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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A21D 2/18 20060101AFI20231013BHJP
   A21D 2/14 20060101ALI20231013BHJP
   A21D 13/80 20170101ALI20231013BHJP
   A23L 13/40 20230101ALI20231013BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20231013BHJP
【FI】
A21D2/18
A21D2/14
A21D13/80
A23L13/40
A23L11/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020533506
(86)(22)【出願日】2019-07-26
(86)【国際出願番号】 JP2019029534
(87)【国際公開番号】W WO2020027001
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-17
(31)【優先権主張番号】P 2018147255
(32)【優先日】2018-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】吉村 実奈
(72)【発明者】
【氏名】窪田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 采香
(72)【発明者】
【氏名】篠田 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】長畑 雄也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 美保
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/132534(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/123257(WO,A1)
【文献】特開2004-041011(JP,A)
【文献】特開2015-073474(JP,A)
【文献】特開2015-116147(JP,A)
【文献】特開平01-320962(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A21D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を食品素材に配合し、食品組成物を得る工程と、
を含む食品の製造方法であって、
混合物を得る前記工程において、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.02以上以下であり、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下であり、
前記調味油が、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上を含み、
前記食品が、焼菓子およびベーカリー食品からなる群から選択される1種である、食品の製造方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【請求項2】
調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を食品素材に配合して混練し、食品組成物を得る工程と、
を含む食品の製造方法であって、
混合物を得る前記工程において、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.8以上6以下であり、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下であり、
前記調味油が、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上を含み、
前記食品が、魚肉・畜肉加工品および魚肉・畜肉加工品様食品からなる群から選択される1種である、食品の製造方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【請求項3】
前記成分(A)の配合量が、前記食品組成物中、0.5質量%以上15質量%以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記食品が、前記食品組成物を加熱して得られる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記調味油の上昇融点が40℃以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを含む、組成物であって、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.02以上以下であり、
前記組成物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記組成物全体に対して10質量%以上100質量%以下であり、
前記調味油が、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上を含み、
前記組成物が、焼菓子およびベーカリー食品からなる群から選択される1種に用いられる、前記組成物。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【請求項7】
調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを含み、食品素材に配合して混練して用いられる組成物であって、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.8以上6以下であり、
前記組成物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記組成物全体に対して10質量%以上100質量%以下であり、
前記調味油が、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上を含み、
前記組成物が、魚肉・畜肉加工品および魚肉・畜肉加工品様食品からなる群から選択される1種に用いられる、前記組成物。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【請求項8】
食品における調味油の風味を増強させる方法であって、
前記調味油を、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)に対して、質量比で0.02以上以下となるように混合して混合物を得た後、食品素材に配合することを含み、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下であり、
