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特許7366322魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-12
(45)【発行日】2023-10-20
(54)【発明の名称】魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 4/06 20060101AFI20231013BHJP
   A23B 4/16 20060101ALI20231013BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20231013BHJP
   B65D 85/50 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A23B4/06 501E
A23B4/16
A23L17/00 E
A23L17/00 101Z
B65D85/50 150
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2023541635
(86)(22)【出願日】2023-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2023006928
【審査請求日】2023-07-07
(31)【優先権主張番号】P 2022034176
(32)【優先日】2022-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004189
【氏名又は名称】株式会社ニッスイ
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】大庭 貴弘
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-113203(JP,A)
【文献】特開2015-015946(JP,A)
【文献】特開平03-254631(JP,A)
【文献】特開平05-336878(JP,A)
【文献】特開平04-075553(JP,A)
【文献】特開平07-132043(JP,A)
【文献】特開昭64-071437(JP,A)
【文献】国際公開第03/013280(WO,A1)
【文献】国際公開第17/170420(WO,A1)
【文献】ニッスイ MSCおさか なミンチ 3袋セット,Amazon,2020年,pp.1-5,[online]、インターネット、URL:https://amzn.asia/d/gwydyej、<検索日:2023年8月17日>,Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2020/5/11
【文献】CO・OPおさかなのパラパラミンチ,コープデリ連合会,2016年,pp.1-5,[online]、インターネット、URL:https://www.coopnet.jp/product/osusume_coop/2016/201601.html、<検索日:2023年8月17日>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 4/06
A23B 4/16
A23L 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍ミンチ魚肉と、酸素を30体積%以上含むガスと、を内容物として含む魚肉包装体。
【請求項2】
前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、請求項1に記載の魚肉包装体。
【請求項3】
前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が1~22mmである、請求項1に記載の魚肉包装体。
【請求項4】
前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である、請求項1に記載の魚肉包装体。
【請求項5】
前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、請求項1に記載の魚肉包装体。
【請求項6】
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む包装容器により包装されている、請求項1に記載の魚肉包装体。
【請求項7】
酸素を30体積%以上含むガスに覆われた冷凍ミンチ魚肉。
【請求項8】
前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、請求項7に記載の冷凍ミンチ魚肉。
【請求項9】
数平均短径が1~22mmである、請求項7に記載の冷凍ミンチ魚肉。
【請求項10】
前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である、請求項7に記載の冷凍ミンチ魚肉。
【請求項11】
タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、請求項7に記載の冷凍ミンチ魚肉
【請求項12】
凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を共存させる、冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法。
【請求項13】
