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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-11
(45)【発行日】2023-10-19
(54)【発明の名称】外部共振器型半導体レーザ
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/14 20060101AFI20231012BHJP
   H01S 5/343 20060101ALI20231012BHJP
   H01S 5/0239 20210101ALI20231012BHJP
【FI】
H01S5/14
H01S5/343 610
H01S5/0239
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019077969
(22)【出願日】2019-04-16
(65)【公開番号】P2020177985
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104949
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100074354
【弁理士】
【氏名又は名称】豊栖 康弘
(72)【発明者】
【氏名】高野 哲至
(72)【発明者】
【氏名】小川 尚史
(72)【発明者】
【氏名】香取 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 将男
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-029428(JP,A)
【文献】特開昭52-156642(JP,A)
【文献】特開昭62-042477(JP,A)
【文献】特開平07-029693(JP,A)
【文献】特開平08-204281(JP,A)
【文献】特開平10-332913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0003818(US,A1)
【文献】特開2002-141609(JP,A)
【文献】特開2001-318396(JP,A)
【文献】特表2004-535068(JP,A)
【文献】特表2010-525594(JP,A)
【文献】特開2008-276007(JP,A)
【文献】特開2007-310363(JP,A)
【文献】国際公開第2008/119363(WO,A1)
【文献】特開2012-094622(JP,A)
【文献】THOMPSON, Daniel J. et al.,Narrow linewidth tunable external cavity diode laser using wide bandwidth filter,Review of Scientific Instruments,米国,American Institute of Physics,2012年02月24日,Vol.83, No.2,p.023107,https://doi.org/10.1063/1.3687441
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098 - 3/102
H01S 3/105 - 3/131
H01S 3/136 - 3/213
H01S 3/23 - 5/50
G02B 6/12 - 6/14
G02B 6/26 - 6/27
G02B 6/30 - 6/34
G02B 6/42 - 6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ガリウム系の材料を含む半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子の出射光の光路上に配置される第一レンズと、
前記第一レンズを透過した光の光路上に配置され、特定の波長の光を選択するための波長選択素子と、
前記波長選択素子を通過した光の光路上に配置され、光を出力ミラー上で結像する第二レンズと、
前記第二レンズを透過して集光された光の光路上に配置される前記出力ミラーと、
を備え、
前記出力ミラーは少なくとも反射面に透光性の保護部材が直接接合により接合され、
前記第二レンズを透過して、前記出力ミラーに入射される光を、前記出力ミラーの前記反射面上で結像させつつ、前記反射面を前記保護部材で保護してなる外部共振器型半導体レーザ。
【請求項2】
請求項1記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記第二レンズは、保護部材入射時の屈折による球面収差を緩和する非球面レンズである外部共振器型半導体レーザ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記出力ミラーは、前記保護部材と結合する面に、多層膜をコーティングしてなる外部共振器型半導体レーザ。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記保護部材の反射率を、当該保護部材を構成する材質の屈折率から定まる反射率よりも低くしてなる外部共振器型半導体レーザ。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記保護部材の厚さが、0.3mm~3.5mmである外部共振器型半導体レーザ。
