(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】ヒトαディフェンシンHD5を検出する方法及びキット、並びにこれらにおいて用いられる抗体
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20231016BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231016BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231016BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231016BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231016BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231016BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231016BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231016BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231016BHJP
G01N 33/531 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 501A
C07K16/18 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
G01N33/531 A
(21)【出願番号】P 2020009553
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】綾部 時芳
(72)【発明者】
【氏名】中村 公則
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】PORTER, E.M. et al.,Localization of Human Intestinal Defensin 5 in Paneth Cell Granules,INFECTION AND IMMUNITY,1997年,Vol.65,No.6,PP.2389-2395
【文献】SPENCER, J. D. et al.,Human Alpha Defensin 5 Expression in the Human Kidney and Urinary Tract,PLOS ONE,2012年02月16日,Vol.7,No.2,e31712
【文献】NAKAMURA, Kiminori et al.,A monoclonal antibody-based sandwich enzyme-linked immunosorbentassay for detection of secreted α-defensin,Analytical Biochemistry,2013年,Vol.443,PP.124-131
【文献】DING, Benjamin TK et al.,Accuracy of the α-defensin lateral flow assay for diagnosing periprosthetic joint infection in Asians,Journal of Orthopaedic Surgery,2019年,Vol.27 No.1,PP.1-9
【文献】 WOMMACK, A. J. et al.,NMR solution structure and condition-dependent oligomerization of the antimicrobial peptide human defensin 5,Biochemistry,2012年11月19日,Vol.51,No. 48,PP.9624-9637
【文献】R.Rioboo,OUTCOMES FROM A DROP IMPACT ON SOLID SURFACES,Atomization and Sprays,vol.11,2001年,P155-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5を、下記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び下記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いてサンドイッチ法によって検出することを含む、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5を免疫学的に検出する方法。
a)CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
b)CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
【請求項2】
a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が、
配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号13のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び
配列番号14のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、又は又は配列番号14のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を有し、かつ
b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が、
配列番号15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号15のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び
