(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】硬化性シリコーン組成物、前記組成物からなる剥離コーティング剤、前記剥離コーティング剤を用いた剥離フィルム、並びに前記剥離フィルムを含む積層体
(51)【国際特許分類】
C08L 83/08 20060101AFI20231013BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231013BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20231013BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231013BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231013BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20231013BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231013BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20231013BHJP
C09J 183/04 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C08L83/08
B32B27/00 L
B32B27/00 101
C08L83/05
C09D7/20
C09D7/61
C09D183/04
C09J7/38
C09J7/40
C09J183/04
(21)【出願番号】P 2020562496
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2019051410
(87)【国際公開番号】W WO2020138417
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2018245682
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】須藤 通孝
(72)【発明者】
【氏名】大川 直
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 哲
(72)【発明者】
【氏名】田中 英文
(72)【発明者】
【氏名】古川 晴彦
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152992(WO,A1)
【文献】特開2007-211186(JP,A)
【文献】特表2013-510921(JP,A)
【文献】特表2017-505361(JP,A)
【文献】特開平06-145527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
B32B 27/00
C09D 7/20
C09D 7/61
C09D 183/04
C09J 7/38
C09J 7/40
C09J 183/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)以下の(A1)成分及び(A2)成分を1/99~99/1の質量比で混合したフッ素含有オルガノポリシロキサン混合物:
(A1)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有する、フルオロ(ポリ)エーテル変性オルガノポリシロキサン、
(A2)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、C
4F
9-CH
2CH
2-で表されるフルオロアルキル基を有する、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)一分子中にケイ素原子結合水素原子を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサン、
(C)ヒドロシリル化反応用触媒、並びに
(D)有機溶媒を含
み、
(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比が0.1~20(ケイ素原子結合水素原子/アルケニル基)の範囲内となる量である、硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
(A)成分が、(A1)成分及び(A2)成分を2/98~45/55の質量比で含む、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
(B)成分が、炭素数1~12のフルオロアルキル基又はフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有するオルガノポリシロキサンである、請求項1又は2に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
(D)成分が、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジ-sec-ブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、エチル-tert-ブチルエーテル、ペンタン、m-キシレンヘキサフロライド、メチルヘプタフルオロプロピルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、及び3-メトキシ-1,1,1,2,2,3,4,4,5,5,6,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群から選択される1種の溶媒又は2種以上の溶媒からなる混合溶媒である、請求項1から3のいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
(E)ヒドロシリル化反応制御剤をさらに含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤。
【請求項7】
シリコーン粘着剤用である、請求項6に記載の剥離コーティング剤。
【請求項8】
フィルム状基材、及び
請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させて得られる硬化物からなる剥離層を含む剥離フィルム。
【請求項9】
前記フィルム状基材が、プラスチックフィルムである、請求項8に記載の剥離フィルム。
【請求項10】
前記フィルム状基材が光透過性である、請求項8又は9に記載の剥離フィルム。
【請求項11】
前記剥離層の厚みが、0.5μm以下である、請求項8から10のいずれか一項に記載の剥離フィルム。
【請求項12】
シリコーン粘着剤用である、請求項8から11のいずれか一項に記載の剥離フィルム。
【請求項13】
シリコーン粘着剤層が少なくとも1つの剥離層と対向して配置された構造を備えた積層体であって、当該剥離層が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層である、積層体。
【請求項14】
第1の基材、
前記第1の基材上の剥離層、
前記剥離層上のシリコーン粘着剤層、及び
前記シリコーン粘着剤層上の第2の基材
からなり、前記剥離層が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層である、積層体。
【請求項15】
基材、
前記基材上の剥離層、及び
前記の剥離層上のシリコーン粘着剤層
からなる構造単位が2つ以上連続して積み重なった構造を少なくとも1つ含み、前記の剥離層が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層である、積層体。
【請求項16】
第1の基材、
前記第1の基材上の第1の剥離層、
前記第1の剥離層上のシリコーン粘着剤層、
前記シリコーン粘着剤層上の第2の剥離層、及び
前記第2の剥離層上の第2の基材
からなり、前記第1の剥離層及び前記第2の剥離層の少なくとも一方が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層である、積層体。
【請求項17】
基材、
前記基材上の第1の剥離層、
前記第1の剥離層上のシリコーン粘着剤層、及び
前記シリコーン粘着剤層上の第2の剥離層
からなる構造単位が2つ以上連続して積み重なった構造を少なくとも1つ含み、前記第1の剥離層及び前記第2の剥離層の少なくとも一方が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層である、積層体。
【請求項18】
前記基材がフィルム状基材である、請求項14から17のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項19】
シリコーン粘着剤層に対して、その両面のうち一方の面に対向して第1の剥離層が配置され、他方の面に対向して第2の剥離層が配置された構造を備える積層体であって、前記第1の剥離層及び第2の剥離層の少なくとも一方が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層であり、かつ
第1の剥離層から前記シリコーン粘着剤を剥離する際の剥離力(F1)と、
第2の剥離層から前記シリコーン粘着剤を剥離する際の剥離力(F2)が異なることを特徴とする、積層体。
【請求項20】
シリコーン粘着剤層に対して、その2つの面のうち一方の面に対向して第1の剥離層が配置され、他方の面に対向して第2の剥離層が配置された構造を備える積層体であって、前記第1の剥離層及び第2の剥離層の少なくとも一方が、請求項6に記載の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層であり、かつ、
第1の剥離層を形成する剥離コーティング剤と第2の剥離層を形成する剥離コーティング剤が異なることを特徴とする、積層体。
【請求項21】
積層体全体がロール状の形状であることを特徴とする、請求項13及び請求項18から20のいずれか一項に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性シリコーン組成物、その組成物からなる剥離コーティング剤、特に、シリコーン粘着剤(感圧接着剤)のための剥離コーティング剤、その剥離コーティング剤を用いた剥離フィルム、特にシリコーン粘着剤のための剥離フィルム、並びに前記剥離フィルムを含む積層体、特に剥離フィルムとシリコーン粘着剤を含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーン粘着剤(感圧接着剤)は耐熱性、耐寒性、耐候性、耐薬品性、及び電気絶縁性等が優れることから、工業用の保護テープ、マスキングテープ等、あるいは医療用の各種機能性テープ等の粘着剤として広く使用されてきた。また、近年、液晶ディスプレイ用光学部品(表示装置、機能性フィルム、レンズ等)の貼り合わせ用等に代表される、いわゆるアセンブリ用途にも使用されている。シリコーン粘着剤は、シリコーンゴムやシリコーン系の材料がコーティングされた表面に対して強く粘着するため、アクリル系や有機ゴム系の粘着剤に使用される通常のシリコーン系剥離剤を使用することはできず、シリコーン粘着剤を容易に剥離することのできる剥離フィルムを形成するための硬化性シリコーン剥離剤組成物が種々提案されている。該組成物は、剥離コーティング剤としてプラスチックフィルムなどの可撓性基材上にコーティングされ、剥離フィルムを形成し、さらにこれをシリコーン粘着剤と貼り合わせたシート状、あるいはロール状のテープ等、積層体として使用される。
【0003】
かかる積層体から剥離フィルムを剥離して使用する際には、その作業効率を高めるとともに、剥離後のシリコーン粘着剤の表面あれ等を防ぐために、より低く安定した剥離力が求められる。
【0004】
一方、剥離フィルムから剥がしたシリコーン粘着剤の粘着力は剥離フィルムと長期に密着することで生じる粘着力の低下などの悪影響が少ないことが好ましい。
【0005】
