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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20231011BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20231011BHJP
   C09J 153/02 20060101ALI20231011BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20231011BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231011BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/24
C09J153/02
C09J11/08
B32B27/00 M
B32B27/00 A
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021520864
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(86)【国際出願番号】 JP2020020205
(87)【国際公開番号】W WO2020235660
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019096396
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 星哉
(72)【発明者】
【氏名】千田 泰史
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/069684(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/136760(WO,A1)
【文献】特開2018-150447(JP,A)
【文献】国際公開第2017/200014(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062192(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/103048(WO,A1)
【文献】特開2001-240636(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08F 257/00
C08L 53/02
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層及び粘着層を有する積層体であって、
前記粘着層のショアA硬度iiに対する前記基材層のショアA硬度iの比[i/ii]が1.1以上であり、
前記基材層及び前記粘着層のうち少なくとも1層が、下記ブロック共重合体又はその水素添加物を含む、積層体。
前記ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)を含有し、記重合体ブロック(A)が、芳香族ビニルに由来する構造単位であって、前記重合体ブロック(B)が、イソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位であって、重合体ブロック(A)の含有量は、1~50質量%であり、重合体ブロック(B)中に下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に1.4~40モル%含有する構造単位を有する。
【化1】

(上記式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR~Rはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項2】
前記基材層において、前記ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が1~100質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記基材層において、前記ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が1~99質量%であり、オレフィン樹脂の含有量が99~1質量%である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記オレフィン樹脂がポリプロピレンである、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記基材層において、粘着付与樹脂の含有量が1質量%未満である、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記粘着層において、前記ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が、1~80質量%である、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記粘着層において、粘着付与樹脂の含有量が1質量%以上である、請求項1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
前記脂環式骨格(X)において、前記R~Rのうち少なくとも1つが炭素数1~11の炭化水素基である脂環式骨格(X’)が含まれる、請求項1~7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
前記脂環式骨格(X’)における前記炭化水素基がメチル基である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
前記ブロック共重合体の水素添加物として少なくともスチレン-水添ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体を含む、請求項1~9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
前記R~Rが同時に水素原子である、請求項1~7のいずれかに記載の積層体。
【請求項12】
前記重合体ブロック(B)中に前記脂環式骨格(X)を1.8~30モル%含有する、請求項1~11のいずれかに記載の積層体。
【請求項13】
前記重合体ブロック(B)中に前記脂環式骨格(X’)を1.6~40モル%以上含有する、請求項8又は9に記載の積層体。
【請求項14】
前記重合体ブロック(B)の水素添加率が、0モル%以上50モル%未満である、請求項1~13のいずれかに記載の積層体。
【請求項15】
前記重合体ブロック(B)の水素添加率が、50~99モル%である、請求項1~13のいずれかに記載の積層体。
【請求項16】
前記重合体ブロック(B)におけるビニル結合量が55~95モル%である、請求項1~15のいずれかに記載の積層体。
【請求項17】
前記ブロック共重合体又はその水素添加物が、JIS K 7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~100℃、昇温速度3℃/分の条件で測定したtanδが1.0以上となる一連の温度領域が存在し、該温度領域の最大幅が13℃以上である、請求項1~16のいずれかに記載の積層体。
【請求項18】
前記重合体ブロック(A)が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を70モル%超含有する、請求項1~17のいずれかに記載の積層体。
【請求項19】
前記ブロック共重合体における前記重合体ブロック(A)の含有量が50質量%以下である、請求項18に記載の積層体。
【請求項20】
前記ブロック共重合体における前記重合体ブロック(A)の含有量が16質量%以下である、請求項18に記載の積層体。
【請求項21】
前記粘着層の60℃での貯蔵弾性率E’(60℃)に対する23℃での貯蔵弾性率E’(23℃)の比[E’(23℃)/E’(60℃)]が2以上である、請求項1~20のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材層と粘着層とを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックと、共役ジエン化合物に由来する構造単位を含有する重合体ブロックとを有するブロック共重合体及びその水素添加物の中には制振性を有するものがあることは既に知られており、制振材に利用されてきた。また、上記ブロック共重合体及びその水素添加物は、制振性の他に遮音性、耐熱性、耐衝撃性、及び粘接着性等の物性を有することが可能なものがあり、さまざまな用途に用い得ることが考えられる。
例えば、制振性や柔軟性、耐熱性、引張強さ及び耐衝撃性等の機械的特性に優れさせるためにtanδのピーク温度やビニル結合量を特定した、スチレン系化合物とイソプレンやブタジエン等の共役ジエン化合物との水添ブロック共重合体が開示されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0003】
一方、基材層及び粘着力を有する層(粘着層)を含む積層体として、例えば表面保護フィルムが知られている。表面保護フィルムにおける粘着層を、スチレン系エラストマー及び粘着付与樹脂を含有する粘着剤組成物を用いて形成することは公知である(例えば、特許文献5及び6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-284830号公報
【文献】国際公開第2000/015680号
【文献】特開2006-117879号公報
【文献】特開2010-053319号公報
【文献】特開平5-194923号公報
【文献】特開2010-126711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ブロック共重合体及びその水素添加物は、制振性の他に粘接着性等の物性を有し得ることから、制振性を示しつつ、粘接着性を有する積層体に求められる物性を兼ね備えた積層体の検討がされている。
上記制振性については、さらに優れさせるための改良が行われているが、制振性及び粘接着性等の各種物性をバランスよくさらに向上させることは難しかった。また、粘接着性を有する積層体に求められる物性としては、粘着力の他に糊残り(粘着層の一部が被着体に残存する現象)の抑制等が挙げられる。さらに、表面保護フィルム等の積層体を使用する被着体の中には、電化製品等の使用中に熱を帯びるものがあり、また屋外に設置されている被着体や屋外で使用する被着体等は気温上昇により粘着層の接着保持力が低下し、積層体が剥がれやすくなるおそれがある。このような被着体や使用環境の温度変化に対しても耐えうる粘着力が求められている。
【0006】
そこで本発明は、被着体に制振性を付与することができ、高温においても剥がれ難くかつ糊残りが生じ難い粘着層と基材層とを含む積層体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明を想到し、当該課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0008】
基材層及び粘着層を有する積層体であって、
前記粘着層のショアA硬度iiに対する前記基材層のショアA硬度iの比[i/ii]が1.1以上であり、
前記基材層及び前記粘着層のうち少なくとも1層が、下記ブロック共重合体又はその水素添加物を含む、積層体。
前記ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)を含有し、前記重合体ブロック(B)が、共役ジエン化合物に由来する構造単位であって、下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する。
【0009】
【化1】
(上記式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR~Rはそれぞれ同一でも異なってもよい。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被着体に制振性を付与することができ、高温においても剥がれ難くかつ糊残りが生じ難い粘着層と基材層とを含む積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の積層体は、基材層及び粘着層を有する積層体であって、
粘着層のショアA硬度iiに対する基材層のショアA硬度iの比[i/ii]が1.1以上であり、
基材層及び粘着層のうち少なくとも1層が、下記ブロック共重合体又はその水素添加物を含む、ことを特徴とする。
前記ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)を含有し、前記重合体ブロック(B)が、共役ジエン化合物に由来する構造単位であって、前記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する。
積層体に含まれる基材層及び粘着層、並びにブロック共重合体及びその水素添加物について以下に説明する。
【0012】
≪ブロック共重合体及びその水素添加物≫
