(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-10
(45)【発行日】2023-10-18
(54)【発明の名称】偏光フィルムの製造方法及び偏光フィルムの製造装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231011BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2022115601
(22)【出願日】2022-07-20
(62)【分割の表示】P 2017192584の分割
【原出願日】2017-10-02
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松久 英樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 拓弥
【審査官】加藤 範久
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-033154(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133642(WO,A1)
【文献】特開2017-003955(JP,A)
【文献】特開2016-224390(JP,A)
【文献】特開2015-121659(JP,A)
【文献】特開2004-109698(JP,A)
【文献】特開2012-159548(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0076811(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0257679(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための方法であって、
複数のロールによって構成され、有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽を通る搬送経路に沿って前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させて、前記有機溶剤含有処理液に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる工程と、
前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を前記第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に前記第1処理槽に戻す工程と、
を含
み、
前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液は、
前記複数のロールのうち、少なくとも1つのロールを洗浄する洗浄液として用いられた有機溶剤含有処理液、
前記搬送経路に沿って搬送中の前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面を洗浄する洗浄液として用いられた有機溶剤含有処理液、及び
前記複数のロールのうち、少なくとも1つのロールの表面にガスを供給することによって液切される有機溶剤含有処理液
からなる群より選択される1種以上である、方法。
【請求項2】
前記搬送経路は、前記第1処理槽よりも上流側に配置される処理槽であって、処理液を収容する1以上の処理槽をさらに通り、
前記有機溶剤含有処理液の温度は、前記1以上の処理槽のうち前記第1処理槽に最も近くに配置される処理槽に収容される処理液の温度よりも低い、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記有機溶剤含有処理液は、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記1以上の処理槽は、前記搬送経路の上流側から順に、第2処理槽と第3処理槽とを含み、
前記第2処理槽は二色性色素を含み、前記第3処理槽及び前記第1処理槽は架橋剤を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための装置であって、
複数のロールによって構成されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの搬送経路と、
前記搬送経路上に配置され、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが浸漬される有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽と、
前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を前記第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に前記第1処理槽に戻す液体供給部と、
を含
み、
前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液は、
前記複数のロールのうち、少なくとも1つのロールを洗浄する洗浄液として用いられた有機溶剤含有処理液、
前記搬送経路に沿って搬送中の前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面を洗浄する洗浄液として用いられた有機溶剤含有処理液、及び
前記複数のロールのうち、少なくとも1つのロールの表面にガスを供給することによって液切される有機溶剤含有処理液
からなる群より選択される1種以上である、装置。
【請求項6】
前記搬送経路上における前記第1処理槽よりも上流側に配置される処理槽であって、処理液を収容する1以上の処理槽をさらに含み、
前記有機溶剤含有処理液の温度は、前記1以上の処理槽のうち前記第1処理槽に最も近くに配置される処理槽に収容される処理液の温度よりも低い、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記有機溶剤含有処理液は、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
前記1以上の処理槽は、前記搬送経路の上流側から順に、第2処理槽と第3処理槽とを含み、
前記第2処理槽は二色性色素を含み、前記第3処理槽及び前記第1処理槽は架橋剤を含む、請求項6に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば偏光板の構成部材として用いることのできる偏光フィルムの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光フィルムとして、一軸延伸されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムにヨウ素のような二色性色素を吸着配向させたものが従来用いられている。一般に偏光フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色する染色処理、架橋剤で処理する架橋処理、及びフィルム乾燥処理を順次施すとともに、製造工程の間にポリビニルアルコール系樹脂フィルムに対して延伸処理を施すことによって製造される〔例えば、特開2001-141926号公報(特許文献1)〕。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、偏光フィルムは、工業的には、長尺のポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、偏光フィルムの製造装置が有するフィルムの搬送経路に沿って連続的に搬送させながら、該搬送経路上にある上述の染色処理を行うための染色処理槽、及び架橋処理を行うための架橋処理槽に順次浸漬させる湿式処理工程を含んで製造される。
【0005】
上記方法に従って偏光フィルムを連続的に製造すると、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる処理液にポリビニルアルコール系樹脂が次第に溶け出す。この溶け出したポリビニルアルコール系樹脂が、何らかの要因で処理液から析出することがあり、析出が生じると、析出物が湿式処理中のポリビニルアルコール系樹脂フィルム、ひいては偏光フィルムの表面に付着して、偏光フィルムの外観や品質に悪影響を与え得る。
また、処理液中に溶け出したポリビニルアルコール系樹脂の濃度が次第に高まっていくと、該処理液に浸漬させた後に該処理液から引き出したポリビニルアルコール系樹脂フィルムの表面にポリビニルアルコール系樹脂を含む固体が析出することもある。このような析出物もまた、偏光フィルムの外観や品質に悪影響を与え得る。
【0006】
本発明の目的は、上記析出物のフィルムへの付着を抑制しながら、偏光フィルムを安定的に連続製造することのできる方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す偏光フィルムの製造方法及び製造装置を提供する。
[1] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための方法であって、
複数のロールによって構成され、有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽を通る搬送経路に沿って前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させて、前記有機溶剤含有処理液に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる工程と、
液体を前記第1処理槽へ落下させる工程と、
を含む、方法。