例えば、特許文献1には、シリコーン粘着剤用剥離剤として、ケイ素原子が少なくとも300個で、ビニル基含有シロキサン単位を0.5~2モル%及びフルオロアルキル基含有シロキサン単位を30モル%有するオルガノポリシロキサン、一分子当り平均して少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子を有し、前記オルガノポリシロキサンと相溶性を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ヒドロシリル化反応用触媒、及びヒドロシリル化反応抑制剤からなる硬化性コーティング組成物が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、1分子中にケイ素に結合したアルケニル基含有有機基を少なくとも2個有し、かつ、1分子中にケイ素原子に結合した含フッ素置換基(複数のフルオロ(ポリ)エーテル基からなる群から選ばれる)を少なくとも1個含有するオルガノポリシロキサン、1分子中に少なくとも3個のケイ素原子結合水素原子を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、ヒドロシリル化反応用触媒からなるシリコーン粘着剤用剥離剤組成物が提案されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、軽剥離化の目的でアルケニル基量の異なる2種類のフロロアルキル変性ポリジメチルシロキサンを含むシリコーン粘着剤用離型剤組成物、及びそれを基材に適用して形成した剥離シートが提案されている。
【0008】
さらにまた、特許文献4には、1分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を少なくとも2個含有し、かつ、ケイ素原子に結合した2種類の含フッ素置換基としてフルオロアルキル基及びフルオロポリエーテル基をそれぞれ少なくとも1個有し、フルオロアルキル基とフルオロポリエーテル基の合計に対するフルオロポリエーテル基の含有量が1~99モル%であるオルガノポリシロキサン、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも3個有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、及び白金族金属系触媒を含有するシリコーン粘着剤用の異差剥離剤形成用シリコーン組成物が提案されている。また、その実施例において、ケイ素原子に結合した2種類の含フッ素置換基としてフルオロアルキル基及びフルオロポリエーテル基をそれぞれ少なくとも1個有するオルガノポリシロキサンを含む組成物、並びに含フッ素置換基として3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル基のみを有するオルガノポリシロキサンと含フッ素置換基としてフルオロポリエーテル基のみを有するオルガノポリシロキサンとを含む組成物を調製し、剥離性能を比較している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平2-245031号公報
【文献】特開平1-74268号公報
【文献】特開2005-60554号公報
【文献】特開2017-165893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来公知の組成物を剥離用コーティングとして用い、剥離フィルム、さらに積層体を形成した場合であっても、シリコーン粘着剤から剥離フィルムをより低い剥離力で剥離することができ、さらに、剥離フィルムを剥離した後のシリコーン粘着剤の他の基材に対する接着強度をできるだけ低下させないという課題を解決するためのさらなる改良が求められている。
【0011】
また、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル基を有するオルガノポリシロキサンとフルオロポリエーテル基のみを有するオルガノポリシロキサンとを含む組成物を使用した場合には、特許文献4に比較例として記載されているとおり、シリコーン粘着剤から剥離フィルムを剥離する際の剥離力の値が安定せず、剥離後のシリコーン粘着剤の表面が粗面化してしまうという問題があった。
【0012】
本発明の目的は、剥離層が薄層であってもそれに密着したシリコーン粘着剤(シリコーン感圧接着剤ともいわれる)から低い剥離力で剥離することができ、シリコーン粘着剤に対して安定した剥離力を有するとともに、剥離フィルムと貼り合わせなかった場合と比較して、剥離フィルムを貼り合わせた後でそれを剥離した後のシリコーン粘着剤の接着力が大きく低下することがない剥離フィルム、そのような剥離フィルムのための剥離剤、及び剥離剤として用いることができる硬化性シリコーン組成物、並びに基材、シリコーン粘着剤層、及び剥離剤層を含んでなる積層体を提供することである。なお、剥離フィルムは、一般に、プラスチックフィルムなどの可撓性基材上に剥離剤がコーティングされて形成された剥離層を有してなる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、フッ素含有オルガノポリシロキサンとして、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有する、フルオロ(ポリ)エーテル変性オルガノポリシロキサン、及び一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、C4F9-CH2CH2-で表されるフルオロアルキル基を有する、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを1/99~99/1の質量比で組み合わせて剥離剤として用いることによって、上記課題を解決できることを発見して本発明を完成した。
【0014】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、
(A)以下の(A1)成分及び(A2)成分を1/99~99/1の質量比((A1)成分/(A2)成分)で混合したフッ素含有オルガノポリシロキサン混合物:
(A1)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有する、フルオロ(ポリ)エーテル変性オルガノポリシロキサン、
(A2)一分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、C4F9-CH2CH2-で表されるフルオロアルキル基を有する、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)一分子中にケイ素原子結合水素原子を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサン、
(C)ヒドロシリル化反応用触媒、並びに
(D)有機溶媒
を含む。
【0015】
(A)成分は、(A1)成分及び(A2)成分を2/98~45/55の質量比で含むことが好ましい。
【0016】
(B)成分は、炭素数1~12のフルオロアルキル基又はフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【0017】
(D)成分は、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジ-sec-ブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、エチル-tert-ブチルエーテル、ペンタン、m-キシレンヘキサフロライド、メチルヘプタフルオロプロピルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、3-メトキシ-1,1,1,2,2,3,4,4,5,5,6,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群から選択される1種の溶媒又は2種以上の溶媒からなる混合溶媒を用いることが好ましい。
【0018】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、(E)ヒドロシリル化反応制御剤をさらに含むことが好ましい。
【0019】
本発明はさらに剥離コーティング剤を提供し、本発明の剥離コーティング剤は、上述した硬化性シリコーン組成物からなる。本発明の剥離コーティング剤はさらに添加剤を含むことができる。
【0020】
本発明の一つの態様では、上記剥離コーティング剤はシリコーン粘着剤用の剥離コーティング剤である。
【0021】
本発明は、フィルム状基材、及び
上記剥離コーティング剤を硬化させて得られる硬化物からなる剥離層
を含む剥離フィルムにも関する。
【0022】
前記基材は、プラスチックフィルムであることが好ましく、光透過性であることも好ましい。
【0023】
前記剥離層の厚みは、0.5μm以下であることが好ましい。
【0024】
本発明の一つの態様では、上記剥離フィルムはシリコーン粘着剤用の剥離フィルムである。
【0025】
本発明はさらに上記剥離コーティング剤を用いる積層体を提供する。本発明の一つの態様では、積層体は、シリコーン粘着剤層が少なくとも1つの剥離層と対向して配置された構造を備えた積層体であって、当該剥離層が、上記剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層であることを特徴とする。また、本発明の剥離フィルムはフィルム状基材と剥離層を含んでなる。また、積層体は、剥離層上に配置されたシリコーン粘着剤で構成される積層構造を含み、剥離層上における硬化反応で形成された粘着剤を備える積層体、既に形成された粘着剤への剥離層の貼り合わせによって形成される積層体をともに含む。
【発明の効果】
【0026】
本発明の硬化性シリコーン組成物を剥離コーティング剤として用いることにより、剥離層の厚さが薄くても、剥離層上に密着したシリコーン粘着剤を低剥離力で剥離層から剥離することができる剥離フィルムを形成することができる。また、本発明の剥離フィルム及び積層体は、剥離層上に配置されたシリコーン粘着剤(剥離層上における硬化反応で形成された粘着剤、既に形成された粘着剤への剥離層の貼り合わせをともに含む)を低剥離力で剥離層から安定的に剥離することができ、剥離後のシリコーン粘着剤は均一な表面を有することができる。さらに本発明の剥離層を密着させる前と比較して、剥離層を密着させてからそれを剥離した後でも、シリコーン粘着剤の粘着力を高い割合で維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の積層体の一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明の積層体の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明の積層体の一実施形態を示す断面図である。
【
図4】本発明の積層体の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
はじめに、本発明の硬化性シリコーン組成物について詳細に説明する。
【0029】
[硬化性シリコーン組成物]
本発明の硬化性シリコーン組成物は、
(A)以下の(A1)成分及び(A2)成分を1/99~99/1の質量比で混合したフッ素含有オルガノポリシロキサン混合物:
(A1)分子内に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有する、フルオロ(ポリ)エーテル変性オルガノポリシロキサン、
(A2)分子内に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、C4F9-CH2CH2-で表されるフルオロアルキル基を有する、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサン、
(B)分子内にケイ素原子結合水素原子を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサン、
(C)ヒドロシリル化反応用触媒、並びに
(D)有機溶媒
を含む。以下これらの必須成分(A)、(B)、(C)、及び(D)、並びに硬化性シリコーン組成物にさらに添加してもよい任意成分について説明する。
【0030】
[(A)成分]
(A)成分は、(A1)分子内に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有する、フルオロ(ポリ)エーテル変性オルガノポリシロキサン、及び(A2)分子内に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ、C4F9-CH2CH2-で表されるフルオロアルキル基を有する、フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを1/99~99/1の質量比で混合したフッ素含有オルガノポリシロキサン混合物である。(A)成分は、(A1)成分及び(A2)成分を1/99~99/1の質量比で含むが、(A1)成分及び(A2)成分を1.5/98.5~80/20の質量比で含むことが好ましく、2/98~70/30の質量比で含むことがより好ましく、2/98~45/55の質量比で含むことが特に好ましい。また、(A)成分は、必要に応じて、(A1)成分及び(A2)成分を1.5/98.5~45/55となる質量比で含んでもよい。(A1)成分及び(A2)成分を併用すると、(A)成分に代えて(A1)成分又は(A2)成分をそれぞれ単独で使用した場合の結果に基づいて相加平均により推定されるシリコーン粘着剤に対する剥離力よりも低い剥離力が得られる。
