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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】撥水性アルミニウム材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 11/18 20060101AFI20231013BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20231013BHJP
   C25D 11/12 20060101ALI20231013BHJP
   C25D 11/24 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C25D11/18 301F
C25D11/04 302
C25D11/12 Z
C25D11/24 302
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022517589
(86)(22)【出願日】2021-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2021014747
(87)【国際公開番号】W WO2021220748
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2020079723
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植野 純平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀也
(72)【発明者】
【氏名】都 ▲ヒョンジョン▼
(72)【発明者】
【氏名】益田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】柳下 崇
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-115219(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021367(WO,A1)
【文献】特開平07-268687(JP,A)
【文献】特開2007-138232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/04-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材上に形成された陽極酸化被膜と、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の表面に沿って形成された撥水層と、を有する撥水性アルミニウム材であって、
前記陽極酸化被膜が、複数の細孔を有し、かつ、前記細孔が、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の平坦上面に開口部を有し、
前記細孔の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔の前記開口部から前記細孔の底部に向かって狭まる形状を有し、
前記撥水層が、下記式(2-1)~(2-4)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物、下記式(4-1)で表される化合物及び下記式(5-1)で表される化合物からなる群から選択される1種以上の低表面エネルギー物質を含む撥水性アルミニウム材。
【化1】
(前記式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、
rは繰り返し数を示す整数である。
21 は、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
23 は、2価の連結基である。
Zは、3価の連結基である。
Qは、それぞれ独立に、有機基又は-Si(A) で表されるシリル基であり、2つのBのうち少なくとも1つはSi(A) で表されるシリル基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。
【化2】
(前記式(3)中、
PFPEは、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖である。
及びY は、それぞれ独立に、直接結合又は2価の連結基である。
及びZ は、それぞれ独立に、2価の連結基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。前記2つのSi(A) で表されるシリル基は互いに同じでも異なってもよい。)
【化3】
(前記式(4-1)において、
rは繰り返し数を示す整数である。
41 は、炭素原子数1~6のアルキレン基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【化4】
(前記式(5-1)において、
lは繰り返し数を示す整数である。
mは繰り返し数を示す整数である。
51 は、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【請求項2】
前記細孔の開口部から前記細孔の底部に向かって狭まる形状が、前記細孔の前記開口部から前記細孔の底部に向かって段階的に狭まる形状である、請求項1に記載の撥水性アルミニウム材。
【請求項3】
前記細孔が、アルミニウム基材の表面を陽極酸化処理と孔径拡大処理とをこの順にそれぞれ2回以上施すことにより形成された細孔である、請求項1又は2に記載の撥水性アルミニウム材。
【請求項4】
前記細孔の細孔周期が、100nm以上から1000nm以下までの範囲である、請求項1~3のいずれか1項に記載の撥水性アルミニウム材。
【請求項5】
前記撥水層の厚さが、1nm以上から100nm以下までの範囲である、請求項1~4のいずれか1項に記載の撥水性アルミニウム材。
【請求項6】
前記低表面エネルギー物質が、フッ素含有基、シリコーン含有基及び炭化水素基からなる群から選択される1種以上の撥水性基と、スルフィド、チオール基、アミノ基、スルホニル基、水酸基、カルボキシル基、リン酸含有基及びアルコキシシリル基からなる群から選択される1種以上の酸化アルミニウム反応性基とを有する化合物である請求項1~5のいずれか1項に記載の撥水性アルミニウム材。
【請求項7】
アルミニウム基材の表面を陽極酸化して陽極酸化被膜及び細孔を形成する陽極酸化処理、及び前記陽極酸化によって形成された細孔の孔径を拡大化する孔径拡大化処理をこの順にそれぞれ2回以上施す陽極酸化皮膜形成工程、及び
前記陽極酸化皮膜の、前記アルミニウム基材と反対側の表面に沿って低表面エネルギー物質を含む撥水層を形成する撥水層形成工程を有し、
前記陽極酸化被膜が、複数の細孔を有し、かつ、前記細孔が、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の平坦上面に開口部を有し、
前記細孔の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔の前記開口部から前記細孔の底部に向かって狭まる形状を有する、撥水性アルミニウム材の製造方法であって、
前記低表面エネルギー物質が、下記式(2-1)~(2-4)で表される化合物、下記式(3)で表される化合物、下記式(4-1)で表される化合物及び下記式(5-1)で表される化合物からなる群から選択される1種以上である、撥水性アルミニウム材の製造方法
【化5】
(前記式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、
rは繰り返し数を示す整数である。
21 は、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
23 は、2価の連結基である。
Zは、3価の連結基である。
Qは、それぞれ独立に、有機基又は-Si(A) で表されるシリル基であり、2つのBのうち少なくとも1つはSi(A) で表されるシリル基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。
【化6】
(前記式(3)中、
PFPEは、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖である。
及びY は、それぞれ独立に、直接結合又は2価の連結基である。
及びZ は、それぞれ独立に、2価の連結基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。前記2つのSi(A) で表されるシリル基は互いに同じでも異なってもよい。)
【化7】
(前記式(4-1)において、
rは繰り返し数を示す整数である。
41 は、炭素原子数1~6のアルキレン基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【化8】
(前記式(5-1)において、
lは繰り返し数を示す整数である。
mは繰り返し数を示す整数である。
51 は、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
前記Si(A) で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性アルミニウム材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空調機、冷蔵機、冷凍機、電気自動車などには、熱交換器が用いられており、従来から、冷蔵庫用や空気調和機用の蒸発器等の熱交換器においては、その軽量化や熱効率の向上、更にはコンパクト化等の要請に応えるために、フィン材としては、各種アルミニウム材が用いられ、フィン間隔を出来るだけ狭くする設計が取り入れられている。このような熱交換器は、フィン表面に凝縮によって水滴が付着したり、また、暖房運転時の室外機では、大気温度が低いために、フィン表面の結露水が霜となり凍り付くことによって、通風抵抗が増大し、熱交換効率が著しく低下する問題を抱えている。
