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特許7364485磁場計測装置、磁場計測方法、および、磁場計測プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】磁場計測装置、磁場計測方法、および、磁場計測プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/09 20060101AFI20231011BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20231011BHJP
   G01R 35/00 20060101ALI20231011BHJP
   A61B 5/05 20210101ALI20231011BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R33/02 X
G01R33/02 R
G01R35/00 M
A61B5/05
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020015430
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021124288
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 威信
(72)【発明者】
【氏名】片岡 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡武 茂樹
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-152515(JP,A)
【文献】特開2019-215322(JP,A)
【文献】特開2019-171019(JP,A)
【文献】特開2017-191040(JP,A)
【文献】特開2017-3345(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103885002(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101361660(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00
G01R 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有し、各々が、磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、前記出力信号に応じた大きさで、前記磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを前記曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイと、
前記磁気センサアレイによって計測された計測データを取得する計測データ取得部と、
前記計測データによって示される前記入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を前記磁気センサアレイで検出した場合に前記磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部と、
前記複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する前記磁場生成部から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、前記磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する較正部と
を備える、磁場計測装置。
【請求項2】
前記出力部は、前記磁場生成部が前記フィードバック磁場を発生するために流すフィードバック電流に応じた前記出力信号を出力する、請求項1に記載の磁場計測装置。
【請求項3】
前記磁気センサのそれぞれは、磁気抵抗素子と前記磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板とを含み、前記磁気抵抗素子は、二つの前記磁気収束板に挟まれた位置に配置される、請求項2に記載の磁場計測装置。
【請求項4】
前記磁場生成部は、前記磁気抵抗素子および二つの前記磁気収束板を取り囲むように、前記磁気センサが検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれているフィードバックコイルを含む、請求項3に記載の磁場計測装置。
【請求項5】
前記較正部は、前記少なくとも一つの磁気センサセルを順次切り替えた場合におけるそれぞれの前記分離誤差に基づいて、前記磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
【請求項6】
前記磁気センサアレイは、前記複数の磁気センサセルを断面視円弧状に三次元に配列して構成され、
前記較正部は、前記少なくとも一つの磁気センサセルを、内側の円弧を形成する複数の磁気センサセルにわたって順次切り替えた場合におけるそれぞれの前記分離誤差に基づいて、前記磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する、請求項5に記載の磁場計測装置。
【請求項7】
前記少なくとも一つの磁気センサセルは、前記磁場生成部が前記フィードバック磁場を発生するか、前記キャリブレーション磁場を発生するかを切り替える切替部を更に有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
【請求項8】
前記信号空間分離部は、前記キャリブレーション磁場の空間分布を信号分離するにあたって、前記少なくとも一つの磁気センサセルが有する前記磁場生成部が配置される位置を、演算における座標の原点とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
【請求項9】
前記較正部は、前記基底ベクトルを変更することによって前記センサ誤差を較正する、請求項1から8のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
【請求項10】
前記較正部は、前記分離誤差を最小化するように前記基底ベクトルを最適化する、請求項9に記載の磁場計測装置。
【請求項11】
交流磁場である前記キャリブレーション磁場を、前記交流磁場の周波数の信号を用いて検波する同期検波部を更に備える、請求項1から10のいずれか一項に記載の磁場計測装置。
【請求項12】
前記交流磁場の周波数は、計測対象とする磁場の周波数帯域よりも高い、請求項11に記載の磁場計測装置。
【請求項13】
少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有し、各々が磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、前記出力信号に応じた大きさで、前記磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを前記曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイによって計測された計測データを取得することと、
前記計測データによって示される前記入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を前記磁気センサアレイで検出した場合に前記磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離することと、
前記複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する前記磁場生成部からキャリブレーション磁場を発生させることと、
前記キャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、前記磁気センサにおけるセンサ誤差を較正することと
を備える、磁場計測方法。
【請求項14】
コンピュータにより実行されて、前記コンピュータを、
少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有し、各々が磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、前記出力信号に応じた大きさで、前記磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを前記曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイによって計測された計測データを取得する計測データ取得部と、
前記計測データによって示される前記入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を前記磁気センサアレイで検出した場合に前記磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部と、
前記複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する前記磁場生成部から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、前記磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する較正部と
して機能させる、磁場計測プログラム。
【請求項15】
各々が、磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、前記出力信号に応じた大きさで、前記磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイと、
前記磁気センサアレイによって計測された計測データを取得する計測データ取得部と、
前記計測データによって示される前記入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を前記磁気センサアレイで検出した場合に前記磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部と、
前記複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する前記磁場生成部から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、前記磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する較正部と
を備える、磁場計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁場計測装置、磁場計測方法、および、磁場計測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magneto-Resistance)素子をアレイ状に配列したセンサプラットフォームボードを用いて被験者の頭部または胸部から発せられる磁場を計測する磁場計測装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
[先行技術文献]
[特許文献]
[特許文献1] 特開2012-152514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の磁場計測装置では、磁場の検出方向に一対の磁気検出素子を積層させ、外乱磁場に対しては一対の磁気検出素子間での計測結果の大きさが同じとなる一方で、計測対象磁場に対しては一対の磁気検出素子間での計測結果の大きさが異なる、との原理に基づいて外乱磁場を抑制し、計測対象磁場を計測していた。しかしながら、例えば、心臓の電気活動により生成される微弱な生体磁場(「心磁」と示す。)を計測して心臓の状態をより精密に検査する等、磁場をより高精度に計測することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、磁場計測装置を提供する。磁場計測装置は、少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有し、各々が、磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、出力信号に応じた大きさで、磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイを備えてよい。磁場計測装置は、磁気センサアレイによって計測された計測データを取得する計測データ取得部を備えてよい。磁場計測装置は、計測データによって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイで検出した場合に磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部を備えてよい。磁場計測装置は、複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する較正部を備えてよい。
【0005】
出力部は、磁場生成部がフィードバック磁場を発生するために流すフィードバック電流に応じた出力信号を出力してよい。
【0006】
磁気センサのそれぞれは、磁気抵抗素子と磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板とを含み、磁気抵抗素子は、二つの磁気収束板に挟まれた位置に配置されてよい。
【0007】
磁場生成部は、磁気抵抗素子および二つの磁気収束板を取り囲むように、磁気センサが検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれているフィードバックコイルを含んでよい。
【0008】
較正部は、少なくとも一つの磁気センサセルを順次切り替えた場合におけるそれぞれの分離誤差に基づいて、磁気センサにおけるセンサ誤差を較正してよい。
【0009】
磁気センサアレイは、複数の磁気センサセルを断面視円弧状に三次元に配列して構成され、較正部は、少なくとも一つの磁気センサセルを、内側の円弧を形成する複数の磁気センサセルにわたって順次切り替えた場合におけるそれぞれの分離誤差に基づいて、磁気センサにおけるセンサ誤差を較正してよい。
【0010】
少なくとも一つの磁気センサセルは、磁場生成部がフィードバック磁場を発生するか、キャリブレーション磁場を発生するかを切り替える切替部を更に有してよい。
