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特許7364158希土類鉄窒素系磁性粉末、ボンド磁石用コンパウンド、ボンド磁石及び希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】希土類鉄窒素系磁性粉末、ボンド磁石用コンパウンド、ボンド磁石及び希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20231011BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20231011BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20231011BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20231011BHJP
   B22F 1/17 20220101ALI20231011BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20231011BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231011BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20231011BHJP
   H01F 1/06 20060101ALI20231011BHJP
   H01F 1/08 20060101ALI20231011BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F1/14 650
B22F1/16 100
B22F1/17 100
B22F3/00 C
C22C38/00 303D
H01F1/059 160
H01F1/06 110
H01F1/08 130
H01F41/02 G
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019236295
(22)【出願日】2019-12-26
(65)【公開番号】P2021105192
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】杉本 諭
(72)【発明者】
【氏名】松浦 昌志
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
(72)【発明者】
【氏名】米山 幸伸
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163967(WO,A1)
【文献】特開2005-272986(JP,A)
【文献】特開2002-212610(JP,A)
【文献】国際公開第2018/221512(WO,A1)
【文献】特開2008-069415(JP,A)
【文献】特開2005-129556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
B22F 1/05
B22F 1/14
B22F 1/16
B22F 1/17
B22F 3/00
H01F 1/059
H01F 1/06
H01F 1/08
H01F 41/02
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含む希土類鉄窒素系磁性粉末であって、
前記磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含み、
前記磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、前記コア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備え、
前記シェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含み、
前記シェル層は、希土類元素(R)の組成がピークを有する部分であり、前記コア部では、希土類元素(R)の組成が一定である、磁性粉末。
【請求項2】
前記希土類元素(R)としてサマリウム(Sm)を含む、請求項1に記載の磁性粉末。
【請求項3】
最表面にさらに燐酸系化合物被膜を備える、請求項1又は2に記載の磁性粉末。
【請求項4】
アルゴン(Ar)雰囲気下300℃で1時間加熱したとき、加熱前の保磁力(H)に対する加熱後の保磁力(Hc,300)の比率である維持率(Hc,300/H)が70%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の磁性粉末。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石用コンパウンド。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石。
【請求項7】
希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法であって、以下の工程;
ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する工程と、
前記希土類鉄合金粉末100質量部に前記希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して、粒径10.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径1.0μm以下の希土類酸化物粉末とを含む原料混合物とする工程と、
前記原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量の還元剤を前記原料混合物に添加及び混合し、さらに還元剤を添加した前記原料混合物を非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で加熱処理して還元拡散反応生成物とする工程と、
前記還元拡散反応生成物を窒素及び/又はアンモニアを含むガス気流中300~500℃の範囲内の温度で窒化熱処理して窒化反応生成物とする工程と、を含み、
前記還元拡散反応生成物とする工程での加熱処理により、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金を含み、希土類元素(R)の組成が一定であるコア部を形成するとともに、還元された希土類元素(R)の拡散反応により、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含み、希土類元素(R)の組成がピークを有する部分であるシェル層を前記コア部の表面に形成する、方法。
【請求項8】
前記窒化熱処理前の還元拡散反応生成物に解砕処理を施す工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物を水及び/又はグリコールを含む洗浄液中に投入して崩壊させ、それにより生成物中の還元剤由来成分を低減させる湿式処理を施す工程をさらに含む、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
前記窒化熱処理後の生成物の表面に燐酸系化合物被膜を形成する工程をさらに含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記原料混合物の加熱減量が1質量%未満である、請求項7~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記拡散反応生成物とする際の加熱処理の加熱保持時間が0~8時間である、請求項7~11のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類鉄窒素系磁性粉末、ボンド磁石用コンパウンド、ボンド磁石及び希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類鉄窒素系のThZn17型、ThNi17型、TbCu型結晶構造を有するRFe17(Rは希土類元素)窒化化合物は、その多くがニュークリエーション型の保磁力発生機構を有し、優れた磁気特性を有する磁性材料として知られている。なかでも希土類元素(R)がサマリウム(Sm)であるx=3のSmFe17を主相化合物とする磁性粉末は、高性能の永久磁石用磁性粉末であり、ポリアミド12やエチレンエチルアクリレートなどの熱可塑性樹脂、あるいはエポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂をバインダーとするボンド磁石として多方面で応用されている。
【0003】
SmFe17に代表される希土類鉄窒素系磁性粉末の製法として、従来から溶解法と還元拡散法が知られている。溶解法では希土類金属を原料に用い、これを鉄などの金属とともに溶解及び反応させて磁性粉末を作製する。これに対して還元拡散法では希土類酸化物を原料に用い、これを還元させると同時に鉄などの金属と反応させて磁性粉末とする。安価な希土類酸化物を用いることができるため、還元拡散法は望ましい手法と考えられている。
【0004】
ところで、希土類鉄窒素系磁性粉末は、耐熱性(耐酸化性)が悪いという欠点がある。粉末の耐熱性が悪いと、ボンド磁石製造時の混錬・成形工程での加熱により、磁気特性が低下する問題が発生する。またボンド磁石は、使用時に100℃以上の高温に曝されることがあり、そのような使用時に磁気特性が低下する問題がある。そこでこの問題を解決するために、希土類鉄窒素系磁性粉末において、鉄(Fe)の一部を他の元素で置換したり、微粉割合を低減したり、あるいは粉末表面に耐酸化性被膜を形成したりして、粉末の耐熱性を改善することが提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2には、溶解法や還元拡散法で作製した希土類鉄窒素系磁性粉末において、鉄(Fe)の一部をマンガン(Mn)で置換して、耐熱性及び耐酸化性を改善することが提案されている。すなわち特許文献1には、一般式Rα-Fe(100-α-β-γ)Mnβγ(但し、3≦α≦20、0.5≦β≦25、17≦γ≦25)で表され、平均粒径10μm以上であることを特徴とする磁性材料に開して、Sm、Fe及びMnを高周波溶解炉で溶解混合して合金を調整し、この合金をアンモニア混合気流中で加熱処理してSm-Fe-Mn-N系粉体を調整する旨、優れた耐酸化性能と温度特性を有している旨が記載されている(特許文献1の請求項1、[0048]~[0050]及び[0070])。また非特許文献1や非特許文献2には、還元拡散法により製造されたSm-(Fe,Mn)-N磁石粉末に関して、Feの一部をMnで置換したSm(Fe,Mn)17(x>4)磁石粉末はSmFe17磁石粉末に比べて優れた耐熱性を示す旨が記載されている(非特許文献1の第881頁)。
【0006】
また特許文献2には希土類金属(R)と遷移金属(TM)を含む母合金を粉砕する工程(a)、粉砕された母合金粉末に希土類酸化物粉末と還元剤とを混合し、不活性ガス中加熱処理する工程(b)、得られた反応生成物を脆化・粉砕する工程(c)、得られた反応生成物粉末を窒化し磁石合金粉末を得る工程(d)、および得られた磁石合金粉末を水洗する工程(e)を含む希土類-遷移金属-窒素系磁石合金粉末の製造方法が開示され、該磁石合金粉末は、1μm未満の微粒子が極めて少ないため大気中での取り扱いが容易となり、耐熱性および耐候性に優れた磁石材料となる旨が記載されている(特許文献2の請求項1及び[0025])。
【0007】
さらに特許文献3には燐酸を含む有機溶剤中で希土類-鉄-窒素系磁石粗粉末を粉砕する工程を含む、表面に均一で強固な燐酸塩皮膜を形成することを特徴とするボンド磁石用希土類-鉄-窒素系磁石粉末の製造方法に関して、磁石の耐候性を高めるために、燐酸中に磁石粉末を入れて処理し、表面に燐酸塩皮膜を形成することが行われている旨が記載されている(特許文献3の請求項1及び[0002])。
【0008】
また特許文献4には表面被覆金属層を有する異方性希土類合金系磁性粉末と樹脂からなる希土類ボンド磁石に関して、表面被覆金属層の金属は、Zn,Sn,In,Al,Si,希土類元素の少なくとも一種以上からなる単一金属または合金である旨、還元拡散法によって製作したSm-Fe-N合金磁性粉末をZn蒸気中処理して表面に0.05ミクロンのZn被覆層をもつ磁性粉末を得た旨、180℃程度以上の高温長時間減磁を抑制でき、従来にない高性能・耐熱性のボンド磁石ができる旨が記載されている(特許文献4の請求項1、[0068]及び[0071])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平08-055712号公報
【文献】特開2005-272986号公報
【文献】特許第5071160号公報
【文献】特開2003-168602号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】電気学会論文誌A、124(2004)881