【0003】
この問題を解決すべく、特許文献1ではフィン表面に親水性を有する塗膜を形成することによってフィン表面に付着する水滴を流れ落としたり除霜時の水滴残留を少なくするようにしている。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、塗膜が親水性のためどうしても水残りが生じてしまい、そこから短時間で再着霜が起きてしまうという問題がある。
【0005】
親水性に対し、アルミフィンに撥水性を付与させて水滴を弾き落とす手法も検討されている(例えば、特許文献2)。撥水表面は霜の発生を遅らせる効果が確認されているが、一旦発生した水滴を除去するのが困難である。即ち、撥水性と液滴の転がり易さ、水滴除去性は、必ずしも相関のあるものでは無く、それ故に既存の撥水コーティングでは滑水性が充分ではないという課題がある。
【0006】
滑水性を向上させるため、エッチングでアルミ表面に凹凸を付けたり、撥水性微粒子を用いて凹凸をつける方法も検討されている(例えば、特許文献3、4)が、前者も滑水性が充分ではなく、後者は粒子の分散に課題があり、流水耐久性も劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平6-300482号公報
【文献】特開2013-147573号公報
【文献】特開2013-36733号公報
【文献】特開2013-103414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた滑水性と流水耐久性を有し、実用性に優れる撥水性アルミニウム材を提供することを課題とする。
【0009】
また、本発明は、プロセス適正に優れながら優れた滑水性と流水耐久性を有し、実用性に優れる撥水性アルミニウム材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討を行った。その結果、特定の構造の陽極酸化被膜及び撥水層を有する撥水性アルミニウム材及びその製造方法は、プロセス適正に優れながら優れた滑水性と流水耐久性を有し、実用性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、アルミニウム基材と、前記アルミニウム基材上に形成された陽極酸化被膜と、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の表面に沿って形成された撥水層とを有する撥水性アルミニウム材であって、前記陽極酸化被膜が、複数の細孔を有し、かつ、前記細孔が、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の平坦上面に開口部を有し、前記細孔の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔の前記開口部から前記細孔の底部に向かって狭まる形状を有し、前記撥水層が低表面エネルギー物質を含む撥水性アルミニウム材である。
【0012】
また、本発明は、アルミニウム基板の表面を陽極酸化して陽極酸化被膜及び細孔を形成する陽極酸化処理、及び前記陽極酸化によって形成された細孔の孔径を拡大化する孔径拡大化処理をこの順にそれぞれ2回以上施す陽極酸化皮膜形成工程、及び前記陽極酸化皮膜の、前記アルミニウム基材と反対側の表面に沿って低表面エネルギー物質を含む撥水層を形成する撥水層形成工程を有し、前記陽極酸化被膜が、複数の細孔を有し、かつ、前記細孔が、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の平坦上面に開口部を有し、前記細孔の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔の前記開口部から前記細孔の底部に向かって狭まる形状を有する、撥水性アルミニウム材の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた滑水性と流水耐久性を有し、実用性に優れる撥水性アルミニウム材を提供することができる。
【0014】
また、本発明によれば、プロセス適正に優れながら優れた滑水性と流水耐久性を有し、実用性に優れる撥水性アルミニウム材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の撥水性アルミニウム材の断面の一例を示す概略図
図2】本発明の前記撥水性アルミニウム材を製造する各工程における加工状態を示す概略図
図3】本発明の前記撥水性アルミニウム材を製造する各工程における加工状態を示す概略図
図4】本発明の前記撥水性アルミニウム材を製造する各工程における加工状態を示す概略図
図5】本発明の前記撥水性アルミニウム材を製造する各工程における加工状態を示す概略図
図6】本発明の製造例に係る陽極酸化皮膜のSEM写真
図7】本発明の製造例に係る陽極酸化皮膜の断面のSEM写真
図8】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜のSEM写真
図9】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜の断面のSEM写真
図10】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜のSEM写真
図11】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜の断面のSEM写真
図12】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜のSEM写真
図13】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜の断面のSEM写真
図14】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜のSEM写真
図15】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜の断面のSEM写真
図16】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜のSEM写真
図17】本発明の比較製造例に係る陽極酸化皮膜の断面のSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る撥水性アルミニウム材について図1を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態の撥水性アルミニウム材1の深さ方向の断面の概略図である。
【0017】
前記撥水性アルミニウム材1は、アルミニウム基材11と、前記アルミニウム基材11上に形成された陽極酸化被膜12と、前記陽極酸化被膜12の、前記アルミニウム基材11と反対側の表面に沿って形成された撥水層13とを有する。前記陽極酸化被膜12は、複数の細孔121を有し、前記細孔121が、前記陽極酸化被膜12の、前記アルミニウム基材11と反対側の平坦上面122に開口部123を有し、前記細孔121の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔121の前記開口部123から前記細孔121の底部124に向かって狭まる形状を有する。本実施形態において、前記撥水層13が形成されている、「前記アルミニウム基材11と反対側の表面」は、開口部123を有する平坦上面122と前記細孔121の内部表面とを含む。従って、前記撥水層13は、平坦上面122及び前記細孔121の内部表面に沿って形成されている。当該撥水層13は低表面エネルギー物質を含む。前記撥水性アルミニウム材1は、優れた滑水性と流水耐久性を有し、実用性に優れる。
【0018】
前記アルミニウム基材11を構成するアルミニウムは、アルミニウムであれば特に限定されない。アルミ中に存在する不純物の影響の観点から、アルミニウム基材のアルミニウム純度は、99.00質量%以上が好ましく、99.50質量%以上がより好ましく、99.90質量%以上が更に好ましい。
【0019】
前記細孔の開口部123から前記細孔の底部124に向かって狭まる形状は、超滑水性に加え、耐久性を付与できる点から、前記開口部123から前記細孔の底部124に向かって段階的に狭まる形状が好ましい。この形状にすることによって、水滴と接する箇所の面積を小さくすることができ、形状の維持即ち耐久性も付与できる。図1において、前記細孔の開口部123から前記細孔の底部124に向かって狭まる形状は、1段階狭くなっているが、2段階以上でもよい。また、前記細孔の開口部123から前記細孔の底部124に向かって段階的に狭くなる形状は、滑らかな形状であってもよい。また、前記細孔121の開口部123から前記細孔121の底部124に向かって狭まる形状は、前記細孔121の前記開口部123から前記細孔121の底部124に向かって曲線的に狭まる釣り鐘形状であってもよい。
【0020】
前記細孔121の形状は、アルミニウム基材の表面を陽極酸化処理と孔径拡大処理とをそれぞれ2回以上施すことにより形成される。陽極酸化処理と孔径拡大処理の回数が多いほど、前記細孔121の開口部123から前記細孔121の底部124に向かって狭まる形状は滑らかになる傾向にある。そのため、陽極酸化処理と孔径拡大処理の回数を調整することによって、前記細孔121の開口部123から前記細孔121の底部124に向かって狭まる形状を調整できる。
【0021】
前記細孔121の細孔周期Pは、水滴と接する点の距離を確保すると超滑水性発現に有利であるため、細孔周期Pの下限は好ましくは100nm以上である。また、細孔周期Pの上限は好ましくは1000nm以下であり、生産性の観点からより好ましくは200nm以下である。なお、前記細孔周期Pとは、細孔121の中心とその隣の細孔121の中心までの距離を意味する。当該細孔周期Pは実施例に記載の方法により測定する。
