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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/073 20060101AFI20231016BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231016BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20231016BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20231016BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20231016BHJP
【FI】
B23K26/073
B23K26/21 G
B23K26/322
B23K26/082
B23K26/064 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020541308
(86)(22)【出願日】2019-09-05
(86)【国際出願番号】 JP2019035075
(87)【国際公開番号】W WO2020050379
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018166399
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
(72)【発明者】
【氏名】浅沼 諭志
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特許第4150907(JP,B2)
【文献】特開2006-326640(JP,A)
【文献】特開2015-205327(JP,A)
【文献】特開平04-138888(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/073
B23K 26/21
B23K 26/322
B23K 26/082
B23K 26/064
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材の表面にめっき層が形成されためっき板材を含む2枚以上の板材を重ね合わせて加工対象を構成し、
前記加工対象を、加工用レーザ光が照射される領域に配置し、
光進行方向と垂直な面内において所定の方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有する前記加工用レーザ光をビームシェイパによって生成し、
前記加工対象の表面に対して前記加工用レーザ光を照射し、
前記照射を行いながら前記加工用レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記加工用レーザ光を揺動させながら前記加工対象上で前記所定の方向に掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行い、
溶接方法。
【請求項2】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、
請求項に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記加工用レーザ光の生成において、レーザ光を複数のビームとして、前記複数のビームの少なくとも2つを前記所定の方向に沿って配置し、前記パワー分布形状を形成する、
請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記加工用レーザ光の揺動によって、前記加工対象を溶融して形成される溶融池の表面積を、揺動を行わない場合よりも広げ、前記加工対象の内部に位置するめっき層が蒸発したガスを、前記溶融池の表面から排出する、
請求項1~3のいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項5】
前記ガスに起因して発生する溶接欠陥が許容程度以下となるように、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つを設定する、
請求項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記加工用レーザ光がウォブリングまたはウィービングするように揺動させながら掃引する、
請求項1~のいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項7】
前記加工用レーザ光の生成において、さらに前記光進行方向と垂直な面内において前記所定の方向と垂直な幅方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するように前記加工用レーザ光を生成する、
請求項1~のいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記加工対象の特性に応じて、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つを設定する、
請求項1~のいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項9】
前記2枚以上の板材の全てがめっき板材である、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項10】
レーザ装置と、
前記レーザ装置から出力されたレーザ光から、光進行方向と垂直な面内において所定の方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するようにビームシェイパによって生成された加工用レーザ光を加工対象に向かって照射し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
を備え、
前記加工対象は、母材の表面にめっき層が形成されためっき板材を含む2枚以上の板材を重ね合わせて構成され、
前記光学ヘッドは、前記加工用レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能なように構成され、前記加工用レーザ光を揺動させながら前記加工対象上で前記所定の方向に掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行う、
溶接装置。
【請求項11】
前記ビームシェイパは回折光学素子である
請求項10に記載の溶接装置。
【請求項12】
前記レーザ光を複数のビームとして、前記複数のビームの少なくとも2つを前記所定の方向に沿って配置し、前記パワー分布形状を形成する、
請求項10または11に記載の溶接装置。
【請求項13】
前記加工用レーザ光の揺動によって、前記加工対象を溶融して形成される溶融池の表面積を、揺動を行わない場合よりも広げ、前記加工対象の内部に位置するめっき層が蒸発したガスを、前記溶融池の表面から排出する、
請求項10~12のいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項14】