【文献】Proc. 12th Int. Workshop on RE Magnets and their Applications、Canberra、(1992)218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
磁石粉末に樹脂バインダーを混合して成形される希土類元素を含む鉄系ボンド磁石では、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野において需要が拡大しており、材料の保管や輸送、製品の使用条件も厳しくなってきている。そのため、耐熱性により一層優れ、保磁力などの特性が高いものが必要とされている。
【0012】
しかしながら従来から提案されている技術では十分とは言えない。例えば特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2に開示される鉄(Fe)の一部をマンガン(Mn)で置換する手法では、磁性粉末の耐熱性は改善されるが、磁化が低下してしまう問題がある。実際、特許文献1にはMn量3.5原子%である磁性材料(実施例1)はその飽和磁化が84emu/gであるのに対し、Mn量を10.3原子%に増量した磁性材料(実施例4)は飽和磁化が72emu/gまで低下することが示されている(特許文献1の[0069]表1)。また非特許文献1にはSm(Fe,Mn)17N化合物において、Mn量が増加するのに伴って、キュリー温度Tと最大磁化σが単調に低下する旨が記載されている(非特許文献1の第885頁)。さらに特許文献2~4に開示される微粉割合を低減する手法や粉末表面に耐酸化性被膜を形成する手法では、一定の効果があるものの、耐熱性の点で改善の余地があった。
【0013】
本発明者らは、ニュークリエーション型の保磁力機構を持つ希土類鉄窒素(RFe17)系磁性粉末における上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、RFe17よりも希土類(R)リッチな相を粒子表面層(シェル層)として存在させ、その内部の主たる体積部(コア部)をRFe17化合物相とするコアシェル構造を形成することで、高い耐熱性と磁気特性が両立される磁性粉末になるとの知見を得た。
【0014】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、耐熱性及び磁気特性に優れる希土類鉄窒素系磁性粉末及びその製造方法の提供を課題とする。また本発明は希土類鉄窒素系磁性粉末を含むボンド磁石用コンパウンド及びボンド磁石の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は下記(1)~(12)の態様を包含する。なお、本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち、「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0016】
(1)希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含む希土類鉄窒素系磁性粉末であって、
前記磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)をを2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含み、
前記磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、前記コア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備え、
前記シェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含む、磁性粉末。
【0017】
(2)前記希土類元素(R)としてサマリウム(Sm)を含む、上記(1)の磁性粉末。
【0018】
(3)最表面にさらに燐酸系化合物被膜を備える、上記(1)又は(2)の磁性粉末。
【0019】
(4)アルゴン(Ar)雰囲気下300℃で1時間加熱したとき、加熱前の保磁力(H)に対する加熱後の保磁力(Hc,300)の比率である維持率(Hc,300/H)が70%以上である、上記(1)~(3)のいずれかの磁性粉末。
【0020】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石用コンパウンド。
【0021】
(6)上記(1)~(4)のいずれかの磁性粉末と樹脂バインダーとを含む、ボンド磁石。
【0022】
(7)希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法であって、以下の工程;
ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する工程と、
前記希土類鉄合金粉末100質量部に前記希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して、粒径10.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径1.0μm以下の希土類酸化物粉末とを含む原料混合物とする工程と、
前記原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量の還元剤を前記原料混合物に添加及び混合し、さらに還元剤を添加した前記原料混合物を非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で加熱処理して還元拡散反応生成物とする工程と、
前記還元拡散反応生成物を窒素及び/又はアンモニアを含むガス気流中300~500℃の範囲内の温度で窒化熱処理して窒化反応生成物とする工程と、を含み、
前記還元拡散反応生成物とする工程での加熱処理により、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金を含むコア部を形成するとともに、還元された希土類元素(R)の拡散反応により、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含むシェル層を前記コア部の表面に形成する、方法。
【0023】
(8)前記窒化熱処理前の還元拡散反応生成物に解砕処理を施す工程をさらに含む、上記(7)の方法。
【0024】
(9)前記還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物を水及び/又はグリコールを含む洗浄液中に投入して崩壊させ、それにより生成物中の還元剤由来成分を低減させる湿式処理を施す工程をさらに含む、上記(7)又は(8)の方法。
【0025】
(10)前記窒化熱処理後の生成物の表面に燐酸系化合物被膜を形成する工程をさらに含む、上記(7)~(9)のいずれかの方法。
【0026】
(11)前記原料混合物の加熱減量が1質量%未満である、上記(7)~(10)のいずれかの方法。
【0027】
(12)前記拡散反応生成物とする際の加熱処理を0~8時間行う、上記(7)~(11)のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、耐熱性及び磁気特性に優れる希土類鉄窒素系磁性粉末及びその製造方法が提供される。また本発明によれば希土類鉄窒素系磁性粉末を含むボンド磁石用コンパウンド及びボンド磁石が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】希土類鉄窒素系磁性粉末のSEM像を示す。
図2】希土類鉄窒素系磁性粉末の深さ方向組成分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0031】
≪希土類鉄窒素系磁性粉末≫
本実施形態の希土類鉄窒素系磁性粉末は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含む。またこの磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)をを2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含む。この磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、このコア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層と、を備える。このシェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含む。
【0032】
希土類元素(R)は、特に限定されるものではないが、ランタン(La)、セリウム(Ce)、サマリウム(Sm)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)から選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。あるいは、さらにジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、およびイッテルビウム(Yb)から選ばれる少なくとも1種の元素が含まれるものが好ましい。なかでもサマリウム(Sm)及び/又はネオジム(Nd)が含まれるものは、本実施形態の効果を顕著に発揮させるため特にに好ましい。ボンド磁石に応用される場合には、その50原子%以上がサマリウム(Sm)であることが望ましく、また高周波磁性材料に応用される場合にはその50原子%以上がネオジウム(Nd)であることが望ましい。
【0033】
磁性粉末は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)以外の他の成分を含んでいてもよい。例えばコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及び/又はクロム(Cr)を含んでもよい。しかしながら、このうちニッケル(Ni)、マンガン(Mn)及びクロム(Cr)は磁化を低下させる恐れがあるため、その含有量はなるべく少ないことが好ましい。希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)以外の他の成分を含む場合には、その含有量は10原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましく、1原子%以下がさらに好ましい。磁性粉末が、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を含み、残部不可避不純物であってもよい。
【0034】
本実施形態の磁性粉末は、その平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下である。平均粒径1.0μm未満では、磁性粉末の取扱いが困難となる。また粒子全体に占めるコア部の体積比率が小さくなってしまう。コア部は磁気特性が高いため、その体積比率が小さくなると、磁性粉末の磁気特性が高くなり難くなってしまう。一方で、平均粒径が10μmより大きくなると、磁性材料として十分高い保磁力(H)を得にくい。好ましい平均粒径は1μm以上10μm以下であり、より好ましい平均粒径は2μm以上9μm以下である。
【0035】
本実施形態の磁性粉末は、希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)を2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含む。磁性粉末全体の組成で、希土類元素(R)が22質量%未満では保磁力が低下する。一方で30質量%を超えると磁化の低いシェル層が厚くなり、またRFe窒化物相が増加して残留磁化(σ)が低下する。窒素(N)が2.5質量%未満では十分に窒化されていない粒子が形成されてしまう。そのような粒子は飽和磁化と磁気異方性が小さいため、磁性粉末の残留磁化と保磁力が低下する。窒素(N)が4.0質量%を超えると過剰に窒化された粒子が増加して残留磁化と保磁力が低下する。
【0036】
また本実施形態の磁性粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部を備える。このような結晶構造を有するコア部を備えることで、優れた磁気特性を有する磁性粉末とすることが可能となる。コア部の結晶構造は、通常の粉末X線回折で求められるピーク位置から判断することができる。この場合には、シェル層も含めて測定されるが、シェル層の厚みはコア部に比べて十分に薄い。そのためシェル層の影響はX線回折パターンにはほとんど見られない。
【0037】
