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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】画像処理システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20231011BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20231011BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20231011BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20231011BHJP
   G06T 7/50 20170101ALI20231011BHJP
【FI】
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
H01J37/22 502Z
H01L21/66 J
G06T7/00 C
G06T7/00 350C
G06T7/50
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020132779
(22)【出願日】2020-08-05
(65)【公開番号】P2022029505
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡井 信裕
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 直正
(72)【発明者】
【氏名】福田 宗行
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-074326(JP,A)
【文献】特開2007-129059(JP,A)
【文献】特開2010-072700(JP,A)
【文献】特開2015-008148(JP,A)
【文献】特開2017-199606(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0136960(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0316915(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0311877(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
H01L 21/66
G06T 7/00
G06T 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置が取得した試料の計測画像から前記試料の3次元形状を推定する画像処理システムであって、
前記荷電粒子線装置が前記試料に対して荷電粒子ビームを照射することにより前記試料から生じる2次粒子を検出する検出器の検出可能範囲を記憶する記憶部、
前記荷電粒子線装置が取得する1以上の3次元形状パターンの画像を前記検出可能範囲にしたがってシミュレートすることにより得られる模擬画像を出力する演算部、
前記1以上の3次元形状パターンと前記模擬画像との間の関係を学習する学習器、
前記計測画像を前記学習器に対して入力することにより前記学習器から得られる前記試料の3次元形状を出力する出力部、
を備える
ことを特徴とする画像処理システム。
【請求項2】
前記演算部は、3次元形状が既知である校正パターンの画像を用いて前記検出可能範囲を推定するように構成されており、
前記画像処理システムはさらに、前記校正パターンを入力するためのインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記校正パターンとして、
既定の形状パターンを列挙するリストのうちいずれか、
前記校正パターンを指定する形状パラメータ、
前記荷電粒子線装置とは異なる計測装置によって取得した形状パターン、
のうち少なくともいずれかを選択することができるように構成されており、
前記演算部は、前記インターフェースが受け取った前記校正パターンの画像を用いて前記検出可能範囲を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項3】
前記記憶部は、前記検出可能範囲を変化させることにより1つの3次元形状パターンから前記荷電粒子線装置が取得した、複数の推定用画像を記憶しており、
前記演算部は、前記荷電粒子線装置が取得した、3次元形状が既知である校正パターンの画像を、前記複数の推定用画像と比較することにより、前記荷電粒子線装置が前記校正パターンを取得したときにおける前記検出可能範囲を推定し、その推定結果を前記記憶部に格納する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項4】
前記演算部は、前記推定した検出可能範囲と、前記試料から放出される2次粒子のエネルギーと角度とをもとに、前記模擬画像を作成する
ことを特徴とする請求項3記載の画像処理システム。
【請求項5】
前記画像処理システムはさらに、前記模擬画像の個数を入力するためのインターフェースを備え、
前記演算部は、前記インターフェースが受け取った個数よりも少ない前記模擬画像を一時的模擬画像として生成し、
前記演算部は、前記一時的模擬画像の形状を変化させたときにおける前記一時的模擬画像または前記一時的模擬画像の形状を変化させたときにおける前記一時的模擬画像の変動量を表す情報を計算し、前記インターフェースを介してその計算結果を提示する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項6】
前記演算部は、3次元形状が既知である校正パターンの画像を用いて前記検出可能範囲を推定するように構成されており、
前記画像処理システムはさらに、前記模擬画像の個数を入力するためのインターフェースを備え、
前記演算部は、前記インターフェースが受け取った個数よりも少ない前記模擬画像を一時的模擬画像として生成し、
前記演算部は、前記一時的模擬画像の形状を変化させたときにおける前記一時的模擬画像の変動量を表す情報を計算し、
前記演算部は、前記変動量が閾値未満である場合は、新たな検出可能範囲について前記変動量を表す情報を再計算する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項7】
前記出力部は、前記試料の3次元形状を提示するインターフェースを備え、
前記インターフェースは、前記試料の3次元形状を視覚的に提示し、
前記演算部は、前記インターフェース上で指定された前記試料の3次元形状上の2点間の距離を計算して前記インターフェース上で提示する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項8】
前記演算部は、前記荷電粒子線装置が取得した補正用試料の前記3次元形状パターンの第1画像を取得し、
前記演算部は、前記荷電粒子線装置とは異なる計測装置が取得した前記補正用試料の高さ分布にしたがって前記補正用試料の前記3次元形状パターンの第2画像を生成し、
前記演算部は、前記第2画像を前記第1画像へ近づけるための補正係数を計算し、
前記演算部は、前記模擬画像に対して補正係数を適用し、
前記学習器は、前記補正係数を適用した前記模擬画像と、前記1以上の前記3次元形状パターンとの間の関係を学習し、
前記出力部は、前記計測画像を前記学習器に対して入力することにより前記学習器から得られる前記試料の3次元形状を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項9】
前記演算部は、前記荷電粒子線装置が取得した補正用試料の前記3次元形状パターンの第1画像を取得し、
前記演算部は、前記荷電粒子線装置とは異なる計測装置が取得した前記補正用試料の高さ分布にしたがって前記補正用試料の前記3次元形状パターンの第2画像を生成し、
前記演算部は、前記第1画像を前記第2画像へ近づけるための補正係数を計算し、
前記学習器は、前記模擬画像と、前記1以上の前記3次元形状パターンとの間の関係を学習し、
前記演算部は、前記計測画像に対して前記補正係数を適用することにより補正後画像を取得し、
前記出力部は、前記補正後画像を前記学習器に対して入力することにより前記学習器から得られる前記試料の3次元形状を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項10】
前記荷電粒子線装置は、複数の前記検出器を備えており、
前記演算部は、前記荷電粒子線装置が前記試料の平坦面に対して前記荷電粒子ビームを照射したときにおける前記平坦面の画像を、前記検出器ごとに取得し、
前記演算部は、前記検出器ごとの画像間の差分を小さくする補正係数を計算し、
前記演算部は、前記検出器ごとに取得した画像に対してそれぞれ前記補正係数を適用することにより、前記模擬画像を生成し、
前記学習器は、前記補正係数を適用した前記模擬画像と、前記1以上の前記3次元形状パターンとの間の関係を学習し、
前記演算部は、前記計測画像に対して前記補正係数を適用することにより補正後画像を取得し、
前記出力部は、前記補正後画像を前記学習器に対して入力することにより前記学習器から得られる前記試料の3次元形状を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項11】
前記演算部は、前記模擬画像に対して、
ノイズ増幅、ノイズ除去、コントラスト調整、トリミング、左右反転、上下反転、回転、シフト、拡大、縮小、
のうち少なくともいずれかを適用することにより、前記模擬画像を変形した拡張模擬画像を生成し、
前記学習器は、前記模擬画像と前記1以上の3次元形状パターンとの間の関係に加えて、前記拡張模擬画像と前記1以上の3次元形状パターンとの間の関係を学習する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項12】
前記学習器は、前記1以上の3次元形状パターン、前記模擬画像、および前記荷電粒子線装置が前記模擬画像を取得する際の条件を記述した付帯情報の間の関係を学習し、
前記出力部は、前記計測画像と、前記荷電粒子線装置が前記計測画像を取得する際の条件を記述した付帯情報とを前記学習器に対して入力することにより前記学習器から得られる前記試料の3次元形状を出力する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項13】
前記演算部は、前記検出可能範囲を記述したデータを受け取るか、または前記検出可能範囲を入力するインターフェースを介して前記検出可能範囲の値を受け取り、
前記演算部は、前記受け取った検出可能範囲を前記記憶部へ格納する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項14】
前記演算部は、前記検出器の形状を記述したデータを受け取るか、または前記検出器の形状を入力するインターフェースを介して前記検出器の形状を受け取り、
前記演算部は、前記受け取った検出器の形状を用いて前記検出可能範囲を計算して前記記憶部へ格納する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【請求項15】
前記学習器は、前記試料の高さ、幅、長さ、テーパ角、丸み、領域の広さ、容積、のうち少なくとも1つを、学習結果として出力するように構成されており、
前記出力部は、前記学習結果から取得した前記試料の高さ、幅、長さ、テーパ角、丸み、領域の広さ、容積、のうち少なくとも1つを出力する
ことを特徴とする請求項1記載の画像処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、荷電粒子線装置が取得した試料の計測画像から前記試料の3次元形状を推定する画像処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、作製した半導体パターンの高さやテーパ角、半導体ウェーハ上に付着した異物の高さ、などの3次元形状の評価が必要とされている。半導体パターンが設計通りに作製されていないと、所望のデバイス性能が得られない問題が発生する。ウェーハ上に異物が付着していると、異物のサイズによっては後の製造工程に影響を与える可能性がある。したがって、半導体ウェーハ上の半導体パターンや異物の3次元形状を定量評価することが求められている。