【請求項6】
窒化ガリウム系の材料を含む半導体レーザ素子と、
前記半導体レーザ素子の出射光の光路上に配置される第一レンズと、
前記第一レンズを透過された光の光路上に配置され、特定の波長の光を選択するための波長選択素子と、
前記波長選択素子を通過した光の光路上に配置され、光を出力ミラー上で結像する第二レンズと、
前記第二レンズを透過して集光された光の光路上に配置される前記出力ミラーと、
前記出力ミラーの反射面で接合される透光性の保護部材と、
を備え、
前記出力ミラーの入射面側の集光領域が前記保護部材と非接触で無塵封止されている、
外部共振器型半導体レーザ。
【請求項7】
請求項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記保護部材は、凹部を有し、
前記保護部材は、凹部の底面よりも相対的に高く位置する接合面で前記出力ミラーと接合され、
前記無塵封止される領域は、前記出力ミラーと前記保護部材の凹部で形成される領域である、外部共振器型半導体レーザ。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、さらに、
外部共振器に配置されるアクチュエータを備える外部共振器型半導体レーザ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記半導体レーザ素子が、その発光ピーク波長を360nm~520nmとしてなる外部共振器型半導体レーザ。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記波長選択素子が、干渉フィルタである外部共振器型半導体レーザ。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記半導体レーザ素子が、InXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表される窒化物半導体である外部共振器型半導体レーザ。
【請求項12】
請求項11に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記半導体レーザ素子が、端面をARコートされている外部共振器型半導体レーザ。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の外部共振器型半導体レーザであって、
前記保護部材は、BK7、合成石英、MgF2からなる群から選択される少なくとも1つである、外部共振器型半導体レーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部共振器型半導体レーザに関する。
【背景技術】
【0002】
反射面のミラーで集光するキャッツアイ型の構成を備える外部共振器型半導体レーザ(External-Cavity Laser Diode:以下「ECLD」ともいう。)は、従来の回折格子型ECLDよりも堅牢な共振器構造を備え、より周波数安定度の高いレーザとされている(例えば非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Daniel J. Thompson, Robert E. Scholtena, "Narrow linewidth tunable external cavity diode laser using wide bandwidth filter" Review of Scientific Instruments 83, 023107 (February 2012) <https://doi.org/10.1063/1.3687441>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなキャッツアイ型ECLDを、窒化ガリウム系半導体レーザ(GaN系LD)を用いて構成すると、パワーの低下が大きいという問題があった。
【0005】
本発明の目的の一は、窒化ガリウム系半導体レーザを光源として用いた外部共振器型半導体レーザを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る外部共振器型半導体レーザは、窒化ガリウム系の材料を含む半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子の出射光の光路上に配置される第一レンズと、前記第一レンズを透過した光の光路上に配置され、特定の波長の光を選択するための波長選択素子と、前記波長選択素子を通過した光の光路上に配置され、光を出力ミラー上で結像する第二レンズと、前記第二レンズを透過して集光された光の光路上に配置される前記出力ミラーとを備える。前記出力ミラーは少なくとも一面に透光性の保護部材が接合され、前記第二レンズを透過して、前記出力ミラーに入射される光を、該出力ミラーの面上で結像させつつ、該面を前記保護部材で保護している。
