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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】分析システム及び分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/10 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
G01M15/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020521245
(86)(22)【出願日】2019-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2019020068
(87)【国際公開番号】W WO2019225591
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2018098028
(32)【優先日】2018-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】松山 貴史
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 郁恵
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-521292(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102011103513(DE,A1)
【文献】特開2006-214957(JP,A)
【文献】特開2004-184191(JP,A)
【文献】特開2015-219104(JP,A)
【文献】特開平05-251527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/10
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両又はその一部である供試体が配置された試験室内の空気を分析する分析システムであって、
前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質を採取するサンプリング部と、
前記サンプリング部に採取された粒子状物質を分析する第1分析部と、
前記供試体から排出される排出物を分析する第2分析部と、
前記第1分析部の分析結果と、前記第2分析部の分析結果とを関連付けて記憶するデータ記憶部と、
前記第1分析部の分析結果を出力する分析結果出力部と
を備え、
前記第1分析部が、前記サンプリング部に採取された粒子状物質を元素分析するもの、又は、前記サンプリング部に採取された粒子状物質の質量又は数を計測するものであり、
前記第2分析部が、前記排出物に含まれる成分を分析するもの、又は、当該排出物に含まれる粒子状物質の質量又は数を計測するものである、分析システム。
【請求項2】
前記供試体に負荷を与えるダイナモメータと、
前記供試体から排出される排ガスを採取する排ガスサンプリング装置とをさらに備え、
前記サンプリング部が、前記排ガスサンプリング装置による排ガスの採取中に、前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質を採取する、請求項1記載の分析システム。
【請求項3】
前記試験室内における粒子状物質の発生源と、その発生源に含まれる元素を結び付けた発生源推定データを記憶している発生源データ格納部と、
前記第1分析部の分析結果及び前記発生源推定データに基づいて、前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質の発生源を推定する発生源推定部をさらに具備する、請求項記載の分析システム。
【請求項4】
前記第1分析部の分析結果に基づいて、前記第2分析部の分析結果の有効性を判断する有効性判断部をさらに具備する、請求項記載の分析システム。
【請求項5】
前記サンプリング部のサンプリングポートが、前記供試体のエンジンの吸気ポートの近傍に配置されている、請求項1記載の分析システム。
【請求項6】
車両又はその一部である供試体が配置された試験室内の空気を分析する分析方法であって、
前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質を採取するサンプリングステップと、
前記サンプリングステップで採取された粒子状物質を分析する第1分析ステップと、
前記供試体から排出される排出物を分析する第2分析ステップと、
