(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】蓄電デバイス構造体
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20231011BHJP
H01M 50/202 20210101ALI20231011BHJP
H01M 50/293 20210101ALI20231011BHJP
H01M 50/291 20210101ALI20231011BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20231011BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20231011BHJP
H01G 11/14 20130101ALI20231011BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01M50/202 401F
H01M50/293
H01M50/291
H01G11/06
H01G11/78
H01G11/14
(21)【出願番号】P 2022191178
(22)【出願日】2022-11-30
【審査請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2022072598
(32)【優先日】2022-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】八木 稔
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-530715(JP,A)
【文献】国際公開第2022/080686(WO,A1)
【文献】特開2014-049226(JP,A)
【文献】国際公開第2021/194059(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/225238(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/225237(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/204
H01M 50/202
H01M 50/293
H01M 50/291
H01G 11/06
H01G 11/78
H01G 11/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスと、該蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなる蓄電デバイス構造体であって、
前記蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置
し、
前記熱解重合性ポリマーが、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチルスチレン(AMS)の1種または2種以上を単量体成分として用いたポリマー(ホモポリマーまたは2成分以上の共重合ポリマー)である、蓄電デバイス構造体。
【請求項2】
前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものである、請求項1に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項3】
前記熱解重合性ポリマーを含む成形体において、熱解重合性ポリマー部が全体の10重量%以上含まれる、請求項1に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項4】
前記熱解重合性ポリマーを含む成形体が、フィルム状、シート状または板状である、請求項1に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項5】
前記フィルム状、シート状または板状の成形体が、厚さ1μm~5000μmである、請求項
4に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項6】
前記フィルム状、シート状または板状の成形体の面積当たりの重量が、10g~2000g/m
2
である、請求項
5に記載の蓄電デバイス構造体。
【請求項7】
前記蓄電デバイスが複数積層されている、請求項1~
6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスを外包した蓄電デバイス構造体に関し、特に蓄電デバイスの破損時や過充電時などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高出力用途の携帯機器や電気自動車などの電源として、非水電解質を用いた蓄電デバイスをケーシングに収容してなる二次電池、リチウムイオンキャパシタおよび電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスが用いられている。
【0003】
このような蓄電デバイスは、通常、上限電圧が定められており、適切な保護回路と組み合わせることで上限電圧を超えないよう制御されている。しかしながら、保護回路が誤動作を起こし上限電圧を超えた場合、充放電を繰り返した場合、あるいは外的要因により短絡した場合などには、蓄電デバイスが過充電状態に陥り、電解液が電極材料などと反応してガスが発生し、この発生したガスによって内圧が上昇する。この発生するガスは、電解液、メタン、一酸化炭素、エチレン、エタン、プロパンなどの可燃性ガスを含むことがあり、蓄電デバイス外部に放出された際に、発火や爆発などを起こす危険性がある。
【0004】
そして、近年、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスにおいては、高出力および大容量化が求められてきており、蓄電デバイス単体や、複数の蓄電デバイスをスタックしたモジュール構成で大電流を使用する機会が増えてきている。例えば、複数の蓄電デバイスをスタックしたモジュールにおいて、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合に、ガスが電解液と共に放出された後も、その他の蓄電デバイスが機能しているため、大電流を流し続けることがある。そのため、短絡により激しく過熱される場合があり、上述したような発火や爆発などを起こす危険性は大きくなる。
【0005】
このような蓄電デバイスの発火を防止する技術として、例えば、リチウムイオン電池の内部で発生したガスを可燃性ガス吸収材によって吸収し、電池の破裂を防止する方法が提案されている(特許文献1,2)。
【0006】
一方、リチウムイオン電池内部に消火剤を配置することにより、電池内部でのガスの発生による内圧上昇によって安全弁が開放した際に外部に放出されるガスの温度を低下させる方法も提案されている(特許文献3)。さらには、リチウムイオン電池内部に、不燃性ガス、水系溶媒、あるいは不燃性溶媒を細孔内及び表面に吸着させた多孔質素材を配置することにより、リチウムイオン電池からの発生するガスによる発火を防止する方法も提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-155790号公報
【文献】特開2003-077549号公報
