(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】触媒構造体およびその製造方法、ならびに該触媒構造体を用いた炭化水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 29/46 20060101AFI20231016BHJP
B01J 29/44 20060101ALI20231016BHJP
B01J 29/22 20060101ALI20231016BHJP
B01J 29/24 20060101ALI20231016BHJP
B01J 29/76 20060101ALI20231016BHJP
B01J 29/74 20060101ALI20231016BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20231016BHJP
B01J 37/16 20060101ALI20231016BHJP
B01J 37/10 20060101ALI20231016BHJP
C01B 39/26 20060101ALI20231016BHJP
C01B 39/40 20060101ALI20231016BHJP
C01B 39/48 20060101ALI20231016BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
B01J29/46 Z
B01J29/46 M
B01J29/44 M
B01J29/22 M
B01J29/24 M
B01J29/76 M
B01J29/74 M
B01J37/02 101D
B01J37/16
B01J37/10
C01B39/26
C01B39/40
C01B39/48
C10G2/00
(21)【出願番号】P 2020559942
(86)(22)【出願日】2019-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2019047298
(87)【国際公開番号】W WO2020116475
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】P 2018226932
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】関根 可織
(72)【発明者】
【氏名】馬場 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐賀子
(72)【発明者】
【氏名】西井 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中坂 佑太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 琢也
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529190(JP,A)
【文献】特開2017-128480(JP,A)
【文献】特表2010-527769(JP,A)
【文献】特表2009-505830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C01B 39/26
C01B 39/40
C01B 39/48
C10G 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在
し、触媒活性を有する少なくとも1つの機能性物質と、
を備え
、フィッシャー・トロプシュ合成反応に用いられる触媒構造体であって、
前記少なくとも1つの機能性物質が、
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素と、
周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素と、
を含有し、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路が、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちの少なくとも一種の孔と、前記少なくとも一種の孔とは異なる拡径部と、を有し、
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通しており、
前記機能性物質の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、且つ前記拡径部の内径以下であり、
前記通路の平均内径は、前記少なくとも一種の孔を構成する孔の短径及び長径の平均値から算出され、
前記機能性物質が
、少なくとも
前記拡径部に
包接されて存在している
ことを特徴とする
、触媒構造体。
【請求項2】
前記第二元素が、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の金属元素である、請求項1に記載の触媒構造体。
【請求項3】
前記第一元素の含有量に対する前記第二元素の含有量の比率は、質量比で0.01~2.00の範囲である、請求項1または2に記載の触媒構造体。
【請求項4】
前記第一元素が、前記触媒構造体に対して合計で0.5~2.5質量%含有されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項5】
前記第二元素が、前記触媒構造体に対して合計で5質量%以下含有されていることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項6】
前記触媒構造体に含まれる前記第二元素の含有量が、前記第一元素の含有量よりも少ない、請求項1~5のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項7】
前記機能性物質は、前記第一元素および前記第二元素の一方または両方の酸化物を含有する金属酸化物微粒子である、請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項8】
前記機能性物質は、前記第一元素および前記第二元素の一方または両方を含有する金属微粒子である、請求項1~6のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項9】
前記金属微粒子は、前記第一元素および前記第二元素を含有する合金化微粒子と、前記第一元素および前記第二元素からなる金属微粒子をそれぞれ含有する2種類以上の単一金属微粒子と、の一方または双方を含む、請求項8に記載の触媒構造体。
【請求項10】
前記機能性物質の平均粒径が、0.08nm~30nmであることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項11】
前記通路の平均内径に対する前記機能性物質の平均粒径の割合が、
1.1~300であることを特徴とする、請求項1~
10のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項12】
前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであることを特徴とする、請求項1~
11のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項13】
前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、請求項
1~
12のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項14】
前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他の機能性物質を更に備えることを特徴とする、請求項1~
13のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項15】
前記他の機能性物質が、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属または合金を含んでいることを特徴とする、請求項
14に記載の触媒構造体。
【請求項16】
前記他の機能性物質が、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の元素からなる群から選択される1種以上の金属または合金を含んでいることを特徴とする、請求項
14または
15に記載の触媒構造体。
【請求項17】
前記担体に内在する前記他の機能性物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他の機能性物質の含有量よりも多いことを特徴とする、請求項
14~
16のいずれか1項に記載の触媒構造体。
【請求項18】
請求項1~
17のいずれか1項に記載の触媒構造体を有する炭化水素製造装置。
【請求項19】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための
規則性メソ細孔を備えた前駆体材料(A)に
、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素を第一元素として含む金属塩を含有し、かつ周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上を第二元素として含む金属塩を含有する金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成
して、前記規則性メソ細孔内に含浸された前記金属含有溶液の前記第一元素および前記第二元素から機能性物質が形成された前駆体材料(C)を得る焼成工程と、
前記前駆体材料(C)を水熱処理
して触媒構造体を得る水熱処理工程と、
を有し、
前記水熱処理工程は、溶媒中に、前記前駆体材料(C)と、構造規定剤とを混合した混合溶媒を用いて行なうことを特徴とする触媒構造体の製造方法。
【請求項20】
前記水熱処理
工程後に
、前記機能性物質を還元処理
する工程をさらに有することを特徴とする、請求項
19に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項21】
前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、請求項
19または
20に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項22】
前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる前記第一元素(M
1)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M
1)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、請求項
19~
21のいずれか1項に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項23】
前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる前記第二元素(M
2)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M
2)に換算して、1000~10000となるように調整することを特徴とする、請求項
19~
22のいずれか1項に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項24】
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための
規則性メソ細孔を備えた前駆体材料(A)に
、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素を第一元素として含む金属塩を含有する第一金属含有溶液を含浸させた前駆体材料(B)を焼成
