(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-13
(45)【発行日】2023-10-23
(54)【発明の名称】X線CT装置の評価用器具
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20231016BHJP
G01N 23/083 20180101ALI20231016BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20231016BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/083
G01T7/00 C
(21)【出願番号】P 2022536147
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2021018077
(87)【国際公開番号】W WO2022014132
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2020122685
(32)【優先日】2020-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】高辻 利之
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真莉
(72)【発明者】
【氏名】寺田 聡一
(72)【発明者】
【氏名】渡部 司
【審査官】小野 健二
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-538552(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0094771(US,A1)
【文献】国際公開第2018/193800(WO,A1)
【文献】特開2018-179983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/2276
G01T 1/00-1/16
A61B 6/00-6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも隣接する2つの側面が平面である外形を有する第1の状態と円柱状の第2の状態とを実現可能である、X線CT装置の評価用器具であって、
内部に複数の球を含み、
前記第1の状態で、前記複数の球が、前記2つの側面の各々から、互いに重なることなく光学的に観測可能であり、且つ、
前記第2の状態で、円柱の長軸を中心として回転させた場合、いずれの回転角度においても、前記円柱に対して所定位置のX線源から放出されるいずれのX線も、2以上の球を通過することなく前記円柱を通過するように、
前記複数の球が配置されている
X線CT装置の評価用器具。
【請求項2】
前記複数の球を含む、円柱状の第1の器具と、
前記第1の器具を収容可能な収容部を有し、少なくとも隣接する2つの側面が平面である第2の器具と、
を有する請求項1記載のX線CT装置の評価用器具。
【請求項3】
前記第2の器具の前記少なくとも隣接する2つの側面に、透明な平板が付加されている
請求項2記載のX線CT装置の評価用器具。
【請求項4】
前記複数の球を含み、少なくとも隣接する2つの側面が平面である第1の器具と、
前記第1の器具の前記少なくとも隣接する2つの側面に貼り付けることで前記第1の器具の外形を円柱状にする第2の器具と、
を有する請求項1記載のX線CT装置の評価用器具。
【請求項5】
前記少なくとも隣接する2つの側面に透明な平板が付加されている
請求項4記載のX線CT装置の評価用器具。
【請求項6】
前記複数の球の少なくともいずれかが支柱に支持されている場合、前記2つの側面の各々からも、さらに前記複数の球のいずれもが前記支柱に遮ることなく光学的に観測可能であるように、前記複数の球が配置されている
請求項1乃至5のいずれか1つ記載のX線CT装置の評価用器具。
【請求項7】
前記支柱が、前記評価用器具において前記複数の球以外の部分のX線透過率と同じX線透過率を有する請求項6記載のX線CT装置の評価用器具。
【請求項8】
前記第2の状態で、前記円柱の長軸に直交する平面であって当該円柱の上半分又は下半分の領域に含まれる平面に前記複数の球のうちの2以上の球が配置され、前記複数の球のうち前記2以上の球以外の球を、前記円柱内において前記領域外の領域に配置する
請求項1記載のX線CT装置の評価用器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CTの評価用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用として開発されたX線CT(Computed Tomography)装置は、近年工業製品の計測用途、つまり寸法や形状の計測に使用されている。工業製品の形状測定には従来接触式の三次元測定機(CMM:Coordinate Measuring Machine)が用いられており、その精度評価法としてISO 10360-2規格が使われている。X線CTについても、精度評価法規格の制定の要求がありISO 10360-11として発行すべく審議が進んでいる。
【0003】
ここでX線CTの測定原理について
図1を用いて簡単に説明する。三次元形状測定用のX線CT装置は、X線照射部11と、X線検出器12と、回転ステージ13とを備える。このX線CT装置は、対向配置されたX線照射部11とX線検出器12との間に配設された回転ステージ13上に測定対象物(ワークとも呼ぶ)を設置して、非破壊による内部の観測や三次元形状測定を行うものである。
【0004】