【文献】特開2010-287488号公報
【文献】特開2013-187089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電気的異常時や熱暴走時には瞬間的に大量のガスが発生するため、特許文献1及び2に記載されているようなガス吸着材を蓄電デバイス内に配置する方法では、蓄電デバイスという限られた空間に対しては、ガス吸着量及びガス吸着速度ともに不十分であり、蓄電デバイスからのガスの噴出を抑制しきれない、という問題点があった。また、特許文献3及び4に記載されているように、リチウムイオン電池の内部の温度を低下させるために消火剤や、多孔質素材の細孔内および表面に不燃性ガスあるいは水系溶媒又は不燃性溶媒を吸着される材を蓄電デバイス内に配置する方法では、ガス吸着量が不十分だとその効果が十分に発揮されず、さらにガスの噴出を抑制しきれない、という問題点があった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、蓄電デバイス、特に複数の蓄電デバイスを積層した蓄電デバイススタックの破損や過充電などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、蓄電デバイスと、該蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなる蓄電デバイス構造体であって、前記蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、加熱によりモノマーに分解する熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置した、蓄電デバイス構造体を提供する(発明1)。
【0011】
かかる発明(発明1)によれば、蓄電デバイス内ではなく、蓄電デバイスを外包するケーシングの空間に、加熱によりモノマーに分解する熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置することにより、蓄電デバイス内で発火が生じた際のケーシング外まで延焼するリスクを低減することができる。
【0012】
上記発明(発明1)においては、前記蓄電デバイスが非水電解質を用いたものであることが好ましい(発明2)。
【0013】
かかる発明(発明2)によれば、蓄電デバイス内で非水電解質に起因して発火が生じた際の外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0014】
上記発明(発明1)においては、前記熱解重合性ポリマーを含む成形体は、熱解重合性ポリマー部が全体の10重量%以上含まれることが好ましい(発明3)。
【0015】
かかる発明(発明3)によれば、蓄電デバイス内で発火が生じた際の外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0016】
上記発明(発明1)においては、前記熱解重合性ポリマーが、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチルスチレン(AMS)、テトラフルオロエチレン(TFE)の1種または2種以上を単量体成分として用いたポリマー(ホモポリマーまたは2成分以上のポリマー)であることが好ましい(発明4)。
【0017】
かかる発明(発明4)によれば、蓄電デバイス内で発火が生じた際の外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0018】
上記発明(発明1)においては、前記熱解重合性ポリマーを含む成形体が、フィルム状、シート状、または板状であることが好ましい(発明5)。
【0019】
かかる発明(発明5)によれば、フィルム状、シート状または板状とすることにより、ケーシング内に張り付けたり、隙間部に挿入したり、その設置バリエーションを豊富なものとすることができ、取扱い性に優れたものとすることができる。
【0020】
上記発明(発明5)においては、前記フィルム状、シート状、または板状の成形体が、厚さ1μm~5000μmであることが好ましい(発明6)。特に上記発明(発明6)においては、前記フィルム状、シート状または板状の成形体の面積当たりの重量が、10g~2000g/m2であることが好ましい(発明7)。
【0021】
かかる発明(発明6,7)によれば、所定の厚さ及び重量のフィルム状、シート状または板状の成形体を、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に配置することにより、蓄電デバイス内で発火が生じた際の外部への延焼防止効果を好適に発揮することができる。
【0022】
上記発明(発明1~7)においては、前記蓄電デバイスが複数積層されていてもよい(発明8)。
【0023】
蓄電デバイスを複数積層した蓄電デバイススタックは、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合であってもその他の蓄電デバイスが機能しているため大電流を流し続けるので、激しく過熱され、可燃性のガスが発火温度以上となりやすい。このとき、かかる発明(発明8)によれば、蓄電デバイスから可燃性ガスが噴出してケーシングの空間に流出したとしても、本件発明の素材が可燃性ガスに影響を与えることにより、ケーシング外にまで延焼するリスクを大幅に低減することができるので、蓄電デバイススタックに特に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置することで、蓄電デバイスの短絡などにより蓄電デバイスから放出される高温の噴出物や噴出ガスにより、熱解重合性ポリマーが熱分解してモノマーが発生するメカニズムに起因して、蓄電デバイス構造体の発火リスクを大幅に低減することができる。しかも、熱解重合性ポリマーは、熱によりモノマーに転化するので、燃焼残渣などがケーシング内に残ることがない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の本発明の蓄電デバイス構造体について、以下の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0026】
[蓄電デバイス構造体]
本実施形態の蓄電デバイス構造体は、蓄電デバイスと、この蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなり、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置した構造を有する。
【0027】
(蓄電デバイス)
本実施形態において、蓄電デバイスとしては、特に制限はなく、一次電池、二次電池のいずれも用いることができるが、好ましくは二次電池である。この二次電池の種類については、特に制限されず、例えば、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、全固体電池、鉛畜電池、ニッケル・水素畜電池、ニッケル・カドミウム畜電池、ニッケル・鉄畜電池、ニッケル・亜鉛畜電池、酸化銀・亜鉛畜電池、金属空気電池、多価カチオン電池、コンデンサ、キャパシタ等を用いることができる。これらの中では、非水電解質を用いたものを好適に用いることができる。これらの二次電池の中でも、本発明の電池用材料の好適な適用対象として、リチウムイオン電池、リチウムイオンポリマー電池、リチウムイオンキャパシタ、全固体電池などを好適に用いることができる。
