(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】熱伝導率を調整した固体蓄熱材料および複合体
(51)【国際特許分類】
C09K 5/02 20060101AFI20231016BHJP
【FI】
C09K5/02
(21)【出願番号】P 2022522220
(86)(22)【出願日】2021-05-14
(86)【国際出願番号】 JP2021018448
(87)【国際公開番号】W WO2021230357
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2020085223
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】杵鞭 義明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 麻哉
(72)【発明者】
【氏名】中山 博行
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 陽香
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-79351(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063478(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/144982(WO,A1)
【文献】特開2021-21128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/14
F28D 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化バナジウムに二酸化バナジウムよりも高い熱伝導率を有する高熱伝導率物質が分散され、前記二酸化バナジウムと前記高熱伝導率物質とが緻密に密着した接合体であり、前記高熱伝導率物質の体積分率が0.03以上であることを特徴とする固体蓄熱材料。
【請求項2】
前記高熱伝導率物質が銅であることを特徴とする請求項1記載の固体蓄熱材料。
【請求項3】
酸素過剰の二酸化バナジウムを原料としていることを特徴とする請求項1または2記載の固体蓄熱材料。
【請求項4】
前記二酸化バナジウムと前記高熱伝導率物質との接合界面に拡散層及び反応相が存在しないことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の固体蓄熱材料。
【請求項5】
酸化腐食に安定であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の固体蓄熱材料。
【請求項6】
前記高熱伝導率物質が伝熱方向に平行に配向していることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の固体蓄熱材料。
【請求項7】
ドーピングにより転移温度を調整された二酸化バナジウムを含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の固体蓄熱材料。
【請求項8】
請求項1-7のいずれかに記載の固体蓄熱材料と、銅とが接合していることを特徴とする複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率を調整した固体蓄熱材料および複合体に関し、より詳しくは、二酸化バナジウムと高熱伝導率物質の接合体からなり、放熱性と蓄熱性を広い範囲で調整可能とする熱伝導率を調整した固体蓄熱材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体に代表される電子機器は、チップ等の小型化に伴う発熱の問題が顕在化している。一般的な対策としては、熱伝導性に優れる部材(ヒートスプレッダー等)をチップ直下に設置し放熱性を改善する方法と、熱容量を増大させ温度上昇を抑制する方法の2つがある。後者の場合、小型化と熱容量の増大を両立させるために、潜熱を利用することが考えられている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
従来の潜熱型の蓄熱材料の多くは、固体から液体への相変化に伴う溶融熱を利用し、蓄熱密度(単位重さや単位体積あたりの潜熱)が重要な特性とされている。一方、熱交換で重要な因子となる熱伝導に関しては、十分な検討はされていない。例えば、代表的な蓄熱材であるパラフィンの熱伝導率は0.2 W/mK程度で、放熱・吸熱を速やかに進行させるには著しく低い値である。したがって、蓄熱材を密閉する容器との接触面積を大きくする構造や、容器に高い熱伝導率の材質を選択する等の熱交換器の設計が本質的に重要となる。すなわち構造が複雑化する傾向にある。
【0004】
最近、固体-固体相転移を利用した固体蓄熱材料が開発されている(特許文献3)。この特許文献3に記載の材料は、電子系の相転移を潜熱の起源とするため、材料の溶融は起こらず相転移前後で形状を維持する。そのため、本材料を潜熱型の蓄熱性能を有する構造材として利用することが可能となる(特許文献4、特許文献5、非特許文献1)。すなわち、熱交換器等の素材としてそのまま利用できる。液漏れへの配慮の必要がなく、カプセリングに伴う熱抵抗の増大もないことなどから、二酸化バナジウムは、溶融型の蓄熱材料の問題を解決できる固体蓄熱材料として注目されている。
【0005】
しかしながら、二酸化バナジウムの熱伝導率は、6 W/mK程度(非特許文献2、非特許文献3)で放熱材料としては不十分であり、過昇温抑止効果が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO 2017/081833公報
【文献】国際公開WO 2017/073010公報
【文献】特許第568825号(特開2009-163510号公報)
【文献】特開2018-128190号公報
【文献】特開2016-79351号公報
【文献】WO2019/026773
【非特許文献】
【0007】
【文献】プレスリリース「高い蓄熱密度と堅牢性を両立させた相変化蓄熱部材を開発」産業技術総合研究所2019/03/01 (https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/ pr2019/pr20190301/pr20190301.html)
【文献】C. N. Berglund and H. J. Guggenhein, "Electric properties of VO2 near the semiconductor-metal transition", Physical Review B 185, 1022-33 (1969).
