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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】エステル化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/317 20060101AFI20231016BHJP
   C07C 67/29 20060101ALI20231016BHJP
   C07C 69/67 20060101ALI20231016BHJP
   C07C 69/68 20060101ALI20231016BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231016BHJP
【FI】
C07C67/317
C07C67/29
C07C69/67
C07C69/68
C07B61/00 300
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2022524536
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019162
(87)【国際公開番号】W WO2021235518
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2020088891
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】徳永 信
(72)【発明者】
【氏名】村山 美乃
(72)【発明者】
【氏名】山本 英治
(72)【発明者】
【氏名】シム ジュヨン
(72)【発明者】
【氏名】森 陽暉
(72)【発明者】
【氏名】白倉 那桜
(72)【発明者】
【氏名】塚本 真也
(72)【発明者】
【氏名】西澤 尚平
(72)【発明者】
【氏名】北川 和宏
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-247703(JP,A)
【文献】特開平5-287282(JP,A)
【文献】特開2010-124774(JP,A)
【文献】特表2006-508162(JP,A)
【文献】SCHMIDT, Thomas et al.,Total Synthesis of Carolacton, a Highly Potent Biofilm Inhibitor,Angewandte Chemie International Edition,2012年,Vol. 51,pp. 1063-1066,Supporting Information: Description of syntheses, S3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子と含む第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させる第1工程と、
前記第1エステル化合物と、アルコールとを、第2触媒の存在下で反応させることにより、一般式(3)で表される乳酸エステルと一般式(4)で表される酢酸エステルとを生成させる第2工程と、を含むエステル化合物の製造方法。
【化1】

(式(1)~式(4)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)および式(2)におけるRは同じである。式(3)および式(4)におけるRは同じである。)
【化2】

(式(5)において、R 、R は、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R ~R は、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記第2工程の前に、前記第1工程後の反応溶液中に含まれる未反応の酢酸ビニルを還元して、酢酸エステルに変換する中間工程を含む、請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項3】
前記中間工程において、前記第1工程後の反応溶液中に含まれるアセトアルデヒドを水素化して、エタノールに変換し、
前記第2工程において、前記中間工程後の反応溶液中の前記第1エステル化合物と、前記エタノールとを、前記第2触媒の存在下で反応させる、請求項2に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表される1級または2級アルコールがエタノールである、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項5】
前記周期律表第10族元素がPdである、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項6】
前記第1触媒が、酸性化合物を含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項7】
前記酸性化合物が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、アリールスルホン酸のピリジニウム塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項8】
前記第1触媒が、窒素原子含有複素環化合物を含む、請求項1~請求項7のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項9】
前記窒素原子含有複素環化合物が、ピリジンとピコリンから選ばれる少なくとも1種である、請求項8に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項10】
前記第2触媒が、炭酸カリウム、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、ナトリウム-t-ブトキサイド、カリウムエトキサイド、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、モノ-n-ブチル錫オキサイド、ジ-n-ブチル錫オキサイド、ジ-n-ブチル錫ラウレート、ジ-n-オクチル錫オキサイドから選ばれる少なくとも1種である、請求項1~請求項9のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項11】
前記第1工程の前に、プラスチックまたはバイオ原料を熱分解することにより、一酸化炭素を生成する一酸化炭素生成工程を有する、請求項1~請求項10のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項12】
前記エタノールが、植物に由来するバイオエタノールである、請求項4に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項13】
酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させる第1工程を有し、
前記第1触媒が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、下記一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子とを含む、エステル化合物の製造方法。
【化3】

(式(1)および式(2)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)および式(2)におけるRは同じである。)
(式(5)において、R、Rは、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。)
【請求項14】
一般式(1)で表される1級または2級アルコールがエタノールである、請求項13に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項15】
前記周期律表第10族元素がPdである、請求項13または請求項14に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項16】
一般式(5)において、RおよびRがシクロヘキシル基であり、RおよびRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子である、請求項13請求項15のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項17】
前記第1触媒が、酸性化合物を含む、請求項13請求項16のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項18】
前記酸性化合物が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、アリールスルホン酸のピリジニウム塩から選ばれる少なくとも1種である、請求項17に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項19】
前記第1触媒が、窒素原子含有複素環化合物を含む、請求項13請求項18のいずれか一項に記載のエステル化合物の製造方法。
【請求項20】
前記窒素原子含有複素環化合物が、ピリジンとピコリンから選ばれる少なくとも1種である、請求項19に記載のエステル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エステル化合物の製造方法に関する。
本願は、2020年5月21日に、日本に出願された特願2020-088891号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
エステル化合物は、溶剤、香料、乳化剤、保湿剤、医薬品などの中間原料などとして用いられている。最近、エステル化合物である乳酸エステルは、レジストおよび塗料の溶剤、洗浄剤として注目されている。
【0003】
特許文献1には、ヒドロキシル基の供給源および、(a)第VIIIB族の金属もしくはその化合物、および(b)特定の二座ホスフィンを組み合わせた触媒系の存在下で、酢酸ビニルを一酸化炭素と反応させる酢酸ビニルのカルボニル化の方法が開示されている。
特許文献2には、周期律表第8族金属化合物、リン配位子及び高分子スルホン酸化合物の存在下に、置換ビニル化合物と、アルコール化合物及び一酸化炭素を反応させるプロピオン酸エステル誘導体の製造方法が開示されている。
