(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】線形摩擦接合方法及び接合構造体
(51)【国際特許分類】
B23K 20/12 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
B23K20/12 D
B23K20/12 A
(21)【出願番号】P 2021036522
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2022-10-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、難接合材料を可能にする革新的接合技術の確立、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591001499
【氏名又は名称】東洋工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 鉄朗
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】南条 良典
(72)【発明者】
【氏名】和田山 高広
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-226589(JP,A)
【文献】特開2003-126968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材と他方の部材との線形摩擦接合により摩擦熱を発生させ、
前記摩擦熱の熱伝導により、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材の表面を昇温し、
前記表面に第三の部材を当接させることで、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材と、少なくとも一つの第三の部材と、を接合すること、
を特徴とする熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項2】
前記第三の部材と、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材と、の前記接合を、重ね合わせ接合とすること、
を特徴とする請求項1に記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項3】
前記線形摩擦接合の摩擦圧力によって、前記表面の温度を制御すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項4】
前記線形摩擦接合の摩擦面積によって、前記表面の温度を制御すること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項5】
前記一方の部材及び前記他方の部材を金属部材とし、
前記第三の部材を樹脂部材とすること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項6】
前記表面にシランカップリング処理を施すこと、
を特徴とする請求項5に記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項7】
前記一方の部材及び/又は前記他方の部材を、鋼、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金のうちのいずれかとすること、
を特徴とする請求項1~6のうちのいずれかに記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項8】
前記第三の部材を炭素繊維強化樹脂とすること、
を特徴とする請求項1~7のうちのいずれかに記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【請求項9】
前記一方の部材及び/又は前記他方の部材と、前記第三の部材と、の前記重ね合わせ接合において、接合圧力を印加すること、
を特徴とする請求項
2に記載の熱伝導型線形摩擦接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は線形摩擦接合方法及び当該線形摩擦接合方法によって得られる接合構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼やアルミニウム合金等の金属材料の高強度化に伴い、接合構造物の機械的特性を決定する接合部での強度低下が深刻な問題となっている。これに対し、近年、接合中の最高到達温度が被接合材の融点に達せず、接合部における強度低下が従来の溶融溶接と比較して小さい固相接合法が注目され、急速に実用化が進んでいる。
【0003】
特に、被接合材を当接させた状態で往復運動させて接合する「線形摩擦接合」は、回転する円柱状の被接合材を固定された被接合材に押し当てて接合する摩擦圧接のように被接合材の形状が円柱又は円筒状に限定されない。また、摩擦攪拌接合のように被接合材に圧入するツールを必要としないことから、鋼やチタンのような高融点・高強度金属に対しても容易に適用することができる。
【0004】
