(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】ポリカルボシランの合成法
(51)【国際特許分類】
C08G 77/60 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
C08G77/60
(21)【出願番号】P 2020058807
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】渕瀬 啓太
(72)【発明者】
【氏名】深谷 訓久
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-309879(JP,A)
【文献】特開昭60-084330(JP,A)
【文献】特開平07-304875(JP,A)
【文献】特開平02-212522(JP,A)
【文献】特開平08-259697(JP,A)
【文献】国際公開第2006/009123(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 77/00-77/62
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属マグネシウムと、Ti、Zr及びHfから選択された4族金属のハロゲン化物の存在下、2以上のC-X結合(ここで、XはCl、BrまたはIである)を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物と2以上のSi-Y結合(ここで、YはCl、Br、IまたはFである)を有するハロゲン化シラン化合物を重縮合させることを特徴とする、ポリカルボシランの製造方法。
【請求項2】
2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、2以上のC-ClまたはC-Br結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、2以上のC-Cl結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、ジクロロメタンまたはジブロモメタンであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、トリクロロメタン(クロロホルム)および/またはテトラクロロメタン、もしくは、これとジクロロメタンの混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、2以上のSi-Cl、Si-BrまたはSi-F結合を有するハロゲン化シラン化合物であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、2以上のSi-ClまたはSi-F結合を有するハロゲン化シラン化合物であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、2以上のSi-Cl結合を有するハロゲン化シラン化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、ジクロロメチルシランであることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
4族金属のハロゲン化物が、チタンまたはジルコニウムのハロゲン化物であることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
4族金属のハロゲン化物が、チタンのハロゲン化物であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
4族金属のハロゲン化物が、テトラクロロチタンまたはテトラクロロジルコニウムであることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボシランを合成する新たな方法に関する。ポリカルボシランは、ケイ素原子および炭素原子が複数連結して骨格を形成する有機ケイ素高分子であり、これを高温処理することにより耐熱性の構造材料などとして用いられるセラミックスである炭化ケイ素(SiC)やその繊維である炭化ケイ素繊維(SiC繊維)を得るための前駆体などとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
ポリカルボシランの製造方法としては、以下の1)~4)に示す方法が、従来から、開発ないし提案されている:
1)ポリジメチルシランなどの-Si-Si-結合を主鎖骨格とするポリシラン化合物を初めに合成した後、熱転位反応(熊田転位)によりポリカルボシランを合成する方法(矢島法、特許文献1)
【化1】
2)Grignard型重縮合反応により、ハロゲン化アルキル化合物とクロロシラン類を重縮合させる方法(非特許文献1~3):
ハロゲン化アルキルのハロゲン原子とアルキル基の間にマグネシウム(Mg)原子が挿入することで生じるハロゲン-Mg-アルキル結合とクロロシラン類が有するCl-Si結合とが重縮合することで、MgハロゲンCl結合と、-Si-アルキル-Si-結合が生成する。このとき、2分子のハロゲン化アルキルと2分子のクロロシラン類とが閉環縮合すれば、1,3-ジシラシクロブタン類が副生する。
【化2】
※図中の[C]は任意の炭化水素基を意味する。