[2] 前記落下させる工程は、前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を落下させて前記第1処理槽内に戻す工程を含む、[1]に記載の方法。
[3] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための方法であって、
複数のロールによって構成され、有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽を通る搬送経路に沿って前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを搬送させて、前記有機溶剤含有処理液に前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬させる工程と、
前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を前記第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に前記第1処理槽に戻す工程と、
を含む、方法。
[4] 前記搬送経路は、前記第1処理槽よりも上流側に配置される処理槽であって、処理液を収容する1以上の処理槽をさらに通り、
前記有機溶剤含有処理液の温度は、前記1以上の処理槽のうち前記第1処理槽に最も近くに配置される処理槽に収容される処理液の温度よりも低い、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 前記有機溶剤含有処理液は、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 前記1以上の処理槽は、前記搬送経路の上流側から順に、第2処理槽と第3処理槽とを含み、
前記第2処理槽は二色性色素を含み、前記第3処理槽及び前記第1処理槽は架橋剤を含む、[4]に記載の方法。
[7] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための装置であって、
複数のロールによって構成されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの搬送経路と、
前記搬送経路上に配置され、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが浸漬される有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽と、
液体を前記第1処理槽へ落下させる液体供給部と、
を含む、装置。
[8] 前記液体供給部は、前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を落下させて前記第1処理槽内に戻す処理液回収部を含む、[7]に記載の装置。
[9] ポリビニルアルコール系樹脂フィルムから偏光フィルムを製造するための装置であって、
複数のロールによって構成されるポリビニルアルコール系樹脂フィルムの搬送経路と、
前記搬送経路上に配置され、前記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムが浸漬される有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽と、
前記第1処理槽内から前記第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を前記第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に前記第1処理槽に戻す液体供給部と、
を含む、装置。
[10] 前記搬送経路上における前記第1処理槽よりも上流側に配置される処理槽であって、処理液を収容する1以上の処理槽をさらに含み、
前記有機溶剤含有処理液の温度は、前記1以上の処理槽のうち前記第1処理槽に最も近くに配置される処理槽に収容される処理液の温度よりも低い、[7]~[9]のいずれかに記載の装置。
[11] 前記有機溶剤含有処理液は、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む、[7]~[10]のいずれかに記載の装置。
[12] 前記1以上の処理槽は、前記搬送経路の上流側から順に、第2処理槽と第3処理槽とを含み、
前記第2処理槽は二色性色素を含み、前記第3処理槽及び前記第1処理槽は架橋剤を含む、[10]に記載の装置。
【発明の効果】
【0008】
ポリビニルアルコール系樹脂を含む析出物のフィルムへの付着を抑制しながら、偏光フィルムを安定的に連続製造することのできる方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】偏光フィルムの製造方法及びそれに用いる偏光フィルム製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施の形態を示しながら、偏光フィルムの製造方法及び製造装置について説明する。
【0011】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「PVA系樹脂フィルム」ともいう。)から偏光フィルムを製造するための製造方法及び製造装置に関する。偏光フィルムは、PVA系樹脂フィルムに対して、処理槽への浸漬処理(湿式処理)、乾燥処理等を含む一連の処理を施して製造される。
本発明に係る偏光フィルムは、延伸されたPVA系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向しているものである。
【0012】
偏光フィルム製造装置の一例を
図1に示す。
図1に示される偏光フィルム製造装置は、原料フィルムである長尺のPVA系樹脂フィルム10から連続的に長尺の偏光フィルム25を製造するための装置である。
図1中の矢印は、フィルムの搬送方向を示す。
図1に示される製造装置を用いた偏光フィルム25の製造においては、PVA系樹脂フィルム10を巻出ロール11から連続的に巻き出しつつ、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19に順次浸漬し、最後に乾燥炉21に通すことにより乾燥処理を行って偏光フィルム25を得る。長尺物として製造される偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってもよいし、あるいは、巻き取ることなく、偏光フィルム25の片面又は両面に保護フィルム等の熱可塑性樹脂フィルムを接着する偏光板作製工程に供されてもよい。
【0013】
偏光フィルム製造装置は、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19等を含む湿式処理部(フィルムが浸漬される処理液を収容する処理槽を用いて湿式処理を行うゾーン)と、乾燥炉21のような乾燥処理部(湿式処理後のフィルムに対して乾燥処理を実施するゾーン)とを通常有する。
図1に示される偏光フィルム製造装置は、湿式処理部と乾燥処理部とを含むPVA系樹脂フィルム10の搬送経路を有している。この搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルム10を搬送させることにより、湿式処理及び乾燥処理を含む一連の処理が施されて偏光フィルム25が得られる。
搬送経路に沿って搬送されるPVA系樹脂フィルム10の搬送速度は、通常1~50m/分であり、生産効率の観点から、好ましくは5m/分以上である。
【0014】
図1に示されるように上記搬送経路は、湿式処理部と乾燥処理部とを通るように、走行中のフィルム(PVA系樹脂フィルム10及び偏光フィルム25)を支持・案内する複数のロールによって構築される。複数のロールは、フィルムの片面を支持するフリーロールであるガイドロール、及び/又は、1対のロール(通常は駆動ロールを含む。)からなり、当該1対のロールは、例えば、フィルムを両面から挟み込む又は挟み込んで押圧するニップロールである。
図1に示される例において偏光フィルム製造装置は、ガイドロール1a~1l及びニップロール2a~2fを含んでいる。搬送経路を規定する複数のロールは、駆動ロールの1種であるサクションロール(吸引ロール)を含んでいてもよい。通常、これらのロールはいずれも搬送経路内のフィルムの一方又は両方の表面(主面)に接して該フィルムを支持する。これらのロールは、各処理槽及び乾燥手段(乾燥炉)の前後や処理槽及び乾燥手段(乾燥炉)内等の適宜の位置に配置することができる。
【0015】
駆動ロールとは、それに接触するフィルムに対してフィルム搬送のための駆動力を与えることができるロールをいい、モーター等のロール駆動源が直接又は間接的に接続されたロール等であることができる。フリーロールとは、走行するフィルムを支持する役割を担い、フィルムの搬送に応じて自由に回転可能なロールをいう。
【0016】
本発明の1つの実施形態に係る偏光フィルムの製造方法は、次の工程:
複数のロールによって構成され、有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽を通る搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルムを搬送させて、上記有機溶剤含有処理液に上記PVA系樹脂フィルムを浸漬させる工程(湿式処理工程S101)、及び
液体を上記第1処理槽へ落下させる工程(液体供給工程S201)
を含む。
本発明の他の実施形態に係る偏光フィルムの製造方法は、次の工程:
複数のロールによって構成され、有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽を通る搬送経路に沿ってPVA系樹脂フィルムを搬送させて、上記有機溶剤含有処理液に上記PVA系樹脂フィルムを浸漬させる工程(湿式処理工程S101)、及び