本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称すことがある。)において、ブロック共重合体又はその水素添加物は、基材層及び粘着層のうち少なくとも1層に含まれていればよい。ブロック共重合体又はその水素添加物を含有することにより、積層体に制振性及び粘接着性を付与し得るが、積層体の各種用途に応じて基材層又は粘着層の一方、あるいは両方に、ブロック共重合体又はその水素添加物を含有することができる。
【0013】
[重合体ブロック(A)]
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(A)は、制振性及び機械的特性の観点から、モノマーとして用いられる芳香族ビニル化合物に由来する構造単位を有することが好ましい。
重合体ブロック(A)は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位(以下、「芳香族ビニル化合物単位」と略称することがある。)を、重合体ブロック(A)中70モル%超含有することが好ましく、機械的特性の観点から、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、よりさらに好ましくは95モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
【0014】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、2,6-ジメチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、α-メチル-o-メチルスチレン、α-メチル-m-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、β-メチル-o-メチルスチレン、β-メチル-m-メチルスチレン、β-メチル-p-メチルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、α-メチル-2,6-ジメチルスチレン、α-メチル-2,4-ジメチルスチレン、β-メチル-2,6-ジメチルスチレン、β-メチル-2,4-ジメチルスチレン、o-クロロスチレン、m-クロロスチレン、p-クロロスチレン、2,6-ジクロロスチレン、2,4-ジクロロスチレン、α-クロロ-o-クロロスチレン、α-クロロ-m-クロロスチレン、α-クロロ-p-クロロスチレン、β-クロロ-o-クロロスチレン、β-クロロ-m-クロロスチレン、β-クロロ-p-クロロスチレン、2,4,6-トリクロロスチレン、α-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、α-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,6-ジクロロスチレン、β-クロロ-2,4-ジクロロスチレン、o-t-ブチルスチレン、m-t-ブチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、o-メトキシスチレン、m-メトキシスチレン、p-メトキシスチレン、o-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、o-ブロモメチルスチレン、m-ブロモメチルスチレン、p-ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン、ビニルナフタレン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物は1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。中でも、製造コストと物性バランスの観点から、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、及びこれらの混合物が好ましく、スチレンがより好ましい。
【0015】
本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、重合体ブロック(A)は芳香族ビニル化合物以外の他の不飽和単量体に由来する構造単位(以下、「他の不飽和単量体単位」と略称することがある。)を含有してもよいが、重合体ブロック(A)中好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%未満、さらに好ましくは15モル%未満、よりさらに好ましくは10モル%未満、よりさらに好ましくは5モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
該他の不飽和単量体としては、例えばブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチルブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、イソブチレン、メタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン等からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。重合体ブロック(A)が該他の不飽和単量体単位を含有する場合の結合形態は特に制限はなく、ランダム、テーパー状のいずれでもよい。
【0016】
ブロック共重合体は、前記重合体ブロック(A)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体が重合体ブロック(A)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(A)は、同一であっても異なっていてもよい。なお、本明細書において「重合体ブロックが異なる」とは、重合体ブロックを構成するモノマー単位、重量平均分子量、立体規則性、及び複数のモノマー単位を有する場合には各モノマー単位の比率及び共重合の形態(ランダム、グラジェント、ブロック)のうち少なくとも1つが異なることを意味する。
【0017】
(重量平均分子量)
重合体ブロック(A)の重量平均分子量(Mw)は、特に制限はないが、ブロック共重合体が有する重合体ブロック(A)のうち、少なくとも1つの重合体ブロック(A)の重量平均分子量が、好ましくは3,000~60,000、より好ましくは4,000~50,000である。ブロック共重合体が、上記範囲内の重量平均分子量である重合体ブロック(A)を少なくとも1つ有することにより、機械強度がより向上し、成形加工性にも優れる。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定によって求めた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0018】
(重合体ブロック(A)の含有量)
ブロック共重合体における重合体ブロック(A)の含有量は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、14質量%以下であることが特に好ましい。50質量%以下であれば、適度な柔軟性を有し、tanδピークトップ強度が低下することなく制振性に優れたブロック共重合体又はその水素添加物とすることができる。また、下限値は、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、6質量%以上であることがさらに好ましい。1質量%以上であれば、積層体の各種用途に好適な機械的特性及び成形加工性を有するブロック共重合体又はその水素添加物とすることができる。
なお、ブロック共重合体における重合体ブロック(A)の含有量は、H-NMR測定により求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0019】
[重合体ブロック(B)]
ブロック共重合体を構成する重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位であって、下記式(X)で表される1種以上の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位(以下、「脂環式骨格含有単位」と略称することがある。)を有する。また、重合体ブロック(B)は、脂環式骨格(X)を含有しない共役ジエン化合物に由来する構造単位(以下、「共役ジエン単位」と略称することがある。)をも含有し得る。
重合体ブロック(B)中の脂環式骨格含有単位と共役ジエン単位の合計は、優れた制振性を発現する観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上であり、実質的に100モル%であることが特に好ましい。
ブロック共重合体中に重合体ブロック(B)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(B)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0020】
【化2】
【0021】
上記式(X)中、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~11の炭化水素基を示し、複数あるR~Rはそれぞれ同一でも異なってもよい。上記炭化水素基の炭素数は、好ましくは炭素数1~5であり、より好ましくは1~3であり、さらに好ましくは1(すなわち、メチル基)である。また、上記炭化水素基は、直鎖又は分岐鎖であってもよく、飽和又は不飽和炭化水素基であってもよい。物性及び脂環式骨格(X)形成の観点から、R~Rは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であることが特に好ましい。
なお、ブロック共重合体を水素添加した場合、上記式(X)におけるビニル基は水素添加され得る。そのため、水素添加物における脂環式骨格(X)の意味するところには、上記式(X)におけるビニル基が水素添加された骨格も含まれる。
【0022】
重合体ブロック(B)は、共役ジエン化合物に由来する構造単位であり、脂環式骨格(X)は該共役ジエン化合物に由来する。脂環式骨格(X)は後述する方法により共役ジエン化合物のアニオン重合で生成するが、用いる共役ジエン化合物に応じて少なくとも1種の脂環式骨格(X)が脂環式骨格含有単位の主鎖に含まれる。該脂環式骨格(X)が、重合体ブロック(B)に含まれる構造単位の主鎖に組み込まれていることにより、分子運動が小さくなるためガラス転移温度が上がり、室温付近でのtanδのピークトップ強度が向上して、優れた制振性を発現することができる。
【0023】
上記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-オクタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、2-メチル-1,3-オクタジエン、1,3,7-オクタトリエン、ファルネセン、ミルセン及びクロロプレン等を挙げることができる。中でも、ブタジエン、イソプレン、又はブタジエンとイソプレンとの併用が好ましい。
【0024】
ブタジエンとイソプレンとを併用する場合、それらの配合比率[イソプレン/ブタジエン](質量比)に特に制限はないが、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~65/35である。なお、該混合比率[イソプレン/ブタジエン]をモル比で示すと、好ましくは5/95~95/5、より好ましくは10/90~90/10、さらに好ましくは40/60~70/30、特に好ましくは45/55~55/45である。
【0025】
具体例として、共役ジエン化合物としてブタジエン、イソプレン、又はブタジエンとイソプレンとの両方を使用する場合に主に生成する、脂環式骨格(X)について説明する。
共役ジエン化合物としてブタジエンを単独で使用した場合、下記(i)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)が生成される。すなわちこの場合、脂環式骨格(X)はR~Rが同時に水素原子である脂環式骨格のみとなる。したがって、ブロック共重合体又はその水素添加物の好ましい態様の一例として、重合体ブロック(B)が、R~Rが同時に水素原子である1種の脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有するものが挙げられる。
【0026】
また、共役ジエン化合物としてイソプレンを単独で使用する場合、下記(v)及び(vi)の置換基の組み合わせを有する2種の脂環式骨格(X)が主に生成される。
また、共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合、下記(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する6種の脂環式骨格(X)が主に生成される。
(i) :R=水素原子、R=水素原子、R=水素原子
(ii) :R=水素原子、R=メチル基、R=水素原子
(iii):R=水素原子、R=水素原子、R=メチル基
(iv) :R=メチル基、R=水素原子、R=水素原子
(v) :R=メチル基、R=メチル基、R=水素原子
(vi) :R=メチル基、R=水素原子、R=メチル基
【0027】
上記式(X)において、炭化水素基である置換基を有することによって分子運動がより小さくなり制振性がさらに向上する観点から、重合体ブロック(B)中の少なくとも1種の脂環式骨格(X)は、上記R~Rのうち少なくとも1つが炭素数1~11の炭化水素基である脂環式骨格(X’)であることが好ましい。中でも、共役ジエン化合物から脂環式骨格を効率よく生成させることができ、制振性及び機械的特性のバランスの観点から、該脂環式骨格(X’)における炭化水素基がメチル基であることがより好ましい。