前記ガスが酸素を30体積%以上含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が1~22mmである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記冷凍ミンチ魚肉および前記ガスを包装容器内で共存させる、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記包装容器が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
酸素を22体積%以上含むガスの、冷凍ミンチ魚肉の結着防止のための使用。
【請求項20】
前記ガスが酸素を30体積%以上含む、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、請求項19に記載の使用。
【請求項22】
前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が1~22mmである、請求項19に記載の使用。
【請求項23】
前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、請求項19に記載の使用。
【請求項24】
前記ガスを包装容器内で前記冷凍ミンチ魚肉と共存させる、請求項19に記載の使用。
【請求項25】
前記包装容器が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む、請求項24に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍ミンチ魚肉は、消費者にとって調理に利用しやすい形態であることから、魚肉の消費量を向上させること等を目的として近年開発されている。また、ミンチ魚肉を用いてハンバーグ等を調理した場合、すり身を用いた場合よりも食感が向上することから、魚肉の利用の幅が広がることが期待される。例えば特許文献1には、品質の良い冷凍ミンチ魚肉を簡易な方法で製造するため、特定形状の冷凍ミンチ魚肉を用いることが開示されている。
【0003】
冷凍ミンチ魚肉は、冷凍保存中に包装容器内で冷凍ミンチ魚肉の粒子同士が結着しやすい。そのため、包装容器を開封して調理に利用する際、冷凍ミンチ魚肉が十分に個別化されない場合があり、主に消費者の利便性の観点から改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/170420号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、内容物である冷凍ミンチ魚肉の結着が抑制された魚肉包装体、結着が抑制された冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着を防止する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の要旨構成は以下の通りである。
[1]冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を内容物として含む魚肉包装体。
[2]前記ガスが酸素を30体積%以上含む、[1]の魚肉包装体。
[3]前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、[1]または[2]の魚肉包装体。
[4]前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が1~22mmである、[1]~[3]のいずれかの魚肉包装体。
[5]前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である、[1]~[4]のいずれかの魚肉包装体。
[6]前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、[1]~[5]のいずれかの魚肉包装体。
[7]ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む包装容器により包装されている、[1]~[8]のいずれかの魚肉包装体。
[8]酸素を22体積%以上含むガスに覆われた冷凍ミンチ魚肉。
[9]前記ガスが酸素を30体積%以上含む、[8]の冷凍ミンチ魚肉。
[10]前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、[8]または[9]の冷凍ミンチ魚肉。
[11]数平均短径が1~22mmである、[8]~[10]のいずれかの冷凍ミンチ魚肉。
[12]前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である、[8]~[11]のいずれかの冷凍ミンチ魚肉。
[13]タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、[8]~[12]のいずれかの冷凍ミンチ魚肉。
[14]冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である、冷凍ミンチ魚肉。
[15]結着していない冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が3~7mmであり、前記結着した冷凍ミンチ魚肉は、目開き7~8mmのふるいを通過しないものである、[14]の冷凍ミンチ魚肉。
[16]前記ふるいは、直径30cm、高さ7cmの寸法を有し、最小目開き7mm、最大目開き8mmのステンレス製の円形ふるいである、[15]の冷凍ミンチ魚肉。