前記調味油が、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上を含み、
前記食品が、焼菓子およびベーカリー食品からなる群から選択される1種である、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【請求項9】
食品における調味油の風味を増強させる方法であって、
前記調味油を、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)に対して、質量比で0.8以上6以下となるように混合して混合物を得た後、食品素材に配合して混練することを含み、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下であり、
前記調味油が、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上を含み、
前記食品が、魚肉・畜肉加工品および魚肉・畜肉加工品様食品からなる群から選択される1種である、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
澱粉を用いた食品素材として、特許文献1に記載のものがある。
【0003】
特許文献1には、澱粉を75質量%以上含む組成物であって、前記澱粉として、アミロース含量5質量%以上である澱粉を原料として得られた低分子化澱粉を当該組成物中3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10以上5×10以下であり、25℃における当該組成物の冷水膨潤度が7以上20以下であり、当該組成物中の目開き0.5mmの篩上の粒状物の含有量が50質量%以下である、組成物が開示されている。当該組成物は、吸水率の高さ、べたつきのなさ、および、ダマになりにくさのバランスに優れており、たとえば各種食品に配合した際に、優れた食感や良好な作業性を得ることも可能であるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/132534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記発明には、調味油の風味を増強できることについては、示唆も開示もされていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者等が鋭意検討したところ、澱粉を含む特定の成分と調味油をあらかじめ混合し、食品素材に含有させることで、調味油の風味を増強させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明によれば、
調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を食品素材に配合し、食品組成物を得る工程と、
を含み、混合物を得る前記工程において、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下であり、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下である、
食品の製造方法が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【0008】
前記成分(A)の配合量が、食品組成物中、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0009】
前記食品が、前記食品組成物を加熱して得られることが好ましい。
【0010】
前記食品が、焼菓子、魚肉・畜肉加工品、魚肉・畜肉加工品様食品およびベーカリー食品からなる群から選択される1種であることが好ましい。
【0011】
前記調味油の上昇融点が40℃以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明によれば、
調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを含む、組成物であって、前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下であり、
前記組成物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記組成物全体に対して10質量%以上100質量%以下である、
前記組成物が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【0013】
前記組成物が、焼菓子、魚肉・畜肉加工品、魚肉・畜肉加工品様食品およびベーカリー食品からなる群から選択される1種に用いられることが好ましい。
【0014】
また、本発明によれば、
調味油の風味を増強させる方法であって
前記調味油を、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下となるように混合して混合物を得た後、食品素材に配合することを含み、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下である、前記方法が提供される。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【0015】
なお、これらの各構成の任意の組み合わせや、本発明の表現を方法、装置などの間で変換したものもまた本発明の態様として有効である。
たとえば、本発明には、上記本発明における製造方法により得られる焼菓子、魚肉・畜肉加工品、魚肉・畜肉加工品様食品およびベーカリー食品も包含される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、調味油の風味を増強することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
たとえば、本発明の製造方法によれば、調味油の添加量が少なくても、調味油の風味が増強されるため、充分な調味油の風味のある食品を得ることができる。ここで言う「調味油の風味」とは、フレーバー等の風味に加えて、コク味を付与することも含まれる。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、各成分の具体例を挙げて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
(混合物)