【0003】
高分解能で微小な物体を観察する装置として、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)があげられる。特に、半導体ウェーハ上の半導体パターンや異物の観察や計測を目的としたSEMとして、測長SEM(CD-SEM:Critical Dimension-SEM)や、欠陥レビューSEMが製品化されている。
【0004】
電子ビームの走査によって得られた信号波形やSEM像に基づいて、ウェーハ上の半導体パターンの3次元形状を計測する手法が知られている。特許文献1は、あらかじめ装置特性と画像取得条件とを反映した電子線シミュレーションを様々な対象パターン形状について実施しておき、SEM模擬波形を作成してライブラリとして記録し、計測対象のパターンで取得した実SEM画像とSEM模擬波形とを比較して、最も一致度の高い波形を選択することにより、対象パターンの形状を推定する手法を開示している。特許文献2は、様々なパターンの実SEM画像から抽出した画像特徴量と、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope:AFM)等のSEM以外の装置を用いて取得したパターンの断面形状とを対応させてあらかじめデータベースに学習データとして保存しておき、計測対象のパターンの実SEM画像から抽出した画像特徴量を学習データと照合して断面形状を推定する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007―218711
【文献】特開2007-227618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
背景技術で述べたように、半導体デバイスの製造プロセスでは、歩留まりの向上と製造プロセスの安定稼働のために、半導体パターンや異物の3次元形状を計測することが求められている。作製した半導体パターンが設計と異なる形状となると、期待されるデバイス性能が得られなくなり歩留まり低下につながる。そこで、ユーザが計測した3次元形状と設計形状の誤差をもとに誤差発生要因を解明し、解明した誤差の発生要因を半導体デバイスの製造プロセスにフィードバックすることが行われている。異物では、所定の高さより大きな場合は、上層との距離が近くなり半導体デバイスの耐圧などの電気性能に影響することが知られている。そこで、異物の3次元形状やエネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectroscopy:EDS、EDX)で判定した材料情報をもとに、異物の発生要因を推定し、製造プロセス条件の改善や成膜・加工装置のクリーニング要否を判定するためにフィードバックする。
【0007】
特許文献1は、あらかじめライブラリを用意することによって、半導体パターンの断面形状を推定する手法を開示している。しかし同文献は、試料を傾斜せずに上方から観察した1枚のトップダウンSEM像を用いて断面形状を推定するので、高さに関してより多くの情報を取得することが求められる場合がある。
【0008】
特許文献2は、実SEM画像から抽出した画像特徴量と、SEM以外の装置(例えばAFMや断面SEM)で取得したパターンの断面形状を学習データとする手法を開示している。しかし、AFMや断面SEMは、SEMと同位置でのデータ取得が困難であり、急峻な斜面についてより高い計測精度が求められる場合がある。さらに、測定に要する時間がSEMに較べて長い傾向がある。
【0009】
本開示は、上記の高さ方向の計測低下や学習データ取得時に膨大な時間を有する課題を解決し、半導体パターンや異物の3次元形状を推定することができる画像処理システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る画像処理システムは、荷電粒子線装置が備える検出器の検出可能範囲をあらかじめ記憶装置に格納しておき、その検出可能範囲を用いて3次元形状パターンの模擬画像を生成し、その模擬画像と3次元形状パターンとの間の関係をあらかじめ学習する。
【発明の効果】
【0011】
本開示に係る画像処理システムによれば、学習データを取得するために膨大な時間を必要とすることなく、半導体パターンや異物の3次元形状を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る画像処理システム100の構成図である。
図2】画像処理システム100が高さマップを推定する処理を説明するフローチャートである。
図3】走査電子顕微鏡300の構成例を示す図である。
図4A】ドットパターンの高さ分布である。
図4B図4AのドットパターンのX方向の1次元の高さ分布である。
図4C】ドットパターンを上方検出器309で観察したときのSEM画像の模式図である。
図4D図4CのSEM画像のX方向の1次元の階調値プロファイルである。
図4E図4CのSEM画像のY方向の1次元の階調値プロファイルである。
図5A図4Aのドットパターンを下方検出器312で観察したときのSEM画像の模式図である。
図5B図5AのSEM画像のX方向の1次元の階調値プロファイルである。
図5C図4Aのドットパターンを下方検出器313で観察したときのSEM画像の模式図である。
図5D図5CのSEM画像のX方向の1次元の階調値プロファイルである。
図6A図4AのドットパターンのX方向の1次元の高さ分布である。
図6B図4Aに示すドットパターンに対して、下方検出器312、313で取得した2枚のSEM画像(図5A図5C)を用いて、Shape From Shading法により高さマップを作成したときの、X方向の1次元高さ分布である。
図7A】仰角と方位角の座標系を示す。
図7B】縦軸を仰角、横軸を方位角とした上方検出器309の検出アクセプタンスの1例である。
図7C】下方検出器312、313の検出アクセプタンスの1例である。
図7D】紙面垂直方向にさらに2つの検出器を配置した4方向検出器の検出アクセプタンスの1例である。
図8A】仰角範囲と方位角範囲が変わった検出アクセプタンスの1例である。
図8B図8Aの検出アクセプタンスを持つ検出器で、図4Aのドットパターンを観察した時のSEM画像の模式図である。
図8C図8Aの検出アクセプタンスの仰角範囲が変わった検出アクセプタンスの1例である。
図8D図8Cの検出アクセプタンスを持つ検出器で、図4Aのドットパターンを観察した時のSEM画像の模式図である。
図8E図8Aの検出アクセプタンスの方位角範囲が変わった検出アクセプタンスの1例である。
図8F図8Eの検出アクセプタンスを持つ検出器で、図4Aのドットパターンを観察した時のSEM画像の模式図である。
図9A】SEM画像から検出アクセプタンスを推定するための校正用パターンの1例を示す。
図9B】SEM画像から検出アクセプタンスを推定するための校正用パターンの1例を示す。
図9C】SEM画像から検出アクセプタンスを推定するための校正用パターンの1例を示す。
図9D】SEM画像から検出アクセプタンスを推定するための校正用パターンの1例を示す。
図10】校正用パターンの形状とSEM画像を登録するためのGUI(Graphical User Interface)画面の1例を示す図である。
図11図10の校正用パターンの形状のセルをユーザがダブルクリックしたときに開くGUI画面の1例である。
図12】詳細設定ボタン1103を押したときに開くGUI画面の1例である。
図13A図11における他の形状入力方法について1例である。
図13B図11における他の形状入力方法について1例である。
図14】検出アクセプタンスを推定する手法の模式図である。
図15】模擬SEM画像を作成するためのGUI画面の1例である。
図16図15のGUI画面を用いて模擬SEM画像を作成するフローチャートの1例である。
図17図15のGUI画面を用いて模擬SEM画像を作成するフローチャートの別例である。
図18A】模擬SEM画像を作成する形状を設定するGUI画面の1例である。
図18B】詳細設定ボタン1802を押したときに開くGUI画面の1例である。
図19A】3次元計測が必要とされる計測対象のパターンの1例として、FinFET(Fin Field-Effect Transistor)である。
図19B】FinFETを斜め上方から見た図である。
図19C図19AのFinFETを、SEM画像の上側に設置した検出器で取得したときのSEM画像の模式図である。
図19D図19AのFinFETを、SEM画像の左側に設置した検出器で取得したときのSEM画像の模式図である。
図20A】登録されていない新規の形状を指定するGUI画面の1例である。
図20B】詳細設定ボタン2002を押したときに開くGUI画面の1例である。
図21】学習器103が学習する内容を指示するためのGUI画面の1例である。
図22】学習器103の構成例を示す図である。
図23図21図22で学習した結果を用いて、実SEM画像から高さマップを出力するように学習器103に対して指示するGUI画面の1例である。
図24】推定した高さマップを表示するGUI画面の1例である。
図25図24のボタン2401を押したときに開くGUI画面の1例である。
図26図24の形状番号「1」のHeightのセル(50.5nm)をクリックしたときに開くGUI画面の1例である。
図27】実施形態2における走査電子顕微鏡300の1例を示す図である。
図28A図27の下段検出器2703と上段検出器2704を円周方向に4分割したときの一つの検出器の検出アクセプタンスの1例である。
図28B】検出アクセプタンス2801の検出器で得られるSEM画像の1例である。
図28C】検出アクセプタンス2802の検出器で得られるSEM画像の1例である。
図29】実施形態2における走査電子顕微鏡300を用いた場合の、校正用パターンの形状データおよびSEM画像を登録するGUI画面の1例である。
図30A】実施形態3において画像処理システム100が実施するデータ同化のフローチャートの1例である。
図30B】実施形態3において画像処理システム100が実施するデータ同化のフローチャートの1例である。
図31】データ同化の別のフローチャートの1例である。
図32】実SEM画像を学習結果に入力して高さマップを算出した後に、学習結果と実測の誤差を補正するフローチャートの1例である。
図33A】パターン3301を4方向検出器3302、3303、3304、3305で観察するときの試料と検出器の配置の関係である。
図33B】パターン3301を時計回りに90°回したパターン3306を4方向検出器3307、3308、3309、3310で観察するときの試料と検出器の配置の関係である。
図33C】トリミングの1例である。
図33D】複数の小さなサイズの領域の高さマップ3314を重ね合わせて、1つの大きな高さマップ3313を作成する1例である。
図34】実施形態5に係る画像処理システム100の構成図である。
図35】実施形態6に係る画像処理システム100の構成図である。
図36】実施形態6に係る画像処理システム100が高さマップを推定する手順を説明するフローチャートである。
図37】検出アクセプタンスをテキストファイルで入力する1例である。
図38A】検出アクセプタンスを入力するGUI画面の1例である。
図38B】簡易設定ボタン3804を押したときに開くGUI画面の1例である。
図39】実施形態7に係る画像処理システム100の構成図である。
図40】実施形態7に係る装置形状データの1例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施の形態1>
本開示の実施形態1においては、試料上に形成された構造物(半導体ウェーハの場合、ラインやドットのような凸パターン、ホールやトレンチのような凹パターン、など)や、試料(半導体ウェーハ)上に載った異物等に対し、これらを含んだ領域で取得したSEM画像から、画像の領域の高さマップを推定する。
