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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】温度測定装置、及び、温度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/125 20210101AFI20231011BHJP
【FI】
G01K11/125
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019210831
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021081371
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】花輪 雅史
(72)【発明者】
【氏名】土田 秀一
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-028629(JP,A)
【文献】特開平10-246678(JP,A)
【文献】特開2019-160999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/12-11/20
G01N 21/00-21/958
G01J 5/00-5/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象に接触させる炭化珪素(SiC)と、
紫外線波長域の紫外線光を前記炭化珪素(SiC)に照射する紫外線光照射手段と、
前記紫外線光照射手段で照射された紫外線光により発光した前記炭化珪素(SiC)の発光データが入力され、前記発光データに基づいて前記炭化珪素(SiC)の温度を推定することで前記検出対象の温度を測定する温度検出制御手段とを備えた
ことを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の温度測定装置において、
前記温度検出制御手段は、
前記発光データとして発光強度分布に基づき温度を導出する温度導出手段を有する
ことを特徴とする温度測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の温度測定装置において、
前記温度検出制御手段は、
複数の温度パラメータに応じた発光強度分布が、比較発光強度分布として記憶された発光強度分布記憶手段を有し
前記温度導出手段では、
入力された発光データの発光強度分布と、前記発光強度分布記憶手段に記憶された前記比較発光強度分布とに基づいて温度が導出される
ことを特徴とする温度測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の温度測定装置において、
前記温度検出制御手段は、
前記炭化珪素(SiC)の発光データが入力され、入力された発光データにおける複数の波長での発光強度の割合である実発光強度割合が求められる実強度割合導出手段を有し、
前記発光強度分布記憶手段では、
複数の温度毎に、比較発光強度分布の複数の波長の発光強度の割合が発光強度割合として記憶され、
前記温度導出手段では、
前記発光強度分布記憶手段に記憶された発光強度割合、及び、前記実強度割合導出手段で導出された実発光強度割合が比較され、実発光強度割合に応じた温度が導出される
ことを特徴とする温度測定装置。
【請求項5】
請求項3に記載の温度測定装置において、
前記温度検出制御手段は、
前記炭化珪素(SiC)の発光データが入力され、入力された発光データにおける複数の波長での発光強度分布の実半値幅が求められる実半値幅導出手段を有し、
前記発光強度分布記憶手段では、
複数の温度毎に、比較発光強度分布の複数の波長での半値幅が比較半値幅として記憶され、
前記温度導出手段では、
発光強度分布記憶手段に記憶された比較半値幅、及び、実半値幅導出手段で導出された半値幅が比較され、半値幅に応じた温度が導出される
ことを特徴とする温度測定装置。
【請求項6】
検出対象に接触させた炭化珪素(SiC)に紫外線波長域の電磁波を照射し、電磁波により発光した前記検出対象の発光強度の状況に基づいて、前記炭化珪素(SiC)の温度を推定することで、前記検出対象の温度を測定する
ことを特徴とする温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線光で発光する材料(例えば、炭化珪素)を用いて温度を測定する温度測定装置、及び、温度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、例えば、温度ストレスを印加した状態で電気的特性を測定する場合がある。この場合、印加する温度を正確に制御する必要があり、温度測定手段で温度を測定しながら温度を所望の状態に維持することが実施されている(特許文献1)。
