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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】放射線線量測定用ゲル線量計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/02 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
G01T1/02 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022565421
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043270
(87)【国際公開番号】W WO2022114081
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-09-08
(31)【優先権主張番号】P 2020197636
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 康博
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳宏
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185969(JP,A)
【文献】特開昭62-083684(JP,A)
【文献】特開2012-002669(JP,A)
【文献】特開2020-062843(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合性モノマー、ゲル化剤、グルコース、及びグルコースオキシダーゼを含む放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項2】
前記ゲル化剤がゼラチン、アガロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、キトサン、及びアルギン酸並びにこれらの部分中和物も含めたナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムの塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項3】
前記ゲル化剤がポリビニルアルコールとグルタルアルデヒド又は硼砂からなる、請求項1に記載の放射線用線量測定用ゲル線量計。
【請求項4】
前記ゲル化剤が有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)からなる、請求項1に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項5】
前記水溶性有機高分子(A)が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和、部分中和ポリアクリル酸塩又はそれらの混合物である、請求項4に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項6】
前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩である、請求項4又は請求項5のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項7】
前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、及びこれらの塩に対応するカリウム塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項8】
前記ラジカル重合性モノマーが水溶性重合性モノマーである、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項9】
架橋剤として水溶性多官能アクリルアミドモノマーをさらに含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項10】
増感剤として水分散性の無機微粒子をさらに含む、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項11】
安定剤として重合禁止剤、ラジカルスカベンジャー又は酸化防止剤をさらに含む、請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項12】
緩衝剤をさらに含む、請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【請求項13】
