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特許7366058フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物およびオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物およびオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20231013BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231013BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20231013BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231013BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231013BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20231013BHJP
   C09D 183/07 20060101ALI20231013BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20231013BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20231013BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20231013BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20231013BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20231013BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K9/06
C08J5/18 CFH
C08K3/36
C08K3/22
C09D183/07
C08J7/04 Z
B32B27/30 D
B32B7/06
G09F9/30 349Z
H10N30/20
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020559221
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047212
(87)【国際公開番号】W WO2020116441
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2018229641
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】福井 弘
(72)【発明者】
【氏名】外山 香子
(72)【発明者】
【氏名】岸本 典久
(72)【発明者】
【氏名】植木 浩
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-327045(JP,A)
【文献】特開2015-214635(JP,A)
【文献】特開平04-036355(JP,A)
【文献】特表2016-505693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化反応性オルガノポリシロキサン、硬化剤、および
(D1)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が100m/gを超える補強性微粒子またはその複合体
(D2)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が10~100m/gの範囲にある補強性微粒子またはその複合体を含んでなり、かつ、
(D1)成分と(D2)成分の質量比が50:50~99:1の範囲であり、
組成物中の、硬化反応により不揮発性の固形分を形成する成分の和に対して、(D1)成分と(D2)成分の和が10~40質量%の範囲内である、
25℃におけるシェアレート10.0(s-1)での組成物全体の粘度が50.0Pa・s以下の範囲にある、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
室温で、JIS 2101-82の標準規格に準拠したプログラムを有する電気絶縁油破壊電圧試験装置により測定される絶縁破壊強度が56~200V/μmの範囲にある硬化物フィルムを形成する、請求項1のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
成分(D1)または成分(D2)である補強性微粒子またはその複合体が、ヒュームドシリカまたはヒュームドシリカと金属酸化物の複合体である、請求項1または請求項2に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
(D1)成分と(D2)成分の表面処理に用いる有機ケイ素化合物が、少なくともヘキサメチルジシラザンおよび1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンから選ばれる1種類以上を含有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
硬化反応性オルガノポリシロキサンおよび硬化剤が、ヒドロシリル化反応硬化、縮合反応硬化、ラジカル反応硬化および高エネルギー線硬化反応から選ばれる1種類以上の硬化反応機構により硬化することを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
硬化後に得られるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが、1kHz、25℃において測定される比誘電率が3以上である、請求項1~5のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項7】
硬化反応性オルガノポリシロキサンおよび硬化剤が、
(A)分子内に少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子中に少なくとも2個のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 組成物中の炭素-炭素二重結合の合計量1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1~2.5モルとなる量、および
(C)有効量のヒドロシリル化反応用触媒
である、請求項1~6のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項8】
前記成分(A)が、
(a1)分子鎖末端のみにアルケニル基を有する直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンを含有するオルガノポリシロキサンまたはその混合物である、請求項7に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項9】
前記成分(A)または成分(B)の一部又は全部が高誘電性官能基を有するオルガノポリシロキサンまたはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、請求項7または請求項8に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項10】
前記成分(A)または成分(B)の一部又は全部が、分子中に(C2p+1)-R- (Rは炭素原子数1~10のアルキレン基であり、pは1以上8以下の整数である)で表されるフルオロアルキル基を有するオルガノポリシロキサンまたはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、請求項7~9のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項11】
剥離層を有するセパレータ上に、請求項1~10のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、硬化後の厚さが1~1000μmの範囲で薄膜状に塗布する工程、
当該薄膜状に塗布されたフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させる工程
を有することを特徴とする、オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法。
【請求項12】
さらに、圧延加工工程を有する、請求項11に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる、硬化後の厚さが1~1000μmの範囲にある、オルガノポリシロキサン硬化物フィルム。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの電子材料または表示装置用部材としての使用。
【請求項15】
請求項1~10のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが、剥離層備えたシート状基材に積層された構造を有する積層体。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを有する、電子部品または表示装置。
【請求項17】
請求項1~10のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムのトランスデューサー用部材としての使用。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムからなる誘電層を有するトランスデューサー。
【請求項19】
少なくとも一対の電極層間に、請求項1~10のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させて、または前記組成物の硬化反応を一部進行させてなる中間層を介装してなるトランスデューサー。
【請求項20】
中間層がゲルまたはエラストマーである、請求項17または請求項18のトランスデューサー。
【請求項21】
中間層が、請求項1~10のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる硬化物を、1層または2層以上積層してなることを特徴とする、請求項18~20のいずれか1項記載のトランスデューサー。
【請求項22】
アクチュエーターである、請求項18~21のいずれか1項記載のトランスデューサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化前は低粘度であり、硬化後は機械強度および絶縁破壊強度に優れ、均一かつ薄膜状のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを与えることができるフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物、およびそれを用いるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法およびオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリシロキサン骨格を有するオルガノポリシロキサン硬化物は、透明性、電気絶縁性、耐熱性、耐寒性等に優れ、所望によりフルオロアルキル基等の高誘電性官能基を導入することで電気活性を改善することができ、かつフィルム状またはシート状に容易に加工できることから、各種の電気・電子デバイスに用いる接着剤フィルムやアクチュエーター等のトランスデューサーデバイスに用いる電気活性フィルムをはじめ、様々な用途に使用されている、これらのオルガノポリシロキサン硬化物は、その硬化機構により、ヒドロシリル化反応硬化型、縮合反応硬化型、パーオキサイド硬化型などに分類される。室温放置もしくは加熱によって速やかに硬化し、副生物を発生しないので、ヒドロシリル化反応硬化型の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが汎用されている。
【0003】
特に、タッチパネル等の電子材料、表示装置用電子部材、特にセンサー、アクチュエーター等のトランスデューサー材料として、オルガノポリシロキサン硬化物フィルムは高度の均一性に加えて100μm以下の厚さを有する薄膜フィルムとして利用する場合、その絶縁破壊強度が十分ではなく、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムを高い荷電圧電圧下で使用した場合、これらの欠陥において絶縁破壊が発生する場合があり、オルガノポリシロキサン硬化物に期待される高い光学的透明性、電気絶縁性、耐熱性、耐寒性等の諸特性を十分に発揮できないという問題があった。
【0004】
