合のプレス温度は、310~400℃が好ましい。
熱プレスは、気泡混入を抑制し、酸化による劣化を抑制する観点から、20kPa以下の真空度で行うのが特に好ましい。
また、熱プレス時には上記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。上記真空度に到達する前に昇温すると、F層が軟化した状態、すなわち一定程度の流動性、密着性がある状態にて圧着されてしまい、気泡の原因となる場合がある。
熱プレスにおける圧力は、基板の破損を抑制しつつ、F層と基板とを強固に密着させる観点から、0.2~10MPaが好ましい。
【0070】
本発明の積層体やその多層積層体は、フレキシブル銅張積層板やリジッド銅張積層板として、プリント基板の製造に使用できる。
本発明のプリント基板は、例えば、本発明の積層体における金属基板をエッチング等によって所定のパターンの導体回路(パターン回路)に加工する方法や、本発明の積層体を電解めっき法(セミアディティブ法(SAP法)、モディファイドセミアディティブ法(MSAP法)等)によってパターン回路に加工する方法を使用すれば、本発明の積層体からプリント基板を製造できる。
プリント基板の製造においては、パターン回路を形成した後に、パターン回路上に層間絶縁膜を形成し、層間絶縁膜上にさらに導体回路を形成してもよい。層間絶縁膜は、本分散液によって形成してもよい。
プリント基板の製造においては、パターン回路上にソルダーレジストを積層してもよい。ソルダーレジストは、本分散液によって形成してもよい。
プリント基板の製造においては、パターン回路上にカバーレイフィルムを積層してもよい。
【0071】
以上、本発明のパウダー分散液、積層体及びプリント基板について説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。
例えば、本発明のパウダー分散液、積層体及びプリント基板は、それぞれ上前述した実施形態に構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてよい。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.各成分の準備
[Fポリマー]
・Fポリマー1:TFEに基づく単位、NAHに基づく単位及びPPVEに基づく単位を、この順に98.0モル%、0.1モル%、1.9モル%含むコポリマー(溶融温度:300℃、380℃の溶融粘度:3×105Pa・s)
・Fポリマー2:TFEに基づく単位及びPPVEに基づく単位を、この順に98.0モル%及び2.0モル%含むポリマー(溶融温度:305℃、380℃の溶融粘度:3×105Pa・s)
[パウダー]
・パウダー1:D50が2.6μm、D90が7.1μmである、Fポリマー1からなるパウダー1
・パウダー2:D50が3.5μm、D90が9.2μmである、Fポリマー2からなるパウダー2
なお、D50及びD90は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、「LA-920測定器」)を用い、パウダーを水中に分散させて測定した。
【0073】
[PIのワニス]
・ポリイミド前駆体のワニス:3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニレンジアミン(PPD)との共重合体(モル比=1:1)を、濃度0.5g/dLとなるように、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解した溶液
このワニスを、ポリイミドの濃度が0.5g/dLとなるように、NMPで濃度調整した溶液の30℃における対数粘度は、2.0dL/gであった。
・ポリイミドのワニス:3,3’4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物と、2、4-ジアミノトルエンと、3,3’4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2、2-ビス{4-(4-アミノフェノキシ)フェニル}プロパンとのブロック共重合体(モル比=1:1:1:1)を、NMPに溶解した溶液
このワニスを、ポリイミドの濃度が0.5g/dLとなるように、NMPで濃度調整した溶液の30℃における対数粘度は、1.2dL/gであった。
[Aポリマー]
CH2=CHCOO(CH2)4OCF(CF3)(C(CF(CF3)2)(=C(CF3)2)とCH2=CHCOO(CH2CH2O)8OHとの共重合体(モル比=1:1)
なお、かかる共重合体は、ノニオン性のフルオロポリオール(重量平均分子量:約10000)である。
【0074】
2.パウダー分散液の調製
(例1)
まず、47質量部のNMPと、2.5質量部のAポリマーと、50質量部のパウダー1とをポットに投入した後、ポット内にジルコニアボールを投入した。その後、150rpm×1時間の条件でポットをころがし、パウダー1を分散して、混合液を得た。