X線照射部11は、内部にX線源としてのX線管を備え、高電圧発生装置15から供給される管電圧、管電流に応じたX線をX線管から発生させる。この高電圧発生装置15はX線制御部16によって制御され、X線制御部16はX線CT装置全体の制御を行う制御用ソフトウェアがインストールされたPC(Personal Computer)に接続されている。X線検出器12は、イメージインテンシファイアにCCD(Charge Coupled Device)カメラを組み合わせたもの、もしくは、FPD(Flat Panel Detector)であり、CT画像再構成演算装置18を介してPCに接続される。なお、X線検出器12は、透視撮影領域の拡大縮小のために回転ステージ13に対して離接可能に構成される。また、回転ステージ13もX線照射部11に対して離接可能である。
【0005】
回転ステージ13は、X線照射部11からX線検出器12を結ぶX線光軸Lに沿ったX軸に直交するZ軸を回転軸Rとして回転するとともに、ステージ駆動機構14により、XY平面の水平方向とZ方向の上下方向への移動が可能となっている。そして、ステージ駆動機構14は、ステージ制御部17を介してPCに接続されて、制御される。
【0006】
X線CT撮影に際しては、回転ステージ13に設置した被検査物に、X線照射部11からX線を照射しつつ回転ステージ13に回転軸Rを中心として回転を与える。そして、被検査物の周囲の360度にわたる全方向から透過したX線をX線検出器12により検出し、そのX線透過データをCT画像再構成演算装置18に取り込む。
【0007】
CT画像再構成演算装置18では、取り込んだ360度分のX線透過データを用いて、X-Y平面に沿った面でスライスした被検査物の三次元の再構成像(CT画像)が構築される。CT画像は、CT画像再構成演算装置18からPCに送信され、PCにインストールされた三次元画像構築プログラムによる三次元画像化に利用される。
【0008】
PCには、液晶ディスプレイ等の表示装置23、および、キーボード22aとマウス22bを含む入力装置22が接続されている。なお、キーボード22aやマウス22bは、種々の操作において、オペレータによる入力を行うものである。表示装置23は、CT画像再構成演算装置18からPCに送信されたCT画像を表示するとともに、CT画像を利用して構築された三次元画像を表示する。また、PCは測定対象物の寸法や形状の計測も行う。なお、CT画像再構成演算装置18の機能は、PCと一体化されて、コンピュータの周辺装置やソフトウェアとして一つのコンピュータで実現してもよい。
【0009】
このようなX線CT装置を用いれば、測定対象物の透過像を得ることができるようになるが、測定対象物の厚さが厚かったり、密度が高かったりすると、透過できるX線の量が少なくなり、透過像としては暗く観察される。
【0010】
また、X線検出器12としては、上で述べたように二次元の検出器(エリア検出器)を用いる場合(
図2A:コーンビームCT)と、一次元の検出器(ライン検出器)を用いる場合(
図2B:ファンビームCT)とがある。ライン検出器を用いる場合には、得られる再構成像は一次元の断面のみであるため、三次元の再構成像を得るためには一回転毎に測定対象物を上又は下に少しずつ動かすことになる。一方、エリア検出器を使う場合には、測定対象物一回転で三次元の再構成像が生成できるが、得られる再構成像の品質は一次元の検出器を使った方が優れている。
【0011】
X線CT装置は、CMMとは異なり、測定対象物の内部まで測定が可能であるが、そのためX線CTの精度評価法として考慮すべき点が2つある。第1は、X線CT装置の移動機構や部品のアライメントが正しくなされているかであり、この要因による誤差があると寸法が正しく測れなかったり、測定対象物全体が歪んで観察されたりする。第2は、測定対象物をX線が通過するときにX線の減衰に非線形な効果が起こることであり、この要因があると測定対象物に局所的な凹凸があたかも存在するように計測されてしまう。審議中の規格ではあるがISO/2CD 10360-11では、第1の考慮点についてはEテスト、第2の考慮点についてはPテストを行うようになっており、両者はできる限り独立に評価することが望ましい。すなわち、Eテストを行う際には、測定対象物の材質の影響を避けるため、X線ができる限り測定対象以外の物を通過しないことが好ましい。
【0012】
X線CTの機械的な誤差を評価するEテストでは、空間中に多数の球や円筒を配置し、それらの間の距離を計測することで精度を評価する。球間距離は予めCMMなどの高精度な計測器で校正されており、その校正結果とX線CTの測定結果を比較することにより精度を評価する。
【0013】
なお、本願では、X線CTの精度評価用のゲージ(評価用器具)に正確な値を付けることを「校正」と呼ぶものとする。一方、校正された評価器を使ってX線CT装置の誤差を評価したり、性能を確認したりすることを「試験」あるいは「テスト」と呼ぶものとする。
図3に模式的に示すように、高精度なX線CT装置を試験するために使用する評価用器具Aは、従来技術では高精度なCMMで校正される。一方、それほど高精度ではない普及型のX線CT装置用の評価用器具Bは、CMM又は高精度なX線CT装置を使って校正される。
【0014】
Eテストに用いられる評価用器具として、球を空間上に配置したフォレストと呼ばれるもの(
図4)や、板に多数の穴を空けたホールプレートなどがある。ホールプレートはX線が材質を多く通過するので、その点においてはEテストの評価器としては適していないが、別の利点もあることから利用されている。
【0015】
ここでは、フォレストについて若干説明する。X線CT装置は、使用するX線源のエネルギーによって透過できる材質や厚さが制限されるので、一般的に広く用いられている225kV程度の中エネルギーX線では鉄の測定は難しく、測定対象物の多くはアルミニウムである。フォレストには、ベース、シャフト、及び測定対象である球が含まれる。ベースの材質としては、低膨張の金属やセラミックが使われることが多い。測定対象である球には、中エネルギーX線CT装置の評価用器具の場合、アルミニウムあるいはX線透過率がそれに近い材質(例えばルビーやセラミック)が使われる。
【0016】