特許文献3には、オレフィン性不飽和化合物と、アルコール類及び一酸化炭素とを、10族金属化合物、中性助触媒の少なくとも一種の存在下に反応させるプロピオン酸エステル誘導体の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献4には、(a)エノ-ルエステルを、パラジウム触媒および溶媒の存在下で、一酸化炭素およびヒドロキシル化合物と反応させてカルボニル化エステルを得る工程と、(b)カルボニル化エステルを酸触媒により加水分解して2-ヒドロキシカルボン酸を得る工程を含む2-ヒドロキシカルボン酸の製造方法が記載されている。特許文献4には、エノ-ルエステルとして酢酸ビニル、パラジウム触媒としてジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)(PdCl(PPh)、ヒドロキシル化合物としてメタノール、2-ヒドロキシカルボン酸として乳酸が記載されている。
【0005】
特許文献5には、(1)エノ-ルアシレートを、一酸化炭素およびヒドロキシル化合物と反応させてアシルオキシエステルまたはヒドロキシエステルまたはその両方を製造する工程と、(2)(1)の生成物を加水分解して2-ヒドロキシ酸を製造する工程とからなる2-ヒドロキシ酸の製造法が記載されている。
特許文献6には、2つの炭素原子の間に不飽和共有結合を有する化合物を、ヒドロキシキル基の供給源および触媒系の存在下において、一酸化炭素と反応させる工程を含む方法が記載されている。特許文献6には、2つの炭素原子の間に不飽和共有結合を有する化合物として酢酸ビニルが記載されている。
【0006】
また、非特許文献1には、ピリジン誘導体のような塩基性助触媒の存在下、パラジウム錯体触媒を用いてオレフィン化合物(エノールエステル)をアルコール(メタノール)及び一酸化炭素と反応させる方法が開示されている。
非特許文献2には、パラジウム触媒とトリフェニルホスフィンのような単座配位子を用いた酢酸ビニルのメトキシカルボニル化反応が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2006-508162号公報
【文献】特開2005-247703号公報
【文献】特開2006-225282号公報
【文献】米国特許出願公開第2005/0143600号明細書
【文献】特開昭60-149544号公報
【文献】特開2015-110608号公報
【文献】特開2005-206468号公報
【文献】特開平5-287282号公報
【文献】特開2001-192675号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Bulletin of the Chemical Society of Japan、1996年、69巻、1337-1345頁
【文献】ARKIVOC、2012年、(iii)66-75頁
【文献】NEDO海外レポートNo.977(2006.4.26)58-60頁
【文献】化学プロセス集成、廃プラスチックのリサイクル-ガス化処理による原料化;[令和02年05月20日検索]インターネット<URL:http://www3.scej.org/education/gasifi.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のエステル化合物の製造方法は、乳酸エステルと酢酸エステルとを効率よく製造できなかった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、乳酸エステルおよび酢酸エステルを効率よく製造できるエステル化合物の製造方法を提供することを目的の一つとする。
また、本発明は、エステル化合物を高収率で製造できるエステル化合物の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した。
その結果、酢酸ビニルと特定のアルコールと一酸化炭素とを反応させて特定のエステル化合物を生成させ、これをアルコールと反応させればよいことを見出し、本発明を想到した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0011】
[1] 酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させる第1工程と、
前記第1エステル化合物と、アルコールとを、第2触媒の存在下で反応させることにより、一般式(3)で表される乳酸エステルと一般式(4)で表される酢酸エステルとを生成させる第2工程と、を含むエステル化合物の製造方法。
【0012】
【化1】

(式(1)~式(4)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)および式(2)におけるRは同じである。式(3)および式(4)におけるRは同じである。)
【0013】
[2] 前記第2工程の前に、前記第1工程後の反応溶液中に含まれる未反応の酢酸ビニルを還元して、酢酸エステルに変換する中間工程を含む、[1]に記載のエステル化合物の製造方法。
[3] 前記中間工程において、前記第1工程後の反応溶液中に含まれるアセトアルデヒドを水素化して、エタノールに変換し、
前記第2工程において、前記中間工程後の反応溶液中の前記第1エステル化合物と、前記エタノールとを、前記第2触媒の存在下で反応させる、[2]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0014】
[4] 一般式(1)で表される1級または2級アルコールがエタノールである、[1]~[3]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[5] 前記第1触媒が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、有機ホスフィン配位子と、を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[6] 前記周期律表第10族元素がPdである、[5]に記載のエステル化合物の製造方法。
[7] 前記有機ホスフィン配位子が、単座有機ホスフィン配位子である、[5]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0015】
[8] 前記有機ホスフィン配位子が、一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子である、[7]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0016】
【化2】

(式(5)において、R、Rは、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。)
【0017】
[9] 前記第1触媒が、酸性化合物を含む、[1]~[8]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[10] 前記酸性化合物が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、アリールスルホン酸のピリジニウム塩から選ばれる少なくとも1種である、[9]に記載のエステル化合物の製造方法。
[11] 前記第1触媒が、窒素原子含有複素環化合物を含む、[1]~[10]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[12] 前記窒素原子含有複素環化合物が、ピリジンとピコリンから選ばれる少なくとも1種である、[11]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0018】
[13] 前記第2触媒が、炭酸カリウム、ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、ナトリウム-t-ブトキサイド、カリウムエトキサイド、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン、モノ-n-ブチル錫オキサイド、ジ-n-ブチル錫オキサイド、ジ-n-ブチル錫ラウレート、ジ-n-オクチル錫オキサイドから選ばれる少なくとも1種である、[1]~[12]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
【0019】
[14] 前記第1工程の前に、プラスチックまたはバイオ原料を熱分解することにより、一酸化炭素を生成する一酸化炭素生成工程を有する、[1]~[13]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[15] 前記エタノールが、植物に由来するバイオエタノールである、[4]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0020】
[16] 酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させる第1工程を有し、
前記第1触媒が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、下記一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子とを含む、エステル化合物の製造方法。
【0021】
【化3】

(式(1)および式(2)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)および式(2)におけるRは同じである。)
(式(5)において、R、Rは、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。)
【0022】
[17] 一般式(1)で表される1級または2級アルコールがエタノールである、[16]に記載のエステル化合物の製造方法。
[18] 前記周期律表第10族元素がPdである、[16]または[17]に記載のエステル化合物の製造方法。
[19] 一般式(5)において、RおよびRがシクロヘキシル基であり、RおよびRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子である、[16]~[18]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
【0023】
[20] 前記第1触媒が、酸性化合物を含む、[16]~[19]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[21] 前記酸性化合物が、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、アリールスルホン酸のピリジニウム塩から選ばれる少なくとも1種である、[20]に記載のエステル化合物の製造方法。
【0024】
[22] 前記第1触媒が、窒素原子含有複素環化合物を含む、[16]~[21]のいずれかに記載のエステル化合物の製造方法。
