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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】焼菓子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20231011BHJP
   A21D 13/44 20170101ALI20231011BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231011BHJP
   A21D 10/00 20060101ALI20231011BHJP
   A23L 29/219 20160101ALN20231011BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D13/44
A21D13/80
A21D10/00
A23L29/219
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020533502
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029528
(87)【国際公開番号】W WO2020026997
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2018147254
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018197980
(32)【優先日】2018-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉村 実奈
(72)【発明者】
【氏名】篠田 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】今義 潤
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132534(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/132825(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L 29/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である、焼菓子の生地を調製する工程、および
前記生地を加熱する工程、
を含み、焼菓子の生地を調製する前記工程において、前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.03以上0.14以下であり、
前記焼菓子が、パウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびウーピーパイからなる群から選択される1種である、焼菓子の製造方法。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下であり、
JIS-Z8801-1規格の篩における目開き0.25mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上95質量%以下である顆粒状物
【請求項2】
前記成分(A)の配合量が、前記粉体原料に対して0.2質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記焼菓子の水分量が18質量%以上45質量%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記成分(A)の目開き0.5mmの篩の篩下の含有量が65質量%以上100質量%以下である、請求項1乃至のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記生地が穀粉を含む、請求項1乃至のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である、焼菓子の生地であって、
前記焼菓子が、パウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびウーピーパイからなる群から選択される1種であり、
前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.03以上0.14以下である、焼菓子の生地。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下であり、
JIS-Z8801-1規格の篩における目開き0.25mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上95質量%以下である顆粒状物
【請求項7】
焼菓子の口どけを向上させる方法であって、
前記焼菓子が、パウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびウーピーパイからなる群から選択される1種であり、
前記焼菓子の生地の水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下であり、
以下の成分(A)を前記焼菓子の生地に含有させる工程を含み、
前記工程において、前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.03以上0.14以下である、前記方法。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下であり、
JIS-Z8801-1規格の篩における目開き0.25mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上95質量%以下である顆粒状物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼菓子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ケーキ等の焼菓子の食感、食味など向上させるために、様々な方法が提案されており、原料小麦粉への添加物の添加や、小麦粉の粒度分布の調整など、いくつかの試みが行われている。その中に、水分を何らかの方法で調整することで、菓子類の食感を向上させるものがある。
生地に含まれる水分を調整することで焼菓子の食感を向上させる技術として、特許文献1~3に記載のものがある。
特許文献1には、調製したケーキの生地中に、予め水を吸収させたタピオカ澱粉を、正味の使用量が使用澱粉の全量に対して40重量%以下となるように配合して、常法によってケーキ類を製造する方法が開示されている。この方法によれば、低カロリーのケーキ類が簡単に得られ、かつ冷蔵保存した場合の風味や食感のよいケーキ類の製造方法を提供することができるとされる。
【0003】
特許文献2には、ケーキ類を焼成後、該ケーキ類に、水又は水と甘味料、乳製品、着色料、香料、酒類、その他添加物から選ばれたものとを含む液状物を塗布し、又は含浸させ、その後加熱することを特徴とする水分含量30重量%以上の高水分含量ケーキ類の製造方法が開示されている。
この方法によれば、ケーキ中の水分分布が均一であり、かつ口当たりが良く、しかも凍結したときに氷結晶の析出によるざらつきのない高水分含量冷凍ケーキとなる高水分含量ケーキが得られるとされる。
【0004】
特許文献3には、穀粉類100質量部(乾燥質量部)に対し、水分300~500質量部、ジアシルグリセロールを10~90質量%含有する油脂50~150質量部及び卵黄を乾燥質量換算で45~200質量部含有し、穀粉類中の澱粉の内、30~100質量%を湯捏製法によりα化させた生地を調製し、これを焼成してケーキ類を製造するケーキ類の製造方法が開示されており、それにより、口どけ感、しっとり感、サクミ感等の食感に優れ、かつ焼成後に釜落ちがなく、比容積(ボリューム)が大きいケーキ類を提供できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平6-141755号公報
【文献】特開昭54-160783号公報