第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に第1処理槽に戻す工程(液体供給工程S201)
を含む。
【0017】
得られる偏光フィルム25は、延伸処理(通常は一軸延伸処理)されたものである。このために偏光フィルムの製造装置は、PVA系樹脂フィルム10の延伸手段(湿式延伸手段)を含むことができ、また偏光フィルムの製造方法は、PVA系樹脂フィルム10の延伸処理工程(湿式延伸処理工程)を含むことができる。
【0018】
(1)PVA系樹脂フィルム
湿式処理工程S101に供される(湿式処理部に導入される)PVA系樹脂フィルム10は、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「PVA系樹脂」ともいう。)で構成されるフィルムである。PVA系樹脂とは、ビニルアルコール由来の構成単位を50重量%以上含む樹脂をいう。PVA系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。
酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等が挙げられる。
なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。その他の「(メタ)」を付した用語においても同様である。
【0019】
PVA系樹脂のケン化度は、80.0~100.0モル%の範囲であることができるが、好ましくは90.0~100.0モル%の範囲であり、より好ましくは94.0~100.0モル%の範囲であり、さらに好ましくは98.0~100.0モル%の範囲である。ケン化度が80.0モル%未満であると、得られる偏光フィルム25及びこれを含む偏光板の耐水性及び耐湿熱性が低下し得る。
【0020】
ケン化度とは、PVA系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:-OCOCH3)がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=100×(水酸基の数)/(水酸基の数+酢酸基の数)
で定義される。ケン化度は、JIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。
【0021】
PVA系樹脂の平均重合度は、好ましくは100~10000であり、より好ましくは1500~8000であり、さらに好ましくは2000~5000である。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度もJIS K 6726(1994)に準拠して求めることができる。平均重合度が100未満では、好ましい偏光性能を有する偏光フィルム25を得ることが困難であり、10000を超えると溶媒への溶解性が悪化し、PVA系樹脂フィルム10の形成(製膜)が困難となり得る。
【0022】
PVA系樹脂フィルム10の一例は、上記PVA系樹脂を製膜してなる未延伸フィルムである。製膜方法は、特に限定されるものではなく、溶融押出法、溶剤キャスト法のような公知の方法を採用することができる。
PVA系樹脂フィルム10の他の一例は、上記未延伸フィルムを延伸してなる延伸フィルムである。この延伸は通常、一軸延伸、好ましくは縦一軸延伸である。縦延伸とは、フィルムの機械流れ方向(MD)、すなわちフィルムの長手方向への延伸をいう。
湿式処理工程S101に供される(湿式処理部に導入される)PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合において、この延伸は、好ましくは乾式延伸である。乾式延伸とは空中で行う延伸をいい、通常は縦一軸延伸となる。
【0023】
乾式延伸としては、表面が加熱された熱ロールと、この熱ロールとは周速の異なるガイドロール(又は熱ロールであってもよい。)との間にフィルムを通し、熱ロールを利用した加熱下に縦延伸を行う熱ロール延伸;距離を置いて設置された2つのニップロール間にある加熱手段(オーブン等)を通過させながら、これら2つのニップロール間の周速差によって縦延伸を行うロール間延伸;テンター延伸;圧縮延伸等を挙げることができる。
延伸温度(熱ロールの表面温度や、オーブン内温度等)は、例えば80~150℃であり、好ましくは100~135℃である。
【0024】
上記延伸の延伸倍率は、後述する湿式処理工程S101において湿式延伸を実施するか否か、及び当該湿式延伸での延伸倍率にもよるが、通常は1.1~8倍であり、好ましくは2.5~5倍である。
【0025】
PVA系樹脂フィルム10は、可塑剤等の添加剤を含有することができる。可塑剤の好ましい例は多価アルコールであり、その具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール等が挙げられる。PVA系樹脂フィルム10は、1種又は2種以上の可塑剤を含有することができる。
可塑剤の含有量は、PVA系樹脂フィルム10を構成するPVA系樹脂100重量部に対して、通常5~20重量部であり、好ましくは7~15重量部である。
【0026】
湿式処理工程S101に供される(湿式処理部に導入される)PVA系樹脂フィルム10の厚みは、PVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムであるか否かにもよるが、通常10~150μmであり、得られる偏光フィルム25の薄膜化の観点から、好ましくは100μm以下、より好ましくは65μm以下、さらに好ましくは50μm以下、特に好ましくは35μm以下(例えば30μm以下、さらには20μm以下)である。
【0027】
(2)湿式処理部及び湿式処理工程S101
湿式処理工程S101が実施される湿式処理部は、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路上に配置されるゾーンであり、PVA系樹脂フィルム10が浸漬される処理液を収容する処理槽を含む。この湿式処理部において、PVA系樹脂フィルム10を搬送させながら処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬させる湿式処理工程S101が実施される。
【0028】
湿式処理部は、上記処理槽として、通常は染色処理槽15及び架橋処理槽17を含んでおり、好ましくはさらに、膨潤処理槽13及び洗浄処理槽19を含む。これらの処理槽は通常、搬送経路の上流側から順に、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17、洗浄処理槽19の順で配置される(
図1参照)。
図1には、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17及び洗浄処理槽19をそれぞれ1槽ずつ設けた例を示しているが、必要に応じて染色処理槽15を2槽以上を設けてもよく、架橋処理槽17を2槽以上を設けてもよい。膨潤処理槽13、洗浄処理槽19についても同様であり、それぞれ2槽以上設けてもよい。
【0029】
(2-1)膨潤処理槽及び膨潤処理工程
膨潤処理は、PVA系樹脂フィルム10の異物除去、可塑剤除去、易染色性の付与、フィルムの可塑化等の目的で必要に応じて実施される処理である。
図1を参照して、膨潤処理工程は、PVA系樹脂フィルム10を巻出ロール11より連続的に巻き出しながら、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、PVA系樹脂フィルム10を、膨潤処理液を収容する膨潤処理槽13に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。
【0030】
膨潤処理槽13に収容される処理液(膨潤処理液)は、例えば水(純水等)であることができるほか、有機溶剤を含む水であってもよい。また、膨潤処理液は、ホウ酸、塩化物、無機酸、無機塩等を含有することもできる。
膨潤処理液の温度は、通常10~70℃、好ましくは15~50℃、より好ましくは15~35℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(膨潤処理液中での滞留時間)は、通常10~600秒、好ましくは15~300秒である。
【0031】
膨潤処理中に、PVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。その場合の延伸倍率は、通常1.2~3倍、好ましくは1.3~2.5倍である。
図1を参照して、例えば、ニップロール2aとニップロール2bとの周速差を利用して膨潤処理槽13中で一軸延伸処理を施すことができる。
図1に示される例において、膨潤処理槽13から引き出されたフィルムは、ガイドロール1c、ニップロール2bを順に通過して染色処理槽15へ導入される。
【0032】
(2-2)染色処理槽及び染色処理工程
染色処理は、PVA系樹脂フィルム10に二色性色素を吸着、配向させる等の目的で実施される処理である。
図1を参照して、染色処理工程は、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、PVA系樹脂フィルム10を染色処理槽15に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。染色処理槽15は、それに収容される染色処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬させるための槽である。染色処理液に浸漬されるPVA系樹脂フィルム10は、好ましくは膨潤処理工程(膨潤処理槽13に浸漬された)後のフィルムである。
染色処理槽15に収容される染色処理液は、二色性色素を含有する液(通常は水溶液)である。二色性色素は、ヨウ素又は二色性有機染料であることができ、好ましくはヨウ素である。二色性色素は、1種のみを単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
