(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】センサ装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/24 20060101AFI20231013BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01N29/24
G01H17/00 Z
(21)【出願番号】P 2019145010
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100177493
【氏名又は名称】長谷川 修
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
(72)【発明者】
【氏名】桝本 尚己
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1135213(KR,B1)
【文献】特開2015-215226(JP,A)
【文献】特開平03-272424(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050319(WO,A1)
【文献】実開昭62-148957(JP,U)
【文献】特開昭63-047652(JP,A)
【文献】特開2000-023292(JP,A)
【文献】特開2014-197905(JP,A)
【文献】特開2005-086458(JP,A)
【文献】特開2008-244859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0118475(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00 - G01H 17/00
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空洞内に、センサ素子と該センサ素子から出力される信号を処理する信号処理素子とを実装したセンサ装置において、
前記空洞に入射して前記センサ素子に入射する信号と干渉し、前記センサ素子の受信信号レベルを低下させる阻害信号を吸収あるいは反射させる阻害信号遮断部を、前記空洞内に備え
、かつ前記センサ素子がMEMSトランスデューサであることを特徴とするセンサ装置。
【請求項2】
請求項1記載のセンサ装置において、
前記阻害信号遮断部は、前記空洞内の一部に充填された樹脂部からなることを特徴とするセンサ装置。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか記載のセンサ装置において、
前記阻害信号遮断部は、前記空洞内に配置された前記信号処理素子を含むことを特徴とするセンサ装置。
【請求項4】
空洞内に、センサ素子と該センサ素子から出力される信号を処理する信号処理素子とを実装したセンサ装置の製造方法において、
空洞となる複数の凹部内に、それぞれ前記センサ素子と前記信号処理素子を実装した集合基板を用意する工程と、
前記凹部内に、前記空洞に入射して前記センサ素子に入射する信号と干渉し、前記センサ素子の受信信号レベルを低下させる阻害信号を吸収あるいは反射させる阻害信号遮断部を形成する工程と、
前記集合基板を切断して個片化する工程と、を含
み、
前記センサ素子がMEMSトランスデューサであることを特徴とするセンサ装置の製造方法。
【請求項5】
請求項4記載のセンサ装置の製造方法において、
前記阻害信号遮断部を形成する工程は、前記凹部内に樹脂部を形成する工程を含み、該樹脂部、あるいは前記樹脂部と前記信号処理素子とにより前記阻害信号遮断部を形成する工程であることを特徴とするセンサ装置の製造方法。
【請求項6】
請求項4記載のセンサ装置の製造方法において、
前記阻害信号遮断部を形成する工程は、前記信号処理素子を該信号処理素子によって阻害信号を反射する位置に実装することで、該信号処理素子を含む前記阻害信号遮断部を形成する工程であることを特徴とするセンサ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンサ装置およびその製造方法に関し、特に超音波帯域の音波を検知するのに好適なセンサ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術により形成される小型のマイクロフォン装置が急速に普及してきている。この種の小型のマイクロフォン装置は、超音波帯域の音波を検知することができ、種々のセンサ装置に用いられている。
【0003】
