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特許7364117水性顔料インク、印刷物及び印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】水性顔料インク、印刷物及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/38 20140101AFI20231011BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20231011BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C09D11/38
C09D11/322
B41M5/00 120
B41M5/00 110
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023510929
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012138
(87)【国際公開番号】W WO2022209931
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021062731
(32)【優先日】2021-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】市川 亮太
(72)【発明者】
【氏名】仁尾 剛啓
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】独国実用新案第202020107342(DE,U1)
【文献】特開2001-192598(JP,A)
【文献】特開2019-162840(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/38
C09D 11/322
B41M 5/00
Japio-GPG/FX
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系増粘剤と沸点が180℃以上である高沸点溶剤と水と顔料とバインダーと界面活性剤とを含有する水性顔料インクであって、
前記水性顔料インクの32℃における粘度が3~10mPa・sの範囲であり、
前記高沸点溶剤として、プロピレングリコール、及び/又は、グリセリンを含み、
前記水性顔料インクの全量に対する固形分の質量割合が1~12質量%であり、
前記水性顔料インクの全量に対する前記高沸点溶剤の質量割合が15~35質量%でり、
前記界面活性剤が、アセチレン系界面活性剤、及び/又は、シリコーン系界面活性剤を含むことを特徴とする水性顔料インク。
【請求項2】
前記水性顔料インクの全量に対する前記アクリル系増粘剤の質量割合が0.01~0.3質量%の範囲である請求項1に記載の水性顔料インク。
【請求項3】
前記界面活性剤が、アセチレン系界面活性剤を含み、
前記アセチレン系界面活性剤の含有量が、水性顔料インクの全量に対して、0.001~5質量%である請求項1または2に記載の水性顔料インク。
【請求項4】
前記高沸点溶剤が、プロピレングリコール及びグリセリンを含む請求項1~3のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項5】
前記顔料が、前記水性顔料インクの全量に対して1~12質量%の範囲で含まれる請求項1~4のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項6】
さらに融点150℃以下のワックスを含有する請求項1~5のいずれか1項に記載の水性顔料インク。
【請求項7】
前記ワックスが酸化ポリエチレンワックスである請求項6に記載の水性顔料インク。
【請求項8】
インク難吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体への印刷に用いられる、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性顔料インク。
【請求項9】
被記録媒体の表面に、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性顔料インクが印刷された印刷物。
【請求項10】
インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離が1mm以上であるインクジェット記録方式で、請求項1~8のいずれか一項に記載の水性顔料インクを吐出し前記被記録媒体に印刷する印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性顔料インク、印刷物及び印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式は、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易である。そのため、オフィスや家庭での出力機としてだけでなく、産業用途においても利用されている。
【0003】
インクジェット記録方式用のインク(インクジェットインク)としては、溶剤インク、UVインク、水性インク等がある。これらの中でも、環境面への対応等の点から水性インクの需要が高まっている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、近年、インクジェット記録方式の用途拡大が期待されており、普通紙のようなインク吸収性の被記録媒体だけでなく、コート紙やコート紙段ボール等のインク難吸収性の被記録媒体又はインク非吸収性の被記録媒体への水性インクジェットインクによる印刷のニーズが高まっている。
【0005】
また、インクジェット印刷法で使用されるインク吐出ヘッドには、吐出方式や被記録媒体等の種類に応じて、いくつかのタイプが存在する。そのため、インクジェット印刷インクとしては、使用するインク吐出ヘッドのタイプに適合した最適な粘度等の特性を備えたインクを選択し使用する必要がある。
【0006】
前記インクの粘度を高くする方向に調整する方法としては、例えばインクに含まれる顔料分散樹脂やバインダー等の固形分を高くする方法が挙げられる。
【0007】
しかし、単に固形分を高くしたインクは、インクジェット印刷する際にインク吐出ヘッドから安定して吐出できず、インク吐出ノズルの詰まりを引き起こしたり、インク滴の吐出方向の異常を引き起こしたりする場合があった。
【0008】
インクの吐出安定性を損なうことなく、インクの粘度を高くする方向に調整する方法としては、インクに含まれるグリセリンやプロピレングリコール等の高沸点溶剤の使用量を多くする方法が挙げられる。
【0009】
しかし、前記方法で得られたインクは、被記録媒体に印刷後、乾燥しにくいため、印刷物の生産効率の低下や、経時的なにじみ等の印刷不良の原因になる場合があった。とりわけ、被記録媒体としてインク中の溶媒を吸収しにくい、難吸収性または非吸収性の被記録媒体への印刷に使用した場合に、印刷物の生産効率の著しい低下や、にじみ等の印刷不良の原因になる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-12226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、水性顔料インクの粘度をインク吐出ヘッドの最適値に調整しやすく、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性に優れ、かつ、印刷後は被記録媒体の表面ですみやかに乾燥する水性顔料インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、アクリル系増粘剤と高沸点溶剤と水と顔料とバインダーとを含有する水性顔料インクであって、前記水性顔料インクの全量に対する固形分の質量割合が1~15質量%であり、かつ、前記水性顔料インクの全量に対する前記高沸点溶剤の質量割合が0.1~35質量%であることを特徴とする水性顔料インクによって、前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0013】
本発明の水性顔料インクは、水性顔料インクの粘度を、インク吐出ヘッドの最適値に調整しやすい。特に、水性顔料インクの粘度を高くする方向に調整する必要がある場合に、インクジェット印刷法で印刷する際の優れた吐出安定性を損なうことなく、印刷後は被記録媒体の表面ですみやかに乾燥できる性質(乾燥性)を備えた水性顔料インクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。ただし、本発明は下記実施形態に何ら限定されるものではない。なお、本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。また、個別に記載した上限値及び下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0015】
