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特許7364353ベーカリー製品用組成物及びそれを用いたベーカリー生地、ベーカリー製品の製造方法並びに品質劣化抑制方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】ベーカリー製品用組成物及びそれを用いたベーカリー生地、ベーカリー製品の製造方法並びに品質劣化抑制方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/26 20060101AFI20231011BHJP
   A21D 2/18 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
A21D2/26
A21D2/18
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019075314
(22)【出願日】2019-04-11
(65)【公開番号】P2020171234
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(72)【発明者】
【氏名】小林 修一
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-121294(JP,A)
【文献】特開2017-023048(JP,A)
【文献】特開平07-075479(JP,A)
【文献】特開平11-009174(JP,A)
【文献】特開平09-172943(JP,A)
【文献】特開2010-154801(JP,A)
【文献】特開2015-195770(JP,A)
【文献】"第2章 日本食品標準成分表 12 卵類",日本食品標準成分表2015年版(七訂),2017年12月,[令和4年12月8日検索], [online], インターネット<URL:https://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/02/16/1365343_1-0212r9.pdf>
【文献】GELENCSER T., et al.,Comparative Study of Native and Resistant Starches,Acta Alimentaria,2008年,vol. 37, no. 2,p. 225-270
【文献】"「薄力粉と強力粉の違いって何? 」[違い5つ]とグルテンや灰分量による変化 | 東京ガス ウチコト",2017年01月25日,[令和4年12月9日検索], [online], インターネット<URL:https://tg-uchi.jp/topics/3824>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D 2/00-17/00
A23L 7/00-7/104
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)グルテン(ただし、ベーカリー製品用組成物に小麦粉が含まれる場合、前記小麦粉に含まれるグルテンを除く):2質量%~10質量%、
成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉:5質量%~80質量%、及び
成分(C)大豆粉:2質量%~10質量%、
を含有し、前記成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である、電子レンジ再加熱に適したベーカリー製品用組成物。
【請求項2】
前記成分(B)、前記成分(C)の配合比(質量比)が、(B):(C)=1:0.125~1:0.25である、請求項1に記載のベーカリー製品用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベーカリー製品用組成物を含む、電子レンジ再加熱に適したベーカリー生地。
【請求項4】
冷凍生地である、請求項に記載のベーカリー生地。
【請求項5】
成分(A)グルテン(ただし、ベーカリー製品の製造において小麦粉を配合する場合、前記小麦粉に含まれるグルテンを除く):2質量%~10質量%、
成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉:5質量%~80質量%、及び
成分(C)大豆粉:2質量%~10質量%、
を配合することを含み、前記成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である、電子レンジ再加熱に適したベーカリー製品の製造方法。
【請求項6】
成分(A)グルテン(ただし、ベーカリー製品の製造において小麦粉を配合する場合、前記小麦粉に含まれるグルテンを除く):2質量%~10質量%、
成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉:5質量%~80質量%、及び
成分(C)大豆粉:2質量%~10質量%、
