IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

特許7366259荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置
<>
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図1
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図2
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図3
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図4
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図5
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図6
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図7
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図8
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図9
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図10
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図11
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図12
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図13
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図14
  • 特許-荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置 図15
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
H01J37/20 C
H01J37/20 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022527458
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021395
(87)【国際公開番号】W WO2021240801
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石澤 輝
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-118170(JP,A)
【文献】特開2003-108228(JP,A)
【文献】特開平06-147883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピエゾ素子を用いて試料を移動させる荷電粒子線装置において、試料の位置を制御する方法であって、
前記試料を目標位置に向かって移動させる、第1移動ステップと、
前記第1移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置から離れるように移動させる、第2移動ステップと、
前記第2移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置に向かって移動させる、第3移動ステップと、
を備える、方法。
【請求項2】
ピエゾ素子を用いて試料を移動させる荷電粒子線装置において、試料の位置を制御する方法であって、
前記試料を目標位置に向かって移動させる、第1移動ステップと、
前記第1移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置から離れるように移動させる、第2移動ステップと、
前記第2移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置に向かって移動させる、第3移動ステップと、
1枚以上の荷電粒子線像に基づいて、視野のドリフト量を取得するステップと、
前記ドリフト量に基づいて、前記第2移動ステップおよび前記第3移動ステップのうち少なくとも一方における移動量を、補正値として決定するステップと、
を備える、方法。
【請求項7】
ピエゾ素子を用いて試料を移動させる荷電粒子線装置において、試料の位置を制御する方法であって、
前記方法は、
-前記試料を目標位置に向かって移動させる、第1移動ステップと、
-前記第1移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置から離れるように移動させる、第2移動ステップと、
-前記第2移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置に向かって移動させる、第3移動ステップと、
を備えるか、または、
-前記試料を前記目標位置を超えて移動させる、第4移動ステップと、
-前記第4移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置に向かって移動させる、第5移動ステップと、
を備え、
前記方法は、さらに、
1枚以上の荷電粒子線像に基づいて、視野のドリフト量を取得するステップと、
前記ドリフト量に基づいて、前記第2移動ステップ、前記第3移動ステップおよび前記第5移動ステップのうち少なくとも1つにおける移動量を決定するステップと、
を備える、方法。
【請求項11】
試料を載置する試料ホルダと、
前記試料ホルダに接続され、前記試料を移動させるピエゾ素子と、
請求項10に記載の制御装置と、
を備える、荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置に関し、とくにピエゾ素子を用いるものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子線装置においては、ステージの位置制御機構としてモータ(ステッピングモータ、サーボモータ、超音波モータ、等)またはリニアアクチュエータが用いられる。