一方、本件出願人らは、特許文献1において、誘電性フィラーの組み合わせを提案しているが、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの誘電率の改善には有効な手法であるが、得られるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの絶縁破壊強度の改善について記載も示唆もなされていない。さらに、特許文献1および非特許文献1には、シラザン等の有機ケイ素化合物による補強性フィラーの処理は記載されているが、特定の表面処理を施した補強性フィラーであってBET比表面積の異なるものを2種併用すること、およびそれに伴う、特異な技術的効果について、なんら記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2016-505693号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Actuator 2012,13th International Conference on New Actuators,Bremen,Germany,18~20 June 2012,pp.374~378
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであり、均一かつ薄膜化が可能であり、かつ、高い機械強度および絶縁破壊強度を備えた硬化物を形成可能なフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物、およびそれを用いるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、本発明者らは、硬化反応性オルガノポリシロキサン、硬化剤、および(D1)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が100m/gを超える補強性微粒子またはその複合体
(D2)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が10~100m/gの範囲にある補強性微粒子またはその複合体を含んでなり、かつ、
(D1)成分と(D2)成分の質量比が50:50~99:1の範囲であり、
組成物中の、硬化反応により不揮発性の固形分を形成する成分の和に対して、(D1)成分と(D2)成分の和が10~40質量%の範囲内である、
25℃におけるシェアレート10.0(s-1)での組成物全体の粘度が50.0Pa・s以下の範囲にある、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物、それを用いるオルガノポリシロキサン硬化物フィルム、その使用および製造方法により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の目的は、
[1]硬化反応性オルガノポリシロキサン、硬化剤、および
(D1)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が100m/gを超える補強性微粒子またはその複合体
(D2)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が10~100m/gの範囲にある補強性微粒子またはその複合体を含んでなり、かつ、
(D1)成分と(D2)成分の質量比が50:50~99:1の範囲であり、
組成物中の、硬化反応により不揮発性の固形分を形成する成分の和に対して、(D1)成分と(D2)成分の和が10~40質量%の範囲内である、
25℃におけるシェアレート10.0(s-1)での組成物全体の粘度が50.0Pa・s以下の範囲にある、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[2]室温で、JIS 2101-82等の標準規格に準拠したプログラムを有する電気絶縁油破壊電圧試験装置により測定される絶縁破壊強度が56~200V/μmの範囲にある硬化物フィルムを形成する、[1]のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[3]成分(D1)または成分(D2)である補強性微粒子またはその複合体が、ヒュームドシリカまたはヒュームドシリカと金属酸化物の複合体である、[1]または[2]に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[4](D1)成分と(D2)成分の表面処理に用いる有機ケイ素化合物が、少なくともヘキサメチルジシラザンおよび1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンから選ばれる1種類以上を含有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[5]硬化反応性オルガノポリシロキサンおよび硬化剤が、ヒドロシリル化反応硬化、縮合反応硬化、ラジカル反応硬化および高エネルギー線硬化反応から選ばれる1種類以上の硬化反応機構により硬化することを特徴とする、[1]~[4]のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[6]硬化後に得られるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが、1kHz、25℃において測定される比誘電率が3以上である、[1]~[5]のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[7]硬化反応性オルガノポリシロキサンおよび硬化剤が、
(A)分子内に少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子中に少なくとも2個のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 組成物中の炭素-炭素二重結合の合計量1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1~2.5モルとなる量、および
(C)有効量のヒドロシリル化反応用触媒
である、[1]~[6]のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[8]前記成分(A)が、
(a1)分子鎖末端のみにアルケニル基を有する直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、および、
(a2)分子内に少なくとも1つの分岐シロキサン単位を有し、ビニル(CH2=CH―)基の含有量が1.0~5.0質量%の範囲内にあるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂
を含有するオルガノポリシロキサン混合物である、[7]に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[9]前記成分(A)または成分(B)の一部又は全部が高誘電性官能基を有するオルガノポリシロキサンまたはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、[7]または[8]に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[10]前記成分(A)または成分(B)の一部又は全部が、分子中に(C2p+1)-R- (Rは炭素原子数1~10のアルキレン基であり、pは1以上8以下の整数である)で表されるフルオロアルキル基を有するオルガノポリシロキサンまたはオルガノハイドロジェンポリシロキサンである、[7]~[9]のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
[11]剥離層を有するセパレータ上に、[1]~[10]のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、厚さが1~1000μmの範囲で薄膜状に塗布する工程、
当該薄膜状に塗布されたフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させる工程、および
硬化中または硬化後に有機溶媒を除去する工程
を有することを特徴とする、オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法。
[12]さらに、圧延加工工程を有する、[11]に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法。
[13][1]~[10]のいずれか1項に記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる、硬化後の厚さが1~1000μmの範囲にある、オルガノポリシロキサン硬化物フィルム。
[14][1]~[10]のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの電子材料または表示装置用部材としての使用。
[15][1]~[10]のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが、剥離層備えたシート状基材に積層された構造を有する積層体。
[16][1]~[10]のいずれか1項に記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを有する、電子部品または表示装置。
[17][1]~[10]のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムのトランスデューサー用部材としての使用。
[18][1]~[10]のいずれか1項記載のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムからなる誘電層を有するトランスデューサー。
[19]少なくとも一対の電極層間に、[1]~[10]のいずれか1項記載のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させて、または前記組成物の硬化反応を一部進行させてなる中間層を介装してなるトランスデューサー。
[20]中間層がゲルまたはエラストマーである、[17]または[18]のトランスデューサー。
[21]中間層が、[1]~[10]のいずれか1項記載の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなる硬化物を、1層または2層以上積層してなることを特徴とする、[18]~[20]のいずれか1項記載のトランスデューサー。
[22]アクチュエーターである、[18]~[21]のいずれか1項記載のトランスデューサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、均一かつ薄膜状の塗布が可能であり、硬化により高い機械強度および絶縁破壊強度を備えた硬化物を形成可能なオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを形成するフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物およびそれを用いるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法を提供することができる。当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、取扱作業性、耐熱性等のシリコーン材料に期待される諸特性に優れ、電子部品等の接着層または誘電層として好適なフィルム乃至シート状部材であり、ゲル、エラストマー、オプティカルボンディング等の機能を有してもよい。さらに好適には、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、薄膜化および高電圧下における絶縁破壊強度に優れるフィルム乃至シート状部材として、電子材料、タッチパネル等の表示装置用電子部材、アクチュエーター等のトランスデューサー材料としての用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物について詳細に説明する。
【0012】
[全体粘度]
本発明のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、25℃、シェアレート10.0(s-1)での組成物全体の粘度が50.0Pa・s以下の範囲にあり、1.0~50.0Pa・s、2.0~40.0Pa・sの範囲であってよく、2.0~30.0Pa・sの範囲が特に好ましい。上記の粘度範囲の上限を超えると、均一かつ薄膜状の塗布が困難となる場合がある。一方、希釈剤等を用いない場合、上記の好適な粘度範囲の下限未満では、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化後の物性が担保できなくなる場合があり、また、実用上必要な精度(厚みのばらつき等)を有するオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが得られなくなる場合がある。ただし、本発明のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物には任意で希釈剤を使用することができ、その場合には、組成物全体の粘度の下限は上記範囲に限定されず、1.0Pa・s未満であっても使用できる。
【0013】
[固形分量]