例えば、機械装置の多くはモーター等の回転機構を備えており、回転機構に異常が生じると、これらの機械装置から放出される超音波領域の音波の強度や周波数帯域が変化することが知られている。そのため機械装置から放出される超音波領域の音波を監視し、異常状態に達したことを検知する装置が用いられている。この種の異常予知装置は、例えば特許文献1に記載されている。
【0004】
ところで、この種のセンサ装置では、本願出願人が先に開示したように、音波を検知するセンサ素子の他にセンサ素子から出力される信号を処理する信号処理素子(集積回路素子)が、同一パッケージ内に実装されている(特願2019-130025号)。
【0005】
図6はこの種のセンサ装置の説明図で、
図6(a)に断面図を、
図6(b)に平面図をそれぞれ示している。
図6において、1は実装基板、2は所望の周波数帯域に感度を有するMEMSトランスデューサ等からなるセンサ素子、3はセンサ素子2の出力信号を処理する集積回路等からなる信号処理素子、4は壁部、5は防水、防塵等のために開口を覆う保護カバー、6は空洞である。
【0006】
このような構造のセンサ装置では、外部からセンサ装置に入射する信号をセンサ素子2で検知し、検知信号として出力する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところでこの種のセンサ装置は、
図6に示すように空洞6内にセンサ素子2と信号処理素子3が実装されている。このような構造のセンサ装置では、入射した信号の一部が空洞6の信号と干渉し、受信信号のレベルが低下してしまうという問題があった。具体的には、所定の距離だけ離れた位置、角度から一定レベルの信号(周波数60kHz)をセンサ装置に向けて放出し、その信号を受信するセンサ装置の受信信号レベルを
図7に示す。
図7に示すレーダーチャートは、
図6(b)に示すセンサ装置の短辺中央を通り、図面左右方向の一方から他方へ信号の放出位置を変えたときのセンサ装置の受信信号レベルを示している。
【0009】
図7に示すように、信号レベルは左右対称とはならず、一方側から入射する受信信号レベルの減衰が大きくなっていることがわかる。さらに、減衰量が徐々に大きくなるのではなく、所定の角度(-30[deg]近傍)で受信信号レベルが大きく減衰していることがわかる。この種のセンサ装置では、実用上、±60[deg]の範囲で良好な受信特性が求められており、
図7に示すような受信特性では使用することができない。
【0010】
本発明はこのような実情に鑑み、広い指向性を得ることができるセンサ装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、空洞内に、センサ素子と該センサ素子から出力される信号を処理する信号処理素子とを実装したセンサ装置において、前記空洞に入射して前記センサ素子に入射する信号と干渉し、前記センサ素子の受信信号レベルを低下させる阻害信号を吸収あるいは反射させる阻害信号遮断部を、前記空洞内に備え、かつ前記センサ素子がMEMSトランスデューサであることを特徴とする。
【0012】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のセンサ装置において、前記阻害信号遮断部は、前記空洞内の一部に充填された樹脂部からなることを特徴とする。
【0013】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載のセンサ装置において、前記阻害信号遮断部は、前記空洞内に配置された前記信号処理素子を含むことを特徴とする。
【0014】
本願請求項4に係る発明は、空洞内に、センサ素子と該センサ素子から出力される信号を処理する信号処理素子とを実装したセンサ装置の製造方法において、空洞となる複数の凹部内に、それぞれ前記センサ素子と前記信号処理素子を実装した集合基板を用意する工程と、前記凹部内に、前記空洞に入射して前記センサ素子に入射する信号と干渉し、前記センサ素子の受信信号レベルを低下させる阻害信号を吸収あるいは反射させる阻害信号遮断部を形成する工程と、前記集合基板を切断して個片化する工程と、を含み、前記センサ素子がMEMSトランスデューサであることを特徴とする。
【0015】
本願請求項5に係る発明は、請求項4記載のセンサ装置の製造方法において、前記阻害信号遮断部を形成する工程は、前記凹部内に樹脂部を形成する工程を含み、該樹脂部、あるいは前記樹脂部と前記信号処理素子とにより前記阻害信号遮断部を形成する工程であることを特徴とする。
【0016】
本願請求項6に係る発明は、請求項4記載のセンサ装置の製造方法において、前記阻害信号遮断部を形成する工程は、前記信号処理素子を該信号処理素子によって阻害信号を反射する位置に実装することで、該信号処理素子を含む前記阻害信号遮断部を形成する工程であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のセンサ装置は、空洞内に阻害信号遮断部を設けるだけで、受信信号の減衰量を大きくし受信信号レベルを低下させる原因となる阻害信号の入射を抑え、広い指向性を有するセンサ装置を提供可能としている。