【0022】
前記細孔121の細孔深さDは、流水耐久性を確保する観点から、好ましくは100nm以上1000nm以下の範囲である。なお、前記細孔深さDとは、前記平坦上面122から前記底部124までの深さを意味する。
【0023】
前記撥水層13が含む低表面エネルギー物質とは、水よりも表面自由エネルギーが低い物質であり、例えば、フッ素含有基、シリコーン含有基及び炭化水素基からなる群から選択される1種以上の撥水性基と、スルフィド、チオール基、アミノ基、スルホニル基、水酸基、カルボキシル基、リン酸含有基及びアルコキシシリル基からなる群から選択される1種以上の酸化アルミニウム反応性基とを有する化合物である。当該低表面エネルギー物質のより具体的な例としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素含有化合物、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン等のシリコーン系化合物等が挙げられる。
【0024】
低表面エネルギー物質は、より優れた超滑水性を発現する点から、パーフルオロアルキル基及び/又はパーフルオロポリエーテル基を有する含フッ素化合物であると好ましく、C2n+1で表されるパーフルオロアルキル基(nは1以上の整数である)、F(C2nO)で表されるパーフルオロポリエーテル基(nは1以上の整数であり、mは繰り返し数を示す整数である)、及びCFO(C2nO)で表されるパーフルオロポリエーテル基(nは1以上の整数であり、mは繰り返し数を示す整数である)からなる群から選択される1種以上と、Si(A)で表されるシリル基(3つのAは、それぞれ独立に加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である)を有する含フッ素化合物であるとより好ましい。
【0025】
前記C2n+1で表されるパーフルオロアルキル基において、nは1~6の範囲であると好ましい。
【0026】
前記F(C2nO)で表されるパーフルオロポリエーテル基において、nは1~6の範囲であると好ましく、1~3の範囲であるとより好ましく、mは、例えば平均5~100の範囲であり、平均8~80の範囲であると好ましく、平均10~60の範囲であるとより好ましい。
【0027】
前記CFO(C2nO)で表されるパーフルオロポリエーテル基において、nは1~6の範囲であると好ましく、1~3の範囲であるとより好ましく、mは、例えば平均5~100の範囲であり、平均8~80の範囲であると好ましく、平均10~60の範囲であるとより好ましい。
【0028】
含フッ素化合物は、(C2nO)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖(nは1以上の整数であり、mは繰り返し数を示す整数である)を含んでもよい。
【0029】
前記加水分解性基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシエトキシ基等のアルコキシ基置換アルコキシ基;アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等のアシルオキシ基;イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基等のアルケニルオキシ基;ジメチルケトキシム基、メチルエチルケトキシム基、ジエチルケトキシム基、シクロヘキサンオキシム基等のイミンオキシ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の置換アミノ基;N-メチルアセトアミド基、N-エチルアミド基等のアミド基;ジメチルアミノオキシ基、ジエチルアミノオキシ基等の置換アミノオキシ基;塩素等のハロゲン等が挙げられる。これら加水分解性基の中でも、加水分解の速度が早く、耐久性に優れる被膜を迅速に形成することができることからアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1~6のアルコキシ基がより好ましく、炭素原子数1~3のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましく、メトキシ基が最も好ましい。
【0030】
前記非加水分解性基としては、例えば、炭素原子数1~20の範囲のアルキル基、炭素原子数2~20の範囲のアルケニル基、炭素原子数6~20の範囲のアリール基、炭素原子数7~20の範囲のアラルキル基等が挙げられる。これら非加水分解性基の中でも、立体障害を避けて加水分解速度を早くでき、その結果、耐久性に優れる被膜を迅速に形成することができることから炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0031】
Si(A)で表されるシリル基中の加水分解性基の数は少なくとも1つであり、より耐久性に優れる被膜が形成できることから2つ以上が好ましく、3つ全てが加水分解性基であるとより好ましい。尚、Si(A)で表されるシリル基中の加水分解性基が2以上ある場合、2以上の加水分解性基は互いに同じでも異なってもよい。また、Si(A)で表されるシリル基が2以上ある場合、少なくとも1つのSi(A)で表されるシリル基が加水分解性基を有すればよい。同様に、Si(A)で表されるシリル基中の非加水分解性基が2以上ある場合、2以上の非加水分解性基は互いに同じでも異なってもよい。
【0032】
前記含フッ素化合物は、好ましくは下記式(1-1)又は(1-2)で表される化合物である。
【0033】
【化1】
【0034】
(前記式(1-1)及び(1-2)において、
Rfは、それぞれ独立に、C2n+1で表されるパーフルオロアルキル基(nは1以上の整数である。)である。
前記Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。
Xは、下記式(X-1)~(X-11)で表される連結基のいずれかである。)
【0035】
【化2】
【0036】
(前記式(X-1)~(X-11)において、
Rfは、C2n+1で表されるパーフルオロアルキル基(nは1以上の整数である。)である。
11は、直接結合、又は炭素原子数1~6のアルキレン基である。
11が複数ある場合、複数のR11は互いに同じでも異なってもよい。
12は、炭素原子数1~6のアルキル基である。)
【0037】
式(1-1)及び(1-2)において、C2n+1で表されるパーフルオロアルキル基及びSi(A)で表されるシリル基の好ましい形態については、それぞれ上述した通りである。
【0038】
式(1-1)又は(1-2)で表される化合物の具体例としては、例えば下記が挙げられる。
【0039】
【化3】
【0040】
式(1-1)又は(1-2)で表される化合物の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができ、例えば国際公開番号WO2015/152265に開示の方法により製造できる。
【0041】
前記含フッ素化合物は、好ましくは下記式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物である。
【0042】
【化4】
【0043】
(前記式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、
rは繰り返し数を示す整数である。
21は、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
23は、2価の連結基である。
Zは、3価の連結基である。
Qは、それぞれ独立に、有機基又は-Si(A)で表されるシリル基であり、2つのBのうち少なくとも1つはSi(A)で表されるシリル基である。
前記Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0044】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、rの繰り返し数は、平均で5~100の範囲であると好ましく、平均で8~80の範囲がより好ましく、平均で10~60の範囲がさらに好ましい。
【0045】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、R21の炭素原子数1~6のアルキレン基としては、炭素原子数3のアルキレン基が好ましい。
【0046】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、Si(A)で表されるシリル基の好ましい形態については、上述した通りである。
【0047】
式(2-1)及び(2-2)において、Qが有機基である場合、当該有機基としては、例えば、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、フェニル基等が挙げられる。
Qの有機基が置換アルキル基である場合、当該置換アルキル基としては、例えば、炭素原子数1~6の部分フッ素化アルキル基、炭素原子数1~6のパーフルオロアルキル基等が挙げられる。
【0048】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)及び(2-4)において、R23の2価の連結基としては、下記式(R-1)で表される連結基、又は下記式(R-2)で表される連結基が好ましい。
【0049】
【化5】
【0050】
(前記式(R-1)及び(R-2)中、
24は炭素原子数1~3の範囲のアルキレン基である。
25は直接結合又は炭素原子数1~6のアルキレン基である。
26は炭素原子数1~5の範囲のアルキレン基である)
【0051】
式(R-1)で表される連結基の具体例としては、下記が挙げられる。
