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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】糖代謝改善用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20231011BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20231011BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20231011BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20231011BHJP
   A61P 29/00 20060101ALN20231011BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P3/10
A23L33/135
C12N1/20 E ZNA
A61P29/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019149986
(22)【出願日】2019-08-19
(65)【公開番号】P2021031408
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-08-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年8月23日にウェブサイトのアドレス<https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0899900718309298?via%3Dihub>で公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成31年2月に発行された刊行物「Nutrition」第58巻第175-180頁にて公開
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年11月22日に東京都千代田区で開催された公開セミナー「ヒト介入試験を活用した食による健康長寿の増進」で発表
【微生物の受託番号】FERM  FERM BP-11262
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】利光 孝之
(72)【発明者】
【氏名】古市 圭介
(72)【発明者】
【氏名】浅見 幸夫
【審査官】鶴 剛史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-237705(JP,A)
【文献】特開2014-031325(JP,A)
【文献】国際公開第2012/014971(WO,A1)
【文献】J. Nutr. Sci. Vitaminol.,2013年,Vol.59 No.2,p.144-147
【文献】J. Dairy Sci.,2016年,Vol.99 No.2,p.933-946
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 - 35/768
A61P 3/00 - 3/14
A23L 33/00 - 33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号FERM BP-11262の下で寄託されたラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)OLL2712株を含むヒトの糖代謝改善用組成物であって、前記糖代謝改善が、空腹時血糖値の低下、血中グリコアルブミン値の低下および血中ヘモグロビンA1c値の低下から選択される少なくとも1つである、前記組成物
【請求項2】
前記乳酸菌が乳酸菌の死菌体を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記乳酸菌が加熱処理死菌体を含む、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が医薬組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトの糖代謝を改善するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満や、肥満と複合してメタボリックシンドロームを引き起こす糖尿病等の生活習慣病の患者の増加は、国民の健康水準の悪化や医療費の増大を招くことから、全世界で大きな問題となっている。メタボリックシンドロームの予防には適度な運動やバランスの良い食生活が重要であるが、メタボリックシンドロームの予防に有効な機能性成分を含む飲食品の摂取も有効であることが知られている(非特許文献1)。今日、メタボリックシンドロームの予防・改善機能を有する食品素材を含む様々な商品が存在するが、多くは脂肪の燃焼促進や吸収抑制等の対症療法としての作用を奏するに過ぎず、糖や脂質の代謝を正常化してメタボリックシンドロームを根本的に改善するものとは言い難い。
【0003】
ところで、糖や脂質の代謝機能の低下の原因の一つとして、脂肪組織の慢性炎症が知られている。具体的には、単球走化性促進因子(Monocyte Chemotactic Protein-1: MCP-1)やインターロイキン-6(IL-6)等の炎症性サイトカインが増加することにより、脂肪組織へのマクロファージの浸潤が亢進し、糖や脂質の正常な代謝に必要なホルモンの産生が減少することが知られている(非特許文献2および3)。