を配合することを含み、前記成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である、ベーカリー製品を電子レンジで再加熱した際の品質劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー製品用組成物及びそれを用いたベーカリー生地、ベーカリー製品の製造方法並びに品質劣化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷蔵状態、冷凍状態あるいは常温で流通した食品を、温かい状態で喫食したいというニーズが高まっている。例えば、ハンバーガーやホットドッグ等のベーカリー製品を冷凍状態、冷蔵状態あるいは常温で流通・保管し、店頭や家庭において喫食前に電子レンジで再加熱することが行われている。
【0003】
しかしながら、冷凍状態、冷蔵状態、常温保存状態、冷凍後に解凍した状態にあるベーカリー製品を電子レンジ等で再加熱すると、ベーカリー製品の表面にしわができたり、ふやけたりして外観が悪くなったり、ひきが強い食感になったりするという問題があった。特に、ベーカリー製品に含まれるグルテンの量が多いと、生地の弾力が強くなり、電子レンジで再加熱した際にひきが強い食感になってしまうという問題があった。
【0004】
このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献1には、アルギン酸エステルを含有する食感改良剤が開示されている。また、特許文献2には、食用油脂、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びα化澱粉を特定量配合するイースト発酵食品用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-281915号公報
【文献】特開平11-262356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の技術では、ベーカリー製品、特にパン類を電子レンジで再加熱した際の外観や食感の悪化を抑えるためには、増粘剤や乳化剤を添加する必要があった。増粘剤や乳化剤を添加すると、ひきの強い食感が改善する場合があるが、一方で、食感にくちゃつきを生じてしまうことがあり、さらなる改良が求められている。
【0007】
そこで、本発明は、電子レンジ等で再加熱した際の外観及び食感の劣化を抑制できる、電子レンジ再加熱に適したベーカリー製品用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を行った結果、ベーカリー製品用組成物中にグルテン、特定の物性を有する加工澱粉、並びに大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白を配合することにより、電子レンジ等で再加熱した際の外観及び食感の劣化を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、成分(A)グルテン(ただし、ベーカリー製品用組成物に小麦粉が含まれる場合、前記小麦粉に含まれるグルテンを除く):2質量%~10質量%、成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉:5質量%~80質量%、及び成分(C)大豆粉:2質量%~10質量%を含有し、前記成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である、電子レンジ再加熱に適したベーカリー製品用組成物を提供する。
なお、前記成分(B)、前記成分(C)の配合比(質量比)が、(B):(C)=1:0.125~1:0.25であることが好ましい
らに、本発明は、前記ベーカリー製品用組成物を含む、電子レンジ再加熱に適したベーカリー生地も提供する。
なお、前記ベーカリー生地は冷凍生地であってもよい。
さらに、本発明は、成分(A)グルテン(ただし、ベーカリー製品の製造において小麦粉を配合する場合、前記小麦粉に含まれるグルテンを除く):2質量%~10質量%、成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉:5質量%~80質量%、及び成分(C)大豆粉:2質量%~10質量%を配合することを含み、前記成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である、電子レンジ再加熱に適したベーカリー製品の製造方法も提供する。
加えて、本発明は、成分(A)グルテン(ただし、ベーカリー製品の製造において小麦粉を配合する場合、前記小麦粉に含まれるグルテンを除く):2質量%~10質量%、成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉:5質量%~80質量%、及び成分(C)大豆粉:2質量%~10質量%を配合することを含み、前記成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である、ベーカリー製品を電子レンジで再加熱した際の品質劣化抑制方法も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のベーカリー製品用組成物を用いることにより、焼成後のベーカリー製品を冷凍、冷蔵、あるいは常温保存した後に電子レンジ等で再加熱した際の外観及び食感の劣化を抑制することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれの効果であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く限定されることはない。