前記ガスに起因して発生する溶接欠陥が許容程度以下となるように、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つが設定されている、
請求項13に記載の溶接装置。
【請求項15】
前記加工用レーザ光がウォブリングまたはウィービングするように揺動させながら掃引する、
請求項10~14のいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項16】
さらに前記光進行方向と垂直な面内において前記所定の方向と垂直な幅方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するように前記加工用レーザ光を生成する、
請求項10~15のいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項17】
前記加工対象の特性に応じて、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つが設定されている、
請求項10~16のいずれか一つに記載の溶接装置。
【請求項18】
前記2枚以上の板材の全てが、めっき板材である、請求項1017のうちいずれか一つに記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄や銅などの金属材料からなる加工対象を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接部分に照射し、レーザ光のエネルギーで溶接部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された溶接部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池が固化することによって溶接が行われる。
【0003】
2枚の板材を重ね合わせて加工対象を構成し、溶接により板材同士を接合する、重ね合わせ溶接を行う場合がある。この場合、板材が、母材の表面にめっき層が形成されためっき板材、たとえば亜鉛めっき鋼板である場合、鋼材が溶融したときにめっき層が蒸発してガスとなる。これは、母材の融点よりもめっき層の沸点が低い場合に発生する。このように発生したガスは、溶融池を乱し、溶融池の表面の平坦性を劣化させる場合がある。このような溶融池の表面の平坦性の劣化は溶接不良の原因となる。また、このガスの圧力によって溶融池を構成する溶融液の一部が吹き飛ぶため、溶融池が固化した後に、加工対象に欠肉が生じる場合もある。
【0004】
上記のような溶融不良の問題を解決するために、第1のめっき鋼板に突出部を形成し、第1および第2のめっき鋼板を重ね合わせる際に、突出部の頂部を第2のめっき鋼板の表面に当接させて重ね合わせ、第1のめっき鋼板に対し突出部の頂部の反対側からレーザビームを照射して、第1および第2のめっき鋼板を溶接する技術が開示されている(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-155974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した技術では、一方のめっき鋼板に突出部を形成する加工が、追加で必要となるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、めっき板材の重ね合わせ溶接の際の溶接不良の発生を抑制することができる溶接方法および溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る溶接方法は、母材の表面にめっき層が形成されためっき板材を含む2枚以上の板材を重ね合わせて加工対象を構成し、前記加工対象を、加工用レーザ光が照射される領域に配置し、光進行方向と垂直な面内において所定の方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有する前記加工用レーザ光を生成し、前記加工対象の表面に対して前記加工用レーザ光を照射し、前記照射を行いながら前記加工用レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記加工用レーザ光を揺動させながら前記加工対象上で前記所定の方向に掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う。
【0009】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工用レーザ光の生成において、レーザ光を複数のビームとして、前記複数のビームの少なくとも2つを前記所定の方向に沿って配置し、前記パワー分布形状を形成する。
【0010】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工用レーザ光の揺動によって、前記加工対象を溶融して形成される溶融池の表面積を、揺動を行わない場合よりも広げ、前記加工対象の内部に位置するめっき層が蒸発したガスを、前記溶融池の表面から排出する。
【0011】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記ガスに起因して発生する溶接欠陥が許容程度以下となるように、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つを設定する。
【0012】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工用レーザ光がウォブリングまたはウィービングするように揺動させながら掃引する。
【0013】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工用レーザ光の生成において、さらに前記光進行方向と垂直な面内において前記所定の方向と垂直な幅方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するように前記加工用レーザ光を生成する。
【0014】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工対象の特性に応じて、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つを設定する。
【0015】
本発明の一態様に係る溶接方法は、ビームシェイパによって前記加工用レーザ光を生成する。
【0016】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記ビームシェイパは回折光学素子である。
【0017】
本発明の一態様に係る溶接方法では、前記2枚以上の板材の全てがめっき板材である。
【0018】
本発明の一態様に係る溶接装置は、レーザ装置と、前記レーザ装置から出力されたレーザ光から、光進行方向と垂直な面内において所定の方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するように生成された加工用レーザ光を加工対象に向かって照射し、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、を備え、前記加工対象は、母材の表面にめっき層が形成されためっき板材を含む2枚以上の板材を重ね合わせて構成され、前記光学ヘッドは、前記加工用レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能なように構成され、前記加工用レーザ光を揺動させながら前記加工対象上で前記所定の方向に掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行う。