特にR~Rが、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、かつR~Rが同時に水素原子でない脂環式骨格であることがより好ましい。すなわち、重合体ブロック(B)は、上記(ii)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格のうち、いずれか1種以上を主鎖に含む構成単位を有することがより好ましい。
【0028】
(重合体ブロック(B)のビニル結合量)
重合体ブロック(B)を構成する構成単位が、イソプレン単位、ブタジエン単位、イソプレン及びブタジエンの混合物単位のいずれかである場合、前記脂環式骨格(X)を形成する結合形態以外のイソプレン及びブタジエンそれぞれの結合形態としては、ブタジエンの場合には1,2-結合、1,4-結合を、イソプレンの場合には1,2-結合、3,4-結合、1,4-結合をとることができる。
【0029】
ブロック共重合体及びその水素添加物においては、重合体ブロック(B)中の3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量(以下、単に「ビニル結合量」と称することがある。)の合計が好ましくは55~95モル%、より好ましくは63~95モル%、さらに好ましくは70~95モル%である。上記範囲であれば優れた制振性を発現することができる。
ここで、ビニル結合量は、実施例に記載の方法に従って、H-NMR測定によって算出した値である。
なお、重合体ブロック(B)がブタジエンのみからなる場合には、前記の「3,4-結合単位及び1,2-結合単位の含有量」とは「1,2-結合単位の含有量」と読み替えて適用する。
【0030】
(脂環式骨格(X)含有量)
重合体ブロック(B)中には脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位が含まれていればよいが、より優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から、重合体ブロック(B)中に脂環式骨格(X)を1モル%以上含有していることが好ましく、より好ましくは1.1モル%以上、さらに好ましくは1.4モル%以上、よりさらに好ましくは1.8モル%以上であり、よりさらに好ましくは4モル%以上であり、よりさらに好ましくは10モル%以上であり、特に好ましくは13モル%以上である。また、重合体ブロック(B)中の脂環式骨格(X)の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば特に制限はないが、生産性の観点から、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であってもよく、20モル%以下であってもよく、18モル%以下であってもよい。
さらに制振性を向上させる観点から、重合体ブロック(B)中に上記脂環式骨格(X’)を1モル%以上含有していることがより好ましく、さらに好ましくは1.3モル%以上、よりさらに好ましくは1.6モル%以上である。脂環式骨格(X’)の含有量の上限値は、上記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0031】
より具体的に、共役ジエン化合物としてイソプレンを使用する場合、ブタジエンを使用する場合、又はブタジエンとイソプレンとを併用する場合、の各場合における脂環式骨格含有量は次のとおりである。
共役ジエン化合物としてイソプレンを使用する場合において、重合体ブロック(B)中に、前記(v),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X’)が1種以上存在するときのそれらの合計含有量は、1モル%以上であることがより優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましく、幅広い温度範囲において優れた制振性の効果を得る観点から2モル%以上であることがさらに好ましく、3モル%以上であることがよりさらに好ましく、4モル%以上であることが特に好ましい。また、イソプレンを使用する場合の上記合計含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0032】
共役ジエン化合物としてブタジエンを使用する場合において、重合体ブロック(B)中に、脂環式骨格(X)が存在するときのその含有量は、5モル%以上であることがより優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、15モル%以上であることがさらに好ましく、20モル%以上であることがよりさらに好ましく、25モル%以上であることがよりさらに好ましく、30モル%以上であることが特に好ましい。また、ブタジエンを使用する場合の上記含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0033】
共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合において、重合体ブロック(B)中に、前記(ii),(iii),(v),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X’)が1種以上存在するときのそれらの合計含有量は、1モル%以上であることがより優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましく、8モル%以上であることがよりさらに好ましく、13モル%以上であることがよりさらに好ましい。ブタジエンとイソプレンとを併用する場合の上記合計含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
また、共役ジエン化合物としてブタジエンとイソプレンとを併用する場合において、重合体ブロック(B)中に、前記(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)が1種以上存在するときのそれらの合計含有量は、1モル%以上であることがより優れた制振性の効果を発現し、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすくする観点から好ましく、5モル%以上であることがより好ましい。ブタジエンとイソプレンとを併用する場合の上記合計含有量の上限値は、前記脂環式骨格(X)の含有量の上限値と同様である。
【0034】
なお、ブロック共重合体又はその水素添加物に含まれる上記脂環式骨格(X)((X’)を含む)含有量は、ブロック共重合体の13C-NMR測定により、重合体ブロック(B)中の脂環式骨格(X)由来の積分値から求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0035】
また、ブロック共重合体又はその水素添加物は、重合体ブロック(B)の水素添加率が0モル%以上50モル%未満の場合、脂環式骨格(X)に結合したビニル基と主鎖に結合したビニル基との含有モル比を特定することができる。
例えば、前記(ii),(iii),(v),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X’)では、該脂環式骨格(X’)に結合したビニル基末端の炭素原子(下記化学式の(a))の13C-NMRでのケミカルシフトは107~110ppm付近に現れ、主鎖に結合したビニル基末端の炭素原子(下記化学式の(b))の13C-NMRでのケミカルシフトは110~116ppm付近に現れる。そして、水素添加率が0~40モル%の場合、13C-NMRで測定されるピーク面積比[ケミカルシフト値107~110ppmのピーク面積]/[ケミカルシフト値110~116ppmのピーク面積]が通常0.01~3.00の範囲となり、より優れた制振性を発現できる観点から、該面積比は好ましくは0.01~1.50、より好ましくは0.01~1.00、さらに好ましくは0.01~0.50、よりさらに好ましくは0.01~0.20となる。
【0036】
【化3】
【0037】
また、水素添加物については、13C-NMR測定において脂環式骨格(X)上の炭素原子由来のピークはほとんど観測されないが、前記置換基Rが炭素数1~11の炭化水素基であり、該Rを有するビニル基由来の分岐状アルキル基と結合する該脂環式骨格(X)上の炭素原子由来のピークについては観測され得る。
これにより、水素添加物について重合体ブロック(B)の水素添加率が50~99モル%の場合、上記Rを有するビニル基由来の分岐状アルキル基と結合する脂環式骨格(X)上の炭素原子とビニル基由来の分岐状アルキル基と結合する主鎖上の炭素原子との含有モル比を特定することも可能である。
【0038】
例えば、前記(iii),(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格(X)では、イソプレン基と結合する脂環式骨格(X)上の炭素原子(下記化学式の(c))の13C-NMRでのケミカルシフトは50.0~52.0ppm付近に現れ、イソプレン基と結合する主鎖上の炭素原子(下記化学式の(d))の13C-NMRでのケミカルシフトは43.0~45.0ppm付近に現れる。そして、水素添加率が40~99モル%の場合、13C-NMRで測定されるピーク面積比[ケミカルシフト値50.0~52.0ppmのピーク面積]/[ケミカルシフト値43.0~45.0ppmのピーク面積]が通常0.01~3.00の範囲となり、より優れた制振性を発現できる観点から、該面積比は好ましくは0.01~1.50の範囲、より好ましくは0.01~1.00の範囲、さらに好ましくは0.01~0.50の範囲、よりさらに好ましくは0.01~0.25となる。
なお、上記ピーク面積比は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0039】
【化4】
【0040】
(重量平均分子量)
ブロック共重合体が有する重合体ブロック(B)の合計の重量平均分子量は、制振性及び積層体とする際の成形加工性等の観点から、水素添加前の状態で、好ましくは15,000~800,000であり、より好ましくは50,000~700,000であり、さらに好ましくは70,000~600,000、特に好ましくは90,000~500,000、最も好ましくは130,000~450,000である。
【0041】
(その他の構造単位)
重合体ブロック(B)は、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。この場合、重合体ブロック(B)において、共役ジエン化合物以外の他の重合性の単量体に由来する構造単位の含有量は、好ましくは50モル%未満、より好ましくは30モル%未満、さらに好ましくは20モル%未満、よりさらに好ましくは10モル%未満、特に好ましくは0モル%である。
該他の重合性の単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、N-ビニルカルバゾール、ビニルナフタレン及びビニルアントラセン等の芳香族ビニル化合物、並びにメタクリル酸メチル、メチルビニルエーテル、β-ピネン、8,9-p-メンテン、ジペンテン、メチレンノルボルネン、2-メチレンテトラヒドロフラン、1,3-シクロペンタジエン、1,3-シクロヘキサジエン、1,3-シクロヘプタジエン、1,3-シクロオクタジエン等からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。
ブロック共重合体は、上記重合体ブロック(B)を少なくとも1つ有していればよい。ブロック共重合体が重合体ブロック(B)を2つ以上有する場合には、それら重合体ブロック(B)は、同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
[製造方法]
(ブロック共重合体)
ブロック共重合体の製造方法として、例えば、1種以上の共役ジエン化合物をモノマーとしてアニオン重合法により重合させることにより、前記脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有する重合体ブロック(B)を形成し、重合体ブロック(A)のモノマーを添加し、また必要に応じてさらに重合体ブロック(A)のモノマー及び共役ジエン化合物を逐次添加することにより、ブロック共重合体を得ることができる。
上記アニオン重合法により脂環式骨格を生成させる方法は公知の技術を用いることができる(例えば、米国特許第3966691号明細書参照)。脂環式骨格はモノマーの枯渇によってポリマーの末端に形成され、これにさらにモノマーを逐次添加することで該脂環式骨格から再び重合を開始させることができる。そのため、モノマーの逐次添加時間、重合温度、あるいは触媒の種類や添加量、モノマーと触媒との組合せ等により、該脂環式骨格の生成の有無やその含有量を調整することができる。また、アニオン重合法では、アニオン重合開始剤、溶媒、及び必要に応じてルイス塩基を用いることができる。
【0043】
上記方法においてアニオン重合の重合開始剤として使用し得る有機リチウム化合物としては、例えばメチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウム、ペンチルリチウム等が挙げられる。また、重合開始剤として使用し得るジリチウム化合物としては、例えばナフタレンジリチウム、ジリチオヘキシルベンゼン等が挙げられる。