して、前記規則性メソ細孔内に含浸された前記第一金属含有溶液の前記第一元素から機能性物質が形成された前駆体材料(C)を得る第一焼成工程と、
前記前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
前記前駆体材料(C)を水熱処理して得られた前駆体材料(D)に、
周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上を第二元素として含む金属塩を含有する第二金属含有溶液を含浸させた前駆体材料(D)を焼成
して、前記規則性メソ細孔内に含浸された前記第二金属含有溶液の前記第二元素から機能性物質がさらに形成された触媒構造体を得る第二焼成工程と、
を有し、
前記水熱処理工程は、溶媒中に、前記前駆体材料(C)と、構造規定剤とを混合した混合溶媒を用いて行なうことを特徴とする触媒構造体の製造方法。
【請求項25】
前記
第二焼成工程後に
、前記機能性物質を還元処理
する工程をさらに有することを特徴とする、請求項
24に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項26】
前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、請求項
19~
25のいずれか1項に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項27】
前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、請求項
19~
26のいずれか1項に記載の触媒構造体の製造方法。
【請求項28】
触媒を用いて、一酸化炭素と水素から炭化水素を合成する炭化水素の製造方法であって、
前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在
し、触媒活性を有する少なくとも1つの機能性物質と、を備え、
前記機能性物質が、少なくとも、
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素と、
周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素と、
を含有し、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記通路が、前記ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちの少なくとも一種の孔と、前記少なくとも一種の孔とは異なる拡径部と、を有し、
前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通しており、
前記機能性物質の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きく、且つ前記拡径部の内径以下であり、
前記通路の平均内径は、前記少なくとも一種の孔を構成する孔の短径及び長径の平均値から算出され、
前記機能性物質が
、少なくとも
前記拡径部に
包接されて存在している、触媒構造体を含んでいることを特徴とする、炭化水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒構造体およびその製造方法、ならびに該触媒構造体を用いた炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒反応を利用する技術として、例えば、石油の代替燃料である合成油、合成燃料等の液体燃料製品の原料として利用される炭化水素化合物を製造する方法が知られており、触媒反応の一例として、一酸化炭素ガス(CO)及び水素ガス(H2)を主成分とする合成ガスから、炭化水素、特に液体炭化水素を合成するフィッシャー・トロプシュ合成反応(以下、「FT合成反応」ということもある。)が知られている。このFT合成反応に使用される触媒として、例えば、特許文献1には、シリカ、アルミナ等の担体上に、コバルト、鉄等の活性金属を担持した触媒が開示され、特許文献2には、コバルト、ジルコニウム又はチタン、及びシリカを含有する触媒が開示されている。
【0003】
FT合成反応に用いる触媒は、例えば、シリカ、アルミナ等の担体に、コバルト塩、ルテニウム塩等を含浸させ、これを焼成することによって、コバルト酸化物及び/又はルテニウム酸化物が担持された触媒(未還元触媒)として得ることができる。このようにして得られた触媒がFT合成反応に対して十分な活性を発現するために、特許文献3に開示されているように、該触媒を水素ガス等の還元ガスに接触させて還元処理し、活性金属であるコバルト及び/又はルテニウムを酸化物の状態から、金属の状態へと変換する必要がある。
【0004】
ところで、FT合成反応は、特許文献4に開示されているように極めて大きな発熱を伴うため、触媒表面で局部的に過熱された箇所がホットスポットとなり、このホットスポットに起因して触媒表面に生じる副反応(炭素質の析出など)の進行が活性を低下させてしまうことが知られている。このようなホットスポットの生成を防ぐために、触媒として作用する機能性物質である活性金属種の微粒子(金属微粒子)を凝集させず、活性点を分散させる必要がある。金属微粒子の凝集を防ぐ目的で、当該活性金属種と強い相互作用を有する担体を用い、金属微粒子同士が容易には凝集できないようにすることが考えられる。
【0005】
この方法の一例として、金属微粒子を高分散に担持させるゾル・ゲル法が知られている。ゾル・ゲル法では、担体となる金属酸化物を合成する段階で活性金属種が原子レベルで均一に導入される。担持金属触媒の活性金属種は担体である金属酸化物の格子の中に極めて高分散に包含されるため、各種の処理や反応においても容易には凝集しない。しかしながら、活性金属種が担体と強く結合しているため、反応に先立つ触媒の活性化が困難になり、十分な触媒活性が得られないという問題や、粒径をコントロールすることが難しいために、粒径をナノサイズに揃えることが困難であるという問題があった。
【0006】
また、金属微粒子同士の凝集が生じると、触媒としての有効表面積の減少に伴い、触媒活性が低下することから、触媒自体の寿命が通常よりも短くなる。そのため、触媒自体を短期間で交換・再生しなければならず、交換作業が煩雑であるのに加え、省資源化を図ることができないという問題もある。
【0007】
また、特許文献3や特許文献4では、FT合成反応の際に生成するH2Oによって、触媒中の活性金属が酸化され、FT合成反応に対する触媒の活性が低下することがある。そのため、FT合成反応後における触媒の活性の低下を抑制することが求められている。
【0008】
そして、このような触媒活性の低下の抑制は、FT合成反応で用いられる触媒に限られず、他の化学反応に用いられる触媒においても、同様に求められるものである。例えば、特許文献5、6では、触媒の凝集を抑制するため、エマルション法を用いてアモルファスシリカが被覆された金属微粒子を作製し、この微粒子を水熱処理することで、ゼオライトの結晶内に金属微粒子を内包させる手法が記載されている。エマルション法によって得られる、アモルファスシリカが被覆された金属微粒子は、有機溶媒中で界面活性剤と金属源とを混合した乳濁液に、還元剤を加えて金属微粒子を形成させた後、シランカップリング剤を添加して金属微粒子の表面にシリカ層を形成することで作製される。しかし、エマルション法で金属微粒子を作製する場合、得られる金属微粒子のサイズは、エマルション化した際の液滴のサイズと、金属粒子の凝集しやすさによって影響を受ける。一般に、卑金属は凝集しやすいため、ナノ粒子の状態を維持することが困難であり、特許文献5、6でもナノサイズの粒径を有していることが確認されているのは、金属微粒子が貴金属のうちRh、Au、Ptの場合だけである。他方で、特許文献5、6には、Ruや凝集しやすい卑金属からなる金属微粒子やその酸化物をゼオライトに内包させたときに、金属微粒子やその酸化物がナノサイズの粒径を有することは記載されていない。さらに、エマルション法では、ゼオライト構造を形成する際に用いられる有機溶媒や界面活性剤などが残留して不純物になることで、ゼオライトの熱安定性に悪影響を与えやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-227847号公報
【文献】特開昭59-102440号公報
【文献】国際公開第2015/072573号
【文献】特開2000-70720号公報
【文献】特開2017-128480号公報
【文献】国際公開第2010/097108号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、機能性物質の微粒子同士の凝集を防ぐと共に、触媒活性の低下を抑制して長寿命化を実現することができる、触媒構造体およびその製造方法、ならびに該触媒構造体を用いた炭化水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、触媒構造体が、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する機能性物質とを備えるとともに、前記機能性物質が、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の第一元素と、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素とを有し、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記機能性物質が、前記担体の少なくとも前記通路に存在していることによって、機能性物質の微粒子同士の凝集を防ぐと共に、触媒活性の低下を抑制し、また、長寿命化を実現できる触媒構造体が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの機能性物質と、
を備え、
前記少なくとも1つの機能性物質が、
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素と、
周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素と、
を含有し、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記機能性物質が、前記担体の少なくとも前記通路に存在している
ことを特徴とする触媒構造体。
[2]前記第二元素が、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上の金属元素である、上記[1]に記載の触媒構造体。
[3]前記第一元素の含有量に対する前記第二元素の含有量の比率は、質量比で0.01~2.00の範囲である、上記[1]または[2]に記載の触媒構造体。
[4]前記第一元素が、前記触媒構造体に対して合計で0.5質量%以上含有されていることを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[5]前記第二元素が、前記触媒構造体に対して合計で5質量%以下含有されていることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[6]前記触媒構造体に含まれる前記第二元素の含有量が、前記第一元素の含有量よりも少ない、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[7]前記機能性物質は、前記第一元素および前記第二元素の一方または両方の酸化物を含有する金属酸化物微粒子である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[8]前記機能性物質は、前記第一元素および前記第二元素の一方または両方を含有する金属微粒子である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[9]前記金属微粒子は、前記第一元素および前記第二元素を含有する合金化微粒子と、前記第一元素および前記第二元素からなる金属微粒子をそれぞれ含有する2種類以上の単一金属微粒子と、の一方または双方を含む、上記[8]に記載の触媒構造体。