【0014】
図1は、本開示の実施形態1に係る画像処理システム100の構成図である。画像処理システム100は、記憶装置101、演算装置102、学習器103、出力装置104、入力装置200を備える。出力装置104は、画像処理システム100による処理結果を出力するための装置であり、例えばディスプレイやデータ出力装置などによって構成することができる。入力装置200は、ユーザが画像処理システム100に対して指示を与えるために用いるインターフェースである。出力装置104と入力装置200は、画像処理システム100の一部として構成してもよいし、画像処理システム100とは別の装置として構成してもよい。
【0015】
画像処理システム100は、学習器103(学習モデル)に対して推定対象の構造物を含むSEM画像を入力することにより、画像領域の高さ分布(以降、高さマップ)を出力し、高さマップを解析することにより構造物の高さやテーパ角などの3次元形状を推定する。
【0016】
走査電子顕微鏡で取得した、3次元形状が既知のパターン(以下、校正用パターン)のSEM画像105を記憶装置101に保存する。演算装置102は、記憶装置101に保存された校正用パターンのSEM画像105をもとに、シミュレーションにより様々な形状に対応する模擬SEM画像を作成する。学習器103は、演算装置102が作成した様々な形状と、その形状の模擬SEM画像との組からなるデータを教師データとして学習する。出力装置104は、推定対象のSEM画像106を学習器103に入力することにより学習器103から得られる高さマップを出力する。学習済みのモデルデータは、記憶装置101に格納することができ、また、学習済みのモデルデータは、記憶装置101から読み出すこともできる。
【0017】
図2は、画像処理システム100が高さマップを推定する処理を説明するフローチャートである。本フローチャートは、記憶装置101、演算装置102、学習器103、出力装置104、入力装置200によって実施される。後述するフローチャートも同様である。走査電子顕微鏡を用いて校正用パターンのSEM画像105を取得し、記憶装置101に保存する(S201)。入力装置200を用いて、模擬SEM画像を作成する形状を指定または選択する(S202)。演算装置102は、記憶装置101に保存された校正用パターンのSEM画像105をもとに、S202で設定した様々な形状で模擬SEM画像を作成し、学習器103は模擬SEM画像と形状との間の関係を学習する(S203)。走査電子顕微鏡で推定対象のSEM画像106を取得する(S204)。学習器103は、S204のSEM画像を学習器103に入力することにより推定対象のパターンや異物の3次元形状を推定して出力装置104に出力する(S205)。
【0018】
図3は、走査電子顕微鏡300の構成例を示す図である。走査電子顕微鏡300は、校正用パターンのSEM画像105や推定対象のSEM画像106を取得するために用いられる。走査電子顕微鏡300は、電子ビーム301を照射する電子銃302、電子ビーム301を集束する集束レンズ303、集束レンズ303を通過した電子ビーム301をさらに集束する集束レンズ305を備えている。集束レンズ303の直下には絞り304が設置され、集束レンズの303の強さによって絞り304を通過する電流量を変化させ、試料315に照射する電流量を制御することが可能となる。さらに、電子ビーム301を偏向する上走査偏向器310と下走査偏向器311 、電子ビーム301の集束する高さを制御する対物レンズ314を備えている。このとき上走査偏向器310と下走査偏向器311の偏向方向と強度は走査した電子ビーム301が常に対物レンズ314の中央を通るように調整されている。走査電子顕微鏡300はさらに、電子ビーム301を光軸外に偏向することによって試料315へ電子ビーム301が到達することを制限するブランキング偏向器306、ブランキング偏向器306によって偏向された電子ビーム301を受け止めるブランキング用電極307を備える。これらの光学部品や試料ステージ316は制御装置320によって制御され、ユーザが指定した観察条件(ビームエネルギーや電流量、観察位置等)でSEM画像を取得することが可能となる。
【0019】
電子ビーム301は、試料ステージ316上に載せられた試料315に照射される。電子ビーム301の照射によって試料315から2次粒子が放出される。一般的に、50eV以下の低エネルギーの放出電子を2次電子(Secondary Electron:SE)、50eV以上の高エネルギーの放出電子を後方散乱電子(Backscattered Electron:BSE)と呼ぶ。以下、本開示では2次電子と反射電子を総称して2次粒子と呼ぶ。
【0020】
試料から放出された2次粒子のうち、試料315の面に対して大きな角度をなす方向に放出した2次粒子317は、電子ビーム(301)とほぼ同じ軌道を通り、絞り308に衝突する。絞り308では2次粒子317の衝突によって再び2次粒子318が発生する。発生した2次粒子318は、絞り308よりも試料側に配置された上方検出器309で検出される。
【0021】
試料315の面に対して小さな角度をなす方向に放出した2次粒子319は、光軸(電子ビーム301の軌道上)から離れる方向に放出された後に対物レンズ314の漏洩磁場によって光軸側に引き戻され、対物レンズ314を通過して光軸から離れた位置に配置された下方検出器312と313により検出される。図3において下方検出器は1次電子線の光軸に対して軸対称に左右2つ設けられているが、120°ごとに回した位置に配置した3方向検出器、紙面垂直方向にさらに2つを配置した4方向検出器、さらに多く設置した複数検出器としてもよい。上方検出器309や下方検出器312、313に到達した2次粒子は、走査偏向と同期した輝度変調入力信号となりSEM画像として構成され、記録装置321に保存される。
【0022】
図4A図4Eは、ドットパターンの形状と、該ドットパターンを上方検出器309で観察したときのSEM画像の模式図を示す。図3の構成では、一般的に、上方検出器では低エネルギーの2次電子が検出される。説明を簡単にするために、ここではドットパターンのエッジの傾き(テーパ角)は90°とした。観察視野401(Field-of-view:FOV)の中心にドットパターン402を配置したときの上面図を図4A図4Aの破線403に沿って高さを表したものを図4Bに示す。ドット部分が高い分布になっている。次に、図3の上方検出器309で取得されるSEM画像を図4C図4Cの破線405、406に沿ってSEM画像の階調値をプロットしたものをそれぞれ図4D図4Eに示す。ドットパターンの全方位のエッジ部分に、エッジ効果による明るい部分404(ホワイトバンドと呼ばれる)が観察される。すなわち、全方位同等の見え方をしているため、方位性がないSEM画像が得られる。
【0023】
図5A図5Dは、図4Aのドットパターンを下方検出器312、313で観察したときのSEM画像の模式図を示す。図3の構成では、一般的に、下方検出器では高エネルギーの反射電子が検出される。下方検出器312で取得したSEM画像を図5A図5Aの破線503に沿ってSEM画像の階調値をプロットしたものを図5Bに示す。SEM画像に対して検出器は左側に配置されている。検出器側に対応するドットパターンの左側エッジのみにホワイトバンドが観察され、ドットパターンの右側の平坦部には暗い影(陰影と呼ばれる)が観察される。図5Cは下方検出器313で取得したSEM画像、図5Cの破線506に沿ってSEM画像の階調値をプロットしたものを図5Dに示す。これらのSEM画像においては、図5Aとは反対に、ドットパターンの右側エッジのみにホワイトバンドが観察され、ドットパターンの右側の平坦部には陰影が観察される。
【0024】
陰影は、ドットパターン傍の平坦部に電子ビームが照射されて発生した2次粒子が、ドットパターンが障害となって検出器に到達しないことによって発生する。すなわち、左側に配置された検出器で画像を取得したときに、陰影がパターンの右側に出ていれば出っ張っている形状、反対に、陰影がパターンの左側に出ていれば窪んでいる形状となる。このようなSEM画像の特徴から、光軸に対称に複数配置した下方検出器は観察対象のパターンの凹凸判定に活用されている。陰影の長さはドットパターンの高さに依存し、パターンが高いほど陰影は長くなる。すなわち、陰影を活用することでパターンの高さを推定することが可能となる。
【0025】
光軸に対称に設置した複数の検出器で取得したSEM画像を用いて3次元形状を推定する試みは古くからなされている。最も一般的な手法は、Shape From Shading法(陰に基づく復元法)があげられる。本手法は、画像中の陰(暗い部分)が光源方向と面の法線方向による輝度の変化で生じるものと考えて形状を再構築する。本手法は異なる位置に配置された検出器の信号を演算することにより各画素の3次元的な傾きを算出し、それを積分することによって試料面の相対的な高さに変換する。具体的には、対称に配置された検出器で取得した画像の階調値の差分を、2つの検出器を通る軸に沿って積分することにより、試料の高さマップを作成する。
【0026】
図6A図6Bは、図4Aに示すドットパターンに対して、下方検出器312、313で取得した2枚のSEM画像(図5A図5C)を用いて、Shape From Shading法により高さマップを作成した結果を示す。図6BはShape From Shading法による高さマップの例を示す。図6Aは、比較のためにドットパターンの実際の高さマップを示す。ここでは、説明を簡単にするために、1次元の高さ分布を表した。実際の形状(図6A)に較べて斜面がなだらかになる結果となった。前述したように、急峻な斜面を持つ物体の場合、物体の傍に影が形成される。影は光源からの光が物体によって遮られて生じるものであり、陰とは形成原理が異なり、Shape From Shading法では考慮されていない現象であるので、再構築時の精度低下の原因となる。さらに、SEMにおいては、エッジ効果によるホワイトバンドや物体表面での反射が観察され、精度低下の更なる原因となる。さらに、根本的な課題として、本手法は画像の階調値をもとに高さマップを再構築するので、高さの絶対値が正しく得られない。
【0027】
図3の上方検出器309、下方検出器312、313によって取得した画像の見え方の違いは、これらの検出器が検出する2次粒子のエネルギーと角度によって説明が可能である。ここで、検出器で検出される2次粒子のエネルギーと角度範囲を表や図で表したものを検出アクセプタンスと呼ぶ。すなわち検出アクセプタンスは、検出器が2次粒子を検出可能な範囲を表す。ここで、検出アクセプタンスは検出器の配置だけでなく、照射エネルギーや電極電圧等の光学条件によって変わる。異なる検出器を用いれば見え方が異なるSEM画像が得られるのは当然として、同じ検出器を用いても、光学条件が異なれば見え方が異なるSEM画像が得られる。したがって、校正用パターンのSEM画像と推定対象のパターンのSEM画像は、検出器だけでなく、光学条件も合わせることが必須である。以降では説明を簡単にするため、仰角と方位角の2次元の表によって検出アクセプタンスを説明する。
【0028】
図7Aは、仰角と方位角の座標系を示す。仰角はZ軸からの傾きで表す。方位角はX軸からの反時計回りの回転角を表す。
【0029】
図7Bは、縦軸を仰角、横軸を方位角とした上方検出器309の検出アクセプタンスの1例を示す。斜線で囲った領域701が検出可、それ以外の領域702、703は検出不可な2次粒子の角度範囲である。この検出アクセプタンスから、上方検出器309は、仰角は10°から30°、方位角は0°から360°の全方位の2次粒子を検出できることが分かる。このように、全方位を検出できる場合、方位性を持たないSEM画像となる特徴があり、図4Cのように、ドットパターンの全方位のエッジに同じようにホワイトバンドが観察される。検出不可701と検出可702の境界となる仰角は、主に絞り308の穴径によって決まる。検出可702と検出不可703の境界となる仰角は、2次粒子のエネルギーや検出器までの距離等によって決まる。2次粒子のエネルギーが小さい2次電子の場合、ほとんどの2次電子は引き上げられて検出されるので、検出可能な仰角の範囲は数°から90°付近の領域となる。