[23] 前記窒素原子含有複素環化合物が、ピリジンとピコリンから選ばれる少なくとも1種である、[22]に記載のエステル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明のエステル化合物の製造方法は、酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させ、生成した第1エステル化合物と、アルコールとを、第2触媒の存在下で反応させることにより、一般式(3)で表される乳酸エステルと一般式(4)で表される酢酸エステルとを生成させる。このため、本発明のエステル化合物の製造方法によれば、一般式(3)で表される乳酸エステルおよび一般式(4)で表される酢酸エステルを効率よく製造できる。
【0026】
本発明のエステル化合物の製造方法は、酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させる工程を有し、第1触媒が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子とを含む。このことにより、上記製造方法によれば、一般式(2)で示される第1エステル化合物を高収率で製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明のエステル化合物の製造方法について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
本実施形態のエステル化合物の製造方法は、酢酸ビニルと、1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、第1エステル化合物を生成させる第1工程と、第1エステル化合物と、アルコールとを、第2触媒の存在下で反応させることにより、乳酸エステルと酢酸エステルとを生成させる第2工程と、を含む。
本実施形態のエステル化合物の製造方法は、第2工程の前に、第1工程後の反応溶液中に含まれる未反応の酢酸ビニルを還元して、酢酸エステルに変換する中間工程を含んでいてもよい。
【0028】
〔第1工程〕
第1工程では、酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、一酸化炭素とを、第1触媒の存在下で反応させることにより、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させる。
第1工程は、酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと、第1触媒と、溶媒とを仕込んで、一酸化炭素ガス雰囲気とされた反応容器内で、第1工程における反応(アルコキシカルボニル化反応)を行うことが好ましい。
【0029】
【化4】
(式(1)および式(2)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)および式(2)におけるRは同じである。)
【0030】
「1級または2級アルコール」
一般式(1)で示される1級または2級アルコールにおけるRは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。具体的には、一般式(1)で示される1級または2級アルコールとして、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、2-エチルヘキサノール、シクロヘキサンメタノール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0031】
本実施形態のエステル化合物の製造方法を用いて、Rがメチル基である一般式(2)で示される第1エステル化合物を製造する場合、一般式(1)で示される1級または2級アルコールとして、Rがメチル基であるメタノールを用いる。
がエチル基である一般式(2)で示される第1エステル化合物を製造する場合、一般式(1)で示される1級または2級アルコールとして、Rがエチル基であるエタノールを用いる。
がn-ブチル基である一般式(2)で示される第1エステル化合物を製造する場合、一般式(1)で示される1級または2級アルコールとして、Rがn-ブチル基である1-ブタノールを用いる。
メタノール、エタノールまたは1-ブタノールは、酢酸ビニルとの反応性が高いため、好ましい。
一般式(1)で示される1級または2級アルコールとしては、メタノールまたはエタノールを用いることが好ましく、エタノールを用いることが最も好ましい。
【0032】
一般式(1)で示される1級または2級アルコールがエタノールである場合、エタノールとしては、植物に由来するバイオエタノールを用いることが好ましい。植物に由来するバイオエタノールとしては、市販品を用いてもよい。
植物に由来するバイオエタノールとしては、例えば、とうもろこし、砂糖などの可食原料を用いて製造したものが挙げられる。とうもろこしは主に家畜の飼料であり、砂糖は人間の食料である。
植物に由来するバイオエタノールとしては、木材、とうもろこしの茎などのリグノセルロースを含むバイオマスを原料として製造したものを使用してもよい。リグノセルロースは、豊富な資源である。リグノセルロースは、そのままでは大変分解しにくい。このため、リグノセルロースをバイオエタノールの原料として使用する場合、まず、高温・高圧処理、または濃硫酸、濃リン酸などを用いた酸処理を行うことにより、リグノセルロースに含まれるセルロースとリグニンを分離する。その後、分離したセルロースを、セルラーゼと言う特殊な酵素を用いて糖に分解する。分解した糖は、通常の発酵プロセスにより、エタノールの原料として使用できる(例えば、非特許文献3参照)。また、リグノセルロースをバイオエタノールの原料として用いる別の方法として、薬品を使用しない方法がある。例えば、木材などのバイオマスを、亜臨界あるいは超臨界の状態の水に接触させることにより加水分解を行い、糖類を得る方法がある(例えば、特許文献7参照。)。
本実施形態では、エタノールとして、これらの方法を用いて製造された植物に由来するバイオエタノールを用いることが好ましい。
【0033】
本実施形態のエステル化合物の製造方法において、酢酸ビニルの使用量(仕込み量)に対する一般式(1)で示される1級または2級アルコールの使用量(仕込み量)は、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できるため、モル比(酢酸ビニル:1級または2級アルコール)で1:0.5~1:100であることが好ましく、1:1~1:10であることが好ましく、1:1.2~1:5であることがさらに好ましい。
【0034】
「一酸化炭素」
本実施形態では、一酸化炭素として、一酸化炭素を含むガスを用いることが好ましい。
一酸化炭素を含むガスは、一酸化炭素のみを含むガスであってもよいし、一酸化炭素の他に、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、水素ガスなど含むガスであってもよい。一酸化炭素を含むガスは、空気、酸素などの酸化性ガスを含まないことが好ましい。
【0035】
好ましい実施形態では、一酸化炭素として、プラスチックまたはバイオ原料を熱分解して得たものを用いることが好ましい。この場合、第1工程の前に、プラスチックまたはバイオ原料を熱分解して一酸化炭素を生成させる工程(一酸化炭素生成工程)を行う。
プラスチックとしては、廃プラスチックを用いることが好ましい。廃プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、塩化ビニル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等のエンジニアリングプラスチック、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などからなるものが挙げられる。
プラスチックを熱分解して一酸化炭素を生成させる方法としては、部分酸化法による廃プラスチックガス化プロセス(例えば、非特許文献4参照)を用いることができる。
【0036】
バイオ原料としては、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどを含む木質系バイオマスおよび草木系バイオマスなどの植物由来のバイオマスなどが挙げられる。
バイオ原料を熱分解して一酸化炭素を生成させる方法としては、例えば、特許文献8および特許文献9に記載された方法を用いることができる。
【0037】
特許文献8に記載された方法では、有機物を主体とする廃棄物の一部を部分酸化して、得られる熱量を水性ガス化ゾーンに供給する。水性ガス化ゾーンにおいて、残りの廃棄物を約800~1000℃に加熱し、水蒸気によりガス化してHとCOの濃度の高いガスを製造する。この方法では、他の燃料を用いることなく、HとCOの濃度の高いガスを製造できる。
特許文献9に記載された方法では、ごみを加熱することによりチャーを製造し、ごみ焼却設備における廃熱を利用して蒸気を製造する。チャーをシャフト炉に充填して通電加熱する。それと共に、蒸気をシャフト炉に供給して、水性ガス化反応により一酸化炭素と水素からなる改質ガスを製造する。この方法では、COを含有せず、化石燃料の代替燃料として用いることができ、高カロリーでクリーンな改質ガスが得られる。
【0038】
第1工程の反応時における一酸化炭素の使用量は、例えば、酢酸ビニルと一般式(1)で示される1級または2級アルコールとを含む反応溶液を仕込んで、一酸化炭素を含むガス雰囲気とされた反応容器内の分圧が、0.05~50MPaとなる範囲内であることが好ましく、0.1~30MPaとなる範囲内であることが好ましく、1~6MPaとなる範囲内であることがさらに好ましい。反応時における上記反応容器内の一酸化炭素の分圧は、1~6MPaの範囲内で維持されるように、反応により消費された一酸化炭素を補いながら行うことが特に好ましい。反応時における上記反応容器内の一酸化炭素の分圧が0.05MPa以上であると、反応がスムーズに進行する。反応時における上記反応容器内の一酸化炭素の分圧は、反応を促進させるために、高いことが好ましい。しかし、反応時の一酸化炭素の分圧を50MPa超とするには、高価な装置を使用する必要がある。反応時の一酸化炭素の分圧を50MPa以下とすることにより、工業的に適した装置および方法を用いて一般式(2)で示される第1エステル化合物を製造できる。
【0039】
「第1エステル化合物」
一般式(2)で示される第1エステル化合物におけるRは、一般式(1)で示される1級または2級アルコールにおけるRと同じである。第1エステル化合物におけるRは、第1工程を行うことによって高収率および高選択率で第1エステル化合物が生成されるため、メチル基、エチル基、n-ブチル基から選ばれるいずれかであることが好ましく、メチル基またはエチル基であることがより好ましい。