配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、又は又は配列番号16のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が捕捉抗体として、b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が検出抗体として用いられる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が固相化された担体に検体を添加する工程、前記担体に標識化されたb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を添加する工程、及び分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に結合したb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を検出する工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
検体が、ヒトの凍結乾燥糞便破砕物の水性媒体抽出液である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
下記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び下記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含む、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5をサンドイッチ法によって免疫学的に検出するためのキット。
a)CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
b)CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
【請求項7】
a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が捕捉抗体として、b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が検出抗体として用いられる、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が担体に固相化されており、b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識化されている、請求項7に記載のキット。
【請求項9】
CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項10】
CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をコードする核酸。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸を含むベクター。
【請求項13】
請求項11に記載の核酸を含む宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化型ヒトαディフェンシンHD5を検出する方法及びキット、並びにこれらにおいて用いられる抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、腸内環境と生活習慣病をはじめとする様々な疾患との関係が知られてきている。腸内環境、特に腸内細菌叢に影響を与え得る宿主由来の物質として、αディフェンシンが注目を集めている。
【0003】
αディフェンシンは病原菌に対して強い殺菌活性を示す抗菌ペプチドであり、小腸粘膜上皮を構成する細胞の一種であるパネート細胞によって産生される。近年、マウスのαディフェンシンであるcryptdin 4は、その高次構造に依存した選択的な殺菌活性を持つことが明らかにされた。高次構造が正常であるcryptdin 4、すなわち分子内に3個のジスルフィド結合を有する酸化型cryptdin 4はBifidobacterium bifidumやBacteroides fragilisを含む多くの常在菌に対してほとんど殺菌活性を示さなかったのに対し、ジスルフィド結合を有さない還元型cryptdin 4は常在菌に対して酸化型よりも強い殺菌活性を示した。一方、cryptdin 4は、酸化型、還元型のいずれであってもSalmonella enterica serovar Typhimurium やStaphylococcus aureus等の病原菌に対して強い殺菌活性を示した(非特許文献1)。このことは、αディフェンシンの選択的殺菌活性の発揮には高次構造の維持、すなわち分子内に3個のジスルフィド結合を有することが重要であること、及び高次構造が正常なαディフェンシンは腸内細菌叢を適切に制御し、宿主にとって好ましい腸内環境の維持に寄与し得ることを示している。
【0004】
したがって、高次構造が正常である酸化型αディフェンシンを測定することができれば、腸内環境を制御し得る有用な物質の探索や、腸内環境と関連する疾病の新たな予防法や治療戦略の検討が可能になると考えられる。これまでのところ、酸化型のマウスαディフェンシンを選択的に検出する方法は本発明者らにより報告されているが(非特許文献2)、酸化型のヒトαディフェンシンを選択的に検出する方法は知られていない。
【0005】
【文献】K. Masuda et al., J. Innate Immun. 2011, 3, 315-326
【文献】K. Nakamura et al., Analytical biochemistry. 2013, 443(2), 124-131
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ヒトαディフェンシンであるHD5の酸化型、すなわちヒト体内で有益に機能する分子内ジスルフィド結合を有するHD5を選択的かつ簡便に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、酸化型HD5(ox-HD5)に特異的なモノクローナル抗体を作出し、これを用いたox-HD5の免疫学的検出法を確立して、以下の発明を完成させた。
【0008】
(1)検体中の分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5を、下記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び下記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いてサンドイッチ法によって検出することを含む、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5を免疫学的に検出する方法。
a)CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
b)CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