【0004】
従来、特定の乳酸菌が、マウスにおいて糖や脂質の代謝を改善することが知られている(特許文献1、非特許文献4および5)。
【0005】
しかしながら、健康増進の観点からは、ヒトにおいて糖の代謝を効果的に改善する手法が依然として求められている。また、生活習慣病の患者における炎症を抑制することは重要な課題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2012/014971号
【非特許文献】
【0007】
【文献】江川香 他 肥満者に対するケルセチン配糖体(酵素処理イソクエルシトリン)配合緑茶飲料の体脂肪低減作用および安全性の検証 Jpn Pharmacol Ther(薬理と治療) 40:495-03, 2012
【文献】Xu H et al. “Chronic inflammation in fat plays a crucial role in the development of obesity-related insulin resistance” J Clin Invest, 112:1821-1830, 2003
【文献】Weisberg SP et al. “CCR2 modulates inflammatory and metabolic effects of high-fat feeding” J Clin Invest, 116:115-124, 2006
【文献】T. Toshimitsu et al. “Identification of Lactobacillus plantarum strain that meliorates chronic inflammation and metabolic disorders in obese and type 2 diabetic mice” J Dairy Sci, 99:933-946, 2016
【文献】Tohru Sakai et al. “Lactobacillus plantarum OLL2712 regulates glucose metabolism in C57BL/6 mice fed a high-fat diet” J Nutr Sci Vitaminol, 59, 144-147, 2013
【0008】
本発明は、ヒトにおける糖代謝を効果的に改善するための組成物を提供することを一つの目的とする。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、ラクトバチルス属に属する乳酸菌が、ヒトにおいて、特定の炎症性サイトカインを顕著に低減する活性を有することを見出し、ヒトにおける糖の代謝を改善し得ることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1]ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含むヒトの糖代謝改善用組成物。
[2]ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含むヒトの抗炎症用組成物。
[3]前記乳酸菌が、ヒトの血中における単球走化性促進因子(Monocyte Chemotactic Protein-1: MCP-1)およびインターロイキン-6(IL-6)から選択される少なくとも1つの炎症性サイトカインの量を低減させる活性を有する乳酸菌である、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記乳酸菌がラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)である、[1]~[3]のいずれかに記載の組成物。
[5]前記乳酸菌が乳酸菌の死菌体を含む、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]前記乳酸菌が加熱処理死菌体を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]前記組成物が食品組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記組成物が医薬組成物である、[1]~[6]のいずれかに記載の組成物。
[9]前記乳酸菌が、配列番号1で表される塩基配列と90%以上の相同性を有する16S rRNA遺伝子を有するものである、[1]~[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記乳酸菌が、受託番号FERM BP-11262の下で寄託されたラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)OLL2712株である、[1]~[9]のいずれかに記載の組成物。
【0011】
本発明によれば、ヒトにおいて、脂肪組織の慢性炎症および糖代謝の異常に関連する特定の炎症性サイトカインを顕著に低減し、その結果、糖の代謝を改善することができる。
【発明の具体的説明】
【0012】
糖代謝改善用組成物
本発明の一つの実施態様によれば、ラクトバチルス属に属する乳酸菌(以下、「乳酸菌」ともいう)を含む、ヒトにおける糖代謝を改善するための組成物が提供される。
【0013】