【0011】
信号空間分離部は、キャリブレーション磁場の空間分布を信号分離するにあたって、少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部が配置される位置を、演算における座標の原点としてよい。
【0012】
較正部は、基底ベクトルを変更することによってセンサ誤差を較正してよい。
【0013】
較正部は、分離誤差を最小化するように基底ベクトルを最適化してよい。
【0014】
磁場計測装置は、交流磁場であるキャリブレーション磁場を、交流磁場の周波数の信号を用いて検波する同期検波部を更に備えてよい。
【0015】
交流磁場の周波数は、計測対象とする磁場の周波数帯域よりも高くてよい。
【0016】
本発明の第2の態様においては、磁場計測方法を提供する。磁場計測方法は、少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有し、各々が磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、出力信号に応じた大きさで、磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイによって計測された計測データを取得することを備えてよい。磁場計測方法は、計測データによって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイで検出した場合に磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離することを備えてよい。磁場計測方法は、複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部からキャリブレーション磁場を発生させることを備えてよい。磁場計測方法は、キャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、磁気センサにおけるセンサ誤差を較正することを備えてよい。
【0017】
本発明の第3の態様においては、磁場計測プログラムを提供する。磁場計測プログラムは、コンピュータにより実行されてよい。磁場計測プログラムは、コンピュータを、少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有し、各々が磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、出力信号に応じた大きさで、磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイによって計測された計測データを取得する計測データ取得部として機能させてよい。磁場計測プログラムは、コンピュータを、計測データによって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイで検出した場合に磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部として機能させてよい。磁場計測プログラムは、コンピュータを、複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する較正部として機能させてよい。
【0018】
本発明の第4の態様においては、磁場計測装置を提供する。磁場計測装置は、各々が、磁気センサと、出力信号を出力する出力部と、出力信号に応じた大きさで、磁気センサが検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させる磁場生成部とを有する複数の磁気センサセルを三次元に配列して構成され、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイを備えてよい。磁場計測装置は、磁気センサアレイによって計測された計測データを取得する計測データ取得部を備えてよい。磁場計測装置は、計測データによって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイで検出した場合に磁気センサのそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する信号空間分離部を備えてよい。磁場計測装置は、複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、磁気センサにおけるセンサ誤差を較正する較正部を備えてよい。
【0019】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態に係る磁場計測装置10の構成を示す。
図2】本実施形態に係る磁気センサユニット110の構成を示す。
図3】本実施形態に係る磁気センサアレイ210における磁気センサセル220の構成を示す。
図4】本実施形態に係る磁気抵抗素子を有する磁気センサの入出力特性の一例を示す。
図5】本実施形態に係るセンサ部300の構成例を示す。
図6】本実施形態に係るセンサ部300の入出力特性の一例を示す。
図7】本実施形態に係る磁気センサ520の構成例を示す。
図8】本実施形態に係る磁気センサ520にフィードバック磁場を発生させた時の磁束分布を示す。
図9】本実施形態に係る磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220の配置例を示す。
図10】本実施形態に係る磁気センサアレイ210における内側の磁気センサセル220が有するセンサ部300insideの構成を示す。
図11】本実施形態に係る磁気センサアレイ210、センサデータ収集部230、および、センサデータ処理部1100の構成を示す。
図12】本実施形態に係る磁場計測装置10が磁場の空間分布を信号分離するフローを示す。
図13】磁気センサアレイ210が理想的に作られている場合において、理想的な基底ベクトル[A B]Idealを使用した信号空間分離演算を幾何学的に示す。
図14】磁気センサアレイ210がセンサ誤差を持って作られている場合において、理想的な基底ベクトル[A B]Idealを使用した信号空間分離演算を幾何学的に示す。
図15】本実施形態に係る磁場計測装置10がキャリブレーション用のセンサアレイ信号Φ(i,j,1)を取得するフローを示す。
図16】本実施形態に係る磁場計測装置10がキャリブレーションを行うフローを示す。
図17】磁気センサアレイ210がセンサ誤差を持って作られている場合において、較正後の基底ベクトル[A B]Calibを使用した信号空間分離演算を幾何学的に示す。
図18】本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
図1は、本実施形態に係る磁場計測装置10の構成を示す。磁場計測装置10は、磁気センサを用いて対象とする磁場を計測するにあたって、磁気センサアレイにおける複数の磁気センサセルのうちの少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部からキャリブレーション磁場を発生させ、当該キャリブレーション磁場を計測した結果に基づいて磁気センサにおける誤差を較正(キャリブレーション)する。本実施形態においては、磁場計測装置10が、人間の心臓の電気活動により生成される磁場である心磁を計測する心磁計測装置である場合を一例として説明する。しかしながら、これに限定されるものではない。磁場計測装置10は、人間以外の生体の心磁を計測するために用いられてもよいし、脳磁場等の心磁以外の生体磁場を計測するために用いられてもよい。また、磁場計測装置10は、鉄鋼材料や溶接部の表面および表面化の傷等を検出するための磁気探傷検査のために用いられてもよい。
【0023】
磁場計測装置10は、本体部100と、情報処理部150とを備える。本体部100は、被験者の心磁をセンシングするためのコンポーネントであり、磁気センサユニット110と、ヘッド120と、駆動部125と、ベース部130と、ポール部140とを有する。
【0024】
磁気センサユニット110は、心磁計測時に被験者の胸部における心臓に向かう位置に配置され、被験者の心磁をセンシングする。ヘッド120は、磁気センサユニット110を支持し、心磁を計測する場合に磁気センサユニット110を被験者に対向させる。駆動部125は、磁気センサユニット110およびヘッド120の間に設けられ、キャリブレーションを行う場合にヘッド120に対する磁気センサユニット110の向きを変更する。本実施形態に係る駆動部125は、図中のZ軸を中心に磁気センサユニット110を360度回転させることができる第1アクチュエータと、Z軸と垂直な軸(図中の状態においてはX軸)を中心に磁気センサユニット110を回転させる第2アクチュエータとを含み、これらを用いて磁気センサユニット110の方位角および天頂角を変更する。図中の駆動部125として示したように、駆動部125は図中のY軸方向から見るとY字形状を有し、第2アクチュエータは、磁気センサユニット110を図中X軸中心に360度回転させることができる。
【0025】
ベース部130は、他の部品を支える基台であり、本実施形態においては心磁計測時に被験者が乗る台となっている。ポール部140は、ヘッド120を被験者の胸部の高さに支持する。ポール部140は、磁気センサユニット110の高さを被験者の胸部の高さに調整するべく上下方向に伸縮可能であってよい。
【0026】
情報処理部150は、本体部100により計測したデータを処理して表示・印刷等により出力するためのコンポーネントである。情報処理部150は、PC(パーソナルコンピュータ)、タブレット型コンピュータ、スマートフォン、ワークステーション、サーバコンピュータ、または汎用コンピュータ等のコンピュータであってよく、複数のコンピュータが接続されたコンピュータシステムであってもよい。これに代えて、情報処理部150は、磁場計測の情報処理用に設計された専用コンピュータであってもよく、専用回路によって実現された専用ハードウェアであってもよい。
【0027】
図2は、本実施形態に係る磁気センサユニット110の構成を示す。磁気センサユニット110は、磁気センサアレイ210およびセンサデータ収集部230を有する。磁気センサアレイ210は、複数の磁気センサセル220を有し、3軸方向の入力磁場を検出可能である。本図は、磁気センサアレイ210において、X方向、Y方向およびZ方向のそれぞれに複数の磁気センサセル220(例えば、X方向に8個、Y方向に8個、およびZ方向に2個の計128個の磁気センサセル220)が配置されている場合を示している。
【0028】
センサデータ収集部230は、磁気センサアレイ210に含まれる複数の磁気センサセル220に電気的に接続され(図示せず。)、複数の磁気センサセル220からのセンサデータ(検出信号)を収集して情報処理部150へと供給する。
【0029】
図3は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210における磁気センサセル220の構成を示す。複数の磁気センサセル220のそれぞれは、各々が磁気抵抗素子を有する少なくとも1つのセンサ部300を有する。本図においては、複数の磁気センサセル220のそれぞれが、3つのセンサ部300x~z(「センサ部300」と総称する。)を有し、入力磁場を3軸方向で検出可能である場合を一例として示す。しかしながら、複数の磁気センサセル220のいずれもが、3つのセンサ部300x~zを有することには限定されず、磁気センサアレイ210の少なくとも一部で、3軸方向の入力磁場を検出可能であればよい。この際、後述するように、磁気センサアレイ210によって各球面調和関数を空間サンプリングする場合、磁場における角運動量に関連した空間周波数への依存性を検出する必要がある。そのため、磁気センサアレイ210における各センサ部300の配置位置は、少なくとも、方位角方向および天頂角方向において、可能な限り偏りなく配置されているとよい。同様の理由により、磁気センサアレイ210における各センサの感磁軸についても、少なくとも、方位角方向および天頂角方向において可能な限り偏りなく配置されているとよい。センサ部300xはX軸方向に沿って配置されX軸方向の磁場を検出可能である。また、センサ部300yはY軸方向に沿って配置されY軸方向の磁場を検出可能である。また、センサ部300zはZ軸方向に沿って配置されZ軸方向の磁場を検出可能である。本図において一点鎖線で示される拡大図によって示されるように、本実施形態において、各センサ部300は、それぞれ、磁気抵抗素子の両端に磁気収束板が配置されている。したがって、各センサ部300は、磁気収束板に挟まれた狭い位置に配置された磁気抵抗素子を用いて磁場の空間分布をサンプリングすることにより、各軸方向において、空間におけるサンプリング点を明確にすることができる。各センサ部300の構成の詳細については後述する。
【0030】
複数の磁気センサセル220は、X軸方向に沿ってΔx、Y軸方向に沿ってΔy、Z軸方向に沿ってΔzの間隔でそれぞれ等間隔に配列されている。磁気センサアレイ210における各磁気センサセル220の位置は、X方向の位置i、Y方向の位置j、およびZ方向の位置kの組[i,j,k]により表される。ここで、iは1≦i≦Nxを満たす整数であり(NxはX方向に配列された磁気センサセル220の個数を示す)、jは1≦j≦Nyを満たす整数であり(NyはY方向に配列された磁気センサセル220の個数を示す)、kは1≦k≦Nzを満たす整数である(NzはZ方向に配列された磁気センサセル220の個数を示す)。なお、上述の説明では、複数の磁気センサセル220が、各軸方向に沿って等間隔に配列されている場合を一例として示した。しかしながら、これに限定されるものではない。複数の磁気センサセル220は、例えば、X軸方向、Y軸方向、および、Z軸方向の少なくともいずれか一つの軸方向において、それぞれ異なる間隔に配列されていてもよい。
【0031】