(2)a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が、
配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号13のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び
配列番号14のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、又は又は配列番号14のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を有し、かつ
b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が、
配列番号15のアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、又は配列番号15のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、及び
配列番号16のアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、又は又は配列番号16のアミノ酸配列との同一性が90%以上であるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域
を有する、(1)に記載の方法。
(3)a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が捕捉抗体として、b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が検出抗体として用いられる、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が固相化された担体に検体を添加する工程、前記担体に標識化されたb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を添加する工程、及び分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に結合したb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を検出する工程を含む、(1)~(3)のいずれか一項に記載の方法。
(5)検体が、ヒトの凍結乾燥糞便破砕物の水性媒体抽出液である、(1)~(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)下記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び下記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含む、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5をサンドイッチ法によって免疫学的に検出するためのキット。
a)CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
b)CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
(7)a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が捕捉抗体として、b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が検出抗体として用いられる、(6)に記載のキット。
(8)a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が担体に固相化されており、b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片が標識化されている、(7)に記載のキット。
(9)CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
(10)CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片。
(11)(9)又は(10)に記載のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をコードする核酸。
(12)(11)に記載の核酸を含むベクター。
(13)(11)に記載の核酸を含む宿主細胞。
【発明の効果】
【0009】
本発明の酸化型ヒトαディフェンシンHD5を検出する方法及びキット、並びにこれらにおいて用いられる抗体は、ox-HD5を高感度かつ簡便に検出又は測定することができ、腸内環境のモニタリング、腸内環境を制御し得る有用物質の探索、腸内環境と関連する疾病の新たな予防法や治療戦略の検討に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】HD5のアミノ酸配列及び分子内ジスルフィド結合の位置を示す図である。
【
図2】分子内ジスルフィド結合を持たないHD5(還元型HD5、以下r-HD5と表す)及びox-HD5のMALDI-TOF MSによる質量スペクトルを示す。
【
図3】5種類の抗ox-HD5モノクローナル抗体をそれぞれ捕捉抗体及び検出抗体とした計25通りのサンドイッチELISAの標準曲線を示すグラフである。
【
図4】検出抗体39E-7の濃度を0.5 mg/mlに、捕捉抗体12-1の濃度を0.1、0.5、1、5又は10 mg/mlに設定したサンドイッチELISAの標準曲線を示すグラフである。
【
図5】検出抗体39E-7の濃度を0.5 mg/mlに、捕捉抗体12-1の濃度を0.1、0.5、1、5又は10 mg/mlに設定したサンドイッチELISAの、ox-HD5濃度30 ng/mlにおける吸光度を示すグラフである。
【
図6】捕捉抗体12-1の濃度を1 mg/mlに、検出抗体39E-7の濃度を0.1、0.5又は1 mg/mlに設定したサンドイッチELISAの標準曲線を示すグラフである。
【
図7】捕捉抗体12-1の濃度を1 mg/mlに、検出抗体39E-7の濃度を0.1、0.5又は1 mg/mlに設定したサンドイッチELISAの、ox-HD5濃度30 ng/mlにおける吸光度を示すグラフである。
【
図8】捕捉抗体12-1の濃度を1 mg/mlに、検出抗体39E-7の濃度を0.5 mg/mlに設定したサンドイッチELISAの、r-HD5、r-HD6、cryptdin 1の還元型(r-Crp1)及び酸化型(ox-Crp1)、並びにcryptdin 4の還元型(r-Crp4)及び酸化型(ox-Crp4)への反応性を示すグラフである。