一つの実施態様によれば本発明の組成物に含有されるラクトバチルス属に属する乳酸菌は、ヒトにおいて、血中のMCP-1およびIL-6から選択される少なくとも1つの炎症性サイトカインの量を低減させる活性を有する乳酸菌であることが好ましい。乳酸菌は、好ましくはこれらの炎症性サイトカインの少なくとも1つの血中量を選択的に低減させる活性を有する乳酸菌であり、より好ましくはこれらの炎症性サイトカインの両方の血中量を選択的に低減させる活性を有する乳酸菌である。また、MCP-1およびIL-6は脂肪組織の炎症を引き起こし、糖および脂質の代謝異常の原因となることが知られていることから、血中のMCP-1および/またはIL-6の量を低減させる活性を有する乳酸菌を用いることにより、糖代謝の改善に加えて、炎症の抑制、特に脂肪組織の炎症の抑制、および脂質代謝の改善も可能となる。
【0014】
本明細書において、炎症性サイトカインについて「低減する」とは、乳酸菌または乳酸菌を含む組成物の刺激によって、刺激を受けた対象における各炎症性サイトカインの血中量が、統計学的に有意に(すなわち、誤差の範囲を超えて)低下することを意味する。また、MCP-1およびIL-6について「選択的に低減する」とは、乳酸菌または乳酸菌を含む組成物の刺激によって、刺激を受けた対象において、他の炎症性サイトカインが有意に低減しないのに対し、MCP-1および/またはIL-6が有意に低減することを意味する。なお、統計学的な解析は、当業者に公知の統計学的解析手法を用いることができ、反復測定一元配置分散分析とボンフェローニ補正をした対応あるt検定とによって解析することができる。また、血中におけるMCP-1およびIL-6の量に関して「低減させる活性」とは、血中におけるMCP-1およびIL-6の量をそれぞれ有意に低減させることができる能力を意味する。血中におけるMCP-1およびIL-6の量を低減させる活性の有無は、具体的には実施例に記載の方法により決定される。
【0015】
本発明の糖代謝改善用組成物は、糖代謝が正常なヒトおよび糖代謝が異常なヒトのいずれにおいても糖代謝改善効果を奏するが、糖代謝が異常なヒトにおいて特に効果を奏することができる。また、本発明の糖代謝改善用組成物は、適用対象の血中におけるMCP-1およびIL-6の量によらず糖代謝改善効果を奏することができる。すなわち血中におけるMCP-1およびIL-6の量が低い(低炎症)対象、および血中におけるMCP-1およびIL-6の量が高い(高炎症)対象のいずれにおいても糖代謝改善効果を奏するが、高炎症の対象において特に顕著な糖代謝改善効果を奏することができる。本発明の組成物を高炎症のヒトに適用することは、炎症の抑制と糖代謝の促進を両立して健康を増進する観点から、好ましい。本明細書において「低炎症」とは、血中MCP-1濃度が5pg/mL未満であり、かつ/または血中IL-6濃度が0.5pg/mL未満である状態をいう。また、「高炎症」とは、血中MCP-1濃度が5pg/mL以上であり、かつ/または血中IL-6濃度が0.5pg/mL以上である状態をいう。
【0016】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌は、ラクトバチルス属に属する乳酸菌であれば特に限定されることなく用いることができる。好ましくは、ラクトバチルス属に属する乳酸菌は、ヒトの血中におけるMCP-1およびIL-6から選択される少なくとも1つの炎症性サイトカインの量を低減させる活性を有する乳酸菌である。ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、例えば、ラクトバチルス・デルブルエッキイ亜種ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. burgaricus)、ラクトバチルス・デルブルエッキイ亜種ラクティス(Lactobacillus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・ヘルベティクス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・アミロボラス(Lactobacillus amylovorus)、ラクトバチルス・ガリナルム(Lactobacillus gallinarum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・オリス(Lactobacillus oris)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス・パラプランタラム(Lactobacillus paraplantarum)、ラクトバチルス・パラコリノイデス(Lactobacillus paracollinoides)、ラクトバチルス・ハメシ(Lactobacillus hammesii)等が挙げられる。これらの乳酸菌のうち、好ましくはラクトバチルス・プランタラムであり、より好ましくはラクトバチルス・プランタラムOLL2712株である。
【0017】