[17]前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、[14]~[16]のいずれかの冷凍ミンチ魚肉。
[18]冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を共存させる、冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法。
[19]前記ガスが酸素を30体積%以上含む、[18]の方法。
[20]前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、[18]または[19]の方法。
[21]前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が1~22mmである、[18]~[20]のいずれかの方法。
[22]前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、[18]~[21]のいずれかの方法。
[23]前記冷凍ミンチ魚肉および前記ガスを包装容器内で共存させる、[18]~[22]のいずれかの方法。
[24]前記包装容器が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む、[23]の方法。
[25]酸素を22体積%以上含むガスの、冷凍ミンチ魚肉の結着防止のための使用。
[26]前記ガスが酸素を30体積%以上含む、[25]の使用。
[27]前記ガスが酸素以外の気体を含む場合、前記ガスが不活性ガスを含む、[25]または[26]の使用。
[28]前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が1~22mmである、[25]~[27]のいずれかの使用。
[29]前記冷凍ミンチ魚肉は、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉である、[25]~[28]のいずれかの使用。
[30]前記ガスを包装容器内で前記冷凍ミンチ魚肉と共存させる、[25]~[29]のいずれかの使用。
[31]前記包装容器が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む、[30]の使用。
【発明を実施するための形態】
【0007】
牛肉、豚肉および鶏肉等の畜肉を包装する際に、酸素を含むガスを封入することは従来行われている。これは、酸素を畜肉の色素タンパク質と結合させることにより、畜肉の赤色の色味を保持することを目的とするものである。しかしながら、酸素は脂質を酸化し、著しい品質劣化の原因ともなるため、特に表面積の多いミンチ肉の包装において酸素を含むガスの封入は行われていない。また、魚肉、特に白身魚の魚肉においては、畜肉のように赤色の色味を保持する必要性がない。
【0008】
このような状況の下、本発明者は、冷凍ミンチ魚肉と、酸素を一定以上含むガスと、をあえて共存させることにより、冷凍ミンチ魚肉の結着が抑制されることを見出し、本開示に係る魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法に到達した。
【0009】
酸素を22体積%以上含むガスにより冷凍ミンチ魚肉の結着が抑制される理由は必ずしも定かではないが、冷凍ミンチ魚肉の粒子同士の結着に関与するとみられる水素結合が、高い濃度で存在する酸素により阻害されることが一因であると推測される。以下、本開示に係る魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法について詳細に説明する。
【0010】
[魚肉包装体]
本開示の魚肉包装体は、冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を内容物として含む。
【0011】
前記ガスは、酸素を25体積%以上含んでいてもよく、酸素を30体積%以上含んでいてもよく、酸素を35体積%以上含んでいてもよく、酸素を40体積%以上含んでいてもよく、酸素を45体積%以上含んでいてもよく、酸素を50体積%以上含んでいてもよく、酸素を55体積%以上含んでいてもよく、酸素を60体積%以上含んでいてもよく、酸素を65体積%以上含んでいてもよく、酸素を70体積%以上含んでいてもよく、酸素を75体積%以上含んでいてもよく、酸素を80体積%以上含んでいてもよく、酸素を85体積%以上含んでいてもよく、酸素を90体積%以上含んでいてもよく、酸素を95体積%以上含んでいてもよく、酸素を100体積%含んでいてもよい。前記ガスが酸素を適切な量で含むことにより、冷凍ミンチ魚肉の結着が抑制される。
【0012】
なお、ここでいう体積%は、それぞれ異なる純物質からなる複数の気体(例えば、酸素のみからなる気体と、二酸化炭素のみからなる気体)を混合する前におけるそれぞれの気体の体積を基に算出されるものである。
【0013】
前記ガスは、酸素以外の気体を含んでいてもよい。その場合、前記ガスは、不活性ガスを含んでいてもよい。ここで、「不活性ガス」とは、冷凍ミンチ魚肉同士の結着性に作用しないか、またはほとんど作用しない気体を示す。不活性ガスとしては、例えば二酸化炭素、窒素、水素;ヘリウム、アルゴン等の貴ガス(希ガス)、およびこれらの混合気体などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