【0003】
特に高分解能の荷電粒子線顕微鏡においては、高分解能の位置制御機構が要求されることがある。その際は、ピエゾ素子を用いてステージの位置制御機構を構成し、高分解能の位置制御を実現している。
【0004】
一方、ピエゾ素子にはクリープ現象が発生する。クリープ現象は、指令された変位が達成された後に、なだらかに変位が変化し続ける現象である。この現象はステージ位置ドリフトの原因となることから、通常は位置検出素子を用いたフィードバック制御を行うことが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭53-031990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特に高分解能タイプの荷電粒子線顕微鏡のステージにおいては、試料の位置変位を高精度に実現することが困難であるという課題があった。
【0007】
たとえば、位置検出素子を用いたフィードバック制御により精度を高めることができるが、試料近傍に位置検出素子を配置することは、構造上困難な場合がある。また、追加の機構などを用いて試料近傍に位置検出素子を配置した場合には、追加の機構の温度変化による伸縮が、ステージの位置ドリフト現象や位置の誤検出の原因となる場合がある。
【0008】
そこで、本発明はこのような課題を鑑みなされたものであって、試料の位置変位を高精度に実現する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る方法の一例は、
ピエゾ素子を用いて試料を移動させる荷電粒子線装置において、試料の位置を制御する方法であって、
前記試料を目標位置に向かって移動させる、第1移動ステップと、
前記第1移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置から離れるように移動させる、第2移動ステップと、
前記第2移動ステップの後に、前記試料を前記目標位置に向かって移動させる、第3移動ステップと、
を備える。
【0010】
本発明に係るプログラムの一例は、荷電粒子線装置に上述の方法を実行させる。
【0011】
本発明に係る記憶媒体の一例は、上述のプログラムを記憶する。
【0012】
本発明に係る制御装置の一例は、荷電粒子線装置の制御装置であって、上述の方法を実行する。
【0013】
本発明に係る荷電粒子線装置の一例は、試料を載置する試料ホルダと、前記試料ホルダに接続され、前記試料を移動させるピエゾ素子と、上述の制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置は、試料の位置変位を高精度に実現することができる。
【0015】
たとえば、ピエゾ素子を用いたステージ動作のクリープ変位を、センサを用いることなく低減することができる。また、センサを取り付けるための構造自体の変形による位置精度の低下を回避することができる。
【0016】
なお、特許文献1では、ピエゾ素子のクリープ現象を抑制するために、ピエゾ素子の目標変形量に対応する駆動電圧を超える過電圧を一定時間印加し、その後、電圧を切断することなく、引き続き目標変形量に対応する駆動電圧まで電圧を低減している。しかし、ピエゾ素子には最大/最小印加電圧が規定されているので、最大/最小電圧付近までピエゾ素子を変形させる場合に、駆動電圧を超える電圧を印加することができず、クリープ現象を抑制することができない。本発明によれば、最大/最小電圧付近までピエゾ素子を変形させる場合でも、試料の位置変位を高精度に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施例に係る走査/透過型電子顕微鏡の概略構成例を示した構成図である。
図2図1のステージの周辺の詳細を示した図である。
図3図2に示される部分を水平方向から図示した図である。
図4】第1の実施例に係る、ピエゾ素子の制御方法を示すグラフである。
図5】クリープ現象の典型例を示す図である。
図6】ピエゾ素子のクリープ変位を算出するアルゴリズムを示す図である。
図7】補正動作に使用する補正値を算出するためのアルゴリズムを示す図である。
図8図7の処理によって求められた補正値を用いて補正を行うアルゴリズムを示す図である。
図9】補正動作に使用する補正値を算出するためのアルゴリズムを示す図である。
図10図9の処理によって求められた補正値を用いて補正を行うアルゴリズムを示す図である。
図11】ユーザインタフェースの例を示す図である。
図12】ユーザインタフェースの例を示す図である。
図13】ユーザインタフェースの例を示す図である。
図14】ユーザインタフェースの例を示す図である。
図15】ユーザインタフェースの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態の荷電粒子線装置について、図面に基づき説明する。本発明は、荷電粒子線装置において試料の位置を制御する方法、プログラム、記憶媒体、制御装置および荷電粒子線装置に関する。
【0019】
説明に当たっては、荷電粒子線装置としては走査/透過型電子顕微鏡のうちステージをサイドからエントリーするものを例に説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は、走査/透過型電子顕微鏡には限られず、また、ステージをサイドからエントリーするものにも限られない。
【0020】
本発明に係る荷電粒子線装置において、試料が試料ホルダ(または試料ホルダに類するその他の台座)に載置される。試料ホルダは、ピエゾ素子を用いたアクチュエータにて動かされる。これによって、試料(もしくは台座)に対する荷電粒子線の照射位置を変更することができる。荷電粒子線装置は、例えば、走査イオン顕微鏡および走査電子顕微鏡を含む。また、荷電粒子線装置は、これらの顕微鏡と試料加工装置との複合装置であってもよい。また、荷電粒子線装置は、これらの顕微鏡を応用した解析装置および検査装置を含む。
【0021】
<第1の実施例>
図1は、本発明の第1の実施例に係る荷電粒子線装置としての、走査/透過型電子顕微鏡1の概略構成例を示した構成図である。
【0022】