ラクトバチルス・プランタラムOLL2712株は、2010年7月2日付で独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1中央第6)に寄託され、その後、国際寄託に移管され受託番号FERM BP-11262が付与されている。なお、Budapest Notification No. 282 (http://www.wipo.int/treaties/en/notifications/budapest/treaty_budapest_282.html)に記載されるとおり、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD、NITE)が独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(IPOD、AIST)から特許微生物寄託業務を承継したため、ラクトバチルス・プランタラムOLL2712株は、現在は、独立行政法人製品評価技術基盤機構(IPOD、NITE)(千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に受託番号FERM BP-11262のもとで寄託されている。
【0018】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌としては、上記寄託菌株と実質的に同等の菌株を用いることもできる。実質的に同等の菌株とは、例えば、上述したラクトバチルス属に属する乳酸菌の菌株であって、その16S rRNA遺伝子の塩基配列が、上記寄託菌株の16S rRNA遺伝子の塩基配列(配列番号1)と90%以上、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上の相同性を有し、かつ、好ましくは上記菌株と同一の菌学的性質を有する菌株を言う。同一の菌学的性質を有する菌株は、好ましくはヒトの血中におけるMCP-1およびIL-6から選択される少なくとも1つの炎症性サイトカインの量を低減させる活性を有する点で、上記寄託菌株と同程度の活性を有する菌株である。さらに、本発明の組成物に含まれる乳酸菌としては、本発明の効果が奏される限り、寄託菌株またはそれと実質的に同等の菌株から、変異処理、遺伝子組み換え、自然変異株の選択等によって育種された菌株であってもよい。
【0019】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌としては、乳酸菌の菌体そのものの他に、例えば乳酸菌の菌体を含む培養物等が挙げられる。乳酸菌の菌体としては、生菌体および死菌体のいずれも用いることができるが、好ましくは死菌体であり、より好ましくは生菌体を加熱処理することにより得られる死菌体(加熱処理死菌体)である。すなわち、本発明の組成物に含まれる乳酸菌には、好ましくは死菌体、より好ましくは加熱処理死菌体が含まれる。また、乳酸菌の継代数は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、例えば、1~30、好ましくは5~15、より好ましくは11~13である。
【0020】
乳酸菌の培養条件としては、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、通常乳酸菌が培養される条件とすることができる。例えば、培地としては、ホエイ粉末、ホエイタンパク質濃縮物を滅菌水に溶解し、プロテアーゼAにより消化した後、酵母抽出物、魚抽出物およびMnSOを添加し、さらに各種栄養素(ビタミン、ミネラル、脂肪酸エステル)を添加し、NaOHによりpHを6.7に調整した後、オートクレーブにかけて滅菌して得られる培地を用いることができる。また、培養中のpHは4.8~6.8とすることができる。pHの調整にはKCOを用いることができる。培養中の温度は29~40℃とすることができる。
【0021】
加熱処理死菌体を得るための加熱処理は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、乳酸菌を殺菌するために通常用いられる条件で行われる。
【0022】
乳酸菌としては、上記加熱処理の他に、例えば濃縮や希釈、凍結、乾燥、粉末化等の処理を行ったものを用いることもできる。
【0023】
本発明の組成物に含まれる乳酸菌としては、上述した培養や各種処理によって調製したものを用いてもよく、乳酸菌を含有する市販の組成物を用いてもよい。
【0024】
本発明の組成物において、組成物の質量当たりの乳酸菌の個数は、本発明の効果が奏される限り特に限定されないが、好ましくは10~1014個/g、より好ましくは10~1×1013個/g、より一層好ましくは10~1012個/g、特に好ましくは10~1010個/gである。また、本発明の組成物において、組成物中の固形分の質量当たりの菌体乾燥質量は、好ましくは0.01~100質量%、より好ましくは1~80質量%、より一層好ましくは10~40質量%である。
【0025】
本発明の組成物は、本願発明の効果を妨げない限り、乳酸菌以外の成分を含んでいてもよい。乳酸菌以外の成分としては、例えば、培地成分、経口経管摂取に適した添加物、水等の溶媒、糖質、タンパク質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、生体必須微量金属(硫酸マンガン、硫酸亜鉛、塩化マグネシウム、炭酸カリウム等)、香料、食品衛生上または薬学的に許容可能な担体、食品添加物等が挙げられる。
【0026】
糖質としては、例えば、糖類、加工澱粉(デキストリン、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維等が挙げられる。
【0027】
タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、ホエイ粉、ホエイタンパク質、ホエイタンパク質濃縮物、ホエイタンパク質分離物、α-カゼイン、β-カゼイン、κ-カゼイン、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、これらの加水分解物、バター、乳性ミネラル、クリーム、ホエイ、非タンパク態窒素、シアル酸、リン脂質、乳糖等の各種乳由来成分等が挙げられる。