【0030】
図7Cは、下方検出器312、313の検出アクセプタンスの1例を示す。図7Bと同様に、斜線で囲った領域704、705が検出可の角度範囲となる。それぞれ、領域704が下方検出器312、領域705が下方検出器313に対応する。検出できる仰角の範囲が2つの検出器ともに同じなのは、同じ高さで光軸に対して対称に配置されているからである。方位角に着目すると、2つの検出器は対称に分割されており、それぞれ180°の範囲の方位角成分を検出している。このように制限された方位角範囲の2次粒子を検出する場合、図5に示すように方位性を持ったSEM画像が得られる。
【0031】
図7Dは、紙面垂直方向にさらに2つの検出器を配置した4方向検出器の検出アクセプタンスを示す。方位角成分は、四個の検出器で対称に分割され、それぞれ90°の範囲の方位角成分706、707、708、709を検出している。2つの検出器を用いた場合に較べて方位角成分が制限されているため、さらに方位性が顕在化したSEM画像が得られる。
【0032】
図8A図8Fは、検出アクセプタンスの仰角範囲と方位角範囲が変わった時のドットパターン(図4A)のSEM画像の見え方の違いをそれぞれ示す。仰角範囲が45°から80°、方位角範囲が135°から225°の検出アクセプタンス(図8Aの801の範囲)の場合、ドットパターンの左側エッジにホワイトバンド802、右側の平坦部に陰影803を持つSEM画像が観察される。同じ方位角範囲で仰角範囲が30°から50°になると(図8Cの804)、図8Bと同じ位置にホワイトバンド805と陰影806が観察されるが、陰影806は図8Bの陰影803よりも短くなる(図8D)。仰角範囲は図8Aと同じだが、方位角範囲が160°から200°と狭くなった場合(図8Eの807)、図8Bと同じようにホワイトバンド808と陰影809が観察される。陰影の長さは図8Bと同じだが、形が異なる。このように、SEM画像の見え方は検出アクセプタンスによって決まるので、陰影を含むSEM画像の見え方を詳細に解析することによって、検出器の検出アクセプタンスを推定することが可能となる。
【0033】
図9A図9Dは、SEM画像から検出アクセプタンスを推定するための校正用パターンの1例を示す。本開示において、校正用パターンとは、AFM、断面SEM、チルトSEM等の計測により3次元形状が既知のパターンのことを言う。チルトSEMは、ステージを大きく傾斜させることにより、試料上のパターンを斜めから観察することができる装置である。斜めから観察することにより、高さに関する情報を直接入手することが可能となる。ステージに代えてまたはこれと併用して、カラムやビームを傾斜させることによっても同等に試料を斜めから観察可能であるので、これらが可能なSEMをまとめてチルトSEMと総称する。
【0034】
検出アクセプタンスの推定にはなるべく単純な形状を用いることが好ましい。図9Aはドットパターン、図9Bはラインパターン、図9Cは円柱パターン、図9Dは球パターンの例である。図9A図9Cは半導体のリソグラフィ工程を用いて作製してもよいし、図9Dの球パターンはラテックス粒子を用いてもよい。これらの校正用パターンの試料は、画像処理システム100の提供者が準備してユーザに提供してもよいし、ユーザ自身が準備してもよい。画像処理システム100の提供者が準備する場合は、同時に校正用パターンの形状を事前に画像処理システム100に登録しておく。ユーザ自身が準備するときは、校正用パターンの形状情報をユーザが用意する必要があり、ここで実形状との誤差があると、その後の学習や形状推定時の誤差となりうる。
【0035】
図10は、校正用パターンのSEM画像を登録するためのGUI(Graphical User Interface)画面の1例を示す図である。GUI画面1001を用いて、校正用パターンのSEM画像105を、走査電子顕微鏡300の記録装置321やPCなどの外部記憶装置から読み出し、記憶装置101に保存する。ユーザはまず、選択ボックス1002で検出器の個数を選択する。図では、光軸に対称に4個配置された4方向検出器を対象としているので、「4」が選択されている。その後、校正用パターンの形状とSEM画像を入力する。図では3個の校正パターンが登録されている。登録するパターンの数はAddボタン1004とDeleteボタン1005で増減させることが可能である。例えば、Addボタン1004を押すと1行足され、特定の行(複数でも可)を選択した後にDeleteボタン1005を押すと、選択した行が削除される。SEM画像は一枚ずつ該当のセルをダブルクリックして設定してもよいし、一つの校正用パターンに対して同時に取得した全検出器のSEM画像をまとめて登録してもよい。
【0036】
1行目はドットパターン、2行目は円柱パターン、3行目はラインパターンが登録されている。ON/OFFの列は、その後の演算装置102で模擬SEM画像を作成するステップ(S202)において、該当する校正用パターンを使用するか否かを決める。図では、ドットパターンと円柱パターンの結果をその後の演算で使用するが、ラインパターンの結果は使用しないことを意味している。これらの登録内容は、該当するセルをダブルクリックすることで設定を変更することが可能である。
【0037】
図10の校正用パターンの形状データは、データの中央にパターンが配置されている。しかし、走査電子顕微鏡で形状データと完全にパターンの位置をピクセル単位で一致させてSEM画像を取得することは非常に難しい。また、倍率が異なると、パターンの表示上のサイズも異なって保存される。本GUI画面では、形状データとSEM画像が完全に位置と倍率が合っていることが好ましいが、必須ではない。画像登録時に同時に画像取得時の条件ファイル(座標や倍率等が記載)も同時に読み込まれる。画像の位置ずれに関しては、これらのSEM画像や4枚の合成画像、同時に取得した2次電子像(例えば、上方検出器309で取得したSEM画像)を用いて、形状データと位置マッチングすることで位置補正される。倍率に関しては、条件ファイルを読み出して、形状データのサイズに合うように画像を拡大縮小する。演算装置102は、本GUIで登録された形状データとSEM画像を用いて検出アクセプタンスを推定するが、演算装置102がこれらの補正を事前に自動的に行うことにより、検出アクセプタンスの推定が可能となる。
【0038】
これらを全て登録した後に、SAVEボタン1007を押すと、登録内容をファイルに保存する。OKボタン1006を押した場合は、本GUI画面を閉じるが、現在保存されている内容と異なる場合は、保存するか否かを確認するGUI画面が出る。Cancelボタン1008を押すとそのままGUI画面が閉じる。
【0039】
図11は、図10の校正用パターンの形状データのセルをユーザがダブルクリックしたときに開くGUI画面の1例を示す。図11は校正用パターンの形状を具体的に指定するGUI画面の1例である。まず、ユーザは選択ボックス1101で校正用パターンの形状があらかじめ登録されたものか、これから指定するのかを選択する。あらかじめ登録されているものとしては、画像処理システムの提供者が用意したものや、ユーザが以前に作成して登録したものがあげられる。前者の場合は、例えばCalibShape1のような名前で登録されている。後者の場合は後述するように形状を指定した後に、本GUI画面上のSAVEボタン1111を押して名前を付けて保存されたものを意味している。一方、ユーザがこれから指定する場合は、図に示すように「Customized」を選択する。「Customized」を選択すると、選択ボックス1102がアクティブになる。選択ボックス1102で形状の種類を選択し、詳細設定ボタン1103で前記形状の詳細(例えば高さ等)を設定する。例えば、図9に示した校正用パターンにおいては、ドットの場合は「Dot」、ラインの場合は「Line」、円柱の場合は「Cylinder」、球の場合は「Sphere」を選択する。
【0040】
現在設定中の形状はGUI画面上に表示される。1104の領域には、形状を上方から見た時の高さマップが表示されている。高さはカラーマップ1105で視覚的に分かるようにされる。カラーマップはカラーでもグレイレベルでもよい。領域1104には横方向の破線1106と縦方向の破線1107が表記されている。これらの破線はその軸に沿って高さマップをGUI画面の右側に1次元で表記する。例えば、破線1106上の高さは1108、破線1107上の高さは1109に表記され、現在設定中の形状を詳細に確認することができる。なお、これらの破線はマウスで選んで移動させることが可能となっている。これらを全て登録した後に、SAVEボタン1111を押すと、登録内容をファイルに保存する。OKボタン1110を押した場合は、本GUI画面を閉じるが、保存された結果と異なる場合は、保存するか否かを確認するGUI画面が出る。Cancelボタン1112を押すとそのままGUI画面が閉じる。
【0041】
図12は、詳細設定ボタン1103を押したときに開くGUI画面の1例を示す。選択ボックス1102で「Cylinder」を選択しているので、「Cylinder Settings」のGUI画面が開いている。材料選択領域1201では、円柱と下地の材料を選択ボックスで選択することができる。円柱はSiO2、下地はSiを選択している。次に、領域1202で円柱の具体的なサイズを指定する。ここでは、半径50nm、高さ100nmが入力されている、これらの数値を入力した後にApplyボタン1203を押すと、図11のGUI画面に反映され、入力した形状を確認することができる。Resetボタン1204を押すと、初期値に戻される。Closeボタン1205を押すと、入力した数値を反映せずに詳細設定のGUI画面が閉じる。
【0042】
図13A図13Bは、図11における他の形状入力方法について1例を示す。図11の選択ボックス1102では、形状の名前以外に、AFMあるいはチルトSEMも選択が可能である。
【0043】
選択ボックス1102でAFMを選択し、詳細設定ボタン1103を押したときに開くGUI画面の1例を図13Aに示す。ボタン1302を押すとファイルダイアログが開き、AFMで測定して得られた高さマップが記載されている結果ファイルを選択すると、そのアドレスが1301に表示される。Applyボタン1303を押すと、AFM結果ファイルが読み出され、図11のGUI画面に反映される。一方、Closeボタン1304を押すと、AFM結果ファイルを読み込まずに詳細設定のGUI画面が閉じる。
【0044】
選択ボックス1102でチルトSEMを選択し、詳細設定ボタン1103を押したときに開くGUI画面の1例を図13Bに示す。ボタン1302を押すとファイルダイアログが開き、チルトSEMで取得した画像を使って得られた高さマップが記載されている結果ファイルを選択すると、そのアドレスが1305に表示される。傾斜したSEM画像から高さマップを算出する一般的な手法としてステレオ法があげられるが、別の方法でもよい。Applyボタン1307を押すと、チルトSEMの結果ファイルが読み出され、図11のGUI画面に反映される。一方、Closeボタン1308を押すと、チルトSEMの結果ファイルを読み込まずに詳細設定のGUI画面が閉じる。
【0045】
図14は、検出アクセプタンスを推定する手法の模式図を示す。演算装置102は、まず校正用パターンのSEM画像をもとに、SEM画像を取得した検出器の検出アクセプタンスを推定する。各形状データに対して、検出アクセプタンスを様々に変えて取得あるいはシミュレーションで作成したSEM画像を用意する。1つの形状データに対して、複数の検出アクセプタンスとそれに対応するSEM画像が準備されることになる。図では1つの形状に対応する検出アクセプタンスとSEM画像が記載されているが、実際には複数の形状データの結果が含まれている。これらをライブラリ1401としてあらかじめ用意しておく。演算装置102は、ユーザが記憶装置101に保存した校正用パターンのSEM画像105(図14においては検出アクセプタンスを推定するSEM画像と記載)を読み出し、対応する形状の様々な検出アクセプタンスのSEM画像から最も一致度が高いSEM画像を選ぶ。演算装置102は、該当画像の検出アクセプタンスを、該当検出器の検出アクセプタンスと推定する。もし、複数の校正用パターンのSEM画像が用いられる場合は、一致度の平均が一番高いSEM画像に対応する検出アクセプタンスを該当検出器の検出アクセプタンスと推定する。一致度の平均が一番高いSEM画像を選ぶ以外の選択基準で選択することも可能である。このようにして、校正用パターンのSEM画像から検出アクセプタンスを推定することが可能となる。ここでは、検出アクセプタンスを推定する方法として、各形状ごとに様々な検出アクセプタンスのSEM画像を登録したライブラリを使う方法を説明したが、SEM画像から検出アクセプタンスが推定できれば機械学習や別の方法を用いても良い。