【0052】
【化6】
【0053】
式(R-2)で表される連結基の具体例としては、下記が挙げられる。
【0054】
【化7】
【0055】
式(R-1)及び(R-2)表される連結基としては、式(R-1-1)、(R-1-3)、(R-1-4)、(R-2-5)、(R-2-6)、(R-2-8)で表される連結基が好ましく、式(R-1-3)及び(R-1-4)で表される連結基がより好ましい。
【0056】
式(2-2)及び(2-4)におけるZの3価の連結基としては、好ましくは炭素原子数4~8の3価の環状脂肪族基であり、より好ましくは3価のシクロヘキシル基である。
【0057】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物の具体例としては、例えば下記が挙げられる。
【0058】
【化8】
【0059】
【化9】
【0060】
【化10】
【0061】
【化11】
【0062】
(前記式(2-1-11)及び(2-1-12)中、aは1~6の整数である。)
【0063】
【化12】
【0064】
【化13】
【0065】
【化14】
【0066】
【化15】
【0067】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。
以下、式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物の製造方法の一実施形態について説明する。
【0068】
式(2-1)及び(2-2)で表される化合物の製造方法は、例えば下記式(β-1)で表されるカルボン酸と、下記式(β-2)又は下記式(β-3)で表されるエポキシシラン化合物とを反応させて、エポキシ基由来の2級水酸基を有する反応物を調製する第1工程と、前記第1工程で得られた反応物と下記式(βー4)で表されるイソシアネート化合物とを反応させる第2工程を含む。
【0069】
【化16】
【0070】
(前記式(β-1)中、rは繰り返し数である。)
【0071】
【化17】
【0072】
(前記式(β-2)及び式(β-3)中、
23は、2価の連結基である。
Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0073】
【化18】
【0074】
(前記式(β-4)中、
21は炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0075】
式(β-2)で表される化合物の代わりに、下記式(β-5)で表される化合物を用いてもよい。
【0076】
【化19】
【0077】
(前記式(β-5)中、
23は、2価の連結基である。
Gは、有機基である。)
【0078】
式(2-3)及び(2-4)で表される化合物を製造する場合は、前記第1工程を含めばよく、前記第2工程を省略することができる。
【0079】
式(β-2)で表される化合物の具体例としては、下記が挙げられる。
【0080】
【化20】
【0081】
式(β-3)で表される化合物の具体例としては、下記が挙げられる。
【0082】
【化21】
【0083】
式(β-4)で表される化合物の具体例としては、下記が挙げられる。
【0084】
【化22】
【0085】
(式中、R21は炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基であり、炭素原子数1~3の範囲のアルキレン基が好ましく、n-プロピレン基がより好ましい)
【0086】
式(β-5)で表される化合物の具体例としては、下記が挙げられる。
【0087】
【化23】
【0088】
(aは1~6の範囲の整数である。)
【0089】
式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物の製造方法では、必要に応じて有機溶剤存在下で行ってもよい。
【0090】
前記有機溶剤としては、原料である上記化合物群を溶解するできるものであれば特に制限されず、例えば、イソシアネート基との反応性を有さないアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の溶剤やフッ素系有機溶剤を用いることができる。
【0091】
前記フッ素系の溶剤としては、例えば、1、3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロトルエン等の含フッ素芳香族炭化水素系溶剤;パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン等の炭素数3~12のパーフルオロカーボン系溶剤;1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等のハイドロフルオロカーボン系溶剤;COCH,COCH,COC,CCF(OCH)C等のハイドロフルオロエーテル系溶剤;フォンブリン、ガルデン(ソルベイ製)、デムナム(ダイキン工業製)、クライトックス(ケマーズ製)等のパーフルオロポリエーテル系化合物等を好ましく例示することができる。
【0092】
前記第1工程において、化合物(β-1)と化合物(β-2)又は化合物(β-3)との反応割合は、化合物(β-1)が有するカルボキシル基と化合物(β-2)又は化合物(β-3)が有するエポキシ基との当量比(カルボキシル基/エポキシ基)が、0.5~1.5の範囲となる割合が好ましく、0.9~1.1の範囲となる割合がより好ましく、0.98~1.02の範囲となる割合がさらに好ましい。
【0093】
前記第1工程の反応温度は特に限定されず、通常50~150℃の範囲である。また、反応時間についても特に限定されず、通常1~10時間の範囲である。
【0094】
前記第2工程において、前記第1工程で得られるエポキシ基由来の2級水酸基を有する反応物と化合物(β-4)との反応割合は、前記反応物が有する水酸基と化合物(β-4)が有するイソシアネート基との当量比(水酸基基/イソシアネート基)が、0.5~1.5の範囲となる割合が好ましく、0.9~1.1の範囲となる割合がより好ましく、0.98~1.02の範囲となる割合がさらに好ましい。
【0095】
前記第2工程の反応温度は特に限定されず、通常30~120℃の範囲である。また、反応時間についても特に限定されず、通常1~10時間の範囲である。
【0096】
前記含フッ素化合物は、好ましくは下記式(3)で表される化合物である。
【0097】
【化24】
【0098】
(前記式(3)中、
PFPEは、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖である。
及びYは、それぞれ独立に、直接結合又は2価の連結基である。
及びZは、それぞれ独立に、2価の連結基である。
前記Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。前記2つのSi(A)で表されるシリル基は互いに同じでも異なってもよい。)
【0099】
式(3)で表される化合物は骨格中にウレタン結合を有する。このウレタン結合を有することにより、両末端にある加水分解性基の近傍の極性を向上させることができる。
【0100】
式(3)において、Si(A)で表されるシリル基の好ましい形態については、上述した通りである。
【0101】
式(3)において、Y、Y、Z及びZの2価の連結基としては、例えば、炭素原子数1~22のアルキレン基等が挙げられる。前記アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、2,2-ジメチルプロピレン基、2-メチルブチレン基、2-メチル-2-ブチレン基、3-メチルブチレン基、3-メチル-2-ブチレン基、ペンチレン基、2-ペンチレン基、3-ペンチレン基、3-ジメチル-2-ブチレン基、3,3-ジメチルブチレン基、3,3-ジメチル-2-ブチレン基、2-エチルブチレン基、ヘキシレン基、2-ヘキシレン基、3-ヘキシレン基、2-メチルペンチレン基、2-メチル-2-ペンチレン基、2-メチル-3-ペンチレン基、3-メチルペンチレン基、3-メチル-2-ペンチレン基、3-メチル-3-ペンチレン基、4-メチルペンチレン基、4-メチル-2-ペンチレン基、2,2-ジメチル-3-ペンチレン基、2,3-ジメチル-3-ペンチレン基、2,4-ジメチル-3-ペンチレン基、4,4-ジメチル-2-ペンチレン基、3-エチル-3-ペンチレン基、ヘプチレン基、2-ヘプチレン基、3-ヘプチレン基、2-メチル-2-ヘキシレン基、2-メチル-3-ヘキシレン基、5-メチルヘキシレン基、5-メチル-2-ヘキシレン基、2-エチルヘキシレン基、6-メチル-2-ヘプチレン基、4-メチル-3-ヘプチレン基、オクチレン基、2-オクチレン基、3-オクチレン基、2-プロピルペンチレン基、2,4,4-トリメチルペンチレン基、デカオクチレン基等のアルキレン基等が挙げられる。
【0102】
式(3)のZ及びZの2価の連結基は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の範囲のアルキレン基であると好ましく、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基がより好ましく、1~3の範囲のアルキレン基がさらに好ましく、n-プロピレン基が特に好ましい。
【0103】
式(3)のY及びYの2価の連結基は、それぞれ独立に、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~3のアルキレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0104】
式(3)のPFPE(ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖)としては、例えば、炭素原子数1~3の範囲のパーフルオロアルキレン基と酸素原子が交互に連結した構造を有する連結基が挙げられる。