本実施形態において、混合物は、調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを含む。そして、混合物において調味油の配合量が、成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下である。また、混合物中の調味油と前記成分(A)の合計量が、混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下である。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、低分子化澱粉のピーク分子量が3×103以上5×104以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
以下、成分(A)についてさらに具体的に説明する。
【0020】
(成分(A))
成分(A)は、具体的には、澱粉を主成分としてなる。
条件(1)に関し、成分(A)は、調味油の風味を増強する観点から、澱粉を75質量%以上含み、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上含む。
また、成分(A)中の澱粉含量の上限に制限はなく、100質量%以下であるが、食品の性状等に応じてたとえば99.5質量%以下、99質量%以下としてもよい。
【0021】
条件(2)に関し、低分子化澱粉は、条件(1)における澱粉に含まれる。
【0022】
低分子化澱粉のピーク分子量の下限は、調味油の風味を増強する観点から、3×103以上であり、好ましくは8×103以上である。また、同様の観点から、低分子化澱粉のピーク分子量の上限は、5×104以下であり、好ましくは3×104以下であり、さらに好ましくは1.5×104以下である。なお、低分子化澱粉のピーク分子量の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0023】
低分子化澱粉は、その製造安定性に優れる観点から、好ましくは、酸処理澱粉、酸化処理澱粉または酵素処理澱粉からなる群から選択される1種または2種以上であり、より好ましくは酸処理澱粉である。
【0024】
酸処理の条件は、問わないが、例えば、以下のように処理することができる。
アミロース含量5質量%以上の澱粉と水を反応装置に投入した後、さらに酸を投入する。あるいは水に無機酸をあらかじめ溶解させた酸水と原料の澱粉を反応装置に投入する。酸処理をより安定的に行う観点からは、反応中の澱粉の全量が水相内に均質に分散した状態、またはスラリー化した状態にあることが望ましい。そのためには、酸処理を行う上での澱粉スラリーの濃度を、たとえば10質量%以上50質量%以下、好ましくは20質量%以上40質量%以下の範囲になるように調整する。スラリー濃度が高すぎると、スラリー粘度が上昇し、均一なスラリーの攪拌が難しくなる場合がある。
【0025】
酸処理に用いられる酸として、具体的には塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸が挙げられ、種類、純度などを問わず利用できる。
【0026】
酸処理反応は、たとえば酸処理時の無機酸濃度は.0.05規定度(N)以上4N以下が好ましく、0.1N以上4N以下がより好ましく、0.2N以上3N以下がさらに好ましい。また、反応温度は、30℃以上70℃以下が好ましく、35℃以上70℃以下がより好ましく、35℃以上65℃以下がさらに好ましく、反応時間は、0.5時間以上120時間以下が好ましく、1時間以上72時間以下がより好ましく、1時間以上48時間以下がさらに好ましい。
【0027】
成分(A)中の低分子化澱粉の含有量の下限は、調味油の風味を増強する観点から、3質量%以上であり、好ましくは8質量%以上、さらに好ましくは13質量%以上である。
一方、成分(A)中の低分子化澱粉の含有量の上限は、同様の観点から、45質量%以下であり、好ましくは35質量%以下、さらに好ましくは25質量%以下である。
【0028】
また、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量の下限は、5質量%以上であり、調味油の風味を増強する観点から、好ましくは12質量%以上、より好ましくは22質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上、さらにより好ましくは55質量%以上、よりいっそう好ましくは65質量%以上である。なお、低分子化澱粉の原料澱粉中のアミロース含量の上限に制限はなく、100質量%以下であり、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0029】
低分子化澱粉の原料であるアミロース含量5質量%以上の澱粉として、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、タピオカ澱粉、甘藷澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、ハイアミロース小麦澱粉、米澱粉および、これらの原料を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉からなる群から選択される1種または2種以上を用いることができる。調味油の風味を増強する観点から、ハイアミロースコーンスターチ、コーンスターチ、および、タピオカ澱粉から選択される1種または2種以上を用いることが好ましい。また、同様の観点から、アミロース含量5質量%以上の澱粉は、好ましくはハイアミロースコーンスターチである。ハイアミロースコーンスターチのアミロース含量は、40質量%以上のものが入手可能である。アミロース含量5質量%以上の澱粉は、より好ましくはアミロース含量が40質量%以上のコーンスターチである。
【0030】
また、成分(A)は、冷水膨潤度について特定の条件(3)を満たすとともに、粒度が特定の条件(4)を満たす構成となっている。
まず、条件(3)に関し、調味油の風味を増強する観点から、成分(A)の冷水膨潤度は5以上であり、好ましくは6以上であり、さらに好ましくは6.5以上である。
また、同様の観点から、成分(A)の冷水膨潤度は20以下であり、好ましくは17以下、さらに好ましくは15以下である。
ここで、成分(A)の冷水膨潤度の測定方法については、実施例の項に記載する。
【0031】
次に、成分(A)の粒度を説明する。
条件(4)に関し、目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量は、調味油の風味を増強する観点から、成分(A)全体に対して60質量%以上であり、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりいっそう好ましくは95質量%以上である。
また、目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量の上限は100質量%以下である。
また、食品が焼菓子やベーカリー食品である場合には、目開き0.15mmの篩の篩下かつ目開き0.075mmの篩の篩上の含有量は、好ましくは20質量%以上80質量%以下であり、より好ましくは35質量%以上65質量%以下である。食品が魚肉・畜肉加工品や魚肉・畜肉加工品様食品である場合には、目開き1mmの篩の篩下かつ目開き0.5mmの篩の篩上の含有量は、好ましくは15質量%以上70質量%以下であり、より好ましくは30質量%以上60質量%以下である。
