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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】変性ポリエステル樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/78 20060101AFI20231011BHJP
   C08G 63/60 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C08G63/78
C08G63/60
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023510635
(86)(22)【出願日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2022006461
(87)【国際公開番号】W WO2022209397
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2021060676
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100163038
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 武志
(72)【発明者】
【氏名】里川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 翔
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 英知
(72)【発明者】
【氏名】高野 啓
(72)【発明者】
【氏名】土肥 知樹
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-335623(JP,A)
【文献】特開2006-206905(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187569(WO,A1)
【文献】特開2000-062853(JP,A)
【文献】特開平11-255873(JP,A)
【文献】特開平07-309689(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00- 63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカン酸と、下記条件(A-1)及び条件(A-2)の少なくともいずれか並びに下記条件(B)を満たす反応性原料とを、無溶媒下、かつ前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で反応させる工程を含み、
前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクトン、及び下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクチドの少なくともいずれかを含有することを特徴とする変性ポリエステル樹脂の製造方法。
条件(A-1):前記反応性原料がジオール及びジカルボン酸成分を含有する。
条件(A-2):前記反応性原料が前記ポリヒドロキシアルカン酸以外のポリエステル樹脂を含有する。
条件(B):前記反応性原料を構成する芳香族モノマーの前記反応性原料における割合が0モル%以上50モル%未満である。
【化1】
(式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは、0~6の整数を表す。ただし、n=0かつRがメチル基の場合を除く。)
ただし、前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度は、以下の(I)~(II)によって求められる分解温度である。
(I)ある温度において熱処理を施した際の、ポリヒドロキシアルカン酸の平均重合度をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により測定し、その逆数の時間依存性から各温度における熱分解定数を算出する。
(II)熱分解定数が1×10-5min-1以上となる温度を、そのポリヒドロキシアルカン酸の分解温度とする。
【請求項2】
ポリヒドロキシアルカン酸と、下記条件(A-1)及び下記条件(B)を満たす反応性原料とを、無溶媒下、かつ前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で反応させる工程を含むことを特徴とする変性ポリエステル樹脂の製造方法。
条件(A-1):前記反応性原料がジオール及びジカルボン酸成分を含有する。
条件(B):前記反応性原料を構成する芳香族モノマーの前記反応性原料における割合が0モル%以上50モル%未満である。
ただし、前記反応の際の前記ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)と前記ジオール及び前記ジカルボン酸成分の合計との質量割合〔PHA:(ジオール及びジカルボン酸成分の合計)〕が、1:99~50:50である。
ただし、前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度は、以下の(I)~(II)によって求められる分解温度である。
(I)ある温度において熱処理を施した際の、ポリヒドロキシアルカン酸の平均重合度をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により測定し、その逆数の時間依存性から各温度における熱分解定数を算出する。
(II)熱分解定数が1×10-5min-1以上となる温度を、そのポリヒドロキシアルカン酸の分解温度とする。
【請求項3】
前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクトン、及び下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクチドの少なくともいずれかを含有する、請求項2に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【化2】
(式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは、0~6の整数を表す。)
【請求項4】