【0046】
演算装置102は、推定した検出アクセプタンスを、記憶装置101(あるいはその他適当な記憶デバイス、例えばメモリデバイス)へ格納する。演算装置102は、格納されている検出アクセプタンスを用いて、模擬SEM画像を生成する。検出アクセプタンスをその他手法により取得する場合(例えば後述する実施形態6~7)においても、記憶装置が格納している検出アクセプタンスを用いる点は共通である。
【0047】
検出アクセプタンスを推定した後に、演算装置102は、様々な形状に対して模擬SEM画像を作成する。ここで、様々な形状とは、校正用パターンの形状ではなく、推定対象とする構造物やその類似構造物の一部形状を変化させたものの形状を意味する。
【0048】
図15は、模擬SEM画像を作成するためのGUI画面の1例を示す。選択ボタン1502を押すとファイルダイアログが開き、検出アクセプタンスを推定した結果を選択すると、表示器1501にファイル名が表示される。次に、模擬SEM画像を作成するための形状を選択ボタン1504によって選択し、ファイル名が表示器1503に表示される。模擬SEM画像を作成する方法は選択ボックス1505で選択可能であり、代表的な手法としてモンテカルロシミュレーション、解析的手法、数値解析手法があげられ、これらを選択可能である。
【0049】
モンテカルロシミュレーションは、電子ビームを照射したときの試料内での散乱過程をモンテカルロ法(乱数を使用したシミュレーション)を用いて計算し、試料から放出される2次粒子の分布や合計数を計算する手法である。放出された2次粒子のエネルギー・角度分布を、検出アクセプタンスと掛け合わせることで、模擬SEM画像を作成する。モンテカルロシミュレーションは精度が高く、実際のSEM画像を非常によく再現できるが、計算時間が長くなる課題がある。しかし、近年はGPU(Graphics Processing Unit)を用いて高速化したモンテカルロシミュレーションが開発されている。GPUを活用すれば高い精度を維持したまま、課題であった計算時間を短縮化することが可能である。解析的手法は、試料内の散乱は考慮せず、形状に対してホワイトバンドや陰影の出方を数式で表して、模擬SEM画像を作成する手法である。実際のSEM画像をどれだけ再現できるかは、数式の精度に依存する。他方で解析的手法は、試料内の散乱過程を計算しないので、計算時間を大幅に短縮することが可能である。数値解析手法は、試料表面から放出される2次粒子の分布を仮定して行列化し、この行列と形状データの行列、および検出アクセプタンスを表す行列を掛け合わせることにより模擬SEM画像を作成する。数値解析手法はモンテカルロシミュレーションよりは大幅に計算時間を短縮化できるが、解析的手法に較べると計算時間は長くなる。ここでは、それぞれの手法を説明したが、例えば形状変化が大きい部位はモンテカルロシミュレーションで、それ以外の形状変化が小さい部位は解析的手法を使うなどの両方を組み合わせた方法も可能である。このように、模擬SEM画像を作成するには様々な手法があり、模擬SEM画像が作れるならばどのような手法を用いてもよい。すなわち、試料上の各位置で、試料から放出され、検出器に到達する2次粒子の個数をシミュレートし、模擬SEM画像を作成できるのであれば、任意の手法を用いてよい。データ数は、作成する模擬SEM画像の枚数である。データ数は入力ボックス1506に直接記載してもよいし、選択ボックス1507で画像処理システム100が推奨するデータ数を自動で設定させてもよい。
【0050】
すべてを設定した後に、Checkボタン1508を押すと、これまでに設定した内容で、模擬画像をピックアップして作成し、計測したい場所の形状変化とSEM画像の階調値変化の関係である感度を評価する。その後、Executeボタン1509を押すと、設定した条件で模擬SEM画像の作成が始まる。Cancelボタンを押すと、模擬SEM画像の作成を行わずに、本GUI画面が閉じる。
【0051】
図16は、図15のGUI画面を用いて模擬SEM画像を作成するフローチャートの1例を示す。まず、校正用データ1501、模擬SEM画像を作成する形状1503、模擬SEM画像を作成する手法1505、データ数1506、1507を入力する(S1601)。これらを入力した後に、Checkボタン1508を押すと、設定した内容をもとに、一部の形状の模擬SEM画像をピックアップして作成する。ピックアップする条件は、特に評価したい形状の変化が大きい点を自動で選択する。ピックアップするデータ数は、図15において設定したデータ数の1/10程度がよいが、それより多くても少なくてもよい。そして、ピックアップされた模擬SEM画像で、形状の変化に対する模擬SEM画像の感度を確認する(S1602)。具体的には、形状が変化したときの該当形状周りの画像の変化量(例えば階調値の変化量)を評価する。例えば、形状の変化に対して階調値の変化が小さい場合には感度が小さく、階調値の変化から形状変化を読み出しにくい。一方、形状の変化に対して階調値の変化が大きい場合は感度が大きく、階調値の変化から形状変化を読み出しやすい。しかし、感度が大きすぎると、少しの階調値変化で大きく形状変化してしまうので、感度が高すぎるのも問題である。この感度評価の結果をユーザが直接確認できるように、ピックアップした模擬SEM画像を表示してもよいし、形状の変化と階調値の変化の関係をグラフで表示してもよい。これらに必要十分な感度が見られた場合は、Executeボタン1509を押して、設定した条件で模擬SEM画像を作成する(S1603)。感度がない場合や、期待ほど得られない場合は、パラメータ入力に戻り、入力パラメータを修正して、再度感度確認を行う。感度が十分であるか否かは、ユーザが目視確認してもよいし、演算装置102が画像の変化量と判断閾値を比較するなどによって自動的に判断してもよい。
【0052】
図17は、図15のGUI画面を用いて模擬SEM画像を作成するフローチャートの別例を示す。パラメータを入力(S1701)、感度を確認(S1702)、模擬SEM画像を作成(S1703)は、それぞれ該当する図16のステップと同じである。S1702において、十分な感度がないと判定された場合に、あらかじめ複数の校正用データが保存されていたのであれば、それら全部、あるいは一部、または、ユーザが指定した校正用データで、十分な感度があるか評価をする(S1704)。ここで、他の校正用データとは、異なる検出器や同じ検出器でも照射エネルギーや加速電圧などの光学条件が異なる条件において校正用パターンで取得したSEM画像を意味する。最初に設定した校正用データよりも高い感度の校正用データがあるか否かをユーザに通知する。その結果をもとにユーザは校正用データを変更するか否かを判断する。
【0053】
図18A図18Bは、模擬SEM画像を作成する形状を設定するGUI画面の1例を示す。測長SEMや欠陥レビューSEMによって3次元形状を推定することが求められる代表的な例としては、現像後のレジストパターンや異物があげられる。現像後のレジストパターンは、レジストパターンをハードマスクとして下層をエッチングにより加工するので、レジストパターンの出来がエッチングの加工精度に大きく影響する。評価するレジストパターンの1つの例は、ライン形状のパターンである。
【0054】
図18Aは、模擬SEM画像を作成するためのラインパターンの形状を設定するGUI画面の1例である。選択ボックス1801でラインパターンを選択し、詳細設定ボタン1802を押すと図18BのGUI画面が開く。ラインパターンの場合、高さ、幅、長さ、テーパ角、トップ部およびボトム部の丸みが形状パラメータとなる。図では、これらの各々の形状パラメータに対して、上限と下限を設定するようになっている。上限と下限ではなく、基準値と基準値からの変化量あるいは変化率で入力するようにしてもよい。ここで、計測対象が半導体パターンの場合は、プロセス変動によって起こりうる形状の変化をなるべく広くカバーするように形状パラメータを設定することが好ましい。図18BのGUI画面には記載されていないが、ラインパターンと下層の材質も入力できるようにしてもよい。さらに、模擬SEM画像は、1次元のラインパターンに加えて、途中で折れ曲がったり、分岐したりした2次元のパターンで作成してもよい。これらの形状パラメータは、選択ボックス1801で選ばれた形状に依存し、例えば、異物を選んだ場合は、形状パラメータは高さ、幅、テーパ角となる。
【0055】
このように、ラインパターンや異物などの標準的な形状の場合は設定すべき形状パラメータが既知であるので、画像処理システム100内にあらかじめ登録されている。しかしユーザが計測したいパターンはこれらだけでなく、複雑な形状を持つパターンも含まれる。したがって、既登録とは異なる複雑で新しい形状に対して高さマップを算出する場合は、その形状をユーザが作成して指定する必要がある。
【0056】
図19A図19Dは、3次元計測が必要とされる計測対象のパターンの1例として、FinFET(Fin Field-Effect Transistor)を示す。FinFETは電界効果トランジスタの1種であり、ゲートがチャネルを包むように位置した構造を形成しており、速いスイッチング時間と高い電流密度を持つことを特徴としている。FinFETを上方から見た形状が図19Aである。横方向にチャネル1902が3本、縦方向にゲート1901が3本ある。図19Bは、これらの交差部を斜め上方から見た図である。チャネル1902を覆うようにゲート1901が作成されている。計測ターゲットはチャネルおよびゲートの幅と高さが代表としてあげられるが、特にチャネルに関しては、デバイス特性に大きく影響するので、テーパ角やトップ部の丸みも計測対象として含まれる。さらに、ユーザによっては、これら各々の数値だけでなく、3次元形状そのものを知りたいニーズがある。これらの変動範囲を指定し、様々な組み合わせで複数の形状を作成し、対応する模擬SEM画像を作成し、模擬SEM画像と対応する形状の組み合わせを学習させることにより、このような形状に対しても、取得したSEM画像から高さマップを推定することが可能となる。図19Cは画像の上側に検出器が配置された時のSEM画像の例、図19Dは画像の左側に検出器が配置された時のSEM画像の例である。検出器の反対側に陰影1903、1904が観察される。図には表記していないが、パターン上の検出器側にはホワイトバンドが観察される。
【0057】
図20A図20Bは、登録されていない新規の形状を指定するGUI画面の1例を示す。図19はそのような新規形状の1例である。図20Aの選択ボックス2001でCustomizeを選択し、詳細設定ボタン2002を押すと図20BのGUI画面が開く。図20BのGUI画面ではデータをインポート、あるいはCAD Editorを選択できるようになっている。データをインポートする場合、以前に作成したCADデータを読み出すことができる。インポートするCADデータはボタン2003を押して選択される。CAD Editorを選び、Createボタン2004を押すと、CAD Editorが開く。CAD Editorは一般的なCADと同等の構成となり、CAD上でサンプル構造を描くことができ、各部位ごとに材料を指定することができる。さらに、変化させるサイズも、例えば図18Bのように指定することにより、図18Bと同様に変化幅を指定した形状の設定が可能となる。
【0058】