本発明者も線形摩擦接合を用いた金属材の固相接合法について精力的に検討を行っており、例えば、特許文献1(特開2018-122344号公報)において、一方の部材を他方の部材に当接させて被接合界面を形成する第一工程と、被接合界面に対して略垂直に圧力を印加した状態で、一方の部材と他方の部材とを同一軌跡上で繰り返し摺動させ、被接合界面からバリを排出させる第二工程と、摺動を停止して接合面を形成する第三工程と、を有し、圧力を、所望する接合温度における一方の部材及び/又は他方の部材の降伏応力以上かつ引張強度以下に設定すること、を特徴とする線形摩擦接合方法、を提案している。
【0005】
上記特許文献1に記載の線形摩擦接合方法においては、線形摩擦接合の印加圧力を増加させると当該摩擦熱は増加するが、軟化した材料はバリとなって連続的に排出されるため、軟化した材料に印加される圧力(バリを排出する力)によって「接合温度」が決定される。つまり、印加圧力を高く設定した場合、より高い強度(降伏強度が高い状態)の被接合材をバリとして排出することができる。ここで、「より降伏強度が高い状態」とは、「より低温の状態」を意味していることから、印加圧力の増加によって「接合温度」が低下することになる。降伏強度と温度の関係は材料によって略一定であることから、極めて正確に接合温度を制御することができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開2018-122342号公報)においては、一方の部材を他方の部材に当接させて被接合界面を形成する第一工程と、被接合界面に対して略垂直に圧力を印加した状態で、一方の部材と他方の部材とを同一軌跡上で繰り返し摺動させ、摺動の方向と略平行及び略垂直に被接合界面からバリを排出させる第二工程と、摺動を停止して接合面を形成する第三工程と、を有し、第二工程において、摺動の方向に対して略垂直の方向から被接合界面を観察し、バリが摺動の方向に対して略平行に排出された瞬間に、第三工程における停止を実行すること、を特徴とする線形摩擦接合方法、を提案している。
【0007】
上記特許文献2に記載の線形摩擦接合方法においては、摺動の方向に対して略垂直の方向から被接合界面を観察し、摺動の方向に対して略垂直に排出されるバリが当該被接合界面の両端に達した瞬間に摺動を停止することで、摺動の方向に対して略平行にバリが排出された瞬間に摺動を停止する場合と比較して、バリの排出量は若干多くなるものの、より確実に酸化物の除去等を達成することができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-122344号公報
【文献】特開2018-122342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、線形摩擦接合で形成される接合界面は被接合材同士の摺動面に限られることから、接合面積を拡大することが困難である。継手の強度や信頼性の向上が要求される場合、接合面積の拡大が効果的であるが、従来の線形摩擦接合ではこれを簡便に実現することができない。
【0010】
また、被接合材の一方が樹脂材の場合、金属材との摺動によって適当な摩擦熱を発生させることが困難であり、線形摩擦接合を用いて良好な樹脂/金属接合部を形成することができない。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、接合面積の拡大が容易な重ね合わせ接合部の形成が可能な線形摩擦接合であって、樹脂材と金属材との接合も可能な線形摩擦接合を提供することにある。また、本発明は、当該線形摩擦接合によって得られる線形摩擦接合部とその他の接合部を有する接合構造体を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、線形摩擦接合方法について鋭意研究を重ねた結果、線形摩擦接合時に発生する摩擦熱を熱伝導させることで、線形摩擦接合部とは別の接合部を形成すること等が極めて効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
一方の部材と他方の部材との線形摩擦接合により摩擦熱を発生させ、
前記摩擦熱の熱伝導により、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材の表面を昇温し、
前記表面に第三の部材を当接させることで、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材と、少なくとも一つの第三の部材と、を接合すること、
を特徴とする熱伝導型線形摩擦接合方法、を提供する。
【0014】
本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記第三の部材と前記一方の部材及び/又は前記他方の部材との前記接合を、重ね合わせ接合とすること、が好ましい。重ね合わせ接合とすることで、接合界面の面積を拡大することが容易であり、所望の接合強度を得ることができる。
【0015】
ここで、一方の部材と他方の部材を同じ材質とすれば、1種類の材質からなる部材と第三の部材とが重ね合わせ接合された継手を得ることができる。また、一方の部材と他方の部材を異なる材質とすれば、これらの異材接合と第三の部材の重ね合わせ接合を同時に達成することができる。
【0016】