本発明の水性顔料インクは、アクリル系増粘剤と高沸点溶剤と水と顔料とバインダーとを含有する水性顔料インクであって、前記水性顔料インクの全量に対する固形分の質量割合が1~15質量%であり、かつ、前記水性顔料インクの全量に対する前記高沸点溶剤の質量割合が0.1~35質量%であることを特徴とする。
【0016】
本発明の水性顔料インクでは、様々な種類が存在する増粘剤のなかから、アクリル系増粘剤を選択し使用することによって、前記固形分や前記高沸点溶剤の使用割合を高めることに起因した吐出安定性や乾燥性の低下を引き起こすことなく、使用するインク吐出ヘッドのタイプに最適な粘度に調整することができる。
【0017】
本発明の水性顔料インクは、前記したとおり、水性顔料インクの粘度をインク吐出ヘッドの最適値に調整しやすい。特に、水性顔料インクの粘度を高くする方向に調整する必要がある場合に、インクジェット印刷法で印刷する際の優れた吐出安定性や乾燥性を損なうことなく、使用するインク吐出ヘッドに最適な粘度に調整することができる。
【0018】
本発明の水性顔料インクとしては、前記課題を解決するうえで、前記水性顔料インクの全量に対する固形分の質量割合が1~15質量%の範囲のものを使用する。なかでも水性顔料インクとしては、前記固形分の質量割合が4~12質量%であることがより好ましく、6~12質量%であることが、インクジェット印刷法で印刷する際の優れた吐出安定性を維持するうえで特に好ましい。なお、前記固形分は、本発明の水性顔料インクに含まれる水や高沸点溶剤をはじめとする溶媒以外の成分を指し、例えば本発明の必須成分である顔料とバインダーとアクリル系増粘剤や、任意成分である顔料分散樹脂やワックス等の固形分を指す。
【0019】
また、本発明の水性顔料インクとしては、前記水性顔料インクの全量に対する高沸点溶剤の質量割合が0.1~35質量%であるものを使用する。なかでも水性顔料インクとしては、前記高沸点溶剤の質量割合が15~35質量%の範囲であるものを使用することが好ましく、15~30質量%の範囲であるものを使用することが、インクジェット印刷法で印刷する際の優れた吐出安定性と、印刷後に被記録媒体の表面ですみやかに乾燥できる性質(乾燥性)とを両立した水性顔料インクを得るうえで特に好ましい。なお、前記高沸点溶剤は、例えばグリセリンやプロピレングリコールをはじめとする沸点180℃以上の有機溶剤を指す。
【0020】
また、本発明の水性顔料インクは、使用するインク吐出ヘッドのタイプに最適な粘度に調整することができ、とりわけ、その粘度を高める方向に調整しやすい。前記水性顔料インクとしては、32℃における粘度が3~10mPa・sの範囲のものを使用することが好ましく、4~8mPa・sの範囲のものを使用することが、保存安定性や吐出安定性に優れた水性顔料インクを得ることができ、かつ、インクジェット記録方式で使用した場合に、飛行曲がりによって発生する被記録媒体上の着弾位置のズレを見かけ上軽減し、印刷物のスジ発生を効果的に防止した印刷物を得ることができる。
上記粘度は、例えば、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定される値である。
測定装置:TVE-25形粘度計(東機産業社製、TVE-25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:32℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
【0021】
本発明の水性顔料インクに使用するアクリル系増粘剤としては、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体を使用する。前記アクリル系増粘剤としては、いずれのものも使用できるが、水に溶解せず水中に分散(例えばエマルジョン)したものではなく、水に溶解または膨潤するものを使用することが好ましい。
【0022】
前記アクリル系増粘剤としては、市販品を用いることもでき、例えばLubrizol社製のSolthix A100、Solthix A200等を使用することができる。
【0023】
前記アクリル系増粘剤(固形分)は、本発明の水性顔料インクの全量に対して0.01質量%以上使用することが好ましく、0.02質量%以上使用することがより好ましく、0.05質量%以上使用することが、水性顔料インクの粘度を高めることで、使用するインク吐出ヘッドに最適な粘度に調整するうえで特に好ましい。一方、前記アクリル系増粘剤は、本発明の水性顔料インクの全量に対して、0.3質量%以下の範囲で使用することが好ましく、0.25質量%以下の範囲で使用することがより好ましく、0.2質量%以下の範囲で使用することが、優れた吐出安定性を維持し、かつ、印刷物の高い光沢を維持するうえで特に好ましい。
【0024】
一方、前記アクリル系増粘剤の代わりに、例えばポリウレタン系増粘剤やポリアミド系増粘剤を用いて粘度が調整された水性顔料インクは、それに含まれる顔料やバインダー等の固形分の凝集や沈降を引き起こしたり、前記増粘剤がゲル化等し、吐出安定性や保存安定性が低下することが懸念される。また、前記アクリル系増粘剤の代わりにポリウレタン系増粘剤やポリアミド系増粘剤を用いて粘度が調整された水性顔料インクを用いて、インク難吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体へ印刷して得られた印刷物は、光沢の低下を引き起こす場合がある。
【0025】
次に、本発明の水性顔料インクで使用する高沸点溶剤について説明する。
【0026】
前記高沸点溶剤は、本発明の水性顔料インクをインクジェット印刷法で吐出する際に、水性顔料インクがインク吐出ヘッドの吐出口の表面で乾燥し固着することを防止し、優れた吐出安定性を確保するために使用する。また、前記高沸点溶剤は、本発明の水性顔料インクの粘度を調整するために使用する。
【0027】
前記高沸点溶剤は、水性顔料インクがインク吐出ヘッドの吐出口の表面で乾燥し固着することを防止する一方で、印刷後に被記録媒体の表面ですみやかに乾燥できる性質(乾燥性)を得るうえで、前記水性顔料インクの全量に対して、0.1~35質量%となる範囲で使用し、好ましくは15~35質量%の範囲で使用し、より好ましくは15~30質量%の範囲で使用する。
【0028】
前記高沸点溶剤としては、水との混和性が高く、沸点が180℃以上、好ましくは180~300℃の範囲の溶剤を使用することができ、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、グリセリン等を使用することができる。なかでも、前記高沸点溶剤としては、プロピレングリコールまたはグリセリンを使用することが好ましく、プロピレングリコール及びグリセリンを組み合わせ使用することが、前記顔料が水性顔料インク中で凝集や沈殿することなく優れた分散安定性を維持しつつ所望の粘度に調整でき、前記インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性に優れた効果を奏するうえで好ましい。
【0029】
次に、本発明の水性顔料インクで使用する水について説明する。
【0030】
前記水としては、具体的には、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の、純水又は超純水を使用することができる。前記水は、より優れた乾燥性及びより一層優れた吐出安定性を備えた水性顔料インクを得るうえで、水性顔料インクの全量に対して、30~90質量%の範囲で使用することが好ましく、40~80質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0031】
次に、本発明の水性顔料インクで使用する顔料について説明する。
【0032】
顔料としては、特に限定はなく、水性グラビアインク又は水性インクジェットインクにおいて通常使用される有機顔料及び無機顔料を使用することができる。顔料は、有機顔料及び無機顔料の一方又は両方を含んでいてよい。また、顔料としては、未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができる。
【0033】
無機顔料としては、例えば、酸化鉄や、コンタクト法、ファーネス法又はサーマル法等の方法で製造されたカーボンブラックなどを使用することができる。
【0034】
有機顔料としては、例えばアゾ顔料(アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等)、レーキ顔料(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラックなどを使用することができる。
