(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】高純度硫酸コバルト溶液の製造方法及び、硫酸コバルトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 51/10 20060101AFI20231013BHJP
C22B 3/38 20060101ALI20231013BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20231013BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20231013BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20231013BHJP
C01G 53/10 20060101ALI20231013BHJP
B01D 11/04 20060101ALI20231013BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20231013BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C01G51/10
C22B3/38
C22B7/00 C
C22B1/02
C22B3/44 101Z
C01G53/10
B01D11/04 B
H01M10/54
C22B23/00 102
(21)【出願番号】P 2019189658
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】有吉 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】富田 功
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-060926(JP,A)
【文献】特開2016-180129(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099551(WO,A1)
【文献】特開2014-029006(JP,A)
【文献】特開2016-186118(JP,A)
【文献】特表2013-512345(JP,A)
【文献】特表2007-515552(JP,A)
【文献】KANG Jingu et al.,Hydrometallurgy,2010年,vol.100,p.168-170
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00ー47/00
C01G 49/10-99/00
C22B 1/00-61/00
B01D 11/00-11/04
H01M 10/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルイオンを含む硫酸コバルト溶液から、当該硫酸コバルト溶液に比してコバルトの純度が高い高純度硫酸コバルト溶液を製造する方法であって、
前記硫酸コバルト溶液のコバルト/ニッケル濃度比が100以上であり、
前記硫酸コバルト溶液を、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む溶媒と接触させてpHを調整し、前記硫酸コバルト溶液中のニッケルイオンを液中に残しつつコバルトイオンを前記溶媒に抽出した後、該溶媒に抽出されたコバルトイオンを硫酸で逆抽出するニッケル分離工程を含
み、
前記ニッケル分離工程の前に、コバルトイオン及びニッケルイオンを含む酸性溶液からコバルトイオンを溶媒に抽出するとともに、該溶媒中のコバルトイオンを硫酸で逆抽出して前記硫酸コバルト溶液を得るコバルト抽出工程をさらに含む、高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項2】
前記高純度硫酸コバルト溶液のコバルト/ニッケル濃度比が10000以上である、請求項1に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸コバルト溶液のコバルト濃度が5g/L~90g/Lであり、ニッケル濃度が0.05g/L~0.90g/Lである、請求項1又は2に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル分離工程で、抽出時の平衡pHを4.0~7.0にする、請求項1~3のいずれか一項に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項5】
前記コバルト抽出工程でのコバルトイオンの抽出後に得られるコバルト抽出残液から、ニッケルイオンを有機相に抽出した後、ニッケルイオンを含有する有機相に対して逆抽出を行うニッケル抽出工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項6】
