(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ゴム用組成物及びその用途
(51)【国際特許分類】
C08L 11/02 20060101AFI20231011BHJP
C08K 13/02 20060101ALI20231011BHJP
C08F 236/18 20060101ALI20231011BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20231011BHJP
A41D 19/04 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08L11/02
C08K13/02
C08F236/18
A41D19/00 A
A41D19/04 B
(21)【出願番号】P 2022099886
(22)【出願日】2022-06-21
(62)【分割の表示】P 2020185836の分割
【原出願日】2016-01-18
【審査請求日】2022-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2015084274
(32)【優先日】2015-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】尾川 展子
(72)【発明者】
【氏名】竹ノ下 洋一朗
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129676(WO,A1)
【文献】特開2007-106994(JP,A)
【文献】特開2011-122141(JP,A)
【文献】国際公開第2013/015043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 236/18
A41D 19/00-19/04
B29C 41/00-41/52
B29K 21/00
B29L 31/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム用組成物の製造方法であって、
前記ゴム用組成物は、クロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)を含み、加硫促進剤を含まない組成物であって、前記(A)に含まれる固形分中のテトラハイドロフラン不溶分量が50~85質量%であり、前記(A)の固形分100質量部に対して、(B)を1~10質量部、(C)を0.1~5質量部、(D)を0.1~10質量部、(E)を0.01~5質量部の割合で含み、
前記クロロプレン系重合体ラテックス(A)に含まれる重合体が、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)のみからなる単量体の共重合体であり、
前記(A)を製造する際の重合温度Tは25~45℃の範囲で、かつ前記(A)を製造する際に用いられる2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量%に対する、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の質量%(M)が、下式(I)を満たし、
前記加硫促進剤は、チウラム系、ジチオカーバメート系、チオウレア系、またはグアニジン系の加硫促進剤である
ゴム用組成物の製造方法。
【数1】
【請求項2】
前記ゴム用組成物は、クロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)からなる組成物である請求項1に記載のゴム用組成物の製造方法。
【請求項3】
前
記単量体の割合が前記2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量%に対して、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)76~93質量%及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)24~7質量%である、請求項1または2に記載のゴム用組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム用組成物の製造方法で得られたゴム用組成物を用いて得られる成形物の製造方法。
【請求項5】
前記成形物の、300%弾性率(モデュラス)が0.5~1.2MPa、引張強度が17MPa以上、引張破断伸びが800%以上、変形率が20%以下である、請求項
4に記載の成形物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のゴム用組成物の製造方法で得られたゴム用組成物を用いて得られるゴム製浸漬製品の製造方法。
【請求項7】
前記ゴム製浸漬製品が手袋である請求項
6に記載のゴム製浸漬製品の製造方法。
【請求項8】
前記手袋が医療用使い捨て手袋である請求項
7に記載のゴム製浸漬製品の製造方法。
【請求項9】
ゴム用組成物の製造方法であって、