前記ガスは、二酸化炭素、窒素、および貴ガス(希ガス)からなる群から選択される少なくとも1つの気体を含んでいてもよく、二酸化炭素および/または窒素を含んでいてもよい。コストの観点から、前記ガスは、酸素と二酸化炭素のみを含んでいてもよい。
【0015】
不活性ガスは、前記ガスから酸素を除いた残りのガスのうち50体積%以上含まれていてもよく、60体積%以上含まれていてもよく、70体積%以上含まれていてもよく、80体積%以上含まれていてもよく、90体積%以上含まれていてもよく、100体積%含まれていてもよい。
【0016】
本開示の魚肉包装体内における前記ガスの含有量は特に制限されないが、典型的には、冷凍ミンチ魚肉の粒子間の間隙を埋める程度の量であればよい。前記ガスの含有量が適切な範囲内であることにより、輸送コストを抑制しつつ、冷凍ミンチ魚肉の結着を抑制できる。
【0017】
前記冷凍ミンチ魚肉の大きさは、ミンチ肉として典型的な範囲であれば特に制限されない。前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径は、1mm以上であってもよく、2mm以上であってもよく、3mm以上であってもよい。前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径は、22mm以下であってもよく、15mm以下であってもよく、7mm以下であってもよい。
【0018】
前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径の上限値および下限値は、本開示の範囲で任意に組み合わせることができる。すなわち、前記冷凍ミンチ魚肉の数平均短径は、例えば1~22mmであってもよく、2~15mmであってもよく、3~7mmであってもよい。
【0019】
ここで、前記冷凍ミンチ魚肉の「短径」とは、冷凍ミンチ魚肉の三次元的な寸法の中で最も短い径を示す。典型的には、冷凍ミンチ魚肉が略円柱形状の場合、その軸方向に直交する断面の直径が短径となる場合が多いが、この場合に限られない。
【0020】
前記冷凍ミンチ魚肉は、ミンチ状にした魚肉を冷凍したものであれば特に制限されない。魚肉としては、例えば、タラ目、ヒメ目、ナマズ目、サケ目、ニシン目、ダツ目、キンメダイ目、カサゴ目、スズキ目、カワカマス目およびカレイ目からなる群より選択される少なくとも1つに属する魚の魚肉を用いてもよい。
【0021】
タラ目に属する魚としては、例えばマダラ、スケトウダラ、ミナミダラ、メルルーサ、ホキなどが挙げられる。ヒメ目に属する魚としては、例えばヒメ、マエソ、ワニエソ、オキエソなどが挙げられる。ナマズ目に属する魚としては、例えばアメリカナマズ、パンガシウスなどが挙げられる。
【0022】
サケ目に属する魚としては、例えばギンザケ、ベニザケ、キングサーモン、カラフトマス、ニジマス、イワナ、ブルックトラウト、アメマス、カワヒメマスなどが挙げられる。ニシン目に属する魚としては、例えばマイワシ、ニシン、カタクチイワシ、サッパ、コノシロなどが挙げられる。
【0023】
ダツ目に属する魚としては、例えばサンマ、トビウオ、サヨリなどが挙げられる。キンメダイ目に属する魚としては、例えばキンメダイ、ナンヨウキンメなどが挙げられる。カサゴ目に属する魚としては、例えばカサゴ、メバル、マゴチ、アイナメ、ギンダラなどが挙げられる。
【0024】
スズキ目に属する魚としては、例えばスズキ、マグロ、ブリ、ヒメジ、ナイルティラピア、スギ、マアジ、タチウオ、シイラ、マサバ、ゴマサバ、カツオ、マダイ、イトヨリダイ、シログチなどが挙げられる。カワカマス目に属する魚としては、例えばノーザンパイクなどが挙げられる。カレイ目に属する魚としては、例えばマガレイ、マコガレイ、カラスガレイ、タイヘイヨウオヒョウ、ヒラメなどが挙げられる。
【0025】
典型的には、酸素により劣化しうる脂質を多く含まない魚が用いられる。また、典型的には、白身魚が用いられる。例えば、タラ目に属するスケトウダラ、ミナミダラおよびホキ;ヒメ目に属するマエソ、ワニエソ、オキエソなどが用いられる。冷凍ミンチ魚肉は、例えば国際公開第2017/170420号に開示された方法により、肉挽き機等を用いて製造できる。
【0026】
本開示の魚肉包装体においては、前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下であってもよく、9質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、4質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量は、典型的には、0.01質量%以上とすることができる。
【0027】
本開示の魚肉包装体は、冷凍食品の包装容器として通常用いられる包装容器により包装されていればよい。例えば、本開示の魚肉包装体は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、エチレン-ビニルアルコール共重合体、およびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つの素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む包装容器により包装されていてもよい。酸素の放出を防ぐため、酸素バリア性の高い素材からなるトレーおよび/またはフィルムを含む包装容器により包装されていてもよい。
【0028】