【0031】
(A1)成分及び(A2)成分の分子構造は限定されず、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、樹脂状、環状が例示され、好ましくは、直鎖状、又は一部分岐を有する直鎖状である。
【0032】
このような(A1)成分としては、下記平均組成式(I):
(R1
3SiO1/2)a(R1
2SiO2/2)b(R1SiO3/2)c(SiO4/2)d (I)
(式中、R1は同じか又は異なり、それぞれ独立に、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、又は炭素数2~30のフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基であり、但し、一分子中、少なくとも2個のR1はアルケニル基であり、少なくとも1個はフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基であり、aは正数、bは正数、cは0又は正数、dは0又は正数である)
で表されるオルガノポリシロキサンであることが好ましい。また、上記式(I)におけるa~dについて、aは2以上、好ましくは2~6の整数、bは1以上、好ましくは、1~5,000の整数、さらに好ましくは、30~3,000の整数であり、cは0又は正数、dは0又は正数である。シロキサン重合度が前記の範囲の下限未満では、当該成分を用いて得られる硬化性シリコーン組成物を剥離コーティング剤として用いたときに、剥離層の形成が困難になる場合があり、シロキサン重合度が前記の範囲の上限を超えると、得られる硬化性シリコーン組成物の塗工性(特に薄膜塗布性)が低下する場合がある。なお、式(I)において、R1は、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の水酸基やアルコキシ基であってもよい。
【0033】
式(I)において、R1が表しうる炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及びドデシル基が例示され、メチル基が好ましい。
【0034】
式(I)において、R1が表しうる炭素数2~12のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、及びドデセニル基が例示され、ビニル基、又はヘキセニル基であることが好ましく、ビニル基が特に好ましい。なお、式(I)中、少なくとも2個のR1はアルケニル基であり、当該アルケニル基のビニル基換算の含有量はそれを用いて硬化可能な組成物を構成できればよく、特に限定されないが、2.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましい。これはアルケニル基の含有量が必要以上に多くなると、本発明の硬化性シリコーン組成物を剥離コーティング剤として用いてシリコーン粘着剤用剥離層を形成した場合に、シリコーン粘着剤層からの剥離層の剥離力が高くなる場合があるためである。なお、ビニル基換算の含有量とは、ビニル基以外のアルケニル基を等モルのビニル基の質量に置き換えて計算した含有量を意味する。
【0035】
式(I)において、R1が表しうる炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、及びキシリル基が例示され、フェニル基が好ましい。
【0036】
式(I)において、R1が表しうる炭素数7~12のアラルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基が例示される。
【0037】
式(I)において、R1のフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基としては、以下の式(1)で表される基が例示される。
式(1): F(CF2O)a1(CF2CF2O)a2(CF2CH2O)a3[CF(CF3)CF2O]a4[CF(CF3)CH2O]a5(CF2CF2CF2O)a6(CF2CF2CH2O)a7(CF(CF3))a8(CF2)a9(CH2)a10-O-[CF(CF3)]a11(CF2)a12(CH2)a13-
(式中、a1~a13は0以上の整数である。ただし、a1~a9の少なくとも一つは1以上の整数である。a1~a10の合計は21以下であることが好ましく、a11~a13の合計は6以下であることが好ましい。また、(CF2O)a1(CF2CF2O)a2(CF2CH2O)a3[CF(CF3)CF2O]a4[CF(CF3)CH2O]a5(CF2CF2CF2O)a6(CF2CF2CH2O)a7[CF(CF3)]a8(CF2)a9(CH2)a10の中の繰り返し単位、及び(CH(CF3))a11(CF2)a12(CH2)a13の中の繰り返し単位はそれぞれランダムに結合されていてもよい。)
【0038】
かかるR1のフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基としては、さらに以下の式(2)、(3)、又は(4)のいずれかで表される基であることがより好ましい。
式(2): F[CF(CF3)CF2O]b1[CF(CF3)CH2O]b2-[CF(CF3)]b3(CF2)b4(CH2)b5-
(式中、b1~b5はそれぞれ0以上の整数であり、b1+b2は1以上の整数であり、b3+b4+b5は0以上の整数である。b1+b2は21以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。b3+b4+b5は6以下であることが好ましい。また、(CF(CF3))b3(CF2)b4(CH2)b5の中の繰り返し単位はそれぞれランダムに結合されていてもよい。)
式(3): F(CF2CF2CF2O)c1(CF2CF2CH2O)c2-[CF(CF3)]c3(CF2)c4(CH2)c5-
(式中、c1~c5は0以上の整数であり、c1+c2は1以上の整数であり、c3+c4+c5は0以上の整数である。c1+c2は21以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましく、6以下であることがさらに好ましい。c3+c4+c5は6以下であることが好ましい。また、(CF(CF3))c3(CF2)c4(CH2)c5の中の繰り返し単位はそれぞれランダムに結合されていてもよい。)
式(4): F(CF2)d1(CH2)d2-O-(CH2)d3-
(式中、d1及びd2はそれぞれ1以上の整数であり、d3は0以上の整数である。d1は10以下が好ましく、d2及びd3はそれぞれ6以下が好ましい。)
【0039】
特に好ましいフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基としては、以下の基が例示される。
F[CF(CF3)CF2O]nCF(CF3)CF2O(CH2)3-
F[CF(CF3)CF2O]nCF(CF3)CH2O(CH2)3-
F[CF(CF3)CF2O]n+1CF(CF3)(CH2)2-
F(CF2)m(CH2)2O(CH2)3-
上記各式において、nは1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~5であることが最も好ましい。またmは1~6であることが好ましい。
【0040】
また、ケイ素原子に少量の下記フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基が結合していてもよい。
F[CF(CF3)CF2O]oCF(CF3)CF2O-
F[CF(CF3)CF2O]oCF(CF3)CH2O-
F(CF2)p(CH2)2O-
上記式において、oは1~20であることが好ましく、1~10であることがより好ましく、1~5であることが最も好ましい。またpは1~6であることが好ましい。
【0041】
式(I)のオルガノポリシロキサンが一分子当たり2個以上のフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基を有する場合、それらは同一であっても互いに異なっていてもよい。
【0042】
成分(A1)の具体例としては以下に挙げるフルオロ(ポリ)エーテル基含有オルガノポリシロキサンが例示されるが、これらに限定されない。以下の式中、Me、及びViは、それぞれ、メチル基、及びビニル基を表し、F1a、F1b、F1c、F1d、及びF1eは、それぞれ以下で示す基を表す。
F1a: CF3CF2CF2O-CF(CF3)CH2O(CH2)3-
F1b: F[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)CH2O(CH2)3-
F1c: F[CF(CF3)CF2O]3CF(CF3)CH2O(CH2)3-
F1d: F[CF(CF3)CF2O]5CF(CF3)CH2O(CH2)3-
F1e: F[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)CF2O(CH2)3-
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)240(Me(F1a)SiO2/2)120
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)245(Me(F1b)SiO2/2)120
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)240(Me(F1b)SiO2/2)120(MeViSiO2/2)3
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)240(Me(F1b)SiO2/2)120(MeViSiO2/2)6
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)660(Me(F1b)SiO2/2)330(MeViSiO2/2)6
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)300(Me(F1c)SiO2/2)100(MeViSiO2/2)3
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)240(Me(F1d)SiO2/2)120(MeViSiO2/2)3
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)245(Me(F1e)SiO2/2)120
で表されるオルガノポリシロキサン。
【0043】
これらのポリシロキサンは従来公知の方法で製造できる。例えば特公平4-28273号公報で提案された方法でフルオロ(ポリ)エーテル基を有するジクロロシランを製造し、特開平3-197484号公報で提案された方法でジクロロシランの塩素原子をジメチルシロキシ基で置換しフルオロ(ポリ)エーテル基を有するビス(ヒドリドシロキシ)シランを製造し、特開平6-321968号公報で提案された方法を用いて分子内で脱水素縮合することによりフルオロ(ポリ)エーテル基で置換されたシクロトリシロキサンを製造し、これを特開昭64-74268号公報で開示された方法でビニル基含有シロキサンと平衡重合することにより、又は、特開平11-246772号公報で提案された方法で非平衡重合することにより製造することができる。
【0044】
また、本発明の(A1)成分として使用されるアルケニル官能性フルオロ(ポリ)エーテル変性オルガノポリシロキサンはケイ素原子結合水素原子含有ポリシロキサンに化学量論量以下のフルオロ(ポリ)エーテル基含有アルケニルエーテルをヒドロシリル化反応させてフルオロ(ポリ)エーテル基を導入した後、未反応の残留ケイ素原子結合水素原子に対して大過剰のアセチレン又は1,5-ヘキサジエン、1,3-ブタジエン等の末端ジエン類をヒドロシリル化反応させることによっても製造でき、下記のポリシロキサンが例示される。
【0045】