【0003】
温度測定手段としては、特定の構造を持った機器や素子等を測定部に接触させる温度測定手段を用いることが考えられる。また、放射温度計等、赤外光を用いた非接触の温度測定手段を用いることが考えられる。
【0004】
機器や素子等を測定部に接触させる温度測定手段は、使用できる測定対象物や使用環境に制約があった。また、赤外光を用いた非接触の温度測定手段は、周囲に熱源がある等赤外光源がある場所では使用できない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-99300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することができる温度測定装置、及び、温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に係る本願発明の温度測定装置は、検出対象に接触させる炭化珪素(SiC)と、紫外線波長域の紫外線光を前記炭化珪素(SiC)に照射する紫外線光照射手段と、前記紫外線光照射手段で照射された紫外線光により発光した前記炭化珪素(SiC)の発光データが入力され、前記発光データに基づいて前記炭化珪素(SiC)の温度を推定することで前記検出対象の温度を測定する温度検出制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項1に係る本願発明では、検出対象に接触させた炭化珪素(SiC)に対し、紫外線光照射手段(例えば、レーザー、LED)から紫外線光(波長が10nmから400nmの光)が照射され、炭化珪素(SiC)の発光データが温度検出制御手段に入力される。温度検出制御手段では発光データに基づいて炭化珪素(SiC)の温度が推定され、検出対象の温度を直接測定する。例えば、紫外線光は、エネルギー密度が0.01W/cm以上の強度で照射することができる。
そして、材料として、六方晶(2H、4H、6H)、立方晶(3C)、及び、菱面体晶(15R)の各種結晶構造を持った炭化珪素(SiC)を用いて温度を測定することができる。炭化珪素(SiC)に対し発光を促進する物質(例えば、窒素)を含有させることで、発光を促進させることができる。
【0009】
材料は、粒径が1nm以上の粉体にし、その粉末を圧縮成形した形状で測定対象に混合する、あるいは、直接密着させる、被覆部材等の介在物を介した状態で密着させることが好ましい。測定対象が流体の場合、材料を、粒径が1nm以上の粉体として流体に混合することが好ましい。
【0010】
これにより、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【0013】
炭化珪素に窒素を含有させることで、紫外線領域波長の光を照射した際に得られる発光強度が照射エネルギー密度に比例することが知られている。具体的には、炭化珪素に、例えば、1018/cmから1019/cmの範囲で窒素を含有させることで、紫外線領域波長の光を照射した際に得られる発光強度が照射エネルギー密度に依存することが知られている。
【0014】
このため、炭化珪素に、例えば、1018/cmから1019/cmの範囲で窒素を含有させることが好ましい。
【0015】
また、請求項2に係る本願発明の温度測定装置は、請求項1に記載の温度測定装置において、前記温度検出制御手段は、前記発光データとして発光強度分布に基づき温度を導出する温度導出手段を有することを特徴とする。
【0016】
求項2に係る本願発明では、温度検出制御手段の温度導出手段により、発光強度分布に基づいて温度が導出される。例えば、発光強度分布の形が比較され、形の近似の度合いに基づいて温度が導出される。発光強度分布の比較の対象の具体的な例としては、任意の発光強度の波長(ピークとなる波長)の値と温度との関係、任意の複数の発光強度の比率と温度との関係、発光強度分布の半値幅と温度との関係、ピーク面積と温度との関係等が挙げられる。
【0017】
また、請求項3に係る本願発明の温度測定装置は、請求項2に記載の温度測定装置において、前記温度検出制御手段は、複数の温度パラメータに応じた発光強度分布が、比較発光強度分布として記憶された発光強度分布記憶手段を有し、前記温度導出手段では、入力された発光データの発光強度分布と、前記発光強度分布記憶手段に記憶された前記比較発光強度分布とに基づいて温度が導出されることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る本願発明では、複数の温度パラメータに応じた比較発光強度分布が発光強度分布記憶手段に記憶され、入力された発光データの発光強度分布と比較発光強度分布とが比較されて温度が導出される。つまり、予め記憶された発光強度分布(比較発光強度分布)のデータと実際の発光強度分布を比較して温度が推定される。
【0019】