前記緩衝剤がリン酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、酒石酸及びこれらの塩、トリス(Tris)並びにヘペス(HEPES)からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項12に記載の放射線線量測定用ゲル線量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線線量計用のゲル線量計に関する。より詳しくは、がん等の放射線治療の治療計画の3次元線量分布を検証するための放射線線量測定用のポリマーゲル線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの放射線治療として、ピンポイントで放射線治療を行う定位放射線治療(SRT:Stereotactic Radiation Therapy)や、同一照射野内の線量強度を変えて3次元的にがんの輪郭に沿って照射野を設定することが可能な強度変調粒子線治療(IMPT:Intensity Modulated Particle Therapy)といった高精度な治療も導入されており、これらの治療法では標的の3次元的な各位置に対する微視的エネルギー付与量の積算値(すなわち線量分布)が精密に調整される。また、陽子線や重粒子線(炭素線、ネオン線等)といった線量集中性の高い荷電粒子線を利用する粒子線治療が実施されている。粒子線治療は、従来のX線治療に比べ放射線照射の照射位置及び線量をより高精度に制御して腫瘍を治療することができる利点を有している。粒子線治療において求められるのは、生体組織中の病巣などの標的位置にて粒子線からのエネルギーを適正に放出させること、及び標的周囲の正常組織に対しては可能な限り影響を与えないことの両立である。これらを目的に、粒子線ビームの径方向の広がりや粒子線ビームのブラッグピークの位置が被照射体中の標的位置に対し位置合わせされる。
【0003】
実際の放射線治療計画では、生体組織中における3次元での各位置における線量の分布が最適化される。典型的な治療計画では、標的組織における線量分布(各位置への放射線による線量)を治療目的に合わせて変形させると同時に、周辺の正常組織への放射線の影響も抑えられ、リスク臓器(organ at risk)に対する影響も可能な限り小さくされる。このように複雑な形状の線量分布を作成するために、ビームが精密に制御され、多方向から照射されることもある。この制御には、被照射体に合わせて調整されるフィルター・コリメータ類(レンジシフター、マルチリーフコリメータ、ボーラス等)が装備される。そして、高度に制御された放射線治療を実現するためには、放射線照射装置や付属機器及びフィルター・コリメータ類等を含めた装置全体、並びにそれら装置による照射処理において、高度な品質保証・品質管理(quality assurance and quality control,以下「QA/QC」と略記する)が必要となる。
【0004】
このような治療計画及び各種装置のQA/QCのためには、様々な方向から様々な加速エネルギーで入射する多数の電離放射線によるエネルギー付与量を適切に積算して実測できる技術が必要である。エネルギー付与量を積算して線量を各位置において精密に測定することができれば、上記QA/QCの裏付けとなる3次元でのエネルギー付与量の分布(線量分布)を測定する事が可能となるためである。この目的では従来、電離箱線量計、フィルム、半導体検出器といった1次元、2次元又は疑似3次元(直交平面や円筒に検出器を配置)での線量計が用いられている。これらの線量計では、粒子線を標的位置に位置合わせする領域のうち、1次元又は2次元の座標に対する上記線量分布が実測される。近年はこれらの線量計に加え、化学線量計の測定原理を利用し3次元の線量分布を測定することが可能なゲル線量計が注目されている。ゲル線量計を利用すれば、さらに、生体と等価とみなしうる材質である水の各位置において放射線により付与されるエネルギー量を正確に測定すること、つまり、生体等価物質や水等価物質における放射線の影響が測定できる、という利点もある。ゲル線量計では、それ自体を固体ファントムとして利用しつつ、3次元での線量分布を取得できるのである。
【0005】
3次元線量分布の測定が可能なゲル線量計としては、例えば、フリッケゲル線量計(特許文献1)、ポリマーゲル線量計(特許文献2、特許文献3)、色素ゲル線量計が報告されている。フリッケゲル線量計は、液体化学線量計として知られるフリッケ線量計の溶液(硫酸第一鉄を含む水溶液)を含むゲルであり、放射線照射に伴う2価から3価への鉄の酸化反応(着色)が、吸収線量に比例して増加することを利用している。一方、ポリマーゲル線量計は、モノマーをゲル中に分散させたものであり、放射線照射すると線量に比例してポリマーが生成し、照射した部分の水の緩和時間が変化することから、MRI(核磁気共鳴画像法)で読取を行うことにより、線量を見積もることができる。また、放射線照射による白濁した部位を、光学CT装置を用いて読み取ることも可能である。放射線照射により生成したポリマーはゲル中を拡散しにくく、白濁が経時的に安定しており、且つ白濁部分が透明なゲルの中に浮かんでいるように見えるため視覚的にも優れているのが特徴である。
脱酸素剤としてグルコース及びグルコースオキシダーゼを用いて作製するハイドロゲルが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-209093号公報
【文献】特許第5590526号公報
【文献】特開2014-185969号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Nature Materials (2016),15,413-418