図4から分かるように、真ん中の一番高い球を除いて測定中に球を透過するX線は必然的にシャフトも透過する。Eテストの目的を考えた場合、シャフトにはできるだけX線が容易に透過する、例えば樹脂などが適している。しかしながら、そのような材質は機械的強度に欠けるため、やむを得ずセラミックや炭素繊維が用いられている。従って、球の材質とシャフトの材質のX線透過率がほぼ同じとなる。結果として、材料の影響を排除したいEテストの結果が影響を受けることになり、少しでも小さい測定誤差を表記したいX線CT装置のメーカとしては、好ましくない。
【0017】
なお、フォレストではない評価用器具としては、円柱状の樹脂に測定対象である複数の球を埋め込んだもの、円柱状の樹脂の側面に測定対象の複数の球が半分だけ埋め込まれたものなどが存在している。円柱状の樹脂の側面に複数の球が半分だけ埋め込まれた評価用器具であればCMMによって球の位置を測定できるので校正が可能となるが、球は側面上でないと配置できず、円柱の内部の評価はできない。一方、円柱状の樹脂に測定対象である複数の球を埋め込んだ評価用器具の場合、CMMでは球の位置を測定できず校正が不可能であり、そのために別の手法を導入しなければならない。一方、球の配置には自由度がある。
【0018】
これまでの技術では、工業用のX線CT装置のための評価用器具が備えるべき要件の整理ができておらず、高精度なX線CT装置に好ましい評価用器具が示されていない。また、普及型のX線CTでも同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】国際公開2018/193800号公報
【文献】特開2012-189517号公報
【文献】特開2014-190933号公報
【文献】特開2018-179983号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】相澤淳平、「X線XT装置による寸法測定の誤差評価」,長野県工技センター研報、No.7, p.M39-M41(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、本発明の目的は、一側面として、校正及び試験に適した、X線CT装置の新たな評価用器具を提供することである。
【0022】
また、本発明の別の目的は、一側面として、試験に適した、X線CT装置の新たな評価用器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の第1の態様に係るX線CT装置の評価用器具は、少なくとも隣接する2つの側面が平面である外形を有する第1の状態と円柱状の第2の状態とを実現可能である、X線CT装置の評価用器具であって、内部に複数の球を含む。そして、第1の状態で、複数の球が、2つの側面の各々から、互いに重なることなく光学的に観測可能であり、且つ、第2の状態で、円柱の長軸を中心として回転させた場合、いずれの回転角度においても、円柱に対して所定位置のX線源から放出されるいずれのX線も、2以上の球を通過することなく円柱を通過するように、複数の球が配置されているものである。
【0024】
本発明の第2の態様に係るX線CT装置の評価用器具は、X線CT装置の円柱状の評価器具であって、内部に複数の球を含む。そして、円柱の長軸を中心として回転させた場合、いずれの回転角度においても、円柱に対して所定位置のX線源から放出されるいずれのX線も、2以上の球を通過することなく評価用器具を通過するように、複数の球が配置されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、X線CT装置の概要を示すための図である。
【
図2A】
図2Aは、X線CT装置の概要を示すための図である。
【
図2B】
図2Bは、X線CT装置の概要を示すための図である。
【
図3】
図3は、本願における校正と試験について説明するための図である。
【
図4】
図4は、フォレストという評価用器具の斜視図である。
【
図5】
図5は、第1の実施の形態における第1の器具の斜視図である。
【
図6】
図6は、第1の実施の形態における第2の器具の斜視図である。
【
図7A】
図7Aは、第1の実施の形態における校正時の用い方を説明するための図である。
【
図7B】
図7Bは、第1の実施の形態における校正時の用い方を説明するための図である。
【
図8】
図8は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図9】
図9は、1番目の球の配置について説明するための図である。
【
図10】
図10は、1番目の球の配置について説明するための図である。
【
図11】
図11は、2番目の球の配置について説明するための図である。
【
図12】
図12は、2番目の球の配置について説明するための図である。
【
図13】
図13は、2番目の球の配置について説明するための図である。
【
図14】
図14は、3番目の球の配置について説明するための図である。
【
図15】
図15は、3番目の球の配置について説明するための図である。
【
図16】
図16は、3番目の球の配置について説明するための図である。
【
図17】
図17は、4番目の球の配置について説明するための図である。
【
図18】
図18は、4番目の球の配置について説明するための図である。
【
図19】
図19は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図20】
図20は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図21】
図21は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図22】
図22は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図23】
図23は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図24】
図24は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図25】