線形摩擦接合は、被接合材同士を線形摺動させることで摩擦熱を発生させ、当該摺動面からバリを排出することで接合部を形成する固相接合法である。ここで、当該摩擦熱の熱伝導によって一方の部材及び他方の部材が昇温されることから、線形摩擦接合条件や被接合材の材質、大きさ(摩擦面面積や接合面面積等)及び形状等によって、一方の部材及び/又は他方の部材の被接合領域となる表面を、適当な温度に制御することができる。
【0017】
ここで、適当な表面温度とした一方の部材及び/又は他方の部材の所望の領域に第三の部材を重ね合わせることで、接合部を形成することができる。第三の部材は線形摩擦接合時から所望の領域に当接させておいてもよく、適当なタイミングで当接させてもよい。また、第三の部材は接合する部材と同じ固定治具を用いて被接合領域に当接させてもよく、別の固定治具を用いてもよい。
【0018】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記線形摩擦接合の摩擦圧力(線形摩擦接合圧力)によって、前記表面の温度を制御すること、が好ましい。一方の部材と他方の部材とを接合する際の線形摩擦接合温度を決定することができれば、熱伝導によって達成される「表面の温度」を正確に制御することができる。ここで、発明者が鋭意検討を行った結果、線形摩擦接合では、線形摩擦接合の印加圧力を増加させると当該摩擦熱は増加するが、軟化した材料はバリとなって連続的に排出されるため、軟化した材料に印加される圧力(バリを排出する力)によって「接合温度」(摩擦面での温度)が決定されることが明らかとなっている。つまり、印加圧力を高く設定した場合、より高い強度(降伏強度が高い状態)の被接合材をバリとして排出することができる。ここで、「より降伏強度が高い状態」とは、「より低温の状態」を意味していることから、印加圧力の増加によって「接合温度」が低下することになる。降伏強度と温度の関係は材料によって略一定であることから、極めて正確に接合温度を制御することができる。
【0019】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記線形摩擦接合の摩擦面積によって、前記表面の温度を制御すること、が好ましい。摩擦面積によって摩擦発熱量を制御することができるため、熱伝導によって達成される「表面の温度」及び「昇温領域」を制御することができる。ここで、摩擦面の直近における部材表面に第三の部材の接合界面を形成する場合、摩擦面積を所望の接合界面面積以上とすることで、良好な接合部を得ることができる。その他、例えば、線形摩擦接合の線形摺動に関する周波数や振幅を増加させると昇温速度が増加し、周波数や振幅を減少させると昇温速度が減少する。
【0020】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記一方の部材及び前記他方の部材を金属部材とし、前記第三の部材を樹脂部材とすること、が好ましい。金属材同士を接合する場合は、状況に応じて、接合の予備処理として酸化皮膜等の表面の不純物を除去したり、適当なインサート材を用いたりする必要がある。これに対し、第三の部材を樹脂部材とすることで、被接合界面を適当な温度に制御することで良好な接合部を得ることができる。また、第三の部材を接合するために接合圧力を印加する場合であっても、当該接合圧力を小さな値とすることができる。
【0021】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、第三の部材を樹脂部材とする場合、前記表面(一方の部材及び/又は他方の部材の表面)にシランカップリング処理を施すこと、が好ましい。金属部材と樹脂部材の被接合界面にシランカップリング処理を施すことで、接合に寄与する化学結合を増加させることができ、強固な接合界面を形成することができる。
【0022】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材を、鋼、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金のうちのいずれかとすること、が好ましい。鋼は多種多様な組成を有しており、熱伝導率の範囲も広いことから、適当な熱伝導率を有する鋼を選定することが容易である。また、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金は軽金属であり、比強度が高いことから、特に樹脂材との重ね合わせ接合を行うことで、軽量化が切望されている輸送用機器等の構造部材として好適に用いることができる。
【0023】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記第三の部材を炭素繊維強化樹脂とすること、が好ましい。炭素繊維強化樹脂は炭素繊維と樹脂マトリックスからなる複合材料であり、主として炭素繊維によって強度が発現されている。ここで、基本的に共有結合からなる炭素繊維と金属材を直接接合することはできないため、炭素繊維強化樹脂と金属材との接合において強度を担うのは、樹脂マトリックスと金属材との接合界面となる。その結果、接合面積が小さくなる突合せ接合では十分な接合強度を得ることが極めて難しいが、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては重ね合わせ接合部を形成することができる。重ね合わせ接合では任意の接合面積を決定することができることから、第三の部材を炭素繊維強化樹脂とした場合であっても、高い接合強度を有する良好な継手を得ることができる。