さらに本実施形態の磁性粉末は、コア部の表面に設けられるシェル層を備える。このシェル層は厚さ1nm以上30nm以下であり、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含む。このシェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)以外の他の成分を含んでもよい。例えばシェル層は窒素(N)を含んでもよく、あるいは含まなくともよい。シェル層が窒素(N)を含む場合には、その含有量は、例えばオージェ電子分光法により分析したときに1~20原子%である。一方で、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)以外の成分の含有量は10原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましく、1原子%以下がさらに好ましい。シェル層が希土類元素(R)及び鉄(Fe)を含み残部不可避不純物からなるものであってよく、あるいは希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を含み残部不可避不純物からなるものであってもよい。
【0038】
平均粒径1~10μmの粒子の表面部にこのようなシェル層を存在させることで、耐熱性と磁気特性を両立させることができる。ここで形成されるシェル層は、RFe17相より希土類に富むR相、RFe相、RFe相等、あるいはそれらの窒化物になっていると推測される。R/Feが0.3未満ではコア部に近い組成になってしまい、耐熱性向上が期待できない。一方でR/Feが3.0を超えると残留磁化が低下する場合がある。好ましいR/Feは0.5以上1.5以下である。シェル層の厚み1nm未満では耐熱性の改善効果が小さく、30nmを超えると残留磁化が低下する。厚みは好ましくは3nm以上15nm以下である。
【0039】
磁性粉末は、好ましくは希土類元素(R)としてサマリウム(Sm)を含む。これにより磁性粉末をボンド磁石として好適に用いることが可能となる。
【0040】
磁性粉末は、好ましくはその最表面に更に燐酸系化合物被膜を備える。磁性粉末のシェル層の外側に公知の燐酸系化合物被膜を設けると、湿度環境下での安定性を高めることができる。燐酸系化合物被膜の厚みは、シェル層の厚みよりも薄いことが望ましい。厚さは例えば30nm以下であり、5nm以上20nm以下が好ましい。燐酸系化合物被膜の厚み30nmを超えると磁気特性が低下することがある。
【0041】
磁性粉末は、残留磁化(σ)が80Am/kg以上であってよく、90Am/kg以上であってよく、100Am/kg以上であってよい。またこの磁性粉末は、保磁力(H)が700kA/m以上であってよく、1000kA/m以上であってよく、1300kA/m以上であってよい。さらにこの磁性粉末は、保磁力の維持率(Hc,300/H)が70%以上であってよく、75%以上であってよく、80%以上であってよく、85%以上であってよい。ここで保磁力の維持率(Hc,300/H)とは、磁性粉末をアルゴン(Ar)雰囲気下300℃で1時間加熱したとき、加熱前の保磁力(H)に対する加熱後の保磁力(Hc,300)の比率である。
【0042】
本実施形態の磁性粉末は、耐熱性、耐候性だけでなく、磁気特性、特に磁化及び保磁力に優れるという特徴がある。すなわちこの磁性粉末はSmFe17に代表される従来の磁性粉末に比べて高い耐熱性を有する。また鉄(Fe)の一部を他元素(Mn、Cr)で置換した高耐熱性のR(Fe、M)17磁性粉末(M=Cr、Mn)に比べて同等以上の磁気特性を有する。
【0043】
耐熱性及び磁気特性に優れる本実施形態の磁性粉末は、これを樹脂バインダーと混合してボンド磁石を作製する上で好適である。すなわち磁性粉末を用いてボンド磁石を作製する際に、磁性粉末が高温に曝されることがある。例えばポリフェニレンサルファイド樹脂や芳香族ポリアミド樹脂などの耐熱性の高い熱可塑性樹脂をバインダーとしてボンド磁石を作製する場合には、磁性粉末と樹脂バインダーとの混合混練工程や射出成形工程で、材料の曝される温度が300℃を超えることがある。本実施形態の磁性粉末は、このような高温に曝された後であっても、磁気特性の劣化が抑制される。
【0044】
なお特許文献4には表面被覆金属層を有する異方性希土類合金系磁性粉末と樹脂からなり、表面被覆金属層の金属がZn,Sn,In,Al,Si,希土類元素の少なくとも一種以上からなる単一金属または合金である希土類ボンド磁石が開示されている(特許文献4の請求項1及び2)。しかしながら特許文献4には表面被覆金属層について、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含むことの開示や示唆は無く、この表面被覆金属層は本実施形態のシェル層とは全くの別物である。その上、特許文献4には表面被覆金属層(Zn被覆層)の厚さが0.05ミクロン(50nm)である旨が記載されており(特許文献4の[0068])、この厚さ(50nm)は本実施形態のシェル層の厚さ(1nm以上30nm以下)より厚い。このように厚い表面被覆金属層を有する磁性粉末は、磁気特性、特に磁化が低いという問題がある。
【0045】
≪希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法≫
希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法は、得られる磁性粉末が上述する要件を満足する限り、限定されるものではない。しかしながら還元拡散法により製造することが好ましく、以下に説明される手法で製造することが特に好ましい。
【0046】
本実施形態の希土類鉄窒素系磁性粉末の製造方法は、以下の工程;ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金粉末と、希土類酸化物粉末と、を準備する工程(準備工程)と、希土類鉄合金粉末100質量部に希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して、粒径10.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径1.0μm以下の希土類酸化物粉末とを含む原料混合物とする工程(混合工程)と、この原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量の還元剤を原料混合物に添加及び混合し、さらに還元剤を添加した原料混合物を非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で加熱処理して還元拡散反応生成物とする工程(還元拡散処理工程)と、この還元拡散反応生成物を窒素及び/又はアンモニアを含むガス気流中300~500℃の範囲内の温度で窒化熱処理して窒化反応生成物とする工程(窒化熱処理工程)と、を含む。また還元拡散反応生成物とする工程での加熱処理により、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金を含むコア部を形成するとともに、還元された希土類元素(R)の拡散反応により、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含むシェル層を前記コア部の表面に形成する。各工程の詳細について以下に説明する。
【0047】
<準備工程>
準備工程では、希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末とを準備する。ここで希土類鉄合金粉末は、主としてコア部を形成するための原料であり、ThZn17型、ThNi17型、TbCu型のいずれかの結晶構造を有する粉末、例えばRFe17組成の粉末である。希土類鉄合金粉末は、後続する混合工程で10.0μm以下の粒径になるものを選択すればよい。
【0048】
希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)は、主としてコア部を形成するための原料である。希土類鉄合金粉末は、公知の手法、例えば還元拡散法、溶解鋳造法、あるいは液体急冷法などで作製することができる。このうち還元拡散法であれば、その原料である鉄粒子の大きさと還元拡散反応の温度等の条件を調整することで、所望とする粒径の合金粉末を直接製造できる。あるいは、より大きな粒径の合金粉末や合金塊を出発として所望の粒径まで粉砕して製造することもできる。
【0049】
なお還元拡散法による希土類鉄合金粉末では製造条件によって、金属間化合物中に水素が含まれ、水素含有希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)になっている場合がある。この水素含有希土類鉄合金(RFe17等)は、希土類鉄合金(RFe17)と結晶構造が変わらないものの、格子定数が大きくなっていることがある。また溶解鋳造法や液体急冷法の合金においても、粉末化するのに水素を吸蔵させて粉砕した粉末では、同様に格子定数が大きな水素含有希土類鉄合金粉末(RFe17粉末)になっている場合がある。合金粉末がこのような水素を含有する状態でも差支えない。ただし希土類鉄合金粉末は、その含有水分量(加熱減量)が1質量%未満であることが望ましい。
【0050】
希土類酸化物粉末は、主としてシェル層を形成するための原料である。希土類酸化物粉末を構成する希土類元素(R)は、希土類鉄合金粉末を構成する希土類元素と同一であってもよく、或いは異なっていてもよい。しかしながら両者が同一であることが好ましい。また希土類酸化物粉末は、後続する混合工程で1.0μm以下の粒径になるものを選択すればよい。
【0051】
<混合工程>
混合工程では、準備した希土類鉄合金粉末100質量部に希土類酸化物粉末1~20質量部を混合して原料混合物とする。希土類酸化物粉末量が1質量部未満であると、後述する還元拡散処理後に希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)の表面にα-Feが生成し、最終的に得られる磁性粉末の保磁力が低下する。一方で、希土類酸化物粉末量が20質量部を超えると希土類鉄合金よりも希土類(R)リッチなRFeおよび/またはRFe化合物が多く生成し、最終的に得られる磁性粉末の収率が低下する。
【0052】
混合工程で得られる原料混合物は、粒径10.0μm以下の希土類鉄合金粉末と粒径1.0μm以下の希土類酸化物粉末を含む。すなわち原料混合物に含まれる希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末の最大粒径を、それぞれ10.0μm以下及び1.0μm以下とする。希土類鉄合金粉末は、磁性粉末のコアになる原料である。後続する還元拡散熱処理による粒成長、凝集及び焼結や、シェル層が形成される分を考慮すると、合金粉末は、その粒径が最大でも磁性粉末の粒径(1.0μm以上10.0μm以下)程度である。そのため原料混合粉末中の合金粉末の粒径を10.0μm以下とする。合金粉末の粒径は、磁性粉末の目標粒径に対して90%未満であることが好ましい。また希土類酸化物粉末は、シェル層を所望の厚みで均一に形成するために微細な粉末であることが望ましい。そのため原料混合粉末中の酸化物粉末は、その粒径を1.0μm以下とする。酸化物粉末の粒径は、500nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。なお粒径は走査電子顕微鏡(SEM)で容易に確認することができる。
【0053】
混合工程では、粒径10.0μm以下の希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末との混合操作が重要である。均一なシェル層を付与するには希土類酸化物粉末の粒度をなるべく微細にするとともに均一に分散させることが望ましい。混合は乾式法及び湿式法のいずれによってもよい。乾式混合は、ヘンシェルミキサー、コンピックス、メカノハイブリッド、メカノフュージョン、ノビルタ、ハイブリダイゼーションシステム、ミラーロ、タンブラーミキサー、シータ・コンポーザ又はスパルタンミキサーなどの乾式混合機を用い、不活性ガス雰囲気中で行えばよい。湿式混合は、ビーズミル、ボールミル、ナノマイザー、湿式サイクロン、ホモジナイザー、ディゾルバー、フィルミックスなどの湿式混合機を用いて行えばよい。
【0054】
希土類鉄合金粉末と希土類酸化物粉末を混合する際に、これらを同時に微粉砕して所望の粒径にしてもよい。微粉砕時に希土類酸化物粉末を加えて同時に微粉砕することで、均一な混合物を得ることができる。微粉砕は、ジェットミルなどの乾式粉砕機や、振動ミル、回転ボールミル、媒体攪拌ミルなどの湿式微粉砕機が使用可能である。湿式微粉砕はケトン類、へキサンなどの低級炭化水素類、トルエンなどの芳香族類、エタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコール類、フッ素系不活性液体類、またはこれらの混合物などの有機溶媒を用いることができる。これらの微粉砕混合は、希土類酸化物粉末も微粉砕され、それらが均一に分散するので好ましい。湿式法では微粉砕後のスラリーから有機溶媒を乾燥除去して原料混合物とすればよい。
【0055】
原料混合物は、その加熱減量が1質量%未満であることが望ましい。加熱減量は乾燥後の混合粉末の含有不純物量であり、水分を主体とする。また混合時に用いられる有機溶媒、分散助剤、取扱いプロセスの種類によっては炭素も含まれうる。加熱減量が1質量%を超えると、後続する還元拡散処理中に水蒸気や炭酸ガスが多量に発生することがある。水蒸気や炭酸ガスが多量に発生すると、これらが還元剤(Ca粒等)を酸化させて還元拡散反応を抑えてしまう。そのため、優れた磁気特性を得る上で望ましくないα-Feが最終的に得られる磁性粉末中に生成してしまう。そのため原料混合物を十分に減圧乾燥することが望ましい。これにより含まれる水分のみならず炭素が十分に除去される。なお加熱減量は、試料50gを真空中400℃で5時間加熱したときの減量αを測定することで求められる。