3)Grignard型重縮合反応により、(クロロメチル)シラン類を重縮合させる方法(非特許文献4、5):
(クロロメチル)シラン類Cl-CH
2-Si-ClのCl-C間にMg原子が挿入することで生じるCl-Mg-CH
2-Si-Cl同士が重縮合することにより、MgCl
2と-Si-C-Si-が生成する。
【化3】
※図中の[Si]は、クロロメチルシラン類に由来するSiCl
3、またはこれにさらに他のクロロメチルシラン類が重縮合して生じた基を意味する。
4)1,3-ジシラシクロブタン類を開環重合させる方法(非特許文献6、7):
(クロロメチル)シラン類Cl-CH
2-Si-ClのCl-C間にMg原子が挿入することで生じるCl-Mg-CH
2-Si-Clの2分子が閉環縮合することにより生じる1,3-ジシラシクロブタン類を、遷移金属触媒の作用によって開環重合させる。
【化4】
※上図は1,3-ジシラシクロブタン類の合成経路として想定される一例であり、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロブタンを合成した後、これを開環重合する様を示している。
【0003】
これらの製造方法は、
1)については、現在、ポリカルボシランの工業的製造方法として主に用いられている方法であり、これにより、平均分子量が1000~10000程度のポリカルボシランが得られるが、ポリシランの合成とこれの熱転位によるポリカルボシランの合成の二段階の反応が必要であり、収率が低く、エネルギー消費が大であり、また、生成物の骨格には-Si-C-結合の他に-Si-Si-結合の連鎖が混ざり、分子構造の制御が難しく、ひいては、これを前駆体として製造されるSiCおよびSiC繊維の化学構造や物性の制御が難しいという欠点を有する。
また、ポリシランの合成には金属ナトリウムの作用によるクロロシラン類の縮合反応を使用しており、さらに、熱転位反応によるポリカルボシランの合成の副生成物として空気に触れると発火するシランガスが発生し得ることから、合成装置に高度な安全管理が必要である。
2)については、ハロメタン類としてC-Br結合を有する化合物を用いた場合は、副反応が非常に多く、目的とするポリカルボシランを得ることは困難であり、また、ハロメタン類としてC-Cl結合を有する化合物を用いた場合は、ハロメタン類の反応性が非常に低く、C-Si結合を生成することが困難である。そして、この方法に基づいた高分子量のポリカルボシランの合成は達成されていない。
3)については、生成物として重量平均分子量が数千程度までのポリカルボシランが得られるが、原料の(クロロメチル)シラン類が高価であり、大量の確保が難しい。また、(クロロメチル)シラン類の合成方法は塩素ガスなどの塩素化剤を用いたメチルシラン類のラジカル塩素化に限定される上,収率が低いため、ポリカルボシランの合成にモノマーとして利用できる(クロロメチル)シラン類の構造が非常に制限されるという欠点を有する。
4)については、生成物として重量平均分子量が数万程度の分子量が大きなポリカルボシランが得られるものの、原料の1,3-ジシラシクロブタン類の合成に(クロロメチル)シラン類が必要であるため、(クロロメチル)シラン類の入手に関して上記3)と同様の問題を有し、さらに、(クロロメチル)シラン類からの1,3-ジシラシクロブタン類の合成収率も低いという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cainelliら, Tetrahedron Lett. 1967, 51, 5153-5156
【文献】Bickelhauptら, J. Organomet. Chem. 1985, 288, 13-25
【文献】Dunoguesら, J. Organomet. Chem. 1996, 521, 99-107
【文献】Kriner, J. Org. Chem. 1964, 29, 1601-1606
【文献】Interrante, Organometallics 1991, 10, 1336-1344
【文献】Interranteら, Chem. Mater. 1989, 1, 564-568.
【文献】Interranteら, Macromolecules 1992, 25, 1840-1841.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ポリカルボシランの製造方法に係る上記従来技術の欠点を解消し、より入手の容易な原料から温和な条件でポリカルボシランを合成でき、かつ、合成されるポリカルボシランの化学構造の制御がより容易な、ポリカルボシランの合成方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、マグネシウム及び4族金属(チタン、ジルコニウム、ハフニウム)のハロゲン化物の存在下、ジクロロメタンなどのハロゲノアルキル化合物とジクロロ(メチル)シランなどのクロロシラン化合物を8℃~35℃程度の温和な条件下で反応させることにより、ポリスチレン換算で数平均分子量Mnが710~2130、分子量分散D
Mが1.28~2.68のポリカルボシランが得られることを見出した。
【化5】
上記反応系において、4族金属ハロゲン化物を加えないと、ポリカルボシランはほとんど合成されない(比較例1および比較例4)。