予め記憶された発光強度分布(比較発光強度分布)のデータと実際の発光強度分布を比較する場合、例えば、発光強度分布の形が比較される。具体的な形の比較の態様としては、任意の波長での発光強度の状況の比較、発光強度分布の半値幅の状況の比較、発光強度分布の複数の密度分布関数に基づく複数のピーク面積の状況の比較を適用することが好ましい。
【0020】
また、請求項4に係る本願発明の温度測定装置は、請求項3に記載の温度測定装置において、前記温度検出制御手段は、前記炭化珪素(SiC)の発光データが入力され、入力された発光データにおける複数の波長での発光強度の割合である実発光強度割合が求められる実強度割合導出手段を有し、前記発光強度分布記憶手段では、複数の温度毎に、比較発光強度分布の複数の波長の発光強度の割合が発光強度割合として記憶され、前記温度導出手段では、前記発光強度分布記憶手段に記憶された発光強度割合、及び、前記実強度割合導出手段で導出された実発光強度割合が比較され、実発光強度割合に応じた温度が導出されることを特徴とする。
【0021】
請求項4に係る本願発明では、実強度割合導出手段で、複数の波長での発光強度の割合である実発光強度割合が求められる。発光強度分布記憶手段には、複数の温度毎に、比較発光強度分布の複数の波長での発光強度の割合が発光強度割合として記憶されている。温度導出手段では、発光強度割合と実発光強度割合が比較され、実発光強度割合に応じた温度が導出される。
【0022】
つまり、複数の波長、例えば、2つの波長での発光強度の割合と温度の関係がデータ化され、実際の発光強度分布における、2つの波長での発光強度の割合がデータ化された割合と比較される。比較の結果、近似する割合における温度が実際の温度であると推定される。
【0023】
例えば、400nm近傍での波長での発光強度と、420nm近傍での波長での発光強度との割合が温度毎にデータ化され、発光強度割合と温度との関係のグラフとして予め記憶されている。実際の発光強度分布における、400nm近傍での波長での発光強度と、420nm近傍での波長での発光強度との割合が求められ、予め記憶されたデータに基づいて、求められた発光強度割合に対する温度が導出される。
【0024】
また、請求項5に係る本願発明の温度測定装置は、請求項3に記載の温度測定装置において、前記温度検出制御手段は、前記炭化珪素(SiC)の発光データが入力され、入力された発光データにおける複数の波長での発光強度分布の実半値幅が求められる実半値幅導出手段を有し、前記発光強度分布記憶手段では、複数の温度毎に、比較発光強度分布の複数の波長での半値幅が比較半値幅として記憶され、前記温度導出手段では、発光強度分布記憶手段に記憶された比較半値幅、及び、実半値幅導出手段で導出された半値幅が比較され、半値幅に応じた温度が導出されることを特徴とする。
【0025】
請求項5に係る本願発明では、実半値幅導出手段で、複数の波長での発光強度分布の半値幅が求められる。発光強度分布記憶手段には、複数の温度毎に、比較発光強度分布の複数の波長での半値幅が比較半値幅として記憶されている。温度導出手段では、比較半値幅と実半値幅とが比較され、実半値幅に応じた温度が導出される。
【0026】
つまり、比較半値幅と温度の関係がデータ化され、実際の半値幅がデータ化された比較半値幅と比較される。比較の結果、近似する半値幅における温度が実際の温度であると推定される。
【0027】
上記目的を達成するための請求項6に係る本願発明の温度測定方法は、検出対象に接触させた炭化珪素(SiC:結晶構造を持つSiC)に紫外線波長域の電磁波を照射し、電磁波により発光した前記炭化珪素の発光強度の状況に基づいて、前記炭化珪素の温度を推定することで、前記検出対象の温度を測定することを特徴とする。
【0028】
請求項6に係る本願発明では、紫外線領域の波長の光(10nmから400nmの波長の光)を炭化珪素(炭化珪素単結晶、SiC:結晶構造を持つSiC)に当て、炭化珪素単結晶の発光強度の状況に基づいて、検出対象の温度を測定する。例えば、発光強度の分布(発光強度分布)に基づいて、予め温度毎に得られたデータと比較して温度を推定したり、発光強度と温度との関係のデータに基づいて温度を求めたりすることで、炭化珪素単結晶の温度が検出される。
【0029】
このため、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の温度測定装置は、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
本発明の温度測定方法は、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の第1実施例に係る温度測定装置の概略図である。
図2】本発明の第2実施例に係る温度測定装置の概略図である。
図3】温度検出制御手段のブロック図である。
図4】比較発光強度分布のグラフである。
図5】比較発光強度分布のグラフである。
図6】比較発光強度分布のグラフである。