【0105】
前記炭素原子数1~3の範囲のパーフルオロアルキレン基と酸素原子が交互に連結した構造を有する連結基としては、下記式(P-1)で表される連結基が挙げられる。
【0106】
【化25】
【0107】
(前記式(P-1)中、
*は結合手である。
Xは炭素原子数1~3のパーフルオロアルキレン基である。
複数のXのパーフルオロアルキレン基は、互いに同じでも異なってもよい。複数のXにおいて、2種以上のパーフルオロアルキレン基がランダムに又はブロック状に存在していてもよい。
nは繰り返し数である。nは例えば6~300の範囲であり、12~200の範囲が好ましく、20~150の範囲がより好ましく、30~100の範囲がさらに好ましく、35~70の範囲が最も好ましい。)
【0108】
Xのパーフルオロアルキレン基としては、下記構造が例示できる。
【0109】
【化26】
【0110】
これらのなかでも、Xはパーフルオロメチレン基(a)とパーフルオロエチレン基(b)が好ましく、工業的に得られやすい点も含めると、パーフルオロメチレン基(a)とパーフルオロエチレン基(b)とが共存するものがより好ましい。
【0111】
前記パーフルオロメチレン基(a)とパーフルオロエチレン基(b)とが共存する場合、その存在比(a/b)(個数の比)は1/10~10/1の範囲が好ましく、3/10~10/3の範囲がより好ましい。
【0112】
式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば下記が挙げられる。
【0113】
【化27】
【0114】
【化28】
【0115】
式(3)で表される化合物において、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖1本に含まれるフッ素原子の合計が30~600個の範囲であることが好ましく、60~450個の範囲であることがより好ましく、90~300個の範囲がさらに好ましく、100~200個の範囲であることが最も好ましい。
【0116】
式(3)で表される化合物の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。以下、式(3)で表される化合物の製造方法の一実施形態について説明する。
【0117】
式(3)で表される化合物は、下記式(α-1)で表されるジオールと、下記式(α-2)で表されるイソシアネートとを反応させることにより製造することができる。
【0118】
【化29】
【0119】
(前記式(α-1)及び(α-2)中、
PFPEは、ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖である。
及びYは、それぞれ独立に、直接結合又は2価の連結基である。
Zは、2価の連結基である。
Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0120】
式(α-1)及び(α-2)中のPFPE、Y、Y、Z及びSi(A)は、式(3)のPFPE、Y、Y、ZとZ及びSi(A)にそれぞれ対応する。
【0121】
式(α-1)で表されるジオールとしては、例えば下記式(α-1-1)で表されるジオール、下記式(α-1-2)で表されるジオール等が挙げられる。
【0122】
【化30】
【0123】
式(α-2)で表されるイソシアネートとしては、下記式(α-2-1)~(α-2-12)で表されるイソシアネート等が挙げられる。
【0124】
【化31】
【0125】
式(α-2-1)~(α-2-12)で表されるイソシアネート化合物中のZは、炭素原子数1~10のアルキレン基が好ましく、炭素原子数1~6のアルキレン基がより好ましく、1~3のアルキレン基がさらに好ましく、n-プロピレン基が特に好ましい。
【0126】
式(α-1)で表されるジオールと式(α-2)で表されるイソシアネートとの反応(ウレタン化)の際には、式(α-1)で表されるジオールに含まれるOH基1モルに対して、式(α-2)で表されるイソシアネートを、0.5~1.5モルの範囲になるように仕込むのが好ましく、0.9~1.1モルの範囲となるように仕込むのがより好ましく、0.98~1.02モルの範囲となるように仕込むのが最も好ましい。
【0127】
ウレタン化反応を促進させるために、式(α-1)で表されるジオールと式(α-2)で表されるイソシアネートとを反応させる際に、例えばトリエチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第3級アミン類、ジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウリレート、2-エチルヘキサン酸錫等の錫化合物を触媒として添加してもよい。
【0128】
前記触媒の添加量は、反応混合物全体に対して0.001~5.0質量%の範囲が好ましく、より好ましくは0.01~1.0質量%の範囲で、さらに好ましくは0.02~0.2質量%の範囲である。反応時間は1~10時間の範囲が好ましい。
【0129】
式(α-1)であらわされるジオールと式(α-2)で表されるイソシアネートとの反応において、反応系は無溶剤系であってもよいし、イソシアネート基との反応性を有さないアセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の有機溶剤;C、(CFCFCHFCHFCF、C13H、C13、COCH、COC5、CF(OCH)C、HCFCFOCHCF等のフッ素系溶剤を反応溶剤とした溶剤系であってもよい。
【0130】
反応温度は30~120℃の範囲が好ましく、より好ましくは40~90℃の範囲がより好ましい。
【0131】
前記含フッ素化合物は、好ましくは下記式(4-1)、(4-2)又は(4-3)で表される化合物である。
【0132】
【化32】
【0133】
(前記式(4-1)、(4-2)及び(4-3)において、
rは繰り返し数を示す整数である。
41は、炭素原子数1~6のアルキレン基である。
42は、アルキレンアミノアルキレン基又はアルキレンチオアルキレン基である。
前記Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0134】
式(4-1)、(4-2)及び(4-3)において、rの繰り返し数、及びSi(A)で表されるシリル基の好ましい形態については、それぞれ上述した通りである。
【0135】
式(4-1)、(4-2)及び(4-3)において、R41の炭素原子数1~6のアルキレン基としては、炭素原子数3のアルキレン基が好ましい。
【0136】
式(4-1)、(4-2)及び(4-3)において、R42のアルキレンアミノアルキレン基は、2つアルキレン基がアミノ結合(-NH-)で連結した基であり、アルキレンチオアルキレン基は2つアルキレン基がチオ結合(-S-)で連結した基である。ここで、アルキレンアミノアルキレン基及びアルキレンチオアルキレン基のアルキレン基は、それぞれ独立に炭素原子数1~6のアルキレン基であると好ましい。
【0137】
式(4-1)、(4-2)又は(4-3)で表される化合物の具体例としては、例えば下記が挙げられる。
【0138】
【化33】
【0139】
式(4-1)、(4-2)又は(4-3)で表される化合物の製造方法は、式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物の製造方法と同様の方法が採用できる。例えば、下記式(γ-1)で表されるアルコールと、上述の式(β-4)で表されるイソシアネート化合物とを反応させることにより式(4-1)、(4-2)又は(4-3)で表される化合物を製造することができる。反応条件やその他原料等については、式(2-1)、(2-2)、(2-3)又は(2-4)で表される化合物の製造方法と同じ反応条件やその他原料を採用するとよい。
【0140】
【化34】
【0141】
(前記式(γ-1)中、rは繰り返し数である。)
【0142】
前記含フッ素化合物は、好ましくは下記式(5-1)、(5-2)又は(5-3)で表される化合物である。
【0143】
【化35】
【0144】
(前記式(5-1)、(5-2)及び(5-3)において、
lは繰り返し数を示す整数である。
mは繰り返し数を示す整数である。
51は、炭素原子数1~6の範囲のアルキレン基である。
52は、アルキレンアミノアルキレン基又はアルキレンチオアルキレン基である。
前記Si(A)で表されるシリル基の3つのAは、それぞれ独立に、加水分解性基又は非加水分解性基であり、3つのAのうち少なくとも1つは加水分解性基である。)
【0145】
式(5-1)、(5-2)及び(5-3)において、lで括られた繰り返し単位及びmで括られた繰り返し単位は、lで括られた繰り返し単位及びmで括られた繰り返し単位のランダム重合構造でもよく、lで括られた繰り返し単位及びmで括られた繰り返し単位のブロック重合構造でもよい。
【0146】
式(5-1)、(5-2)及び(5-3)において、l及びmの繰り返し数、並びにSi(A)で表されるシリル基の好ましい形態については、それぞれ上述した通りである。
【0147】
式(5-1)、(5-2)及び(5-3)において、R51の炭素原子数1~6のアルキレン基としては、炭素原子数3のアルキレン基が好ましい。
【0148】
式(5-1)、(5-2)及び(5-3)において、R52のアルキレンアミノアルキレン基は、2つアルキレン基がアミノ結合(-NH-)で連結した基であり、アルキレンチオアルキレン基は2つアルキレン基がチオ結合(-S-)で連結した基である。ここで、アルキレンアミノアルキレン基及びアルキレンチオアルキレン基のアルキレン基は、それぞれ独立に炭素原子数1~6のアルキレン基であると好ましい。
【0149】
式(5-1)、(5-2)又は(5-3)で表される化合物の具体例としては、例えば下記が挙げられる。
【0150】
【化36】
【0151】