【0035】
ブラックインクに使用可能な顔料(ブラック顔料)としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6、7、8、10、26、27、28等が挙げられる。これらの中でも、C.I.ピグメントブラック7が好ましく用いられる。ブラック顔料の具体例としては、三菱化学株式会社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、 No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等;デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0036】
イエローインクに使用可能な顔料(イエロー顔料)の具体例としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、12、13、14、16、17、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、120、128、129、138、150、151、154、155、174、180、185等が挙げられる。
【0037】
マゼンタインクに使用可能な顔料(マゼンタ顔料)の具体例としては、C.I.ピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、112、122、123、146、176、184、185、202、209、269、282等;C.I.ピグメントバイオレット19等が挙げられる。
【0038】
シアンインクに使用可能な顔料(シアン顔料)の具体例としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:3、15:4、15:6、16、22、60、63、66等が挙げられる。これらの中でも、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましく用いられる。
【0039】
ホワイトインクに使用可能な顔料(ホワイト顔料)の具体例としては、アルカリ土類金属の硫酸塩、炭酸塩、微粉ケイ酸、合成珪酸塩等のシリカ類、ケイ酸カルシウム、アルミナ、アルミナ水和物、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、クレイ等があげられる。
【0040】
顔料には、分散安定性に優れた水性顔料インクを得るために、前記水や高沸点溶剤等の溶媒中で安定して分散できるような手段を講じてあることが好ましい。例えば、顔料の表面には、分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)又は分散性付与基を有する活性種が、直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合(グラフト)されていてよい。このような自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理等による方法や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシ基を結合させる方法等によって製造することができる。
【0041】
自己分散型顔料を用いる場合、後述する顔料分散樹脂を含む必要がないため、顔料分散樹脂に起因する発泡等を抑制することができ、吐出安定性に優れた水性顔料インクが得られやすい。また、自己分散型顔料を用いる場合、顔料分散樹脂に起因する大幅な粘度上昇が抑えられるため、顔料をより多く含有することが可能となり、印字濃度の高い印刷物を製造しやすくなる。自己分散型顔料としては、市販品を利用することも可能である。市販品としては、BONJET BLACK CW-1、BONJET BLACK CW-1S、BONJET BLACK CW-2、BONJET BLACK CW-3(以上商品名;オリヱント化学工業株式会社製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上商品名;キヤボット社製) 、SENSIJET Black SDP100、SENSIJET Black SDP1000、SENSIJET Black SDP2000(以上商品名:SENSIENT社製)等が挙げられる。
【0042】
前記顔料の含有量は、充分な印字濃度を確保する観点から、水性顔料インクの全量に対して、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、3質量%以上が更に好ましい。前記顔料の含有量は、飛行曲がりによって発生する被記録媒体上の着弾位置のズレや被記録媒体上で水性顔料インクが十分に濡れ広がらないことに起因して、スジ状の印刷不良が発生すること(白スジ)の発生を抑制しやすい観点、及び、前記顔料が水性顔料インク中で凝集や沈殿することなく優れた分散安定性を維持しつつ、被記録媒体上の印刷物をこすった際でも水性顔料インクが剥離しないより優れた画像堅牢性が得られやすい観点から、水性顔料インクの全量に対して、12質量%以下が好ましく、10質量%以下が好ましく、8質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、本実施形態では、顔料の含有量は、水性顔料インクの全量に対して、1~12質量%が好ましく、2~10質量%がより好ましく、3~8質量%であることが更に好ましい。
【0043】
前記顔料としては、前記した水分散性顔料以外の顔料を使用することもできる。前記顔料を水中に安定して分散させるためには、顔料と顔料分散樹脂とを組み合わせ使用することが好ましい。前記顔料分散樹脂は、前記顔料を水等の溶媒中に安定して分散させるために使用する。したがって、前記顔料分散樹脂は、後述するバインダーとは異なり、顔料の表面に吸着または前記顔料の表面の一部または全部を被覆した状態で存在する。
【0044】
また、前記顔料分散樹脂を使用する場合、前記顔料分散樹脂は本発明の水性顔料インクの固形分に相当する。
前記顔料分散樹脂としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び、前記水性樹脂の塩を使用することができる。前記顔料分散樹脂としては、WO2018/190139号パンフレットにおいてポリマー(G)として例示された化合物を用いることもできる。これら顔料分散樹脂は、顔料分散後に架橋剤で架橋処理を施してもよい。
【0045】
前記顔料分散樹脂は、優れた分散安定性と吐出安定性を維持するうえで、顔料の合計100質量%に対して5~200質量%の範囲で使用することが好ましく、5~100質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0046】
次に、本発明の水性顔料インクで使用するバインダーについて説明する。
【0047】
バインダーは、水性顔料インク中の顔料を被記録媒体に定着させることを目的に使用する。前記バインダーは、前記顔料分散樹脂とは異なり、水性顔料インク中において顔料等の表面に吸着しておらず、前記顔料や顔料分散樹脂とは別に、水や高沸点溶剤等の溶媒中に分散して存在する。
【0048】
前記バインダーとしては、特に制限は無いが、例えばアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂等を1種もしくは数種併用して使用することができる。
【0049】
上記バインダーは、前記吐出安定性の低下や前記白スジの発生を抑制するとともに、印刷物の印字濃度や画像堅牢性を向上させ、良好な光沢を付与する上で、上記水性顔料インクの全量に対して0.5質量%~5.0質量%の範囲で使用することが好ましく、0.5質量%~4.0質量%の範囲で使用することがより好ましい。また、上記範囲の上記バインダーを含有する水性顔料インクは、印刷後の加熱工程を経て上記バインダーが架橋し強固な被膜を形成することで、印刷物の画像堅牢性をより一層向上させることができる。また、印刷物に水を滴下した場合あるいは水を含んだ布等でこすった場合でも、水性顔料インクが剥離しない良好な耐水性を付与することができる。
【0050】
なかでも、上記バインダーとしては、インク難吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体であっても上記白スジおよび被記録媒体上で水性顔料インクが均一に濡れ広がらず、印刷物に濃淡ムラが発生する現象(モットリング)を抑制できる観点から、変性ポリオレフィンを使用することが好ましい。変性ポリオレフィンとしては、例えば酸変性ポリプロピレンが挙げられる。
【0051】
酸変性ポリプロピレンは、ポリプロピレンを1種又は2種以上の酸性化合物で変性することにより得られる樹脂であり、ポリプロピレン由来の骨格(ポリプロピレン骨格)と、酸性化合物由来の官能基と、を有する。ポリプロピレン骨格は主としてプロピレンに由来する構造単位を有している。