前記コバルト抽出工程が、コバルトイオンを抽出した溶媒をスクラビングすることを含む、請求項
1~5
のいずれか一項に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項7】
少なくともコバルト及びニッケルを含むリチウムイオン電池スクラップを処理して、電池粉末を得る前処理と、前記電池粉末を湿式で処理して前記硫酸コバルト溶液を得る湿式処理とを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項8】
前記前処理が、前記リチウムイオン電池スクラップに対する焙焼工程、破砕工程及び篩別工程を含む請求項7に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法により製造された高純度硫酸コバルト溶液中のコバルトイオンを結晶化させ、硫酸コバルトを得る結晶化工程を含む、硫酸コバルトの製造方法。
【請求項10】
前記結晶化工程で、ニッケル含有量が10質量ppm以下である硫酸コバルトを得る、請求項9に記載の硫酸コバルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、高純度硫酸コバルト溶液の製造方法及び、硫酸コバルトの製造方法に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
コバルトは一般に、リチウムイオン電池の正極活物質や、コバルト合金その他の種々の用途で用いられる。このような用途では、コバルトに付随してニッケルも用いられることが多い。たとえば、リチウムイオン電池には、いわゆる三元系等といったようなコバルト及びニッケルを含有する正極活物質を含むものがある。
【0003】
正極活物質にコバルト及びニッケルを含有するリチウムイオン電池は、製品寿命もしくは製造不良その他の理由より廃棄された場合、その廃棄物であるリチウムイオン電池スクラップから、コバルトやニッケル等の各種金属を回収することが広く検討されている。
【0004】
特許文献1には、リチウムイオン電池スクラップに対して焙焼、破砕及び篩別等の前処理を施した後、酸に接触させて浸出させ、その浸出後液から金属を回収することが記載されている。より詳細には、浸出後液に対して所定の溶媒抽出を行った後に得られるコバルトイオン及びニッケルイオンを含む抽出残液に対し、2-エチルヘキシルホスホン酸2-エチルヘキシル等のホスホン酸エステル系抽出剤を使用して、コバルトイオンを溶媒に抽出するとともに該溶媒から硫酸等で逆抽出し、当該コバルトを電解採取で回収することとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたような上記の溶媒抽出では、抽出残液中の主としてコバルトイオンを抽出するが、抽出残液中のニッケルイオンもわずかに抽出されて溶媒に含まれる。また、その後の逆抽出では、溶媒に含まれるコバルトイオンだけでなくニッケルイオンも水相に移動する。したがって、これにより得られる硫酸コバルト溶液は、コバルトイオンのみならず、ニッケルイオンも比較的少量ではあるものの含まれることになる。そして、そのような硫酸コバルト溶液は、たとえばリチウムイオン電池の製造等の所定の用途に用いる際に求められるコバルトの純度に対する要求を満たさない場合があった。
【0007】
なお、仮に上記の硫酸コバルト溶液を電解液として電解採取を行ったとしても、硫酸コバルト溶液中のニッケルイオンも電極に析出するので、電気コバルトはニッケルを含有するものになる。そのため、当該電気コバルトを硫酸で溶解させると、ニッケルイオンを含む硫酸コバルト溶液となり、この場合も硫酸コバルト溶液のコバルトの純度が十分に高くならない。
【0008】
この明細書では、比較的少量のニッケルイオンを含む硫酸コバルト溶液のコバルトの純度を有効に高めることのできる高純度硫酸コバルト溶液の製造方法及び、硫酸コバルトの製造方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書で開示する高純度硫酸コバルト溶液の製造方法は、ニッケルイオンを含む硫酸コバルト溶液から、当該硫酸コバルト溶液に比してコバルトの純度が高い高純度硫酸コバルト溶液を製造する方法であって、前記硫酸コバルト溶液のコバルト/ニッケル濃度比が100以上であり、前記硫酸コバルト溶液を、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む溶媒と接触させてpHを調整し、前記硫酸コバルト溶液中のニッケルイオンを液中に残しつつコバルトイオンを前記溶媒に抽出した後、該溶媒に抽出されたコバルトイオンを硫酸で逆抽出するニッケル分離工程を含み、前記ニッケル分離工程の前に、コバルトイオン及びニッケルイオンを含む酸性溶液からコバルトイオンを溶媒に抽出するとともに、該溶媒中のコバルトイオンを硫酸で逆抽出して前記硫酸コバルト溶液を得るコバルト抽出工程をさらに含むものである。