【0024】
また、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法においては、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材と前記第三の部材との前記重ね合わせ接合において、接合圧力を印加すること、が好ましい。適当な温度に昇温された被接合界面において、一方の部材及び/又は他方の部材と第三の部材が良好に密着していれば、これらの部材を接合することは可能であるが、接合圧力を印加することで、接合強度を向上させることができる。
【0025】
また、本発明は、
一方の部材と他方の部材との線形摩擦接合部と、
前記一方の部材及び/又は前記他方の部材と、第三の部材との接合部と、を有すること、
を特徴とする接合構造体、も提供する。
前記接合部は、重ね合わせ接合部であることが好ましい。
【0026】
一方の部材と他方の部材は同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。また、線形摩擦接合部とその他の接合部の数は特に限定されず、複数の線形摩擦接合部と複数の線形摩擦接合部以外の接合部を有していてもよい。また、「線形摩擦接合部」は、一方の部材と他方の部材との線形摩擦接合によって形成されて接合部を広く含み、例えば、突合せ接合部やT字接合部とすることができる。
【0027】
本発明の接合構造体においては、前記一方の部材及び前記他方の部材が金属部材であり、前記第三の部材が樹脂部材であること、が好ましい。一般的に、樹脂部材は金属部材よりも強度が低いことから、接合面積の拡大が容易な重ね合わせ接合部によって接合されることで、各用途に応じた所望の強度及び信頼性を担保することができる。
【0028】
また、本発明の接合構造体においては、前記一方の部材及び/又は前記他方の部材が、鋼、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金のうちのいずれかであること、が好ましい。一方の部材及び/又は他方の部材を鋼とすることで、各種産業界で使用されている種々の構造部材として活用することができる。また、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金は軽金属であり、比強度が高いことから、特に樹脂材との重ね合わせ接合を行うことで、軽量化が切望されている輸送用機器等の構造部材として好適に用いることができる。
【0029】
更に、本発明の接合構造体においては、前記第三の部材が炭素繊維強化樹脂であること、が好ましい。炭素繊維強化樹脂を重ね合わせ接合部によって接合することにより、接合面積を調整することができ、強度の高い炭素繊維と樹脂マトリックスからなる炭素繊維強化樹脂であっても、十分な強度と信頼性を有する接合構造体とすることができる。
【0030】
本発明の接合構造体は、本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法を用いて好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、接合面積の拡大が容易な重ね合わせ接合部の形成が可能な線形摩擦接合であって、樹脂材と金属材との接合も可能な線形摩擦接合を提供することができる。また、本発明によれば、当該線形摩擦接合によって得られる線形摩擦接合部とその他の接合部を有する接合構造体を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】一般的な線形摩擦接合中の状況を示す模式図である。
【
図2】本発明の熱伝導型線形摩擦接合の模式図(重ね合わせ接合)である。
【
図3】本発明の熱伝導型線形摩擦接合の模式図(突合せ接合)である。
【
図4】重ね合わせ接合部を有する接合構造体の模式図である。
【
図5】突合せ接合部のみからなる接合構造体の模式図である。
【
図6】実施例1における熱伝導型線形摩擦接合の状況を示す模式図である。
【
図7】周波数15Hzの条件で得られた継手の外観写真である。
【
図8】実施例1及び実施例2で得られた各継手の接合界面強度を示すグラフである。
【
図9】実施例3における接合の状況を示す模式図である。
【
図10】実施例3で得られた継手の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の熱伝導型線形摩擦接合方法及び接合構造体の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0034】
(1)熱伝導型線形摩擦接合方法
図1に一般的な線形摩擦接合中の状況を示す模式図を示す。線形摩擦接合は被接合材同士を線形運動で擦りあわせた際に生じる摩擦熱を主な熱源とする固相接合である。線形摩擦接合においては、昇温によって軟化した材料を被接合界面からバリとして排出することで、被接合界面に形成していた酸化被膜を除去し、新生面同士を当接させることで接合部が形成する。
【0035】
図2に、本発明の熱伝導型線形摩擦接合の模式図(重ね合わせ接合)を示す。ここでは、一方の部材2と他方の部材4とを線形摩擦接合によって突合せ接合すると共に、一方の部材2と第三の部材6とを重ね合わせ接合する場合について説明する。