図25は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図26】
図26は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図27】
図27は、複数の球の配置について説明するための図である。
【
図28】
図28(a)乃至(c)は、2方向から他の球に遮られることなく各球を観測可能であるという条件を満たす場合について説明するための図である。
【
図30】
図30(a)乃至(c)は、第2の実施の形態における評価用器具を説明するための斜視図である。
【
図31】
図31(a)乃至(c)は、第2の実施の形態のおける他の評価用器具を説明するための斜視図である。
【
図32】
図32(a)乃至(c)は、実施の形態1に係る第1の器具の製造方法を説明するための図である。
【
図33】
図33(a)乃至(c)は、実施の形態1に係る第1の器具の他の製造方法を説明するための図である。
【
図34】
図34は、支柱を使用する場合の問題点を説明するための図である。
【
図35】
図35は、支柱を使用する場合の問題点を説明するための図である。
【
図36】
図36は、支柱を使用する場合の問題点を説明するための図である。
【
図37】
図37は、その他の実施の形態を説明するための図である。
【
図38】
図38は、その他の実施の形態を説明するための図である。
【
図39】
図39は、その他の実施の形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[本発明の実施の形態に係る基本的な考え方]
ここでは、評価用器具Aのように、校正及び試験(特にEテスト)に用いることができる評価用器具の好ましい条件について整理する。
【0027】
1.評価用器具の内部に、当該評価用器具のX線透過率とは異なるX線透過率の複数個の球を埋め込んだもの
フォレストのようなシャフトで球を支持するような態様ではシャフトの影響が出てしまうので、複数の球が何の支えもなく浮いていることが好ましい。これを実現するためには、条件1が考えられる。
【0028】
また、X線CTで感度を持つのは、材質のX線透過率である。例えば、ルビーの球と空気ではX線透過率が大きく異なるため、球を球として捉えることができる。一方、樹脂に球が封入されている場合、すなわち球の外装体として樹脂が用いられる場合、空気中に浮いているのと比べてX線透過率の差は小さくなるが、ルビーの球と樹脂のX線透過率はかなり異なるため、球を正しく捉えることが可能である。ここで球及び外装体の材質としては、球とその外装体のX線透過率が異なっていればよく、相対的に球のX線透過率が高いものでも低いものでもよい。
【0029】
2.球の外装体の形状が円柱状であること
試験を行う際には、X線CTでは評価用器具を一回転させて測定する。何らかの材質からなる円柱を、その長軸を中心として回転させると、一周する間に透過像は全く変化しない。上でも述べたように、測定したいもの以外のものをX線が通過しないのが望ましいが、円柱に関してはX線が通過するものの通過長さが変化しないので外装体はないのと同じである。よって、この条件2が考えられる。
【0030】
3.X線CT装置の試料台に載せて回転させた場合に、いずれの回転角度においても、所定の位置のX線源から放出されるいずれのX線も、2以上の球を通過することなく円柱を通過すること
試験を行うために評価用器具を回転させてX線で測定する時に、ある球を透過したX線が他の球も透過することになると、結果として透過率が変化するため、好ましくない透過像を検出器で得ることになってしまう。すなわち、球を透過したX線が外装体以外の別の材質を透過する事態は避けることが好ましい。別の材質には別の球も含まれる。
【0031】
4.光学的に校正が可能であること
球の外装体が透明で円柱状である場合、
図5に示すように、外部から光学的に観測すると、球が歪んだように見える。これは円柱の表面で光線が屈折するためであり、中に入っている球が真球であってもこのように見えてしまう。外装体内部に球を埋め込む場合、CMMでは球の位置の校正は困難であり、光学的に校正することになるが、円柱状のままでは無理である。
【0032】
球が歪んだまま観測されないようにするためには側面を平面とすることが好ましいが、X線での測定時には円柱であることが好ましいので、条件3及び4を満たすためには特別な構成を採用することになる。この点については、具体的な実施の形態で説明する。
【0033】
5.異なる2方向のいずれの方向からでも、複数の球のいずれもが互いに重なることなく光学的に観測可能であること
歪みがなく観測できたとしても、重なってしまうと観測できず、観測できなければ校正できなくなるためである。なお、2方向は、直交していなくても良いが、それらの角度は既知であるものとする。
【0034】
以下では、このような条件を満たすような具体的な構成を有する評価用器具について詳細に説明する。
【0035】
[実施の形態1]
本実施の形態における評価用器具は、
図5に示したような円柱状の第1の器具と、
図6に示したような第2の器具とを含む。第1の器具は、X線CT装置での試験に用いられ、内部の複数の球の配置については、以下に述べる。一方、第2の器具は、
図6の例ではほぼ直方体で、第1の器具を上面から収容可能な穴を有している。但し、少なくとも2側面が平面であればよく必ずしも直方体でなくても良い。また、第2の器具は、第1の器具と同一の屈折率を有する素材(例えば樹脂)であることが好ましい。
【0036】
第2の器具は、
図7Aに示すように、その穴に第1の器具を収納して、少なくとも2つの側面から、球が歪まない状態で光学的に観測できるようにするための器具である。
図7Aでも球は歪んで見えていない。このため、第1の器具と第2の器具とは、光学的に一体となることが好ましい。また、円柱状の第1の器具が、第2の器具の穴の中で動くことは好ましくない。そのため、第2の器具の穴の内側面と、第1の器具の外側面とが接するような形態であってもよい。また、例えば取り扱いを容易にするため、第2の器具の穴の内側面と、第1の器具の外側面とに隙間を設ける場合には、