【0007】
本発明の他の側面に係る外部共振器型半導体レーザは、窒化ガリウム系の材料を含む半導体レーザ素子と、前記半導体レーザ素子の出射光の光路上に配置される第一レンズと、前記第一レンズを透過した光の光路上に配置され、特定の波長の光を選択するための波長選択素子と、前記波長選択素子を通過した光の光路上に配置され、光を出力ミラー上で結像する第二レンズと、前記第二レンズを透過して集光された光の光路上に配置される前記出力ミラーとを備える。少なくとも前記出力ミラーを含む一部、あるいは、全体が無塵封止され、該出力ミラーに入射される光を、該出力ミラーの面上で結像させつつ、該面を無塵封止により保護している。
【発明の効果】
【0008】
上記構成により、出力ミラーの反射面においてキャッツアイレンズで集光される際に問題となる光集塵を、この反射面に保護基板を配置したこと、あるいは、反射面を無塵封止したことで効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1に係る外部共振器型半導体レーザを示す模式図である。
図2図1の出力ミラーを示す斜視図である。
図3図2の出力ミラーの分解斜視図である。
図4】実施形態2に係る外部共振器型半導体レーザを示す模式図である。
図5図4のピエゾ素子を示す分解斜視図である。
図6】実施形態3に係る外部共振器型半導体レーザを示す模式図である。
図7】実施形態4に係る外部共振器型半導体レーザを示す模式図である。
図8】実施形態5に係る外部共振器型半導体レーザを示す模式図である。
図9】従来の干渉フィルタを用いたECLDを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記構成に加えて、前記保護部材を、前記出力ミラーと直接接合により接合させることができる。
【0011】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記構成に加えて、前記第二レンズは、保護部材入射時の屈折による球面収差を緩和する非球面レンズとすることができる。これにより、収差を少なくして光を出力ミラー上で結像させることが可能となる。
【0012】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記出力ミラーは、前記保護部材と結合する面に、多層膜をコーティングすることができる。上記構成により、接合面は耐光性の強いコーティングを施すことで、必要な反射率で反射させることができる。
【0013】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記保護部材の反射率を、該保護部材を構成する材質の屈折率から定まる反射率よりも低くすることができる。
【0014】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記保護部材の厚さを、0.3mm~3.5mmとすることができる。
【0015】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、さらに、前記共振器内に配置されるアクチュエータを備えることができる。
【0016】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記半導体レーザが、その発光ピーク波長を360nm~520nmとすることができる。
【0017】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記波長選択素子を、干渉フィルタとすることができる。
【0018】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記半導体レーザ素子を、InXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表される窒化物半導体とすることができる。
【0019】
さらにまた、本発明の他の形態に係る外部共振器型半導体レーザによれば、上記いずれかの構成に加えて、前記半導体レーザ素子の端面をARコートすることができる。
【0020】
以下、本発明に係る実施形態及び変形例を、図面に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態及び変形例は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下のものに限定されるものでない。また各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。さらに、本発明に係る実施形態及び変形例を構成する各要素は、複数の要素を同一の部材で構成して一の部材で複数の要素を兼用する態様としてもよいし、逆に一の部材の機能を複数の部材で分担して実現することもできる。また、一部の実施形態及び変形例において説明された内容は、他の実施形態及び変形例に利用可能なものもある。さらに、本明細書において、層上等でいう「上」とは、必ずしも上面に接触して形成される場合に限られず、離間して上方に形成される場合も含んでおり、層と層の間に介在層が存在する場合も包含する意味で使用する。