前記第1分析ステップの分析結果と、前記第2分析ステップの分析結果とを関連付けて記憶するデータ記憶ステップと、
前記第1分析ステップの分析結果を出力する分析結果出力ステップと
を備え、
前記第1分析ステップが、前記サンプリングステップで採取された粒子状物質を元素分析するステップ、又は、前記サンプリングステップで採取された粒子状物質の質量又は数を計測するステップであり、
前記第2分析ステップが、前記排出物に含まれる成分を分析するステップ、又は、当該排出物に含まれる粒子状物質の質量又は数を計測するステップである、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジンから排出される排ガスを分析する分析システム及び分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、分析システムとしては、特許文献1に示すように、例えばエンジンからの排ガスを希釈ガスにより希釈してサンプリングし、そのサンプリングされた希釈排ガスに含まれる成分を分析して各種成分の濃度や質量を計測したり、希釈排ガスに含まれる粒子状物質の重量や数などを計測したりするものがある。
【0003】
ところで、エンジンが配置されている試験室内の空気には、例えばタイヤやブレーキ等が磨耗した粉塵、回転体から発生する粉塵、作業者から生じる埃、試験室の建材等から生じる微粒子など、種々の粒子状物質が含まれている。
【0004】
これらの粒子状物質が希釈排ガスに混ざって分析されたり計測されてしまうことを防ぐべく、上述した分析システムには、試験室内の空気をフィルタ等を介して取り込んで希釈空気を精製する希釈空気精製装置が利用されており、この精製された希釈空気が希釈ガスとして使用されている。
【0005】
ところが、試験室内の空気は、例えば車両の運転時に吸気されてエンジンに供給されるので、上述した粒子状物質は、エンジンから排出される排ガスにも含まれているはずであり、その粒子状物質が分析結果に影響を与える恐れがある。
なお、試験室内の空気に含まれる粒子状物質がエンジンに供給されることは、上述した分析システムのみならず、エンジン単体からの排ガスを分析する場合や、排ガスを希釈せずに直接サンプリングする場合においても共通して言えることである。さらには、試験室内の空気と水素とを反応させて電気を生成する燃料電池自動車において、排出される水などを分析する場合に、やはり共通して言えることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平6-3232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、上述した問題を解決すべくなされたものであり、試験室内の空気に含まれる粒子状物質の影響を考慮しながら排ガス分析できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る分析システムは、車両又はその一部である供試体が配置された試験室内の空気を分析する分析システムであって、前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質を採取するサンプリング部と、前記サンプリング部に採取された粒子状物質を分析する第1分析部と、前記第1分析部の分析結果を出力する分析結果出力部とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
このような分析システムであれば、試験室内の空気に含まれる粒子状物質を分析するので、空気に含まれる粒子状物質の質量や数を知ることができたり、例えばチタン(Ti)が検出されれば、ブレーキの磨耗による粉塵が試験室内の空気に含まれていることが推定できるし、試験室の建材等に使われている成分(例えばアルミニウム(Al))が検出されれば、建材等から生じた微粒子が試験室内の空気に含まれていることが推定できる。これにより、例えば排ガス分析に影響し得る粒子状物質(以下、汚染物質ともいう)が試験室内の空気に含まれているか否か等を考慮しながら、排ガス分析することが可能となる。
【0010】
前記供試体から排出される排出物を分析する第2分析部と、
前記第1分析部の分析結果と、前記第2分析部の分析結果とを関連付けて記憶するデータ記憶部とをさらに具備することが好ましい。
このような構成であれば、第2分析部による分析後に、その分析時における試験室内の空気に汚染物質が含まれているか否かを事後解析することができる。
【0011】