図7】発光強度割合と温度との関係を表すグラフである。
図8】半値幅と温度との関係を表すグラフである。
図9】ピーク面積を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1には本発明の第1実施例に係る温度測定装置の概略の構成、図2には本発明の第2実施例に係る温度測定装置の概略の構成、図3には温度検出制御手段のブロック構成を示してある。
【0033】
図1に基づいて第1実施例を説明する。
【0034】
図1に示すように、検出対象としての構造物の壁1には、材料としての炭化珪素(SiC:結晶構造を持つSiC)2が取り付けられている。炭化珪素2は、粒径が1nm以上の粉体にされ、その粉末が圧縮成形された形状で壁1に密着されている。
【0035】
検出対象の構造によっては、粒径が1nm以上の粉体を測定対象に混合させることもできる。炭化珪素2は、六方晶(2H、4H、6H)、立方晶(3C)、及び、菱面体晶(15R)の各種結晶構造を持った炭化珪素が適用される。
【0036】
炭化珪素2には、紫外線光照射手段3から、紫外線波長域の紫外線光(波長が10nmから400nmの光)が、例えば、エネルギー密度が0.01W/cm以上の強度で照射される。炭化珪素2は、紫外線光照射手段3から照射された紫外線光により発光する。炭化珪素2の発光データは温度検出制御手段4に入力される。
【0037】
温度検出制御手段4では、発光データに基づいて炭化珪素2の温度が推定される。そして、炭化珪素2の推定された温度に基づいて壁1(構造物)の温度が測定される。
【0038】
これにより、複雑な構造物や作業者が近づき難い構造物の壁1の温度を測定することができ、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【0039】
炭化珪素2に対して、発光を促進する物質(例えば、窒素)が含有されている。窒素が含有されることで、紫外線領域波長の光を照射した際に得られる発光強度が、照射エネルギー密度に比例して促進される。
【0040】
炭化珪素2に、例えば、1018/cmから1019/cmの範囲で窒素を含有させることで、紫外線領域波長の光を照射した際に得られる発光強度を、照射エネルギー密度に依存して促進させることができる。
【0041】
図1に示した実施例では、炭化珪素2の粉末が圧縮成形された形状の1つの密着部材を壁1に密着させた例を挙げて説明したが、複数の密着部材を壁1の面内に密着させ、複数の密着部材のそれぞれの温度を測定して、壁1の所望の面内の温度分布を把握することも可能である。
【0042】
また、図1に示した実施例では、1つの壁1の面に密着部材を密着させた例を示してあるが、高さ方向、幅方向、深さ方向等の状態が任意の形状で構成される複雑な形状の構造物に対して、任意の部位に炭化珪素2の粉末の密着部材を密着させ、それぞれの温度を測定して、複雑な構造物の3次元の状態での温度分布を把握することも可能である。
【0043】
図2に基づいて第2実施例を説明する。
【0044】
図2に示すように、検出対象としての配管7の内部の流体(例えば、発電所のボイラ給水等)8の中には、材料としての炭化珪素(SiC:結晶構造を持つSiC)9が混合されている。炭化珪素9は、粒径が1nm以上の粉体にされ、その粉末が粒状に成型された形状で流体8に混合されている。
【0045】
炭化珪素9は、六方晶(2H、4H、6H)、立方晶(3C)、及び、菱面体晶(15R)の各種結晶構造を持った炭化珪素が適用される。
【0046】
流体8に混合された炭化珪素9には、紫外線光照射手段3から、紫外線波長域の紫外線光(波長が10nmから400nmの光)が、例えば、エネルギー密度が0.01W/cm以上の強度で照射される。炭化珪素9は、紫外線光照射手段3から照射された紫外線光により発光する。
【0047】
炭化珪素9の発光データは温度検出制御手段4に入力され、温度検出制御手段4では、発光データに基づいて炭化珪素9の温度が推定される。そして、炭化珪素9の推定された温度に基づいて流体8の温度が測定される。
【0048】
これにより、温度検出用の機器を配管7に設置することなく、配管7の内部の流体8の温度を直接測定することができ、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【0049】
炭化珪素9に対して、発光を促進する物質(例えば、窒素)が含有されている。窒素が含有されることで、紫外線領域波長の光を照射した際に得られる発光強度が、照射エネルギー密度に比例して促進される。
【0050】
炭化珪素2に、例えば、1018/cmから1019/cmの範囲で窒素を含有させることで、紫外線領域波長の光を照射した際に得られる発光強度を、照射エネルギー密度の2乗に比例して促進させることができる。
【0051】