本発明者らは、また、上記反応系において、ジクロロメタンに加えて、あるいは、替えて、トリクロロメタン(クロロホルム)を用いることにより、骨格上に-Si-C-の分岐構造を有するポリカルボシランが得られることを見出した(実施例3および実施例4)。
【化6】
※図中[C]は任意の炭化水素基を意味し、例えば、炭素数1~6の脂肪族炭化水素基(メチル基,エチル基,イソプロピル基,n-ブチル基,sec-ブチル基,イソブチル基,tert-ブチル基,シクロプロピル基,シクロブチル基,ビニル基,アリル基,1-プロペニル基,イソプロペニル基,1-ブテニル基,2-ブテニル基,3-ブテニル基,2-メチル-1-プロペニル基,2-メチル-2-プロペニル基,エチニル基,1-プロピニル基,プロパルギル基,1-ブチニル基,2-ブチニル基、3-ブチニル基、アレニル基、ブタジエニル基,ペンチル基、シクロペンチル基、1-シクロペンテニル基、2-シクロペンテニル基、3-シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、1-シクロヘキセニル基、2-シクロヘキセニル基、3-シクロヘキセニル基、2,4-シクロヘキサジエニル基、2,5-シクロヘキサジエニル基、など)、または炭素数6~10の芳香族炭化水素基(フェニル基,炭化水素の置換基を持つフェニル基,ナフチル基など)である。また、図中[Si]は、原料として用いたクロロシラン化合物に由来するSiRR’Y基、または、これにさらに他のハロゲノアルキル化合物およびクロロシラン化合物が次々縮合して生じた基を表わす。さらに、生成物の構造として示したRやR’基のうち原料中にてY基であった部分については反応の進行後、原料として用いたハロゲノアルキル化合物とクロロシラン化合物が次々縮合して生成する構造に変換され得る。さらに、〈p〉、〈q〉、〈r〉は生成物が持つそれぞれの繰り返し構造の数平均値である。
【0008】
本発明は、本発明者らによるこれらの知見に基づいてなされたものであり、具体的には以下のとおりのものである。
〈1〉金属マグネシウムと、Ti、Zr及びHfから選択された4族金属のハロゲン化物の存在下、2以上のC-X結合(ここで、XはCl、BrまたはIである)を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物と2以上のSi-Y結合(ここで、YはCl、Br、IまたはFである)を有するハロゲン化シラン化合物を重縮合させることを特徴とする、ポリカルボシランの製造方法。
〈2〉2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、2以上のC-ClまたはC-Br結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物であることを特徴とする、〈1〉に記載の方法。
〈3〉2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、2以上のC-Cl結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物であることを特徴とする、〈2〉に記載の方法。
〈4〉2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、ジクロロメタンまたはジブロモメタンであることを特徴とする、〈1〉に記載の方法。
〈5〉2以上のC-X結合を有するハロゲン化脂肪族炭化水素化合物が、トリクロロメタン(クロロホルム)および/またはテトラクロロメタン、もしくは、これとジクロロメタンの混合物であることを特徴とする、〈1〉に記載の方法。
〈6〉2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、2以上のSi-Cl、Si-BrまたはSi-F結合を有するハロゲン化シラン化合物であることを特徴とする、〈1〉~〈5〉のいずれかに記載の方法。
〈7〉2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、2以上のSi-ClまたはSi-F結合を有するハロゲン化シラン化合物であることを特徴とする、〈6〉に記載の方法。
〈8〉2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、2以上のSi-Cl結合を有するハロゲン化シラン化合物であることを特徴とする、〈7〉に記載の方法。
〈9〉2以上のSi-Y結合を有するハロゲン化シラン化合物が、ジクロロメチルシランであることを特徴とする、〈8〉に記載の方法。
〈10〉4族金属のハロゲン化物が、チタンまたはジルコニウムのハロゲン化物であることを特徴とする、〈1〉~〈9〉のいずれかに記載の方法。
〈11〉4族金属のハロゲン化物が、チタンのハロゲン化物であることを特徴とする、〈10〉に記載の方法。
〈12〉4族金属のハロゲン化物が、テトラクロロチタンまたはテトラクロロジルコニウムであることを特徴とする、〈10〉に記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、温和な条件下、比較的安価な原料化合物であるジハロゲン化メタンとジハロゲン化シラン類を反応させることで、一段階の反応で、数平均分子量1000~2000程度のポリカルボシランを得ることができる。