【0028】
脂質としては、例えば、ラード、魚油等、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂、パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂等が挙げられる。
【0029】
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸等が挙げられる。
【0030】
ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン等が挙げられる。
【0031】
本発明の組成物は、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の他に、上述の通り、薬学的に許容可能な担体および/または添加物、食品衛生上許容可能な担体および/または添加物等を配合することにより製造することができる。したがって、本発明の別の態様によれば、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を配合する工程を含んでなる、糖代謝改善用組成物の製造方法が提供される。
【0032】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明の糖代謝改善用組成物を食品組成物として提供することができる。本発明の食品組成物は、血糖値の上昇抑制用、血糖値の低下促進用、正常血糖値の維持用、血中インスリン値の上昇抑制用、血中インスリン値の低下促進用、正常インスリン値の維持用、または糖尿病、肥満症、メタボリックシンドローム、脂質異常症の予防および/または治療用であってもよい。
【0033】
本発明の食品組成物は、乳酸菌を含有し得る食品であればどのような形態のものであってもよく、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、ペースト、半固体成形物、固体成形物等、経口または経管摂取可能な形態であればよい。具体的な食品としては、例えば、牛乳、乳飲料、清涼飲料、発酵乳、乳酸菌飲料、乳性飲料、ヨーグルト、チーズ、アイスクリーム、氷菓、チョコレート、タブレット(錠菓)、グミ、キャンディー、パン、ビスケット、クラッカー、ピッツァクラスト、調製粉乳、液体ミルク、流動食、病者用食品、栄養食品、冷凍食品、加工食品、調味料その他の市販食品等が挙げられる。
【0034】
本発明の食品組成物は、糖代謝改善用、MCP-1産生抑制用、IL-6産生抑制用、炎症抑制用等の用途が表示された飲食品とすることができる。飲食品には、「糖代謝改善用」、「血糖値の上昇抑制用」、「血糖値低下用」、「正常血糖値の維持用」、「血中インスリン値の上昇抑制用」、「正常インスリン値の維持用」、「HbA1cの低下用」、「インスリン抵抗性の改善用」、「糖尿病、肥満症、メタボリックシンドロームの予防用」、「血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを助ける」、「MCP-1産生抑制用」、「IL-6産生抑制用」、「炎症抑制用」、「抗炎症用」等の表示をすることができる。また、これらの以外の表示であっても、MCP-1産生抑制および/またはIL-6産生抑制によって生じる効果を表す文言であれば、同様に使用できる。
【0035】
本明細書において「表示」とは、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為を意味し、上記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物及び媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。
【0036】
表示としては、行政等によって許可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましい。例えば、健康食品、機能性食品、機能性表示食品、経腸栄養食品、特別用途食品、病者用食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができ、その他厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができる。さらに詳細には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)、およびこれに類する表示等を例示することができる。
【0037】
本発明の別の態様によれば、本発明の糖代謝改善用組成物を医薬組成物として提供することができる。本発明の医薬組成物は、血糖値の上昇抑制用、血糖値の低下促進用、正常血糖値の維持用、血中インスリン値の上昇抑制用、血中インスリン値の低下促進用、正常インスリン値の維持用、抗炎症用、または糖尿病、肥満症、メタボリックシンドローム、脂質異常症の予防および/または治療用であってもよい。本発明の医薬組成物は、乳酸菌を含有させる以外は、当該食品の通常の製造手順に従って製造することができる。ここで、医薬組成物とは、本発明の組成物を、常法に従って、経口製剤または非経口製剤として調製したものである。製剤化には、製剤化のために許容可能な添加剤を併用してもよい。製剤化のために許容可能な添加剤としては、例えば、賦形剤、安定剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、滑沢剤、甘味料、着色料、香料、緩衝剤、酸化防止剤、pH調整剤等が挙げられる。医薬組成物が経口製剤の場合には、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、徐放剤等の固形製剤、溶液、懸濁液、乳濁液等の液状製剤の形態をとることができる。また、医薬組成物が非経口製剤の場合には、注射剤や座剤等の形態をとることができる。なお、摂取対象への摂取(投与)の簡易性の点からは、医薬組成物では、経口製剤であることが好ましい。