本図において、センサ部300x、300y、および300zにより検出する磁場の3軸方向と、磁気センサセル220を配列する三次元の方向とが同一方向である。これにより、測定磁場の分布の各成分の把握が容易となる。また、3つのセンサ部300x、300y、および300zは、各磁気センサセル220内において、磁気センサセル220を配列する三次元方向それぞれから見て互いに重ならず、かつ、3つのセンサ部300の間に設けるギャップ側に一端が設けられ、他端が当該ギャップから離れるように3軸方向の各軸方向に延伸して配置されていることが好ましい。一例として、本図において、磁気センサセル220の正面視左下の角部に空隙(ギャップ)が設けられ、センサ部300x、300y、および300zは、一端が当該空隙に接するように設けられ、他端が当該空隙から離れるようにX軸、Y軸、およびZ軸方向の各軸方向に延伸して配置されている例を示す。本図において、センサ部300x、300y、および300zが、立方体状の磁気センサセル220の一角部から互いに垂直な3辺に沿って配置され、該一角部に空隙が設けられている。しかしながら、検出する磁場の3軸方向と磁気センサセル220を配列する三次元の方向とは異なっていてもよい。例えば、検出する磁場の3軸方向としてX軸、Y軸、およびZ軸に代えて、極座標系のr軸、θ軸、およびφ軸を用いてもよい。また、磁気センサセル220を配列する三次元の方向として、X軸、Y軸およびZ軸に代えて、極座標系のr軸、θ軸、およびφ軸を用いてもよい。検出する磁場の3軸方向と磁気センサセル220を配列する三次元の方向とが異なる場合、磁気センサセル220内におけるセンサ部300の配置や、磁気センサセル220の配列方向に制約を受けることがなく、磁気センサアレイ210の設計の自由度を増すことができる。また、磁気センサセル220の角部にギャップを設けることなく、センサ部300x、300y、および300zが設けられてもよい。この場合、磁気センサセル220を小さく構成することができ、このため、このような複数の磁気センサセル220を有する磁気センサアレイ210を小型化することが可能となる。
【0032】
図4は、本実施形態に係る磁気抵抗素子を有する磁気センサの入出力特性の一例を示す。本図は、横軸が磁気センサに入力する入力磁場の大きさBを示し、縦軸が磁気センサの検出信号の大きさV_xMR0を示す。磁気センサは、例えば、巨大磁気抵抗(GMR:Giant Magneto-Resistance)素子またはトンネル磁気抵抗(TMR:Tunnel Magneto-Resistance)素子等を有し、予め定められた一軸方向の磁場の大きさを検出する。
【0033】
このような磁気センサは、入力磁場Bに対する検出信号V_xMR0の傾きである磁気感度が高く、10pT程度の微小な磁場を検出することができる。その一方で、磁気センサは、例えば、入力磁場Bの絶対値が1μT程度で検出信号V_xMR0が飽和してしまい、入出力特性の直線性が良好な範囲が狭い。そこで、このような磁気センサにフィードバック磁場を発生させる閉ループを加えると、磁気センサの直線性を改善することができる。このような磁気センサについて次に説明する。
【0034】
図5は、本実施形態に係るセンサ部300の構成例を示す。センサ部300は、複数の磁気センサセル220のそれぞれの内部に設けられ、磁気センサ520と、磁場生成部530と、出力部540と、を含む。なお、センサ部300の一部、例えば増幅回路532等は、磁気センサセル220側ではなくセンサデータ収集部230側に設けられてもよい。
【0035】
磁気センサ520は、図4で説明した磁気センサと同様に、GMR素子またはTMR素子等の磁気抵抗素子を有する。また、磁気センサ520のそれぞれは、磁気抵抗素子と磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板とを含み、磁気抵抗素子は、二つの磁気収束板に挟まれた位置に配置される。磁気センサ520が有する磁気抵抗素子は、感磁軸の正の方向を+X方向とした場合に、+X方向の磁場が入力すると抵抗値が増加し、-X方向の磁場が入力すると抵抗値が減少するように形成されてよい。即ち、磁気センサ520が有する磁気抵抗素子の抵抗値の変化を観測することにより、当該磁気センサ520に入力する磁場Bの大きさを検出することができる。例えば、磁気センサ520の磁気感度をSとすると、磁気センサ520の入力磁場Bに対する検出結果は、S×Bと算出できる。なお、磁気センサ520は、一例として、電源等が接続され、抵抗値の変化に応じた電圧降下を、入力磁場の検出結果として出力する。磁気センサ520の構成の詳細については後述する。
【0036】
磁場生成部530は、出力部540が出力する出力信号に応じた大きさで、磁気センサ520が検出した入力磁場を低減させるフィードバック磁場を発生させ、磁気センサ520に与える。磁場生成部530は、例えば、磁気センサ520に入力する磁場Bとは逆向きで、絶対値が当該入力磁場と略同一のフィードバック磁場B_FBを発生させ、入力磁場を打ち消すように動作する。磁場生成部530は、増幅回路532と、フィードバックコイル534とを含む。
【0037】
増幅回路532は、磁気センサ520の入力磁場の検出結果に応じた電流をフィードバック電流I_FBとして出力する。磁気センサ520が有する磁気抵抗素子が、少なくとも1つの磁気抵抗素子を含むブリッジ回路により構成される場合、増幅回路532の入力端子対には、ブリッジ回路の出力がそれぞれ接続される。そして、増幅回路532は、ブリッジ回路の出力に応じた電流をフィードバック電流I_FBとして出力する。増幅回路532は、例えば、トランスコンダクタンスアンプを含み、磁気センサ520の出力電圧に応じたフィードバック電流I_FBを出力する。例えば、増幅回路532の電圧・電流変換係数をGとすると、フィードバック電流I_FBは、G×S×Bと算出できる。
【0038】
フィードバックコイル534は、フィードバック電流I_FBに応じたフィードバック磁場B_FBを発生させる。フィードバックコイル534は、磁気センサ520が有する磁気抵抗素子および磁気抵抗素子の両端に配置された二つの磁気収束板を取り囲むように、磁気センサ520が検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれている。フィードバックコイル534は、磁気センサ520の全体にわたって均一のフィードバック磁場B_FBを発生させることが望ましい。例えば、フィードバックコイル534のコイル係数をβとすると、フィードバック磁場B_FBは、β×I_FBと算出できる。ここで、フィードバック磁場B_FBは、入力磁場Bを打ち消す向きに発生するので、磁気センサ520に入力する磁場は、B-B_FBに低減されることになる。したがって、フィードバック電流I_FBは、次式のように示される。
【数1】
【0039】
(数1)式をフィードバック電流I_FBについて解くと、センサ部300の定常状態におけるフィードバック電流I_FBの値を算出することができる。磁気センサ520の磁気感度Sおよび増幅回路532の電圧・電流変換係数Gが十分に大きいとすると、(数1)式から次式が算出される。
【数2】
【0040】
出力部540は、磁場生成部530がフィードバック磁場B_FBを発生するために流すフィードバック電流I_FBに応じた出力信号V_xMRを出力する。出力部540は、例えば、抵抗値Rの抵抗性素子を有し、当該抵抗性素子にフィードバック電流I_FBが流れることによって生じる電圧降下を出力信号V_xMRとして出力する。この場合、出力信号V_xMRは、(数2)式より次式のように算出される。
【数3】
【0041】
以上のように、センサ部300は、外部から入力する磁場を低減させるフィードバック磁場を発生するので、磁気センサ520に実質的に入力する磁場を低減させる。これにより、センサ部300は、例えば、磁気センサ520として図4に示した非線形性であり、動作磁場範囲が狭い特性を有する磁気抵抗素子を用い、入力磁場Bの絶対値が1μTを超えても、検出信号V_xMRが飽和することを防止できる。このようなセンサ部300の入出力特性を次に説明する。
【0042】
図6は、本実施形態に係るセンサ部300の入出力特性の一例を示す。本図は、横軸がセンサ部300に入力する入力磁場の大きさBを示し、縦軸がセンサ部300の検出信号の大きさV_xMRを示す。センサ部300は、磁気感度が高く、10pT程度の微小な磁場を検出することができる。また、センサ部300は、例えば、入力磁場Bの絶対値が100μTを超えても、検出信号V_xMRの良好な線形性を保つことができる。
【0043】
即ち、本実施形態に係るセンサ部300は、例えば、入力磁場Bの絶対値が数百μT以下といった、予め定められた入力磁場Bの範囲において、当該入力磁場Bに対する検出結果が線形性を有するように構成される。このようなセンサ部300を用いることにより、心磁信号のように微弱な磁気的信号を簡便に検出することができる。
【0044】
図7は、本実施形態に係る磁気センサ520の構成例を示す。本図において、磁気センサ520は、磁気抵抗素子710と、磁気抵抗素子710の両端に配置された磁気収束板720および730とを有する。磁気収束板720および730は、磁気抵抗素子710を間に挟むように、磁気抵抗素子710の両端に配置されている。本図において、磁気収束板720は、感磁軸に沿って磁気抵抗素子710の負側に設けられ、磁気収束板730は、感磁軸に沿って磁気抵抗素子710の正側に設けられている。なお、ここで、感磁軸は、磁気抵抗素子710を形成する磁化固定層において固定された磁化の方向に沿っていてよい。また、感磁軸の負側から正側に向かって磁場が入力されると、磁気抵抗素子710の抵抗は増加または減少してよい。磁気収束板720および730は、例えばパーマロイ等の透磁率の高い材料により形成される。そして、磁気センサ520が本図に示すように構成される場合、フィードバックコイル534は、磁気抵抗素子710と、磁気抵抗素子710の両端に配置された磁気収束板720および730との断面を取り囲むように、磁気センサ520が検出対象とする磁場の軸方向に沿って巻かれている。また、磁気センサ520は、1つの磁気センサ520内に複数の磁気抵抗素子710を有する場合、磁気抵抗素子およびその両端に配置された磁気収束板を含む組を複数有してもよい。その場合、磁気抵抗素子およびその両端に配置された磁気収束板を含む組を1つのコイルで取り囲むようにフィードバックコイル534が巻かれてもよい。
【0045】
このような磁気センサ520において、感磁軸の負側から正側に磁場が入力されると、透磁率の高い材料で形成された磁気収束板720および730が磁化されることにより、本図において破線で示すような磁束の分布が発生する。すると、磁気収束板720および730が磁化されることにより発生する磁束は、二つの磁気収束板720および730の間に挟まれた磁気抵抗素子710の位置を通過することとなる。このため、磁気抵抗素子710の位置における磁束密度は、磁気収束板720および730を配置することによって大幅に増加させることができる。また、本図のように、磁気収束板720および730に挟まれた狭い位置に配置された磁気抵抗素子710を用いて磁場の空間分布をサンプリングすることにより、空間におけるサンプリング点を明確にすることができる。
【0046】
図8は、本実施形態に係る磁気センサ520にフィードバック磁場を発生させた時の磁束分布を示す。図8においては、図7と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本実施形態に係る磁気センサ520において、フィードバックコイル534にフィードバック電流が供給されると、フィードバックコイル534がフィードバック磁場を発生させることにより、本図において一点鎖線で示すような磁束の分布が発生する。このフィードバック磁場により発生する磁束は、磁気抵抗素子710に入力され磁気収束板720および730によって磁気増幅された磁場の空間分布をキャンセルするように空間分布する。このため、磁気センサ520は、本図に示すように磁気抵抗素子710の両端に磁気収束板720および730が配置されている場合には、磁気抵抗素子710の位置における磁場分布をフィードバック磁場によって正確にキャンセルすることができるため、入力磁場と出力電圧との間の線形性が高いセンサを実現することができる。
【0047】
図9は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220の配置例を示す。図2および図3においては、磁気センサアレイ210が平面状である場合を一例として示した。しかしながら、磁気センサアレイ210は、本図に示すように、少なくとも一方向に湾曲させた曲面形状を有してもよい。そして、複数の磁気センサセル220を当該曲面形状に含まれる格子点に配置されるように三次元に配列して構成されてよい。一例として、磁気センサアレイ210は、複数の磁気センサセル220を断面視円弧状に三次元に配列して構成されてよい。なお、これより先、磁気センサアレイ210が曲面形状を有する場合について一例として説明するが、これに限定されるものではない。磁気センサアレイ210は、本図に示されるような曲面形状を有していなくてもよく、例えば、図2および図3に示されるように、平面状であってもよい。
【0048】
複数の磁気センサセル220は、被計測体の重心を中心として、被計測体の胸部に沿うように断面視円弧状に配列されてよい。この際、各磁気センサセル220は、三次元格子空間における曲面形状に含まれる格子点にそれぞれ配置されている。なお、ここで、格子点とは、X方向、Y方向およびZ方向にそれぞれ予め定められた間隔で等間隔に設けられた格子状の点である。一例として、各磁気センサセル220は、X方向、Y方向およびZ方向のいずれか一の方向から見たときに、一の方向に直交する方向に凸を有する曲面に沿うように配置されている。本図においては、各磁気センサセル220が、Y方向から見たときに、Z軸のプラス方向に凸を有する曲面に沿うように配置されている例を示す。そして、磁気センサアレイ210は、例えば、各磁気センサセル220の各頂点が、Z軸のプラス方向に凸を有する予め定められた曲面を超えない範囲で、できる限りZ軸のマイナス方向に配置されるように、各磁気センサセル220を三次元格子空間における格子点にそれぞれ配置することで、Z軸のプラス方向に凸を有する曲面形状を形成してよい。
【0049】
より詳細には、本図断面視において、内側(Z軸マイナス側)の複数の磁気センサセル220、すなわち、磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]が、符号910で示される磁気センサアレイ210の内接円の一部を形成するように、符号915の一点鎖線で示される円弧に沿って配列される。また、外側(Z軸プラス側)の複数の磁気センサセル220、すなわち、磁気センサセル220[1,j,2]~220[8,j,2]が、符号920で示される磁気センサアレイ210の外接円の一部を形成するように、符号925の二点鎖線で示される円弧に沿って配列される。
【0050】