カップリング剤としては、例えばジクロロメタン、ジブロモメタン、ジクロロエタン、ジブロモエタン、ジブロモベンゼン、安息香酸フェニル等が挙げられる。
これらの重合開始剤及びカップリング剤の使用量は、ブロック共重合体及びその水素添加物の所望とする重量平均分子量により適宜決定される。通常は、アルキルリチウム化合物、ジリチウム化合物等の開始剤は、重合に用いる重合体ブロック(A)のモノマー及び共役ジエン化合物等の単量体の合計100質量部あたり0.01~0.2質量部の割合で用いられるのが好ましく、カップリング剤を使用する場合は、前記単量体の合計100質量部あたり0.001~0.8質量部の割合で用いられるのが好ましい。
【0044】
溶媒としては、アニオン重合反応に悪影響を及ぼさなければ特に制限はなく、例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ペンタン等の脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。また、重合反応は、通常0~100℃、好ましくは10~70℃の温度で、0.5~50時間、好ましくは1~30時間行う。
【0045】
また、共役ジエン化合物の重合の際に共触媒としてルイス塩基を添加する方法により、重合体ブロック(B)における上記脂環式骨格(X)の含有量や、3,4-結合及び1,2-結合の含有量を高めることができる。
用いることのできるルイス塩基としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)等のエーテル類;エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;トリエチルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、N-メチルモルホリン等のアミン類;ナトリウムt-ブチレート、ナトリウムt-アミレート又はナトリウムイソペンチレート等の脂肪族アルコールのナトリウム又はカリウム塩、あるいは、ジアルキルナトリウムシクロヘキサノレート、例えば、ナトリウムメントレートのような脂環式アルコールのナトリウム又はカリウム塩等の金属塩;等が挙げられる。これらのルイス塩基は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
ルイス塩基の添加量は、上記脂環式骨格(X)の含有量をどの程度に制御するか、並びに、前記重合体ブロック(B)が、特にイソプレン及び/又はブタジエンに由来する構造単位を含む場合には、重合体ブロック(B)を構成するイソプレン単位及び/又はブタジエン単位のビニル結合量をどの程度に制御するかにより決定される。そのため、ルイス塩基の添加量に厳密な意味での制限はないが、重合開始剤として用いられるアルキルリチウム化合物又はジリチウム化合物に含有されるリチウム1グラム原子あたり、通常0.1~1,000モル、好ましくは1~100モルの範囲内で用いるのが好ましい。
【0047】
共役ジエン化合物の平均フィード速度(以下、「平均ジエンフィード速度」と称すことがある。)は、脂環式骨格(X)の含有量を高める観点から、活性末端1モル当たり、150kg/h以下が好ましく、110kg/h以下がより好ましく、55kg/h以下がさらに好ましく、45kg/h以下であってもよく、30kg/h以下であってもよく、22kg/h以下であってもよい。下限値は、生産性を高める観点から、活性末端1モル当たり、1kg/h以上が好ましく、3kg/h以上がより好ましく、5kg/h以上がさらに好ましく、7kg/h以上であってもよく、10kg/h以上であってもよく、15kg/h以上であってもよい。
【0048】
上記した方法により重合を行なった後、アルコール類、カルボン酸類、水等の活性水素化合物を添加して重合反応を停止させることにより、ブロック共重合体を得ることができる。
【0049】
(水素添加物)
上記の製造方法により得られたブロック共重合体を水素添加物とする場合、不活性有機溶媒中で水添触媒の存在下に水素添加反応(水添反応)を行う。水添反応により、ブロック共重合体における重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物由来の炭素-炭素二重結合が水素添加され、ブロック共重合体の水素添加物とすることができる。
水添反応は、水素圧力を0.1~20MPa程度、好ましくは0.5~15MPa、より好ましくは0.5~5MPa、反応温度を20~250℃程度、好ましくは50~180℃、より好ましくは70~180℃、反応時間を通常0.1~100時間程度、好ましくは1~50時間として実施することができる。
水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル;Pt、Pd、Ru、Rh、Ni等の金属をカーボン、アルミナ、珪藻土等の単体に担持させた不均一系触媒;遷移金属化合物とアルキルアルミニウム化合物、アルキルリチウム化合物等との組み合わせからなるチーグラー系触媒;メタロセン系触媒等が挙げられる。
【0050】
このようにして得られた水素添加物は、重合反応液をメタノール等に注ぐことにより凝固させた後、加熱又は減圧乾燥させるか、重合反応液をスチームと共に熱水中に注ぎ、溶媒を共沸させて除去するいわゆるスチームストリッピングを施した後、加熱又は減圧乾燥することにより取得することができる。
【0051】
上記ブロック共重合体又は水素添加物を用いるかは、積層体の各種用途において所望される性能に応じて特定することができる。同様に、水素添加物とする際の上記重合体ブロック(B)中の炭素-炭素二重結合の水素添加率をどの程度にするかは、積層体の各種用途において所望される性能に応じて特定することができる。
例えば、水素添加物の水素添加率が高い程、耐熱性や耐候性が向上した水素添加物とすることが可能である。上記水素添加率は、例えば、50モル%以上99モル%以下、60モル%以上99モル%以下、70モル%以上99モル%以下、80モル%以上99モル%以下にすることができる。
【0052】
したがって、重合体ブロック(B)の水素添加率が0モル%以上(すなわち、未水添の場合も含む。)50モル%未満であるブロック共重合体又はその水素添加物であってもよく、また、重合体ブロック(B)の水素添加率が50~99モル%である水素添加物であってもよい。
なお、上記水素添加率は、重合体ブロック(B)中の共役ジエン化合物及び脂環式骨格(X)由来の構造単位中の炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加後のH-NMR測定によって求めた値であり、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0053】
(重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合様式)
ブロック共重合体は、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)とが結合している限りは、その結合形式は限定されず、直鎖状、分岐状、放射状、又はこれらの2つ以上が組合わさった結合様式のいずれでもよい。中でも、重合体ブロック(A)と重合体ブロック(B)の結合形式は直鎖状であることが好ましく、その例としては重合体ブロック(A)をAで、また重合体ブロック(B)をBで表したときに、A-Bで示されるジブロック共重合体、A-B-A又はB-A-Bで示されるトリブロック共重合体、A-B-A-Bで示されるテトラブロック共重合体、A-B-A-B-A又はB-A-B-A-Bで示されるペンタブロック共重合体、(A-B)nZ型共重合体(Zはカップリング剤残基を表し、nは3以上の整数を表す)等を挙げることができる。中でも、直鎖状のトリブロック共重合体、又はジブロック共重合体が好ましく、A-B-A型のトリブロック共重合体が、柔軟性、製造の容易性等の観点から好ましく用いられる。
A-B-A型のトリブロック共重合体として具体的には、スチレン-ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体が挙げられる。中でも、基材層及び粘着層のうち少なくとも1層は、ブロック共重合体の水素添加物として少なくともスチレン-水添ブタジエン/イソプレン-スチレン共重合体を含むことが好ましい。
【0054】
ここで、本明細書においては、同種の重合体ブロックが二官能のカップリング剤等を介して直線状に結合している場合、結合している重合体ブロック全体は一つの重合体ブロックとして取り扱われる。これに従い、上記例示も含め、本来、厳密にはY-Z-Y(Zはカップリング残基を表す)と表記されるべき重合体ブロックは、特に単独の重合体ブロックYと区別する必要がある場合を除き、全体としてYと表示される。本明細書においては、カップリング剤残基を含むこの種の重合体ブロックを上記のように取り扱うので、例えば、カップリング剤残基を含み、厳密にはA-B-Z-B-A(Zはカップリング剤残基を表す)と表記されるべきブロック共重合体はA-B-Aと表記され、トリブロック共重合体の一例として取り扱われる。
【0055】
(重合体ブロック(A)及び(B)の含有量)
ブロック共重合体において、本発明の目的及び効果の妨げにならない限り、前記重合体ブロック(A)及び(B)以外の他の単量体で構成される重合体ブロックを含有していてもよいが、前記重合体ブロック(A)及び前記重合体ブロック(B)の合計含有量は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、実質的に100質量%であることが特に好ましい。90質量%以上であれば、制振性及び成形加工性に優れ、高温においても粘接着力の低下を抑制しやすく、積層体に好適に用いることのできるブロック共重合体又はその水素添加物とすることができる。
【0056】
(重量平均分子量)
ブロック共重合体及びその水素添加物のゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)は、好ましくは15,000~800,000、より好ましくは50,000~700,000、さらに好ましくは60,000~600,000、よりさらに好ましくは70,000~600,000、特に好ましくは90,000~500,000、最も好ましくは130,000~450,000である。ブロック共重合体及びその水素添加物の重量平均分子量が15,000以上であれば、耐熱性が高くなり、800,000以下であれば、成形性加工性が良好となる。
【0057】
[tanδ]
(tanδのピークトップ温度及び強度)
tanδ(損失正接)は、動的粘弾測定における周波数1Hzにおける損失弾性率/貯蔵弾性率の比であり、tanδのピークトップ温度及び強度は、制振性、及びその他の物性に大きく寄与する。ここで、tanδのピークトップ強度とは、tanδのピークが最大となるときのtanδの値のことである。また、tanδのピークトップ温度とは、tanδのピークが最大となるときの温度のことである。
【0058】
本明細書においてブロック共重合体又はその水素添加物のtanδのピークトップ温度及び強度は、ブロック共重合体又はその水素添加物を、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmの単層シートを作製し、該単層シートを円板形状に切り出し、これを試験片として測定する。測定条件は、JIS K 7244-10(2005年)に準拠して、歪み量0.1%、周波数1Hz、測定温度-70~100℃、昇温速度3℃/分である。
なお、ブロック共重合体又はその水素添加物のピークトップ温度及びtanδ強度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0059】
ブロック共重合体又はその水素添加物は、上記測定により、tanδのピークトップ強度が1.0以上となり得る。より高いものでは、1.5以上、さらには1.9以上となるものもある。tanδのピークトップ強度が高い程、その温度における制振性等の物性に優れることを示し、1.0以上であれば、実使用環境下において充分な制振性を得ることができる。
また、ブロック共重合体又はその水素添加物は、tanδのピークトップ温度が、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-40℃以上、さらに好ましくは-30℃以上、よりさらに好ましくは-25℃以上であり、0℃以上であってもよい。また、上記tanδのピークトップ温度の上限は、本発明の効果を損なわない範囲であればよく、50℃以下であってもよく、40℃以下であってもよく、35℃以下であってもよい。tanδのピークトップ温度の範囲として、例えば、好ましくは-50~50℃であり、より好ましくは-40~40℃、さらに好ましくは-30~30℃、よりさらに好ましくは-25~25℃である。上記tanδのピークトップ温度が-50℃以上であれば、実使用環境下において充分な制振性を得ることができ、50℃以下であれば、粘着層に用いた際に望ましい接着性を発現することができる。
【0060】
(tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅)