【0040】
「第1触媒」
第1触媒は、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、有機ホスフィン配位子と、を含むものであることが好ましい。
第1触媒は、酸性化合物を含むことがより好ましい。本明細書において「酸性化合物」とは、ブレンステッド酸、ブレンステッド酸の塩、またはルイス酸を意味する。酸性化合物は、好ましくは、ブレンステッド酸またはブレンステッド酸の塩である。
また、第1触媒は、窒素原子含有複素環化合物を含むことがより好ましい。
本実施形態において、第1触媒として使用する酸性化合物が、窒素原子含有複素環を有する化合物である場合には、酸性化合物が、窒素原子含有複素環化合物を兼ねることができる。窒素原子含有複素環化合物を兼ねる酸性化合物としては、例えば、ピコリン酸が挙げられる。
【0041】
周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物としては、例えば、Ni、Pd、Ptから選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物が挙げられる。
ニッケル(Ni)を含む化合物としては、例えば、塩化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、から選ばれる少なくとも1種類の0価または2価のニッケル化合物が挙げられる。
パラジウム(Pd)を含む化合物としては、例えば、塩化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、硫酸パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba))、及び、ジパラジウム(0)トリス(ジベンジリデンアセトン)クロロホルム(Pd(dba)・CHCl)から選ばれる少なくとも1種類の0価または2価のパラジウム化合物が挙げられる。
白金(Pt)を含む化合物としては、例えば、テトラクロロ白金(II)酸、ヘキサクロリド白金(IV)酸、酢酸白金(II)、硫酸白金(IV)などが挙げられる。
これらの周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の中でも特に、パラジウムを含む化合物を用いることが好ましい。それは、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させるメトキシカルボニル化反応を効果的に促進させることができるため、第1工程の反応条件を温和な条件とすることが可能であるからである。
【0042】
これらの周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の中でも、反応速度と選択性の点でパラジウムを含む化合物を用いることが好ましく、特に、塩化パラジウム(II)、硝酸パラジウム(II)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)(Pd(acac))を用いることが好ましい。
第1触媒中に含まれる周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0043】
周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量は、酢酸ビニル1モル部に対して、0.00001~0.2モル部であることが好ましく、0.0001~0.1モル部であることがより好ましく、0.001~0.05モル部であることがさらに好ましい。周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量が、酢酸ビニル1モル部に対して0.00001モル部以上であると、触媒の反応活性種(ヒドリド錯体等)の濃度を確保できる。このため、一般式(2)で示される第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応が効果的に促進される。また、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の使用量が、0.2モル部以下であると、経済的に好ましい。
【0044】
有機ホスフィン配位子は、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物の有する元素に配位する。有機ホスフィン配位子は、単座有機ホスフィン配位子であることが好ましく、一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子であることがより好ましい。
【0045】
第1触媒が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物と、一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子とを含む場合、一般式(2)で示される第1エステル化合物を高収率で製造できる。
【0046】
【化5】
(式(5)において、R、Rは、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、炭素原子数6~9のアリール基であり、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R~Rは、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基であり、全て同一であってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。)
【0047】
一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子におけるR、Rは、炭素原子数1~6のアルキル基、炭素原子数6~9のシクロアルキル基、炭素原子数6~9のアリール基である。R、Rは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。R、Rは、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できるため、シクロヘキシル基であることが好ましく、特に、RとRの両方が、シクロヘキシル基であることが好ましい。
【0048】
一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子におけるR~Rは、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、炭素原子数2~8のジアルキルアミノ基である。R~Rは、全て同一であってもよいし、一部または全部が異なっていてもよい。特に、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できるため、RおよびRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子であることが好ましい。
【0049】
単座有機ホスフィン配位子としては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、トリ-m-トリルホスフィン、トリ-p-トリルホスフィン、トリ-2,4-キシリルホスフィン、トリ-2,5-キシリルホスフィン、トリ-3,5-キシリルホスフィン、トリス(p-tert-ブチルフェニル)ホスフィン、トリス(p-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(o-メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p-tert-ブトキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル-2-ピリジルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリ-n-オクチルホスフィン、トリ-tert-ブチルホスフィン、ジ-tert-ブチル(2-ブテニル)ホスフィン、ジ-tert-ブチル(3-メチル-2-ブテニル)ホスフィン、ジ-tert-ブチルフェニルホスフィン、下記式(5-1)で示されるSPhos、下記式(5-4)で示されるXPhos、下記式(5-5)で示されるMePhos、下記式(5-6)で示されるRuPhos、下記式(5-2)(5-3)で示される有機ホスフィン配位子、DavePhos、JohnPhos、BrettPhos、CPhos、AlPhosなどが挙げられる。
【0050】
【化6】
(式(5-1)において、Cyはシクロヘキシル基であり、Meはメチル基である。)
【0051】
【化7】
(式(5-2)において、Cyはシクロヘキシル基である。)
【0052】
【化8】
(式(5-3)において、Cyはシクロヘキシル基であり、Meはメチル基である。)
【0053】
【化9】
(式(5-4)において、Cyはシクロヘキシル基であり、iPrはイソプロピル基である。)
【0054】
【化10】
(式(5-5)において、Cyはシクロヘキシル基である。)
【0055】
【化11】
(式(5-6)において、Cyはシクロヘキシル基であり、iPrはイソプロピル基である。)
【0056】
一般式(5)で示される有機ホスフィン配位子としては、特に、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できるため、式(5-1)で示される有機ホスフィン配位子を用いることが好ましい。式(5-1)で示される有機ホスフィン配位子は、一般式(5)におけるRおよびRがシクロヘキシル基であり、RおよびRがメトキシ基であり、R~Rが水素原子である。
第1触媒中に含まれる有機ホスフィン配位子は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0057】
有機ホスフィン配位子の使用量は、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して0.5~5モル部であることが好ましく、1~4モル部であることがより好ましく、1.5~3モル部であることがさらに好ましい。有機ホスフィン配位子の使用量が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して0.5モル部以上であると、有機ホスフィンが有効に配位した触媒の反応活性種が効率的に生成する。その結果、アルコキシカルボニル化反応が促進され、第1エステル化合物がより高選択率で生成する。
【0058】