染色処理液は、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0033】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合、上記染色処理液には、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液を用いることができる。ヨウ化カリウムに代えて、ヨウ化亜鉛等の他のヨウ化物を用いてもよく、ヨウ化カリウムと他のヨウ化物を併用してもよい。また、ヨウ化物以外の化合物、例えば、ホウ酸、塩化亜鉛、塩化コバルト等を共存させてもよい。ホウ酸を添加する場合は、ヨウ素を含む点で後述する架橋処理液と区別される。例えば、水溶液が水100重量部に対し、ヨウ素を約0.003重量部以上含んでいるものであれば、染色処理液とみなすことができる。染色処理液におけるヨウ素の含有量は、水100重量部あたり、通常0.003~1重量部である。染色処理液におけるヨウ化カリウム等のヨウ化物の含有量は、水100重量部あたり、通常0.1~20重量部である。
【0034】
染色処理液の温度は、通常10~45℃であり、好ましくは10~40℃であり、より好ましくは20~35℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(染色処理液中での滞留時間)は、通常20~600秒、好ましくは30~300秒である。
【0035】
上述のように、偏光フィルム製造装置は、染色処理槽15を2槽以上含むことができる。この場合、各染色処理液の組成及び温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0036】
二色性色素の染色性を高めるために、染色処理に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度の延伸処理(通常は一軸延伸処理)が施されていることが好ましい。染色処理前の延伸処理の代わりに、あるいは染色処理前の延伸処理に加えて、染色処理を行いながら延伸処理を施してもよい。染色処理までの積算の延伸倍率(染色処理までに延伸工程がない場合は染色処理での延伸倍率)は、通常1.6~4.5倍であり、好ましくは1.8~4倍である。
図1を参照して、例えば、ニップロール2bとニップロール2cとの周速差を利用して染色処理槽15中で一軸延伸処理を施すことができる。
図1に示される例において、染色処理槽15から引き出されたフィルムは、ガイドロール1f、ニップロール2cを順に通過して架橋処理槽17へ導入される。
【0037】
(2-3)架橋処理槽及び架橋処理工程
架橋処理は、架橋による耐水化や色相調整(補色)等の目的で実施される処理である。
図1を参照して、架橋処理は、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、染色処理工程S101(染色処理槽15に浸漬された)後のPVA系樹脂フィルム10を架橋処理槽17に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。架橋処理槽17は、それに収容される架橋処理液にPVA系樹脂フィルム10を浸漬させるための槽である。
架橋処理槽17に収容される架橋処理液は、架橋剤を含有する液(通常は水溶液)である。この架橋処理液に染色処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を浸漬することによって架橋処理を行う。
架橋処理液は、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0038】
架橋処理液に含有される架橋剤としては、例えば、ホウ酸、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられ、好ましくはホウ酸である。2種以上の架橋剤を併用することもできる。
架橋処理液における架橋剤の含有量は概して、水100重量部あたり、通常0.1~15重量部であり、好ましくは1~12重量部である。
【0039】
二色性色素がヨウ素の場合、架橋処理液は、架橋剤に加えてヨウ化物を含有することが好ましい。
ヨウ化物としては、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛等が挙げられる。
架橋処理液におけるヨウ化物の含有量は概して、水100重量部あたり、通常0.1~20重量部であり、好ましくは5~15重量部である。
【0040】
架橋処理液は、ヨウ化物以外の化合物を含有していてもよい。該化合物としては、例えば、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ジルコニウム、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0041】
架橋処理液の温度は概して、通常20~85℃であり、好ましくは30~70℃である。PVA系樹脂フィルム10の浸漬時間(架橋処理液中での滞留時間)は概して、通常10~600秒、好ましくは20~300秒である。
【0042】
上述のように、偏光フィルム製造装置は、架橋処理槽17を2槽以上含むことができる。この場合、各架橋処理液の組成及び温度は同じであってもよいし、異なっていてもよい。架橋処理液は、PVA系樹脂フィルム10を浸漬させる目的に応じた架橋剤及びヨウ化物等の濃度や、温度を有していてもよい。架橋による耐水化のための架橋処理及び色相調整(補色)のための架橋処理を、それぞれ複数の工程で行ってもよい。
一般に、架橋による耐水化のための架橋処理及び色相調整(補色)のための架橋処理の双方を実施する場合、色相調整(補色)のための架橋処理を実施する槽(補色槽)が後段に配置される。補色槽に収容される処理液の温度は、例えば10~55℃であり、好ましくは20~50℃である。補色槽に収容される処理液における架橋剤の含有量は、水100重量部あたり、例えば1~5重量部である。補色槽に収容される処理液におけるヨウ化物の含有量は、水100重量部あたり、例えば3~30重量部である。
【0043】
架橋処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。
図1を参照して、例えば、ニップロール2cとニップロール2dとの周速差を利用して架橋処理槽17中で一軸延伸処理を施すことができる。
図1に示される例において、架橋処理槽17から引き出されたフィルムは、ガイドロール1i、ニップロール2dを順に通過して洗浄処理槽19へ導入される。
【0044】
(2-4)洗浄処理槽及び洗浄処理工程
偏光フィルムの製造方法は、架橋処理工程後の洗浄処理工程をさらに含むことができ、このために偏光フィルム製造装置は、架橋処理槽17の下流側に配置される洗浄処理槽19をさらに含むことができる。洗浄処理は、架橋処理工程後のPVA系樹脂フィルム10に付着した余分な薬剤を除去する等の目的で実施される処理である。
図1を参照して、洗浄処理は、フィルム搬送経路に沿って搬送させ、架橋処理工程(架橋処理槽17に浸漬された)後のPVA系樹脂フィルム10を洗浄処理槽19に所定時間浸漬し、次いで引き出すことによって実施することができる。あるいは、洗浄処理は、架橋処理工程後のPVA系樹脂フィルム10に対して洗浄液を例えばシャワーとして噴霧する処理であってもよく、洗浄処理槽19への浸漬と洗浄液の噴霧とを組み合わせてもよい。
図1には、PVA系樹脂フィルム10を洗浄処理槽19に浸漬して洗浄処理を施す場合の例を示している。
【0045】
洗浄処理槽19に収容される洗浄処理液や噴霧される洗浄液は、例えば水(純水等)であることができるほか、アルコール類等の水溶性有機溶媒を添加した水溶液であってもよい。洗浄浴の温度は、例えば2~40℃である。
洗浄処理槽19に収容される洗浄処理液や噴霧される洗浄液は、有機溶剤を含んでいてもよい。
【0046】
洗浄処理を行いながら延伸処理(通常は一軸延伸処理)を施してもよい。
図1を参照して、例えば、ニップロール2dとニップロール2eとの周速差を利用して洗浄処理槽19中で一軸延伸処理を施すことができる。
【0047】
(2-5)延伸手段及び延伸処理工程
湿式処理工程においてPVA系樹脂フィルム10に対して湿式延伸を実施してもよい。湿式延伸は通常、一軸延伸であり、膨潤処理、染色処理、架橋処理、洗浄処理のいずれかの処理を行いながら、又はこれらから選択される2以上の処理中に行うことができる。
湿式延伸は、好ましくは、架橋処理工程又はそれより前の1又は2以上の段階でなされる。上述のように、二色性色素の染色性を高めて良好な偏光特性を有する偏光フィルム25を得るために、染色処理工程に供されるPVA系樹脂フィルム10は、少なくともある程度の延伸処理が施されていることがより好ましい。
湿式延伸の延伸倍率は、得られる偏光フィルム25の偏光特性の観点から、好ましくは、偏光フィルム25の最終的な累積延伸倍率(湿式処理に供されるPVA系樹脂フィルム10が延伸フィルムである場合には、この延伸も含めた累積延伸倍率)が3~8倍となるように調整される。
【0048】
湿式延伸処理工程を実施する場合、偏光フィルム製造装置は、PVA系樹脂フィルム10の湿式延伸手段を含む。湿式延伸手段は、好ましくはロール間延伸を行う延伸手段である。架橋処理工程中に湿式でロール間延伸を行う場合を例に挙げると、ロール間延伸を行う延伸手段は、架橋処理槽17の前後に配置される2つのニップロール2c,2dである。他の湿式処理中に延伸を行う場合についても同様に、離間して配置された2つのニップロールを湿式延伸手段とすることができる。
【0049】
(3)乾燥処理工程