図7Bに示すように、マーカ(
図7Bでは黒三角形)などで位置合わせを行い、隙間に第1及び第2の器具と同じ屈折率のマッチングオイルを注入することで、第1の器具及び第2の器具の光学的な一体化を図ることが好ましい。
【0037】
次に、条件3及び5を満たすための具体的な球の具体的配置について
図8乃至
図18を用いて説明する。
【0038】
図8は、円柱状の第1の器具の中心軸(円柱の長軸。ここではZ軸とする)上に球を配置した状態を示したものである。球によって作られるX線の影のいずれにも、他の球は配置されていない。また、いずれの回転角においても重ならずに光学的に観測可能である。しかしながら、X線CT装置の評価用器具として、測定領域内において球を可能な限り三次元的に分散配置したいという別の要求があり、
図8に示す球の配置はX線CT装置の評価用器具としてはあまり適切ではない。
【0039】
また、少なくとも2個の球があれば、その間隔を測定して校正値と比較することにより上記Eテストを実施可能であるが、X線CT装置の三次元的な計測性能をより詳細に調べるためには2個では不十分である。例として、審議中の規格ではあるがISO/2CD 10360-11では、少なくとも8個とされている。
【0040】
そこで、8個の球を一個ずつ順に配置する場合の手順について説明する。円柱形の第1の器具の上下半分のそれぞれに4個配置すると仮定して、ここでは上半分の配置についてのみ説明する。
【0041】
図9に示すように、1番目の球を、上下の中間面101の直上、且つZ軸上に配置する。2番目、3番目、4番目の球は、点線で示したXY平面内で120度位相がずれたところに設置するものとする。
【0042】
図9の状態を横から見た図が
図10である。
図10において、球に接するX線は実線で示されている。球より右側にはX線による影ができる。この影の領域に2番目以降の球を配置できない。この球はZ軸上に配置されているので、評価用器具を回転させたとき、同じ形状の影が360度にわたってできる。従って、
図10において、X線が円柱状の第1の器具から出射する高さである点線より下の領域には、2番目以降の球を設置できない。厳密には影がつくる軌跡は、高さの低い円柱形ではなく、上面の中央がへこんだような形状であり、へこんだ箇所には2番目以降の球を設置することは可能であるが、ここでは簡略化するため影の領域は円柱形であるものとする。
【0043】
2番目の球は、1番目の球が作る影の領域の直上に設置する。
図11に、2番目の球を配置した状態の側面図を示し、
図12に斜視図を示す。2番目の球は、1番目の球による影の領域102の上面103に載っている。2番目の球はZ軸から離れた位置に配置する。離す距離も任意ではあるが、より広い測定領域を試験するという趣旨からすると、できるだけ離すことが望ましいことになる。配置位置のZ軸に対する方位角は任意であるが、例えば以下の説明のため2番目の球を配置した方位を0°とする。また、この方位をX軸方向とする。
【0044】
図13に、2番目の球によるX線の影の領域を示す。評価用器具が回転すると影の大きさは変化するが、最大の影ができるのは球がX線源に最も近づいたときであるので、
図13の状態で影が最大の状態となる。すなわち、点線以下の領域内には3番目以降の球を配置できない。
【0045】
図14は、X線による1番目及び2番目の球の影の領域104を示しており、この領域104の上面105に3番目の球を配置する。また、
図15に示すように、XY平面内で、2番目の球から120度ずれた位置に配置する。なお、Z軸からの距離は、ここでは2番目の球のZ軸からの距離と同じとする。
【0046】
図16に、3番目の球によるX線の影の領域を示す。第1の器具が回転すると影の大きさは変化するが、最大の影ができるのは球がX線源に最も近づいたときであるので、
図16の状態で影が最大の状態となる。すなわち、点線以下の領域内には4番目の球を配置できない。
【0047】
図17は、X線による1番目乃至3番目の球の影の領域106を示しており、この領域106の上面107に4番目の球を配置する。また、
図18に示すように、XY平面内で、3番目の球から120度ずれた位置に配置する。なお、Z軸からの距離は、ここでは2番目の球のZ軸からの距離と同じとする。
【0048】
図18からも分かるように、円柱状の第1の器具内において、4つの球は三次元的に分散配置されていることが分かる。また、
図18のような配置であれば、Z軸を回転軸として回転させたとしても、全ての球のZ座標値が異なっているので、いずれの回転角度でも全ての球を光学的に観測することができる。すなわち、条件3及び5は満たされている。
【0049】
また、
図9乃至
図18で示した手順からすれば、円柱の中央部分から順に、円柱の側面ぎりぎり且つX線源側に球を配置した場合に生ずる影の第1の領域、影の第1の領域の上(又は下)であって円柱の側面ぎりぎり且つX線源側に球を配置した場合に生ずる影の第2の領域、影の第3の領域の上(又は下)であって円柱の側面ぎりぎり且つX線源側に球を配置した場合に生ずる影の第4の領域、といったように影の領域を作成すれば、影の領域毎に球配置面におけるXY平面内ではどの位置にも球を配置することが可能である。分散配置ということであれば、Z軸からの距離をランダムに変化させてもよい。
【0050】
なお、一般的に、球の可能な配置位置は、評価用器具の大きさ、球の大きさ、X線源と評価用器具の距離によって制限される。評価用器具の設計に当たっては、X線源と評価用器具の距離を予め決めなければならない。また配置可能な球の数も制限を受ける。例えば評価用器具のサイズが決まっていて、多くの球を配置したい場合には、小さい球を使わざるを得ない。
【0051】
少しでも大きな球、あるいは少しでも多くの球を配置したい場合、評価用器具の大きさと、評価用器具とX線源との距離とを考慮すると、配置に関する自由度が増す。上の例では、X線による球の影の領域を円柱形に近似していたが、実際はもっと複雑な形状であるので、それを利用してもよい。以下、影の領域について具体的に説明する。