【0012】
<1.ベーカリー製品用組成物>
本発明に係るベーカリー製品用組成物は、成分(A)グルテン、成分(B)RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度が200cp以下の加工澱粉、及び成分(C)大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白を必須成分として含有する。
本発明に係るベーカリー製品用組成物は、前記必須成分のみからなる組成物であってもよい。これに少なくとも水を加えれば、ベーカリー製品を製造することができる。また、好ましくは、穀粉類、イースト、糖類、食塩等を添加することができる。
また、本発明に係るベーカリー製品用組成物には、前記必須成分のほかに、穀粉類(小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、とうもろこし粉、あわ粉、ひえ粉、はと麦粉、そば粉)、(B)以外の澱粉類(とうもろこし、もち種とうもろこし、馬鈴薯、葛、タピオカ、サゴ等を原材料とした未加工の澱粉、また、それら澱粉を原材料として、物理的及び/または化学的処理等(酵素処理、湿熱処理、α化、ヒドロキシプロピル化、架橋等)を施した澱粉又は加工澱粉)、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油、粉末油脂等)、食塩、糖類(トレハロース、ぶどう糖、砂糖、マルトース、イソマルトース、デキストリン等の、液状または粉粒状の糖類)、糖アルコール類(ソルビトール、マルチトール、パラチニット、還元水飴等の、液状または粉粒状の糖アルコール類)、ベーキングパウダー、乳化剤(レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、増粘剤、製パン用改良剤、酵素類、調味料(アミノ酸、核酸等)、及び香料等を含むことができる。
【0013】
電子レンジ再加熱用のベーカリー製品には、ベーカリー製品の骨格を補強し、しわの発生を抑制する目的で蛋白素材(例えば本発明の成分(A)及び成分(C))が配合されることがあるが、一方でこれらによって、再加熱後のベーカリー製品がひきの強い食感になってしまうことがある。本発明者は、このひきの強い食感を改善するために澱粉類を用いることを検討した。しかし、澱粉類の種類や配合量によっては、再加熱時に澱粉類がグルテン等から水分を奪ってしまうことによって、さらにひきの強い食感になってしまう場合があることを発見した。そこで、本発明者はさらに鋭意検討を行い、成分(A)及び成分(C)に対し、特定の加工澱粉(成分(B))を特定の組み合わせ比で配合することで、再加熱後の外観及び食感がともに好ましいベーカリー製品を得られることを見出した。
【0014】
(1)成分(A)グルテン
本発明に用いるグルテン(成分(A))は、通常ベーカリー製品に用いられるものであれば特に限定されない。グルテンは、ベーカリー製品の生地に十分な粘弾性を与え、ベーカリー製品の骨格を形成し、さらにはベーカリー製品を電子レンジで再加熱した際に表面にしわができることを防ぐ役割を担う。本発明において、グルテンは市販のものを用いることができるが、後述する加工澱粉(成分(B))及び大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白(成分(C))と組み合わせたときに、小麦粉主体のベーカリー製品の生地と同様の粘弾性と伸展性が得られるように、使用するグルテンを選択することが好ましい。具体的には、例えばグリコ栄養食品株式会社の「AグルK」、「AグルP」、「AグルG」、「AグルSS」を用いることができる。
【0015】
(2)成分(B)加工澱粉
本発明に用いる加工澱粉(成分(B))は、ベーカリー製品において生地の吸水及び保水性を調整し、外観及び食感を改良する役割を担う。加工澱粉は、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、タピオカ、トウモロコシ、サゴ等の植物から抽出した澱粉に、物理的又は化学的加工を施したものである。本発明において、加工澱粉として酸化澱粉;リン酸架橋澱粉等の架橋澱粉;アセチル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等の複数の加工を組み合わせた加工澱粉等のうち1種または2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。これらの中でも、ベーカリー製品の外観及び食感をより良好なものとする観点から、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉及び/又はリン酸架橋澱粉を用いることが好ましい。本発明において、加工澱粉は市販のものを用いることができ、例えば、イングレディオン・ジャパン株式会社の「ノベロースW(NOVELOSE W、登録商標)」、松谷化学工業株式会社の「パインスターチRT」、昭和産業株式会社の「SF-1900」、「SF-2200」を用いることができる。