【0056】
<還元拡散処理工程>
還元拡散処理工程では、得られた原料混合物に還元剤を添加及び混合し、さらに還元剤を添加した原料混合物を加熱処理して還元拡散反応生成物とする。ここで還元剤の添加量は、原料混合物に含まれる酸素成分を還元するのに必要な当量に対して1.1~10.0倍の量とする。また加熱処理は非酸化性雰囲気中730~1050℃の範囲内の温度で行う。
【0057】
還元剤として、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びこれらの水素化物からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。このうちカルシウム(Ca)が特に有用である。還元剤は粒状の形態で供給されることが多い。粒度0.5~3.0mmの還元剤を使用することが望ましい。
【0058】
還元剤(Ca粒等)の添加量は当量に対して1.1~10.0倍である。ここで当量とは、希土類鉄合金粉末の含有酸素と希土類酸化物粉末とを還元するのに必要な量である。添加量が1.1倍未満であると、酸化物が還元されて形成された希土類元素(R)の拡散が進みにくくなる。一方で添加量が10倍を超えると、還元剤が過度に多量に残留するため好ましくない。多量に残留した還元剤は、希土類元素(R)の拡散に対する障害になる恐れがある。また還元剤に起因する残留物が多くなりその除去に手間がかかる。
【0059】
混合工程では、原料混合物と還元剤(Ca粒等)とを均一に混合することが望ましい。混合器としてはVブレンダー、Sブレンダー、リボンミキサ、ボールミル、ヘンシェルミキサー、メカノフュージョン、ノビルタ、ハイブリダイゼーションシステム、ミラーロなどを使用できる。均一に混合し、特に原料である希土類鉄合金粉末に希土類酸化物粉末の偏析がないように混合することが望ましい。希土類酸化物粉末が偏析すると、シェル層の厚みばらつきの原因になるからである。
【0060】
次に還元剤を添加した原料混合物を加熱処理して還元拡散反応生成物とする。この加熱処理は例えば次のようにして行えばよい。すなわち得られた混合物を鉄製るつぼに装填し、このるつぼを反応容器に入れて電気炉に設置する。混合から電気炉への設置まで、可能な限り大気や水蒸気との接触を避けることが好ましい。混合物内に残留する大気や水蒸気を除去するため、反応容器内を真空引きしてヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などの不活性ガスで置換することが好ましい。
【0061】
その後、反応容器内を再度真空引きするか、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)などの不活性ガスを容器内にフローしながら非酸化性雰囲気中で混合物に還元拡散処理を施す。この加熱処理は730~1050℃の範囲内の温度で行うことが重要である。730℃未満では、蒸気となった還元剤(Ca粒等)により希土類酸化物の還元は進むが、希土類鉄合金粉末(RFe17粉末等)の表面での拡散反応によるシェル層の形成が進みにくい。そのため最終的に得られる磁性粉末の耐熱性向上が望めない。一方で1050℃を超えると、磁性粉末の粒成長や凝集及び焼結が進み、残留磁化や保磁力が低下する。加熱処理温度は、好ましくは750~1000℃である。
【0062】
加熱保持時間は、最終的に得られる磁性粉末の粒成長や凝集及び焼結を抑制するように加熱温度と併せて設定すればよい。例えば設定温度で0~8時間保持する。8時間を超えると粒成長や凝集及び焼結が顕著になり、目的とする平均粒径が1μm以上10μm以下の磁性粉末を得ることが難しくなることがある。保持時間は、0~5時間が好ましく、0~3時間がより好ましい。なお保持時間が「0時間」とは、設定温度に到達後にすぐ冷却することを意味する。
【0063】
このような加熱処理により、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有する希土類鉄合金を含むコア部が形成されるとともに、還元された希土類元素(R)の拡散反応によりシェル層が形成される。このシェル層は、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含む。
【0064】
希土類鉄窒素系磁性粉末は、ニュークリエーション型の保磁力発生機構を有する。粒子表面にα-Feなどの軟磁性相や結晶磁気異方性を低下させる結晶欠陥などが存在すると、そこが逆磁区の発生核(ニュークリエーション)になって粒子保磁力が低下する。従来の磁性粉末の耐熱性が悪いのは、加熱によってRFe17化合物相が分解してα-FeやFe窒化物などの軟磁性相が生成し、それが逆磁区発生核になるためである。これに対して、本実施形態では、R/Fe原子比0.3以上3.0以下のシェル層を表面に形成することで、磁性粉末の耐熱性(耐酸化性)が改善する。この理由として、シェル層は、加熱による分解がRFe17化合物相より起こりにくいためと推測される。またこの効果は、加熱処理条件を例えば2段階としたときに有利に得ることができる。
【0065】
すなわち、前記の還元拡散処理の工程において、加熱処理条件を2段階とし、前段で730~810℃の範囲内の温度で0.5~4時間保持し、後段では、さらに温度を上げて800~1000℃の範囲内の温度で3時間以内保持することができる。この条件にすれば、希土類酸化物粉末が希土類金属に十分還元されて、RFe17希土類鉄合金がコア部となり、その表面で希土類元素(R)の拡散反応が促進されてシェル層が形成される。
【0066】
加熱処理が終了した反応生成物は、シェル層を表面に有する希土類鉄合金粒子(RFe17粉末等)、R金属、RFeおよび/またはRFe化合物、還元剤由来成分からなる焼結体である。ここで還元剤由来成分は、副生した還元剤酸化物粒子(CaO等)及び未反応残留還元剤(Ca等)からなる。
【0067】
<解砕処理工程>
必要に応じて、還元拡散処理後の生成物(還元拡散反応生成物)に解砕処理を施す工程(解砕処理工程)を設けてもよい。反応生成物は焼結した塊状である。反応生成物には微細な空隙があるので、焼結した塊状であっても、後続する窒化熱処理工程で内部のRFe17希土類鉄合金粒子まで窒化することが可能である。しかしながら塊状反応生成物を解砕してから窒化熱処理を施すことで、より均一な窒化が可能となる。解砕手法は特に限定されず、例えば機械的に解砕する方法や反応生成物を水素ガス雰囲気中に置きR金属、RFeおよび/またはRFe化合物の水素吸収による体積膨張を利用して解砕する方法などが挙げられる。またコア部における窒素分布をより均一にして磁性粉末の角形性を向上させるために、必要に応じて窒化熱処理に続いて、真空中、又はアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気中で磁石粉末を加熱し、磁石粉末に過剰に導入された窒素や水素を排出させてもよい。
【0068】
<窒化熱処理工程>
窒化熱処理工程では、還元拡散処理後又は解砕処理後の生成物(還元拡散反応生成物)を窒素及び/又はアンモニアを含むガスの気流中で窒化熱処理して窒化反応生成物とする。窒化熱処理は公知の手法を用いればよく、例えば窒素(N)ガス雰囲気、窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合雰囲気、アンモニア(NH)ガス雰囲気、アンモニア(NH)ガスと水素(H)ガスの混合雰囲気、アンモニア(NH)ガスと窒素(N)ガスの混合ガス雰囲気、アンモニア(NH)ガスと窒素(N)ガスと水素(H)ガスの混合ガス雰囲気下で行うことができる。
【0069】
窒化熱処理は300~500℃の範囲内の温度で行う。加熱温度が300℃未満では窒化が進まず、一方で500℃を超えると合金が希土類元素の窒化物と鉄に分解するので好ましくない。加熱温度は350~480℃が好ましく、400~450℃がより好ましい。
【0070】
また処理時間はガス種、ガス流量と加熱温度に応じて決めればよい。ガス流量と加熱温度が小さいほど処理時間を長くする。アンモニア(NH)ガスと水素(H)ガスの混合雰囲気にした場合には、例えば1~6時間が好ましく、2~4時間がより好ましい。また窒素(N)ガス雰囲気として場合には、例えば10~40時間とすることが好ましく、水素(H)ガスとの混合雰囲気とした場合は、5~25時間とすることが好ましい。窒化熱処理後に冷却して窒化反応生成物を回収する。
【0071】
<湿式処理工程>
必要に応じて、還元拡散処理工程及び/又は窒化熱処理工程で得られた生成物(還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物)に湿式処理を施す工程(湿式処理工程)を設けてもよい。湿式処理は、還元拡散反応生成物及び/又は窒化反応生成物を水及び/又はグリコールを含む洗浄液中に投入して崩壊させる。これにより生成物中の還元剤由来成分(副生した還元剤酸化物粒子及び未反応残留還元剤)が低減する。生成物を洗浄液(水及び/またはグリコール)中に投入して0.1~24時間放置すると細かく崩壊してスラリー化する。このスラリーはそのpHが10~12程度である。pHが10以下になるまで洗浄液の投入、攪拌及び上澄み除去(デカンテーション)を繰り返す。その後、必要に応じてスラリーのpHが6~7になるように酢酸などの弱酸を添加してスラリー中の水酸化した還元剤成分(Ca(OH)等)を溶解除去する。スラリー中にR金属、RFeおよび/またはRFe化合物由来の余剰窒化物が含まれている場合には、pHが6~7を保つように酸を添加しながら攪拌洗浄を続けて、これら余剰窒化物も溶解除去する。その後、残留する酸成分を水及び/またはグリコールで洗浄除去し、さらにメタノール、エタノールなどのアルコールで置換してから固液分離し乾燥する。乾燥は、真空中または不活性ガス雰囲気中で、100~300℃、好ましくは150~250℃に加熱して行う。
【0072】
グリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール及びトリプロピレングリコールから選ばれる1種以上のアルキレングリコールを使用できる。これらグリコールおよびその混合物をそのまま使用するのが好ましい。しかし粘度が高いためスラリー化した後に希土類遷移金属粉末と還元剤成分の分離除去がしにくい場合、水で希釈して使用することができる。ただし洗浄液中の水含有率を50質量%以下とすることが好ましい。ここで水含有率は、水/(グリコール+水)の質量比を百分率で示したものである。水含有率が50質量%を超えると、粒子の酸化が顕著になる場合がある。水含有率は30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。グリコールの使用量は、特に制限されないが、窒化反応生成物中の還元剤成分がグリコールと反応する当量に対して2~10倍のグリコールを使用することができる。好ましいのは窒化反応生成物の質量に対して3~8倍のグリコールを使用することである。
【0073】
<微粉末化処理工程>
必要に応じて、窒化熱処理工程及び/又は湿式処理工程で得られた生成物に解砕・微粉末化処理を施す工程(微粉末化処理工程)を設けてもよい。還元拡散処理の条件によっては、得られた粉末が焼結してネッキングを起こしていることがある。最終的に得られる磁性粉末を異方性の磁石材料に応用する場合には、これを解砕することで、ネッキングによる磁性粉末の磁界中配向性の悪化を防ぐことができる。解砕は、ジェットミルなどの乾式粉砕機や媒体攪拌ミルなどの湿式粉砕機を使用できる。いずれも強いせん断や衝突による粉砕となる条件は避けて、シェル層が維持できるよう、ネッキングした部分を解く程度の弱粉砕条件で運転することが望ましい。
【0074】
<被膜形成工程>
必要に応じて、得られた生成物(粉末)の表面に燐酸系化合物被膜を形成する工程(被膜形成工程)を設けてもよい。特に磁性粉末が高湿度環境下で使用される用途に適用される場合には、燐酸系化合物被膜を設けることで、粉末特性の安定性を高めることができる。燐酸系化合物被膜の種類やその形成方法は、特許文献3に開示されるように公知である。本実施形態では、シェル層を考慮して燐酸系化合物被膜を薄目に設けてもよい。20nmよりも厚いと磁化が低下することがあるので、5~20nm程度の被膜にすることが望ましい。
【0075】
このようにして本実施形態の磁性粉末を製造することができる。この磁性粉末は、希土類元素(R)、鉄(Fe)及び窒素(N)を主構成成分として含み、平均粒径が1.0μm以上10.0μm以下であり、且つ希土類元素(R)を22.0質量%以上30.0質量%以下、窒素(N)をを2.5質量%以上4.0質量%以下の量で含む。またこの粉末は、ThZn17型、ThNi17型及びTbCu型のいずれかの結晶構造を有するコア部と、このコア部の表面に設けられる厚さ1nm以上30nm以下のシェル層であって、希土類元素(R)及び鉄(Fe)をR/Fe原子比で0.3以上3.0以下となるように含むシェル層と、を備える。この磁性粉末は、耐熱性、耐候性だけでなく、磁気特性にも優れるという効果がある。