本発明のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物は硬化反応により不揮発性の固形分を形成する成分の和に対して、(D1)成分と(D2)成分の和が10~40質量%の範囲内であり、15~35質量%の範囲であってよく、15~30質量%の範囲が特に好ましい。上記の質量%範囲の上限を超えると、均一かつ薄膜状の塗布が困難となる場合があり、上記の質量%範囲の下限未満では、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化後の物性が不十分となる恐れがある。
【0014】
[硬化性オルガノポリシロキサンおよび硬化剤]
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化反応性オルガノポリシロキサンおよび硬化剤を含むものであり、その硬化反応機構は特に限定されるものではないが、例えば、アルケニル基とケイ素原子結合水素原子によるヒドロシリル化反応硬化型;シラノール基および/またはケイ素原子結合アルコキシ基による脱水縮合反応硬化型、脱アルコール縮合反応硬化型;有機過酸化物の使用による過酸化物硬化反応型;およびメルカプト基等に対する高エネルギー線照射によるラジカル反応硬化型等が挙げられ、比較的速やかに全体が硬化し、反応を容易にコントロールできることから、ヒドロシリル化反応硬化型、過酸化物硬化反応型、ラジカル反応硬化型、高エネルギー線硬化型およびこれらの組み合わせであることが望ましい。これらの硬化反応は、加熱、高エネルギー線の照射またはこれらの組み合わせに対して進行する。
【0015】
特に、後述する製造方法でフィルム表面および内部の欠陥が極めて少ないオルガノポリシロキサン硬化物フィルムが得られることから、本発明において、ヒドロシリル化反応硬化性の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いることが好ましい。
【0016】
好適には、(A)分子内に少なくとも2個の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)分子中に少なくとも2個のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン 組成物中のアルケニル基の合計量1モルに対して、本成分中のケイ素原子結合水素原子が0.1~2.5モルとなる量、および
(C)有効量のヒドロシリル化反応用触媒、
を含有する、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させてなるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムであり、特に、前記成分(A)が、
(a1)分子鎖末端のみにアルケニル基を有する直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、および、任意で
(a2)分子内に少なくとも1つの分岐シロキサン単位を有し、ビニル(CH2=CH―)基の含有量が1.0~5.0質量%の範囲内にあるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂を含有するオルガノポリシロキサン混合物であることがより好ましい。
【0017】
上記の成分(A)は、炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンであり、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~20のアルケニル基;3-アクリロキシプロピル基、4-アクリロキシブチル基等のアクリル含有基;3-メタクリロキシプロピル基、4-メタクリロキシブチル基等のメタクリル含有基から選ばれる硬化反応性基を分子内に含有する、直鎖状、分岐鎖状、環状、または樹脂状(ネットワーク状)のオルガノポリシロキサンが例示される。特に、ビニル基、アリル基またはヘキセニル基から選ばれる炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性基を有するオルガノポリシロキサンが好ましい。
【0018】
成分(A)であるオルガノポリシロキサンは、分子内に炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基、水酸基およびアルコキシ基から選ばれる基を含んでもよい。また、一価炭化水素基は、その水素原子の一部がハロゲン原子または水酸基で置換されていてもよい。このような一価炭化水素基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ピレニル基などのアリール基;ベンジル基、フェネチル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基、アントラセニルエチル基、フェナントリルエチル基、ピレニルエチル基などのアラルキル基;およびこれらのアリール基またはアラルキル基の水素原子をメチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子で置換した基が挙げられる。なお、成分(A)が、水酸基等を含む場合、当該成分は、ヒドロシリル化反応硬化性に加えて、縮合反応性を有する。
【0019】
好適には、成分(A)は、下記の平均組成式:
SiO(4-a―b)/2
で表されるオルガノポリシロキサン、またはその混合物であってよい。
式中、Rは、上記の炭素-炭素二重結合を含む硬化反応性基であり、
は、上記の炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基、水酸基およびアルコキシ基から選ばれる基であり、
aおよびbは次の条件:1≦a+b≦3及び0.001≦a/(a+b)≦0.33を満たす数であり、好ましくは、次の条件:1.5≦a+b≦2.5及び0.005≦a/(a+b)≦0.2を満たす数である。これは、a+bが上記範囲の下限以上であると、硬化物の柔軟性が高くなるからであり、一方上記範囲の上限以下であると、硬化物の機械強度が高くなるからであり、a/(a+b)が上記範囲の下限以上であると、硬化物の機械強度が高くなるからであり、一方上記範囲の上限以下であると、硬化物の柔軟性が高くなるからである。
【0020】
本発明にかかる成分(A)は、特に好適には、
(a1)分子鎖末端のみにアルケニル基を有する直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサン、および、任意で
(a2)分子内に少なくとも1つの分岐シロキサン単位を有し、ビニル(CH2=CH―)基の含有量が1.0~5.0質量%の範囲内にあるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂
を含むオルガノポリシロキサンまたはその混合物である。
【0021】
成分(a1)は、その分子鎖末端に
(Alk)R SiO1/2
(式中、Alkは炭素原子数2以上のアルケニル基)で表されるシロキサン単位を有し、その他のシロキサン単位が実質的にR SiO2/2で表されるシロキサン単位のみからなる直鎖状または分岐鎖状のオルガノポリシロキサンである。なお、Rは前記同様の基を表す。また、成分(a1)のシロキサン重合度は、末端シロキサン単位を含めて、7~1002の範囲であり、102~902の範囲であってよい。このような成分(a1)は特に好適には、分子鎖の両末端が(Alk)R SiO1/2で表されるシロキサン単位で封鎖された、直鎖状のオルガノポリシロキサンである。
【0022】
成分(a2)は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂であり、任意で、前記の成分(a1)と併用してもよい。このような成分(a2)は、
平均単位式:
(RSiO3/2)o(RSiO2/2)p(RSiO1/2)q(SiO4/2)r(XO1/2)s
で表されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン樹脂が例示される。
上式中、Rは、アルケニル基および前記の炭素-炭素二重結合を有しない一価炭化水素基から選ばれる基であり、Xは水素原子または炭素原子数1~3のアルキル基である。ただし、全てのRのうち、少なくとも、当該オルガノポリシロキサン樹脂中のビニル(CH2=CH―)基の含有量が、1.0~5.0質量%の範囲を満たす範囲においてRはアルケニル基であり、特に、RSiO1/2で表されるシロキサン単位上のRの少なくとも一部はアルケニル基であることが好ましい。
【0023】
上式中、(o+r)は正数であり、pは0又は正数であり、qは0又は正数であり、sは0又は正数であり、かつ、p/(o+r)は0~10の範囲内の数であり、q/(o+r)は0~5の範囲内の数であり、(o+r)/(o+p+q+r)は0.3~0.9の範囲内の数であり、s/(o+p+q+r)は0~0.4の範囲内の数である。
【0024】
成分(a2)として、特に好適には、
{(Alk)R SiO1/2}q1(R SiO1/2)q2(SiO4/2)r
(式中、Alk、Rは前記同様の基であり、q1+q2+rは50~500の範囲の数であり、(q1+q2)/rは0.1~2.0の範囲の数であり、q2は当該オルガノポリシロキサン樹脂中のビニル(CH2=CH―)基の含有量が、1.0~5.0質量%の範囲を満たす範囲の数である)
で表されるアルケニル基含有MQオルガノポリシロキサン樹脂が例示される。
【0025】
これらの分子鎖末端のみにアルケニル基を有する成分(a1)およびオルガノポリシロキサン樹脂であって、必要に応じて一定量のアルケニル基を有する成分(a2)を併用することで、組成物全体として硬化性に優れ、かつ、機械的強度および柔軟性に優れる硬化反応物を与え、上記の電子部品等における接着層または誘電層に特に適合したオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを提供することができる。
【0026】
成分(B)は、分子中に少なくとも2個のケイ素結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、成分(A)の架橋剤として機能する成分である。
【0027】
このような成分(B)として、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、トリメトキシシランの加水分解縮合物、(CH)HSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CH)HSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とからなる共重合体、およびこれらの2種以上の混合物が例示される。
【0028】
成分(B)の使用量は、組成物中の、好適には、成分(A)中の炭素-炭素二重結合1モルに対して、珪素結合水素原子が0.1~10モルの範囲となる量であり、好適には、0.1~5.0モルの範囲となる量であり、特に好適には、0.1~2.5モルの範囲となる量である。成分(B)の使用量が前記下限以下では硬化不良の原因となる場合があり、成分(B)の含有量が前記上限を超えると、硬化物の機械的強度が高くなりすぎ、接着層または誘電層として好適な物性を得られなくなる場合がある。ただし、本発明にかかるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムのガラス等の被着体に対する接着強度の向上等を目的とする場合、成分(A)中の炭素-炭素二重結合1モルに対して、珪素結合水素原子が20モルを超える範囲で使用することを妨げるものではない。
【0029】
成分(C)は成分(A)および成分(B)のヒドロシリル化反応を促進する触媒であり、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、ニッケル系触媒、イリジウム系触媒、ルテニウム系触媒、および鉄系触媒が例示され、好ましくは、白金系触媒である。この白金系触媒としては、白金微粉末、白金黒、白金担持シリカ微粉末、白金担持活性炭、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体等の白金系化合物が例示され、特に白金のアルケニルシロキサン錯体が好ましい。このアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基、ヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンが例示される。特に、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性が良好であることから、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。また、この白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性を向上させることができることから、この錯体に1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジアリル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,3-ジメチル-1,3-ジフェニルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラフェニルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン等のアルケニルシロキサンやジメチルシロキサンオリゴマー等のオルガノシロキサンオリゴマーを添加することが好ましく、特に、アルケニルシロキサンを添加することが好ましい。加えて、取扱作業性および組成物のポットライフの改善の見地から、これらのヒドロシリル化反応触媒は、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂等の熱可塑性樹脂中に分散あるいはカプセル化した触媒である、ヒドロシリル化反応触媒含有熱可塑性樹脂微粒子、特に、白金含有ヒドロシリル化反応触媒を含む熱可塑性樹脂微粒子であってもよい。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0030】