乾燥処理工程が実施される乾燥処理部は、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路上であって湿式処理部の下流側に配置される、湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を乾燥させるためのゾーンである。湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を引き続き搬送させながら、乾燥処理部に当該フィルムを導入することによって乾燥処理を施すことができ、これにより偏光フィルム25が得られる(
図1参照)。
【0050】
乾燥処理部は、フィルムの乾燥手段(加熱手段)を含む。乾燥手段の好適な一例は乾燥炉である。乾燥炉は、好ましくは炉内温度を制御可能なものである。乾燥炉は、例えば、熱風の供給等により炉内温度を高めることができる熱風オーブンである。また乾燥手段による乾燥処理は、凸曲面を有する1又は2以上の加熱体に湿式処理工程後のPVA系樹脂フィルム10を密着させる処理や、ヒーターを用いて該フィルムを加熱する処理であってもよい。
【0051】
上記加熱体としては、熱源(例えば、温水等の熱媒や赤外線ヒーター)を内部に備え、表面温度を高めることができるロール(例えば熱ロールを兼ねたガイドロール)を挙げることができる。上記ヒーターとしては、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等を挙げることができる。
図1には、乾燥炉21内に湿式処理工程S101後のPVA系樹脂フィルム10を導入して乾燥処理する例を示している。
【0052】
乾燥処理の温度(例えば、乾燥炉21の炉内温度、熱ロールの表面温度等)は、通常30~100℃であり、好ましくは50~90℃である。
【0053】
偏光フィルム25は、延伸(通常は一軸延伸)されたPVA系樹脂フィルムに二色性色素が吸着配向されているものである。偏光フィルム25の厚みは、通常2~40μmである。偏光フィルム25を含む偏光板の薄膜化の観点から、偏光フィルム25の厚みは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは15μm以下であり、さらに好ましくは10μm以下である。
【0054】
得られる偏光フィルム25の視感度補正単体透過率Tyは、視感度補正偏光度Pyとのバランスを考慮して、40~47%であることが好ましく、41~45%であることがより好ましい。視感度補正偏光度Pyは、99.9%以上であることが好ましく、99.95%以上であることがより好ましい。
Ty及びPyは、積分球付き吸光光度計を用い、得られた透過率、偏光度に対してJIS Z 8701の2度視野(C光源)により視感度補正を行うことによって測定することができる。
【0055】
得られた偏光フィルム25は、巻取ロール27に順次巻き取ってロール形態としてもよいし、巻き取ることなくそのまま偏光板作製工程(偏光フィルム25の片面又は両面に熱可塑性樹脂フィルム(保護フィルム等)を積層する工程)に供することもできる。
【0056】
(4)液体供給部及び液体供給工程S201
(4-1)第1の実施形態
第1の実施形態において偏光フィルムの製造方法は、液体供給工程S201として、液体を第1処理槽へ落下させる工程を含む。この場合において、偏光フィルムの製造装置は、液体を第1処理槽へ落下させるための液体供給部を含む。
ここでいう第1処理槽とは、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路に配置され、上記湿式処理工程S101において使用される(湿式処理部が有する)処理槽の少なくとも1つである。
【0057】
第1処理槽は、処理槽の中でも、有機溶剤を含有する処理液(以下、「有機溶剤含有処理液」ともいう。)を収容する処理槽を意味し、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17、洗浄処理槽19等から選択される。第1処理槽の詳細については後で述べる。
液体を「落下させる」とは、第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い地点から上記液体を、壁面や配管等を伝わせることなく上記処理液の液面に向けて落とすことを意味する。
【0058】
偏光フィルムの製造方法が液体供給工程S201を有すること(偏光フィルムの製造装置が、液体を第1処理槽へ落下させる液体供給部を含むこと)は、後述するように、得られる偏光フィルム25の外観や品質等の観点及び偏光フィルム25の生産性の観点等から好ましい。
しかし、上記液体を処理槽内の処理液の液面に落下させると、その衝撃等に起因して、処理槽内の処理液に溶け出していたPVA系樹脂が析出することがあり、これによって上述したような、PVA系樹脂を含む析出物に起因する不具合(偏光フィルム25の外観や品質への悪影響)を生じることがある。
上記液体を落下させる対象である第1処理槽に収容される処理液が有機溶剤含有処理液である本発明によれば、上記液体の落下による衝撃等が生じた場合であっても、PVA系樹脂を含む析出物の析出を抑制することができ、もって、析出物がPVA系樹脂フィルム10に付着するという不具合を抑制して、良好な外観及び品質を有する偏光フィルム25を安定的に連続製造することができる。
【0059】
(4-1-1)有機溶剤含有処理液に含まれる有機溶剤
有機溶剤含有処理液に含まれる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の1価アルコール(好ましくは液体アルコール);エチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジグリセリン、トリエチレングリコール、トリグリセリン、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ポリエチレングリコール等の多価アルコール;アセトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0060】
有機溶剤の含有量は、PVA系樹脂を含む析出物の析出を抑制する観点から、有機溶剤含有処理液の全量を100重量%とするとき、好ましくは1~50重量%、より好ましくは5~30重量%である。有機溶剤の含有量が過度に大きいと、処理液の機能が低下し得る。
有機溶剤含有処理液は、好ましくは有機溶剤を含有する水溶液である。
有機溶剤は、水と相溶性のある有機溶剤であることが好ましい。
【0061】
(4-1-2)第1処理槽へ落下させる液体
第1処理槽へ落下させる液体は、例えば、以下の液体から選択される1種以上であることができる。
〔a〕PVA系樹脂フィルム10の搬送経路を構築する上記複数のロールの少なくとも1つを洗浄する洗浄液として用いられた液体(ロール洗浄液)。この液体には、当該ロール洗浄によってロールの表面に付着した液体も含まれる。
〔b〕上記搬送経路に沿って搬送中のPVA系樹脂フィルム10の表面を洗浄する洗浄液として用いられた液体(フィルム洗浄液)。この液体には、当該フィルム洗浄によって、上記搬送経路に沿って搬送中のPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した液体も含まれる。
〔c〕PVA系樹脂フィルム10の搬送経路を構築する上記複数のロールのうち、少なくとも1つのロールの表面、及び/又は、上記搬送経路に沿って搬送中のPVA系樹脂フィルム10の表面にガスを供給すること等によって液切される液体。
〔d〕第1処理槽内に収容されている処理液の液量や組成を調整するために補充される液体。
【0062】
上記〔a〕のロール洗浄液は、処理液がロール表面に付着した結果、処理液に由来する塩等の固体がロール表面に析出すること、ひいてはこの析出物が搬送中のPVA系樹脂フィルム10の表面に転写されて付着することを抑制すべくロール表面を洗浄するために用いられる液体である。
ロール洗浄は、ロール洗浄液を、ロール表面に向けて、例えばシャワー状に導出することにより行うことができる。
ロール洗浄を実施することにより、搬送中のPVA系樹脂フィルム10、ひいては得られる偏光フィルム25の表面に上記析出物が付着することを抑制することができる。このことは、偏光フィルム25の外観や品質を高めるうえで有利である。
ロール表面を洗浄した後のロール洗浄液を第1処理槽内に落とせば、これを処理液の一部として再利用できるので、偏光フィルム25の生産性の観点から有利である。
【0063】
ロール洗浄液は、第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から抜き出した少なくとも一部の有機溶剤含有処理液(PVA系樹脂フィルム10から溶出したPVA系樹脂を含有していてもよい。)であってもよいし、上記有機溶剤であってもよいし、有機溶剤を含有しないこと以外は第1処理槽内に収容される有機溶剤含有処理液と同じ組成を有する液体であってもよいし、これらから選択される2以上の組み合わせであってもよい。
ロール洗浄液は、好ましくは、第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から抜き出した少なくとも一部の有機溶剤含有処理液を含む。
【0064】
上記〔b〕のフィルム洗浄液は、処理液に浸漬させた後のPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した処理液から塩等の固体が析出することを抑制すべく搬送中のPVA系樹脂フィルム10の表面を洗浄する又は該表面の湿潤状態を保つために用いられる液体である。
フィルム洗浄は、フィルム洗浄液を、PVA系樹脂フィルム10の表面に向けて、例えばシャワー状に導出することにより行うことができる。
フィルム洗浄を実施することにより、搬送中のPVA系樹脂フィルム10、ひいては得られる偏光フィルム25の表面に上記固体が析出することを抑制することができる。このことは、偏光フィルム25の外観や品質を高めるうえで有利である。