【0052】
ポリプロピレン骨格は、ホモポリプロピレン(プロピレンの単独重合体)骨格であってよく、ブロックポリプロピレン(プロピレンと他のオレフィン(例えばエチレン)とのブロック共重合体)骨格であってもよく、ランダムポリプロピレン(プロピレンと他のオレフィン(例えばエチレン)とのランダム共重合体)骨格であってもよい。他のオレフィンとしては、例えばエチレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等のアルケンが挙げられる。これらの成分は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。他のオレフィン成分の炭素数は、例えば、2~6である。
【0053】
ポリプロピレン骨格におけるプロピレン成分の含有量(プロピレンに由来する構造単位の含有量)は、例えば60モル%以上であり、70モル%以上であってもよい。ポリプロピレン骨格がブロックポリプロピレン骨格又はランダムポリプロピレン骨格である場合、ポリプロピレン骨格におけるプロピレン成分の含有量(プロピレンに由来する構造単位の含有量)は、例えば95モル%以下であり、90モル%以下であってもよい。
【0054】
酸変性ポリプロピレン中のポリプロピレン骨格の含有量は、酸変性ポリプロピレンの全量に対して、例えば50~99質量%である。酸変性ポリプロピレンにおけるポリプロピレン骨格の含有量は、酸変性ポリプロピレンの全量に対して、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってよく、99質量%以下、95質量%以下又は90質量%以下であってよい。
【0055】
酸性化合物は、例えば、カルボキシ基、酸無水物基等の酸性基を有する化合物又はその誘導体である。誘導体とは、酸性基を有する化合物の当該酸性基を変性(例えば、エステル化、アミド化又はイミド化)することによって得られる化合物である。酸性化合物における酸性基の数は1つであっても複数(例えば2つ)であってもよい。酸性化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物及びこれらの誘導体が挙げられる。具体的には、例えば(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸及び無水ハイミック酸、並びに、これらの化合物の誘導体を例示することができる。誘導体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート等の分子中に(メタ)アクリロイル基を少なくとも1つ有する化合物が挙げられる。なお、(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタクリルを意味する。(メタ)アクリレート及び(メタ)アクリロイルについても同様である。酸性化合物は、好ましくは酸性基を有する化合物である。
【0056】
酸変性ポリプロピレンにおける酸変性度(例えばグラフト重量)は、例えば、1~20質量%である。酸変性ポリプロピレンにおける酸変性度は、1質量%以上又は3質量%以上であってよく、20質量%以下又は10質量%以下であってよい。酸変性度及びグラフト重量は、アルカリ滴定法又はフーリエ変換赤外分光法により求めることができる。
【0057】
酸変性の方法としては、例えば、ポリプロピレンに対しグラフト変性させる方法が挙げられる。具体的には、ラジカル反応開始剤の存在下でポリプロピレンを融点以上に加熱融解して反応させる方法(溶融法)、ポリプロピレンを有機溶剤に溶解させた後ラジカル反応開始剤の存在下で加熱撹拌して反応させる方法(溶液法)等が挙げられる。ラジカル反応開始剤としては、有機過酸化物系化合物、アゾニトリル類等が挙げられる。
【0058】
酸変性ポリプロピレンは塩素化されたものであってもよい。塩素化反応は、従来公知の方法で行うことができる。
【0059】
酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、例えば、10,000~200,000である。酸変性ポリプロピレンの重量平均分子量は、10,000以上、15,000以上又は40,000以上であってよく、200,000以下、150,000以下又は120,000以下であってよい。上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定された値である。
【0060】
酸変性ポリプロピレンの融点(Tm)は、例えば50~150℃である。酸変性ポリプロピレンの融点(Tm)がこの範囲であると、より優れた被記録媒体の表面での乾燥性と画像堅牢性が得られる傾向がある。酸変性ポリプロピレンの融点(Tm)は、酸化ポリエチレンワックスの融点よりも低いことが好ましい。上記融点(Tm)は、JIS K 0064に準拠した融点測定装置によって測定した値である。
【0061】
酸変性ポリプロピレンは、例えば、粒子状である。粒子状の酸変性ポリプロピレンの平均粒子径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止する観点から、例えば、10~200nmである。粒子状の酸変性ポリプロピレンの平均粒子径は、10nm以上又は20nm以上であってよく、200nm以下又は170nm以下であってよい。上記平均粒子径は、レーザー散乱型粒径測定装置(例えば、マイクロトラック)を用いて、レーザー散乱法により測定される、体積基準の粒度分布におけるd50径である。
【0062】
酸変性ポリプロピレンは、溶媒中に分散した状態のものを用いることが好ましく、溶媒中に分散したエマルションの状態のものを用いることがより好ましい。上記溶媒は、水性媒体であることが好ましく、水性顔料インクに含まれる水や高沸点溶剤等の溶媒と同じものを使用することがより好ましい。
【0063】
前記酸変性ポリプロピレンを用いる場合、酸変性ポリプロピレンの水分散体のpHは、酸変性ポリプロピレン樹脂が溶媒中に分散しやすくなり、水性顔料インクの保存安定性を向上させるうえで、例えば、液温25℃において6~10であることが好ましい。pHがこのような範囲となるように、酸変性ポリプロピレンの水分散体には、アンモニア水、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、モルホリン等のアミン系の中和剤、もしくは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基を含有させてもよい。
【0064】
酸変性ポリプロピレンは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
酸変性ポリプロピレンとしては、市販品を用いることもできる。好ましい市販品としては、日本製紙株式会社製のアウローレン(登録商標)AE-301、AE-502が挙げられる。
【0066】
本発明の水性顔料インクは、前記したアクリル系増粘剤、高沸点溶剤、水、バインダー及び必要に応じて顔料分散樹脂以外のその他の成分を含有ものであってもよい。
【0067】
前記その他の成分としては、例えばワックスが挙げられる。
【0068】
前記ワックスとしては、例えば融点が150℃以下のワックスを使用することが好ましく、なかでも酸化ポリエチレンワックスを使用することが、印刷物の画像堅牢性を向上するうえで好ましい。前記酸化ポリエチレンワックスは、ポリエチレンワックスを酸化処理したものであり、ポリエチレン由来の骨格(ポリエチレン骨格)を有している。ポリエチレン骨格は、主として、エチレンに由来する構造単位を有している。
【0069】
ポリエチレン骨格は、ホモポリエチレン(エチレンの単独重合体)骨格であってよく、ブロックポリエチレン(エチレンと他のオレフィンとのブロック共重合体)骨格であってもよく、ランダムポリエチレン(エチレンと他のオレフィンとのランダム共重合体)骨格であってもよい。他のオレフィンとしては、例えばプロピレン、イソブチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン等のアルケンが挙げられる。これらの成分は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。他のオレフィン成分の炭素数は、例えば、2~6である。
【0070】
ポリエチレン骨格におけるエチレン成分の含有量(エチレンに由来する構造単位の含有量)は、例えば60モル%以上であり、70モル%以上であってもよい。ポリエチレン骨格がブロックポリエチレン骨格又はランダムポリエチレン骨格である場合、ポリエチレン骨格におけるエチレン成分の含有量(エチレンに由来する構造単位の含有量)は、例えば95モル%以下であり、90モル%以下であってもよい。
【0071】