本方法で製造される成分(A1)の具体例としては以下に挙げるフルオロ(ポリ)エーテル基含有オルガノポリシロキサンが例示されるが、これらに限定されない。以下の式中、Me、Vi、及びHexは、それぞれ、メチル基、ビニル基、及びn-ヘキセニル基を表し、F1b、F1f、及びF1gは、それぞれ以下で示す基を表す。
【0046】
F1b: F[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)CH2O(CH2)3-
F1f: F[CF(CF3)CF2O]3CF(CF3)CH2O(CH2)3-、
及びF[CF(CF3)CF2O]4CF(CF3)CH2O(CH2)3-を、
1:1のモル比で含む
F1g: F[CF(CF3)CF2O]10CF(CF3)CH2O(CH2)3-
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)200(Me(F1b)SiO2/2)100(MeHexSiO2/2)4
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)250(Me(F1f)SiO2/2)110(MeHexSiO2/2)4
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)190(Me(F1g)SiO2/2)30(MeHexSiO2/2)2
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)230(Me(F1g)SiO2/2)35(MeHexSiO2/2)4
で表されるオルガノポリシロキサン。
【0047】
なお、一分子中、フルオロ(ポリ)エーテル含有有機基によるフッ素原子の含有量は30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることより好ましく、40質量%であることがさらに好ましい。これは、(A1)成分中のフッ素原子の含有量が30質量%以上であると、本硬化性シリコーン組成物を架橋して得られる剥離性皮膜がシリコーン粘着剤に対して良好な剥離力を示すようになるからである。なお、(A1)成分中のフッ素原子の含有量の上限は特に限定されないが、あまり高くなると(A1)成分自体の溶剤への溶解性が低くなり、取扱作業性が低下することから、多くとも60質量%であり、多くとも55質量%であることが好ましい。
【0048】
また、(A2)成分としては、平均組成式(II):
(R2
3SiO1/2)w(R2
2SiO2/2)x(R2SiO3/2)y(SiO4/2)z (II)
(式中、R2は同じか又は異なり、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアルケニル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、又はC4F9-CH2CH2-で表されるフルオロアルキル基であり、一分子中、少なくとも2個のR2はアルケニル基であり、少なくとも1個のR2はC4F9-CH2CH2-で表されるフルオロアルキル基であり、wは正数、xは正数、yは0又は正数、zは0又は正数である)
で表されるオルガノポリシロキサンが例示される。
【0049】
上記式(II)におけるw~zについて、wは2以上、好ましくは2~6の整数、xは1以上、好ましくは、1~5,000の整数、さらに好ましくは、30~4,000の整数であり、yは0又は正数、zは0又は正数である。シロキサン重合度が前記の範囲の下限未満では、当該成分を用いて得られる硬化性シリコーン組成物を剥離コーティング剤として用いたときに、剥離層の形成が困難になる場合があり、シロキサン重合度が前記の範囲の上限を超えると、得られる硬化性シリコーン組成物の塗工性(特に薄膜塗布性)が低下する場合がある。
【0050】
R2のアルキル基、アルケニル基、アリール基、及びアラルキル基としては、R1として挙げられた基と同様の基を例示することができる。
【0051】
R2のフルオロアルキル基はC4F9-CH2CH2-で表され、すなわち(A2)成分は、R2として一分子当たり少なくとも1個の3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基を有する。
【0052】
このような(A2)成分としては、以下のオルガノポリシロキサンが例示される。なお、以下の式中、Me、Vi、Hex、及びF2aはそれぞれ、メチル基、ビニル基、n-ヘキセニル基、及び3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基を表す。
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)750(Me(F2a)SiO2/2)750(MeViSiO2/2)20
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)440(Me(F2a)SiO2/2)330(MeViSiO2/2)10
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)440(Me(F2a)SiO2/2)330(MeHexSiO2/2)10
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)1450(Me(F2a)SiO2/2)1100(MeViSiO2/2)8
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)1450(Me(F2a)SiO2/2)1100(MeViSiO2/2)10
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)1250(Me(F2a)SiO2/2)1250(MeViSiO2/2)10
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)900(Me(F2a)SiO2/2)450(MeViSiO2/2)10
で表されるオルガノポリシロキサン。
これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
なお、一分子中、フルオロアルキル含有有機基によるフッ素原子の含有量は30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることより好ましく、40質量%であることがさらに好ましい。これは、(A2)成分中のフッ素原子の含有量が30質量%以上であると、本硬化性シリコーン組成物を架橋して得られる剥離性皮膜がシリコーン粘着剤に対して良好な剥離力を示すようになるからである。なお、(A2)成分中のフッ素原子の含有量の上限は特に限定されないが、あまり高くなると(A2)成分自体の溶溶剤への溶解性が低くなり、取扱作業性が低下することから、多くとも60質量%であり、多くとも55質量%であることが好ましい。
【0054】
(A1)成分と(A2)成分は、それらを無溶媒で混合したときに25℃において完全に相溶することがないものの組み合わせであることが好ましい。「無溶媒で混合したときに25℃において完全に相溶することがない」の意味は、2種類以上のフッ素含有オルガノポリシロキサン混合物を質量比1:1で、蓋つきの透明なガラス製バイアル瓶に入れ、25℃において十分に撹拌した直後及び24時間後に目視によって観察したときに混合物が白濁、もしくは2相に分離し、均一かつ透明な液体の状態を呈しないことをいう。なお、フッ素含有オルガノポリシロキサンが25℃でガム状又はペースト状等の液状以外である場合には、混合物が液状になる温度まで加熱し、充分に撹拌した後に25℃まで冷却した直後及び24時間後に目視によって観察したときに混合物が白濁、もしくは2相に分離し、均一かつ透明な液体の状態を呈しないことをいう。
【0055】
また、(A2)成分は、1種のフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを用いることも、あるいは平均組成式が異なる2種以上のフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンの混合物を用いることもできる。この場合、2種以上のフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンは無溶媒で混合したときに25℃において互いに相溶性があるものでも、相容性がないものでもよい。
【0056】
[(B)成分]
(B)成分は一分子中にケイ素原子結合水素原子(Si-H)を少なくとも3個有するオルガノポリシロキサンであり、(A)成分との間でヒドロシリル化反応による付加反応をして本発明の組成物を硬化させる成分である。
【0057】
(B)成分中のケイ素原子に結合する水素原子以外の基としては、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、及び炭素数2~100のフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基が例示される。なお、(B)成分中のケイ素原子には、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の水酸基やアルコキシ基が結合していてもよい。
【0058】
(B)成分の分子構造は限定されず、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、樹脂状、環状が例示され、好ましくは、直鎖状、又は一部分岐を有する直鎖状である。
【0059】
このような(B)成分としては、下記平均組成式(III):
(R3
3SiO1/2)aa(R3
2SiO2/2)ab(R3SiO3/2)ac(SiO4/2)ad (III)
で表されるオルガノポリシロキサンが例示される。
【0060】
式(III)中、R3は同じか又は異なり、独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数1~12のフルオロアルキル基、又はフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基であり、但し、R3のうち少なくとも3個は水素原子である。また、aaは正数、abは正数、acは0又は正数、及びadは0又は正数である。ただし、aaを2とした場合に、aa~adの合計は、好ましくは、5~200の範囲内であり、その下限が10、あるいは15であり、一方、その上限が150、120、100、80、70、60、50、又は40であるような任意の上限及び下限の組み合わせの範囲内である。これは、aaを2とした場合に、aa~adの合計が上記範囲の下限以上であると、本組成物の架橋が十分に進行するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、本組成物の取扱作業性が良好であるからである。
【0061】
R3が表しうる炭素数1~12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及びドデシル基が例示され、メチル基が好ましい。
【0062】
また、R3が表しうる炭素数6~12のアリール基としては、フェニル基、トリル基、及びキシリル基が例示され、フェニル基が好ましい。
【0063】
また、R3が表しうる炭素数7~12のアラルキル基としては、ベンジル基及びフェニルエチル基が例示される。
【0064】
さらに、R3が表しうる炭素数1~12のフルオロアルキル基としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロペンチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-ウンデカフルオロヘプチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル基、及び3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9-ペンタデカフルオロノニル基が例示され、3,3,4,4,5,5,5-ヘプタフルオロペンチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,7-ウンデカフルオロヘプチル基、及び3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチル基から選択される基が好ましく、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基が特に好ましい。
【0065】