前記反応性原料が、前記条件(A-1)及び前記条件(B)を満たす、請求項1に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記反応性原料が、前記条件(A-2)及び前記条件(B)を満たす、請求項1に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記反応温度における前記ポリエステル樹脂の粘度が、4Pa・s以下である、請求項5に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記反応温度が、100℃以上かつ前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満である、請求項1~6のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記反応温度が、前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度よりも15℃低い温度以下である、請求項1~6のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、3-ヒドロキシブタン酸を含有する、請求項1~8のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、更に3-ヒドロキシ吉草酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸の少なくともいずれかを含有する、請求項9に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、更に3-ヒドロキシヘキサン酸を含有する、請求項9に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成樹脂の多くは自然環境中では簡単には分解しない。そのため、合成樹脂による自然環境の悪化が問題となっている。例えば、廃棄された合成樹脂はマイクロプラスチックとなって海洋環境を汚染する。
【0003】
ポリヒドロキシアルカン酸は、淡水、海水、コンポスト、土壌などでの生分解性を有する樹脂であることから、自然環境に優しい樹脂として注目され、幅広く利用されると共に今後の応用領域の拡大が求められている。
しかし、ポリヒドロキシアルカン酸それ自体は、一部のハロゲン系溶剤には溶解するものの、溶剤溶解性に乏しい。そのため、ポリヒドロキシアルカン酸それ自体をインキ、塗料、接着剤などに用いることは困難である。そこで、ポリヒドロキシアルカン酸の溶剤溶解性を改善するために、種々の手法によりポリヒドロキシアルカン酸の変性が試みられてきた。
【0004】
例えば、ポリヒドロキシアルカン酸であるポリヒドロキシ酪酸を、プロピレングリコールもしくはジエチレングリコールでグリコリシス(反応温度170℃)を行い、その後に無水マレイン酸を加え240℃まで加熱するポリヒドロキシ酪酸の変性方法が提案されている(非特許文献1)。
【0005】
また、ポリヒドロキシアルカン酸であるポリ(ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシバレレート)を溶媒存在下でポリブチレンアジペートとエステル交換する、ポリ(ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシバレレート)の変性方法が提案されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Macromol. Symp., 331-332, (2013), 97-108
【文献】Polymer, 54, (2013), 65-74
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの提案されている方法では、溶媒の使用によって生成物の精製を必要とすること、及び熱分解が生じやすいことなどの問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸を変性して得られかつ溶剤溶解性に優れる変性ポリエステル樹脂を、生成物の精製を必要とせずかつ熱分解を抑制して製造することができる、変性ポリエステル樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、無溶媒下、かつポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で、更に芳香族成分の割合が少ない反応性原料を用いてポリヒドロキシアルカン酸を変性することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1] ポリヒドロキシアルカン酸と、下記条件(A-1)及び条件(A-2)の少なくともいずれか並びに下記条件(B)を満たす反応性原料とを、無溶媒下、かつ前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で反応させる工程を含むことを特徴とする変性ポリエステル樹脂の製造方法。
条件(A-1):前記反応性原料がジオール及びジカルボン酸成分を含有する。
条件(A-2):前記反応性原料が前記ポリヒドロキシアルカン酸以外のポリエステル樹脂を含有する。
条件(B):前記反応性原料を構成する芳香族モノマーの前記反応性原料における割合が0モル%以上50モル%未満である。
[2] 前記反応性原料が、前記条件(A-1)及び前記条件(B)を満たす、[1]に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[3] 前記反応性原料が、前記条件(A-2)及び前記条件(B)を満たす、[1]に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[4] 前記反応温度における前記ポリエステル樹脂の粘度が、4Pa・s以下である、[3]に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[5] 前記反応温度が、100℃以上かつ前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[6] 前記反応温度が、前記ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度よりも15℃低い温度以下である、[1]~[4]のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[7] 前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクトン、及び下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクチドの少なくともいずれかを含有する、[1]~[6]のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【化1】
(式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは、0~6の整数を表す。)
[8] 前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、3-ヒドロキシブタン酸を含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[9] 前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、更に3-ヒドロキシ吉草酸及び3-ヒドロキシヘキサン酸の少なくともいずれかを含有する、[8]に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