【0038】
また、本発明の別の態様によれば、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含む、ヒトにおけるMCP-1および/またはIL-6を低減させるための組成物が提供される。
【0039】
本発明の組成物の摂取量は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、摂取者の年齢、健康状態、体重等に応じて適宜調整することができる。典型的には、一日当たり0.01~10000mg/kg体重であり、好ましくは0.1~1000mg/kg体重、より好ましくは0.5~300mg/kg体重、より一層好ましくは1~100mg/kg体重である。また、乳酸菌の菌体乾燥質量として、好ましくは0.001~1000mg/kg体重、より好ましくは0.01~100mg/kg体重、より好ましくは0.05~30mg/kg体重、より一層好ましくは0.1~10mg/kg体重である。また、乳酸菌の個数として、好ましくは1×10~1×1012個/kg体重、より好ましくは10~1011個/kg体重、より一層好ましくは10~1010個/kg体重、特に好ましくは10~10個/kg体重である。
【0040】
本発明の組成物は、その効果をよりよく発揮させるために、長期間にわたって継続的に摂取(投与)することが好ましく、具体的には、3日以上継続的に摂取(投与)することが好ましく、1週間以上継続的に摂取(投与)することがより好ましい。摂取(投与)期間としては、例えば、1~6週間、1~12週間、2~10週間、4~10週間、4~12週間等が挙げられる。本明細書において「継続的」とは、本発明の組成物を毎日決められた量摂取し続けることを意味する。
【0041】
本発明の別の態様によれば、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の有効量をヒトに摂取させることを含む、該ヒトにおける糖代謝を改善する方法が提供される。また、本発明の好ましい態様によれば、上記方法は、ヒトにおける炎症を改善するための方法である。
【0042】
本発明の一つの実施態様によれば、「糖代謝改善」には、糖代謝の異常の改善、低い糖代謝の活性化や増進、正常な糖代謝の維持または低下防止等が包含される。糖代謝の異常または低下の原因は特に限定されないが、代表的な原因として生活習慣が挙げられる。本発明の組成物による糖代謝改善作用としては、例えば、血糖量の増大を抑制する作用、血糖量を低減させる作用、正常な血糖量を維持する作用、血中インスリン量の増大を抑制する作用、血中インスリン量を低減させる作用、正常な血中インスリン量を維持する作用等が挙げられる。なお、本明細書において「改善」とは、異常または疾患の進展または悪化を、医療行為により止める、緩和するまたは遅延させる「治療」の意味を含むだけでなく、異常または疾患の進展または悪化を、非医療行為により止める、緩和するまたは遅延させることも含む。さらに、「改善」には、異常または疾患の想定される悪化に対して事前に備え、異常または疾患の発生または再発を非医療行為または医療行為により未然に防ぐ「予防」の意味も包含される。
【0043】
また、乳酸菌の接種対象であるヒトは、好ましくは高炎症者である。また、本明細書において、高炎症者における血中MCP-1濃度は、通常5pg/mL以上であり、好ましくは10pg/mL以上、より好ましくは15pg/mLである。高炎症者における血中MCP-1濃度は特に上限はないが、好ましくは1000pg/mL以下、より好ましくは、500pg/mL以下である。これらの上限値と下限値とは組み合わせることができる。また、高炎症者における血中IL-6濃度は、通常0.5pg/mL以上であり、好ましくは1.0pg/mL、より好ましくは1.5pg/mL以上である。高炎症者における血中IL-6濃度は特に上限はないが、好ましくは100pg/mL以下、より好ましくは50pg/mL以下である。これらの上限値と下限値とは組み合わせることができる。
【0044】
糖代謝を改善する方法において、上記乳酸菌の投与量および投与期間は、本発明の効果が奏される限り特に限定されず、投与対象の年齢、健康状態、体重等に応じて適宜調整することができる。典型的には、本発明の方法において、記乳酸菌の投与量および投与期間は、本発明の組成物における乳酸菌の投与量および投与期間と同様とされる。
【0045】
また、本発明の別の態様によれば、ラクトバチルス属に属する乳酸菌を含む組成物の有効量をヒトに摂取させることを含む、該ヒトにおける糖代謝の異常により引き起こされる疾患および/または障害を治療および/または予防する方法が提供される。
【0046】
糖代謝の異常により引き起こされる疾患、障害としては、特に限定されないが、例えば、糖尿病、肥満症、メタボリックシンドローム等が挙げられる。
【0047】
本発明の別の態様によれば、糖代謝改善のための、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の使用が提供される。