【
図9】サンドイッチELISAによるヒト糞便及び血清中ox-HD5の定量結果を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の態様は、検体中のox-HD5を、下記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び下記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を用いてサンドイッチ法によって検出することを含む、ox-HD5を免疫学的に検出する方法に関する。
a)CDR1として配列番号1のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号2のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号3のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号4のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号5のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号6のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、ox-HD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
b)CDR1として配列番号7のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号8のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号9のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、並びにCDR1として配列番号10のアミノ酸配列を、CDR2として配列番号11のアミノ酸配列を、及びCDR3として配列番号12のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、ox-HD5に特異的に結合するモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片
【0012】
本発明はまた、上記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び上記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含む、分子内ジスルフィド結合を有するox-HD5をサンドイッチ法によって免疫学的に検出するためのキット;上記a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片;及び上記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片をそれぞれ別の態様として提供する。
【0013】
ヒトαディフェンシンHD5
ヒトのαディフェンシンには、HD5とHD6の2つのアイソフォームが存在する。HD5(DEFA5、ディフェンシンα5とも呼ばれる)は、N末端側1-19位のシグナルペプチドを含む全長94アミノ酸残基のプレペプチドpre-HD5(配列番号17)として翻訳される。次いでpre-HD5からシグナルペプチドが切断されてプロペプチドpro-HD5(75アミノ酸)を生じ、さらにN末端側の43アミノ酸残基が切断されることで、成熟体のHD5(32アミノ酸、配列番号18)が生成する。成熟体HD5のアミノ酸配列には6個のシステイン残基が含まれ、これらが3つの分子内ジスルフィド結合を形成することによってox-HD5となる。ox-HD5のアミノ酸配列及び分子内ジスルフィド結合の位置を
図1に示す。
【0014】
抗ox-HD5モノクローナル抗体
本発明において用いられる上記a)及びb)の抗ox-HD5モノクローナル抗体は、ox-HD5、すなわち分子内に3個のジスルフィド結合を有するHD5に特異的に結合する抗体である。ox-HD5に特異的に結合するとは、例えば分子内ジスルフィド結合を有さない還元型HD5等の非標的タンパク質よりもox-HD5に優先的に結合することを意味し、非標的タンパク質に全く結合しないことを意味するものではない。ox-HD5に特異的に結合する抗体は、ox-HD5に高い結合親和性を有する抗体と表すこともでき、非標的タンパク質とのアフィニティーよりも少なくとも2倍強い、好ましくは少なくとも10倍強い、より好ましくは少なくとも20倍強い、最も好ましくは少なくとも100倍強いアフィニティーを有して、ox-HD5に結合することができる。抗体がox-HD5の存在を、望まれない結果、典型的には偽陽性又は偽陰性等を生じることなく検出することができるならば、当該抗体はox-HD5に特異的に結合する抗体であると考えられる。
【0015】
本発明において、抗ox-HD5モノクローナル抗体は、免疫グロブリン分子の任意のクラス(例としてIgG、IgE、IgM、IgD又はIgA)及びサブクラスのものであることができるが、IgGであることが好ましい。また、モノクローナル抗体は、例えばマウス、ラット、サメ、ウサギ、ブタ、ハムスター、ラクダ、ラマ、ヤギ又はヒトを包含する任意の種を起源とすることができ、キメラ抗体やヒト化抗体であってもよい。
【0016】
a)の抗ox-HD5モノクローナル抗体における重鎖可変領域は、配列番号13のアミノ酸配列との同一性が90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号13のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する。
【0017】
a)の抗ox-HD5モノクローナル抗体における軽鎖可変領域は、配列番号14のアミノ酸配列との同一性が90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号14のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する。
【0018】
b)の抗ox-HD5モノクローナル抗体における重鎖可変領域は、配列番号15のアミノ酸配列との同一性が90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号15のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する。
