(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】セリア粒子が付着した表面のリンスまたは洗浄のための組成物
(51)【国際特許分類】
C11D 1/06 20060101AFI20231011BHJP
C11D 1/29 20060101ALI20231011BHJP
C11D 1/34 20060101ALI20231011BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20231011BHJP
C11D 3/30 20060101ALI20231011BHJP
C11D 3/36 20060101ALI20231011BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C11D1/06
C11D1/29
C11D1/34
C11D3/20
C11D3/30
C11D3/36
H01L21/304 622Q
H01L21/304 647B
(21)【出願番号】P 2019188204
(22)【出願日】2019-10-11
【審査請求日】2022-09-07
(32)【優先日】2018-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】グランストロム ジミー エリック
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恒
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163608(JP,A)
【文献】特開2005-260213(JP,A)
【文献】特開2011-168640(JP,A)
【文献】国際公開第2013/162020(WO,A1)
【文献】特表2018-507540(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043440(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/061365(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00- 19/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性界面活性剤と、
有機アミン化合物と、
プロトン性有機酸分子と、
を含み、
6未満のpHを有し、
前記アニオン性界面活性剤は、下記式(I)により表され、
【化1】
(式中、6≦m≦20であり、
n≧5であり、
Lは、-O-、-S-、-R
1
-、-S-R
1
-または-O-R
1
-結合(式中、R
1
はC
1-4
アルキレンである)であり、
Rは、アニオン性基である)
前記有機アミン化合物は、ジエチレングリコールアミン、2-(ジエチルアミノ)エタンチオール、カプタミン、ジエチルエタノールアミン、メチルシステアミン、2-(tert-ブチルアミノ)エタンチオール、2,2’-ジメトキシ-1,1-ジメチル-ジメチルアミン、3-アミノ-4-オクタノール、3-ブトキシプロピルアミン、N-アセチルシステアミン、ホモシステアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミン、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、2-(メチルチオエチル)アミン、1-アミノプロパン-2-チオール、ロイシノール、システアミンおよびN,O-ジメチルヒドロキシルアミンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記プロトン性有機酸分子は、グリホシン、N-(ホスホノメチル)イミノ二酢酸水和物、ヒドロキシホスホノ酢酸、クエン酸、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、セリア粒子が付着した表面のリンスまたは洗浄のための組成物。
【請求項2】
前記有機アミン化合物は、-1.0を超える電気陰性度勾配の合計(SENG)を有し、
前記プロトン性有機酸分子は、少なくとも1つの解離した錯形成官能基を有し、前記分子の前記(1つまたは複数の)官能基の結合モードの密度(DBM)が0.013以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記式(I)中、5≦n≦12である、請求項
1または
2に記載の組成物。
【請求項4】
前記式(I)中、Rが、カルボキシ基、スルホ基およびリン酸基ならびにそれらの塩の基からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記アニオン性界面活性剤は、カプリレス-9カルボン酸またはその塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記有機アミン化合物が、
ジエチレングリコールアミン、3-アミノ-4-オクタノール、システアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミンおよびN,O-ジメチルヒドロキシルアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記プロトン性有機酸分子が、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~
6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
セリア粒子が付着した表面から当該セリア粒子を除去する表面処理方法であって、前記表面を請求項1~
7のいずれか1項に記載の組成物と接触させる工程を含む、表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セリア粒子が付着した表面(セリア粒子を有する表面)のリンスまたは洗浄のための組成物およびこれを用いた前記表面からセリア粒子を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新規半導体デバイス製造ノードを可能にするための主なCMPの課題のうちの1つは、シャロートレンチ分離(Shallow Trench Isolation:STI)プロセスである。STIは、高いSiO2除去速度、高いSiO2:Si3N4選択性、低欠陥、および好ましくは低コストを必要とする。STIにおいては、研磨後のセリア粒子の除去が主な技術的問題であるため、効果的なポストCMPリンス用および洗浄用化学剤が求められている。
【0003】
汎用品に基づく洗浄手法は、典型的には、クエン酸またはSC1(H2O 5部、NH4OH 1部、H2O2 1部)を含み、著しい量の残渣がウエハ上に残る。希フッ化水素酸(DHF)は、長時間曝露すると許容できないほど多くの材料が失われる可能性があるという欠点を有する。SPM(H2SO4 1部、H2O2 4部)は、より長いプロセス時間に関連して費用効率が悪く、装置および設備の要件が増える。ポストCMP洗浄のための改善されたスキームには、CMPフットプリントなどの欠陥低減が求められる。さらに、プロセスの柔軟性がより高い、危険性がより低い化学剤でDHFを置き換えることは、適切に設計されたポストCMP洗浄用化学剤の魅力的な利益の一つであろう。