【0052】
まず、
図19に示すように、円柱状の第1の器具に球が2つだけ封入された場合を考える。球のZ座標値は同じである。すなわち、円柱の長軸に直交する平面であって当該円柱の上面に近い平面に2つの球が配置されている。但し、球の数「2」は一例である。
図20は、
図19の上面図であり、X線がこの図に示すような方向から照射された場合、それぞれの球の影にもう一方の球が入ることはない。一方、第1の器具を90度回転させた
図21の場合、左側の球によってできたX線の影に右の球が入るため、この2つの球の配置は好ましくないように見える。しかしながら、
図22に示すように、X線源と検出器を結ぶ線から離れた位置に球を配置した場合、評価用器具の大きさ、球の大きさ、そしてX線源と評価用器具との位置関係によっては、Z軸上の同じ高さに2つの球を配置しても、一方の球の影に他方の球が入ることはないということがあり得る。なお、これらの2つの球以外の球については、例えば円柱の下半分の領域に例えば上記方法で配置すれば良い。
【0053】
この状況を模式的に示したものが
図23であり、斜線部はX線による球の影を示している。X線CT装置のステージ上で第1の器具を回転させた場合、影は三次元的な軌跡を描くが、図が非常に複雑になるため、ここでは横方向から観測した場合を示している。1番目の球を配置し、次に2番目の球の配置を考える場合、この影以外の領域に2番目の球を配置する。また、2番目の球によってできる影の中に1番目の球が入ってもいけない。但し、影同士は重なってもよい。
【0054】
この状態を二次元的に示したものが
図24である。このように球を配置する度にそれによって作られる影を描き、その次の球は既に設置された全ての球によって作られる影のいずれにも触れない位置に設置することを繰り返すことにより、条件3を満たすことができるようになり、より多くの球を配置することが可能である。なお、条件5を満たすか否かは別である。
【0055】
なお、
図24では平面で説明したが、実際には三次元で検討する。1つの球が作る影の三次元的な軌跡がどのようなものかを
図25乃至
図27を用いて説明する。
図25に示すように、円柱に球が1つだけ封入され、回転ステージがある回転位相にある場合を考える。左下方からのX線は、球の右上に向かって影を作る。この影の中に別の球が入ってはいけない。回転位相が変わったときの様子を
図26に示す。但し、三次元での位置関係の把握を容易にするため、
図26では回転位相はそのままで、X線の照射方向を変えて描いている。右下から来たX線は、球の左上方に影を作る。
【0056】
第1の器具を一回転させると、影も一回転し、その軌跡は傘を逆さまにしたような形状になる。この軌跡の中に別の球が入ってはいけない。言い換えると、二つ目の球は、
図27に示すように、この軌跡を除いた部分のどこに配置しても良い。但し、条件5を満たすか否かは別である。
【0057】
条件3については、上で述べたようにX線源と第1の器具との位置関係、第1の器具の大きさ、球の大きさといった要因を考慮して球の実際の配置を決定することになる。一方、条件5のみを考慮するのであれば、例えば、配置する球の個数よりも多いマス目で、観測する各面を分割し、それぞれのマス目に2以上の球が入らないように球を配置する。
図28(a)に示すように、球が3つの例を考えて、第1の方向と、当該第1の方向と直交する第2の方向の2方向から円柱の側面を観測するものとする。第1の方向から見た場合、
図28(b)に示すように、4つのマス目のうち3つにそれぞれ1つの球が入るように配置されている。また、第2の方向から見た場合、
図28(c)に示すように、4つのマス目のうち3つにそれぞれ1つの球が入るように配置されている。このような場合には、条件5を満たしている。このようなマス目を用いる方法は一例に過ぎないが、Z軸方向の座標値が異なっていれば、条件5を満たすのは容易である。
【0058】
なお、校正は、
図29に示すように、第1の器具を第2の器具の上面の穴に収容した状態で、第2の器具の2つの側面A及びBからカメラ300で内部の球を撮影することで行われる。
図29では側面A正面から撮影する場面を示しているが、側面B正面から撮影する場合には、カメラ300を移動させてもよいが、第1及び第2の器具を載せているステージを回転させても良い。側面Aから撮影された画像及び側面Bから撮影された画像は、情報処理装置200で、側面A及びBの角度と、両方向から撮影された画像とから、内部の各球の三次元座標を演算する。これによって、校正がなされることになる。演算の具体的内容は、既知であるからここでは説明を省略する。
【0059】
なお、球の材質は、ルビー、セラミック、ガラスなどが好ましい。球の外装体(すなわち球以外の第1の器具及び第2の器具)の材質は、エポキシ樹脂等が好ましい。但し、これらの材質は一例に過ぎず、球についてはその外装体とのX透過率の差が大きく高精度な形状が得られるものであれば良い。また、第1の器具及び第2の器具の形成のしやすさから、他の樹脂などを採用しても良い。
【0060】
[実施の形態2]
第1の実施の形態では、ベースとなる第1の器具の形状が円柱状で、校正する場合に第1の器具と第2の器具とを組み合わせて直方体状に変形させていたが、本実施の形態では、ベースとなる第1の器具の形状が直方体状で、試験する場合に補助部材である第2の器具を用いて円柱状に変形させるものである。
【0061】
具体的には、
図30(a)に、ベースとなる第1の器具を示す。本実施の形態では、縦長の直方体であり、内部に条件3及び5を満たすように配置された複数の球が含まれる。この状態で、隣接する2側面から光学的に観測して球の位置を測定することで校正を行う。一方、
図30(b)に、補助部材である第2の器具の例を示す。第2の器具は、第1の器具を包含する最小の円柱と第1の器具との差分である4つの部材に分かれている。そして、