【文献】S. Lee, K. Hippalgaonkar, F. Yang et al., "Anomalously low electronic thermal conductivity in metallic vanadium dioxide", Science 355, 371-374 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解消し、熱伝導率が大きく、過昇温抑止効果が高く、放熱性と蓄熱性を広い範囲で調整可能とする熱伝導率を調整した固体蓄熱材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記課題を解決するため、以下のような固体蓄熱材料が提供される。
[1]二酸化バナジウムに二酸化バナジウムよりも高い熱伝導率を有する高熱伝導率物質が分散され、前記二酸化バナジウムと前記高熱伝導率物質とが緻密に密着した接合体であり、高熱伝導率物質の体積分率が0.03以上であることを特徴とする固体蓄熱材料。
[2]上記第[1]の発明において、高熱伝導率物質が銅である固体蓄熱材料。
[3]上記第[1]または第[2]の発明において、酸素過剰の二酸化バナジウムを原料とした固体蓄熱材料。
[4]上記第[1]から第[3]のいずれかの発明において、前記二酸化バナジウムと前記高熱伝導率物質との接合界面に拡散層及び反応相が存在しないことを特徴とする固体蓄熱材料。
[5]上記第[1]から第[4]のいずれかの発明において、酸化腐食に安定であることを特徴とする固体蓄熱材料。
[6]上記第[1]から第[5]のいずれかの発明において、高熱伝導率物質が伝熱方向に平行に配向した固体蓄熱材料。
[7]上記第[1]から第[6]のいずれかの発明において、ドーピングにより転移温度を調整された二酸化バナジウムを含む固体蓄熱材料。
[8]上記第[1]から第[7]のいずれかの発明の固体蓄熱材料と銅とが接合していることを特徴とする複合体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導性に優れる物質を二酸化バナジウムと緻密に接合するようにしたので、時間応答に優れた吸熱・発熱特性を示すようになり、潜熱にもとづく高い蓄熱密度を有効に利用することができるようになる。したがって、熱伝導率が大きく、過昇温抑止効果が高く、放熱性と蓄熱性を広い範囲で調整可能とする熱伝導率を調整した固体蓄熱材料が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1の試料における二酸化バナジウム(VO
2)と電解銅粉(Cu)の接合状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例1の試料における二酸化バナジウム/ 銅粉の接合体の熱伝導率(k)の温度依存性を示す図である。ここで、V
Cuは銅の体積分率である。
【
図3】実施例1の試料の潜熱(L)および室温での熱伝導率(k)の銅の体積分率(V
Cu)依存性を示す図である。
【
図4】実施例4の試料における各種基板の上にマウントしたチップ温度の変化(実線)を示す図である。基板温度も合わせて点線で示す。基板は銅(Cu)、銅体積分率0.50二酸化バナジウム体積分率0.50(Cu/VO
2)、二酸化バナジウム(VO
2)の三種である。
【
図5】実施例5の試料における二酸化バナジウム(VO
2)と銅板材(Cu板材)の接合状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図6】比較例2の試料における熱処理なしの二酸化バナジウム(VO
2)と銅板材(Cu板材)の接合状態を示す電子顕微鏡写真である。
【
図7】実施例5の試料のEDX組成マッピングの結果である。
【
図8】比較例2の試料のEDX組成マッピングの結果である。
【
図9】実施例11の複合体の接合界面の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態にもとづき詳細に説明する。