フィルムを洗浄した後のフィルム洗浄液を第1処理槽内に落とせば、これを処理液の一部として再利用できるので、偏光フィルム25の生産性の観点から有利である。
【0065】
フィルム洗浄液は、第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から抜き出した少なくとも一部の有機溶剤含有処理液(PVA系樹脂フィルム10から溶出したPVA系樹脂を含有していてもよい。)であってもよいし、上記有機溶剤であってもよいし、有機溶剤を含有しないこと以外は第1処理槽内に収容される有機溶剤含有処理液と同じ組成を有する液体であってもよいし、これらから選択される2以上の組み合わせであってもよい。
フィルム洗浄液は、好ましくは、第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から抜き出した少なくとも一部の有機溶剤含有処理液を含む。
【0066】
上記〔c〕の液体は、ロール表面や、処理液に浸漬させた後のPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した余分な処理液を、当該表面にガスを供給する手段等を用いて液切することによって生じる液体である。
液切を実施することにより、ロール表面やPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した余分な処理液が乾燥して、塩等の固体が析出することを抑制することができる。このことは、偏光フィルム25の外観や品質を高めるうえで有利である。
ガスとしては、例えば、空気のほか、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。ガスを供給する手段としては、エアシャワーやエアナイフ等が挙げられる。
上記〔c〕の液体は、上記〔a〕のロール洗浄によってロール表面に付着した液体を液切することで生じる液体であってもよいし、上記〔b〕のフィルム洗浄によってPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した液体を液切することで生じる液体であってもよい。
液切された液体を第1処理槽内に落とせば、これを処理液の一部として再利用できるので、偏光フィルム25の生産性の観点から有利である。
【0067】
上記〔d〕の液体としては、フレッシュな有機溶剤含有処理液、有機溶剤、有機溶剤を含有しないこと以外は第1処理槽内に収容される有機溶剤含有処理液と同じ組成を有する液体等が挙げられる。
【0068】
(4-1-3)液体供給部
液体を第1処理槽へ落下させるための液体供給部は、第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い地点から上記液体を落とすことができる限り特に制限されない。
液体供給部としては、例えば、
〔A〕上記液体を導出する導出配管(導出ライン)であって、液体の導出口が第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置にある導出配管;
〔B〕ロール洗浄後のロール表面から流れ落ちる液体(ロール表面に向けて導出され、該表面で跳ね返るロール洗浄液を含む。)、フィルム洗浄後のPVA系樹脂フィルム10の表面から流れ落ちる液体(フィルム表面に向けて導出され、該表面で跳ね返るフィルム洗浄液を含む。)、及び/又は、液切によってロール表面やPVA系樹脂フィルム10の表面から吹き飛ばされる又は流れ落ちる液体を収集し、第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導する手段(収集・誘導手段)
等が挙げられる。
収集・誘導手段によって第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導された液体は、自由落下によって第1処理槽へ落下させることができる。
収集・誘導手段は、例えば、傾斜を設けた受け皿等であってよい。受け皿は、槽、シート等であってもよい。
【0069】
上記〔A〕の液体供給部は、例えば、第1処理槽へ落下させる液体が上記〔d〕の液体である場合等に用いることができる。
上記〔B〕の液体供給部(収集・誘導手段)は、例えば、第1処理槽へ落下させる液体が上記〔a〕、〔b〕及び/又は〔c〕の液体である場合等に用いることができる。
【0070】
(4-1-4)有機溶剤含有処理液を第1処理槽内に戻す工程
液体供給工程S201(液体を第1処理槽へ落下させる工程)は、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を落下させて第1処理槽内に戻す工程を含むことが好ましい。この場合、第1処理槽へ落下させる液体は、第1処理槽内に収容されていた有機溶剤含有処理液を含む。
有機溶剤含有処理液を第1処理槽内に戻すことは、これを処理液の一部として再利用できるので、偏光フィルム25の生産性の観点から有利である。
【0071】
液体供給工程S201が第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を落下させて第1処理槽内に戻す工程を含む場合、第1処理槽内に収容される有機溶剤含有処理液の組成変動をできるだけ小さくする観点から、第1処理槽へ落下させる液体は、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液のみであることが好ましい。ただし、第1処理槽内に収容される有機溶剤含有処理液の組成を調整する等の目的のために、上記液体として、有機溶剤や、有機溶剤を含有しないこと以外は第1処理槽内に収容される有機溶剤含有処理液と同じ組成を有する液体をさらに第1処理槽へ落下させてもよい。
「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」としては、上記〔a〕~〔c〕に包含される液体が挙げられる。
【0072】
図1を参照してより具体的に説明すると、例えば、第1処理槽が膨潤処理槽13であり、膨潤処理槽13の後に配置されているガイドロール1c及びニップロール2bを上記〔a〕のロール洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、膨潤処理槽13から抜き出された膨潤処理液であって、洗浄のためにガイドロール1c及びニップロール2bに向けて、例えばシャワー状に導出された後に、これらのロールから流れ落ちる、又はロール表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。ロールから流れ落ちる、又はロール表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液を、例えば上述の収集・誘導手段を用いて第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導し、そこから落とすことによって有機溶剤含有処理液を第1処理槽内に戻すことができる。
膨潤処理槽13からの膨潤処理液の抜き出しは、例えばポンプ等によって行うことができる。
【0073】
第1処理槽が染色処理槽15であり、染色処理槽15の後に配置されているガイドロール1f及びニップロール2cを上記〔a〕のロール洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、染色処理槽15から抜き出された染色処理液であって、洗浄のためにガイドロール1f及びニップロール2cに向けて、例えばシャワー状に導出された後に、これらのロールから流れ落ちる、又はロール表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。
【0074】
第1処理槽が架橋処理槽17であり、架橋処理槽17の後に配置されているガイドロール1i及びニップロール2dを上記〔a〕のロール洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、架橋処理槽17から抜き出された架橋処理液であって、洗浄のためにガイドロール1i及びニップロール2dに向けて、例えばシャワー状に導出された後に、これらのロールから流れ落ちる、又はロール表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。
【0075】
第1処理槽が洗浄処理槽19であり、洗浄処理槽19の後に配置されているガイドロール1l及びニップロール2eを上記〔a〕のロール洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、洗浄処理槽19から抜き出された洗浄処理液であって、洗浄のためにガイドロール1l及びニップロール2eに向けて、例えばシャワー状に導出された後に、これらのロールから流れ落ちる、又はロール表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。
【0076】
第1処理槽が膨潤処理槽13であり、膨潤処理槽13に浸漬され、そこから引き出された後のPVA系樹脂フィルム10(例えば、ガイドロール1c-ニップロール2b間にあるPVA系樹脂フィルム10)を上記〔b〕のフィルム洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、膨潤処理槽13から抜き出された膨潤処理液であって、フィルム洗浄のためにPVA系樹脂フィルム10に向けて、例えばシャワー状に導出された後に、該フィルムから流れ落ちる、又はフィルム表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。フィルムから流れ落ちる、又はフィルム表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液を、例えば上述の収集・誘導手段を用いて第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導し、そこから落とすことによって有機溶剤含有処理液を第1処理槽内に戻すことができる。