前記包装容器の大きさは特に制限されないが、市販品であれば、例えば30cm×50cm×5cm以下の大きさであってもよい。前記包装容器の構造は特に制限されないが、例えば、上面に開口部を有する略直方体状または上面に開口部を有する略四角錐台状のトレーの当該開口部を、フィルムが閉塞した構造であってもよい。その際、フィルムをトレーに密着しやすくするため、トレーの上面の前記開口部の周囲にはフランジ部が設けられていてもよい。また、前記包装容器は、単に略長方形の袋状に形成されたフィルムであってもよい。
【0029】
本開示の魚肉包装体は、例えば、ガス置換包装可能な食品包装装置を用い、冷凍ミンチ魚肉を収容した包装容器内の大気を除いた後に、酸素を22体積%以上含むガスを当該包装容器内に封入し、熱シールすることで製造できる。包装時における冷凍ミンチ魚肉の温度は、典型的には0℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、または-20℃以下とすることができる。本開示の魚肉包装体は、典型的には0℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、または-20℃以下で保存される。
【0030】
[冷凍ミンチ魚肉1]
本開示の冷凍ミンチ魚肉の一つ(冷凍ミンチ魚肉1)は、酸素を22体積%以上含むガスに覆われている。ここで、「酸素を22体積%以上含むガスに覆われている」とは、冷凍ミンチ魚肉の粒子間の間隙を、前記ガスが充填していることを示す。冷凍ミンチ魚肉1の実施形態としては、前記ガスと冷凍ミンチ魚肉とが包装容器により包装されている形態に限られず、製造ラインにおいて冷凍ミンチ魚肉が少なくとも一時的に前記ガスの雰囲気下に置かれている形態、食品売り場等において冷凍ミンチ魚肉が少なくとも一時的に前記ガスの雰囲気下に置かれている形態などが挙げられる。
【0031】
前記ガスが含む酸素の量、前記ガスが酸素以外の気体を含む場合の当該気体の種類や割合、前記冷凍ミンチ魚肉の大きさや数平均短径、前記冷凍ミンチ魚肉に用いられる魚の種類、および前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量については、魚肉包装体について上記した内容をそのまま適用できる。
【0032】
冷凍ミンチ魚肉1は、冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を公知の方法により混合させることなどにより製造できる。当該混合の際の冷凍ミンチ魚肉の温度は、典型的には0℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、または-20℃以下とすることができる。
【0033】
[冷凍ミンチ魚肉2]
本開示の冷凍ミンチ魚肉の他の一つ(冷凍ミンチ魚肉2)は、冷凍ミンチ魚肉2の全量に対する、結着した冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である。冷凍ミンチ魚肉2においては、冷凍ミンチ魚肉2の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量が9質量%以下であってもよく、8質量%以下であってもよく、7質量%以下であってもよく、6質量%以下であってもよく、5質量%以下であってもよく、4質量%以下であってもよく、3質量%以下であってもよい。前記冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した前記冷凍ミンチ魚肉の量は、典型的には、0.01質量%以上とすることができる。
【0034】
前記結着した冷凍ミンチ魚肉の量は、例えば、ふるい法によって測定することができる。例えば、結着していない冷凍ミンチ魚肉の数平均短径が3~7mmである場合、前記結着した冷凍ミンチ魚肉は、目開き7~8mmのふるい(最小目開き7mm、最大目開き8mmのふるい)を通過しないものとして判断してもよい。目開き7~8mmのふるいとしては、「千吉(登録商標)ステンレス土フルイ 30CM 網目サイズ荒目」(藤原産業株式会社製)などのふるい(直径30cm、高さ7cmの寸法を有するステンレス製の円形ふるい)を用いてもよい。
【0035】
冷凍ミンチ魚肉2は、冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を公知の方法により混合させることなどで製造できる。当該混合の際の冷凍ミンチ魚肉の温度は、典型的には0℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、または-20℃以下とすることができる。
【0036】
前記ガスが含む酸素の量、前記ガスが酸素以外の気体を含む場合の当該気体の種類や割合、前記冷凍ミンチ魚肉の大きさや数平均短径、および前記冷凍ミンチ魚肉に用いられる魚の種類については、魚肉包装体について上記した内容をそのまま適用できる。
【0037】
[冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法]
本開示の冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法においては、冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を共存させる。
【0038】
前記ガスが含む酸素の量、前記ガスが酸素以外の気体を含む場合の当該気体の種類や割合、前記冷凍ミンチ魚肉の大きさや数平均短径、および前記冷凍ミンチ魚肉に用いられる魚の種類については、魚肉包装体について上記した内容をそのまま適用できる。冷凍ミンチ魚肉と前記ガスを共存させる際の冷凍ミンチ魚肉の温度は、典型的には0℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、または-20℃以下とすることができる。