【0076】
なお特許文献2には希土類金属(R)と遷移金属(TM)を含む母合金を粉砕する工程(a)と粉砕された母合金粉末に希土類酸化物粉末と還元剤とを混合し、不活性ガス中加熱処理する工程(b)を含む希土類-遷移金属-窒素系磁石合金粉末の製造方法が開示されている。しかしながら本実施形態とは異なり、特許文献2では粒径1μm以下の微細な希土類酸化物粉末を用いていない。また母合金のみを粉砕して、後から希土類酸化物粉末を混合している。そのため特許文献2の方法では、母合金と希土類酸化物粉末の均一分散が困難であり、コアシェル構造を形成することできない。
【0077】
<ボンド磁石用コンパウンド>
本実施形態のボンド磁石用コンパウンドは、上述した希土類鉄窒素系磁性粉末と樹脂バインダーとを含む。このコンパウンドは、磁性粉末と樹脂バインダーとを混合して作製される。混合は、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、単軸押出機、二軸押出機等の混練機を用いて磁性粉末と樹脂バインダーとを熔融混練すればよい。
【0078】
樹脂バインダーは熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってよい。熱可塑性樹脂系バインダーは、その種類は特に限定されない。例えば、6ナイロン、6-6ナイロン、11ナイロン、12ナイロン、6-12ナイロン、芳香族系ナイロン、これらの分子を一部変性、または共重合化した変性ナイロン等のポリアミド樹脂、直鎖型ポリフェニレンサルファイド樹脂、架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、セミ架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン- 酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、メタクリル樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリ三フッ化塩化エチレン樹脂、四フッ化エチレン-六フッ化プロピレン共重合樹脂、エチレン-四フッ化エチレン共重合樹脂、四フッ化エチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリルエーテルアリルスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、酢酸セルロース樹脂、前出の各樹脂系エラストマー等が挙げられる。またこれらの単重合体や他種モノマーとのランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、他の物質での末端基変性品などが挙げられる。さらに熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0079】
これらの中では、得られる成形体の種々の特性やその製造方法の難易性から12ナイロンおよびその変性ナイロン、ナイロン系エラストマー、ポリフェニレンサルファイド樹脂の使用が好ましい。これら熱可塑性樹脂の2種類以上のブレンド等も当然に使用可能である。
【0080】
本実施形態では、原料粉末として、従来のSmFe17磁性粉末に比べて高い耐熱性を有し、また高耐熱性R(Fe、M)17磁性粉末(M=Cr、Mn)に比べても同等以上の磁気特性を有する磁性粉末を使用する。磁性粉末が高い耐熱性を有するため、樹脂そのものの耐熱性が高いポリフェニレンサルファイド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂をバインダーとすることで、高温での成形が可能になり、高性能高耐熱ボンド磁石の調製に有効である。
【0081】
樹脂バインダーの配合量は、特に制限されるものではないが、コンパウンド100質量部に対して1~50質量部が好ましい。1質量部より少ないと著しい混練トルクの上昇、流動性の低下を招いて成形困難になるだけでなく、磁気特性が不十分になることがある。一方で50質量部よりも多いと、所望の磁気特性が得られないことがある。樹脂バインダーの配合量は、3~50質量部であってよく、5~30質量部であってよく、7~20質量部であってよい。
【0082】
コンパウンドには、本実施形態の目的を損なわない範囲で、反応性希釈剤、未反応性希釈剤、増粘剤、滑剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤や種々の安定剤などの添加剤、充填材を配合することができる。また求められる磁気特性に合わせて、本実施形態の磁性粉末以外の他の磁石粉末を配合してもよい。他の磁石粉末として通常のボンド磁石に用いるものを採用することができ、例えば希土類磁石粉、フェライト磁石粉及びアルニコ磁石粉などが挙げられる。異方性磁石粉末だけでなく、等方性磁石粉末も混合できるが、異方性磁界Hが4.0MA/m(50kOe)以上の磁石粉末を用いることが好ましい。
【0083】
<ボンド磁石>
本実施形態のボンド磁石は、上述した希土類鉄窒素系磁性粉末と樹脂バインダーとを含む。このボンド磁石は上述したボンド磁石用コンパウンドを射出成形、押出成形又は圧縮成形して作製される。特に好ましい成形方法は射出成形である。ボンド磁石中の成分やその含有割合はボンド磁石用コンパウンドと同一である。
【0084】
ボンド磁石用コンパウンドを射出成形する場合には、最高履歴温度が330℃以下、好ましくは310℃以下、より好ましくは300℃以下となる条件で成形することが好ましい。最高履歴温度が330℃を超えると、磁気特性が低下することがある。
【0085】
ボンド磁石用コンパウンドが異方性の磁性粉末を含有する場合には、成形機の金型に磁気回路を組み込み、コンパウンドの成形空間(金型キャビティ)に配向磁界がかかるようにすると、異方性のボンド磁石が製造できる。このとき配向磁界を、400kA/m以上、好ましくは800kA/m以上とすることで高い磁気特性のボンド磁石が得られる。ボンド磁石用コンパウンドが等方性の磁性粉末を含有する場合には、コンパウンドの成形空間(金型キャビティ)に配向磁界をかけないで行ってもよい。
【0086】
本実施形態のボンド磁石は、自動車、一般家電製品、通信・音響機器、医療機器、一般産業機器等に至る幅広い分野において極めて有用である。また、本実施形態によれば、磁性粉末が高い耐熱性と高い磁気特性を有するため、磁性粉末を圧粉成形し焼結した磁石においても、従来のような保磁力劣化が抑制されバインダレスの高性能磁石を得ることが可能になる。
【実施例
【0087】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
実施例、比較例における、粉末の平均粒径、および希土類鉄窒素系磁性粉末の磁気特性や耐熱性を以下のように評価した。
【0089】
(粉末の粒径)
粉末の最大粒径は、1000倍程度のSEM反射電子像において、そのコントラストからそれぞれの成分粒子を判別し、300粒子以上含まれる視野中の最大粒子の長軸径を最大粒径とした。また平均粒径はレーザー回折粒度分布計(株式会社日本レーザー製,HELOS&RODOS)で測定された50%粒子径(D50)とした。ここでD50は体積粒度分布における50%粒子径である。
【0090】
(磁気特性)
粉末の磁気特性(残留磁化σと保磁力H)は、振動試料型磁力計で測定した。その際、日本ボンド磁性材料協会のボンド磁石試験方法ガイドブックBMG-2005に則り、20mgほどの粉末試料を内径2mm長さ7mmの透明アクリルでできたケースにパラフィンと一緒に入れて、長さ方向に磁界を印加しながら、ドライヤーで加熱してパラフィンを溶かし、粉末を配向させた後に冷却して、パラフィンを固めて作製した。なお試料の着磁磁界は3.2MA/mである。
【0091】
(耐熱性)
粉末の耐熱性は、粉末を大気圧のアルゴン雰囲気中300℃で1時間加熱し、加熱前後の保磁力を比較することで評価した。加熱前の保磁力をH、加熱後の保磁力をHc,300としたとき、保磁力の維持率をHc,300/Hで算出した。
【0092】
(粉末の結晶構造)
粉末の結晶構造については、Cuターゲットで加速電圧45kV、電流40mAとし、2θを2min./deg.(0.5deg./min.)でスキャンした粉末X線回折(XRD)パターンを解析して評価した。
【0093】
(シェル層のR/Fe原子比、平均厚み)
シェル層の希土類元素(R)と鉄(Fe)と窒素(N)の含有量と平均厚みは、オージェ電子分光装置(アルバック・ファイ製PHI680、加速電圧10kV)により算出される。本実施形態においてはランダムに3個の粒子を選び、平坦な面に100nmのスポットサイズで電子ビームを照射している。また試料の1~2mm四方の領域に加速電圧2kVでアルゴン(Ar)イオンを照射し、SiO換算2nm/minのレートでスパッタリングし深さ方向の組成変化を調べた。
【0094】
本実施形態の希土類鉄窒素系磁性粉末では、粒子の深さ方向表面近傍にR組成がピークを有する部分があり、その内部ではピーク部に対してR組成が低い値で一定となった。このピーク部がシェル層であり、その内部がコア部に相当する。シェル層のR/Fe原子比は、このピーク位置でのR組成と、その位置でのFe組成とから算出した。また平均厚みは、図2に示すように、R組成がコア部R組成(図2ではRがSm)より高い領域幅をシェル層厚みとして、3個の粒子の平均値とした。
【0095】
(磁性粉末の組成)
磁性粉末のRとN組成は、それぞれICP発光分光分析法、熱伝導度法で分析した。
【0096】
(RFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)の作製)
平均粒径(D50)が2.3μmの酸化サマリウムSm粉末0.44kg、平均粒径(D50)が40μmの鉄粉1.0kg、粒状金属カルシウム0.23kgをミキサー混合し、鉄るつぼに入れて、アルゴンガス雰囲気下、1100℃で7時間加熱処理した。
【0097】
冷却後に取り出した反応生成物を2Lの水中に投入してアルゴンガス雰囲気中、12時間放置しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たに水を2L加えて攪拌し、SmFe合金粉が沈降したところで水酸化カルシウムが懸濁する上澄みを捨てる。この操作をpHが10以下になるまで繰り返した。次に合金粉と水2Lとが攪拌されている状態でpHが5になるまで酢酸を添加し、その状態で30分間攪拌を続けた。その後、上澄みを捨てて再び水2Lを加え攪拌する操作を5回行い、最後にアルコールで水を置換した後、ヌッチェで合金粉を回収した。これをミキサーに入れて、減圧しながら400℃で10時間攪拌乾燥し、平均粒径が28μmのSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)1.3kgを得た。
【0098】
この合金粉末は、平均粒径(D50)が30μmで、Smが24.5質量%、Oが0.15質量%、Hが0.54質量%、Caが0.01質量%未満、残部鉄の組成を持ち、主相がThZn17型結晶構造のSmFe17であった。また含有水分量として、この合金粉末50gを真空中400℃で5時間加熱したときの減量αを測定したところ0.1質量%だった。
【0099】
[実施例1]
上記の方法で作製されたSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)900gに対して、平均粒径(D50)が2.3μmの酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)90g(SmFe17合金粉末100質量部に対して10質量部に相当)をロッキングミキサーで予備混合し、その混合物を4kgのフッ素系不活性液体を溶媒として媒体攪拌ミル粉砕した。
【0100】
粉砕後のスラリーをミキサーに入れ減圧しながら加温して溶媒を蒸発させ室温まで冷却した。その後、ミキサーで攪拌を続けながら酸素濃度2体積%の窒素ガスをフローし、混合粉末の酸化発熱が40℃を超えないよう注意しながら酸素濃度を徐々に15体積%まで高め、発熱が終了したのを確認し粉砕混合物を回収した。次に回収された粉砕混合物を電気炉に入れて真空中410℃まで昇温加熱したところ、ガス放出による真空度の悪化が確認された。ガスの発生が終わり、真空度が戻ったところで冷却して取り出した。この粉砕混合物を1000倍でSEM反射電子像観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は10μmで酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.8μmだった。またサマリウム(Sm)が29.8質量%、酸素(O)が2.9質量%、水素(H)が0.006質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は2.5μmだった。また粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αは0.4質量%だった。
【0101】