[実施形態1]
【0021】
本発明の実施形態1に係る外部共振器型半導体レーザの模式図を図1に示す。この図に示す外部共振器型半導体レーザ100は、半導体レーザ素子4と、第一レンズ1と、波長選択素子5と、第二レンズ2と、出力ミラー10と、第三レンズ3を備える。
(半導体レーザ素子4)
【0022】
半導体レーザ素子4は、窒化ガリウム系の材料を含む半導体発光素子である。また半導体レーザの発光ピーク波長は、360nm~520nmとすることが好ましい。より好ましくは、青色光を発光する半導体レーザ素子とする。半導体レーザの出射面は、ARコートされていることが望ましい。特に500nm未満の領域では、光集塵が生じ易く、これがECLDの劣化の原因となっていることを本願発明者らは見出した(詳細は後述)。
【0023】
半導体レーザ素子4は、基板上に半導体積層体をエピタキシャル成長させて製造される。成長基板には、GaNやAlN等の窒化物半導体基板が用いられる。また、窒化物半導体基板以外の基板を用いてもよい。このような基板としては、例えば、サファイアなどの絶縁性基板、SiC、Si、ZnO、Ga23、GaAsなどの半導体基板、ガラスなどの上に窒化物半導体を成長させたテンプレート基板などが挙げられる。半導体積層体に用いられる材料としては、例えばInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表される窒化物半導体が挙げられる。
(第一レンズ1)
【0024】
第一レンズ1は、半導体レーザ素子4の出射面側で、半導体レーザ素子4の出射光の光路上に配置され、出射光を平行光にするための光学部材である。第一レンズ1には、非球面レンズや平凸レンズ等が利用できる。また第一レンズ1にARコートを施してもよい。
(波長選択素子5)
【0025】
波長選択素子5は、特定の波長の光を選択するための部材である。半導体レーザ素子4が発する光源光の波長を、特定の波長の光に選択することで、ECLDとして所望の波長の出力光を得ることが可能となる。この波長選択素子5は、第一レンズ1を透過してコリメートされた光の光路上に配置される。波長選択素子5は、好適には干渉フィルタが利用できる。波長選択素子5の材質は、ガラス、サファイア、フッ化物材料等の透明材料が利用できる。
(第二レンズ2)
【0026】
第二レンズ2は、波長選択素子5を通過した光の光路上に配置され、平行光を集光して出力ミラー10上で結像するための光学部材である。このような第二レンズ2は、キャッツアイレンズ等とも称される。第二レンズ2は、非球面レンズや平凸レンズを好適に利用できる。特に、光を出力ミラー10の表面で収差を少なく結像させるように、保護部材の屈折率を考慮した非球面レンズを用いるのが望ましい。また第二レンズ2にもARコートを施してもよい。
(出力ミラー10)
【0027】
出力ミラー10は、第二レンズ2を透過して集光された光の光路上に配置される部材である。出力ミラー10の反射率は、好ましくは20~30%とする。干渉フィルタを往復で2度通過した際の透過率がX%の場合、ミラー10の反射率に更に100-X%程度を加算するのが望ましい。また出力ミラー10は、ガラス、サファイア、フッ化物材料等透明材料で構成することができる。出力ミラー10の斜視図を図2に、分解斜視図を図3に、それぞれ示す。図3に示すように、出力ミラー10は透過面TSと反射面RSを有する。また、RSとTSの配置は、それぞれのレーザの反射面でのスポット領域RA、及び、透過面でのスポット領域TAを含んで、更に面積が十分大きい必要がある。ここでいう十分大きいとは、例えば図1に示すようにRS及びTSが、それぞれ、RA及びTAの面積の10倍以上である。
(多層膜11)
【0028】
また出力ミラー10の反射面RSには、多層膜11をコーティングすることが好ましい。反射面RSに耐光性に優れた多層膜11のコーティングを施すことで、必要な反射率で反射させることができる。コーティングする多層膜11の材質は、Ta25、SiO2等とすることができる。また多層膜11の膜厚は、多層膜11の材質の屈折率を考慮して設計される。
(保護部材20)
【0029】
さらに出力ミラー10の少なくとも反射面RSには、図3に示すように透光性の保護部材20が接合される。これにより第二レンズ2を透過した光を、保護部材20を通じて出力ミラー10に入射できる。また保護部材20の透過率は、高いことが好ましい。例えば、保護部材20の入射面にARコートを施すのが望ましい。これにより、第二レンズ2で出力ミラー10側に集光されるレーザ光を阻害することなく、レーザ光の取り出し効率を低下させることなく光集塵を抑制できる。換言すると、保護部材の反射率を、この保護部材を構成する材質の屈折率から定まる反射率よりも低くすることが好ましい。例えばARコートなどの被覆を施さない保護部材の反射率が4%の場合に、ARコートを施すことで反射率を0.3%以下に抑制することができる。