【0004】
セリア粒子の大きな表面化学作用は一般に、従来のシリカ粒子と比べてより高いTEOS(TEOSを原料に成膜した酸化ケイ素膜(TEOS-SiO2))除去速度を可能にする。しかし、セリアとTEOSとの間の高い親和性は、SiO2からセリア粒子を除去する技術的課題も生じさせる。最後に、例えば、プラテン上のポストCMPリンス用およびポストCMPブラシボックス洗浄用に高希釈度まで使用することができるリンス用または洗浄用化学剤を調合することが望ましいであろう。
【発明の概要】
【0005】
本発明によると、セリア粒子が付着した表面のリンスまたは洗浄のための組成物およびこれを用いた前記表面からセリア粒子を除去する方法が提供される。
【0006】
本発明は、以下の態様を有する。
(1)アニオン性界面活性剤と、有機アミン化合物と、プロトン性有機酸分子と、を含み、6未満のpHを有する、組成物。
(2)前記アニオン性界面活性剤は、下記式(I)により表され、
【0007】
【0008】
(式中、6≦m≦20であり、n≧5であり、Lは、-O-、-S-、-R1-、-S-R1-または-O-R1-結合(式中、R1はC1-4アルキレンである)であり、Rは、アニオン性基である。)
前記有機アミン化合物は、2-(ジエチルアミノ)エタンチオール、カプタミン、ジエチルエタノールアミン、メチルシステアミン、2-(tert-ブチルアミノ)エタンチオール、2,2’-ジメトキシ-1,1-ジメチル-ジメチルアミン、3-アミノ-4-オクタノール、3-ブトキシプロピルアミン、N-アセチルシステアミン、ホモシステアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミン、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、2-(メチルチオエチル)アミン、1-アミノプロパン-2-チオール、ロイシノール、システアミンおよびN,O-ジメチルヒドロキシルアミンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記プロトン性有機酸分子は、グリホシン、N-(ホスホノメチル)イミノ二酢酸水和物、ヒドロキシホスホノ酢酸、クエン酸、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)に記載の組成物。
(3)前記アニオン性界面活性剤は、下記式(I)により表され、
【0009】
【0010】
(式中、6≦m≦20であり、n≧5であり、Lは、-O-、-S-、-R1-、-S-R1-または-O-R1-結合(式中、R1はC1-4アルキレンである)であり、Rは、アニオン性基である。)
前記有機アミン化合物は、-1.0を超える電気陰性度勾配の合計(SENG)を有し、
前記プロトン性有機酸分子は、少なくとも1つの解離した錯形成官能基を有し、前記分子の前記(1つまたは複数の)官能基の結合モードの密度(DBM)が0.013以上である、前記(1)に記載の組成物。
(4)前記式(I)中、5≦n≦12である、前記(2)または(3)に記載の組成物。
(5)前記式(I)中、Rが、カルボキシ基、スルホ基およびリン酸基ならびにそれらの塩の基からなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の組成物。
(6)前記アニオン性界面活性剤は、カプリレス-9カルボン酸またはその塩からなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)前記有機アミン化合物が、3-アミノ-4-オクタノール、システアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミンおよびN,O-ジメチルヒドロキシルアミンからなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(6)のいずれかに記載の組成物。
(8)前記プロトン性有機酸分子が、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸および2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸からなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(7)のいずれかに記載の組成物。
(9)セリア粒子が付着した表面の洗浄またはリンスに用いられる、前記(1)~(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)セリア粒子が付着した表面から当該セリア粒子を除去する表面処理方法であって、前記表面を前記(1)~(9)のいずれかに記載の組成物と接触させるステップを含む、表面処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0012】
本発明によると、セリア粒子が付着した表面のリンスまたは洗浄のための組成物およびこれを用いた前記表面からセリア粒子を除去する表面処理方法が提供される。いくつかの実施形態では、セリア粒子が付着した表面は化学機械研磨(CMP)があらかじめ施されたものである。本明細書において、「化学機械研磨」または「平坦化」という用語は、表面化学反応と機械的摩耗との組合せにより表面を平坦化(研磨)するプロセスを指す。いくつかの実施形態において、化学反応は、表面材料と反応することができ、それによって表面材料を製品に変える、同時の機械的摩耗によってより容易に除去することができる組成物(同義で「研磨スラリー」、「研磨用組成物」、「スラリー組成物」または単に「スラリー」と呼ばれる)を表面に適用することにより開始される。いくつかの実施形態において、機械的摩耗は、研磨パッドを表面と接触させ、表面に対して研磨パッドを移動させることにより実施される。
【0013】
<組成物>
本発明の一形態に係る組成物は、アニオン性界面活性剤と、有機アミン化合物と、プロトン性有機酸分子と、を含み、6未満のpHを有する。本形態に係る組成物は、これらの成分以外の成分を含んでもよいが、これらの成分から実質的になることが好ましく、これらの成分からなることがより好ましい。
【0014】
[アニオン性界面活性剤]
アニオン性界面活性剤は、好ましくは下記式(I)により表される。
【0015】
【0016】
(式中、6≦m≦20であり、n≧5であり、Lは、-O-、-S-、-R1-、-S-R1-または-O-R1-結合(式中、R1はC1-4アルキレンである)であり、Rは、アニオン性基である)。
【0017】
式(I)中、m(末端アルキル基の炭素数を表す)は6以上20以下の整数(6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19または20)である。mは、好ましくは7以上10以下であり、より好ましくは8である。mが6未満であると親水性が強くなりセリア除去性能が不十分となるおそれがあることから好ましくない。mが20超であると疎水性が強くなりセリア除去性能が不十分となるおそれがあることからこのましくない。
【0018】