ここで、成分(A)の粒度について、篩上または篩下の画分の含有量は、成分(A)全体に対する画分の含有量である。また、篩は、具体的には、JIS-Z8801-1規格の篩である。
【0032】
本実施形態において、成分(A)中の上記低分子化澱粉以外の澱粉成分としては、様々な澱粉を使用することができる。具体的には、用途に応じて一般に市販されている澱粉、たとえば食品用の澱粉であれば、種類を問わないが、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉などの澱粉;およびこれらの澱粉を化学的、物理的または酵素的に加工した加工澱粉などから、1種または2種以上を適宜選ぶことができる。好ましくは、コーンスターチ、小麦澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉およびこれらの架橋澱粉からなる群から選択される1種または2種以上の澱粉を含有するのがよく、より好ましくは、コーンスターチを含有するのがよい。
【0033】
また、本実施形態における成分(A)には、澱粉以外の成分を配合することもできる。
澱粉以外の成分の具体例としては、色素や炭酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの不溶性塩が挙げられ、不溶性塩を配合することが好ましく、不溶性塩の配合量は、0.1質量%以上2質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
次に、成分(A)の製造方法を説明する。成分(A)の製造方法は、たとえば、以下の工程を含む。
(低分子化澱粉の調製工程)アミロース含量5質量%以上の澱粉を低分子化処理してピーク分子量が3×103以上5×104以下の低分子化澱粉を得る工程。
(造粒工程)原料に低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、かつ低分子化澱粉と低分子化澱粉以外の澱粉の合計が75質量%以上である、原料を加熱糊化して造粒する工程。
【0035】
低分子化澱粉の調製工程は、アミロース含量5質量%以上の澱粉を分解して低分子化澱粉とする工程である。ここでいう分解とは、澱粉の低分子化を伴う分解をいい、代表的な分解方法として酸処理や酸化処理、酵素処理による分解が挙げられる。この中でも、分解速度やコスト、分解反応の再現性の観点から、好ましくは酸処理である。
【0036】
また、造粒工程には、澱粉の造粒に使用されている一般的な方法を用いることができるが、所定の冷水膨潤度とする点で、澱粉の加熱糊化に使用されている一般的な方法を用いることが好ましい。具体的には、ドラムドライヤー、ジェットクッカー、エクストルーダー、スプレードライヤーなどの機械を使用した方法が知られているが、本実施形態において、冷水膨潤度が上述した特定の条件を満たす成分(A)をより確実に得る観点から、エクストルーダーやドラムドライヤーによる加熱糊化が好ましく、エクストルーダーがより好ましい。
エクストルーダー処理する場合は通常、澱粉を含む原料に加水して水分含量を10~60質量%程度に調整した後、たとえばバレル温度30~200℃、出口温度80~180℃、スクリュー回転数100~1,000rpm、熱処理時間5~60秒の条件で、加熱膨化させる。
【0037】
本実施形態において、たとえば上記特定の原料を加熱糊化する工程により、冷水膨潤度が特定の条件を満たす成分(A)を得ることができる。
また、加熱糊化して得られた造粒物を、必要に応じて、粉砕し、篩い分けをし、大きさを適宜調整して、条件(4)を満たす成分(A)を得るとよい。
【0038】
以上により得られる成分(A)と、調味油を混合して混合物を得る。成分(A)と調味油の混合方法は限定されないが、調味油の上昇融点が高い場合、あらかじめ調味油を加熱し、液体の状態にしてから混合することが好ましい。
さらに、調味油の上昇融点は、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは20℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下である。これにより、調味油の風味の増強効果をさらに安定的に得ることができる。なお上昇融点の測定は基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に従って、測定することができる。
【0039】
混合物は、成分(A)および調味油から構成されてもよい。
混合物中の調味油と成分(A)の合計量は、混合物全体に対して、10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、さらにより好ましくは50質量%以上、よりいっそう好ましくは70質量%以上、さらにまた好ましくは80質量%以上である。また、混合物中の調味油と成分(A)の合計量は、混合物全体に対して100質量%以下であり、たとえば、99質量%以下、または、95質量%以下であってもよい。
【0040】
混合物を得る工程において、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下であり、好ましくは0.02以上5以下であり、より好ましくは0.02以上4.5以下であり、さらに好ましくは0.05以上4以下である。これにより、調味油の風味の増強効果をさらに安定的に得ることができる。同様の観点から、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で0.02以上であり、好ましくは0.05以上であり、また、6以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。
また、食品が焼菓子やベーカリー食品である場合には、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で、好ましくは0.02以上4以下であり、より好ましくは0.02以上2以下であり、さらに好ましくは0.02以上1以下である。食品が魚肉・畜肉加工品や魚肉・畜肉加工品様食品である場合には、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で、好ましくは0.1以上6以下であり、より好ましくは0.5以上6以下であり、さらに好ましくは0.8以上6以下である。
【0041】
(調味油)
本実施形態における調味油とは、食品に加えることで味や香り、うま味、コクなどを付与する食用油脂組成物を指す。調味油には、油脂にスパイスや香料等で香りをつけたものや、何らかの成分を抽出することで風味をつけたものや、油脂に何らかの加工を施すことで、風味を付与したものも含まれ、また、ごま油のように食用油脂そのものが風味を持つものも含まれる。