本発明によれば、ジハロゲン化メタンに加えて、あるいは、替えて、トリハロゲン化メタンのような、より高度にハロゲン化されたハロゲン化メタンを用いることにより、同様の温和な条件下で、分岐した骨格構造を有するポリカルボシランを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ポリカルボシランはケイ素原子および炭素原子が複数連結して骨格を形成する有機ケイ素高分子である。
本発明は、ポリカルボシランを、ジクロロメタンなど複数のC-X結合(X = Cl, Br, I)を持つハロゲン化脂肪族炭化水素化合物とジクロロシランなど複数のSi-Y結合(Y = Cl, Br, I, F)を持つハロゲン化シラン類との重縮合により直接的に合成する方法を提供するものであり、この重縮合を進行させる試薬として、金属マグネシウムに加えて4族金属(チタン, ジルコニウム, ハフニウム)のハロゲン化物を触媒として用いることを特徴とするものである。
本発明に用いるハロゲン化脂肪族炭化水素としては、炭素数1~10の直鎖または分岐鎖脂肪族炭化水素のハロゲン化物が好ましく、ハロゲン化メタンが特に好ましい。
本発明は、従来の工業的なポリカルボシランの合成法の主流である、ポリシランの合成に次ぐ熱転位反応によりポリカルボシランを合成するという合成経路を、マグネシウムを用いたGrignard反応による直接的な合成経路に置き換えるものであり、金属マグネシウムおよび4族金属ハロゲン化物の作用により重合を進行させ、ポリカルボシランを、簡素な操作で、かつ一段階の直接的な反応で合成する。
4族金属ハロゲン化物を金属マグネシウムと共に添加することで、上記重縮合反応の進行が劇的に促進され、数平均分子量数千程度のポリカルボシランを得ることができる。
また,重合のモノマーとして、ジクロロメタンのほかにクロロホルムや四塩化炭素など3つ以上のC-X結合(X = Cl, Br, I)を持つ化合物を適量用いることで、分岐した骨格構造が形成され、生成するポリカルボシランの分子構造を変化させることができた。
ジクロロシラン類のほかにトリクロロシラン類やテトラクロロシランなど3つ以上のSi-Y結合(Y = Cl, Br, I, F)を持つ化合物を用いることによっても、同様の分岐した骨格構造が形成されることが合理的に予測され、生成するポリカルボシランの分子構造を変化させることができると考えられる。
【実施例】
【0011】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、発明の範囲は、下記の実施例に限定されるものではない。また、以下の記述中、Mnは数平均分子量を表わす。また、DMは分子量分散を表わし、これは、DM = (重量平均分子量 Mw) / (数平均分子量 Mn)で計算される.
【0012】
[実施例1]
(※MeSiHCl2 1 eq., Mg 2.023 eq, CH2Cl2 1.003 eq., THF 25.4 eq., TiCl4 1.003 eq.)
撹拌子を備えたバイアルへ、アルゴン雰囲気下で削り状のマグネシウム477.4mg(19.64mmol)、テトラヒドロフラン(THF)20.0mL(247mmol)、ジクロロメタン622mL(9.72mmol)、そしてジクロロ(メチル)シラン1.0mL(9.7mmol)を室温下で順番に添加した。その後、四塩化チタン1.07mL(9.74mmol)を15分かけて滴下した。室温下で48時間撹拌を継続した後、ヘキサンを加えて希釈し、濾過後濃縮した。生成物として、淡い茶褐色の高粘度オイル状物質を198.9mg得た(収率35.5%)。生成物のIRスペクトルにはTi-C結合に由来する吸収(1190cm-1)は観測されなかった。
(C-ClとSi-Clが完全に反応した場合の理論収率560mg)
Mn = 1280、DM = 1.44 (ポリスチレン換算)。
【0013】
[実施例2]
(※MeSiHCl2 1eq., Mg 2.027eq, CH2Cl2 1.00eq., THF 19.05eq., TiCl4(THF)2 0.049eq.)
撹拌子を備えたバイアルへ、アルゴン雰囲気下で削り状のマグネシウム478.3mg(19.68mmol)、テトラヒドロフラン(THF)12.0mL(148mmol)、ジクロロメタン622mL(9.72mmol)、そしてジクロロ(メチル)シラン1.0mL(9.7mmol)を室温下で順番に添加した。その後、四塩化チタン・二テトラヒドロフラン錯体(TiCl4(THF)2)165.4mg(0.495mmol)を加え、室温で重合を行った。反応開始から20時間後、THF 1.0mLを加えた。反応開始から44時間後、THFをさらに2mL加えた。反応開始から92時間後、反応液にピリジン2.35mL、エタノール1.7mLを加えた。次いで、ヘキサンを加えながら反応液を濾過した。そして、濾液を減圧濃縮した。生成物として、深緑色のオイル状物質を196.0mg得た(収率35.0%)。生成物のIRスペクトルにはTi-C結合に由来する吸収(1190cm-1)は観測されなかった。
(C-ClとSi-Clが完全に反応した場合の理論収率560mg)
Mn = 2130、DM = 1.63 (ポリスチレン換算)。
【0014】
[実施例3]
(※MeSiHCl2 1eq., Mg 2.11eq, CH2Cl2 0.70eq., CHCl3 0.2eq, THF 24.7eq., TiCl4 0.05eq.