【0030】
保護部材20は、BK7、合成石英、MgF2等の材質で構成することができる。また保護部材20は、出力ミラー10と接着材等の接合部材を介さずに、直接接合により接合されることが好ましい。これにより、保護部材20と出力ミラー10との密着性を高め、接着材などによる光学ロス・パターンの劣化を抑制できる。
【0031】
保護部材20及び出力ミラー10は、互いに主として無機材料で形成されていることから、例えば、圧着、焼結、表面活性化接合、原子拡散接合、水酸基接合によって直接接合することができる。
【0032】
保護部材20の形状や大きさは、出力ミラー10の形状やレーザースポット領域の大きさに応じて設計される。保護部材の表面側領域P1及び反射面側領域P2は、それぞれ、保護部材表面でのレーザのスポット領域SA、及び、反射面でのレーザのスポット領域RAを含んで、更に十分大きい必要がある。ここでいう十分大きいとは、例えば図1に示すようにP1及びP2が、それぞれ、SA及びRAの面積の10倍以上である。保護部材20は、出力ミラー10の反射面RSとほぼ同じ面積か、これよりも大きい面積を有する円板状に形成してもよい。これにより、反射面においては、RAを含む、反射面RSの全面を保護部材20で保護し、入射面においては光出力を低減せずに光を透過できる。
【0033】
また保護部材20の厚さd2は、反射面RSでのビームのスポット径やビーム強度にも依存するが、0.3mm~3.5mmとすることが好ましい。このようにある程度の厚さを保護部材20に持たせることにより、図2に示すように保護部材20の表面ではレーザ光の集光スポット径を大きくして、保護部材20の表面での光集塵効果を低減する効果が得られる。
(第三レンズ3)
【0034】
第三レンズ3は、出力ミラー10を経て出力される出力光を平行光にする光学部材である。このような第三レンズ3も、非球面レンズや平凸レンズなどが好適に利用できる。特に、出力ミラー10の透過側の屈折を考慮した非球面レンズを用いるのが望ましい。なお上述した第一レンズ1、第二レンズ2、第三レンズ3等の光学部材は、それぞれ一枚のレンズで構成する他、複数枚のレンズを組み合わせて構成することができる。また第三レンズ3にもARコートを施してもよい。
【0035】
以上の構成により、出力ミラーの反射面RSにおいてキャッツアイレンズで集光される際に従来問題となっていた光集塵を、この反射面RSに保護基板を配置したことで効果的に抑制できる。すなわち、エネルギー密度の高くなる反射面RSを保護して集塵を防ぐと共に、入射面ではキャッツアイレンズからの光が十分に集束される前の状態で、広い面積で受けることができるため、光集塵の発現を抑制することが可能となる。
【0036】
従来の干渉フィルタを用いたECLD700の模式図を、図9に示す。この図に示すECLD700は、半導体レーザ素子704と、第一レンズ701と、波長選択素子705と、第二レンズ702と、出力ミラー710と、第三レンズ703を備える。このような干渉フィルタ型ECLDは、従来の回折格子型LDよりも堅牢な共振器構造を備え、より周波数安定度が高いとされている。この堅牢性は、外部共振器の出力ミラーが反射面で集光するキャッツアイ型であることに由来する。しかしながら、GaN系LDで干渉フィルタ型ECLDを構築すると、原因が明らかでないものの、出力が徐々に劣化するという問題があった。
【0037】
本願発明者らは鋭意研究の結果、この原因が光集塵にあることを見出し、本発明を成すに至った。すなわち、GaN系LDを光源に用いると、出力の劣化が顕著になる原因は、従来明らかでなかったところ、レーザ光の出力側で出力ミラーの表面上の狭い領域にレーザ光を集光させる際、異物が付着する光ピンセット効果が顕著となることが原因であることを発見した。特にGaN系LDは波長が短く、紫外光に近いため異物が吸収しやすい波長となっており、長波長の光源と比べて光ピンセット効果が高くなる。この光ピンセット効果の増大によって、光集塵が顕著となり、GaN系LDを用いた干渉フィルタ型ECLDでは経年劣化が他の干渉フィルタ型ECLDと比べて大きくなっていた。
【0038】
これに対して本実施形態では、光集塵が生じる出力ミラー10の反射面RSに、保護部材20を設けている。このように光集塵の原因となる出力ミラー10の反射面RSを被覆して異物の侵入を阻止することで、効果的に光集塵を阻止できる。その一方で、出力ミラー10の反射面RSを被覆した保護部材20の表面に光集塵が生じ得る点については、保護部材20の厚さをある程度持たせることにより抑制できる。すなわちキャッツアイ型の干渉フィルタ型ECLDにおいては、第二レンズ2で出力ミラー10の表面に集光するように光学設計されている。いいかえると、出力ミラー10の表面で焦点を結ぶように光学設計される結果、出力ミラー10の表面から離間する程、光のスポット径は大きくなる。本願発明者らの研究によれば、スポット径が小さいほど光集塵の影響が大きく、逆にスポット径が大きくなると、光集塵の影響も小さくなることが判明した。そこで、焦点位置から離間させることで、すなわち出力ミラー10の反射面RSから離間させることで、光集塵の効果を抑制できる。この結果、光集塵の影響を効果的に抑制して、安価な窒化ガリウム系半導体レーザを光源としたキャッツアイ型干渉フィルタ型ECLDを実現できる。特に、光が空気中から入出射する面で光を十分に拡大させることにより、光集塵を回避できる結果、周波数安定度が高く、外部共振器型半導体レーザが実現される。また、安定的に長寿命で発振を維持することが可能となる。