【0019】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光を複数のビームとして、前記複数のビームの少なくとも2つを前記所定の方向に沿って配置し、前記パワー分布形状を形成する。
【0020】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記加工用レーザ光の揺動によって、前記加工対象を溶融して形成される溶融池の表面積を、揺動を行わない場合よりも広げ、前記加工対象の内部に位置するめっき層が蒸発したガスを、前記溶融池の表面から排出する。
【0021】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記ガスに起因して発生する溶接欠陥が許容程度以下となるように、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つが設定されている。
【0022】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記加工用レーザ光がウォブリングまたはウィービングするように揺動させながら掃引する。
【0023】
本発明の一態様に係る溶接装置は、さらに前記光進行方向と垂直な面内において前記所定の方向と垂直な幅方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するように前記加工用レーザ光を生成する。
【0024】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記加工対象の特性に応じて、前記加工用レーザ光のパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つが設定されている。
【0025】
本発明の一態様に係る溶接装置は、ビームシェイパによって前記加工用レーザ光を生成する。
【0026】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記ビームシェイパは回折光学素子である。
【0027】
本発明の一態様に係る溶接装置では、前記2枚以上の板材の全てが、めっき板材である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、めっき板材の重ね合わせ溶接の際の溶接不良の発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、実施形態1に係るレーザ溶接装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、回折光学素子を説明する模式図である。
図3A図3Aは、加工用レーザ光および揺動を説明する模式図である。
図3B図3Bは、加工用レーザ光に含まれる各ビームの断面の径方向におけるパワー分布の一例を示す図である。
図4A図4Aは、溶接した加工対象の比較例の断面写真を示す図である。
図4B図4Bは、溶接した加工対象の実施例の断面写真を示す図である。
図5A図5Aは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図5B図5Bは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図5C図5Cは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図5D図5Dは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図5E図5Eは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図5F図5Fは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図6A図6Aは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図6B図6Bは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図6C図6Cは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図6D図6Dは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図6E図6Eは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図7図7は、実施形態2に係るレーザ溶接装置の概略構成を示す模式図である。
図8A図8Aは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図8B図8Bは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。
図9A図9Aは、加工用レーザ光の揺動の例を説明する模式図である。
図9B図9Bは、加工用レーザ光の揺動の例を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0031】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るレーザ溶接装置の概略構成を示す模式図である。レーザ溶接装置100は、レーザ装置110と、光学ヘッド120と、レーザ装置110と光学ヘッド120とを接続する光ファイバ130と、を備えている。また、加工対象Wは、めっき板材である2枚の亜鉛めっき鋼板W1、W2を重ね合わせて構成されている。亜鉛めっき鋼板W1は、母材である鋼板の両側の表面のそれぞれに亜鉛めっき層が形成されたものである。亜鉛めっき鋼板W2も、母材である鋼板の両側の表面のそれぞれに亜鉛めっき層が形成されたものである。亜鉛めっき層は鋼板の融点よりも沸点が低い。
【0032】
レーザ装置110は、たとえば数kWのパワーのレーザ光を出力できるように構成されている。たとえば、レーザ装置110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるように構成されていてもよい。また、レーザ装置110は、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザ光源を備えていてもよい。光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を導波し、光学ヘッド120に入力させる。
【0033】
光学ヘッド120は、レーザ装置110から入力されたレーザ光を、加工対象Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122と回折光学素子123とを備えている。コリメートレンズ121は、入力されたレーザ光を平行光にするための光学系である。回折光学素子123は、後述するように平行光化されたレーザ光のビーム形状を成型し、加工用レーザ光Lを生成する光学素子であり、ビームシェイパの一態様である。集光レンズ122は、加工用レーザ光Lを集光し、加工対象Wに照射するための光学系である。