成分(C)の使用量は、有効量であり、特に制限されるものではないが、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化を促進する量であれば特に限定されない。具体的には、(A)~(C)成分の和(全体を100質量%とする)に対して、この触媒中の金属原子が質量単位で0.01~1,000ppm、好適には(C)成分中の白金金属原子が、0.1~500ppmの範囲内となる量である。これは、(C)成分の含有量が上記範囲の下限未満であると、硬化が不十分となる場合があり、上記範囲の上限を超えると、不経済であるほか得られる硬化物の着色等、透明性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0031】
[誘電性官能基の導入]
本発明にかかるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムをアクチュエーター等のトランスデューサーに用いる電気活性フィルム(たとえば、誘電性フィルム)として用いる場合、硬化物に高誘電性官能基を導入してもよい。ただし、高誘電性官能基を含まないオルガノポリシロキサン硬化物フィルムであっても、電気活性フィルムとして利用することは可能である。なお、これらの高誘電性官能基の導入および比誘電率の向上については、例えば、本件出願人らの国際特許公開WO2014/105959号公報等に提案されている。
【0032】
高誘電性官能基の導入は、前記成分(A)または成分(B)の一部又は全部として、高誘電性官能基を有するオルガノポリシロキサンまたはオルガノハイドロジェンポリシロキサンを用いることや、高誘電性官能基を有する有機添加剤、高誘電性官能基を有する非反応性の有機ケイ素化合物等を前記の硬化性組成物に添加することで行うことができる。硬化性組成物への混和性および硬化物の比誘電率の向上の見地から、前記成分(A)または成分(B)であるオルガノポリシロキサンまたはオルガノハイドロジェンポリシロキサンにおいて、そのケイ素原子上の全ての置換基の10モル%以上、好適には20モル%以上、より好適には、40モル%以上が、高誘電性官能基により置換されていることが好ましい。
【0033】
オルガノポリシロキサン硬化物フィルムに導入される高誘電性官能基の種類は、特に制限されるものではないが、a)3,3,3-トリフルオロプロピル基等に代表されるハロゲン原子及びハロゲン原子含有基、b)シアノプロピル基等に代表される窒素原子含有基、c)カルボニル基等に代表される酸素原子含有基、d)イミダゾール基等の複素環基、e)ボレートエステル基等のホウ素含有基、f)ホスフィン基等のリン含有基、およびg)チオール基等の硫黄含有基が例示され、好適には、フッ素原子を含むハロゲン原子及びハロゲン原子含有基の使用が好ましい。
【0034】
本発明においては、成分(A)または成分(B)の一部又は全部に、高誘電性官能基は(C2p+1)-R- (Rは炭素原子数1~10のアルキレン基であり、pは1以上8以下の整数である)で表されるフルオロアルキル基が導入されていることが好ましい。このようなフルオロアルキル基は、比誘電率に優れた硬化物を与え、かつ、各成分がフッ素原子を有することで各成分の相溶性を改善し、透明性に優れた硬化物を与える。このようなフルオロアルキル基の具体例としては、トリフルオロプロピル基、ペンタフルオロブチル基、ヘプタフルオロペンチル基、ノナフルオロヘキシル基、ウンデカフルオロヘプチル基、トリデカフルオロオクチル基、ペンタデカフルオロノニル基、ヘプタデカフルオロデシル基である。この中では、誘電特性、経済性、製造容易性、得られる硬化性オルガノポリシロキサン組成物の成形加工性の観点からp=1の基、すなわちトリフルオロプロピル基が好ましい基である。
【0035】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物には上記の成分の他に、本発明の目的を損なわない限り、必要に応じてこれら以外の成分を添加配合することができる。他の成分としては、ヒドロシリル化反応抑制剤、離型剤、絶縁性添加剤、接着性向上剤、耐熱性向上剤、充填剤、顔料その他従来公知の各種添加剤が例示される。例えば、全体の粘度調整や、誘電性の向上などの機能性改善を目的として、無機充填剤を配合することもできる。
【0036】
[ヒドロシリル化反応抑制剤]
ヒドロシリル化反応抑制剤は、成分(A)および成分(B)との間で起こる架橋反応を抑制して、常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上するために配合するものである。従って、本発明の硬化性組成物にとって、実用上、必然的に配合される成分である。
【0037】
ヒドロシリル化反応抑制剤として、アセチレン系化合物、エンイン化合物、有機窒素化合物、有機燐化合物、オキシム化合物が例示される。具体的には、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、フェニルブチノール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシクロシロキサン;ベンゾトリアゾールが例示される。
【0038】
ヒドロシリル化反応抑制剤の配合量は、本発明にかかるフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物の常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上するのに有効な量である。通常、成分(A)100質量%当り0.001~5質量%の範囲内であり、好ましくは0.01~2質量%の範囲内であるが、本成分の種類、白金系触媒の性能と含有量、成分(A)中のアルケニル基量、成分(B)中のケイ素原子結合水素原子量などに応じて適宜選定するとよい。
【0039】
[補強性充填材(D1)、(D2)]
本発明にかかるフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理され、平均BET比表面積が異なる、補強性微粒子またはその複合体を、当該組成物中の、硬化反応により不揮発性の固形分を形成する成分の和に対して、一定の範囲内で含むものである。
【0040】
ここで、補強性微粒子は、硬化物の機械的強度の見地から、平均一次粒子径が50nm未満である1種以上の補強性無機微粒子であることが好ましく、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、粉砕シリカ、炭酸カルシウム、珪藻土、微粉砕石英、アルミナ・酸化亜鉛以外の各種金属酸化物粉末、ガラス繊維、炭素繊維等が例示され、これらを後述する1種類以上の有機ケイ素化合物で処理したものが使用される。その形状は、特に限定されるものではなく、粒子状、板状、針状、繊維状等の任意の形状のものを用いることができる。
【0041】
好例としては、機械的強度の向上の観点から、平均一次粒子径が10nm以下であり、部分的に凝集し、そのBET比表面積が、後述するとおり、互いに異なる親水性または疎水性のヒュームドシリカもしくはその金属酸化物複合体が挙げられる。更に、分散性の向上の点から、ヒュームドシリカもしくはその金属酸化物複合体をジシラザンまたは後述するシランカップリング剤で処理したものが好ましい。これら補強性無機粒子は、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0042】
本発明において、補強性充填材は、
(D1)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が100m/gを超える補強性微粒子またはその複合体と
(D2)1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理された、平均BET比表面積が10~100m/gの範囲にある補強性微粒子またはその複合体を含んでなり、かつ、
(D1)成分と(D2)成分の質量比が50:50~99:1の範囲であり、70:30~97:3の範囲であってよく、70:30~95:5の範囲が好ましい。上記(D1)と(D2)の質量比範囲を外れた場合、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化前粘度が上昇したり、また硬化後の力学強度や絶縁破壊強度が低下する恐れがある。
【0043】
上記の(D1)および(D2)成分である補強性充填材を組成物中に配合することにより、本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなるオルガノポリシロキサン硬化物の力学強度、絶縁破壊強度を増加させることが可能となる。これら充填材の配合量は、(D1)成分と(D2)成分の和として、組成物中の、硬化反応により不揮発性の固形分を形成する成分の和に対して、10~40質量%の範囲内であり、15~35質量%の範囲であってよく、15~30質量%の範囲が特に好ましい。上記の質量%範囲の上限を超えると、均一かつ薄膜状の塗布が困難となる場合があり、上記の質量%範囲の下限未満では、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化後の物性が不十分となる恐れがある。
【0044】
上記の(D1)および(D2)成分である補強性充填材は、1種類以上の有機ケイ素化合物により表面処理されていることが必要である。有機ケイ素化合物により表面処理は疏水化処理であるが、かかる有機ケイ素化合物により表面処理された充填剤である(D1)成分と(D2)成分を用いると、これらの補強性充填材をオルガノポリシロキサン組成物中に高充填率かつ均一に分散させることができる。また、組成物の粘度の増大が抑制され、成形加工性が向上する。
【0045】
有機ケイ素化合物の例は、シラン、シラザン、シロキサン、又は同様物などの低分子量有機ケイ素化合物、及びポリシロキサン、ポリカルボシロキサン、又は同様物などの有機ケイ素ポリマー又はオリゴマーである。好ましいシランの例は、いわゆるシランカップリング剤である。このようなシランカップリング剤の代表例としては、アルキルトリアルコキシシラン(メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、又は同様物など)、有機官能基含有トリアルコキシシラン(グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、又は同様物など)である。好ましいシロキサン及びポリシロキサンとしては、ヘキサメチルジシロキサン、1,3-ジヘキシル-テトラメチルジシロキサン、トリアルコキシシリル単末端化(single-terminated)ポリジメチルシロキサン、トリアルコキシシリル単末端化ジメチルビニル単末端化ポリジメチルシロキサン、トリアルコキシシリル単末端化有機官能基単末端化ポリジメチルシロキサン、トリアルコキシシリル両末端化(doubly terminated)ポリジメチルシロキサン、有機官能基両末端化ポリジメチルシロキサン、又は同様物が挙げられる。シロキサンを使用するとき、シロキサン結合の数nは、好ましくは2~150の範囲である。好ましいシラザンの例は、ヘキサメチルジシラザン、1,3-ジヘキシル-テトラメチルジシラザン、又は同様物である。好ましいポリカルボシロキサンの例は、ポリマー主鎖内にSi-C-C-Si結合を有するポリマーである。
【0046】
本発明における(D1),(D2)成分は、上記の有機ケイ素化合物により表面処理されたものであるが、特に、本発明に関わる(D1)成分と(D2)成分の表面処理に用いる有機ケイ素化合物が、少なくともヘキサメチルジシラザンおよび1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンから選ばれる1種類以上を含有することが最も好ましい。なお、本発明の技術的効果を妨げない範囲で、有機ケイ素化合物以外の表面処理剤を用いる表面処理を併用してもよい。
【0047】
前記表面処理において、充填剤総量に対する表面処理剤の割合は、0.1質量%以上、50質量%以下の範囲が好ましく、0.3質量%以上、40質量%以下の範囲がより好ましい。なお、処理量については、充填剤と表面処理剤の仕込み比であり、処理後に余剰の処理剤を除去することが好ましい。また、必要に応じて処理する際には反応を促進もしくは補助する添加剤等を使用しても問題ない。
【0048】
前記表面処理において、表面処理剤の成分が充填剤表面に化学的もしくは物理的に固定されているかは重要なパラメーターである。たとえば、表面処理剤の固定量は、アルカリ条件下過剰のテトラエトキシシランと充填剤を含めた組成物を反応させ、反応生成物をガスクロマトグラフィーで検出することにより分析できる。
【0049】