【0036】
一方の部材2と他方の部材4とを線形摩擦接合する方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の線形摩擦接合装置を用いた線形摩擦接合方法を用いることができる。また、一方の部材2と他方の部材4の材質、サイズ及び大きさも、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の線形摩擦接合方法で接合できるものであればよい。
【0037】
本発明の熱伝導型線形摩擦接合においては、一方の部材2と他方の部材4とを被接合界面8で当接させ、被接合界面8に対して接合圧力P1を印加した状態で線形摺動させることで、被接合界面8に摩擦熱を発生させる。ここで、第三の部材6は一方の部材2の任意の表面に重ね合わせ、重ね合わせ被接合界面10を形成し、線形摩擦接合による摩擦熱が熱伝導し、重ね合わせ被接合界面10を昇温することで、一方の部材2と第三の部材6との重ね合わせ接合が達成される。なお、
図2においては、一方の部材2及び第三の部材6が固定され、他方の部材4が振動する場合を示している。
【0038】
一方の部材2と第三の部材6との重ね合わせ接合においては、重ね合わせ被接合界面10に対して略垂直方向に重ね合わせ接合圧力P2を印加することが好ましい。接合圧力P2を印加することを目的とした押圧機構を設けてもよく、例えば、一方の部材2と第三の部材6を一つの固定治具で把持することで接合圧力P2を発現させてもよい。
【0039】
重ね合わせ被接合界面10は、線形摩擦接合によって発生する摩擦熱の熱伝導によって昇温される。即ち、重ね合わせ被接合界面10の温度は、一方の部材2と他方の部材4とを接合する線形摩擦接合の接合条件(接合圧力、振幅、周波数及び寄り代等)、一方の部材2と他方の部材4の摩擦面積、重ね合わせ被接合界面10と被接合界面8との距離、一方の部材2と他方の部材4の熱伝導率、及び固定治具のサイズや熱伝導率等によって制御することができる。
【0040】
図3に、本発明の熱伝導型線形摩擦接合の模式図(突合せ接合)を示す。ここでは、一方の部材2と他方の部材4とを線形摩擦接合によって突合せ接合すると共に、一方の部材2と第三の部材6とを突合せ接合する場合について説明する。一方の部材2と第三の部材6とを突き合せる端部は、例えば、一方の部材2に凹部、第三の部材6に凸部を設け、互いに嵌合させておいてもよい。
【0041】
図3に示す態様においては、線形摩擦接合における被接合界面8で発生する摩擦熱の熱伝導により、一方の部材2と第三の部材6とが当接した被接合界面12が昇温され、一方の部材2と第三の部材6とが接合されることになる。なお、
図3においては、一方の部材2及び第三の部材6が固定され、他方の部材4が振動する場合を示している。
【0042】
被接合界面12では一方の部材2と第三の部材6とが摺動しておらず、昇温と押圧によって接合が達成されるため、例えば、被接合界面12を形成する一方の部材2及び/又は第三の部材6の端面にシランカップリング処理等を施している場合、当該処理表面が除去されることなく、良好な接合界面を得ることができる。
【0043】
(2)接合構造体
本発明の接合構造体に関して、重ね合わせ接合部を有する場合及び突合せ接合部のみからなる場合の模式図を
図4及び
図5にそれぞれ示す。なお、これらの接合構造体では3つの部材が接合された場合を示しているが、本発明の接合構造体はこれに限られず、線形摩擦接合部と熱伝導による昇温を利用して接合された接合部を有していればよい。
【0044】
図4においては、一方の部材2と他方の部材4が線形摩擦接合界面20を介して接合され、第三の部材6と一方の部材2とが重ね合わせ接合界面22を介して接合されている。ここで、重ね合わせ接合界面22は面積の拡大が容易であることから、例えば、第三の部材6が強度の高い炭素繊維と樹脂マトリックスからなる炭素繊維強化樹脂であっても、十分な強度と信頼性を有する接合構造体とすることができる。
【0045】
図5においては、一方の部材2と他方の部材4が線形摩擦接合界面20を介して接合され、第三の部材6と一方の部材2とが突合せ接合界面24を介して接合されている。ここで、突合せ接合界面24は昇温と接合圧力の印加によって形成されたものであり、例えば、シランカップリング処理等を施している場合であっても、当該処理表面が除去されることなく、良好な接合界面が形成されている。
【0046】
一方の部材2及び/又は他方の部材4は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、線形摩擦接合によって接合が可能な従来公知の種々の構造材を用いることができるが、鋼、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金のうちのいずれかであること、が好ましい。一方の部材2及び/又は他方の部材4を鋼とすることで、各種産業界で使用されている種々の構造部材として活用することができる。また、チタン合金、アルミニウム合金及びマグネシウム合金は軽金属であり、比強度が高いことから、特に樹脂材との重ね合わせ接合を行うことで、軽量化が切望されている輸送用機器等の構造部材として好適に用いることができる。
【0047】