前記供試体に負荷を与えるダイナモメータと、前記供試体から排出される排ガスを採取する排ガスサンプリング装置とをさらに備え、前記サンプリング部が、前記排ガスサンプリング装置による排ガスの採取中に、前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質を採取することが好ましい。
このような分析システムによれば、排ガスの採取と試験室内の空気の採取とを同期させているので、試験室内の空気から汚染物質が検出されれば、その汚染物質がエンジンからの排ガスに含まれている可能性があり、排ガス分析結果の有効性等を判断し易くなる。
【0012】
前記第1分析部が、前記サンプリング部に採取された粒子状物質の質量又は数を計測するものであり、前記第2分析部が、前記排出物に含まれる成分を分析するもの、又は、当該排出物に含まれる粒子状物質の質量又は数を計測するものであることが好ましい。
このような構成であれば、試験室内の空気にどれだけの粒子状物質が含まれているかを考慮しつつ、第2分析部によって必要に応じた種々の分析(排ガスの成分分析や粒子状物質の計測)を行うことができる。
【0013】
前記第1分析部が、前記サンプリング部に採取された粒子状物質を元素分析するものであり、前記第2分析部が、前記排出物に含まれる成分を分析するもの、又は、当該排出物に含まれる粒子状物質の質量又は数を計測するものであることが好ましい。
このような構成であれば、試験室内の空気に含まれる粒子状物質を元素分析するので、その元素が第2分析部の分析結果に影響を及ぼすものでるかを考慮しつつ、第2分析部によって必要に応じた種々の分析(排ガスの成分分析や粒子状物質の計測)を行うことができる。
【0014】
前記試験室内における粒子状物質の発生源と、その発生源に含まれる元素を結び付けた発生源推定データを記憶している発生源データ格納部と、前記第1分析部の分析結果及び前記発生源推定データに基づいて、前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質の発生源を推定する発生源推定部をさらに具備することが好ましい。
このような構成であれば、推定された発生源のメンテナンスや清掃等を行うことにより、試験室内の空気に含まれる粒子状物質を効率良く低減させることができる。
【0015】
前記第1分析部の分析結果に基づいて、前記第2分析部の分析結果の有効性を判断する有効性判断部をさらに具備することが好ましい。
このような構成であれば、試験室内の空気に含まれる粒子状物質を定量的に考慮しながら、排ガス分析結果の有効性を判断することができる。
【0016】
前記サンプリング部のサンプリングポートが、前記供試体のエンジンの吸気ポートの近傍に配置されていることが好ましい。
このような構成であれば、エンジンに吸気される空気を直接的に元素分析することができ、エンジンに汚染物質が供給されているかをより正しく判断することができる。
【0017】
さらに、本発明に係る分析方法は、車両又はその一部である供試体が配置された試験室内の空気をから排出される排ガスを分析する分析方法であって、前記試験室内の空気に含まれる粒子状物質を採取するサンプリングステップと、前記サンプリング部に採取された粒子状物質を分析する第1分析ステップと、前記第1分析ステップの分析結果を出力する分析結果出力ステップとを備えることを特徴とする方法である。
このような分析方法によれば、上述した分析システムと同様の作用効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
このように構成した本発明によれば、試験室内の空気に含まれる粒子状物質の影響を考慮しながら排ガス分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る分析システムの全体模式図。
図2】同実施形態に係る環境分析装置の構成を示す模式図。
図3】同実施形態に係る情報処理装置の機能を示す機能ブロック図。
図4】同実施形態に係る分析システムの動作を示すフローチャート。
図5】その他の実施形態に係る情報処理装置の機能を示す機能ブロック図。
図6】その他の実施形態に係る分析システムの全体模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る分析システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