走査/透過型電子顕微鏡1は、電子銃4と、電子光学系5と、結像系6と、試料を移動するためのステージ3とを備え、これらが一体化されて構成される。走査/透過型電子顕微鏡1の鏡筒内において、図示されない真空排気手段を用いて真空が保持される。
【0023】
走査/透過型電子顕微鏡1は制御装置2を備える。制御装置2は、走査/透過型電子顕微鏡1の各構成要素を制御することにより、走査/透過型電子顕微鏡1を制御する。制御装置2は、本明細書に記載される方法を実行することができる。
【0024】
電子源7から1次電子22が放出される。1次電子22は、電子銃4内の抑制電極8と引出電極9と陽極10を用いて集束され加速される。その後、1次電子22は、電子光学系5内の集束レンズ11、偏向レンズ12、および対物レンズ13によって、拡大または縮小され、偏向される。その後、1次電子22は、ステージ棒15の先端の試料ホルダ16上に載置された試料に照射される。
【0025】
電子が照射された試料からは、反射および2次電子放出によって信号電子23が発生する。信号電子23は、検出器19で検出される。検出器19からの信号は、信号処理ユニット36により処理され、コンピュータ33内の画像処理ユニット33Bにより処理され、CPU33Aで処理され、表示装置33Cによって表示される。
【0026】
また、試料に照射された電子のうち、試料を透過した電子(透過電子24)は、結像系6によって縮小または拡大され、蛍光板18に照射される。透過電子24が照射されると、蛍光板18からは蛍光25が発生する。発生した蛍光25はカメラ20で検出される。カメラ20からの信号は、信号処理ユニット36により処理され、コンピュータ33内の画像処理ユニット33Bにより処理され、CPU33Aで処理され、表示装置33Cで表示される。
【0027】
走査/透過型電子顕微鏡1は、上記以外にも、図示されない荷電粒子線検出器、光学検出器、X線検出器、等の検出器を備えてもよく、これらの検出器に係る絞り機構等を備えてもよい。
【0028】
ステージ3は、ステージ駆動機構14と、ステージ棒15と、試料ホルダ16とを備える。ステージ棒15の先端に試料ホルダ16が接続される。試料は試料ホルダ16上に載置される。視野の位置は、ステージ3を駆動することによって変更される。視野の位置を調整する際には、ステージ制御ユニット35からの指令によりステージ駆動機構14が動作し、ステージ棒15に対して押す、引く、回す、送る、等の運動を実現させる。これらの運動は、大気圧またはバネ力を介して実現されてもよく、あらかじめ付与された大気圧またはバネ力を相殺することにより実現されてもよい。
【0029】
制御装置2は、コンピュータ33と、主制御ユニット34と、ステージ制御ユニット35と、信号処理ユニット36とを含み、走査/透過型電子顕微鏡1の各構成要素を制御する。
【0030】
ステージ3の移動、回転、傾斜などに係る指示が、主制御ユニット34からステージ制御ユニット35に提供される。ステージ制御ユニット35は、この指令に従ってステージ駆動機構14の駆動制御を行う。また、コンピュータ33内の画像処理ユニット33Bから、画像の移動、回転、傾斜などに関する情報が、ステージ制御ユニット35に提供される。ステージ制御ユニット35は、これらの情報に基づいて必要な補正動作を演算し、ステージ駆動機構14の駆動制御の補正を行う。
【0031】
コンピュータ33は、公知の構成を備えるコンピュータによって構成することができる。たとえば、コンピュータ33は、演算を行う演算手段と、情報を格納する記憶手段と、情報の入出力を行う入出力手段とを備える。記憶手段はたとえば過渡的でない記憶媒体を含む。記憶手段はプログラムを格納することができる。このプログラムを演算手段が実行することによって、コンピュータ33は本明細書に記載される動作を実現する。これに伴って、走査/透過型電子顕微鏡1は、本明細書に記載される動作を実現する。すなわち、このプログラムは、走査/透過型電子顕微鏡1に、本明細書に記載される方法を実行させる。
【0032】
本実施例では、演算手段は、CPU33Aおよび画像処理ユニット33Bを含み、入出力手段は表示装置33Cを含み、記憶手段は記憶媒体としてのメモリ33Dを含む。コンピュータ33は、信号に係る演算と、各装置に対する情報(コマンド等)の送受信とを行うことができる。また、コンピュータ33は、人および他の電子機器とのインターフェイスとしての役割を担う。
【0033】
図2は、図1のステージ3の周辺の詳細を示した図である。図2を用いてステージ動作の詳細を説明する。
【0034】
電子顕微鏡本体50には、Xアクチュエータ52と、Yアクチュエータ53と、ステージ棒挿入機構60とが設置されている。ステージ棒挿入機構60を通して、ステージ棒15が電子顕微鏡本体50に挿入される。Xアクチュエータ52の先端にはXピエゾ素子54が取り付けられ、Yアクチュエータ53の先端にはYピエゾ素子55が取り付けられる。
【0035】
ステージは、Xアクチュエータ52およびXピエゾ素子54を用いて移動方向X57に移動させることができ、Yアクチュエータ53およびYピエゾ素子55を用いて移動方向X58に移動させることができる。
【0036】
ステージ棒15の先端には試料ホルダ16が接続されている。試料ホルダ16は試料59を載置する。試料は観察対象である。各ピエゾ素子は、試料ホルダ16に接続され、試料を移動させる。
【0037】
ステージの移動のうち、特に、比較的粗い移動(粗動)では、Xアクチュエータ52およびYアクチュエータ53を用い、比較的微小な移動(微動)では、Xピエゾ素子54およびYピエゾ素子55の圧電効果による伸縮を用いる。粗動および微動は、たとえばステージ棒15に対して押す、引く、回す、送る、等の運動として実現される。これらの運動は、大気圧またはバネ力を介して実現されてもよく、あらかじめ付与された大気圧またはバネ力を相殺することにより実現されてもよく、図示しないレバーを介して実現されてもよい。
【0038】
ステージ制御ユニット35は、各アクチュエータおよび各ピエゾ素子を制御する。ステージ制御ユニット35は、ステージ動作演算ユニット35Aと、モータドライバ35Bと、ピエゾドライバ35Cとを備える。
【0039】