図30(c)に示すように、試験時には第2の器具それぞれを第1の器具のいずれかの側面に貼り付けることで円柱を形成するようになっている。本実施の形態における第1の器具と第2の器具とはX線透過率が同一または無視できる程度の差であればよく、第2の器具は透明でなくても良い。
【0062】
このように第1の器具及び第2の器具を導入することで、条件1乃至5を満たして校正及び試験を適切に行うことができるようになる。
【0063】
なお、隣り合う2側面から内部の球を光学的に観測できれば良いので、その観点から変形が可能である。すなわち、
図31(a)に示すように、第1の器具は、隣接する2側面のみ平面であり、残余の側面が円柱側面の一部となっている立体で、内部に条件3及び5を満たすように配置された複数の球が含まれる。この状態で、平面である2側面から光学的に観測することで校正を行う。一方、
図31(b)に示すように、補助部材である第2の器具の例を示す。第2の器具は、第1の器具を包含する最小の円柱と第1の器具との差分である2つの部材に分かれている。そして、
図31(c)に示すように、試験時には第2の器具それぞれを第1の器具の2つの側面のいずれかに貼り付けることで円柱を形成するようになっている。このような評価用器具でも、第1の実施の形態と同様に、校正及び試験に用いることができる。
【0064】
[製造方法について]
複数の球を内包する第1の器具については、例えば硬化した場合に透明になる樹脂で形成する。例えば、
図32(a)に示すように、型枠に1番目の球を配置すべき高さまで樹脂を流し込む。そして、樹脂が固まった後、樹脂の表面(斜線の面)上に1番目の球を配置する。その後、
図32(b)に示すように、型枠に2番目の球を配置すべき高さまでさらに樹脂を流し込み、樹脂が固まった後、樹脂の表面(斜線の面)上に2番目の球を配置する。さらに、
図32(c)に示すように、型枠に3番目の球を配置すべき高さまでさらに樹脂を流し込み、樹脂が固まった後に、樹脂の表面(斜線の面)上に3番目の球を配置する。その後は同様で、3つしか球を配置しない場合には、所定の高さ(例えば型枠の上縁)まで樹脂を流し込んで固まるようにする。これで第1の実施の形態における第1の器具が形成される。なお、第2の実施の形態における第1の器具については、
図32(a)乃至(c)で示したような手順で作成された円柱から直方体を切り出すようにしても良い。この際、直方体以外の部分には球が含まれないようにする。
【0065】
このような方法では、樹脂の硬化に時間がかかるため製造に時間がかかるという問題がある。また、何度も樹脂を型枠に流し込むが、樹脂は通常2種類の液体を混合して作るため、何度も混合を行うことになり、混合の都度微妙に樹脂の組成が異なってしまい、結果として屈折率が一定にならず、樹脂の層が現れてしまうという問題もある。
【0066】
そこで、型枠内で球を所望の三次元位置に配置した上で、樹脂を一気に流し込む方法も考えられる。球を所望の三次元位置に配置するには、上部からつるすか、下から支柱で支える方法が考えられる。例えば、
図33(a)に示すように、土台上に、先端に球を所望の三次元位置に支持するための支柱を設置し、
図33(b)に示すように、支柱の先端に球を置いた上で型枠をかぶせ、
図33(c)に示すように、樹脂を一気に流し込む。このようにすれば、樹脂の層が現れることはなくなる。
【0067】
一方で、支柱を別途用意することになるので、その点が問題となる。支柱を樹脂と同じ材質にすれば、屈折率もX線透過率も同じであるが、実際は全く同一にはならない。X線透過率の差については無視できる程度であると考えられるが、屈折率の差により、支柱によって球が観測できないという問題が生じ得る。
【0068】
例えば、第1の方向から円柱状の第1の器具を観測した場合、
図34に示すような状態である場合を考える。この例では、3番目の球と4番目の球は、Z軸に平行な直線上に並んでしまっている。しかしながら、3番目の球が、4番目の球のための支柱より手前にあるので、3番目の球は支柱に遮られることなく観測できている。
【0069】
一方、第2の方向から円柱状の第1の器具を観測した場合、
図35に示すような状態である場合がある。すなわち、1番目の球と2番目の球は、Z軸に平行な直線上に並んでしまっており、2番目の球のための支柱が1番目の球より手前にあるので、1番目の球が支柱で遮られて観測できなくなっている。このような状態は好ましくない。
【0070】
よって、条件5には、支柱で球を支持するようにして球を配置する場合には、以下のような条件6が加えられる。
6.異なる2方向のいずれの方向からでも、複数の球のいずれもが、いずれの支柱にも遮られることなく光学的に観測可能であること
すなわち、
図36に示すように、1番目の球と2番目の球は、Z軸に平行な直線上に並んでしまっているが、1番目の球は、2番目の球を支持する支柱より手前にあるので、全ての球を観測可能になっている。なお、支柱同士が重なっていてもそれは問題は無い。
【0071】
条件6を満たすのであれば、樹脂の材質と支柱の材質とは異なっていても良い。但し、樹脂のX線透過率と支柱のX線透過率とが同一または無視できる程度の差でなければ、試験時に影響がある。すなわち、支柱を用いる場合には、支柱と樹脂のX線透過率が同一または無視できる程度の差であることも条件となる。
【0072】
[実施の形態1及び2の変形例]
第1の実施の形態において、第1の器具を上面の穴から収容できる直方体の第2の器具の2側面を、校正時にそのまま使用できるが、それらの面は必ずしも完全な平面ではない。平面からのずれは球の位置の校正に誤差を与える。そこで、
図37の上面図に示すように、測定に用いる2側面に、光学平面ガラスを近接させ、両者の隙間に、第1の器具及び第2の器具の素材(例えば樹脂)と同じ屈折率のマッチングオイルで満たす。そうすると、両者は光学的には一体となり、その観測面は平面度のよいガラスの表面となるので、より正確な校正を行うことができるようになる。
【0073】
なお、第2の器具については校正時に用いる物であるから、
図38の上面図に示すように、第2の器具の2側面に光学平面ガラスを密着させて、それらを一体化させても良い。
【0074】