本実施形態の分析システム100は、エンジンEを備える供試体の性能等を評価するために用いられる排ガス分析システムであり、図1に示すように、セルと称させる試験室X内において、エンジンEから排出される排ガスを分析するものである。なお、排ガスの分析とは、排ガスに含まれる成分を分析して各種成分の濃度や質量を計測したり、排ガスに含まれるPM(質量)やPN(数)などを計測することである。また、エンジンとは、車両や船舶、航空機などに用いられる内燃機関(internal combustion engine)又は外燃機関(external combustion engine)である。なお、エンジンEを備える供試体とは、エンジンE単体も含む概念である。また、供試体は、回転体を備えるものであれば、必ずしもエンジンEを備える必要はなく、例えば燃料電池自動車(以下FCV)や電気自動車(以下EV)、或いはそれらの一部であっても良い。また、エンジンとモータの両方を備えたハイブリット車(以下HV)であってもよい。さらに、分析システム100の分析対象は、排ガスに限らず、例えばテールパイプから排出される水など、供試体から排出される排出物であれば良い。
【0022】
以下では、エンジンEが搭載された試験車両Vをシャシダイナモメータ10上で走行させて排ガス分析する態様について説明するが、分析システム100としては、エンジンE単体にエンジンダイナモを接続して排ガス分析するものであって良いし、エンジンEが接続されたパワートレインにダイナモメータを接続して排ガス分析するものであっても良い。
【0023】
本実施形態の分析システム100は、試験車両Vに負荷を与えるシャシダイナモメータ10と、エンジンEから排出された排ガスを採取する排ガスサンプリング装置20と、排ガスサンプリング装置20によって採取された排ガスを分析する排ガス分析装置30(請求項でいう第2分析部)とを具備する。
【0024】
シャシダイナモメータ10は、試験車両Vの駆動輪を載せる回転ドラム11等を備えたものであり、ここでは試験車両Vの前輪及び後輪それぞれに対して回転ドラム11が設けられているが、前輪又は後輪の一方にのみ対して回転ドラム11が設けられていても良い。
【0025】
排ガスサンプリング装置20は、エンジンEに接続された排気管E1を流れる排ガスの一部又は全部を採取するものである。本実施形態の排ガスサンプリング装置20は、排ガスを全量サンプリングするとともに、全量サンプリングした排ガスを希釈ガスにより希釈して希釈排ガスを生成し、該希釈排ガスの流量が一定になるように構成した定容量サンプリング(CVS)機構を備えたものである。そして、このCVS機構により、排ガスと希釈ガスとの総流量、すなわち希釈排ガスの流量が一定となった状態において、希釈排ガスが第1のガス収容バッグM1へ収容されるとともに、希釈ガスは第2のガス収容バッグM2へ収容される。なお、希釈ガスは、空気精製装置DARが試験室X内の空気を図示しないフィルタを介して取り込んで精製した希釈用空気である。
【0026】
排ガス分析装置30は、排ガスに含まれる成分を分析して各種成分の濃度及び/又は質量を計測するものである。具体的に排ガス分析装置30は、各収容バッグM1、M2に収容されたガスを分析して、これらのガスに含まれるHC、NO、CO、CO等の測定対象成分の濃度を測定し、その測定結果に基づいてエンジンEから排出された排ガスに含まれる測定対象成分の濃度を算出するものである。
【0027】
然して、本実施形態の分析システム100は、排ガス分析が行われる環境、すなわち試験室X内の空気を分析する環境分析装置40と、上述した排ガス分析結果や環境分析装置40による分析結果を取得する情報処理装置Cとをさらに具備してなる。
【0028】
環境分析装置40は、図2に示すように、試料Sに一次X線を照射することにより生じる二次X線を検出して、試料Sの成分分析を行うものであり、具体的には蛍光X線分析装置である。
【0029】
ここでの環境分析装置40は、試験室X内に配置されて、試験室X内の空気に含まれる粒子状物質を試料Sとして分析する例えば波長分散型蛍光X線分析装置であり、装置本体50及びこの装置本体50との間で信号を授受するデータ処理部60を備えている。
【0030】
装置本体50は、試験室X内の空気に含まれる粒子状物質を採取するサンプリング部51と、採取した粒子状物質に一次X線を照射して該粒子状物質から生じる蛍光X線を検出する分析部52とを備えている。
【0031】
サンプリング部51は、粒子状物質を捕集するフィルタFと、試験室X内の空気を吸引してフィルタFに導くサンプリング流路Lと、サンプリング流路Lに設けられた吸引ポンプPとを有している。より具体的に説明すると、本実施形態のサンプリング部51は、一対のリールRを用いてフィルタFを巻き取る巻き取り式のものであり、所定のサンプリング時間に亘って粒子状物質をフィルタFに捕集した後、そのフィルタFを分析部52に搬送するように構成されている。なお、サンプリング部51としては、粒子状物質を捕集した後のフィルタFをユーザがサンプリング流路Lから取り外して分析部52にセットするバッチ式のものであっても良い。