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のポリマーゲル線量計では、メタクリル酸やアクリルアミドなどの水溶性重合性モノマーが使用されている。これら重合性モノマーの重合反応では、反応物中に酸素(O)が存在すると阻害されるため、一般的に脱酸素処理を行う。従来のポリマーゲル線量計では、脱酸素剤として、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリドやアスコルビン酸ナトリウム、硫酸銅等を添加するが、十分な効果が得られなかった。そのため、ポリマーゲル線量計のより効果的な脱酸素処理法が求められてきた。
また、ポリマーゲル線量計は、放射線照射後、MRIで読み取りを行う。放射線照射やMRIは室温で行われるが、従来のゲル線量計は、これらの操作以外は冷蔵保管する必要があり、室温での保管ができないとの問題があった。ハイドロゲルは保冷剤としても用いられる素材であり、冷蔵から室温にするまで数時間~一晩必要であるため、例えば使用の前日に冷蔵庫から出さなくてならないとの問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らはゲル線量計の効果的な脱酸素処理法について鋭意検討を重ねた結果、グルコース及びグルコースオキシダーゼの添加による脱酸素法を見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、第1観点として、ラジカル重合性モノマー、ゲル化剤、グルコース、及びグルコースオキシダーゼを含む放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第2観点として、前記ゲル化剤がゼラチン、アガロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、キトサン、及びアルギン酸並びにこれらの部分中和物も含めたナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムの塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第1観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第3観点として、前記ゲル化剤がポリビニルアルコールとグルタルアルデヒド又は硼砂からなる、第1観点に記載の放射線用線量測定用ゲル線量計に関する。
第4観点として、前記ゲル化剤が有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)及び前記ケイ酸塩の分散剤(C)からなる、第1観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第5観点として、前記水溶性有機高分子(A)が重量平均分子量100万乃至1000万の完全中和、部分中和ポリアクリル酸塩又はそれらの混合物である、第4観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第6観点として、前記ケイ酸塩(B)がスメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩である、第4観点又は第5観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第7観点として、前記分散剤(C)がオルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム及びこれらの塩に対応するカリウム塩からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第4観点乃至第6観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第8観点として、前記ラジカル重合性モノマーが水溶性重合性モノマーである、第1観点乃至第7観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第9観点として、架橋剤として水溶性多官能アクリルアミドモノマーをさらに含む、第1観点乃至第8観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第10観点として、増感剤として水分散性の無機微粒子をさらに含む、第1観点乃至第9観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第11観点として、安定剤として重合禁止剤、ラジカルスカベンジャー又は酸化防止剤をさらに含む、第1観点乃至第10観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第12観点として、緩衝剤をさらに含む、第1観点乃至第11観点のいずれか1つに記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
第13観点として、前記緩衝剤がリン酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、酒石酸及びこれらの塩、トリス(Tris)並びにヘペス(HEPES)からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第12観点に記載の放射線線量測定用ゲル線量計に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脱酸素処理法によるゲル線量計は、従来のゲル線量計で脱酸素剤として広く使用されているテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリドやアスコルビン酸ナトリウム、硫酸銅等と比べて、優れた脱酸素効果を有する。