[10] 前記ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが、更に3-ヒドロキシヘキサン酸を含有する、[8]に記載の変性ポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ポリヒドロキシアルカン酸を変性して得られかつ溶剤溶解性に優れる変性ポリエステル樹脂を、生成物の精製を必要とせずかつ熱分解を抑制して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の変性ポリエステル樹脂の製造方法について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0013】
(変性ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明の変性ポリエステル樹脂の製造方法は、反応工程を少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0014】
<反応工程>
反応工程では、ポリヒドロキシアルカン酸と、反応性原料とを反応させる。
反応は、無溶媒下、かつポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で行われる。
反応を無溶媒下で行うことによって、精製工程である、反応生成物から有機溶媒を除去する工程を行う必要がなくなる。
また、反応をポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で行うことによって、ポリヒドロキシアルカン酸の熱分解を抑制することができる。そうすることで、副生成物の生成、反応性生成物である変性ポリエステル樹脂の低分子量化などを抑制することができる。このことは、分子量の制御が容易になることに繋がる。
【0015】
無溶媒下とは、通常のポリエステル樹脂の製造において使用される、モノマー成分、触媒等を溶解するための有機溶媒を用いないということである。
【0016】
ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度は、例えば、非特許文献(Macromolecules, 23, (1990), 1933-1936)記載の方法に基づき、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)によって評価することができる。ある温度において熱処理を施した際の、試料の平均重合度をGPCにより測定し、その逆数の時間依存性から各温度における熱分解定数が算出できる。熱分解定数が1×10-5min-1以上となる温度を、そのポリマーの分解温度とした。
【0017】
<<ポリヒドロキシアルカン酸>>
ポリヒドロキシアルカン酸は、一種のモノマーからなる単独重合体(ホモポリマー)であってもよいし、二種以上のモノマーからなる共重合体(コポリマー)であってもよい。ポリヒドロキシアルカン酸が共重合体である場合、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0018】
ポリヒドロキシアルカン酸中の繰り返し単位は、例えば、下記式(1)で表される。
【化2】
(式(1)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは、0~6の整数を表す。*1及び*2は結合手を表す。)
【0019】
ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーとしては、例えば、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクトン、下記式(2)で表されるヒドロキシアルカン酸のラクチドなどが挙げられる。
【化3】
(式(2)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、nは、0~6の整数を表す。)
【0020】
ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーの具体例としては、例えば、乳酸、グリコール酸、3-ヒドロキシ酪酸(3-ヒドロキシブタン酸)、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシ吉草酸(3-ヒドロキシペンタン酸)、3-ヒドロキシヘキサン酸、6-ヒドロキシヘキサン酸、乳酸のラクチド、ε-カプロラクトンなどが挙げられる。
ポリヒドロキシアルカン酸を構成するモノマーが光学異性体の場合、モノマーはL体及びD体のいずれであってもよく、場合によってはポリマー中にD体とL体が混在していてもよいが(DL体)、機械的強度等の物性に優れる点から、D体又はL体のみからなることが好ましい。
【0021】
ポリヒドロキシアルカン酸としては、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ-3-ヒドロキシブタン酸(P3HB)、ポリ-4-ヒドロキシブタン酸、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)(PHBV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)、ポリ-ε-カプロラクトンなどが挙げられる。これらの中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)が好ましい。3-ヒドロキシヘキサン酸に由来する繰り返し単位は、ポリヒドロキシアルカン酸の結晶性及び融点を低下させ、ポリヒドロキシアルカン酸の反応性原料への溶解性を良好にする。その結果、反応工程における反応性が向上する。
【0022】
ポリヒドロキシアルカン酸を分解温度以上にすると熱分解を生じやすい。そのため、反応をポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満の反応温度で行うことによって、ポリヒドロキシアルカン酸の熱分解を抑制することができる。
ポリヒドロキシアルカン酸の熱分解の一例は、例えば、以下に示されるような疑似6員環構造を経由した熱分解である。
【化4】
【0023】
また、ポリヒドロキシアルカン酸の熱分解の他の一例は、以下に示されるようなポリマー鎖末端のBack Bitingにより生じる熱分解である。
【化5】
【0024】
使用されるポリヒドロキシアルカン酸は、合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
【0025】
使用されるポリヒドロキシアルカン酸は、構成されるモノマーの平均重合度が10以上のものを言う。
【0026】
ポリヒドロキシアルカン酸の合成は、例えば、一般的なポリエステル樹脂の合成方法を用いて行うことができる。
【0027】
<<反応性原料>>
反応性原料は、下記条件(A-1)及び条件(A-2)の少なくともいずれか並びに下記条件(B)を満たす。
条件(A-1):反応性原料がジオール及びジカルボン酸成分を含有する。
条件(A-2):反応性原料がポリヒドロキシアルカン酸以外のポリエステル樹脂を含有する。