また、R3が表しうるフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基としては、前記R1で例示したフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基が好ましく用いられる。
【0066】
本発明の(B)成分は、フルオロアルキル基及びフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基から選択される基を有していてもよいが、有していなくてもよい。(B)成分としてフッ素原子含有基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用しなくても、上述した(A)成分と組み合わせることによって、本発明の組成物をコーティング剤として用いて硬化したときに、優れた剥離性、特にシリコーン粘着剤に対する優れた剥離性を有する剥離層が得られる。(B)成分としては、上記平均組成式(III)で表され、R3が、水素原子、アルキル基(特にメチル基)、及び、フルオロアルキル基及び/又はフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基の組み合わせであるオルガノポリハイドロジェンンシロキサンが特に好ましい。
【0067】
本発明の(B)成分がフルオロアルキル基及びフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基からなる群から選択される基を有する場合、分子内のフルオロアルキル基及び/又はフルオロ(ポリ)エーテル含有有機基に由来するフッ素原子の含有量は特に限定されないが、好ましくは、少なくとも20質量%、少なくとも25質量%、少なくとも30質量%、あるいは少なくとも35質量%である。また、(B)成分中のフッ素原子の含有量の上限は、多くとも60質量%、あるいは多くとも50質量%であることが好ましい。
【0068】
(B)成分の具体例としては以下に挙げるオルガノポリシロキサンが例示されるが、これらに限定されない。以下の式中、Me、F2a及びF1bはそれぞれ、メチル基、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基、及び下記式:
F[CF(CF3)CF2O]2CF(CF3)CH2O-(CH2)3-
で示す基を表す。
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me(F2aSiO2/2)12(MeHSiO2/2)27
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)55(Me(F1bSiO2/2)25(MeHSiO2/2)25
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(MeHSiO2/2)50
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)30(MeHSiO2/2)30
で表されるオルガノポリシロキサン、
平均組成式:
(Me2HSiO1/2)2(Me2SiO2/2)30(MeHSiO2/2)30
で表されるオルガノポリシロキサン。
これらから選択される1種又は2種以上を組み合わせて(B)成分として用いることができる。
【0069】
本発明の硬化性シリコーン組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分中のアルケニル基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比が0.1~20(ケイ素原子結合水素原子/アルケニル基)の範囲内となる量であり、好ましくは、その下限が0.5、0.8、又は1であり、一方、その上限が18、17、16、15、14、13、又は12であるような任意の上限及び下限の組み合わせの範囲内である。これは、(B)成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、本硬化性シリコーン組成物の架橋が十分に進行するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られる剥離性皮膜の特性を安定させうるからである。
【0070】
[(C)成分]
(C)成分は、本硬化性シリコーン組成物のヒドロシリル化反応による硬化を促進するヒドロシリル化反応用触媒であり、白金系触媒、ロジウム系触媒、及びパラジウム系触媒が例示され、好ましくは、白金系触媒である。この白金系触媒としては、白金微粉末、白金黒、白金担持シリカ微粉末、白金担持活性炭、塩化白金酸、及び塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、並びに白金のアルケニルシロキサン錯体が例示される。
【0071】
(C)成分の含有量は、本硬化性シリコーン組成物の硬化を促進する量であり、具体的には、本硬化性シリコーン組成物に対して、この触媒中の金属原子、好ましくは白金原子が質量単位で0.1~1,000ppmの範囲内となる量である。これは、(C)成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、得られる硬化性シリコーン組成物の硬化が十分に進行するからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、得られる硬化物が着色し難くなるからである。
【0072】
[(D)成分]
(D)成分は(A)成分であるフッ素含有オルガノポリシロキサン混合物を均一に相溶させるとともに、組成物全体を相溶させることができる任意の有機溶媒である。ここで「相溶」させるとは、25℃において外観に濁りが認められず、均一かつ透明な液体を与えることをいう。
【0073】
また、有機溶媒を添加することにより、硬化性シリコーン組成物の粘度を低下させ、塗布作業性や基材に対する濡れ性を改善することができる。
【0074】
(D)成分として、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジ-sec-ブチルエーテル、ジ-tert-ブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、エチル-tert-ブチルエーテル、ペンタン、m-キシレンヘキサフルオライド、メチルヘプタフルオロプロピルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、及び3-メトキシ-1,1,1,2,2,3,4,4,5,5,6,6,6-トリデカフルオロヘキサンからなる群から選択される1種の溶媒又は2種以上の溶媒からなる混合溶媒であることが好ましい。
【0075】
硬化性シリコーン組成物の外観をその組成物を調製してから使用するまでの間25℃において透明かつ均一に保つことができることを条件として、上述した有機溶媒に加えて、その他の有機溶媒をさらに用いてもよい。そのような追加の有機溶媒は特に限定されず、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、工業用ガソリン(ゴム揮発油等)、石油ベンジン、ソルベントナフサ等の炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤;2-メトキシエチルアセタート、2-エトキシエチルアセタート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、2-ブトキシエチルアセタートなどのエステルとエーテル部分を有する溶剤;ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、テトラキス(トリメチルシロキシ)シランなどのシロキサン系溶剤;前記m-キシレンヘキサフルオライド、メチルヘプタフルオロプロピルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、及び3-メトキシ-1,1,1,2,2,3,4,4,5,5,6,6,6-トリデカフルオロヘキサン以外のフッ素変性溶媒、例えばベンゾトリフロライドなどのフッ素変性芳香族炭化水素系溶剤、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフランなどのフッ素変性エーテル系溶剤、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなどのフッ素変性アルキルアミン系溶剤、
及びこれらから選択される二種以上の混合溶剤が例示される。
【0076】
(D)成分の含有量は、本硬化性シリコーン組成物全体を均一に相溶させるために必要な量であり、(A)成分100質量部に対して10,000質量部以下であり、20~5,000質量部の範囲内であることが好ましい。
【0077】
[(E)成分]
本硬化性シリコーン組成物には、その架橋反応を制御するため、(E)ヒドロシリル化反応制御剤を含有してもよい。(E)成分としては、1-エチニルシクロヘキサン-1-オール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、2-フェニル-3-ブチン-2-オール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシロキサンオリゴマー;ジメチルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、メチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン等のアルキンオキシシラン;メチルトリス(1-メチル-1-フェニル-プロピンオキシ)シラン、ジメチルビス(1-メチル-1-フェニル-プロピンオキシ)シラン、メチルトリス(1,1-ジメチル-プロピンオキシ)シラン、ジメチルビス(1,1-ジメチル-プロピンオキシ)シラン等のアルキンオキシシラン化合物;その他、ベンゾトリアゾールが例示される。
【0078】
(E)成分の含有量は限定されず、本硬化性シリコーン組成物に十分なポットライフを与えることから、(E)成分を用いる場合、その量は、(A)成分100質量部に対して、0.01~5質量部の範囲内、0.05~5質量部の範囲内、あるいは、0.05~3質量部の範囲内であることが好ましい。
【0079】
[その他の添加剤]
本硬化性シリコーン組成物には、本発明の目的を達成できる範囲内で、光重合開始剤、酸化防止剤、反応性希釈剤、レベリング剤、充填剤、帯電防止剤、消泡剤、及び顔料等から選択される添加剤を用いてもよい。
【0080】
[用途]
本発明の硬化性シリコーン組成物は剥離コーティング剤として使用することが好ましく、粘着剤用の剥離コーティング剤としての使用に適している。特に、シリコーン粘着剤用の剥離コーティング剤としての使用に最も適している。
【0081】
本発明は、基材、特にフィルム状基材、及び本発明の剥離コーティング剤を硬化させて得られる硬化物からなる剥離層を含む剥離フィルムにも関する。このような剥離フィルムは、例えば本発明の硬化性シリコーン組成物をフィルム状基材に塗布し、硬化性シリコーン組成物を硬化することにより製造することができる。本発明の剥離フィルムは、特にシリコーン粘着剤用としての使用に適している。
【0082】
剥離フィルムに用いられる基材としては、紙やプラスチックフィルム、ガラス、及び金属等から選択されるフィルム状基材を使用できる。紙としては、上質紙、コート紙、アート紙、グラシン紙、ポリエチレンラミネート紙、及びクラフト紙などが挙げられる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリテトラフルオロエチレンフィルム、ポリスチレンフィルム、エチレン-酢酸ビニル共重合体フィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、及びポリフェニレンサルファイドフィルムなどが挙げられる。剥離層をその上に設ける基材はフィルム状基材でなくてもよく、任意の形状の基材を用いることができる。ガラス、例えばシート状ガラスを基材として用いる場合、その厚みや種類などについて特に制限はなく、化学強化処理などをしたものでもよい。また、ガラス繊維も基材として用いることができ、ガラス繊維は単体でも他の樹脂と複合化したものを使用してもよい。金属基材としては、アルミニウム箔、銅箔、金箔、銀箔、及びニッケル箔などが例示される。基材上に剥離層を設けた生成物を剥離フィルムとして使用する場合には、基材はプラスチックフィルムが好ましく、ポリエステルフィルムがより好ましい。特に、基材及び剥離層が共に光透過性であることが好ましい。