[10]前記通路は、前記ゼオライト型化合物の骨格構造の一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部とを有し、かつ
前記機能性物質が、少なくとも前記拡径部に存在していることを特徴とする、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[11]前記拡径部は、前記一次元孔、前記二次元孔及び前記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔同士を連通している、上記[10]に記載の触媒構造体。
[12]前記機能性物質の平均粒径が、前記通路の平均内径よりも大きい、上記[1]~[11]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[13]前記機能性物質の平均粒径が、前記拡径部の内径以下である、上記[10]~[12]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[14]前記機能性物質の平均粒径が、0.08nm~30nmであることを特徴とする、上記[1]~[13]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[15]前記通路の平均内径に対する前記機能性物質の平均粒径の割合が、0.05~300であることを特徴とする、上記[1]~[14]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[16]前記通路の平均内径は、0.1nm~1.5nmであることを特徴とする、上記[1]~[15]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[17]前記拡径部の内径は、0.5nm~50nmであることを特徴とする、上記[10]~[16]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[18]前記担体の外表面に保持された少なくとも1つの他の機能性物質を更に備えることを特徴とする、上記[1]~[17]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[19]前記他の機能性物質が、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属または合金を含んでいることを特徴とする、上記[18]に記載の触媒構造体。
[20]前記他の機能性物質が、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の元素からなる群から選択される1種以上の金属または合金を含んでいることを特徴とする、上記[18]または[19]に記載の触媒構造体。
[21]前記担体に内在する前記他の機能性物質の含有量が、前記担体の外表面に保持された前記少なくとも1つの他の機能性物質の含有量よりも多いことを特徴とする、上記[18]~[20]のいずれか1つに記載の触媒構造体。
[22]上記[1]~[21]のいずれか1つに記載の触媒構造体を有する炭化水素製造装置。
[23]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
を有し、
前記金属含有溶液として、
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素と、
周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素と、
を含有する溶液を用いることを特徴とする触媒構造体の製造方法。
[24]前記水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行う工程をさらに有することを特徴とする、上記[23]に記載の触媒構造体の製造方法。
[25]前記焼成工程の前に、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を複数回に分けて添加することで、前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させることを特徴とする、上記[23]または[24]に記載の触媒構造体の製造方法。
[26]前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる前記第一元素(M1)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M1)に換算して、10~1000となるように調整することを特徴とする、上記[23]~[25]のいずれか1つに記載の触媒構造体の製造方法。
[27]前記焼成工程の前に前記前駆体材料(A)に前記金属含有溶液を含浸させる際に、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液の添加量を、前記前駆体材料(A)に添加する前記金属含有溶液中に含まれる前記第二元素(M2)に対する、前記前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M2)に換算して、1000~10000となるように調整することを特徴とする、上記[23]~[26]のいずれか1つに記載の触媒構造体の製造方法。
[28]ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に第一金属含有溶液を含浸させた前駆体材料(B)を焼成する焼成工程と、
前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理する水熱処理工程と、
前記前駆体材料(C)を水熱処理して得られた前駆体材料(D)に、第二金属含有溶液を含浸させた前駆体材料(D)を焼成する工程と、
を有し、
前記第一金属含有溶液として、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素を含有する溶液を用い、
前記第二金属含有溶液として、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素を含有する溶液を用いることを特徴とする触媒構造体の製造方法。
[29]前記焼成された前駆体材料(D)に還元処理を行う工程をさらに有することを特徴とする、上記[28]に記載の触媒構造体の製造方法。
[30]前記焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前記前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加することを特徴とする、上記[23]~[29]のいずれか1つに記載の触媒構造体の製造方法。
[31]前記水熱処理工程において、前記前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することを特徴とする、上記[23]~[30]のいずれか1つに記載の触媒構造体の製造方法。
[32]前記水熱処理工程が塩基性雰囲気下で行われることを特徴とする、上記[23]~[31]のいずれか1つに記載の触媒構造体の製造方法。
[33]触媒を用いて、一酸化炭素と水素から炭化水素を合成する炭化水素の製造方法であって、
前記触媒が、
ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、
前記担体に内在する少なくとも1つの機能性物質と、を備え、
前記機能性物質が、少なくとも、
コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素と、
周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素と、
を含有し、
前記担体が、互いに連通する通路を有し、
前記機能性物質が前記担体の少なくとも前記通路に存在している、触媒構造体を含んでいることを特徴とする、炭化水素の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機能性物質の微粒子同士の凝集を防ぐと共に、触媒活性の低下を抑制して長寿命化を実現することができる、触媒構造体およびその製造方法、ならびに該触媒構造体を用いた炭化水素の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る触媒構造体の内部構造が分かるように概略的に示したものであって、
図1(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、
図1(b)は部分拡大断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の触媒構造体の機能の一例を説明するための部分拡大断面図であり、
図2(a)は篩機能、
図2(b)は触媒能を説明する図である。
【
図3】
図3は、
図1の触媒構造体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、
図1の触媒構造体の変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
[触媒構造体の構成]
図1は、本発明の実施形態に係る触媒構造体の構成を概略的に示す図であり、(a)は斜視図(一部を横断面で示す。)、(b)は部分拡大断面図である。なお、
図1における触媒構造体は、その一例を示すものであり、本発明に係る各構成の形状、寸法等は、
図1のものに限られないものとする。
【0017】
図1(a)に示されるように、触媒構造体1は、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、該担体10に内在し、後述する第一元素と第二元素とを含む、少なくとも1つの機能性物質20とを備える。
【0018】
触媒構造体1において、複数の機能性物質20,20,・・・は、担体10の多孔質構造の内部に包接されている。機能性物質20は、少なくとも触媒として使用する際に、触媒能(触媒活性)を有する触媒物質であり、微粒子の形態を有する。機能性物質については、詳しくは後述する。
【0019】
担体10は、多孔質構造であり、
図1(b)に示すように、好適には複数の孔11a,11a,・・・が形成されることにより、互いに連通する通路11を有する。ここで機能性物質20は、担体10の少なくとも通路11に存在しており、好ましくは担体10の少なくとも通路11に保持されている。
【0020】
このような構成により、担体10内での機能性物質20の移動が規制され、機能性物質20、20の微粒子同士の凝集が有効に防止されている。その結果、機能性物質20としての有効表面積の減少を効果的に抑制することができ、機能性物質20の触媒活性は長期にわたって持続する。すなわち、触媒構造体1によれば、機能性物質20の微粒子の凝集による触媒活性の低下を抑制でき、触媒構造体1としての長寿命化を図ることができる。また、触媒構造体1の長寿命化により、触媒構造体1の交換頻度を低減でき、使用済みの触媒構造体1の廃棄量を大幅に低減することができ、省資源化を図ることができる。
【0021】