調味油の具体例としては、バターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドフレーバーオイル、バニラフレーバーオイル等のフレーバーオイル;ごま油、オリーブオイル、アーモンドオイル、ピーナッツオイル、焙煎菜種油等の搾油された油脂そのものが香りをもつ香味食用油脂;ラー油、ねぎ油、ショウガオイル、ガーリックオイル等、香味野菜やスパイスにより風味を付与した油脂;油脂に加熱や水素添加などの処理を施すことで風味を付与した風味油;焼き肉風味を付与したグリルオイル、炭火焼風味オイル、酸化したアラキドン酸のようにコク味を付与させることのできる成分を加えたコク味付与オイル等が挙げられ、好ましくはフレーバーオイル、香味食用油脂、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上であり、より好ましくはバターフレーバーオイル、レモンフレーバーオイル、アーモンドオイル、オリーブオイル、グリルオイルおよびコク味付与オイルから選ばれる1種または2種以上である。
【0042】
(食品組成物)
以上により得られる成分(A)と、調味油を混合して得られた混合物を、食品素材に配合し、食品組成物を得る。混合物を、食品素材に配合し、食品組成物を得る方法は、限定されず、それぞれの食品に適した配合方法でおこなえばよい。
混合物を食品素材に配合し、食品組成物を得る際の、成分(A)の配合量は、食品組成物中、0.5質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.8質量%以上12質量%以下がより好ましく、1.0質量%以上10質量%以下がさらに好ましい。これにより、調味油の風味の増強効果をさらに安定的に得ることができる。同様の観点から、成分(A)の配合量は、食品組成物中、好ましくは0.5質量%以上であり、より好ましくは0.8質量%以上、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは12質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0043】
得られた食品組成物は、そのまま食品として食してもよいし、加熱調理して食品を得てもよいが、加熱調理されることが好ましい。また、食品の製造方法が、食品組成物を得る工程の後、食品組成物を加熱調理して食品を得る工程をさらに含んでもよい。加熱調理の具体例として、焼成、ボイル、蒸し、スチームコンベクション加熱、油ちょう等が挙げられ、調味油の風味を増強させる観点から、焼成、スチームコンベクション加熱および蒸しから選択される1種または2種以上の加熱調理が好ましく、焼成およびスチームコンベクション加熱から選択される1種または2種の加熱調理が好ましい。
【0044】
(食品)
本実施形態における食品は、限定されないが、具体例としては、マドレーヌ、フィナンシェ、パウンドケーキ、スポンジケーキ、シフォンケーキ、クッキー、ドーナツ、クグロフ等の洋風焼菓子;食パン、菓子パン、デニッシュ、パイ、フランスパン、総菜パン、ピザ等のベーカリー食品;ハンバーグ、メンチカツ、ソーセージ、ミートローフ、餃子、焼売、肉団子、かまぼこ、はんぺん等の魚肉・畜肉加工品および魚肉・畜肉加工品様食品;ドレッシングや焼き肉のたれ等の調味料;サラダのトッピング;サンドイッチやフィリングやおにぎりの中具等が挙げられ、好ましくは焼菓子、ベーカリー食品、魚肉・畜肉加工品、および、魚肉・畜肉加工品様食品からなる群から選択される1種である。
ここで、魚肉・畜肉加工様食品とは、肉や魚の代わりに代替肉や培養肉等を使用した食品のことである。魚肉・畜肉加工様食品の原料としては、大豆たんぱく質、エンドウ豆たんぱく質、小麦粉のグルテン、海藻たんぱく質等の植物たんぱく質;昆虫たんぱく質等が挙げられる。
また、調味油の風味の増強効果をさらに安定的に得る観点から、食品は、好ましくは上述の食品組成物を加熱して得られるものである。
【0045】
(食品素材)
本実施形態における食品素材とは、食品に通常使用される食品素材であれば限定されないが、具体例としては、小麦粉、大豆粉等の穀粉;米、麦、大豆等の穀物;野菜;果実;畜肉およびそれらをミンチ状に加工したもの、魚肉およびそれらのすり身、ツナ、豆腐、グルテン、大豆蛋白質等の蛋白質;砂糖、果糖、ブドウ糖、異性化糖、転化糖、オリゴ糖、澱粉、デキストリン、トレハロース、糖アルコール等の糖類;アスパルテーム、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、サッカリン、ステビア抽出物等の甘味料;ふすま、セルロース、難消化性デキストリン等の食物繊維;ベーキングパウダー等の膨張剤;マーガリンやショートニング、菜種油、大豆油などの食用油脂;牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、チーズ、ヨーグルト等の乳類;全卵、全卵粉などの卵類;グアーガム、アルギン酸エステル等の増粘多糖類;乳化剤;ココアパウダー、抹茶パウダー等の風味付与素材;等が挙げられる。
食品素材は、混合物中に含まれる成分と共通の成分を含んでもよい。
【0046】
(組成物)
本実施形態において、組成物は、調味油と、成分(A)とを含み、それ以外の成分を含んでもよい。それ以外の該成分を含むときは、好ましくは、予め、調味油と成分(A)とを混合した後、該成分を混合し、組成物を得る。該成分としては、水、調味液等の液状成分、塩等の粉体調味料などが例示される。食品が魚肉・畜肉加工品、および、魚肉・畜肉加工品様食品である場合は、液状成分を含むことが好ましく、液状成分の配合量は、成分(A)に対して、質量比で、好ましくは0.5以上4以下であり、より好ましくは0.5以上2.5以下である。また、液状成分は、好ましくは、水および調味液から選ばれる1種または2種であり、より好ましくは水である。
なお、組成物は、本実施形態の食品の製造方法や調味油の風味を増強させる方法における混合物と同義である。
【0047】
組成物中の調味油と成分(A)の合計量は、組成物全体に対して10質量%以上100質量%以下である。
組成物中の調味油と成分(A)の含有量の合計は、組成物全体に対して、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。また、組成物中の調味油と成分(A)の含有量の合計の上限は、100質量%以下であり、99質量%以下、95質量%以下であってもよい。
また組成物中の調味油と成分(A)の含有量の合計は、組成物全体に対して10質量%以上であってもよく、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらにより好ましくは40質量%以上であってもよい。
【0048】
組成物は、(食品)の項で例示されたものに好適に用いられ、好ましくは焼菓子、ベーカリー食品、魚肉・畜肉加工品、および、魚肉・畜肉加工品様食品からなる群から選択される1種に用いられる。
【0049】