窒素雰囲気下でシュレンクフラスコに、マグネシウム51.8mg(2.13mmol)、THF 2.0mL(25mmol)、ジクロロメタン(45μL, 0.70mmol)、クロロホルム(16μL, 0.20mmol)、ジクロロ(メチル)シラン(103μL, 1.00mmol)を順に加えた。8℃に冷却し,四塩化チタン(5μL, 0.05mmol)を加え,重合を開始した。THFを2mL追加した後、35℃で反応を継続した。22時間後、反応液をヘキサンで希釈した。さらに、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70% トルエン溶液を0.5mL(1.8mmol) 滴下し40分間撹拌した。反応液に、アセトンを加え23分撹拌した後、水と濃塩酸を加えて分液操作を行った。そして、有機相を分離後、乾燥、濃縮した。生成物として無色油状物質を50.4mg得た(収率90.1%)。生成物の1H NMRスペクトル中にはポリカルボシラン主鎖の分岐構造に由来する吸収が-1.00 ppmから-0.45 ppmの区間に観測された。
Mn = 1450、DM = 1.28 (ポリスチレン換算)。
【0015】
[実施例4]
(※MeSiHCl2 1 eq., Mg 2.11 eq, CHCl3 0.67 eq., THF 49.3 eq., TiCl4 0.05 eq)
窒素雰囲気下でシュレンクフラスコに、マグネシウム51.3mg(2.11mmol)、THF 2.0mL(25mmol)、クロロホルム(54μL, 0.67mmol)、ジクロロ(メチル)シラン(103μL, 1.00mmol)を順に加えた。8℃に冷却し、四塩化チタン(5μL, 0.05mmol)を加え、重合を開始した。THFを2mL追加した後、35℃で反応を継続した。22時間後、反応液をヘキサンで希釈した。さらに、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70% トルエン溶液を0.5mL(1.8mmol)滴下し40分間撹拌した。反応液に、アセトンを加え18分撹拌した後、水と濃塩酸を加えて分液操作を行った。そして、有機相を分離後、乾燥、濃縮した。生成物として茶褐色油状物質を58.0mg得た。生成物の1H NMRスペクトル中にはポリカルボシラン主鎖の分岐構造に由来する吸収が-1.00ppmから-0.45ppmの区間に観測された。
Mn = 1060、DM = 1.62 (ポリスチレン換算)。
【0016】
[実施例5]
(※MeSiHCl2 1eq. , Mg 2.045eq, CH2Br2 1.00eq. , THF 25.4eq., TiCl4(THF)2 0.051eq.,
撹拌子を備えたバイアルへ、アルゴン雰囲気下で、削り状のマグネシウム241.3mg(9.93mmol)、テトラヒドロフラン(THF)10.0mL(123mmol)、ジクロロ(メチル)シラン0.50mL(4.9mmol)を室温下で順番に添加した。その後、窒素雰囲気下で、ジブロモメタン339μL(4.84mmol)と四塩化チタン・二テトラヒドロフラン錯体(TiCl4(THF)2) 82.8mg(0.248mmol)を順に加え、室温で重合を開始した。反応開始から96時間後、削り状のマグネシウム少量とジブロモメタン少量加えた。さらに、その3時間半後、反応液にヘキサンを加えて希釈したのち、濾過した。濾液を減圧濃縮した結果、生成物として深緑色の粘稠物質を217.1mg得た(収率77.8%)。
(理論収量279mg)
Mn = 1470、DM = 1.65 (ポリスチレン換算)。
【0017】
[実施例6]
(※MeSiHCl2 1eq., Mg 2.0eq, CH2Cl2 1.00eq., THF 49.3eq., ZrCl4 1.0eq.)
アルゴン雰囲気下にて、シュレンクチューブへ、マグネシウム粉末を48.6mg(2.00mmol)、四塩化ジルコニウム233.4mg(1.00mmol)を順に加えた。その後、窒素雰囲気下にて、THF 2mL(31mmol)、ジクロロメタン70μL(1.1mmol)、THF 2mL(31mmol)、そしてジクロロ(メチル)シラン103μL(1.00mmol)を35℃で順に添加し,反応を開始した。42時間後、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70%トルエン溶液を0.5mL(1.8mmol)滴下し30分撹拌した。続いて、アセトン1mLを加え15分間撹拌した。この液に水、濃塩酸、ヘキサンを順に加えて分液操作を行った。分離した有機相を乾燥させた後、減圧濃縮を行った。生成物として茶褐色油状物質を51.3mg得た(収率89.7%)。
(C-ClとSi-Clが完全に反応した場合の理論収率57.2mg)
Mn = 710、DM = 2.68 (ポリスチレン換算)。
【0018】
[比較例1]
(※MeSiHCl2 1eq., Mg 2.07eq, CH2Cl2 1.00eq., THF 24.6eq.)