【0028】
上記非水電解質としては、例えば、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)などの環状カーボネートと、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの鎖状カーボネートとの混合溶液などを用いることができる。また、上記非水電解質は、必要に応じて、電解質として六フッ化リン酸リチウムなどのリチウム塩が溶解したものであってもよい。例えば、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)及びジメチルカーボネート(DMC)を1:1:1の割合で混合した混合液、あるいはプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を1:1:1の割合で混合した混合液に、1mol/Lの六フッ化リン酸リチウムを添加したものを用いることができる。
【0029】
上述したような蓄電デバイスは、複数が積層されてなる蓄電デバイススタックの形態であってもよい。蓄電デバイススタックは、1つの蓄電デバイスが過充電状態に陥った場合であっても、その他の蓄電デバイスが機能しているため大電流を流し続けるので、非水電解質に起因して可燃性ガスが発生した際に、発火温度以上となりやすいため特に好適である。
【0030】
(ケーシング)
本実施形態において、ケーシングとしては上述した蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)に対して空隙を有して外包しうるものであれば特に制限はなく、電池ケースなどの蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)の収納ケースや、蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)を使用する機器の筐体などがこれに該当する。このケーシングは、合成樹脂製、金属製などその素材については限定されない。
【0031】
(発火防止素材)
本実施形態において、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に設置する発火防止素材としては、熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置する。
【0032】
(熱解重合性ポリマー)
本実施形態において、熱解重合性ポリマーとは、熱や光によって重合体(ポリマー)が単量体(モノマー)に分解する解重合性を持ち、かつ加熱により残渣が残らないポリマーのことである。上記熱解重合性ポリマーとしては、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチルスチレン(AMS)、テトラフルオロエチレン(TFE)の1種または2種以上を単量体成分として用いたポリマー(ホモポリマーまたは2成分以上のポリマー)をベースポリマーとする熱解重合性ポリマーが挙げられる。これらの中では、メタクリル酸メチル(MMA)とα-メチルスチレン(AMS)とを単量体成分としたポリマーが好ましく、特にメタクリル酸メチル(MMA):α-メチルスチレン(AMS)が20:80~80:20(モル比)、さらには40:60~60:40(モル比)で構成されるポリマーが好ましい。このような熱解重合性ポリマーは、蓄電デバイスの短絡などにより蓄電デバイスから放出される高温の噴出物や噴出ガスにより、熱分解してモノマーが発生するメカニズムに起因して、蓄電デバイス構造体の発火リスクを大幅に低減することができる。
【0033】
上記熱解重合性ポリマーは、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含み得る。該添加剤としては、例えば、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤(例えば、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸エステル系可塑剤等)、顔料、染料、充填剤、老化防止剤、導電材、帯電防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、剥離調整剤、軟化剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤等が挙げられる。
【0034】
本実施形態においては、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に配置する成形体の形状は特に制限はないが、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に設置する際の取扱い易さを考慮すると、フィルム状、シート状または板状とすることが好ましい。発火防止素材をフィルム状、シート状または板状とすることにより、ケーシング内に張り付けたり、隙間部に挿入したり、その設置バリエーションを豊富なものとすることができる。
【0035】
さらには、これらの発火防止素材は、蓄電デバイスからの噴出物および噴出ガスに対し、伝熱吸収による冷却効果、燃焼ラジカル反応を抑制する効果、吸着材表面での火炎が不安定となる消炎効果を発揮する素材を付与して使用することも可能である。
【0036】
上述したような発火防止素材は、単独で用いてもよいし2種類以上の素材を併用してもよい。
【0037】
以上、本発明の蓄電デバイス構造体について説明してきたが、本発明は蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)とケーシングとの間の空隙に、熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置しさえすればよく、蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)の大きさ、形状などは特に制限されない。そのため、スマートフォンから車載用など幅広い大きさの蓄電デバイス(蓄電デバイススタック)にまで適用可能である。
【実施例】
【0038】
以下の具体的な実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
[過充電試験]
【0039】
(比較例1)
蓄電デバイスの容器を想定したPP樹脂製容器(内径:横80mm×縦105mm×深さ34mm、樹脂厚さ2mm、アルミラミネートリチウムイオン電池の極側をこのPP樹脂製容器の横80mm側に配置し、PP樹脂製容器の横80mmの側に直径10mmの穴を5個開けた上面が開放した容器)を用意した。このPP樹脂製容器の内側に、正極三元系で1500mAhのアルミラミネートリチウムイオン電池(横35mm、縦75mm)を設置し、その上から樹脂厚さ4mmのPP樹脂製板で蓋をして蓋の周縁を耐熱性テープを使用して隙間がないように密閉し、過充電によるリチウムイオン電池からの噴出物は、5個開けた穴からだけ放出されるように構成した。
【0040】