【0013】
熱応答性を向上させるには、素材の熱伝導率を向上させる必要がある。単結晶は、熱振動を散乱する欠陥が少ないことから、その物質の熱伝導率の最大値とみなせる。二酸化バナジウム単結晶の熱伝導率は、室温で6 W/mK程度であることが報告(非特許文献2、非特許文献3)されており、二酸化バナジウムの結晶性の改善や多結晶体の結晶配向制御などでは、この値を超えるような大きな熱伝導率の改善は見込むことができない。従って、熱伝導率を向上させるには、熱伝導性に優れた物質(例えば、銅、アルミニウム、炭素繊維など)を混合し緻密に密着することが有効である。しかしながら、高熱伝導率物質の体積比率の増加により、潜熱量は体積比率に対し線形的に減少するため、多量に混合することには制限がある一方、少量すぎれば、熱応答性向上の効果が見られない。
【0014】
異種材料が混合した場合の熱伝導率は、一方向に高熱伝導物質を配向させた場合に、最も少量の分散量で熱伝導率が最大となる。その熱伝導率kは、材料が二相系の場合は以下のようになる。
【0015】
k = (1 - Vhighk) ×kVO2 + Vhighk ×khighk (1)
ここで、Vhighkは高熱伝導率物質の体積分率、kVO2 は二酸化バナジウムの熱伝導率、khighkは高熱伝導率物質の熱伝導率である。
【0016】
従って、所望の熱伝導率(klimit)以上とするには、高熱伝導率の体積分率を
Vhighk≧ ( klimit- kVO2 ) / (khighk - kVO2 ) (2)
とする必要がある。ヒートシンク等で要求される熱応答性を鑑みれば、熱伝導率は一般的な金属材料の値以上は必要である。すなわち、ステンレス鋼の15 W/mK以上とする必要がある。二酸化バナジウムの熱伝導率が6 W/mKであること、典型的な高熱伝導率物質(銅、銀)の熱伝導率が400 W/mK程度であることから、15 W/mK以上の熱伝導率とするには、高熱伝導率物質の体積分率は0.03以上とすることが必要である。
【0017】
熱伝導率の測定には、定常法と非定常法がある。転移温度近傍の測定は、潜熱の影響があるため定常法が望ましい測定であるが、それ以外では試料の形状等に合わせて適宜選択すればよい。また、潜熱量の測定には、示差走査熱量計が望ましい。
【0018】
一般に酸化物と金属あるいは炭素は濡れ性が悪く、高密度に接合することは難しい。すなわち、材料の選択が必要となる。酸化物と金属の接合は、ろう材を使う間接接合と直接接合を行う場合があるが、後者はより強固な接合が行いやすく、界面熱抵抗が低いため望ましい。
【0019】
直接接合は、焼結と同様の過程で一体化が進行するため、その検討には、個々の材料の焼結温度をもとにして、適切なプロセス温度とすることが重要となる。
【0020】
まず二酸化バナジウムの焼結温度に関しては、550℃-1050℃が適当な範囲である。この温度範囲と高熱伝導率材料の焼結温度が合致すると、広い範囲の体積分率で均一に接合することが可能となる。例えば、銅の焼結温度は、500-800℃の範囲にあり、アルミニウムは500-600℃であり、炭素は二酸化バナジウムの焼結温度範囲では焼結することは困難である。
【0021】
銅の融点が1085℃であることを考慮すれば、そのプロセス窓はおよそ550-1050℃の範囲となり、広い温度範囲でプロセス可能であり、二酸化バナジウムとの組み合わせとして適当である。一方、アルミニウムは、表面に酸化皮膜を形成していることや融点が660℃と低いことを考慮すると、プロセス窓がおよそ550-600℃の範囲と狭い。そのため、良好な接合を得にくい傾向にある。また炭素材料は900℃以上の高温プロセスとなる。さらに炭素の場合は、二酸化バナジウムとの反応が問題となる。
【0022】
接合においては異種材料どうしの界面形成の容易さが重要であり、銅は二酸化バナジウムと良好な界面を形成することからも好適な材料である。特に、二酸化バナジウムと酸素の反応を利用することにより、密着性のよい界面を得ることができるため、二酸化バナジウムの表面を酸素過剰にすることが適当である。