【0010】
この明細書で開示する硫酸コバルトの製造方法は、上記の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法により製造された高純度硫酸コバルト溶液中のコバルトイオンを結晶化させ、硫酸コバルトを得る結晶化工程を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
上述した高純度硫酸コバルト溶液の製造方法によれば、比較的少量のニッケルイオンを含む硫酸コバルト溶液のコバルトの純度を有効に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一の実施形態に係る高純度硫酸コバルト溶液の製造方法を含む硫酸コバルトの製造方法の一例を示すフロー図である。
【
図2】
図1の高純度硫酸コバルト溶液の製造方法で用いる硫酸コバルト溶液を得る際のリチウムイオン電池スクラップに対する前処理の一例を示すフロー図である。
【
図3】
図2の前処理で得られる電池粉末に対する湿式処理の一例を示すフロー図である。
【
図4】
図3の湿式処理のコバルト抽出工程で得られるコバルト抽出残液に対する処理の一例を示すフロー図である。
【
図5】実施例のpH:4.5における抽出後の水相のNi濃度と抽出後の有機相のNi濃度との関係を表すグラフである。
【
図6】実施例のpH:5.0における抽出後の水相のNi濃度と抽出後の有機相のNi濃度との関係を表すグラフである。
【
図7】実施例のpH:5.5における抽出後の水相のNi濃度と抽出後の有機相のNi濃度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、この明細書で開示する高純度硫酸コバルト溶液の製造方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態に係る高純度硫酸コバルト溶液の製造方法では、
図1に示すように、ニッケルイオンを含む硫酸コバルト溶液に対してニッケル分離工程を行い、ニッケルイオンが分離されたことにより当該硫酸コバルト溶液に比してコバルトの純度が高くなった高純度硫酸コバルト溶液を製造する。ニッケル分離工程では、溶媒抽出法による所定の抽出及び逆抽出を行うことにより、硫酸コバルト溶液中のニッケルイオンを有効に分離することができる。なお、さらに高純度硫酸コバルト溶液に対して結晶化工程を行った場合は、ニッケル含有量が少ない固体のコバルトの硫酸塩である硫酸コバルトを製造することができる。
【0014】
(硫酸コバルト溶液)
ニッケル分離工程で用いる硫酸コバルト溶液は、コバルトイオン及び、比較的少量のニッケルイオンも含むものである。具体的には、硫酸コバルト溶液のニッケル濃度に対するコバルト濃度の比であるコバルト/ニッケル濃度比が100以上である硫酸コバルト溶液を対象とする。硫酸コバルト溶液のコバルト/ニッケル濃度比は、典型的には100~1000である。
【0015】
硫酸コバルト溶液のニッケル濃度は、たとえば0.05g/L~0.90g/L、典型的には0.10g/L~0.60g/Lである。硫酸コバルト溶液のコバルト濃度は、たとえば5g/L~90g/L、典型的には5g/L~30g/L、より典型的には10g/L~15g/Lである。
その他、硫酸コバルト溶液には、たとえば、ナトリウムイオンが0.01g/L~0.05g/Lで含まれることがある。
【0016】
硫酸コバルト溶液は、たとえば、
図2及び3を参照して後述するようにリチウムイオン電池スクラップに対して前処理及び湿式処理を施して得られたものとすることができるが、上述したように所定のコバルト/ニッケル濃度比が100以上のものであれば、その作製方法は特に問わない。
【0017】
(ニッケル分離工程)
ニッケル分離工程では、上記の硫酸コバルト溶液に対して溶媒抽出法による抽出及び逆抽出を行う。ここでは、硫酸コバルト溶液中のコバルトイオンが有効に抽出・逆抽出されつつ、硫酸コバルト溶液中のニッケルイオンができる限り抽出されないようにするため、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(phosphinic acid)を含む抽出剤を使用する。
【0018】
ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む抽出剤による溶媒を用いると、硫酸コバルト溶液中のニッケルイオンを液中に残しつつコバルトイオンを溶媒に抽出することができる。かかる抽出剤は具体的には、SOLVAY社のALBRITECT TH1(商品名)または、Cyanex272(商品名)とすることが特に好適であるが、これに限らない。これにより、たとえば、(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸モノ-2-エチルヘキシル(PC-88A、Ionquest801)等の抽出剤に比して、pHの低い側と高い側に十分離れたコバルト及びニッケルの抽出曲線となって、コバルトイオンは抽出されるがニッケルイオンは抽出されない範囲が拡大することになる。つまり、コバルトイオンのみの選択的な抽出が容易になる。