【0034】
光学ヘッド120は、加工対象W上で加工用レーザ光Lの照射を行いながら加工用レーザ光Lを掃引するために、集光レンズ122と加工対象Wとの間に配置された、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナとは、2枚のミラー124a,124bの角度を制御することで、光学ヘッド120を移動させることなく、加工対象W上で加工用レーザ光Lの照射位置を移動させ、加工用レーザ光Lを掃引することができる装置である。光学ヘッド120は、集光レンズ122から出射した加工用レーザ光Lをガルバノスキャナへ導くためにミラー126を備えている。また、ガルバノスキャナのミラー124a,124bは、それぞれモータ125a,125bによって角度が変更される。モータ125a,125bは不図示のドライバによって駆動される。
【0035】
回折光学素子123は、図2に概念的に示すように、周期の異なる複数の回折格子123aを一体に構成したものである。回折光学素子123は、入力されたレーザ光を、各回折格子の影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりして、ビーム形状を成型することができる。
【0036】
回折光学素子123は、コリメートレンズ121から入力されたレーザ光を複数(本実施形態1では3本)のビームに分割し、加工用レーザ光Lを生成する。加工用レーザ光Lは、その光進行方向と垂直な面内において所定の方向に沿って3つのビームが配置されたパワー分布形状を有する。これらのビームは加工用レーザ光Lにおけるパワー領域を構成するものである。パワー領域とは、加工用レーザ光Lの光進行方向と垂直な面内において、加工対象Wの溶融に寄与するパワーを有する領域である。ただし、個々のパワー領域が単独で加工対象Wを溶融できるパワーを有することは必ずしも必要ではなく、各パワー領域は他のパワー領域が加工対象Wに与えるエネルギーの影響によって加工対象Wを溶融できればよい。
【0037】
加工用レーザ光Lは、図3Aに示すように、紙面と垂直な方向を光進行方向とする3本のビームB1、B2、B3を含んでいる。ビームB1、B2、B3は、いずれも図3Bに示すように、そのビーム断面の径方向においてガウシアン形状のパワー分布を有する。ビームB1、B2、B3は、所定の方向である溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB1、B2、B3を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ここで、溶接方向WDとは、加工対象Wを溶接する方向であり、溶接ビードが形成される方向に相当する。また、本明細書におけるガウシアン形状とは、正確にガウシアン形状である形状に限られず、ガウシアン形状で近似できる形状も含む。
【0038】
なお、ビームB1、B2、B3のそれぞれのビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義する。円形でないビームの場合は、本明細書に於いては掃引方向とは垂直方向における、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義する。ビームのパワーは、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の範囲内のパワーの合計と定義する。
【0039】
また、ビームB1、B2、B3のパワー分布はある程度鋭い形状であることが好ましい。ビームB1、B2、B3のパワー分布がある程度鋭い形状であれば、加工対象Wを溶融する際の溶け込み深さを深くできるので、溶接強度を確保でき、溶接不良の発生をより好適に抑制することができる。ビームB1、B2、B3の鋭さの指標として、ビーム径を用いると、ビームB1、B2、B3のビーム径が600μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。なお、ビームB1、B2、B3が鋭い形状であると、同じ溶け込み深さを実現するためのパワーを低減でき、かつ加工速度を速めることができる。そのため、レーザ溶接装置100の消費電力の低減と加工効率の向上とを実現できる。
【0040】
なお、ビーム径は、使用するレーザ装置110、光学ヘッド120、光ファイバ130の特性を適宜設定することにより調整可能である。例えば、光ファイバ130から光学ヘッド120に入力するレーザ光のビーム径の設定や、回折光学素子123やレンズ121,122等の光学系の設定により、調整可能である。
【0041】
レーザ溶接装置100を用いて溶接を行う場合、まず、亜鉛めっき鋼板W1、W2を重ね合わせて構成した加工対象Wを、加工用レーザ光Lが照射される領域に配置する。つづいて、回折光学素子123によって分割されたビームB1、B2、B3を含む加工用レーザ光Lを加工対象Wに照射しながら、加工用レーザ光Lと加工対象Wとを相対的に移動させて加工用レーザ光Lの掃引をしつつ、加工用レーザ光Lが照射された部分の加工対象Wを溶融して溶接を行う。
【0042】
本実施形態1では、加工用レーザ光Lを揺動させながら、加工対象W上で溶接方向WDに掃引する。具体的には、図3Aに示すように、加工対象W上で、加工用レーザ光Lで所定の回転周波数で円を描きながら溶接方向WDに掃引する。このとき、本実施形態1では、ビームB1、B2、B3の相互の位置関係および溶接方向WDに対する配置は変わらないようにする。その結果、加工用レーザ光Lが加工対象W上で描く軌跡Tはトロコイド状となる。本明細書では、このように加工用レーザ光Lが加工対象W上でトロコイド状の軌跡Tを描く場合、加工用レーザ光Lがウォブリングするという。軌跡Tにおける円状の部分の溶接方向WDと垂直の方向(以下、適宜溶接幅方向という)における半径をR1とし、溶接方向WDにおける半径をR2とする。
【0043】
このように、溶接方向WDに沿って3つのビームB1、B2、B3が配置された加工用レーザ光Lがウォブリングするように揺動させながら掃引すると、ビームB1、ビームB2、ビームB3によって加工対象Wに、徐々に深くなる溶融池が形成される。すなわち、まずビームB1によってある程度の深さの溶融池が形成され、ビームB2によって溶融池が深くなり、ビームB3によって溶融池がさらに深くなる。これと同時に、加工用レーザ光Lの揺動によって溶接幅方向に溶融池が広がることとなる。
【0044】
そのため、加工用レーザ光Lが照射されると、加工対象Wの表面の比較的広い領域において溶融池は比較的ゆっくりと深くなるように形成される。そのため、亜鉛めっき鋼板W1、W2に形成された亜鉛めっき層は急激ではなく徐々に蒸発してガス化する。その結果、発生したガスが溶融池を乱すことが少なくなり、溶融池の表面の平坦性の劣化も少なくなる。また、比較的広い領域において溶融がゆっくりと起こる。そのため、徐々に発生したガスが比較的表面積が広い溶融池の表面から十分に排出されるように、ガスの排出経路が確保され、溶融池が固化した後に気泡が残留しにくくなる。その結果、溶接不良の発生を抑制することができる。