各アクチュエータは、モータドライバ35Bによって制御される。各ピエゾ素子は、ピエゾドライバ35Cによって制御される。モータドライバ35Bおよびピエゾドライバ35Cは、上位のユニット(本実施例では主制御ユニット34および画像処理ユニット33B)から、アクチュエータおよびピエゾ素子の指令変形量を表す信号を受信し、この信号を電圧に変換してアクチュエータおよびピエゾ素子に出力する機能を持つ。
【0040】
主制御ユニット34は、変位命令を表す信号または指定座標を表す信号をコンピュータ33から受信し、この信号に基づいてステージ制御ユニット35に信号を送信する。ステージの移動のために各アクチュエータを動作させるか、または各ピエゾ素子を変形させるかの判断は、変位命令または指定座標に基づいて行われる。この判断は、コンピュータ33、主制御ユニット34、または、ステージ動作演算ユニット35Aが行う。
【0041】
アクチュエータおよびピエゾ素子の動作方法の一例として、変位命令または指定座標に応じた移動はアクチュエータのみを用いて行い、その後に、アクチュエータのバックラッシュなどを画像処理ユニット33Bから判断し、その補正のみに各ピエゾ素子を用いるように構成することも可能である。
【0042】
アクチュエータおよびピエゾ素子の動作方法の別の例として、変位命令または指定座標に応じた移動はアクチュエータのみを用いて行い、その後に、広域視野取得を目的として各ピエゾ素子を用いて視野調整を行うように構成することも可能である。
【0043】
図3は、図2に示される部分を水平方向(たとえばX方向)から図示した図である。
【0044】
図3には、ステージを荷電粒子線の向きと平行な方向に動かすためのZアクチュエータ64と、Zピエゾ素子65とが示されている。ステージは、Zアクチュエータ64およびZピエゾ素子65を用いて移動方向X66に移動させることができる。
【0045】
走査/透過型電子顕微鏡1は、さらに、図示されないTilt軸およびAzimuth軸(荷電粒子線を試料に対して角度を持たせて照射させるための軸)を備えてもよく、試料自体を回転させるRotation軸を備えてもよい。
【0046】
<第1の実施例に係るピエゾ素子の駆動方法>
図4は、第1の実施例に係る、ピエゾ素子の制御方法を示すグラフである。上の電圧-時間グラフ150は、制御電圧と時間との関係を示す。下の変位-時間グラフ151は、変位距離と時間との関係を示す。
【0047】
図4は、ピエゾ素子をフルストロークで使用することができ、かつクリープ現象を抑制することができる制御方法の例を模式的に表したものである。
【0048】
クリープ現象はピエゾ素子特有の現象である。クリープ現象の典型例を図5に示す。上の電圧-時間グラフ200は、制御電圧と時間との関係を示す。グラフの縦軸(制御電圧軸202)は電圧を示す。グラフの横軸(時間軸204)は、任意の点からの経過時間を示す。Vaim205は、ピエゾ素子の目標変形(すなわち、試料の目標位置)に対応すると想定されている電圧値である。
【0049】
下の変位-時間グラフ201は、時間と変位の関係を示す。グラフの縦軸(変位軸203)は変位量を示す。横軸(時間軸204)は経過時間を示す。Xs206はVaim205に対応する変位量である。
【0050】
電圧-時間グラフ200と変位-時間グラフ201とを比較すると、Vaim205を印加した後は電圧を変化させていないにも関わらず、ピエゾ素子による変位量がなだらかに変化していることがわかる。この現象がクリープ現象である。β1 207がクリープ変位を表す。Ts2 208は、Vaim205が印加されてからβ1 207だけクリープ変位するまでの時間を示す。クリープ現象の発生原理は、ピエゾ素子の分極方向変化にある程度の時間を要することに起因する。
【0051】
図4の電圧-時間グラフ150は、本実施例に係る制御方法を模式的に表した図であるが、特に制御電圧と時間との関係について表したものである。制御電圧軸154の単位は電圧[V]であり、ピエゾ素子に印加する電圧の値を示す。時間軸156の単位は時間[秒]であり、任意のタイミングを0秒としてカウントアップされる。ここではピエゾ素子に印加する制御電圧が0[V]から増加し始める瞬間を0[秒]としているが、それに限る必要はない。
【0052】
aim157はピエゾ素子の目標変形量(すなわち、試料の目標位置)に対応する電圧を示している。Vaim2152は、この例ではVaim157に等しいが、後述するようにVaim157より小さい場合もある。Vaim2152はVaim157よりも先に印加される。
【0053】
corr159はピエゾ素子によるクリープ変位を抑制するための電圧変化分であり、単位は電圧[V]である。Vcorr159の符号はVaim2152と逆であり、またVcorr159の絶対値はVaim2152およびVaim157よりも小さい。tcorr161はVcorr159が印加される時間(より厳密には、電圧がVaim2152から減少し始めてから増加し始めるまでの時間、または、電圧がVaim2152から減少し始めてからVaim157に達するまでの時間)である。
【0054】
変位-時間グラフ151は、電圧-時間グラフ150に示す電圧を印加した場合の、ピエゾ素子による変位と経過時間との関係を模式的に示す。変位軸155の単位は変位[μm]であり、現実的なピエゾ素子による変位量の規模を表現しているが、[mm]でも[nm]でも構わない。Xaim158はVaim157が印加された場合の変位であり、Xaim2153はVaim2152が印加された場合の変位である。
【0055】
aim158が、最終的に試料を移動させたい目標位置に対応する。Xcorr160は印加電圧がVcorr159だけ減少した場合の変位量の変化分である。tcorr161は、電圧-時間グラフ150および変位-時間グラフ151の双方に記載してあるが、これらは同じ長さの時間を表す。
【0056】
なお、図4のグラフは、電圧の変化が指令に追随するのに必要な時間を比較的長く示している。たとえば、図4の例では、制御電圧は0からVaim2152まで増加し、Vaim2152に達した瞬間に減少し始める。しかしながら、電圧の変化はより速く指令に追随してもよく、たとえば制御電圧がほぼ瞬間的にVaim2152に達した後、電圧指令値が減少するまでVaim2152を維持し、その後ほぼ瞬間的にVcorr159だけ減少し、その後電圧指令値が増加するまでその値を維持してもよい。
【0057】
本実施例は、印加電圧に特徴を有する。各印加電圧の関係は、絶対値で