【0083】
剥離層の厚みは2.0μm以下、1.0μm以下、あるいは0.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらにより好ましい。また、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。これは、膜厚が上記範囲の下限以上であると、得られる剥離層の剥離力が十分に低くなるからであり、一方、上記範囲の上限以下であると、剥離層の光透過性が特に優れているからである。
【0084】
[積層体]
本発明は、少なくとも、本発明の硬化性シリコーン組成物を硬化させてなる硬化物からなる剥離層とその剥離層と対向して配置された粘着剤層、特にシリコーン粘着剤層を含む構造含む積層体にも関する。この場合、硬化性シリコーン組成物は、剥離コーティング剤ということもできる。この場合「対向」の意味は、剥離層と粘着剤層が直接接していることを意味する。したがって、一般的には、本発明において、剥離層と粘着剤層が互いに対向して配置されている。以下の説明において粘着剤としてシリコーン粘着剤を例に挙げて本発明の積層体の構成を説明するが、粘着剤はシリコーン粘着剤に限定されない。
【0085】
本発明による積層体は上述した剥離層とシリコーン粘着剤層が対向して配置された構造を含むものであればどのような構造の積層体であってもよい。具体的な積層体の例を以下に説明する。
【0086】
本発明の積層体の構成は、例えば、以下に示す(a)~(d)が挙げられる。
(a)第1の基材/剥離層/シリコーン粘着剤層/第2の基材からなる構成、
(b)基材/剥離層/シリコーン粘着剤層からなる構成単位が2つ以上連続して積み重なってなる構成、
(c)第1の基材/第1の剥離層/シリコーン粘着剤層/第2の剥離層/第2の基材からなる構成、
(d)基材/第1の剥離層/シリコーン粘着剤層/第2の剥離層からなる構成単位が2つ以上連続して積み重なってなる構成。
構成(b)及び(d)においては、基材は非連続、又は連続したものが使用でき、一般的には、非連続の場合、積層体はシート状となり、連続したものを用いた場合、積層体はロール状となる。
【0087】
前記積層体の構成(a)~(d)について、さらに詳しく説明する。
【0088】
<構成(a)について>
構成(a)の積層体は、第1の基材と、前記第1の基材上に配置された剥離層、前記剥離層上に配置されたシリコーン粘着剤層、及び前記シリコーン粘着剤層上に配置された第2の基材からなる構成を有し、前記剥離層が、本発明の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる。構成(a)の積層体は、それ自体のみならず、その構成を含む積層体の一部であることができる。構成(a)の一例の模式図を
図1に示す。
【0089】
<構成(b)について>
構成(b)の積層体は、第1の基材、前記第1の基材上に配置された第1の剥離層、及び前記第1の剥離層上に配置されたシリコーン粘着剤層からなる構成単位が2つ以上連続して積み重なってなる構成を有し、前記剥離層が本発明の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる。さらに、その構成の最外層に配置されたシリコーン粘着剤層上に、新たな基材を配置することが好ましい。構成(b)の積層体は、それ自体のみならず、その構成を含む積層体の一部であることができる。
図2に構成(b)の一例の模式図を示す。
図2中、前述した連続する構成単位は2つであり、その構成の最外層に配置されたシリコーン粘着剤層上に、新たな基材を配置している。しかし、構成(b)は
図2に示す様態に限定されない。
【0090】
<構成(c)について>
構成(c)の積層体は、第1の基材と、前記第1の基材上に配置された第1の剥離層と、前記第1の剥離層上に配置されたシリコーン粘着剤層と、前記シリコーン粘着剤層の上に配置された第2の剥離層と、前記第2の剥離層の上に配置された第2の基材からなる構成を有し、前記第1の剥離層及び前記第1の剥離層のうちの一方、又はそれら両方が本発明の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる。構成(c)の積層体は、それ自体のみならず、その構成を含む積層体の一部であることができる。構成(c)の一例の模式図を
図3に示す。
【0091】
<構成(d)について>
構成(d)は、第1の基材、前記第1の基材上に配置された第1の剥離層、前記第1の剥離層上に配置されたシリコーン粘着剤層、及び前記シリコーン粘着剤層上に配置された第2の剥離層からなる構成単位が2つ以上連続して積み重なった構成を有し、第1の剥離層及び第2の剥離層のうちの一方、又はそれら両方が本発明の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる。さらに、その構成の最外層に配置された剥離層上に、新たな基材を配置することが好ましい。構成(d)の積層体は、それ自体のみならず、その構成を含む積層体の一部であることができる。
図4に構成(d)の一例の模式図を示す。
図4中、前述した連続する構成単位は2つであり、その構成の最外層に配置された剥離層上に、新たな基材を配置している。しかし、構成(b)は
図4に示す様態に限定されない。
【0092】
上記積層体の構成(b)及び(d)において、基材が非連続の場合(シート状)、それぞれの基材、剥離層、シリコーン粘着層は、種類、厚みを含め全て同一ものであってもよく、互いに異なるものであってよい。また、前記基材が連続の場合(ロール状)、基材、シリコーン粘着層、1つもしくは2つの剥離層はそれぞれ同一となる。
【0093】
かかる基材はシート状又はフィルム状であることが好ましく、フィルム状基材であることが特に好ましく、上記剥離フィルムに用いられる基材と同様の基材を用いることができる。
また、かかる基材は光透過性、光非透過性のもの、いずれも使用でき、複数の基材を用いる場合には目的に応じて両者を任意に組み合わせてもよい。
【0094】
本発明の積層体は、ロール状の形状、例えば適切な円筒状又は筒状の芯に巻かれたロール状の形状であることが好ましい。
【0095】
本発明の積層体において、シリコーン粘着層に対して、その両面のうち一方の面に対向して第1の剥離層が配置され、他方の面に対向して第2の剥離層が配置された構成の場合、(例えば、構成(c)又は(d)が相当する)、前記第1の剥離層及び第2の剥離層の少なくとも一方が、本発明の剥離コーティング剤を硬化させてなる硬化物からなる剥離層である必要があるが、ここで、第1の剥離層から前記シリコーン粘着剤を剥離する際の剥離力(F1)と、第2の剥離層から前記シリコーン粘着剤を剥離する際の剥離力(F2)は、異なることが好ましい。
【0096】
F1とF2の剥離力差が小さい場合、シリコーン粘着剤層から一方の剥離層を剥離する操作(第1の対向面の剥離)の後、他方の剥離層を剥離する操作(第2の対向面)において、第1の対向面の剥離する際、意図せず、部分的に第2の対向面が剥離してしまい、シリコーン粘着層が破壊され粘着剤として本来意図した使用が困難にとなる場合がある。
剥離力差としては、例えば、10gf/インチ以上であることが好ましく、20gf/インチ以上であることがさらに好ましい。
【0097】
上述した剥離力差を実現する方法としては、以下で述べるような対向面の形成方法を選択する方法や、2つの剥離層の種類を異なるものにする方法などが挙げられる。
【0098】
本発明の積層体において、剥離層の厚みは、それぞれ独立に2.0μm、1.0μm、あるいは0.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以下であることがより好ましく、0.3μm以下であることがさらにより好ましい。また、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましい。これは、剥離層の膜厚が前述の範囲の下限以上であると、シリコーン粘着剤からの剥離層の剥離力が十分に低くなるからであり、一方、前述の範囲の上限以下であると、剥離層の光透過性が特に優れ、また、経済性に優れるからである。
【0099】
本発明の積層体に用いることができるシリコーン粘着剤組成物もしくは硬化性シリコーン粘着剤組成物は特定のものに限定されず、目的とする積層体の用途、例えば粘着テープとしての用途に合致した任意のものを用いることができるが、特に粘着力の比較的高い粘着剤が好ましく使用される。
【0100】
硬化性シリコーン粘着剤の硬化機構は特に限定されず、ヒドロシリル化硬化性、過酸化物硬化性、光硬化性のものなどが使用されるが、比較的低温での硬化が可能で基材や適用材料に対して熱の影響を少なくでき、その一方、工程の簡便さも含めて経済性に優れるヒドロシリル化硬化性のものが好ましく用いられる。
【0101】
かかるシリコーン粘着剤組成物としては、市販のものを用いることができる。このようなシリコーン粘着剤としては、ヒドロシリル化硬化性のダウ・東レ株式会社製のSD 4580 PSA、SD 4584 PSA、及びSD 4585 PSA等を使用することができる。また、アセンブル用途、特にOCA用途においては、低温を含めたより広い温度範囲で、高い粘着力と高い柔軟性が求められる場合があり、このために、硬化した粘着剤組成物のガラス転移温度が低く、例えば室温以下になるように組成を設計することができ、低温での貯蔵弾性率を低く抑え、十分大きな破断時伸度を有するシリコーン粘着剤を使用することが好ましい。例えば、国際公開第2017/188308号等において本出願人が提案したシリコーン粘着剤組成物が挙げられる。
【0102】
本発明の積層体のシリコーン粘着剤層の厚みは特に限定されないが、0.1~300μmであることが好ましく、0.5~200μmであることがより好ましい。
【0103】
また、本発明の積層体において、シリコーン粘着剤層を、その層が構成する面全体に形成することも、その面の一部分にのみ形成することもできる。シリコーン粘着剤層が面の一部にのみ形成される態様は特に限定されないが、例えば一又は複数の点状、一又は複数の直線又は曲線状、同心円状などの他、任意の形状を構成するようにシリコーン粘着剤が塗布されていてもよい。剥離層も、剥離層が構成する面全体に形成されていてもよいが、シリコーン粘着剤層に形成されたシリコーン粘着剤が形作る形状に合わせて、剥離層を形成してもよい。
【0104】
[積層体の製造方法]
本発明の上記積層体の製造方法は特に限定されないが、以下にいくつかの好ましい方法を挙げる。
はじめに、本発明の積層体を製造するにあたり、シリコーン粘着層と剥離層との対向面を調製する方法として以下の2つの方法が例示される。
【0105】
<シリコーン粘着層と剥離層との対向面の調製方法(1)>
対向面の第1の調製方法は、
フィルム状基材上に、本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤を塗工し硬化させることにより、第1の剥離層を備えた第1の剥離フィルムを形成する工程(1);
上記フィルム状基材と同一のフィルム状基材又は上記フィルム基材とは異なる第2のフィルム状基材上に、硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し硬化させてシリコーン粘着剤層を形成する工程(2);及び
上記工程(2)によって得られたシリコーン粘着剤層の上に、上記工程(1)によって得られた第1の剥離フィルムの剥離層を貼り合わせる工程(3)、
からなる。本調製方法は、既に硬化した剥離層と、既に硬化したシリコーン粘着剤層を接触させ、両層の対向面を形成する方法である。
【0106】
<シリコーン粘着層と剥離層との対向面の調製方法(2)>
対向面の第2の調製方法は、
フィルム状基材上に、本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤を塗工し硬化させることにより、第1の剥離層を備えた第1の剥離フィルムを形成する工程(1);
上記工程(1)によって得られた第1の剥離フィルム上に、硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し硬化させてシリコーン粘着剤層を形成する工程(2);及び
上記工程(2)によって得られたシリコーン粘着剤層の上に、上記フィルム状基材と同一のフィルム状基材又は上記フィルム基材とは異なるフィルム状基材を貼り合わせる工程(3)
からなる。本調製方法は、既に硬化した剥離層上に、硬化性シリコーン粘着剤を塗工し、硬化して、両層の対向面を形成する方法である。
一般には、第1の方法に比べて第2の方法は、シリコーン粘着剤と剥離剤との剥離力差が高い場合が多い。