有機ホスフィン配位子の使用量が、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して5モル部以下であると、第1エステル化合物を生成させる反応を効果的に促進できる。これは、有機ホスフィン配位子が多すぎることによって、第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応において、一酸化炭素が周期律表第10族元素に配位しにくくなり、アルコキシカルボニル化反応の反応速度が遅くなることを防止できるためである。
【0059】
酸性化合物は、第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応を促進する。酸性化合物は、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素に対するヒドリド化剤として機能する。このことにより、アルコキシカルボニル化反応を促進させるものと推定される。
【0060】
酸性化合物としては、塩酸、硝酸、硫酸、炭素原子数2~12のアルカン酸、メタンスルホン酸、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、o-トルエンスルホン酸、m-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、t-ブチルスルホン酸および2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などのスルホン酸およびこれらの塩、スルホン化イオン交換樹脂、過塩素酸などの過ハロゲン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの過フルオロ化カルボン酸、オルトリン酸、ベンゼンホスホン酸などのホスホン酸、硫酸ジメチル、メタンスルホン酸メチル、トリフルオロメタンスルホン酸メチル等のスルホン酸のエステル等が挙げられる。
【0061】
これらの中でも酸性度が適正であるため、酸性化合物は、アルキルスルホン酸、アルキルスルホン酸のアンモニウム塩、アルキルスルホン酸のピリジニウム塩、アリールスルホン酸、アリールスルホン酸のアンモニウム塩、アリールスルホン酸のピリジニウム塩から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、特に、p-トルエンスルホン酸であることが好ましい。
【0062】
第1触媒の酸強度が強すぎると、原料である酢酸ビニルと、一般式(1)で示される1級または2級アルコールとの副反応が生じやすくなる。また、第1触媒の酸強度が弱すぎると、第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応の反応速度を早くする効果が不十分となる場合がある。
第1触媒中に含まれる酸性化合物は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0063】
酸性化合物の使用量は、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して、酸性化合物の持つ酸点(プロトン)が0.05~4モル部となる範囲であることが好ましく、0.1~2モル部であることがより好ましく、0.2~1モル部であることがさらに好ましい。周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して酸性化合物の持つ酸点が0.05モル部以上であると、触媒の反応活性種(ヒドリド錯体等)が効率よく生成する。このため、第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応が効果的に促進される。また、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して酸性化合物の持つ酸点が4モル部以下であると、アルコキシカルボニル化反応における副反応等を効果的に抑制できる。
【0064】
第1触媒が酸性化合物とともに窒素原子含有複素環化合物を含む場合、第1触媒の活性が向上し、第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応がより一層促進される。これは、以下に示す理由によるものであると推定される。窒素原子含有複素環化合物は、窒素原子含有複素環を有している。このため、窒素原子含有複素環化合物が、酸性化合物とともに第1触媒中に含まれていると、第1触媒の酸性度が、アルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内に調製されやすくなる。また、例えば、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物として、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素の塩化物(塩化パラジウム等)を用い、窒素原子含有複素環化合物として塩基性のものを用いる場合、塩化物(塩化パラジウム等)の分解が抑制されるとともに、塩化物が分解することによって発生する塩酸が中和され、副反応が抑制される。その結果、第1触媒が活性化されて、アルコキシカルボニル化反応が促進されるものと推定される。
【0065】
窒素原子含有複素環化合物としては、ピリジン、ピコリン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾールなどが挙げられる。これらの中でも、窒素原子含有複素環化合物は、ピリジンとピコリンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ピリジンであることがより好ましい。第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できるためである。
第1触媒中に含まれる窒素原子含有複素環化合物は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
【0066】
窒素原子含有複素環化合物の使用量は、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対して0.1~50モル部であることが好ましく、1~30モル部であることがより好ましく、3~20モル部であることがさらに好ましい。周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対する窒素原子含有複素環化合物の使用量が0.1モル部以上であると、第1触媒の酸性度が、アルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内になりやすく、第1エステル化合物が高い選択率で生成されやすい。また、周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物1モル部に対する使用量が50モル部以下であると、副反応が抑えられるため、好ましい。
【0067】
「溶媒」
第1工程においては、必要に応じて溶媒を用いてもよい。第1工程において使用する溶媒としては、カルボン酸ビニルと、1級または2級アルコールと、一酸化炭素との反応に関与しない化学種を用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-n-ブチル、n-へプタン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。また、反応基質である1級または2級アルコールそのものを溶媒として兼用することも可能である。
【0068】
これらの溶媒の中でも特に、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できるため、テトラヒドロフラン、アセトン、酢酸エチル、トルエン、キシレンから選ばれるいずれか1種または2種以上を用いることが好ましく、触媒の溶解性および生成物との分離の容易性から、特にトルエンを用いることが好ましい。
【0069】
溶媒の使用量は、酢酸ビニルの反応液中の濃度が、0.05~20モル/リットルとなる範囲であることが好ましく、0.1~10モル/リットルとなる範囲であることがより好ましく、0.5~5モル/リットルとなる範囲であることがさらに好ましい。酢酸ビニルの反応液中の濃度が、0.05モル/リットル以上であると、反応液中の酢酸ビニルの濃度が、アルコキシカルボニル化反応の促進される範囲内になりやすく、高い選択率で第1エステル化合物が生成されやすい。酢酸ビニルの反応液中の濃度が、20モル/リットル以下であると、反応をスムーズに進行できる基質濃度が確保されやすく、好ましい。
【0070】
第1工程の反応条件は、酢酸ビニルと、1級または2級アルコールと、一酸化炭素ガスとのアルコキシカルボニル化反応が進行する範囲内で、製造する第1エステル化合物の種類などに応じて適宜決定できる。
反応条件は、例えば、以下に示す(a)反応圧力、(b)反応温度、(c)反応時間のうち、いずれか1つ以上の条件を満たすことが好ましい。
【0071】
(a)反応圧力
第1工程は、例えば、反応容器内の一酸化炭素の分圧を0.05~50MPaとして行うことが好ましく、0.1~30MPaとして行うことがより好ましく、1~6MPaとして行うことがさらに好ましい。反応容器内の一酸化炭素の分圧を0.05~50MPaとすることにより、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できる。
(b)反応温度
第1工程は、例えば、反応容器内の温度を60~140℃として行うことが好ましく、80~120℃とすることがより好ましい。反応容器内の温度が60℃以上であると、第1エステル化合物を生成させるアルコキシカルボニル化反応がより一層促進される。反応容器内の温度が140℃以下であると、アルコキシカルボニル化反応における副反応を抑制できるため、好ましい。
【0072】
(c)反応時間
第1工程は、例えば、1~40時間行うことが好ましく、10~20時間行うことがより好ましい。第1工程における反応時間が1時間以上であると、第1エステル化合物をより高収率およびより高選択率で製造できる。第1工程における反応時間が40時間以下であると、第1エステル化合物の生成に伴う副反応を抑制できる。
【0073】
〔中間工程〕
次に、中間工程について説明する。中間工程は、必要に応じて第1工程の後、第2工程の前に行う工程である。中間工程は、行わなくてもよい。
中間工程では、第1工程後の反応溶液中に含まれる未反応の酢酸ビニルを還元して、酢酸エステルに変換する。
【0074】
酢酸ビニルを還元する方法としては、例えば、水素還元触媒の存在下で、酢酸ビニルと水素ガスとを反応させて酢酸エステルに変換する水素還元法を用いることができる。水素還元法を用いることにより、酢酸ビニルを効率よく低コストで還元できる。