【0016】
本発明の加工澱粉は、RVA(Rapid Visco Analyzer)分析法において、昇温開始から降温開始前までの最高粘度(以下、「RVA最高粘度」ともいう。)が200cp以下であり、50cp以下であることが好ましく、30cp以下であることがより好ましく、20cp以下であることがさらにより好ましい。RVA最高粘度が200cp以下であることにより、ベーカリー製品を電子レンジで再加熱する際に、加工澱粉が生地中の水分を奪いすぎてグルテンが硬化してしまうことを防ぐことができる。その結果、電子レンジで再加熱されたベーカリー製品においてひきが強い食感になることを防ぐことができると考えられる。
【0017】
なお、RVA最高粘度の測定方法は以下のとおりである。測定装置として、株式会社エヌピー社製のPerten RVA-4500 Model4500(TCW 3シリーズ)を用いる。まず、測定装置専用のアルミ缶に、測定対象のサンプル試料1.5g、蒸留水又はイオン交換水28.5mL、及びパドル(撹拌子)を入れ、パドルを上下させてよくかき混ぜ、5質量%の懸濁液を調製する。そして、当該懸濁液(25℃)を測定装置にセットし、アルミ缶内のパドルを回転数160rpmで回転させながら、当該アルミ缶を加熱して懸濁液の温度を上昇させつつ、連続的に懸濁液の粘度を測定する。なお、測定装置の設定温度条件は、まずアルミ缶内容物の品温を50℃で1分間保持した後、7.5℃/分の速度で6分間、95℃まで昇温させる。同温度で3分間保持した後、約10.8℃/分の速度で6分間、30℃まで降温させ、同温度で4分間保持する条件とする。そして、アルミ缶加熱処理中の内容物の粘度曲線を得て、当該粘度曲線における、降温開始前までの最高粘度を、当該サンプル試料のRVA最高粘度とする。
【0018】
(3)成分(C)大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白
本発明に用いる大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白(成分(C))は、ベーカリー製品の骨格を形成し、ベーカリー製品を電子レンジで再加熱した際に表面にしわができることを防ぐ役割を担う。
【0019】
大豆由来蛋白としては、例えば、大豆粉(全脂大豆粉、脱脂大豆粉、脱皮大豆粉等)、豆乳粉、おから、粒状又は繊維状大豆蛋白を粉砕したもの等が挙げられる。これらの中でも、入手しやすさや、食味の良さの観点から、大豆粉を用いることが好ましい。本発明において、大豆由来蛋白は市販のものを用いることができ、例えば、昭和産業株式会社の「フレッシュフラワーS-55」、「フレッシュRF」、日清オイリオグループ株式会社の「ソーヤフラワーFT-N」、「アルファプラスHS-600」、不二製油株式会社の「プロフィット1000」を用いることができる。これらの中でも、ベーカリー製品の食味の良さの観点から、全脂大豆粉である「アルファプラスHS-600」等を用いることが好ましい。
【0020】
卵由来蛋白としては、例えば、全卵粉、卵白粉等が挙げられる。これらの中でも、卵白粉を用いることが好ましい。本発明において、卵由来蛋白は市販のものを用いることができる。
【0021】
(4)成分(A)~(C)の配合量
本発明において、成分(A)グルテン、成分(B)加工澱粉、及び成分(C)大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白の配合比(質量比)は、(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10であることが好ましく、1:7~1:9であることがより好ましく、1:7~1:8であることがさらに好ましい。成分(B)及び(C)の合計量が上記配合比(質量比)よりも少ないと、ベーカリー製品を電子レンジ等で再加熱した際に外観や食感が悪くなる場合がある。また、成分(B)及び(C)の合計量が上記配合比(質量比)よりも多いと、ベーカリー製品が膨らみにくく、ボリュームが小さくなったり、電子レンジ等で再加熱した際にパサついた食感になったりする場合がある。
また、成分(B)加工澱粉及び成分(C)大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白の配合比(質量比)は、(B):(C)=1:0.125~1:0.25であることが好ましい。
【0022】
本発明において、成分(A)グルテンの含有量はベーカリー製品用組成物100質量%中、2質量%以上であることが好ましい。グルテンの含有量が2質量%より少ないと、生地骨格が脆弱になり、膨らみの悪いベーカリー製品となる。