前記ゴム用組成物は、クロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)を含み、加硫促進剤を含まない組成物であって、前記(A)に含まれる固形分中のテトラハイドロフラン不溶分量が50~85質量%であり、前記(A)の固形分100質量部に対して、(B)を1~10質量部、(C)を0.1~5質量部、(D)を0.1~10質量部、(E)を0.01~5質量部の割合で含み、
前記クロロプレン系重合体ラテックス(A)に含まれる重合体が、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に加えてさらにこれらと共重合可能な単量体(A-3)のみからなる共重合体であって、前記単量体(A-3)の含有量が、前記2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量部に対して0.1~10質量部であり、
前記単量体(A-3)が、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、並びに、メタクリル酸及びそのエステル類から選ばれる少なくとも1種であり、
前記(A)を製造する際の重合温度Tは25~45℃の範囲で、かつ前記(A)を製造する際に用いられる2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量%に対する、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の質量%(M)が、下式(I)を満たし、
前記加硫促進剤は、チウラム系、ジチオカーバメート系、チオウレア系、またはグアニジン系の加硫促進剤である
ゴム用組成物の製造方法。
【数2】
【請求項10】
請求項9に記載のゴム用組成物の製造方法で得られたゴム用組成物を用いて得られる成形物の製造方法。
【請求項11】
請求項9に記載のゴム用組成物の製造方法で得られたゴム用組成物を用いて得られるゴム製浸漬製品の製造方法。
【請求項12】
前記ゴム製浸漬製品が手袋である請求項11に記載のゴム製浸漬製品の製造方法。
【請求項13】
前記手袋が医療用使い捨て手袋である請求項12に記載のゴム製浸漬製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン系重合体ラテックスを含むゴム用組成物及びそれを用いて得られる成形物に関する。さらに詳しく言えば、特定の構造を有するクロロプレン系重合体ラテックス、金属酸化物、酸化防止剤、界面活性剤及びpH調整剤を含み、加硫促進剤を含まないゴム用組成物に関する。クロロプレン系重合体ラテックスを含む本発明のゴム用組成物から得られる成形物は、例えば手袋、血圧計ブラダー、糸ゴムなどの浸漬製品、特に医療用手袋用途で好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、クロロプレン系重合体ラテックスを用いた材料は、一般ゴム物性、耐候性、耐熱性、耐薬品性などの特性が良好であり、手袋などの浸漬用途、粘・接着剤用途、弾性アスファルト(改質アスファルト)、弾性セメントなどの土木・建築用途などで広く使用されている。医療用使い捨て手袋用途、特に手術用手袋においては、天然ゴムのアレルギーによるショック症状(アナフィラキシー)が患者や医療技術者に対する衛生上及び人命保全上深刻な問題であり、この問題を解決するために、手術用手袋の素材として、柔軟性や機械的特性が天然ゴムに近く、比較的安価であるクロロプレンゴム(以下、「CR」と略記することがある。)が使用されている。クロロプレンゴム(CR)は、具体的には、天然ゴムに近いフィット感(快適性)と指先の細かい動きへの応答(追随性)が優れるという特長がある。
【0003】
しかしながら、従来のクロロプレンゴム(CR)は、クロロプレン系重合体ラテックスに含まれる重合体の構造が不十分なため、目的の強度を持った加硫ゴムを得るため加硫促進剤の使用が不可欠であった。近年では合成ゴム製手袋でも接触皮膚炎が発症しているが、これはクロロプレン系重合体ラテックスを成形物にする時使用する加硫促進剤によるものであり、IV型アレルギーと言われている。このことから、IV型アレルギーのアレルゲンである加硫促進剤を含まない手袋に対する要求が強くなっている。
外科手術用手袋に、クロロプレン系重合体ラテックスを使用して柔軟性を改良する方法が提案されている(例えば、特開2007-106994;特許文献1、特表2009-501833(欧州特許第1904569号);特許文献2)。
【0004】
特許文献1の場合、加硫促進剤の使用は必須であり、IV型アレルギーの問題は解決できていない。また、特許文献2の場合は、固形分が低いとフィルム化が困難となり、固形分が高いとコンパウンドの貯蔵安定性が悪化、凝集し易くなり、製品の外観を損なうという問題がある。従って、優れた機械的特性を持つ加硫ゴムを得ることのできるクロロプレン系重合体ラテックスとそれを含む組成物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-106994号公報