この粉砕混合物(原料混合物)100gに目開き1.0mm篩上かつ目開き2.0mm篩下となる粒状金属カルシウム(還元剤)31.3g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して4.3倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し830℃で13時間保持し冷却した。これにより反応生成物(還元拡散反応生成物)を得た。
【0102】
回収された反応生成物をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し450℃24時間保持した。
【0103】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。これにより希土類鉄窒素系磁性粉末を得た。以上の作製条件を表1に示す。
【0104】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は5.1μmだったが、SEM観察すると図1のように数100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったところ、図2(重要なSm、Fe、N、Oのみ)に示すような、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0105】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%を表2に示す。またこの磁性粉末の耐熱性として、大気圧のアルゴン雰囲気中300℃で1時間加熱したときの保磁力Hの維持率も表2に示す。
【0106】
[実施例2]
実施例1と同様にして得られた窒化反応生成物を、1Lのイオン交換水に投入し、2時間放置してスラリー化し、上澄みを捨てる。再び1Lのイオン交換水を投入し、1分間攪拌・2分間静置して水酸化カルシウムが浮遊する上澄みを捨てる。この操作を15回行ったところ、上澄みがほぼ透明になった。次にエタノールを0.2L投入し攪拌してヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0107】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.7μmだったが、SEM観察すると実施例1と同様に数100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でSm、Fe、N、O、Ca、C組成の深さ方向分析を行って、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0108】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0109】
[実施例3]
実施例1と同様にして得られた窒化反応生成物を、水/(エチレングリコール+水)で規定される水含有率が20質量%のエチレングリコール1L中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たに水含有率が20質量%のエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0110】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.1μmだったが、SEM観察すると実施例1と同様に数100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でSm、Fe、N、O、Ca、C組成の深さ方向分析を行って、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0111】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0112】
[実施例4]
実施例1と同様にして得た粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム15.7g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.2倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し860℃で2時間保持し冷却した。
【0113】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し450℃24時間保持した。
【0114】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0115】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は1.8μmだったが、SEM観察すると数10nmから4μmの球状粒子からなっているのが確認された。また任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0116】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0117】
[実施例5]
実施例4において、ヌッチェでろ過したケーキ50gを、エタノール100gに85%燐酸水溶液0.60gを加えて混合した溶液に投入し、旋回型拘束ミキサーフィルミックスで60秒攪拌した。得られたスラリーを再びヌッチェでろ過し、ケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥することで磁性粉末を得た。
【0118】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末のレーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は1.6μmだったが、SEM観察すると数10nmから4μmの球状粒子からなっているのが確認された。また任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、燐(P)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って、最表面に厚みが7nmほどのSm、Fe、Pからなる燐酸系化合物皮膜があり、その内側にコア部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0119】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0120】
[実施例6]
実施例1に使用したのと同じSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)900gに対して、平均粒径(D50)が7.7μmの酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)90g(SmFe17合金粉末100質量部に対して10質量部に相当)をロッキングミキサーで予備混合し、その混合物を4kgのフッ素系不活性液体を溶媒として媒体攪拌ミル粉砕した。
【0121】
粉砕後のスラリーをミキサーに入れ減圧しながら加温して溶媒を蒸発させ室温まで冷却した。その後、ミキサーで攪拌を続けながら酸素濃度2体積%の窒素ガスをフローし、混合粉末の酸化発熱が40℃を超えないよう注意しながら酸素濃度を徐々に15体積%まで高め、発熱が終了したのを確認し粉砕混合物を回収した。次に回収された粉砕混合物を電気炉に入れて真空中410℃まで昇温加熱したところ、ガス放出による真空度の悪化が確認された。ガスの発生が終わり、真空度が戻ったところで冷却して取り出した。この粉砕混合物を2000倍でSEM反射電子像観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は4μmで酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.2μmだった。またサマリウム(Sm)が29.0質量%、酸素(O)が3.7質量%、水素(H)が0.41質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は1.2μmだった。また粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αは3.1質量%だった。
【0122】
この粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)23.3g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.5倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し950℃で2時間保持し冷却した。
【0123】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し450℃24時間保持した。
【0124】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0125】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は7.3μmだったが、SEM観察すると100nmから3μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0126】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0127】
[実施例7]
実施例6と同様にして得た粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)23.3g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.5倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し1020℃で1時間保持し冷却した。
【0128】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し450℃24時間保持した。
【0129】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0130】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は8.6μmだったが、SEM観察すると100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0131】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0132】
[実施例8]
実施例1に使用したのと同じSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)900gに対して、平均粒径(D50)が3.4μmの酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)45g(SmFe17合金粉末100質量部に対して5質量部に相当)をロッキングミキサーで予備混合し、その混合物を4kgのフッ素系不活性液体を溶媒として媒体攪拌ミル粉砕した。
【0133】
粉砕後のスラリーをミキサーに入れ減圧しながら加温して溶媒を蒸発させ室温まで冷却した。その後、ミキサーで攪拌を続けながら酸素濃度2体積%の窒素ガスをフローし、混合粉末の酸化発熱が40℃を超えないよう注意しながら酸素濃度を徐々に15体積%まで高め、発熱が終了したのを確認し粉砕混合物を回収した。次に回収された粉砕混合物を電気炉に入れて真空中410℃まで昇温加熱したところ、ガス放出による真空度の悪化が確認された。ガスの発生が終わり、真空度が戻ったところで冷却して取り出した。この粉砕混合物を2000倍でSEM反射電子像観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は6μmで酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.3μmだった。またサマリウム(Sm)が26.8質量%、酸素(O)が3.0質量%、水素(H)が0.03質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は2.0μmだった。また粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αは0.23質量%だった。
【0134】
この粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)18.7g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.5倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し860℃で2時間保持し冷却した。
【0135】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し450℃24時間保持した。