式(5-1)、(5-2)又は(5-3)で表される化合物の製造方法は、式(4-1)、(4-2)又は(4-3)で表される化合物の製造方法と同様の方法が採用できる。
例えば、上述の式(γ-1)で表されるアルコールの代わりに下記式(δ-1)で表されるアルコールを用いることにより、式(5-1)、(5-2)又は(5-3)で表される化合物を製造することができる。
【0152】
【化37】
【0153】
(前記式(δ-1)中、
lは繰り返し数である。
mは繰り返し数である。)
【0154】
前記撥水層13中の含フッ素化合物は、1種単独でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0155】
前記低表面エネルギー物質は、前述の含フッ素化合物に限定されない。前記低表面エネルギー物質は、陽極酸化被膜と反応して結合可能な反応性基と、撥水性を発現する撥水性基の両方を有する化合物であれば使用できる。
【0156】
前記陽極酸化被膜と反応して結合可能な反応性基としては、スルフィド、チオール基、アミノ基、スルホニル基、水酸基、カルボキシル基、リン酸含有基、アルコキシシリル基が挙げられ、より好ましくは、下記式(6-1)又は(6-2)で表される1価又は2価のリン酸含有基、下記式(6-3)で表されるアルコキシシリル基等が挙げられる。
【化38】
(前記式(6-1)及び(6-2)中、
61は、それぞれ独立に、任意の陽イオンである。
62は、それぞれ独立に、アルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。)
【0157】
61の任意の陽イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン等のアルカリ金属イオン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等の有機4級アンモニウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。これらのうち、リチウムイオン、ナトリウムイオン、及び有機4級アンモニウムイオンが好ましい。
【0158】
前記撥水性基としては、C2n+1-で表される炭化水素基(nは1以上の整数)、下記式(7-1)で表される基等が挙げられる。
【化39】
(前記式(7)中、
71は、それぞれ独立に、アルキル基であり、好ましくは炭素原子数1~6のアルキル基であり、より好ましくは炭素原子数1~3のアルキル基である。
nは1以上の整数である。)
【0159】
前記撥水層13は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記低表面エネルギー物質以外の成分を含んでいてもよい。
【0160】
前記撥水層13の厚さの下限は、アルミの熱伝導率を損なわないために、好ましくは1nm以上である。また、前記撥水層13の厚さの上限は好ましくは100nm以下であり、より好ましくは20nm以下である。
【0161】
前記撥水層13の表面の水の接触角は、水滴5μL対して好ましくは150°以上、より好ましくは160°以上である。また、前記撥水層13の表面の水の滑落角は、水滴5μLに対して好ましくは10°以下、より好ましくは5°以下である。なお、本明細書において、水の滑落角及び水の接触角は、実施例に記載の方法で測定する。
【0162】
本発明の一実施形態に係る撥水性アルミニウム材の製造方法は、アルミニウム基板の表面を陽極酸化して陽極酸化被膜及び細孔を形成する陽極酸化処理、及び前記陽極酸化によって形成された細孔の孔径を拡大化する孔径拡大化処理をこの順にそれぞれ2回以上施す陽極酸化皮膜形成工程、及び前記陽極酸化皮膜の、前記アルミニウム基材と反対側の表面に沿って低表面エネルギー物質を含む撥水層を形成する撥水層形成工程を有し、前記陽極酸化被膜が、複数の細孔を有し、かつ、前記細孔が、前記陽極酸化被膜の、前記アルミニウム基材と反対側の平坦上面に開口部を有し、前記細孔の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔の前記開口部から前記細孔の底部に向かって狭まる形状を有する。
【0163】
本発明の一実施形態に係る撥水性アルミニウム材の製造方法について図2~5を参照しつつ説明する。なお、前述した本実施形態で説明した部位と同一の部位には、同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0164】
図2~5は、前記撥水性アルミニウム材1を製造する各工程における加工状態を示す概略図である。
【0165】
前記陽極酸化皮膜形成工程は、図2に示す前記アルミニウム基材11表面に陽極酸化処理と孔径拡大化処理とをそれぞれ2回以上施して前記アルミニウム基材11表面に陽極酸化被膜12を形成する工程である。第1回目の処理として陽極酸化処理を行うと、図3に示すように、前記アルミニウム基材11の表面に細孔121’を有する陽極酸化被膜12が形成される。細孔121’は初期の段階では円筒形状をしている。係る状態の陽極酸化被膜12に、さらに孔径拡大化処理を行うことにより、細孔121’の孔径が拡大される(図4)。図4の状態の陽極酸化被膜12に、さらに陽極酸化処理及び孔径拡大化処理を繰り返すことにより、前記アルミニウム基材11上に、前記陽極酸化被膜12を形成することができる。当該陽極酸化皮膜形成工程で形成された陽極酸化皮膜12は、前記細孔121を有し、前記細孔121が、前記陽極酸化被膜12の、前記アルミニウム基材11と反対側の平坦上面122に開口部123を有し、前記細孔121の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔121の前記開口部123から前記細孔121の底部124に向かって狭まる形状を有する(図5)。
【0166】
前記陽極酸化皮膜形成工程における2回以上の陽極酸化処理と孔径拡大化処理は、細孔間の壁厚を精密に制御できるため、最後の処理が孔径拡大化処理であることが好ましい。
【0167】
陽極酸化処理及び孔径拡大化処理の回数及び条件を調整することにより、前記細孔の開口部123から前記細孔の底部124に向かって段階的に狭まる形状の段数や形状の滑らかさ等を調整できる。より具体的には、当該最後の処理としての孔径拡大化処理の時間をその前の前記繰り返し処理における孔径拡大化処理の時間とは異なる処理時間とすることにより、細孔121の縦断面形状を、前記細孔121の深さ方向に沿った縦断面が前記細孔121の前記開口部123から前記細孔121の底部124に向かって狭まる形状や、細孔121の孔径が減少するとともに細孔121の内面が曲線的に変化する釣鐘形状にすることができる。より具体的には、陽極酸化処理を行った後、孔径拡大化処理を行う工程をn回繰り返し、n回目の孔径拡大化処理を1回目から(n-1)回目の孔径拡大化処理よりも処理時間を長くすることにより、細孔121の縦断面形状が、細孔121の開口部123から底部124に向かう細孔深さ方向において、細孔121の底部124側の孔径がそれよりも細孔121の開口部123側の細孔121の孔径に比べ相対的に急激に減少するとともに、細孔121の内面が曲線的に変化する釣鐘形状となるため、好ましい。
【0168】
また、定電圧で長時間陽極酸化処理を施して酸化皮膜を形成させ、当該酸化皮膜を一旦除去し、再び同一条件で陽極酸化処理を施すことにより、高い孔配列規則性を有する前記細孔121が得られるため好ましい。
【0169】
前記陽極酸化処理とは、クロム酸、クエン酸、シュウ酸及び硫酸からなる群から選択される1種以上の酸の水溶液である電解液にアルミニウム基材を浸漬して、定電流を流すことによって、前記アルミニウム基材の表面に多孔質の酸化膜を形成させる処理である。前記電解液の濃度は、特に限定されず、例えば0.01~1.0Mの範囲である。
陽極酸化処理に用いられる電解液としては、例えば、クエン酸、シュウ酸又は硫酸を含む溶液が高い孔配列規則性を有する前記細孔121が得られるため好ましい。陽極酸化処理の化成電圧は、例えば、電解液にシュウ酸溶液を用いた場合は30V~60V、電解液に硫酸溶液を用いた場合は25V~30Vが高い孔配列規則性を有する前記細孔121が得られるため好ましい。
【0170】
第1回目の陽極酸化処理の前に、前記アルミニウム基材表面に微細な窪みを形成し、これを陽極酸化時の細孔発生点とすることもできる。これにより、任意の配列を有する細孔121を得ることができるため、好ましい。
【0171】
前記孔径拡大化処理は、上記陽極酸化処理によって形成された細孔の孔径を拡大する処理である。当該孔径拡大化処理は、例えば陽極酸化処理をしたアルミニウム基材を、硫酸、りん酸、クロム酸、しゅう酸及びスルファミン酸からなる群から選択される1種以上の酸の水溶液中に一定時間浸漬することによって行うことができる。当該孔径拡大化処理の条件としては、例えば前記酸水溶液の濃度が1.0~20重量%の範囲、前記酸水溶液の温度が20~60℃の範囲、浸漬時間が30秒~60分間の範囲とすることができる。
【0172】
前記撥水層形成工程は、前記陽極酸化皮膜形成工程で得られた前記陽極酸化皮膜12の、前記アルミニウム基材11と反対側の表面、すなわち、前記陽極酸化被膜12の平坦上面122及び細孔121の内部表面に沿って前記撥水層13を形成する工程である。
【0173】
前記撥水層形成工程において、前記陽極酸化皮膜12の、前記アルミニウム基材11と反対側の表面に沿って前記撥水層13を形成する方法は特に限定されないが、前記低表面エネルギー物質を溶剤に溶解させて低表面エネルギー物質溶液を調製し、当該低表面エネルギー物質溶液を前記陽極酸化被膜12に接触させる方法が例示できる。
【0174】
当該低表面エネルギー物質溶液を前記陽極酸化被膜12に接触させる方法は、特に限定されず、前記陽極酸化被膜12を前記低表面エネルギー物質溶液に浸漬させる方法や、前記陽極酸化被膜12に前記低表面エネルギー物質溶液に塗布する方法が例示できるが、前記陽極酸化被膜12を前記低表面エネルギー物質溶液に浸漬させる方法が好ましい。