【0019】
b)の抗ox-HD5モノクローナル抗体における軽鎖可変領域は、配列番号16のアミノ酸配列との同一性が90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上若しくは99%以上であるアミノ酸配列を有し、好ましくは配列番号16のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する。
【0020】
アミノ酸配列の同一性は、アラインメント長に対する同一アミノ酸残基数の割合で表され、比較される2つのアミノ酸配列のアラインメントは、同一となるアミノ酸残基の数が最も多くなるように常法に従って行われる。配列同一性は、当業者に公知の任意の方法により、例えばBLAST等の配列比較プログラムを用いて決定することができる。
【0021】
a)及びb)の抗ox-HD5モノクローナル抗体における重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、フレームワーク領域中、すなわちCDR以外のアミノ酸配列の中に、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下、3個以下、2個以下又は1個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されていてもよい。ここでアミノ酸の置換は、保存的置換であることが好ましい。「保存的置換」とは、タンパク質の生物学的活性、抗原アフィニティー及び/又は特異性といった所望の性質に影響を与えることなく、タンパク質中のアミノ酸が特性(例として電荷、側鎖サイズ、疎水性/親水性、骨格構造及び剛性等)が類似した他のアミノ酸に置き換わることをいい、その例としては、グリシン(Gly)とプロリン(Pro)、グリシンとアラニン(Ala)又はバリン(Val)、ロイシン(Leu)とイソロイシン(Ile)、グルタミン酸(Glu)とグルタミン(Gln)、アスパラギン酸(Asp)とアスパラギン(Asn)、システイン(Cys)とスレオニン(Thr)、スレオニンとセリン(Ser)又はアラニン、リジン(Lys)とアルギニン(Arg)等のアミノ酸の間での置換を挙げることができる。
【0022】
本発明において、抗原結合性断片とは、抗原と特異的に結合する能力を保持した抗体の部分断片として定義される。抗原結合性断片の例としては、限定されるものではないが、Fab(fragment of antigen binding)、Fab'、F(ab')2、一本鎖抗体(single chain Fv)、ジスルフィド安定化抗体(disulfide stabilized Fv)及びCDRを含むペプチド等を挙げることができる。
【0023】
本発明において用いられる抗ox-HD5モノクローナル抗体及びその抗原結合性断片は、当業者に公知の方法を用いて作製することができる。例えば、抗ox-HD5モノクローナル抗体は、ox-HD5を抗原として適当な動物に免疫し、次いで当該動物のB細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを得て、これを培養することで作製することができる。ハイブリドーマ法については、例えばMeyaard et al. (1997) Immunity 7:283-290; Wright et al. (2000) Immunity 13:233-242; Kaithamana et al. (1999) J.Immunol. 163:5157-5164等を参照されたい。
【0024】
ox-HD5は、配列番号18に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを化学的に又は遺伝子工学的に作製し、これを公知のタンパク質リフォールディング処理において用いられるジスルフィド結合形成反応に供することで調製することができる。ジスルフィド結合形成反応は、典型的には、弱アルカリ性の水性溶媒中、4℃~10℃程度で12時間~48時間程度、穏やかに撹拌することによって、又は酸化剤と還元剤とを適当な割合で組み合わせたレドックス試薬(酸化型グルタチオン/還元型グルタチオン、シスチン/システイン、システアミン/シスタミン等)の存在下、20℃~30℃程度で12時間~48時間程度、穏やかに撹拌して酸化することによって行うことができる。
【0025】
またox-HD5は、pre-HD5又はpro-HD5をコードする核酸で宿主細胞を形質転換し、宿主細胞内でpre-HD5又はpro-HD5をox-HD5に変換させることで調製してもよい。ox-HD5はそのまま抗原として利用してもよく、また適当な縮合剤を介して種々の担体タンパク質と結合させて免疫原性コンジュゲートとしたものを抗原として利用してもよい。また、適当なアジュバントとともに抗原としてもよい。
【0026】
また、本発明において用いられる抗ox-HD5モノクローナル抗体及びその抗原結合性断片は、これらをコードする核酸を含む発現ベクターを適当な宿主細胞に導入し発現させることを含む、遺伝子工学的手法により作製することができる。抗ox-HD5モノクローナル抗体及びその抗原結合性断片をコードする核酸の作製、宿主細胞の種類と遺伝子の導入方法、タンパク質の発現及び精製等を含む、遺伝子工学的手法による抗体の作製は、種々の遺伝子組換え操作を詳細に解説した実験操作マニュアル書の指示に基づいて、当業者に公知又は周知の方法により行うことができる。本発明は、抗ox-HD5モノクローナル抗体及びその抗原結合性断片をコードする核酸、当該核酸を含む発現ベクター及び形質転換された宿主細胞も別の態様として提供する。
【0027】
a)の抗ox-HD5モノクローナル抗体の好ましい例は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに2019年12月4日付で国際受託番号NITE BP-03086(識別の表示:12-1)として国際寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体(以下、モノクローナル抗体12-1又は単に12-1と表す)である。
【0028】
b)の抗ox-HD5モノクローナル抗体の好ましい例は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに2019年12月4日付で国際受託番号NITE BP-03087(識別の表示:39E-7)として国際寄託されたハイブリドーマが産生するモノクローナル抗体(以下、モノクローナル抗体39E-7又は単に39E-7と表す)である。
【0029】