条件(B):反応性原料を構成する芳香族モノマーの反応性原料における割合が0モル%以上50モル%未満である。
ここで、条件(B)に関し、反応性原料がポリエステル樹脂を含有する場合、反応性原料を構成する芳香族モノマーには、ポリエステル樹脂を構成する芳香族モノマーが含まれる。
例えば、反応性原料がポリエステル樹脂のみからなり、当該ポリエステル樹脂が構成モノマーとして、非芳香族ジオールと非芳香族ジカルボン酸と芳香族カルボン酸とを、モル比(非芳香族ジオール:非芳香族ジカルボン酸:芳香族カルボン酸)で2:1:1で含有する場合、反応性原料を構成する芳香族モノマーの反応性原料における割合は25モル%である。
また、例えば、反応性原料が、非芳香族ジオール(A)、芳香族ジカルボン酸成分(B)、及びポリエステル樹脂(C)のみからなり、ポリエステル樹脂(C)が構成モノマーとして、非芳香族ジオールと非芳香族ジカルボン酸と芳香族カルボン酸とを、モル比(非芳香族ジオール:非芳香族ジカルボン酸:芳香族カルボン酸)で2:1:1で含有し、反応原料中の、ポリエステル樹脂(C)中の構成モノマーのモル数(MC)と、非芳香族ジオール(A)のモル数(MA)と、芳香族ジカルボン酸成分(B)のモル数(MB)とが、MC:MA:MB=2:1:1の場合、反応性原料を構成する芳香族モノマーの反応性原料における割合は、[(2×0.25+1)/(2+1+1)]=37.5%となる。
【0028】
<<<条件(A-1)>>>
条件(A-1)は、反応性原料がジオール及びジカルボン酸成分を含有するという条件である。
【0029】
-ジオール-
条件(A-1)において反応性原料に含有されるジオールとしては、例えば、非芳香族ジオール、芳香族ジオールが挙げられる。
【0030】
非芳香族ジオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、脂環族ジオールなどが挙げられる。
非芳香族ジオールの炭素数としては、例えば、炭素数1~15が挙げられる。
【0031】
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メチルペンタンジオール、ジメチルブタンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどが挙げられる。
脂環族ジオールとしては、例えば、炭素数6~15の脂環族ジオールが挙げられる。脂環族ジオールとしては、例えば、1,3-ビス(2-ヒドロキシプロピル)シクロペンタン、1,3-ビス(2-ヒドロキシブチル)シクロペンタン、1,4-ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2-ヒドロキシプロピル)シクロヘキサン、1,4-ビス(2-ヒドロキシブチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0032】
芳香族ジオールとしては、例えば、炭素数6~20の芳香族ジオールが挙げられる。炭素数6~20の芳香族ジオールとしては、例えば、1,3-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジメタノール、1,4-ベンゼンジエタノール、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどが挙げられる。
【0033】
これらのジオールは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
-ジカルボン酸成分-
条件(A-1)において反応性原料に含有されるジカルボン酸成分としては、例えば、ジカルボン酸、その無水物、そのハロゲン化物、そのエステル化物が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、非芳香族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0035】
非芳香族ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、不飽和結合含有非芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。
非芳香族ジカルボン酸の炭素数としては、例えば、炭素数3~15が挙げられる。
【0036】
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸などが挙げられる。
脂環族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数8~15の脂環族ジカルボン酸が挙げられる。脂環族ジカルボン酸としては、例えば、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。
不飽和結合含有非芳香族ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。
【0037】
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、炭素数6~20の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、オルトフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2-ビス(フェノキシ)エタン-p,p’-ジカルボン酸などが挙げられる。
【0038】
反応性原料のジオールとジカルボン酸成分とのモル比率(ジオール成分/ジカルボン酸)は、1.0~2.0が好ましく、1.05~1.40が特に好ましい。
【0039】
<<<条件(A-2)>>>
条件(A-2)は、反応性原料がポリヒドロキシアルカン酸以外のポリエステル樹脂を含有するという条件である。
【0040】
-ポリエステル樹脂-
ポリエステル樹脂としては、例えば、ジオールなどの多価アルコールとジカルボン酸成分などの多価カルボン酸成分との重縮合物である。
ポリエステル樹脂は、例えば、エステル結合以外に、ウレタン結合、ウレア結合などを有してもよい。
【0041】
ポリエステル樹脂は、例えば、ポリエステルポリオールである。ポリエステルポリオールは、例えば、ポリエステル樹脂を合成する際に、多価アルコールと多価カルボン酸成分とを水酸基がカルボキシル基に対して過剰になるように用いることで合成することができる。
【0042】
ポリエステル樹脂の分子量としては、特に限定されない。
【0043】
ポリエステル樹脂の反応温度における粘度としては、特に制限されないが、4Pa・s以下が好ましく、1.0Pa・s以下がより好ましく、0.5Pa・s以下が特に好ましい。反応温度におけるポリエステル樹脂の粘度が低いほど、ポリヒドロキシアルカン酸とポリエステル樹脂とを混合しやすくなる。
粘度は、以下の方法によって測定することができる。
〔粘度の測定方法〕
ポリエステル樹脂の粘度は、回転型レオメーターを用いて測定することができる。例えばAnton-Paar社製回転型レオメーター「MCR-102」により、測定温度は反応温度と同等とし、測定治具として直径25mmのパラレルプレート型治具を使用して、ギャップ1mm、剪断速度10s-1の条件で測定することができる。