通常、触媒構造体を、流体(例えば、重質油や、NOx等の改質ガスなど)の中で用いる場合、流体から外力を受ける可能性がある。この場合、機能性物質が、担体10の外表面に付着状態で保持されているだけであると、流体からの外力の影響で担体10の外表面から離脱しやすいという問題がある。これに対し、触媒構造体1では、機能性物質20は担体10の少なくとも通路11に存在しているため、流体による外力の影響を受けたとしても、担体10から機能性物質20が離脱しにくい。すなわち、触媒構造体1が流体内にある場合、流体は担体10の孔11aから、通路11内に流入するため、通路11内を流れる流体の速さは、流路抵抗(摩擦力)により、担体10の外表面を流れる流体の速さに比べて、遅くなると考えられる。このような流路抵抗の影響により、通路11内に保持された機能性物質20が流体から受ける圧力は、担体10の外部において機能性物質が流体から受ける圧力に比べて低くなる。そのため、担体10に内在する機能性物質20が離脱することを効果的に抑制でき、機能性物質20の触媒活性を長期的に安定して維持することが可能となる。なお、上記のような流路抵抗は、担体10の通路11が、曲がりや分岐を複数有し、担体10の内部がより複雑で三次元的な立体構造となっているほど、大きくなると考えられる。
【0022】
また、通路11は、ゼオライト型化合物の骨格構造によって画定される一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかと、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれとも異なる拡径部12とを有していることが好ましく、このとき、機能性物質20は、少なくとも拡径部12に存在していることが好ましく、少なくとも拡径部12に包接されていることがより好ましい。また、拡径部12は、上記一次元孔、上記二次元孔及び上記三次元孔のうちのいずれかを構成する複数の孔11a,11a同士を連通しているのが好ましい。これにより、担体10の内部に、一次元孔、二次元孔又は三次元孔とは異なる別途の通路が設けられるので、機能性物質20の機能をより発揮させることができる。尚、ここでいう一次元孔とは、一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の孔、もしくは複数の一次元チャンネルを形成しているトンネル型またはケージ型の複数の孔(複数の一次元チャンネル)を指す。また、二次元孔とは、複数の一次元チャンネルが二次元的に連結された二次元チャンネルを指し、三次元孔とは、複数の一次元チャンネルが三次元的に連結された三次元チャンネルを指す。これにより、機能性物質20の担体10内での移動がさらに規制され、機能性物質20の離脱、機能性物質20、20の微粒子同士の凝集をさらに有効に防止することができる。包接とは、機能性物質20が担体10に内包されている状態を指す。このとき機能性物質20と担体10とは、必ずしも直接的に互いが接触している必要はなく、機能性物質20と担体10との間に他の物質(例えば、界面活性剤等)が介在した状態で、機能性物質20が担体10に間接的に保持されていてもよい。
【0023】
図1(b)では機能性物質20が拡径部12に包接されている場合を示しているが、この構成だけには限定されず、機能性物質20は、その一部が拡径部12の外側にはみ出した状態で通路11に保持されていてもよい。また、機能性物質20は、拡径部12以外の通路11の部分(例えば通路11の内壁部分)に部分的に埋設され、または固着等によって保持されていてもよい。
【0024】
また、通路11は、担体10の内部に、分岐部または合流部を含んで三次元的に形成されており、拡径部12は、通路11の上記分岐部または合流部に設けられるのが好ましい。
【0025】
担体10に形成された通路11の平均内径DFは、上記一次元孔、二次元孔及び三次元孔のうちのいずれかを構成する孔11aの短径及び長径の平均値から算出され、例えば0.1nm~1.5nmであり、好ましくは0.5nm~0.8nmである。また、拡径部12の内径DEは、例えば0.5nm~50nmであり、好ましくは1.1nm~40nm、より好ましくは1.1nm~3.3nmである。拡径部12の内径DEは、例えば後述する前駆体材料(A)の細孔径や、拡径部12に包接される機能性物質20の粒径に依存する。拡径部12の内径DEは、機能性物質20を包接し得る大きさである。
【0026】
担体10は、ゼオライト型化合物で構成される。ゼオライト型化合物としては、例えば、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)、陽イオン交換ゼオライト、シリカライト等のケイ酸塩化合物、アルミノホウ酸塩、アルミノヒ酸塩、ゲルマニウム酸塩等のゼオライト類縁化合物、リン酸モリブデン等のリン酸塩系ゼオライト類似物質などが挙げられる。中でも、ゼオライト型化合物はケイ酸塩化合物であることが好ましい。
【0027】
ゼオライト型化合物の骨格構造は、FAU型(Y型またはX型)、MTW型、MFI型(ZSM-5)、FER型(フェリエライト)、LTA型(A型)、MWW型(MCM-22)、MOR型(モルデナイト)、LTL型(L型)、BEA型(ベータ型)などの中から選択され、好ましくはMFI型、MOR型、BEA型である。ゼオライト型化合物には、各骨格構造に応じた孔径を有する孔が複数形成されており、例えばMFI型の最大孔径は0.636nm(6.36Å)、平均孔径0.560nm(5.60Å)である。
【0028】
機能性物質20は、微粒子の形態を有しており、一次粒子である場合と、一次粒子が凝集して形成した二次粒子である場合とがあるが、機能性物質20の平均粒径DCは、通路11の平均内径DFよりも大きいことが好ましい。また、機能性物質20の平均粒径DCは、拡径部12の内径DE以下であることが好ましい。より好ましくは、機能性物質20の平均粒径DCは、通路11の平均内径DFよりも大きく、且つ拡径部12の内径DE以下である(DF<DC≦DE)。このような機能性物質20は、通路11内では、好適には拡径部12に存在しており、担体10内での機能性物質20の移動が規制される。よって、機能性物質20が流体から外力を受けた場合であっても、担体10内での機能性物質20の移動が抑制され、担体10の通路11に分散配置された拡径部12、12、・・のそれぞれに存在する機能性物質20、20、・・同士が接触するのを有効に防止することができる。
【0029】
また、機能性物質20の平均粒径DCは、一次粒子および二次粒子のいずれの場合も、好ましくは0.08nm~30nmであり、より好ましくは0.1nm以上25nm未満であり、さらに好ましくは0.1nm~11.0nmであり、特に好ましくは0.1nm~4.0nmである。また、通路11の平均内径DFに対する、機能性物質20の平均粒径DCの割合(DC/DF)は、好ましくは0.05~300であり、より好ましくは0.1~30であり、更に好ましくは1.1~30であり、特に好ましくは1.4~3.6である。
【0030】
上記機能性物質20は、第一元素と、第二元素とを含有する。ここで、第一元素は、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素であり、その中でも、材料コストの面から、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)がより好ましい。また、第二元素は、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上である。このような第一元素と第二元素とを併用することにより、第二元素によって第一元素のシリケートの生成が抑制されるため、触媒活性の低下を抑制することができる。
【0031】
ここで、機能性物質20を構成する第二元素としては、第一元素の還元を補助し、触媒の活性点を増やす観点から、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)および亜鉛(Zn)からなる群から選択される1種以上が好ましく、ジルコニウム(Zr)がより好ましい。
【0032】
機能性物質20としては、第一元素および第二元素の一方または両方を含有する金属微粒子を含んでもよく、このとき、第一元素や第二元素を構成する金属は、1種の金属元素で構成されていてもよく、2種以上の金属元素の混合物や、それらの少なくとも一部が合金化されたもので構成されていてもよい。また、機能性物質20は、触媒として使用する際に上記した金属の状態になっていればよく、例えば、第一元素と第二元素を含む合金またはこれらの複合材料を含んでいてもよい。また、機能性物質20は、第一元素および第二元素の一方または両方の酸化物を含有する金属酸化物微粒子を含んでいてもよい。金属酸化物微粒子は、触媒として使用する前に、後述する還元工程(ステップS5)によって酸化物を還元し、または還元雰囲気を含む使用環境に一定時間晒すことで、触媒として使用する際に金属の状態にすることができる。なお、本明細書において、触媒として使用する際の機能性物質を構成する(材質としての)「金属」は、1種の金属元素からなる単体金属と、2種以上の金属元素を含む金属混合物や金属合金を含む意味であり、1種以上の金属元素を含む金属の総称である。
【0033】
特に、機能性物質20として金属微粒子を含む場合、金属微粒子は、第一元素および第二元素を含有する合金化微粒子と、第一元素および第二元素からなる金属微粒子をそれぞれ含有する2種類以上の単一金属微粒子と、の一方または双方を含むことが好ましい。機能性物質20は、合金化微粒子と単一金属微粒子の双方を含んでいてもよい。例えば、機能性物質20の状態としては、第一元素を含む微粒子が第二元素を含む微粒子を担持していてもよく、第一元素と第二元素を含む合金であってもよく、第一元素と第二元素を含む複合微粒子であってもよい。
【0034】
第一元素の含有量に対する第二元素の含有量の比率は、質量比で、0.01~2.00であることが好ましく、0.02~1.50であることがより好ましい。本発明の触媒構造体1は、第二元素の含有量が相対的に少なくても、触媒活性の低下を抑制することが可能である。また、触媒構造体1に含まれる、第二元素の含有量は、第一元素の含有量よりも少ないことが好ましい。
【0035】
また、第一元素は、触媒構造体1に対して合計で0.5質量%以上含有されていることが好ましい。他方で、触媒構造体1に対する第一元素の合計含有量の上限は、特に限定されるものではないが、7.6質量%以下で含有されているのが好ましく、6.9質量%で含有されているのがより好ましく、2.5質量%で含有されているのがさらに好ましく、1.5質量%で含有されているのが最も好ましい。例えば、第一元素がCoである場合、Co元素の含有量(質量%)は、{(Co元素の質量)/(触媒構造体1の全元素の質量)}×100で表される。
【0036】
また、第二元素は、触媒構造体1に対して合計で5質量%以下含有されていることが好ましく、触媒構造体1に対して合計で0.01~0.15質量%含有されていることがより好ましく、触媒構造体1に対して合計で0.02~0.10質量%含有されていることがさらに好ましい。
【0037】
さらに、機能性物質は、上記の第一元素および第二元素の他に、第三元素を含んでもよい。第三元素としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)およびオスミウム(Os)などが挙げられる。このような第三元素を含有させることで、触媒活性の低下をより抑えることができる。この触媒活性の低下を抑える作用は、第三元素によって水素のスピルオーバーが生じ、それにより第一元素の還元が促進されることによって奏されるものであると考えられる。他方で、第一元素および第二元素の相対的な減少による、触媒活性の低下を抑制する観点から、第三元素の含有量は、触媒構造体1に対して、0.27質量%以下であることが好ましい。
【0038】
[触媒構造体の機能]
触媒構造体1は、上記のとおり、多孔質構造の担体10と、担体に内在する少なくとも1つの機能性物質20とを備える。触媒構造体1は、担体に内在する機能性物質20が流体と接触することにより、機能性物質20の触媒能を発揮する。具体的に、触媒構造体1の外表面10aに接触した流体は、外表面10aに形成された孔11aから担体10内部に流入して通路11内に誘導され、通路11内を通って移動し、他の孔11aを通じて触媒構造体1の外部へ出る。流体が通路11内を通って移動する経路において、通路11に存在している機能性物質20と接触することによって、機能性物質20による触媒反応が生じる。また、触媒構造体1は、担体が多孔質構造であることにより、分子篩能を有する。