【0107】
次に、上述した本発明の積層体の構成例(a)~(d)についてそれぞれ製造方法を例示する。これらの中でシリコーン粘着剤と剥離剤との対向面は、上述した対向面調製方法(1)又は(2)に該当する方法が適宜使用される。
【0108】
<構成(a)、片面単層、例えばシート状に相当>
構成(1)の製法は、上述したシリコーン粘着層と剥離層との対向面の調製方法(1)、もしくは調製方法(2)がそのまま適用できる。上記方法はシート状の積層体に関連して説明しているが、シート状の積層体に限られない。
【0109】
<構成(b)、片面複層、例えばシート状、又はロール状に相当>
構成(b)の一態様は、例えば、以下の工程(1)~(3)を含む製造方法によって製造できる。
【0110】
フィルム状基材上に、本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤を塗工し硬化させることにより、剥離層を備えた剥離フィルムを形成する工程(1)、
前記剥離フィルムの剥離層とは反対側の面に、硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し、硬化させることにより、フィルム基材上にシリコーン粘着剤層を形成する工程(2)、及び
さらにこの積層体の両端のシリコーン粘着層と剥離層とを貼り合わせる工程(3)。
上記はシート状の積層体に関するものであるが、また、工程(3)は、工程(1)及び(2)によって作成した積層体をロール形状に巻くことによっても行うことができる。工程(3)は、また工程(1)及び(2)によって作成した2つ以上の積層体を貼り合わせる工程であってもよく、ロール状の積層体を形成することもできる。ロールの最外面がシリコーン粘着剤層である場合には、そのさらに外側に剥離フィルムを積層することが好ましい。
【0111】
<構成(c)、両面単層、例えばシート状に相当>
構成(c)の一態様は、例えば、以下の工程(1)~(4)を含む製造方法によって製造できる。
本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤をフィルム状基材上に塗工し硬化させることにより、第1の剥離層を備えた第1の剥離フィルムを形成する工程(1)、
前記第1の剥離フィルムの第1の剥離層上に、硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し、硬化させることにより、第1の剥離層上にシリコーン粘着剤層を形成する工程(2)、
前記フィルム状基材と同一のフィルム状基材又は前記基材とは異なる種類の第2のフィルム状基材上に、第1の剥離層を形成するために用いたものと同一又はそれとは異なる本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤、又は本発明の剥離コーティング剤とは異なる剥離コーティング剤を塗工し、硬化させることにより、第2の剥離層を備えた第2の剥離フィルムを形成する工程(3)、及び
前記工程(2)によって得られたシリコーン粘着剤層に、前記工程(3)によって得られた第2の剥離フィルムの第2の剥離層を貼り合わせる工程(4)。
【0112】
<構成(d)、両面複層、例えばシート状、又はロール状に相当>
構成(b)の一態様は、例えば、以下の工程(1)~(4)を含む製造方法によって製造できる。
本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤をフィルム状基材上に塗工し硬化させることにより、第1の剥離層を備えた第1の剥離フィルムを形成する工程(1)
前記第1の剥離フィルムの第1の剥離層とは反対側の面に、第1の剥離層を形成するために用いたものと同一又はそれとは異なる本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤、又は本発明の剥離コーティング剤とは異なる剥離コーティング剤を塗工し、硬化させることにより、第1、及び第2の剥離層を備えた剥離フィルムを形成する工程(2)、
第1(又は第2)の剥離層上に、硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し、硬化させることにより、第1(又は第2)の剥離層上にシリコーン粘着剤層を形成する工程(3);
さらにこの積層体の両端のシリコーン粘着層と第2(又は第1)の剥離層とを貼り合わせる工程(4)。
上記はシート状の積層体に関するものであるが、工程(4)は、工程(1)、(2)、及び(3)によって作成した積層体をロール形状に巻くことによって行うことができる。工程(4)は、また工程(1)、(2)及び(3)によって作成した2つ以上の積層体を貼り合わせることにより、ロール状の積層体を形成することもできる。ロールの最外面がシリコーン粘着剤層である場合には、そのさらに外側に剥離フィルムを積層することが好ましい。
【0113】
さらに、本発明の積層体において、シリコーン粘着剤層自身を基材の両面それぞれにシリコーン粘着剤層を備えた積層体により構成することも可能である。この場合、2つのシリコーン粘着層は、同一又は異なるものが使用できる。
【0114】
かかる自身が積層構造を備えたシリコーン粘着剤層を含む積層体は、以下の工程(1)~(6)を含む方法により製造することができる。
本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤をフィルム状基材上に塗工し硬化させることにより、第1の剥離層を備えた第1の剥離フィルムを形成する工程(1);
上記フィルム状基材と同一のフィルム状基材又は上記フィルム基材とは異なるフィルム状基材上に、硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し硬化させて第1のシリコーン粘着剤層を形成する工程(2);
工程(2)によって得られた第1のシリコーン粘着剤層の上に、上記工程(1)によって得られた第1の剥離フィルムの剥離層を貼り合わせる工程(3);
前記フィルム状基材と同一のフィルム状基材又は前記基材とは異なる種類のフィルム状基材上に、第1の剥離層を形成するために用いたものと同一又はそれとは異なる本発明の硬化性シリコーン組成物からなる剥離コーティング剤、又は本発明の剥離コーティング剤とは異なる剥離コーティング剤を塗工し、硬化させることにより、第2の剥離層を備えた第2の剥離フィルムを形成する工程(4);
工程(2)でシリコーン粘着剤層を設けたのと反対側の面(基材の面)に、上記シリコーン粘着剤組成物と同一又は異なる硬化性シリコーン粘着剤組成物を塗工し硬化させて第2のシリコーン粘着剤層を形成する工程(5);
工程(5)によって得られた第2のシリコーン粘着剤層の上に、上記工程(4)によって得られた第2の剥離フィルムの剥離層を貼り合わせる工程(6)。
【0115】
上記各工程の条件は、それぞれの硬化性シリコーン組成物及び硬化性シリコーン粘着剤組成物が硬化して、所望の剥離層及び粘着剤層が形成できればよく、特に限定されない。また、当業者にはそれらの硬化性組成物の硬化条件はよく知られており、過度の試行錯誤なしに最適な条件を選択できる。
【0116】
上述した積層体の製造方法の他に、本発明の積層体は、各層を基材上に順番に作成していくこと、あるいは2つの基材上に別々に作成したパーツを貼り合わせることによって製造することができ、その方法は当業者が技術常識に基づいて容易に想到できることである。
【実施例】
【0117】
本発明の硬化性シリコーン組成物及び剥離フィルムを実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、以下で示す平均組成式中、記号Meはメチル基を表し、Viはビニル基を表す。また、剥離フィルムからシリコーン粘着剤を剥離させるときの剥離力及び剥離フィルムを剥離した後のシリコーン粘着剤の接着力保持率(残留接着率ともいう)の測定方法は以下に記載するとおりである。
【0118】
<参考例1> 「ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液1」の調製
ダウ・東レ株式会社製のヒドロシリル化硬化性の粘着剤SD 4580 PSA(固形分60質量%)100.0質量部、同社製のNC-25 CATALYST(白金金属含有ヒドロシリル化反応触媒)0.9質量部、及びトルエン 50.0質量部をよく混合して均一な溶液を調製した。
【0119】
<参考例2> 「ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液2」の調製
ダウ・ケミカル社製のヒドロシリル化硬化性の粘着剤DOWSILTM 7657ADHESIVE(固形分56質量%)100.0質量部、同社製の4000 CATALYST(白金金属含有ヒドロシリル化反応触媒)0.42質量部、及びトルエン 33.3質量部をよく混合して均一な溶液を調製した。
【0120】
<剥離力1の測定方法>
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)フィルム(東レ株式会社製、製品名:ルミラー(登録商標)S10、厚さ50μm)上に、硬化後の剥離剤層の厚さが0.2μmとなるように、硬化性シリコーン剥離剤組成物を、メイヤーバーを用いて塗布し、150℃で3分間加熱して、硬化シリコーン剥離層を有する「剥離フィルム1」を作成した。「剥離フィルム1」の剥離層上に、上記参考例の「ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液1」を、硬化後の膜厚が50μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、160℃で6分間加熱して硬化させてシリコーン粘着剤層を形成した。得られたシリコーン粘着剤層上に、2kgのハンドローラーを用いて、前記PETフィルムを貼り合わせた。得られたフィルムを1インチ幅に切断し、引張り試験機(オリエンテック社製RTC-1210)にて、「剥離フィルム1」を180°の方向に1.0m/分の速度で引張り、25℃においてシリコーン粘着剤層から「剥離フィルム1」を剥離させるのに要する力(剥離力1)を測定した。
【0121】
<残留接着率1の測定方法>
厚さ2mmのポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと略記する)板上に、上記の剥離力1測定後のPETフィルム基材とシリコーン粘着剤層からなる試験片のシリコーン粘着剤層を、2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。その後、上記引張り試験機にてシリコーン粘着剤層をPETフィルム基材とともに180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてPMMA板からシリコーン粘着剤を剥離するのに要する力(接着力F1)を測定した。
別途、前記PETフィルム上に、上記参考例1で得られた「ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液1」を、硬化後の膜厚が50μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、160℃で6分間加熱して硬化させて、シリコーン粘着剤層を形成した。このフィルムを1インチ幅に切断し、上述したものと同じPMMA板上に、そのシリコーン粘着剤層を2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。その後、前記引張り試験機にてシリコーン粘着剤層をPETフィルムとともに180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてPMMA板からシリコーン粘着剤層を剥離するのに要する力(接着力F2)を測定した。接着力F1、及び接着力F2から下記式に従い、残留接着率1を求めた。
残留接着率1(%)=(接着力F1/接着力F2)×100(%)
【0122】
<剥離力2の測定方法>
前記PETフィルム上に、硬化後の剥離剤層の厚さが0.2μmとなるように、上記のヒドロシリル化硬化性シリコーン剥離剤組成物溶液を、メイヤーバーを用いて塗布し、150℃で3分間加熱して、硬化シリコーン剥離層を有する「剥離フィルム2」を作成した。
別途、前記PETフィルム上に、前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液を、硬化後の膜厚が50μmとなるように、アプリケーターを用いて、塗布し、160℃で6分間加熱することにより硬化させた。この粘着剤層上に、前記「剥離フィルム2」を、2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。このフィルムを1インチ幅に切断し、前記引張り試験機にて「剥離フィルム2」を180°の方向に1.0m/分の速度で引っ張り、25℃においてシリコーン粘着剤層から「剥離フィルム2」を剥離させるのに要する力(剥離力2)を測定した。