式(I)中、n(エチレンオキサイドの付加モル数)は5以上の整数(5、6、7、8、9、10または11を超える整数)である。nは、好ましくは5以上12以下であり、より好ましくは6以上12以下であり、さらに好ましくは7以上10以下であり、特に好ましくは8である。mが5未満であると疎水性が強くなりセリア除去性能が不十分となるおそれがあることから好ましくない。nの上限は、特に制限されないが、12超であると親水性が強くなりセリア除去性能が不十分となることから好ましい。
【0019】
式(I)中、Lは2価の基を表し、-O-、-S-、-R1-、-S-R1-または-O-R1-である。Lが、-R1-、-S-R1-または-O-R1-である場合において、R1は、炭素数1~4のアルキレン基(メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基など)を表す。
【0020】
式(I)中、Rはアニオン性基を表す。アニオン性基の吸着力の観点から、Rはカルボキシル基、スルホ基およびリン酸基ならびにそれらの塩の基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、カルボキシル基およびその塩の基からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0021】
式(I)により表されるアニオン性界面活性剤としては、上記記載の観点から、下記式(II)で表されるポリオキシエチレンアルキレンエーテルカルボン酸またはその塩であることが好ましい。
【0022】
【0023】
(式中、mおよびnは、式(I)と同様の定義である)。
【0024】
式(II)中のmおよびnについての好ましい形態は、式(I)と同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0025】
式(II)で表されるアニオン性界面活性剤としては、特に制限されないが、カプリレス-6カルボン酸(式(II)において、m=8、n=5)またはその塩、カプリレス-9カルボン酸(式(II)において、m=8、n=8)またはその塩などが挙げられる。中でも、セリア除去性能の観点から、カプリレス-9カルボン酸またはその塩であることが好ましく、カプリレス-9カルボン酸がより好ましい。これらの化合物は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
アニオン性界面活性剤は、ある種の機能的特徴を有しうる。例えば、いくつかの実施形態において、アニオン性界面活性剤は、特定の臨界ミセル濃度(CMC)(例えば、約250mg/l~約350mg/lの間のCMC)を有する。臨界ミセル濃度(CMC)の下限は、溶解性の観点から、好ましくは50mg/l以上、より好ましくは100mg/l以上、さらに好ましくは150mg/l以上、特に好ましくは200mg/l以上、最も好ましくは250mg/l以上である。臨界ミセル濃度(CMC)の上限は、電気伝導度の観点から、好ましくは350mg/l以下、より好ましくは300mg/l以下である。本明細書において、臨界ミセル濃度(CMC)は、下記の電気伝導度法により求められる。
【0027】
すなわち、100mlの蒸留水に、攪拌しながら、所定の濃度に調整した界面活性剤溶液を少しずつ(例えば0.1mlずつ)滴下し、滴下するごとに電気伝導度を測する。滴定液の界面活性剤濃度をa mol/l、滴下した滴定液の体積をb mlのとき、測定した電気伝導度を界面活性剤濃度C=a×b÷(100+b)に対してプロットしたときの屈曲点をCMCとする。
【0028】
なお、CMCを上昇させる要因としては、短いアルキル基;二重結合;化学構造における分岐点(胆汁酸などで起こる);非イオン性界面活性剤について、温度の上昇などが挙げられる。CMCを低下させる因子としては、長いアルキル基;イオン性界面活性剤について、対イオン濃度の増加などが挙げられる。
【0029】
アニオン性界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸であるいくつかの実施形態において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸は、7を超えるDaviesの親水性-親油性バランス(HLB)値を有する。いくつかの実施形態において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸は、7.8以上のHLB値を有する。HLB値の下限は、親水性の観点から、通常3以上、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは7以上である。HLB値の上限は、臨界ミセル形成の観点から、好ましくは20以下、より好ましくは16以下、さらに好ましくは12以下、更により好ましくは10以下である。本明細書において、Daviesの親水性-親油性バランス(HLB)値は、Davis, J. T.; Proc. Intern. Congr. Surface Activity, 2 nd, London, 1, 426 (1957)に基づいて、「7+親水基の基数の総和-親油基の基数の総和」により求められる。
【0030】
[有機アミン化合物]
有機アミン化合物は、芳香環を含まない非芳香族アミンであることが好ましい。また、有機アミン化合物は、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはチオール基を有することが好ましい。
【0031】
有機アミン化合物としては、特に制限されないが、2-(ジエチルアミノ)エタンチオール、カプタミン、ジエチルエタノールアミン、メチルシステアミン、2-(tert-ブチルアミノ)エタンチオール、2,2’-ジメトキシ-1,1-ジメチル-ジメチルアミン、3-アミノ-4-オクタノール(CORRGUARD(登録商標)EXT)、3-ブトキシプロピルアミン、N-アセチルシステアミン、ホモシステアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミン、2-(イソプロピルアミノ)エタノール、2-(メチルチオエチル)アミン、1-アミノプロパン-2-チオール、ロイシノール、システアミン、N,O-ジメチルヒドロキシルアミンが挙げられる。中でも、セリア除去性能の観点から、3-アミノ-4-オクタノール、システアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミン、N,O-ジメチルヒドロキシルアミンが好ましく、3-アミノ-4-オクタノール、システアミン、N,O-ジメチルヒドロキシルアミンがより好ましく、3-アミノ-4-オクタノールがさらに好ましい。これらの化合物は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0032】
有機アミン化合物は、-1.0を超える電気陰性度勾配の合計(Sum of Electronegativity Gradients:SENG)を有することが好ましい。本明細書において、「電気陰性度勾配の合計(SENG)」とは、セリア除去性能を表す指標であり、下記の方法により求められる。
【0033】