【文献】特開2010-252763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本発明者らが生地に含まれる水分を調整し、焼菓子の食感の確認をしたところ、焼成後の焼菓子のしっとり感や口どけが充分ではなく、飲み込みにくさが感じられる場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等が鋭意検討したところ、特定の成分を焼菓子の生地に含有させることで、しっとりして口どけに優れ、飲み込みやすい焼菓子が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である、焼菓子の生地を調製する工程、および
前記生地を加熱する工程、
を含み、焼菓子の生地を調製する前記工程において、前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.01以上0.24以下である、焼菓子の製造方法が提供される。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物。
【0009】
前記成分(A)の配合量が、前記粉体原料に対して0.2質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0010】
前記焼菓子の水分量が18質量%以上45質量%以下であることが好ましい。
【0011】
前記焼菓子が、パウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびウーピーパイからなる群から選択される1種であることが好ましい。
【0012】
前記成分(A)の目開き0.5mmの篩の篩下の含有量が65質量%以上100質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記生地が穀粉を含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、
以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である、焼菓子の生地であって、
前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.01以上0.24以下である、焼菓子の生地が提供される。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物。
【0015】
また、本発明によれば、
焼菓子の口どけを向上させる方法であって、
前記焼菓子の生地の水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下であり、
以下の成分(A)を前記焼菓子の生地に含有させる、前記方法が提供される。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物。
【0016】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明によれば、前記本発明における製造方法により得られる焼菓子およびこれを用いる食品が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、しっとりして口どけに優れ、飲み込みやすい焼菓子を得ることができる。なお、ここでいう口どけに優れるとは、口の中に入れたとき、舌の上で唾液と混じり、溶けてなくなるまでの時間が短いことをいう。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、各成分の具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
(焼菓子の生地)
本実施形態において、焼菓子の生地(以下、「焼菓子用生地」とも呼ぶ。)は、以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、
25℃における顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物。
そして、焼菓子の生地を調製する工程において、成分(A)の配合量が、水分量に対して、質量比で0.01以上0.24以下である。
以下、焼菓子用生地の原料である各成分について説明する。
【0020】
(成分(A))
成分(A)は、澱粉を75質量%以上含む顆粒状物である。そして、成分(A)は、澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を顆粒状物中に3質量%以上45質量%以下含み、低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下であって、25℃における顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である。
以下、成分(A)についてさらに具体的に説明する。
【0021】
成分(A)中の澱粉の含有量は、しっとり感、口どけおよび飲み込みやすさを向上させる観点から、80質量%以上とすることが好ましく、85質量%以上とすることがさらに好ましい。
また、成分(A)中の澱粉の含有量の上限に制限はなく、100質量%以下であるが、焼菓子の性状等に応じてたとえば99.5質量%以下、99質量%以下としてもよい。
ここで、成分(A)中の澱粉の含有量は、成分(A)全体に対する含有量である。
【0022】
また、成分(A)は、上記澱粉として、アミロース含量5質量%以上の澱粉を原料とする低分子化澱粉を特定の割合で含み、低分子化澱粉として特定の大きさのものが用いられる。すなわち、成分(A)中の澱粉が、アミロース含量5質量%以上の澱粉を原料とする低分子化澱粉を成分(A)中に3質量%以上45質量%以下含み、低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下である。
【0023】
低分子化澱粉のピーク分子量の下限値は、しっとり感、口どけおよび飲み込みやすさを向上させる観点から、3×103以上であり、8×103以上とすることが好ましい。また、低分子化澱粉のピーク分子量の上限値は、口どけを向上させる観点から、5×104以下であり、3×104以下とすることが好ましく、1.5×104以下とすることがさらに好ましい。なお、低分子化澱粉のピーク分子量の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0024】
低分子化澱粉は、その製造安定性に優れる観点から、好ましくは、酸処理澱粉、酸化処理澱粉または酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくは酸処理澱粉である。
【0025】
酸処理の条件は、問わないが、例えば、以下のように処理することができる。
アミロース含量5質量%以上の澱粉と水を反応装置に投入した後、さらに酸を投入する。あるいは水に無機酸をあらかじめ溶解させた酸水と原料の澱粉を反応装置に投入する。酸処理をより安定的に行う観点からは、反応中の澱粉の全量が水相内に均質に分散した状態、またはスラリー化した状態にあることが望ましい。そのためには、酸処理を行う上での澱粉スラリーの濃度を、たとえば10質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲になるように調整する。スラリー濃度が高すぎると、スラリー粘度が上昇し、均一なスラリーの攪拌が難しくなる場合がある。
【0026】
酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、種類、純度などを問わず利用できる。
【0027】
酸処理反応は、たとえば酸処理時の無機酸濃度は.0.05規定度(N)以上4N以下が好ましく、0.1N以上4N以下がより好ましく、0.2N以上3N以下がさらに好ましい。また、反応温度は、30℃以上70℃以下が好ましく、35℃以上70℃以下がより好ましく、35℃以上65℃以下がさらに好ましく、反応時間は、0.5時間以0.5時間以上120時間以下が好ましく、1時間以上72時間以下がより好ましく、1時間以上48時間以下がさらに好ましい。
【0028】
成分(A)中の低分子化澱粉の含有量の下限は、しっとり感、口どけおよび飲み込みやすさを向上させる観点から、成分(A)全体に対して3質量%以上であり、8質量%以上であることが好ましく、13質量%以上とすることがさらに好ましい。
一方、成分(A)中の低分子化澱粉の含有量の上限は、粉っぽさを抑制する観点から、成分(A)全体に対して45質量%以下であり、35質量%以下であることが好ましく、25質量%以下とすることがさらに好ましい。
【0029】