【0032】
このサンプリング部51は、試験車両Vに吸気される空気の一部を採取するように試験室X内に配置されており、具体的には図1に示すように、サンプリング流路LのサンプリングポートLaが試験車両Vの前方に設けられており、試験車両Vの吸気口の近傍に設けられていることが好ましい。本実施形態では、試験車両Vの前方に送風ファンAが設置されており、サンプリングポートLaは試験車両Vと送風ファンAとの間に設けられている。
【0033】
さらにサンプリング部51には、フィルタFに捕集された粒子状物質の捕集量(質量)を測定するための捕集量測定部53が設けられている。この捕集量測定部53は、捕集された粒子状物質にβ線を照射するβ線源531と、粒子状物質を透過したβ線を検出するβ線検出器532とを有している。これにより、β線検出器532が検出したβ線強度に基づいて粒子状物質の捕集量を求めることができる。なお、捕集量は、捕集後のフィルタFの質量から捕集前のフィルタFの質量を差し引いて求めても良い。
【0034】
分析部52は、フィルタFに捕集された粒子状物質にX線を照射するX線源521と、粒子状物質から生じる蛍光X線を検出するX線検出器522とを有している。X線源521としては、例えばパラジウムなどの金属に電子を照射してX線を発生させるものが挙げられる。X線検出器522としては、例えばシリコン半導体検出器やシリコンドリフト検出器が挙げられる。
【0035】
データ処理部60は、物理的にはCPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換器などを備えたものであり、前記内部メモリに格納された検査プログラムに基づいて、CPU及びその他の構成要素が協働することによって、粒子状物質に含まれる元素を分析する元素分析部61、元素分析部61(請求項でいう第1分析部)による元素分析結果を出力する分析結果出力部62などの機能を備えている。
【0036】
元素分析部61は、上述したX線検出器522から出力されるX線強度信号を取得して、粒子状物質に含まれる元素を少なくとも定性分析するものであり、具体的には検出された蛍光X線スペクトルに現れているピークに対応する元素を特定する。
ここで、本実施形態のデータ処理部60は、上述したβ線検出器532から出力されるβ線強度信号を取得して捕集量を算出する捕集量算出部63としての機能さらに備えている。これにより、元素分析部61は、捕集量算出部63により算出された捕集量を用いて、粒子状物質に含まれる元素の濃度(例えば質量濃度又は元素濃度)や質量を定量分析することができる。
【0037】
分析結果出力部62は、元素分析部61による元素分析結果を情報処理装置Cに出力するものであり、出力される元素分析結果には少なくとも定性分析結果、すなわち粒子状物質に含まれていると特定された元素情報が含まれている。さらに、ここでの分析結果出力部62は、定量分析結果、すなわち特定された元素の濃度(例えば質量濃度又は元素濃度)や質量を示す情報をも元素分析結果として出力する。
なお、分析結果出力部62の出力方式としては、有線又は無線を介して元素分析結果を情報処理装置Cに出力しても良いし、例えばUSBメモリ等の外部メモリに元素分析結果を出力して、その外部メモリに記憶された元素分析結果を適宜のタイミングで情報処理装置Cに取得させても良い。
【0038】
情報処理装置Cは、CPU、内部メモリ、入出力インターフェース、AD変換器などを備えた専用乃至汎用のコンピュータであり、例えば試験室Xとは別室に設けられている。そして、この情報処理装置Cは、内部メモリに格納されたプログラムに基づいて、図3に示すように、CPU及びその他の構成要素が協働することによって、排ガス分析結果受付部C1、元素分析結果受付部C2、データ記憶部C3、有効性判断部C4などの機能を発揮するように構成されている。
以下、各部について説明する。
【0039】
排ガス分析結果受付部C1は、上述した排ガス分析装置30により得られた排ガス分析結果を受け付けるものであり、排ガスに含まれる成分や、それらの成分の濃度及び/又は質量や、排ガスに含まれるPMやPNなどを受け付ける。
【0040】
元素分析結果受付部C2は、分析結果出力部62により出力された元素分析結果を受け付けるものであり、少なくとも試験室X内の空気に含まれる粒子状物質を定性分析した定性分析結果を受け付け、ここでは当該粒子状物質を定量分析した定量分析結果をも受け付ける。
【0041】