電気陰性度勾配(ENG)は、結合に関与する原子間の電気陰性度の差の絶対値に特定の符号(+または-)を付した値を意味する。ここで、電気陰性度は、Paulingの電気陰性度の値を採用する。下記に主な原子の電気陰性度を示す。
【0034】
H:2.1
C:2.5
N:3.0
O:3.4
P:2.2
S:2.6。
【0035】
「特定の符号」は、以下の様に定義される。
【0036】
電気陰性度の値が窒素原子の電気陰性度超(3.0以上)である原子を含む結合間の電気陰性度の差の絶対値であって、当該絶対値が0.5超である場合には、「特定の符号」としてマイナス(-)を付す(本明細書において、親水性と定義する)。これ以外の場合(すなわち、電気陰性度の値が窒素原子の電気陰性度以下(3.0未満)である原子のみからなる結合である場合、および、電気陰性度の値が窒素原子の電気陰性度超(3.0以上)である原子を含む結合であっても当該絶対値が0.5以下である場合)には、「特定の符号」としてプラス(+)を付す(本明細書において、疎水性と定義する)。
【0037】
SENGは、数式1に示されるように、1分子中のすべての結合に関する電気陰性度勾配の和として算出される。
【0038】
【0039】
以下、システアミンを例に挙げて具体的に説明する。
【0040】
【0041】
システアミンは、C-H結合が4つ、N-H結合が2つ、S-H結合が1つ、C-N結合が1つ、S-C結合が1つを有する。各結合に関する符号および電気陰性度の差の絶対値は下記の通りである。
【0042】
C-H結合:(+)、0.4
N-H結合:(-)、0.9
S-H結合:(+)、0.5
C-N結合:(+)、0.5
S-C結合:(+)、0.1。
【0043】
よって、SENGは、0.4×4+(-0.9×2)+0.5×1+0.5×1+0.1×1=0.0.9と算出される。
【0044】
SENGが-1.0超であると、セリア除去性能が高くなることから好ましい。好ましくは0.0以上であり、さらに好ましくは1.0以上であり、より好ましくは、SENGは2.0以上であり、最も好ましくは2.5超である。
【0045】
各種有機アミン化合物のSENGを以下に示す。
【0046】
【0047】
[プロトン性有機酸分子]
プロトン性有機酸分子としては、特に制限されないが、グリホシン、N-(ホスホノメチル)イミノ二酢酸水和物、ヒドロキシホスホノ酢酸、クエン酸、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸が挙げられる。中でもこれら分子のセリアへの化学配位の観点から、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸が好ましい。これらの化合物は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0048】
本発明の一形態によると、プロトン性有機酸分子は、少なくとも1つの(好ましくは2以上の)解離した錯形成官能基を有し、前記分子の前記(1つまたは複数の)官能基の結合モードの密度(DBM)が0.013以上である。本明細書において、「解離した錯形成官能基」とは、非共有電子対を有するプロトン供与性基を指す。また、本明細書において、「結合モードの密度(Density of Binding Modes:DBM)」とは、セリア除去性能を表す指標であり、下記数式2により求められる。
【0049】
【0050】
上記数式2中、NMBは、配位モードの数(Number of binding modes)を表す。NMBは、クエン酸を例に挙げると、下記のように定まる。
【0051】
【0052】
式に示すように、クエン酸には解離した錯形成官能基として3つのカルボキシル基(COOH)を有する。カルボキシル基は、(1)自らがプロトンを供与することによってカルボキシラートアニオン(COO-)となり、カチオンとイオン結合を形成する場合(1座配位)と、(2)2つのカルボキシル基が配位子となり錯体を形成する場合(2座配位)とがある。(1)の1座配位は、3つのカルボキシル基のそれぞれにおいて起こり得るため、配位のパターンとしては3つが考えられる。一方で、(2)の2座配位は、(I)および(II)のカルボキシル基が配位子となるパターン;(II)および(III)のカルボキシル基が配位子となるパターンの2つのパターンが考えられる。(なお、(I)および(III)のカルボキシル基は、互いの位置が離れていて、化学的にこれらは配位子となりにくいため数えない)。よって、クエン酸のNMBは、3+2=5と算出される。
【0053】
上記数式2中、IMDは、解離した錯形成官能基間の炭素数(分岐は考慮しない)の平均値を表す。クエン酸を例に挙げると、(I)および(II)のカルボキシル基間の炭素数が2、(II)および(III)のカルボキシル基間の炭素数が2、であることから、当該平均値であるIMDは(2+2)/2=2と算出される。
【0054】
上記数式2中、Mwは分子量を表す。クエン酸を例に挙げると、Mwは192(g/mol)である。
【0055】
よって、数式2より、DBMは、5/(2×192)=0.013と算出される。
【0056】
解離した錯形成官能基としては、リン酸基、カルボキシ基、スルホン酸基が挙げられる。中でも、セリアへの吸着の観点から、リン酸基が好ましい。すなわち、プロトン性有機酸分子は、少なくとも1つのリン酸基を含むことが好ましい。これらの基は、1分子中に1種のみ含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態において、プロトン性有機酸分子は、低微量金属を実質的に含まない。いくつかの実施形態において、プロトン性有機酸分子は、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つまたは6つの解離した錯形成官能基を含む。
【0058】
いくつかの実施形態において、DBMは、0.006以上、0.008以上、0.010以上、0.012以上または0.014以上である。
【0059】
いくつかの実施形態において、DBMは、0.020以下、0.018以下、0.016以下である。
【0060】
いくつかの実施形態において、プロトン性有機酸分子は、0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.2以上の、解離した電子供与性O-と、それが結合している原子との間の電気陰性度勾配(ENG)の絶対値を有する。
【0061】
いくつかの実施形態において、プロトン性有機酸分子は、特定の静的双極子分極率勾配(Static Dipole Polarizability Gradient:SDPG)を有する。本明細書において、「静的双極子分極率勾配(SDPG)」とは、セリア除去性能を表す指標であり、下記の方法により求められる。
【0062】
SDPGは、プロトン性有機酸分子に含まれるプロトン性基(リン酸基、カルボキシ基、スルホン酸基等)の種類によって定まる固有の値であり、下記数式3により求められる。
【0063】
【0064】
下記に主な中性原子の分極率を示す(参考:Table of experimental and calculated static dipole polarizabilities for the electronic ground states of the neutral elements(in atomic units))。