さらに、第2の実施の形態においても、直方体である第1の器具の隣接する2側面についても、校正時にそのまま使用できるが、それらの面は必ずしも完全な平面ではない。平面からのずれは球の位置の校正に誤差を与える。そこで、
図39の上面図に示すように、測定に用いる2側面に、光学平面ガラスを近接させ、両者の隙間に、第1の器具の素材(例えば樹脂)と同じ屈折率のマッチングオイルで満たす。そうすると、両者は光学的には一体となり、その観測面は平面度のよいガラスの表面となるので、より正確な校正を行うことができるようになる。
【0075】
[その他]
上では、校正及び試験に用いることができるX線CT装置の評価用器具を説明したが、例えば高精度のX線CT装置で校正した上で、普及型のX線CT装置で試験する場合には、試験のみであるから、校正についての条件は満たさなくても良い。すなわち、条件4及び5については満たさなくても良くなる。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、上で述べた条件を満たすような第1及び第2の器具の他の形状を採用しても良い。
【0077】
特に、球の配置については、本願において図示した以外にも様々なパターンを採用可能である。特に、規則的に並べるのであれば、らせん曲線上に載せるような形態も考えられる。例えば、中央から徐々に回転半径が広がり且つ高さ方向(Z軸方向)の増分が徐々に大きくなるようならせん曲線であれば、比較的容易に上で述べた条件3及び5を満たす配置が実現される。
【0078】
また、支柱を用いて球を配置する場合、一部の球についてのみ支柱で支持するようにしても良い。さらに、製造方法には、3Dプリンタを用いるようにしても良い。このようにすれば、球を配置する毎に樹脂を固めることなく、また、支柱を用いることなく製造することができるようになる。なお、8個の球を配置する例を述べているが、球の個数は3個以上であれば良い。
【0079】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0080】
本実施の形態の第1の態様に係るX線CT装置の評価用器具は、少なくとも隣接する2つの側面が平面である外形を有する第1の状態と円柱状の第2の状態とを実現可能である、X線CT装置の評価用器具であって、内部に複数の球を含む。そして、第1の状態で、複数の球が、2つの側面の各々から、互いに重なることなく光学的に観測可能であり、且つ、第2の状態で、円柱の長軸を中心として回転させた場合、いずれの回転角度においても、円柱に対して所定位置のX線源から放出されるいずれのX線も、2以上の球を通過することなく円柱を通過するように、複数の球が配置されている。
【0081】
このように複数の球を内包するような態様の評価用器具は、上で述べたような2つの状態を実現し且つ上で述べたような複数の球の配置を行うことで、校正及び試験の両方に用いることができるようになる。なお、複数の球の配置については、さらに器具内において分散配置を行うことが好ましく、1直線上に配置するのは避けた方が好ましい。また、2つの側面は垂直に接することが好ましい。
【0082】
なお、上記評価用器具は、上記複数の球を含む、円柱状の第1の器具と、第1の器具を収容可能で、少なくとも隣接する2つの側面が平面である第2の器具とを有するようにしても良い。例えば、第1の実施の形態のような態様である。
【0083】
さらに、上記第2の器具の少なくとも隣接する2つの側面に、透明な平板が付加されている場合もある。第2の器具の側面の平面性を改善するために、例えばガラス板を密着させるか、マッチングオイルを挟んで付加する。
【0084】
また、上記評価用器具は、複数の球を含み、少なくとも隣接する2つの側面が平面である第1の器具と、第1の器具の上記少なくとも隣接する2つの側面に貼り付けることで第1の器具の外形を円柱状にする第2の器具とを有するようにしても良い。例えば、第2の実施の形態のような態様である。
【0085】
このような態様においても、上記少なくとも隣接する2つの側面に透明な平板が付加されている場合もある。第1の器具の側面の平面性を改善するためである。
【0086】
また、複数の球の少なくともいずれかが支柱に支持されている場合には、上記2つの側面の各々からも、さらに複数の球のいずれもが支柱に遮ることなく光学的に観測可能であるように、複数の球が配置されるようにする。これによって、支柱を用いている場合でも校正を適切に行うことができるようになる。なお、支柱は、評価用器具のX線透過率と実質的に同じX線透過率を有する材質であることが好ましい。実質的に同じX線透過率又は同じX線透過率というのは、透過像において差が識別できない程度であれば該当するものとする。
【0087】
本実施の形態の第2の態様に係るX線CT装置の評価用器具は、X線CT装置の円柱状の評価器具であって、内部に複数の球を含む。そして、円柱の長軸を中心として回転させた場合、いずれの回転角度においても、円柱に対して所定位置のX線源から放出されるいずれのX線も、2以上の球を通過することなく評価用器具を通過するように、複数の球が配置されているものである。普及型のX線CT装置の試験に用いることができる。
【0088】
なお、第1の態様に係る円柱状の第1の器具を、第2の器具の収容部に位置を合わせて収容させて、上記2つの側面の各々から複数の球を観測して、観測結果から複数の球の各々の位置を決定するようにしても良い。この場合、収容部と評価用器具との隙間にマッチングオイルを注入しても良い。さらに、上記2つの側面の各々に透明な平板を付加するか又は上記2つの側面の各々にマッチングオイルを挟んで透明な平板を付加した後に、複数の球を観測するようにしても良い。
【0089】
また、第1又は第2の態様に係るX線CT装置の評価用器具において、円柱の長軸に直交する平面であって当該円柱の上半分又は下半分の領域に含まれる平面に複数の球のうちの2以上の球が配置され、複数の球のうち上記2以上の球以外の球を、円柱内において上記領域外の領域に配置するようにしても良い。このように簡易な方法にて複数の球を配置しても有効である。