【0175】
前記低表面エネルギー物質溶液に用いられる溶剤の例としては、1、3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、トリフルオロトルエン等の含フッ素芳香族炭化水素系溶剤;パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン等の炭素数3~12の範囲のパーフルオロカーボン系溶剤;1,1,2,2,3,3,4-ヘプタフルオロシクロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン等のハイドロフルオロカーボン系溶剤;COCH、COCH、COC、CCF(OCH)C等のハイドロフルオロエーテル系溶剤;フォンブリン、ガルデン(ソルベイ製)、デムナム(ダイキン工業製)、クライトックス(ケマーズ製)等のパーフルオロポリエーテル系化合物等が挙げられる。上記溶剤の他、水、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤等も使用できる。低表面エネルギー物質溶液に用いられる溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0176】
前記低表面エネルギー物質溶液における、前記低表面エネルギー物質の濃度の下限としては、例えば0.01質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上である。前記低表面エネルギー物質溶液における、前記低表面エネルギー物質の濃度の上限としては、例えば10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0177】
前記陽極酸化被膜12と前記低表面エネルギー物質溶液の接触後、例えば、室温で数分放置し、乾燥温度を、例えば40~200℃の範囲、好ましくは40~150℃の範囲、乾燥時間を、例えば5~60分の範囲、好ましくは30~60分の範囲で乾燥させることにより、前記撥水層13を得ることができる。
【実施例
【0178】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」または「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
【0179】
<低表面エネルギー物質(ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖含有シラン化合物)溶液の調製>
〔合成例1〕
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン60.62gと、下記式一般式
【化40】
(ただし、式中、rは繰り返し数を表し、平均43である。)
で表されるケマーズ製Krytox157FS(H)87.6gと、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン3.33gと、反応触媒としてトリフェニルフォスフィン0.273gを加え、窒素気流下で攪拌を開始し、105℃に加温後、約5時間反応させた。その後、50℃まで降温し、COC 33.33gと、3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン3.02gと、ウレタン化触媒としてオクチル酸スズ0.047gを加え、窒素気流下で攪拌を開始し、70℃で約4時間反応させ、反応物を得た。得られた反応物における溶剤の含有率が80%となるようにCOCで反応物を希釈した。この希釈した反応物を孔径1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターを使用してろ過精製し、下記一般式で示されるポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖含有シラン化合物(1)を含む溶液を得た。
【化41】
【0180】
〔合成例2〕
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下装置を備えたガラスフラスコに、下記一般式
【化42】
(式中、lは繰り返し数であり、平均で19である。mは繰り返し数であり、平均で19である。)
で表されるポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖を有するアルコール20gと溶剤としてハイドロフルオロエーテル(COC)20gとウレタン化触媒としてオクチル酸スズ0.006gを仕込み、窒素気流下で攪拌を開始し、50℃を保ちながら3-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン1.31gを15分間かけて滴下した。滴下終了後、50℃で6時間攪拌することにより前記アルコールと3-イソシアナトプロピルトリメトキシシランとを反応させ、反応物を得た。得られた反応物について、IRスペクトル測定を行い、反応物中にイソシアネート基の消失していることを確認し、下記一般式で示される化合物(2)が得られたことを確認した。
【化43】
溶剤の濃度が80質量%となるようにハイドロフルオロエーテル(COC)で反応液を希釈した。希釈した反応液を孔径0.2μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製フィルターを使用してろ過精製し、前記ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖含有シラン化合物(2)を含むハイドロフルオロエーテル溶液を得た。
【0181】
<陽極酸化皮膜を有するアルミニウム基材の作製>
製造例1
純度99.99%のアルミニウム板を0.2Mクエン酸水溶液を電解液とし、化成電圧350Vにおいて、17℃、2分間陽極酸化を行った。その後、10wt%リン酸水溶液50℃中に20分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を5回繰り返すことで、細孔周期850nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(A)を得た。図6は得られたアルミニウム材(A)の上面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。また、図7は、当該アルミニウム材(A)の断面のSEM写真である。図6及び図7から当該アルミニウム材(A)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認できる。
【0182】
製造例2
純度99.50%のアルミニウム板を0.3Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧40Vにおいて、30秒間陽極酸化を行った。その後、5wt%リン酸水溶液30℃中に12分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を5回繰り返すことで、細孔周期100nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(B)を得た。得られたアルミニウム材(B)の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、当該アルミニウム材(B)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認された。
【0183】
製造例3
純度99.50%のアルミニウム板を0.05Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧80Vにおいて、50秒間陽極酸化を行った。その後、5wt%リン酸水溶液30℃中に30分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を5回繰り返すことで、細孔周期200nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(C)を得た。得られたアルミニウム材(C)の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、当該アルミニウム材(C)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認された。
【0184】
製造例4
純度99.50%のアルミニウム板を0.1Mリン酸水溶液を電解液とし、化成電圧200Vにおいて、5分間陽極酸化を行った。その後、10wt%リン酸水溶液30℃中に60分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を4回繰り返し、さらに同条件下で5分間陽極酸化を施すことで、細孔周期500nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(D)を得た。得られたアルミニウム材(D)の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、当該アルミニウム材(D)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認された。
【0185】
製造例5
純度99.50%のアルミニウム板を0.2Mクエン酸水溶液を電解液とし、化成電圧350Vにおいて、10分間陽極酸化を行った。その後、10wt%リン酸水溶液50℃中に20分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を5回繰り返すことで、細孔周期850nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(E)を得た。得られたアルミニウム材(E)の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、当該アルミニウム材(E)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認された。