【0039】
まず、触媒構造体1の分子篩能について、
図2(a)を用いて、説明する。
図2(a)に示すように、孔11aの孔径以下、言い換えれば、通路11の内径以下の大きさを有する分子15aは、担体10内に浸入することができる。一方、孔11aの孔径を超える大きさを有する分子15bは、担体10内へ浸入することができない。このように、流体が複数種類の化合物を含んでいる場合に、担体10内に浸入することができない化合物の反応は規制され、担体10内に浸入することができる化合物を反応させることができる。
【0040】
反応によって担体10内で生成した化合物のうち、孔11aの孔径以下の大きさを有する分子で構成される化合物のみが孔11aを通じて担体10の外部へ出ることができ、反応生成物として得られる。一方、孔11aから担体10の外部へ出ることができない化合物は、担体10の外部へ出ることができる大きさの分子で構成される化合物に変換させれば、担体10の外部へ出すことができる。このように、触媒構造体1を用いることにより、特定の反応生成物を選択的に得ることができる。
【0041】
触媒構造体1では、
図2(b)に示すように、通路11の拡径部12に機能性物質20が包接されている。ここで、機能性物質20の平均粒径D
Cが、通路11の平均内径D
Fよりも大きく、拡径部12の内径D
Eよりも小さい場合には(D
F<D
C<D
E)、機能性物質と拡径部12との間に小通路13が形成される。そこで、
図2(b)中の矢印に示すように、小通路13に浸入した流体が機能性物質と接触する。各機能性物質は、拡径部12に包接されているため、担体10内での移動が制限されている。これにより、担体10内における機能性物質の微粒子同士の凝集が防止される。その結果、機能性物質と流体との大きな接触面積を安定して維持することができる。
【0042】
また、特に機能性物質20が第一元素と第二元素とを含んでいることで、金属状態のときに高い触媒活性を有する第一元素からのシリケートの生成が、第二元素によって抑制されるため、触媒活性の低下を抑制することができる。
【0043】
具体的には、通路11に浸入した分子が機能性物質20に接触すると、触媒反応によって分子(被改質物質)が改質される。本発明では、触媒構造体1を用いることにより、例えば、水素と一酸化炭素とを主成分とする混合ガスを原料として、炭化水素(CH4を除く)、好ましくはC2~C20の炭化水素を製造することができる。特に、本発明の触媒構造体1によれば、特に低級の(C2~C5)炭化水素を含んだ炭化水素を製造することも可能である。この触媒反応は、例えば180℃~350℃の高温下で行われるが、機能性物質20は担体10に内在しているため、加熱による影響を受けにくい。特に、機能性物質20は拡径部12に存在しているため、機能性物質20の担体10内での移動がより制限され、機能性物質20の微粒子同士の凝集が(シンタリング)がさらに抑制される。その結果、触媒活性の低下がより抑制され、触媒構造体1のさらなる長寿命化を実現することができる。また、触媒構造体1を長期にわたって使用することにより、触媒活性が低下しても、機能性物質20の活性化処理(還元処理)を容易に行うことができる。
【0044】
[触媒構造体の製造方法]
図3は、
図1の触媒構造体1の製造方法を示すフローチャートである。
【0045】
(ステップS1:準備工程)
図3に示すように、先ず、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)を準備する。前駆体材料(A)は、好ましくは規則性メソ細孔物質であり、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物の種類(組成)に応じて適宜選択できる。
【0046】
ここで、触媒構造体の担体を構成するゼオライト型化合物がケイ酸塩化合物である場合には、規則性メソ細孔物質は、細孔径1~50nmの細孔が1次元、2次元または3次元に均一な大きさかつ規則的に発達したSi-O骨格からなる化合物であることが好ましい。このような規則性メソ細孔物質は、合成条件によって様々な合成物として得られるが、合成物の具体例としては、例えばSBA-1、SBA-15、SBA-16、KIT-6、FSM-16、MCM-41等が挙げられ、中でもMCM-41が好ましい。なお、SBA-1の細孔径は10~30nm、SBA-15の細孔径は6~10nm、SBA-16の細孔径は6nm、KIT-6の細孔径は9nm、FSM-16の細孔径は3~5nm、MCM-41の細孔径は1~10nmである。また、このような規則性メソ細孔物質としては、例えばメソポーラスシリカ、メソポーラスアルミノシリケート、メソポーラスメタロシリケート等が挙げられる。
【0047】
前駆体材料(A)は、市販品および合成品のいずれであってもよい。前駆体材料(A)を合成する場合には、公知の規則性メソ細孔物質の合成方法により行うことができる。例えば、前駆体材料(A)の構成元素を含有する原料と、前駆体材料(A)の構造を規定するための鋳型剤とを含む混合溶液を調製し、必要に応じてpHを調整して、水熱処理(水熱合成)を行う。その後、水熱処理により得られた沈殿物(生成物)を回収(例えば、ろ別)し、必要に応じて洗浄および乾燥し、さらに焼成することで、粉末状の規則性メソ細孔物質である前駆体材料(A)が得られる。ここで、混合溶液の溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、原料は、担体の種類に応じて選択されるが、例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)等のシリカ剤、フュームドシリカ、石英砂等が挙げられる。また、鋳型剤としては、各種界面活性剤、ブロックコポリマー等を用いることができ、規則性メソ細孔物質の合成物の種類に応じて選択することが好ましく、例えば、MCM-41を作製する場合には、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドやポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル等の界面活性剤が好適である。他方で、鋳型剤を用いなくてもよい。水熱処理は、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことができる。焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。
【0048】
(ステップS2:含浸工程)
次に、準備した前駆体材料(A)に、金属元素である第一元素及び第二元素を含んだ金属含有溶液を含浸させ、前駆体材料(B)を得る。
【0049】
金属含有溶液は、触媒構造体の機能性物質を構成する、第一元素(M1)や第二元素(M2)に対応する金属成分(例えば、金属イオン)を含有する溶液であればよく、例えば、溶媒に、第一元素(M1)及び第二元素(M2)を含有する金属塩を溶解させることにより調製できる。このような金属塩としては、例えば、塩化物、水酸化物、酸化物、硫酸塩、硝酸塩等の金属塩が挙げられ、中でも塩化物または硝酸塩が好ましい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。
【0050】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、後述する焼成工程の前に、粉末状の前駆体材料(A)を撹拌しながら、前駆体材料(A)に金属含有溶液を複数回に分けて少量ずつ添加することが好ましい。また、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液がより浸入し易くなる観点から、前駆体材料(A)に、金属含有溶液を添加する前に予め、添加剤として界面活性剤を添加しておくことが好ましい。このような添加剤は、前駆体材料(A)の外表面を被覆する働きがあり、その後に添加される金属含有溶液が前駆体材料(A)の外表面に付着することを抑制し、金属含有溶液が前駆体材料(A)の細孔内部により浸入し易くなると考えられる。
【0051】
このような添加剤としては、例えばポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。これらの界面活性剤は、分子サイズが大きく前駆体材料(A)の細孔内部には浸入できないため、細孔の内部に付着することは無く、金属含有溶液が細孔内部に浸入することを妨げないと考えられる。非イオン性界面活性剤の添加方法としては、例えば、後述する焼成工程の前に、非イオン性界面活性剤を、前駆体材料(A)に対して50~500質量%添加するのが好ましい。非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量が50質量%未満であると上記の抑制作用が発現し難く、非イオン性界面活性剤を前駆体材料(A)に対して500質量%よりも多く添加すると粘度が上がりすぎるので好ましくない。よって、非イオン性界面活性剤の前駆体材料(A)に対する添加量を上記範囲内の値とする。
【0052】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液中に含まれる第一元素(M1)の量(すなわち、前駆体材料(B)に内在させる第一元素(M1)の量)を考慮して、適宜調整することが好ましい。前駆体材料(B)の状態で、その細孔内部に存在する第一元素(M1)や第二元素(M2)の量は、金属含有溶液の金属濃度、上記添加剤の有無、その他温度や圧力等の諸条件が同じであれば、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量に概ね比例する。また、前駆体材料(B)に内在する第一元素(M1)や第二元素(M2)の量は、触媒構造体の担体に内在する機能性物質を構成する第一元素(M1)や第二元素(M2)の量と比例関係にある。したがって、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を上記範囲に制御することにより、前駆体材料(A)の細孔内部に金属含有溶液を十分に含浸させることができ、ひいては、触媒構造体の担体に内在させる機能性物質の量を調整することができる。
【0053】
ここで、後述する焼成工程の前に前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量については、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液に含まれる第一元素(M1)の含有量に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の含有量の比(原子数比Si/M1)を、10~1000となるように調整することが好ましく、30~300に調整することがより好ましく、50~200となるように調整することがさらに好ましい。上記割合が1000より大きいと、活性が低いなど、機能性物質の触媒物質としての作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が10よりも小さいと、機能性物質20の割合が大きくなりすぎて、担体10の強度が低下する傾向がある。例えば、前駆体材料(A)に金属含有溶液を添加する前に、添加剤として界面活性剤を前駆体材料(A)に添加した場合、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量を、原子数比Si/M1に換算して50~200とすることで、機能性物質に含まれる第一元素(M1)を、触媒構造体に対して合計で0.5~7.6質量%含有させることができる。なお、ここでいう機能性物質20は、担体10の内部に保持され、または担持された微粒子をいい、担体10の外表面に付着した機能性物質を含まない。