中間工程における酢酸ビニルの還元反応は、第1工程後の反応溶液中に含まれる未反応の酢酸ビニルを含む溶液を仕込んで、水素ガス雰囲気とされた反応容器内で行うことが好ましい。
【0075】
未反応の酢酸ビニルを含む溶液としては、第1工程後の反応溶液をそのまま用いてもよいし、第1工程後の反応溶液に溶媒を添加したものを用いてもよいし、第1工程後の反応溶液から単離した酢酸ビニルを溶媒に溶解したものを用いてもよい。
第1工程後の反応溶液から酢酸ビニルを単離する方法としては、例えば、蒸留、抽出、カラムクロマト精製など、公知の方法を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0076】
未反応の酢酸ビニルを含む溶液として、第1工程後の反応溶液に溶媒を添加したもの、または第1工程後の反応溶液から単離した酢酸ビニルを、溶媒に溶解したものを用いる場合、溶媒として、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、酢酸-n-プロピル、酢酸-n-ブチル、乳酸エチル、2-アセトキシプロピオン酸エチル、n-へプタン、アセトニトリル、トルエン、キシレン、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。これらの溶媒の中でも特に、高い収率が得られるため、トルエン、キシレン、第1工程における生成物である一般式(2)で示される第1エステル化合物、第2工程における生成物である後述する一般式(3)で表される乳酸エステルおよび一般式(4)で表される酢酸エステルから選ばれるいずれかを用いることが好ましい。
【0077】
中間工程における酢酸ビニルの還元反応は、未反応の酢酸ビニルを含む溶液として、酢酸ビニルの濃度が0.1~70質量%であるものを用いて行うことが好ましい。
【0078】
酢酸ビニルを還元する還元反応に使用する触媒としては、炭素-炭素二重結合の水素還元反応活性が高い触媒を用いることが好ましい。
未反応の酢酸ビニルを含む溶液として、第1工程後の反応溶液をそのまま用いる場合、または第1工程後の反応溶液に溶媒を添加したものを用いる場合、第1工程で用いた第1触媒を、酢酸ビニルを還元するための触媒として用いてもよいし、第1触媒とともに炭素-炭素二重結合の水素還元反応活性が高い触媒を用いてもよい。
【0079】
炭素-炭素二重結合の水素還元反応活性が高い触媒としては、例えば、スポンジニッケル、スポンジコバルト、担体(活性炭、シリカ、アルミナ等)に対して貴金属(Pd、Rh、Pt、Ru等)が担持された触媒などが挙げられる。これらの触媒の中でも、活性炭、シリカ等の担体に、パラジウムを担持させた触媒を用いることが好ましい。
【0080】
活性炭またはシリカからなる担体に貴金属を担持させた触媒を用いた場合、酢酸ビニルを還元する還元反応において副反応が生じにくく、還元反応後の反応溶液との分離が容易である。
上記担体に貴金属を担持させた触媒における貴金属の担持量としては、担体100質量部に対して0.1~15質量部であることが好ましく、0.5~12質量部であることがより好ましく、1~10質量部であることがさらに好ましい。
【0081】
炭素-炭素二重結合の水素還元反応活性が高い触媒は、未反応の酢酸ビニル100質量部に対して0.01~20質量部使用することが好ましく、0.5~15質量部使用することがより好ましく、1~10質量部使用することがさらに好ましい。
炭素-炭素二重結合の水素還元反応活性が高い触媒として、活性炭またはシリカからなる担体にパラジウムを担持させた触媒を用いる場合、還元反応後の反応溶液を濾過することにより容易に触媒を回収できる。また、回収した活性炭またはシリカからなる担体にパラジウムを担持させた触媒は、再び、酢酸ビニルを還元する還元反応における触媒として使用できる。したがって、活性炭またはシリカからなる担体にパラジウムを担持させた触媒は、酢酸ビニルの還元反応を促進するために、酢酸ビニルに対して過剰に使用して、反応時間を短縮することが好ましい場合がある。
【0082】
中間工程において、未反応の酢酸ビニルを還元する反応の反応温度は、例えば、室温(20℃)~160℃とすることが好ましく、20℃~120℃とすることがより好ましい。酢酸ビニルを還元する反応における反応温度を、室温以上とすることで、還元反応を促進できる。また、反応温度を160℃以下とすることにより、酢酸ビニルを還元する還元反応における副反応を抑制できる。
【0083】
中間工程において、未反応の酢酸ビニルを還元する反応は、未反応の酢酸ビニルを含む溶液が仕込まれた反応容器内の水素ガスの圧力を常圧(0.1MPa)~1.0MPaとして行うことが好ましく、0.1MPa~0.8MPaとして行うことがより好ましく、0.1MPa~0.5MPaとして行うことがさらに好ましい。反応容器内の水素ガスの圧力を常圧(0.1MPa)~1.0MPaとすることにより、酢酸ビニルをより効率よく還元できる。
【0084】
〔第2工程〕
第2工程では、一般式(2)で示される第1エステル化合物と、アルコールとを、第2触媒の存在下で反応させることにより、一般式(3)で表される乳酸エステルと一般式(4)で表される酢酸エステルとを生成させる。
【0085】
【化12】
(式(3)および式(4)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(3)および式(4)におけるRは同じである。)
【0086】
第2工程においては、一般式(2)で示される第1エステル化合物を含む溶液を用いることが好ましい。第1エステル化合物を含む溶液としては、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液をそのまま用いてもよいし、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液に溶媒を添加したものを用いてもよいし、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液から単離した第1エステル化合物を溶媒に溶解したものを用いてもよい。第1工程における酢酸ビニルの転化率が低い場合には、第2工程において、第1エステル化合物を含む溶液として、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液から単離した第1エステル化合物を溶媒に溶解したもの用いることが好ましい。
【0087】
第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液から第1エステル化合物を単離する方法としては、例えば、蒸留、抽出、カラムクロマト精製など、公知の方法を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0088】
「溶媒」
第2工程においては、反応に用いるアルコールが溶媒を兼ねることができる。したがって、第2工程においては、溶媒を用いなくてもよい。第2工程において、第1エステル化合物を含む溶液として、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液を用いる場合、または第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液に溶媒を添加したものを用いる場合、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液中に含まれている溶媒を、そのまま第2工程において溶媒として用いてもよい。
【0089】
第2工程において、アルコールとは別に溶媒を用いる場合、第1エステル化合物とアルコールとの反応に対して活性のないものを用いることが好ましい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、第1工程における生成物である一般式(2)で示される第1エステル化合物、第2工程における生成物である一般式(3)で表される乳酸エステルおよび一般式(4)で表される酢酸エステルから選ばれるいずれかを用いることが好ましい。
【0090】
第2工程において用いるアルコールは、第1工程で使用した一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。第2工程において用いるアルコールは、第2工程において用いるアルコールの使用量が少なくて済むため、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じものであることが好ましい。
第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じものである場合、第2工程における第1エステル化合物とアルコールとの反応は、以下の式により表される。
【0091】
【化13】
(式(1)~(4)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)~(4)におけるRは同じである。)
【0092】
第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じである場合、両方ともエタノールであることが好ましい。両方ともエタノールである場合、中間工程を行うことにより、第2工程後に得られる一般式(4)で表される酢酸エステルの生成量が多くなる。すなわち、両方ともエタノールである場合、第2工程により生成する一般式(4)で表される酢酸エステルは、酢酸エチルとなる。また、中間工程において未反応の酢酸ビニルを還元すると、酢酸エチルが生成される。したがって、第2工程後に得られる一般式(4)で表される酢酸エステルの生成量は、第2工程における生成量と、中間工程での生成量との合計となる。よって、一般式(4)で表される酢酸エステル(酢酸エチル)を高収率で製造できる。
なお、第1工程後の反応溶液中に未反応の酢酸ビニルが含まれる場合、酢酸ビニルの沸点が、酢酸エチルの沸点と近い(酢酸ビニルの沸点72℃、酢酸エチルの沸点77℃)ため、第1工程後の反応溶液から酢酸ビニルを分離するには煩雑な精製プロセスが必要となり、好ましくない。
【0093】
第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じである場合、第2工程において用いるアルコールは、一般式(2)で示される第1エステル化合物1モル部に対して、1モル部以上であることが好ましく、1.5~3モル部であることがより好ましい。
【0094】