【0023】
酸化物と高熱伝導率材料を混合する方法としては、それぞれの原料を物理的に混合する他にも、酸化物粉末へのメッキやスパッターにより高熱伝導率材料をコーティングすることが例示される。後者は、少量の添加量の場合にも、均一に混合することができるという長所がある。一方、物理的な混合方法の場合は、混合物の体積率を大きくする場合に適した方法である。目的とする混合量・分散の形態に合わせて適宜選択すればよい。
【0024】
高熱伝導率材料の形態に関しては、典型的には粒子状、線状、板状があるが、これらは、伝熱方向に合わせて適宜選択すればよい。すなわち、等方的な放熱・吸熱であれば粒子状とすればよく、放熱・吸熱の伝熱方向が一方向であれば線状または板状の高熱伝導率材料をその方向に平行に配向すれば良い。後者の場合、少量の高熱伝導率材料であっても大きな熱伝導率となり、二酸化バナジウムの体積分率を高濃度に保つことができるので高熱伝導率材料による潜熱の減量を抑えることができる。
【0025】
二酸化バナジウムの相転移温度は、タングステンやクロムなどの原子ドーピングにより調整することが可能である。ドーピングされた二酸化バナジウムの焼結挙動と無添加の二酸化バナジウムのそれは大きく変わるところはなく、同様の条件で焼結することができる。すなわち接合に関しても同様に、上記に述べた形態をそのまま応用すればよい。
【0026】
接合材料の界面は、界面熱抵抗の原因となるため、その制御が重要である。特に界面に反応相が生成した場合は、固溶体効果のため反応相の熱伝導率は低く、従って、界面熱抵抗の増加につながる。そのため、熱抵抗の観点からは、界面に反応相や拡散層が生じないことが望ましい。
【0027】
また、酸化バナジウムは、耐環境性に問題があることが指摘されており(特許文献6)、実際に水和物を形成することから、使用時の雰囲気には注意が必要である。特に酸性の環境では、容易に腐食が進行するため、一般には酸性環境での使用を避けるべきである。しかしながら、電気防食の観点から、二酸化バナジウムよりも仕事関数の小さな金属(銅やアルミニウム)と接合することにより、腐食を防止することができ、耐環境性を大幅に向上させることができる。この際、電気防食であるため、特許文献6にあるように、二酸化バナジウムをすべてコーティングする必要はなく、電気的に導通していればよい。
【0028】
本発明の固体蓄熱材料は、二酸化バナジウムよりも高い熱伝導率を有する高熱伝導率物質が分散され、両者が緻密に密着した接合体であって、高熱電導率物質の体積分率が0.03以上であることを特徴とする。
【0029】
二酸化バナジウムよりも高い熱伝導率を有する高熱伝導率物質としては、銅、銀、アルミニウムやこれらの金属を含む合金、炭素材料などを例示することができ、特に銅が好ましい。
【0030】
本発明の固体蓄熱材料を構成する接合体は、二酸化バナジウムと二酸化バナジウムよりも高い熱伝導率を有する高熱伝導率物質が緻密に密着していることが必要であり、ここで「緻密」とは、理論密度の90%以上、より好ましくは95%以上となるように密着していることをいう。密着性を向上させるためには、例えば予め250℃で20分間、空気中で熱処理を施すことが望ましい。熱処理温度、熱処理時間は、高熱伝導率物質の種類、達成する空隙率等を考慮して適切に設定することができる。
密度の測定は、気孔率を正確に測定するためにアルキメデス法が望ましい。
【0031】
本発明において、熱応答性の向上のため、高熱伝導率物質の体積分率は、下限は0.03(パーセント表記:3%)である。また、高熱伝導率物質の体積分率の増加により潜熱量は線形的に減少するため、その上限は0.75(パーセント表記:75%)程度である。この範囲で用途に合わせて適宜体積分率を決定すればよいが、潜熱量と熱応答性の相反関係のため、潜熱量を優先する場合は0.03-0.40(パーセント表記:3-40%)で調整するとよく、両者を両立させる場合は0.40-0.60(パーセント表記:40-60%)、熱応答を優先させる場合は、0.60-0.75(パーセント表記:60-75%)に調整するとよい。