またブロック共重合体又はその水素添加物は、上記測定条件で測定した-70~100℃におけるtanδが1.0以上となる一連の温度領域が存在し、該温度領域の最大幅が、好ましくは12℃以上であり、より好ましくは13℃以上であり、さらに好ましくは15℃以上、よりさらに好ましくは17℃以上である。
前述のとおり、重合体ブロック(B)の構造単位において前記脂環式骨格(X)が主鎖に組み込まれており、さらに高いビニル結合量を有し得ることにより、分子運動が小さくなるためガラス転移温度が上昇し、温度変化に対してガラス転移がなだらかになる。これにより、ブロック共重合体又はその水素添加物のtanδが1以上を示す温度範囲が広くなり、広い温度範囲で制振性を示すことが可能となる。tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅が12℃以上、さらには13℃以上であれば、実使用環境下においてより優れた制振性を得ることができる。また、該温度領域の最大幅には特に上限値はないが、例えば生産性の観点から、上限値が35℃であってもよいし、30℃であってもよいし、25℃であってもよい。
【0061】
≪基材層≫
基材層は、被着体の制振性をより向上させるのに好適である観点から、上述のブロック共重合体又はその水素添加物を含むことができる。
基材層におけるブロック共重合体又はその水素添加物の含有量は、好ましくは1~100質量%である。被着体の制振性をさらに向上させやすい観点から、基材層におけるブロック共重合体又はその水素添加物の含有量は、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、よりさらに好ましくは10質量%以上である。また、該含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、積層体の強度を保ちつつ、後述する基材層の材質として用いることができる他の樹脂と良好に相容させやすい観点から、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは70質量%以下、よりさらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは50質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以下であり、また30質量%以下、25質量%以下であってもよい。
【0062】
[非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物]
基材層は、積層体としての性能の観点から、上述のブロック共重合体又はその水素添加物と同様の重合体ブロック(A)及び重合体ブロック(B)を含有し、かつ、該重合体ブロック(B)が上述の式(X)で表される脂環式骨格を主鎖に含む構造単位を有さないブロック共重合体又はその水素添加物(以下、「非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物」と称すことがある。)を含んでもよい。
上記非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物は、重合体ブロック(B)が式(X)で表される脂環式骨格を主鎖に含む構造単位を有さないこと以外は、上述のブロック共重合体又はその水素添加物と同様である。
【0063】
[他の樹脂]
基材層には、積層体としての性能や経済性の観点から、上述のブロック共重合体又はその水素添加物以外の他の樹脂(以下、「他の樹脂」と称すことがある。)を基材層の材質として用いることが好ましい。
【0064】
(オレフィン樹脂)
上記他の樹脂は、積層体としての性能や経済性の観点からオレフィン樹脂が好ましい。オレフィン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなどのポリプロピレン;α-オレフィンの単独重合体又は共重合体;プロピレン及び/又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。上記α-オレフィンとしては、例えば1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素数20以下のα-オレフィンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、これらのオレフィン樹脂をマレイン酸などにより変性させた変性オレフィン樹脂を用いることもできる。
これらオレフィン樹脂のなかでも、上述のブロック共重合体又はその水素添加物との相容性が高く、透明性に優れた積層体を得るのに好適である観点から、好ましくはポリプロピレンである。
より具体的には、本実施形態の好ましい態様の一例として、基材層において、上記他の樹脂としてオレフィン樹脂と、ブロック共重合体又はその水素添加物とを用いることができる。中でも、オレフィン樹脂とブロック共重合体の水素添加物とを用いることが好ましい。オレフィン樹脂と上記水素添加物との相容性が良好なため、基材層のより優れた透明性を維持することが容易である。
【0065】
(オレフィン樹脂以外の樹脂)
また、上記他の樹脂として上記オレフィン樹脂以外の樹脂を用いてもよい。
オレフィン樹脂以外の樹脂としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体加硫物、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、天然ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属イオン架橋樹脂(アイオノマー)、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のアセタール系樹脂、ポリメチルメタアクリレート系樹脂等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0066】
また、基材層の材質として、積層体としての性能や経済性の観点から、好ましくはブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との組合せ、並びに、非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物と他の樹脂との組合せが挙げられ、積層体としての性能や経済性及びより優れた制振性を得る観点から、より好ましくはブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との組合せである。
基材層の構成は、一層でもよく、二層以上の多層構成でもよい。二層以上からなる場合、材質の異なる2種類以上の樹脂を用いてもよい。
【0067】
[含有量]
基材層における非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物の含有量は、積層体としての性能の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、基材層における非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲において特に制限されず100質量%であってもよいが、経済性の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0068】
基材層における他の樹脂の含有量は、積層体としての性能や経済性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上、よりさらに好ましくは50質量%以上、よりさらに好ましくは60質量%以上である。一方、基材層における上記の他の樹脂の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲において特に制限されず100質量%であってもよいが、基材層に上述のブロック共重合体又はその水素添加物を含有させる場合には、被着体の制振性をさらに向上しやすくする観点から、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下である。
【0069】
基材層において、ブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との含有量の割合は、これらの合計含有量を100質量%とすると、ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が好ましくは1~99質量%、より好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは1~80質量%、よりさらに好ましくは1~70質量%、よりさらに好ましくは1~60質量%、よりさらに好ましくは1~50質量%、よりさらに好ましくは1~40質量%であり、また1~30質量%、1~25質量%であってもよい。
本実施形態の好ましい態様の一例として、他の樹脂がオレフィン樹脂の場合は、上記含有量の割合はブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が1~99質量%であり、かつオレフィン樹脂の含有量が99~1質量%であり、より好ましい態様は上記ブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との含有量の割合と同様である。
本実施形態のより好ましい態様の一例として、他の樹脂がポリプロピレンの場合は、ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が1~99質量%であり、かつポリプロピレンの含有量が99~1質量%であり、より好ましい態様は上記ブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との含有量の割合と同様である。
【0070】
また、本実施形態の好ましい態様の一例として、基材層の材質が非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との組合せの場合、非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物と他の樹脂との含有量の割合は、これらの合計含有量を100質量%とすると、非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量が好ましくは1~99質量%、より好ましくは1~90質量%、さらに好ましくは1~80質量%、よりさらに好ましくは1~70質量%、よりさらに好ましくは1~60質量%、よりさらに好ましくは1~50質量%、よりさらに好ましくは1~40質量%である。
基材層におけるブロック共重合体又はその水素添加物と、非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物と、他の樹脂との合計含有量は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0071】
[添加剤]
また、本実施形態における基材層は、本発明の効果を損なわない範囲において、後述する粘着付与樹脂の含有を妨げるものではない。しかし、基材層が粘接着性を有することにより基材としての性能が損なわれることがあり、また基材に不要な粘接着性が発現されるといった不都合が生じるおそれがあることから、基材層における粘着付与樹脂の含有量は、好ましくは1質量%未満であり、基材層は実質的に粘着付与樹脂を含まない(粘着付与樹脂の含有量が0質量%)ものであってもよい。
基材層には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて添加剤をさらに添加してもよい。添加剤としては、例えば架橋剤(イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン樹脂等)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、透光性調整剤、蛍光剤、摺動性付与剤、透明性付与剤、アンチブロッキング剤、金属不活性化剤、防菌剤、結晶核剤、亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤、防鼠剤、分散剤、増粘剤、耐光剤、耐候剤、銅害防止剤、補強剤、防かび剤、大環状分子(シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビツリル等)、前記粘着付与樹脂以外の粘着剤(アクリル系粘着剤等)等が挙げられる。添加剤の含有量は、基材層からのブリードを抑制する観点から、上記の基材層用の樹脂成分100質量部あたり10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0072】
≪粘着層≫
本実施形態における粘着層は、上述のブロック共重合体又はその水素添加物以外に、積層体の粘着力を高め、高温でも粘着力を維持する観点から、粘着付与樹脂を含有することが好ましい。
【0073】
[粘着付与樹脂]