例えば、第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じであって、第1エステル化合物を含む溶液として、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液を用いる場合、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液に一般式(1)で示される1級または2級アルコールが残存していれば、第2工程においてそのまま原料として使用できる。残存している一般式(1)で示される1級または2級アルコールのモル量が、第1エステル化合物のモル量未満である場合、第1エステル化合物のモル量以上となるように、一般式(1)で示される1級または2級アルコールを追加することが好ましい。
【0095】
また、第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと同じであって、第1エステル化合物を含む溶液として、第1工程後の反応溶液または中間工程後の反応溶液から単離した第1エステル化合物を含む溶液を用いる場合、第2工程において用いるアルコールは、単離した第1エステル化合物1モル部に対して、1~100モル部であることが好ましく、1.2~50モル部であることがより好ましく、1.5~10モル部であることがさらに好ましい。
【0096】
第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと異なる場合、第2工程における一般式(2)で示される第1エステル化合物とアルコールとの反応は、以下の式により表される。
【0097】
【化14】
(式(1)(2)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよい炭化水素基である。式(1)(2)におけるRは同じである。式(11)(13)(14)において、Rは、炭素原子数1~10の炭化水素基であり、一部または全部に脂環または芳香環を有していてもよいRと異なる炭化水素基である。式(11)(13)(14)におけるRは同じである。)
【0098】
第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと異なる場合、上記式で表されるように、一般式(13)で表される乳酸エステルを生成させるためにも、一般式(14)で表される酢酸エステルを生成させるためにも、一般式(11)で示されるアルコールが使用される。したがって、一般式(11)で示されるアルコールは、一般式(2)で示される第1エステル化合物1モル部に対して、2~200モル部用いることが好ましく、2.5~100モル部であることがより好ましく、3~10モル部であることがさらに好ましい。
【0099】
第2工程において用いるアルコールが、一般式(1)で示される1級または2級アルコールと異なる場合、第2工程において用いるアルコールとしては、一般式(1)で示される1級または2級アルコールよりも沸点の高いものを用いることが好ましい。この場合、第2工程において、反応蒸留により一般式(1)で示される1級または2級アルコールが除去されるため、化学平衡が変化して第1エステル化合物の転化率を高くできる。また、第2工程において用いるアルコールとして、一般式(1)で示される1級または2級アルコールよりも沸点の高いものを用いる場合、第1エステル化合物とアルコールとを反応させる前に、蒸留などの方法により一般式(1)で示される1級または2級アルコールを除去してもよい。このことにより、一般式(13)で表される乳酸エステルおよび一般式(14)で表される酢酸エステルを効率よく生成できる。
【0100】
「第2触媒」
第2工程において使用する第2触媒としては、酸触媒、塩基触媒、金属化合物などが挙げられる。酸触媒としては、硫酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などが挙げられる。塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸カリウム、アルカリ金属のアルコキサイドなどが挙げられる。金属化合物としては、チタン、錫、亜鉛、鉛、マンガン、コバルトなどの金属を含む化合物などが挙げられる。
【0101】
第2触媒としては、上記の中でも特に、適度な反応速度が得られるため、炭酸カリウム、アルカリ金属のアルコキサイド(ナトリウムメトキサイド、ナトリウムエトキサイド、ナトリウム-t-ブトキサイド、カリウムエトキサイド等)、チタン系触媒(テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラ-n-ブトキシチタン等)、錫系触媒(モノ-n-ブチル錫オキサイド、ジ-n-ブチル錫オキサイド、ジ-n-ブチル錫ラウレート、ジ-n-オクチル錫オキサイド等)から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0102】
第2触媒の使用量は、式(2)で示される第1エステル化合物100質量部に対して0.01~1000質量部であることが好ましく、0.1~150質量部であることがより好ましく、0.5~50質量部であることがさらに好ましい。
本実施形態のエステル化合物の製造方法を用いて工業的にエステル化合物を製造する場合、第2触媒の使用量は、式(2)で示される第1エステル化合物100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、0.1~5質量部であることがより好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。
【0103】
第2工程における第1エステル化合物とアルコールとの反応は、反応により生成される一般式(4)で表される酢酸エステルを留去して、化学平衡を変化させながら行うことが好ましい。これは、一般式(3)で表される乳酸エステルと一般式(4)で表される酢酸エステルとを効率よく生成するためである。生成された一般式(4)で表される酢酸エステルがアルコールと共沸する場合、一般式(4)で表される酢酸エステルを留去することにより失われるアルコールを反応系に追添して補うことが望ましい。これは、一般式(3)で表される乳酸エステルと一般式(4)で表される酢酸エステルとを効率よく生成するためである。
【0104】
第2工程の反応条件は、一般式(2)で示される第1エステル化合物とアルコールとのエステル交換反応が進行する範囲内で、製造する一般式(3)で表される乳酸エステルおよび一般式(4)で表される酢酸エステルの種類などに応じて適宜決定できる。
反応条件は、例えば、以下に示す(d)反応圧力、(e)反応温度、(f)反応時間のうち、いずれか1つ以上の条件を満たすことが好ましい。
【0105】
(d)反応圧力
第2工程は、例えば、反応容器内の圧力を常圧(0.1MPa)~0.5MPaとして行うことが好ましく、0.1~0.3MPaとして行うことがより好ましい。反応容器内の圧力を0.1~0.5MPaとすることにより、第2工程において生成する一般式(4)で表される酢酸エステルの留去が容易となる。また、反応容器内の圧力が0.1~0.5MPaであると、反応温度の制御が容易となり、第2触媒が高温で失活することを防止できる。
【0106】
(e)反応温度
第2工程は、例えば、反応容器内の温度を20~200℃として行うことが好ましく、60~180℃とすることがより好ましく、80~150℃とすることがさらに好ましい。反応容器内の温度が20℃以上であると、一般式(2)で示される第1エステル化合物とアルコールとのエステル交換反応がより一層促進される。反応容器内の温度が200℃以下であると、第2工程における副反応を抑制できるため、好ましい。
【0107】
(f)反応時間
第2工程は、例えば、0.5~48時間行うことが好ましく、1~24時間行うことがより好ましく、2~12時間行うことがさらに好ましい。第2工程における反応時間が0.5時間以上であると、一般式(2)で示される第1エステル化合物とアルコールとのエステル交換反応を十分に進行させることができる。反応工程における反応時間が48時間以下であると、一般式(3)で表される乳酸エステルおよび一般式(4)で表される酢酸エステルの生成に伴う副反応を抑制できる。
【0108】
本発明のエステル化合物の製造方法は、上述した実施形態において説明した製造方法に限定されるものではない。
例えば、本発明のエステル化合物の製造方法では、第1工程において、副生物としてアセトアルデヒドが生成する場合がある。この場合、上記中間工程を行うことにより、第1工程後の反応溶液中に含まれるアセトアルデヒドを水素化し、エタノールに変換することが好ましい。さらに、第2工程において、中間工程後の反応溶液中の第1エステル化合物と、中間工程において生成させたエタノールとを、第2触媒の存在下で反応させることが好ましい。第2工程において乳酸エチルを製造する場合、中間工程において、アセトアルデヒドから生成したエタノールを、原料として使用できる。このことにより、第2工程において原料として用いるアルコール(エタノール)の使用量を少なくできる。
【0109】
なお、アセトアルデヒドの沸点(21℃)は、第2工程において生成させる一般式(3)で表される乳酸エステル(例えば、乳酸メチル(沸点145℃)、乳酸エチル(沸点154℃))および一般式(4)で表される酢酸エステル(例えば、酢酸メチル(沸点57℃)、酢酸エチル(沸点77℃))と比較して十分に低い。このため、第1工程においてアセトアルデヒドが副生しても、第2工程後にアセトアルデヒドを回収することは容易である。しかし、第2工程後にアセトアルデヒドを回収しても、本実施形態のエステル化合物の製造方法において、原料として利用することはできない。したがって、上記中間工程を行うことにより、第1工程後の反応溶液中に含まれるアセトアルデヒドを水素化して、エタノールに変換し、中間工程において原料として利用することが好ましい。
【実施例
【0110】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0111】
(実施例1)
〔第1工程〕
ステンレス鋼からなる容量40mLの反応容器内に、撹拌子と、第1触媒である周期律表第10族元素から選ばれる少なくとも1種の元素を有する化合物としてのPdCl(塩化パラジウム;添川理化学株式会社製;3.0mg、17.01μmol)と、第1触媒である有機ホスフィン配位子としてのトリフェニルホスフィン(東京化成工業株式会社製;8.92mg、34.00μmol)と、第1触媒である酸性化合物としてのPTSA(p-トルエンスルホン酸・1水和物:東京化成工業株式会社製;1.3mg、6.723μmol)とを入れた。
【0112】