また、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量は、5質量%以上であり、好ましくは12質量%以上、より好ましくは22質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、さらにより好ましくは55質量%以上、よりいっそう好ましくは65質量%以上である。なお、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量の上限に制限はなく、100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0030】
低分子化澱粉の原料であるアミロース含量5質量%以上の澱粉として、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉および、これらの原料を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を用いることができる。しっとり感、口どけおよび飲み込みやすさを向上させる観点から、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、および、タピオカ澱粉から選択される1種または2種以上を用いることが好ましく、ハイアミロースコーンスターチを用いることがより好ましい。ハイアミロースコーンスターチのアミロース含量は、40質量%以上のものが入手可能である。アミロース含量5質量%以上の澱粉は、より好ましくはアミロース含量が40質量%以上のコーンスターチである。
【0031】
また、成分(A)の冷水膨潤度は、しっとり感、口どけを向上させる観点から、5以上であり、好ましくは6以上であり、さらに好ましくは6.5以上である。
また、飲み込みやすさを向上する観点から、成分(A)の冷水膨潤度は20以下であり、好ましくは17以下、さらに好ましくは15以下である。
ここで、成分(A)の冷水膨潤度は、以下の方法で測定される。
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社製、型番MX-50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾物質量を算出する。
(2)この乾物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプター)し、沈殿層と上澄層に分ける。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とする。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とする。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とする。
【0032】
成分(A)は、口どけを好ましいものとする観点から、JIS-Z8801-1規格における目開き0.5mmの篩の篩下の含有量が、好ましくは65質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上100質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下であり、よりいっそう好ましくは100質量%である。
【0033】
また、成分(A)の、JIS-Z8801-1規格の篩における目開き0.25mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の含有量は、口どけを向上させる観点から、好ましくは20質量%以上100質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上98質量%以下、さらに好ましくは40質量%以上95質量%以下、さらにより好ましくは60質量%以上95質量%以下である。
【0034】
同様の観点から、成分(A)の、JIS-Z8801-1規格の篩における目開き0.25mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の含有量は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは100質量%以下であり、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0035】
また、成分(A)の、JIS-Z8801-1規格の篩における目開き0.038mmの篩の篩上の含有量は、顆粒状の成分(A)を安定的に得る観点から、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは92質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
また、目開0.038mmの篩の篩上の含有量の上限は、100質量%以下であるが、たとえば99質量%以下、または98質量%以下であってもよい。
ここで、成分(A)の、所定の篩の篩上または篩下の含有量は、成分(A)を所定の篩に通したときの、成分(A)全体に対する篩上または篩下の画分の含有量である。
【0036】
本実施形態において、成分(A)は、上記低分子化澱粉以外の澱粉を含む。
本実施形態において、成分(A)中の上記低分子化澱粉以外の澱粉成分としては、様々な澱粉を使用することができる。具体的には、用途に応じて一般に市販されている澱粉、たとえば食品用の澱粉であれば、種類を問わないが、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉などの澱粉;およびこれらの澱粉を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉などから、1種以上を適宜選ぶことができる。好ましくは、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの架橋澱粉からなる群から選択される1種または2種以上の澱粉を含有するのがよく、より好ましくは、コーンスターチを含有するのがよい。
【0037】
また、本実施形態における成分(A)には、澱粉以外の成分を配合することもできる。
澱粉以外の成分の具体例としては、色素や炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの不溶性塩が挙げられ、不溶性塩を配合することが好ましく、不溶性塩の配合量は、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
次に、成分(A)の製造方法を説明する。成分(A)の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む。
(低分子化澱粉の調製工程)アミロース含量5質量%以上の原料澱粉を低分子化処理してピーク分子量が3×103以上5×104以下の低分子化澱粉を得る工程。
(造粒工程)原料に低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、かつ低分子化澱粉と低分子化澱粉以外の澱粉の合計が75質量%以上である、原料を加熱糊化して造粒する工程。
【0039】
低分子化澱粉の調製工程は、アミロース含量5質量%以上の澱粉を分解して低分子化澱粉とする工程である。ここでいう分解とは、澱粉の低分子化を伴う分解をいい、代表的な分解方法として酸処理や酸化処理、酵素処理による分解が挙げられる。この中でも、分解速度やコスト、分解反応の再現性の観点から、好ましくは酸処理である。
【0040】
また、造粒工程には、澱粉の造粒に使用されている一般的な方法を用いることができるが、所定の冷水膨潤度とする点で、澱粉の加熱糊化に使用されている一般的な方法を用いることが好ましい。具体的には、ドラムドライヤー、ジェットクッカー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどの機械を使用した方法が知られているが、本実施形態において、冷水膨潤度が上述した特定の条件を満たす成分(A)をより確実に得る観点から、エクストルーダーやドラムドライヤーによる加熱糊化が好ましく、エクストルーダーがより好ましい。
エクストルーダー処理する場合は通常、澱粉を含む原料に加水して水分含量を10~60質量%程度に調整した後、たとえばバレル温度30~200℃、出口温度80~180℃、スクリュー回転数100~1,000rpm、熱処理時間5~60秒の条件で、加熱膨化させる。