【0032】
前述したように、接合においては異種材料どうしの界面形成の容易さが重要であることから、二酸化バナジウムと酸素の反応を利用して、密着性の良い界面を得るため、二酸化バナジウムの表面を酸素過剰にすることも好ましい。ここで、酸素過剰とは、VO2+xの表記でx=0.01程度酸素を過剰に含むことをいう。
【0033】
本発明の固体蓄熱材料は、銅板などの高熱伝導材に接合して使用することができる。すなわち、本発明の複合体は、本発明の固体蓄熱材料と銅とが接合していることを特徴としている。接合方法としては、ろう材による接合および拡散接合が適用できるが、界面熱抵抗を低減させるためには拡散接合が望ましい。
【0034】
本発明の固体蓄熱材料および複合体は、以上の実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例および比較例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
銅粉(純度 99.9%、粒子サイズ 45μmメッシュアンダー、電解銅粉)と、二酸化バナジウム粉末(純度99.9%、平均粒子径 1μm)を接合した。二酸化バナジウム粉末は、密着性を向上させるために、予め250℃で20分間空気中で熱処理を行い、酸素過剰に処理した。それぞれの粉末は、銅の体積分率が0.00、0.25、0.50、0.75、1.00となるように秤量し、遊星式攪拌機により混合した。その後、真空中で、通電焼結装置により550℃、30分間、成形圧30MPaで処理し、緻密接合体を得た。すべての試料は、理論密度の95%以上であった。ここで、理論密度は、二酸化バナジウム-銅の場合、反応物がないとして、複合則により、以下のように決定される。
(理論密度)=(二酸化バナジウムの密度)×(二酸化バナジウムの体積分率)+(銅の密度)×(銅の体積分率)
【0037】
図1に、本実施例で作製した試料の研磨面の電子顕微鏡写真を示す。この図から、二酸化バナジウムと銅は空隙なく接合していることがわかった。
【0038】
X線回折測定では、銅と二酸化バナジウムに起因する回折パターンが検出され、それ以外の不純物相の存在は認められなかった。
【0039】
上記で作製した試料の熱伝導率(k)をレーザーフラッシュ法(ネッチLFA447)により測定した。その結果を
図2に示す。
図2から、銅の体積率の増加に伴い、熱伝導率がすべての温度範囲で大幅に向上することがわかった。
【0040】
また、これらの試料の潜熱(L)を示差熱分析(ブルカー DSC3300SA)により測定した。
図3に、潜熱(L)および熱伝導率(k)の銅体積分率依存性を示す。この図から、潜熱(L)は、銅の体積分率(V
Cu)に比例して減少し、一方、熱伝導率(k)は二次関数的に増加することがわかった。
【0041】
〔実施例2〕
アルミニウム粉末(純度99%up、粒子サイズ 300μmメッシュアンダー、アトマイズ粉)と二酸化バナジウム粉末と接合した。二酸化バナジウム粉末は、密着性を向上させるために、実施例1と同様に、予め熱処理を行った。アルミニウムの体積分率は0.50となるように秤量し、遊星式攪拌機により混合した。その後、真空中で、通電焼結装置により、成形圧30MPa、温度600℃、30分間の加熱により処理した。その結果、アルミニウム・二酸化バナジウム接合試料は理論密度に対して93%の緻密な接合体が得られた。その熱伝導率は13 W/mKであり、二酸化バナジウム単体の4 W/mK に比して増加することを確認した。
【0042】
〔実施例3〕
実施例1記載の銅粉と二酸化バナジウム粉末(熱処理あり)および炭素繊維(ピッチ系、チョップドファイバー、長さ6mm)を乳鉢で混錬した。体積分率は、銅0.25 二酸化バナジウム 0.5 炭素繊維 0.25 とした。その後、真空中で、通電焼結装置により、成形圧30MPa、温度700℃、30分間の加熱により処理した。その結果、理論密度に対して96%の緻密な接合体が得られた。その熱伝導率は27 W/mK であり、二酸化バナジウム単体の熱伝導率に比して増加することを確認した。