これにより、磁気センサアレイ210は、心臓に対向する一方向だけでなく多方向にセンサ部を配置させることができ、心磁を多方向からセンシングすることができる。また、本実施形態に係る磁気センサアレイ210は、一例として磁気センサセル220を直方体状に形成しているため、磁気センサアレイ210の形状を容易に変更することができる。すなわち、本実施形態に係る磁気センサアレイ210は、磁気センサセル220を格子点に配置して構成可能な様々な形状を採ることができ、設計の自由度が高い。したがって、磁気センサアレイ210は、本図に示すように、複数の磁気センサセル220を三次元の空間において曲面形状に含まれる格子点に配置することで、三次元の空間において曲面形状を容易に形成することができる。そして、磁場計測装置10は、被計測体の胸部が曲面の中心側に位置するように、すなわち、計測対象磁場源である心臓が曲面の中心側に位置するように磁気センサアレイ210を配置して磁場を計測する。これにより、磁場計測装置10は、計測対象磁場源である心臓に近い位置で計測した計測データを用いて信号空間分離する(後述する)ことで、高精度に計測対象磁場と外乱磁場とを分離することができる。なお、この際、磁気センサアレイ210は、曲面の曲率が被計測体の胸部周りの曲率と略同等であると、計測対象磁場源である心臓により近い位置で磁場を計測できるため、好ましい。
【0051】
図10は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210における内側の磁気センサセル220が有するセンサ部300insideの構成を示す。図10においては、図5と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。本図に示すように、磁気センサアレイ210における内側の磁気センサセル220、すなわち、磁気センサアレイ210の内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]が有するセンサ部300insideは、切替部1010を更に有する。
【0052】
切替部1010は、磁場生成部530がフィードバック磁場を発生するか、キャリブレーション磁場を発生するかを切り替える。すなわち、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220のうちの少なくとも一つの磁気センサセル220は、磁場生成部530がフィードバック磁場を発生するか、キャリブレーション磁場を発生するかを切り替える切替部1010を更に有する。切替部1010は、より詳細には、スイッチにより構成され、スイッチの一端がフィードバックコイル534の一端に接続されている。そして、切替部1010は、フィードバックコイル534の一端に、増幅回路532の出力を入力させるか、後述するキャリブレーション用のクロック信号の周波数に応じた交流電流を入力させるかを切り替える。切替部1010が、フィードバックコイル534の一端にキャリブレーション用のクロック信号の周波数に応じた交流電流を入力させるように切り替えた場合、磁場生成部530は、フィードバックコイル534から、キャリブレーション磁場を発生させる。
【0053】
このようなキャリブレーション磁場は、交流磁場であってよい。一例として、キャリブレーション磁場は、周波数f0の正弦波であってもよいし、複数の周波数(例えば、周波数f0、周波数f1(>周波数f0)、および、周波数f2(>周波数f1)等)の正弦波の和であってもよい。磁場計測装置10が計測対象とする磁場の一つである心磁は、DC成分がない。したがって、磁場計測装置10は、交流磁場であるキャリブレーション磁場を用いて磁気センサのキャリブレーションを行うのみで、磁気センサのDCオフセットおよび非常に低周波数(例えば、0.1Hz以下)のオフセットドリフトに対する磁気センサのキャリブレーションを実施する必要がない。
【0054】
ここで、一般に、環境磁場は、周波数の高いところほど小さい。例えば、環境磁場は、50Hzよりも高い帯域においては、数十pTオーダーであり、これは、本実施形態に係る磁場計測装置10が計測対象とする磁場の一つである心磁のピークと同レベルである。したがって、磁場生成部530は、キャリブレーション磁場として、50Hzよりも高い周波数(周波数f0>50Hz)の交流磁場を発生させるとよい。すなわち、心磁の信号周波数は、ほとんどが20Hzより低いので、キャリブレーション磁場としての交流磁場の周波数は、計測対象とする磁場の周波数帯域よりも高くてよい。
【0055】
また、一般に、商用電源の周波数としては、例えば、50Hzや60Hzが用いられている。よって、これら商用電源の周波数の逓倍に電源ノイズが存在する。したがって、磁場生成部530は、交流磁場の周波数として、計測対象とする磁場の周波数よりも高い周波数であって、商用電源の周波数の逓倍を避けた周波数を用いるとよい。一例として、磁場生成部530は、キャリブレーション磁場の周波数として、50Hzよりも高い周波数であって、50Hzや60Hzの整数倍を避けた周波数を用いるとよい。これにより、環境磁場を数十pTオーダーに抑えることができるので、磁場生成部530は、環境ノイズが無視できる程度、例えば、数十nT程度の弱いキャリブレーション磁場を発生するだけで十分である。すなわち、交流磁場の周波数としてこのような周波数を用いることによって、磁場計測装置10は、キャリブレーション磁場として強い磁場を発生させる必要がない。
【0056】
また、このような交流磁場を用いてキャリブレーションを行う場合、渦電流の発生を抑える必要がある。そのため、キャリブレーション磁場を発生させるフィードバックコイル534の筐体は、電気伝導度の低い樹脂材料等により形成されるとよい。また、同様にキャリブレーション磁場を測定する磁気センサアレイ210を格納する筐体も、電気伝導度の低い樹脂材料等により形成されるとよい。
【0057】
図11は、本実施形態に係る磁気センサアレイ210、センサデータ収集部230、および、センサデータ処理部1100の構成を示す。
【0058】
磁気センサアレイ210は、各々が少なくとも1つのセンサ部300を有する複数の磁気センサセル220により構成され、磁気センサアレイ210全体として、3軸方向の入力磁場を検出可能である。本図においては、磁気センサアレイ210が、M個のセンサ部300[1]~300[M]を有する場合を一例として示している。
【0059】
そして、磁気センサアレイ210は、キャリブレーションを行う場合に、キャリブレーション用のクロック信号の周波数に応じた交流電流を受け取り、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220のうちの少なくとも一つの磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる。より詳細には、磁気センサアレイ210は、磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる少なくとも一つの磁気センサセル220を、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]にわたって1つずつ順次切り替え、キャリブレーション用のクロック信号の周波数に応じた交流電流を該当する磁気センサセル220が有するセンサ部300insideのフィードバックコイル534へ加えて、当該フィードバックコイル534からクロック信号の周波数に応じた交流磁場を順次発生させる。つまり、磁気センサアレイ210における複数のセンサ部300のうちの少なくとも一つのセンサ部300が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる。
【0060】
センサデータ収集部230は、複数のAD変換器232およびクロック発生器234を有する。複数のAD変換器232は、複数のセンサ部300[1]~300[M]のそれぞれに対応して設けられており、対応するセンサ部300が出力するアナログの検出信号(図6のV_xMR)をデジタルの計測データV[1]~V[M]にそれぞれ変換する。
【0061】
クロック発生器234は、サンプリングクロックを発生させ、共通のサンプリングクロックを複数のAD変換器232のそれぞれへ供給する。そして、複数のAD変換器232のそれぞれは、クロック発生器234から供給された共通のサンプリングクロックに応じてAD変換を行う。したがって、異なる位置に設けられた複数のセンサ部300[1]~300[M]の出力をそれぞれAD変換する複数のAD変換器232の全てが同期動作をする。これにより、複数のAD変換器232は、異なる空間に設けられた複数のセンサ部300[1]~300[M]の検出結果を同時にサンプリングすることができる。
【0062】
センサデータ処理部1100は、複数のセンサ部300[1]~300[M]のそれぞれに対応して設けられた複数の計測データ取得部1120、複数の同期検波部1130、複数のデータ出力部1140、ならびに、基底ベクトル記憶部1150、信号空間分離部1160、キャリブレーション用クロック発生部1170、誤差算出部1180、および、較正部1190を有する。
【0063】
計測データ取得部1120は、対応するセンサ部300に接続された複数のAD変換器232のそれぞれに接続され、磁気センサアレイ210が有する複数のセンサ部300[1]~300[M]によって計測された計測データV[1]~V[M]をそれぞれ取得する。具体的に、計測データ取得部1120は、AD変換器232によってデジタルに変換されたデジタルの計測データVを所定のタイミングTでラッチして取得するフリップフロップ等を用いて構成されてよい。計測データ取得部1120は、取得した計測データVを同期検波部1130へ供給する。
【0064】
同期検波部1130は、計測対象磁場を計測する場合に、計測データ取得部1120から供給された計測データVをそのままデータ出力部1140へ供給する。一方、同期検波部1130は、キャリブレーションを行う場合に、交流磁場であるキャリブレーション磁場を、交流磁場の周波数の信号を用いて検波する。一例として、同期検波部1130は、キャリブレーション用のクロック信号に応じて、キャリブレーション磁場を同期検波する。同期検波部1130は、同期検波において、例えば、キャリブレーション用のクロック信号の位相と各計測データV[1]~V[M]の位相の関係から各計測データV[1]~V[M]の符号の正負を決定してよい。そして、同期検波部1130は、計測データ取得部1120から供給された計測データVの中から、交流磁場であるキャリブレーション磁場に同期した周波数成分(信号強度と符号を含む)を取り出し、当該取り出した周波数成分に係る計測データVをデータ出力部1140へ供給する。ここで、このような同期検波は、ソフトウェア上で行われるものであってもよいし、ハードウェア上で行われるものであってもよい。また、上述の説明では、同期検波部1130が、同期検波を行ってキャリブレーション磁場に同期した周波数成分を取り出す場合について一例として示したが、FFTによる周波数分離(キャリブレーション磁場に同期した周波数成分を取り出すバンドパスフィルタ)等により、キャリブレーション磁場に同期した周波数成分を取り出してもよい。
【0065】
データ出力部1140は、複数の同期検波部1130のそれぞれから供給された計測データV[1]~V[M]を、各センサ信号成分Φ[1]~Φ[M]とした、センサアレイ信号Φを信号空間分離部1160に供給する。
【0066】
基底ベクトル記憶部1150は、信号空間分離部1160がセンサアレイ信号Φを信号分離するために必要な基底ベクトルを記憶し、これを信号空間分離部1160へ供給する。なお、基底ベクトル記憶部1150は、記憶する基底ベクトルを、較正部1190によって変更された基底ベクトルに順次更新する。これについては、後述する。
【0067】
信号空間分離部1160は、データ出力部1140からセンサアレイ信号Φの各成分として供給された計測データV[1]~V[M]によって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイ210で検出した場合に複数の磁気センサ520のそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する。この際、信号空間分離部1160は、信号分離に必要な基底ベクトルを、基底ベクトル記憶部1150から取得する。そして、信号空間分離部1160は、基底ベクトル記憶部1150から取得した基底ベクトルを用いて、計測データV[1]~V[M]によって示される磁場の空間分布を、計測対象磁場(信号源空間信号)と外乱磁場(外乱空間信号)とに信号分離し、外乱磁場を抑制して計測対象磁場を算出し、これを出力する。これについても、後述する。
【0068】
キャリブレーション用クロック発生部1170は、キャリブレーションを行う場合に、交流のキャリブレーション磁場を発生させるためのクロック信号およびその周波数に応じた交流電流を発生させる。そして、キャリブレーション用クロック発生部1170は、発生させたクロック信号を、磁気センサアレイ210および複数の同期検波部1130のそれぞれへ供給する。これに応じて、磁気センサアレイ210は、磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる少なくとも一つの磁気センサセル220を、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]にわたって1つずつ順次切り替え、該当する磁気センサセル220が有するセンサ部300insideのフィードバックコイル534からクロック信号の周波数に応じた交流磁場を順次発生させる。また、複数の同期検波部1130は、当該クロック信号に応じて、少なくとも一つの磁気センサセルが有する磁場生成部530が発生させる交流のキャリブレーション磁場をそれぞれ検波する。なお、上述の説明では、キャリブレーション用クロック発生部1170がセンサデータ処理部1100の内部に設けられている場合を一例と示したが、キャリブレーション用クロック発生部1170は、例えば、センサデータ収集部230の内部に構成されていてもよい。
【0069】
誤差算出部1180は、キャリブレーションを行う場合に、複数の磁気センサセル220のうちの少なくとも一つの磁気センサセル220が有する磁場生成部530から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号空間分離部1160が信号分離した場合における分離誤差を算出する。そして、誤差算出部1180は、算出した分離誤差を較正部1190へ供給する。
【0070】