第三の部材6についても、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の構造材とすることができるが、炭素繊維強化樹脂とすることが好ましい。炭素繊維強化樹脂を重ね合わせ接合部によって接合することにより、接合面積を調整することができ、強度の高い炭素繊維と樹脂マトリックスからなる炭素繊維強化樹脂であっても、十分な強度と信頼性を有する接合構造体とすることができる。
【0048】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0049】
≪実施例1≫
図6に示す態様で、アルミニウム合金(A6061-T6)板同士を線形摩擦接合すると同時に、一方のアルミニウム合金板と炭素繊維強化樹脂(CFRP,炭素繊維20wt%添加ポリアミド6)板を重ね合わせ接合した。ここで、重ね合わせ接合界面を形成するアルミニウム合金板の表面には、シランカップリング処理を施した。シランカップリング剤はOFS-6040(3-Glycidoxypropyl trimethoxysilane,Epoxy functional)であり、アルミニウム合金板の表面にエポキシ基を導入することができる。
【0050】
アルミニウム合金板と炭素繊維強化樹脂の形状及びサイズは
図6に示すとおりであり(単位はmm)、線形摩擦接合条件は、印加圧力を50MPa、振幅を2mm、周波数を15~50Hz、寄り代を3mmとした。炭素繊維強化樹脂はアルミニウム合金板の表面に当接させた状態で、固定治具を用いて当該アルミニウム合金板と一体に固定した。線形摩擦接合においては、炭素繊維強化樹脂と当接させたアルミニウム合金板を固定側とし、他方のアルミニウム合金板を振動側とした。
【0051】
図7に、周波数15Hzの条件で得られた継手の外観写真を示す。アルミニウム合金同士の線形摩擦接合部と、アルミニウム合金と炭素繊維強化樹脂との重ね合わせ接合部が形成されていることが分かる。なお、炭素繊維強化樹脂に当接させたアルミニウム合金板については、重ね合わせ接合に寄与していない領域は切断している。
【0052】
≪実施例2≫
線形摩擦接合にチタン合金(Ti-6Al-4V)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、チタン合金板同士を線形摩擦接合すると同時に、一方のチタン合金板と炭素繊維強化樹脂(CFRP,炭素繊維20wt%添加ポリアミド6)板を重ね合わせ接合した。
【0053】
実施例1及び実施例2で得られた各継手について引張試験を行い、測定された試験荷重を接合面積で除して、接合界面強度を算出した。得られた結果を
図8に示す。比較として、実施例1と同様のシランカップリング処理を用い、摩擦攪拌接合(FSW)によってチタン合金(Ti-6Al-4V)板と炭素繊維強化樹脂(CFRP,炭素繊維20wt%添加ポリアミド6)板を重ね合わせ接合した場合に得られる接合界面強度も合わせて示す。
図8に示すように、本願発明の熱伝導型線形摩擦接合によって得られる重ね合わせ接合部は、摩擦攪拌接合によって得られる重ね合わせ接合部と比較しても、十分に高い接合界面強度を有していることが分かる。
【0054】
ここで、
図8に示す接合界面強度に大きな差は認められないが、アルミニウム合金板の場合及びチタン合金板の場合共に、線形摩擦接合の周波数の低下に伴って接合面積が増加していた。これは、周波数が低いほど摩擦による昇温速度が小さくなり、接合時間が長くなった結果である。接合時間が長くなることで摩擦熱がより広範囲に伝導し、接合面積が拡大されたものと考えられる(なお、振幅を低下させても接合時間が長くなる。)。また、アルミニウム合金とチタン合金の熱伝導率はそれぞれ180W/m・K、7.2 W/m・Kであり、熱伝導率の高いアルミニウム合金では、線形摩擦接合条件が同じ場合はチタン合金の場合の約2倍の接合面積となっていた。
【0055】
なお、比較として行った摩擦攪拌接合の条件は、ツールの回転速度を300rpm、ツールの移動速度(接合速度)を100mm/min、ツールの前進角を3°とし、突起部のない平滑な底面を有する直径15mmの円柱状の超硬合金製摩擦攪拌接合用ツールを用いて摩擦攪拌接合を施した。接合部にはアルゴンガスをフローさせ、ツール底面を純チタン板の表面から0.9mm挿入した。
【0056】
≪実施例3≫
図9に示す態様で、チタン合金(Ti-6Al-4V)板同士を線形摩擦接合すると同時に、一方のチタン合金板と炭素繊維強化樹脂(CFRP,炭素繊維20wt%添加ポリアミド6)板を突合せ接合した。ここで、突合せ接合界面を形成するチタン合金板の表面には、実施例1と同様のシランカップリング処理を施した。線形摩擦接合条件は、印加圧力を50MPa、振幅を2mm、周波数を15Hz、寄り代を1.5mmとした。
【0057】
得られた継手の正面からの外観写真を
図10に示す。チタン合金板同士が線形摩擦接合されていることに加え、チタン合金板と炭素繊維強化樹脂が突合せ接合されていることが分かる。チタン合金板と炭素繊維強化樹脂の接合は、線形摩擦接合部からの熱伝導と、線形摩擦接合によって印加される接合圧力によって形成されたものである。
【符号の説明】
【0058】
2・・・一方の部材、
4・・・他方の部材、
6・・・第三の部材、
8・・・被接合界面、
10・・・重ね合わせ被接合界面、
12・・・被接合界面、
20・・・線形摩擦接合界面、
22・・・重ね合わせ接合界面、
24・・・突合せ接合界面。