また、本発明の脱酸素処理法によるゲル線量計では、広く用いられているゼラチンやアガロースの他、水溶性有機高分子、ケイ酸塩及び前記ケイ酸塩の分散剤からなるヒドロゲル、ポリビニルアルコールとグルタルアルデヒド又は硼砂からなるヒドロゲルなど様々なゲル化剤の使用が可能である。
本発明の脱酸素処理法によるゲル線量計は、従来のように重合反応の前後で冷蔵保管する必要はなく室温での保管が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1及び実施例2のΔRと照射X線量の相関グラフを示す。
図2図2は、X線照射後の線量計の状態を示し、左から実施例1の0、0.5、1、3、5、7Gy照射の状態である。
図3図3は、X線照射後の線量計の状態を示し、左から実施例2の0、0.5、1、3、5、7Gy照射の状態である。
図4図4は、実施例3の1日後と2週後のΔRと照射X線量の相関グラフを示す。
図5図5は、比較例1の1日後と2週後のΔRと照射X線量の相関グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のゲル線量計の成分として、脱酸素処理剤、ゲル化剤、架橋剤及びラジカル重合性モノマーが挙げられるが、上記成分の他に、本発明の所期の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、増感剤や安定剤などの成分を配合してもよい。
【0013】
[脱酸素処理剤]
脱酸素処理剤としては、グルコース及びグルコースオキシダーゼの組み合わせが挙げられる。グルコースの含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至10質量%、好ましくは0.1質量%乃至5質量%、より好ましくは0.5質量%乃至3質量%である。グルコースオキシダーゼの力価は、25℃、pH7.0で1分間に,β-D-グルコース1.0μmolを酸化してD-グルコノラクトンと過酸化水素にするのを1ユニットとすると、10ユニット/g乃至1000000ユニット/g、好ましくは100ユニット/g乃至500000ユニット/g、より好ましくは1000ユニット/g乃至300000ユニット/gであり、含有量はゲル線量計100質量%中に0.1ppm乃至10000ppm、好ましくは0.5ppm乃至5000ppm、より好ましくは1ppm乃至1000ppmである。さらにグルコース酸化の際に発生する過酸化水素を分解するためにカタラーゼを加えても良い。グルコースオキシダーゼの至適pHは5乃至7で、必要に応じて緩衝剤を加えても良い。緩衝剤としては、リン酸、クエン酸、酢酸、ホウ酸、酒石酸及びこれらの塩、トリス(Tris)、ヘペス(HEPES)などが挙げられる。
【0014】
[ゲル化剤]
ゲル化剤としては、室温でゲル化しており、ゲル線量計として使用可能な水準において放射線照射によるラジカル重合性モノマーのラジカル重合を阻害しないものを用いることができる。ポリマーゲル線量計に使用されているゲル化剤を使用できる。
動植物由来の天然物高分子であるゼラチン、アガロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、キトサン、及びアルギン酸並びにこれらの部分中和物も含めたナトリウム、カリウム、マグネシウム、及びカルシウムの塩の他に、有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、前記ケイ酸塩の分散剤(C)から成るゲル形成組成物やポリビニルアルコールとグルタルアルデヒド又は硼砂から成るゲル形成組成物が挙げられる。
上記天然物高分子の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至30質量%、好ましくは0.05質量%乃至20質量%である。
上記有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)としては、例えば、カルボキシル基、スルホニル基、ホスホニル基などの有機酸基の塩構造又はアニオン構造を有する水溶性有機高分子が挙げられる。
例えば、カルボキシル基を有するものとしてポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースの塩;スルホニル基を有するものとして、ポリスチレンスルホン酸の塩;ホスホニル基を有するものとしてポリビニルホスホン酸塩等が挙げられる。好ましくはポリアクリル酸の塩である。
水溶性有機高分子(A)の重量平均分子量は100万以上1000万以下が好ましく、例えば250万以上500万以下である。
【0015】
水溶性有機高分子(A)は分岐及び化学架橋構造を持たない直鎖型構造が好ましい。
有機酸構造を有するものとしては、有機酸基を有する高分子の完全中和物から部分中和物のいずれも使用できる。
有機酸塩構造を有するものとしては、有機酸基のナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。