較正部1190は、複数の磁気センサセル220のうちの少なくとも一つの磁気センサセル220が有する磁場生成部530から発生させたキャリブレーション磁場の空間分布を信号分離した場合における分離誤差に基づいて、磁気センサ520におけるセンサ誤差を較正する。より詳細には、較正部1190は、磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる少なくとも一つの磁気センサセル220を、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]にわたって順次切り替えた場合におけるそれぞれの分離誤差に基づいて、磁気センサ520におけるセンサ誤差を較正する。この際、較正部1190は、信号空間分離部1160が用いる基底ベクトルを変更することによってセンサ誤差を較正する。そして、較正部1190は、変更した基底ベクトルに関する情報を基底ベクトル記憶部1150へ供給する。これに応じて、基底ベクトル記憶部1150は、記憶する基底ベクトルを更新する。これについて、数式を用いて詳細に説明する。
【0071】
図12は、本実施形態に係る磁場計測装置10が磁場の空間分布を信号分離するフローを示す。ステップ1210において、基底ベクトル記憶部1150は、基底ベクトルを記憶する。一例として、基底ベクトル記憶部1150は、磁気センサアレイ210が各センサの誤差が無く理想的に作られたものと仮定してシミュレーションした結果により予め決められている信号ベクトルを、初期の基底ベクトルとして記憶してよい。また、基底ベクトル記憶部1150は、後述するように、較正部1190によってセンサ誤差が較正された場合、変更された更新後の基底ベクトルを記憶してよい。
【0072】
次に、ステップ1220において、信号空間分離部1160は、磁気センサアレイ210によって計測されたセンサアレイ信号Φ、すなわち、計測データV[1]~V[M]を、データ出力部1140から取得する。
【0073】
また、ステップ1230において、信号空間分離部1160は、ステップ1210において基底ベクトル記憶部1150が基底ベクトルとして記憶した信号ベクトルを、基底ベクトル記憶部1150から取得する。なお、本フローにおいて、ステップ1220とステップ1230とはどちらが先に行われてもよい。
【0074】
ステップ1240において、信号空間分離部1160は、ステップ1220において取得した計測データV[1]~V[M]によって示される磁場の空間分布を、ステップ1230において取得した信号ベクトルを基底ベクトルとして利用して級数展開する。そして、信号空間分離部1160は、級数展開によって得られたベクトルから、磁場の空間分布を計測対象磁場と外乱磁場とに信号分離する。すなわち、信号空間分離部1160は、計測データV[1]~V[M]によって示される入力磁場の空間分布を、正規直交関数の空間分布を持つ磁場を磁気センサアレイ210で検出した場合に磁気センサ520のそれぞれが出力する信号を各信号成分として有するベクトル信号を基底ベクトルとして信号分離する。ここで、正規直交関数は球面調和関数であってよい。また、信号空間分離部1160は、信号分離するにあたって、基底ベクトルの係数を最小2乗法により計算する。
【0075】
そして、ステップ1250において、信号空間分離部1160は、ステップ1240において信号分離した結果に基づいて、外乱磁場を抑制して計測対象磁場だけを算出して出力し、処理を終了する。以下、これについて詳細に説明する。
【0076】
磁気センサアレイ210を構成する各センサが配置される位置に関して、座標原点からの位置を表す位置ベクトルrの位置において、電流i(r)=0であるとき、静磁場B(r)は、ラプラス方程式Δ・V(r)=0を満たすポテンシャルV(r)を用いて、次式のように、ポテンシャルV(r)の空間勾配(gradient)として求められる。ここで、Δはラプラシアンであり、μは透磁率であり、∇はベクトル微分演算を表す演算子である。
【数4】
【0077】
そして、ラプラス方程式の解は、一般に、正規直交関数系である球面調和関数Yl,m(θ,φ)を使った級数展開の形での解を持つため、ポテンシャルV(r)は次式で表すことができる。ここで、|r|は位置ベクトルrの絶対値(座標原点からの距離)であり、θおよびφは球座標における2つの偏角であり、lは方位量子数であり、mは磁気量子数であり、αおよびβは多極モーメントであり、LinおよびLoutはそれぞれ被計測体から見て磁気センサアレイ210の手前の空間と奥の空間のそれぞれについての級数の数である。方位量子数lは正の整数をとり、磁気量子数mは-lから+lまでの整数をとる。すなわち、例えばlが1のとき、mは-1、0、および1であり、例えばlが2のとき、mは-2、-1、0、1、および2である。なお、磁場においては単磁極が存在しないことから、(数5)において方位量子数lは、0からではなく1から始まっている。(数5)における第1項は、座標原点からの距離に反比例する項であり、被計測体から見て磁気センサアレイ210の手前の空間に存在するポテンシャルを示している。また、(数5)における第2項は、座標原点からの距離に比例する項であり、被計測体から見て磁気センサアレイ210の奥の空間に存在するポテンシャルを示している。
【数5】
【0078】
したがって、(数4)および(数5)によれば、静磁場B(r)は、次式で表すことができる。ここで、(数6)における第1項は、被計測体から見て磁気センサアレイ210の手前の空間に存在する磁場源、すなわち、例えば、心臓の電気活動が作る心磁(計測対象磁場)を示している。また、(数6)における第2項は、被計測体から見て磁気センサアレイ210の奥の空間に存在する磁場源が作る外乱磁場を示している。
【数6】
【0079】
球面調和関数を使った級数展開の形でラプラス方程式の解を表した場合、その一般解は無限級数となるが、生体磁場を計測するのに十分なSNR(信号ノイズ比、すなわち、外乱磁場及びセンサノイズに対する測定対象磁場信号の比)が得られればよく、実際には10項程度の級数で表せば十分であると言われている。また、脳磁計における信号空間分離の級数については、Lin=8、Lout=3程度でよいと言われている。したがって、本実施形態においても、Lin=8、Lout=3の場合を一例として説明する。しかしながら、LinおよびLoutの値は、これに限定されるものではなく、外乱磁場を十分抑制し測定対象磁場だけを算出するのに十分な、いかなる数値であってもよい。
【0080】
ここで、センサアレイ信号Φは、M次元のベクトルからなり、ベクトルの各信号成分は、各センサ部300の磁気センサ520が配置された位置ベクトルr[m]における磁場ベクトルB(r[m])と、各磁気センサ520の磁気感度ベクトルS[m]の内積となる。したがって、各磁気センサ520について、それぞれが設計されたとおりの磁気感度ベクトルSIdeal[m]=(SIdeal[m],x、 SIdeal[m],y、 SIdeal[m],z)を持ち、設計されたとおりの位置に配置された場合、理想的なセンサアレイ信号ΦIdealは、次式で表される。
【数7】
【0081】
すなわち、センサ誤差(各センサの他軸感度や主軸感度に起因する磁気感度誤差、および、磁気センサアレイ210の組立時における各センサの配置位置のずれによる位置誤差等)の無い理想的な各センサ信号成分ΦIdeal[m]は、次式で表される。
【数8】
【0082】
したがって、各磁気センサ520においてセンサ誤差の無い理想的な場合において、基底ベクトルaIdeal l,mおよびbIdeal l,mは、次式のように定義される。
【数9】
【0083】
ここで、各磁気センサ520においてセンサ誤差の無い理想的な場合において、AIdeal、BIdeal、Xin、およびXoutをそれぞれ次のように定義する。すなわち、AIdealを、l=1からL=Linまで、各lにおいてm=-lからlまでの整数をとった時の各ベクトルaIdealを順に列に並べた、計Lin・(Lin+2)列のベクトルと定義する。また、BIdealを、l=1からL=Loutまで、各lにおいてm=-lからlまでの整数をとった時の各ベクトルbIdealを順に列に並べた、計Lout・(Lout+2)列のベクトルと定義する。また、Xinを、l=1からl=Linまで、各lにおいてm=-lからlまでの整数をとった時の各多極モーメントαを順に列に並べたベクトルを転置した、計Lin・(Lin+2)行のベクトルと定義する。また、Xoutを、l=1からl=Loutまで、各lにおいてm=-lからlまでの整数をとった時の各多極モーメントβを順に並べたベクトルを転置した、計Lout・(Lout+2)行のベクトルと定義する。
【数10】
【0084】
そうすると、理想的な磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号ΦIdealは、次式に示すように、理想的な基底ベクトル行列[A B]Idealと縦ベクトルXの内積の形で表すことができる。ここで、理想的な基底ベクトル行列[A B]Idealは、基底ベクトルを示し、例えば、ステップ1230において、信号空間分離部1160が基底ベクトル記憶部1150から取得したものである。また、縦ベクトルXは、基底ベクトルに係る係数を示す。
【数11】
【0085】
信号空間分離部1160は、ステップ1240において、この(数11)で得られたモデル式に基づいて、次式を用いて、ΦIdeal=[A B]Ideal・Xを最小2乗近似で満たす縦ベクトル^XIdeal(ここで、「^Xideal」は、(数12)における左辺を示し、XIdealのハット(推定値)を意味するものとする。)を決定する。
【数12】
【0086】
したがって、信号空間分離部1160は、最小2乗解のM次元ベクトルとして、理想的な磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号のハット^ΦIdealを、次式により表すことができる。これにより、信号空間分離部1160は、ステップ1240において、磁場の空間分布を解くことができる。
【数13】
【0087】
そして、ステップ1250において、信号空間分離部1160は、ステップ1240において決定した縦ベクトルを用いて、^Xout・BIdealを減少させて外乱磁場成分、すなわち、(数6)における第2項の成分を抑制した結果を出力する。信号空間分離部1160は、^Xin・AIdealだけを結果として出力することで、外乱磁場成分を抑制して、計測対象磁場成分、すなわち、(数6)における第1項の成分だけを出力してもよい。つまり、信号空間分離部1160は、外乱磁場成分と計測対象磁場成分とに信号空間分離している。
【0088】
これにより、本実施形態に係る磁場計測装置10によれば、複数の磁気センサセル220を有し、3軸方向の入力磁場を検出可能な磁気センサアレイ210を用いて計測された計測データV[1]~V[M]によって示される磁場の空間分布を、計測対象磁場と外乱磁場とに信号分離することができる。また、磁場計測装置10は、外乱磁場成分を抑制して計測対象磁場成分だけを出力するので、計測対象磁場をより高精度に計測することができる。また、複数のセンサ部300がそれぞれ磁気収束板を有するので、センサ部300の磁気感度を高めるとともに、空間サンプリング点を明確化することができ、信号空間分離技術との親和性をより高めることができる。
【0089】
図13は、磁気センサアレイ210が理想的に作られている場合において、理想的な基底ベクトル[A B]Idealを使用した信号空間分離演算を幾何学的に示す。符号1310は、理想的な磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号ΦIdealを示す。符号1320は、理想的な基底ベクトルAIdealによって張られる線形部分空間Span{AIdeal}を示す。符号1330は、理想的な基底ベクトルBIdealによって張られる線形部分空間Span{BIdeal}を示す。符号1340は、線形部分空間Span{AIdeal}と線形部分空間Span{BIdeal}の線形和となる理想的な基底ベクトル[A B]Idealによって張られる線形部分空間を示す。符号1350は、最小2乗解のM次元ベクトルを示す。本図に示すように、磁気センサアレイ210が理想的に作られている、すなわち、センサ誤差無しに作られている場合、理想的な磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号ΦIdealは、理想的な基底ベクトル[A B]Idealによって張られる線形部分空間の中に存在している。つまり、(数11)の方程式が高精度に成立しており、信号空間分離部1160は、磁気センサアレイ210が検出した磁場に対して、対象磁場成分と外乱磁場成分とに信号空間分離を正確に行うことができている。
【0090】
しかしながら、実際の各センサ部300からのセンサ信号成分ΦUncalib[m]は、各磁気センサ520の磁気感度誤差を含んだ磁気感度ベクトルSUncalib[m]=(SUncalib[m],x、SUncalib[m],y、SUncalib[m],z)を用いて表される。つまり、磁気センサアレイ210は、各磁気センサ520について、磁気感度ベクトルSIdeal[m]=(SIdeal[m],x、 SIdeal[m],y、 SIdeal[m],z)を想定して作られているが、実際にはそこからずれた未知の磁気感度ベクトルSUncalib[m]=(SUncalib[m],x、SUncalib[m],y、SUncalib[m],z)を持ったものとして出来上がってしまう。
【0091】
すなわち、磁気感度誤差を持った各センサ信号成分ΦUncalib[m]は、次式で表されることとなる。
【数14】
【0092】
こうして、磁気感度誤差を持って出来上がった磁気センサアレイ210によって計測されたセンサアレイ信号ΦUncalibに対して、想定していた理想的な基底ベクトル[A B]Idealを使用して、次式の方程式を立てるとする。
【数15】
【0093】
そうすると、(数15)で得られたモデル式に基づいて、縦ベクトル^XUncalibを次式により決定したとしても、不正確な方程式の解となってしまう。
【数16】
【0094】
この場合、最小2乗解のM次元ベクトルとして、磁気感度誤差を持った磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号のハット^ΦUncalibは、次式により示されるものとなる。
【数17】
【0095】
図14は、磁気センサアレイ210がセンサ誤差を持って作られている場合において、理想的な基底ベクトル[A B]Idealを使用した信号空間分離演算を幾何学的に示す。図14においては、図13と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。符号1410は、センサ誤差を持つ磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号ΦUncalibを示す。符号1450は、最小2乗解のM次元ベクトルを示す。本図に示すように、磁気センサアレイ210がセンサ誤差を持つ場合、センサアレイ信号ΦUncalibは、理想的な基底ベクトル[A B]Idealによって張られる線形部分空間の中には存在しないものとなる。