これらの第1触媒が仕込まれた反応容器内に、窒素気流下で、酢酸ビニル(富士フイルム和光純薬株式会社製;0.75mL、8.1mmol)と、1級または2級アルコールとしてのエタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製;1.2mL、20mmol)と、溶媒としてのトルエン(富士フイルム和光純薬株式会社製;6.75mL)と、第1触媒である窒素原子含有複素環化合物としてのピリジン(富士フイルム和光純薬株式会社製;0.0275mL、340.2μmol)とを入れ、反応溶液を得た。
【0113】
実施例1における塩化パラジウムの使用量は、酢酸ビニル1モル部に対して、0.002モル部である。有機ホスフィン配位子の使用量は、塩化パラジウム1モル部に対して、2モル部である。PTSA(p-トルエンスルホン酸・1水和物)の使用量は、塩化パラジウム1モル部に対して、PTSAの持つ酸点が0.395モル部である。ピリジンの使用量は、塩化パラジウム1モル部に対して、20モル部である。
また、トルエンの使用量は、エタノール1モル部に対して0.83リットル(反応液中の酢酸ビニルの濃度が1.2モル/リットルとなる量)である。
【0114】
次いで、一酸化炭素ガスを用いて、大気圧から1MPaの間で反応容器内の加圧-脱圧を3回繰り返し、反応容器内の気体を一酸化炭素ガスで置換した。その後、一酸化炭素ガスを用いて反応容器内を5MPaまで昇圧し、反応溶液を攪拌しながら、100℃で15時間反応させて、第1エステル化合物を生成させた。
【0115】
反応後の反応溶液をガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。原料、目的物である第1エステル化合物および副反応物の定量分析は、内部標準物質としてジエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業株式会社製)を用いて、検量線を作成して行った。
【0116】
その結果、実施例1における第1工程では、一般式(2)におけるRがエチル基である第1エステル化合物が生成したことが確認できた。酢酸ビニルの転化率は29%、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の第1エステル化合物の収率は26%であり、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の酢酸エチルの収率は3%であった。
【0117】
〔中間工程〕
第1工程後の反応溶液に触媒として、活性炭からなる担体にパラジウムを、担体100質量部に対して5質量部担持させた触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製)10mgを加え、窒素ガスを用いて、大気圧から1MPaの間で反応容器内の加圧-脱圧を3回繰り返し、反応容器内の気体を窒素ガスで置換した。その後、反応容器内を0.8MPaの水素ガス雰囲気とし、室温(20℃)で15時間反応させ、反応溶液中に含まれる未反応の酢酸ビニルを還元した。
【0118】
反応後の反応溶液を、第1工程後の反応溶液と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。
その結果、実施例1における中間工程を行うことにより、酢酸ビニルが消失し、酢酸エチルが生成したことが確認できた。中間工程後の第一工程で使用した酢酸ビニル基準の第1エステル化合物の収率は26%であり、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の酢酸エチルの収率は71%であった。
【0119】
〔第2工程〕
中間工程後の反応溶液からエバポレーターを用いて、エタノール、酢酸エチル、トルエンなどの低沸点化合物(沸点120℃以下)を回収し、除去した。そして、低沸点化合物を除去した中間工程後の反応溶液から、酢酸エチルを溶出液としてシリカカラム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて、第1エステル化合物を単離した。
ナス型フラスコに、単離した第1エステル化合物(41.6mg、0.26mmol)と、予めモレキュラーシーブ3A(ユニオン昭和株式会社製)で乾燥したエタノール(3ml、0.051mol)と、触媒としての炭酸カリウム(400mg、2.9mmol)とを加え、室温(20℃)、常圧で一時間攪拌することにより、反応させた。
【0120】
反応後の反応溶液を、第1工程後の反応溶液と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。目的物である一般式(3)で表される乳酸エステルおよび一般式(4)で表される酢酸エステル、副反応物の定量分析は、内部標準物質としてジエチレングリコールジメチルエーテル(東京化成工業株式会社製)を用いて、検量線を作成して行った。
【0121】
その結果、実施例1における第2工程を行うことにより、一般式(3)で表されるRがエチル基である乳酸エステルおよび一般式(4)で表されるRがエチル基である酢酸エステルが生成したことが確認できた。第2工程で用いた第1エステル化合物基準の乳酸エステルの収率は63%であり、第2工程で用いた第1エステル化合物基準の酢酸エステルの収率は62%であった。
【0122】
(実施例2)
〔第1工程〕
第1触媒である有機ホスフィン配位子として、式(5-1)で示される2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',6'-ジメトキシビフェニル(SPhos:シグマアルドリッチジャパン合同会社製;14.0mg、0.034mmol)を用いたことと、1級または2級アルコールとしてメタノール(富士フイルム和光純薬株式会社製;0.81mL;20mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第1工程を行った。
【0123】
反応後の反応溶液を、実施例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。
その結果、実施例2における第1工程では、一般式(2)におけるRがメチル基である第1エステル化合物が生成したことが確認できた。酢酸ビニルの転化率は95%、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の第1エステル化合物の収率は79%であり、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の酢酸メチルの収率は9%であった。
【0124】
〔第2工程〕
第1工程後の反応溶液からエバポレーターを用いて、メタノール、酢酸メチル、トルエンなどの低沸点化合物(沸点120℃以下)を回収し、除去した。そして、低沸点化合物を除去した第一工程後の反応溶液から、酢酸エチルを溶出液としてシリカカラム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて、第1エステル化合物を単離した。
ナス型フラスコに、単離した第1エステル化合物(43.8mg、0.30mmol)と、予めモレキュラーシーブ3A(ユニオン昭和株式会社製)で乾燥したメタノール(3ml、0.074mol)と、触媒としての炭酸カリウム(400mg、2.9mmol)とを加え、室温(20℃)、常圧で一時間攪拌することにより、反応させた。
【0125】
反応後の反応溶液を、実施例1の第2工程後の反応溶液と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。
その結果、実施例2における第2工程を行うことにより、一般式(3)で表されるRがメチル基である乳酸エステルおよび一般式(4)で表されるRがメチル基である酢酸エステルが生成したことが確認できた。第2工程で用いた第1エステル化合物基準の乳酸エステルの収率は75%であり、第2工程で用いた第1エステル化合物基準の酢酸エステルの収率は76%であった。
【0126】
(実施例3)
[第一工程]
第1触媒である有機ホスフィン配位子として、式(5-1)で示される2-ジシクロヘキシルホスフィノ-2',6'-ジメトキシビフェニル(SPhos:シグマアルドリッチジャパン合同会社製;14.0mg、0.034mmol)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして第一工程を行った。
【0127】
反応後の反応溶液を、実施例1と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。
その結果、実施例3における第1工程では、一般式(2)におけるRがエチル基である第1エステル化合物が生成したことが確認できた。酢酸ビニルの転化率は96%、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の第1エステル化合物の収率は85%であり、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の酢酸エチルの収率は7%であった。
【0128】
〔中間工程〕
第1工程後の反応溶液に触媒として、活性炭からなる担体にパラジウムを、担体100質量部に対して10質量部担持させた触媒(エヌ・イー ケムキャット株式会社製)50mgを加え、実施例1と同様にして中間工程を行った。
【0129】
反応後の反応溶液を、第1工程後の反応溶液と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。
その結果、実施例3における中間工程を行うことにより、酢酸ビニルが消失し、酢酸エチルが生成したことが確認できた。中間工程後の第一工程で使用した酢酸ビニル基準の第1エステル化合物の収率は84%であり、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の酢酸エチルの収率は12%であった。
【0130】
〔第2工程〕
ナス型フラスコに、中間工程後の反応溶液(7.0g、第1エステル化合物を1090mg含有)と、予めモレキュラーシーブ3A(ユニオン昭和株式会社製)で乾燥したエタノール(2.0ml、34mmol)と、触媒としての炭酸カリウム(1000mg、7.2mmol)とを加え、室温(20℃)、常圧で一時間攪拌することにより、反応させた。
反応後の反応溶液を、実施例1の第2工程後の反応溶液と同様にして、ガスクロマトグラフィー(装置名:6850GC、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いて分析した。
【0131】
その結果、実施例3における第2工程を行うことにより、一般式(3)で表されるRがエチル基である乳酸エステルおよび一般式(4)で表されるRがエチル基である酢酸エステルが生成したことが確認できた。第2工程で用いた第1エステル化合物基準の乳酸エステルの収率は86%であり、第一工程で使用した酢酸ビニル基準の酢酸エステルの収率は98%であった。