【0186】
製造例6
純度99.50%のアルミニウム板を0.2Mクエン酸水溶液を電解液とし、化成電圧400Vにおいて、10分間陽極酸化を行った。その後、10wt%リン酸水溶液50℃中に20分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を5回繰り返すことで、細孔周期1000nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(F)を得た。
【0187】
製造例7
純度99.50%のアルミニウム板を0.3Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧40Vにおいて、75秒間陽極酸化を行った。その後、5wt%リン酸水溶液30℃中に30分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を2回繰り返すことで、細孔周期100nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(G)を得た。得られたアルミニウム材(G)の表面を走査電子顕微鏡で観察したところ、当該アルミニウム材(G)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認された。
【0188】
製造例8
純度99.50%のアルミニウム板を0.3Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧80Vにおいて、250秒間陽極酸化を行った。その後、5wt%リン酸水溶液30℃中に75分間浸漬し、孔径拡大化処理を施した。この操作を2回繰り返すことで、細孔周期200nmの陽極酸化皮膜を有するアルミニウム材(H)を得た。
【0189】
比較製造例1
純度99.50%のアルミニウム板を0.5%水酸化ナトリウム水溶液に10分浸漬させた後、水、メタノールで洗浄した。続いて、得られたアルミニウム板を合成例2のシラン化合物(2)の溶液に漬け、1時間静置した。そして、アルミニウム板を取り出し150℃で30分間乾燥させアルミニウム材(I)を得た。
【0190】
比較製造例2
純度99.50%のアルミニウム板を90℃にて5%トリエタノールアミン水溶液に10分浸漬させた後、水、メタノールで洗浄した。得られたアルミニウム板を合成例2のシラン化合物(2)の溶液に漬け、1時間静置した。そして、アルミニウム板を取り出し150℃で30分間乾燥させアルミニウム材(J)を得た。
【0191】
比較製造例3
純度99.99%のアルミニウム板を0.2Mクエン酸水溶液を電解液とし、化成電圧350Vにおいて、17℃、10分間陽極酸化を行った。その後、10質量%リン酸水溶液50℃中に40分間浸漬し、孔径拡大化処理を施してアルミニウム材(K)を得た。図8は得られたアルミニウム材(K)の上面のSEM写真である。また、図9は、当該アルミニウム材(K)の断面のSEM写真である。図8から当該アルミニウム材(K)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されていることが確認できるが、図9から細孔の深さ方向に沿った縦断面が細孔の開口部から細孔の底部に向かって狭まる形状を有していないことが確認できる。
【0192】
比較製造例4
純度99.99%のアルミニウム板を0.2Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧350Vにおいて、17℃、10分間陽極酸化を行い、アルミニウム材(L)を得た。図10は得られたアルミニウム材(L)の上面のSEM写真である。また、図11は、当該アルミニウム材(L)の断面のSEM写真である。図10及び図11から当該アルミニウム材(L)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されているが、平坦上面が損なわれていることが確認できる。
【0193】
比較製造例5
純度99.50%のアルミニウム板を0.3Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧40Vにおいて、15秒間陽極酸化を行った。その後、5質量%リン酸水溶液30℃中に3分間浸漬し、孔径拡大化処理を施してアルミニウム材(M)を得た。図12は得られたアルミニウム材(M)の上面のSEM写真である。また、図13は、当該アルミニウム材(M)の断面のSEM写真である。図12及び図13から当該アルミニウム材(M)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されているが、平坦上面が損なわれて、細孔の深さ方向に沿った縦断面が細孔の開口部から細孔の底部に向かって狭まる形状を有していないことが確認できる。
【0194】
比較製造例6
純度99.50%のアルミニウム板を0.3Mシュウ酸水溶液を電解液とし、化成電圧40Vにおいて、15秒間陽極酸化を行い、アルミニウム材(N)を得た。図14は得られたアルミニウム材(N)の上面のSEM写真である。また、図15は、当該アルミニウム材(N)の断面のSEM写真である。図14及び図15から当該アルミニウム材(N)の陽極酸化皮膜表面に微細凹凸形状が形成されているが、裁断面が細孔の開口部から細孔の底部に向かって狭まる形状を有していないことが確認できる。
【0195】
比較製造例7
純度99.50%のアルミニウム板を20℃の10%硫酸水溶液中で、1A/dmの電流密度で1時間陽極酸化処理を行った。次に50℃5%リン酸水溶液中に前記アルミニウム板を浸漬し、溶解処理を施し、アルミニウム材(O)を得た。図16は得られたアルミニウム材(O)の上面のSEM写真である。また、図17は、当該アルミニウム材(O)の断面のSEM写真である。図16及び図17から、当該アルミニウム材(O)では、陽極酸化によって細孔を有する層が形成されたものの、陽極酸化皮膜表面は平坦上面を有さず、さらに、細孔を区画する隔壁が倒れて折り重なっていることが確認できる。
【0196】
上記で製造した各アルミニウム材について、以下の処理をして撥水層を形成した。
〔撥水層の形成1〕
合成例1のシラン化合物(1)の溶液にCOCを加え、シラン化合物(1)0.1質量%溶液を調製した。前記アルミニウム材(A)~(H)をシラン化合物(1)0.1質量%溶液に漬け、1時間静置した。そして、各板を取り出し150℃で30分間乾燥させて撥水層を有する撥水性アルミニウム材(A)’~(H)’を得た。
【0197】
〔撥水層の形成2〕
合成例2のシラン化合物(2)の溶液にCOCを加え、シラン化合物(2)0.1質量%溶液を調製した。前記アルミニウム材(A)~(F)をシラン化合物(2)0.1質量%溶液に漬け、1時間静置した。そして、各板を取り出し150℃で30分間乾燥させて撥水層を有する撥水性アルミニウム材(A)’’~(F)’’を得た。
【0198】
〔撥水層の形成3〕
ドデシルメトキシシランに酢酸ブチルを加えてドデシルメトキシシラン0.1質量%酢酸ブチル溶液を調製した。前記アルミニウム材(B)をドデシルメトキシシラン0.1質量%酢酸ブチル溶液に漬け、1時間静置した。そして、板を取り出し150℃で30分間乾燥させアルミニウム材(B)’’’を得た。
【0199】
〔撥水層の形成4〕
前記アルミニウム材(K)~(O)を、合成例1に係る前記ポリ(パーフルオロアルキレンエーテル)鎖含有シラン化合物(1)を含むハイドロフルオロエーテル溶液に漬け、1時間静置した。そして、板を取り出し150℃で30分間乾燥させてアルミニウム材(K)’~(O)’を得た。
【0200】
〔撥水層の形成5〕
前記アルミニウム材(K)~(N)を前記シラン化合物(2)0.1質量%溶液に漬け、1時間静置した。そして、板を取り出し150℃で30分間乾燥させアルミニウム材(K)’’~(N)’’を得た。
【0201】
実施例1~8及び比較例1~8
得られた各アルミニウム材について以下の評価を行った。各評価結果を表1~3に示す。なお、水滑落角測定測定において、アルミニウム材Gは水が滑落せずにほんどの水がアルミニウム材上に残ってしまった。また、流水耐久性試験において、アルミニウム材G、M’及びN’はいずれも水を1時間流し当てた時点において水が滑落しない状態であった。また、アルミニウム材O'は水を66時間流し当てた時点において水が滑落しない状態であった。
【0202】
<評価方法>
〔水接触角測定〕
撥水性の評価は、水の接触角を測定して行った。なお、接触角の評価には、協和界面科学社製DM-500を用いた。基材の上に5μLの水滴を滴下し、その角度を値とした。測定は3回行い、その平均値を値とした。
〔水滑落角測定〕
滑水性の評価は、水の滑落角を測定して行った。なお、滑落角の評価には、協和界面科学社製DM-500を用いた。基材の上に5μLの水滴を滴下し、2度/秒のスピードでステージを傾け、水滴が動き出した角度を転落角の値とした。測定は3回行い、その平均値を値とした。
〔流水耐久性〕
各アルミニウム材の水滑落角を測定した後、当該水滑落角を測定した部分に、内径1mmのチューブから9.9mL/分の量で水を流し当て、所定の時間ごとに水滑落角の変化を測定した。
【0203】
【表1】
【0204】
【表2】
【0205】
【表3】
【0206】
表1~3の結果から明らかなように、実施例にかかる撥水性アルミニウム材は撥水性及び滑水性並びに流水耐久性に優れることが分かる。一方、比較例にかかるアルミニウム材は撥水性及び滑水性並びに流水耐久性に劣ることから本発明の課題を解決できていないことが判る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17