【0096】
このとき、符号1410で示されるセンサアレイ信号ΦUncalibと符号1450で示される最小2乗解のM次元ベクトル^ΦUncalibとの間には、分離誤差、すなわち、符号1460で示される誤差ベクトルε、および、符号1470で示される誤差角度γが生じる。ここで、誤差ベクトルε、および、誤差角度γは、次式で示される。
【数18】
【0097】
このように、実際の磁気センサアレイ210が持つセンサ誤差に起因して、信号空間分離演算における誤差ベクトルεが有限なベクトル(零ベクトルでない)として発生している。したがって、(数15)の方程式が高精度に成立しておらず、(数16)に示す方程式の解が不正確となる。すなわち、信号空間分離部1160は、磁気センサアレイ210が検出した磁場に対して、対象磁場成分と外乱磁場成分とに信号空間分離を正確に行うことができない。
【0098】
そこで、本実施形態に係る磁場計測装置10は、このような信号空間分離演算を行った場合における分離誤差を低減するように、磁気センサ520におけるセンサ誤差を較正(キャリブレーション)する。
【0099】
図15は、本実施形態に係る磁場計測装置10がキャリブレーション用のセンサアレイ信号Φ(i,j,1)を取得するフローを示す。ここで、iは、磁気センサアレイ210における磁気センサセル220のX方向の位置を示し、1≦i≦Nx(ただし、NxはX方向に配列された磁気センサセル220の個数を示す。)を満たす整数である。また、jは、磁気センサアレイ210における磁気センサセル220のY方向の位置を示し、1≦j≦Ny(ただし、NyはY方向に配列された磁気センサセル220の個数を示す。)を満たす整数である。また、kは、磁気センサアレイ210における磁気センサセル220のZ方向の位置を示し、本フローにおいて、zは1に固定されている。また、本フローおよび後述する図16のフローの説明においては、M個のセンサ部300のうち内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220に含まれるM/2個のセンサ部300が順次キャリブレーション磁場を発生させ、磁場を発生させていない残りのM-1個のセンサ部300で計測する例を示す。しかしながら、キャリブレーション磁場を発生させるセンサ部300の個数は、この個数に限るものではなく、キャリブレーションを行うパラメータに応じて1個から実現可能である(例えば位置座標の1成分の較正など)。また、キャリブレーションパラメータと基底ベクトルの次元に応じて、磁場を計測するセンサ数も変更可能であり、基底ベクトルを形成するために必要な数個から磁場を発生させていないM-1個のセンサ数とすることができる。また、磁場を発生させていないM-1個のセンサ部300で計測を行ったとしても、センサ誤差の較正対象とするセンサ部300の個数はM-1個よりも少なくてよい。例えば、キャリブレーション磁場を発生させないM/2個のセンサ部300を対象としてセンサ誤差を較正してよい。
【0100】
ステップ1510において、磁場計測装置10は、セルアドレスを初期化する。一例として、磁場計測装置10は、iに1を代入し、jに1を代入し、kに1を代入する。すなわち、磁場計測装置10は、キャリブレーション磁場を発生させる1番目の磁気センサセル220として、磁気センサセル220[1,1,1]を指定する。
【0101】
ステップ1520において、磁場計測装置10は、磁気センサセル220[i,j,1]、例えば、ステップ1510の次に続くステップ1520においては磁気センサセル[1,1,1]、が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる。すなわち、磁場計測装置10は、磁気センサセル220[i,j,1]のセンサ部300における切替部1010をキャリブレーションモードに切り替え、フィードバックコイル534の一端に、キャリブレーション用クロック発生部1170から供給されたキャリブレーション用のクロック信号の周波数に応じた交流電流を入力させる。そして、磁場計測装置10は、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534からクロック信号の周波数に応じた交流磁場を発生させる。このとき、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534が発生するキャリブレーション磁場は、磁気双極子から生成される磁場に近いものとなる。そして、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534が発生するキャリブレーション磁場は、(数6)における第1項の成分に対応する。この際、フィードバックコイル534から比較的強度が強い交流磁場を発生させることにより、キャリブレーション時に(数6)における第2項の成分、すなわち、外乱磁場による影響を無視することができる。
【0102】
ステップ1530において、磁場計測装置10は、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534からキャリブレーション磁場を発生させた場合における、センサアレイ信号Φ(i,j,1)を取得する。より詳細には、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534からキャリブレーション磁場を発生させた場合において、計測データ取得部1120が、磁気センサアレイ210が有する複数のセンサ部300[1]~300[M]、ただし、キャリブレーション磁場を発生させたセンサ部300[P](ここで、Pは1≦P≦Mである整数とする)を除く、(M-1)個のセンサ部300によって計測された計測データV[1]~V[M]をそれぞれ取得する。そして、同期検波部1130が、キャリブレーション用クロック発生部1170から供給されたキャリブレーション用のクロック信号を受け取り、当該クロック信号に応じて、キャリブレーション磁場を同期検波する。そして、同期検波部1130が、計測データV[1]~V[M]の中から、交流磁場であるキャリブレーション磁場に同期した周波数成分を取り出し、当該取り出した周波数成分に係る計測データV[1]~V[M]をそれぞれデータ出力部1140へ供給する。そして、データ出力部1140が、同期検波部1130から供給された計測データV[1]~V[M]を、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534からキャリブレーション磁場を発生させた場合における、キャリブレーション磁場を発生させたセンサ部300[P]を除く複数(すなわち、M-1個)のセンサ部300[1]~300[M]からの各センサ信号成分Φ[1]~Φ[M](Φ[P]を除く)とした、キャリブレーション用のセンサアレイ信号Φ(i,j,1)を信号空間分離部1160へ供給する。これにより、信号空間分離部1160は、磁気センサセル220[i,j,1]が有するフィードバックコイル534からキャリブレーション磁場を発生させた場合におけるキャリブレーション用のセンサアレイ信号Φ(i,j,1)を取得する。
【0103】
ステップ1540において、磁場計測装置10は、iがNxに等しいか否か判定する。すなわち、磁場計測装置10は、X方向に配列された全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させたか否か判定する。iがNxに等しいと判定された場合、すなわち、X方向に配列された全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させたと判定された場合、磁場計測装置10は、処理をステップ1560に進める。
【0104】
一方、ステップ1540において、iがNxに等しくないと判定された場合、すなわち、X方向に配列された全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させていないと判定された場合、磁場計測装置10は、ステップ1550において、iをインクリメントしてi=i+1とし、処理をステップ1520に戻して、フローを継続する。
【0105】
ステップ1560において、磁場計測装置10は、jがNyに等しいか否か判定する。すなわち、磁場計測装置10は、Y方向に配列された全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させたか否か判定する。jがNyに等しいと判定された場合、すなわち、Y方向に配列された全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させたと判定された場合、磁場計測装置10は、キャリブレーション用のセンサアレイ信号Φ(i,j,1)を取得するフローを終了する。
【0106】
一方、ステップ1560において、jがNyに等しくないと判定された場合、すなわち、Y方向に配列された全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させていないと判定された場合、磁場計測装置10は、ステップ1570において、jをインクリメントしてj=j+1とし、処理をステップ1520に戻して、フローを継続する。
【0107】
これにより、磁場計測装置10は、i=1からi=Nxまで、および、j=1からj=Nyまで、k=1、すなわち、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220に含まれるM/2個のセンサ部300が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させた場合における、キャリブレーション用のアレイ信号Φ(i,j,1)をそれぞれ取得する。
【0108】
図16は、本実施形態に係る磁場計測装置10がキャリブレーションを行うフローを示す。本フローにおいては、キャリブレーション磁場を発生させないM/2個のセンサ部300を対象としてセンサ誤差を較正する例を示す。ステップ1610において、磁場計測装置10は、Cに1を代入する。ここで、Cは、キャリブレーションの実行回数を意味し、1からキャリブレーションの実行回数の上限であるMAX_COUNTまでの整数を示す。
【0109】
ステップ1620において、磁場計測装置10は、分離誤差を算出する。より詳細には、信号空間分離部1160は、1≦i≦Nx、および、1≦j≦Nyについて、キャリブレーション用のセンサアレイ信号Φ(i,j,1)に対して信号空間分離をそれぞれ行う。この際、ステップ1610に続くステップ1620においては、信号空間分離部1160は、(数15)に示す方程式から(数16)に示す方程式の解を決定する。この際、信号空間分離部1160は、キャリブレーション磁場の空間分布を信号分離するにあたって、磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる少なくとも一つの磁気センサセル220が有する磁場生成部530が配置される位置を、演算における座標の原点とする。すなわち、信号空間分離部1160は、センサアレイ信号Φ(1,1,1)を信号分離するにあたって、磁気センサセル220[1,1,1]が有する磁場生成部530が配置される位置を、演算における座標の原点とする。同様に、信号空間分離部1160は、センサアレイ信号Φ(i,j,1)を信号分離するにあたって、磁気センサセル220[i,j,1]が有する磁場生成部530が配置される位置を、例えば磁場生成部530のフィードバックコイル534の中心位置を、演算における座標の原点とする。このように、n番目(nは1からM/2までの整数)の磁気センサセル220が有する磁場生成部530(n)からキャリブレーション磁場を発生させる場合において、信号空間分離部1160は、磁場生成部530(n)からキャリブレーション磁場を発生させたときのセンサアレイ信号Φ(n)(Φ(i,j,1)に等しい。以降n番目の磁場生成部530(n)からの磁場を計測したセンサアレイ信号ΦをΦ(n)と略記する)に対して信号空間分離演算および誤差εの算出を行うにあたって、磁場生成部530(n)が配置される位置に、信号空間分離演算における座標原点を順次一致させながら計算を行う。これにより、磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210が有するセンサ部300における各磁気センサ520のキャリブレーションを大幅に簡略化し、キャリブレーションのパラメータの収束を早めることができる。そして、誤差算出部1180は、(数18)に基づいて、i=1からi=Nxまで、および、j=1からj=Nyまで、k=1、すなわち、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220に含まれるM/2個のセンサ部300が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させた場合について、分離誤差として、誤差ベクトルε(n)、および、誤差角度γ(n)の少なくともいずれか一方をそれぞれ算出する。
【0110】
ステップ1630において、磁場計測装置10は、分離誤差が予め定められたしきい値を超えるか否か判定する。例えば、磁場計測装置10は、M/2個の分離誤差の2乗和が予め定められたしきい値を超えるか否か判定する。すなわち、磁場計測装置10は、i=1からi=Nxまで、および、j=1からj=Nyまで、k=1、すなわち、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220に含まれるM/2個のセンサ部300が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させた場合についての誤差ベクトルε(n)の2乗和、および、誤差角度γ(n)の2乗和の少なくともいずれか一方が、予め定められたしきい値を超えるか否か判定する。分離誤差がしきい値を超えていないと判定された場合、磁場計測装置10は、キャリブレーションが完了したものとして処理を終了する。
【0111】