【0043】
[比較例1]
アルミニウム粉末(純度99%up、粒子サイズ 300μmメッシュアンダー、アトマイズ粉)または炭素繊維(ピッチ系、チョップドファイバー、長さ6mm)を、二酸化バナジウム粉末(純度 99.9%、平均粒子径 1μm)と接合した。二酸化バナジウム粉末は、密着性を向上させるために、実施例1と同様に、予め熱処理を行った。アルミニウムおよび炭素繊維の体積分率は、0.50となるように秤量し、遊星式攪拌機により混合した。なお炭素繊維は、予めエタノール中で超音波により分散させたものを用いた。その後、真空中で、通電焼結装置により、成形圧30MPaで処理した。アルミニウムは550℃、30分間の加熱、炭素繊維は950℃、30分間の加熱とした。その結果、アルミニウム・二酸化バナジウム接合試料は理論密度の87%、炭素繊維・二酸化バナジウム接合試料は理論密度の75%となり、緻密な接合体は得られなかった。また、炭素繊維・二酸化バナジウム接合試料では、両材料の化学反応が進行しV2O3が生成された。
【0044】
[実施例4]
チップの加熱における、基板材質の影響を調査した。基板の組成は、1)銅体積分率1.00(以降、銅基板)、2)銅体積分率0.50二酸化バナジウム体積分率0.50(以降、銅/二酸化バナジウム基板)、3)二酸化バナジウム体積分率1.00(以降、二酸化バナジウム基板)の3種類とした。基板の材料調整は、実施例1に同じである。それぞれを、30×30×5mmの板材に機械加工し、基板として用いた。
【0045】
試験は、基板の中央に10×10×1mmのセラミックスマイクロヒーターを、ダイボンダー用銀ペーストで接着し、ヒーター出力により、チップの発熱を模擬した。チップ(すなわちヒーター)の表面温度と基板の表面温度(チップより5mm離れた箇所を測温)を、サーモカメラにより測定した。加熱条件は、ヒーター出力9W、180秒間とした。
【0046】
図4に結果を示す。それぞれの基板上のチップ温度を実線で、基板温度を破線で示してある。銅基板にマウントしたチップは、加熱時間の経過につれ徐々に温度上昇しているが、二酸化バナジウム基板にマウントしたチップは、加熱初期の急激な温度上昇が継続し、銅基板に比べて高温に達してしまう。これは、二酸化バナジウム基板の熱伝導率が低いために、基板が均一に加熱されずチップマウント箇所周辺のみ加熱されてしまうためである。そのため、基板の温度は転移温度以下に抑制されているものの、チップの温度上昇抑制には基板潜熱の効果が発揮されない。一方、熱伝導率を向上させた銅/二酸化バナジウム基板は板材が転移温度に達するのに合わせて、チップの温度上昇も抑制され、銅板よりも温度上昇を抑制することができる。
【0047】
[実施例5]
厚さ0.1mmの銅板材(純度99.96%)を二酸化バナジウム粉末と積層し、真空中で、通電焼結装置により550℃、30分間、成形圧30MPaで処理した。二酸化バナジウム粉末は、実施例1と同様に予め熱処理を行った。
【0048】
実施例5の試料の接合界面の電子顕微鏡写真を
図5に示す。この図から、銅板材と二酸化バナジウムは、空隙なく接合していることがわかる。
【0049】
実施例5の試料の接合体に、金属絶縁体転移温度をまたぐ熱サイクル試験を行った。温度プロファイルは、45℃から90℃を5℃/mimで加熱・冷却を繰り返した。100サイクルの試験で剥離することはなかった。
【0050】
[実施例6]
実施例5の試料の界面を電子顕微鏡写真(STEM)及びエネルギー分散型蛍光エックス線分析装置(EDX)により分析した。
図7にEDXの組成マッピングを示す。
図7より、界面近傍に拡散層や反応相は観察されず、清浄な界面を形成していることが判明した。
【0051】
[比較例2]
厚さ0.1mmの銅板材(純度99.96%)を二酸化バナジウム粉末と積層し、真空中で、通電焼結装置により550℃、30分間、成形圧30MPaで処理した。二酸化バナジウム粉末は、熱処理を未処理とした。比較例2の試料のその接合界面の電子顕微鏡写真を