[実施形態2]
【0039】
また本発明の実施形態2に係る外部共振器型半導体レーザ200の模式図を図4に示す。なお上述した部材と同様の機能を有する部材については、同じ符号を付して詳細説明を省略する。この図に示す外部共振器型半導体レーザ200は、外部共振器にアクチュエータ(図4ではピエゾ素子6)を追加している。これにより、ピエゾ素子6で共振器長を微調整して、出力されるレーザ光の波長を変更することが可能となり、線幅狭窄化や波長安定化などが容易に行える利点が得られる。ピエゾ素子6は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛等の素材で構成される。
【0040】
図4のピエゾ素子6の分解斜視図を図5に示す。この図に示すようにピエゾ素子6は円環状に構成しており、ピエゾ素子6が第二レンズ2から保護部材20を通じた出力ミラー10の反射面RSへの集光を阻害しないように構成している。
[実施形態3]
【0041】
以上の例では、保護部材20で出力ミラー10の反射面RS側を直接被覆する構成を説明した。ただ本発明は、保護部材20で出力ミラー10の反射面RSを被覆する構成に限定せず、出力ミラーの反射面を非接触で封止することで異物の侵入を防いでもよい。このような例を実施形態3に係る外部共振器型半導体レーザ300として、図6に示す。この図においても、上述した部材と同様の機能を有する部材については、同じ符号を付して詳細説明を省略する。図6に示す外部共振器型半導体レーザ300は、出力ミラー10の入射面側の集光領域を、透光性の保護部材20Bで無塵封止している。この際、光の入射面は、反射面よりも0.5~3.5mm程度離れているのが望ましい。保護部材20Bは、例えばガラス、サファイア、フッ化物材料等の材質が利用できる。この構成であれば、反射面と接合部が異なるため、接着剤などの光学ロスを伴う封止法を使っても構わないという利点がえられる。
【0042】
また、光集塵の原因となる異物の侵入を防ぐため、例えば図7に示す実施形態4に係る外部共振器型半導体レーザ400のように、共振器を封止部材20Cで被覆して無塵封止し、共振器を配置した空間内を真空または減圧状態に維持ししてもよい。あるいはまた、クリーンガスを、共振器を配置した空間内に封入してもよい。
【0043】
以上の例では、保護部材20側から光を入射し、出力ミラーの透過面TS側から光を出射する例を説明した。ただ本発明はこの構成に限られず、出力ミラー10の透過面TS側から光を入射し、保護部材20側から光を出射する構成としてもよい。このような例を実施形態5に係る外部共振器型半導体レーザとして、図8に示す。この図において、上述した部材と同じ機能を有する部材については、同じ名称を付して詳細説明を適宜省略する。図8に示す外部共振器型半導体レーザ500は、出力ミラー10’の透過面側から光を入射し、多層膜11‘を設けた反射面で光を集光し、保護部材20’から光を出射している。このような構成においても、同様に光集塵の抑制効果が発揮される。
【0044】
以上のように、本実施形態によれば、出力ミラー10の反射面RSにおいて第二レンズ2で集光させる際に障害となっていた光集塵を、この反射面RSに保護部材20を配置したこと、あるいは反射面RSを無塵封止したことで、効果的に抑制できる。すなわち、エネルギー密度の高くなる反射面RSを保護して集塵を防ぐと共に、保護部材20の表面では第二レンズ2からの光が十分に集束される前の状態で、広い面積で受けることができるため、光集塵の発現を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
実施形態に係る外部共振器型半導体レーザは、レーザ冷却・精密分光・高次高調波発生・LiDARなどに好適に利用できる。
【符号の説明】
【0046】
100、200、300、400、500…外部共振器型半導体レーザ
1…第一レンズ
2…第二レンズ
3…第三レンズ
4…半導体レーザ素子
5…波長選択素子
6…ピエゾ素子
10、10’…出力ミラー
11、11’…多層膜
20、20B、20C、20’…保護部材
700…従来の干渉フィルタを用いたECLD
701…第一レンズ
702…第二レンズ
703…第三レンズ
704…半導体レーザ素子
705…波長選択素子
710…出力ミラー
TS…透過面
RS…反射面
P1…保護部材の表面側領域
P2…保護部材の反射面領域
TA…透過面におけるビームスポット領域
RA…反射面におけるビームスポット領域
SA…保護部材表面におけるビームスポット領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9