【0019】
ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を含む抽出剤は、その純度を、たとえば95%以上とすることができる。
かかる抽出剤は、芳香族系、パラフィン系、ナフテン系等の炭化水素系有機溶剤を用いて、濃度が10体積%~30体積%となるように希釈して、これを溶媒として使用することができる。
【0020】
抽出の手順の一例としては、pH調整剤を添加しつつ、硫酸コバルト溶液(水相)と上記の抽出剤による溶媒(有機相)を接触させ、ミキサーにより、たとえば200~500rpmで5分~60分にわたって撹拌混合し、コバルトイオンを抽出剤と反応させる。この際の液温は、15℃~60℃とする。その後、セトラーにより、混合した有機相と水相を比重差により分離する。
溶媒抽出は繰り返し行ってもよく、たとえば有機相と水相が向流接触するようにした多段方式とすることもできる。O/A比(水相に対する有機相の体積比)は0.1~10とすることが一般的である。
【0021】
抽出時の平衡pHは4.0~7.0とすることが好ましく、特に5.0~6.0とすることがより一層好ましい。これにより、ニッケルイオンを水相に残し、コバルトイオンを有機相に有効に抽出することができる。言い換えると、抽出時の平衡pHが低いとコバルトイオンが十分に抽出されず、この一方で、平衡pHが高いとニッケルイオンも抽出されることが懸念される。但し、適切なpH範囲は、コバルト濃度や抽出剤の体積分率、油と水の相比、温度などの組み合わせによって変化するので、上記の範囲外とする場合もあり得る。
【0022】
pH調整剤としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等の種々のアルカリを用いることが可能である。なお、アンモニアはその処理のための設備が必要になることから、水酸化ナトリウムのほうが好ましい場合がある。
【0023】
抽出後は、コバルトイオンを含有する有機相に対して硫酸で逆抽出を行う。逆抽出は、硫酸酸性溶液等の逆抽出液を使用して、ミキサー等により、200~500rpmで5分~60分にわたって撹拌混合することにより行うことができる。逆抽出液の酸濃度はpH:1.0~3.0に調整することが好ましく、pH:1.5~2.5に調整することがより好ましい。逆抽出は、15℃~60℃以下で実施することができる。
【0024】
逆抽出により、コバルトイオンは有機相から水相側に移動し、コバルトイオンを含む逆抽出後液(水相)として高純度硫酸コバルト溶液を得ることができる。ここでは、先述したように抽出時に多くのニッケルイオンを水相に残したことから、高純度硫酸コバルト溶液にはニッケルイオンがほぼ含まれない。
【0025】
高純度硫酸コバルト溶液中のコバルト濃度は、たとえば1g/L~100g/L、典型的には10g/L~90g/Lになる。また、高純度硫酸コバルト溶液中のニッケル濃度は、好ましくは1mg/L以下とすることができる。高純度硫酸コバルト溶液のコバルト/ニッケル濃度比は、10000以上であることが好適である。
【0026】
(硫酸コバルトの製造)
硫酸コバルトを製造する場合、
図1に示すように、上記の高純度硫酸コバルト溶液に対して結晶化工程を行うことができる。結晶化工程では、高純度硫酸コバルト溶液を、たとえば40℃~50℃に加熱して濃縮し、コバルトを硫酸コバルトとして晶析させる。
【0027】
高純度硫酸コバルト溶液は、先述したニッケル分離工程を経たことによりニッケルイオンが十分に低減されている。それ故に、この実施形態では、ニッケル分離工程後かつ結晶化工程前に、不純物を除去するための洗浄工程を行うことを要しない。したがって、この実施形態では、ニッケル分離工程で得られた高純度硫酸コバルト溶液に対し、当該洗浄工程を経ることなく、結晶化工程を行うことができる。
【0028】
このようにして製造される硫酸コバルトは、ニッケル含有量が、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下であり、ニッケルが十分に除去されていることから、リチウムイオン二次電池その他の電池の製造の原料として有効に用いることができる。
【0029】
(リチウムイオン電池スクラップの処理)
以上に述べた高純度硫酸コバルト溶液ないし硫酸コバルトの製造に用いる硫酸コバルト溶液を得るには、たとえば、
図2及び3に示すように、少なくともコバルト及びニッケルを含むリチウムイオン電池スクラップを処理して電池粉末を得る前処理と、前記電池粉末を湿式で処理して前記硫酸コバルト溶液を得る湿式処理とが行われることがある。