【0136】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0137】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は5.2μmだったが、SEM観察すると数100nmから2μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0138】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0139】
[実施例9]
実施例1と同様にして得た粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)71.2g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して9.8倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し730℃で2時間保持し冷却した。
【0140】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し320℃30時間保持した。
【0141】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0142】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は2.6μmだった。また任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)、炭素(C)組成の深さ方向分析を行って、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0143】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0144】
[実施例10]
実施例6と同様にして得た粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)28.2g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して3.0倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し1050℃で1時間保持し冷却した。
【0145】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNHガスと100cc/minのHガスとの混合ガス気流中で昇温し480℃2時間保持した。
【0146】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0147】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は9.3μmだったが、SEM観察すると数100nmから5μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0148】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0149】
[実施例11]
実施例1に使用したのと同じSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)900gに対して、平均粒径(D50)が2.5μmの酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)10g(SmFe17合金粉末100質量部に対して1.1質量部に相当)をロッキングミキサーで予備混合し、その混合物を4kgのフッ素系不活性液体を溶媒として媒体攪拌ミル粉砕した。
【0150】
粉砕後のスラリーをミキサーに入れ減圧しながら加温して溶媒を蒸発させ室温まで冷却した。その後、ミキサーで攪拌を続けながら酸素濃度2体積%の窒素ガスをフローし、混合粉末の酸化発熱が40℃を超えないよう注意しながら酸素濃度を徐々に15体積%まで高め、発熱が終了したのを確認し粉砕混合物を回収した。次に回収された粉砕混合物を電気炉に入れて真空中410℃まで昇温加熱したところ、ガス放出による真空度の悪化が確認された。ガスの発生が終わり、真空度が戻ったところで冷却して取り出した。この粉砕混合物を1000倍でSEM反射電子像観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は6μmで酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.5μmだった。またサマリウム(Sm)が24.5質量%、酸素(O)が2.4質量%、水素(H)が0.007質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は1.8μmだった。また粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αは0.05質量%だった。
【0151】
この粉砕混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)9.8g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して1.6倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し960℃で2時間保持し冷却した。
【0152】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNガス気流中で昇温し450℃27時間保持した。
【0153】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0154】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.8μmだったが、SEM観察すると数100nmから3μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0155】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0156】
[実施例12]
溶解鋳造法で得たSmFe17合金鋳塊をアルゴンガス雰囲気で1050℃5日間均一加熱処理し、ジョークラッシャー解砕した後、フッ素系不活性液体を溶媒とし平均粒径(D50)が1.8μmとなるまで媒体攪拌ミル粉砕した。得られたスラリーをミキサーで減圧しながら加温して溶媒を蒸発させ、酸素濃度2体積%の窒素ガスをフローして徐酸化させて回収した。また平均粒径(D50)が2.2μmの酸化サマリウムを、フッ素系不活性液体を溶媒とし平均粒径(D50)が0.2μmとなるまで媒体攪拌ミル粉砕し乾燥させた。このようにして得られたSmFe17合金微粉末(希土類鉄合金粉末)100gと酸化サマリウム微粉末(希土類酸化物粉末)20g(SmFe17合金粉末100質量部に対して20質量部に相当)をアルゴンガス雰囲気下でメカノフュージョン精密混合し、アルゴンで置換したグローブボックス中で回収した。この混合物は、サマリウム(Sm)が34.1質量%、酸素(O)が4.5質量%、水素(H)が0.005質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は1.6μmだった。
【0157】
この混合物(原料混合物)100gに粒状金属カルシウム(還元剤)15.9g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して1.2倍)を加えてさらに混合し、鉄るつぼに入れて還元拡散処理としてアルゴンガス雰囲気下で加熱し920℃で2時間保持し冷却した。
【0158】
回収された反応生成物(還元拡散反応生成物)をアルゴンガス雰囲気下で10mm以下になるよう解砕し、窒化熱処理として、管状炉に入れて50cc/minのNHガスと50cc/minのHガスとの混合ガス気流中で昇温し450℃時間保持した。
【0159】
冷却後に管状炉から回収された窒化反応生成物を、1Lのエチレングリコール中に投入しアルゴンガス雰囲気中3時間攪拌しスラリー化した。このスラリーの上澄みを捨て、新たにエチレングリコールを1L加えて5分間攪拌し、窒化合金粉が沈降するまで静置しカルシウム成分が懸濁する上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。次に脱水エタノール500ccを加えて攪拌し合金粉が沈降するまで静置して上澄みを捨てる。この操作をアルゴンガス雰囲気中で3回繰り返した。最後にヌッチェでろ過し、得られたケーキをミキサーに入れて真空中150℃で1時間攪拌乾燥した。以上の作製条件を表1に示す。
【0160】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は3.4μmだったが、SEM観察すると数100nmから2μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。また任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)、炭素(C)組成の深さ方向分析を行って内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0161】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0162】
[比較例1]
還元拡散処理を710℃で2時間とした以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0163】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認されたが、それ以外にα-Feの回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は2.8μmだった。任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)、炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったが内部に比べてSmリッチなシェル層は確認できなかった。
【0164】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0165】
[比較例2]
還元拡散処理を1100℃で1時間とし、窒化に50cc/minのNHガスと100cc/minのHガスとの混合ガスを使用し、窒化処理時間を3時間とした以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0166】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。またSEM/EDS分析により粒子間に粗大なSmFe相も確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は10.8μmだった。任意の3粒子について、Arでスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)、炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったが内部に比べてSmリッチなシェル層は確認できなかった。
【0167】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0168】
[比較例3]
酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)の混合量を200g(SmFe17合金粉末100質量部に対して22質量部に相当)に増やし、粒状金属カルシウム(還元剤)を30.1g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して3.3倍)とし、窒化に50cc/minのNHガスと100cc/minのHガスとの混合ガスを使用し、窒化処理時間を3時間とした以外は、実施例4と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。このとき粉砕混合物を1000倍でSEM反射電子像観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は9μmで酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.6μmだった。またサマリウム(Sm)が35.1質量%、酸素(O)が3.6質量%、水素(H)が0.01質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は2.2μmだった。また粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αは0.1質量%だった。作製条件を表1に示す。