【0044】
使用されるポリエステル樹脂は、合成したものであってもよいし、市販品であってもよい。
ポリエステル樹脂の合成は、一般的なポリエステル樹脂の合成方法を用いて行うことができる。
【0045】
<<<条件(B)>>>
条件(B)は、反応性原料を構成する芳香族モノマーの反応性原料における割合が0モル%以上50モル%未満であるという条件である。
ポリヒドロキシアルカン酸を変性すると、得られる変性ポリエステル樹脂の溶剤溶解性は高くなる。しかし、ポリヒドロキシアルカン酸を変性して、変性ポリエステル樹脂を製造する際に、変性に使用する反応性原料中に芳香族成分が多いと、得られる変性ポリエステル樹脂の溶剤溶解性の向上の程度は低下する。その点で、本発明の変性ポリエステル樹脂の製造方法においては、条件(B)を要する。
【0046】
条件(B)において、反応性原料を構成する芳香族モノマーの反応性原料における割合は、変性ポリエステル樹脂の溶剤溶解性の点で、40モル%以下が好ましく、30モル%以下がより好ましく、20モル%以下が特に好ましい。反応性原料を構成する芳香族モノマーの反応性原料における割合が小さいほど、変性ポリエステル樹脂におけるポリヒドロキシアルカン酸の割合を大きくしても溶剤溶解性に優れる変性ポリエステル樹脂が得られる。
【0047】
芳香族モノマーとしては、芳香族ジオール等の芳香族基を有する多価アルコール、芳香族ジカルボン酸成分等の芳香族基を有する多価カルボン酸成分などが挙げられる。
【0048】
反応性原料は、ジオール、ジカルボン酸成分、ポリエステル樹脂以外の反応性原料を含有していてもよい。そのような反応性原料としては、例えば、3価以上の多価アルコール、3価以上の多価カルボン酸成分が挙げられる。
【0049】
反応性原料における、ジオール、ジカルボン酸成分、及びポリエステル樹脂の合計の含有量としては、特に限定されないが、反応性原料の80質量%以上100質量%以下が好ましい。
【0050】
反応の際の、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)と反応性原料との質量割合(PHA:反応性原料)としては、特に限定されず、例えば、1:99~99:1であってもよいし、5:95~95:5であってもよいし、10:90~90:10であってもよい。
反応性原料が条件(A-1)を満たす場合、反応の際のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)とジオール及びジカルボン酸成分の合計との質量割合〔PHA:(ジオール及びジカルボン酸成分の合計)〕としては、得られる変性ポリエステル樹脂の溶解溶剤性がより優れる点で、1:99~50:50が好ましく、3:97~40:60がより好ましく、5:95~20:80が特に好ましい。
反応性原料が条件(A-2)を満たす場合、反応の際のポリヒドロキシアルカン酸(PHA)とポリエステル樹脂(PE)との質量割合(PHA:PE)としては、両者の相溶性の点で10:90~90:10が好ましく、10:90~70:30がより好ましく、15:85~70:30が特に好ましい。
【0051】
反応は、無触媒で行われてもよいし、触媒存在下で行われてもよい。
反応に用いられる触媒としては、例えば、酸触媒が挙げられる。酸触媒としては、例えば、モノブチル酸化錫、ジブチル酸化錫等の錫系触媒;チタニウムテトライソプロポキシド、チタニルアセチルアセトナート等のチタン系触媒;テトラ-ブチル-ジルコネート等のジルコニア系触媒などが挙げられる。エステル交換反応及びエステル化反応の活性を高くできる点で、チタン系触媒を用いることが好ましい。
【0052】
反応に用いられる触媒の量としては、特に限定されないが、例えば、使用する反応性原料に対して1~1000質量ppmが好ましく、10~100質量ppmがより好ましい。
【0053】
反応温度としては、ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度未満であれば、特に限定されないが、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上が特に好ましい。
また、反応温度は、ポリヒドロキシアルカン酸の熱分解をより抑制する点から、ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度(Td)よりも15℃低い温度(Td-15℃)以下であることが好ましく、ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度(Td)よりも20℃低い温度(Td-20℃)以下であることがより好ましい。
また、反応温度は、反応の進行が遅くなることを防ぐ点で、ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度(Td)よりも50℃低い温度(Td-50℃)以上であることが好ましく、ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度(Td)よりも40℃低い温度(Td-40℃)以上であることがより好ましい。
【0054】
反応工程では、主に、エステル交換反応、及びエステル化反応が生じる。
【0055】
反応性原料が2種類以上の場合、反応工程において、ポリヒドロキシアルカン酸と2種類の反応性原料とを反応させる順序としては、特に限定されない。その点で、反応工程は、例えば、以下の(i)~(iii)のいずれかの方法、又はそれらの2種以上の組み合わせで行われてもよい。これらの中でも、得られる変性ポリエステル樹脂の溶剤溶解性がより優れたものになりやすい点から、(i)又は(ii)が好ましい。
(i):ポリヒドロキシアルカン酸とジオールとジカルボン酸とを反応容器に仕込み、反応を行う方法
(ii):ポリヒドロキシアルカン酸とジオールとを反応容器に仕込み、それらを反応させた後に、更に反応容器にジカルボン酸成分を添加して、更に反応を行う方法
(iii):ポリエステル樹脂とポリヒドロキシアルカン酸とを反応させる方法。
【0056】
(i)においては、エステル交換反応、及びエステル化反応として、以下の<1>~<5>が生じると考えられる。
(ii)においては、エステル交換反応、及びエステル化反応として、以下の<1>~<5>が生じると考えられる。
(iii)においては、エステル交換反応、及びエステル化反応として、以下の<5>が生じると考えられる。
【0057】
<1>:ポリヒドロキシアルカン酸とジオールとのエステル交換反応
【化6】
式中、Rは、例えば、水素原子又はアルキル基を表す。Rは、例えば、アルキレン基を表す。kは、正の整数を表す。lは、正の整数を表す。mは、正の整数を表す。pは、正の整数を表す。nは、正の整数を表す。
【0058】
<2>:ジオールとジカルボン酸とのエステル化反応
【化7】
式中、Rは、例えば、アルキレン基を表す。Rは、例えば、アルキレン基を表す。bは、正の整数を表す。
【0059】
<3>:ジオールとポリヒドロキシアルカン酸とのエステル化反応
【化8】
式中、Rは、例えば、アルキレン基を表す。Rは、例えば、水素原子又はアルキル基を表す。pは、正の整数を表す。