aim157 ≧ Vaim2152 > Vcorr159 …(式1)
となる。なお、Vaim157が試料の目標位置に対応する電圧であるが、式1によれば、Vaim2152は常にVaim157以下となるので、Vaim2152の印加によって試料が目標位置を超えて移動することはない。このため、制御電圧がVaim2152からVcorr159だけ減少する際には、試料は常に目標位置から離れる方向に移動することになる。
【0058】
また、図4の例ではVaim157=Vaim2152であるが、Vaim157>Vaim2152となる場合には、制御電圧はVaim2152からVcorr159だけ減少し、さらにVcorr159より大きい値だけ増加してVaim157に達することになる。後述する図8の例についても同様である。
【0059】
動作原理としては、絶対変位量が大きいほどクリープ変位量が大きく、絶対変位量が小さいほどクリープ変位量が小さいという事実を利用している。Vaim2152の印加により、主要な指令変位(Xaim2153)が達成される。その後、電圧をVcorr159だけ減少させることにより、一度ピエゾ素子内に発生した分極を打ち消す、もしくは逆方向に向ける。その後、目標変位に戻すためにVaim157を印加すると、ピエゾ素子は目標変形量まで再度変形することとともに、ピエゾ素子内に発生していた分極が打ち消され、もしくは逆方向の分極となる。
【0060】
この時、初期値0からVaim2152への電圧差よりも、Vcorr159に対応する電圧差のほうが小さいので、クリープ変位も小さくなり、結果としてクリープ変位が抑制される。
【0061】
補正に関する値(Vcorr159およびtcorr161等)の決定方法は、当業者が任意に設計可能である。たとえば、ユーザが予測して設定値を決定し、予めコンピュータに記憶させてもよい。電圧の設定値は、たとえば電圧指令値に対する割合(たとえば数%)とすることができる。時間の設定値は、たとえば数秒とすることができる。
【0062】
または、あらかじめピエゾ素子の特性を測定して、補正値を決定し、コンピュータに記録させておくこともできる。その場合には、ピエゾ素子の特性変化(気温、湿度、使用履歴、等によるもの)に対応させることができる。補正値は、たとえば走査/透過型電子顕微鏡1のイニシャライズ動作において自動的に決定してもよい。自動的に決定する方法の一例を以下に説明する。
【0063】
<補正値を算出するためのアルゴリズム>
以下、補正値を求める方法の一例を記載する。
【0064】
図6および図7は、補正値を求める動作(イニシャライズ動作)のアルゴリズムを示す。図6は、そのうち特に、ピエゾ素子をある指令量だけ変形させた場合のクリープ変位を算出するアルゴリズムを示す。以下、各ステップを説明する。
【0065】
ステップA-1;ユーザがイニシャライズ動作開始ボタンを押す。これに応じて、もしくは適切な時に自動的に、コンピュータがピエゾ素子補正イニシャライズ動作Aを開始する。
【0066】
ステップA-2;倍率αが指定される。倍率αは、走査/透過型電子顕微鏡1における顕微鏡像の倍率に対応する。なおnの初期値は1であり、以下に説明するループの実行に伴って最大値nMAXまで増加する。たとえば走査/透過型電子顕微鏡1が1000倍、2000倍および4000倍という3通りの倍率で顕微鏡像を取得することができる場合には、最大値nMAXは3であり、α=1000,α=2000,α=4000となる。倍率αは、ユーザが入力してもよいし、コンピュータが自動的に決定してもよい。指定された倍率αは、記憶手段に記憶される。
【0067】
ステップA-3;変位していない状態を確認するために、まず任意の位置で連続撮像を開始する。この連続撮像は、後述のステップA-5が実行されるまで、Ts秒間だけ継続して行われる。この連続撮像の撮像間隔は、短くすると時間的分解能が向上するため好適である。
【0068】
なお、この連続撮像に代えて、ラスタースキャンによる1枚以上の画像の撮像を用いることもできる。
【0069】
ステップA-4;ステップA-3で開始された連続撮像を継続しながら、ピエゾ素子をXsだけ変形させる(すなわち試料の位置をXsだけ変位させる)。その後、ピエゾ素子によるクリープ変位の量を取得するためにTs2秒待つ。Xsは予め指定することができる。Xsは、視野の寸法より小さい量とすると好適である。たとえばXsは視野の寸法に所定の定数K(ただし0<K≦0.99)を乗算したものである。
【0070】
ステップA-5;ステップA-3で開始された連続撮像を終了する。
【0071】
ステップA-6;連続撮像した複数枚の画像に基づき、もしくはラスタースキャンにより得た1枚以上の画像に基づき、各時刻におけるピエゾ素子の変形による試料位置の変位量(たとえば各画像における試料位置)を算出する。
【0072】
ステップA-7;ステップA-6で得たピエゾ素子による変位量を、時間で微分する。たとえば、連続する2枚の画像における変位量の差を、微分値として取得することができる。
【0073】
ステップA-8;各時刻における変位が、指令変位によるものか、またはクリープ変位によるものかを判定する。たとえば、ある時刻における変位量の微分値が閾値より大きい場合には、その時刻における変位は指令変位によるものと判定され、そうでない場合には、その時刻における変位はクリープ変位によるものと判定される。閾値は、予め指定されてもよいし、各時刻における変位量の微分値等に基づいて算出されてもよい。
【0074】
ステップA-9;クリープ変位によるものと判定された変位の総量であるクリープ変位量β1(意図しない変位量)と、クリープ変位が開始した時刻と、クリープ変位が終了した時刻と、クリープ変位が開始してから終了するまでの時間とを記憶する。このようにして、複数の荷電粒子線像に基づき(ラスタースキャンを用いる場合には、1枚以上の荷電粒子線像に基づき)、クリープ変位量β1が視野のドリフト量として取得される。
【0075】
ステップA-10;補正値を決定すべき倍率αが、他に存在するか否かを判定する。判定は、ユーザが手動で行ってもよいし、予め指定されたnの最大値に基づいてコンピュータが自動的に行ってもよい。
【0076】
ステップA-12;ステップA-10で、他の倍率が存在すると判定された場合には、nをインクリメントしてステップA-2に戻る。
【0077】