【0023】
本発明において、成分(B)加工澱粉の含有量はベーカリー製品用組成物100質量%中、5質量%以上であることが好ましい。加工澱粉の含有量が5質量%より少ないと、電子レンジ再加熱後にひきの強い食感となる。
【0024】
本発明において、成分(C)大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白の含有量はベーカリー製品用組成物100質量%中、2質量%以上であることが好ましい。大豆由来蛋白及び/又は卵由来蛋白の含有量が2質量%より少ないと、電子レンジ再加熱後にひきの強い食感となる。
【0025】
(5)効果
本発明に係るベーカリー製品用組成物を用いることにより、焼成後のベーカリー製品を冷凍、冷蔵、あるいは常温保存した後に電子レンジ等で再加熱した際の外観及び食感の劣化を抑制することができる。すなわち、本発明に係るベーカリー製品用組成物によれば、電子レンジ再加熱に適したベーカリー製品を提供することができる。本発明に係るベーカリー製品用組成物は、特に電子レンジ再加熱用ベーカリー製品のために用いることができる。
また、成分(B)加工澱粉として難消化性澱粉を選択すると、ベーカリー製品の糖質含有量を低減することができるため、糖質含有量の低いベーカリー製品においても、電子レンジで再加熱した際の外観及び食感の劣化を抑制することができる。なお、本明細書において「糖質含有量の低いベーカリー製品」とは、小麦粉を主体とする一般的な配合で製造したベーカリー製品に含まれる糖質量を基準として、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上糖質量が削減されているベーカリー製品のことをいう。また、本明細書における「糖質」とは、食物繊維を除いた炭水化物の総称である。
【0026】
なお、本発明におけるベーカリー製品は、穀粉を含む生地を加熱調理して得られるものであれば特に限定されず、例えば、パン類、ドーナツ類、菓子類が挙げられる。パン類としては、例えば、ロールパン、菓子パン、デニッシュペストリー、バラエティブレッド、調理パン、中華まん、蒸しパン、揚げパン等が挙げられる。ドーナツ類としては、イーストドーナツ、ケーキドーナツ、クルーラー等が挙げられる。菓子類としては、スポンジケーキ、バターケーキ、ホットケーキ、ワッフル、カステラ、パイ等が挙げられる。このなかでも、喫食直前に電子レンジで再加熱されることが多い調理パン、中華まん等に、本発明に係るベーカリー製品用組成物をより好適に用いることができる。
【0027】
<2.ベーカリー生地>
本発明に係るベーカリー生地は、上記<1.>で説明したベーカリー製品用組成物を含み、さらに水等を必要に応じて加えて混捏して調製される。さらに穀粉類、イースト、食塩、糖類や油脂類等を加えてもよい。また、本発明のベーカリー生地は、当該生地の調製時に、本発明のベーカリー製品用組成物の配合になるように成分(A)、(B)及び(C)と穀粉類等を別々に添加して調製されてもよい。
【0028】
本発明のベーカリー生地は、一般的なベーカリー生地の製造方法で製造することができる。例えば、パン類生地の製造方法としては、直捏法(ストレート法)、中種法、液種法、サワー種法、酒種法、湯種法等が挙げられる。また、菓子類生地の製造方法としては、シュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法等が挙げられる。上記方法にて生地原料を混捏した後、必要に応じて分割・丸め、成形を行ってもよい。また、適宜、分割・丸めの後にベンチタイム(通常、25~30℃、相対湿度70~80%、15~30分間)を設けてもよく、ベーカリー生地の成形後にホイロ(通常、35~40℃、相対湿度70~85%、40~80分間の発酵工程)を設けてもよい。
【0029】
また、本発明のベーカリー生地は、冷凍生地として用いることもできる。例えば、シート状生地や、生地玉、成形後生地、包あん生地等の状態で冷凍生地とすることができる。また、これら生地は、発酵させた後に冷凍する、いわゆるホイロ後冷凍生地としてもよい。なお、冷凍手段は特に限定されないが、例えば、エアブラストフリージング、液体窒素トンネルフリージング、冷凍庫での静置凍結等が挙げられる。
【0030】
<3.ベーカリー製品の製造方法>
本発明に係るベーカリー製品の製造方法は、上記<1.>で説明したベーカリー製品用組成物を配合することを含む。本発明に係るベーカリー製品の製造方法において、前記ベーカリー製品用組成物の使用態様は特に限定されないが、好ましい使用態様は上述したベーカリー製品用組成物と同様である。
【0031】
なお、本発明のベーカリー製品の製造方法は特に限定されず、例えば、上記<2.>で説明した方法によってベーカリー生地を得、必要に応じて解凍や成形、ホイロ工程を経た後に焼成、油ちょう、蒸し等によって加熱を行ってもよい。
【0032】
<4.品質劣化抑制方法>