データ記憶部C3は、排ガス分析結果受付部C1が受け付けた排ガス分析結果と、元素分析結果受付部C2が受け付けた元素分析結果とを関連付けて記憶する記憶するものである。具体的にデータ記憶部C3は、例えば排ガスサンプリング装置20による排ガスの採取時間帯と、サンプリング部51による試験室X内の空気を採取時間帯との少なくとも一部が重なり合うように、排ガス分析結果と元素分析結果とを同期させて記憶している。言い換えれば、データ記憶部C3は、排ガス分析結果と、その分析された排ガスの採取開始時刻から排ガスの採取終了時刻までの間に採取された試験室X内の空気の元素分析結果とを結び付けて記憶している。
なお、データ記憶部C3としては、例えば採取された排ガスの分析時間帯と、採取された試験室X内の空気の分析時間帯との少なくとも一部が重なり合うように、排ガス分析結果と元素分析結果とを同期させて記憶しても良い。
【0042】
有効性判断部C4は、分析結果出力部62により出力された元素分析結果に基づいて、排ガス分析結果の有効性を判断するものである。具体的に有効性判断部C4は、元素分析結果に含まれる元素情報、すなわち定性分析により検出された元素のうち、ユーザが予め定めた1又は複数の所定元素(以下、汚染元素という)の濃度又は質量と、それぞれの所定元素に対して定められている閾値(ゼロを含む)とを比較する。そして有効性判断部C4は、汚染元素の濃度又は質量が閾値以下である場合、排ガス分析結果を有効なものであると判断し、汚染元素の濃度又は質量が閾値を超えている場合、排ガス分析結果を無効なものであると判断し、これらの判断結果を例えばディスプレイ等に出力する。なお、有効性判断部C4としては、判断結果を出力することなく、元素分析結果(汚染元素の濃度又は質量)を例えば閾値と比較可能にディスプレイ等に出力するように構成されていても良い。
【0043】
ここで、汚染元素とは、試験室X内の空気に含まれ得る粒子状物質を構成する元素であり、且つ、例えばエンジンEに供給された場合に排ガス分析に影響を及ぼす元素である。具体的には、例えばタイヤやブレーキ等が磨耗した粉塵、回転体から発生する粉塵、作業者から生じる埃、試験室Xの建材等から生じる微粒子などに含まれる元素が汚染元素として挙げられ、より具体的には、ブレーキに含まれるチタン(Ti)、試験室Xの建材等に含まれるアルミニウム(Al)、シャシダイナモメータ10を構成する回転ドラム11等の回転体に含まれる鉄(Fe)などである。ただし、必要に応じて、排ガス分析に影響しない元素を汚染元素とてしても良く、ユーザは汚染元素を適宜選択・変更して構わない。
【0044】
続いて、本実施形態の環境分析装置40を用いた分析方法につい、図4を参照しながら説明する。
【0045】
まず、排ガス分析が開始されると、排ガスサンプリング装置20が、エンジンEから排出される排ガスを採取する(S11)。本実施形態では、排ガスが希釈ガスにより希釈され、希釈排ガスが第1のガス収容バッグM1へ収容されるとともに、希釈ガスが第2のガス収容バッグM2へ収容される。
【0046】
一方、希釈排ガス及び希釈ガスがそれぞれ各ガス収容バッグM1、M2に溜まると、排ガス分析装置30が、各ガスに含まれる成分を分析して、各種成分の濃度及び/又は質量やPM・PN等を計測する(S12)。この排ガス分析結果は、排ガス分析装置30から情報処理装置Cに出力される(S13)。
【0047】
ここで、上述した排ガスの採取を開始するタイミングより前又は同時に、環境分析装置40のサンプリング部51が、試験室X内の空気を採取し始める(S21)。これにより、上述した排ガスの採取中に、試験室X内の空気が採取され、採取された空気に含まれる粒子状物質がフィルタFに捕集される。
【0048】
その後、所定のサンプリング時間が経過すると、フィルタFが分析部52に送られる。そして、捕集された粒子状物質に一次X線が照射され、これにより生じる蛍光X線がX線検出器522により検出され、検出されたX線強度信号に基づいて、データ処理部60により粒子状物質の元素分析が行われる(S22)。この元素分析結果は、データ出力部から情報処理装置Cに出力される(S23)。
【0049】
情報処理装置Cは、上述した元素分析結果及び排ガス分析結果を受け付けて、これらを互いに関連付けてデータ記憶部C3に記憶する(S31)。ここでは、上述したように、排ガスの採取時間と試験室X内の空気を採取時間との少なくとも一部が重なり合うように、排ガス分析結果と元素分析結果とを同期させてデータ記憶部C3に記憶させている。
【0050】
また、元素分析結果が情報処理装置Cに出力されると、有効性判断部C4が、その元素分析結果に基づいて、排ガス分析結果の有効性を判断する(S32)。なお、有効性判断部C4による具体的な判断方法は、上述した通りである。