【0054】
また、後述する焼成工程の前に前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させる際に、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液の添加量については、前駆体材料(A)に添加する金属含有溶液に含まれる第二元素(M2)の含有量に対する、担体10を構成するケイ素(Si)の含有量の割合(原子数比Si/M2)は、1000~10000であるのが好ましく、1000~7000であるのがより好ましい。上記割合が10000より大きいと、第二元素による触媒活性の低下を抑制する作用が十分に得られない可能性がある。一方、上記割合が1000よりも小さいと、第一元素の含有量が相対的に低下して、かえって触媒活性が低下する傾向がある。なお、ここでいう機能性物質20も、担体10の内部に保持され、または担持された微粒子をいい、担体10の外表面に付着した機能性物質を含まない。
【0055】
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させた後は、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。洗浄溶液として、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。また、前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させ、必要に応じて洗浄処理を行った後、さらに乾燥処理を施すことが好ましい。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、金属含有溶液に含まれる水分や、洗浄溶液の水分が、前駆体材料(A)に多く残った状態で、後述の焼成処理を行うと、前駆体材料(A)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。
【0056】
(ステップS3:焼成工程)
次に、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体を得るための前駆体材料(A)に金属含有溶液が含浸された前駆体材料(B)を焼成して、前駆体材料(C)を得る。
【0057】
焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことが好ましい。このような焼成処理により、規則性メソ細孔物質の孔内に含浸された金属成分が結晶成長して、孔内で機能性物質が形成される。
【0058】
(ステップS4:水熱処理工程)
次いで、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製し、前記前駆体材料(B)を焼成して得られた前駆体材料(C)を水熱処理して、触媒構造体を得る。
【0059】
構造規定剤は、触媒構造体の骨格体(担体)の骨格構造を規定するための鋳型剤であり、有機構造規定剤(“organic structure directing agents”または“OSDA”と通常表記される)およびOH-を持った無機構造規定剤の少なくともいずれか1つを用いることができる。このうち、有機構造規定剤としては、例えば界面活性剤を用いることができる。有機構造規定剤は、触媒構造体の担体の骨格構造に応じて選択することが好ましく、例えばテトラメチルアンモニウムブロミド(TMABr)、テトラエチルアンモニウムブロミド(TEABr)、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)等の界面活性剤が好適である。また、無機構造規定剤として代表的なものはアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物であり、たとえば水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(Rb(OH))、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化ストロンチウム(Sr(OH)2)などが好適である。
【0060】
前駆体材料(C)と構造規定剤との混合は、本水熱処理工程時に行ってもよいし、水熱処理工程の前に行ってもよい。また、上記混合溶液の調製方法は、特に限定されず、前駆体材料(C)と、構造規定剤と、溶媒とを同時に混合してもよいし、溶媒に前駆体材料(C)と構造規定剤とをそれぞれ個々の溶液に分散させた状態にした後に、それぞれの分散溶液を混合してもよい。溶媒としては、例えば水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶媒等を用いることができる。また、混合溶液は、水熱処理を行う前に、酸または塩基を用いてpHを調整しておくことが好ましい。
【0061】
水熱処理は、公知の方法で行うことができ、例えば、密閉容器内で、80~800℃、5時間~240時間、0~2000kPaの処理条件で行うことが好ましい。また、水熱処理は、塩基性雰囲気下で行われることが好ましい。ここでの反応メカニズムは必ずしも明らかではないが、前駆体材料(C)を原料として水熱処理を行うことにより、前駆体材料(C)の規則性メソ細孔物質としての骨格構造は次第に崩れるが、前駆体材料(C)の細孔内部での機能性物質の位置は概ね維持されたまま、構造規定剤の作用により、触媒構造体の担体としての新たな骨格構造(多孔質構造)が形成される。このようにして得られた触媒構造体は、多孔質構造の担体と、担体に内在し、上記の第一元素と第二元素とを含む機能性物質を備え、さらに、担体はその多孔質構造により複数の孔が互いに連通した通路を有し、機能性物質はその少なくとも一部分が担体の通路に存在している。また、本実施形態では、上記水熱処理工程において、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合した混合溶液を調製して、前駆体材料(C)を水熱処理しているが、これに限らず、前駆体材料(C)と構造規定剤とを混合することなく、前駆体材料(C)を水熱処理してもよい。
【0062】
水熱処理後に得られる沈殿物(触媒構造体)は、回収(例えば、ろ別)後、必要に応じて洗浄、乾燥および焼成することが好ましい。洗浄溶液としては、水、またはアルコール等の有機溶媒、若しくはこれらの混合溶液を用いることができる。乾燥処理としては、一晩程度の自然乾燥や、150℃以下の高温乾燥が挙げられる。なお、沈殿物に水分が多く残った状態で、焼成処理を行うと、触媒構造体の担体としての骨格構造が壊れる恐れがあるので、十分に乾燥するのが好ましい。また、焼成処理は、例えば、空気中で、350~850℃、2~30時間の処理条件で行うことができる。このような焼成処理により、触媒構造体に付着していた構造規定剤が焼失する。また、触媒構造体は、使用目的に応じて、回収後の沈殿物を焼成処理することなくそのまま用いることもできる。例えば、触媒構造体の使用する環境が、酸化性雰囲気の高温環境である場合には、使用環境に一定時間晒すことで、構造規定剤は焼失し、焼成処理した場合と同様の触媒構造体が得られるので、そのまま使用することが可能となる。
【0063】
以上説明した製造方法は、前駆体材料(A)に含浸させる金属含有溶液に含まれる第一元素(M1)や第二元素(M2)が、酸化され難い金属種(例えば、貴金属であるRu)である場合の一例である。
【0064】
(ステップS5:還元工程)
上記水熱処理工程後に、水熱処理された前駆体材料(C)に還元処理を行うことが好ましい。例えば、金属含有溶液中に第一元素(M1)として、酸化され易い金属種であるCo、Fe、Niのうち少なくとも一つを含む場合、含浸処理(ステップS2)の後の工程(ステップS3~S4)における熱処理により、金属成分が酸化されてしまう。そのため、水熱処理工程(ステップS4)で形成される担体には、機能性物質として金属酸化物微粒子が内在することになる。そのため、担体に金属微粒子が内在する触媒構造体を得るためには、上記水熱処理後に、必要に応じて回収した沈殿物を焼成処理した後、水素ガス等の還元ガス雰囲気下で還元処理することが望ましい。還元処理を行うことにより、担体に内在する金属酸化物微粒子が還元され、金属酸化物微粒子を構成する金属元素に対応する金属微粒子が形成される。その結果、担体に機能性物質として金属微粒子が内在する触媒構造体が得られる。このとき、還元工程における還元の程度を調整することで、金属や金属酸化物が内在している触媒構造体の機能低下を抑制し、または調整することが可能となる。なお、このような還元処理は、必要に応じて行えばよく、例えば、触媒構造体の使用する環境が、少なくとも一時的に還元雰囲気になりうる場合には、還元雰囲気を含む使用環境に一定時間晒すことで、金属酸化物微粒子は還元されるため、還元処理した場合と同様の触媒構造体が得られるので、担体に酸化物微粒子が内在した状態でそのまま使用することが可能となる。
【0065】
[触媒構造体の変形例]
図4は、
図1の触媒構造体1の変形例を示す模式図である。
図1の触媒構造体1は、担体10と、担体10に内在する機能性物質20とを備える場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、
図4に示すように、触媒構造体2が、担体10の外表面10aに保持された他の機能性物質30を更に備えていてもよい。
【0066】
この機能性物質30は、少なくとも触媒として使用する際に、単数または複数の触媒能を発揮する。他の機能性物質30が有する触媒能は、機能性物質20が有する触媒能と同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、機能性物質20,30の双方が同一の触媒能を有する場合、他の機能性物質30の材料は、機能性物質20の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。本構成によれば、触媒構造体2に保持された機能性物質の含有量を増大することができ、機能性物質による触媒活性を更に促進することができる。
【0067】
すなわち、他の機能性物質30は、機能性物質20と同様に、第一元素に該当するコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属または合金を含んでいてもよい。また、他の機能性物質は、機能性物質20と同様に、第二元素に該当する周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属や、それら少なくとも1種を含む金属または合金を含んでいてもよい。特に、他の機能性物質30においても、第一元素に該当する元素と、第二元素に該当する元素とを併用することで、第二元素によって第一元素のシリケートの生成が抑制されるため、他の機能性物質30における触媒活性の低下も抑制することができる。
【0068】
この場合、担体10に内在する機能性物質20の含有量は、担体10の外表面10aに保持された他の機能性物質30の含有量よりも多いことが好ましい。これにより、担体10の内部に保持された機能性物質20による触媒能が支配的となり、安定的に機能性物質の触媒能が発揮される。特に、この場合の触媒構造体2は、担体10の内部に保持された機能性物質20が、担体10の外表面10aに保持された他の機能性物質30よりも、担体10から脱離し難く凝集し難いため、触媒としての使用時間によらず、機能性物質20の含有量が他の機能性物質30よりも多くなる。
【0069】
[触媒構造体の製造方法の変形例]