また、a)の抗ox-HD5モノクローナル抗体の抗原結合性断片の好ましい例はモノクローナル抗体12-1の抗原結合性断片であり、b)の抗ox-HD5モノクローナル抗体の抗原結合性断片の好ましい例はモノクローナル抗体39E-7の抗原結合性断片である。
【0030】
ox-HD5の免疫学的検出方法及びキット
本発明における抗ox-HD5モノクローナル抗体及びその抗原結合性断片は、いずれもox-HD5に特異的に結合することから、ox-HD5の免疫学的検出やox-HD5に対するアフィニティーカラム等において利用することができる。
【0031】
加えて、a)の抗ox-HD5モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片とb)の抗ox-HD5モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片とは、互いにox-HD5の異なるエピトープを認識し、1分子のox-HD5に同時に結合することでサンドイッチ複合体を形成することから、これらの抗体の組み合わせを用いることでサンドイッチ法による検体中ox-HD5の高感度な免疫学的検出が可能となる。
【0032】
ox-HD5の免疫学的検出方法には、抗原抗体反応を利用するイムノアッセイ全般が含まれ、その例としてはELISA、ラジオイムノアッセイ、組織又は細胞の免疫染色、イムノブロッティング、イムノクロマトグラフィー等が挙げられる。本発明においては、a)の抗ox-HD5モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片とb)の抗ox-HD5モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片とを用いたサンドイッチ法による免疫学的検出が好ましく、特にa)の抗ox-HD5モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を捕捉抗体として、b)の抗ox-HD5モノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を検出抗体として用いたサンドイッチ法による免疫学的検出、例えばサンドイッチELISAが好ましい。
【0033】
本発明における抗ox-HD5モノクローナル抗体及びその抗原結合性断片は、ox-HD5の免疫学的検出のため、適当な担体に固相化したり、又は適当な標識化合物によって標識することができる。本発明の好ましい実施形態において、捕捉抗体として用いられるa)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は担体に固相化されており、検出抗体として用いられるb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片は標識化されている。
【0034】
抗体を固相化するための担体、当該担体への抗体の固相化方法、検出抗体を標識するための標識化合物とこれを用いた抗体の標識法、並びにこれらを用いたイムノアッセイの操作、例えば検体と固相化担体とのインキュベーション条件、洗浄、ブロッキング処理、検出方法等は、当業者に公知又は周知の方法、例えばThe Immunoassay Handbook : Theory and Applications of Ligand Binding, ELISA and Related Techniques(4TH)、Elsevierの記載を参照して行うことができる。当該文献は参照により参照によりその全体が本明細書中に組み入れられる。
【0035】
標識化合物の例としては、蛍光物質(例えばFITC、ローダミン、ファロイジン等)、金コロイド等の金属粒子、Luminex(登録商標、ルミネックス社)等の蛍光マイクロビーズ、色素タンパク質(例えばフィコエリトリン、フィコシアニン等)、放射性同位体(例えば3H、14C、32P、35S、125I、131I等)、酵素(例えばペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ等)、ビオチン、ストレプトアビジンを挙げることができる。
【0036】
本発明の一態様であるキットは、a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片及び上記b)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を含む。キットは、プレート等の担体や、ブロッキング溶液、洗浄液及び発色基質等の試薬をさらに含んでもよい。
【0037】
ox-HD5の免疫学的検出において用いられる検体は、好ましくはヒト由来の生物学的試料であり、その例としては、組織、細胞、体液(例として血液、リンパ液、唾液、粘液、骨髄液、尿、精液、腹腔液等)又は糞便等を挙げることができる。生物学的試料は、採取されたそのままの状態で用いてもよく、粉砕、ホモジナイズ、遠心分離、濃縮、希釈等の前処理を施した後に用いてもよい。
【0038】
糞便中のox-HD5を検出する場合、凍結乾燥された糞便を破砕し、これを水性媒体で抽出して得られる抽出液を検体として用いることが好ましい。このような検体は、典型的には、凍結乾燥後の糞便をビーズ粉砕機等の粉砕機を用いて破砕し、次いで、生物学的試料に対して負の影響を与えない生化学の分野で一般に用いられる水性媒体、例えば蒸留水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を破砕された糞便に加え、これを、1時間~48時間、好ましくは4時間~36時間、より好ましくは8時間~24時間の間、4℃程度の温度で振とうした後、遠心分離又はろ過により固形分を除去することで調製することができる。
【0039】
血液中のox-HD5を検出する場合、血清又は血漿を検体として用いることが好ましい。
【0040】
本発明の特に好ましい実施形態において、ox-HD5の免疫学的検出方法は、a)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の濃度0.5 mg/ml以上、例えば0.5~10 mg/ml、好ましくは1~10 mg/mlの溶液を添加して固相化した担体に検体を添加する工程、前記担体に、標識化されたb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片を、添加時点での担体上の溶液中の最終濃度が0.1 mg/ml以上、例えば0.1~1 mg/ml、好ましくは0.5~1 mg/mlとなるように添加する工程、及び分子内ジスルフィド結合を有するヒトαディフェンシンHD5に結合したb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の標識を検出する工程を含む。標識化されたb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片についての添加時点での担体上の溶液の最終濃度は、前の工程から持ち込まれた残存液体による希釈を考慮して、添加溶液の濃度を設定することによって調整することができる。例えば、検体添加工程の後に担体から液体を除去する場合、担体上に液体はほとんど残存しないことから、上記の最終濃度は、添加する標識化されたb)のモノクローナル抗体又はその抗原結合性断片の溶液の濃度と実質的に等しい。