一方、ステップ1630において、分離誤差が予め定められたしきい値を超えていると判定された場合、磁場計測装置10は、ステップ1640において、センサ誤差を較正する。すなわち、例えば、1番目からM/2番目までのセンサ部300が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させた場合に、磁場計測装置10は、当該1番目の磁気センサセル220におけるセンサ部300からのセンサ信号成分を除く、M/2個のセンサアレイ信号Φ(1)~Φ(M/2)を用いて、当該M/2個のセンサ部300を対象としてセンサ誤差を較正する。例えば、較正部1190は、目的関数としての分離誤差、すなわち、誤差ベクトルε(n)、および、誤差角度γ(n)の少なくとも何れか一方をゼロにするように、M/2+1≦m≦Mについて、磁気感度ベクトルSCalib[m]を最適化する。この際、較正部1190は、例えば、Stochastic annealing等の計算機科学の手法を用いてよい。ここで、キャリブレーション後における基底ベクトルは、次式のように表される(簡便のため、M次元ベクトルとして記載)。このように、較正部1190は、磁気感度ベクトルSCalib[m]を最適化することによって、分離誤差を最小化するように基底ベクトルを変更する。
【数19】
【0112】
ステップ1650において、磁場計測装置10は、CがMAX_COUNTに等しいか否か判定する。すなわち、磁場計測装置10は、キャリブレーションの実行回数が上限回数であるか否か判定する。
【0113】
CがMAX_COUNTに等しい場合、すなわち、キャリブレーションの実行回数が上限回数であった場合、磁場計測装置10は、ステップ1660においてキャリブレーションの実行をタイムアウトして処理を終了する。この際、磁場計測装置10は、例えば、キャリブレーションがタイムアウトした旨を報知してもよい。
【0114】
一方、CがMAX_COUNTに等しくない場合、磁場計測装置10は、ステップ1670において、CをインクリメントしてC=C+1とし、nを初期化してn=1として、処理をステップ1620に戻してフローを継続する。なお、ステップ1670に続くステップ1620においては、信号空間分離部1160は、(数16)に代えて、次式により方程式の解を決定すればよい。
【数20】
【0115】
また、信号空間分離部1160は、次式により、最小2乗解ベクトルとして、センサ誤差を持った磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号のハット^ΦCalibを決定すればよい。
【数21】
【0116】
そして、信号空間分離部1160は、(数18)と同様の手法により、センサアレイ信号ΦCalibと最小2乗解ベクトル^ΦCalibとの間の分離誤差を算出すればよい。
【0117】
このように、本実施形態に係る磁場計測装置10によれば、磁気センサアレイ210をキャリブレーションするにあたって、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220のうちの少なくとも一つの磁気センサセル220が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる。すなわち、磁気センサアレイ210における複数のセンサ部300のうちの少なくとも1つのセンサ部300が有する磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる。したがって、磁場計測装置10は、キャリブレーション磁場を発生させるための装置(コイル等)を磁気センサアレイ210の他に別途設ける必要がない。また、本実施形態に係る磁場計測装置10によれば、磁場生成部530からキャリブレーション磁場を発生させる少なくとも一つの磁気センサセル220を、内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]にわたって順次切り替えた場合におけるそれぞれの分離誤差に基づいて、磁気センサアレイ210をキャリブレーションする。したがって、磁場計測装置10は、キャリブレーション磁場を発生させるコイルと、較正の対象となる磁気センサ520との間の距離を低減させることができ、磁気センサ520に入力されるキャリブレーション磁場を相対的に強くすることができる。これにより、磁場計測装置10は、キャリブレーション演算におけるSNRを改善することができる。また、磁場計測装置10は、内側の円弧915を形成する全ての複数の磁気センサセル220が有する磁場生成部530のそれぞれからキャリブレーション磁場を発生させるので、磁気センサアレイ210をキャリブレーションするために用いるキャリブレーション磁場として、磁気センサアレイ210における位置や磁場の方向に関して偏りが少ない磁気双極子磁場を発生させることができる。
【0118】
なお、上述の説明においては、磁場計測装置10が、磁気センサアレイ210の内側の円弧915を形成する複数の磁気センサセル220に含まれるM/2個のセンサ部300が有する磁場生成部530を順次切り替えてキャリブレーション磁場を発生させる場合を一例として示したが、これに限定されるものではない。磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210の内側に位置する磁気センサセル220に加えて、外側に位置する磁気センサセル220に含まれるM/2個のセンサ部300を順次切り替えてキャリブレーション磁場を発生させてもよい。すなわち、磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210における全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530を順次切り替えてキャリブレーション磁場を発生させてもよい。なお、磁気センサアレイ210の内側に位置する磁気センサセル220が有する磁場生成部530を順次切り替えてキャリブレーション磁場を発生させる場合、上述したように、キャリブレーション時に(数6)における第2項の成分を無視することができる。一方、磁気センサアレイ210の外側の円弧925を形成する複数の磁気センサセル220を順次切り替えてキャリブレーション磁場を発生させる場合、キャリブレーション時に(数6)における第1項の成分を無視することができる。
【0119】
その場合、磁場計測装置10は、全ての磁気センサセル220が有する磁場生成部530を順次切り替えながら、上述のように、較正パラメータの数と基底ベクトルの次元数に応じて、キャリブレーション磁場を発生させたセンサ部300[P]を除く、(M-1)個のセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正することで、M個のセンサ部300の全てについてセンサ誤差を較正してもよい。
【0120】
これに代えて、磁場計測装置10は、内側に位置するM/2個のセンサ部300を有する磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、外側に位置するM/2個の磁気センサセル220[1,j,2]~220[8,j,2]のセンサ部300のみを対象としてセンサ誤差を順次較正してもよい。同様に、磁場計測装置10は、外側に位置するM/2個のセンサ部300を有する磁気センサセル220[1,j,2]~220[8,j,2]を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、内側に位置するM/2個の磁気センサセル220[1,j,1]~220[8,j,1]のセンサ部300のみを対象としてセンサ誤差を順次較正してもよい。すなわち、内側に位置するM/2個の磁気センサセル220のセンサ部300と外側に位置するM/2個の磁気センサセル220のセンサ部300の両方すべてのセンサ誤差を分割して較正してよい。
【0121】
また、上述の説明では、磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220を、内側の磁気センサセル220群と外側の磁気センサセル220群とに分類して制御する場合を一例として示したが、これに限定されるものではない。例えば、磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220を、被計測体から見て左側の磁気センサセル220[1,j,1]~220[4,j,2]群と右側の磁気センサセル220[5,j,1]~220[8,j,2]群とに分けて、上記と同様に制御してもよい。すなわち、磁場計測装置10は、左側に位置するM/2個のセンサ部300を有する磁気センサセル220[1,j,1]~220[4,j,2]を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、右側に位置するM/2個の磁気センサセル220[5,j,1]~220[8,j,2]のセンサ部300のみを対象としてセンサ誤差を順次較正してもよい。同様に、磁場計測装置10は、右側に位置するM/2個のセンサ部300を有する磁気センサセル220[5,j,1]~220[8,j,2]を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、左側に位置するM/2個の磁気センサセル220[1,j,1]~220[4,j,2]のセンサ部300のみを対象としてセンサ誤差を順次較正してもよい。
【0122】
このように、磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220を、第1の磁気センサセル220群と第2の磁気センサセル220群とに分類し、第1の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、第2の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正し、第2の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、第1の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正してもよい。
【0123】
なお、磁場計測装置10は、一方の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、他方の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正するにあたって、一方の磁気センサセル220群における全ての磁気センサセル220からキャリブレーション磁場を発生させなくてもよい。すなわち、磁場計測装置10は、第1の磁気センサセル220群における一部の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、第2の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正してよい。同様に、磁場計測装置10は、第2の磁気センサセル220群における一部の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、第1の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正してよい。
【0124】
また、上述の説明では、磁場計測装置10が磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220を2つの群に分類する場合を一例として示したが、これに限定されるものではない。磁場計測装置10は、例えば、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220を3つの群に分類してもよい。例えば、磁場計測装置10は、磁気センサアレイ210における複数の磁気センサセル220を、被計測体から見て左側に位置する第1の磁気センサセル220群、被計測体から見て右側に位置する第2の磁気センサセル220群、および、第1の磁気センサセル220群と第2の磁気センサセル220群との間に位置する第3の磁気センサセル220群に分類してもよい。そして、磁場計測装置10は、第1の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、第2の磁気センサセル220群および第3の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正してよい。同様に、磁場計測装置10は、第2の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させて、第1の磁気センサセル220群および第3の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を対象としてセンサ誤差を順次較正してよい。すなわち、磁場計測装置10は、第3の磁気センサセル220群におけるセンサ部300を、第1の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させた場合と、第2の磁気センサセル220群の磁気センサセル220を順次切り替えながらキャリブレーション磁場を発生させた場合との両者において、重複する較正対象としてもよい。
【0125】
図17は、磁気センサアレイ210がセンサ誤差を持って作られている場合において、較正後の基底ベクトル[A B]Calibを使用した信号空間分離演算を幾何学的に示す。図17において、図14と同じ機能および構成を有する部材に対して同じ符号を付すとともに、以下相違点を除き説明を省略する。図16のフローにより、磁場計測装置10は、基底ベクトルを更新する。ここで、符号1720は、較正後の基底ベクトルACalibによって張られる線形部分空間Span{ACalib}を示す。符号1730は、較正後の基底ベクトルBCalibによって張られる線形部分空間Span{BCalib}を示す。符号1740は、線形部分空間Span{ACalib}と線形部分空間Span{BCalib}の線形和となる基底ベクトル[A B]Calibによって張られる線形部分空間を示す。符号1750は、最小2乗解のM次元ベクトルを示す。本図に示すように、センサ誤差を持つ磁気センサアレイ210のセンサアレイ信号ΦUncalibは、較正後の基底ベクトル[A B]Calibによって張られる線形部分空間の中に存在している。つまり、信号空間分離部1160は、分離誤差を最小化するように基底ベクトルを最適化することによって、磁気センサアレイ210が検出した磁場に対して、対象磁場成分と外乱磁場成分とに信号空間分布を正確に行うことができる。
【0126】