【0041】
本実施形態において、たとえば上記特定の原料を加熱糊化する工程により、冷水膨潤度が特定の条件を満たす成分(A)を得ることができる。また、加熱糊化して得られた造粒物を、必要に応じて、粉砕し、篩い分けをし、大きさを適宜調整して、成分(A)を得るとよい。
【0042】
以上により得られる成分(A)は、低分子化澱粉を含む顆粒状物であって、澱粉含量、冷水膨潤度、および、低分子化澱粉のピーク分子量がいずれも特定の条件を満たす構成となっているため、焼菓子の食感をさらに向上させることができる。
【0043】
(粉体原料)
次に粉体原料について説明する。粉体原料は、焼菓子用生地中に粉状の形態で配合される原料である。
成分(A)は、粉体原料である。また、焼菓子用生地は、好ましくは成分(A)以外の粉体原料をさらに含む。
焼菓子用生地の成分(A)以外の粉体原料の具体例として、小麦粉、米粉、大豆粉等の穀粉;グルテン、大豆蛋白質等の蛋白質;とうもろこし澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、α化澱粉、難消化性澱粉、デキストリン等の多糖類;砂糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖、転化糖、オリゴ糖、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、ラクチトール等)、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、サッカリン、ステビア抽出物等の粉末状の甘味料;脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズパウダー等の乳類;食塩;ふすま、セルロース、難消化性デキストリン等の食物繊維;卵白粉、全卵粉などの卵類;グアーガム、アルギン酸エステル等の増粘多糖類;乳化剤;ココアパウダー、抹茶パウダー等の風味パウダー;風味改良剤等が挙げられる。
焼菓子用生地は、成分(A)以外の粉体原料として、好ましくは穀粉を含む。
また、焼菓子用生地は、成分(A)以外の粉体原料として、好ましくは小麦粉および米粉から選ばれる1種または2種を含み、より好ましくは小麦粉を含み、さらに好ましくは薄力粉を含む。
【0044】
粉体原料中の成分(A)の含有量は、口どけを向上させる観点から、好ましくは0.2質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上20質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上15質量%以下、さらに好ましくは1.0質量%以上12質量%以下、さらにより好ましくは1.2質量%以上10質量%以下、よりいっそう好ましくは2質量%以上8質量%以下である。同様の観点から、粉体原料中の成分(A)の含有量は、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらにより好ましくは1.2質量%以上、よりいっそう好ましくは2質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらにより好ましくは15質量%以下、よりいっそう好ましくは12質量%以下、さらにまた好ましくは10質量%以下、殊更好ましくは8質量%以下である。
また、ロールケーキの場合、粉体原料中の成分(A)の含有量は、口どけを向上させる観点から、好ましくは0.2質量%以上30質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上25質量%以下であり、さらに好ましくは1.0質量%以上20質量%以下であり、さらにより好ましくは1.2質量%以上17質量%以下である。同様の観点から、ロールケーキの場合、粉体原料中の成分(A)の含有量は、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上、さらにより好ましくは1.2質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、さらにより好ましくは17質量%以下である。
ここで、成分(A)の含有量とは、生地に配合される粉体原料全体に対する成分(A)の含有量である。
【0045】
(生地中水分量)
焼菓子用生地は、粉体原料中の水分以外の水分を含む。ここでいう水分には、牛乳、豆乳、果汁、野菜汁など水の代わりに使用される液体の水分も含まれるが、口どけを向上させる観点からは、水が好ましい。なお、食用油脂組成物;全卵、卵黄、卵白等の卵;水飴、液糖、黒糖、はちみつ等の液体甘味料等の非粉体原料が水分を含む場合、非粉体原料中の水分は焼菓子用生地の水分に含まれる。
【0046】
焼菓子用生地中の水分量(紛体原料中の水分を除く。)は、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさの観点から、焼菓子用生地全体に対して18質量%以上であり、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは21質量%以上である。また、同様の観点から、焼菓子用生地中の水分量(紛体原料中の水分を除く。)は、焼菓子用生地全体に対して55質量%以下であり、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは47質量%以下であり、さらに好ましくは41質量%以下であり、さらにより好ましくは39質量%以下であり、よりいっそう好ましくは37質量%以下である。
また、ロールケーキの場合、焼菓子用生地中の水分量(紛体原料中の水分を除く。)は、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさの観点から、焼菓子用生地全体に対して18質量%以上であり、好ましくは25質量%以上であり、より好ましくは30質量%以上であり、さらにより好ましくは35質量%以上である。また、同様の観点から、焼菓子用生地中の水分量(紛体原料中の水分を除く。)は、焼菓子用生地全体に対して55質量%以下であり、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは47質量%以下である。
【0047】
また、焼菓子用生地中、成分(A)の配合量は、水分量に対して、口どけの向上およびしっとり感の観点から好ましくは質量比で0.01以上0.24以下であり、より好ましくは0.02以上0.20以下、さらに好ましくは0.03以上0.14以下、さらにより好ましくは0.04以上0.12以下であり、よりいっそう好ましくは0.05以上0.1以下であり、殊更好ましくは0.058以上0.08以下であり、さらにまた好ましくは0.06以上0.08以下である。
また、同様の観点から、成分(A)の配合量は、水分量に対して質量比で0.05以上とすることも好ましく、より好ましくは0.08以上であり、また、0.15以下とすることも好ましく、より好ましくは0.12以下である。
【0048】
以下、焼菓子がスポンジケーキおよびパウンドケーキである場合について、配合の具体例を挙げる。
焼菓子用生地中の水分量(紛体原料中の水分を除く。)は、スポンジケーキの場合、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさの観点から、焼菓子用生地全体に対して18質量%以上であり、好ましくは27質量%以上であり、より好ましくは32質量%以上である。また、水抜けの観点から、焼菓子用生地中の水分量は、焼菓子用生地全体に対して55質量%以下であり、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは47質量%以下であり、さらに好ましくは41質量%以下であり、さらにより好ましくは39質量%以下であり、よりいっそう好ましくは36質量%以下であり、殊更好ましくは34質量%以下である。
【0049】
また、スポンジケーキの場合、焼菓子用生地中、成分(A)の配合量は、水分量に対して、質量比でたとえば0.01以上0.24以下であり、口どけの向上およびしっとり感の観点から好ましくは質量比で0.03以上0.14以下であり、より好ましくは0.05以上0.1以下であり、さらに好ましくは0.06以上0.08以下である。同様の観点から、スポンジケーキの場合、焼菓子用生地中、成分(A)の配合量は、水分量に対して、質量比でたとえば0.01以上であり、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.06以上であり、また、たとえば0.24以下であり、好ましくは0.14以下、より好ましくは0.1以下、さらに好ましくは0.08以下である。