有機酸アニオン構造を有するものとしては、例えば有機酸基又は有機酸の塩からカチオンが解離した構造を有するものが挙げられる。
【0016】
水溶性有機高分子(A)は、例えば、有機酸基を有する有機高分子の完全中和、部分中和物又はそれらの混合物であり得る。
例えば、水溶性有機高分子(A)としては、直鎖型ポリアクリル酸ナトリウムの完全中和物から部分中和物のいずれかである。
上記水溶性有機高分子(A)の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0017】
上記ケイ酸塩(B)としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母等の水膨潤性のケイ酸塩粒子が挙げられ、水又は含水液体を分散媒としたコロイドを形成するものが好ましい。
ケイ酸塩粒子の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状、無定形等が挙げられ、例えば直径5nm乃至1000nmの円盤状又は板状のものが好ましい。具体的には、層状ケイ酸塩が挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、BYKアディティブズ社製のラポナイトXLG(合成ヘクトライト)、XLS(合成ヘクトライト、分散剤としてピロリン酸ナトリウム含有)、XL21(ナトリウム・マグネシウム・フルオロシリケート)、RD(合成ヘクトライト)、RDS(合成ヘクトライト、分散剤として無機ポリリン酸塩含有)、及びS482(合成ヘクトライト、分散剤としてエチドロン酸ナトリウム含有);クニミネ工業株式会社製のクニピア(モンモリロナイト)、スメクトンSA(合成サポナイト)、スメクトンST(合成サポナイト)、スメクトンSWN(合成スメクタイト)及びスメクトンSWF(合成スメクタイト)、;株式会社ホージュン製のベンゲル(天然ベントナイト精製品)等が挙げられる。
上記ケイ酸塩(B)の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0018】
上記ケイ酸塩の分散剤(C)として、ケイ酸塩の分散性の向上や、層状ケイ酸塩を層剥離させる目的で使用される分散剤又は解膠剤を使用することができる。例えば、リン酸塩系分散剤、カルボン酸塩系分散剤、アルカリとして作用するもの、有機解膠剤を使用することができる。
例えば、リン酸塩系分散剤として、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム;カルボン酸塩系分散剤として、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体;アルカリとして作用するものとして、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン;多価カチオンと反応し不溶性塩又は錯塩を形成するものとして、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム;有機解膠剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム等又は前記リン酸塩の分散剤に含まれる塩をカリウム塩としたもの等が挙げられる。好ましくは、リン酸塩系分散剤としてピロリン酸ナトリウム、カルボン酸塩系分散剤として重量平均分子量1000以上2万以下の低重合ポリアクリル酸ナトリウム、その他の有機解膠剤ではポリエチレングリコール(PEG900等)である。
【0019】
低重合ポリアクリル酸ナトリウムはケイ酸塩粒子と相互作用して粒子表面にカルボキシアニオン由来の負電荷を生じさせ、電荷の反発によりケイ酸塩を分散させる等の機構により分散剤として作用することが知られている。
上記分散剤(C)の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%、より好ましくは0.5質量%乃至5質量%である。
分散剤を含有するケイ酸塩を使用する場合は、分散剤をさらに添加しても、添加しなくてもよい。
ゲル化剤として、ポリビニルアルコールとグルタルアルデヒド又は硼砂から成るゲル形成組成物を示した。上記ポリビニルアルコールとしては、重合度が10乃至8000、好ましくは100乃至5000、より好ましくは500乃至3000であり、けん化度が80%乃至99%、好ましくは88%乃至99%である。
【0020】
[架橋剤]
架橋剤としては、水溶性多官能アクリルアミドモノマーが好ましく、中でもN,N’-メチレンビスアクリルアミド、FAM-301、FAM-401及びFOM-03006(富士フイルム和光純薬製)等が挙げられる。上記架橋剤の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.1質量%乃至10質量%、より好ましくは0.5質量%乃至5質量%である。
【0021】
[ラジカル重合性モノマー]
本発明の放射線線量測定用ゲル線量計は、放射線照射によりモノマー内にラジカルが生成してそれらが反応を起こして高分子化し、その程度が線量に応じることを利用したラジカル重合が可能なモノマーを含むことができ、これにより本発明の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備えるゲル線量計となる。
【0022】
[水溶性重合性モノマー]