【0045】
特に、加工対象Wの内部に位置する亜鉛めっき鋼板W1と亜鉛めっき鋼板W2との重ね合わせ面では、それぞれの表面に形成された亜鉛めっき層が重なって2層となっているので、蒸発した際に発生するガスの量も多い。しかしながら、加工用レーザ光Lがウォブリングするように揺動させながら掃引することによって、ガスが徐々に発生しかつその排出経路が確保されるので、溶接不良の発生を抑制することができる。
【0046】
また、加工用レーザ光Lによって溶融池を加工対象Wの裏面(亜鉛めっき鋼板W2の露出した方の表面)まで到達させると、裏面側における溶融池の表面からもガスを排出できるので、溶接不良の発生をより一層抑制することができる。
【0047】
なお、図3Aのような加工用レーザ光Lの代わりに、パワー分布が比較的鋭いピークを有する単一のガウシアンビームからなる加工用レーザ光を揺動させながら掃引した場合には、加工対象Wの表面の比較的狭い領域において温度が急激に上昇して溶融が起こり、溶融池は急激に深くなるように形成される。そのため、2層が重なった亜鉛めっき層は短時間で急激に、ときには爆発的に蒸発してガス化する。発生したガスは、溶融池を乱し、溶融池の表面の平坦性を劣化させる場合がある。このような溶融池の表面の平坦性の劣化は、溶接ビードの形状の異常化などの溶接不良の原因となる。また、比較的狭い領域において急激に溶融が起こるので、急激に発生したガスの量に対して溶融池の表面積が比較的小さい。そのため、ガスが溶融池の表面から外部に十分に排出されない場合があり、溶融池が固化した後に気泡が残留するなどの溶接不良が発生しやすい。また、図3Aのような加工用レーザ光Lを、揺動させないで直線的に掃引した場合も、同様に溶融不良が発生しやすい。
【0048】
したがって、本実施形態1では、所定のパワー分布形状を有する加工用レーザ光Lの揺動によって、加工対象Wを溶融して形成される溶融池の表面積を、揺動を行わない場合よりも広げることができる。これによって、加工対象Wの内部に位置する亜鉛めっき層が蒸発したガスを、溶融池の表面から好適に排出することができる。
【0049】
溶接不良をより一層効果的に抑制するには、ビームB1、B2、B3を、ガスが溶融池の表面から徐々にかつ十分に排出されるように、ビームB1、B2、B3の照射位置を分散させることが好ましい。特に、ガスに起因して発生する溶接欠陥が許容程度以下となるように加工用レーザ光Lのパワー分布形状を設定し、そのパワー分布形状となるようにビームB1、B2、B3の照射位置を分散させて照射することが好ましい。すなわち、加工用レーザ光Lのパワー分布形状の設定は、各ビームB1、B2、B3のパワーや配置間隔を調整することによって行うことができる。ここで、許容程度とは、たとえば溶接に対する要求仕様等によって許容される程度であることを意味する。また、溶接欠陥が許容程度以下となるように加工用レーザ光Lの揺動の態様を設定することが好ましい。ウォブリングの場合、揺動の態様は、半径R1、R2、回転周波数などで定まる。また、このようなパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つを設定することが好ましい。
【0050】
溶接不良をより一層効果的に抑制するには、加工対象Wの特性(材質、母材の厚さ、めっき層の厚さ等)に応じて、加工用レーザ光Lのパワー分布形状および揺動の態様の少なくとも一つを設定することが好ましい。
【0051】
(実施例1~5、比較例)
実施例1として、図1に示す構成を有するレーザ溶接装置を用いて、厚さ1mmの電気亜鉛めっき鋼板を2枚重ねて構成した加工対象に重ね合わせ溶接を行った。レーザ装置から出力されるレーザ光は、ガウシアン分布を有し、その波長は1070nmである。レーザ光のパワーは3kWとした。そして、このレーザ光を、回折光学素子にて、図3Aに示すような直線的に配置された3本のビームに分割して加工用レーザ光を生成し、加工対象に照射した。ここで、レーザ光によって円を描く際の回転周波数は64Hzとし、溶接幅方向における半径R1を0.5mmとし、溶接方向における半径R2を0.5mmとした。溶接方向における加工対象に対するレーザ光の掃引速度は20mm/sとした。また、3本のビームの間隔Xは、加工対象の表面上で等間隔となるように調整した。ビーム間隔Xは、ピーク強度の間隔とする(図3A参照)。
【0052】
また、比較例として、図1に示す構成から回折光学素子を削除した構成を有するレーザ溶接装置を用いて、厚さ1mmの電気亜鉛めっき鋼板を2枚重ねて構成した加工対象に重ね合わせ溶接を行った。レーザ装置から出力されるレーザ光は、ガウシアン分布を有し、その波長は1070nmである。レーザ光のパワーは3kWとした。そして、このレーザ光を、光学ヘッドを介して、ウォブリングをさせずに加工対象に照射した。ここで、溶接方向における加工対象に対するレーザ光の掃引速度は20mm/sとした。
【0053】
比較例における加工対象の裏面の溶接ビードには穴が形成されていた。加工対象を溶接ビードに沿って、その穴を含むように切断し、その一部を撮影した。図4Aに写真を示すように、穴が形成された箇所では加工対象の形状が変形し、穴の形状も不規則であり加工対象の厚さに比して深いことが確認された。このような穴や変形は、亜鉛めっき層の急激な蒸発により形成されたものと考えられる。
【0054】
一方、実施例1における加工対象には穴が形成されていなかった。加工対象を溶接ビードに沿って切断し、その一部を撮影した。図4Bに写真を示すように、加工対象の溶接部分は穴や変形のない良好な状態であることが確認された。
【0055】
つづいて、実施例2、3、4として、図1に示す構成を有するレーザ溶接装置を用いて、厚さ1mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼鈑(GA材)を2枚重ねて構成した加工対象に重ね合わせ溶接を行った。レーザ装置から出力されるレーザ光は、ガウシアン分布を有し、その波長は1070nmである。レーザ光のパワーは3kWとした。そして、このレーザ光を、回折光学素子にて、図3Aに示すような直線的に配置された3本のビームに分割して加工用レーザ光を生成し、加工対象に照射した。ここで、加工用レーザ光によって円を描く際の回転周波数は64Hzとし、溶接幅方向における半径R1を0.5mm(実施例2)、1mm(実施例3)または1.5mm(実施例4)とし、溶接方向における半径R2を0.5mmとした。溶接方向における加工対象に対する加工用レーザ光の掃引速度は20mm/sとした。
【0056】
実施例2、3、4における加工対象の溶接ビードを観察したところ、良好な外観であり、穴や変形のない良好な状態であることが確認された。
【0057】
つづいて、実施例5として、実施例1と同様の条件で、半径R1=R2を0.5mmと0.25mmの2種類について、ビーム間距離Xを0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.5mm、2.0mm、2.5mmと変化させて溶接を実施した。加工対象の溶接ビードを観察したところ、いずれの場合においても、良好な外観であり、穴や変形のない良好な状態であることが確認された。従って、少なくともR1=R2は、Xの1/5から5倍の間に設定するのが好ましいことがわかった。
【0058】