本発明に係るベーカリー製品の品質劣化方法は、上記<1.>で説明したベーカリー製品用組成物を配合することを含む。本発明に係る品質劣化抑制方法において、前記ベーカリー製品用組成物の使用態様は特に限定されないが、好ましい使用態様は上述したベーカリー製品の製造方法と同様である。なお、本明細書において「品質劣化」とは、焼成後のベーカリー製品を冷凍、冷蔵あるいは常温保存後に電子レンジ等で再加熱した際の外観及び/又は食感の劣化のことであり、例えば、ベーカリー製品の表面にしわができたり、ひきが強い食感になったりすること等である。
【実施例
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く限定されることはない。
【0034】
<対照例1、実施例1~9、比較例1~4のパンの製造>
表1に記載の配合で、ストレート法によってバンズ(パン)を調製した。具体的には、表1に記載の各成分のうち、ショートニング以外をミキサーボウルに入れ、低速で3分間、中速で5分間、高速で3分間ミキシングした。次いで、ショートニングを加え、低速で2分間、高速で5分間ミキシングし、生地を得た(捏ね上げ温度27℃)。なお、小麦粉及び成分(A)グルテンの量が少ない実施例8、比較例3、比較例4はさらに高速で1分間ミキシングして生地を得た。得られた生地を27℃、湿度85%で20分間発酵させ、70gに分割して丸めた。20分間ベンチタイムをとった後再度丸めなおして、38℃、湿度85%で60分間ホイロをとった後、200℃のオーブンで12分間焼成してバンズを得た。これを30分間放冷した後、OPP袋に入れ、封をした。
【0035】
<パンの評価>
上記の工程によって焼成したバンズを24時間冷蔵保管した後、OPP袋の一部に開口部を作ってから電子レンジ(1900W)で15秒間再加熱し、常温に3分間保管した。その後、以下の評価基準に従って、再加熱後のバンズの外観及び食感を評価した。評点は、訓練を受けた専門のパネル5人で合議して決定した。なお、外観及び食感の両方において3点以上の評価であるものを、本発明の効果が発揮されていると判断した。
【0036】
<評価項目>
外観:電子レンジで再加熱したバンズの外観を以下に記載した5段階の評価基準に則って0.5点刻みで評価した。
5:表面にまったくしわがなく、非常に良好である
4:表面にほとんどしわがなく、良好である
3:表面に少ししわがあるが、やや良好といえる
2:表面にしわがあり、悪い
1:表面にしわがあり、非常に悪い(対照例1と同じ)
【0037】
食感:電子レンジで再加熱したバンズの食感を以下に記載した5段階の評価基準に則って0.5点刻みで評価した。
5:ひきがなく、非常に良好である
4:ひきがほとんどなく、良好である
3:ひきが少し感じられるが、やや良好といえる(対照例1と同じ)
2:ひきがやや強く、悪い
1:ひきが強く、非常に悪い
【0038】
対照例1、実施例1~9及び比較例1~4の結果を以下の表1に示す。なお、表中の「(B)のRVA最高粘度」(澱粉A~EのRVA最高粘度)は、本明細書の発明を実施するための形態における<1.>で説明した方法により測定したものである。また、表中の、評価点数以外の各数値は質量%である。
【0039】
【表1】

【0040】
本実施例で使用した各材料は、以下のとおりである。
小麦粉:キングスター(昭和産業株式会社製)
グルテン:Bパウダーグル(昭和産業株式会社製)
澱粉A:ノベロースW(リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉:イングレディオン・ジャパン株式会社製/RVA最高粘度:19cp)
澱粉B:パインスターチRT(リン酸架橋澱粉:松谷化学工業株式会社製/RVA最高粘度:14cp)
澱粉C:SF-1900(アセチル化リン酸架橋澱粉:昭和産業株式会社製/RVA最高粘度:187cp)
澱粉D:SF-2200(酸化澱粉:昭和産業株式会社製/RVA最高粘度:16cp)
澱粉E:SF-1450(アセチル化澱粉:昭和産業株式会社製/RVA最高粘度:599cp)
大豆粉:全脂脱臭大豆粉(株式会社ペリカン製)
卵白粉:乾燥卵白Wタイプ(キユーピータマゴ株式会社製)
乳化剤:エマルジーMM100(理研ビタミン株式会社製)
【0041】
実施例1~4及び比較例1の結果から、成分(B)の加工澱粉としてRVA最高粘度が200cp以下の加工澱粉(澱粉A~D)を用いることで、電子レンジで再加熱したバンズの外観及び食感が良好になることがわかった。さらに、RVA最高粘度が50cp以下の加工澱粉(澱粉A、B及びD)を用いることで、外観及び食感がさらに良好になることがわかった。
また、実施例1、実施例5~7及び比較例2~4の結果から、成分(A)、(B)及び(C)の配合比(質量比)が(A):{(B)+(C)}=1:5~1:10である場合に、電子レンジで再加熱したバンズの外観及び食感が良好になることがわかった。また、当該配合比(質量比)が1:7~1:9である場合に、外観及び食感がさらに良好になり、1:7~1:8である場合に、外観及び食感がよりさらに良好になることがわかった。
さらに、実施例8の結果から、小麦粉を含有しないバンズにおいても、電子レンジで再加熱した際の外観及び食感は良好になることがわかった。
そして、実施例9の結果から、成分(C)として卵白粉を用いても、電子レンジで再加熱した際の外観及び食感は良好になることがわかった。