図2に示した実施例では、1つの炭化珪素9に紫外線光を照射して温度を測定している例を挙げて説明したが、配管7の内部の径方向、軸方向の複数の炭化珪素9に紫外線光を照射して温度を測定し、配管7の内部の流体の所望の範囲の温度分布を把握することが可能である。
【0052】
図3に基づいて温度検出制御手段4を具体的に説明する。
【0053】
図3に示すように、温度検出制御手段4は、発光データとして発光強度分布に基づき温度を導出する温度導出手段11を有している。また、温度検出制御手段4は、複数の温度パラメータ(例えば、室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)に応じた発光強度分布が、比較発光強度分布として記憶された発光強度分布記憶手段12を有している。
【0054】
更に、温度検出制御手段4は、炭化珪素9の発光データが入力され、入力された発光データにおける2つの波長である380nm(400nm近傍での波長)での発光強度P1、420nmでの発光強度P2の割合である実発光強度割合(P2/P1)が求められる実強度割合導出手段13を有している。
【0055】
発光強度分布記憶手段12では、複数の温度(例えば、室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)毎に、比較発光強度分布の2つの波長である380nmでの発光強度P1、420nmでの発光強度P2の割合が発光強度割合(P2/P1)として記憶されている。そして、発光強度割合(P2/P1)に対する温度の状況がマップ化されている(後述する図7参照)。
【0056】
温度導出手段11では、発光強度分布記憶手段12に記憶された発光強度割合{発光強度割合(P2/P1)に対する温度の状況のマップ}と、実強度割合導出手段13で導出された実発光強度割合(P2/P1)が比較され、実発光強度割合(P2/P1)に応じた温度がマップから読み取られる(導出される)。即ち、予め記憶された発光強度分布(比較発光強度分布)のデータと実際の発光強度分布を比較して温度が推定される。
【0057】
つまり、複数(2つ)の波長である、380nm、420nmでの発光強度P1、P2の割合(P2/P1)と、温度(例えば、室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)との関係がデータ化され、実際の発光強度分布における、2つの波長(380nm、420nm)での発光強度の割合(P2/P1)が、データ化された割合と比較される。
【0058】
比較の結果、近似する割合における温度が実際の温度であるとマップから読み出されて推定される(形の近似の度合いに基づいて温度が導出される)。
【0059】
図4から図7に基づいて、発光強度割合(P2/P1)に対する温度の状況のマップ化の具体例を説明する。
【0060】
図4から図6には発光強度分布記憶手段12に記憶された比較発光強度分布のグラフ(発光強度と波長との関係)を示してある。
【0061】
図4(a)は室温における比較発光強度分布(発光強度と波長との関係)のグラフ、図4(b)は100℃における比較発光強度分布のグラフ、図5(a)は200℃における比較発光強度分布のグラフ、図5(b)は300℃における比較発光強度分布のグラフ、図6(a)は400℃における比較発光強度分布のグラフ、図6(b)は480℃における比較発光強度分布のグラフである。
【0062】
また、図7には発光強度割合(P2/P1)に対する温度の状況のマップである発光強度割合と温度との関係を表すグラフを示してある。
【0063】
尚、図示例は、各温度における窒素の含有量が2×1018/cmの炭化珪素の発光強度の波長依存性能を示してある。紫外光の照射光の波長は、325nm、エネルギー密度が30W/cmの強度で照射されたものである。得られた結果の数値は一例であり、示された数値が結果の全てではない。
【0064】
図4(a)に示すように、室温での比較発光強度分布は、例えば、350nmから460nmの波長で発光が認められ、波長が約390nmの際の発光強度P1が約0.6×10-8cpsとなり、波長が約420nmの際の発光強度P2が約0.01×10-8cpsとなっている。
【0065】
図4(b)に示すように、100℃での比較発光強度分布は、360nmから460nmの波長で発光が認められ、波長が約390nmの際の発光強度P1が約0.9×10-8cpsとなり、波長が約420nmの際の発光強度P2が約0.16×10-8cpsとなっている。
【0066】
図5(a)に示すように、200℃での比較発光強度分布は、360nmから460nmの波長で発光が認められ、波長が約390nmの際の発光強度P1が約0.9×10-8cpsとなり、波長が約420nmの際の発光強度P2が約0.05×10-8cpsとなっている。
【0067】
図5(b)に示すように、300℃での比較発光強度分布は、360nmから460nmの波長で発光が認められ、波長が約390nmの際の発光強度P1が約0.8×10-8cpsとなり、波長が約420nmの際の発光強度P2が約0.06×10-8cpsとなっている。