【0048】
本発明の別の態様によれば、糖代謝改善用組成物の製造のための、ラクトバチルス属に属する乳酸菌の使用が提供される。
【実施例
【0049】
以下の例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0050】
例1:乳酸菌を含有する組成物の糖代謝改善効果の確認
(1)被験者の選定(スクリーニング)
以下の選択基準Aおよび除外基準Bに基づき、糖代謝改善効果の確認試験のための被験者を選定した。
A:選択基準
・本試験の目的、内容について十分な説明を受け、同意能力があり、十分に理解した上で自由意思により志願し、文書で参加に同意した者
・35歳以上65歳以下の健康な男女
・スクリーニング検査時に空腹時血糖値が105mg/dL以上130mg/dL未満の者
B:除外基準
・薬物治療中または通院治療中の者
・試験結果に影響があると考えられる重篤な既往歴を有する者
・スクリーニング検査前3ヶ月間に、ヨーグルトや乳酸菌飲料を週2回以上摂取する習慣のあった者
・スクリーニング検査前3ヶ月間に、試験結果に影響する可能性がある医薬品、医薬部外品、健康食品、特定保健用食品を日常において服用・摂取していた者
・アルコール多飲用者(純アルコール換算で1日平均60gを超える飲酒者)
・本試験への参加同意取得前1ヶ月以内に他の臨床試験に参加していた者、または本試験の参加同意取得後に他の臨床試験に参加する予定のある者
・その他、試験責任医師が被験者として不適当と判断した者
【0051】
221名の志願者から、上記基準に基づいて30名の被験者(男性:22名、女性:8名)を選定した。被験者の年齢は52.5±8.1歳(男性:51.9±8.7歳、女性:54.3±6.3歳)であった。
【0052】
(2)組成物の調製
各原料(酸味料、甘味料、安定剤、果汁、香料、乳酸菌菌体、水)を混合して本発明の組成物(無色透明なグレープフルーツ風味の清涼飲料)を得、約100mLをボトル詰めした(以下「被験組成物」ともいう)。被験組成物における乳酸菌(加熱処理した乳酸菌ラクトバチルス・プランタラムOLL2712株(受託番号:FERM BP-11262)の菌体量は約1010個/100mLであった。なお、乳酸菌の加熱処理は、菌体を上記濃度となるように濃縮した後、イオン交換水に懸濁し、95℃で3分間加熱することにより行った。
【0053】
(3)炎症性サイトカインに対する効果
以下の手順に従って、本発明の組成物が炎症性サイトカインの血中量に及ぼす影響について評価を行った。
まず、被験組成物を、毎日1回、12週間にわたり自由な時間に摂取させた。摂取開始から0週、4週、8週および12週の各時点において採血を行い、血清を用いて糖代謝に関連する以下のサイトカインの血中濃度をBio-Plex マルチプレックスシステムを用いて測定した。また、摂取開始から12週後に被験組成物の摂取を中止し、摂取中止から4週の時点においても同様の測定を行った。
・単球走化性促進因子(MCP-1)
・インターロイキン-6(IL-6)
・インターロイキン-8(IL-8)
・腫瘍壊死因子(TNF-α)
・インターロイキン-1β(IL-1β)
・インターロイキン-17(IL-17)
【0054】
各時点における各炎症性サイトカインについての測定値を、反復測定一元配置分散分析およびボンフェローニ補正をした対応のあるt検定により評価した。結果を表1に示す。なお、表中の数値の単位はいずれもpg/mLである。
【表1】
【0055】
表1に示すように、血中のMCP-1およびIL-6の量は、被験組成物の摂取開始後に摂取開始前に対して有意に減少した。具体的には、血中MCP-1量は、被験組成物の摂取開始から4週後、8週後および12週後のいずれの時点においても摂取開始前に対して有意に減少し、摂取中止から4週後においても摂取開始前に対して有意に減少した。また、血中IL-6量は、被験組成物の摂取開始から4週後に、摂取開始前に対して有意に減少した。一方、血中のIL-8、TNF-α、IL-1βおよびIL-17の量は、摂取開始から4週後、8週後および12週後のいずれの時点においても有意な変動は見られなかった。これらの結果から、本発明の組成物は、特定の炎症性サイトカイン(MCP-1およびIL-6)の量を選択的に低減することが示された。
【0056】
また、被験組成物の摂取開始前に全被験者の炎症性サイトカイン(MCP-1およびIL-6)の血中濃度を測定し、これらの炎症性サイトカインの血中濃度のいずれかがが平均値以上の群(高炎症群、n=19(男性:14名、女性:5名)、MCP-1の平均濃度:23.92±7.95pg/mL、IL-6の平均濃度:2.83±0.56pg/mL)と、いずれも平均値未満の群(低炎症群、n=11(男性:8名、女性:3名)、MCP-1の平均濃度:0.02±0.02pg/mL、IL-6の平均濃度:0.28±0.18pg/mL)とに分けて、各群について空腹時血糖(FPG)値およびインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)の測定を行った。なお、高炎症群の被験者の多くで、被験組成物の開始前にインスリン抵抗性が認められた(HOMA-IR≧2.0)。空腹時血糖(FPG)値およびインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)についての結果をそれぞれ表2および3に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表2および3に示すように、低炎症群および高炎症群のいずれにおいても、被験組成物の摂取開始後に、摂取開始前と比較して血中のMCP-1およびIL-6の量のいずれも維持または低減する傾向が見られた。