【0123】
<残留接着率2の測定方法>
厚さ2mmのPMMA板上に、上記の剥離力2の測定後のPETフィルム状基材とシリコーン粘着剤層からなる試験片の粘着剤層を、2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。その後、上記引張り試験機にてシリコーン粘着剤層をPETフィルム状基材とともに180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてPMMA板からシリコーン粘着剤層を剥離するのに要する力(接着力F3)を測定した。接着力F3及び残留接着率1の測定において求めた接着力F2から下記式に従い、残留接着率2を求めた。
残留接着率2(%)=(接着力F3/接着力F2)×100(%)
【0124】
<剥離力3の測定方法>
ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する)フィルム(東レ株式会社製、製品名:ルミラー(登録商標)S10、厚さ50μm)上に、硬化後の剥離剤層の厚さが0.2μmとなるように、硬化性シリコーン剥離剤組成物を、メイヤーバーを用いて塗布し、150℃で3分間加熱して、硬化シリコーン剥離層を有する「剥離フィルム3」を作成した。「剥離フィルム3」の剥離層上に、上記参考例の「ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液2」を、硬化後の膜厚が50μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、140℃で5分間加熱して硬化させてシリコーン粘着剤層を形成した。得られたシリコーン粘着剤層上に、2kgのハンドローラーを用いて、前記PETフィルムを貼り合わせた。得られたフィルムを1インチ幅に切断し、引張り試験機(オリエンテック社製RTC-1210)にて、「剥離フィルム3」を180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてシリコーン粘着剤層から「剥離フィルム3」を剥離させるのに要する力(剥離力3)を測定した。
【0125】
<残留接着率3の測定方法>
厚さ2mmのポリメチルメタクリレート(以下、PMMAと略記する)板上に、上記の剥離力3測定後のPETフィルム基材とシリコーン粘着剤層からなる試験片のシリコーン粘着剤層を、2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。その後、上記引張り試験機にてシリコーン粘着剤層をPETフィルム基材とともに180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてPMMA板からシリコーン粘着剤を剥離するのに要する力(接着力F4)を測定した。
別途、前記PETフィルム上に、上記参考例2で得られた「ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤溶液2」を、硬化後の膜厚が50μmとなるように、アプリケーターを用いて塗布し、140℃で5分間加熱して硬化させて、シリコーン粘着剤層を形成した。このフィルムを1インチ幅に切断し、上述したものと同じPMMA板上に、そのシリコーン粘着剤層を2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。その後、前記引張り試験機にてシリコーン粘着剤層をPETフィルムとともに180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてPMMA板からシリコーン粘着剤層を剥離するのに要する力(接着力F5)を測定した。接着力F4、及び接着力F5から下記式に従い、残留接着率3を求めた。
残留接着率3(%)=(接着力F4/接着力F5)×100(%)
【0126】
<剥離力4の測定方法>
前記PETフィルム上に、硬化後の剥離剤層の厚さが0.2μmとなるように、上記のヒドロシリル化硬化性シリコーン剥離剤組成物溶液を、メイヤーバーを用いて塗布し、150℃で3分間加熱して、硬化シリコーン剥離層を有する「剥離フィルム4」を作成した。
別途、前記PETフィルム上に、前記ヒドロシリル化硬化性シリコーン粘着剤組成物溶液2を、硬化後の膜厚が50μmとなるように、アプリケーターを用いて、塗布し、140℃で5分間加熱することにより硬化させた。この粘着剤層上に、前記「剥離フィルム4」を、2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。このフィルムを1インチ幅に切断し、前記引張り試験機にて「剥離フィルム4」を180°の方向に0.3m/分の速度で引っ張り、25℃においてシリコーン粘着剤層から「剥離フィルム4」を剥離させるのに要する力(剥離力4)を測定した。
【0127】
<残留接着率4の測定方法>
厚さ2mmのPMMA板上に、上記の剥離力4の測定後のPETフィルム状基材とシリコーン粘着剤層からなる試験片の粘着剤層を、2kgのハンドローラーを用いて貼り合わせた。その後、上記引張り試験機にてシリコーン粘着剤層をPETフィルム状基材とともに180°の方向に0.3m/分の速度で引張り、25℃においてPMMA板からシリコーン粘着剤層を剥離するのに要する力(接着力F6)を測定した。接着力F6及び残留接着率3の測定において求めた接着力F5から下記式に従い、残留接着率4を求めた。
残留接着率4(%)=(接着力F6/接着力F5)×100(%)
【0128】
[実施例1~12]並びに[比較例1~3]
下記の成分を用いて、表1及び表2に示す組成で各成分を均一に混合することにより、実施例1~12並びに比較例1~3の硬化性シリコーン組成物を調製した。なお、式中、Me、Vi、Fp及びPfは、それぞれメチル基、ビニル基、F(CF(CF3)CF2O)2(CF(CF3))(CH2)O(CH2)3-基、及び3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシル基を表す。
【0129】
(A)成分として、以下の成分を用いた。
(a1)平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)245(MeFpSiO2/2)120
で表され、ビニル基の含有量が0.06質量%であり、フッ素原子の含有量が44質量%であるオルガノポリシロキサン
(a2-1)平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)440(MePfSiO2/2)330(MeViSiO2/2)10
で表され、ビニル基の含有量が0.20質量%であり、フッ素原子の含有量が42質量%であるオルガノポリシロキサン
(a2-2)平均組成式:
(Me2ViSiO1/2)2(Me2SiO2/2)900(MePfSiO2/2)450(MeViSiO2/2)10
で表され、ビニル基の含有量が0.16質量%であり、フッ素原子の含有量が37.5質量%であるオルガノポリシロキサン
【0130】
(B)成分として、以下の成分を用いた。
(b1)平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(Me2SiO2/2)55(MeFpSiO2/2)25(MeHSiO2/2)25
で表され、フッ素原子の含有量が40質量%であり、ケイ素原子結合水素原子の含有量が0.12質量%であるオルガノポリシロキサン
(b2)平均組成式:
(Me3SiO1/2)2(MePfSiO2/2)12(MeHSiO2/2)27
で表され、フッ素原子の含有量が38質量%であり、ケイ素原子結合水素原子の含有量が0.50質量%であるオルガノポリシロキサン
【0131】
(C)成分としては、(c)1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金錯体(白金金属量として硬化性組成物中の固形分量に対して270ppmとなる量)を用いた。
【0132】
(D)成分としては、(d1)ジイソプロピルエーテル及び(d2)エチルノナフルオロブチルエーテル(スリーエムジャパン社製 Novec 7200)を使用した。
【0133】
[混合試験]
前記(a1)成分、及び前記(a2-1)成分を1:1の質量比で、蓋付きの透明なガラス製バイアル瓶に入れ、25℃において十分に撹拌し混合したところ、混合物の外観は、白濁し、均一透明では無かった。この混合物を25℃で24時間静置した後、再び外観を目視にて観察したところ、依然として白濁したままであった。次に、前記(a2-1)成分に代えて、前記(a2-2)成分を用いて同様の操作を行ったところ、混合直後の外観は白濁し、均一透明では無かった。また、25℃で24時間静置した後の混合物の外観は、依然として白濁したままであった。なお、前記(a1)成分、前記(a2-1)成分、及び前記(a2-2)成分はそれぞれ単独では、25℃において透明な液体である。
【0134】
下の表1及び表2に示した組成にしたがって硬化性シリコーン組成物を調製し、これを剥離コーティング剤として用いて、上述した方法にしたがって、剥離フィルムを調製し、剥離フィルムをシリコーン粘着剤層から剥離させるときの剥離力、及び剥離フィルムを剥離した後のシリコーン粘着剤層のPMMA板に対する残留接着率を測定した。
【0135】
実施例1~12の剥離コーティング剤である硬化性シリコーン組成物は25℃において均一透明だった。また、表1に示した実施例1~12の各組成において、(a1)成分、(a2-1)成分、(a2-2)成分、(b1)成分、(b2)成分、(c)成分及び(d1)成分のジイソプロピルエーテルを固形分濃度10重量%となるように混合し、25℃で十分に攪拌したところ、得られた混合物の外観は均一かつ透明であった。すなわち(d2)成分がなくても、均一かつ透明な組成物が調製可能である。
【0136】
【0137】
【0138】
フルオロポリエーテル変性オルガノポリシロキサン及びフルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンを含む実施例2~8の硬化性シリコーン組成物は、比較例1、2に対して、特に剥離力1において、低い剥離力を実現している。一方、実施例1の硬化性シリコーン組成物は、若干高い剥離力を有するが、剥離フィルムを剥離した後のシリコーン粘着剤の残留接着力は実施例1の方が優れており、実際に使用する場合のそれらの特性のバランスは実施例1の方が比較例1よりも優れている。また、実施例2~8と比較例1を比べると、剥離力及び残留接着力の両方とも、実施例2~8の方が優れているといえる。また、実施例9~12の硬化性シリコーン組成物は、比較例1、3に対して、剥離力3、4共に低い剥離力を実現している。また、実施例9~12の残留接着率3、4は、共に比較例1に対して高い値を実現している。
【0139】
フルオロアルキル基含有オルガノポリシロキサンのみを含む比較例2と実施例1~8を比較すると、比較例2は実施例2~8と比較して残留接着力が同等ないし若干優れてはいるものの、剥離力は実施例1~8の方が優れており、実用上重要な剥離力と残留接着力のバランスは、比較例2よりも実施例1~8が優れている。特に、実施例2~8は、比較例2よりも剥離力が極めて低く、しかも残留接着力は高い保持率を保っている。また、比較例3と実施例9~12と比較すると、比較例3は、残留接着力は高いものの、剥離力が非常に高い。
いずれにしても、実施例1~12の剥離シートは、実用的見地からみて、シリコーン粘着剤のための剥離シートとして用いた場合に粘着剤に対する低い剥離力と、シリコーン粘着剤から剥離シートを剥離した後でも粘着剤が高い残留接着力を有するという特徴を有し、実用上優れた特性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0140】
本発明の硬化性シリコーン組成物をシリコーン粘着剤用剥離コーティング剤として用いて形成した剥離層を備えた剥離フィルムは、弱い力で剥離フィルムをシリコーン粘着剤から剥離させることができ、しかも剥離フィルムを剥離した後のシリコーン粘着剤の接着力を高く維持できるという特性を有するので、本発明の硬化性シリコーン組成物は、シリコーン粘着剤用の剥離フィルム用の剥離コーティング剤として有用である。
【符号の説明】
【0141】
1 積層体
11 基材
12 剥離層
13 粘着剤層