ステップA-11;ステップA-10で、他の倍率が存在しないと判定された場合には、nをnMAXに格納し、補正イニシャライズ動作Aを終了する。
【0078】
ステップA-11の実行後は、図7の処理を実行してもよいし、図9の処理を実行してもよい。
【0079】
図7は、補正値を求めるイニシャライズ動作のアルゴリズムのうち特に、補正動作に使用する補正値を算出するためのアルゴリズムを示す。以下各ステップを説明する。
【0080】
ステップB-1;ピエゾ補正のイニシャライズ動作Bを開始する。n=0とする。
【0081】
ステップB-2;nをインクリメントする。n>nMAXを満たす場合には、処理はステップB-18に移行する。n>nMAXを満たさない場合には、処理はステップB-3に移行する。
【0082】
ステップB-3;倍率αが指定される。倍率αはステップA-2と共通である。
【0083】
ステップB-4;変位していない状態を確認するために、まず任意の位置で連続撮像を開始する。この連続撮像は、後述のステップB-11が実行されるまで、Ts秒間だけ継続して行われる。この連続撮像の撮像間隔は、短くすると時間的分解能が向上するため好適である。なお、この連続撮像に代えて、ラスタースキャンによる1枚以上の画像の撮像を用いることもできる。
【0084】
ステップB-5;ステップB-4で開始された連続撮像を継続しながら、ピエゾ素子をXsだけ変形させる(すなわち試料の位置をXsだけ変位させる)。
【0085】
ステップB-6;ピエゾ素子のクリープ量を取得するためにm秒待機する。
【0086】
ステップB-7;ステップB-4で開始された連続撮像を継続しながら、ピエゾ素子をβ1*(-1)*K1だけ変形させる。なお、後述のようにK1は変化するが、K1の初期値は1とする。
【0087】
ステップB-8;p秒待機する。
【0088】
ステップB-9;ステップB-4で開始された連続撮像を継続しながら、ピエゾ素子をβ1*(+1)*K2だけ変形させる。なお、後述のようにK2は変化するが、K2の初期値は1とする。
【0089】
ステップB-10;q秒待機する。
【0090】
ステップB-11;ステップB-4で開始された連続撮像を終了する。
【0091】
ステップB-12;連続撮像した複数枚の画像に基づき、もしくはラスタースキャンにより得た1枚以上の画像に基づき、各時刻におけるピエゾ素子の変形による試料位置の変位量(たとえば各画像における試料位置)を算出する。
【0092】
ステップB-13;ステップB-12で得たピエゾ素子による変位量を、時間で微分する。また、ステップA-8と同様にして、各時刻における変位が、指令変位によるものか、またはクリープ変位によるものかを判定する。
【0093】
ステップB-14;クリープ変位によるものと判定された変位の総量であるクリープ変位量β2(意図しない変位量)と、クリープ変位が開始した時刻と、クリープ変位が終了した時刻と、クリープ変位が開始してから終了するまでの時間とを記憶する。このようにして、複数の荷電粒子線像に基づき(ラスタースキャンを用いる場合には、1枚以上の荷電粒子線像に基づき)、クリープ変位量β2が視野のドリフト量として取得される。
【0094】
ステップB-15;クリープ変位が抑制できかた否かを判定する。たとえば、D*β2<β1である場合には、クリープ変位が抑制できたと判定され、そうでない場合には、クリープ変位が抑制できていないと判定される。
【0095】
ここでDは、クリープ変位がどの程度抑制できれば良いかを示す係数であり、予め指定される。例えばD=5の場合には、図6の処理で求められたクリープ変位量β1に対して、図7の処理で求められたクリープ変位量β2が1/5以下である場合に、クリープ変位が抑制できたと判定される。
【0096】
クリープ変位が抑制できていないと判定された場合には、処理はステップB-16に移行する。クリープ変位が抑制できたと判定された場合には、処理はステップB-17に移行する。
【0097】
ステップB-16;K1とK2をインクリメントした後に、処理はステップB-3に移行する。なお、変形例として、K1およびK2の初期値を1より大きい値とし、ステップB-16でK1およびK2をディクリメントしてもよい。
【0098】
ステップB-17;第1補正値をCCα1n={β1*(-1)*K1}/Xsとする。第2補正値をCCα2n={β1*(+1)*K2}/Xsとする。このようにして、ドリフト量(β1およびβ2)に基づき、補正値が決定される。なお、この補正値は、後述のステップC-3およびC-4における移動量に対応する。本実施例では、第1補正値および第2補正値の双方をこのようにして決定するが、これらのうちいずれか一方のみをこのように決定し、他方は他の方法で決定してもよい。
【0099】
このように、実際の撮像に基づいて補正値を決定することにより、補正値が適切な値となる。
【0100】
また、各補正値は、複数の倍率αそれぞれについて決定される。このため、ステップA-4で用いられる定数Kの値を適切に設定することにより、様々な倍率での観察に適した補正値を取得することができる。
【0101】
また、各補正値は、複数の目標移動量それぞれについて決定される。このため、ステップA-4で用いられる定数Kの値を適切に設定することにより、様々な目標移動量に適した補正値を取得することができる。なお、目標移動量とは、たとえばXsであり、すなわち試料を現在位置から目標位置まで移動させる際の移動量を表す。
【0102】
ステップB-17の後、処理はステップB-2に移行する。
【0103】
ステップB-18;補正値の算出処理を終了する。イニシャライズ動作の結果としては、nの値それぞれについて、{α,β1,β2,Xs,CCα1n,CCα2n}の組を含む配列が出力されることとなる。
【0104】
図8は、図7の処理によって求められた補正値を用いて補正を行う、補正付きピエゾ素子駆動方法のアルゴリズムを示す。この方法は、ピエゾ素子を用いて試料を移動させる荷電粒子線装置において、試料の位置を制御する方法の例である。
【0105】
ステップC-1;試料を目標位置に向かって移動させる(第1移動ステップ)。たとえばピエゾ素子をXniだけ変形させる。Xniの値は、指令変位量に基づいて決定される。Xniは指令変位量の値と等しくしてもよい。指令変位量は、ユーザがトラックボールなどのインターフェイスを用いて入力してもよし、ユーザがGUI(Graphical User Interface)を用いて入力してもよいし、指定された座標に対してコンピュータが自動で算出してもよいし、画像認識などによりコンピュータが自動で決定してもよい。