この蓄電デバイスの容器を想定したPP樹脂製容器の外側に、ケーシングの容器を想定したPP樹脂製容器(内径:横98mm×縦148mm×深さ48mm、樹脂厚さ2mm、横98mm側に直径10mmの穴を5個開けた上面が開放した容器(上記の蓄電デバイスの容器を想定したPP樹脂製容器の穴あけ場所とは反対側に穴あけした容器))を配置し、電池を過充電できるように配線し、その上から厚さ4mmのPP樹脂製板で蓋をして、蓋の周縁を耐熱性テープを使用して隙間がないように密閉し、過充電での電池の噴出物は、5個開けた穴からだけから放出されるようにして、蓄電デバイス構造体とした。
【0041】
この蓄電デバイス構造体に、15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0042】
(実施例1)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、熱解重合性ポリマーとしてα-メチルスチレンとメタクリル酸メチルの共重合ポリマー(α-メチルスチレン:メタクリル酸メチル=58:42(モル比))のフィルム状成形体(厚さ125μm、面積当たりの重量150g/m2)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2 、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0043】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊されたが、ケーシングの外側での発火は認められなかった。
【0044】
なお、本件共重合ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、モノマーへの分解が起こり、黒色変化や残渣はなかった。
【0045】
(実施例2)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、熱解重合性ポリマーとしてメタクリル酸メチルを主体とするポリマー(メタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル共重合物を94%以上含むポリマー)の板状成形体(厚さ2000μm、面積当たりの重量2300g/m2)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2 、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0046】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊されたが、ケーシングの外側での発火は認められなかった。
【0047】
なお、本件ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、モノマーへの分解が起こり、黒色変化や残渣はなかった。
【0048】
(実施例3)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、熱解重合性ポリマーとしてメタクリル酸メチルを主体とするポリマー(メタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル共重合物とメタクリル酸メチル・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物の混合物を94%以上含むポリマー)のフィルム状成形体(厚さ125μm、面積当たりの重量150g/m2)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0049】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊されたが、ケーシングの外側での発火は認められなかった。
【0050】
なお、本件ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、モノマーへの分解が起こり、黒色変化や残渣はなかった。
【0053】
(比較例2)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、ポリカーボネートの板状成形体(厚さ500μm)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2 、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0054】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0055】
なお、本件ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、黒色変化と残渣が発生した。
【0056】
(比較例3)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、ナイロン66のフィルム状成形体(厚さ1000μm)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2 、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0057】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0058】
なお、本件ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、黒色変化と残渣が発生した。
【0059】
(比較例4)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、硬質塩化ビニルの板状成形体(厚さ500μm)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2 、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0060】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0061】
なお、本件ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、黒色変化と残渣が発生した。
【0062】
(比較例5)
比較例1で使用した蓄電デバイス構造体において、セロファンのフィルム状成形体(厚さ20μm)を、ケーシングを想定したPP樹脂製容器の上蓋のPP樹脂製板の内側の上面に0.011m2 、両面テープで貼り付けて蓄電デバイス構造体とした。
【0063】
この蓄電デバイス構造体に、比較例1と同じ条件、すなわち15V、7.5Aで過充電を行ったところ、約19分後に電池は破壊され、ケーシングの外側で激しい発火が確認された。
【0064】
なお、本件ポリマーを10℃/minの昇温速度で500℃まで加熱した場合、黒色変化と残渣が発生した。
【要約】
【課題】 蓄電デバイス、特に複数の蓄電デバイスを積層した蓄電デバイススタックの破損時や過充電時などの異常時に発火するリスクを低減することが可能な蓄電デバイス構造体を提供する。
【解決手段】 蓄電デバイス構造体は、蓄電デバイスとこの蓄電デバイスを空隙を有して外包するケーシングとからなり、蓄電デバイスとケーシングとの空隙に、熱解重合性ポリマーを含む成形体を配置した構造を有する。この成形体は、フィルム状、シート状または板状であることが好ましい。
【選択図】 なし