【0068】
図6(a)に示すように、400℃での比較発光強度分布は、360nmから460nmの波長で発光が認められ、波長が約390nmの際の発光強度P1が約0.7×10-8cpsとなり、波長が約420nmの際の発光強度P2が約0.06×10-8cpsとなっている。
【0069】
図6(b)に示すように、480℃での比較発光強度分布は、360nmから460nmの波長で発光が認められ、波長が約390nmの際の発光強度P1が約0.6×10-8cpsとなり、波長が約420nmの際の発光強度P2が約0.07×10-8cpsとなっている。
【0070】
図4から図6に示すように、各温度(室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)の発光強度分布における2つの波長である約390nmでの発光強度P1、約420nmでの発光強度P2が求められる。求められたそれぞれの発光強度P1、P2の割合(P2/P1)が、各温度(室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)での発光強度割合とされる。
【0071】
図7に示すように、各温度(室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)の発光強度割合(P2/P1)がプロットされ、発光強度割合(P2/P1)に対する温度の状況のマップが構築される。
【0072】
入力された発光データ(実発光強度分布)における2つの波長である380nm(400nm近傍での波長)での発光強度P1、420nmでの発光強度P2の割合が実発光強度割合(P2/P1)として求められる(実強度割合導出手段13)。
【0073】
実発光強度割合(P2/P1)の値がデータ化された割合と比較され(図7に示したマップから読み出され)、対応する割合における温度が実際の温度であるとマップに基づいて推定される。
【0074】
尚、入力された発光データ(実発光強度分布)そのものの形と、図4から図6に示した比較発光強度分布の形を直接比較し、近似の度合いを判断して温度を導出することも可能である。
【0075】
従って、実際の発光データ(実発光強度分布)から、2つの波長(複数の波長)である380nm、420nmでの発光強度の割合である実発光強度割合(P2/P1)が求められ、予め記憶された比較発光強度分布から、複数の温度(室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃)毎の、2つの波長(複数の波長)である380nm、420nmでの発光強度割合(P2/P1)が求められる。
【0076】
そして、発光強度割合に基づいて構築された発光強度割合(P2/P1)に対する温度の状況のマップに基づいて、実発光強度割合に対応する温度が読み出されて温度が求められる(発光強度割合と実発光強度割合とが比較されて実発光強度割合に応じた温度が導出される)。
【0077】
上述した実施例では、2つの波長(複数の波長)である380nm、420nmでの発光強度割合(P2/P1)を用いて温度を推定する例を挙げて説明したが、発光強度が最大の半分の時の発光強度分布の幅である半値幅を用いて温度を推定することも可能である。
【0078】
半値幅を用いた温度の推定について説明する。図8には半値幅と温度の関係を表すグラフを示してある。
【0079】
図4から図6に示すように、室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃の各温度における発光強度分布(比較発光強度分布)に対し、発光強度が最大の半分の時の発光強度分布の幅である半値幅H(比較半値幅)が記憶されている。
【0080】
そして、図8に示したように、室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃の各温度における半値幅Hがプロットされ、半値幅Hに対する温度のマップが構築されて記憶される(発光強度分布記憶手段)。
【0081】
入力された発光強度の分布である実発光強度分布における半値幅Hが求められ(実半値幅導出手段)、求められた値がマップ化された値と比較され(図8に示したマップから読み出され)、対応する半値幅における温度が実際の温度であるとマップに基づいて推定される(温度導出手段)。
【0082】
また、発光強度分布のピーク面積を用いて温度を推定することも可能である。
【0083】
発光強度分布のピーク面積を用いた温度の推定について説明する。図9(a)には発光強度分布のグラフ、図9(b)にはピーク面積の状況のグラフを示してある。
【0084】
図9(a)に実線で示した発光強度分布に対し、密度分布関数(フォクト関数)により2つのピークの重ね合わせを再現する計算を行う。計算の結果、図9(a)に点線で示したように、2つの密度分布関数の重ね合わせにより元の発光強度分布(実線)がほぼ再現される。