【0039】
本開示の冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法の実施形態は特に制限されないが、例えば、製造ラインにおいて前記冷凍ミンチ魚肉を少なくとも一時的に前記ガスの雰囲気下に置く形態、スーパーマーケット等の食品売り場において前記冷凍ミンチ魚肉を少なくとも一時的に前記ガスの雰囲気下に置く形態、および、前記冷凍ミンチ魚肉および前記ガスを包装容器内で共存させる形態などが挙げられる。前記冷凍ミンチ魚肉および前記ガスを包装容器内で共存させる形態を採用する場合、当該包装容器については、魚肉包装体について上記した内容をそのまま適用できる。
【0040】
[酸素を22体積%以上含むガスの特定の使用方法]
本開示は、酸素を22体積%以上含むガスを、冷凍ミンチ魚肉の結着防止のために使用することをも開示する。
【0041】
使用する前記ガスが含む酸素の量、使用する前記ガスが酸素以外の気体を含む場合の当該気体の種類や割合、前記冷凍ミンチ魚肉の大きさや数平均短径、および前記冷凍ミンチ魚肉に用いられる魚の種類については、魚肉包装体について上記した内容をそのまま適用できる。前記ガスを使用する際の冷凍ミンチ魚肉の温度は、典型的には0℃以下、-3℃以下、-5℃以下、-10℃以下、または-20℃以下とすることができる。
【0042】
酸素を22体積%以上含むガスを使用する際の実施形態は特に制限されないが、例えば、製造ラインにおいて前記冷凍ミンチ魚肉を少なくとも一時的に前記ガスの雰囲気下に置く形態、食品売り場等において前記冷凍ミンチ魚肉を少なくとも一時的に前記ガスの雰囲気下に置く形態、および、前記冷凍ミンチ魚肉および前記ガスを包装容器内で共存させる形態などが挙げられる。前記冷凍ミンチ魚肉および前記ガスを包装容器内で共存させる形態を採用する場合、当該包装容器については、魚肉包装体について上記した内容をそのまま適用できる。
【0043】
本明細書において、本開示の各態様に関する一実施形態中で説明された各特定事項は、任意に組み合わせて新たな実施形態としてもよく、このような新たな実施形態も、本開示の各態様に包含され得るものとして理解されるべきである。
【実施例
【0044】
以下、本開示を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例等により何ら限定されない。
【0045】
国際公開第2017/170420号の開示に基づき、短径が3~7mmの略円柱形状の粒子を90質量%以上含有し、数平均短径が3~7mmの範囲に収まるスケトウダラの冷凍ミンチ魚肉を製造した。食品包装装置としてULMA社製のTFS-100を用い、冷凍ミンチ魚肉を収容した魚肉包装体を製造した。包装容器の素材としては、底材としてポリエチレン、ポリアミド、およびエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む多層フィルム(三菱ケミカル株式会社製 ダイアミロンMF C6タイプ、厚み150μm)、蓋材としてポリエチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、およびエチレン-ビニルアルコール共重合体を含む多層フィルム(三菱ケミカル株式会社製 ダイアミロンL367、厚み80μm)を用いた。その際、15hPa(15mbar)に減圧した後に、以下の表1に記載するガスA~ガスCを、0.4MPa以下の封入圧力にて当該包装容器内に封入し、深絞りで熱シールした。なお、包装時の雰囲気温度は18℃、冷凍ミンチ魚肉の温度は-5~-3℃であった。また、比較例1として、包装容器に冷凍ミンチ魚肉を投入後、軽く大気を抜いて密封した従来の魚肉包装体を製造した。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1~3および比較例1の魚肉包装体を-5℃で14日間保存した後、魚肉包装体を開封し、目開き7~8mmのふるい(藤原産業株式会社製「千吉(登録商標)ステンレス土フルイ 30CM 網目サイズ荒目」)に冷凍ミンチ魚肉を投入した。ふるいを通過しない粒子を結着した粒子と判断し、その割合を計算したところ、以下の表2の通りであった。また、いずれの実施例においても、酸素による脂質への影響は特に見られなかった。なお、当該影響の有無は、魚肉の脂質が酸化する際に発生する酸化臭で判断した。
【0048】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本開示の魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法は、冷凍ミンチ魚肉を用いる食品の産業分野において好適に利用可能である。
【要約】
内容物である冷凍ミンチ魚肉の結着が抑制された魚肉包装体、冷凍ミンチ魚肉の結着が抑制された冷凍ミンチ魚肉、および冷凍ミンチ魚肉の結着を防止する方法の提供。
冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を内容物として含む魚肉包装体;酸素を22体積%以上含むガスに覆われた冷凍ミンチ魚肉;冷凍ミンチ魚肉の全量に対する、結着した冷凍ミンチ魚肉の量が9.5質量%以下である、冷凍ミンチ魚肉;冷凍ミンチ魚肉と、酸素を22体積%以上含むガスと、を共存させる、冷凍ミンチ魚肉の結着防止方法。