【0065】
H:4.5
C:11.0
N:7.6
O:6.0
P:24.7
S:19.6。
【0066】
例えば、カルボキシル基のSDPGは、|11.0-6.0|/1=5.0と算出される。リン酸基のSDPGは、|24.7-6.0|/2=9.4と算出される。
【0067】
いくつかの実施形態において、プロトン性有機酸分子は、0.02以上、0.03以上、0.04以上、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.10以上、0.11以上、0.12以上、0.13以上、0.14以上、0.15以上、0.16以上、0.17以上のDBM×(ENGの絶対値)×SDPG値(DBM、ENGの絶対値およびSDPGを乗じた値)を有する。
【0068】
DBM×(ENGの絶対値)×SDPG値は、0.05以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.16以上であることが更に好ましい。このような値であると、優れたセリア除去性能を発揮することができる。
【0069】
いくつかの実施形態において、プロトン性有機酸分子は、0.5以下、0.4以下0.3以下のDBM×(ENGの絶対値)×SDPG値を有する。
【0070】
組成物中に含まれるアニオン性界面活性剤の量は前記有機アミン化合物の量100質量部に対して、3質量部以上30質量部以下であることが好ましく、5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。アニオン性界面活性剤の含有量が3質量部以上であるとセリア除去性能が効果的となることから好ましい。アニオン性界面活性剤の含有量が30質量部以下であるとセリア除去性能が効果的となることから好ましい。
【0071】
組成物中に含まれるプロトン性有機酸分子の量は前記有機アミン化合物の量100質量部に対して、60質量部以上95質量部以下であることが好ましく、70質量部以上85質量部以下であることが好ましい。プロトン性有機酸分子の含有量が60質量部以上であるとセリア除去性能が効果的となることから好ましい。プロトン性有機酸分子の含有量が95質量部以下であるとセリア除去性能が効果的となることから好ましい。
【0072】
組成物は、後述の表面処理方法において使用する際に必要に応じて希釈されて用いられる。いくつかの実施形態によると、組成物は各成分の濃度が1/2~1/20となるように希釈されうる。表面処理に使用する際の組成物中の各成分の濃度は、アニオン性界面活性剤の濃度が0.05質量%以上0.15質量%以下であることが好ましく、有機アミン化合物の濃度が0.5質量%以上1.5質量%以下であることが好ましく、プロトン性有機酸分子の濃度が0.3質量%以上1.5質量%以下であることが好ましい。
【0073】
いくつかの実施形態において、表面処理に使用する際の組成物中の各濃度は、アニオン性界面活性剤が0.088質量%、有機アミン化合物が0.83質量%、プトロン性有機酸分子が0.66質量%である。
【0074】
[pH調整剤]
本形態に係る組成物は、所望のpH値へと調整するため、pH調整剤をさらに含みうる。なお、本明細書において、上記で説明した「アニオン性界面活性剤」、「有機アミン化合物」および「プロトン性有機酸分子」は、pH調整剤には含まれないものとする。
【0075】
pH調整剤としては、特に制限されず、本技術分野で用いられる公知のpH調整剤を用いることができる。中でも、公知の酸、塩基、塩、アミン、キレート剤等を用いることが好ましい。
【0076】
組成物中のpH調整剤の含有量は、所望のpH値となるような量を適宜選択すればよく、上述の好ましいpH値となるような量を添加することが好ましい。
【0077】
[他の添加剤]
組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲内において、必要に応じて、他の添加剤を任意の割合で含有していてもよい。ただし、組成物の必須成分以外の成分は、ディフェクトの原因となりうるためできる限り添加しないことが望ましいため、その添加量はできる限り少ないことが好ましく、含まないことがより好ましい。他の添加剤としては、例えば、濡れ剤、防腐剤、溶存ガス、還元剤、および酸化剤等が挙げられる。
【0078】
いくつかの実施形態において、組成物は、ポリマー粒子または硫酸塩界面活性剤を含まない。
【0079】
[分散媒]
組成物は、必要に応じて分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒は、水を含むことが好ましく、水のみであることがより好ましい。また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0080】
水は、表面処理対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しない水が好ましい。例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0081】
[pH値]
組成物のpH値は、6未満であり、好ましくは5未満であり、より好ましくは4未満である。組成物のpHの下限は、好ましくは2以上であり、より好ましくは3以上である。なお、本明細書において、pH値は、pHメーター(株式会社堀場製作所製 製品名:LAQUA(登録商標))により求められる。
【0082】
<組成物の製造方法>
本発明の他の一形態は、アニオン性界面活性剤と、有機アミン化合物と、プロトン性有機酸分子と、を混合することを含む、組成物の製造方法に関する。本形態に係る組成物の製造方法においては、必要に応じて上述の他の添加剤、分散倍、pH調整剤をさらに混合してもよい。
【0083】
これらの混合条件、混合順序等の混合方法は、特に制限されず、公知のものを用いることができる。各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10~40℃が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。
【0084】
以上で説明した本形態の組成物は、セリア粒子が付着した表面の表面処理(洗浄またはリンス)に好適に用いられる。
【0085】
<表面処理方法>
本発明の他の一形態は、セリア粒子が付着した表面から当該セリア粒子を除去する表面処理方法であって、前記表面を上記の組成物(以下において、研磨用組成物と区別するために、「表面処理用組成物」とも称する)と接触させる工程を含む、表面処理方法に関する。当該表面処理方法によれば、セリア粒子を含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物の表面から、セリア粒子を容易に除去することができる。すなわち、本発明の他の一形態によると、セリア粒子を含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物の表面からセリア粒子を除去する、セリア粒子の低減方法が提供される。
【0086】
[表面処理対象物]