酸化ポリエチレンワックス中のポリエチレン骨格の含有量は、酸化ポリエチレンワックスの全量に対して、例えば50~99質量%である。酸化ポリエチレンワックスにおけるポリエチレン骨格の含有量は、酸化ポリエチレンワックスの全量に対して、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってよく、99質量%以下、95質量%以下又は90質量%以下であってよい。
【0072】
酸化ポリエチレンワックスは、より優れた画像堅牢性が得られる観点から、好ましくは高密度酸化ポリエチレンワックスを含む。本実施形態では、酸変性ポリプロピレン樹脂と高密度酸化ポリエチレンワックスとを併用することによる相乗効果によって、より優れた被記録媒体の表面での乾燥性及び画像堅牢性と、より優れたモットリング抑制効果が得られる傾向がある。高密度酸化ポリエチレンワックスの密度は、例えば、0.95g/cm以上であり、0.95~1.1g/cmであってよい。
【0073】
酸化ポリエチレンワックスの融点(Tm)は、例えば、150℃以下であり、好ましくは140℃以下であり、135℃以下であってもよい。酸化ポリエチレンワックスの融点(Tm)は、例えば、40℃以上であり、好ましくは120℃以上であり、より好ましくは125℃以上である。上記融点(Tm)は、JIS K 0064に準拠した融点測定装置によって測定した値である。
【0074】
酸化ポリエチレンワックスは、例えば、粒子状である。粒子状の酸化ポリエチレンワックスの平均粒子径は、インクジェットヘッドの目詰まりを防止する観点から、例えば、10~200nmである。粒子状の酸化ポリエチレンワックスの平均粒子径は、20nm以上又は30nm以上であってよく、100nm以下又は60nm以下であってよい。上記平均粒子径は、レーザー散乱型粒径測定装置(例えば、マイクロトラック)を用いて、レーザー散乱法により測定される、体積基準の粒度分布におけるd50径である。
【0075】
酸化ポリエチレンワックスは、溶媒中に溶解又は分散した状態のものを用いることが好ましく、溶媒中に分散したエマルションの状態のものを用いることがより好ましい。上記溶媒は、本発明の水性顔料インクに使用する高沸点溶剤や水等の溶媒とと同じものを使用することが好ましい。
【0076】
酸化ポリエチレンワックスは、1種を単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0077】
酸化ポリエチレンワックスとしては、市販品を用いることもできる。好ましい市販品としては、BYK社製のAQUACER515、AQUACER1547等が挙げられる。
【0078】
酸化ポリエチレンワックスの含有量は、画像堅牢性に優れた印刷物を得るうえで水性顔料インクの全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上又は0.3質量%以上がより好ましい。酸化ポリエチレンワックスの含有量は、充分な吐出安定性を備えた水性顔料インクを得るうえで、水性顔料インクの全量に対して、例えば、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0079】
酸化ポリエチレンワックスの含有量は、画像堅牢性に優れた印刷物を得るうえで、顔料100質量部に対して、1.6質量部以上であることが好ましく、4質量部以上又は6質量部以上であってもよい。酸化ポリエチレンワックスの含有量は、充分な吐出安定性を備えた水性顔料インクを得るうえで、顔料100質量部に対して、例えば、500質量部以下であり、350質量部以下又は200質量部以下であってもよい。これらの観点から、酸化ポリエチレンワックスの含有量は、色材100質量部に対して、1.6~500質量部であってよい。
【0080】
前記ワックスとしては、前記酸価ポリエチレンワックス以外のワックスを含んでいてもよい。酸化ポリエチレンワックスの含有量は、前記ワックスの全量100質量部に対して80質量部以上であることが好ましく、90質量部以上であることがより好ましく、95質量部~100質量部であることが特に好ましい。
【0081】
前記バインダーとして酸変性ポリプロピレン樹脂を使用し、かつ、ワックスとして酸化ポリエチレンワックスを使用する場合、酸変性ポリプロピレン樹脂の含有量に対する酸化ポリエチレンワックスの含有量の比率(酸化ポリエチレンワックスの含有量/酸変性ポリプロピレン樹脂の含有量)は、乾燥性及び堅牢性により優れ、モットリングをより抑制できる観点から、例えば、0.03~10である。上記比率は、0.03以上、0.1以上、0.2以上又は0.3以上であってよく、10以下、2.0以下又は1.5以下であってよい。本実施形態では、特に、酸変性ポリプロピレン樹脂の含有量と高密度酸化ポリエチレンワックスの含有量の比率が上記範囲であることが好ましい。
【0082】
また、前記その他の成分としては、前記水や前記高沸点溶媒以外の溶媒(浸透剤)および固体湿潤剤成分を使用することができる。
【0083】
前記浸透剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノエーテル類などが挙げられる。
【0084】
前記浸透剤は、前記モットリングを抑制する観点から、使用することが好ましいが、前記浸透剤の含有量は、充分な吐出安定性を備えた水性顔料インクを得るうえで、水性顔料インクの全量に対して、8質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましい。つまり、前記浸透剤の含有量は、0質量%~8質量%であってもよい。
【0085】
固体湿潤剤としては、例えば、尿素及び尿素誘導体が挙げられる。尿素誘導体としては、エチレン尿素、プロピレン尿素、ジエチル尿素、チオ尿素、N,N-ジメチル尿素、ヒドロキシエチル尿素、ヒドロキシブチル尿素、エチレンチオ尿素、ジエチルチオ尿素等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。乾燥性に優れた印刷物を得やすい観点では、尿素、エチレン尿素及び2-ヒドロキシエチル尿素からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0086】
本発明の水性顔料インクは、上述した成分の他に、必要に応じて、界面活性剤、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、防腐剤、粘度調整剤、pH調整剤、キレート化剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤を更に含んでいてよい。
【0087】
界面活性剤を用いることにより、インクジェットヘッドの吐出口から吐出された水性インク組成物が被印刷体に着弾後、表面で良好に濡れ広がりやすいこと等から、スジ状の印刷不良の発生を防止しやすい。さらに、界面活性剤を用いることにより、水性顔料インクの表面張力を低下させる等することで水性顔料インクのレベリング性を向上させやすい。
【0088】
界面活性剤としては、各種のアニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を使用することができる。界面活性剤としては、スジ状の印刷不良が発生することを抑制するうえで、アニオン性界面活性剤、及び、ノニオン性界面活性剤からなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0089】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩、高級脂肪酸エステルのスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩及びスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩等が挙げられ、これらの具体例として、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸塩、モノブチルフェニルフェノールモノスルホン酸塩、モノブチルビフェニルスルホン酸塩、ジブチルフェニルフェノールジスルホン酸塩等を挙げることができる。
【0090】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、脂肪酸アルキロールアミド、アルキルアルカノールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマー等が挙げられ、これらの中では、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド、アセチレングリコール、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物、及び、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールブロックコポリマーからなる群より選ばれる1種以上が好ましい。