上記充填剤表面に固定された表面処理剤の成分量は、充填剤量100質量部に対して、1.0質量部以上、好ましくは3.0質量部以上がよい。中でも 本発明に関わる(D1)成分と(D2)成分の表面処理に用いる有機ケイ素化合物が、ヘキサメチルジシラザンおよび1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンを2種使用する場合には、それぞれの充填剤表面上への固定比率を必要に応じて変えることができる。たとえば、本発明においては、上述通り、成分(A)または成分(B)の一部又は全部に、高誘電性官能基は(C2p+1)-R- (Rは炭素原子数1~10のアルキレン基であり、pは1以上8以下の整数である)で表されるフルオロアルキル基が導入することができる。誘電特性、経済性、製造容易性、得られる硬化性オルガノポリシロキサン組成物の成形加工性の観点からp=1の基、すなわちトリフルオロプロピル基が好ましい基である。その場合、ヘキサメチルジシラザンおよび1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン由来の処理成分の充填剤表面に固定された重量比は0以上10以下であり、好ましくは0以上5以下がよい。この範囲を外れてしまうと、成分(A)または成分(B)と充填剤表面との親和性が悪くなり、加工性や硬化後の物性が低下する恐れがある。
【0050】
[その他の機能性充填材]
本発明にかかる硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、上記の(D1)成分および(D2)成分以外の充填材は、所望により用いても、用いなくてもよい。充填剤を用いる場合には無機充填剤及び有機充填剤のいずれか又は両方を用いることができる。用いる充填剤の種類は特に限定されないが、例えば、高誘電性充填剤、導電性充填剤、絶縁性充填剤等が挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。特に、本発明の組成物には、任意でその透明性、塗工性および取扱作業性を損なわない範囲で、粘度の調整または機能性の付与を目的として、高誘電性充填剤、導電性充填剤、および絶縁性充填剤からなる群から選択される1種以上の充填剤を含有してもよい。
【0051】
充填剤は、1種類または2種類以上であってよく、その形状は、特に限定されるものではなく、粒子状、板状、針状、繊維状等の任意の形状のものを用いることができる。フィラーの形状が粒子の場合、フィラーの粒子径は特に限定されるものではないが、例えばレーザー光回折法や動的光散乱法で測定した場合、その体積平均粒子径は、例えば、0.001~500μmの範囲とすることができる。また、フィラーの使用目的によって、フィラーの体積平均子粒径は、300μm以下、200μm以下、100μm以下、10μm以下、或いは、0.01μm以上、0.1μm以上、1μm以上とすることができる。フィラーの形状が板状、針状、繊維状等の異方性の場合、フィラーのアスペクト比は1.5以上、5以上、または10以上であることができる。体積平均子粒径が0.01μm以下で、かつ最大粒子の粒子径が0.02μm以下の微粒子を用いると、実質的に透明性の高い硬化物、とくに接着剤フィルムまたは電気活性フィルムを製造することができる場合がある。
【0052】
その他の機能性充填材として、誘電性無機微粒子、導電性無機微粒子、絶縁性無機微粒子、および熱伝導性無機微粒子が例示される。これらの微粒子から選択される1種以上を本発明の組成物に用いることができる。なお、これらの無機微粒子は、補強性充填材としての機能等、2種類以上の機能を併せ持つ場合がある。
【0053】
好ましい誘電性無機微粒子の例として、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸ジルコン酸鉛、およびチタン酸バリウムのバリウムおよびチタン部位の一部をカルシウム、ストロンチウム、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ジスプロシウムなどのアルカリ土類金属、ジルコニウム、または希土類金属で置換した複合金属酸化物からなる群から選択される1種以上の無機微粒子が挙げられ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム、及びチタン酸ストロンチウムがより好ましく、酸化チタン、チタン酸バリウムがさらに好ましい。
【0054】
特に、誘電性無機微粒子は、その少なくとも一部が、室温、1kHzにおける比誘電率が10以上の誘電性無機微粒子であることが特に好ましい。なお、当該無機微粒子の好ましい大きさ(平均一次粒子径)の上限は、20,000nm(20μm)であるが、後述するトランスデューサー用薄膜への加工性を考慮すると、10,000nm(10μm)がより好ましい。当該誘電性無機微粒子の使用により、オルガノポリシロキサン硬化物について、機械特性及び/又は電気的特性、特にその比誘電率をさらに改善できる場合がある。
【0055】
導電性無機微粒子としては、オルガノポリシロキサン硬化物に導電性を付与することができるものであれば特に制限はない。具体的には、導電性カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン(VGCF)等の導電性カーボン;白金、金、銀、銅、ニッケル、錫、亜鉛、鉄、アルミニウム等の金属粉が挙げられ、更に、アンチモンがドープされた酸化錫、リンがドープされた酸化錫、酸化錫/アンチモンで表面被覆された針状酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化アンチモン、アンチモン酸亜鉛、カーボンやグラファイトのウィスカー表面に酸化錫等を被覆した顔料;錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、リンドープ酸化錫及び酸化ニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の導電性金属酸化物を被覆した顔料;二酸化チタン粒子表面に酸化錫及びリンを含む導電性を有する顔料等が挙げられ、また、これらは、後述する各種表面処理剤で処理したものであってもよい。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0056】
さらに、導電性無機微粒子は、ガラス繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維等の繊維、並びに、ホウ酸アルミニウムウィスカー、チタン酸カリウムウィスカー等の針状の補強材、ガラスビーズ、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、ドロマイト等の無機充填材の表面に金属等の導電性物質を被覆したものでもよい。
【0057】
本発明で使用可能な絶縁性無機微粒子としては、一般に知られる絶縁型無機材料、すなわち、体積抵抗率が1010~1018Ω・cmである無機材料の粒子であれば制限が無く、粒子状、フレーク状、ファイバー(ウィスカー含む)状のいずれの形状でも使用することができる。具体的には、セラミックの球状粒子、板状粒子、又はファイバーが挙げられ、アルミナ、酸化鉄、酸化銅、マイカやタルク等の金属シリケート、石英、非晶質シリカ、ガラス等の粒子が好ましい使用例として挙げられる。また、これらを後述する各種表面処理剤で処理したものであってもよい。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。絶縁性無機微粒子を組成物中に配合することにより、オルガノポリシロキサン硬化物の力学強度、絶縁破壊強度を増加させることが可能となり、比誘電率の増加も見られる場合がある。
【0058】
これら絶縁性無機粒子の配合量は、その用途に応じ、硬化性オルガノポリシロキサン組成物に対し0.1~20質量%の範囲が好ましく、0.1~5質量%の範囲がより好ましい。配合量が上記の好ましい範囲を外れると、配合による効果が得られない、もしくはオルガノポリシロキサン硬化物の力学強度が低下する場合がある。
【0059】
本発明で使用可能な熱伝導性無機微粒子としては、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化ニッケル、酸化バナジウム、酸化銅、酸化鉄、酸化銀等の金属酸化物粒子、および窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、ダイヤモンド、ダイヤモンドライクカーボン等の無機化合物粒子が挙げられ、酸化亜鉛、窒化ホウ素、炭化ケイ素、および窒化ケイ素が好ましい。これら熱伝導性無機微粒子の1種以上を組成物中に配合することにより、オルガノポリシロキサン硬化物の熱伝導率を増加させることが可能となる。
【0060】
これらの無機粒子の平均粒子径の測定は当該分野で通常の測定方法により行うことができる。例えば、平均粒子径が50nm以上、500nm程度以下である場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等の顕微鏡観察により粒子径を測定し、平均値を求めることで平均一次粒子径の測定ができる。一方、平均粒子径が500nm程度以上である場合は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置等により平均一次粒子径の値を直接求めることができる。
【0061】
これらの(D1),(D2)成分以外の無機粒子は、表面処理剤により疎水化処理されていてもよい。当該表面処理は、表面処理剤で充填剤を処理(又は被覆処理)することにより行うことができる。疎水化用の表面処理剤としては、有機チタン化合物、有機ケイ素化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物及び有機リン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の表面処理剤が挙げられる。表面処理剤は単独で又は2種以上を組み合わせてもよい。これらの表面処理剤のうち、有機ケイ素化合物、なかでも、シラザン、シラン類、シロキサン類、ポリシロキサン類が好ましく、シラザン、アルキルトリアルコシキシラン類、片末端トリアルコシキシリルポリジメチルシロキサン類が好ましく使用される。また、その際の処理量等は、(D1),(D2)成分の表面処理で述べた処理方法、処理量等に準じるものである。
【0062】
[その他の任意成分]
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、さらに離型性または絶縁破壊特性の改善のための添加剤、接着性向上剤等を含有することができる。
【0063】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物を薄膜状に硬化して得られるフィルム状またはシート状の硬化物は、接着剤フィルム、トランスデューサーを構成する電気活性フィルム(誘電層または電極層)に好適に利用できるものであるが、薄膜形成時に硬化層の離型性が悪いと、特に高速でオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを製造した場合に、型離れに起因してフィルムが破損する場合がある。また、アクチュエータ、タッチパネル等に用いる誘電層としては、低圧下での感度向上のため、接着性の低減を求められる場合がある。本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、フィルムにダメージを与えることなくフィルムの製造速度を向上させることができ、かつ、その他の離型剤の添加により、さらに粘着性を低減できる場合がある。
【0064】
本発明に係る硬化性オルガノポリシロキサン組成物に適用可能な離型性向上添加剤(=離型剤)としては、例えば、カルボン酸系離型剤、エステル系離型剤、エーテル系離型剤、ケトン系離型剤、アルコール系離型剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、前記離型剤としては、ケイ素原子を含まないもの、ケイ素原子を含むもの、又は、これらの混合物を使用することができる。これらの具体例は、例えば、上記の国際特許公開WO2014/105959号公報において提案されたものと同様である。
【0065】
絶縁破壊特性向上剤は、電気絶縁性向上剤であることが好ましく、アルミニウム又はマグネシウムの水酸化物又は塩、粘土鉱物、及び、これらの混合物、具体的には、ケイ酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、焼成クレイ、モンモリロナイト、ハイドロタルサイト、タルク、及び、これらの混合物からなる群から選択することができる。また、当該絶縁性向上剤は、公知の表面処理方法で処理されていてもよい。これらの具体例は、例えば、上記の国際特許公開WO2014/105959号公報において提案されたものと同様である。
【0066】
接着性向上剤は、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物が硬化途上で接触している基材への接着性向上のためのものである。該組成物の硬化物である誘電層を再剥離しない場合に、有効な添加剤である。接着性向上剤として、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機官能性アルコキシシラン化合物、そのシロキサン誘導体、特にフッ素含有有機基で置換された鎖状または三次元樹脂状のシロキサン誘導体が例示される。特に好適な接着性向上剤として、