粘着付与樹脂としては、例えばクマロン・インデン樹脂等のクマロン樹脂;p-t-ブチルフェノール・アセチレン樹脂、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、テルペン・フェノール樹脂、ポリテルペン樹脂、キシレン・ホルムアルデヒド樹脂等のフェノール系樹脂及びテルペン系樹脂;芳香族系石油樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環式系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、変性脂環式系石油樹脂等の石油樹脂;ロジンのペンタエリスリトールエステル及びロジンのグリセロールエステル等に代表されるロジンエステル、水素添加ロジン、水素添加ロジンのメチルエステル、重合ロジンのペンタエリスリトールエステル、水素添加ロジンエステル、高融点エステル系樹脂、重合ロジン、硬化ロジン、特殊ロジンエステル等のロジン系樹脂などが挙げられる。中でも粘着付与樹脂として、脂環族飽和炭化水素系樹脂を好適に用いることができる。脂環族飽和炭化水素系樹脂は、芳香族系石油樹脂が水素添加されたものが挙げられ、例えば荒川化学工業株式会社製「アルコン」シリーズ等の市販品を用いてもよい。これらの粘着付与樹脂は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、得られる粘着層の糊残りの低減及び耐熱性、耐候性の向上の観点から、水素添加された粘着付与樹脂を用いることが好ましい。
上記粘着付与樹脂の軟化点は、好ましくは85~160℃であり、より好ましくは100~150℃であり、さらに好ましくは105~145℃である。粘着付与樹脂の軟化点が85℃以上であれば高温(約60℃)での接着保持力の低下を抑制しやすくなり、160℃以下であれば粘着層を構成する組成物の成形加工性が良好である。
【0074】
[含有量]
粘着層における上述のブロック共重合体又はその水素添加物の含有量は100質量%でもよいが、積層体の制振性及び高温での粘着力の観点から、好ましくは1~80質量%である。
また、粘着層におけるブロック共重合体又はその水素添加物の上記含有量は、積層体の制振性をより優れさせる観点から、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。一方、粘着層におけるブロック共重合体又はその水素添加物の上記含有量は、経済性及び高温での粘着力をより維持しやすくする観点から、より好ましくは70質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは50質量%以下、よりさらに好ましくは40質量%以下である。
【0075】
粘着層における粘着付与樹脂の含有量は、粘着層の粘着力の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは15質量%以上である。一方、粘着層における粘着付与樹脂の上記含有量は、粘着層の糊残り低減の観点からは、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下である。
【0076】
[非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物]
また、粘着層を構成する樹脂成分として、積層体としての性能の観点から、上述の非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物を用いることが好ましい。
粘着層における非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物の含有量は、粘着層の糊残り低減及び粘着層の粘着力の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは40質量%以上である。一方、粘着層における非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物の含有量の上限は、本発明の効果を損なわない範囲において特に制限されず100質量%であってもよいが、経済性の観点から、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下である。
【0077】
[その他の樹脂成分]
(オレフィン樹脂)
本発明の目的を損なわない範囲で、粘着層を構成する樹脂成分として、オレフィン樹脂を用いてもよい。
オレフィン樹脂としては、例えば高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレンなどのポリエチレン;ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレン、ランダムポリプロピレンなどのポリプロピレン;α-オレフィンの単独重合体又は共重合体;プロピレン及び/又はエチレンとα-オレフィンとの共重合体などが挙げられる。上記α-オレフィンとしては、例えば1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどの炭素数20以下のα-オレフィンが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。また、これらのオレフィン樹脂をマレイン酸などにより変性させた変性オレフィン樹脂を用いることもできる。
【0078】
(オレフィン樹脂以外の樹脂)
また、本発明の目的を損なわない範囲で、粘着層を構成する樹脂成分として、上記オレフィン樹脂以外の樹脂を用いてもよい。
オレフィン樹脂以外の樹脂としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体加硫物、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、天然ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体の金属イオン架橋樹脂(アイオノマー)、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のアセタール系樹脂、ポリメチルメタアクリレート系樹脂等のアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、エチレン-塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。
【0079】
(添加剤)
粘着層には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて可塑剤や充填剤を添加してもよい。
可塑剤としては、例えばパラフィン系、ナフテン系、芳香族系のプロセスオイル;ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート等のフタル酸誘導体;ホワイトオイル;ミネラルオイル;エチレンとα-オレフィンとの液状コオリゴマー;流動パラフィン;ポリブテン;低分子量ポリイソブチレン;液状ポリブタジエン、液状ポリイソプレン、液状ポリイソプレン/ブタジエン共重合体、液状スチレン/ブタジエン共重合体、液状スチレン/イソプレン共重合体等の液状ポリジエン及びその水添物等が挙げられる。
充填剤としては、例えばタルク、マイカ、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラス中空球、ガラス繊維、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、ドーソナイト、ポリリン酸アンモニウム、カルシウムアルミネート、ハイドロタルサイト、シリカ、シリカアルミナ、珪藻土、ウォラストナイト、ゼオライト、ベーマイト、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、グラフェン、炭酸バリウム、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、チタン酸カリウム、ケイ酸アルミニウム(カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト)、ケイ酸マグネシウム(アタパルジャイト)、ホウ酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、炭素繊維、活性炭、炭素中空球、チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、炭化ケイ素などの無機フィラー;木粉、でんぷんなどの有機フィラー;有機顔料などが挙げられる。これらの充填剤は、単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
また粘着層には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の添加剤をさらに添加してもよい。添加剤としては、例えば架橋剤(イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン樹脂等)、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、撥水剤、防水剤、親水性付与剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、電磁波シールド性付与剤、透光性調整剤、蛍光剤、摺動性付与剤、透明性付与剤、アンチブロッキング剤、金属不活性化剤、防菌剤、結晶核剤、亀裂防止剤、オゾン劣化防止剤、防鼠剤、分散剤、増粘剤、耐光剤、耐候剤、銅害防止剤、補強剤、防かび剤、大環状分子(シクロデキストリン、カリックスアレーン、ククルビツリル等)、前記粘着付与樹脂以外の粘着剤(アクリル系粘着剤等)等が挙げられる。
一方で、本発明の効果を最大限享受する観点から、粘着層において、上記可塑剤、充填材、添加剤のそれぞれの含有量は10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。これらの含有量が10質量%以下であれば、後述するtanδ強度の挙動に影響をほとんど与えないものと考えられる。
【0080】
≪積層体の製造方法≫
上記の積層体の製造方法は特に限定はなく、例えば、(1)基材層を構成する組成物と粘着層を構成する組成物との多層Tダイ押出機等による共押出成形法、(2)成形した基材層に粘着層を構成する組成物を塗工する方法、(3)成形した基材層と粘着層を構成する組成物とを圧縮成形により積層する圧縮成形法などが挙げられる。
【0081】
基材層を構成する組成物及び粘着層を構成する組成物は、それぞれ溶融混練することで製造することができる。
溶融混練としては、各層に配合する成分をそれぞれ、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー、コニカルブレンダー等の混合機を用いて混合することにより、あるいはその混合後、一軸又は二軸押出機、ニーダー等により溶融混練すればよい。溶融混練時の温度は適宜設定することができるが、通常150~300℃であり、好ましくは160~250℃である。
得られた基材層及び粘着層を構成する各組成物は、積層体を押出成形で容易に製造する観点から、それぞれペレット化するのが好ましい。
【0082】
上記(2)の塗工する方法により積層体を製造する場合、有機溶媒中に粘着層を構成する組成物を溶解させて溶液を作製し、この溶液を成形した基材層に塗布した後、乾燥することにより、積層体を好適に得ることができる。この有機溶媒は、粘着層を構成する組成物を溶解できる溶媒である限り特に限定されない。上記溶媒として、例えばシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、ベンゼン、トルエン、トルエン-エタノール混合溶媒、キシレン、エチルベンゼン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、又は2種以上を併用してもよい。塗工容易性、溶液の製造容易性、乾燥容易性の観点から、トルエン、トルエン-エタノール混合溶媒、キシレン、エチルベンゼンが好ましい。
溶液中における樹脂成分の濃度は、塗工容易性、溶液の製造容易性、乾燥容易性の観点から、好ましくは5~50質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。
【0083】
上記(1)の共押出成形法により積層体を製造する場合、基材層を構成する組成物、及び粘着層を構成する組成物を、それぞれ異なる押出機を用いて溶融可塑化し、各ペレットとする。その後、各ペレットを押出機先端に設けたフィードブロックダイにて合流・多層化させて押出した後、フィルム状に引取ることにより好適に製造することができる。
上記(3)の圧縮成形法により積層体を製造する場合、成形した基材上にペレット状もしくはシート状の粘着層を構成する組成物を重ねて、加熱しながら圧縮成形した後、冷却することにより好適に得ることができる。
【0084】
粘着層を構成する組成物が、ホットメルト型である場合には、従来と同様のホットメルト用のアプリケーターを使用して、該組成物を加熱溶融して基材層に塗布した後、冷却することにより、積層体を好適に得ることができる。
【0085】
積層体における基材層を構成する組成物と粘着層を構成する組成物との組み合わせの一例を示す。上記組み合わせは、上述のブロック共重合体又はその水素添加物を〈1〉、非脂環式骨格ブロック共重合体又はその水素添加物を〈2〉で表したときに、例えば、
基材層を構成する組成物がオレフィン樹脂と〈1〉及び/又は〈2〉とを含み、粘着層を構成する組成物が粘着付与樹脂と〈1〉及び/又は〈2〉とを含む積層体(ただし、基材層及び粘着層のうち少なくとも1層が〈1〉を含む);
基材層を構成する組成物がオレフィン樹脂と〈1〉及び/又は〈2〉とを含み、粘着層を構成する組成物が粘着付与樹脂と〈1〉とを含む積層体;