次に、この混合液に、ポリイミドのワニスを、攪拌機を500rpmの回転数で撹拌しつつ、パウダー分散液中のポリイミド(固形分)の量が0.5質量%となるように添加して、パウダー分散液Aを調製した。
なお、パウダー1(Fポリマー1)の含有量に対するポリイミド(PI)の含有量の質量での比は、0.01である。
【0075】
(例2~7)
各成分の種類及び量(配合比率)を変更した以外は、例1と同様にして、パウダー分散液B(例2)、パウダー分散液C(例3)、パウダー分散液D(例4)、パウダー分散液E(例5)、パウダー分散液F(例6)及びパウダー分散液G(例7)を得た。それぞれのパウダー分散液の成分を、下表1にまとめて示す。
【0076】
3.測定及び評価(その1)
3-1.調製時凝集性の評価
各パウダー分散液を調製した直後に、パウダー分散液の分散性を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
○(良) :凝集が見られない。
△(可) :ポット底部に沈殿は見られないが、側壁に細かな凝集物が付着している。
×(不可):ポット底部に凝集したパウダーが沈殿している。
【0077】
3-2.保管後沈降性の評価
各パウダー分散液を常温で1か月静置し、1か月後にポットの撹拌を行い、再分散の程度を目視で確認し、以下の基準に従って評価した。
○(良) :ポットの撹拌のみで、均一な分散となった。
△(可) :均一な分散だが、凝集体が一部みられる。
×(不可):沈降した凝集体が固形物となり、分散しない。
【0078】
3-3.粉落ちの評価
各パウダー分散液を、電解銅箔(福田金属箔粉工業社製、「CF-T49A-DS-HD2」、厚み:12μm、Rzjis:1.2μm)に、ダイコートによりロールツーロールで塗工して、液状被膜を形成した。この液状被膜を乾燥炉に、120℃×30分間で通過させて加熱により乾燥して、乾燥被膜を得た。得られた乾燥被膜の粉落ちについて、以下の基準に従って評価した。
〇(良) :乾燥被膜の全面に粉落ちが見られない。
△(可) :乾燥被膜の縁部に粉落ちが見られる。
×(不可):乾燥被膜の全面に粉落ちが見られる。
【0079】
3-4.吸水率の評価
まず、上記で得られた乾燥被膜を、窒素オーブン下で380℃×15分間で加熱した。これにより、銅箔の表面にF層が形成されたF層付銅箔を得た。なお、F層の厚さは12μmであった。次に、F層付銅箔を、塩化第二鉄水溶液でエッチングし、銅箔を除去して、F層単体を得た。
このF層を、ASTM D570に準拠して、50℃×48時間で予備乾燥した後、23℃の純水に24時間浸漬した。純水に浸漬する前後のF層の質量を測定し、以下の式に基づき、吸水率を求めた。
吸水率(%)=(水浸漬後質量-予備乾燥後質量)/予備乾燥後質量×100
【0080】
3-5.波長355nmの紫外線の透過率の測定
F層について、波長355nmの紫外線の透過率を、分光光度計(株式会社島津製作所製、「UV-3600」)を使用して測定した。
3-6.接着力の測定
F層付銅箔を1cm幅に切り出し、引張試験機により銅箔をF層から、90°の角度で50mm/minの速度で剥離し、その際の接着力(kN/m)を測定した。
【0081】
3-7.UV加工性の評価
レーザー加工機(esi5330)を使用して、F層付銅箔に対して、直径100μmの円周上を周回するように、波長355nmのUV-YAGレーザーを照射した。これにより、F層付銅箔に円形の貫通孔を形成した。なお、レーザー出力は1.5W、レーザー焦点径を25μm、円周上の周回回数は16回、発振周波数は40kHzとした。
その後、貫通孔を含むF層付銅箔の断片を切り出し、熱硬化性エポキシ樹脂で固めた。次いで、貫通孔の断面が露出するまで研磨し、貫通孔が形成された部分の断面を顕微鏡で観察した。
そして、貫通孔が形成された部分の断面において、銅箔とF層との間における剥離の有無を確認し、以下の基準に従って評価した。
○:剥離は全く見られない。
△:5μm未満の長さの剥離が見られる。
×:5μm以上の長さの剥離が見られる。
【0082】
3-8.誘電正接の測定
ファブリペロー共振器及びベクトルネットワークアナライザ(キーコム社製)を使用して、F層付銅箔のF層について10GHzの誘電正接を測定した。
以上の結果を、以下の表1に示す。
【0083】
【0084】
(例8)
同じ銅箔の粗化表面にメイヤーバーを用いてパウダー分散液Aを塗布して、粗化表面にウェット膜を形成し、通風乾燥炉(炉温:100℃)に1.5分間、通過させて溶媒を揮発させて塗工層を形成させた。さらに、遠赤外線炉(炉温度370℃)に1分間で通過させ、パウダー1(Fポリマー1)を溶融焼成して、表面にFポリマー1を含むF層(厚さ:4μm)が形成されたF層付銅箔を得た。このF層付銅箔のF層の表面をプラズマ処理(出力:4.5kW、導入ガス:アルゴンガス、導入ガス流量:50cm3/分間、圧力:50mTorr、処理時間:2分間)した。
【0085】