図3の触媒構造体1の製造方法では、前駆体材料(A)に第一元素及び第二元素を金属元素として含んだ金属含有溶液を含浸させる場合を示しているが、この構成だけには限定されず、例えば、ステップS2(含浸工程)において、第一元素を含んだ金属含有溶液(第一元素含有溶液)を前駆体材料(A)に含浸させてステップS3(第一焼成工程)に供するとともに、ステップS4(水熱処理工程)を行い、必要に応じてステップS5(還元工程)を行うことで、機能性物質20を触媒構造体1に内在させた後、第二元素を含んだ第二元素含有溶液を、水熱処理された前駆体材料(C)からなる前駆体材料(D)に含浸させ、第二元素含有溶液が含浸された前駆体材料(D)を焼成し(第二焼成工程)、必要に応じて焼成された前駆体材料(D)に還元処理を行うことで、担体10の外表面10aに他の機能性物質30を設けてもよい。これにより、担体10に機能性物質20が内在し、かつ担体10の外表面10aに他の機能性物質30が保持された、触媒構造体を得ることができる。
【0070】
ここで、水熱処理された前駆体材料(C)に、第二元素含有溶液を含浸させる方法は、特に限定されないが、例えば、前駆体材料(A)への金属含有溶液の含浸と同様の方法を用いることができる。
【0071】
また、第二元素含有溶液が含浸された前駆体材料(D)への焼成処理は、金属含有溶液が含浸された前駆体材料(A)への焼成処理と同様に行うことができる。また、焼成処理後の前駆体材料(D)に対して還元処理を行う。
【0072】
[触媒構造体の用途]
本発明の触媒構造体は、特に、機能性物質の酸化によって触媒活性が低下する化学反応に好適に用いることができる。
【0073】
(FT合成反応による炭化水素の製造)
その一例として、本発明の触媒構造体を用いて、一酸化炭素と水素からFT合成反応によって炭化水素を合成する、炭化水素の製造方法が提供される。このような触媒としては、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、担体10に内在し、上記の第一元素と第二元素とを含む少なくとも1つの機能性物質20と、を備え、担体10が、互いに連通する通路11を有し、機能性物質20が、担体10の少なくとも通路11の拡径部12に存在している触媒構造体1が用いられる。すなわち、本発明では、上述の触媒構造体を用いて、一酸化炭素と水素から炭化水素を合成する炭化水素の製造方法が提供される。上述の触媒構造体をこの方法に用いることで、機能性物質の触媒として使用する際に、FT合成反応の副生成物である水(H2O)分子による、機能性物質の酸化が抑制されるため、FT合成反応による触媒活性の低下を抑制することができる。
【0074】
このようなフィッシャー・トロプシュ合成反応を利用した炭化水素の製造方法を実施する際の原料としては、分子状水素及び一酸化炭素を主成分とする合成ガスであれば特に制限はないが、水素/一酸化炭素のモル比が1.5~2.5である合成ガスが好適であり、該モル比が1.8~2.2である合成ガスがより好適である。また、FT合成反応の反応条件についても、特に制限はなく、公知の条件にて行うことができる。例えば、反応温度としては200~500℃、圧力としては0.1~3.0MPa(絶対圧力)が好ましい。
【0075】
フィッシャー・トロプシュ合成反応は、フィッシャー・トロプシュ合成の反応プロセスとして公知のプロセス、例えば、固定床、超臨界固定床、スラリー床、流動床等で実施することができる。好ましいプロセスとしては、固定床、超臨界固定床、スラリー床を挙げることができる。
【0076】
また、本発明において、上記触媒構造体を有する炭化水素製造装置が提供されていてもよい。このような炭化水素製造装置は、上記触媒構造体を利用してフィッシャー・トロプシュ合成ができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、FT合成反応装置、FT合成反応カラム等の通常使用される製造装置を使用することができる。本発明に係る触媒構造体をこのような炭化水素製造装置に用いることにより、当該製造装置も上記と同様の効果を奏することができる。
【0077】
以上、本発明の実施形態に係る触媒構造体、その製造方法及び該触媒構造体を用いた炭化水素の製造方法、並びに該触媒構造体を有する炭化水素製造装置について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0078】
(部分酸化反応による合成ガスの製造)
また、本発明の触媒構造体を用いて、メタンから部分酸化反応によって一酸化炭素と水素を合成する、合成ガスの製造方法が提供される。このような触媒としては、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体10と、担体10に内在し、上記の第一元素と第二元素とを含む少なくとも1つの機能性物質20と、を備え、担体10が、互いに連通する通路11を有し、機能性物質20が、担体10の少なくとも通路11の拡径部12に存在している触媒構造体1が用いられる。すなわち、本発明では、上述の触媒構造体を用いて、メタンから一酸化炭素と水素を合成する合成ガスの製造方法が提供される。
【0079】
上述の触媒構造体をこの方法に用いることで、メタンを酸化させるために供給される酸素(O2)分子による、機能性物質の酸化が抑制されるため、部分酸化反応による触媒活性の低下を抑制することができる。
【実施例】
【0080】
(実施例1~4、6~14)
[前駆体材料(A)の合成]
シリカ剤(テトラエトキシシラン(TEOS)、和光純薬工業株式会社製)と、鋳型剤としての界面活性剤とを混合した混合水溶液を作製し、適宜pH調整を行い、密閉容器内で、80~350℃、100時間、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水およびエタノールで洗浄し、さらに600℃、24時間、空気中で焼成して、表1に示される種類および孔径の前駆体材料(A)を得た。なお、界面活性剤は、前駆体材料(A)の種類に応じて(「前駆体材料(A)の種類:界面活性剤」)以下のものを用いた。
・MCM-41:ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)(和光純薬工業株式会社製)
【0081】
[前駆体材料(B)および(C)の作製]
次に、表2に示される種類の機能性物質を構成する金属組成に応じて、第一元素および第二元素を金属元素として含有する金属塩を、水に溶解させて、金属含有水溶液を調製した。なお、金属塩は、機能性物質を構成する金属微粒子の種類に応じて(「金属微粒子:金属塩」)以下のものを用いた。
(第一元素)
・Co:硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Ni:硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Fe:硝酸鉄(III)九水和物(和光純薬工業株式会社製)
・Ru:塩化ルテニウム(III)無水(東京化成工業株式会社製)
(第二元素)
・Zr:硝酸ジルコニウム(IV)(和光純薬工業株式会社製)
【0082】
この前駆体材料(A)に対して、添加剤(非イオン性界面活性剤)としてのポリオキシエチレン(15)オレイルエーテル(NIKKOL BO-15V、日光ケミカルズ株式会社製)の水溶液を添加する前処理を行った後、粉末状の前駆体材料(A)に、金属含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0083】
また、前駆体材料(A)に添加する金属含有水溶液の添加量は、該金属含有水溶液中における第一元素(M1)の含有量に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)含有量の比(原子数比Si/M1)に換算したときの数値や、該金属含有水溶液中における第二元素(M2)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M2)に換算したときの数値が、表1の値になるように調整した。
【0084】
次に、上記のようにして得られた金属含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0085】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、表1に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80~350℃、表1に示すpHおよび時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成した。その後、焼成物を回収し、水素ガスの流入下で、500℃、60分間、還元処理して、表1に示す担体と機能性物質としての金属微粒子とを有する触媒構造体を得た(実施例1~4、6~14)。
【0086】
(実施例5)
[前駆体材料(A)の合成]
実施例1~4、6~14と同様の方法で、表1に示される種類および孔径の前駆体材料(A)を得た。
【0087】
[前駆体材料(B)および(C)の作製]
次に、表2に示される、機能性物質となる金属微粒子を構成する第一元素の種類に応じて、第一元素を含有する金属塩を、水に溶解させて、第一元素含有水溶液を調製した。ここで、金属塩としては、硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬工業株式会社製)を用いた。
【0088】
次に、粉末状の前駆体材料(A)に、第一元素含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させて、前駆体材料(B)を得た。
【0089】
ここで、前駆体材料(A)に添加する第一元素含有水溶液の添加量は、第一元素含有水溶液中に含まれる第一元素(M1)に対する、前駆体材料(A)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M1)に換算したときの数値が、表1の値になるように調整した。
【0090】
次に、上記のようにして得られた第一元素含有水溶液を含浸させた前駆体材料(B)を、600℃、24時間、空気中で焼成して、前駆体材料(C)を得た。
【0091】
上記のようにして得られた前駆体材料(C)と、表1に示す構造規定剤とを混合して混合水溶液を作製し、密閉容器内で、80~350℃、表1に示すpHおよび時間の条件で、水熱処理を行った。その後、生成した沈殿物をろ別し、水洗し、100℃で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成し、前駆体材料(D)を回収した。
【0092】
次に、第二元素を含有する金属塩を、水に溶解させて、第二元素含有水溶液を調製した。ここで、金属塩としては、硝酸ジルコニウム(IV)(和光純薬工業株式会社製)を用いた。また、前駆体材料(D)に添加する第二元素含有水溶液の添加量は、第二元素含有水溶液中に含まれる第二元素(M2)に対する、前駆体材料(D)を構成するケイ素(Si)の比(原子数比Si/M2)に換算したときの数値が、表1の値になるように調整した。回収した前駆体材料(D)に、第二元素含有水溶液を複数回に分けて少量ずつ添加し、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成した。その後、焼成物(F)を回収し、水素ガスの流入下で、500℃、60分間、還元処理して、表1に示す担体と機能性物質としての金属微粒子とを有する触媒構造体を得た(実施例5)。ここで、実施例5の触媒構造体は、後述するSEMおよびEDXを用いた断面元素分析により、担体に第一元素であるコバルトを含んだ機能性物質が内在し、かつ担体の外表面に第二元素であるジルコニウムが保持されているものであることが確認された。
【0093】
(比較例1)
比較例1では、MFI型シリカライトに平均粒径50nm以下の酸化コバルト粉末(II,III)(シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を混合したものに硝酸ジルコニウム(IV)(和光純薬工業株式会社製)を含浸させ、室温(20℃±10℃)で12時間以上乾燥させ、さらに600℃、24時間、空気中で焼成したものを比較例として用いた。実施例と同様にして水素還元処理を行って、担体としてのシリカライトの外表面に、機能性物質としてコバルト微粒子を付着させるとともに、ジルコニウム粒子を担持させた触媒構造体を得た。MFI型シリカライトは、金属を添加する工程以外は、実施例1と同様の方法で合成した。