【0106】
ステップC-2;補正値を算出する。算出方法として、まずXsのうちからXniに最も近いもの(Xniとの差の絶対値が最も小さいもの)を選択する。そして、選択されたXsに対応する補正値CCα1nおよびCCα2nを取得し、CCα1niおよびCCα2niに格納する。
【0107】
ステップC-3;m秒待ったのち、試料を目標位置から離れるように移動させる(第2移動ステップ)。たとえば、ピエゾ素子をXni * CCα1niだけ変形させる。
【0108】
ステップC-4;p秒待ったのち、試料を目標位置に向かって移動させる(第3移動ステップ)。たとえば、ピエゾ素子をXni * CCα2niだけ変形させる。
【0109】
次に、図6の処理の後、図7の処理に代えて図9の処理を実行する場合の例を示す。
【0110】
図9は、補正値を求めるイニシャライズ動作のアルゴリズムのうち特に、補正動作に使用する補正値を算出するためのアルゴリズムを示す。以下各ステップを説明する。
【0111】
ステップD-1;ピエゾ補正のイニシャライズ動作Dを開始する。n=0とする。
【0112】
ステップD-2;nをインクリメントする。n>nMAXを満たす場合には、処理はステップD-15に移行する。n>nMAXを満たさない場合には、処理はステップD-3に移行する。
【0113】
ステップD-3;倍率αが指定される。倍率αはステップA-2と共通である。
【0114】
ステップD-4;変位していない状態を確認するために、まず任意の位置で連続撮像を開始する。この連続撮像は、後述のステップD-8が実行されるまで、Ts秒間だけ継続して行われる。この連続撮像の撮像間隔は、短くすると時間的分解能が向上するため好適である。なお、この連続撮像に代えて、ラスタースキャンによる1枚以上の画像の撮像を用いることもできる。
【0115】
ステップD-5;ステップD-4で開始された連続撮像を継続しながら、ピエゾ素子をXsだけ変形させる(すなわち試料の位置をXsだけ変位させる)。
【0116】
ステップD-6;ピエゾ素子のクリープ量を取得するためにm秒待機する。
【0117】
ステップD-7;ステップD-4で開始された連続撮像を継続しながら、ピエゾ素子をβ1*(-1)*K1だけ変位させる。なお、後述のようにK1は変化するが、K1の初期値は1とする。
【0118】
ステップD-8;p秒待機し、連続撮像を終了する。
【0119】
ステップD-9;連続撮像した複数枚の画像に基づき、もしくはラスタースキャンにより得た1枚以上の画像に基づき、ピエゾ素子の変形による試料位置の変位量を算出する。
【0120】
ステップD-10;ステップD-9で得たピエゾ素子による変位量を、時間で微分する。また、ステップA-8と同様にして、各時刻における変位が、指令変位によるものか、またはクリープ変位によるものかを判定する。
【0121】
ステップD-11;クリープ変位によるものと判定された変位の総量であるクリープ変位量β2(意図しない変位量)と、クリープ変位が開始した時刻と、クリープ変位が終了した時刻と、クリープ変位が開始してから終了するまでの時間とを記憶する。このようにして、複数の荷電粒子線像に基づき(ラスタースキャンを用いる場合には、1枚以上の荷電粒子線像に基づき)、クリープ変位量β2が視野のドリフト量として取得される。
【0122】
ステップD-12;クリープ変位が抑制できかた否かを判定する。たとえば、D*β2<β1である場合には、クリープ変位が抑制できたと判定され、そうでない場合には、クリープ変位が抑制できていないと判定される。
【0123】
クリープ変位が抑制できていないと判定された場合には、処理はステップD-14に移行する。クリープ変位が抑制できたと判定された場合には、処理はステップD-13に移行する。
【0124】
ステップD-14;K1をインクリメントした後に、処理はステップD-3に移行する。なお、変形例として、K1の初期値を1より大きい値とし、ステップD-14でK1をディクリメントしてもよい。
【0125】
ステップD-13;補正値をCCαn={β1*(-1)*K1}/Xsとする。このようにして、β1すなわちドリフト量に基づき、補正値が決定される。その後、処理はステップD-2に移行する。
【0126】
ステップD-15;補正値の算出処理を終了する。イニシャライズ動作の結果としては、nの値それぞれについて、{α,β1,β2,Xs,CCαn}の組を含む配列が出力されることとなる。
【0127】
図10は、図9の処理によって求められた補正値を用いて補正を行う、補正付きピエゾ素子駆動方法のアルゴリズムを示す。この方法は、ピエゾ素子を用いて試料を移動させる荷電粒子線装置において、試料の位置を制御する方法の例である。
【0128】
ステップE-1;試料を、目標位置を超えて移動させる(第4移動ステップ)。たとえば、ステップC-1と同様にして、ピエゾ素子をXniだけ変形させる。ただしXniは目標変位量より大きい変位量である。
【0129】
Xniは、たとえば目標変位量に補正値を加算した値とすることができる。その場合には、ステップE-1より先にステップE-2を実行してもよい。
【0130】
ステップE-2;補正値を算出する。算出方法として、まずXsのうちからXniに最も近いもの(Xniとの差の絶対値が最も小さいもの)を選択する。そして、選択されたXsに対応する補正値CCαnを取得し、CCαniに格納する。
【0131】
ステップE-3;m秒待ったのち、試料を目標位置に向かって移動させる(第5移動ステップ)。たとえば、ピエゾ素子をXni * CCαniだけ変形させる。
【0132】
<補正値を算出する際のUIに関する記述>
図11図12図13は、第1の実施例に係るUI(ユーザインタフェース)の例を示す。このUIは、ピエゾ素子補正動作用の補正値を算出する際に使用される。このUIは、特に、X方向、Y方向およびZ方向それぞれについて、補正値を決定するのに荷電粒子線像が適しているか否かを表示する。
【0133】
UIは、荷電粒子線像を表示する荷電粒子線像表示画面301と、荷電粒子線像の適否を示すウィンドウ304とを表示する。ウィンドウ304は、表示器302と、ボタン303とを備える。