【0060】
<4>:<3>による生成物とジカルボン酸とのエステル化反応
【化9】
式中、Rは、例えば、水素原子又はアルキル基を表す。Rは、例えば、アルキレン基を表す。Rは、例えば、アルキレン基を表す。kは、正の整数を表す。aは、正の整数を表す。
【0061】
<5>:ポリエステルポリオールとポリヒドロキシアルカン酸とのエステル交換反応
【化10】
式中、Rは、例えば、水素原子又はアルキル基を表す。Rは、例えば、アルキレン基を表す。Rは、例えば、アルキレン基を表す。bは、正の整数を表す。cは、正の整数を表す。lは、正の整数を表す。nは、正の整数を表す。
【0062】
なお、(iii)においては、まず、反応容器内で、ジオールとジカルボン酸とからポリエステル樹脂を合成し、次に、その反応容器にポリヒドロキシアルカン酸を添加することによって、<5>のエステル交換反応を行ってもよい。
【0063】
反応工程においては、反応温度よりも低い温度で、ポリヒドロキシアルカン酸を反応性原料に溶解させる処理を行ってもよい。
【0064】
反応は縮合反応であるエステル化反応を含むため、副生成物として、水、低級アルコール等が生じる。それらは、反応工程中に反応系から除去されることにより、縮合反応が進行しやすくなる。
【0065】
反応の初期段階では、加熱下であってもポリヒドロキシアルカン酸がそれ以外の成分(例えば、ジオール、ジカルボン酸成分、ポリエステルポリオール)に溶解せず(不均一状態)、反応が進行するに従い溶解する(均一状態)点において、反応は連続式反応装置よりもバッチ式反応装置で実施する事が好ましい。
【0066】
反応は、反応性原料中のモノマー(例えば、ジオール、ジカルボン酸成分)が反応系内に残存しなくなるまで行うことが好ましい。反応の進行は、例えば、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)により分子量を測定し、分子量の変化によって判断することができる。例えば、反応性原料中のモノマーが反応系内に残存しなくなったかどうかは、一定時間間隔で反応系内の生成物を取り出し、GPCによって分子量を測定し、その分子量の変化が見られなくなったことにより確認できる。また、反応の進行は、例えば、ジカルボン酸成分の減少を酸価測定によって追跡することで行うことができる。
【0067】
得られた変性ポリエステル樹脂の水酸基価は、5.0mgKOH/g以上であることが好ましい。5.0mgKOH/g以上であれば、変性ポリエステル樹脂の溶剤溶解性がさらに向上する。これは、水酸基と分子量の関係が反比例の関係にあり、5.0mgKOH/g以上であれば、分子量が適切に低く抑えられるためである。
【0068】
得られた変性ポリエステル樹脂は、1000~35000g/molの範囲内の数平均分子量(Mn)が好ましい。
得られた変性ポリエステル樹脂は、2000~50000g/molの範囲内の重量平均分子量(Mw)が好ましい。
得られた変性ポリエステル樹脂のMw/Mn比は1~6が好ましく、2~4がより好ましい。
【0069】
得られた変性ポリエステル樹脂は、例えば、インキ、塗料、接着剤、粘着剤等の樹脂成分として用いることができる。
【実施例
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下において「部」は「質量部」を意味する。
【0071】
<残留モノマー量の評価>
実施例及び比較例において合成物の残留モノマーの有無は、水素炎イオン化型検出器を搭載したガスクロマトグラム(GC)分析装置を用い、下記の条件で測定した結果から決定した。
測定装置:Agilent社製「6850Series」
カラム:Agilent社製「Agilent DB-1及びDB-WAX」
キャリアガス:ヘリウム
流速:1mL/min
注入温度:300℃
検出温度:300℃
昇温:50℃から325℃(25℃/min)
【0072】
<熱分解率の評価>
実施例及び比較例において合成物の熱分解率は非特許文献(Eur. Polym. J., 90, (2017), 92-104)記載の方法に基づき、核磁気共鳴(NMR)を用い、下記の条件で測定した結果から決定した。
H-NMR
測定装置:JEOL RESONANCE製「JNM-ECM400S」
磁場強度:400MHz
積算回数:16回
溶媒:重水素化クロロホルム(CDCl
試料濃度:2mg/0.5ml
〔評価基準〕
A:熱分解率が5%未満
B:熱分解率が5%以上10%未満
C:熱分解率が10%以上
【0073】
<分子量の評価>
実施例及び比較例において合成物の分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、下記の条件により測定した値である。
測定装置: システムコントローラー Waters 600 Controller
送液ポンプ Waters Model Code 60F
RI(示差屈折計)検出器 Waters 2414
オートサンプラー Waters 717plus Autosampler
データ処理:Waters Empower3
測定条件
測定条件:カラム温度 40℃
溶離液 クロロホルム(CHCl
流速 1.0ml/分
標準:ポリスチレン
カラム: Shodex GPC LF-G 1本
Shodex GPC LF-804 4本
試料:樹脂固形分換算で0.4質量%のクロロホルム溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0074】
<酸価の評価>
実施例及び比較例において合成物の酸価はJIS-K0070に記載の酸価測定法により測定した値である。
【0075】
<水酸基価の測定>
実施例及び比較例において合成物の水酸価はJIS-K1157に記載のフタル化法による水酸基価測定法により測定した値である。
【0076】
<溶剤溶解性の評価>
実施例及び比較例において合成物の溶剤溶解性は、合成物の10質量%溶液を調整し、室温(25℃)及び70℃に加温した際の外観から評価した。
評価基準:
A:室温で溶解
B:室温では不溶だが70℃に加温で溶解
C:室温でも70℃加温でも不溶
【0077】
<粘度の測定方法>
実施例および比較例においてポリエステル樹脂の粘度はAnton-Paar社製回転型レオメーター「MCR-102」を用いて、測定温度は反応温度と同等とし、測定治具として直径25mmのパラレルプレート型治具を使用して、ギャップ1mm、剪断速度10s-1の条件で測定した値である。
【0078】
(実施例1)
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管、及び水分分離器等を備えたバッチ式ポリエステル反応容器に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)100部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール274部、及びチタニルアセチルアセトナート0.074部を仕込み、窒素気流下で内温を145℃に保持した。GPCにて分子量が変化しなくなったことを確認したところでセバシン酸367部を投入し、さらに窒素気流下で内温を145℃に保持した。酸価が2mgKOH/g以下になったところで反応を終了し、ポリエステルポリオール(PHA変性ポリエステル)を得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0079】