基材層を構成する組成物がオレフィン樹脂と〈1〉及び/又は〈2〉とを含み、粘着層を構成する組成物が粘着付与樹脂と〈2〉とを含む積層体(ただし、基材層及び粘着層のうち少なくとも1層が〈1〉を含む);
基材層を構成する組成物がオレフィン樹脂と〈1〉とを含み、粘着層を構成する組成物が粘着付与樹脂と〈1〉及び/又は〈2〉とを含む積層体;
基材層を構成する組成物がオレフィン樹脂と〈2〉とを含み、粘着層を構成する組成物が粘着付与樹脂と〈1〉及び/又は〈2〉とを含む積層体(ただし、基材層及び粘着層のうち少なくとも1層が〈1〉を含む);
が挙げられる。本実施形態は、上記基材層を構成する組成物と粘着層を構成する組成物との組み合わせに限定されない。上記基材層を構成する組成物及び粘着層を構成する組成物における〈1〉、〈2〉、オレフィン樹脂、及び粘着付与樹脂のそれぞれの具体的な態様は、各々について上述した具体的な態様と同様である。また、上記基材層を構成する組成物及び粘着層を構成する組成物には、それぞれ上述の添加剤が含まれていてもよい。
【0086】
≪各層及び積層体の物性≫
[硬度の比[i/ii]]
本実施形態において、粘着層のショアA硬度iiに対する基材層のショアA硬度iの比[i/ii]が1.1以上である。該ショアA硬度の比[i/ii]が1.1未満であると基材層が粘着層に対する支持体としての機能が損なわれ、粘着層が基材層に固定しづらくなり積層体を各種用途に用いた際に不都合が生じる。上記比[i/ii]は用途に応じ好適な値が異なるが、粘着層を基材層に固定でき、また積層体を貼付及び剥離しやすい観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.3以上である。また、上記比[i/ii]の上限は用途に応じ異なるので一概に規定することはできないが、例えば、3.3以下とすることができる。
【0087】
[硬度]
上記基材層のショアA硬度iは、上記硬度の比[i/ii]を満たすことができれば制限されない。一方で、基材層としての性能を好適に示すことができ、また積層体の貼付及び剥離のしやすさの観点から、基材層のショアA硬度iは、好ましくは60~100、より好ましくは70~98である。
上記粘着層のショアA硬度iiは、上記硬度の比[i/ii]を満たすことができれば制限されない。一方で、基材層との接着性、糊残りが生じ難くさ、被着材への貼付及び剥離のしやすさの観点から、粘着層のショアA硬度iiは、好ましくは30~80、より好ましくは40~70である。
なお、ショアA硬度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0088】
[粘着層の貯蔵弾性率]
本実施形態において、粘着層の60℃での貯蔵弾性率E’(60℃)に対する23℃での貯蔵弾性率E’(23℃)の比[E’(23℃)/E’(60℃)]は、好ましくは2以上である。
本実施形態では、粘着層が、上述のブロック共重合体又はその水素添加物を含むことにより、上記貯蔵弾性率の比[E’(23℃)/E’(60℃)]が2以上を達成しやすくなる。一般に粘着力は高温になる程に低下するが、本実施形態では、該貯蔵弾性率の比[E’(23℃)/E’(60℃)]が2以上であれば、23℃から60℃にかけての剥離強度の低下の程度が小さくなり、高温においても剥がれ難くかつ糊残りが生じ難い傾向となる。
本実施形態において、粘着層の上記貯蔵弾性率の比[E’(23℃)/E’(60℃)]は、粘着層の組成(上述の粘着付与樹脂、上述のブロック共重合体又はその水素添加物、上述の非脂環式骨格ブロック共重合体及びその水素添加物、及びその他の樹脂成分の種類や含有量)等を調整することにより、2.5以上、さらには3.0以上とすることも可能である。
なお、貯蔵弾性率は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0089】
[tanδ強度]
上述のブロック共重合体又はその水素添加物は、優れた制振性を示すことができる。したがって、基材層がブロック共重合体又はその水素添加物を含有する場合、基材層のtanδ強度は、23℃の温度において好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上となり得、40℃の温度において好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上となり得、60℃の温度において好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上となり得る。
また、粘着層がブロック共重合体又はその水素添加物を含有する場合、粘着層のtanδ強度は、23℃の温度において好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.18以上となり得、40℃の温度において好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.18以上、よりさらに好ましくは0.25以上となり得、60℃の温度において好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.18以上となり得る。
また、積層体を貼付した被着体の損失係数は、積層体を貼付しない被着体の損失係数と比較して、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上、さらに好ましくは0.15以上大きくなることが期待できる。特に、基材層及び粘着層の両方にブロック共重合体又はその水素添加物を含有する場合、積層体を貼付した被着体の損失係数は、積層体を貼付しない被着体の損失係数と比較して、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.15以上、さらに好ましくは0.20以上大きくなることが期待できる。
なお、tanδ強度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0090】
[剥離強度]
本実施形態において、積層体の剥離強度は、アクリル樹脂板を被着体とし、積層体の粘着層と被着体とが接面するように貼り合わせ、JIS Z 0237(2009年)に準拠して測定した180度剥離強度が、測定温度23℃において好ましくは5.0N/25mm以上、より好ましくは6.0N/25mm以上とすることができる。また、同条件における剥離強度が、測定温度60℃において好ましくは2.0N/25mm以上、より好ましくは2.5N/25mm以上とすることができる。一般に粘接着力は高温になる程に低下するが、本実施形態では、基材層又は粘着層の一方、あるいは両方に上述のブロック共重合体又はその水素添加物を含み、その含有量を好適な範囲に調整すること等により上記粘着力を達成しやすくなる。
また、本実施形態において、積層体の23℃での上記剥離強度に対する60℃での上記剥離強度の比は、0.3以上、さらには0.4以上とすることも可能である。当該剥離強度の比は、特に粘着層の組成(上述のブロック共重合体又はその水素添加物、上述の粘着付与樹脂及び任意成分の種類や含有量)等を調整することにより達成しやすくなる。
なお、剥離強度は、より詳細には実施例に記載の方法に従って測定した値である。
【0091】
≪積層体の寸法≫
本実施形態の積層体を構成する粘着層の厚みに特段の制限はないが、通常、1μm以上200μm以下であることが好ましく、5μm以上150μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
一方、基材層の厚みに特段の制限はなく、積層体の用途に応じて特定すればよいが、粘着層の粘着力を好適に発揮するには、500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、100μm以下がさらに好ましい。また、基材層の厚みは、通常、5μm以上である。
【0092】
≪用途≫
本実施態様において、積層体は種々の用途に使用できる。
用途として例えば、積層体を含む接着剤であり、接着剤として感圧接着剤が挙げられる。また、上記感圧接着剤を含む、粘着テープ、粘着シート、表面保護フィルムが挙げられる。
【0093】
また、上記接着剤としてホットメルト接着剤が挙げられる。
上記ホットメルト接着剤は、例えば使い捨ておしめ、大人用の失禁製品、生理用ナプキン、ベットパッド、救急絆、外科的ドレープ、片面テープ、両面テープ、転写テープ、ラベル、プラスチックシート、不織布シート、紙シート、厚紙、本、フィルタ、又は、パッケージを備える物品での使用;
ガスケットシーラント(特に、自動車、電機部品、技術照明分野)での使用;
多層フィルムの再密封可能なトレーの製造での使用;
郵送容器素材を含む物品での使用;
防振材、緩衝材、衝撃吸収材、低反発材、転倒防止材、免震材、防震材、又は制振材(好ましくは消音材、より好ましくは自動車産業での減衰又は消音材マット、パッド、シート及びテープ)での使用;
電子デバイス(特に、LCDディスプレイ、LEDディスプレイ、タッチスクリーン、又は可撓性薄膜太陽電池)での使用;
経皮的薬物送達システムでの使用;
パイプ(好ましくは冷却コイル)、電子部品(好ましくは発光素子、コンピューター機器、携帯電話、タブレット、タッチスクリーン、自動車技術ハイファイシステム、及びオーディオシステム)、太陽熱加熱の熱パイプと水タンクとの間の結合部、燃料電池及び風力タービン、コンピューターチップの製造、光デバイス、バッテリー、ハウジング、クーラー、熱交換デバイス、ワイヤー、ケーブル、電熱線、冷蔵庫、食器洗い機、空調機器、アキュムレータ、トランス、レーザー機器、機能性衣料品、車の座席、医療用機器、防火装置、電動機、飛行機、及び列車における使用;
3D印刷材料のフィラメント、発熱デバイスを封止するための注封用封止剤又は成形封止剤での使用;
木材、金属、ポリマープラスチック、ガラス及びテキスタイルから形成される基材を有する物品を接合するための使用;給水塔における、外面への接合のための使用;履物の製造における或いは窓の製造におけるグレイジングコンパウンドとしての使用、ドア及び建築パネルの製造における或いは携帯用デバイス及びディスプレイの製造での使用;
製本、木材接着、フラットラミネーション、フレキシブル包装、プロファイルラッピング、エッジバンディング、テキスタイルラミネーション、低圧成形、及び靴での使用;
書籍、包装フィルム、剛性パネル、家具、窓、履物、自動車前照灯、自動車トリム又は衣料品のための接合された布地/織物の製造での使用;
加飾フィルムでの使用;
が挙げられる。
【実施例
【0094】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0095】
<ブロック共重合体及び水素添加物>
後述の製造例で得られたブロック共重合体又は水素添加物の物性評価方法を以下に示す。
(1)重合体ブロック(A)の含有量
水添前のブロック共重合体をCDClに溶解してH-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、スチレンに由来するピーク強度とジエンに由来するピーク強度の比から重合体ブロック(A)の含有量を算出した。
【0096】
(2)重量平均分子量(Mw)
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定により、ブロック共重合体の水素添加物について、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
(GPC測定装置及び測定条件)
・装置 :GPC装置「HLC-8020」(東ソー株式会社製)
・分離カラム :東ソ-株式会社製の「TSKgel GMHXL」、「G4000HXL」及び「G5000HXL」を直列に連結した。
・溶離液 :テトラヒドロフラン
・溶離液流量 :0.7mL/min
・サンプル濃度:5mg/10mL
・カラム温度 :40℃
・検出器:示差屈折率(RI)検出器
・検量線:標準ポリスチレンを用いて作成
【0097】
(3)重合体ブロック(B)における水素添加率
H-NMR測定により、イソプレン及び/又はブタジエンの残存オレフィン由来のピーク面積とエチレン、プロピレン及び/又はブチレン由来のピーク面積との比から算出した。
・装置:核磁気共鳴装置「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)
・溶媒:CDCl
【0098】
(4)重合体ブロック(B)におけるビニル結合量
水添前のブロック共重合体をCDClに溶解してH-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行った。イソプレン及び/又はブタジエン由来の構造単位の全ピーク面積と、イソプレン構造単位における3,4-結合単位及び1,2-結合単位、ブタジエン構造単位における1,2-結合単位、又は、イソプレンとブタジエンの混合物に由来する構造単位の場合はそれぞれの前記結合単位に対応するピーク面積の比とからビニル結合量(3,4-結合単位と1,2-結合単位の含有量の合計)を算出した。
【0099】
(5)重合体ブロック(B)中の脂環式骨格(X)の含有量
水添前のブロック共重合体600mg及びCr(acac) 40mgをCDCl 4mLに溶解して10mmNMRチューブを用いて定量13C-NMR測定(パルスプログラム:zgig、Inverse gated 1H decoupling法) [装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃]を行い、下記の方法にて重合体ブロック(B)中の脂環式骨格X、X1、及びX2それぞれの含有量を算出した。