図6に示す。
図6から、銅板材と二酸化バナジウムは、密着性が悪く、空隙が多く存在していることがわかる。
【0052】
[比較例3]
比較例2の試料の界面を電子顕微鏡写真(STEM)及びエネルギー分散型蛍光エックス線分析装置(EDX)により分析した。
図8にEDXの組成マッピングを示す。その結果、
図8に示すように、界面にCu
2O相が存在し、また界面近傍のVO
2の粒界近傍にはアモルファス上のCu-V-O拡散層が明瞭に観察された。これら反応相の形成が、緻密な界面の形成を阻害しているものと考えられる。
【0053】
[実施例7]
厚さ0.1mmの銅板材と二酸化バナジウムを等間隔で複数積層し、実施例4と同様の条件で積層体を作製した。銅の体積分率は0.29であった。実施例6の積層体の伝熱方向を銅板の面方向として(銅を垂直配向)熱伝導率を測定した。結果を表1に示す。比較のため実施例1のデータも合わせて示す。表1から、銅含有量が同じ体積率であっても、熱伝導率が大幅に向上することがわかる。なお実施例1のとおり、潜熱量は二酸化バナジウムの体積分率により決まる。従って、潜熱量を維持したまま熱伝導率を増加させるには、銅の配向が効果的であることがわかる。
【0054】
【0055】
本積層体に、金属絶縁体転移温度をまたぐ熱サイクル試験を行った。45℃から90℃を10℃/mimで加熱・冷却を繰り返した。100サイクルの試験で剥離することはなかった。また、熱サイクル試験後の熱伝導率に劣化は見られなかった。(表1)
【0056】
[実施例8]
銅粉(純度99.9%、粒子サイズ 45μmメッシュアンダー、電解銅粉)と、タングステン添加二酸化バナジウム粉末(相転移温度10℃、平均粒子径 1μm)を接合した。タングステン添加二酸化バナジウム粉末は、密着性を向上させるために、予め250℃で20分間、空気中で熱処理を行い、酸素過剰に処理した。それぞれの粉末は、銅の体積分率が0.50となるように秤量し、乳鉢により混合した。その後、真空中で、通電焼結装置により550℃、30分間、成形圧30MPaで処理した。作製した試料は、理論密度96%の緻密な接合体であった。
【0057】
〔実施例9〕
実施例1に記載の銅粉と、クロム添加二酸化バナジウム粉末(相転移温度120℃、平均粒子径 1μm)を接合した。クロム添加二酸化バナジウム粉末は、密着性を向上させるために、予め熱処理を行い、酸素過剰に処理した。それぞれの粉末は、銅の体積分率が0.50となるように秤量し、乳鉢により混合した。その後、真空中で、通電焼結装置により700℃、30分間、成形圧30MPaで処理した。作製した試料は、理論密度97%の緻密な接合体であった。その熱伝導率は31 W/mK であり、二酸化バナジウム単体の熱伝導率に比して増加することを確認した。
【0058】
[実施例10]
実施例1の条件で作成した二酸化バナジウムと銅の接合体(銅体積分率0.50)を、2mol/Lの希硫酸中に24h浸漬した。その結果、試料は浸漬前の形状を維持していた。また、希硫酸が着色することはなかった。
【0059】
[比較例4]
実施例1の条件で作製した二酸化バナジウム(銅体積分率0.00)を、2mol/Lの希硫酸中に24h浸漬した。その結果、試料は完全に希硫酸に溶解し、希硫酸が青色に変色した。
【0060】
[実施例11]
実施例1の条件にて、二酸化バナジウム粉と銅粉(体積分率0.50)の緻密焼結体(固体蓄熱材料)を予め作製し、板状に加工した。この緻密焼結体を銅板(純度99.96% 厚さ1mm)と重ね、圧力30 MPa を掛けたのち600℃に加熱し30min保持した。このときの雰囲気は真空とした。得られた焼結体と銅板の接合体を、界面に垂直にカッターで切断し、切断面を研磨後イオンミリングで加工、接合界面を走査電子顕微鏡にて観察した。
図9に示したように、密着した界面が形成されており、拡散接合により、焼結体と銅板材の良好な複合体が得られることを確認した。