【0134】
表示器302は、各ピエゾ素子について設けられ、そのピエゾ素子に対して荷電粒子線像に基づいて補正値算出動作を行うことができるか否かを表示する。ボタン303は、補正値算出動作を開始するときにユーザが押下するボタンである。走査/透過型電子顕微鏡1は、ボタン303が押下されることに応じて、補正値算出動作(たとえば図6および図7の処理)を開始する。
【0135】
表示器302およびボタン303の関係の一例として、表示器302が所定の表示動作(点灯、点滅、など)を行っている場合にのみ、ボタン303が押下できるようになっている。ただし、表示器302が押下できるようになっていてもよく、ボタン303に所定の表示動作を行うようになっていてもよい
【0136】
荷電粒子線像表示画面301、表示器302、およびボタン303の関係の一例として、X方向の補正値を決定するのに荷電粒子線像が適している場合には、X方向に対応する表示器302が所定の表示動作を行い、X方向に対応するボタン303が押下できるようになる。Y方向についても同様である。Z方向についても同様に構成することができるが、Z方向について荷電粒子線像からだけでは補正値算出可否が決定できない場合には、Z方向については他の方法で決定が行われてもよいし、Z方向についての表示を省略しても良い。
【0137】
ここで、ある方向の補正値を決定するのに荷電粒子線像が適しているか否かは、たとえば荷電粒子線像における対応する方向の成分に基づいて決定可能である。
【0138】
図11の例では、X方向の成分とY方向の成分の両方が荷電粒子線像内に存在する。すなわち、X方向の成分とY方向の成分の両方についてコントラストが十分に取得できるので、荷電粒子線像はX方向およびY方向いずれについても補正値算出に適している。
【0139】
図12の例では、X方向の成分が荷電粒子線像内に不足し、コントラストが十分に取得できない。一方、Y方向の成分は荷電粒子線像内に存在し、コントラストが十分に取得できる。このため、荷電粒子線像はX方向については補正値算出に適していないが、Y方向については補正値算出に適している。
【0140】
図13の例では、X方向の成分、Y方向の成分の両方が荷電粒子線像内に不足している。X方向の成分とY方向の成分のいずれについてもコントラストが十分に取得できず、荷電粒子線像はX方向およびY方向いずれについても補正値算出に適していない。
【0141】
このように、補正値を決定するのに荷電粒子線像が適しているか否かを表示されるので、ユーザは適切な荷電粒子線像に基づいて補正値決定動作を開始させることができる。
【0142】
図11図12図13の例では、X方向にバー状の強いコントラストがあるか否か、および、Y方向にバー状の強いコントラストがあるか否かを、各方向についての補正値算出動作の適否判断の基準としている。判断に用いられる具体的な算出式および閾値等は、当業者が適宜設計可能である。また、判断基準は図11図13を用いて説明したものに限らない。
【0143】
図14および図15は、第1の実施例に係るUIの別の例を示す。このUIは、ピエゾ素子補正動作用の補正値を算出する際に使用される。このUIは、ドリフト量の取得を実行中であるか否かを表示する。
【0144】
UIは、荷電粒子線像表示部351と、現在どのような処理が行われているかを表示するインジケータ部352とを表示する。
【0145】
図14の例では、イニシャライズ動作(ドリフト量の取得動作を含む)を実行中であることが、荷電粒子線像表示部351およびインジケータ部352の双方において表示されている。イニシャライズ動作を行っている間は、荷電粒子線像が非表示(すなわち荷電粒子線像表示部351の全体が黒色)になっている。また、インジケータ部352に、「イニシャライズ動作中」というメッセージが表示されている。
【0146】
図14の例では、非表示の一態様として画面が黒くなっているが、非表示の態様はこれに限らない。たとえば荷電粒子線像表示部351の全体を白く表示してもよく、イニシャライズ動作開始直前の荷電粒子線像を表示してもよく、別の画像を表示してもよい。
【0147】
図15の例では、荷電粒子線像表示部351は現在の荷電粒子線像を表示しており、イニシャライズ動作(ドリフト量の取得動作を含む)を実行中であることはインジケータ部352のみにおいて表示される。
【0148】
このように、イニシャライズ動作を実行中であるか否かが表示されることにより、ユーザは走査/透過型電子顕微鏡1の状態を容易に把握することができ、ユーザの利便性が向上する。
【符号の説明】
【0149】
1 走査/透過型電子顕微鏡(荷電粒子線装置)、2 制御装置、3 ステージ、4 電子銃、5 電子光学系、6 結像系、7 電子源、8 抑制電極、9 引出電極、10 陽極、11 集束レンズ、12 偏向レンズ、13 対物レンズ、14 ステージ駆動機構、15 ステージ棒、16 試料ホルダ、18 蛍光板、19 検出器、20 カメラ、22 1次電子、23 信号電子、24 透過電子、25 蛍光、33 コンピュータ、33A CPU、33B 画像処理ユニット、33C 表示装置、33D メモリ、34 主制御ユニット、35 ステージ制御ユニット、35A ステージ動作演算ユニット、35B モータドライバ、35C ピエゾドライバ、36 信号処理ユニット、50 電子顕微鏡本体、52 Xアクチュエータ、53 Yアクチュエータ、54 Xピエゾ素子、55 Yピエゾ素子、57 移動方向X、58 移動方向X、59 試料、60 ステージ棒挿入機構、64 Zアクチュエータ、65 Zピエゾ素子、66 移動方向X、150 電圧-時間グラフ、151 変位-時間グラフ、152 Vaim2、153 Xaim2、154 制御電圧軸、155 変位軸、156 時間軸、157 Vaim、158 Xaim、159 Vcorr、160 Xcorr、161 tcorr、200 電圧-時間グラフ、201 変位-時間グラフ、202 制御電圧軸、203 変位軸、204 時間軸、205 Vaim、206 Xs、207 β1、208 Ts、301 荷電粒子線像表示画面、302 表示器、303 ボタン、304 ウィンドウ、351 荷電粒子線像表示部、352 インジケータ部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15