【0050】
焼菓子用生地中の水分量(紛体原料中の水分を除く。)は、パウンドケーキの場合、口どけを向上させる観点から、焼菓子用生地全体に対して18質量%以上55質量%以下であり、好ましくは18質量%以上41質量%以下であり、より好ましくは21質量%以上34質量%以下であり、さらにより好ましくは23質量%以上28質量%以下である。同様の観点から、パウンドケーキの場合、上記水分量は、焼菓子用生地全体に対して18質量%以上であり、好ましくは21質量%以上、より好ましくは23質量%以上であり、また、55質量%以下であり、好ましくは41質量%以下、より好ましくは34質量%以下、さらにより好ましくは28質量%以下である。
【0051】
また、パウンドケーキの場合、焼菓子用生地中、成分(A)の配合量は、水分量に対して質量比で好ましくは0.01以上0.24以下であり、口どけを向上させる観点から、より好ましくは0.03以上0.14以下であり、さらに好ましくは0.05以上0.1以下であり、さらにより好ましくは0.07以上0.1以下である。同様の観点から、パウンドケーキの場合、焼菓子用生地中、成分(A)の配合量は、水分量に対して質量比で好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上、さらにより好ましくは0.07以上であり、また、好ましくは0.24以下であり、より好ましくは0.14以下、さらに好ましくは0.1以下である。
【0052】
(その他の成分)
本実施形態において、焼菓子用生地は原料として上述した成分以外の成分を含むことができる。上述した成分以外の成分の具体例としては、焼菓子用生地に一般的に用いられるマーガリン、ショートニング、バター、菜種油、大豆油、オリーブオイル等の食用油脂や食用油脂組成物;ナッツ類;ドライフルーツ類;各種風味素材などを配合することもできる。
【0053】
(焼菓子の製造方法)
次に、焼菓子の製造工程について説明する。
【0054】
本実施形態において、焼菓子の製造工程は、焼菓子の生地を調製する工程、および、生地を加熱する工程を含む。
焼菓子の生地の調製方法は、一般的に用いられる方法でよく、たとえば油脂組成物と砂糖を加えてすり合わせ、生地が分離しないように徐々に卵を加えた後、粉類(粉体原料)を加えて生地を調製するシュガーバッター法や、原材料の全部を投入してミキシングを行うオールインミックス法等が挙げられる。
また、ミックス粉等を用いてシュガーバッター法やオールインミックス法にて調製を行うことも可能である。中でも、ミックス粉を用いてオールインミックス法を採用する製法では、簡易な作業工程にて生地調製を行うことが可能となる。
また、調製された生地は冷凍生地として冷凍保存されてもよい。
【0055】
このようにして調製された焼菓子の生地を、加熱する工程を経て焼菓子を得ることができる。加熱する方法の具体例として、焼成、蒸し、スチームコンベクション加熱、油ちょう等が挙げられ、焼成、油ちょうから選択される1種または2種の加熱調理が好ましく、オーブンによる焼成がより好ましい。加熱調理の温度は、好ましくは150~230℃、より好ましくは160~220℃である。時間は好ましくは5~60分であり、より好ましくは8~50分である。
加熱調理条件は、たとえば焼菓子の種類や生地の成分に応じて調整してよく、加熱時間はたとえば30秒以上であってもよく、また、たとえば5分以下であってもよい。
【0056】
(焼菓子の生地)
本実施形態において、焼菓子の生地は、成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である。焼菓子の生地は、(焼菓子の製造方法)の項で前述した方法で、作製することができる。
【0057】
(焼菓子)
本実施形態において得られる焼菓子としては、例えば、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、ロールケーキ、バターケーキ、バームクーヘン、マフィン、カップケーキ、ホットケーキ、フィナンシェ、ブッセ、ワッフル、マドレーヌ、パンケーキ、アメリカンドッグ、ウーピーパイ等を挙げることができ、好ましくはパウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキおよびシフォンケーキからなる群から選択される1種であり、より好ましくはパウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘンおよびスポンジケーキからなる群から選択される1種である。また、焼菓子が、パウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびウーピーパイからなる群から選択される1種であることも好ましい。
【0058】
(焼菓子の水分量)
本実施形態における焼菓子においては、焼菓子の水分量が18質量%以上45質量%以下であることが好ましい。焼菓子の水分量とは、焼菓子を焼成した後に含まれる水分量のことであり、焼成後の焼菓子を細断して水分計等を用いて測定した値のことである。ただし、クリーム等のコーティングやトッピングの水分量はこれには含まれない。焼菓子の水分量の測定方法については実施例の項で説明する。
ここで、スポンジケーキは、一般的には水分量が30質量%前後であり、パウンドケーキに代表されるバターケーキは20質量%前後である。そのため、焼成後の焼菓子に含まれる水分量は、スポンジケーキでは、好ましくは25質量%以上40質量%以下であり、パウンドケーキでは、好ましくは21質量%以上30質量%以下である。また、ロールケーキにおいては、好ましくは30質量%以上45質量%以下である。
【0059】
本実施形態において得られる焼菓子は、有効成分として成分(A)を含み、所定量の水分を含むため、焼菓子の口どけを向上させることができる。
また、本実施形態において、成分(A)を焼菓子用生地に配合するとともに、焼菓子用生地中の水分量を所定量に調整することにより、焼菓子の口どけを効果的に向上することができる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である、焼菓子の生地を調製する工程、および
前記生地を加熱する工程、
を含み、焼菓子の生地を調製する前記工程において、前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.01以上0.24以下である、焼菓子の製造方法。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 3 以上5×10 4 以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物
2. 前記成分(A)の配合量が、前記粉体原料に対して0.2質量%以上30質量%以下である、1.に記載の製造方法。
3. 前記焼菓子の水分量が18質量%以上45質量%以下である、1.または2.に記載の製造方法。
4. 前記焼菓子が、パウンドケーキ、ロールケーキ、バームクーヘン、スポンジケーキ、パンケーキ、ワッフル、アメリカンドッグおよびウーピーパイからなる群から選択される1種である、1.乃至3.のいずれか一つに記載の製造方法。
5. 前記成分(A)の目開き0.5mmの篩の篩下の含有量が65質量%以上100質量%以下である、1.乃至4.のいずれか一つに記載の製造方法。
6. 前記生地が穀粉を含む、1.乃至5.のいずれか一つに記載の製造方法。
7. 以下の成分(A)を含み、水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下である、焼菓子の生地であって、
前記成分(A)の配合量が、前記水分量に対して、質量比で0.01以上0.24以下である、焼菓子の生地。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 3 以上5×10 4 以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物
8. 焼菓子の口どけを向上させる方法であって、
前記焼菓子の生地の水分量(粉体原料中の水分を除く。)が18質量%以上55質量%以下であり、
以下の成分(A)を前記焼菓子の生地に含有させる、前記方法。