【0077】
第1処理槽が染色処理槽15であり、染色処理槽15に浸漬され、そこから引き出された後のPVA系樹脂フィルム10(例えば、ガイドロール1f-ニップロール2c間にあるPVA系樹脂フィルム10)を上記〔b〕のフィルム洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、染色処理槽15から抜き出された染色処理液であって、フィルム洗浄のためにPVA系樹脂フィルム10に向けて、例えばシャワー状に導出された後に、該フィルムから流れ落ちる、又はフィルム表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。
【0078】
第1処理槽が架橋処理槽17であり、架橋処理槽17に浸漬され、そこから引き出された後のPVA系樹脂フィルム10(例えば、ガイドロール1i-ニップロール2d間にあるPVA系樹脂フィルム10)を上記〔b〕のフィルム洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、架橋処理槽17から抜き出された架橋処理液であって、フィルム洗浄のためにPVA系樹脂フィルム10に向けて、例えばシャワー状に導出された後に、該フィルムから流れ落ちる、又はフィルム表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。
【0079】
第1処理槽が洗浄処理槽19であり、洗浄処理槽19に浸漬され、そこから引き出された後のPVA系樹脂フィルム10(例えば、ガイドロール1l-ニップロール2e間にあるPVA系樹脂フィルム10)を上記〔b〕のフィルム洗浄液を用いて洗浄する場合、「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」は、洗浄処理槽19から抜き出された洗浄処理液であって、フィルム洗浄のためにPVA系樹脂フィルム10に向けて、例えばシャワー状に導出された後に、該フィルムから流れ落ちる、又はフィルム表面で跳ね返る有機溶剤含有処理液である。
【0080】
「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」が上記〔c〕の液体である場合の一例を挙げると、第1処理槽が架橋処理槽17であり、架橋処理槽17に浸漬され、そこから引き出された後のPVA系樹脂フィルム10(例えば、ガイドロール1i-ニップロール2d間にあるPVA系樹脂フィルム10)について液切を行ったときに生じる液体である。フィルムから液切された有機溶剤含有処理液(架橋処理液)を、例えば上述の収集・誘導手段を用いて第1処理槽(架橋処理槽17)に収容されている架橋処理液の液面より高い位置まで誘導し、そこから落とすことによって液切された有機溶剤含有処理液を第1処理槽内に戻すことができる。第1処理槽が膨潤処理槽13、染色処理槽15、洗浄処理槽19である場合についても同様である。
【0081】
液体供給工程S201が第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を落下させて第1処理槽内に戻す工程を含む場合、偏光フィルムの製造装置は、液体供給部として、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を落下させて第1処理槽内に戻すための処理液回収部を含むことが好ましい。
処理液回収部としては、例えば、
〔B1〕第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から少なくとも一部の有機溶剤含有処理液を抜き出す手段(ポンプ等)、抜き出された有機溶剤含有処理液をロール洗浄液として用い、これをロール表面に向けて導出する手段(シャワー噴霧器等)、及び、ロール洗浄後のロール表面から流れ落ちる液体(ロール表面に向けて導出され、該表面で跳ね返るロール洗浄液を含む。)を収集し、第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導する収集・誘導手段の組み合わせ、
〔B2〕第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から少なくとも一部の有機溶剤含有処理液を抜き出す手段(ポンプ等)、抜き出された有機溶剤含有処理液をフィルム洗浄液として用い、これをフィルム表面に向けて導出する手段(シャワー噴霧器等)、及び、フィルム洗浄後のPVA系樹脂フィルム10の表面から流れ落ちる液体(フィルム表面に向けて導出され、該表面で跳ね返るフィルム洗浄液を含む。)を収集し、第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導する収集・誘導手段の組み合わせ、
〔B3〕ロール表面や、有機溶剤含有処理液に浸漬させた後のPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した余分な有機溶剤含有処理液を、ロール表面やPVA系樹脂フィルム10の表面から液切するための液切手段(エアシャワーやエアナイフ等)、及び、液切によってロール表面やPVA系樹脂フィルム10の表面から吹き飛ばされる又は流れ落ちる液体を収集し、第1処理槽に収容されている処理液の液面より高い位置まで誘導する収集・誘導手段の組み合わせ
等が挙げられる。
【0082】
(4-1-5)第1処理槽
有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽は、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17、洗浄処理槽19等から選択される。偏光フィルムの製造装置は、2以上の第1処理槽を有していてもよい。
中でも、第1処理槽は、液体を処理槽内の処理液の液面に落下させたときの衝撃等に起因するPVA系樹脂の析出が生じやすい処理槽であることが好ましい。
なお、第1処理槽に収容される有機溶剤含有処理液におけるPVA系樹脂の濃度は、例えば、重量基準で5ppm~5000ppm程度であってよい。
【0083】
具体的には、第1処理槽としては、二色性色素及び架橋剤の少なくとも1つを含む処理液を収容する処理槽であることが好ましい。
二色性色素を含む処理液を収容する処理槽としては染色処理槽15が挙げられる。
架橋剤を含む処理液を収容する処理槽としては、膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17等が挙げられる。架橋剤を含む処理液を収容する第1処理槽は、好ましくは、架橋剤及びヨウ化物(ヨウ化カリウム等)を含む処理液を収容する処理槽である。このような処理槽としては、架橋処理槽17が挙げられる。
染色処理槽15及び架橋処理槽17、とりわけ架橋処理槽17(架橋による耐水化のための架橋処理槽及び色相調整(補色)のための架橋処理槽を含む。)は、膨潤処理槽13及び洗浄処理槽19に比べて、収容される処理液の温度をより高く設定することが一般的であり、したがって、PVA系樹脂フィルム10を浸漬させたときにPVA系樹脂の溶出が生じやすく、その結果、PVA系樹脂を含む固体の処理液からの析出が生じやすい。
よって本発明は、第1処理槽が、染色処理槽15及び/又は架橋処理槽17である場合、とりわけ架橋処理槽17である場合により有効である。
【0084】
また、液体を処理槽内の処理液の液面に落下させたときの衝撃等に起因するPVA系樹脂の析出が生じやすい処理槽としては、その上流側に配置される別の処理槽に収容される処理液の温度よりも低い温度の処理液を収容する処理槽を挙げることができる。
すなわち、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路が、ある処理槽よりも上流側に配置される別の1以上の処理槽をさらに通る場合において、上記ある処理槽に収容される処理液の温度が、上記別の処理槽に収容される処理液の温度よりも低いときには、上記ある処理槽を、有機溶剤含有処理液を収容する第1処理槽とすることが好ましい。
このように本発明は、温度のより高い処理液を収容する処理槽の後に配置される、温度のより低い処理液を収容する処理槽を第1処理槽とする場合により有効である。
【0085】
1つの実施形態において、上記別の1以上の処理槽は、PVA系樹脂フィルム10の搬送経路の上流側から順に第2処理槽と第3処理槽とをさらに含み(搬送経路の上流側から、第2処理槽、第3処理槽、第1処理槽の順)、第2処理槽は二色性色素を含み、第3処理槽及び第1処理槽は架橋剤を含む。
二色性色素を含む処理液を収容する第2処理槽としては染色処理槽15が挙げられる。
架橋剤を含む処理液を収容する第3処理槽及び第1処理槽としては、いずれも膨潤処理槽13、染色処理槽15、架橋処理槽17等が挙げられるが、好ましくは、架橋剤及びヨウ化物(ヨウ化カリウム等)を含む処理液を収容する架橋処理槽17である。
この実施形態において、第3処理槽及び第1処理槽がいずれも架橋処理槽17である場合、第1処理槽に収容される有機溶剤含有処理液の温度は、第3処理槽に収容される処理液の温度よりも低い。このような第3処理槽及び第1処理槽の組み合わせの一例は、第3処理槽が架橋による耐水化のための架橋処理槽であり、第1処理槽が色相調整(補色)のための架橋処理槽(補色槽)である組み合わせである。
【0086】
(4-2)第2の実施形態
第2の実施形態において偏光フィルムの製造方法は、液体供給工程S201として、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に第1処理槽に戻す工程を含む。この場合において、偏光フィルムの製造装置は、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に第1処理槽に戻すための液体供給部(処理液回収部)を含む。