有効性判断部C4による判断のタイミングは、排ガス分析結果が得られた後に、その排ガス分析結果に対して有効性を判断しても良いし、排ガス分析結果が得られる前に、そのまま排ガス分析を進めた場合に得られる排ガス分析結果に対して有効性を判断しても良い。後者の場合の有効性判断部C4としては、例えば環境分析装置40から出力される元素分析結果に基づいて、排ガスの採取中に、そのまま排ガス分析を進めた場合に得られる排ガス分析結果に対して有効性を判断する構成が挙げられる。
【0051】
このように構成された分析システム100によれば、試験室X内の空気に含まれる粒子状物質を元素分析できるので、例えばTiが検出されれば、ブレーキの磨耗による粉塵が試験室X内の空気に含まれていることが推定できるし、試験室Xの建材等に使われているAlが検出されれば、建材等から生じる微粒子が試験室X内の空気に含まれていることが推定できる。これにより、試験室X内の空気に例えば排ガス分析に影響し得る汚染元素が含まれているか否か等を考慮しながら、排ガス分析を進めたり、得られた排ガス分析結果の有効性を判断したりすることが可能となる。
【0052】
また、排ガスの採取と試験室X内の空気の採取とを同期させているので、試験室X内の空気から汚染元素が検出されれば、その汚染元素がエンジンEからの排ガスに含まれている可能性があり、排ガス分析の有効性等を判断し易くなる。
【0053】
さらに、排ガス分析結果及び元素分析結果を関連付けて記憶させているので、排ガス分析後に、その排ガス分析時における試験室X内の空気に汚染元素が含まれていたか否かを事後分析することができる。
【0054】
そのうえ、有効性判断部C4が、排ガス分析に影響を及ぼす所定元素の濃度又は質量に基づいて排ガス分析結果の有効性を判断するので、試験室X内の空気に含まれる汚染元素を定量的に考慮しながら、排ガス分析結果の有効性を判断することができる。
【0055】
加えて、試験室X内の空気を採取するサンプリング流路LのサンプリングポートLaが、試験車両Vの吸気口の近傍に設けられているので、エンジンEに吸気される空気を直接的に元素分析することができ、エンジンEに汚染物質が供給されているかをより正しく判断することができる。
【0056】
さらに加えて、有効性判断部C4が、排ガスの採取中に、そのまま排ガス分析を進めた場合に得られる排ガス分析結果に対して有効性を判断するように構成されていれば、例えば試験室X内の空気に多くの汚染元素が含まれており、そのまま排ガス分析を進めたとしても有効性の低い分析結果が得られる場合には、排ガスの採取を中断するなどして、無駄な排ガス分析が行われることを避けることができる。
【0057】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0058】
例えば、情報処理装置Cとしては、図5に示すように、元素分析結果を取得するとともに、排ガス分析に影響する汚染元素が元素分析結果に含まれている場合に、その汚染元素の試験室X内における発生源を推定する発生源推定部C5としての機能を備えていても良い。
【0059】
具体的にこの場合の情報処理装置Cは、排ガス分析に影響する汚染元素と、その汚染元素が試験室X内において発生し得る発生源とを結び付けた発生源推定データを記憶している発生源データ格納部C6としての機能をさらに備えており、発生源推定部C5は、発生源推定データ及び元素分析結果に基づいて発生源を推定し、その発生源を例えばディスプレイ等に出力するように構成されている。
このような構成であれば、発生源推定部C5により推定された発生源を清掃やメンテナンスすることで、試験室X内に含まれる汚染元素を低減させることができる。
【0060】
前記実施形態のデータ記憶部C3は、排ガス分析結果と、その分析された排ガスの採取時間帯に採取した試験室X内の空気の元素分析結果とを結び付けて記憶していたが、排ガスの採取時間帯と空気の採取時間帯とは重なり合っていなくても良く、データ記憶部C3としては、互いに異なる採取時間帯に採取された排ガスの分析結果と空気の元素分析結果とを結び付けて記憶しても良い。
【0061】
また、前記実施形態では、環境分析装置40による元素分析結果に基づいて、排ガス分析結果の有効性が判断されていたが、例えば排ガス分析を開始する前に元素分析結果を得ることで、その元素分析結果に基づいて、排ガス分析を開始する前に排ガス分析環境のクリーニング等が必要であるか否かを判断しても良い。
【0062】
さらに、環境分析装置40は、前記実施形態では試料Sに一次X線を照射することにより生じる蛍光X線を検出して元素分析するものであったが、一次X線の照射により生じる散乱X線や光電子を検出して元素分析するものであっても良い。また、環境分析装置40として用いられる蛍光X線分析装置は、波長分散型のものに限らず、エネルギー分散型のものであっても良い。
【0063】