成分(A):澱粉を75質量%以上含む顆粒状物であって、
前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を前記顆粒状物中3質量%以上45質量%以下含み、
前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 3 以上5×10 4 以下であって、
25℃における前記顆粒状物の冷水膨潤度が5以上20以下である顆粒状物
【実施例
【0060】
(原材料)
以下の例では、原材料として、主に以下のものを使用した。
薄力粉:「フラワー」日清フーズ株式会社製
酸処理澱粉:後述する製造例1で製造した酸処理ハイアミロースコーンスターチ
顆粒状物1:後述する製造例2の方法で製造された顆粒状物
コーンスターチ:「コーンスターチY」、株式会社J-オイルミルズ製
油脂製品1(加工油脂):「スプレンダーL」、株式会社J-オイルミルズ製、(水分含量1質量%未満)
油脂製品2(加工油脂):「スプレンダーHG」、株式会社J-オイルミルズ製、(水分含量1質量%未満)
油脂製品3(加工油脂):「マイスタージェネータ」、株式会社J-オイルミルズ製、(水分含量18質量%)
油脂製品4(加工油脂):「グランマスタースイッツァー」、株式会社J-オイルミルズ製、(水分含量15質量%)
油脂製品5:「グランマスタープリメラン」、株式会社J-オイルミルズ製(水分含量17%)
油脂製品6:菜種油、株式会社J-オイルミルズ製(水分含量1質量%未満)
卵:全卵(水分含量76.1質量%)
卵黄(水分含量48.2質量%)
牛乳:「牧場うまれの牛乳」明治東海社製(水分含量87.4質量%)
ベーキングパウダー:「Fアップ」、株式会社アイコク製
砂糖:「上白糖」、三井製糖株式会社製
はちみつ:「ふんわりレンゲはちみつ」株式会社加藤美蜂園本舗製(水分含量17.6質量%)
脱脂粉乳:「脱脂粉乳」、北海道乳業
【0061】
(製造例1)酸処理澱粉の製造
顆粒状物1の原料となる低分子化澱粉として酸処理澱粉を製造した。
(酸処理ハイアミロースコーンスターチの製造方法)
ハイアミロースコーンスターチ(株式会社J-オイルミルズ製、HS-7、アミロース含量70質量%)を水に懸濁して35.6%(w/w)スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た。
得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチのピーク分子量を後述の方法で測定したところ、ピーク分子量は1.2×104であった。
【0062】
(ピーク分子量の測定方法)
ピーク分子量の測定は、東ソー株式会社製HPLCユニットを使用しておこなった(ポンプDP-8020、RI検出器RS-8021、脱気装置SD-8022)。
(1)試料を粉砕し、JIS-Z8801-1規格の篩で、目開き0.15mm篩下の画分を回収した。この回収画分を移動相に1mg/mLとなるように懸濁し、懸濁液を100℃3分間加熱して完全に溶解した。0.45μmろ過フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm)を用いてろ過を行い、ろ液を分析試料とした。
(2)以下の分析条件で分子量を測定した。
カラム:TSKgel α-M(7.8mmφ、30cm)(東ソー株式会社製)2本
流速:0.5mL/min
移動相:5mM NaNO3含有90%(v/v)ジメチルスルホキシド溶液
カラム温度:40℃
分析量:0.2mL
(3)検出器データを、ソフトウェア(マルチステーションGPC-8020modelIIデータ収集ver5.70、東ソー株式会社製)にて収集し、分子量ピークを計算した。
検量線には、分子量既知のプルラン(Shodex Standard P-82、昭和電工株式会社製)を使用した。
【0063】
(冷水膨潤度の測定方法)
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社、型番MX-50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプター)し、沈殿層と上澄層に分けた。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とした。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とした。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とした。
【0064】
(製造例2)顆粒状物1の製造
コーンスターチ79質量%、上述の方法で得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチ20質量%、および、炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下の通りである。
原料供給:450g/分
加水:17質量%
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を10質量%に調整した。
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、以下の配合割合で混合し、顆粒状物1を調製した。顆粒状物1の冷水膨潤度を前述の方法で測定したところ、7.3であった。
目開き0.5mmの篩の篩上:0質量%
目開き0.5mmの篩の篩下、目開き0.25mmの篩の篩上:0質量%
目開き0.25mmの篩の篩下、目開き0.15mmの篩の篩上:36.4質量%
目開き0.15mmの篩の篩下、目開き0.075mmの篩の篩上:48.0質量%
目開き0.075mmの篩の篩下:15.6質量%
【0065】
(スポンジケーキの製造方法)
下記手順にて、オールインミックス製法によりスポンジケーキを作製した。
1.原材料のうち、薄力粉、成分(A)として顆粒状物1、砂糖およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、砂糖およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせてミックス粉を得た。
2.卵(全卵)、水、各油脂製品および上記1.で得られたミックス粉をボウルに入れ、ホイッパーを取り付けたホバートミキサーで中速にて比重が0.40~0.43になるようにミキシングした。
3.ミキシング後の生地を、6号丸型に280gの生地を入れ、オーブンにて以下の条件で焼成した。
焼成条件:上段180℃/下段180℃
焼成時間:27分
【0066】
(シュガーバッター製法によるパウンドケーキの製造方法)
下記手順にて、シュガーバッター製法によりパウンドケーキを作製した。
1.原材料のうち、砂糖以外の粉体原料をビニール袋に入れ混ぜ合わせ、篩にかけ、ミックス粉を作製した。
2.ホバートミキサーのボウルに、20℃に調温した油脂製品3と、砂糖を投入し、ビーターを使用して中速でミキシングした。ついで卵(全卵)および水を混合し、10回に分けて加えてミキシングを繰り返し、比重が0.65~0.67になるように調整した。
3.上記ミックス粉を加え、低速でミキシングを行い、次いで中速でミキシングを行い、生地比重が0.75~0.81のパウンドケーキ用生地を調製した。
4.上記3.で得られた生地を絞り袋に入れ、パウンドケーキの焼き型に300gずつ入れた。
5.パウンド型を作業台平面に軽く落とし、形を整えた。
6.以下の条件でオーブンにて焼成し、パウンドケーキを得た。
焼成温度:上段180℃/下段180℃
焼成時間:37分
【0067】
(オールインミックス製法によるパウンドケーキの製造方法)
下記手順にて、オールインミックス製法によりパウンドケーキを作製した。
1.原材料のうち、砂糖以外の粉体原料をビニール袋に入れ混ぜ合わせ、篩にかけ、ミックス粉を作製した。
2.20℃に調温した油脂製品1および油脂製品3、砂糖、全卵と一緒に、当該ミックス粉をホバートミキサーのボウルに投入し、ビーターを使用して低速でミキシングを行い、次いで中速でミキシングを行い、最終的な生地比重が0.75~0.81となるように調製した。
3.上記2.で得られた生地を絞り袋に入れ、パウンドケーキ用の焼き型に300gずつ入れた。
4.パウンド型を作業台平面に軽く落とし、形を整えた。
5.以下の条件でオーブンにて焼成し、パウンドケーキを得た。
焼成温度:上段180℃/下段180℃
焼成時間:37分
【0068】
(焼成後水分量の測定方法)