図21は、学習器103が学習する内容を指示するためのGUI画面の1例を示す。模擬SEM画像が作成されると、演算装置102は、模擬SEM画像とこれに対応する形状データとの間の関係を学習する。ボタン2102を押すとファイルダイアログが開き、図15から図20を用いて作成した模擬画像と対応する形状データのセットが読み出され、表示器2101に表示される。選択ボックス2103は入力データを選択できるようになっている。例えば、学習の際に入力データは模擬SEM画像、出力データは高さマップとなるが、その入力データの模擬SEM画像を選ぶことができる。通常は高さマップ推定に使用するSEM画像を取得する全検出器(走査電子顕微鏡300の場合は下方検出器312、313)の模擬SEMを入力データとするが、例えば、1次元のラインパターンの場合は、ライン方向の長手方向に設置されている検出器では陰影が見られないために高さマップ演算時の精度低下の原因となりうる。この場合、ラインに垂直に配置されている検出器の模擬SEM画像のみを学習に使用する。また、複数検出器の模擬SEM画像のみではなく、これらを合成した模擬SEM画像や輪郭を強調した模擬SEM画像、Shape From Shadingで求めた高さマップ等を入力データに追加することも可能であり、入力データをユーザが任意に設定できるようにする。学習アルゴリズムも選択ボックス2104で選択が可能である。ここでは一般的なCNN(Convolutional Neural Network:畳み込みニューラルネットワーク)が指定されているが、他の手法(例えばSegNetやU-Net等)も指定可能である。学習アルゴリズムは画像処理システム100の製作者が追加可能である。最後に、学習の深さを選択ボックス2105でユーザが指定可能である。深いと学習時間が短いものの学習の精度が低いが、深いと学習精度が高くなるものの、学習時間は増大する。
【0059】
図22は、学習器103の構成例を示す図である。ここではニューラルネットワークを用いて学習器103を構成した例を説明する。学習器103は、入力層として、各検出器で取得したSEM画像を入力するための入力ユニットを備えている。ニューラルネットワークは、入力層に入力された情報が、中間層=>出力層へと順に伝搬されることにより、出力層から高さマップを出力する。中間層は、複数の中間ユニットから構成されている。入力層に入力された情報は、各入力ユニットと各中間ユニットとの間の結合係数によって重みづけされ、各中間ユニットに入力される。中間ユニットに対する入力が加算されることによりその中間ユニットの値となる。中間ユニットの値は入出力関数によって非線形変換される。中間ユニットの出力は、各中間ユニットと各出力ユニットとの間の結合係数によって重み付けされ、各出力ユニットに対して入力される。出力ユニットに対する入力が加算されることにより出力層の出力値となる。学習を進めることにより、ユニット間の結合係数や、各ユニットの入出力関数を記述する係数などのパラメータ(定数、係数など)が、次第に最適化される。記憶装置101は、ニューラルネットワークの学習結果として、それらの最適化した値を記憶することができる。
【0060】
図23は、図21図22で学習した結果を用いて、実SEM画像から高さマップを出力するように学習器103に対して指示するGUI画面の1例を示す。ボタン2302を押すことでファイルダイアログが開き、学習結果を選択すると、表示器2301にその名前が表示される。高さマップを推定したい実SEM画像をボタン2304で開いたファイルダイアログやフォルダダイアログから選択する。選択したファイルの画像名やフォルダ名が表示器2303に表示される。Executeボタンを押すと、学習結果の入力データとして実SEM画像が学習器103に対して入力される。出力装置104は、学習器103が推定した高さマップを出力する。
【0061】
図24は、推定した高さマップを表示するGUI画面の1例を示す。入力した実SEM画像と推定した高さマップ、さらに、高さマップから計測した結果(図では高さ)が表示される。また、高さマップ上には、高さマップから計測値を算出した位置を表す印を表示させてもよい。例えば、図では高さを計測しており、パターン部と平坦部に×印2403が表示され、これらの高低差を高さとして結果を表示している。例えば、高さ算出の場合に、高い部分と低い部分のそれぞれに対応する領域で計測範囲を指定して平均値を算出し、それぞれで得られた平均値の差分を高さとして算出可能である。この場合は、高さ算出に用いた領域を色で塗って表示してもよい。もちろん、パターン部は点で指定し、平坦部は領域で指定しても良い。また、パターンのテーパ角を計測した場合は、該当するパターンのエッジ部分を色で表示し、あるいは太く表示してもよく、各々の計測対象に合わせて、高さマップに計測場所を表示する。高さマップからどの形状値を読み出すかはボタン2401を押して指定し、指定した内容に基づいて表の右側に計測結果の列が追加削除される。Auto Measureボタン2402を押すと、各高さマップから、ボタン2401で指定した形状値を自動で計測する。あるいは、測定したい計測値のセルを選択した後にAuto Measureボタン2402を押して、そのセルのみ再計測させても良い。Saveボタンを押したときに、本GUI画面の内容が保存されるが、高さ計測結果などをテキストデータとして別に保存してもよい。
【0062】
図25は、図24のボタン2401を押したときに開くGUI画面の1例を示す。ここでは、測定位置として、高さ、幅、長さ、テーパ角、面積、体積が指定可能である。チェックボックスにチェックを入れることにより、高さマップをもとに何を計測するか指定することができる。
【0063】
図26は、図24の形状番号「1」のHeightのセル(50.5nm)をクリックしたときに開くGUI画面の1例を示す。本GUI画面では、測定結果を実際の高さマップを見ながら修正することを可能としている。領域2601には、上方から見た時の高さマップが表示されている。高さはカラーマップ2602で視覚的に分かるようにされ、カラーマップはカラーでもグレイレベルでもよい。領域2601には横方向の破線2603と縦方向の破線2604が表記されている。これらの破線に沿った高さマップをGUI画面の右側に1次元で表記する。例えば、破線2603上の高さは2605、破線2604上の高さは2606に表記され、推定した高さマップを詳細に確認することができる。なお、これらの破線はマウスで選んで移動させることが可能となっている。Measurementの領域のPoint1ボタン2607を押し、領域2601内のある位置、または、2605、2606のプロファイル上の点を押す。次に、Point2ボタン2608を押して、領域2601内のある位置、または、2605、2606のプロファイル上の点を押すと、Point1とPoint2の高さの差が算出され、表示器2610に表示される。Point1ボタン2607を押した後に領域2601内の選んだ位置をバツ印2613、Point2ボタン2608を押した後に領域2601内の選んだ位置を別のバツ印2614でそれぞれ表示することによって、Point1、Point2としてどの位置を選んだかユーザが目視で確認できるようにしてもよい。ここでは、領域2601内で選んだので、バツ印は領域2601内にのみ表示されているが、2つのバツ印を区別するために、色や太さを変えてもよい。また、図24と同様に計測する領域を色付けや斜線等で目視できるように表示してもよい。ここで、Applyボタン2611を押すと、図24の該当セルに反映される。Cancelボタン2612を押したときは何もせずにGUI画面を閉じる。
【0064】
高さマップを算出した時に、高さマップ全体が傾きを持つ場合がある。この場合、図26のGUIには記載していないが、AFMと同様にベースライン補正機能を設けて、高さ計測前に高さマップ全体の傾きを補正してもよい。
【0065】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る画像処理システム100は、校正用パターンのSEM画像を記憶装置に記憶し、演算装置で検出アクセプタンスを算出して複数の形状で模擬SEM画像を作成し、模擬SEM画像と対応する形状データを学習器で学習し、高さマップを推定したいパターンの実SEM画像を学習結果に入力することにより、SEM画像の高さマップを推定できる。
【0066】
<実施の形態2>
本開示の実施形態2では、走査電子顕微鏡300の別構成例を説明する。画像処理システム100の構成は実施形態1と同様である。実施形態1に記載され本実施形態2に未記載の事項は、特段の事情がない限り本実施形態2にも適用できる。
【0067】
図27は、本実施形態2における走査電子顕微鏡300の1例を示す図である。検出器以外の構成要素は全て図3と同じ構造を有している。図3と同様に、電子ビーム301を試料315に照射すると、2次粒子2701、2702(2次電子と反射電子)が放出される。これらの2次粒子は、その軌道上に設置された環状の下段検出器2703と上段検出器2704によって検出される。両検出器の中心に設けられた開口は、電子ビーム301を通過させるものである。特に、上段検出器2704の開口を十分小さくすることにより、試料315上に形成された深孔や深溝の底から放出され、パターン中心近傍を通過して試料表面上に脱出した2次粒子2702を検出することができる。下段検出器2703は、上段検出器2704よりも横方向に放出された2次粒子2701を検出することができ、より表面の形状の変化に鋭敏なSEM画像が得られる。下段検出器2703の直前にあるエネルギーフィルタ2705、あるいは上段検出器2704の直前にあるエネルギーフィルタ2706を用いたエネルギーフィルタリングにより、放出電子をエネルギー弁別することができる。エネルギーフィルタは、一般的に2次粒子が通過できるようにグリッド状の電極で形成され、電圧を印加可能である。エネルギーフィルタに印加した電圧よりも高いエネルギーの2次粒子は、エネルギーフィルタを通過することができ、検出器に到達する。エネルギーフィルタに印加した電圧よりも低いエネルギーの2次粒子は、エネルギーフィルタを通過することができないので、検出器に到達できない。したがって、エネルギーフィルタに印加する電圧を制御することによって、検出する2次粒子の成分をフィルタリングする効果が得られる。
【0068】
下段検出器2703と上段検出器2704は、円周方向に分割して、それぞれが独立した検出器として取り扱うことが可能である。例えば、4個に分割すると、図3で下方検出器を4個置いた場合と同様の方位性を持ったSEM画像が得られる。下段検出器2703、上段検出器2704ともに分割することが可能であり、それぞれの分割数を増やすことにより、より高い方位性を持ったSEM画像が得られることが期待される。分割数は、下段検出器2703と上段検出器の2704で変えてもよいし、円周方向の分割位置(位相)を変えてもよい。
【0069】
図28A図28Cは、図27の下段検出器2703と上段検出器2704を円周方向に4分割したときの検出アクセプタンスとSEM画像の1例を示す。検出器の分割は、紙面左右方向、および紙面垂直方向とした。紙面左側に分割された上下検出器の検出アクセプタンスの1例を図28Aに示す。領域2801が上段検出器2704、領域2802が下段検出器2703で2次粒子が検出される角度成分である。ドットパターンに対し、上段検出器2704で得られるSEM画像を図28B、下段検出器2703で得られるSEM画像を図28Cに示す。ホワイトバンド2803、2805は下段検出器画像(図28C)に較べて上段検出器(図28B)は狭く弱く、陰影2804、2806は上段検出器(図28B)に較べて下段検出器画像(図28C)では長く観察される特徴がある。このように1つの形状に対し、異なる検出アクセプタンスのSEM画像を多く得ることにより高さ変化に対する感度が向上し、高さマップの推定精度が向上する。
【0070】