【0087】
第2の実施形態において、第1処理槽の意味は第1の実施形態と同じである。
第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を第1処理槽とは異なる場所へ「落下させる」とは、該異なる場所の底面より高い地点又は該異なる場所に収容された有機溶剤含有処理液の液面より高い地点から有機溶剤含有処理液を、壁面や配管等を伝わせることなく上記底面又は上記液面に向けて落とすことを意味する。
【0088】
洗浄液等として使用される結果、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した処理液を第1処理槽に戻すことは、得られる偏光フィルム25の外観や品質等の観点及び偏光フィルム25の生産性の観点等から好ましい。
しかし、処理液を第1処理槽に戻す工程が該処理液を第1処理槽とは異なる場所へ落下させる工程を含む場合、落下の衝撃等に起因して、該処理液に溶け出していたPVA系樹脂が析出することがある。該析出物を含む処理液を第1処理槽に戻すと、上述したような、PVA系樹脂を含む析出物に起因する不具合(偏光フィルム25の外観や品質への悪影響)を生じることがある。
第1処理槽に収容される処理液が有機溶剤含有処理液である本発明によれば、上記落下による衝撃等が生じた場合であっても、PVA系樹脂を含む析出物の析出を抑制することができ、もって、有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻しても、析出物がPVA系樹脂フィルム10に付着するという不具合を抑制して、良好な外観及び品質を有する偏光フィルム25を安定的に連続製造することができる。
【0089】
(4-2-1)落下させる有機溶剤含有処理液
第1処理槽とは異なる場所へ落下させる有機溶剤含有処理液は、第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液である。
有機溶剤含有処理液に含まれる有機溶剤については、第1の実施形態と同様であり、第1の実施形態について述べた記述が引用される。
「第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液」としては、上記(4-1-2)の〔a〕~〔c〕に包含される有機溶剤含有処理液が挙げられる。
〔a〕~〔c〕に包含される有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻せば、これを処理液の一部として再利用できるので、偏光フィルム25の生産性の観点から有利である。
【0090】
(4-2-2)液体供給部(処理液回収部)
第1処理槽内から第1処理槽外へ移動した有機溶剤含有処理液を第1処理槽とは異なる場所へ落下させた後に第1処理槽に戻すための液体供給部は、該異なる場所の底面より高い地点又は該異なる場所に収容された有機溶剤含有処理液の液面より高い地点から有機溶剤含有処理液を落とすことができ、落下し終えた有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻すことができる限り特に制限されない。
液体供給部(処理液回収部)としては、例えば、
〔B1’〕第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から少なくとも一部の有機溶剤含有処理液を抜き出す手段(ポンプ等)、抜き出された有機溶剤含有処理液をロール洗浄液として用い、これをロール表面に向けて導出する手段(シャワー噴霧器等)、及び、ロール洗浄後のロール表面から落下する液体(ロール表面に向けて導出され、該表面で跳ね返るロール洗浄液を含む。)を収集し、収集した有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻す収集・誘導手段の組み合わせ、
〔B2’〕第1処理槽内の有機溶剤含有処理液から少なくとも一部の有機溶剤含有処理液を抜き出す手段(ポンプ等)、抜き出された有機溶剤含有処理液をフィルム洗浄液として用い、これをフィルム表面に向けて導出する手段(シャワー噴霧器等)、及び、フィルム洗浄後のPVA系樹脂フィルム10の表面から落下する液体(フィルム表面に向けて導出され、該表面で跳ね返るフィルム洗浄液を含む。)を収集し、収集した有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻す収集・誘導手段の組み合わせ、
〔B3’〕ロール表面や、有機溶剤含有処理液に浸漬させた後のPVA系樹脂フィルム10の表面に付着した余分な有機溶剤含有処理液を、ロール表面やPVA系樹脂フィルム10の表面から液切するための液切手段(エアシャワーやエアナイフ等)、及び、液切によってロール表面やPVA系樹脂フィルム10の表面から落下する液体を収集し、収集した有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻す収集・誘導手段の組み合わせ
等が挙げられる。
【0091】
収集・誘導手段は、例えば、傾斜を設けた受け皿等であってよい。受け皿は、槽、シート等であってもよい。収集した有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻す手段として、ポンプ等を併用してもよい。
なお、収集・誘導手段によって有機溶剤含有処理液を第1処理槽に戻す際に有機溶剤含有処理液を第1処理槽へ落下させてもよいが、この実施形態は、第1の実施形態に属する。本実施形態において有機溶剤含有処理液は、落下させることなく、例えば、第1処理槽の液面まで伝わせて戻すか、あるいは、第1処理槽内の有機溶剤含有処理液の液中に戻す。
【0092】
(5)実験例
架橋処理槽を2槽(それぞれ第1架橋処理槽17a、第2架橋処理槽17bという。)有すること以外は
図1に示される装置と同様の偏光フィルム製造装置を用いて、長尺のポリビニルアルコールフィルム(PVA系樹脂フィルム10)から偏光フィルム25を連続製造した。用いたポリビニルアルコールフィルムは、厚み60μmのポリビニルアルコールフィルムであり、フィルムを構成するポリビニルアルコールのケン化度は99.9モル%以上、平均重合度は2400であった。
【0093】
〔a〕膨潤処理工程
巻出ロール11よりPVA系樹脂フィルム10を連続的に巻き出しながら搬送し、30℃の純水が入った膨潤処理槽13に浸漬しながら、フィルムが弛まないようにニップロール2a,2b間に周速差をつけて2.5倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行って膨潤処理した。
【0094】
〔b〕染色処理工程
次に、ニップロール2bを通過したPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ素/ヨウ化カリウム/水(重量比)が0.05/2/100である30℃の染色処理槽15に120秒間浸漬した。この染色処理では、ニップロール2b,2c間に周速差をつけて1.1倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。
【0095】
〔c〕架橋処理工程
次に、耐水化を目的とする第1の架橋処理を施すため、ニップロール2cを通過したPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水(重量比)が12/4.4/100である56℃の第1架橋処理槽17aに30秒間浸漬した。この第1の架橋処理においても、ニップロール間に周速差をつけて、1.9倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。次いで、第1の架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10を、ヨウ化カリウム/ホウ酸/水(重量比)が9/2.9/100である40℃の第2架橋処理槽17bに15秒間浸漬した(第2の架橋処理)。この第2の架橋処理においても、ニップロール間に周速差をつけて、1.05倍のロール間延伸(縦一軸延伸)を行った。
その後、第2の架橋処理後のPVA系樹脂フィルム10を15℃の純水が入った洗浄処理槽19に浸漬し、次いで乾燥炉21を通過させることにより70℃で3分間乾燥させて、偏光フィルム25を作製した。
【0096】
上記の偏光フィルムの連続製造を実施した後の第2架橋処理槽17bから、架橋処理液をサンプリングし、下記の実験を行った。サンプリングした架橋処理液中のポリビニルアルコール濃度を、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したところ、重量基準で約1300ppmであった。
【0097】
上記の偏光フィルムの連続製造を実施した後の第2架橋処理槽17bから400mLの架橋処理液を抜き取り、これに40mLの純水を加えた。得られた混合液を5分間かけて高さ30cmの位置から滴下したところ、PVA系樹脂を含む固体の発生が認められた。
一方、40mLの純水の代わりに40mLのエタノールを加えて同様の実験を行ったところ、PVA系樹脂を含む固体の発生は認められなかった。
【符号の説明】
【0098】
1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g,1h,1i,1j,1k,1l ガイドロール、2a,2b,2c,2d,2e,2f ニップロール、10 ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(PVA系樹脂フィルム)、11 巻出ロール、13 膨潤処理槽、15 染色処理槽、17 架橋処理槽、19 洗浄処理槽、21 乾燥炉、25 偏光フィルム、27 巻取ロール。