前記ラジカル重合性モノマーは、水溶性重合性モノマーであってもよい。
水溶性重合性モノマーとしては、アクリル構造やビニル構造を有する化合物が挙げられる。
上記水溶性重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイモルホリン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルアセトアミド等が挙げられる。上記水溶性重合性モノマーは1成分又は2成分以上の混合で使用しても良い。上記水溶性重合性モノマーの含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至30質量%、好ましくは0.1質量%乃至20質量%、より好ましくは0.5質量%乃至15質量%である。
【0023】
[増感剤]
上記ゲル線量計には、放射線感度を増感させる効果を有するマグネシウム塩や水分散性の無機微粒子を加えることができる。マグネシウム塩による増感は文献(Radiological Physics and Technology(2018)11:375-381)として知られており、例えば塩化マグネシウムや硫酸マグネシウム等が挙げられる。上記マグネシウム塩の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.1質量%乃至50質量%、好ましくは0.5質量%乃至25質量%、より好ましくは1質量%乃至10質量%である。水分散性の無機微粒子としては、例えば、シリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルが挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、スノーテックス(日産
化学製シリカゾル)、シリカドール(日本化学工業製シリカゾル)、クォートロン(扶桑化学工業製シリカゾル)等が挙げられる。上記水分散性の無機微粒子の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.01質量%乃至50質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%、より好ましくは0.1質量%乃至5質量%である。
【0024】
[安定剤]
上記ゲル線量計には、放射線照射前の劣化や失活を防止するために安定剤を添加することができる。上記安定剤としては、重合禁止剤、ラジカルスカベンジャー、酸化防止剤などが挙げられ、例えば、ヒドロキノン、4-メトキシフェノール、N,N’-ジイソブチル-p-フェニレンジアミン等が挙げられる。上記安定剤の含有量は、ゲル線量計100質量%中に0.1ppm乃至10000ppm、好ましくは1ppm乃至5000ppm、より好ましくは10ppm乃至3000ppmである。
【0025】
[ゲル線量計、ゲル(ゲル化剤)の製造方法]
本発明のゲル線量計及びゲルの製造方法は特に限定されないが、例えば放射線により重合可能なモノマー及びゲル化剤を所定の割合で混合し、架橋剤、増感剤及び所望により脱酸素剤、安定剤、緩衝剤等の他の成分を更に添加して混合し、均一な溶液又は透明な分散液とすることができる。
それぞれの成分は、必要に応じて溶媒に溶解又は分散させたものを使用することができる。溶媒としては、ゲル線量計の各成分を溶解又は均一に分散させることができるものであれば特に限定されないが、好ましくは水である。水に、メタノール、エタノール、イソプロパノール、グリセロール等の水性溶媒を混合することができる。
【0026】
ゲル化剤として(A)成分乃至(C)成分を含むゲル形成組成物を使用する場合、これら各成分のうち、例えば、(A)成分乃至(C)成分のうち、2種の成分を混合して均一な溶液とした後、残りの成分及びモノマーを加え、架橋剤、増感剤及び所望により脱酸素剤、安定剤等の他の成分を更に添加して混合し、均一な溶液とする方法等が挙げられる。
例えば、(A)成分、放射線照射により重合可能なモノマー、架橋剤、増感剤、及び所望により他の成分及び水を混合した水溶液に、(B)成分、(C)成分及び水を混合した水分散液を添加し、必要により加熱して混合し、均一な溶液とする方法が挙げられる。
【0027】
ゲル化剤として動植物由来の天然物高分子を使用する場合、水に、放射線照射により重合可能なモノマー、天然物高分子、架橋剤、増感剤、及び所望により他の成分を添加し、必要により加熱して混合し、均一な溶液とする方法が挙げられる。
【0028】
各成分を混合する方法としては、機械式又は手動による撹拌、超音波による撹拌及びラインミキシングによる連続混合等が挙げられるが、特に機械式撹拌及び連続混合が好ましい。
機械式撹拌には、マグネチックスターラー、プロペラ式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、振とう機、ボルテックスミキサー、ボールミル、ニーダー及び超音波発振器等を使用することができる。その中でも、自転・公転式ミキサーを使用することが好ましい。連続混合にはラインミキサー(佐竹化学機械工業株式会社製)、インラインミキサー(シルバーソンニッポン株式会社製)、ビブロミキサー(冷化工業株式会社製)、スタティックミキサー(株式会社ノリタケカンパニー製、日本フローコントロール株式会社製、株式会社山陽精機製など)、スパイラルミキサー(日本フローコントロール株式会社製)、フローミックス(株式会社マウンテック製)、スケヤミキサー(株式会社櫻製作所製)等を使用することができる。その中でも、スタティックミキサーを使用することが好ましい。