【文献】特表2009-501833号(欧州特許第1904569号)公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、IV型アレルギーの原因物質(アレルゲン)である加硫促進剤を使用せずに手術用手袋などの用途に適したクロロプレンゴム(CR)に架橋できるクロロプレン系重合体ラテックスを含むゴム用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造の重合体を与えるクロロプレン系重合体ラテックスと、金属酸化物、酸化防止剤、界面活性剤及びpH調整剤を含むゴム用組成物から得られる成形物で上記問題点が解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の[1]~[9]に関する。
[1] クロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)を含み、加硫促進剤を含まない組成物であって、前記(A)に含まれるクロロプレン系重合体中のテトラハイドロフラン不溶分量が50~85質量%であり、前記(A)の固形分100質量部に対して、(B)を1~10質量部、(C)を0.1~5質量部、(D)を0.1~10質量部、(E)を0.01~5質量部の割合で含むゴム用組成物。
[2] クロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)からなる組成物である前項1に記載のゴム用組成物。
[3] 前記クロロプレン系重合体ラテックス(A)に含まれる重合体が、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)とを含む単量体からなる共重合体であって、単量体の割合が前記2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量%に対して、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)76~93質量%及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)24~7質量%である前項1または2に記載のゴム用組成物。
[4] 前記クロロプレン系重合体ラテックス(A)に含まれる重合体が、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に加えてさらにこれらと共重合可能な単量体(A-3)からなる共重合体であって、前記単量体(A-3)の含有量が、前記2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量部に対して0.1~10質量部である前項3に記載のゴム用組成物。
[5] 前項1~4のいずれかに記載のゴム用組成物を用いて得られる成形物。
[6] 300%弾性率(モデュラス)が0.5~1.2MPa、引張強度が17MPa以上、引張破断伸びが800%以上、変形率が20%以下である前項5に記載の成形物。[7] 前項1~4のいずれかに記載のゴム用組成物を用いて得られるゴム製浸漬製品。[8] 前記ゴム製浸漬製品が手袋である前項7に記載のゴム製浸漬製品。
[9] 前記手袋が医療用使い捨て手袋である前項8に記載のゴム製浸漬製品。
【発明の効果】
【0009】
特定の構造を有するクロロプレン系重合体ラテックスと金属酸化物、酸化防止剤、界面活性剤、pH調整剤を含み、加硫促進剤を含まない本発明のゴム用組成物から得られる成形物は、引張強度、柔軟性及び柔軟安定性に優れ、IV型アレルギーを回避できる成形製品、例えば、手袋、血圧計ブラダー、糸ゴムなどの浸漬製品として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るゴム用組成物は、特定の構造を有するクロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)を含み、IV型アレルギーのアレルゲンである加硫促進剤を含まないことが特徴である。
本発明に係るゴム用組成物としては、クロロプレン系重合体ラテックス(A)、金属酸化物(B)、酸化防止剤(C)、界面活性剤(D)及びpH調整剤(E)からなるものが好ましい。
【0011】
本発明ゴム用組成物を構成するクロロプレン系重合体ラテックスは、共重合単量体として、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)とを含み、両者の合計100質量%に対して2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)を7~24質量%の範囲で含み、重合温度(T)がT=25~45℃の範囲内で、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの質量%が、後述するTの関数によって規定される式(I)の範囲内にあり、かつクロロプレン系重合体ラテックス(A)に含まれる固形分中のテトラハイドロフラン不溶分量が50~85質量%である。
テトラハイドロフラン不溶分量を上記の範囲にすることにより、加硫促進剤が含まれないことに伴う引張強さ等の機械物性不足を十分改善することができる。
【0012】