つづいて、実施例6として、実施例1と同様の条件で、レーザ光を図5Aに示すように2つのビームとした。ビーム間隔Xは、ビームB11とビームB12のピーク強度の間隔とする。先行するビームB11とビームB12のパワー比を10:0、9:1、8:2、7:3、6:4、5:5、4:6、3:7、2:8、1:9、0:10として、それぞれのパワー比で、ビーム間距離Xを0.025mm、0.05mm、0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mmと変化させて溶接を実施した。加工対象の溶接ビードを観察したところ、パワー比が10:0と0:10の場合は穴や変形等の不良が認められたが、他のパワー比のいずれの場合においても、良好な外観であり、穴や変形のない良好な状態であることが確認された。
【0059】
つづいて、実施例7として、実施例1と同様の条件で、厚さ1mmの電気亜鉛めっき鋼板とめっき層の無い厚さ1mmの高張力鋼板(ハイテン)またはめっき層の無い厚さ1mmの冷間圧延鋼板を重ねて構成した加工対象に重ね合わせ溶接を行った。各加工対象について、電気亜鉛めっき鋼板側からビームを照射した場合と逆側からビームを照射した場合の溶接を行った。いずれの場合においても、加工対象の溶接ビードを観察したところ、良好な外観であり、穴や変形のない良好な状態であることが確認された。
【0060】
(パワー分布形状の例)
加工用レーザ光のパワー分布形状については、図3Aに示すものに限られない。図5A図5F図6A図6Eは、加工用レーザ光のパワー分布形状の例を説明する模式図である。図5A図5F、6A~図6Eに示す例では、回折光学素子123がレーザ光を2以上のビームに分割し、加工用レーザ光を生成する。なお、溶接方向WDは紙面右方を向いているとする。
【0061】
図5Aに示す例では、加工用レーザ光L1は、それぞれがガウシアン形状である2本のビームB11、B12を含んでいる。ビームB11、B12は、加工用レーザ光L1の光進行方向と垂直な面内において溶接方向WDに沿って配置されている。ビームB11、B12を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。
【0062】
図5B図5Fに示す例では、加工用レーザは、それぞれがガウシアン形状である4本のビームを含んでいる。図5Bに示す例では、加工用レーザ光L2は、4本のビームB21、B22、B23、B24を含んでいる。ビームB21、B22、B23、B24は、加工用レーザ光L2の光進行方向と垂直な面内において溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB21、B22、B23、B24を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。
【0063】
図5Cに示す例では、加工用レーザ光L3は、4本のビームB31、B32、B33、B34を含んでいる。ビームB31、B32は、加工用レーザ光L3の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って配置されている。ビームB31、B32を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB33、B34は、加工用レーザ光L3の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って配置されている。ビームB33、B34を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。図5Cおよび後述する図5D図5F図6A図6Eは、加工用レーザ光が、溶接方向に加え、さらに溶接幅方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有する例である。これにより、溶接方向に加え、さらに溶接幅方向においても、徐々に深くなる溶融池を好適に形成することができる。
【0064】
なお、加工用レーザ光L3において、ビームB31、B33は、溶接方向WDに沿って配置されているともいえるし、溶接幅方向に沿って配置されているともいえる。その理由は、ビームB31、B33を結ぶ線が、溶接方向WDに対して垂直でもないし、溶接幅方向に対して垂直でもないからである。このように、2つのビームを結ぶ線が或る方向に垂直で無く、特に45度以下の角度を成している場合は、その2つのビームは、その方向に沿って配置されているといえる。
【0065】
図5Dに示す例では、加工用レーザ光L4は、4本のビームB41、B42、B43、B44を含んでいる。ビームB41、B42は、加工用レーザ光L4の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って配置されている。ビームB41、B42を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB43、B44は、加工用レーザ光L4の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って配置されている。ビームB43、B44を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。なお、領域A4は、ビームB41~B44が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0066】
図5Eに示す例では、加工用レーザ光L5は、4本のビームB51、B52、B53、B54を含んでいる。ビームB51、B52は、加工用レーザ光L5の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って配置されている。ビームB51、B52を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB53、B52、B54は、加工用レーザ光L5の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って直線状に配置されている。ビームB53、B52、B54を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。なお、領域A5は、ビームB51~B54が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0067】
図5Fに示す例では、加工用レーザ光L6は、4本のビームB61、B62、B63、B64を含んでいる。ビームB61、B62は、加工用レーザ光L6の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って配置されている。ビームB63、B64は、加工用レーザ光L6の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って配置されている。なお、領域A6は、ビームB61~B64が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0068】