【0091】
水性顔料インクは、スジ状の印刷不良が発生することを抑制するうえで、アセチレン系界面活性剤を含有することが好ましい。アセチレン系界面活性剤は、分子中にアセチレン構造を有する界面活性剤である。アセチレン系界面活性剤は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制するうえで、アセチレングリコール、及び、アセチレングリコールのオキシエチレン付加物からなる群より選ばれる1種以上が含むことが好ましい。
【0092】
アセチレン系界面活性剤の含有量は、スジ状の印刷不良が発生することを抑制するうえで、界面活性剤の全量に対して、80~100質量%が好ましく、85~99.9質量%がより好ましく、90~99.5質量%が更に好ましく、95~99.3質量%が特に好ましい。
【0093】
その他の界面活性剤としては、ポリシロキサンオキシエチレン付加物等のシリコーン系界面活性剤;パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル等のフッ素系界面活性剤;スピクリスポール酸、ラムノリピド、リゾレシチン等のバイオサーファクタントなども使用することができる。
【0094】
界面活性剤の含有量は、水性顔料インクの全量に対して、0.001~5質量%が好ましく、0.001~3質量%がより好ましく、0.001~2質量%が更に好ましく、0.01~2質量%が特に好ましく、0.1~2質量%が極めて好ましく、0.5~2質量%が非常に好ましく、0.8~2質量%がより一層好ましく、1~1.6質量%が更に好ましい。これらの含有量で界面活性剤を含有する水性顔料インクは、吐出液滴の被印刷体の表面での濡れ性が良好であり、被印刷体上で充分な濡れ広がりを有しやすく、スジ状の印刷不良の発生を防止する効果を得やすい。さらに、上記各範囲の界面活性剤を含有する水性顔料インクは、塗膜のレベリング性を向上させる効果を得やすい。同様の観点から、アセチレン系界面活性剤の含有量が、上記各範囲であることが好ましい。
【0095】
水性顔料インクのpHは、水性顔料インクの保存安定性及び吐出安定性を向上させ、インク難吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、画像堅牢性を向上させるうえで、好ましくは7.0以上、より好ましくは7.5以上、更に好ましくは8.0以上である。水性顔料インクのpHの上限は、インクの塗布又は吐出装置を構成する部材(例えば、インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制し、かつ、水性顔料インクが皮膚に付着した場合の影響を小さくするうえで、好ましくは11.0以下、より好ましくは10.5以下、更に好ましくは10.0以下である。これらの観点から、水性顔料インクのpHは、好ましくは7.0~11.0である。なお、上記pHは25℃におけるpHである。
【0096】
水性顔料インクの表面張力は、例えば、25℃で20~40mN/mである。水性顔料インクの表面張力がこの範囲にある場合、インクジェット記録方式で使用した場合に、吐出液滴の被記録媒体表面での濡れ性が良好となる傾向があり、着弾後に充分な濡れ広がりを有する傾向がある。25℃における水性顔料インクの表面張力は、好ましくは25mN/m以上であり、より好ましくは27mN/m以上である。25℃における水性顔料インクの表面張力は、好ましくは35mN/m以下であり、より好ましくは32mN/m以下である。
【0097】
本発明の水性顔料インクは、上述した成分を混合することによって製造することができる。上述した成分は、一括して混合してよく、順次混合してもよい。例えば、バインダー(例えば酸変性ポリプロピレン樹脂)及びワックス(例えば酸化ポリエチレンワックス)は、それぞれ、水性媒体に溶解又は分散させてから混合してよい。また、顔料は、顔料分散樹脂とともに水性媒体に分散させてから混合してよい。混合の際には、例えば、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用することができる。混合後は、必要に応じて遠心分離処理、濾過処理等を行ってよい。
【0098】
(印刷物及びその製造方法)
本発明の印刷物は、被記録媒体の表面に、本発明の水性顔料インクを印刷して得られるものである。
【0099】
この印刷物は、被記録媒体と、被記録媒体の表面に印刷されたインク塗膜とを有している。被記録媒体の表面に形成されたインク塗膜は、例えば、上記水性顔料インクの乾燥物であり、本発明の水性顔料インクにおける固形分(例えば、上記顔料と、上記バインダーと、上記アクリル系増粘剤等)を含有している。
【0100】
上記被記録媒体は、例えば普通紙などのインク吸収性の被記録媒体や、コート紙などのインク難吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体が挙げられる。
【0101】
「インク難吸収性」とは、被記録媒体の記録面と水との接触時間100m秒における前記被記録媒体の吸水量が10g/m以下であることをいい、「インク非吸収性」とは、上記吸水量が0g/mであることをいう。吸水量は、自動走査吸液計(熊谷理機工業株式会社製、KM500win)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下にて測定される、純水の接触時間100m秒における転移量である。測定条件を以下に示す。
[Spiral Method]
Contact Time:0.010~1.0(sec)
Pitch:7(mm)
Lencth per sampling:86.29(degree)
Start Radius:20(mm)
End Radius:60(mm)
Min Contact Time:10(ms)
Max Contact Time:1000(ms)
Sampling Pattern:50
Number of sampling points:19
[Square Head]
Slit Span:1(mm)
Width:5(mm)
【0102】
インク難吸収性又はインク非吸収性の被記録媒体としては、例えば、表面にインク中の溶媒を吸収しにくい着色層が設けられた段ボール、印刷本紙等のアート紙、コート紙、軽量コート紙、微塗工紙、プラスチックフィルムなどが挙げられる。
【0103】
前記印刷物は、前記水性顔料インクを用い、インクジェット記録方式で前記被記録媒体に印刷し乾燥することで製造することができる。
【0104】
前記印刷物は、インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)の垂線と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離が1mm以上であるインクジェット記録方式で、前記水性顔料インクを吐出し前記被記録媒体に印刷し乾燥することで製造することができる。前記面(x)の垂線と被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離は、前記白スジを抑制する観点から、5mm以下が好ましく、4mm以下が好ましく、3mm以下がさらに好ましい。
【実施例
【0105】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0106】
<顔料分散体の調製>
(顔料分散樹脂(P-1)の調製)
顔料分散樹脂(P-1)としては、WO2018/190139号パンフレットの合成例1に従って調製したポリマー(P-1)を用いた。
【0107】
具体的には、BuLiのヘキサン溶液と、スチレンを予めテトラヒドロフランに溶解したスチレン溶液とをチューブリアクターP1及びP2から、T字型マイクロミキサーM1に導入し、リビングアニオン重合させることによって重合体を得た。
【0108】
次に、前記工程で得られた重合体をチューブリアクターR1を通じてT字型マイクロミキサーM2に移動させ、前記重合体の成長末端を、チューブリアクターP3から導入した反応調整剤(α-メチルスチレン(α-MeSt))によりトラップした。
【0109】
次いで、tert-ブチルメタクリレートを予めテトラヒドロフランに溶解したtert-ブチルメタクリレート溶液をチューブリアクターP4からT字型マイクロミキサーM3に導入し、チューブリアクターR2を通じて移動させた前記トラップされた重合体と、連続的なリビングアニオン重合反応を行った。その後、メタノールを供給することによって前記リビングアニオン重合反応をクエンチすることによってブロック共重合体(PA-1)組成物を製造した。
【0110】
前記ブロック共重合体(PA-1)組成物を製造する際、マイクロリアクター全体を恒温槽に埋没させることで、反応温度を24℃に設定した。