【0018】
また本発明のセンサ装置は、空洞に阻害信号遮断部を備える構造とすることで、空洞の体積が減少し、空洞の共振周波数が高周波数帯側に移り、超音波帯域の信号検知に好適な構造となる。
【0019】
本発明のセンサ素子の製造方法は、集合基板上に複数のセンサ装置を形成した後、個片化する簡便な工程のみで構成することができ、安価にセンサ装置を形成できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1の実施例のセンサ装置の製造方法の説明図である。
【
図2】本発明の実施例のセンサ装置の説明図である。
【
図3】本発明の第1の実施例のセンサ装置の指向性を説明する図である。
【
図4】本発明の第2の実施例のセンサ装置の製造方法の説明図である。
【
図5】本発明の別の実施例のセンサ装置の説明図である。
【
図7】従来のセンサ装置の指向性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のセンサ装置は、所定の角度から入射する信号(阻害信号)に起因する受信信号の減衰を防止するため、空洞内に、阻害信号を吸収あるいは反射させる阻害信号遮断部を備える構成としている。また本発明のセンサ装置の製造方法は、阻害信号遮断部を簡便に形成することができる構成としている。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明の第1の実施例について、その製造工程に従い詳細に説明する。まず、平板基板10aを用意する。平板基板10aは、一般的な半導体装置の製造工程で使用される有機基板を用いることができる。平板基板10aには、後述するように搭載するセンサ素子や信号処理素子を実装するための配線や電極が形成されている。なお、以下の説明では配線等の図示は省略する。
【0023】
平板基板10a上に、所望の周波数帯域に感度を有するMEMSトランスデューサ等からなるセンサ素子2と、センサ素子2の出力信号を処理する集積回路等からなる信号処理素子3を実装(センサ素子2と信号処理素子3との接続は図示を省略)する(
図1a)。
図1に示す例では、3個のセンサ装置が形成される場合を示している。
【0024】
次にセンサ素子2等を取り囲むように枠体10bを平板基板10a上に積層する。平板基板10aと枠体10bが一体となり集合基板10を構成する。また平板基板10aと枠体10bとで囲まれた空間、換言すると集合基板10の凹部が空洞6となる(
図1b)。なお平板基板10aと枠体10bを積層し凹部を形成した後、この凹部内にセンサ素子2と信号処理素子3を実装しても良い。
【0025】
次に阻害信号遮断部を形成する。本実施例の阻害信号遮断部は、信号処理素子3側の空間を覆う樹脂部11で構成するものとする。樹脂部11は、例えばエポキシ系樹脂を滴下し、所望の硬化処理を行い形成する(
図1c)。
【0026】
その後、防水、防塵等のため空洞6の開口する上面を保護カバー12で覆う。保護カバー12の表面をダイシングテープ13に貼り付け、ダイシングソー14を格子状に走行させることで、集合基板10を切断し、実装基板1上にセンサ素子2と信号処理素子3が実装された複数のセンサ装置に個片化することができる(
図1d)。個片化後のセンサ素子を
図2(a)に示す。
【0027】
阻害信号遮断部となる樹脂部11を配置する位置は、樹脂部11を配置することで
図7に示すような受信信号の減衰がなくなる位置とする。一例として
図7に示す受信信号の減衰が生じたセンサ装置では、樹脂部11を信号処理素子3側の空洞6を埋めるように配置した。この樹脂部11は、阻害信号を吸収あるいは反射させることで阻害信号の影響をなくすことが確認できた。
【0028】
一例として、
図2(a)に示す構造のセンサ装置の受信信号の測定結果を
図3に示す。樹脂部11を配置するのみで、受信信号の大きな減衰がなくなることが確認できた。また±60[deg]の範囲で良好な受信特性が得られており、本実施例のセンサ装置が、指向性の広いセンサ装置として好適となることが確認できた。
【0029】
本実施例によれば、非常に小型のセンサ装置を容易に形成することが可能で、樹脂部11は空洞6の体積を小さくするため、共振周波数をより高い周波数帯側に移すことも可能となる。
【0030】
なお樹脂部11により形成される阻害信号遮断部は、
図2(a)に示すように信号処理素子3を完全に覆うことは必須ではなく種々変更可能である。例えば、
図2(b)に示すように信号処理素子3の一部を露出させ、あるいは