図29は、本実施形態2における走査電子顕微鏡300を用いた場合の、校正用パターンの形状データおよびSEM画像を登録するGUI画面の1例を示す。GUI画面の全体構成は、図3の走査電子顕微鏡向けの図10のGUI画面と同じであり、設定方法も同じである。選択ボックス2901に検出器のレイヤー数を入力する。ここでは、上段検出器2704と下段検出器2703の2層で構成されているので、「2」が選択されている。次に、レイヤーあたりの検出器個数を選択ボックス2902で選択する。図では、左右に分割した検出器を想定して「2」を選択している。これらの設定に従って、下側の登録SEM画像が、レイヤー1とレイヤー2のそれぞれで2個ずつ登録されている。本GUI画面は、レイヤーあたりの検出器個数が、全レイヤーで同数となるように選択ボックスが作成されているが、各々のレイヤーで個数を選択するようにGUI画面を変更してもよい。
【0071】
<実施の形態3>
実施形態1では、演算装置102で作成した様々な形状と、前記形状に対応する模擬SEM画像の組からなるデータを教師データとした。しかし、模擬SEM画像を作成する際の、シミュレーションや解析的手法の精度が十分でない場合は、実測結果との乖離が生じる。さらに、検出アクセプタンスを校正用パターンのSEM画像から推測しているので、実際の装置の検出アクセプタンスから誤差が生じる可能性がある。このような課題を解決するための方法として、データ同化があげられる。データ同化は、シミュレーションでの誤差を実測結果によって修正する手法である。本開示の実施形態3では、データ同化を用いる例を説明する。画像処理システム100の構成は実施形態1と同様である。実施形態1~2に記載され本実施形態3に未記載の事項は、特段の事情がない限り、本実施形態3にも適用できる。
【0072】
図30Aは、本実施形態3において画像処理システム100が実施するデータ同化のフローチャートの1例を示す。まず、走査電子顕微鏡を用いて、高さマップを推定するSEM画像を取得する(S3001A)。次に、SEM画像を取得した位置で、AFM、断面SEM、チルトSEMなどを用いてリファレンス計測を実施する(S3002A)。このとき、SEM画像全体をカバーする領域の高さマップを取得してもよいが、特徴的な一部の形状パラメータ(サイズ)のみを計測してもよい。演算装置102は、リファレンス計測した結果をもとに、形状データを作成し、模擬SEM画像を作成する(S3003A)。演算装置102は、S3001Aで取得した実SEM画像と、S3003Aで作成した模擬SEM画像を比較し、模擬SEMを実SEM画像に合わせる補正係数を算出する(S3004A)。補正係数は、階調値の調整や画像のノイズの加減があげられるが、他の補正を含めてもよい。補正係数の精度を高めるために、なるべくサイズの異なる形状で、複数枚のSEM画像を取得し、リファレンス計測を実施することが好ましい。次に、計測対象の様々な形状で、前記補正を加えた模擬SEM画像を作成して、形状との関係を学習する(S3005A)。最後に、高さマップ算出対象の実SEM画像(S3001Aとは異なる)を学習結果に入力して高さマップを出力する(S3006A)。
【0073】
図30Aは、模擬SEM画像を、実際のSEM画像に近づけるように補正係数を算出するので、演算装置102が生成した様々な模擬SEM画像を学習器103が学習する際においても、その模擬SEM画像に対して補正係数を適用することにより得られる画像と、模擬SEM画像を生成する元形状パターンとの間の関係を学習することになる。換言すると学習器103は、実SEM画像に近い学習結果を蓄積することになる。したがって学習器103から推定結果を得る際には、計測対象のSEM画像をそのまま学習器103へ投入すればよい。学習器103は実SEM画像に近い画像群を学習済だからである。
【0074】
図30Bは、本実施形態3において画像処理システム100が実施するデータ同化のフローチャートの別例を示す。図30Aのフローチャートでは、模擬SEMを実SEMに合うように補正係数を算出して、補正した模擬SEM画像を用いて学習し、実SEM画像を学習結果に入力することで高さマップ算出精度を向上した。図30Bは、反対に、実SEM画像を模擬SEM画像に合うように補正係数を算出する。
【0075】
まず、走査電子顕微鏡を用いて、高さマップを推定するSEM画像を取得する(S3001B)。次に、SEM画像を取得した位置で、AFM、断面SEM、チルトSEMなどを用いてリファレンス計測を実施する(S3002B)。このとき、SEM画像全体をカバーする領域の高さマップを取得してもよいが、特徴的な一部の形状パラメータ(サイズ)のみを計測してもよい。演算装置102は、リファレンス計測した結果をもとに、形状データを作成し、模擬SEM画像を作成する(S3003B)。演算装置102は、S3001Bで取得した実SEM画像と、S3003Bで作成した模擬SEM画像を比較し、実SEMを模擬SEM画像に合わせる補正係数を算出する(S3004B)。補正係数は、階調値の調整や画像のノイズの加減があげられるが、他の補正を含めてもよい。補正係数の精度を高めるために、なるべくサイズの異なる形状で、複数枚のSEM画像を取得し、リファレンス計測を実施することが好ましい。次に、計測対象の様々な形状で模擬SEM画像を作成して、形状との関係を学習する(S3005B)。最後に、高さマップ算出対象の実SEM画像に前記補正を加えたSEM画像を学習結果に入力して高さマップを出力する(S3006B)。
【0076】
図30Bは、実際のSEM画像を模擬SEM画像へ近づけるように補正係数を算出するので、学習する内容は模擬SEM画像と模擬SEM画像を生成する元形状パターンとの間の関係となる。その後、学習器103から推定結果を得る際には、計測対象のSEM画像に対して補正係数を適用することにより模擬SEM画像へ近づけた補正後画像を取得し、その補正後画像を学習器103へ投入すればよい。
【0077】
シミュレーションと実測との間に誤差が生まれる別の要因として、複数検出器間の検出特性の差が上げられる。複数検出器は光軸に対して対称に配置されているので、検出器に到達する2次粒子数(信号量)は同じであり、得られるSEM画像の階調値も同じとなるはずである。しかし、検出器からSEM画像を作成するまでには電気回路を通して信号処理がなされるが、その際に用いられるA/D(Analog-Digital)変換素子などの個体差や、同じ構成の装置でも組み立て誤差等に起因した機差があり、各検出器で同じはずのSEM画像の階調値が異なる場合が多い。そこで、全ての検出器で、同じ信号量のときに同じ階調値となるように、補正する必要がある。
【0078】
図31は、データ同化の別のフローチャートの1例を示す。まず、平坦な試料で、照射電流量を変えて複数検出器のSEM画像を取得する(S3101)。次に、照射電流量とSEM画像の階調値との間の関係が一致するように、検出器ごとに補正式を算出する(S3102)。様々な形状で作成した模擬SEM画像を用いて学習データを作成する(S3103)。この際に模擬SEM画像に補正式を適用しても良い。最後に、補正式を適用した実SEM画像を学習結果に入力して高さマップを出力する(S3104)。このようにして、複数検出器間の差や装置間差を低減することにより、学習結果がロバストになる。
【0079】
図32は、実SEM画像を学習結果に入力して高さマップを算出した後に、学習結果と実測の誤差を補正するフローチャートの1例を示す。まず、走査電子顕微鏡を用いて、高さマップを推定するSEM画像を取得する(S3201)。次に、SEM画像を取得した位置で、AFM、断面SEM、チルトSEMなどを用いてリファレンス計測を実施する(S3202)。このとき、SEM画像全体をカバーする領域の高さマップを取得してもよいが、特徴的な一部の形状パラメータ(サイズ)のみを計測してもよい。その後、S3201で用いたSEM画像を、あらかじめ学習した結果に入力して高さマップを出力する(S3203)。S3202で算出した実測値と、S3203で出力した高さマップを比較して、2つの関係式を算出する(S3204)。関係式の精度を高めるために、なるべくサイズの異なる形状で、複数枚のSEM画像を取得し、リファレンス計測を実施することが好ましい。推定したいSEM画像を学習結果に入力して高さマップを出力し(S3205)、得られた高さマップをS3204で求めた関係式で補正することにより、シミュレーションの誤差を補正した高さマップが得られる。このように、図32のフローチャートを用いることにより、シミュレーションによる形状変化に対する感度は維持しつつ、実測データにより絶対値が校正することができ、高い精度で高さマップを求めることが可能となる。
【0080】
図30Bでは、模擬SEM画像に合うような補正を実SEM画像に加えてから学習器103に対して入力している(S3006B)。この場合、補正係数がうまく算出されていない場合に実測との誤差を拡大する可能性があるので、本フローチャートのように、後で関係式を用いて実測値に近づける方が高さ精度が得られる可能性が高い。また、複数台の装置で本画像処理システムを使う場合、各装置で学習結果を作成するよりも、学習結果は共通化した方がコストが低下する。各々の装置で実測値と高さマップを比較して各装置固有の関係式を算出し活用することにより、機差マッチングが可能となる。この場合、リファレンス計測は共通結果を使用できるので、事前に各装置で同じ場所のSEM画像を取得しておくことで装置間の差を確認することが可能となる。
【0081】
本実施形態3では、高さマップ算出時の誤差を低減するために、図30A図30B図31図32の4つの手法を示したが、これらを個別に実施してもよいし、これらを組み合わせて実施してもよい。例えば試料上の位置ごとにそれぞれ異なるフローチャートを用いることができる。
【0082】
<実施の形態4>
一般的に、機械学習では学習時に使用するデータセットは多い方が学習結果の精度が向上する可能性があると言われている。しかし、実際には学習に使用できるデータセット数は限られる。このように限られたデータセットにおいても有効に学習を進めるために、データ拡張(Data Augmentation)が行われる。データ拡張は元の学習データに変換を加えてデータ量を増やす技法で、画像処理分野における畳み込みニューラルネットワークのトレーニングに効果を発揮することが知られている。画像の変換手法としては、ノイズ増幅、ノイズ除去、コントラスト調整、トリミング、反転(左右/上下)や回転、シフト(水平/垂直)拡大縮小等が一般的に使われている。そこで本開示の実施形態4では、データ拡張の1例として、回転とトリミングについて説明する。画像処理システム100の構成は実施形態1と同様である。実施形態1~3に記載され本実施形態4に未記載の事項は、特段の事情がない限り本実施形態4にも適用できる。
【0083】
図33A図33Bは、パターン3301を4方向検出器3302、3303、3304、3305で観察するときの試料と検出器の配置の関係を示す。パターン3301は文字「A」である。検出器3302では、パターン3301の下側に陰影が生じ、他も同様に検出器の反対側に陰影が見られる。パターンと検出器を時計回りに90°回した時、図33Aの検出器3302で得られる画像は、図33Bの新しい配置の検出器3308と読み直される。同様に、3303は3309、3304は3310、3305は3307に読み直される。これを4回繰り返すと元の配置に戻る。したがって、4方向検出器では、一組のデータセットを4倍に増やすことが可能となる。
【0084】
図33Cは、トリミングの1例を示す。トリミングは、SEM画像のサイズ3311よりも小さなサイズ3312を、SEM画像内のランダムな位置で切り出すことにより、一枚の画像から多数の画像を作成することが可能である。学習は元の画像サイズよりも小さなサイズとなるので、実SEM画像から高さマップを算出するとき、複数の小さなサイズの領域の高さマップが出力される。
【0085】
図33Dは、複数の小さなサイズの領域の高さマップ3314を重ね合わせて、1つの大きな高さマップ3313を作成する1例を示す。このとき、各高さマップをタイル状に並べると、境界での高さが不連続となる課題がある。そこで、端の一部3315を重ね合わせて平均を取る、あるいは端からの比率で混合することにより、境界部を滑らかにすることができる。このようにトリミングを使うと、一枚の画像から多数の画像を作成することが可能であり、学習に使用するデータセットを大幅に増やすことが可能となる。トリミングを使うと、どのようなサイズのSEM画像においても、画像サイズを合わせずに高さマップを作成することが可能となる。