表面処理対象物は、セリア粒子が付着した表面であり、好ましくは、セリア粒子を含む研磨用組成物で研磨した後に得られる研磨済研磨対象物である。研磨済研磨対象物とは、研磨工程において研磨された後の研磨対象物を意味する。研磨工程としては、特に制限されないが、CMP工程であることが好ましい。
【0087】
研磨済研磨対象物は、研磨済半導体基板であることが好ましく、CMP後の半導体基板であることがより好ましい。ここで、研磨済半導体基板表面に付着したディフェクト(特に、セリア粒子)は、半導体デバイスの性能低下の原因となりうる。したがって、研磨済研磨対象物が研磨済半導体基板である場合は、半導体基板の表面処理工程において、これらのディフェクトをできる限り低減することが望まれる。
【0088】
表面処理対象物は、特に制限されないが、本発明の作用効果がより良好に発揮されることから、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物であることが好ましく、酸化珪素を含む研磨済研磨対象物であることがより好ましい。
【0089】
窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンを含む研磨済研磨対象物としては、例えば、窒化珪素、酸化珪素およびポリシリコンのそれぞれ単体からなる研磨済研磨対象物や、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコンに加え、これら以外の材料が表面に露出している状態の研磨済研磨対象物等が挙げられる。ここで、前者としては、例えば、半導体基板である窒化珪素基板、酸化珪素基板またはポリシリコン基板や、最表面に窒化珪素膜、酸化珪素膜またはポリシリコン膜が形成された基板等が挙げられる。また、後者については、窒化珪素、酸化珪素またはポリシリコン以外の材料は、特に制限されないが、例えば、タングステン等が挙げられ、具体例としては、タングステン上に窒化珪素膜または酸化珪素膜が形成された構造を有する研磨済半導体基板や、タングステン部分と、窒化珪素膜と、酸化珪素膜とが最表面に露出した構造を有する研磨済半導体基板等が挙げられる。
【0090】
なお、酸化珪素を含む研磨済研磨対象物としては、例えばオルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOSタイプ酸化珪素膜(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP膜、USG膜、PSG膜、BPSG膜、RTO膜等が挙げられる。
【0091】
[表面処理]
表面処理としては、主として、(I)リンス処理による方法、(II)洗浄処理による方法が挙げられる。すなわち、表面処理は、リンス処理または洗浄処理であることが好ましい。
【0092】
(I)リンス処理
リンス処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨済研磨対象物の表面上のディフェクト(特に、セリア粒子)の除去を目的として、研磨パッドが取り付けられた研磨定盤(プラテン)上で行われる表面処理を言う。このとき、表面処理用組成物を表面処理対象物に直接接触させることにより、リンス処理が行われる。その結果、表面処理対象物の表面のディフェクト(特に、セリア粒子)は、研磨パッドによる摩擦力(物理的作用)および表面処理用組成物による化学的作用によって除去される。
【0093】
具体的には、リンス処理は、研磨工程後の表面を研磨装置の研磨定盤(プラテン)に設置し、研磨パッドと表面処理対象物とを接触させて、その接触部分に表面処理用組成物を供給しながら表面処理対象物と研磨パッドとを相対摺動させることにより行うことができる。
【0094】
研磨装置としては、研磨対象物を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0095】
リンス処理は、片面研磨装置、両面研磨装置のいずれを用いても行うことができる。また、上記研磨装置は、研磨用組成物の吐出ノズルに加え、表面処理用組成物の吐出ノズルを備えていると好ましい。研磨装置としては、具体的には、例えばアプライドマテリアルズ社製の洗浄装置一体型研磨装置 MirraMesa等を好ましく用いることができる。
【0096】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、表面処理用組成物が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0097】
リンス条件にも特に制限はなく、例えば、研磨定盤の回転数、ヘッド(キャリア)回転数は、10rpm以上100rpm以下であることが好ましく、研磨対象物にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi以上10psi以下であることが好ましい。研磨パッドに表面処理用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法(掛け流し)が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に表面処理用組成物で覆われていることが好ましく、10mL/分以上5000mL/分以下であることが好ましい。処理時間も特に制限されないが、表面処理用組成物を用いる工程については5秒間以上180秒間以下であることが好ましい。
【0098】
(II)洗浄処理
洗浄処理は、研磨対象物について最終研磨(仕上げ研磨)を行った後、研磨済研磨対象物の表面上のディフェクト(特に、セリア粒子)の除去を目的として、研磨定盤(プラテン)上以外の場所で行われる表面処理を言う。洗浄処理においても、表面処理用組成物を表面処理対象物に直接接触させて、当該対象物の表面上のディフェクト(特に、セリア粒子)を除去する。
【0099】
洗浄処理を行う方法の一例として、(i)表面処理対象物を保持した状態で、洗浄ブラシと表面処理対象物の片面または両面とを接触させて、その接触部分に表面処理用組成物を供給しながら表面処理対象物の表面を洗浄ブラシで擦る方法、(ii)表面処理対象物を表面処理用組成物中に浸漬させ、超音波処理や攪拌を行う方法(ディップ式)等が挙げられる。かかる方法において、研磨対象物表面のディフェクト(特に、セリア粒子)は、洗浄ブラシによる摩擦力または超音波処理や攪拌によって発生する機械的力、および表面処理組成物による化学的作用によって除去される。上記(i)の方法において、表面処理用組成物の表面処理対象物への接触方法としては、特に限定されないが、ノズルから表面処理対象物上に表面処理用組成物を流しながら表面処理対象物を高速回転させるスピン式、表面処理対象物に表面処理用組成物を噴霧して洗浄するスプレー式などが挙げられる。
【0100】
洗浄処理を行うための装置としては、特に制限されないが、表面処理対象物を洗浄ブラシで擦ることができる洗浄用設備を備えている研磨装置(ブラシボックス)が好ましい。洗浄ブラシとしては、PVA製スポンジを用いることが特に好ましい。洗浄条件にも特に制限はなく、表面処理対象物の種類、ならびに除去対象とするディフェクトの種類および量に応じて、適宜設定することができる。
【0101】