図2(c)に示すように信号処理素子3の大部分を露出させ、樹脂部11と信号処理素子3とを組み合わせて阻害信号阻止部として機能させることもできる。阻害信号阻止部の一部に樹脂部11を配置すると、この樹脂部11が阻害信号の一部を吸収し、あるいは反射させ、阻害信号が空洞内の信号と干渉を起こすことを防止する。なお一般的に信号処理素子3は、遮光性樹脂により被覆されている。この遮光性樹脂は、阻害信号を遮断することはできず、本発明の樹脂部11とは相違するものであることは言うまでもない。
【0031】
樹脂部11を形成する際、滴下した樹脂がMEMS素子2側に流れ、MEMS素子2に影響を与えないように、枠体10bから樹脂をせき止めるように突出するダム部を追加したり、平板基板10a表面から突出するダム部を追加する等変更しても良い。
【実施例2】
【0032】
次に第2の実施例について説明する。上記第1の実施例では阻害信号遮断部を樹脂部11で、あるいは樹脂部11と信号処理素子3とを組み合わせて構成したが、信号処理素子3を主な阻害信号遮断部とすることも可能である。一般的に信号処理素子3は、MEMS素子より薄い構造となっている。そこで、信号処理素子3を台座上に配置する構造とすることで、阻害信号遮断部として機能させることができる。
【0033】
例えば
図4(a)に示すように、枠体10bの一部を台座部10cとして残し、平板基板10aに積層し、集合基板10を形成する。平板基板10aと枠体10bとで囲まれた空間、換言すると集合基板10の凹部が空洞6となる。
【0034】
空洞6内に、センサ素子2と信号処理素子3を実装する。信号処理素子3は台座10c上に実装する(
図4b)。ここで、信号処理素子3が阻害信号遮断部となる。あるいは台座10cと信号処理素子3とが阻害信号遮断部となる。
【0035】
このように信号処理素子3を阻害信号遮断部とすると、実装の位置合わせ精度に応じて正確な位置に実装することが可能で、樹脂を滴下して形成する樹脂部より再現性良く阻害信号遮断部を形成することができる。
【0036】
また台座10cと信号処理素子3とを阻害信号遮断部とした場合も、台座10cを所望の厚さで均一に形成することができ、上記同様再現性良く阻害信号遮断部を形成することができる。
【0037】
その後、防水、防塵等のため空洞6の開口する上面を保護カバー12で覆う。保護カバー12の表面をダイシングテープ13に貼り付け、ダイシングソー14を格子状に走行させることで、集合基板10を切断し、実装基板1にセンサ素子2と信号処理素子3が実装された複数のセンサ装置に個片化することができる(
図4c)。個片化後のセンサ素子を
図5(a)に示す。
【0038】
阻害信号遮断部となる信号処理素子3、あるいは台座部10cと信号処理素子3は、これらを配置することで受信信号の減衰がなくなる位置に配置すればよい。信号処理素子3は、阻害信号を反射させることで阻害信号の影響をなくすことができる。また台座部10cを枠体10bの一部で構成する場合には、樹脂部11と同様に、阻害信号を吸収あるいは反射させることで、台座部10cと信号処理素子3とで阻害信号の影響をなくすことができる。
【0039】
本実施例によっても、非常に小型のセンサ装置を容易に形成することが可能で、台座部10cは空洞6の体積を小さくするため、共振周波数をより高い周波数帯側に移すことも可能となる。
【0040】
なお本実施例においても、阻害信号遮断部の形状は種々変更可能である。例えば台座部10cは、枠体と一体である必要はなく、
図5(b)に示すように有機材料あるいは無機材料からなる台座部10dを別体で構成し、平板基板上に搭載する構成とすることができる。また
図5(c)に示すように台座部10c上に第1の実施例で説明したような樹脂部11aを付加することも可能である。樹脂部11aは、信号処理素子3全体を被覆しても良い。
【0041】
樹脂部を形成する際には、滴下した樹脂がMEMS素子2に影響を与えないように、ダム部を追加しても問題ない。
【0042】
以上本発明の実施例について説明したが本発明はこれらに限定されるものでないことは言うまでもない。例えば、阻害信号遮断部を構成する樹脂部をセンサ素子からみて信号処理素子側に配置する例を説明したが、これに限定されず、空洞内のどの位置に配置しても良い。また空洞を構成する壁面は、平面状に限らず、凹凸状、斜面状、曲面状等、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0043】
1: 実装基板、2:センサ素子、3:信号処理素子、4:壁部、5:保護カバー、6:空洞、10:集合基板、10a:平板基板、10b:枠体、10c、10d:台座部、11、11a:樹脂部、12:保護カバー、13:ダイシングテープ、14:ダイシングソー