なお、上述の説明においては、磁場計測装置10が、キャリブレーションパラメータとして、磁気感度ベクトルSCalib[m]を最適化することによって、分離誤差を最小化するように基底ベクトルを変更する場合について一例として示した。しかしながら、上述のとおり、センサ誤差としては、各センサの磁気感度誤差に加えて、磁気センサアレイ210の組立時における各センサの配置位置のずれによる位置誤差が生じ得る。したがって、磁場計測装置10は、キャリブレーションパラメータとして、磁気感度ベクトルSCalib[m]に代えて、または、加えて、M個のセンサ部300の磁気センサ520における位置情報、ここでは、信号空間分離の計算座標系における位置情報、すなわち、動径r、天頂角θ、および、方位角φをそれぞれ最適化することによって、分離誤差を最小化するように基底ベクトルを変更してもよい。すなわち、(数19)における、r、θ、および、φをキャリブレーションパラメータとして、基底ベクトルを変更してもよい。なお、磁場計測装置10は、このような位置誤差の較正についても、磁気感度誤差の較正と同様の手法により実現することができる。また、磁場計測装置10は、磁気感度誤差の較正と位置誤差の較正とを同時に最適化するよう演算を行ってもよい。
【0127】
また、上述の説明においては、磁場計測装置10が、キャリブレーションを実行した後に、計測対象磁場を計測する場合について一例として示した。しかしながら、例えば、キャリブレーション磁場としての交流磁場の周波数が計測対象とする磁場の周波数帯域よりも高い場合には、磁場計測装置10は、キャリブレーションと計測対象磁場の計測とを同時に実行してもよい。この場合、磁場計測装置10は、キャリブレーション磁場信号と計測対象磁場信号をLPFやHPF等を用いて周波数分離するとよい。
【0128】
本発明の様々な実施形態は、フローチャートおよびブロック図を参照して記載されてよく、ここにおいてブロックは、(1)操作が実行されるプロセスの段階または(2)操作を実行する役割を持つ装置のセクションを表わしてよい。特定の段階およびセクションが、専用回路、コンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプログラマブル回路、および/またはコンピュータ可読媒体上に格納されるコンピュータ可読命令と共に供給されるプロセッサによって実装されてよい。専用回路は、デジタルおよび/またはアナログハードウェア回路を含んでよく、集積回路(IC)および/またはディスクリート回路を含んでよい。プログラマブル回路は、論理AND、論理OR、論理XOR、論理NAND、論理NOR、および他の論理操作、フリップフロップ、レジスタ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プログラマブルロジックアレイ(PLA)等のようなメモリ要素等を含む、再構成可能なハードウェア回路を含んでよい。
【0129】
コンピュータ可読媒体は、適切なデバイスによって実行される命令を格納可能な任意の有形なデバイスを含んでよく、その結果、そこに格納される命令を有するコンピュータ可読媒体は、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく実行され得る命令を含む、製品を備えることになる。コンピュータ可読媒体の例としては、電子記憶媒体、磁気記憶媒体、光記憶媒体、電磁記憶媒体、半導体記憶媒体等が含まれてよい。コンピュータ可読媒体のより具体的な例としては、フロッピー(登録商標)ディスク、ディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリメモリ(ROM)、消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、電気的消去可能プログラマブルリードオンリメモリ(EEPROM)、静的ランダムアクセスメモリ(SRAM)、コンパクトディスクリードオンリメモリ(CD-ROM)、デジタル多用途ディスク(DVD)、ブルーレイ(RTM)ディスク、メモリスティック、集積回路カード等が含まれてよい。
【0130】
コンピュータ可読命令は、アセンブラ命令、命令セットアーキテクチャ(ISA)命令、マシン命令、マシン依存命令、マイクロコード、ファームウェア命令、状態設定データ、またはSmalltalk、JAVA(登録商標)、C++等のようなオブジェクト指向プログラミング言語、および「C」プログラミング言語または同様のプログラミング言語のような従来の手続型プログラミング言語を含む、1または複数のプログラミング言語の任意の組み合わせで記述されたソースコードまたはオブジェクトコードのいずれかを含んでよい。
【0131】
コンピュータ可読命令は、汎用コンピュータ、特殊目的のコンピュータ、若しくは他のプログラム可能なデータ処理装置のプロセッサまたはプログラマブル回路に対し、ローカルにまたはローカルエリアネットワーク(LAN)、インターネット等のようなワイドエリアネットワーク(WAN)を介して提供され、フローチャートまたはブロック図で指定された操作を実行するための手段を作成すべく、コンピュータ可読命令を実行してよい。プロセッサの例としては、コンピュータプロセッサ、処理ユニット、マイクロプロセッサ、デジタル信号プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ等を含む。
【0132】
図18は、本発明の複数の態様が全体的または部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは、コンピュータ2200に、本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作または当該装置の1または複数のセクションとして機能させることができ、または当該操作または当該1または複数のセクションを実行させることができ、および/またはコンピュータ2200に、本発明の実施形態に係るプロセスまたは当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは、コンピュータ2200に、本明細書に記載のフローチャートおよびブロック図のブロックのうちのいくつかまたはすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく、CPU2212によって実行されてよい。
【0133】
本実施形態によるコンピュータ2200は、CPU2212、RAM2214、グラフィックコントローラ2216、およびディスプレイデバイス2218を含み、それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた、通信インターフェイス2222、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226、およびICカードドライブのような入/出力ユニットを含み、それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた、ROM2230およびキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み、それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0134】
CPU2212は、ROM2230およびRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し、それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は、RAM2214内に提供されるフレームバッファ等またはそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し、イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0135】
通信インターフェイス2222は、ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は、コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラムおよびデータを格納する。DVD-ROMドライブ2226は、プログラムまたはデータをDVD-ROM2201から読み取り、ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラムまたはデータを提供する。ICカードドライブは、プログラムおよびデータをICカードから読み取り、および/またはプログラムおよびデータをICカードに書き込む。
【0136】
ROM2230はその中に、アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等、および/またはコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた、様々な入/出力ユニットをパラレルポート、シリアルポート、キーボードポート、マウスポート等を介して、入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0137】
プログラムが、DVD-ROM2201またはICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは、コンピュータ可読媒体から読み取られ、コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224、RAM2214、またはROM2230にインストールされ、CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は、コンピュータ2200に読み取られ、プログラムと、上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置または方法が、コンピュータ2200の使用に従い情報の操作または処理を実現することによって構成されてよい。
【0138】
例えば、通信がコンピュータ2200および外部デバイス間で実行される場合、CPU2212は、RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し、通信プログラムに記述された処理に基づいて、通信インターフェイス2222に対し、通信処理を命令してよい。通信インターフェイス2222は、CPU2212の制御下、RAM2214、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROM2201、またはICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り、読み取られた送信データをネットワークに送信し、またはネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0139】
また、CPU2212は、ハードディスクドライブ2224、DVD-ROMドライブ2226(DVD-ROM2201)、ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイルまたはデータベースの全部または必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし、RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に、処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0140】
様々なタイプのプログラム、データ、テーブル、およびデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され、情報処理を受けてよい。CPU2212は、RAM2214から読み取られたデータに対し、本開示の随所に記載され、プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作、情報処理、条件判断、条件分岐、無条件分岐、情報の検索/置換等を含む、様々なタイプの処理を実行してよく、結果をRAM2214に対しライトバックする。また、CPU2212は、記録媒体内のファイル、データベース等における情報を検索してよい。例えば、各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合、CPU2212は、第1の属性の属性値が指定される、条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し、当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り、それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0141】
上で説明したプログラムまたはソフトウェアモジュールは、コンピュータ2200上またはコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また、専用通信ネットワークまたはインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスクまたはRAMのような記録媒体が、コンピュータ可読媒体として使用可能であり、それによりプログラムを、ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0142】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0143】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0144】
10 磁場計測装置
100 本体部
110 磁気センサユニット
120 ヘッド
125 駆動部
130 ベース部
140 ポール部
150 情報処理部
210 磁気センサアレイ
220 磁気センサセル
230 センサデータ収集部
232 AD変換器
234 クロック発生器
300 センサ部
520 磁気センサ
530 磁場生成部
532 増幅回路
534 フィードバックコイル
540 出力部
710 磁気抵抗素子
720、730 磁気収束板
1010 切替部
1100 センサデータ処理部
1120 計測データ取得部
1130 同期検波部
1140 データ出力部
1150 基底ベクトル記憶部
1160 信号空間分離部
1170 キャリブレーション用クロック発生部
1180 誤差算出部
1190 較正部
2200 コンピュータ
2201 DVD-ROM
2210 ホストコントローラ
2212 CPU
2214 RAM
2216 グラフィックコントローラ
2218 ディスプレイデバイス
2220 入/出力コントローラ
2222 通信インターフェイス
2224 ハードディスクドライブ
2226 DVD-ROMドライブ
2230 ROM
2240 入/出力チップ
2242 キーボード
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