焼成後の焼菓子を細断し、細断した焼菓子1gを水分計(研精工業株式会社、型番MX-50)で、130℃に加熱乾燥させて水分測定をおこなった。
【0069】
(評価方法)
以下においては、各例で作製した焼菓子について、水抜け、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさを、専門パネラー3人の合議により評価した。4点以上を合格とした。評価基準を以下に示す。
【0070】
(水抜け)
5:焼成後生地に水っぽい層が全く見られない
4:焼成後生地に水っぽい層がほとんど見られない
3:焼成後生地に水っぽい層がほんのわずかに見られる
2:焼成後生地に水っぽい層がやや見られる
1:焼成後生地に水っぽい層がかなり見られる
(しっとり感)
5:非常にしっとりしている
4:しっとりしている
3:わずかにパサつきを感じる
2:ややパサつきを感じる
1:かなりパサつきを感じる
(口どけ)
5:口の中でなくなるまでの時間が非常に短い
4:口の中でなくなるまでの時間が短い
3:口の中でなくなるまでの時間がやや長い
2:口の中でなくなるまでの時間が長い
1:口の中でなくなるまでの時間が非常に長い
(飲み込みやすさ)
5:口の中で生地がモゴモゴせず、非常に飲み込みやすい
4:口の中で生地がほとんどモゴモゴせず、飲み込みやすい
3:口の中で生地が少しモゴモゴし、少し飲み込みにくい
2:口の中で生地がややモゴモゴし、やや飲み込みにくい
1:口の中で生地がかなりモゴモゴし、非常に飲み込みにくい
【0071】
(実験1)
表1に記載の原材料により、前述した方法で、生地を調製し、焼成してスポンジケーキを作製し、評価した。また、比較例1-2では、成分(A)の原料澱粉である、製造例1で得られた酸処理澱粉とコーンスターチを1:9で混合した澱粉混合物(冷水膨潤度は2.6)を成分(A)に置きかえてスポンジケーキを作製し、評価した。
評価結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1および後述の表2以降において、注**に記載の「生地全体に対する水分量」と注***に記載の「生地中水分量」とは、同じ意味である。
また、表1および後述の表2以降において、「焼成後水分量」とは、前述した焼菓子の水分量のことである。
また、表1および後述の表2以降において、「卵」は、断りがなければ全卵である。
表1より、スポンジケーキにおけるしっとり感、口どけの向上、飲み込みやすさの点では、水分量/生地が28.0質量%以上37.3質量%以下のとき良好であり、33.0質量%以上35.9質量%以下のとき、さらに良好であった。
また、スポンジケーキにおけるしっとり感、口どけの向上、飲み込みやすさの点では、成分(A)/生地中水分量が0.057以上0.088以下のとき良好であり、0.061以上0.069以下のとき、さらに良好であった。
一方、対照例1のように水分量/生地が実施例1-1と同じであっても、成分(A)を含まない場合、しっとり感が劣っていた。また、比較例1-1のように、成分(A)を含まずに水を添加した場合、モゴモゴとして飲み込みにくかった。比較例1-2のように、成分(A)の原料澱粉混合物(冷水膨潤度が所定の範囲を満たさない)を添加し水分量を調整したところ、しっとり感、口どけの向上、飲み込みやすさの点で実施例1-2より劣っていた。
【0074】
(実験2)
表2に記載の原材料の配合比で、前述したシュガーバッター製法で、生地を調製し、焼成してパウンドケーキを作製し、評価した。
各評価結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2より、シュガーバッター製法で作製したパウンドケーキにおいては口どけの向上の観点から、成分(A)/粉体原料は、1.57質量%以上5.22質量%以下で良好であった。
また、水分量/生地は、口どけの向上の観点から、26.1質量%以上30.0質量%以下のとき良好であった。
また、成分(A)/生地中水分量は、口どけの向上の観点から、0.030以上0.083以下のとき良好であった。
【0077】
(実験3)
表3に記載の原材料の配合比で水分量を変えて、前述したオールインミックス製法で、生地を調製し、焼成してパウンドケーキを作製し、評価した。
評価結果を表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
オールインミックス製法で作製したパウンドケーキにおいても、シュガーバッター製法と同じく好ましいパウンドケーキが得られた。
しっとり感、口どけの向上の点では、水分量/生地が30.4質量%以上32.1質量%以下のとき、良好であった。成分(A)/生地中水分量においては、0.074以上0.080以下のとき、良好であった。
【0080】
(実験4)
表4に記載の原材料の配合比で、前述した方法により、生地を調製し、焼成してスポンジケーキを作製し、評価した。なお、実施例4-2については水の代わりに牛乳を使用した。
評価結果を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
水の代わりに牛乳を使用しても、口どけの好ましいスポンジケーキが作製できた。また、卵の水分でもスポンジケーキを作製できたが、口どけの向上および飲み込みやすさの点では、水を加えた実施例4-1のスポンジケーキが最も良好であり、その次に実施例4-2の牛乳および実施例4-3の卵のスポンジケーキが良かった。また、しっとり感の点では水および牛乳を加えたスポンジケーキが最も良好であった。
【0083】
(焼菓子のコーティングの例)
実施例1-3で得られたスポンジケーキにホイップクリームをコーティングし、デコレーションケーキを得た。このデコレーションケーキは口どけが非常に良好で、好ましいものであった。
【0084】
(実験5)
実験5ではクリームロールケーキを作製した。まず、表5に記載の原材料の配合比で、以下の方法により、生地を調製し、焼成してロールケーキ用スポンジケーキを作製した。次に以下に記載の方法でホイップした生クリームをデコレージョンし、クリームロールケーキを作製し、前述の方法と同じ方法で評価した。
評価結果を表5に示す。
【0085】
(ロールケーキ用スポンジケーキの製造方法)
1.原材料のうち、薄力粉、成分(A)として顆粒状物1、砂糖およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、砂糖およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせてミックス粉を得た。
2.全卵、各油脂製品その他の原料および上記1.で得られたミックス粉をボウルに入れ、ホイッパーを取り付けたホバートミキサーで中速にて比重が0.32~0.36になるようにミキシングした。
3.ミキシング後の生地550gを、8取天板(寸法:350×400mm)に入れ、オーブンにて以下の条件で焼成した。
焼成条件:上段180℃/下段180℃
焼成時間:12分
【0086】
(ロールケーキのデコレーション方法)
実施例5-1~5-2、対照例3については、以下の方法でホイップクリームを作製し、絞り出し、各例のクリームロールケーキを得た。
1.生クリーム1パックをボウルに入れ、上白糖16gを加えて、ミキサーの中速でホイップし、8分立てのホイップクリームを得た。
2.焼成後の各例のスポンジケーキに上記ホイップクリームをパレットナイフで5~6mmの厚さで均等に塗った。
3.上記2.でクリームを塗ったスポンジケーキの面を内側に巻き込んで筒状の状態に成形しクリームロールケーキを得た。
4.得られたケーキを喫食し、評価をおこなった。
【0087】
【表5】
【0088】
表5より、成分(A)と所定量の水分を含んだ場合、口どけの向上したロールケーキが作製できた。
生地全体に対する水分量(粉体原料に含まれる水分を除く。)の質量(水分量/生地(質量%))が44.3質量%以上45.2質量%以下のとき、水抜けが良く、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさに優れており、45.2質量%のとき、さらにしっとり感に優れていた。
また、生地中水分量(粉体原料に含まれる水分を除く。)に対する成分(A)の質量比(成分(A)/生地中水分量(質量比))が0.075以上0.076以下のとき、水抜けが良く、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさに優れていた。
【0089】
(ロールケーキのデコレーション例)