本発明のゴム用組成物を構成する、特定の構造を有するクロロプレン系重合体ラテックス(A)の調製には、乳化重合を採用できる。工業的には水性乳化重合が好ましい。乳化重合の乳化剤としては、凝固操作の簡便性から、通常のロジン酸石鹸を用いることができる。特に、着色安定性の観点から不均化ロジン酸のナトリウム及び/またはカリウム塩が好ましい。ロジン酸石鹸の使用量は、単量体100質量%に対して、3~8質量%が好ましい。3質量%より少ない場合、乳化不良となり、重合発熱制御の悪化、凝集物の生成や製品外観不良などの問題が発生しやすくなる。8質量%より多い場合、残留したロジン酸のために重合体が粘着しやすく、部品成形時の鋳型(フォーマー)への粘着、部品使用時の粘着など、加工、操作性が悪化し、また製品の色調が悪化するため好ましくない。
【0013】
特定の構造を持つクロロプレン系重合体ラテックス(A)の製造方法では、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)との共重合性が良好で、耐結晶性ひいては柔軟性などの特性を調整しやすいことから2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)を単量体として使用する。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の分率は、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の合計100質量%に対して7~24質量%が好ましく、10~15質量%がより好ましい。A-2の分率が7質量%以上の場合に柔軟性の経時安定性の改良が良好となり24質量%以下の場合に重合体の結晶化が抑制され、柔軟性が良好となる。2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)と共重合可能な単量体(A-3)としては、例えば、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸及びそのエステル類、メタクリル酸及びそのエステル類等を、本発明の目的を阻害しない限り、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量部に対して0.1~10質量部の範囲で使用できる。必要に応じて2種類以上用いても構わない。(A-3)の使用量を10質量部以下にすることで、引張強度や伸びの他に、柔軟性の経時安定性を良好に保つことができる。
【0014】
重合温度Tは25~45℃の範囲で、かつ2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量%に対して、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の質量%(M)が、下式(I)
【数1】
を満足し、重合体中のテトラハイドロフラン不溶分量が、50~85質量%となるように重合することによって、各コモノマーの重合速度のバランスをとることができる。
【0015】
連鎖移動剤としては、特に限定されないが、キサントゲンジスルフィドやアルキルメルカプタンが使用でき、具体例として、n-ドデシルメルカプタンが挙げられる。
【0016】
特定の構造を持つクロロプレン系重合体ラテックス(A)の重合転化率は、80~95%が好ましい。重合転化率が80%未満である場合は、重合体ラテックスの固形分が低下し乾燥工程に負荷が掛かったり、フィルム化が困難となりピンホールやクラックが発生しやすくなるので好ましくない。95%より大きい場合は、重合時間が長くなり生産性が悪化するだけでなく、フィルムの機械的強度が悪化し脆くなるなどの問題を起こすので好ましくない。
【0017】
特定の構造を持つクロロプレン系重合体ラテックス中に含まれる重合体のテトラハイドロフラン不溶分量は、50~85質量%であり、60~85質量%がさらに好ましい。50質量%未満では、引張強度が低くなったり、成形時に手型への粘着が激しくなり剥離が困難となったりするため好ましくない。また、85質量%より大きい場合には、重合体が脆くなり、柔軟性を始め、引張強さ、引張伸びが悪化する。
クロロプレン系重合体ラテックス(A)の重合転化率が80~95%となる範囲で、連鎖移動剤の量を調整することによって、テトラハイドロフラン不溶分量を50~85質量%に容易にコントロールすることができる。
【0018】
重合用の開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤を使用することができる。例えば、乳化重合の場合、通常の過酸化ベンゾイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の有機あるいは無機の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が使用される。併せて、適宜、アントラキノンスルホン酸塩や亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウムなどの助触媒を使用できる。
【0019】