(g1) アミノ基含有オルガノアルコキシシランとエポキシ基含有オルガノアルコキシシランとの反応混合物
(g2) 一分子中に少なくとも二つのアルコキシシリル基を有し,かつそれらのシリル基の間にケイ素-酸素結合以外の結合が含まれている有機化合物、
(g3) 一般式:
Si(OR)4-n
(式中、Rは一価のエポキシ基含有有機基であり、Rは炭素原子数1~6のアルキル基または水素原子である。nは1~3の範囲の数である)
で表されるエポキシ基含有シランまたはその部分加水分解縮合物
(g4) アルコキシシラン(エポキシ基含有有機基を有するものを除く)、またはその部分加水分解縮合物
などから選ばれる1種類または2種類以上が例示される。
【0067】
その他の任意成分として、本発明の技術的効果を損なわない限り、フェノール系、キノン系、アミン系、リン系、ホスファイト系、イオウ系、チオエーテル系などの酸化防止剤;トリアゾール系、ベンゾフェノン系などの光安定剤;リン酸エステル系、ハロゲン系、リン系、アンチモン系などの難燃剤;カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤などからなる1種類以上の帯電防止剤;染料、顔料などが例示される。
【0068】
本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、硬化性オルガノポリシロキサンおよび硬化反応の促進成分、好適には、上記成分(A)~(C)を均一に混合することにより、また、必要に応じてその他任意の成分を添加して、均一に混合することにより調製することができる。各種攪拌機あるいは混練機を用いて、常温で混合すればよいが、混合中に硬化しない成分の組合せであれば、加熱下で混合してもよい。
【0069】
混合中に硬化しなければ、各成分の配合順序は特に制限されるものではない。混合後、直ちに使用しないときは、架橋剤(例えば、成分(B))と硬化反応の促進成分(例えば、成分(C))が同一の容器内に存在しないように複数の容器に分けて保管しておき、使用直前に全容器内の成分を混合してもよい。
【0070】
本発明の、硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化反応は、脱水、脱アルコール等の縮合反応に基づく硬化反応においては室温で進行するが、オルガノポリシロキサン硬化物フィルムを工業的生産プロセスで生産する場合、通常、該組成物を加熱あるいは活性エネルギー線にさらすことにより達成される。熱による硬化反応温度は、特に限定されないが、50℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上200℃以下がより好ましく、80℃以上180℃以下がさらに好ましい。また、硬化反応にかける時間は、上記(A)、(B)、(C)成分の構造に依存するが、通常1秒以上3時間以下である。一般的には、90~180℃の範囲内で10秒~30分保持することにより硬化物を得ることができる。なお、フィルムの製造法および圧延加工等については後述する。
【0071】
硬化反応に使用され得る活性エネルギー線としては、紫外線、電子線、及び放射線等が挙げられるが、実用性の点で紫外線が好ましい。紫外線により硬化反応を行なう場合は、使用する紫外線に対して高い活性を有するヒドロシリル化反応用触媒、例えばビス(2,4-ペンタンジオナト)白金錯体、(メチルシクロペンタジエニル)トリメチル白金錯体、を添加することが望ましい。紫外線発生源としては高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、Xe-Hgランプ、及びディープUVランプ等が好適であり、その際の照射量は、100~8,000mJ/cmが好ましい。
【0072】
[オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法]
上記のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いることで、均一かつ薄膜状のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを高精度で得ることができ、機能性フィルムとしてみた場合、極めて薄く、均質で、巨視的には実質的に凹凸を有しない平坦なフィルムである。このようなオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、空気中の浮遊塵等の表面および内部への付着を避けるため、クリーンルームにおいて製造することが好ましい。
【0073】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、上述の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、剥離層を有するセパレータ上で状態で硬化することで好適にえることができる。同様に、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、上述の硬化性オルガノポリシロキサン組成物をフィルム状に塗工し、圧延加工後に加熱等によりフィルム状に硬化させることによって好適に実現可能である。なお、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムそれ自体をさらに圧延加工してもよく、剥離層を設けたセパレータ間で塗工乃至硬化されたフィルムをさらに圧延加工してもよい。以下、それらの構造および製造方法について説明する。
【0074】
本発明に係るオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、上記のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、フィルム状基材、テープ状基材、またはシート状基材(以下、「フィルム状基材」という)に塗工した後、その硬化機構に対応した方法で硬化させることにより、前記基材の表面に形成することができる。
【0075】
前記基材は、特に、剥離面を有する平面状の基材であり、硬化性オルガノポリシロキサン組成物が剥離面上に塗布されることが好ましい。このような基材は、セパレータとして機能するので、基材上に積層された本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、僅かな力で円滑に剥離層から引き離して目的とする電子機器等に付着ないし接着させることができるため、取扱作業性に優れるという利点を有する。
【0076】
基材の種類として、板紙,ダンボール紙,クレーコート紙,ポリオレフィンラミネート紙,特にはポリエチレンラミネート紙,合成樹脂フィルム・シート,天然繊維布,合成繊維布,人工皮革布,金属箔が例示される。特に、合成樹脂フィルム・シートが好ましく、合成樹脂として、ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンが例示される。特に耐熱性が要求される場合には、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン等の耐熱性合成樹脂のフィルムが好適である。一方、表示デバイス等視認性が求められる用途においては、透明基材、具体的にはポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、PEN等の透明材料が好適である。
【0077】
上記基材はフィルム状またはシート状であることが好ましい。その厚さは特に制限されないが、通常5~300μm程度である。さらに、支持フィルムと感圧接着層の密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理された支持フィルムを用いてもよい。また、フィルム状基材の感圧接着層面と反対面には、傷つき防止、汚れ防止、指紋付着防止、防眩、反射防止、帯電防止などの処理などの表面処理されたものであってもよい。
【0078】
本発明のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基材に塗工する方法としては、グラビアコート、オフセットコート、オフセットグラビア、オフセット転写ロールコーター等を用いたロールコート、リバースロールコート、エアナイフコート、カーテンフローコーター等を用いたカーテンコート、コンマコート、マイヤーバー、その他公知の硬化層を形成する目的で使用される方法が制限なく使用できる。
【0079】
本発明のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化してなるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを接着剤層(感圧接着剤層を含む)または電気活性フィルム(誘電層等の誘電性フィルム含む)である場合、当該硬化層は、剥離コーティング能を有する剥離層を備えたフィルム基材上に、剥離可能な状態で積層した積層体フィルムとして取り扱うことが好ましい。
【0080】
剥離層は剥離ライナー、セパレーター、離型層あるいは剥離コーティング層と呼ばれることもあり、好適には、シリコーン系剥離剤、フッ素系剥離剤、アルキド系剥離剤、またはフルオロシリコーン系剥離剤等の剥離コーティング能を有する剥離層、基材表面に物理的に微細な凹凸を形成させたり、本発明の感圧接着層と付着しにくい基材それ自体であってもよい。特に本発明にかかる積層体フィルムにおいては、剥離層として、フルオロシリコーン系剥離剤を硬化させてなる剥離層の使用が好ましい。
【0081】
好適には、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を用いるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの製造方法は、
剥離層を有するセパレータ上に、上記のフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を、硬化後の厚さが1~1000μm、好適には1~200μm、より好適には1~100μmの範囲で薄膜状に塗布する工程、
当該薄膜状に塗布されたフィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物を硬化させる工程、および
硬化中または硬化後に有機溶媒を除去する工程を含むものであり、さらに、後述する圧延加工工程を有してもよい。なお、有機溶媒は硬化中または硬化後に減圧乃至フィルムまたはフィルム前駆体を加熱する事で、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムから効率よく除去することができる。当該有機溶媒の残留率が多いと、特にオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを電子材料に使用する場合、接点障害や装置内の汚染原因となりうるためである。
【0082】
[圧延加工を用いた製法]
本発明のフィルム形成性硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基材上に塗布した後、硬化反応の前もしくは硬化反応後に、圧延加工を行うことによって得ることが特に好ましい。圧延加工は、硬化乃至半硬化状態のオルガノポリシロキサン硬化物に対して行うこともできるが、未硬化の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を圧延加工した後に、加熱等により硬化させて平坦かつ均一なオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを得ることが好ましい。また、圧延加工を行う場合、後述する剥離層を有するセパレータ間に未硬化の硬化性オルガノポリシロキサン組成物を塗工した積層体全体を圧延加工した後に、加熱等により硬化させて平坦かつ均一なオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを得ることが特に好ましい。
【0083】
硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基材上に塗布する量は、硬化後のフィルムの平均厚みが1~200μmであり、圧延加工が可能な厚みであることが必要である。
【0084】
圧延加工は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基材上に塗布し、ロール圧延等の公知の圧延方法を用いて行うことができる。なお、硬化乃至半硬化状態のオルガノポリシロキサン硬化物を、必要に応じて略シート状に成型した後、圧延加工を行ってもよい。圧延加工後のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、フィルムの平均厚みが1~200μmの範囲であることが必要である。特に、ロール圧延の場合、ロール間の隙間を調整することで、所望の厚さのオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを設計することができる利点があり、例えば、平均厚みが1~200μmの範囲でロール間の隙間を一定に調整して圧延することで、平坦性に優れ、かつ、上記のフィルム表面およびフィルム内部における欠陥の極めて少ないオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを得ることができる。より詳細には、ロール圧延の場合、目的とするオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの平均厚みに対して2.0~4.0倍の範囲でロール間の隙間が調整されていることが特に好ましい。例えば、50μmのオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを得る場合、剥離層の厚みが100~200μmの範囲であることが特に好ましい。当該間隙が前記上限よりも広いと、特に気泡に由来する空隙(ボイド)が十分に解消されず、フィルム表面および内部における欠陥が増加する場合がある。