【0085】
図9(b)に示すように、それぞれのピークの発光強度はその面積に比例している。例えば、ピーク1の面積は、太線のハッチングの範囲の部分となり、ピーク2の面積は、細線の範囲の部分となる。
【0086】
室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃の各温度における発光強度分布のピーク1、ピーク2の面積が求められ、ピーク面積比(ピーク2/ピーク1)が記憶される。
【0087】
そして、室温、100℃、200℃、300℃、400℃、480℃の各温度におけるピーク面積比(ピーク2/ピーク1)がプロットされ、ピーク面積比(ピーク2/ピーク1)に対する温度のマップ(図示省略)が構築されて記憶される。
【0088】
入力された発光強度の分布である実発光強度分布におけるピーク面積比(ピーク2/ピーク1)が求められ、求められたピーク面積比がマップ化されたピーク面積比の値と比較され、対応するピーク面積比における温度が実際の温度であるとマップに基づいて推定される。
【0089】
上述したように(図1参照)、構造物の壁1に炭化珪素2(炭化珪素2の粉末が圧縮成形された形状の密着部材)を取り付け、紫外線光照射手段3から照射された紫外線光により炭化珪素2を発光させることで、炭化珪素2の発光データに基づいて炭化珪素2の温度を推定し、推定された温度に基づいて壁1(構造物)の温度が測定される。
【0090】
これにより、複雑な構造物や作業者が近づき難い構造物の壁1の温度を測定することができ、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【0091】
また(図2参照)、流体8に炭化珪素9を混合し、紫外線光照射手段3から照射された紫外線光により炭化珪素9を発光させることで、炭化珪素9の発光データに基づいて炭化珪素9の温度を推定し、推定された温度に基づいて流体8の温度が測定される。
【0092】
これにより、温度検出用の機器を配管7に設置することなく、配管7の内部の流体8の温度を直接測定することができ、測定対象物や使用する環境の制約を受け難い状態で測定対象物の温度を測定することが可能になる。
【0093】
上述した実施例では、構造物の壁1、配管7の内部の流体8の温度を検出する装置を例に挙げて説明したが、検出対象としては、固体、流体、その他の形態の物質等、様々な対象物の温度の検出に適用することができる。
【0094】
構造物としては、発電設備(原子力、火力等)の機器や各種流体の配管の温度の検出に適用することができる。また、配管の内部の流体としては、発電設備(原子力、火力等)の給水配管、冷却水配管、作動流体等の流体の温度の検出に適用することができる。
【0095】
例えば、構造物として、原子力発電設備(PWR:加圧水型、BWR:沸騰水型)、火力発電設備の作動用の蒸気の配管(広範囲にわたる配管)、配管の溶接部を適用することができる。また、構造物として、ボイラ(燃焼ボイラ、排熱回収ボイラ)のケース等の内部の水配管(蒸気配管)を適用することができる。また、構造物として、ガスタービンの羽根(熱遮蔽コーティング)を適用することができる。
【0096】
原子力発電設備、火力発電設備の蒸気配管、溶接部では、高温の広範囲にわたる配管(溶接部)の温度分布を測定することで、応力腐食割れ等の破損の虞の事前予測を行うことができ、施設保護につながる。特に、燃焼ボイラや排熱回収ボイラのケースなどの内側は作業者が近づき難い複雑な構造物であるため、本願発明の温度検出装置を適用することが好適である。
【0097】
また、沸騰水型原子力発電設備(PWR)では、一次冷却管(鋳造鋼)の温度分布を測定することで、一次冷却管の劣化を予測することができ、劣化機構のメカニズムの解明につながる。更に、ガスタービンの羽根(熱遮蔽コーティング)の温度を測定することで、温度に起因して引き起こされる熱遮蔽コーティングの酸化劣化の虞を予測することができる。
【0098】
また、検出対象としては、例えば、生物(生体)の血液、皮膚、臓器等、測定に関して制約を受ける部位の対象物を適用することが可能である。
【0099】
材料としては、紫外線波長域の紫外線光により発光する材料であれば炭化珪素(SiC)に限定されず、他の材料を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明は、温度測定装置、及び、温度測定方法の産業分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 壁
2、9 炭化珪素(SiC:結晶構造を持つSiC)
3 紫外線光照射手段
4 温度検出制御手段
7 配管
8 流体
11 温度導出手段
12 発光強度分布記憶手段
13 実強度割合導出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9