前記方法で得られたブロック共重合体(PA-1)を構成するモノマーのモル比は、(BuLi/スチレン/α-メチルスチレン/tert-ブチルメタクリレート)=1.0/12.0/1.3/8.1であった。
【0111】
得られたブロック共重合体(PA-1)組成物を、陽イオン交換樹脂で処理することで加水分解した後、減圧下で留去し、得られた固体を粉砕することによって、粉状のポリマーからなる顔料分散樹脂(P-1)を得た。
【0112】
(調製例2-1)
ブラック顔料として、三菱ケミカル株式会社製のカーボンブラック「#960」(商品名)を用意し、以下の方法で、顔料分散体K(顔料濃度:20質量%)を調製した。まず、ブラック顔料150g、顔料分散樹脂(P-1)60g、プロピレングリコール75g、及び、34質量%水酸化カリウム水溶液19.4gを1.0Lのインテンシブミキサー(日本アイリッヒ株式会社製)に仕込み、ローター周速2.94m/s、パン周速1m/sで25分間混練した。続いて、前記インテンシブミキサーの容器内の混練物に、撹拌を継続しながらイオン交換水306gを徐々に加えた後、プロピレングリコール12g、及び顔料濃度が20質量%になるようにイオン交換水127.5gを更に加え混合することによって顔料濃度が20質量%の水性顔料分散体(顔料分散体K)を得た。
【0113】
(調製例2-2)
シアン顔料として、DIC株式会社製の「FASTOGEN BLUE SBG-SD」(商品名)を用意し、ブラック顔料に代えて当該シアン顔料を用いたこと以外は、調製例2-1と同様にして、顔料分散体C(顔料濃度:20質量%)を調製した。
【0114】
(調製例2-3)
マゼンタ顔料として、DIC株式会社製の「FASTOGEN SUPER MAGENTA RY」(商品名)を用意し、ブラック顔料に代えて当該マゼンタ顔料を用いたこと以外は、調製例2-1と同様にして、顔料分散体M(顔料濃度:20質量%)を調製した。
【0115】
(調製例2-4)
イエロー顔料として、山陽色素株式会社製の「FAST YELLOW 7413」(商品名)を用意し、ブラック顔料に代えて当該イエロー顔料を用いたこと以外は、調製例2-1と同様にして、顔料分散体Y(顔料濃度:20質量%)を調製した。
【0116】
<アクリル系増粘剤>
アクリル系増粘剤として、下記2種類を用意した。
・Solthix A100(Lubrizol社製、固形分30質量%)
・Solthix A200(Lubrizol社製、固形分30質量%)
【0117】
<バインダー>
バインダーとしては、以下に示す酸変性ポリプロピレンを使用した。
・アウローレンAE-301:日本製紙株式会社製、商品名、酸変性ポリプロピレン樹脂、固形分35質量%
【0118】
<ワックス>
ワックスとして、以下に示す酸化ポリエチレンワックスを用意した。
・AQUACER515:BYK社製、商品名、高密度酸化ポリエチレンワックスエマルション、融点(Tm)135℃、固形分30質量%
【0119】
<水性顔料インクの調製>
(実施例1~13)
上記で得られた顔料分散体を用い、表1~2に示す顔料分散体、樹脂分散体、バインダー及びワックスと、アクリル系増粘剤と、高沸点溶剤としてプロピレングリコールとグリセリンと、その他の成分としてトリエタノールアミンと、TegoWET280(エボニック社製、シリコーン系界面活性剤)と、ACTICIDE B20(ソー・ジャパン株式会社製、防腐剤)と、エチレン尿素と、SURFYNOL 420(エボニック社製、アセチレン系界面活性剤)と、蒸留水と、を混合して撹拌し、実施例1~13の水性顔料インクを得た。
【0120】
顔料分散体の含有量は、水性顔料インクの全量に対する顔料の濃度が、ブラックインクは5.6質量%、シアンインクは4.3質量%、マゼンタインクは6.0質量%、イエローインクは3.3質量%に調整するうえで必要な量を使用した。例えば、実施例1の水性顔料インクでは、顔料分散体Cを22質量%(顔料4.3質量%)を使用した。バインダーの含有量は、樹脂の含有量(固形分)が表1~2の『バインダー』の『アウローレンAE301(固形分)[質量%]』の欄に記載の値となるように調整した。
【0121】
ワックス(固形分)の含有量は、1.0質量%とした。アクリル系増粘剤(固形分)の含有量は、0.06~0.18質量%とした。プロピレングリコールの含有量は、実施例1~5及び実施例8~13は水性顔料インクの粘度(32℃)が4.8Pa・s程度となるように、実施例6及び7は水性顔料インクの粘度(32℃)がそれぞれ6.0mPa・s及び7.5mPa・s程度となるように、6~20質量%とした。グリセリン、トリエタノールアミン、TegoWET280、ACTICIDE B20、エチレン尿素及びSURFYNOL 420の含有量は、それぞれ、12.0質量%、0.2質量%、0.1質量%、0.1質量%、5.62質量%及び1.00質量%とした。蒸留水は、添加成分の含有量の合計が100質量%となるように加えた。なお、上記含有量はいずれも水性インク組成物の全量基準である。
【0122】
(比較例1~12)
表3~4に示すように、比較例1はアクリル系増粘剤を除いて、水性顔料インクの32℃における粘度が4.8mPa・s前後となるように、プロピレングリコール量と蒸留水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、水性顔料インクを得た。比較例2~11は、アクリル系増粘剤の代わりに、後述のアクリル系増粘剤以外の増粘剤に変更して、32℃における粘度が4.8mPa・s前後となるように、プロピレングリコール量と蒸留水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、水性顔料インクを得た。また、比較例12は、バインダー樹脂量(固形分量)が表2に示す値となるように変更して、32℃における粘度が4.8mPa・s前後となるように、プロピレングリコール量と蒸留水の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、水性顔料インクを得た。
【0123】
〈アクリル系増粘剤以外の増粘剤〉
・DN-10L(ダイセルファインミライズ社製、カルボキシメチルセルロース、固形分100質量%)
・セオラスRC-591(旭化成ケミカルズ社製、結晶セルロース混合物、固形分100質量%)
・プルラン(林原社製、多糖類、固形分100質量%)
・アデカノールUH420(ADEKA社製、ポリウレタン、固形分30質量%)
・アデカノールUH438(ADEKA社製、ポリウレタン、固形分30質量%)
・アデカノールUH450VF(ADEKA社製、ポリウレタン、固形分30質量%)
・ディスパロンAQH-800(楠本化成社製、ポリアミド、固形分12質量%)
・ディスパロンAQH-810(楠本化成社製、ポリアミド、固形分17質量%)
・ディスパロンAQH-870(楠本化成社製、ポリアミド、固形分17質量%)
・スメクトン-SWN(クニミネ工業社製、合成ヘクトライト、固形分100質量%)
【0124】
<特性評価>
下記に示す方法で、実施例及び比較例の水性顔料インクの保存安定性、濾過性、吐出安定性(初発・白スジ)、塗膜光沢、乾燥性、画像堅牢性を評価した。なお、濾過性は、前記水性顔料インクをインクジェットヘッドに充填する場合に、水性顔料インク中の凝集物や沈殿物がインクジェットヘッドの目詰まりを引き起こすことを防止するために、実施する評価特性である。当該濾過性が不良である場合、インクジェットヘッドへの充填が困難となる。
【0125】
[保存安定性の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをプラスチックボトルに充填し、60℃の恒温槽で4週間保管し、恒温槽に静置する前と静置した後の水性顔料インクの粘度の変化率を測定した。水性顔料インクの保存安定性は、下記の基準に基づいて評価した。なお、前記粘度の変化率は、[(前記静置前の水性顔料インクの粘度―前記静置後の水性顔料インクの粘度)/(前記静置前の水性顔料インクの粘度)]×100で算出した値を指す。
5:初期値(前記静置前の水性顔料インクの粘度)に対して変化率が±5%以内
4:初期値に対して変化率が±5%超~±10%以内
3:初期値に対して変化率が±10%超~±20%以内
2:初期値に対して変化率が±20%超
1:インク化の時点でゲル化または凝集してしまいインク作製不可
【0126】
前記インクの粘度は、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定した。
測定装置:TVE-25形粘度計(東機産業社製、TVE-25 L)
校正用標準液:JS20
測定温度:32℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
【0127】