【0086】
本実施形態4ではデータ拡張の例として、回転とトリミングを説明したが、他のデータ拡張の手法を用いてデータ数を増加させてもよい。
【0087】
<実施の形態5>
走査電子顕微鏡を用いてSEM画像を取得したとき、一般に、画像を取得した条件が記載された付帯ファイルがSEM画像とともに保存される。付帯ファイルには、大きく分けて、装置自体に関する項目、光学条件に関する項目、画像取得条件に関する項目が記載されている。装置自体に関する項目としては、例えば、装置メーカ名、装置型番があげられる。光学条件に関する項目としては、例えば、照射エネルギー、照射電流量、装置内の電極電圧、集束レンズの電流量があげられる。これらの条件は光学モードとしてまとめた情報としても保存可能である。最後に、画像取得条件に関する項目としては、例えば、画像取得した検出器の名前、倍率、フレーム数、SEM画像のピクセル数、SEM画像の階調値補正方法があげられる。本開示の実施形態5では、形状パターンと画像との間の関係に加えて、これらと付帯情報との間の関係を併せて学習する例を説明する。実施形態1から実施形態4に記載され本実施形態に未記載の事項は、特段の事情がない限り本実施形態にも適用できる。
【0088】
図34は、実施形態5に係る画像処理システム100の構成図である。図1と同様に、画像処理システム100は、記憶装置101、演算装置102、学習器103、出力装置104、入力装置200を備える。図1と異なる点は、記憶装置101に校正用パターンのSEM画像105だけでなく、SEM画像の付帯情報3401を保存することである。さらに、学習器103に対して推定対象のSEM画像106だけでなく、SEM画像の付帯情報3402を学習器103に入力する。このように、付帯情報を入れることで、例えば、学習時と学習結果をもとに推定する時で、SEM画像を取得した光学条件や検出器名が異なる場合にエラーを出してユーザに知らせることができる。また、SEM画像取得時の設定パラメータが異なるときに補正を加えることができる。
【0089】
照射電流量、倍率、フレーム数はSEM画像のノイズに影響する。学習時に用いた模擬SEM画像のノイズ量と、高さマップを推定するSEM画像のノイズ量が異なると、高さマップ推定時の誤差となる。また、SEM画像の階調値補正は、例えばSEM画像が256階調のグレースケールで表示される場合、検出信号量を0から255階調値に直線的に対応させてSEM画像を形成し、あるいは例えば、ガンマ補正のように信号量の少ないところまたは信号量の多いところが強調されるように比重をかけてSEM画像が形成される。または、ある特定の階調値の範囲に収まるようにする、信号量の上位何%と下位何%が特定の階調値範囲に入るように調整する、などの場合がある。本開示の技術はSEM画像の階調値情報を使って高さマップを推定するので、SEM画像の階調値補正手法は重要な情報となる。
【0090】
上記では、高さマップを推定するSEM画像106を学習器103に入れるときにSEM画像を補正することを述べたが、補正用にあらかじめ取得したSEM画像106や付帯情報3402を用いて、例えば、画像ノイズ量や階調値補正方法の情報を読み出して、演算装置102が模擬SEM像を作成するときの作成条件として用いてもよい。
【0091】
<実施の形態6>
検出アクセプタンスは走査電子顕微鏡装置の固有の情報であり、一般にユーザには開示されていないので、ユーザは検出アクセプタンスを直接知ることができない。したがって、ユーザが自ら模擬SEM画像を作成し、走査電子顕微鏡を用いて取得したSEM画像を再現するためには、検出アクセプタンスを暗中模索で調べることが必要となる。実施形態1では、校正用パターンのSEM画像を記憶装置101に保存し、演算装置102で演算することによって検出アクセプタンスを推定し、模擬SEM画像を作成する。すなわち、ユーザが自ら検出アクセプタンスを探索する必要がない。
【0092】
しかし、装置メーカは検出アクセプタンスの情報を持っているので、校正用パターンのSEM画像から検出アクセプタンスを推定する必要がない。検出アクセプタンスを推定するステップが入っていると、誤差の要因となるので、検出アクセプタンスを直接入力できる方が精度向上が高くなる可能性が高い。そこで本開示の実施形態6では、校正用パターンのSEM画像105に代えて検出アクセプタンスを記述したデータを用いる例を説明する。実施形態1から実施形態5に記載され本実施形態に未記載の事項は、特段の事情がない限り本実施形態にも適用できる。
【0093】
図35は、本実施形態6に係る画像処理システム100の構成図である。図1と同様に、画像処理システム100は、記憶装置101、演算装置102、学習器103、出力装置104、入力装置200を備える。図1と異なる点は、記憶装置101に校正用パターンのSEM画像105の代わりに検出アクセプタンス3501を入力する点である。
【0094】
図36は、本実施形態6に係る画像処理システム100が高さマップを推定する手順を説明するフローチャートである。検出アクセプタンス3501を記憶装置101に入力し(S3601)、模擬SEM画像を作成する形状を指定し(S3602)、様々な形状で模擬SEM画像を作成し、形状との関係を学習し(S3603)、走査電子顕微鏡で推定対象のSEM画像(106)を取得し(S3604)、S3604で取得したSEM画像をS3403で学習した結果に入力して高さマップを出力する(S3605)。
【0095】
図37は、検出アクセプタンスをテキストファイルで入力する1例を示す。上方に、検出器の個数、照射エネルギー、2次粒子の種類(2次電子あるいは反射電子)、エネルギーステップ、仰角ステップ、方位角ステップを指定する。下側に、各エネルギー、仰角、方位角での各検出器の検出割合を記載している。間のエネルギーや角度での検出割合は、内挿して求める。図37には記載していないが、装置メーカ名や型番、光学モード名、電極電圧等の情報をテキストファイル中に記載してもよい。
【0096】
図37では検出アクセプタンスをテキスト形式で入力したが、GUI上で設定しても良い。図38A図38Bは、検出アクセプタンスを入力するGUI画面の1例を示す。選択ボックス3801で設定したい検出器の番号を選択し、選択ボックス3802と3803で縦軸と横軸を指定する。ここでは、縦軸は仰角、横軸は方位角としている。これらの設定を行うと、GUI画面の中央にグラフが記載される。グラフのセルをクリックすると黒または白に変化する。黒い領域3805が検出される領域となる。しかし、すべてのセルをクリックすることが大変な場合は、ボタン3804を押すことで簡易設定ができるようになっている。ボタン3804を押したときに開くGUI画面の1例を図38Bに示す。ここでは、エネルギー、仰角、方位角の範囲を入力してApplyボタンを押すと、図38Aの黒い領域(検出される範囲)に反映される。
【0097】
このように、検出アクセプタンスの情報を入手した場合、校正用パターンのSEM画像の代わりに直接記憶装置101に保存することにより、実施形態1から実施形態5と同じように実SEM画像から高さマップを出力することが可能となる。
【0098】
<実施の形態7>
本開示の実施形態7では、校正用パターンのSEM画像105に代えて、検出器の形状を記述したデータを用いる例を説明する。実施形態1から実施形態6に記載され本実施形態に未記載の事項は、特段の事情がない限り本実施形態にも適用できる。
【0099】
図39は、本実施形態7に係る画像処理システム100の構成図である。図1図35と同様に、画像処理システム100は、記憶装置101、演算装置102、学習器103、出力装置104、入力装置200を備える。図1図33と異なる点は、記憶装置101に校正用パターンのSEM画像105や検出アクセプタンス3501の代わりに装置形状データ3901を入力する点である。
【0100】
図40は、実施形態7に係る装置形状データの1例を示す。電子ビーム4001は上方から試料4002に照射される。図40では、検出器は環状の検出器を想定しており、ここでは左検出器4003と右検出器4004に分割されている。本構成における装置形状データは、検出器4003、4004と試料4002の距離、検出器の内径と外径、分割位置となる。これらの装置形状データ3901を記憶装置101に保存すると、演算装置102は装置形状データ3901にしたがって検出アクセプタンスを計算する。検出アクセプタンスの計算は、幾何学的に検出する2次粒子の角度を計算してもよいし、既存の電磁界シミュレータを用いて計算してもよい、図40には、試料4002と検出器4003、4004のみ装置形状データとして入力しているが、対物レンズや電極などの他の光学系素子も追加できるようにしてもよい。
【0101】
このように、校正用パターンのSEM画像や検出アクセプタンスではなく、装置構成を記憶装置101に保存することにより、実施形態1から実施形態6と同じように実SEM画像から高さマップを出力することが可能となる。
【0102】
<本開示の変形例について>
本開示は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0103】
実施形態6において、検出アクセプタンス3501を記憶装置101に格納することを説明したが、検出アクセプタンス3501は例えばユーザがGUIなどのインターフェースを介して指定することもできる。同様に実施形態7において、装置形状データ3901はユーザがインターフェースを介して指定することもできる。
【0104】
以上の実施形態において、学習器103は、試料の高さ、幅、長さ、テーパ角、丸み、領域の広さ、容積、などの3次元形状と、試料のSEM画像との間の関係を学習することができる。試料の形状に応じて、その他適当な3次元形状を学習してもよい。
【0105】
以上の実施形態において、演算装置102は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、汎用のCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などの演算装置が各フローチャートの内容を実装したソフトウェアを実行することにより構成することもできる。
【0106】
学習器103は、学習結果を記述したデータを記憶装置101に格納しておき、学習器103に対する入力値を学習器103の内部構造にしたがって学習結果データに対して適用することにより、構成することができる。学習器103が学習や推定を実施するために用いるアルゴリズムは、演算装置102が実行することもできるし、学習器103のために別の演算装置を設けることもできる。
【0107】
以上の実施形態においては、荷電粒子線装置の1つである走査電子顕微鏡を例として説明したが、例えばイオン顕微鏡などの他の荷電粒子線装置においても本開示は適用可能である。
【符号の説明】
【0108】
100…画像処理システム
101…記憶装置
102…演算装置
103…学習器
104…出力装置
105…校正用パターンのSEM画像
106…推定対象のSEM画像
200…入力装置
301…電子ビーム
302…電子銃
303…集束レンズ
304…絞り
305…集束レンズ
306…ブランキング偏向器
307…ブランキング用電極
308…絞り
309…上方検出器
310…上走査偏向器
311…下走査偏向器
312、313…下方検出器
314…対物レンズ
315…試料
316…試料ステージ
317、318、319…2次粒子
320…制御装置
321…記録装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図9A
図9B
図9C
図9D
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18A
図18B
図19A
図19B
図19C
図19D
図20A
図20B
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28A
図28B
図28C
図29
図30A
図30B
図31
図32
図33A
図33B
図33C
図33D
図34
図35
図36
図37
図38A
図38B
図39
図40