【0085】
上記のとおり、圧延加工は、硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基材上に塗布し、未硬化の状態で行うことが好ましい。具体的には、原料である硬化性オルガノポリシロキサン組成物を好適には剥離層を備えたシート状基材上に塗布し、ロール圧延等で圧延加工した後に、平坦化された硬化性オルガノポリシロキサン組成物を加熱等により硬化させて本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを得ることができる。
【0086】
圧延加工前の硬化性オルガノポリシロキサン組成物の基材への塗工方法、基材等は前記同様であり、前記のプライマー層および平坦化層を有するフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサン硬化物について、さらにロール圧延等の圧延加工を行ってもよい。
【0087】
得られるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムについて詳細に説明する。
【0088】
[厚み、均一性および平坦性]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、薄膜状であり、フィルムの平均厚みが好適には1~200μmの範囲にあるものであり、平均厚みが1~150μmの範囲にあることが好ましく、平均厚みが1~100μmの範囲にあることがより好ましい。ここで、フィルムの平均厚みは、フィルム中央の厚みの平均値である。好適には、上記のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、均一かつ平坦であり、フィルムの幅方向について、末端の厚みと中央の厚みの差が5.0%以内であり、フィルム中央の厚みの平均値が5~200μmの範囲にあることがより好ましい。フィルムの幅方向とはフィルムの長さ方向と直角方向であり、一般的には、原料となる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を基材上に塗布した方向に対して、平面方向に直角な方向を意味する。なお、フィルムの巻取りが行われる場合には巻き取られる方向が長さ方向であり、フィルムの幅方向は、それに直角の方向である。四辺形または略四辺形のフィルムにおいては、フィルムの幅方向は、長軸方向に直角な方向であり、正方形または略正方形フィルムにあっては、当該正方形フィルム各辺に直角または平行の方向のいずれを幅方向としてもよい。
【0089】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、フィルムの幅方向について、末端の厚み(μm)と中央の厚み(μm)の差(絶対値)が5.0%以内であり、4.0%以内であることが好ましく、3.5%以内であることが特に好ましい。なお、当該フィルムは、両端の盛り上がりを含め、実質的に面上に凹凸がない平坦かつ均一な構造であることが好ましく、フィルム幅方向の厚みの最大変位(差)が5.0%以内であることが好ましく、フィルム全体において厚みの最大変位(差)が5.0%以内であって、実質的に凹凸を有しない平坦なフィルムであることが特に好ましい。特に、平坦なフィルムであると、単層だけでなく、複数のフィルム層を重ね合わせて均一な厚いフィルム層を形成する際に、フィルム間の凹凸に由来する気泡の巻き込み、変形および欠陥を生じにくいという利点を有する。
【0090】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、一枚あたりの平均厚みが1~200μmの範囲にあるものであるが、複数のフィルムを重ね合わせて200μmを超える積層フィルムを形成し、接着層や誘電層を形成する目的で用いることが可能である。特に、当該フィルムを2層以上積層かしてなる誘電層を構成する誘電性フィルムは、本願発明の範囲に包含される。
【0091】
[フィルムの大きさ]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、一定の大きさ(面積)を有することが好ましく、フィルム幅が30mm以上であり、フィルム面積が900mm以上であることが好ましい。このようなフィルムは、例えば、30mm四方以上のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムである。一方、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、剥離層上であっても原料の硬化性組成物を均一に塗布して硬化させた構造を有してもよいので、長さ方向については、ロール上に巻取りが可能な長さであっても制限なく用いることができる。また、言うまでもなく、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムは所望の大きさ、形状に切断して用いてもよい。
【0092】
[フィルムの表面欠陥の個数]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、好適には、当該フィルムの任意の箇所において同フィルム表面の欠陥のフィルム表面における欠陥が極めて少ないことが好ましい。ここで、フィルム表面の欠陥とは、気泡に由来する空隙(ボイド)や埃、浮遊塵等の付着による同フィルム表面の汚染部位であり、これが多数存在すると、フィルム表面の均一性を損ない、微視的な欠陥を生じるため、特に当該フィルムに高電圧を印加して通電した場合に、当該部位で当該フィルムの絶縁破壊を生じる原因となる。なお、表面欠陥、特に直径数~数十μm程度の微小な空隙は目視確認が困難な場合がある。
【0093】
具体的には、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、当該フィルムの任意の箇所において、15mm×15mmを単位面積とする範囲で、光学的手段を用いてその表面欠陥の個数を測定した場合、表面欠陥の個数が0~1個の範囲にあり、0~0.5個の範囲が好ましく、0~0.1個の範囲がより好ましい。表面欠陥の個数が前記の上限を超えると、当該フィルムに高電圧を印加して通電した場合、絶縁破壊が起こりやすくなり、フィルム全体の絶縁破壊強度が著しく低下する。
【0094】
ここで、光学的手段を用いる欠陥個数の測定とは、一定の照度を有する光源から、表面に対して一定の入射角をもって光照射を行い、その反射光をCCDカメラ等の光学的手段で検出し、一定の信号閾値を有するものを表面欠陥としてカウントする手法である。具体的には、当該フィルムから一定の距離(たとえば、50~300mm)の位置に設置した白色LED光源から特定の入射角(たとえば、10~60度)にてフィルム位置での照度が一定となるように照射し、その正反射光(上記の入射角に対応した反射角の反射光)をフィルムからの一定の距離(たとえば、50~400mm)の位置に設置した、走査速度が10m/分時の分解能が画素サイズ10μmのCCDカメラにて検出し、検出した信号を走査方向について微分処理を実施し、特定の信号閾値を有する欠陥個数をフィルムロール全体に渡ってカウントし、フィルムの15mm×15mmを単位面積とする範囲当たり欠陥数に換算することができる。たとえば、株式会社フューテック社製MaxEye.Impact(ラインスピード10 m/min、分解能0.01mm/scanのCCDカメラを備える)を用いて、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムに対して一定の表面入射角を有する白色LED光源から光照射を行ってその反射光を検出することで、フィルム表面の欠陥数を特定することができる。
【0095】
[フィルムの内部欠陥の個数]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは薄膜状であるため、そのフィルム内部における欠陥の個数も抑制されていることが好ましい。具体的には、当該フィルムの任意の箇所において15mm×15mmを単位面積とする範囲で、光学的手段を用いてその内部欠陥の個数を測定した場合、内部欠陥の個数が0~20個の範囲であり、0~15個の範囲が好ましい。内部欠陥の個数が前記の上限を超えると、当該フィルムに高電圧を印加した場合、絶縁破壊が起こりやすくなり、フィルム全体の絶縁破壊強度が著しく低下する。
【0096】
前記のフィルム表面の欠陥同様に、光学的手段を用いる欠陥個数の測定により内部欠陥の個数を特定可能である。この場合、表面欠陥の測定と異なり、一定の照度を有する光源から、フィルム表面下部に対して垂直な光照射を行い、その透過光をCCDカメラ等の光学的手段で検出し、一定の信号閾値を有するものを表面欠陥としてカウントする手法を用いることができる。たとえば、株式会社フューテック社製MaxEye.Impact(ラインスピード10 m/分、分解能0.01mm/scanのCCDカメラを備える)を用いて、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの下部から垂直(直上)方向にフィルムを貫通するように白色LED光源から光照射を行ってその透過光を検出することで、フィルム内部の欠陥数を特定することができる。
【0097】
[透明性]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、着色剤や粒子径の大きいフィラー等を配合しない場合には、実質的に透明であり、透明性/視認性の求められる用途における誘電層または接着層として使用することができる。ここで、実質的に透明とは、平均厚み1~200μmのフィルム状の硬化物を形成させた場合、目視で透明であることを意味するものであり、概ね、波長450nmの光の透過率が空気の値を100%とした場合に80%以上である。本発明において、好適なオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは薄膜状かつ高透明であり、平均厚みが1~150μmの範囲にあることが好ましく、平均厚みが1~100μmの範囲にあることがより好ましく、かつ、光透過率が90%以上であるものが特に好ましい。
【0098】
[絶縁破壊強度]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、上記のとおり、特定の補強性微粒子の併用により、当該フィルムに高電圧を印加した場合であっても、局所的にかかる電界を抑制することにより、高い絶縁破壊強度を実現することができると考えられる。なお、本明細書において「絶縁破壊強度」とは、印加された直流又は交流の電圧下における本フィルムの絶縁破壊抵抗性の尺度であり、絶縁破壊前の印加電圧を本フィルムの厚さで割ることで、絶縁破壊強度値又は絶縁破壊電圧値が得られる。すなわち、本発明における絶縁破壊強度は、フィルムの厚さの単位に対する電位差の単位(本発明においては、ボルト/マイクロメーター(V/μm))で測定される。このような絶縁破壊強度は、JIS 2101-82等の標準規格に準拠したプログラムを有する電気絶縁油破壊電圧試験装置(たとえば、総研株式会社製 ポルタテスト 100A-2等)により測定可能である。その際、フィルム上の任意の箇所における絶縁破壊強度の測定値のばらつきを避けるため、すくなくとも10点以上のフィルム上の任意の箇所において絶縁破壊強度の測定を行い、その標準偏差値が十分に小さいことが好ましい。
【0099】
具体的には、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、室温で測定される絶縁破壊強度が56V/μm~200V/μmの範囲であり、58V/μm~100V/μmの範囲であることがより好ましい。前記のフィルム表面および内部の欠陥の個数が前記上限を超えると、上記の絶縁破壊強度を実現できない場合がある。さらに、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは全体が均一で、微視的な欠陥をほとんど含まないため、絶縁破壊強度の標準偏差値が十分に小さく、0.1~10.0V/μmの範囲であり、0.1~5.0V/μmの範囲であることが好ましい。前記のフィルム中に、本発明に記載の(D1)成分と(D2)成分の表面処理や分散状態が不十分だったり、また前記のフィルム表面および内部の欠陥の個数が前記上限を超えると、フィルム表面および内部における欠陥の個数のばらつきも大きくなり、絶縁破壊強度の標準偏差値が、10.0V/μmを超える場合が多くなり、得られるオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの信頼性が低下する。
【0100】