【0041】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1 抗ox-HD5モノクローナル抗体の作製
1)ox-HD5の調製
Thermo Fisher社に委託して化学合成した成熟体のHD5(配列番号18)を0.1%酢酸に溶解し、10%水酸化アンモニウムでpHを8.4~8.8に調整し、4℃で18時間、穏やかに撹拌することで酸化処理を行った。その後、透析膜にて5%酢酸に置換し、真空凍結乾燥にて溶液を除去した。得られた試料を0.1%トリフルオロ酢酸に溶解し、逆相クロマトグラフィー(C-18カラム)に供してポリペプチド画分を回収した。
【0043】
ポリペプチド画分と酸化処理前の合成ポリペプチドのそれぞれをMALDI-TOF MSで分析した(
図2)。その結果、酸化処理されたポリペプチド画分の分子量は、r-HD5(分子量: 3588.2)と比較して約6 Da減少していたことが確認された。このことは、酸化処理によって分子内に3個のジスルフィド結合を有するox-HD5が生成されたことを示す。
【0044】
また、上記の酸化処理に代えて、成熟体のHD5をグルタチオン酸化溶液(還元型グルタチオン(3mM)、酸化型グルタチオン(0.3mM)、尿素(8M))に溶解し、炭酸水素ナトリウム(0.25M)でpH8.4に調整後、室温で18時間、穏やかに攪拌することで酸化処理を行っても、分子内に3個のジスルフィド結合を有するox-HD5が得られることをMALDI-TOF MSで確認した。これらのox-HD5を以降の実施例において用いた。
【0045】
2)ハイブリドーマの作製
常法に従ってアジュバントを注射した自己免疫疾患マウス(C3H/HeJJmsSlc-lpr/lprを日本エスエルシーより入手)にox-HD5を3回腹腔内注射(0.2 mg/回)して免疫を行った。その後、常法に従って、免疫したマウスから脾臓細胞を採取し、50%ポリエチレングリコール1500(Sigma-Aldrich社)を用いてマウスミエローマ細胞株P3U1と融合させてハイブリドーマを作製した。各ハイブリドーマクローンを間接ELISAでスクリーニングし、限界希釈法により4回サブクローニングした。
【0046】
間接ELISAは以下の手順で行った。平底マイクロタイタープレート(Nunc)のウェルを、Ca2+/Mg2+フリーのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解した1μg/mlのox-HD5でコーティングし、4℃で一晩インキュベートした。0.1% Tween 20を含むPBS(PBS-T)で3回洗浄後、各ハイブリドーマクローンの培養上清をウェルに加え、37℃で1時間インキュベートした。PBS-Tで洗浄後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG(GE Healthcare Biosciences)を添加し、45分間インキュベートした後に洗浄した。3, 3', 5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)基質緩衝液(KPL)100μLを各ウェルに添加し、プレートを25℃で30分間インキュベートした後、マイクロプレートリーダーMultiscan FC(Thermo Scientific)で405 nmの吸光度を測定した。
【0047】
以上の操作により選抜された5種類のハイブリドーマクローン(12-1、16-1、39E-7、58-3、60-10B)について、産生するモノクローナル抗体のアイソタイプをマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(roche社)を用いて決定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
実施例2 サンドイッチイムノアッセイの確立
1)イムノアッセイ用抗体の選択
以下の手順で5種類のモノクローナル抗体を捕捉抗体又は検出抗体のいずれかとして用いたサンドイッチELISAを行い、イムノアッセイに適した抗体の組み合わせを選択した。
【0049】
実施例1で得た各モノクローナル抗体を10 mg/mlとなるように50 mM炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH 9.6)に溶解し、この溶液100μlをマイクロタイタープレートの各ウェルに加えた後、4℃で一晩インキュベートした。プレートをPBS-Tで3回洗浄した後、200μlの25% Block Ace(DS Pharma Biomedical)を加え、25℃で1時間ブロッキングを行った。PBS-Tで洗浄した後のプレートを、捕捉抗体が固相化されたプレートとしてイムノアッセイにおいて用いた。また、ビオチン(Dojindo Laboratories)を製造業者のプロトコールに従って用いて各モノクローナル抗体を標識し、検出抗体を調製した。
【0050】
10又は30 ng/mlとなるようにPBS-Tに溶解した100 μlのox-HD5を標品として固相化プレートの各ウェルに加え、25℃で2時間インキュベートした。PBS-Tで3回洗浄後、0.5 mg/mlの検出抗体100μlをウェルに加え、25℃で1時間インキュベートした。次いで100μlのStreptavidin-HRPコンジュゲート(GE Healthcare Biosciences、1:5000希釈)をウェルに加え、25℃で1時間インキュベートした。洗浄後、100 μlのTMB基質緩衝液をウェルに加え、25℃で30分間インキュベートした後、100μlの0.6N H2SO4を加えて反応を停止した。マイクロプレートリーダーを用いて450 nm(吸収波長)及び620 nm(リファレンス波長)での吸光度を測定し、両者の差分を測定値とした。測定値は平均値±標準偏差で示した。
【0051】
結果を
図3に示す。捕捉抗体が12-1、検出抗体が39E-7の場合に、検出感度が最も高いことが確認された。
【0052】
2)最適化