なお、表3中、X、X1、及びX2は次の脂環式骨格を示す。
X:以下(i)~(vi)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
X1:以下(i),(iv)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
X2:以下(ii),(iii),(v),(iv)の置換基の組み合わせを有する脂環式骨格
(i) :R=水素原子、R=水素原子、R=水素原子;(1,2Bd+Bd)
(ii) :R=水素原子、R=メチル基、R=水素原子;(1,2Bd+1,2Ip)
(iii):R=水素原子、R=水素原子、R=メチル基;(1,2Bd+3,4Ip)
(iv) :R=メチル基、R=水素原子、R=水素原子;(1,2Ip+Bd)
(v) :R=メチル基、R=メチル基、R=水素原子;(1,2Ip+1,2Ip)
(vi) :R=メチル基、R=水素原子、R=メチル基;(1,2Ip+3,4Ip)
【0100】
〔算出方法〕
各ピークと由来する構造を表1-1に示す。それぞれのピークの積分値をa~gとすると、各構造の積分値は表1-2のようになり、X,X1,X2の含有量はそれぞれ、(a+g-c)/(a+b+c-d+e/2+2f), (g-c)/(a+b+c-d+e/2+2f), a/(a+b+c-d+e/2+2f)で算出できる。
【0101】
【表1】
【0102】
(6)13C-NMRのピーク面積比
製造例1及び比較製造例1の水素添加物について、上記定量13C-NMR測定[装置:「ADVANCE 400 Nano bay」(Bruker社製)、測定温度:30℃、溶媒:CDCl]を行いピーク面積比[ケミカルシフト値50.0~52.0ppmのピーク面積]/[ケミカルシフト値43.0~45.0ppmのピーク面積]を算出した。
【0103】
(7)tanδのピークトップ温度、ピークトップ強度、tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅、20℃及び30℃でのtanδ強度
以下の測定のため、ブロック共重合体の水素添加物を、温度230℃、圧力10MPaで3分間加圧することで、厚み1.0mmの単層シートを作製した。該単層シートを円板形状に切り出し、これを試験シートとした。
測定には、JIS K 7244-10(2005年)に基づいて、平行平板振動レオメータとして、円板の直径が8mmのゆがみ制御型動的粘弾性装置「ARES-G2」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用いた。
上記試験シートによって2枚の平板間の隙間を完全に充填し、歪み量0.1%で、上記試験シートに1Hzの周波数で振動を与え、-70℃から100℃まで3℃/分の定速で昇温した。せん断損失弾性率及びせん断貯蔵弾性率の測定値に変化がなくなるまで、上記試験シートと円板の温度を保持し、tanδのピーク強度の最大値(ピークトップ強度)及び該最大値が得られた温度(ピークトップ温度)を求めた。また、tanδが1.0以上となる温度領域の最大幅、20℃及び30℃でのtanδ強度を求めた。該値が大きいほど、制振性に優れることを示す。
【0104】
[製造例1]
水素添加物(H-TPE-1)の製造
窒素置換し、乾燥させた耐圧容器に、溶媒としてシクロヘキサン50kg、アニオン重合開始剤として濃度10.5質量%のsec-ブチルリチウムのシクロヘキサン溶液87g(sec-ブチルリチウムの実質的な添加量:9.1g)を仕込んだ。
耐圧容器内を50℃に昇温した後、スチレン(1)1.0kgを加えて1時間重合させ、容器内温度50℃で、ルイス塩基として2,2-ジ(2-テトラヒドロフリル)プロパン(DTHFP)63gを加え、イソプレン8.16kg及びブタジエン6.48kgの混合液を表2に示す平均ジエンフィード速度で、5時間かけて加えた後2時間重合させ、さらにスチレン(2)1.0kgを加えて1時間重合させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体を含む反応液を得た。
該反応液に、オクチル酸ニッケル及びトリメチルアルミニウムから形成されるチーグラー系水素添加触媒を水素雰囲気下で添加し、水素圧力1MPa、80℃の条件で5時間反応させた。該反応液を放冷及び放圧させた後、水洗により上記触媒を除去し、真空乾燥させることにより、ポリスチレン-ポリ(イソプレン/ブタジエン)-ポリスチレントリブロック共重合体の水素添加物(以下、H-TPE-1と称することがある)を得た。
各原料及びその使用量について表2に示した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
【0105】
[製造例2]
水素添加物(H-TPE-2)の製造
各成分及びそれらの使用量、並びに反応条件を表2に記載のとおりに変更したこと以外は製造例1と同様にして、ブロック共重合体の水素添加物(H-TPE-2)を製造した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
[製造例3]
水素添加物(H-TPE-3)の製造
各成分及びそれらの使用量、並びに反応条件を表2に記載のとおりに変更したこと以外は製造例1と同様にして、ブロック共重合体の水素添加物(H-TPE-3)を製造した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
[製造例4]
水素添加物(H-TPE-4)の製造
各成分及びそれらの使用量、並びに反応条件を表2に記載のとおりに変更したこと以外は製造例1と同様にして、ブロック共重合体の水素添加物(H-TPE-4)を製造した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
【0106】
[比較製造例1]
水素添加物(H-TPE-1’)の製造
各成分及びそれらの使用量、並びに反応条件を表2に記載のとおりに変更したこと以外は製造例1と同様にして、ブロック共重合体の水素添加物(H-TPE-1’)を製造した。また、前記物性評価の結果を表3に示した。
【0107】
【表2】
【0108】
【表3】
【0109】
製造例1~4のブロック共重合体の水素添加物は、tanδのピークトップ強度が1.0以上を示し、また広い温度領域においてtanδのピークトップ温度が示されるため、制振材料として幅広い用途に好適であるといえる。特に、比較製造例1と比較すると、製造例1~4では20℃及び30℃のtanδ強度が比較的高く、室温付近での制振性に優れることが分かる。
【0110】
<積層体>
[実施例1~8][比較例1~3]
(基材層の作製方法)
表4に示す基材層の配合について、ブラベンダー(ブラベンダー社製、「プラストグラフEC 50ccミキサー」)に投入し、シリンダー温度240℃、スクリュー回転数100rpmで3分間溶融混練した後、得られた組成物をプレス成形(240℃、2分)して基材層のシート(厚み1mm)を作製した。
【0111】
(粘着層の作製方法)
表4に示す粘着層の配合について、ブラベンダー(ブラベンダー社製、「プラストグラフEC 50ccミキサー」)に投入し、シリンダー温度180℃、スクリュー回転数100rpmで3分間溶融混練した後、得られた組成物をプレス成形(180℃、2分)して粘着層のシート(厚み1mm)を作製した。
【0112】
(積層体の作製方法)
表4に示す基材層の配合のペレットを単軸押出機「GM30」(GMエンジニアリング製)のホッパーに、表4に示す粘着層の配合のペレットを単軸押出機「GM25」(GMエンジニアリング製)のホッパーに投入し、Tダイとしてマルチマニホールドダイを用いて押出温度220℃で共押出しし、厚さ50μm(基材層厚さ:35μm、粘着層厚さ:15μm)の積層体を得た。
【0113】
[物性評価]
上記作製した基材層、粘着層及び積層体の物性評価方法を以下に示す。
(ショアA硬度)
得られた基材層及び粘着層のシートをそれぞれ6枚重ねて、厚さ6mmの硬度測定用試験片とし、JIS K 6253(2012年)に準じて、自動ゴム硬度計P2-A型(高分子計器製)を用いて、基材層のショアA硬度i、粘着層のショアA硬度iiを測定した。結果を表4に示す。
【0114】
(貯蔵弾性率、tanδ強度(引張、10Hz))
JIS K 7244-4(1999年)に従って、測定を行った。具体的には、得られた基材層及び粘着層のシートを長さ70mm×幅5mm×厚み1mmに切り出したものをサンプルとし、「DMA242E」(NETZSCH社製)を用いて、周波数10Hzの条件で-70℃から200℃まで3℃/分で昇温して測定することにより23、60℃における粘着層の引張貯蔵弾性率(E’)、基材層及び粘着層の23、40、60℃におけるtanδ強度を測定した。結果を表4に示す。
【0115】
(HAZE)
得られた積層体のHAZEは、濁度・曇り度計「HR-100」(株式会社村上色彩技術研究所製)により測定した。結果を表4に示す。
【0116】
(剥離強度、糊残り(23℃))
アクリル押出板(商品名 スミペックスE、厚さ1.5mm、住化アクリル販売株式会社製)に、得られた積層体の粘着層がアクリル樹脂板に接面するように貼り付け、幅25mmに裁断したものを試験片とした。この試験片の基材層側から、2kgゴムローラーを用いて10mm/分の速度で2往復転圧した後、23±1℃、湿度50±5%の雰囲気下で24時間放置した。その後、JIS Z 0237(2009年)に準拠し、インストロン5566(インストロン社製)を使用して、積層体とアクリル樹脂板間の180度剥離強度を300mm/分の剥離速度で測定し、剥離強度(23℃)とした。また、剥離後の被着体に目視で糊残りがあるかどうかを確認した。結果を表4に示す。
【0117】
(剥離強度、糊残り(60℃))
23±1℃、湿度50±5%の雰囲気下で24時間放置後、さらに60℃の雰囲気で10分間放置後、60℃の雰囲気で剥離強度を測定する以外は上記(剥離強度、糊残り(23℃))と同様にして、剥離強度、糊残り(60℃)とした。結果を表4に示す。
【0118】
【表4】
【0119】
表4に示す各成分は下記の通りである。
・オレフィン樹脂:ホモポリプロピレン(ノバテックPP,日本ポリプロ株式会社製)
・粘着付与樹脂:アルコンP-125(脂環族飽和炭化水素系樹脂、軟化点(環球法)125±5℃、荒川化学工業株式会社製)
【0120】
表4から、基材層にブロック共重合体の水素添加物を含む実施例1、2及び4~8は23~60℃の温度範囲において基材層のtanδ強度の値が大きく、粘着層にブロック共重合体の水素添加物を含む実施例1及び3~8は23~60℃の温度範囲において粘着層のtanδ強度の値が大きい。
また、実施例1及び3~8は、比較例1~3の積層体と比較して、粘着層の貯蔵弾性率E’の比[E’(23℃)/E’(60℃)]が大きく、2以上である。このように実施例1及び3~8の積層体は23℃と60℃との貯蔵弾性率の比が比較例と比べて大きく、23℃から60℃にかけての剥離強度の低下が小さくなった[(60℃における剥離強度)/(23℃における剥離強度)が大きい]。実施例2と比較例1~3とは粘着層の構成が同一であるが、実施例2は比較例1~3の積層体よりも23℃から60℃にかけての剥離強度の低下が小さくなった。実施例2は比較例1~3よりも上記剥離強度の低下が小さくなった要因の一つとして、ブロック共重合体の水素添加物を含むことで基材層に適度な柔軟性が付与されたことが挙げられる。
また、実施例1~8の積層体は60℃でも糊残りはない。
したがって、実施例の積層体は、脂環式骨格(X)を主鎖に含む構造単位を有するブロック共重合体又はその水素添加物を基材層又は粘着層の一方、あるいは両方に含有することにより、優れた制振性を被着体に付与できることが期待され、また高温条件下でも剥がれ難くかつ糊残りが極めて生じ難いことが分かる。
【0121】
なお確かではないが、実施例1及び3~8の剥離強度の比から、ブロック共重合体又はその水素添加物を含有する粘着層が、高温(60℃)で柔軟化することで、被着材(アクリル樹脂板)表面の微小な凹凸に浸透しアンカーの様に作用した、あるいは、粘着層表面の微小な凹凸の凸部が被着材の凹部に食い込んで弾性的な締め付け力が作用した、ことで粘着層と被着材との接着力の低下が抑制されたと推測される。また、粘着層の構成が同じでも基材層の構成により剥離強度比の違いが生じていることから、これは基材層の柔軟性が影響したと考えられる。
さらに、実施例1、2及び4~8の積層体は、実施例3及び比較例1~3の積層体と比較してHAZEが低く、透明性が高い。これは、実施例1、2及び4~8の基材層の構成成分であるブロック共重合体又はその水素添加物が、ポリプロピレンと相容性が高いためと考えられる。
したがって、本実施形態における実施例1、2及び4~8の積層体は、透明性が求められる用途、例えば液晶ディスプレイ等の表面保護フィルムとして有用である。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の積層体は、被着体に制振性を付与することができ、高温においても剥がれ難くかつ糊残りが生じ難いことから、粘着テープ及び粘着シート等の接着剤、電子デバイス等の表面保護フィルム、輸送時、保管時及び加工時の対象製品の汚れや傷を防止する表面保護フィルム等として有用である。