【0094】
(比較例2)
比較例2では、コバルト微粒子を付着させる工程を省略したこと以外は、比較例1と同様の方法にてMFI型シリカライトを合成した。
【0095】
[評価]
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、以下に示す条件で、各種特性評価を行った。
【0096】
[A]断面観察
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、粉砕法にて観察試料を作製し、透過電子顕微鏡(TEM)(TITAN G2、FEI社製)を用いて、断面観察を行った。その結果、上記実施例の触媒構造体では、シリカライトまたはゼオライトからなる担体の内部に機能性物質(触媒物質)となる金属微粒子が内在し、保持されていることが確認された。一方、比較例1のシリカライトでは、機能性物質が担体の外表面に付着しているのみで、担体の内部には存在していなかった。
【0097】
また、上記実施例のうち、第一元素としてFeを、第二元素としてZrをそれぞれ含有する金属微粒子を有する触媒構造体については、FIB(集束イオンビーム)加工により断面を切り出し、SEM(SU8020、日立ハイテクノロジーズ社製)、EDX(X-Max、堀場製作所製)を用いて断面元素分析を行った。その結果、担体内部から、Fe元素とZr元素が検出された。上記TEMとSEM/EDXによる断面観察の結果から、担体内部に金属微粒子が存在していることが確認された。
【0098】
[B]担体の通路の平均内径および機能性物質の平均粒径
上記評価[A]で行った断面観察により撮影したTEM画像にて、担体の通路を、任意に500個選択し、それぞれの長径および短径を測定し、その平均値からそれぞれの内径を算出し(N=500)、さらに内径の平均値を求めて、担体の通路の平均内径DFとした。
【0099】
また、触媒物質の平均粒径及び分散状態を確認するため、SAXS(小角X線散乱)を用いて分析した。SAXSによる測定は、Spring-8のビームラインBL19B2を用いて行った。得られたSAXSデータは、Guinier近似法により球形モデルでフィッティングを行い、触媒物質の平均粒径DCを算出した。例えば、実施例6~8における平均粒径としては、第一元素としてFeを、第二元素としてZrをそれぞれ含有する金属微粒子を触媒物質として有する触媒構造体について、金属微粒子の平均粒径を測定した。また、比較対象として、市販品であるFe微粒子(Wako製)をSEMにて観察、測定した。結果を表2に示す。
【0100】
この結果、市販品では粒径約50nm~400nmの範囲で様々なサイズのFe微粒子がランダムに存在しているのに対し、機能性物質の平均粒径が1.5nm~1.6nmである各実施例の触媒構造体では、SAXSの測定結果として、表2に記載された各実施例の粒径で、粒径が均一であることを示す急峻な散乱ピークが検出され、SAXSの測定結果とSEM/EDXによる断面の測定結果から、担体内部の拡径部に、粒径10nm以下の機能性物質となる金属微粒子(Fe微粒子)が、粒径が揃いかつ非常に高い分散状態で存在していることが分かった。
【0101】
他の実施例の触媒構造体についても同様に、SEM/EDXおよびSAXSを用いた分析を行った結果、いずれも表2に示される第一元素を含んだ金属微粒子の存在が確認された。また、上記実施例の触媒構造体について、微量金属元素の分析を、ICP(高周波誘導結合プラズマ)を用いて行った。その結果、金属微粒子において、表2に示される第二元素の存在を確認した。したがって、上記触媒構造体には、第一元素および第二元素の一方または両方を含有する金属微粒子が、機能性物質としてゼオライトに保持されていることが分かった。そして、この触媒構造体では、機能性物質が、第一元素および第二元素から成る微粒子、または、第一元素または第二元素単独で構成されていることも分かった。
【0102】
[C]前駆体材料(A)に対する第一元素および第二元素の添加量と、触媒構造体を構成する担体内部に包接された第一元素および第二元素の含有量との関係
前駆体材料(A)に金属含有溶液を含浸させたときの、前駆体材料(A)中の第一元素(コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)またはルテニウム(Ru))の添加量M1と第二元素(Zr)の添加量M2が、原子数比でSi/M1=100、Si/M2=2000として、金属微粒子を機能性物質として担体内部に包接させた触媒構造体を作製した。その後、上記添加量で作製された各触媒構造体の担体内部に包接された金属量(質量%)を測定した。
【0103】
金属量の定量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ)単体か、或いはICPとXRF(蛍光X線分析)を組み合わせて行った。XRF(エネルギー分散型蛍光X線分析装置「SEA1200VX」、エスエスアイ・ナノテクノロジー社製)は、真空雰囲気、加速電圧15kV(Crフィルター使用)或いは加速電圧50kV(Pbフィルター使用)の条件で行った。XRFは、金属の存在量を蛍光強度で算出する方法であり、XRF単体では定量値(質量%換算)を算出できない。そこで、原子数比Si/M1=100およびSi/M2=2000で金属を添加した触媒構造体の金属量は、ICP分析により定量した。
【0104】
[D]性能評価
上記実施例の触媒構造体および比較例のシリカライトについて、機能性物質がもつ触媒能を評価した。結果を表2に示す。
【0105】
(1)触媒活性
触媒活性の一例として、FT合成反応における触媒活性を、以下の条件で評価した。
まず、触媒構造体を、常圧流通式反応装置に70mg充填し、水素(8ml/分)と一酸化炭素(4ml/分)を供給し、装置内の圧力を0.1MPaに調整しながら、100~700℃の温度範囲で20℃/minで昇温した後で1時間にわたり温度を保持することで、フィッシャー・トロプシュ合成反応を行った。常圧流通式反応装置は、シングルマイクロリアクター(フロンティアラボ社、Rx-3050SR)を使用した。
【0106】
反応終了後、回収した生成ガスおよび生成液について、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)により成分分析した。ここで、生成ガスおよび生成液の分析装置には、TRACE 1310GC(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製、検出器:熱伝導度検出器)を用いた。
【0107】
上記分析の結果に基づき、250℃における基質ガス(一酸化炭素)の(炭化水素への)転化率を算出した。基質ガスの転化率が9%以上の場合を、触媒活性が良好であると判断して「○」、基質ガスの転化率が9%未満の場合を、触媒活性が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0108】
(2)耐久性(寿命)
耐久性は、以下の条件で評価した。
まず、上記評価(1)で使用した触媒構造体を一旦回収した後に、650℃で、12時間加熱し、さらに、この加熱した後の触媒構造体を用いて、上記評価(1)と同様の方法により、FT合成反応を行い、さらに上記評価(1)と同様の方法で、生成ガスおよび生成液の成分分析を行った。
【0109】
得られた分析結果に基づき、上記評価(1)と同様の方法で、炭化水素の生成量を求めた。さらに、加熱前の触媒構造体による炭化水素の生成量と比較して、加熱後の触媒構造体による炭化水素の収率が、どの程度維持されているかを比較した。具体的には、加熱前の触媒構造体による炭化水素の生成量(上記評価(1)で求めた生成量)に対する、上記加熱後の触媒構造体による炭化水素の生成量(本評価(2)で求めた生成量)の百分率(%)を算出した。
【0110】
本実施例では、加熱後の触媒構造体による炭化水素の生成量(本評価(2)で求めた生成量)が、加熱前の触媒構造体による炭化水素の生成量(上記評価(1)で求めた生成量)に比べて、60%以上維持されている場合を耐久性(耐熱性)が優れていると判定して「○」、そして60%未満に低下している場合を耐久性(耐熱性)が劣る(不可)と判定して「×」とした。
【0111】
比較例1~2についても、上記評価(1)および(2)と同様の性能評価を行った。尚、比較例2は、担体そのものであり、機能性物質を有していない。そのため、上記性能評価では、触媒構造体に替えて、比較例2の担体のみを充填した。結果を表1~2に示す。
【0112】
【0113】
【0114】
表1~2から明らかなように、断面観察により担体の内部に、機能性物質である金属微粒子が保持されていることが確認された触媒構造体(実施例1~14)は、機能性物質である第一元素および第二元素を含有する金属微粒子が担体の外表面に付着しているだけの触媒構造体(比較例1)および機能性物質を何ら有していない担体そのもの(比較例2)と比較して、優れた触媒活性を示し、触媒としての耐久性にも優れていることが分かった。
【0115】
また、上記評価[C]で得られた触媒構造体について、担体内部に包接された金属量(質量%)と、上記評価(1)の触媒活性との関係を評価した。評価方法は、上記[D]「性能評価」における「(1)触媒活性」で行った評価方法と同じとした。その結果、前駆体材料(A)に添加する第一元素の添加量が、原子数比Si/M1に換算して50~100であり、且つ、前駆体材料(A)に添加する第二元素の添加量が、原子数比Si/M2に換算して1000~2000(触媒構造体に対する第一元素(M1)の含有量が0.60~2.00質量%、第二元素(M2)の含有量が0.036~0.100質量%)であると、触媒活性が向上する傾向にあることが分かった。
【0116】
また、別途本発明の触媒構造体について、担体内部に包接された金属量(質量%)と、上記評価(1)の触媒活性との関係を評価した。評価方法は、上記[D]「性能評価」における「(1)触媒活性」で行った評価方法と同じとした。その結果、前駆体材料(A)に添加する第一元素の添加量が、原子数比Si/M1に換算して10~1000のとき、より好ましくは30~300(触媒構造体に対する、機能性物質に含まれる第一元素(M1)の含有量が合計で0.5~7.6質量%、より好ましくは0.5~2.5質量%)のときに、触媒活性が向上する傾向にあることが分かった。
【0117】
一方、担体の外表面にのみ、機能性物質としてコバルト(Co)とジルコニウム(Zr)とを付着させた比較例1の触媒構造体と、機能性物質を何ら有していない比較例2の担体そのものは、実施例1~14の触媒構造体に比べて、触媒活性と、触媒としての耐久性のいずれも劣っていた。
【0118】
上記結果より、触媒構造体(実施例1~14)は、優れた触媒活性を示し、かつ触媒としての耐久性に優れると推察することができる。
【0119】
[他の実施態様]
触媒構造体を使用する方法であって、前記触媒構造体が、ゼオライト型化合物で構成される多孔質構造の担体と、前記担体に内在する少なくとも1つの機能性物質と、を備え、前記機能性物質が、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)およびルテニウム(Ru)からなる群から選択される1種以上の金属元素である第一元素と、周期表の第1族、第2族、第4族、第7族、第12族の金属元素からなる群から選択される1種以上の第二元素と、を含有し、前記担体が、互いに連通する通路を有し、前記機能性物質が、前記担体の少なくとも前記通路の拡径部に存在していることを特徴とする、触媒構造体を使用する方法。
【符号の説明】
【0120】
1 触媒構造体
10 担体
10a 外表面
11 通路
11a 孔
12 拡径部
20 機能性物質
30 機能性物質
DC 平均粒径
DF 平均内径
DE 内径