【0029】
混合する際の温度は、例えば、水溶液又は水分散液の凝固点乃至沸点であり、好ましくは-5℃乃至100℃であり、より好ましくは0℃乃至50℃である。
【0030】
混合直後は強度が弱くゾル状であるが、静置することでゲル化する。静置時間は2時間乃至100時間が好ましい。静置温度は-5℃乃至100℃であり、好ましくは0℃乃至30℃である。
上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、前記ケイ酸塩の分散剤(C)の好ましい組合せとしては、(A)として重量平均分子量250万以上500万以下の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.05質量%乃至10質量%、及び(C)としてピロリン酸ナトリウム又はエチドロン酸ナトリウム0.5質量%乃至5質量%、又は重量平均分子量1000以上2万以下のポリアクリル酸ナトリウム0.5質量%乃至5質量%からなる組合せが挙げられる。
【0031】
[放射線線量計]
本発明のゲル線量計は放射線線量の計測材料に適するため、当該放射線線量測定ゲルを容器に充填して放射線線量計、例えばファントムとすることができる。容器はMRIに感応せず、放射線を透過し、耐溶剤性、気密性等を有していれば特に限定されず、その材質はガラス、PET、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリエステル、エチレン-ビニルアルコール共重合体などが好ましい。容器が透明であれば、MRIのみならず、白濁度の3次元計測が可能な光学CTを使用することで、3次元線量分布を測定できる。また、容器に充填した後、窒素ガス等で置換してもよい。
なお、本発明の脱酸素処理法によるゲル線量計は、室温での保管安定性に優れている。従来品として広く使用されているテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリドやアスコルビン酸ナトリウム、硫酸銅等を脱酸素剤とするゲル線量計と比べて、優れた脱酸素効果を有するとともに優れた室温での保管安定性を有する。従来品においては、室温保管2週間で失活するのに対し、本発明のゲル線量計は、室温保管2週間後もX線照射感度に変化がないものを提供できる。
【実施例
【0032】
次に実施例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[製造例1:ケイ酸塩水分散液の製造]
スメクトンSWF(クニミネ工業株式会社製)14.4部、エチドロン酸二ナトリウム水和物(東京化成工業株式会社製)1.5部、水84.1部を混合し、均一な水分散液になるまで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0033】
[製造例2:高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液の製造]
高重合ポリアクリル酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製:重合度22000乃至70000)4部、塩化マグネシウム六水和物1.6部、水94.4部を混合し、均一な水溶液になるまで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0034】
[実施例1:ゼラチンをゲル化剤としたゲル線量計の製造]
N,N’-メチレンビスアクリルアミド(富士フイルム和光純薬製)3部、ゼラチン(シグマアルドリッチ社製)5部、N-ビニルピロリドン(東京化成工業株式会社製)8部、グルコース(純正化学株式会社製)1部、グルコースオキシダーゼ(東京化成工業株式会社製)10ppmを水88部に加え、45℃乃至50℃で加熱し、均一になるまで撹拌した。得られた混合物を15mLPET容器に充填し、静置した状態で24時間20℃乃至25℃で静置し、X線照射実験用の目的物を得た。
【0035】
[実施例2:水溶性有機高分子、ケイ酸塩、ケイ酸塩の分散剤をゲル化剤としたゲル線量計の製造]
N,N’-メチレンビスアクリルアミド(富士フイルム和光純薬製)3部、N、N-ジメチルアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)1.5部、グルコース(純正化学株式会社製)1部、グルコースオキシダーゼ(東京化成工業株式会社製)10ppmを水66.5部に加え、20℃乃至25℃で均一になるまで撹拌した。製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液11部を加え、20℃乃至25℃で均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液11部を加え、20℃乃至25℃で3分間撹拌した。得られた混合物を15mLPET容器に充填し、静置した状態で24時間20℃乃至25℃で静置し、X線照射実験用の目的物を得た。
【0036】
[実験例1:ゲル線量計のX線照射実験]