特に、糖代謝の異常を引き起こしやすい高炎症群においては、血中MCP-1量は、被験組成物の摂取開始から8週後および12週後に、摂取開始前に対して有意に低減し、血中IL-6量は、被験組成物の摂取開始から8週後に、摂取開始前に対して有意に低減し、12週後には摂取開始前に対して有意ではないものの低減した。これらの結果から、本発明の組成物は、ヒトにおいて特定の炎症性サイトカイン(MCP-1およびIL-6)の量を選択的に低減すること、特に、糖代謝の異常を引き起こしやすい高炎症状態のヒトにおいてはとりわけ顕著にこれらの炎症性サイトカインを選択的に低減することが示された。なお、上記結果に関連して、空腹時血糖値が正常型から糖尿病型に近づくにつれ炎症状態となる割合が高まり、炎症状態が悪化するに伴い加速度的に高炎症状態になることが知られている。従って、低炎症群に関し、血中のMCP-1およびIL-6の量が、本発明の組成物の摂取によって維持されたことを示す表2および3の結果から、本発明の組成物が、低炎症状態のヒトにおいてMCP-1およびIL-6の増大を抑制し、炎症状態の悪化、およびそれにより引き起こされる糖代謝の異常を抑制し得ることが示唆される。
【0060】
(4)糖代謝改善効果の評価
上記(3)において記載したのと同様の方法で、本発明の組成物について、下記の指標に基づいて糖代謝改善効果の評価を行った。
・空腹時血糖(FPG)値
・血中グリコアルブミン(GA)値
・血中ヘモグロビンA1c(HbA1c)値
・血中インスリン値
・インスリン抵抗性指数(HOMA-IR)
・量的インスリン感受性検査指数(QUICKI)
【0061】
具体的には、被験者から採取された各血液について、株式会社保健科学研究所において上記指標の測定を行った。すなわち、血漿におけるFPG値、血清におけるGA値、および全血におけるHbA1c値については、生化学自動分析装置を用いて酵素法により測定した。また、血清におけるインスリン値については、全自動化学発光免疫測定装置を用いてCLIA法(化学発光免疫測定法)により測定した。また、HOMA-IRおよびQUICKIについては、それぞれ以下の計算式に基づき算出した。
HOMA-IR=(空腹時血中インスリン濃度(μU/mL))×(空腹時血糖値(mg/dl))/405
QUICKI=1/[log(空腹時血中インスリン濃度(μU/mL))+log(空腹時血糖値(mg/dL))]
【0062】
各時点における各指標についての測定値を、反復測定一元配置分散分析およびボンフェローニ補正をした対応のあるt検定により評価した。結果を表4に示す。
【表4】
【0063】
表4に示すように、空腹時血糖値および血中グリコアルブミン値は、被験組成物の摂取開始から4週後および8週後に、摂取開始前に対して有意に改善(低下)した。また、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IRおよびQUICKIの値は、被験組成物の摂取開始から12週後に、摂取開始前に対して有意に改善した。血中HbA1c値については、摂取開始から4週後、8週後および12週後のいずれの時点においても有意な変動は見られなかったが、多重比較解析を行った結果、摂取開始から12週後に、摂取開始から4週後に対して有意に改善(低下)していた。なお、血中HbA1c値は測定時の1~2ヶ月前からの平均血糖値を反映するものであることから、上述の血中HbA1c値の結果とその他の指標の結果とは矛盾するものではないと考えられる。これらの結果から、本発明の組成物は、ヒトにおける糖代謝を改善することが示された。
【0064】
また、上記(3)において記載したのと同様の方法で、低炎症群および高炎症群の各群において空腹時血糖(FPG)値およびインスリン抵抗性指数(HOMA-IR)の測定を行った。FPG値およびHOMA-IRについての結果をそれぞれ表5および6に示す。
【0065】
【表5】
【0066】
【表6】
【0067】
表5および6に示すように、低炎症群および高炎症群のいずれにおいても、被験組成物の摂取開始後に、摂取開始前に対して空腹時血糖値およびHOMA-IR値のいずれも維持または低下する傾向が見られた。特に、糖代謝の異常を引き起こしやすい高炎症群においては、空腹時血糖値は、被験組成物の摂取開始から8週後および12週後に、摂取開始前に対して有意に改善(低下)し、HOMA-IR値は、被験組成物の摂取開始から8週後に、摂取開始前に対して有意ではないものの改善(低下)し、12週後には摂取開始前に対して有意に改善(低下)した。これらの結果から、本発明の組成物は、ヒトにおける糖代謝を維持または改善すること、特に、糖代謝の異常を引き起こしやすい高炎症状態のヒトにおいてはとりわけ顕著に糖代謝を改善することが示された。
【0068】
これらの結果から、本発明の組成物を用いることにより、ヒトにおいて、糖代謝の異常を引き起こす特定の炎症性サイトカインを選択的に低減し、糖の代謝を改善できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、ヒトにおいて、糖代謝の異常を引き起こす特定の炎症性サイトカインを顕著に低減し、糖の代謝を改善することができる。
【配列表】
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