図6A図6Eに示す例では、加工用レーザは、それぞれがガウシアン形状である5本のビームを含んでいる。図6Aに示す例では、加工用レーザ光L7は、5本のビームB71、B72、B73、B74、B75を含んでいる。ビームB71、B72、B73は、加工用レーザ光L7の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB71、B72、B73を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB74、B72、B75は、加工用レーザ光L3の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って直線状に配置されている。ビームB74、B72、B75を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。
【0069】
図6Bに示す例では、加工用レーザ光L8は、5本のビームB81、B82、B83、B84、B85を含んでいる。ビームB81、B82、B83は、加工用レーザ光L8の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB81、B82、B83を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB84、B81、B85は、加工用レーザ光L8の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って直線状に配置されている。ビームB84、B81、B85を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。なお、領域A8は、ビームB81~B85が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0070】
図6Cに示す例では、加工用レーザ光L9は、5本のビームB91、B92、B93、B94、B95を含んでいる。ビームB91、B92、B93は、加工用レーザ光L9の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB91、B92、B93を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB94、B91、B95は、加工用レーザ光L9の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って直線状に配置されている。ビームB94、B91、B95を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。なお、領域A9は、ビームB91~B95が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0071】
図6Dに示す例では、加工用レーザ光L10は、5本のビームB101、B102、B103、B104、B105を含んでいる。ビームB101、B102、B103は、加工用レーザ光L10の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB101、B102、B103を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB104、B102、B105は、加工用レーザ光L10の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って直線状に配置されている。ビームB104、B102、B105を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。なお、領域A10は、ビームB101~B105が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0072】
図6Eに示す例では、加工用レーザ光L11は、5本のビームB111、B112、B113、B114、B115を含んでいる。ビームB111、B112、B113は、加工用レーザ光L11の光進行方向と垂直な面内において、溶接方向WDに沿って直線状に配置されている。ビームB111、B112、B113を結ぶ線は、溶接方向WDに延びている。ビームB114、B112、B115は、加工用レーザ光L11の光進行方向と垂直な面内において、溶接幅方向に沿って直線状に配置されている。ビームB114、B112、B115を結ぶ線は、溶接幅方向に延びている。なお、領域A11は、ビームB111~B115が配置され、溶融池が形成される大凡の領域を、楕円で示したものである。
【0073】
なお、図3A図5A図5F図6A図6Eのいずれにおいても、個々のビームのピークパワーを、その照射直後に加工対象を急激に溶融しないように設定することが重要である。
【0074】
また、図5C図6Aでは、複数のビームが等方的に配置されているので、溶接方向を任意に変更しても、加工対象に対する溶融特性が変わらないという効果がある。
【0075】
図3A図5A図5F図6A図6Eに示す例は、回折光学素子123を構成する回折格子の特性を適宜設計することによって実現できる。
【0076】
(実施形態2)
図7は、実施形態2に係るレーザ溶接装置の概略構成を示す模式図である。レーザ溶接装置200は、加工対象Wに加工用レーザ光Lを照射して加工対象Wの溶接を行う。レーザ溶接装置200は、レーザ溶接装置100と同様の作用原理によって溶接を実現するものである。レーザ溶接装置200は、レーザ装置110と光学ヘッド220と光ファイバ130とを備えており、レーザ溶接装置100において光学ヘッド120を光学ヘッド220に置き換えた構成を有する。したがって、以下では、光学ヘッド220の装置構成の説明のみを行う。
【0077】
光学ヘッド220は、光学ヘッド120と同様に、レーザ装置110から入力されたレーザ光を、加工対象Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド220は、コリメートレンズ221と集光レンズ222と回折光学素子223とを備えている。
【0078】
さらに、光学ヘッド220は、コリメートレンズ221と集光レンズ222との間に配置された、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナのミラー224a,224bは、それぞれモータ225a,225bによって角度が変更される。モータ225a,225bは不図示のドライバによって駆動される。光学ヘッド220では、光学ヘッド120と同様に、2枚のミラー224a,224bの角度を制御することで、光学ヘッド220を移動させることなく、加工用レーザ光Lの照射位置を移動させ、加工用レーザ光Lを掃引することができる。
【0079】
回折光学素子223は、コリメートレンズ221と集光レンズ222との間に配置されている。回折光学素子223は、回折光学素子123と同様に、コリメートレンズ221から入力されたレーザ光のビーム形状を成型し、加工用レーザ光Lを生成する。回折光学素子223が生成する加工用レーザ光Lは、図3Aのように、その光進行方向と垂直な面内において溶接方向WDに沿って3つのビームが配置されたパワー分布形状を有する。なお、回折光学素子223は、図5A図5F図6A図6Eに示す加工用レーザ光L1~LL11のいずれかを生成するように設計されてもよい。これにより、レーザ溶接装置200は、加工対象Wを溶接する際の溶接不良の発生を抑制することができる。