[吐出安定性(初発)の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをそれぞれ京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに充填し、インク難吸収性の被記録媒体であるOKトップコート+(王子製紙社製、坪量104.7g/m)に対して100%ベタ印刷を実施することによって印刷物を得た。印刷の供給圧は、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧を-5.0kPaに設定することで調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離(インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ))は、1mmに設定した。前記ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定した。
【0128】
前記印刷終了とともにインクの吐出を停止した後、1分間放置した。前記1分間経過後、OKトップコート+(王子製紙社製、坪量104.7g/m)及びnpi上質紙(日本製紙社製、坪量64g/m)に、再度、前記と同様の100%ベタ印刷を行い、その端部(縦2cmの端部)を目視で観察し、次の基準で評価した。
【0129】
5:前記端部にかすれや凹凸がなく、端部が直線上であった。
【0130】
4:前記端部にかすれはあるが凹凸が少なく、端部がわずかにゆがんでいた。
【0131】
3:前記端部にかすれや凹凸が顕著であり、端部が大きくゆがんでいた。
【0132】
2:インクは吐出されたが、前記端部が5cm以上吐出されなかった。
【0133】
1:インクが1滴も吐出しなかった。
【0134】
[吐出安定性(白スジ)の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをそれぞれ京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに充填し、インク難吸収性の被記録媒体であるOKトップコート+(王子製紙社製、坪量104.7g/m)及びインク吸収性の被記録媒体であるnpi上質紙(日本製紙社製、坪量64g/m)に対して100%ベタ印刷を実施した後、前記印刷面から約8cmの距離にある9kWの近赤外ヒーターで1秒間乾燥させることによって印刷物を得た。
【0135】
前記印刷物の印刷面をスキャナーで読み取り、画像解析ソフト『ImageJ』にてインクが塗布されていない部分の割合(スジ率)を算出した。スジ率は、100%ベタ印刷を行った範囲の面積に対する、水性顔料インクが塗布されなかった範囲の面積の割合を示す。前記印刷での供給圧は、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧を-5.0kPaに設定することで調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離(インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ))は、1mmに設定した。前記ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定した。
5:印刷物のスジ率1%未満
4:印刷物のスジ率1%以上3%未満
3:印刷物のスジ率3%以上5%未満
2:印刷物のスジ率5%以上10%未満
1:印刷物のスジ率10%以上
【0136】
[乾燥性の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをそれぞれ京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに充填し、インク難吸収性の被記録媒体であるOKトップコート+(王子製紙社製、坪量104.7g/m)及びインク吸収性の被記録媒体であるnpi上質紙(日本製紙社製、坪量64g/m)に対して100%ベタ印刷を実施した後、前記印刷面から約8cmの距離にある9kWの近赤外ヒーターで1秒間加熱した。
【0137】
前記加熱の終了から10秒経過後の印刷物の塗膜を、手で綿棒を用い擦過した。次に、前記加熱の終了から60秒経過後の印刷物の塗膜を、手で綿棒を用い擦過した。
【0138】
擦過した塗膜面を目視で観察し、下記基準に基づいて乾燥性を評価した。
【0139】
5:10秒経過後に全く塗膜が剥がれず、綿棒にも色がつかない
4:10秒経過後に目視でわかる程度の塗膜の剥がれはないが、綿棒には色がつく
3:60秒経過後には、全く塗膜が剥がれず、綿棒にも色がつかない(10秒経過後に目視でわかる程度の塗膜の剥がれがある)
2:60秒経過後に目視でわかる程度の塗膜の剥がれはないが、綿棒には色がつく(10秒経過後に目視でわかる程度の塗膜の剥がれがある)
1:60秒経過しても塗膜が剥がれてしまう
【0140】
[塗膜光沢の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをそれぞれ京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに充填し、インク難吸収性の被記録媒体であるOKトップコート+(王子製紙社製、坪量104.7g/m)に対して100%ベタ印刷を実施した後、前記印刷面から約8cmの距離にある9kWの近赤外ヒーターで1秒間乾燥させた後、室温(25℃)に12時間(一晩)放置し乾燥させることによって印刷物を得た。
【0141】
次に、得られた印刷物の印刷面を光沢計micro-TRI-gloss(BYK-Gardnaer社製)で測定し、下記の基準に基づき塗膜光沢を評価した。
【0142】
なお、前記印刷での供給圧は、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧を-5.0kPaに設定することで調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離(インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ))は、1mmに設定した。前記ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定した。
5:60°光沢が40以上
4:60°光沢が30以上、40未満
3:60°光沢が20以上、30未満
2:60°光沢が10以上、10未満
1:60°光沢が10未満
【0143】
[画像堅牢性の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをそれぞれ京セラ株式会社製インクジェットヘッドKJ4B-YHに充填し、インク難吸収性の被記録媒体であるOKトップコート+(王子製紙社製、坪量104.7g/m)に対して100%ベタ印刷を実施した後、前記印刷面から約8cmの距離にある9kWの近赤外ヒーターで1秒間乾燥させた後、室温(25℃)に12時間(一晩)放置し乾燥させることによって印刷物を得た。
【0144】
次いで、学振型摩擦試験機RT-300(大栄科学精器製作所社製)を用いて、印刷基材と同一の紙を摩擦子として、印刷物の印刷面を荷重100g/cmで200回擦過した。印刷面の塗膜の剥がれ具合を目視で観察し、下記の基準に基づき画像堅牢性を評価した。
5:印刷物に傷がなく、擦る紙にも着色が見られない
4:印刷物にわずかに傷があり、擦る紙にもわずかに薄い着色が認められる
3:印刷物にわずかに傷があり、擦る紙には部分的に濃い着色が認められる
2:印刷物に多くの傷があり、擦る紙に部分的に濃い着色が認められる
1:印刷物に多くの傷があり、擦る紙の全面に濃い着色が認められる
なお、前記印刷での供給圧は、ヘッドノズルプレート面からのインクサブタンクの水頭差を+35cm、負圧を-5.0kPaに設定することで調整した。また、インクジェットヘッドのインク吐出口と被記録媒体との最短距離(インクジェットヘッドのインク吐出口を有する面(x)から、前記面(x)に対して仮定した垂線と、被記録媒体とが交わる位置(y)までの距離(ギャップ))は、1mmに設定した。前記ヘッドの駆動条件は、インクジェットヘッドの標準電圧及び標準温度とし、液滴サイズを18pLに設定した。
【0145】
[濾過性の評価]
実施例及び比較例の水性顔料インクをそれぞれ50mL、シリンジを用いて5μm濾過フィルターであるAcrodisk 25mm w/5μm Versapor STRL 50/pk(Pall社製)に通液させ、通液量を測定し、下記の基準に基づき濾過性を評価した。
5:通液量が50mL
4:通液量が40mL以上50mL未満
3:通液量が30mL以上40mL未満
2:通液量が20mL以上30mL未満
1:通液量が10mL以上20mL未満
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
【表4】