【0169】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.0μmだったが、SEM観察すると数100nmから3μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。またSEM観察ではSmFe窒化物相が多量に観察された。SmFe窒化物相以外の任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行って内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていることを確認した。
【0170】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、シェル層のSm/Fe原子比、シェル層の平均厚み、シェル層のN原子%、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0171】
[比較例4]
酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)の混合量を8g(SmFe17合金粉末100質量部に対して0.9質量部に相当)に減らし、粒状金属カルシウム(還元剤)を13.5g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して3.0倍)とした以外は、実施例4と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。このとき粉砕混合物を1000倍でSEM反射電子像観察したところ、SmFe17合金粒子の最大粒径は9μmで酸化サマリウム粒子の最大粒径は0.7μmだった。またサマリウム(Sm)が24.4質量%、酸素(O)が1.8質量%、水素(H)が0.008質量%、残部鉄(Fe)の組成で、混合物全体のD50は2.1μmだった。また粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αは0.1質量%だった。作製条件を表1に示す。
【0172】
このようにして得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認されたが、それ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.3μmだったが、SEM観察すると数100nmから3μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったが内部に比べてSmリッチなシェル層は確認できなかった。
【0173】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0174】
[比較例5]
窒化熱処理を290℃で24時間とした以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0175】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は5.0μmだったが、SEM観察すると数100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったところ、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていたがN組成はバックグラウンドレベルだった。
【0176】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0177】
[比較例6]
窒化熱処理を510℃で時間とし、窒化に50cc/minのNHガスと100cc/minのHガスとの混合ガスを使用した以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0178】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認されたが、それ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は4.8μmだったが、SEM観察すると数100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったところ、内部に比べてSmリッチなシェル層が形成されていた。
【0179】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0180】
[比較例7]
SmFe17合金粉末と酸化サマリウムとを予備混合する際の媒体攪拌ミル粉砕時間を調整し、粉砕混合物中のSmFe17合金粒子(希土類鉄合金粉末)の最大粒径を12μm、酸化サマリウム粒子(希土類酸化物粉末)の最大粒径を1.2μmとしたこと、粉砕混合物の組成をサマリウム(Sm)が29.6質量%、酸素(O)が2.3質量%、水素(H)が0.005質量%、残部鉄(Fe)の組成とし、混合物全体のD50を4.1μm、粉砕混合物50gを真空中400℃5時間加熱したときの減量αを0.05質量%としたこと、粒状金属カルシウム(還元剤)を14.3g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して2.5倍)としたこと以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0181】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認された。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は8.3μmだったが、SEM観察すると1μmから7μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。粒子表面について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったところ、内部に比べてSmリッチなシェル層の形成されている部分と形成されていない部分が見らればらついていた。
【0182】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0183】
[比較例8]
粒状金属カルシウム(還元剤)を7.3g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して1.0倍)とした以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0184】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認されたが、それ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は7.7μmだったが、SEM観察すると数100nmから4μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったが内部に比べてSmリッチなシェル層は確認できなかった。
【0185】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0186】
[比較例9]
粒状金属カルシウム(還元剤)を79.2g(粉砕混合物の酸素量から計算される還元必要量に対して10.9倍)とした以外は、実施例1と同様にして希土類鉄窒素系磁性粉末を作製した。作製条件を表1に示す。
【0187】
得られた希土類鉄窒素系磁性粉末は、XRDによりThZn17型の結晶構造であることが確認されたが、それ以外にα-Feの強い回折線も認められた。レーザー回折粒度分布計で測定された平均粒径(D50)は5.1μmだったが、SEM観察すると数10nmから3μmの球状粒子が凝集しているのが確認された。任意の3粒子について、アルゴン(Ar)でスパッタリングしながらオージェ電子分光装置でサマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)、酸素(O)、カルシウム(Ca)及び炭素(C)組成の深さ方向分析を行ったが内部に比べてSmリッチなシェル層は確認できなかった。
【0188】
磁性粉末のSm組成、N組成、残留磁化σ、保磁力H、磁性粉末の耐熱性を表2に示す。
【0189】
(評価)
上記製造条件を示す表1、それにより得られた磁性粉末の物性を示す表2から次のことが分かる。
【0190】
実施例1~12では、サマリウム(Sm)、鉄(Fe)、窒素(N)を主構成成分とし、粉末のサマリウム(Sm)含有量が22.5~29.7質量%、窒素(N)含有量が2.5~4.0質量%であって、ThZn17型結晶構造を有する平均粒径が1.6~9.3μmの磁性粉末であって、粒子表面に、Sm/Fe原子比が0.3~2.9であり、厚みが2~24nmのシェル層が形成されている希土類鉄窒素系磁性粉末が得られている。そして、この磁性粉末は、83Am/kg以上の残留磁化σと740kA/m以上の保磁力Hを有し、粉末を300℃で1時間加熱した後においても保磁力の維持率Hc,300/Hが72%以上の高い耐熱性を示している。
【0191】
これに対して、比較例1では、還元拡散温度が710℃と730℃より低温であるため、シェル層が形成された部分が認められず、耐熱試験に基づく保磁力の維持率Hc,300/Hが44%と70%より低くなって悪化している。また、比較例2では、還元拡散温度が1100℃と1050℃より高温であるため、磁性粉末の平均粒径が10.8μmと10μmを超え、保磁力Hが382kA/mと低く耐熱試験による保磁力の維持率Hc,300/Hが58%と70%より低くなって悪化している。
【0192】
比較例3では、酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)の混合量が200gであり、SmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)100質量部に対して22質量部と20質量部を超えているため、磁性粉末のサマリウム(Sm)含有量が34.8質量%と30質量%を超え、かつ窒素(N)含有量が5.2質量%と4.0質量%を超えた。粉末にはSmFe相窒化物が多く観察された。そのためシェル層の厚みが32nmと30nmを超え、またSm/Fe原子比が3.4と3.0を超えて、残留磁化σが52Am/kgと低くなっている。また比較例4では、酸化サマリウム(希土類酸化物粉末)の混合量が8gであり、SmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)100質量部に対して0.9質量部と1質量部を下回ったため、磁性粉末のサマリウム(Sm)含有量が21.9質量%と22質量%未満になった。そのためシェル層は認められず、磁性粉末の残留磁化σが43Am/kg、保磁力Hが215kA/mと低くなっている。
【0193】
比較例5では、窒化温度が290℃と300℃を下回ったため、シェル層は認められたが、磁性粉末の窒素(N)含有量が1.7質量%と2.5質量%未満となった。窒素(N)はAESスペクトルのバックグラウンドレベルだった。そのため磁性粉末の残留磁化σが40Am/kg、保磁力Hが103kA/mと低くなっている。比較例6では、窒化温度が510℃と500℃を超えたため、磁性粉末の窒素(N)含有量が5.3質量%と4.0質量%を超え、残留磁化σが47Am/kg、保磁力Hが167kA/mと低くなっている。
【0194】
比較例7では、原料のSmFe17合金粉末(希土類鉄合金粉末)の最大粒径が12.0μmと10μmを超え、また酸化サマリウム粉末の最大粒径が1.2μmと1μmを超えた。それぞれの粒子径が粗く還元拡散工程で還元されたサマリウム(Sm)の原料中の浸透にムラがあったようで、シェル層の観察された粒子と観察されない粒子があってばらついていた。そのため磁性粉末の耐熱試験による保磁力の維持率Hc,300/Hが51%と70%より低くなって悪化している。
【0195】
比較例8では、金属カルシウム(還元剤)の配合量が7.3gであり、原料混合物の酸素(O)含有量(2.9質量%)から計算される還元に必要な量(当量)に対して1.0倍と1.1倍を下回った。そのため磁性粉末のサマリウム(Sm)含有量が21.7質量%と22質量%を下回り、窒素(N)含有量も2.3質量%と2.5質量%を下回った。シェル層も認められず、磁性粉末の耐熱試験による保磁力の維持率Hc,300/Hは25%と70%より大幅に低くなって悪化している。比較例9では、金属カルシウム(還元剤)の配合量が79.2gであり、原料混合物の酸素(O)含有量(2.9質量%)から計算される還元に必要な量(当量)に対して10.9倍と10倍を超えた。そのため磁性粉末のサマリウム(Sm)含有量が21.9質量%と22質量%を下回り、窒素(N)含有量も1.9質量%と2.5質量%を下回った。カルシウム量が多すぎて、サマリウム(Sm)の拡散が阻害されたものと思われる。シェル層も認められず、磁性粉末の耐熱試験による保磁力の維持率Hc,300/Hは42%と70%より低くなって悪化している。
【0196】
【表1】
【0197】
【表2】

図1
図2