一般に、クロロプレン系重合体の製造では所望の分子量及び分布の重合体を得る目的で、所定の重合率に到達した時点で、重合停止剤を添加し、反応を停止させる。重合停止剤としては、特に制限がなく、通常用いられる停止剤、例えばフェノチアジン、パラ-t-ブチルカテコール、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジエチルヒドロキシルアミン等を用いることができる。
【0020】
クロロプレン系重合体は、一般に酸素による劣化を受けやすい。本発明では、発明の効果を損なわない範囲で、受酸剤や酸化防止剤などの安定剤を適宜使用することが望ましい。
【0021】
クロロプレン系重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して、金属酸化物(B)を1~10質量部、酸化防止剤(C)を0.1~5質量部、界面活性剤(D)を0.1~10質量部、pH調整剤(E)を0.01~5質量部配合することによって、充分な引張強度と柔軟性を持ったゴム用組成物が得られる。配合に使用される原料のうち、水に不溶であったり、重合体ラテックスのコロイド状態を不安定化させたりするものは、予め水系分散体を作製してから重合体ラテックスに添加する。
【0022】
金属酸化物(B)としては、特に制限はなく、具体的には酸化亜鉛、酸化鉛、四酸化三鉛等が挙げられ、特に酸化亜鉛が好ましい。これらは2種以上を併用して用いることもできる。これらの金属酸化物の添加量はクロロプレン系重合体ラテックスの固形分100質量部に対して1~10質量部が好ましい。金属酸化物の添加量が1質量部未満では、架橋速度が十分でなく、逆に10質量部を超えると架橋が速くなりすぎて、スコーチしやすくなる。また、重合体ラテックスの組成物のコロイド安定性も悪くなり、沈降などの問題が発生しやすくなる。
【0023】
酸化防止剤(C)については、極限の耐熱性を要求される場合には、耐熱性付与目的の酸化防止剤(耐熱老防)と耐オゾン酸化防止剤(オゾン老防)を用いることが必要であり、これらは併用することが好ましい。耐熱老防としては、オクチル化ジフェニルアミン、p-(p-トルエン-スルホニルアミド)ジフェニルアミンや4,4'-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系が耐熱性だけでなく、耐汚染性(変色などの移行)も少ないので好んで使用される。オゾン老防としては、N,N'-ジフェニル-p-フェニレンジアミン(DPPD)やN-イソプロピル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン(IPPD)が使用される。しかし、通常、医療用手袋など外観、特に色調や衛生性が重視される場合には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が使用される。酸化防止剤(C)の添加量はクロロプレン系重合体ラテックス(A)の固形分100質量部に対して、0.1~5質量部が好ましい。酸化防止剤(C)の添加量が0.1質量部未満では、酸化防止効果が十分でなく、逆に5質量部を超えると、架橋を阻害したり、色調が悪化したりする。
【0024】
界面活性剤(D)としては、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物ナトリウムやロジン酸石鹸、脂肪酸石鹸などが使用される。界面活性剤の添加量はクロロプレン系重合体ラテックスの固形分100質量部に対して0.1~10質量部が好ましい。添加量が0.1質量部未満では、コロイド安定化が不十分であり、10質量部を超えると発泡や製品外観にピンホールなどの欠陥を発生させやすくなる。
【0025】
pH調整剤(E)としては、コロイド安定性付与やフィルム厚み調整の目的で、アルカリやアミノ酸、酢酸などの弱酸が使用される。アルカリの例としては、水酸化カリウム、アンモニアが、弱酸の例としては、グリシンが挙げられる。使用前に水溶液化して、コロイド安定性にショックを与えない程度に希釈する。pH調整剤の添加量はクロロプレン系重合体ラテックスの固形分100質量部に対して0.01~5質量部が好ましい。pH調整剤の添加量が、0.01質量部未満ではコロイド安定化やフィルム厚み調整が不十分となり、逆に5質量部を超えると凝固が不十分となったり、配合物に凝集物が発生したりする。
【0026】
本発明では、IV型アレルギーの原因となる加硫促進剤を使用しない。従って、医療用の手袋として使用する場合にアレルギーの心配をすることなく安全に使用できる。
従来からクロロプレン系重合体ラテックスの加硫に一般に用いられている加硫促進剤は、チウラム系、ジチオカーバメート系、チオウレア系、グアニジン系の加硫促進剤である。チウラム系の加硫促進剤としては、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィドなどが挙げられる。ジチオカーバメート系の加硫促進剤としては、ジブチルチオジカルバミン酸ナトリウム、ジブチルチオジカルバミン酸亜鉛、ジエチルチオジカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。チオウレア系の加硫促進剤としては、エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、N,N'-ジフェニルチオウレアなどが挙げられる。グアニジン系の加硫促進剤としては、ジフェニルグアニジン、ジオルトトルイルグアニジンなどが挙げられる。また加硫促進剤は上記に挙げたものの2種以上を併用することもあるが、本発明ではこれらの加硫促進剤は一切使用しない。