本形態に係る表面処理方法における表面処理としては、(I)リンス処理または(II)洗浄処理の一方のみが行われてもよいし、(I)リンス処理および(II)洗浄処理の両方が行われてもよい。(I)リンス処理および(II)洗浄処理を組み合わせる場合は、(I)リンス処理の後に(II)洗浄処理が行われることが好ましいい。(I)リンス処理および(II)洗浄処理を組み合わせることにより、(I)リンス処理または(II)洗浄処理の一方のみを行う場合と比較して、セリア粒子をより効果的に除去することが可能となる。
【0102】
本形態に係る表面処理方法の後に、必要に応じて、水を用いて、表面をさらにすすぐあるいは洗浄する工程を設けてもよい。
【実施例】
【0103】
[例1]
セリア除去性能を試験するために、洗浄用組成物として有機アミン化合物を以下の表2の量で含有し、マレイン酸でpHを3.5に調整したものを準備した。セリア研磨されたTEOS試験片を洗浄用組成物に浸し、800rpmで1分間撹拌することによりセリア除去量を決定した。セリア研磨されたTEOS試験片を洗浄用組成物から取り出した後、セリア-洗浄用組成物リテインの紫外-可視ピークの吸光度を計算し、それから純粋な洗浄用組成物に対応するピーク(波長:340~450nm)の吸光度を差し引くことにより、洗浄用組成物中に残ったセリア量(すなわち、TEOS試験片から除去されたセリア量)を決定した。ある原子に結合しているすべての原子間で電子雲を共有することができると考えてSENGを計算した。
【0104】
【0105】
[例2]
セリア除去性能を試験するために、洗浄用組成物としてプロトン性有機酸分子を以下の表3の量で含有し、ジエチレングリコールアミン(DEGA)でpHを3.5に調整したものを準備した。セリア研磨されたTEOS試験片を洗浄用組成物に浸し、800rpmで1分間撹拌することによりセリア除去量を決定した。セリア研磨されたTEOS試験片を洗浄用組成物から取り出した後、セリア-洗浄用組成物リテインの紫外-可視ピークの吸光度を計算し、それから純粋な洗浄用組成物に対応するピークの吸光度を差し引くことにより、洗浄用組成物中に残ったセリア量(すなわち、TEOS試験片から除去されたセリア量)を決定した。0.1質量%以上のセリア除去量は、良好であると考えられ、0.13質量%以上のセリア除去量は、非常に良好であると考えられる。
【0106】
【0107】
[例3]
セリア除去性能を試験するために、、洗浄用組成物としてアニオン性界面活性剤を以下の表4の量で含有し、ジエチレングリコールアミン(DEGA)でpHを3.5に調整したものを準備した。そして、例1と同様の方法で、セリア-洗浄用組成物リテインの紫外-可視ピークの吸光度を求め、それから純粋な洗浄用組成物に対応するピーク(λ=340~350nm)を差し引いた。当該差の値は、洗浄用組成物中に残ったセリア量(すなわち、TEOS試験片から除去されたセリア量)に比例し、当該差の値が大きいほど、セリア除去量が多いことを示す。Daviesの親水性-親油性(HLB)値がより高い、またはエトキシ化度がより高い界面活性剤は、より多くのセリア除去量を可能にすることが明らかになった。これらのパラメータのいずれも臨界ミセル濃度(CMC)に関連するように見受けられる。CMCを超えると、いくつかの界面活性剤分子がミセルを形成し、個々の界面活性剤は、それらの反応性官能基がウエハ表面のセリア粒子とは別の方向を向くため、セリア粒子の除去においてあまり有効でないと考えられる。界面活性剤のCMCが高くなると、より多くの界面活性剤の官能基が表面からセリア粒子を除去できるようになる。以下の表4から見て分かる通り、DaviesのHLB値、エトキシ化度(n)またはCMCの増加は一般に、より多くのセリア除去量を可能にする。CMCに加えて、例えば、官能基内の酸素原子上の負電荷または自由電子対は、還元Ce4+(CeO2)+e’→Ce3+(遊離イオン)が起こることにより、より多くのセリア除去量を可能にし得る。一般に、電子供与性原子、例えば、酸素の電気陰性度は、それが結合している原子の電気陰性度より低くすべきであり、これは、電子密度が後者に集中するようにするためである。
【0108】
【0109】
[例4]
分散媒としての水に、表5に示すアニオン性界面活性剤を0.088質量%、有機アミン化合物を0.83質量%およびプロトン性有機酸分子を0.66質量%となるように添加し、撹拌混合して組成物を調製した。なお、組成物1~3については、撹拌混合後にマレイン酸を用いてpHを3.5に調整した。
【0110】
得られた組成物を用いて、例1と同様の方法でセリア粒子の除去量を評価した。結果を表5に示す。
【0111】
【0112】
表5に示すように、本発明に係る組成物は、セリア粒子を効果的に除去できる。
【0113】
均等物
本技術は、本技術の個々の態様の単なる例示を意図している本出願に記載の特定の実施形態によって限定されるべきではない。当業者には明らかになるであろう通り、その趣旨および範囲から逸脱することなく、この本技術の多くの修正および変形を行うことができる。本明細書に列挙したものに加えて、本技術の範囲内の機能的に等価な方法および装置は、前述の説明から当業者には明らかになるであろう。そのような修正および変形は、本技術の範囲内に入ることが意図される。この本技術は、特定の方法、試薬、化合物、組成物または生物学的システムに限定されず、これらはもちろん変化し得ると理解されるべきである。また、本明細書において使用された専門用語は、特定の実施形態のみを説明するためのものであり、限定するためのものではないと理解されるべきである。
【0114】
さらに、本開示の特徴または態様がマーカッシュグループによって記載されている場合、本開示はまた、それによって、マーカッシュグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーのサブグループによって記載されることを当業者は理解されよう。
【0115】
当業者によって理解されるように、すべての目的のために、特に明細書の記載によって、本明細書に開示のすべての範囲は、すべての可能な部分範囲およびその部分範囲の組合せも包含する。記載の範囲はすべて、少なくとも二等分、三等分、四等分、五等分、十等分などに分けられる等しい範囲を十分に記載し、可能にすることが容易に認識される。非限定的な例として、本明細書に記載の各範囲は、下3分の1、中3分の1および上3分の1などに容易に分けることができる同じく当業者によって理解されるように、例えば、「最大(up to)」、「少なくとも(at least)」、「を超える(greater than)」、「未満(less than)」などのすべての文言は、記載の数値を含み、前述の通り引き続いて部分範囲に分けることができる範囲を指す。最後に、当業者によって理解されるように、範囲は個々のメンバーを含む。
【0116】
範囲を含むすべての数値表示、例えば、pH、温度、時間、濃度、量および分子量は近似値であり、適宜(+)または(-)に、10%、1%または0.1%変化する。必ずしも明示的に記載されているとは限らないが、すべての数値表示の前に「約」という用語を付けることができると理解されるべきである。本明細書において使用されるとき、「約」という用語は、当業者によって理解され、使用される文脈に応じてある程度変化する。当業者に明確でない用語の使用が存在する場合、使用される文脈を考えれば、「約」は、特定の用語の最大±10%を意味するであろう。また、必ずしも明示的に記載されているとは限らないが、本明細書に記載の試薬は単なる例示であること、およびそのようなものの均等物は当技術分野において既知であることが理解されるべきである。