また、前記実施形態の第1分析部は、試験室X内の空気に含まれる粒子状物質を元素分析するものであったが、第1分析部としては、試験室X内の空気に含まれる粒子状物質の質量又は数を計測するものであっても良い。
この場合の第1分析部としては、粒子状物質の質量(PM)を計測するための捕集フィルタや、粒子状物質の数(PN)を計測するための拡散電荷法センサ(DCS)、凝縮粒子カウンタ(CPC)、固体粒子数計測装置(SPCS)等を利用した粒子計数装置を挙げることができる。
【0064】
さらに、前記実施形態の第2分析部は、排ガスサンプリング装置2により採取された排ガスに含まれる成分を分析するものであったが、第2分析部としては、図6に示すように、排ガスサンプリング装置2により採取された排ガスに含まれる粒子状物質の質量又は数を計測する粒子状物質計測装置70であっても良い。
この場合、粒子状物質計測装置70としては、粒子状物質の質量(PM)を計測するための拡散電荷法センサ(DCS)を利用したPM計測装置や、粒子状物質を捕集する捕集フィルタや、粒子状物質の数(PN)を計測するための凝縮粒子カウンタ(CPC)、固体粒子数計測装置(SPCS)等を利用した粒子計数装置を挙げることができる。
【0065】
加えて、分析結果出力部62は、前記実施形態では元素分析結果を情報法処理装置に出力するものであったが、元素分析結果を例えばディスプレイに表示出力したり、紙面にプリント出力するものであっても良い。このような構成であっても、ユーザが元素分析結果を確認することで、試験室X内の空気に含まれる粒子状物質の影響を考慮しながら排ガス分析を行うことができる。
【0066】
さらに加えて、分析システム100は、前記実施形態ではエンジンEから排出された排ガスを全量採取して希釈して分析するものであったが、エンジンEから排出された排ガスの一部を採取するものであっても良い。また、分析システム100は、エンジンEから排出される排ガスを希釈することなく、直接サンプリングして分析するものであっても良い。
【0067】
また、分析システム100の供試体としては、FCV、EV、HV、二輪車などであっても良いし、これらを構成する一部を供試体としても良い。
なお、FCVは、水素と試験室内の空気(例えば圧縮空気)とを反応させて電気を発生させる際に水を生成する。このため、FCVを供試体とする場合は、前記実施形態における排ガス分析装置30の代わりに、FCVのテールパイプから排出される水を分析する分析装置(例えば、元素分析装置)を第2分析部としても良い。このような構成であれば、試験室内の空気に含まれる粒子状物質の影響を考慮しながら、テールパイプから排出される水の分析を行うことができる。例えば、情報処理装置は、第2分析部の水の分析結果から、第1分析部の分析結果(すなわち、試験室内の空気に含まれる粒子状物質)を引くことで、燃料電池に由来する粒子状物質を判別することができる。さらに、FCVの電費を計測し、情報処理装置は、試験室内の空気に含まれる粒子状物質の分析結果(PMやPN)と、FCVの電費とを関連付けて記憶しても良いし、燃料電池に由来する粒子状物質と、FCVの電費とを関連付けて記憶しても良い。
これにより、試験室内のPMやPNと電費との相関を知ることができる。
【0068】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0069】
100・・・分析システム
E ・・・エンジン
E1 ・・・排気管
X ・・・試験室
V ・・・試験車両
10 ・・・シャシダイナモメータ
11 ・・・回転ドラム
20 ・・・排ガスサンプリング装置
30 ・・・排ガス分析装置
40 ・・・環境分析装置
S ・・・試料
50 ・・・装置本体
51 ・・・サンプリング部
F ・・・フィルタ
L ・・・サンプリング流路
P ・・・吸引ポンプ
R ・・・リール
La ・・・サンプリングポート
52 ・・・分析部
521・・・X線源
522・・・X線検出器
53 ・・・捕集量測定部
531・・・β線源
532・・・β線検出器
60 ・・・データ処理部
61 ・・・元素分析部
62 ・・・分析結果出力部
63 ・・・捕集量算出部
C ・・・情報処理装置
C1・・・排ガス分析結果受付部
C2・・・元素分析結果受付部
C3・・・データ記憶部
C4・・・有効性判断部
C5・・・発生源推定部
C6・・・発生源データ格納部
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、試験室内の空気に含まれる粒子状物質の影響を考慮しながら排ガス分析することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6