(実施例2)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、セバシン酸及びチタニルアセチルアセトナートを表1の配合で使用した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0080】
(実施例3)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、1,6-ヘキサンジオール、アジピン酸及びチタニルアセチルアセトナートを表1の配合で使用した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0081】
(実施例4)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ベンゼンジメタノール、セバシン酸及びチタニウムテトライソプロポキシドを表1の配合で使用した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0082】
(実施例5)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ダイマー酸及びチタニルアセチルアセトナートを表1の配合で使用した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0083】
(実施例6)
実施例4と同様に行ったのち、反応容器内を高減圧状態にして反応を継続し、副生する水、及び、グリコールを継続的に除去し、ポリエステルポリオールを得た。
溶剤溶解性の評価結果は表2に示すとおりであった。
【0084】
(比較例1)
保持温度を180℃にした以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
NMR法による熱分解率の評価結果はCであった。
【0085】
(比較例2)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ベンゼンジメタノール、セバシン酸及びチタニウムテトライソプロポキシドを表1の配合で使用した以外は、実施例1と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
溶剤溶解性の評価結果はCであった。
【0086】
実施例1~6、及び比較例1~2の反応条件を表1にまとめた。
なお、実施例1~6、及び比較例1~2の反応は、以下の方法(ii)に該当する。
(ii):ポリヒドロキシアルカン酸とジオールとを反応容器に仕込み、それらを反応させた後に、更に反応容器にジカルボン酸成分を添加して、更に反応を行う方法
【0087】
【表1】
【0088】
実施例1~6、及び比較例1~2の評価結果を表2にまとめた。
【0089】
【表2】
【0090】
表1~6における各略号は以下の通りである。但し、ポリヒドロキシアルカン酸の分解温度は、前述の算出方法に基づき、非特許文献(Macromolecules, 23, (1990), 1933-1936、 及びJ. Appl. Polym. Sci., 132, (2015), 41258)を参考にして算出した値を示す。
【0091】
-ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)-
PHBV:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシバレレート)、分解温度180℃、商品名:ENMAT Y1000、TianAn Biopolymer社製
P3HB:ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、分解温度175℃、Aldrich社製
PHBH:ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、分解温度170℃、商品名:カネカ生分解性ポリマーPHBH、カネカ社製
【0092】
-ジオール-
3MPD:3-メチル-1,5-ペンタンジオール
16HG:1,6-ヘキサンジオール
2MPD:2-メチル-1,3-プロパンジオール
BzDM:1,4-ベンゼンジメタノール
DEG:ジエチレングリコール
【0093】
-ジカルボン酸-
ダイマー酸:下記構造を主成分とする化合物(Cas番号:61788-89-4)、商品名:ツノダイム 395、築野食品工業社製
【化11】
【0094】
-触媒-
Ti(acac):チタニルアセチルアセトナート
TIPT:チタニウムテトライソプロポキシド
DOT:ジオクチルすず
【0095】
-溶剤-
MEK:メチルエチルケトン
PGMEA:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート
【0096】
(実施例7)
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管、及び水分分離器等を備えたバッチ式ポリエステル反応容器に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)100部、3-メチル-1,5-ペンタンジオール206部、セバシン酸294部及びチタニウムテトライソプロポキシド0.700部を仕込み、窒素気流下で内温を145℃に保持した。酸価が2mgKOH/g以下になったところで反応を終了し、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0097】
(実施例8)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ベンゼンジメタノール、セバシン酸及びチタニウムテトライソプロポキシドを表3の配合で使用した以外は、実施例7と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0098】
(実施例9)
実施例8と同様に行ったのち、反応容器内を高減圧状態にして反応を継続し、副生する水、及び、グリコールを継続的に除去し、ポリエステルポリオールを得た。
溶剤溶解性の評価結果は表4に示すとおりであった。
【0099】
(比較例3)
原料として、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)、1,4-ベンゼンジメタノール、セバシン酸及びチタニウムテトライソプロポキシドを表3の配合で使用した以外は、実施例7と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
溶剤溶解性の評価結果はCであった。
【0100】
(比較例4)
保持温度を180℃にした以外は、実施例8と同様に行い、ポリエステルポリオールを得た。
NMR法による熱分解率の評価結果はCであった。
【0101】
実施例7~9、及び比較例3~4の反応条件を表3にまとめた。