【0030】
リチウムイオン電池スクラップは、携帯電話その他の種々の電子機器等で使用され得るリチウムイオン電池で、電池製品の寿命や製造不良またはその他の理由によって廃棄されたものである。このようなリチウムイオン電池スクラップから有価金属を回収することは、資源の有効活用の観点から好ましい。リチウムイオン電池スクラップは、たとえば、コバルトを0.1質量%~40.0質量%、ニッケルを0.1質量%~15.0質量%で含むことがある。その他、リチウムイオン電池スクラップには、リチウム、マンガン、アルミニウム、銅、鉄等が含まれる場合がある。
【0031】
リチウムイオン電池スクラップの処理には、前処理として、
図2に示すように、焙焼工程、破砕工程及び篩別工程が含まれ得る。これにより、電池粉末が得られる。なお焙焼工程では、ロータリーキルン炉その他の各種の炉や、大気雰囲気で加熱を行う炉等の様々な加熱設備でリチウムイオン電池スクラップを加熱し、たとえば450℃~1000℃、好ましくは600℃~800℃の温度範囲で0.5時間~4時間にわたって保持することが好適である。
【0032】
上記の電池粉末には湿式処理を施すことができる。湿式処理は、
図3に示すように、リチウム浸出工程、酸浸出工程、中和工程、マンガン/アルミニウム抽出工程、コバルト抽出工程等を含む。コバルト抽出工程後に先述の硫酸リチウム溶液が得られる。
【0033】
リチウム浸出工程では、電池粉末を水と接触させ、それに含まれるリチウムを溶解させる。これにより、電池粉末に含まれるリチウムを、回収プロセスの早い段階で分離させることができる。ここでは、最終的に得られるリチウム溶液のpHが7.0~10.0になるように、水に硫酸等の酸を添加することが好ましい。この場合、コバルトやアルミニウム等の溶出を抑制して、主としてリチウムを選択的に溶解させることができる。
【0034】
酸浸出工程では、上記のリチウム浸出工程で得られた残渣を、硫酸等の酸に添加して浸出させる。酸浸出工程は公知の方法ないし条件で行うことができるが、酸性溶液のpHは0.0~2.0とすること、酸性溶液の酸化還元電位(ORP値、銀/塩化銀電位基準)を0mV以下とすることが好適である。
【0035】
中和工程では、酸浸出工程で得られる浸出後液に水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等のアルカリを添加して、pHを上昇させる。これにより、浸出後液中のアルミニウムを沈殿させて除去することができる。但し、この中和工程は省略することも可能である。中和工程では、pHを4.0~6.0とすること、ORP値(ORPvsAg/AgCl)を-500mV~100mVとすること、液温を50℃~90℃とすることが好ましい。
【0036】
マンガン/アルミニウム抽出工程では、酸浸出工程後、又は中和工程を行った場合は中和工程後、浸出後液又は中和後液からアルミニウムの残部及び/又はマンガンを抽出して除去する。ここでは、燐酸エステル系抽出剤及びオキシム系抽出剤を含有する混合抽出剤を使用することが好ましい。ここで、燐酸エステル系抽出剤としては、たとえばジ-2-エチルヘキシルリン酸(商品名:D2EHPA又はDP8R)等が挙げられる。オキシム系抽出剤は、アルドキシムやアルドキシムが主成分のものが好ましい。具体的には、たとえば2-ヒドロキシ-5-ノニルアセトフェノンオキシム(商品名:LIX84)、5-ドデシルサリシルアルドオキシム(商品名:LIX860)、LIX84とLIX860の混合物(商品名:LIX984)、5-ノニルサリチルアルドキシム(商品名:ACORGAM5640)等があり、そのなかでも価格面等から5-ノニルサリチルアルドキシムが好ましい。抽出時の平衡pHは、好ましくは2.3~3.5、より好ましくは2.5~3.0とする。なお、マンガン/アルミニウム抽出工程は省略することもできる。
【0037】
コバルト抽出工程では、マンガン/アルミニウム抽出工程の抽出残液(水相)から、主としてコバルトイオンを抽出するとともに逆抽出する。但し、この際には、ニッケルイオンも少量ではあるものの抽出及び逆抽出されて、逆抽出後液(硫酸コバルト溶液)に含まれる。
【0038】
コバルト抽出工程では、はじめに、好ましくは(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸モノ-2-エチルヘキシル(商品名:PC-88A、Ionquest801)等のホスホン酸エステル系抽出剤を使用する。抽出時の平衡pHは、好ましくは5.0~6.0、より好ましくは5.2~5.7とする。なお、抽出後のコバルト抽出残液(水相)は、後述する硫酸ニッケルの製造に用いることができる。