プラズマ処理後のF層付銅箔のF層の表面に、プリプレグとしてFR-4(日立化成社製、「GEA-67N 0.2t(HAN)」;強化繊維:ガラス繊維、マトリックス樹脂:エポキシ樹脂、厚さ:0.2mm)を積層し、真空熱プレス(プレス温度:185℃、プレス圧力:3.0MPa、プレス時間:60分間)して、プリプレグの硬化物層を有する積層体を得た。
この積層体は、はんだ浴に浮かべるはんだ耐熱性試験において、288℃のはんだ浴に5秒間、5回浮かべても、F層と硬化物層の界面に膨れる現象(膨れ現象)と、F層から銅箔が浮く現象(浮き現象)とが発生しなかった。
【0086】
パウダー分散液A~D及びこれらを使用して得られたF層付銅箔は、各種特性に優れていた。また、分散剤Aと分散剤Dとを比較すると、いずれも再分散が可能であったが、パウダー分散液Aの方がより優れていた。これは、パウダー分散液Aに含まれるパウダー1が官能基を有していることで、ポリイミドとの相互作用が高まり、より分散性が向上したためであると考えられる。
【0087】
F層付銅箔を比較すると、パウダー分散液Eを使用したF層付銅箔では、F層形成時にパウダーが容易に脱落(粉落ち)し、ロールに付着していた。一方で、ポリイミドを添加したパウダー分散液Aを使用したF層付銅箔では、ポリイミドがパウダー粒子のつなぎとなり、パウダーの脱落が抑制されたと考えられる。
また、パウダー分散液Eを使用したF層付銅箔は、UV波長域の光を吸収し得るポリイミドを含有しないため、355nmの透過率は90%となった。このため、UVレーザーの大半が透過するため、UV加工性が低下したと考えらえる。
【0088】
また、プリント基板材料の一態様である積層体(F層付銅箔とプリプレグの硬化物との積層体)において、パウダー分散液Aから製造した積層体は、はんだ耐熱性試験で良好な結果を示し、耐熱性と耐薬品性を具備していた。
【0089】
さらに、パウダー分散液Aの100質量部に対して、アルミナとポリオールで被覆処理された酸化チタン(粒径:0.25μm;石原産業社製、「タイペーク CR-50-2」)の1質量部を、さらに配合してパウダー分散液A’を調製した。パウダー分散液A’の取扱性(上記「3-1.」~「3-3.」の評価結果)は、パウダー分散液Aと同等であった。このパウダー分散液A’を使用して得られるF層付銅箔のF層の355nm透過率は5%未満であり、そのUV吸収性がさらに向上していることを確認した。
【0090】
4.フィルムの作製
(例9)
厚さ50μmのポリイミドフィルム(SKC Kolon PI社製、「FS-200」)2の一方の面に、パウダー分散液Aをダイコートで塗布し、通風乾燥炉(炉温:140℃)に3分間で通過させ、溶媒を揮発させて塗工層を形成した。さらに、ポリイミドフィルム2の他方の面にもパウダー分散液Aを、同様に塗工し、溶媒を揮発させて塗工層を形成した。さらに、この両面に塗工層が形成されたポリイミドフィルム2を遠赤外線炉(炉温度:370℃)に20分間で通過させ、パウダー1を溶融焼成して、ポリマー1を含むF層3をポリイミドフィルム(PI層)2の両面に有するフィルムAを得た。F層の厚さは、それぞれ25μmであった。
(例10)
パウダー分散液Aに代えて、パウダー分散液Eを使用した以外は、例9と同様にして、フィルムEを得た。
【0091】
5.測定及び評価(その2)
各フィルムA、Eの両面に電解銅箔(福田金属箔粉工業株式会社製、「CF-T49A-DS-HD2-12」)4を配し、340℃にて20分間、真空下でプレスして両面銅張積層体1を得た。
レーザー出力を1.5W、レーザー焦点径を25μm、円周上の周回回数を16回、発振周波数を40kHzとした以外は、上記「3-7.UV加工性の評価」と同様にして、各両面銅張積層体1に対してUV-YAGレーザーを照射して、円形の貫通孔5を形成した。
【0092】
各両面銅張積層体1における貫通孔5の周辺の断面を撮影した顕微鏡写真を、それぞれ
図1、
図2に示す。
フィルムAから得られた両面銅張積層体1では、F層3がポリイミドを含むので、UV加工性が良好である。このため、
図1の顕微鏡写真に示す通り、貫通孔5の周囲においてUVによるF層3及びポリイミドフィルム(PI層)2の劣化の程度が抑制された。
一方、フィルムEから得られた両面銅張積層体1では、F層3がポリイミドを含まないため、貫通孔5を形成するのにUVの照射時間を長くせざるを得なかった。このため、
図2の顕微鏡写真に示す通り、貫通孔5の周囲においてUVによるF層3及びポリイミドフィルム(PI層)2の劣化の程度が激しかった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の分散剤を使用して得られる層は、電気特性及びUV加工性に優れるため、かかる層を有する積層体は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品等に加工して使用できる。
【符号の説明】
【0094】
1…両面銅張積層体、2…ポリイミドフィルム(PI層)、3…F層、4…電解銅箔、5…貫通孔、A,E…フィルム