実験5の手順に従い、スポンジケーキを作製した。このスポンジケーキを縦22cm、横2.2cmにカットし、紙製カップケーキ型 (サイズ:底径75×高さ22.5mm)の内側に輪を描くように置き、中心の開いたところに実験5と同じ手法で得られたホイップクリームを25g絞り出し、ロールケーキを得た。このロールケーキは非常にしっとりとして口どけに優れ、かつ飲み込みやすく好ましいものであった。
【0090】
(実験6)
実験6ではバームクーヘンを作製した。表6に記載の原材料の配合比で、以下の方法により、生地を調製し、焼成してバームクーヘンを作製した。
【0091】
(バームクーヘンの製造方法)
1.原材料のうち、薄力粉、成分(A)として顆粒状物1、砂糖およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。
2.油脂製品1、油脂製品2、水、全卵および上記1.で得られたミックス粉をボウルに入れ、ホイッパーを取り付けたカントーミキサー20コートで中高速にて比重が0.42~0.46になるようにミキシングし、混合物を得た。
3.上記2.の混合物に、溶かした油脂製品4を加えて混合し、バームクーヘンの生地を得た。
4.上記3.で得られた生地を、バウムクーヘンオーブン(加治木産業株式会社製、KJ-F04)にて以下の条件で焼成した。
焼成条件:庫内温度260℃、生地巻時間14秒
焼成時間:ひと巻あたり65秒×15巻
5.焼成後のバームクーヘンは粗熱をとった後、食品用ラップで包み、一晩おいてから喫食し、評価した。
【0092】
【表6】
【0093】
実施例6-1のバームクーヘンを喫食したところ、顆粒状物1および所定の水分を含むため、しっとりとして口どけに優れ、かつ飲み込みやすく好ましいものであった。
【0094】
(実験7)
実験7ではパンケーキを作製した。表7に記載の原材料の配合比で、以下の方法により、生地を調製し、焼成してパンケーキを作製した。
【0095】
(パンケーキの製造方法)
以下の手順で、パンケーキを作製した。
1.油脂製品2、全卵、牛乳、上白糖、水をボウルに入れ、ホイッパーを取り付けたホバートミキサーにて比重0.25~0.28になるまで均一に攪拌した。
2.上記1.に、顆粒状物1、薄力粉およびベーキングパウダーを加え均一に混合した。対照例では、薄力粉およびベーキングパウダーを加え均一に混合した。
3.上記2.に50℃で加熱溶解した油脂製品5を加え、均一に混合し、パンケーキ用生地を得た。
4.上記3.で得られた生地55gを、ホットプレートにて直径10cmのセルクルを使用し、以下の条件で焼成した。
焼成温度:170℃
焼成時間:片面6分、ひっくり返して3分
5.完全に冷ましたのち、評価に供した。
【0096】
(評価方法)
以下においては、各例で作製したパンケーキについて、水抜け、しっとり感、口どけ、飲み込みやすさを、専門パネラー3人が評価し、その平均値を算出した。3点超を合格とした。評価基準を以下に示す。評価結果を表7にあわせて示す。
【0097】
(水抜け)
5:焼成後生地に水っぽい層が全く見られない
4:焼成後生地に水っぽい層がほとんど見られない
3:焼成後生地に水っぽい層がほんのわずかに見られる
2:焼成後生地に水っぽい層がやや見られる
1:焼成後生地に水っぽい層がかなり見られる
(しっとり感)
5:非常にしっとりしている
4:しっとりしている
3:わずかにパサつきを感じる
2:ややパサつきを感じる
1:かなりパサつきを感じる
(口どけ)
5:口の中でなくなるまでの時間が非常に短い
4:口の中でなくなるまでの時間が短い
3:口の中でなくなるまでの時間がやや長い
2:口の中でなくなるまでの時間が長い
1:口の中でなくなるまでの時間が非常に長い
(飲み込みやすさ)
5:口の中で生地がモゴモゴせず、非常に飲み込みやすい
4:口の中で生地がほとんどモゴモゴせず、飲み込みやすい
3:口の中で生地が少しモゴモゴし、少し飲み込みにくい
2:口の中で生地がややモゴモゴし、やや飲み込みにくい
1:口の中で生地がかなりモゴモゴし、非常に飲み込みにくい
【0098】
【表7】
【0099】
表7および後述する表8以降の表において、「*」~「***」は、それぞれ、表1の下部に記載の注「*」~「***」と同じである。
また、表7および後述する表8以降の表において、「焼菓子の水分量」の項における「-」とは、測定しなかったことを示す。
表7より、各実施例で得られたパンケーキは、対照例4のパンケーキに比べて、水抜け、しっとり感、口どけおよび飲み込みやすさのバランスが良好であった。
【0100】
(実験8)
実験8ではワッフルを作製した。表8に記載の原材料の配合比で、以下の方法により、生地を調製し、焼成してワッフルを作製した。
【0101】
(ワッフルの製造方法)
1.上白糖、蜂蜜、全卵、牛乳、油脂製品2をホイッパーを使用し、比重約0.25~0.28になるまで混合した。
2.上記1.に薄力粉、顆粒状物、ベーキングパウダーを加え、次に溶かした油脂製品5を加えて混合し、最終生地比重約0.38~0.41の生地を得た。対照例は顆粒状物と水を加えないこと以外は同じ手順で生地を得た。
3.この生地をワッフルマシンにて約1分45秒焼成し、ワッフルを得た。
4.完全に冷ましたのち、喫食して評価した。
【0102】
【表8】
【0103】
実施例8で得られたワッフルは、対照例5のワッフルに比べて口溶けが良く、しっとり感があり、食感が良好であった。
【0104】
(実験9)
実験9ではアメリカンドッグを作製した。表9に記載の原材料の配合比で、以下の方法により、生地を調製し、焼成してアメリカンドッグを作製した。
【0105】
(アメリカンドッグの製造方法)
1.薄力粉、顆粒状物、ベーキングパウダー、上白糖をよく合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、ベーキングパウダー、上白糖をよく合わせ、ミックス粉を作製した。
2.上記1.で得られたミックス粉に全卵、牛乳、蜂蜜および水を入れて混ぜ合わせ、さらに油脂製品6(菜種油)を混ぜ合わせ、バッター液を得た。対照例では、水を加えなかった以外は実施例と同じ手順でバッター液を得た。
3.ソーセージに薄力粉をまぶし、バッター液をつけ、175℃で4分間油ちょうし、アメリカンドッグを得た。
【0106】
【表9】
【0107】
実施例9で得られたアメリカンドッグは、対照例6のアメリカンドッグに比べて、ソフトで、しっとり感があり、口溶けが良い良好な食感であった。
【0108】
(実験10)
実験10ではウーピーパイを作製した。表10に記載の原材料の配合比で、以下の方法により、生地を調製し、焼成してウーピーパイを作製した。得られたウーピーパイについて、パンケーキの評価方法に準じて評価した。
【0109】
(ウーピーパイの製造方法)
1.原材料のうち、薄力粉、成分(A)として顆粒状物1、上白糖、脱脂粉乳およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせ、ミックス粉を作製した。対照例では、薄力粉、上白糖、脱脂粉乳およびベーキングパウダーをビニール袋に入れ混ぜ合わせてミックス粉を得た。
2.水、牛乳、全卵、卵黄、各油脂製品および上記1.で得られたミックス粉をボウルに入れ、ホイッパーを取り付けたホバートミキサーで中速にて比重が0.7前後になるようにミキシングした。
3.ミキシング後の生地550gを、天板に25gずつ絞り袋で絞り出し、オーブンにて以下の条件で焼成した。
焼成条件:上段180℃/下段180℃
焼成時間:15分
4.焼成後生地を完全に冷ました後、シロップ(水300g、グラニュー糖300g、コニャック15gを混ぜて加熱してアルコールを飛ばし、冷ましたもの。)を3gずつ打ち、バタークリーム(BCショートニング(株式会社J-オイルミルズ製)500g、粉糖250g、脱脂粉乳25g、バニラフレーバー(ゴールデンケリーパテント工業株式会社製)0.3gをホバートミキサーにて比重が0.8前後になるように混合したもの。)を15gずつサンドした。
【0110】
【表10】
【0111】
実施例で得られたウーピーパイは、対照のウーピーパイに比べて、ソフトで、しっとり感があり、口溶けが良い良好な食感であった。中でも、しっとり感と飲み込みやすさの点で優れていた。
【0112】
この出願は、2018年8月3日に出願された日本出願特願2018-147254号および2018年10月19日に出願された日本出願特願2018-197980号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。