調味油を、成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下、好ましくは0.02以上5以下、より好ましくは0.02以上4.5以下、さらに好ましくは0.05以上4以下となるように混合することにより、調味油の風味を増強させることができ、混合物を食品素材に配合することで、食品に調味油の良好な風味を付与させることができる。同様の観点から、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で0.02以上であり、好ましくは0.05以上であり、また、6以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは4以下である。
また、食品が焼菓子やベーカリー食品である場合には、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で、好ましくは0.02以上4以下であり、より好ましくは0.02以上2以下であり、さらに好ましくは0.02以上1以下である。食品が魚肉・畜肉加工品や魚肉・畜肉加工品様食品である場合には、調味油の配合量は、成分(A)に対して、質量比で、好ましくは0.1以上6以下であり、より好ましくは0.5以上6以下であり、さらに好ましくは0.8以上6以下である。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを混合して混合物を得る工程と、
前記混合物を食品素材に配合し、食品組成物を得る工程と、
を含み、混合物を得る前記工程において、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下であり、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下である、食品の製造方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 3 以上5×10 4 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
2. 前記成分(A)の配合量が、前記食品組成物中、0.5質量%以上15質量%以下である、1.に記載の製造方法。
3. 前記食品が、前記食品組成物を加熱して得られる、1.または2.に記載の製造方法。
4. 前記食品が、焼菓子、魚肉・畜肉加工品、魚肉・畜肉加工品様食品およびベーカリー食品からなる群から選択される1種である、1.乃至3.のいずれか一つに記載の製造方法。
5. 前記調味油の上昇融点が40℃以下である、1.乃至4.のいずれか一つに記載の製造方法。
6. 調味油と、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)とを含む、組成物であって、
前記調味油の配合量が、前記成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下であり、
前記組成物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記組成物全体に対して10質量%以上100質量%以下である、前記組成物。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 3 以上5×10 4 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
7. 前記組成物が、焼菓子、魚肉・畜肉加工品、魚肉・畜肉加工品様食品およびベーカリー食品からなる群から選択される1種に用いられる、6.に記載の組成物。
8. 調味油の風味を増強させる方法であって、
前記調味油を、以下の条件(1)~(4)を満たす成分(A)に対して、質量比で0.02以上6以下となるように混合して混合物を得た後、食品素材に配合することを含み、
前記混合物中の前記調味油と前記成分(A)の合計量が、前記混合物全体に対して10質量%以上100質量%以下である、前記方法。
(1)澱粉含量が75質量%以上
(2)アミロース含量5質量%以上である澱粉の低分子化澱粉を3質量%以上45質量%以下含み、前記低分子化澱粉のピーク分子量が3×10 3 以上5×10 4 以下
(3)25℃における冷水膨潤度が5以上20以下
(4)目開き3.35mmの篩の篩下かつ目開き0.038mmの篩の篩上の含有量が60質量%以上100質量%以下
【実施例
【0050】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明の趣旨はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(原材料)
原材料として、主に以下のものを使用した。
(澱粉)
β澱粉(コーンスターチ):株式会社J-オイルミルズ製、コーンスターチY
ハイアミロースコーンスターチ:株式会社J-オイルミルズ製、HS-7、アミロース含量70質量%
(調味油)
調味油1:菜種油(株式会社J-オイルミルズ製)95質量%にアーモンドオイル(富沢商店製)を5質量%混合したもの;上昇融点:0℃以下
調味油2:J-OILPRO バターフレーバーオイル、株式会社J-オイルミルズ製;上昇融点:0℃以下
調味油3:AJINOMOTO オリーブ&レモンフレーバーオイル、株式会社J-オイルミルズ製;上昇融点:0℃以下
調味油4:美味得徳調味油、株式会社J-オイルミルズ製;上昇融点:0℃以下
調味油5:J-OILPRO グリルオイル、株式会社J-オイルミルズ製;上昇融点:0℃以下
(加工油脂)
加工油脂1:グランマスターアルフィーユ、株式会社J-オイルミルズ製
加工油脂2:スプレンダーL、株式会社J-オイルミルズ製
ここで、加工油脂は、食品油脂のうち、混合物の調製工程以外の工程において添加されたものである。
(その他)
薄力粉:フラワー、日清フーズ株式会社製
ベーキングパウダー:Fアップ、株式会社アイコク製
砂糖1:グラニュー糖、三井製糖株式会社製
砂糖2:粉糖、日新製糖株式会社製
【0052】
(上昇融点の測定方法)
基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996に従って、測定した。
【0053】
(製造例1)成分(A)の製造
本例では、低分子化澱粉として酸処理澱粉を用いて、成分(A)を得た。
【0054】
(酸処理ハイアミロースコーンスターチの製造方法)
ハイアミロースコーンスターチを水に懸濁して35.6%(w/w)スラリーを調製し、50℃に加温した。そこへ、攪拌しながら4.25Nに調製した塩酸水溶液をスラリー質量比で1/9倍量加え反応を開始した。16時間反応後、3%NaOHで中和し、水洗、脱水、乾燥し、酸処理ハイアミロースコーンスターチを得た。
得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチのピーク分子量を以下の方法で測定したところ、ピーク分子量は1.2×104であった。
【0055】
(ピーク分子量の測定方法)