なお、実施例7~9、及び比較例3~4の反応は、以下の方法(i)に該当する。
(i):ポリヒドロキシアルカン酸とジオールとジカルボン酸とを反応容器に仕込み、反応を行う方法
【0102】
【表3】
【0103】
実施例7~9、及び比較例3~4の評価結果を表4にまとめた。
【0104】
【表4】
【0105】
(実施例10)
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管、及び水分分離器等を備えたバッチ式ポリエステル反応容器に、ジエチレングリコール100部、セバシン酸163部、及びチタニウムテトライソプロポキシド0.088部を仕込み、窒素気流下で内温を220℃に保持し、合計9時間脱水縮合させてポリエステル樹脂(PE1)を得た。
135℃におけるポリエステル樹脂(PE1)の粘度は、0.167Pa・sであった。
粘度は、以下の方法によって測定した。実施例11~16及び比較例5~7も同様である。
〔粘度の測定方法〕
ポリエステル樹脂の粘度は、回転型レオメーターを用いて測定した。
具体的には、Anton-Paar社製回転型レオメーター「MCR-102」により、測定温度は反応温度と同等とし、測定治具として直径25mmのパラレルプレート型治具を使用して、ギャップ1mm、剪断速度10s-1の条件で測定した。
【0106】
このポリエステル樹脂(PE1)500部をポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)100部及びジオクチルすず0.060部とともに同様のバッチ式反応容器に仕込み、窒素気流下で内温135℃に保持した。GPCにて分子量が変化しなくなったところで反応を終了し、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はAであった。
【0107】
(実施例11)
ジオール、ジカルボン酸及び触媒を表5の種類及び配合量にした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステル樹脂(PE2)を得た。
145℃におけるポリエステル樹脂(PE2)の粘度は、0.008Pa・sであった。
【0108】
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はBであった。
【0109】
(実施例12)
ジオール、ジカルボン酸及び触媒を表5の種類及び配合量にした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステル樹脂(PE3)を得た。
145℃におけるポリエステル樹脂(PE3)の粘度は、0.008Pa・sであった。
【0110】
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果は表7に示すとおりであった。
【0111】
(実施例13)
145℃における粘度が0.208Pa・sのポリ(1,6-ヘキサンジオールアジペート)をポリエステル樹脂(PE4)として用いた。
攪拌機、窒素ガス導入管、精留管、及び水分分離器等を備えたバッチ式ポリエステル反応容器に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート)100部、ポリ(1,6-ヘキサンジオールアジペート)68部及びチタニウムテトライソプロポキシド0.205部を仕込み、窒素気流下で内温を145℃に保持した。GPCにて分子量が変化しなくなったところで反応を終了し、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果は表7に示すとおりであった。
【0112】
(実施例14)
ジオール、ジカルボン酸及び触媒を表5の種類及び配合量にした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステル樹脂(PE5)を得た。
145℃におけるポリエステル樹脂(PE5)の粘度は、0.9Pa・sであった。
【0113】
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はBであった。
【0114】
(実施例15)
145℃における粘度が4.5Pa・sのポリ(1,6-ヘキサンジオールアジペート)をポリエステル樹脂(PE6)として用いた。
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例13と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
NMR法による熱分解率の評価結果はAであった。
溶剤溶解性の評価結果はBであった。
【0115】
(実施例16)
実施例15と同様に行ったのち、反応容器内を高減圧状態にして反応を継続し、副生する水、及び、グリコールを継続的に除去し、ポリエステルポリオールを得た。
溶剤溶解性の評価結果は表7に示す通りであった。
【0116】
(比較例5)
ジオール、ジカルボン酸及び触媒を表5の種類及び配合量にした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステル樹脂(PE7)を得た。
145℃におけるポリエステル樹脂(PE7)の粘度は、0.9Pa・sであった。
【0117】
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
溶剤溶解性の評価結果はCであった。
【0118】
(比較例6)
ジオール、ジカルボン酸及び触媒を表5の種類及び配合量にした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステル樹脂(PE8)を得た。
145℃におけるポリエステル樹脂(PE8)の粘度は、14.9Pa・sであった。
【0119】
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例10と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
GC測定の結果、残留モノマーは確認されなかった。
溶剤溶解性の評価結果はCであった。
【0120】
(比較例7)
180℃における粘度が0.061Pa・sのポリ(1,6-ヘキサンジオールアジペート)をポリエステル樹脂(PE9)として用いた。
PHA、ポリエステル樹脂、及び触媒の種類及び配合量、並びに反応温度を表6のとおりにした以外は、実施例13と同様にして、ポリエステルポリオールを得た。
NMR法による熱分解率の評価結果はCであった。
【0121】
実施例10~16、及び比較例5~7の反応条件を表5及び6に、評価結果を表7にまとめた。
なお、実施例10~16、及び比較例5~7の反応は、以下の方法(iii)に該当する。
(iii):ポリエステル樹脂とポリヒドロキシアルカン酸とを反応させる方法
【0122】
【表5】
【0123】
【表6】
【0124】
【表7】
【0125】
上記実施例から、本発明の変性ポリエステル樹脂の製造方法は、ポリヒドロキシアルカン酸を変性して得られかつ溶剤溶解性に優れる変性ポリエステル樹脂を、生成物の精製を必要とせずかつ熱分解を抑制して製造することができることが確認できた。