撹拌子を備えたバイアルへ、アルゴン雰囲気下で、削り状のマグネシウム151.5mg(6.23mmol)、テトラヒドロフラン(THF) 6.0mL(74mmol)、ジクロロメタン192μL(3.00mmol)、ジクロロ(メチル)シラン310μL(3.01mmol)を室温下で順番に添加した。22日後、反応液に水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70% トルエン溶液を0.5mL(1.8mmol)滴下し、1時間撹拌した。反応液に、トルエン、水、濃塩酸を加えて分液し、有機相を乾燥後、濃縮した。生成物として無色油状物質を83.1mg得た。生成物の1H NMRスペクトルには,Si-O-Si結合に由来する吸収が多く観測された。(理論収量は173.3mg)
Mn = 340、DM = 1.14 (ポリスチレン換算)。
【0019】
[比較例2]
(※MeSiHCl2 1eq., Mg 2.07eq, THF 24.7eq., TiCl4 0.095eq.)
撹拌子を備えたシュレンクチューブへ、マグネシウム粉末50.2mg(2.06mmol)を仕込みチューブ内を窒素置換した。その後、THF 2mL(31mmol)、ジクロロ(メチル)シラン103μL(1.0mmol)を室温下で順に添加した。そして、9℃に冷却後、四塩化チタンを(5μL, 0.05mmol)加えた。35℃に昇温し、22時間撹拌を継続した。その後、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウムの70% トルエン溶液を0.5mL(1.8mmol)滴下し、37分撹拌し、続いてアセトン1mLを加え14分撹拌した。この液に水と濃塩酸を順に加えて30分間撹拌した後、分液操作を行った。分離した有機相を、硫酸ナトリウム(無水)で乾燥させた後、減圧濃縮を行った。生成物として淡い褐色固体を41.4mg得た。しかし、1H NMR分析の結果、生成物は目的とするポリカルボシランではなく、ポリシランとポリ(THF)が混ざった構造を持つことが判明した.
Mn = 1880、DM = 3.48 (ポリスチレン換算)。
【0020】
[比較例3]
(※MeSiHCl2 1eq. , CH2Cl2 1.00eq. , THF 24.7eq., TiCl4 1.00eq.)
アルゴン雰囲気下グラブボックス内で、撹拌子を備えたバイアルへ、THF 2mL(31mmol)、ジクロロ(メチル)シラン103μL(1.0mmol)、ジクロロメタン64μL(1.0mmol)、四塩化チタン110μL(1.00mmol) の順で添加した。そして、室温下で6日と18時間撹拌を継続した。その後、反応液にヘキサンと水を加え、分液操作を行った.有機相を分離後,乾燥し,濃縮した.生成物として無色のオイル状物質を67.9mg得た。しかし、1H NMR分析の結果、生成物は目的とするポリカルボシランではなく,Si-O-Si結合やTHFの分解物に由来する構造を多く含むことが判明した。
【0021】
[比較例4]
(※MeSiHCl2 1eq., Mg 2.05eq, CH2Br2 1.0eq., THF 24.6eq.)
撹拌子を備えたバイアルへ、アルゴン雰囲気下で、削り状のマグネシウム150.3mg(6.18mmol)、テトラヒドロフラン(THF) 6.0mL(74mmol)、ジブロモメタン209μL(2.99mmol)、ジクロロ(メチル)シラン310μL(3.01mmol)を室温下で順番に添加した。以下、比較例1と同じ操作を行い、生成物として茶褐色油状物質を106.4mg得た。生成物の1H NMRスペクトルには、Si-O-Si結合に由来する吸収が多く観測された。
Mn = 1060、DM = 1.30 (ポリスチレン換算)。
【0022】
上記実施例1~6及び比較例1~4において得られた結果を、以下の表1にまとめた(物質名の下のカッコ内はモル当量の比)。
【0023】
【表1】
表1の註釈:MeSiHCl
2:ジクロロ(メチル)シラン,CH
2Cl
2:塩化メチレン,CHCl
3:クロロホルム,CH
2Br
2:ジブロモメタン,TiCl
4:四塩化チタン,TiCl
4(THF)
2:四塩化チタン・二テトラヒドロフラン錯体,ZrCl
4:四塩化ジルコニウム,PCS:ポリカルボシラン
D
Mは分子量分散の値であり、D
M=(重量平均分子量Mw)/(数平均分子量Mn)で算出される。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明により得られたポリカルボシランを前駆体として得られるSiCやSiC繊維は、耐熱性の構造材料として有用であり、例えば、タービン材料など、各種の高耐熱材料の用途に使用できる。