ピーク分子量の測定は、東ソー株式会社製HPLCユニットを使用しておこなった(ポンプDP-8020、RI検出器RS-8021、脱気装置SD-8022)。
(1)試料を粉砕し、JIS-Z8801-1規格の篩で、目開き0.15mm篩下の画分を回収した。この回収画分を移動相に1mg/mLとなるように懸濁し、懸濁液を100℃3分間加熱して完全に溶解した。0.45μmろ過フィルター(ADVANTEC社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm)を用いてろ過を行い、ろ液を分析試料とした。
(2)以下の分析条件で分子量を測定した。
カラム:TSKgel α-M(7.8mmφ、30cm)(東ソー株式会社製)2本
流速:0.5mL/min
移動相:5mM NaNO3含有90%(v/v)ジメチルスルホキシド溶液
カラム温度:40℃
分析量:0.2mL
(3)検出器データを、ソフトウェア(マルチステーションGPC-8020modelIIデータ収集ver5.70、東ソー株式会社製)にて収集し、分子量ピークを計算した。
検量線には、分子量既知のプルラン(Shodex Standard P-82、昭和電工株式会社製)を使用した。
【0056】
(成分(A)の製造方法)
β澱粉79質量%、上述の方法で得られた酸処理ハイアミロースコーンスターチ20質量%、および、炭酸カルシウム1質量%を充分に均一になるまで袋内で混合した。2軸エクストルーダー(幸和工業社製KEI-45)を用いて、混合物を加圧加熱処理した。処理条件は、以下の通りである。
原料供給:450g/分
加水:17質量%
バレル温度:原料入口から出口に向かって50℃、70℃および100℃
出口温度:100~110℃
スクリューの回転数250rpm
このようにしてエクストルーダー処理により得られた加熱糊化物を110℃にて乾燥し、水分含量を約10質量%に調整した。
次いで、乾燥した加熱糊化物を、卓上カッター粉砕機で粉砕した後、JIS-Z8801-1規格の篩で篩分けした。篩分けした加熱糊化物を、表1の配合割合で混合し、以下の2種の成分(A)(A1およびA2)を調製した。
また、成分(A)の冷水膨潤度を後述の方法で測定したところ、成分A1は7.3、成分A2は7.8であった。
【0057】
(冷水膨潤度の測定方法)
(1)試料を、水分計(研精工業株式会社、型番MX-50)を用いて、125℃で加熱乾燥させて水分測定し、得られた水分値から乾燥物質量を算出した。
(2)この乾燥物質量換算で試料1gを25℃の水50mLに分散した状態にし、30分間25℃の恒温槽の中でゆるやかに撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離(遠心分離機:日立工機社製、日立卓上遠心機CT6E型;ローター:T4SS型スイングローター;アダプター:50TC×2Sアダプタ)し、沈殿層と上澄層に分けた。
(3)上澄層を取り除き、沈殿層質量を測定し、これをB(g)とした。
(4)沈殿層を乾固(105℃、恒量)したときの質量をC(g)とした。
(5)BをCで割った値を冷水膨潤度とした。
【0058】
【表1】
【0059】
(実験1)
本例では、マドレーヌを作製し、評価をおこなった。
【0060】
(マドレーヌの製造方法)
(実施例の場合)
1.成分(A)と調味油を表2の配合で混ぜ合わせ、さらにフードプロセッサーを用いてせん断をおこない、混合物を得た。
2.薄力粉、ベーキングパウダーおよび砂糖1をビニール袋に入れ混ぜ合わせミックス粉を得た。
3.全卵と、1で得られた混合物と、2で得られたミックス粉をボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで均一に攪拌した。
4.50℃で加熱溶解した加工油脂1を加え、均一に攪拌した。
5.1時間、25℃で生地を置いた。
6.生地を絞り袋に入れ、マドレーヌ型(12ケ取、縦260mm横180mm高さ15mm、シリコン加工ブリキ製)に生地を流し込み、以下の条件でオーブンにて焼成し、マドレーヌを得た。
焼成温度:上段180℃/下段200℃
焼成時間:17分間
(対照例の場合)
(実施例の場合)において、1の操作はおこなわず、また、3における操作を、「全卵に、成分(A)と、調味油を、2のミックス粉とともにボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで均一に攪拌した。」としたこと以外、同じ操作でマドレーヌを得た。
【0061】
各例で得られたマドレーヌの粗熱を取り、調味油の風味の強さの評価をおこなった。評価は、専門パネラー7名で、実施例1のマドレーヌを喫食した後、盲検で、対照例のマドレーヌを喫食し、その中で調味油の風味の強さが最も近いものを選ぶという方式で行った。評価結果を表3に示した。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表3に示したように、調味油1を成分A1と混合後、食品素材に配合し、生地を調製して作製したマドレーヌは、調味油1と成分A1をあらかじめ混合しなかった対照例1~3と比較すると、調味油1が4倍含まれる対照例3に近いと回答したパネラーが7名中4名と最も多く、2倍含まれる対照例2に近いと回答したパネラーが2名であった。
すなわち、予め、調味油1を成分A1と混合後、食品素材に配合することで、調味油の風味を増強できることがわかった。
【0065】
(実験2)
実験1において、表2を表4に変えたこと以外、実験1と同じ操作でマドレーヌを作製し評価をおこなった。ただし、専門パネラーは6名でおこなった。評価結果を表5に示した。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
表5に示したように、調味油2を成分A1と混合後、食品素材に配合し、生地を調製して作製したマドレーヌは、調味油2と成分A1をあらかじめ混合しなかった対照例4~7と比較すると、調味油2が6倍含まれる対照例7に近いと回答したパネラーが6名中2名であり、2倍含まれる対照例5に近いと回答したパネラーが2名であった。
すなわち、予め、調味油2を成分A1と混合後、食品素材に配合することで、調味油の風味を増強できることがわかった。
【0069】
(実験3)
実験1において、表2を表6に変えたこと以外、実験1と同じ操作でマドレーヌを作製し評価をおこなった。ただし、専門パネラーは8名でおこなった。評価結果を表7に示した。
【0070】
【表6】
【0071】
【表7】
【0072】
表7に示したように、調味油3を成分A1と混合後、食品素材に配合し、生地を調製して作製したマドレーヌは、調味油3と成分A1をあらかじめ混合しなかった対照例8~10と比較すると、調味油3が4倍含まれる対照例10に近いと回答したパネラーが8名中3名であり、2倍含まれる対照例9に近いと回答したパネラーが2名であった。
すなわち、予め、調味油3を成分A1と混合後、食品素材に配合することで、調味油の風味を増強させることができることがわかった。
【0073】