[比誘電率]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、任意で、フルオロアルキル基等の高誘電性官能基を導入してもよく、1kHz、25℃におけるフィルム全体の比誘電率を容易に3以上に設計することができる。当該比誘電率は、高誘電性官能基の導入量および高誘電性フィラーの使用等により設計可能であり、比誘電率4以上、5以上、または、6以上のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを比較的容易に得ることができる。
【0101】
[機械的物性]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、微視的な表面および内部の欠陥が少ないことが特徴であり、硬度、引き裂き強度、引っ張り強度等の巨視的な機械的物性は、同様な化学的組成、フィルムの厚さおよび形状で設計されたオルガノポリシロキサン硬化物フィルムに概ね準じる。一例として、オルガノポリシロキサン硬化物は、2.0mm厚のシート状に加熱成形した場合、JIS K 6249に基づいて測定される以下の力学物性を有するように設計可能である。
(1)ヤング率(MPa)は、室温下において、10MPa以下とすることができ、特に好適な範囲は、0.1~2.5MPaである。
(2)引き裂き強さ (N/mm) は、室温下において、1N/mm以上とすることができ、特に好適な範囲は、2N/mm以上である。
(3)引っ張り強さ (MPa) は、室温下において、1MPa以上とすることができ、特に好適な範囲は、2MPa以上である。
(4)破断伸び (%) は、200%以上とすることができ、特に好適な範囲は、200-1000%の範囲である。
【0102】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムをタッチパネル等の電子材料、表示装置用電子部材、特にセンサー等のトランスデューサー材料としての用途に用いる場合には、23℃におけるせん断貯蔵弾性率が10~10Paの範囲にあることが好ましく、1.0×10~5.0×10Paの範囲にあることがより好ましい。
【0103】
その他の機械的物性としては、オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの圧縮残留ひずみ(%)が10%未満であることが好ましく、5%未満であることがより好ましく、4%以下であることが特に好ましい。ただし、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムにおいては、圧縮残留ひずみ(%)が3%未満の材料も設計可能である。
【0104】
同様に、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、その圧縮率(%)が15%以上であることが好ましく、18%以上であることがより好ましく、20%以上であることが特に好ましい。
【0105】
[粘着力]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを接着剤または接着層として用いる場合には、オルガノポリシロキサンレジンの使用等により、所望の粘着力を有するように設計してもよい。たとえば、厚さ100μmのオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの両面にポリエチレンテレフタレート(PET)基材(厚さ50μm)を張り合わせた試験片について、23℃、湿度50%の環境で行ない、速度300mm/min、180度の角度で引き剥がした場合、その粘着力が5N/m以上、または10N/m以上に設計することができる。なお、実用上、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを密着させる基材自体に各種処理に基づく粘着力を付与できる場合や接着層として使用しない場合には、実質的に粘着力がなかったり、容易に剥離可能なオルガノポリシロキサン硬化物フィルムを用いることができることは言うまでもない。
【0106】
[オルガノポリシロキサン硬化物フィルムの使用]
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、そのフィルム表面およびフィルム内部に微細な欠陥(気泡に由来する空隙(ボイド)、埃または浮遊塵による汚染部位)が極めて少ないので、当該フィルムに高電圧を印加して通電した場合に当該欠陥における絶縁破壊が発生しにくく、フィルム全体として高い絶縁破壊強度を実現でき、かつ、透明性および平坦性に加えて、所望により接着性/粘着性を実現できる。このため、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、は、電子材料、表示装置用部材またはトランスデューサー用部材(センサー、スピーカー、アクチュエーター、およびジェネレーター用を含む)として有用であり、特に接着剤/粘着剤フィルム、電気活性フィルム(高誘電性フィルムを含む)として、電子部品または表示装置の部材として好適に使用可能である。特に、透明な接着剤フィルムまたは電気活性フィルムは、表示パネルまたはディスプレイ用の部材として好適であり、画面を指先等で接触することにより機器、特に電子機器を操作可能な所謂タッチパネル用途に特に有用である。同様に、絶縁破壊強度の高い電気活性フィルムは、単層または積層フィルムの形態としてアクチュエーター等のトランスデューサー用部材に好適であり、高電圧下で起動するアクチュエーター用途に特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムの用途としては、上記に開示した他に何ら制約はなく、テレビ受像機、コンピューター用モニター、携帯情報端末用モニター、監視用モニター、ビデオカメラ、デジタルカメラ、携帯電話、携帯情報端末、自動車などの計器盤用ディスプレイ、種々の設備・装置・機器の計器盤用ディスプレイ、自動券売機、現金自動預け払い機、など、文字や記号、画像を表示するための種々のフラットパネルディスプレイ(FPD)に使用することができる。装置としては、CRTディスプレイ、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、無機ELディスプレイ、LEDディスプレイ、表面電解ディスプレイ(SED)、電界放出型ディスプレイ(FED)などの表示装置や、これらを利用したタッチパネルに応用が可能である。同様に、本発明のオルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、絶縁破壊強度を含む電気的特性および機械的特性に優れたフィルム状またはシート状部材であり、必要に応じて高い比誘電率および機械的強度(具体的には、引っ張り強度、引き裂き強度、伸び率等)を有する。このため、当該オルガノポリシロキサン硬化物フィルムは、電子材料、表示装置用部材またはトランスデューサー用部材(センサー、スピーカー、アクチュエータ、およびジェネレーター用を含む)として使用でき、特に、トランスデューサーを構成する電気活性フィルム(誘電層または電極層)として好適に利用できる。その具体的な使用方法は、誘電層または感圧接着層の公知の使用方法を特に制限なく用いることができる。
【実施例
【0108】
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらによって限定されるものではない。以下に示す実施例および比較例では下記の化合物を用いた。
【0109】
・成分(a1):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(ビニル基含有量:0.23質量%、シロキサン重合度:335)
・成分(a2):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、3,3,3-トリフルオロプロピルメチル、ジメチルシロキサンコポリマー(ビニル基含有量:0.16質量%、シロキサン重合度:306)
・成分(a3):両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖、3,3,3-トリフルオロプロピルメチル、ジメチルシロキサンコポリマー(ビニル基含有量:0.50質量%、シロキサン重合度:107)
・成分(b1):ヘキサメチルジシラザンで処理したヒュームドシリカ(処理前の製品名:アエロジル200)
・成分(b2):ヘキサメチルジシラザンと1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンで処理したヒュームドシリカ(処理前の製品名:アエロジル200)
・成分(b3):ヘキサメチルジシラザンで処理したヒュームドシリカ(処理前の製品名:アエロジル50)
・成分(b4):ヘキサメチルジシラザンと1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンで処理したヒュームドシリカ(処理前の製品名:アエロジル50)
・成分(c1):ヘキサメチルジシラザンと1,3-ビス(3,3,3-トリフルオロプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシラザンで処理したチタニアとシリカ複合酸化物(処理前の製品名:VPTiO2 1580S)
・成分(d1):両末端トリメチルシロキシ基封鎖、ジメチルシロキシ-メチルヒドロシロキシ-シロキサンコポリマー(ケイ素結合水含有量:0.70質量%)
・成分(d2):両末端ジメチルヒドロシロキシ基封鎖、ジメチルシロキサンポリマー(ケイ素結合水含有量:0.02質量%)
・成分(d3):ジメチルヒドロシロキシユニット(M単位)と3,3,3-トリフルオロプロピル基を有するTF3Pr単位(3官能シロキシ単位)で構成されるシロキサン(Mw=1.11×10、ケイ素原子結合水素原子は約0.59重量%である。)
なお、成分(d3)の重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒に用いて、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
・成分(e1):白金-1,3-ジビニル1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体の両末端ビニルジメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサンポリマー溶液(白金濃度で約0.6重量%)
・成分(e2):球状の白金触媒含有熱可塑性樹脂微粒子(アクリル樹脂微粒子、白金含有量0.16質量%)

<ヒドロシリル化反応抑制剤>
・成分(f1):1-エチニル-1-シクロヘキサノール
・成分(f2):1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニル-シクロテトラシロキサン
【0110】
[実施例1~6、比較例1~2]
表1(実施例1~6)および表2(比較例1~2)に、各実験例の組成を示した。各成分に対応する数値は質量%であり、その総和は100質量%である。また、以下の実施例では組成物中のビニル基1モル当たり、架橋剤である成分(d)のケイ素原子結合水素原子(Si-H)が1.2モルとなる範囲の量で用いた。さらに、表1および表2に以下の方法で測定した硬化前または硬化後の物性を示した。
【0111】
[組成物の硬化前の粘度]
各組成物の硬化前粘度は、粘弾性測定装置(アントンパール社製、型番MCR102)を使用して測定した。直径20mm、2°のコーン-プレートを用い、シェアレートを変えて測定を行った。25℃、シェアレート0.1(s-1)および10.0(s-1)で測定した組成物の全体粘度を各々記録した。
【0112】
[硬化物の機械物性測定]
各組成物を110℃もしくは150℃で15分間プレスキュアし、更に110℃もしくは150℃で60分間オーブン中ポストキュアを施し、硬化物を得た。JIS-K6249に基づき、得られた硬化物の引裂強さを測定し、また引張強さおよび破断伸びを測定した。なお、機械的強度の測定のため、シートの厚さは2mmとした。また、厚さ6mmシートのデュロメータA硬度を測定した。
【0113】
[硬化物の比誘電率測定]
同様に、厚さ1mmのシートを作製し、LCRメーター ウェインカー社製6530P/D2で室温、周波数20Hz~1MHzの範囲で比誘電率を測定した。実施例1~4および比較例1における硬化物シートの100KHzでの比誘電率の値は3であった。また、実施例5~6および比較例2の比誘電率の値は5であった。
【0114】
[硬化物の絶縁破壊強さ測定]
各組成物を、コーターを用いて薄膜化し、上記条件にて硬化させることで厚さ0.1mmのシートを作製した。得られたシートを用いて、電気絶縁油破壊電圧試験装置 総研電気株式会社製PORTATEST 100A-2で絶縁破壊強さを測定した。各硬化物シートサンプルに関して、20箇所測定し、中間値を絶縁破壊強さとした。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
[総括]
本発明にかかる、有機ケイ素化合物による表面処理を施し、2種のBET比表面積の異なった補強性充填材(フィラー)を併用した実施例1~8においては、硬化前の粘度が十分低く、フィルム形成用硬化性オルガノポリシロキサン組成物としての取扱作業性に優れるとともに、物理的性質に優れ、かつ、高い絶縁破壊強度を有する硬化物フィルムを形成した。一方、補強性充填材(フィラー)を単独使用した比較例1、2においては、硬化前の粘度が高すぎて取り扱い作業性に劣ったり、得られる硬化物フィルムの絶縁破壊強度等の性質に劣るものであった。