【0080】
なお、上記実施形態では、回折光学素子は、レーザ光を、ピークパワーが等しい複数のビームに分割する。しかしながら、複数のビームのピークパワーが完全に等しくなくてもよい。また、各ビームのパワー分布はガウシアン形状に限られず、他の単峰型の形状であってもよい。
【0081】
また、分割したビームのうち隣接するビーム同士の中心間距離は、たとえばビーム径の20倍以下である。また、隣接するビームによる溶融領域が重なることが好ましい。ここで、ビームによる溶融領域とは、ビームが与えるエネルギーによって加工対象が融点よりも高温となり、溶融する領域であり、加工対象の熱伝導率等に応じて、ビーム径よりも面積が広くなる場合がある。この場合、各ビームのピークパワーは、等しくてもよいし、略等しくてもよいし、異なってもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、加工用レーザ光のパワー分布形状は、ビームによって構成される離散的なパワー領域を有しているが、複数のパワー領域が、線対称あるいは非対称な分布で、連続的であってもよい。たとえば、図8Aには、加工用レーザ光L12の溶接方向におけるパワー分布形状を示している。この加工用レーザ光L12のパワー分布形状では、溶接方向に沿って配置されている2つのパワー領域PA121、PA122が連続している。パワー領域PA121はピークを有する単峰型の形状である。また、パワー領域PA122はショルダー状の形状である。図8Aの曲線における2つのパワー領域PA121、PA122の境界は、たとえばその間に存在する変曲点の位置として規定できる。
【0083】
一方、図8Bには、加工用レーザ光L13の溶接方向におけるパワー分布形状を示している。この加工用レーザ光L13のパワー分布形状では、溶接方向に沿って配置されている2つのパワー領域PA131、PA132が連続している。パワー領域PA131、PA132のいずれも、ピークを有する単峰型の形状である。図8Bの曲線における2つのパワー領域PA131、PA132の境界は、たとえばその間に存在する極小点の位置として規定できる。加工用レーザ光L12、L13のいずれも、本発明の加工用レーザ光として適用できる。加工用レーザ光L12、L13は、ビームシェイパとして、たとえば2枚以上のレンズの組み合わせたものを使用することで実現することができる。また、図8に示す加工用レーザL12、L13や、図3、5、6に示す加工用レーザL、L1~L11は、2台以上のレーザ装置からそれぞれ出力される2以上のレーザ光のビームを光学ヘッドにて組み合わせたり、1台のレーザ装置から出力されたレーザ光を2以上に分岐し、それらのビームを光学ヘッドにて組み合わせたりしても構成することができる。なお、2以上のレーザ光のそれぞれを、1本のマルチコアファイバの別々のコアで光学ヘッドまで伝送させてもよい。これらの場合、光学ヘッドやマルチコアファイバは、レーザ光から、光進行方向と垂直な面内において所定の方向に沿って2つ以上のパワー領域が配置されたパワー分布形状を有するように加工用レーザ光を生成し、たとえばビームシェイパとしても機能する。
【0084】
また、加工用レーザ光を揺動させながら加工対象上で溶接方向に掃引する場合には、加工用レーザ光が加工対象上で描く軌跡はトロコイド状に限られない。たとえば、図9Aに示すように、加工用レーザ光Lを揺動させながら溶接方向WDに掃引する場合に描く軌跡T1は三角波状でもよい。また、図9Bに示すように、加工用レーザ光Lを揺動させながら溶接方向WDに掃引する場合に描く軌跡T2は正弦波状でもよい。また、図示はしないが、加工用レーザ光Lを揺動させながら溶接方向WDに掃引する場合に、レーザ光Lを溶接方向WDに対して縦方向の8の字または横方向の8の字を描きつつ掃引したりしてもよい。このように加工用レーザ光Lが波状の軌跡を描く場合、加工用レーザ光Lがウィービングするという場合がある。
【0085】
また、上記実施形態では、加工対象Wは2枚の亜鉛めっき鋼板を隙間無く重ね合わせて構成したものであるが、2枚以上の亜鉛めっき鋼板の隙間を空けて重ね合わせて構成した加工対象に対しても、本発明は適用できる。また、加工対象Wを構成するめっき板材は亜鉛めっき鋼板に限られず、重ね合わせ溶接の対象となるめっき板材に対して本発明を適用できる。
【0086】
また、上記実施形態では、光学ヘッド120、220は、加工対象W上で加工用レーザ光Lの照射を行いながら加工用レーザ光Lを掃引する機構としてガルバノスキャナを有しているが、ガルバノスキャナとは異なる機構を有する他の公知のスキャナを有していてもよい。また、レーザ光の照射を行いながらレーザ光を揺動かつ掃引する機構として、光学ヘッドと加工対象Wとの相対位置を変更する機構を備えていてもよい。このような機構としては、光学ヘッド自身を移動する機構や、加工対象を移動する機構を採用することができる。すなわち、光学ヘッドは、加工用レーザ光を、固定されている加工対象に対して移動可能に構成されてもよい。または、光学ヘッドからの加工用レーザ光の照射位置は固定され、加工対象が、固定された加工用レーザ光に対して移動可能に保持されてもよい。
【0087】
また、加工用レーザ光によって加工対象に与えられるべき最適な熱エネルギーを制御するため、加工用レーザのパワーを時間的に変化するように制御しても良い。加工用レーザのパワーの時間波形は、矩形波、三角波、サイン波等に制御しても良い。このような時間波形の制御によって、亜鉛蒸気が過剰に蒸発することなく、且つ好適な溶け込み深さ(溶融池の深さ)が得られる最適な熱エネルギーを、加工用レーザ光によって投入し、良好な溶接ビードが得られるようにしても良い。
【0088】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、レーザ溶接に利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
100、200 レーザ溶接装置
110 レーザ装置
120、220 光学ヘッド
121、221 コリメートレンズ
122、222 集光レンズ
123、223 回折光学素子
123a 回折格子
124a、124b、126、224a、224b ミラー
125a、125b、225a、225b モータ
130 光ファイバ
A4、A5、A6、A8、A9、A10、A11 領域
B1、B2、B3、B11、B12、B21、B22、B23、B24、B31、B32、B33、B34、B41、B42、B43、B44、B51、B52、B53、B54、B61、B62、B63、B64、B71、B72、B73、B74、B75、B81、B82、B83、B84、B85、B91、B92、B93、B94、B95、B101、B102、B103、B104、B105、B111、B112、B113、B114、B115 ビーム
L、L1、L2、L3、L4、L5、L6、L7、L8、L9、L10、L11、L12、L13 加工用レーザ光
PA121、PA122、PA131、PA132 パワー領域
T、T1、T2 軌跡
W 加工対象
W1、W2 亜鉛めっき鋼板
WD 溶接方向
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7
図8A
図8B
図9A
図9B