(実験4)
本例では、フィナンシェを作製し、評価をおこなった。
【0074】
(フィナンシェの製造方法)
1.成分(A)と調味油1を表8の配合で混ぜ合わせ、さらにフードプロセッサーを用いてせん断をおこない、混合物を得た。
2.薄力粉、ベーキングパウダーおよび砂糖2をビニール袋に入れて混ぜ合わせミックス粉を得た
3.卵白、水、1で得られた混合物、および2で得られたミックス粉をボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで均一に攪拌した。
4.加熱溶解(50℃)した加工油脂1および加工油脂2を加え、均一に攪拌した。
5.1時間、25℃で生地を置いた。
6.生地を絞り袋に入れ、フィナンシェ型(8ケ取、縦260mm横180mm高さ15mm、シリコン加工スチール製)に、生地を流し込み、以下の条件でオーブンにて焼成し、フィナンシェを得た。
焼成温度:上段180℃/下段180℃
焼成時間:11分間
【0075】
【表8】
【0076】
本例の混合物を作製し、食品素材に加え食品組成物とし、焼成して得られたフィナンシェは、調味油の風味がしっかりと感じられ、良好な風味であった。
【0077】
(実験5)
本例では、ハンバーグの作製および評価をおこなった。表9にハンバーグの配合を示した。
【0078】
(ハンバーグの製造方法)
(実施例の場合)
1.成分(A) 1質量に対し、調味油4を1.5質量部混合し、混合物1を得た。
2.上記1.の混合物1にさらに水2質量部添加し、混合物2を得た。
3.表9に示した原材料のうち、残りの原材料を混練し、上記2.で調製した混合物2を4.5質量部添加し、再度よく混練し、ハンバーグ生地を調製した。
4.上記3.で得られたハンバーグ生地を80gずつ平板状に型抜き成型し、ホットプレートにて200℃で裏表各1分間、表面を焼成した後、スチームオーブンで250℃5分間蒸煮し、室温で30分放冷したものを官能評価に用いた。
【0079】
(対照例の場合)
(実施例の場合)において、1と2の操作はおこなわず、また、3における操作を、「表6に示した原材料のうち、調味油4以外の原材料を混練し、調味油4を添加し、再度よく混練し、ハンバーグ生地を調製した。」としたこと以外、同じ操作でハンバーグを得た。
【0080】
各例で得られたハンバーグについて、調味油の風味の強さの評価をおこなった。評価は、専門パネラー8名で、実施例5のハンバーグを喫食した後、盲検で、対照例のハンバーグを喫食し、その中で調味油の風味の強さが最も近いものを選ぶという方式で行った。評価結果を表10に示した。
【0081】
【表9】
【0082】
【表10】
【0083】
表10に示したように、調味油4を成分A2と混合後、食品素材に配合し、作製したハンバーグは、調味油4と成分A2をあらかじめ混合しなかった対照例11~13と比較すると、調味油3が3倍含まれる対照例13に近いと回答したパネラーが8名中5名であり、2倍含まれる対照例12に近いと回答したパネラーが1名であった。
すなわち、予め、調味油4を成分A2と混合後、食品素材に配合することで、調味油の風味を増強できることがわかった。そして、実験1~5の結果から、成分(A)の粒度が異なっていても、調味油の風味を増強させることができ、また、調味油の種類に依らず、増強の効果が得られることが実証された。
【0084】
(大豆タンパク質ハンバーグ)
あらかじめ調味油4を4質量部と成分A2を2質量部混合して混合物を得た。水煮大豆80質量部をフードプロセッサーでペースト状にし、みじん切りした玉ねぎ20質量部、パン粉8質量部、調味料を加え、良く混ぜた。ここに上記混合物を6質量部加え、さらに混合した。成型及び焼成し、畜肉加工品様食品である大豆ハンバーグを作製した。この大豆ハンバーグを食したところ、あらかじめ調味油4と成分A2を混合しなかったものに比べ、調味油の風味が増強していることが確認できた。
【0085】
(組成物の調製例1)
成分A2を40gと調味油5を20gとを混合し、本例の組成物を得た。
【0086】
このように、本例の食品の製造方法で得られた食品は、焼菓子や魚肉・畜肉加工品や魚肉・畜肉加工品様食品等いずれの形態であっても、調味油の風味が増強されることがわかった。
【0087】
(実験6)
実験1において、配合を表11に示すものに変えたこと以外、実験1と同じ操作でマドレーヌを作製し評価をおこなった。ただし、専門パネラーは8名でおこなった。評価基準を以下に示す。また、評価結果を表11にあわせて示す。
【0088】
(マドレーヌの製造方法)
(実施例の場合)
1.表11の配合に従い、実施例Aでは成分(A)と調味油を、実施例B~Dは成分(A)と調味油とコーンスターチ(表11中、「混合物に混ぜる」と記載。)を混ぜ合わせ、さらにフードプロセッサーを用いてせん断をおこない、各混合物を得た。
2.実施例A~Cではコーンスターチ(表11中、「粉体に混ぜる」と記載。)、薄力粉、ベーキングパウダーおよび砂糖1をビニール袋に入れ混ぜ合わせミックス粉を得た。実施例Dでは薄力粉、ベーキングパウダーおよび砂糖1をビニール袋に入れ混ぜ合わせミックス粉を得た。
3.全卵と、1.で得られた混合物と、2.で得られたミックス粉をボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで均一に攪拌した。
4.50℃で加熱溶解した加工油脂1を加え、均一に攪拌した。
5.1時間、25℃で生地を置いた。
6.生地を絞り袋に入れ、マドレーヌ型(12ケ取、縦260mm横180mm高さ15mm、シリコン加工ブリキ製)に生地を流し込み、以下の条件でオーブンにて焼成し、マドレーヌを得た。
焼成温度:上段180℃/下段200℃
焼成時間:17分間
【0089】
(対照例の場合)
(実施例の場合)において、1.の操作はおこなわず、2.では実施例A~Cと同じ操作でミックス粉を得、また、3.における操作を、「全卵に、成分(A)と、調味油を、2で得られたミックス粉とともにボウルに入れ、ビーターを取り付けたホバートミキサーで均一に攪拌した。」としたこと以外、同じ操作でマドレーヌを得た。
【0090】
各例で得られたマドレーヌの粗熱を取り、調味油の風味の強さの評価をおこなった。評価は、以下の評価基準に従い、専門パネラー5名の合議でおこなった。評価結果を表11に示した。
【0091】
(評価基準)
(調味油の風味の強さ)
5:対照例より非常に強い
4:対照例よりかなり強い
3:対照例よりやや強い
2:対照例と同等
1:対照例とより弱い
【0092】
【表11】
【0093】
実施例A~Dの混合物を配合したマドレーヌは対照例と比べて調味油の風味が増強されていた。
また、混合物に成分(A)と調味油以外の成分を含んでいる実施例B~Dの混合物を配合した場合でも、得られたマドレーヌは対照例と比べて調味油の風味が増強されていた。
【0094】
この出願は、2018年8月3日に出願された日本出願特願2018-147255号を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。