実施例1又は実施例2で得られたゲル線量計の各サンプルには、X線照射装置(株式会社日立パワーソリューションズ社製MBR-1520R-4)を用いて、X線を照射した。具体的には、管電圧150kV,管電流20mAの条件下、0.5、1、3、5、7GyのX線を照射した。照射後の各サンプルは、3T MRI(Siemens社製Prisma)によるMRI測定によって分析した。分析のためのパルス磁界は、Mixed turbo spin echo sequenceを印加し、各サンプルのT緩和時間を取得して、R(つまり1/T)及び未照射サンプルを0としたΔRを算出した。実施例1及び実施例2のΔRと照射X線量の相関グラフを図1に示す。X線照射後の線量計の状態を図2(実施例1:左から0、0.5、1、3、5、7Gy照射)及び図3(実施例2:左から0、0.5、1、3、5、7Gy照射)に示す。
【0037】
[実施例3:脱酸素剤をグルコース及びグルコースオキシダーゼとしたゲル線量計の製造]
N,N’-メチレンビスアクリルアミド(富士フイルム和光純薬製)1.5部、N、N-ジメチルアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)1.5部、4-アクリロイモルホリン(東京化成工業株式会社製)6部、スノーテックスST-OXS(日産化学株式会社製:固形分濃度10%)20部、グルコース(純正化学株式会社製)1部、グルコースオキシダーゼ(東京化成工業株式会社製)10ppmを水70部に加え、20℃乃至25℃で均一になるまで撹拌した。製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液11部を加え、20℃乃至25℃で均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液11部を加え、20℃乃至25℃で3分間撹拌した。得られた混合物を15mLPET容器に充填し、静置した状態で24時間20℃乃至25℃で静置し、X線照射実験用の目的物を得た。
【0038】
[製造例3:ケイ酸塩水分散液の製造]
ラポナイトXLG(BYKアディティブズ社製)6部、低重合ポリアクリル酸ナトリウム35%水溶液(平均分子量15000:シグマアルドリッチ社製)1.7部、グリセリン10部、クエン酸一水和物0.5部、水81.8部を混合し、均一な水分散液になるまでマグネチックスターラーで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0039】
[製造例4:高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液の製造]
高重合ポリアクリル酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製:重合度22000乃至70000)2部、グリセリン10部、クエン酸3ナトリウム二水和物1部、クエン酸一水和物0.5部、水86.5部を混合し、均一な水溶液になるまでマグネチックスターラーで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0040】
[比較例1:水溶性有機高分子、ケイ酸塩、ケイ酸塩の分散剤をゲル化剤としたゲル線量計の製造]
N,N‘-メチレンビスアクリルアミド(富士フイルム和光純薬製)3部、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)8部、ハイドロキノン200ppmを水65.8部に加え、20℃乃至25℃で均一になるまで撹拌した。次いで製造例4で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液11部、テトラキス(ヒドロキシメチル)-ホスホニウムクロリド80%水溶液(東京化成工業株式会社製)1.2部(50mM相当)を加え撹拌した。5℃以下に冷却後、製造例3で製造したケイ酸塩水分散液11部を加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mLのPET容器に充填し、静置した状態で24時間20℃乃至25℃で静置し、X線照射実験用の目的物を得た。
【0041】
[実験例2:室温保管実験]
実施例3及び比較例1で得た目的物を、1日後に実験例1と同様にX線を照射した。別途製造した実施例3及び比較例1で得た目的物を、23℃乃至25℃の室内に2週間放置した後、実験例1と同様にX線を照射した。照射後の各サンプルは、実験例1と同様に分析し、ΔRを算出した。図4に実施例3の1日後と2週後のΔRと照射X線量の相関グラフ、図5に比較例1の1日後と2週後のΔRと照射X線量の相関グラフを示す。図4図5の結果の比較から、従来品である脱酸素剤をテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリドとしたゲル線量計では室温保管2週でほぼ完全に失活するのに対して、本発明である脱酸素剤をグルコース及びグルコースオキシダーゼにした場合は、室温2週後もX線照射感度が変化しなかった。したがって、本発明は優れた室温保管安定性を発揮することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の放射線線量計用のゲル線量計は、工業的に入手容易な原料を用いて容易に製造することができ、また優れた照射感度、線形性及び保管安定性を有するため、種々の放射線治療に応用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5