捕捉抗体12-1、検出抗体39E-7の組み合わせについて、それぞれの抗体の最適濃度を検討した。まず検出抗体39E-7の濃度を0.5 mg/mlに、捕捉抗体12-1の濃度を0.1、0.5、1、5又は10 mg/mlに設定して上記1)と同様にサンドイッチELISAを行い、濃度0~30 ng/mlのox-HD5に対する標準曲線を作成した(n=3)。統計解析はStudentのt検定で行い、P値<0.05を統計学的に有意とした。
【0053】
結果を
図4及び5に示す。ox-HD5濃度が15 ng/mlのときに捕捉抗体濃度1 mg/mlの吸光度が最も高いことが確認された。また、ox-HD5濃度30 ng/mlにおける吸光度は捕捉抗体濃度依存的に上昇し、1、5、10 mg/mlの間では有意差はなかった。以上より、捕捉抗体の最適濃度を1 mg/mlとした。
【0054】
次に、捕捉抗体12-1の濃度を1 mg/mlに、検出抗体39E-7の濃度を0.1、0.5又は1 mg/mlに設定して同様にサンドイッチELISAを行い、標準曲線を作成した(n=8)。結果を
図6及び7に示す。ox-HD5濃度15、30 ng/mlのいずれにおいても、検出抗体濃度0.5及び1 mg/mlの吸光度には有意差はなかった。以上より、検出抗体の最適濃度を0.5 mg/mlとした。
【0055】
3)特異性の確認
上記1)及び2)で構築したアッセイ系の特異性を検討するために、r-HD5、HD5のアイソフォームであるHD6(配列番号19)の還元型(r-HD6)、2種のマウスαディフェンシン(Crp1、Crp4)の酸化型及び還元型(ox-Crp1、r-Crp1、ox-Crp4、r-Crp4)に対する反応性を調べた。これらのペプチドはいずれもThermo Fisher社に委託して化学合成した。Crp1及びCrp4の酸化型は、既報(K. Nakamura et al., Analytical biochemistry. 2013, 443(2), 124-131)に従って調製した。捕捉抗体12-1の濃度を1 mg/mlに、検出抗体39E-7の濃度を0.5 mg/mlに設定して同様にサンドイッチELISAを行い、0~60 ng/mlの各抗原に対する標準曲線を作成した。
【0056】
結果を
図8に示す。r-HD5を抗原として用いた場合は濃度60 ng/mlにおいてわずかな吸光度の上昇が認められたが、r-HD6、ox-Crp1、r-Crp1、ox-Crp4及びr-Crp4を抗原として用いた場合は吸光度は上昇しなかったことから、本アッセイ系はox-HD5に対して強い親和性と特異性を持つことが確認された。
【0057】
実施例3 モノクローナル抗体のCDR解析
SMART cDNAライブラリー作製キット(タカラバイオ株式会社)を用いて、モノクローナル抗体12-1及び39E-7のCDR配列を解析した。具体的には、ハイブリドーマクローン12-1及び39E-7から全RNAを抽出し、これを鋳型として3'末端側IgG1重鎖特異的プライマー、IgG2a重鎖特異的プライマー又はκ軽鎖特異的プライマーを用いてcDNAを作製した。このcDNAを鋳型とし、フォワードプライマーとしてキットに添付の5’末端側特異的プライマーを、リバースプライマーとして3’末端側IgG1重鎖特異的プライマー、IgG2a重鎖特異的プライマー又はκ軽鎖特異的プライマーを用いてPCR増幅を行った。増幅されたDNA断片の核酸配列をDNAシーケンサーを用いて解析し、得られた配列情報をIgBLASTデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)上で検索した。その結果、モノクローナル抗体12-1及び39E-7はいずれも新規なCDR配列の組み合わせを有することが確認された。それぞれの抗体の重鎖CDR1~3及び可変領域のアミノ酸配列を表2に、軽鎖CDR1~3及び可変領域のアミノ酸配列を表3に示す。
【表2】
【表3】
【0058】
ハイブリドーマクローン12-1及び39E-7は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センターに、受託番号NITE BP-03086(識別の表示:12-1)及びNITE BP-03087(識別の表示:39E-7)として国際寄託された。
【0059】
実施例4 サンドイッチELISAを用いたヒト検体中のox-HD5の定量
健常者のボランティア(30~80歳、計5名)から血清及び糞便を採取した。糞便を16時間凍結乾燥し、ステンレスビーズを加えてビーズビーター型ホモジナイザー(Beads Crusher μT-12)を用いて粉砕した。糞便粉末50 mgあたりPBS (-) 500 μLを加えて16時間振とう後、遠心分離(20,400 G、10min、4℃)して回収した上清を測定試料とした。サンドイッチELISAは、実施例2で決定した最適条件で実施した。
【0060】
結果を
図9に示す。糞便抽出液からは平均6.10±2.63 ng/mL、血清からは1.81±0.38 ng/mLのox-HD5が検出された。測定試料として糞便抽出液、血清のいずれを用いた場合でも、ox-HD5の定量が可能であることが確認された。
【配列表フリーテキスト】
【0061】
配列番号1 モノクローナル抗体12-1の重鎖CDR1のアミノ酸配列
配列番号2 モノクローナル抗体12-1の重鎖CDR2のアミノ酸配列
配列番号3 モノクローナル抗体12-1の重鎖CDR3のアミノ酸配列
配列番号4 モノクローナル抗体12-1の軽鎖CDR1のアミノ酸配列
配列番号5 モノクローナル抗体12-1の軽鎖CDR2のアミノ酸配列
配列番号6 モノクローナル抗体12-1の軽鎖CDR3のアミノ酸配列
配列番号7 モノクローナル抗体39E-7の重鎖CDR1のアミノ酸配列
配列番号8 モノクローナル抗体39E-7の重鎖CDR2のアミノ酸配列
配列番号9 モノクローナル抗体39E-7の重鎖CDR3のアミノ酸配列
配列番号10 モノクローナル抗体39E-7の軽鎖CDR1のアミノ酸配列
配列番号11 モノクローナル抗体39E-7の軽鎖CDR2のアミノ酸配列
配列番号12 モノクローナル抗体39E-7の軽鎖CDR3のアミノ酸配列
配列番号13 モノクローナル抗体12-1の重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号14 モノクローナル抗体12-1の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号15 モノクローナル抗体39E-7の重鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号16 モノクローナル抗体39E-7の軽鎖可変領域のアミノ酸配列
配列番号17 HD5のプレ体のアミノ酸配列
配列番号18 HD5の成熟体のアミノ酸配列
配列番号19 HD6の成熟体のアミノ酸配列
【配列表】