【0027】
上記の方法によって得られる特定の構造を持つクロロプレン系重合体は、各単量体の分率が、全単量体の合計量を100質量%とした時に2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)76~93質量%、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)24~7質量%からなる共重合体、または2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)に加えてさらにこれらと共重合可能な単量体(A-3)の含有量が、前記2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)との合計100質量部に対して0.1~10質量部からなる共重合体であり、重合体中のテトラハイドロフラン不溶分量が、50~85質量%である。
【0028】
この特定の構造を持つクロロプレン系重合体中の単量体の組成は、重合中の各単量体の消費量が単量体の種類によって異なるため、必ずしも仕込みの各単量体の組成とは同一にはならない。従って、重合転化率が生成する重合体中の単量体の組成に影響する。2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)を共重合する場合は、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)が重合初期に消費されやすいため、残留する未反応の単量体としては、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)(A-1)の比率が多くなるので、通常、重合体中の2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の比率の方が仕込みの2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン(A-2)の比率より高くなる。
【0029】
特定の構造を持つクロロプレン系重合体ラテックスと金属酸化物、酸化防止剤、界面活性剤、pH調整剤からなる本発明のゴム用組成物は、通常の方法によって、浸漬・凝固後、浸出(水溶性不純物の除去)、乾燥、次いで架橋の工程をこの順に進めることによって、フィルム状のゴム組成物が得られる。この工程において、特に、架橋温度は、所望の架橋度を得るためには、天然ゴムと比較して高い温度が要求されるので注意が必要である。製品外観の問題、例えばブリスター、ピンホールなどを回避する目的で、架橋前に予め70~100℃の範囲の比較的低温での粗乾燥が必要になる場合がある。架橋温度は120~140℃で架橋時間は30分から2時間が必要である。架橋度の指標として、変形率がよく用いられる。架橋が不足するとフィルムの弾性が不足するため、手袋が伸びきった場合の変形率が大きく、十分に手にフィットしなくなるので、なるべく変形率が小さい方が好ましい。架橋度が高いほど(架橋が完結しているほど)変形率が小さい。架橋は他の物性、例えば、引張強さや破断時伸びが悪化しない範囲で十分に行うことが好ましい。この場合、変形率は20%以下が好ましく、さらに15%以下がより好ましい。架橋後のフィルムの引張試験を実施することによって、弾性率(モデュラス)、引張強さ、引張破断時伸びを測定することができる。この特定の構造を持つクロロプレン系重合体ラテックスと金属酸化物、酸化防止剤、界面活性剤、pH調整剤から成る組成物から得られる架橋フィルムは、所望の架橋度を達成した場合、つまり、変形率が20%以下の場合、300%弾性率(モデュラス)が0.5~1.2MPa、引張強さが、17MPa以上さらに好ましくは20MPa以上、引張破断時伸びが800%以上を達成することができる。
【0030】
以上のような条件で架橋し製造されたゴムは、加硫促進剤によるIV型アレルギーを回避しながら、クロロプレン系重合体が本来有する基本特性を維持し、優れた柔軟性を与える。
【実施例】
【0031】
下記に製造例、実施例及び比較例を挙げて本発明を説明するが以下の例により本発明は何等限定されるものではない。
【0032】
重合転化率:
重合後のエマルジョンを採集し、100℃、2時間乾燥後の固形分から、重合転化率を計算した。
なお、固形分及び重合転化率は下記式にて求めた。
固形分[質量%]
=[(100℃、2時間乾燥後の重量)/(乾燥前のラテックス重量)]×100
重合転化率[%]=[(ポリマー生成量/モノマー仕込み量)]×100」
ここで、ポリマー生成量は、重合後固形分からポリマー以外の固形分を差し引いて求めた。
【0033】
クロロプレン系重合体ラテックスの物性:
下記方法にてクロロプレン系重合体ラテックスの物性を評価した。
[測定法]