コバルトイオンを抽出した溶媒(有機相)は必要に応じて、好ましくはpHが4.0~5.0、より好ましくは4.3~4.6の硫酸酸性溶液等のスクラビング液を用いたスクラビングに供することができる。スクラビング回数は1回以上、O/A比は1/2~1.5/1とすることがそれぞれ好ましい。これにより、溶媒中のナトリウムイオンを有効に除去することができる。
【0039】
その後、コバルトイオンを含有する溶媒に対し、硫酸で逆抽出を行う。pHは2.0~4.0の範囲とすることが好ましく、2.5~3.5の範囲とすることがより一層好ましい。なお、O/A比と回数については、適宜決めることができる。液温は常温でもよいが、好ましくは0℃~40℃である。逆抽出の後、逆抽出後液として硫酸コバルト溶液が得られる。
【0040】
(硫酸ニッケルの製造)
硫酸ニッケルは、上述したコバルト抽出工程のコバルト抽出残液を用いて製造することができる。硫酸ニッケルの製造では、
図4に示すように、ニッケル抽出工程、電解工程、溶解工程及び結晶化工程を行う。
【0041】
ニッケル抽出工程では、コバルト抽出残液に対し、好ましくはカルボン酸系抽出剤を使用し、コバルト抽出残液からニッケルイオンを分離させる。カルボン酸系抽出剤としては、たとえばネオデカン酸、ナフテン酸等があるが、なかでもニッケルイオンの抽出能力の理由によりネオデカン酸が好ましい。抽出時の平衡pHは、好ましくは6.0~8.0、より好ましくは6.8~7.2とする。
抽出後は、ニッケルイオンを含有する有機相に対して、硫酸、塩酸もしくは硝酸等の逆抽出液を使用して逆抽出を行う。ここでは、ニッケルイオンが有機相から逆抽出液(水相)に100%抽出されるようなpHの条件で行う。具体的にはpHは1.0~3.0の範囲が好ましく、1.5~2.5がより好ましい。なお、O/A比と回数については適宜決めることができるが、O/A比は5/1~1/1、より好ましくは4/1~2/1である。逆抽出回数を増やすことで、目的金属濃度を高め、電解工程に有利な濃度とすることができる。
【0042】
電解工程では、ニッケル抽出工程で得られる逆抽出後液を電解液として、電気分解により該電解液に含まれるニッケルイオンを電極に析出させて、電気ニッケルを得る。電解工程は、公知の条件により行うことができるが、たとえば、液温を40℃~60℃、pHを1.5~2.0にそれぞれ調整し、電流密度を190A/m2~210A/m2として行うことができる。
【0043】
溶解工程では、電気ニッケルを、硫酸または、硫酸及び酸化剤等の酸で溶解して、ニッケル溶解液を得る。この溶解終了時のpHは、たとえば1.0~5.0、好ましくは2.0~4.0とすることができる。ニッケル溶解液中のニッケル濃度は、たとえば10g/L~150g/L、好ましくは100g/L~130g/Lである。また、ニッケル溶解液のナトリウム濃度は、好ましくは5mg/L以下、より好ましくは1mg/L以下であり、アルミニウム及びマンガンの合計濃度は1mg/L以下、より好ましくは0.5mg/L以下である。
【0044】
結晶化工程では、上記のニッケル溶解液を、たとえば40℃~120℃に加熱して濃縮し、ニッケルイオンを硫酸ニッケルとして晶析させる。
結晶化工程で得られた硫酸ニッケルは、不純物がほぼ含まれておらず、リチウムイオン電池の製造の原料として用いることに適している。
【実施例】
【0045】
次に、上述した高純度硫酸コバルト溶液の製造方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0046】
Co:10g/L、Ni:1g/L程度の硫酸コバルト溶液に対し、抽出剤としてビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(ALBRITECT TH1)又は、2-エチルヘキシルホスフィン酸2-エチルヘキシル(PC-88A)を用いるとともに、pH調整剤として水酸化アンモニウム又は水酸化ナトリウムを用いて、異なるpHで、硫酸コバルト溶液中のコバルトイオンを抽出する試験を複数行った。
【0047】
抽出後の水相(抽出後Aq.)と有機相(抽出後Org.)中のCo濃度及びNi濃度を確認した。その結果を表1に示す。またその各pHにおける、横軸を抽出後の水相のNi濃度とし、縦軸を抽出後の有機相のNi濃度としたグラフを、
図5~7に示す。
【0048】
【0049】
この結果より、(2-エチルヘキシル)ホスフィン酸モノ-2-エチルヘキシルの抽出剤を用いた場合は溶媒中にNiが比較的多く抽出されているのに対し、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸の抽出剤を用いた場合は溶媒中のNi濃度が十分に低かったことが解かる。
【0050】
したがって、抽出剤としてビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸を使用することにより、ニッケル分離工程でニッケルイオンを分離できて、硫酸コバルト溶液のコバルトの純度を有効に高めることが可能であることが解かった。