【0117】
本明細書において参照または引用されたすべての特許、特許出願、仮出願および刊行物は、すべての図および表を含め、本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0118】
他の実施形態は以下の特許請求の範囲に記載される。
【0119】
本出願は、2018年10月12日に出願された米国仮出願第62/745027号に基づいており、その開示内容は、参照され、全体として組み入れられている。
【0120】
米国仮出願第62/745027号には、以下の発明が開示されている。
[1]式(I):
【0121】
【0122】
(式中、6≦m≦20であり、
n≧5であり、
Lは、-O-、-S-、-R1-、-S-R1-または-O-R1-結合(式中、R1はC1-4アルキレンである。)であり、
Rは、アニオン性基である。)
により表されるアニオン性界面活性剤と、
-1.0を超える電気陰性度勾配の合計(SENG)を有する有機アミン化合物と、
少なくとも1つの解離した錯形成官能基を有するプロトン性有機酸分子であって、前記分子の前記(1つまたは複数の)官能基の結合モードの密度(DBM)が0.013以上である、プロトン性有機酸分子と
を含み、
6未満のpHを有する、すすぎ用および/または洗浄用組成物。
[2]n≧6である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[3]5≦n≦12である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[4]m=n=8である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[5]Rが、カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸およびそれらの塩から選択される基を含む部分を含む、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[6]カプリレス-9カルボン酸を含む腐食抑制剤を含む、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[7]前記アニオン性界面活性剤がポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[8]前記アニオン性界面活性剤が、7を超えるDaviesの親水性-親油性バランス(HLB)値を有する、前記[7]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[9]前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸が、8以上のエトキシ化度を有する、前記[7]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[10]前記アニオン性界面活性剤が、200mg/l以上の臨界ミセル濃度(CMC)を有する、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[11]前記アニオン性界面活性剤が、約250mg/l~約350mg/lの間の臨界ミセル濃度(CMC)を有する、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[12]前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸が、7.8以上のDaviesのHLB値を有する、前記[7]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[13]前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸が、
【0123】
【0124】
(式中、R=C8H17およびn=8である。)
により表される、前記[7]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[14]前記有機アミン化合物が、0.5を超えるSENGを有する、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[15]前記有機アミン化合物がアミン部分を含み、前記有機アミン化合物の少なくとも1つの分子末端が、窒素原子または酸素原子を含まない少なくとも1つの部分を含む、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[16]窒素原子または酸素原子を含まない前記少なくとも1つの部分が、アルキル部分およびチオール部分(SH)から選択される、前記[15]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[17]前記有機アミン化合物が、システアミン、N,N-ジメチルヒドロキシルアミンおよびN,O-ジメチルヒドロキシルアミンから選択される、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[18]前記有機アミン化合物が非芳香族アミンである、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[19]前記プロトン性有機酸分子がホスホン酸である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[20]前記プロトン性有機酸分子が、ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸または2-ホスホノブタン-1,2,4-トリカルボン酸である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[21]約3~約4のpHを有する、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[22]ポリマー粒子または硫酸塩界面活性剤を含まない、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[23]前記アニオン性界面活性剤の前記濃度が約10倍濃度である、前記[1]に記載のすすぎ用および/または洗浄用組成物。
[24]セリア粒子を有する表面の洗浄方法であって、前記表面を前記[1]に記載の組成物と接触させるステップを含む、洗浄方法。
[25]セリア粒子を有する前記表面に化学機械研磨(CMP)があらかじめ施された、前記[24]に記載の方法。
[26]前記接触ステップがブラシボックス内で実施される、前記[24]に記載の方法。
[27]セリア粒子を有する表面のすすぎ方法であって、前記表面を前記[1]に記載の組成物と接触させるステップを含む、すすぎ方法。
[28]セリア粒子を有する前記表面に化学機械研磨(CMP)があらかじめ施された、前記[27]に記載の方法。
[29]前記接触ステップが、研磨後にプラテン上で実施されるか、またはその後のプラテン上で実施される、前記[27]に記載の方法。