テトラハイドロフラン不溶分量:
ラテックス1gをTHF(テトラハイドロフラン)溶剤100mlに滴下して、1晩振とうした後、遠心分離機にて上澄みの溶解相を分離し、100℃、1時間かけて溶剤を蒸発・乾固させて、溶解分量を計算し、差引き、テトラハイドロフラン不溶分量を評価した。
【0034】
2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン共重合分率:
重合後のエマルジョン中の残留2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)単量体及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体をガスクロマトグラフによって分析し、仕込み各単量体量から差し引くことによって、ポリマー中の共重合組成を計算した。
【0035】
架橋後物性:
下記表1の配合にて、クロロプレン系重合体ラテックス配合物を作製した。
【表1】
【0036】
混合均一化:
スリーワンモーター付きの撹拌槽に上記配合物を仕込み、30分撹拌した。
重合体フィルムの作製:
下記方法にてクロロプレン系重合体ラテックスなどを配合したゴム用組成物から浸漬フィルムを作製した。
凝固、リーチング、乾燥:
25%硝酸カルシウム水溶液を凝固液として、浸漬フィルムを得た後、70℃温水中で、2分間リーチング(浸出)を行い、水溶性成分を除去した。次いで70℃、30分乾燥した。
架橋:
常法のオーブンにて、130℃で、60分加熱し、架橋を行った。
【0037】
架橋後物性の評価:
架橋後のシートを評価項目に応じて適宜、切断し、試験片を得た。この試験片を用いて、以下の物性評価を行った。
引張試験:
常態及び熱老化(100℃、22時間)後の引張試験はJIS-K6301に準じた方法で行った。本試験により、室温における300%・500%伸張時のモデュラス、引張強さ、破断伸び及び表面硬度(JIS-A)を測定した。
変形率:
室温において、架橋フィルムから、幅6mm、長さ100mmの短冊状の試験片を抜き出し、10mm幅の標線間を伸び300%まで、引張り、10分間保持した後、解放し、10分後に、標線間の伸びを測定して、初期標線位置からの変位比率として変形率を計算した。
柔軟性の経時安定性:
促進試験として、架橋後のフィルムの低温(-10℃、50日)及び高温(70℃、7日)での貯蔵後の弾性率(モデュラス)をそれぞれ評価した。
【0038】
製造例:クロロプレン系重合体ラテックスの調製
内容積60リットルの反応器を使用して、2-クロロ-1,3-ブタジエン(クロロプレン)18.2kg、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン1.8kg及び純水18kg、不均化ロジン酸(荒川化学工業(株)製、R-300)860g、n-ドデシルメルカプタン2.0g、水酸化カリウム240g、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩160gを仕込み、乳化させ、不均化ロジン酸をロジン石鹸にした後、過硫酸カリウムを開始剤として用い、窒素雰囲気下、40℃で重合を行った。重合転化率が88.1%に達したところで、直ちにフェノチアジンの乳濁液を添加して重合を停止した。次いでその後、未反応の単量体を水蒸気蒸留にて除去し、クロロプレン系重合体のポリマーラテックスを得た。
【0039】
実施例1:
上記の製造例の方法で得られたクロロプレン系重合体ラテックスを、表1に記載する配合比にて配合物とし、浸漬架橋フィルムを作製した。
【0040】
実施例2~5及び比較例1~2:
上記の製造例において、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン量、n-ドデシルメルカプタン量、重合転化率を変更したこと以外は実施例1と同様にして、重合を行い、実施例2~5及び比較例1~2で使用するクロロプレン系重合体ラテックスを得た。得られたクロロプレン系重合体ラテックスを、表1に記載する配合比にて配合物とし、浸漬架橋フィルムを作製した。
【0041】
比較例3~5:
上記の製造例において、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン量、n-ドデシルメルカプタン量、重合転化率を変更したこと以外は実施例1と同様にして、重合を行い、比較例3~5で使用する重合体ラテックスを得た。得られたクロロプレン系重合体ラテックスを、下記表2に記載する配合比にて配合物とし、浸漬架橋フィルムを作製した。
【表2】
【0042】
以上の実施例1~5及び比較例1~5の結果をまとめて、表3に示す。
【表3】
【0043】
本願発明の組成物を成形して手袋にした場合、300%伸長時モデュラスの数値が高いと、指を曲げた時に戻ろうとする力が強く、使用感が硬い。また、300%伸長時モデュラスの数値が低いと、使用感が柔らかく、長時間使用しても疲れにくい。従って、表3の結果から、比較例3の配合比によって得られた手袋は使用感が硬くなる。
また、表3の結果から、比較例1~2の配合比によって得られた成形物の引張強度は、手術用手袋としては不十分である。